小説「エルフミッション」


五代目オリボスが登場する小説です。この小説のオリ8ボスはZZZさんが考案されました(制作許可済み)。

第一話「Higher ground」


シグマを中心とした度重なるイレギュラー戦争によって荒れに荒れた世界。
イレギュラーの中にはウィルスに因らず自らの意志で人類に反旗を翻した者も多く含まれた為、
人類のレプリロイドへの不信感は日に日に強まっていった。
そんな中連邦政府の人間によってイレギュラーを完全に消滅させる為にレプリロイドの感情を操作し人間に絶対服従をさせる為の1大プロジェクトが発案された。
その名は「プロジェクトエルピス」。
計画の内容はレプリロイドを強化、サポートする為に造られたプログラム生命体「サイバーエルフ」を使って
レプリロイドの意志をコントロールし完全に人類の支配下に置く…というものだった。
しかしこの計画は実現せず凍結される事となった。
何故ならエックスを中心とした人間、レプリロイド双方からの猛反対に遭ったからである。
「人間が間違っていた時はレプリロイドはその間違った人間の言いなりになりますし、
何よりこれは人間とレプリロイドが本当に理解し合える可能性をかなぐり捨ててしまいます!
従って…俺はこの計画には断固として反対です!!」
実際にイレギュラーと接してきたエックスの言葉は重く説得力もあった。
「レプリロイドだからって悪者だと決めつけるのは良くないよ!アンドリュー先生はすっごく優しいもん!」
人間の中にも「レプリロイドだから」と一概に括り付けたりしない者も少なくなかった。

こうした猛反発によりレプリロイドの為を思ってか、それとも政府の保身の為かプロジェクトエルピスは凍結された。
しかしそれに不満を覚える者も数多く存在した。
そしてある時事件が起こった。

「プロジェクトエルピスを再起動せよ!!
我々はレプリロイド自体やレプリロイドの感情が不要とは言わん。
レプリロイドに我々人類に対し疑問や反感を抱く感情が要らんと言っているのだ!
そんなものは無用の長物…初めから要らなかったのだ!!
機械人形の分際で我々と対等の目線で語ろうなどと言語道断も甚だしいわ!!
『プロジェクトエルピス』は人間とレプリロイドのこれまでの溝を埋める素晴らしい計画ではないか!!
今すぐ実行するべきだ!!!今すぐこの場で実行しろぉーーーーっ!!!!!!!」

議会の場で人間の大男が怒鳴り散らす。
男は人類至上主義者の中でもかなりの過激派に属する人物だった。
「静粛に!『プロジェクトエルピス』は極めて危険な計画で世論もこれを認めん。実現させるわけにはいかんのだ」
連邦長官が厳しく応対する。
「えええい、臆したかぁーっ!!!!
レプリロイドなど飽くまで機械、我々人類に使われる為に存在するという事が分からんのかぁーっ!!!
認めん、認めん、認めんぞおおおおおおおお!!!!!!!!」
大男は憤慨し暴れ始める。
彼の力は人間の中では強い部類で周囲の人間には手が付けられなかった。
「お止めください!!」
しかしついに彼は警備レプリロイドに取り押さえられ、この場からつまみ出される。
警備レプリロイドは何の変哲もない量産型レプリロイドでハンターで言うとC級ハンターの力にも及ばない。
「離せ、離さんか、ガラクタ人形がああああああ!!!!!!」
必死の抵抗も空しく人間の中では強い大男もレプリロイドの中では並の警備レプリロイドの力に全く敵わない。
「いつか絶対に後悔する事になるぞ!!!どうなっても俺は知らんからなああああ!!!!!!」
捨て台詞を吐きながらこの場を去る大男。
彼は暫くして消息を絶った。
信頼できる仲間を従えて。

数年後、ハンターベースにて…
「畜生、またやられたぜ!!」
「何回やっても何回やってもVAVAが倒せないよ…」
ハンター達は日々切磋琢磨のトレーニングに明け暮れていた。
現在ハンターは度重なる大戦の影響で数えきれないほどの実力のあるハンターが戦死、あるいはイレギュラー化を遂げて弱体化している。
量産型のザコ敵ならいざ知らずシグマやそれと並ぶ大物イレギュラーと戦えるハンターはエックス、ゼロ、アクセルの3人のみ。
それ以外は非常時にナビゲーターである筈のエイリア、レイヤー、パレットが予備戦力になっている。
この状況を打破すべく彼等を除く現職のハンターの強化及び訓練が推進される事となった。
特A級の更に上のランク、S級に昇進する方法は2つ。
1つはシグマのような大物イレギュラーを撃破する事、
もう1つは「ディープログ」を使ったバーチャルトレーニングで最高難易度をクリアする事である。
シグマ程のイレギュラーは早々現れず、また現れてもS級ハンターが倒してしまう為S級への昇進は
「ディープログ」を用いるのがより一般的になっていった。
「ディープログ」とはイレギュラーハンターが誇る限りなくリアルなサイバー空間で過去に起こった大戦の膨大なデータが記録されている。
そこで特定のステージを選択し、クリアすれば昇進できる。
ディープログの難易度は「かんたん」「ふつう」「むずかしい」「しんどい」の4段階。
「しんどい」をクリアすればS級に昇進できるのだが、その難易度はとんでもなく高い。
敵の強さは勿論史実とは異なるバグが意図的に作られる為臨機応変に対処しなければならない。
本来トゲが無い場所にトゲがあったら、足場の悪い所に空を飛ぶ敵が出たら、攻略をより難しくするギミックがあったら…等々ありとあらゆる状況に対応できなければこの「しんどい」はクリアできない。
ちなみにエックス、ゼロ、アクセルの3人はこれを余裕でクリアでき、エイリア、レイヤー、パレットはギリギリでクリア出来ない。
その他のハンターの内、特A級ハンター達が日々熱心にディープログの「しんどい」に挑むも中々クリアされず「難攻不落」との噂まで立った。

しかしやがてその難攻不落伝説は崩れ去る。
それを成し遂げたのは特A級の中でも特に腕の立つ2人のハンター達。

「いつまでも二軍ではいられないッスよ!!」
そう熱く意気込むのは小柄だが比較的がっちりとした体型で野球少年のような姿をした特A級ハンター、トラストである。

彼は第1次イレギュラー大戦のシグマステージに挑んでいた。

ベルガーダーを難なく撃破した彼は次にシグマに挑む。
「全力で行くッス!」
そう言ってトラストはホームラン予告の如くバットをシグマに突きつける。
そして始まるバトル。
シグマの額から放たれる光弾をトラストは尽くグローブでキャッチして無効化する。
シグマが高速移動する際にトラストは野球のスライディングで応戦し攻撃のタイミングを伺う。
そしてビームサーベルで切りかかられた時はバットで迎え撃つ。
時折攻撃を喰らうもののトラストは確実にシグマを追い詰めていった。
そして遂に…

「ビクトリースィング!!!」
カキーン!!
トラストはバットでシグマを殴り飛ばし勝負は決した…訳ではない。
爆発四散したシグマの頭部が背後の巨大な狼型メカニロイドと一体化しウルフシグマとなったのだ。

「……」
息を呑むトラスト。
そんな彼にウルフシグマは容赦なく猛攻を加える。
「ぐああああああ!!!!…トワイライトピッチ!!」
激しいダメージに耐えつつトラストはエネルギーを纏った剛速球で反撃する。
しかしウルフシグマの攻撃は極めて強力でトラストはそれらを受ける度に深刻なダメージをその身に刻んでいく。
いつ機能停止してもおかしくない程ボロボロの状態になった時、「また駄目かも…」という考えがトラストの脳裏をよぎった。

しかし…
「うおおおおお!!!!!勝負は…9回裏まで、分からないッス!!!!」
突如闘志を燃やしたトラストはその勢いでウルフシグマの前脚に飛び乗った。
そして飛び交う前脚から次にウルフシグマの頭部に飛び乗った。

「頭…取ったッス…!!これで…終わりッスよ!!!!!!」
ドゴォ!!!ドゴォ!!!ドゴォ!!!
トラストはウルフシグマの中のシグマの頭部を滅多打ちにし始める。
横から前脚が飛んできてトラストに更なるダメージを与えるも彼は構わずバットを振り続ける。
そして遂に…

ドグシャァァ!!!!!
ウルフシグマの頭部が床に落下した。今度こそ決着である。
「ゲームセットォォォォ!!!!」
最早ボロ雑巾のようになったトラストは勝利の雄叫びを上げる。

すると外部から通信が。
「すっごーい、やりましたねトラストさん、私はいつかやると信じてましたよ!!」
甲高い女性の声がする。
声の主はディープログの管理を任された新人オペレーターのリコである。
「やったッス!遂にやったッスよ!!自分も遂に本当の意味でエックス先輩たちの仲間入りッス!!」
感涙にむせぶトラストであった。

同じ頃もう1人のハンターがディープログの「しんどい」に挑んでいた。
そのハンターは特A級ハンターのフラジールで、黒を基調とし各部にトゲを生やしたゴスロリ服のようなアーマーと
トゲの如く尖った銀髪と抑揚のない表情と長身が特徴の女性ハンターである。

彼女が挑んだのはレッドアラート事件の時のクリムゾンパレスである。
只でさえ足場が不安定な中かなり意地悪な追加要素が加えられたにも関わらずフラジールはシグマの元に到達した。

「…開始…」
フラジールは静かに一言言い放つとシグマとのバトルを開始する。
シグマの銃から放たれるレーザーをフラジールは全て回避し自らの袖とスカートのスリットから放たれる
「スリットエッジ」で応戦する。
ザシュザシュザシュザシュザシュ!!!
彼女の飛ばす刃と彼女自身のアーマーから生えたトゲでシグマは指を、腕を、見る見るうちに損傷していく。
やがて銃器を扱えなくなったシグマは一方的に切り刻まれて爆発四散。
しかし史実と同じく大型化する。
その威容を見てもフラジールは眉一つ動かさなかった。
飛び来る光弾を回避しては反撃を繰り返すフラジール。
その動きに全く無駄は無い。
そしてある時渾身の力で殴り掛かってきたシグマだったが…
フラジールはその腕に飛び乗り一気に顔面近くまで駆け抜けた。

「…死んで…」
ズバズバズバズバズバ!!!!!!!
フラジールは尖った形状の脚部パーツを纏った脚で凄まじい勢いで連続蹴りを繰り出す。
脚部の鋭利な形状は勿論蹴りの威力も高く動きも速い。
ズドォォォン!!!!
程なくして勝負は決した。
「…完了…」
フラジールはたった一言、呟く。

するとリコから通信が。
「凄い凄い!またクリアする人が出るなんて!!どうですか感想は?」
「…特に…」
喜々として尋ねるリコにフラジールの対応は素っ気なかった。
「わー、クールですねー、カッコいいです…!」
リコが感心したように言う。

かくしてトラストとフラジールの2人は晴れて特A級の更に上、S級へと昇進した。
「おめでとう、君達のこれからの活躍に期待しているよ」
「これに満足せず精進する事を忘れるなよ」
「こりゃあ僕達もうかうかしてられないね♪」
エックス、ゼロ、アクセルがそれぞれ祝福する。

「憧れのエックス先輩達直々にこんなお言葉を頂けるなんて…本当に…本当に光栄ッス!!ウオオオオ~ン!!!!!」
「……」
トラストは号泣し、フラジールは無言で敬礼する。

「お前達の中にもこの2人に続く者が出る事を祈っているぞ」「「「はい!!!!」」」
シグナスが激励し、それに他のハンター達が力強く答える。

その後もハンターベースは新たなS級ハンター2人の話題で持ちきりになる。
「トラストはいつかやってくれると思ったよ。『9回裏まで分からない』という言葉に何度励まされた事か…」
「フラジールだけどあの計算されつくしたバトルと言いあの無口っぷり、無表情っぷりからして感情があるか怪しいよな。あの娘、実はメカニロイドなんじゃね?」
その時だった。
「…私はレプリロイド…」「うわあっ!!」
フラジールが気配を感じさせず自身の事を話題に挙げていたハンターの背後に急に現れて言い放った。
その表情や口調に殺気はこもっていなかったが説明し難い怖さが彼女からにじみ出ている、とそのハンターは感じた。
「す、スミマセンでした~っ!!」
そそくさと去るハンター達。

その時だった。
ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!
突如警報が鳴り響く。新たな事件の発生である。

「大変よ、連邦政府本部周辺の街が…巨大メカニロイドの大群に襲われているわ!!」
「連邦政府だと…!?…ならばS級ハンター全員で早急に食い止めよ!!」
エイリアが状況を報告し、シグナスが指示を出す。

「何でよりにもよって連邦政府本部を狙う…?」
「政府を恨んでる奴等なんてごまんといるだろ、つべこべ言わずに行くぞ!」
「只のメカニロイドなんて楽勝だね!」
エックス、ゼロ、アクセル等従来のS級ハンター達が出撃していく。

「早速出番ッスね?S級ハンターの力、見せてやるッス~!」
「…了解…」
トラストとフラジールもそれに続く。

そして彼等はこの先の戦いで改めて思い知らされる事になる。
人間が持つ、底無しの欲の深さと業の深さを…
同胞は勿論守るべき人間に挑む事への葛藤を…

第二話「牽制球」


連邦政府本部を擁する大都市にS級ハンター達が辿り着くと、そこは地獄絵図だった。
おびただしい数の巨大メカニロイドの軍団が街を蹂躙し各所各所で煙が上がり死人、怪我人、瓦礫の山が見られる。
「こいつらは…」
歯噛みするエックスが見据えるその巨大メカニロイド達の姿には見覚えがあった。
ヤコブ事件の始まりの頃、ノアズパークで暴れたクラブズ―Yである。
それも事件当時は単体だったが今回は無数にいる。
連邦政府軍のレプリロイドも必死に応戦したようだがそれも空しく尽く返り討ちに遭ったらしくそこかしこに無残な残骸が転がっている。
そんな時ハンター達の前に瀕死の重傷を負った政府軍のレプリロイドが満身創痍の身体を引きずって現れた。
「来て…下さりましたか…奴等は…只でさえ強いの…ですが…奴等には…更に強力な…ボスが…!!
連邦政府…本部を…お願い…します…お願い…します…」
そう言うと政府軍のレプリロイドは気を失った。
「ちょっ…!」
「気を失っているだけだ…」
アクセルが政府軍のレプリロイドに詰め寄ろうとしたところをゼロが制す。

「これは…アウトッスね…」
トラストは明らかに怒りに燃え上がっていた。
「…排除…」
フラジールも臨戦態勢に入り、5人はクラブズ―Yの軍団に挑みかかる。

街で暴れているクラブズ―Y達はノアズパークに現れた個体よりも性能が引き上げられていた。
が、S級ハンター達にはそんな事は苦にもならなかった。
そもそも特A級ハンターの時点で1万人に1人という類稀なる実力者でありこの5人はその基準をさらに超越している。
おまけに…
「こいつらアタックエネルギー落としまくりだよ!ダブルアタックもし放題だね!」
アクセルが言う通りクラブズ―Yが攻撃を加えたり撃破したりするとアタックエネルギーを落とすのは変わっていない。
故に倒したクラブズ―Yから得たアタックエネルギーで別のクラブズ―Yにダブルアタックを発動させて倒し、
その倒したクラブズ―Yからも大量のアタックエネルギーをゲットし…というループも可能になっていた。
尤も、これはクラブズ―Yを倒せる彼等でこそ成せる業であるのだが…
そして敵を倒すのだけでなく可能な限り一般人達を巻き込まない事も忘れない。
注意をこちらに引き付け、自分たち以外に攻撃を加えようものなら背後から一気に叩いていく。
「オーライ!オーライ!!」
特にトラストが敵を引き付けるのが上手かった。

やがてその流れが続くとクラブズ―Y達は動きのパターンを変えた。
それは極めて統率が取れていて戦略的とも言えるものだった。
攻めと守りで役割を分担し、一部は状況次第でそのどちらにも転ずる。
囮役とも言える個体も現れだした。

「ボスがいるとか言ってたな…」
エックスは政府軍のレプリロイドの言葉を思い出す。
「作戦変更してきたなら…それに応じるまでッスよ!」
トラストは頭を回し始める。

このように連係プレーをしてくる敵に対処する訓練も彼等は欠かしていない。
すぐに陣形を読んだトラストはその剛速球ででクラブズ―Y達の誘導を試みる。
少しずつ、少しずつクラブズ―Y達が人気も無く既に破壊されつくした地点に集まった時だった…

「アースクラッシュ!!!!」
ズドバゴォォォン!!!!!!!!!

ゼロのアースクラッシュでクラブズ―Y達は全滅した。


その時…

ズシン…

ズシン…

ズシン…

何度かの等間隔の地響きの後…

ドガァァァァン!!!!!!!!!

強烈な打撃音と共に街の超高層ビルの1棟がゆっくりと傾いていき、ハンター達のいる場所に向かって倒壊した。
5人はすぐさま跳躍しそれを回避する。
そして倒壊した建物の向こう側からそれを行った犯人が姿を現した。
その正体はクラブズ―Yをさらに巨大化させ、脚や関節の数が増え、所々に雷を思わせる造形がある超巨大メカニロイド、「クラブHL」だった。


「キャプテンのお出ましッスね…」
そのあまりに巨大で禍々しい姿に固唾を飲むトラストだったが…

「ハイレグーッ!!!!!!!!」
クラブHLはハンター達を視認するや奇声を発した。

「………」
これに対し一瞬だけだがハンター達は固まった。
「ハイ!レグ!ハイ!レグ!ハイ!レグ!」
クラブHLは更に鋏の付いた両腕を斜め下に向けて内側に交互にスライドさせつつなおも奇声を発し続ける。
その動きはハイレグ衣装の形状を手で表現する動きにしか見えない。
「アハハハハハ、何これ、ウケるんだけどー!!」
嘲笑するアクセルだがその笑いにはどこか怒りがこもっている。
そんな中…

「…変態…」

フラジールの一言が重く、冷たく響く。
これにその場のハンター、そしてクラブHLも一瞬固まった。
そしてその直後。

「ハイレグ~ッ!!!!!!!ハイレグハイレグハイレグハイレグハイレグ~ッ!!!!!!!!!」
クラブHLは明らかに激昂しているようだった。
これに対し今度はトラストが自分の予測に基づいた事を言う。
「きっとこいつは『俺がここのボスだ、ここから先は通さんぞ』とか『誰が変態だ、許さん!!かかって来い!』とか言いたいんッスね…
元からこっちも…全力で行くつもりッスけどね…!!!」
言い終えたトラストはクラブHLにバットを向ける。ホームラン予告が如く。

「ハーイ…レグ―ッ!!!!!」
グシャアアアアア!!!!!!!!!
クラブHLはその長大な腕を振り上げ、渾身の力で地面に叩きつける。
全員が跳躍しそれを回避するがその威力は地面が捲れ上がり巨大な地割れが発生する程である。

そして空中で反撃に転じようとする5人だったが…
「ハイレグハイレグ~♪」
ホワワワワワワワ…
クラブHLの体から無数の泡が放たれる。
そしてそれらは5人の身体を包み込むと上昇を始める。
「ハイレグ!!」
ビシャアアアア!!!!!!!

すかさずクラブHLは全員に雷を落とした。
泡が割れると共に落雷を受けた5人は着地する。

「この泡、動きを封じるだけでなく電気も通すのか…」
「そのようだな」
「痛くないよ…!」
エックス、ゼロ、アクセルのダメージはそれほどでもなかった。

「…もう喰らわない…」
フラジールはダメージはそこそこあるようだが戦闘には差し支えないらしい。

「『キャッチャーモード』になってなければ危なかったッス…!」
トラストもダメージがそれなりにあったがアーマーとメットを咄嗟に野球のキャッチャーのような姿に換装しダメージを軽減していた。

無論先程の攻撃はA級以下、即ちほとんどのハンターなら即死している威力である。

そしてハンター側の反撃が始まる。
泡は攻撃し続ければ割れるので5人は一斉攻撃で次から次へと放たれて迫りくる無数の泡を破壊しつつ
そこに出来た隙間からクラブHLに攻撃を当て始めた。

攻撃を喰らい大ダメージを負ったクラブHLは体勢を立て直すべく大ジャンプで移動して反撃に転ずる。
クラブHLほどの巨体が空高く飛び跳ねれば着地の時の衝撃も大きく大地は揺れ瓦礫も飛び散る。
「戦闘が長期化するのはマズいな…!」
「民間人のところには行かせないッスよ!!」

5人はクラブHLの猛攻に応戦しつつ非戦闘員に被害が及ばないよう誘導も試みる。
それはクラブズ―Yより数段困難だったがクラブHLのボディには少しずつ、しかし確実にダメージが蓄積されていった。
そしてゼロの斬撃でクラブHLの片腕が切断され、アクセルの連射攻撃で片目が潰された時だった。
「ハイレグ~!!!」「ウワアッ!!」
クラブHLは残った方の鋏で瞬時にトラストを捉えた。
「ハイレグ~♪ハイレグハイレグ~?」
そしてクラブHL は残った4人の前に得意気にトラストを振りかざすと同時に徐々に挟む力を強めていく。
「(こういう時、昔の俺なら手を出せなかったな…だけど、今は…!)」
エックスは瞬時にレスキューチェンジでトラストを救出しその際クラブHLの残った腕も破壊した。
そしてクラブHLがダメージの影響でよろけた時…

「…そこ…」シュバッ!!
エネルギーをチャージしていたフラジールの袖から刃が勢いよく放たれる。
フラジールの「スリットエッジ」は通常攻撃では刃を連射するのだがその際刃は放物線を描いて地面に刺さる。
一方エネルギーをチャージすればより大型の刃が一直線に飛んでいき威力も数段増している。
その刃がクラブHLのボディを刺し貫いた。

「ハ、ハイ…レグ…」
遂にクラブHLは機能停止した。

「エックス先輩…申し訳ないッス…最後の最後で足を引っ張ってしまって…」
トラストが申し訳なさそうに言う。
「気に病む事は無いよトラスト。君の誘導のおかげで被害が最小限で済んだんだから」
エックスはそんな彼をフォローする。
「このエックスも昔は足を引っ張った事があるんだからな、だからよ、これからだぜ」
ゼロが続けて言う。

「(そう言えば聞いたことがある…昔はエックス先輩はB級だったって…
情に流されて仲間の足を引っ張った事もあったって…今の姿からは想像出来ないッス…
自分も…いつかは…あんな風に…!!)
ウオオオオオオオオ!!!やってやるッスよーっ!!これぐらいじゃへこたれないッスーッ!!!!」
エックスとゼロの鼓舞を受けトラストは再度その闘志を燃え上がらせる。
「ハハッ、青春だね~…」
それをアクセルが苦笑しながら見遣る。

その一方。

「…これは…?」
フラジールはクラブHLの残骸の周辺を浮遊する神秘的な輝きを放つ光の塊に気が付いた。


暫くしてクラブHLが撃破されたことが巨大な人工島に位置する敵の本拠地に伝えられた。
「フン、『5モンスター』如きではこんなものか…
まあ良い、あんな粗大ゴミ元から期待しておらんかったからな…
我々の作戦はこれからが本番だ。
エックスよ、人間と対等の権利を主張するレプリロイド共よ、レプリロイドの肩を持つ愚かな人間よ、
貴様等の理想など戯言だという事を我々が知らしめてくれよう。
奴等に媚びへつらった無能な連邦政府よ、貴様等が犯した罪を贖わせてくれよう。
思い知る、いや、思い出すがいい、地球の本当の支配者は人間様だという事をな…!
フフフフフ…フハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」

プロジェクトエルピス凍結に憤慨し議会で暴れた挙句つまみ出された大男は高笑いすると作戦指揮に取り掛かるべく席を立った。


第三話「代理戦争」


クラブHLによる連邦政府襲撃事件が収束して間もない頃、世界各地のメディアに突如その黒幕を名乗る人物による声明が発信された。
映像には白い軍服にマントを纏った比較的長い髪で口髭を蓄えた厳つい顔と屈強な体格の男が映し出されていた。
彼は数年前議会で暴れつまみ出された大男その人である。

邪悪な笑みを浮かべ男は語り始める。

「我々の存在を知らない者は初めましてと言っておこう。
我々はメタシャングリラ…極一部の界隈で知られる人類によるレプリロイドの完全支配を目指す秘密結社だ。
俺はその総帥のヘルシャフト。
先日の巨大メカニロイドによる連邦政府襲撃事件を知っているだろう?
あのメカニロイド達は我々が差し向けた尖兵よ。
我々は発足後これまでの数年耐えに耐えて裏のさらに裏で活動してきたが…今回『力』を手に入れてね…
その力でレプリロイドが人間同様の権利を持つ今の世の中と無能な連邦政府に引導を渡してやる事にした次第だ。
そう、俺の持つ人脈、財力、情報網を駆使してサイバーエルフを入手、それを用いたレプリロイドの洗脳と強化に成功したのだ!
丁度そこに我々の存在を嗅ぎつけたイレギュラー共が現れたのだが、サイバーエルフであっさり支配下に置くことが出来た。
連中はかつての大戦のイレギュラー共と同じくレプリロイドの権利を主張していたが、元々あった我々への敵意は今や連邦政府と人類に刃向かうレプリロイド、それに味方する人間共に向けられている。
これより我々は奴等で編成した強大な軍隊を各地に送り込み『交渉』に臨む。
圧倒的な火力で行く手を阻む敵を葬り去る『烈火軍団』!
冷酷非情な氷の侵攻で敵の身も心も凍てつかせる『氷結軍団』!
電力を以て機器に干渉し逆らう者に裁きの雷を下す『轟雷軍団』!
虚を突き隙を突き悟られぬまま敵を暗殺する『虚無軍団』!
この4軍を四方に送り行く行くは我々の手で『プロジェクトエルピス』を完遂させてくれるわ!
軍団には特A級ハンターを遥かに上回る戦闘力のレプリロイドとメカニロイドも数多くいる。
先日派遣した巨大メカニロイド『クラブHL』など氷山の一角に過ぎんのだ!
…とはいえ、我々も無駄な争いをしたい訳ではない。
争いが生じるのは我々が反政府組織だから…それ故にサイバーエルフの製造とレプリロイドの洗脳を行うのが現状では非効率極まりない事によるからだ。
もし我々が全ての実権を握り全てのレプリロイドを支配した暁には今度こそイレギュラーが発生しなくなり悲劇も生まれなくなるだろう。
然るに我々は連邦政府に無条件降伏を要求する!!
いい返事を聞くまで、我々は止まらないからな!!!!
そして!同胞である人類諸君…レプリロイドの在り方に不満を覚えるならば我々は手厚く歓迎しよう。
但しレプリロイドに味方するなら同じ人間でも容赦せんぞ!
最後にレプリロイド共に告ぐ。
仮に今人間に不満や疑問があってもサイバーエルフを使えばそれを忘れる事が出来、己の役割を全うする事ができるのだ。
それとも苦しくとも戦うか?その時は我が軍が全力で叩き潰すからな!!!」

クラブHLとクラブズ―Y達がもたらした被害は甚大でそれが世界各地に伝えられた為このメッセージを視聴した人間とレプリロイド達は騒然とし、意見は様々に分かれた。

「秘密結社メタシャングリラ…実在したのか…これはヤバい事になるぞ…」
裏社会の人間が息を呑む。

「俺は奴らを応援するね!レプリロイドが人間と同等とかそもそもおかしかったんだよ!」
人間の中でレプリロイドを見下す者の中にはメタシャングリラを支持する意見も。

「ふざけんな!勝手に心をいじられてたまるか!」
当然メタシャングリラに反感を抱くレプリロイドも大勢いた。

他にもレプリロイドの親友がいたにも関わらずあっさりメタシャングリラ側に付く人間もいれば
不仲なレプリロイドがいるにも関わらずメタシャングリラの考えに断固として反対する人間、
そして深層心理では人間に反感を抱くことがあるもののこれがいけない事と考え
サイバーエルフでそれが解消されるならそれでも構わないというお人好しなレプリロイドもいるなど反応、意見は多種多様だった。

一方メタシャングリラ本部にて。
演説を終えたヘルシャフトは広間へと向かい両手で力強く扉を開けた。
部屋の中央には5つの席に囲まれたテーブルがあり、空席は上座の1席のみだった。
その周辺には4体のレプリロイドが護衛するように立っている。
そしてヘルシャフトはその上座の席にドカッと腰かけた。

「いやはや、見事な演説でしたぞ、総帥殿」
二本角のような覆面に全身を黒装束で覆った如何にもカルト教団、あるいは秘密結社の構成員といった風貌の男が言う。

彼は顔と名前、素性を伏せており仮の名はDr.V。
組織にサイバーエルフを含むありとあらゆる科学技術を提供している。

「うむ、いよいよ世界に挑み、そして掌握する戦いを始める時が来た。
その前に…だ、手始めに制圧した4つの重要拠点に不備はないか?」
ヘルシャフトが尋ねる。

それに対し座席に座る他の4人は得意気な顔をして1人ずつ、1人につき周囲のレプリロイドの1体に尋ね始めた。

「フランメ、『兵器工場』はどないやねん」
黒縁メガネをかけた小ずるそうな小男が赤い竜を模したアーマーを纏った厳つい顔の巨大レプリロイドに問う。

小男の名はプーパー。組織の幹部の1人で金融や商売等を担っている。
その性格は風貌と役職に見合ってとても金にがめつい。

「問題ありやせん、プーパーのオジキ!!工場で生産した新兵器にはどんどん買い手が付いてきていまさあ!!」
フランメと呼ばれた巨大レプリロイドが体格に見合った大声で答える。
彼はメタシャングリラ軍の各軍団を統べる4人の長官「4コマンダー」の1人で「烈火軍団」の長官である。

「メーアよ、『氷の聖都』はどうですか?」
目と耳が大きく肌がテカっていて長身痩躯の神妙不可思議にして胡散臭い聖職者風の男が尋ねる。

彼の名はフィースィー。
組織の幹部の1人で宗教関連の役割を担っており新興宗教の開祖でもある。
信者の前では信心深く慈悲深く振る舞うがその本質は生臭で欲深い。
「何も問題はありませんよ。今も続々と入信者が増えています。これまでの悲劇の事を思えば当然の事…」
メーアと呼ばれた魚や海神を思わせる青いアーマーを纏い常に瞑目しているレプリロイドが淡々とした口調で答える。
彼も4コマンダーの1人で氷結軍団の長官である。

「ブリッツ、『生きている都市』は問題ないだろうな?」
赤い軍服の鉄仮面のような顔貌の男が尋ねる。

男の名はタード。組織の幹部で広報の役割を担っている。
いかなる嘘も彼が真実と伝えれば真実となる、と謳われる程彼の情報操作の能力は卓越している。

「フッ、我が軍の力を以てすれば詮無き事です、今や世界が我々の完璧な仕事ぶりに圧倒されていることでしょう」
ブリッツと呼ばれた鳥を思わせる緑のアーマーの端正だが若干くどい顔のレプリロイドが「カッコつけ」ながら自信満々の様子で答える。
彼も4コマンダーで轟雷軍団の長官である。

「…では、『サイバーエルフ研究所』も問題あるまいな?」
Dr.Vが見るからに仮面のような顔をした、全身を紫のローブで覆ったレプリロイドに尋ねる。

「はい、日夜新たな研究成果を上げています」
紫のローブのレプリロイドの名はシャッテン。4コマンダーの1人で虚無軍団の長官である。
表情の見えないその顔から放たれる声は他の4コマンダーのそれより高めである。

一通り聞き終えたヘルシャフトはそれに合わせて指示を出す。
「そうか、ならば兼ねてより予定していた編成で侵攻を行う。
即ち、4コマンダーはここ本土を、本土周辺の重要拠点は『8エージェント』の各軍より1名ずつを管轄とし、残りの8エージェントはこれから侵攻を行う部隊を率いて貰う。
『5ガーディアン』は原則として重要拠点の防衛を担う8エージェントの副官を担ってもらい
残りの『5モンスター』は侵攻を行う部隊に割り当てる。
然るにシャッテンよ、貴様の軍団の5ガーディアンは2体いるが研究所に充てるのは1体だけで良い。
もう1体は別の任務がある故待機させておけ」
「畏まりました、総帥殿」
シャッテンは頷く。
「そしてブリッツよ、貴様の軍団の5モンスター、クラブHLが欠けた今その穴を全力で埋めるよう心掛けよ」
「フッ、その点はご安心ください。私とてハンターを過度に侮るほど愚かではありませんので」
ヘルシャフトの言葉にブリッツは自信満々に答える。

「続いて、どこを攻めるか、だ。ハンターベースのあるシティアーベルは言うまでもあるまい」
ヘルシャフトは次に侵攻の標的の議論を始める。
「ギガンティス島は如何でしょう?フォースメタルを用いた技術にかつてS級ハンターとも肩を並べたレプリロイド達もいます故
陥落させれば我々にとって大きな躍進になりましょう」
Dr.Vがギガンティス島を挙げる。

「私は『海洋情報都市アクアポリス』を推します。かの街の情報量は我々に価値のあるものばかり…
その情報を入手し、拡散すれば世の中が一気に我々に付き従うでしょう」
タードが「アクアポリス」という海洋都市を挙げる。

「ワテは紛争地区『ファナティカ』を推しまっせ。
戦争もまた至高のビジネス、軍資金がガッポガッポ入って来まんがな♪」
「ホッホッホ、いい所に目を付けましたね。その地で起こっているのは宗教紛争。
強い信仰心と言うのは信者に金も命も平気で捨てさせる力がありますからねぇ、うまく利用すれば便利な手駒になるでしょう」
プーパーは紛争地区「ファナティカ」を挙げ、フィースィーはそれに賛同する。

「ククク、どれも制圧する価値がある所ばかりではないか、では手始めにハンターベースとその3ヶ所を侵攻しよう…
次に…どこにどの軍団を差し向けるか、だが…」

続いてヘルシャフトは侵攻先に向かわせる軍団についての議論をし始める。
程なくして議論は終わり、各地にメタシャングリラ軍の部隊が出撃していった…


その頃ハンターベースでは…


「ミッミッミッミッ!」
「ト・ラ・ス・ト!!」
トラストが一生懸命クラブHLの残骸より現れた光の塊に言葉を教えようとしている。
「う~んやっぱり無理ッスか…着実に発音は良くなってきてる気がするんスけど…」

「まぁまぁそんなに無理して覚えさせる必要もないですよー…ねー?」
パレットが甘やかすような口調でトラスト、次いで光の塊に言う。

「ミミミー?」
光の塊は甘えた声と動作でこれに応じる。

「はぁ~、やっぱり可愛い…」
「本当です、本当です…」
アイリスとレイヤーもこの光の塊にメロメロである。
そして無言でそれを見ているフラジールも通常時より若干顔を紅潮させている。

「…それにしてもこんな意志を持ったエネルギー体は見た事もないわね、実体化ウイルスにも似ているけど厳密には違うみたいだし…」
エイリアが首を傾げながら言う。

「もしかして…プロジェクトエルピスで使われる予定だった、サイバーエルフ、なのか?」
エックスがサイバーエルフの可能性を示唆する。

「そうとしか考えられんが、こんな人畜無害そうなものがそれほどまで危険な存在にはとても…」

シグナスが言いかけた時だった。

「総監、お客さんですよー!」
リコがシグナスに来客の報告をした。

「うむ」
シグナスは映像を出すとその映像に移っていたのは背が低く肥え太った中年男性、連邦長官のファートであった。

彼の背後には彼が乗ってきた車が止まっていた。

「これは長官殿!今ご案内致します」
ハンターの案内に従いファートは同行していた者達と共にハンターベースに入場する。

「この度の巨大メカニロイド撃破、ご苦労であった」
「「「ハッ!!!」」」
ファートの言葉に皆が敬礼する。

「さて本題だが…」
ファートは意志を持つ光の塊を見遣る。
「おお、本当に捕まえたみたいだね」
感心したように言うファート。
続けて彼は言う。
「これはサイバーエルフ…メタシャングリラとの戦いの鍵を握る存在だ。
奴等と戦うにはサイバーエルフの事を十分に知らなくてはならない…
という訳でサイバーエルフに詳しい3人の科学者を連れてきたよ」
「3人の科学者?」
リコが思わず尋ねる。

そしてファートは彼等を1人ずつ紹介し、紹介された者は挨拶する。

「サイバーエルフの開発者にしてエネルギー工学の専門家、Dr.シエル」
「私が開発したサイバーエルフの所為でこんな事に…罪滅ぼしになるか分かりませんがよろしくお願いします」
最初に紹介されたのは長い金髪を後ろで束ねた人間の女性、シエルである。
彼女のクローンが遥か未来レジスタンス、そしてガーディアンを率いるのはまた別の話である為以下オリジナルシエルと記す。

「レプリロイド工学の専門家、Dr.バイル」
「まぁよろしく頼むぞ」
次に紹介されたのは気難しそうな人間の老人、バイルだった。
元々彼はプロジェクトエルピスに賛同していたがメタシャングリラの過激で早まった行動には賛同できず、
彼等を止める為ひとまず休戦しハンターに力を貸す、という建前でファートに同行した。
しかし彼は遥か未来、私怨の為に人間とレプリロイドの双方を支配しようと目論む事になる…

「ウィルスやワクチンなど、医療の専門家、Dr.パージ」
「頑張ります、よろしくお願いします」
最後に紹介されたのはおかっぱ頭の男性型レプリロイド、パージであった。
彼はゼロウィルスの解析を極め、完全に浄化する方法を編み出した。

「サイバーエルフの製造や育成方法、使用法については彼等が全力でバックアップしてくれるだろう。
さて我々は決してメタシャングリラに屈するつもりはない。
そうなると必然的に奴等は武力行使をしてくるだろうが我々政府軍の力では先日の巨大メカニロイドにさえ歯が立たなかった。
そこで、巻き込むようで本当に申し訳ないが、君達の力を貸してくれないか?
これは君達レプリロイドの心を守る為の戦いでもあるんだ」
ファートは謝罪も込めハンター達に頼み込む。

「申し訳ないだなんてとんでもない!プロジェクトエルピスなどという馬鹿げた計画の為に無駄な犠牲が出るだなんて事はあっていいはずがありません!!
何としてでも奴等の野望を止めて見せます!!」
エックスが頷く。

「全くッスよ!確かに自分達の体は機械かも知れないッスけどこの胸の中にある魂は紛れもなく本物ッス!
一方的な都合でいじくられていいはずが無いッス!!
もしサイバーエルフが自分の中に入れられても全力で抵抗してやるッスよ!!」
トラストが拳を固めそれに続く。
ちなみに彼はエックスがプロジェクトエルピスを阻止した当時はこの事に号泣したという。

「…同感…」
フラジールも一言告げる。

「『人間の言う事を黙って聞け』?それじゃ只の機械だろうが。仮にそれが運命だとしても俺達はその運命と戦っていかなければならないんだ」
ゼロも賛同する。

「悩む事なんてないね、奴等は悪い奴で、敵なんだ」
アクセルも吐き捨てるように言う。

「しっかしメタシャングリラの幹部達は自分達は安全な所に隠れて部下のレプリロイド達に戦わせるなんて…卑怯ッスよ!!ますます許せないッス!!」
トラストが豪語するも…

「オホン!!」
「ゴホン!!」
ファートとシグナスがそれぞれわざとらしく咳払いをする。
流石にその意味をトラストはすぐに察した。
「あ、い、言うなれば戦いはチームプレイっすからね…監督自らマウンドに立つ訳には行かないッスからね……
本当に…本当に申し訳無いッス!!!!!」
全力で謝罪するトラスト。

「(いや、この構図は…まるで政府の人間とメタシャングリラの人間によるレプリロイドを使った代理戦争ではないか…何故だ、何故か既視感を感じる…)」
エックスは大昔のロボット同士の戦いの事を朧げに連想していた。
そんな時…

ビー!ビー!ビー!ビー!
「報告よ!ファナティカとギガンティス島に大規模なイレギュラーの軍団が発生!どちらもかなりの勢いで侵攻しているわ!!」
エイリアが状況を報告する。

「(考える間もない、か、これ以上お前達の隙にはさせないぞ!!)」
決意を秘めたエックス達は出撃するメンバーを決めた後、各地に出撃していった。
同時刻、すれ違うようにメタシャングリラの部隊がシティーアーベルに迫っていたのだった…


第四話「HEATS」


ファナティカ…そこは長年に渡り地元の政府軍と宗教系の国際テロ組織が熾烈な紛争を繰り広げている地区である。
テロ組織の残虐行為は非道を極め地元民を恐怖のどん底に陥れ世界中もその残虐さに戦慄している。
とはいえ、正面から地元の政府軍と戦う力は無く原則的に裏社会で行動し、奇襲や巧妙な作戦で度々地元の政府軍と衝突してきた。
しかし今回メタシャングリラの烈火軍団と手を組み都市部に本格的な侵攻を始めたのであった。

ハンターに出撃命令が出る暫く前…
「この度のメタシャングリラの助力は神の御加護である!これを機に今度こそファナティカを統一して聖戦を終わらせてくれる!!」
「神は偉大なり!!神は偉大なり!!神は偉大なり!!」
テロ組織の構成員は声高々に叫びながら烈火軍団の兵士レプリロイド達と共に破壊と殺戮の限りを尽くす。
「どうだ、我が軍の新兵器、『ナウマンノダー』の火力は!!!」
「ギャアアアアアアアアアア!!!!!!!」
烈火軍団の兵士レプリロイド達が過去のイレギュラー、バーニン・ナウマンダーを模した火炎放射器、その名も「ナウマンノダー」で次々と地元政府軍兵士や地元民を情け容赦なく焼き殺していく。
「メタシャングリラ軍…ここまで強いとは…こうなったらなりふり構っている場合ではないな…お前達、出撃だ!!」
「へへへ、出番だな…」
「テメー等の好きにさせるかよ…!」
地元政府軍の指揮官の指令と共に現れたのは彼等に雇われた裏社会の住人の戦闘用レプリロイド達であった。
皆腕の立つ傭兵や殺し屋、自警団員ばかりでその中にはダイナモもいた。

「ケッ、クソ政府の犬共め、テメー等もまとめて焼き殺してくれるわ!」
「飽くまで仕事だ、シ・ゴ・ト!!それにこちとら魂売り渡すつもりはねーんだよ!
何よりテメー等は元々イレギュラー、いずれ狩られる運命だったのさ!!」

暫しののしり合った直後、烈火軍団とテロ組織、地元政府軍と裏社会のレプリロイド達との間で凄まじい銃撃戦が展開された。
裏社会のレプリロイド達は「ボムランチャー」「レーザーライフル」等と言った闇ルートで入手した強力な銃火器で敵軍を圧倒し始める。
「この感覚…昔に戻ったみたいだな…」
迫りくる敵を薙ぎ払いながら苦笑するダイナモ。
形勢が逆転し、この場の烈火軍団とテロ組織の構成員が全滅しそうになった時だった。
「た、隊長…敵が…思いの外…強く…『ファラリスオックス』を…こちらによこして…ください…」
「分かったズラ」

烈火軍団の兵士レプリロイドが何者かに通信を入れた。
彼はその通信を入れるとこと切れ、地元政府軍と裏社会のレプリロイド達は進軍を始めたが…

キュラキュラキュラキュラキュラ…

前方の遥か向こうから戦車のキャタピラ音のような音が響き始め、程なくしてその発生源は姿を現す。
その正体はボディの各所各所に砲身が取り付けられていてキャタピラで移動する巨大な牛を模したメカニロイド…先程死んだ烈火軍団の兵士が供述していたこの軍団の5モンスター、ファラリスオックスだった。


「5モンスターか、でけぇ!!」「怯むな、撃て撃て!!」
ズガガガガガ!!!!!!!

ファラリスオックスに向けてありったけの砲撃を放つ裏社会のレプリロイド達だったが…
キンキンキンキンキン!!!!
「ンモォ~?」

ファラリスオックスはこれらの攻撃を尽く弾き返し明らかに見下したような声を発する。

そして次にファラリスオックスが攻撃を仕掛けてきた。
ファラリスオックスは重量、装甲、火力のいずれにおいても優れておりある者は口からの炎で焼き殺され
ある者はそのボディに備わった兵装で撃ち殺されある者はその圧倒的重量でひき殺され
またある者は胸のハッチからの吸い込み攻撃でその体内へと消えていった。
しかしまだ倒れない者がいた。ダイナモである。

「タフだねぇ、この図体は伊達じゃないってか!!」
「ンンモォォォォォォオ!!!!!!!」

ファラリスオックスの攻撃をかわしては反撃し、少しずつダメージを与えていくダイナモだったが
これにファラリスオックスは怒ったのか怒気を含めた雄叫びを放つと激しい勢いで突進してきた。
「おっと!!」
ダイナモは跳躍しこれをかわす。

ガラガラガラガラガラ!
ファラリスオックスの体当たりの威力は強烈そのもので進行方向にあった建物が次々と倒壊していく。
「こりゃマトモに喰らう訳には…いかない…ねぇ!」
ファラリスオックスの背後から追撃を試みるダイナモだったが…
「ン゛…モ゛…モ゛…モ…」
ファラリスオックスは突如苦しそうに小刻みに震え出した。そして…

バシュッ!!

ファラリスオックスの後部にある射出口から何かが勢いよく発射された。
「危なっ!」
これを回避したダイナモは発射された物体を見遣る。

モワァァァァァ…
物体はファラリスオックスが吸い込んだレプリロイドやメカニロイド、戦車等の成れの果ての溶けかけのスクラップ塊で
ファラリスオックスの体内で高温で熱せられた為それは空気に触れるとたちまち凄まじい量の蒸気を発する。

「ンモォォオ~~」
おまけにスクラップ塊を放った後ファラリスオックスは気持ちよさそうな声を発する。
この一連の光景を見た者は誰しも「ある物」を連想してしまうだろう。ダイナモもまた然り。

「これじゃあまるで糞じゃないか、こんな死に方してたまるかよ!
…という訳で、新しく仕入れたこの武器を使うとしますか!」

ダイナモは手元に深紅の輝きを放つ鎌型の武器を転送させた。
その名も「クリムゾンサイズ」。
死神の鎌を連想させるこの武器は非常に高価でその分性能も高い。

「喰らいな!」
ダイナモはDブレードの要領でクリムゾンサイズを投擲、そしてそれはファラリスオックスの兵装を次々と破壊していく。

「ンンモォォォォォォオオオオオオオオオーッ!!!!!!!!!!!」
兵装が尽く破壊されキャタピラも破損したファラリスオックスは胸のハッチを開けダイナモを吸いこもうとしてくる。
その吸引力は非常に強力だった。

「糞になってたまるか、クリムゾンサイズ・乱!!」
続いてダイナモは吸い寄せられながらも無数のクリムゾンサイズをファラリスオックスのハッチ目がけて飛ばす。
「ン…モ…モ…モ…」
ズババババババババ!
そしてそれらのクリムゾンサイズは焼かれる前にファラリスオックスの内部を損傷させていく。
しかしそれでも吸い込みは一向に収まらない。

「呆れるほどタフだねぇ、だけど俺も糞になる訳にはいかないんでね、これで…終わりだ!!」
ダイナモはファラリスオックスの間近まで吸い寄せられると天高く跳躍し燕返しでファラリスオックスの首を切断した。
ファラリスオックスの機能停止に伴い吸い込みも止まり、ファラリスオックスの頭部の落下とダイナモの着地はほぼ同時だった。

そこに先程出撃してきたアクセルとトラストが現れた。

「あれ、ダイナモじゃん」
「そのメカニロイド…5モンスターッスか?」
「まあな、地元の政府軍の依頼で来たって訳さ」
アクセルとトラストの言葉に応じるダイナモ。

「いやー5モンスターを倒すとは流石ッス!ユーラシア事件の時にエックス先輩とゼロ先輩と渡り合っただけあるッスね!」
喜々としてダイナモに語りかけるトラスト。
「中々元気のいい坊やだね、名前は何て言うんだい?」
苦笑しつつ尋ねるダイナモ。
「あ、申し遅れました、自分はトラスト、新しくS級になったハンターッス!
ダイナモさんの事は聞いてるッス、エイリアさんとの出会いで変わって今じゃ助けた数が殺した数を超えてると!
元は敵同士の禁断の愛といい、それにサイバーエルフなど使わずとも改心した事といい熱い、熱すぎるッス!」
力説するトラスト。
この時点ではダイナモは傭兵家業を続けていたものの始末するのは悪人限定となっておりそれは周知の事実となっていたのだ。
「ハハハ、坊やもいつかいい人見つけろよ、じゃあな!」
照れ笑いをしながらダイナモは再度出撃した。
(自分、『守備範囲』は広いんスけどまだ『運命の人』は現れないッス…)
内心思案するトラスト。
実は彼は年齢的な意味での守備範囲の方も広いのだが現時点では特定の想い人は存在しない。
しかし彼がその人物は意外と身近にいると気付くのはもう少し先の話である。

「僕達も行くよ、まだ8エージェントが残ってるからね!」「押忍!!」
アクセルとトラストも出撃を再開した。

テロ組織の本拠地に近づいた時だった。
「た、助けてください~!」
明らかに非武装の人間がアクセルにすり寄ってしがみついてきた。

「ちょっと落ち着いてよ、…!?」
アクセルはわずかな匂いと音を察知した。そして…

バッ!

アクセルは彼の懐から摺りの要領で爆弾を奪い取り即座に上空に放り投げた。

ドカァァァァァァン!!!!!
「チッ!」
爆弾は爆発し一見非武装の人間は舌打ちする。彼は変装したテロ組織のメンバーだったのだ。

「モガアアアアア!!モガアアアアア!!!!」
「こういう所なんだよ、だから常に気を貼っていてよね」「…押忍!」
猿ぐつわとロープで拘束されのたうち回るテロ組織のメンバーを後に2人は更に先に進む。

その後も烈火軍団のレプリロイドやメカニロイド、テロ組織の攻撃をかいくぐり敵の本拠地を目指す2人。
この時2人はテロ組織のメンバーはやむを得ない場合を除き殺害は避けてきた。
全く不満が無いといったら嘘になるがこれも任務とある程度割り切っている。

やがて2人は敵のアジトと思しき建物に辿り着いた。
「トラスト、ここは囮を頼む」「了解ッス!」
アクセルは裏社会での活動も長くトラストは誘導を得意とする。それらを踏まえての指示であった。

ガシャーン!!
「コラァー、誰だぁーっ、うちのアジトにボール投げ込んだ奴はぁーっ!!」
トラストの投げたボールが建物の窓ガラスを突き破り、その直後中からそれに対する怒号が響き渡る。
「すみませーん、ボールを返して下さーいッス!」
トラストは正面からアジトに侵入。
それからトラストが投球やバット、スライディング等で派手に立ち回る一方で烈火軍団の兵士に変身したアクセルが死角から敵を攻撃したりアイテムを回収したりしていく。
その流れは鮮やかともいえるもので2人は順調に最深部へと突き進む。

その頃アジト最深部では…

「敵は思ったより手強いな、いよいよお前の出番だぞ」
テロ組織のボスがこの地を担う8エージェントに語り掛ける。
「分かりましたズラ。ボス達は今の内に避難しておいた方がいいズラよ。敵も強いから手加減出来ないズラ」
「うむ」
彼の忠告を聞いたテロ組織のボスと幹部達はその場を後にする。

そして暫く経った時だった。
アクセルとトラストは両者とも扉の向こうの強大な気配を察知する。
「この先にボス、8エージェントがいるみたいだよ、覚悟はいい?」
「バッチリッス…!」

緊張感と闘志を交えた感情を抱きつつ2人は最深部へ。

そこにいたのはオレンジ色のカピバラを模したレプリロイドで身長に限って言えば小柄なアクセル、トラストよりも更に小柄ではあるが
その背中のバックパックに取り付けられたアームから伸びる砲身と手足に取り付けられたミサイルランチャーからして充分過ぎるほど危険な雰囲気を放っている。


「8エージェント…だね?」
アクセルが尋ねるとカピバラ型レプリロイドは応え始める。
「その通りズラ!オラは烈火軍団侵攻隊長、バクハード・カピラーバズラ!
この世界の流れを正す計画に仇成す奴はオラが爆破してやるズラーッ!!」

これにアクセルは反論する。
「メタシャングリラってさぁ、人間の為に戦ってるんじゃないのかなぁ?
でもここの連中は人間も大勢巻き込んでるよ?矛盾してない?」
カピラーバはドスを効かせた口調で応える。

「誰の所為でこうなったと思ってるズラか!?」
「「!?」」

2人は顔をしかめ、カピラーバは続ける。
「オラ達がこんなテロ組織と組まなければならなかったのは元はと言えば連邦政府がプロジェクトエルピスを凍結したからズラ!
その原因を作ったのはエックス、そして愚かなレプリロイド共と人間共ズラ!
おかげで反政府組織のオラ達が世の中の全てを独占するには金も力もエネルギーもまだまだ足りんズラよ!
それにこの戦いは全レプリロイドの運命を左右する聖戦…それだけの戦いとなると犠牲は付き物ズラ!!」

「こんな虐殺で得られる平和なんてニセモノッス!!」
拳を握りトラストが反論する。
これにアクセルが呆れたように、諭すように言う。
「トラスト、こいつは完全にヘルシャフトの…メタシャングリラの代弁者になっちゃってるみたいだよ。
カピラーバ、とか言ったね?お前達もイレギュラーとは言えこんな訳の分からないサイバーなんちゃらとかいう奴で簡単に信念まで変えちゃっていいの?」
カピラーバは豪語する。
「問答無用ズラ!総帥殿の命令は絶対ズラ!この戦いに勝ったらオラが盛大に祝砲を上げてやるズラーッ!」

「ダメだこりゃ、行くよトラスト!」「押忍、アクセル先輩!」
カピラーバが完全に洗脳されていると確信した2人は戦闘態勢に入る。

「喰らうズラー!!」
「うわ!!」
カピラーバは開戦早々全兵装からミサイル、レーザーを一斉掃射してきた。
その勢いは凄まじくアジトの天井や壁がみるみる破壊されていき、最初はアクセルとトラストは避けに徹した。
「逃げ回るだけズラかーっ!?」
「そうでもないよ!」
挑発するカピラーバにアクセルとトラストは反撃を試みる。
しかしミサイルは思いの外固く破壊しようとしてもアクセルバレットでは何発も当てなければならず、
トラストのトワイライトピッチもミサイルを1発で破壊出来るのだがミサイルの数が多すぎる為
全部を着弾前に破壊するのは極めて困難である。
それは文字通りの厚い弾幕でありアクセルとトラストの攻撃がカピラーバ本体に到達するのを阻む。
「こ…の!!」
トラストはミサイルをバットで撃墜しようとするものの…
ドカァァァァン!!
「グアアアア!!!!!!」
ミサイルが大爆発しトラストは吹っ飛んだ。
「トラスト!」「大丈夫っス!!」
全身に大ダメージを負いながらもトラストは立ち上がる。

それからも2人は地上ではダッシュやスライディングで移動しつつ、壁ではダッシュ壁蹴りを駆使しつつ
懸命にカピラーバに攻撃するもののいずれもレーザーやミサイルで相殺され、
相殺し切れなかった分の攻撃が両者に炸裂していく。
どの角度から攻撃しようにもミサイルには追尾性能があり、方針はアームである程度可動である為
カピラーバは1歩も動かず2人を追い詰めていく。

「死角だ!死角を狙うんだ!」「それなら…これッス!ワインドピッチ!」
トラストは曲がる変化球を投げ、それはカピラーバの側頭部に直撃した。

「痛っ!!」
カピラーバは一瞬のけぞり2人はさらに追い打ちをかけようとするが…

「これなら…どうズラかぁ!?」
ゴォーーーッ!!!!!
カピラーバは脚部のホバーユニットを起動させ高速移動をしながらミサイルとレーザーを乱射し始めた。
非常に高速でありしかも常にアクセル、トラスト両者との距離を取っている。
2人はカピラーバに辛うじて攻撃を当てる事が出来るようになってきたものの被弾率は一向に下がらず
またカピラーバの攻撃が周囲の壁を破壊していく為に安全地帯も減っていく。

「(奴は常に距離を取ろうとするし、実際に攻撃を当てれば手応えはあった…ということは距離を詰めれば…あれならいけるかも!?)」
懸命に攻撃をしのぎながらアクセルはある事を思いつく。
「いい事を思いついた、トラスト、僕を投げるんだ!」
「え…投げる…んスか?かなり危ないッスよ…!」
思わず問うトラスト。
「いいからいいから、丁度いい変身があるんだ」
そう言うとアクセルはヤコブ事件の時のイレギュラー、スフィアロイドに変身し、体を丸めた。
「何と言う発想ッスか…でも十分試してみる価値はあるッス!」
トラストは球形になったアクセルを手に取ると動きを止め、振りかぶり始める。
相手は高速で動くため慎重に狙いを定める必要があり、また大きく振りかぶり、且つ多量のエネルギーを込めなければ十分な威力が出ないのだ。
そんな彼にレーザーとミサイルは容赦なく襲う。
「耐えろ…耐えるッス…そこッス!!!」
トラストはダメージを受けながらも極限まで大きく振りかぶり、エネルギーを込めた投球を繰り出す。

ギューーーーーーーーーーーーーーーン………………………………………………ドッゴォォォォォォォォ!!!!!!!
「カ…ハ…」

カピラーバは大ダメージを受け吹っ飛んだ。
そしてアクセルは元の姿に戻ると…

「当たれぇーっ!!!!」
二丁のバレットで近距離、中距離用の新必殺技、「五月雨ショット」を繰り出す。
この際カピラーバは両足のホバーユニットを大破。

「調子に…乗るなズラ!!!」
カピラーバがミサイルを乱射し始めるも…
アクセルはかなり距離を詰めていた為ミサイルは旋回してカピラーバに迫る。
そしてミサイルがギリギリまで迫った時。

「あらよっと!」
アクセルはローリングでカピラーバの背後に移動。
これによってミサイルはカピラーバに炸裂していく。
「そ、そんな…バカな…ズラーッ!!!!!」
カピラーバは自分の武器で自爆する形で機能を停止した。

「危ない所だった…」
アクセルがローリングを繰り出すタイミングは早過ぎても遅すぎてもいけなかった。
早過ぎればミサイルがカピラーバを通り越してアクセルに炸裂し遅すぎればアクセルの背後にそのままミサイルが炸裂するからである。
しかしその僅かなチャンスを最大限に生かすのが彼のS級たる所以とも言える。

「ゲ…ゲ…ゲーム…セッ…ト…」バタッ!

ディープログでのウルフシグマとの戦闘後以上にボロボロになったトラストは気を失った。
「ちょ、ちょろいね…!」
口ではそう言うアクセルもその場に崩れるようにへたり込んだ。

「倒されちまったか…まあこの手柄は君達にくれてやるか…」
侵攻中だったダイナモはその様子を遠巻きに見ながらその場を後にした。

暫くしてファナティカの安全を確認したアクセルとトラストも帰投した。

そのさらに暫く後の事だった。

「やれ」「ハッ!!」
ファートの指令の元、遅れてやって来た連邦政府軍がテロ組織のメンバーを皆殺しにした。
しかも疑わしいだけの者も大勢含まれている。

「(世界中から嫌われているこいつらを排除すれば我々の株も上がるだろう、
プロジェクトエルピスを凍結した時より更に、な。メタシャングリラ、次は貴様等だ!!)」
ファートは内心呟く。

同じ頃カピラーバの隊の敗北が伝えられたメタシャングリラ本拠地では…
「おやおや、折角彼等に売りつける為にこれだけの商品を作ったというのに…まぁこれは他で補填するしかないでしょう」
山のような量の怪しげな壺やお札等を眺めながらフィースィーが呆れるように言う。

「こんなけったいで薄気味悪いグッズを買ってくれるゆうのはほんまに有難いからもったいながな」
吐き捨てるように言うプーパー。

「いい『画』が取れたからこれを風評被害を拡散するのに利用してくれるわ」
タードがほくそ笑む。

「流石は伝説のS級ハンター、と言った所か…」
Dr.Vが呟く。

「これぐらいでいい気になるな、我々には、まだまだ奥の手が、あるのだからな…!」
ヘルシャフトは歯噛みする。
こうして今まで以上の犠牲を払いつつファナティカでの決戦は終結したのであった…


第五話「野獣と雪の女王」

S級ハンター達4人がそれぞれ2人ずつファナティカとギガンティス島に出撃して暫く経った頃だった。 ゴゴゴゴゴゴゴ… 突如シティアーベルの気温が急激に下がり同時に周辺が巨大な氷の壁で囲まれ地面は凍り付いてしまった。 当然交通は完全にストップし歩行者にとっても足場が不安定になり、またいきなり寒くなったのでパニックが生じる。 「何なんだ、天変地異か!?」 「いや、このタイミングからして…」 シティアーベルの住人が戦々恐々とする中実行犯達は彼等の眼前に姿を現した。 彼等はスノーボードに乗り最新兵器の1つ「アクアフロスター」を携えたレプリロイドの集団だった。 「シティアーベルの住人諸君、我々はメタシャングリラ氷結軍団の侵攻隊だ。 我々の任務はここシティアーベルの外部との遮断、並びに同都市、そしてハンターベースの制圧である。 これより我々はハンターが抵抗する限りはこの街とハンターベースを破壊し続けるが… もしハンター、もしくは連邦政府軍が降伏するならすぐさに攻撃を止める。 突然の事で悪いがこれも世界の為に必要な事なのだ…任務開始!!」 「ギャアアアアアアア!!!!!!!」 シティアーベル住人は蜘蛛の子を散らすように逃げ回り、氷結軍団兵士は周辺の建物を破壊しながらハンターベースを目指し始める。 シュン! 暫くするとその地点にハンター達が転送されてくる。 「悪いけどなぁ、スノーボードは、オフシーズンなんだよ!!」 「グボアッ!!」 氷結軍団の兵士の1人が撃破された。 「おのれ…!これでも喰らえ!」 ボブスレーのようなスノーモービルに乗った氷結軍団の兵士が爆弾を投げつけてくるも… 「ボブスレーも、な!!」 その氷結軍団の兵士の兵士もハンターに撃破された。 するとハンターの1人にに雪だるま型メカニロイドが抱き着いてきてその結果そのハンターは氷漬けになってしまう。 「くそ、こんな見た目で油断ならないな!」 他のハンターが雪だるま型メカニロイドを撃破して氷漬けになったハンターをウォームアップで回復させる。 「シティアーベルに乗り込んでくるとは良い度胸じゃないか!降伏なんてする訳ないだろ!行くぞ!」 「ギャア~!」 この場に出撃したのはA級以下のハンター達だが日々の訓練や最新の武器やアイテムで氷結軍団兵士とは渡り合えた。 ある者は敵軍との戦闘を、またある者は一般住人の非難を担う。 そんな時だった。 「ピュイーッ!!」 追い詰められた氷結軍団兵士が指笛を吹いた。 「オォン!!」 それに呼応するかのように遥か彼方から甲高い咆哮が鳴り響く。 「何!?」 ハンター達が咆哮が聞こえた方向を見遣ると氷の壁の上に巨大な何かが佇んでいた。 そしてそれは跳躍し大地を揺るがす着地を伴ってハンター達の前に現れた。 それは白いライオンの姿をした巨大メカニロイドだった。 「ククク、こいつは我が軍が誇る5モンスター、ブリザディオン! 我々にはともかく…こいつに勝つことが出来るかな?」 「ほざけ!」 嘲笑する氷結軍団兵士兵士をハンターの1人が射殺した。 「しかしでかい…」 「怯むな!これぐらいの巨大メカニロイドなどディープログで見慣れているだろう!かかれ!!」 ブリザディオンに挑みかかるハンター達だったが… 「オォン!?」 ブリザディオンは彼等を強く睨みつけた。 それは正に野獣の眼光とも呼ぶべき気迫でそれだけでハンター達は圧倒されてしまう。 「オォン!」「ギャッ!!」 ブリザディオンは巨大な前脚を振り下ろしそれを喰らったハンターは地面にめり込んでしまう。 そればかりかブリザディオンの脚が当たった箇所から凍り始めていくのだ。 「ええい、だから怯むな!何としてもこの街を守り抜くんだ!!」 何とか応戦するハンター達。 そんな彼等を別の方角の氷の壁の上から何者かが見ていた。 「あらあら、ブリザディオンに掛かりきりね。この隙に私は…」 その存在はゆっくりと降下していき地に降り立つとハンターベースに足を進め始める。 市街地では… 「撃て、撃てーっ!!」 「当たらない、こんなにデカいのに…!」「当たっても効かねぇ!!」 ブリザディオンはその巨体に似合わぬ跳躍力でビルからビルへ跳び回りハンターを翻弄する。 応援要請で来た特A級ハンター達もその爪や牙、パワー、氷撃の餌食になっていく。 そんな時だった。 「ここは私の出番か…」 現在ハンターに協力しているカーネルが姿を現した。 「オォン!!!」 彼を目にしたブリザディオンは本物のライオンのような臨戦態勢のポーズをとる。 「ライオン、か…」 そう呟く彼の脳裏に浮かぶはかつての部下の顔。 姿形こそ異なるが同じモチーフのブリザディオンを目にした彼はスラッシュ・ビストレオを連想せずにいられなかった。 「(ビストレオ…あの戦いは戦いを好むお前にとっては望むところだったのかもしれない… だが結局私の一時の我儘の所為でお前を死なせてしまった事もまた事実… お前の…お前達の命に報いるためにも…私は戦い続ける!!)」 カーネルはブリザディオンの攻撃をかわしつつ衝撃波や雷で攻撃し始める。 そしてそれらの攻撃は着実にブリザディオンにダメージを与えていくが… そんな時。 「あれは…カーネル…ハンターに投降しなくてレプリフォース大戦の引き金を引いたっつう…」 シティアーベルの住人の1人が呟いた。 「同士討ちになってくれないかな…」 別の住人が呟く。 やがて一部の者がカーネルに直接罵声を浴びせる事態に。 「おいカーネル!ウイルスに因らないイレギュラー代表格!!」 「テメーがくだらん意地張ったからあの戦争が起こったんだろーが!」 「あの戦争で何人死んだと思ってんだ、バカヤローッ!!!」 「っつうかあの件で俺達レプリロイドもうかつな言動や行動が出来なくなったんだぞ、どうしてくれんだ!!」 「落ち着いてください!避難を優先させてください!」 ハンターの説得も空しく彼等の罵倒は止まらない。 レプリフォース残党に対する悪い評判は以前からあった。 しかしそれはあくまでシグマの計略によるものという見方もある程度強かったのだが ここ最近彼等への悪評は輪をかけて悪化した。 それはメタシャングリラ幹部、タードによるものである。 彼は良い噂も悪い噂も過剰に盛って世界に発信する事を得意としているのだ。 「………」 「オォ~ンオンオンオン~♪」 カーネルは瞑目しブリザディオンは前脚で拍手しながら踊り始める。 「確かに…私のした事はとても許されるものではない…だが…だからと言って皆の望み通りに死ぬのも… 皆の言葉に逆恨みの念を抱き手を上げるのも……みっともない…!」 カーネルの闘志は折れずブリザディオンに挑みかかる。 「オォォ~ン?オォォン!アォン!」 見下し蔑むような声を発した直後、今度は怒気を含めた声を放ちブリザディオンは応戦する。 ある時ブリザディオンが一般人のいるすぐ近くに着地した時だった。 「危ない!」 カーネルはブリザディオンの元にすぐ駆け付け、ブリザディオンは彼に前脚を勢いよく振り下ろす。 しかしこの時カーネルは避けず剣だけで防ごうとした結果地面にめり込み凍り付き始める。 「逃げるんだ…早く…」 カーネルが言った相手の一般人達には先程彼を罵倒した者も多く含まれていた。 「お、おい…俺は先程…お前を…」 一般人は戸惑いながら言う者のカーネルはそれを否定。 「私の事など…いい…それに元より住人の救助はレプリフォースの仕事…加えて私がした事の贖罪は…ただ死ぬだけでは…とても足りんのだ…!」 そう言い残しカーネルは再度ブリザディオンに挑む。 すると一般人の近くでは相手が攻撃を避けないと察したブリザディオンは避難していく一般人の近くをキープし始める。 そしてその読み通りカーネルの被弾率は上がった。 それでも彼は何度でも立ち上がる。 自身をけなした一般人達の身の安全も確保しつつブリザディオンを迎え撃つ。 「……本当に…俺達の為に…」 当惑しつつ一般人達はハンターの指示に従い避難していく。 「オォォン!!」 しびれを切らしたブリザディオンは遂にカーネルに食らいつこうとする。 だが… 「うおおおおおおお!!!」」 カーネルはブリザディオンの頭部に飛び乗った。 そしてサーベルを突き立て一気に放電した。 「ンアーッ!!!!!!!!!」 今までで一番大きい断末魔の咆哮を放ち、ブリザディオンは倒れて体中をスパークさせ煙も噴きながら機能停止した。 すると… 「か、勘違いしないでよね!別にあんたに感謝している訳じゃないんだからね!」 「か、勘違いするなよな!別にお前に感謝している訳じゃないんだからな!!」 「か、勘違いするでない!別にお前に感謝しておらんからの!!」 「カンチガイスルナ。ベツニアナタニカンシャハシテイナイ。」 一般人達は自身を助けたカーネルに感謝の言葉を述べようとするがどこかぎこちない。 「(素直に感謝されない、か…これも私の罪を思えば仕方のない事かもしれないな…)」 苦笑するカーネルであった。 その頃ハンターベースにて。 時はカーネルとブリザディオンが市街地で激闘を繰り広げている頃に遡る。 「警告!ハンターベースにイレギュラー反応が接近中!それもかなり強力なものよ!」 エイリアがイレギュラーのベースへの接近を報告する。 映像を出すと何者かがハンターベースに向かっているのが分かる。 そのイレギュラーは白と青を基調とした女性型レプリロイドで頭部の形状と腕の羽根のような翼は鶴を彷彿とさせる。 「止まれ!貴様…メタシャングリラだな!?」 出撃してきた特A級ハンター達がイレギュラーを包囲し、問う。 イレギュラーは名乗って応じる。 「威勢がいいじゃない。その通りよ。私は氷結軍団侵攻隊長ツーラル・クレーネル… 貴方達にお願いがあるんだけど、降伏してくれないかしら?じゃないと無駄な犠牲が出ちゃうわよ?」 複数人の特A級ハンターに包囲されているのにも関わらずクレーネルは不敵に言い放つ。 「ふ…ざけるな!!」 特A級ハンター達は己の武器や技をクレーネルに繰り出そうとするも… 「モメンタムフリーズ…」 自身への攻撃を尽くかわしたクレーネルは掌を地面に当てた。 すると氷で地形が一気に変わっていき所々に巨大な氷柱が生えた。 「何っ!?」 特A級ハンター達がこれに気を取られている内にクレーネルは次の攻撃に移る。 「アイシクルサーベル…」 「ぐあっ!」 「ギャッ!!」 クレーネルは羽根から生成した氷の刃で次々と特A級ハンター達を串刺しにしては氷柱に磔にしていく。 その動きは迅速かつ正確極まりなかった。 「ぐ…あ…あ…あ…」 アイシクルサーベルが刺さった箇所から凍っていき力が抜けていく特A級ハンター達。 彼等に対しクレーネルは冷笑を浮かべながら言う。 「私達は元々レプリロイドは人間と同じか…それ以上と考えていた。中には力で劣る人間を力で支配しようとする者もいたわ。 でもね、組織の洗礼を受けて…それが間違いだって気付いたの。 貴方達も洗礼を受ければ何が正しいのか分かるわ。 レプリロイドは自らの意志を放棄し只人間に尽くすのが正しい道…これでいいの…」 陶酔するように言うクレーネル。 「…良くない…」 「!?」 背後からの声に振り向くとそこにはいつの間にかフラジールが佇んでいた。 この時クレーネルは極寒と暗黒が同時にやって来たかのような感覚を覚えた。 大多数のレプリロイドならこの時点で戦意を喪失してしまうだろうが彼女はすぐ持ち直した。 「…どっちも…間違い…」 呟くように言うフラジールだがその言葉は重く響く。 「あらあら、クラブHLに止めを刺した娘ね。 確かに今の私達は反政府組織。だから貴方達から見れば貴方達が正義で私達が悪、という事になるわね。 でもね、今でこそ正義は人の数だけある…というより世界の覇権を握っている連邦政府が正義と言う風潮があるかもしれないけど、連邦政府は世界を統一するには無能すぎる。 私達がこの戦いに勝ち、世界を統一した時には変な気起こすレプリロイドがいなくなってこれまでみたいな悲劇を防げるのよ。 それが本当に間違いだというのかしら?」 にこやかに、しかし冷酷な口調で返すクレーネル。 「…なら、勝たせない…」 フラジールの返答は相変わらず短かったのでクレーネルは彼女が言わんとすることを推察する。 「『勝った方が正義』とでも言いたいのかしら?それもある意味真理ね。でも私も負けないわよ… 貴方となら楽しめそうね、さあ…踊りましょう…!」 そう言ってクレネールは羽根型のパーツからアイシクルサーベルを飛ばし始める。 フラジールはそれらを避け、カウンター気味にスリットエッジを発射。 クレーネルはこれらを回避しながらフラジールに急接近しフラジールの両腕を氷漬けにしてしまう。 「これでこの技は使えないわね」 ほくそ笑むクレーネルだったが… 「…何で…?」 パキーン!! フラジールは力を込め両腕の自由を封じる氷を砕いてしまった。 すかさずフラジールはクレーネルに回し蹴りを見舞おうとするがクレーネルはバックステップで回避して距離を取る。 「細腕によらない力じゃない、でもこれからよ!」 それ以降もフラジールとクレーネルの刃と格闘を駆使した技の応酬が続いた。 寒冷地での活動を得意とするクレーネルはもちろんのことフラジールもまた実戦やディープログでの訓練によって凍った地面を全く苦にしない。 それどころか凍った地面を利用して滑る事で技の勢いを付けるほどである。 その動きはあたかもフィギュアスケートのようだった。 両者とも離れた時は自身の鋭利な飛び道具を飛ばし、距離を詰めた時はその刃を手にしつつ格闘戦で対応する。 その動きは両者とも切れが良く無駄が無かった。 彼女達の容姿や動き、光を反射し飛び交う刃を見た特A級ハンター達は死ぬ前にこの光景を見れて良かったとか考え始める程である。 しかし徐々に、徐々にフラジールが押され始めていく。 一方ハンターベース内では… 「もう少し…もう少し…」 「ここまで早く来るなんて…」 「諦めちゃ、ダメですよぉ!」 リコ、アイリス、パレットが必死にコンピュータを操作している。 オリジナルシエル等の指導に従ってサイバーエルフを製造しているのだ。 暫くすると彼女達の書いたプログラムがオリジナルシエル達が持ち込んだカプセル型の装置に転送されてくる。 そして装置の中から製造されたサイバーエルフが出てくるのだ。 サイバーエルフは人型や動物型、中には道具に顔が着いたような種類と外見は様々でいずれもファンシーな外見で空中をフワフワ漂う。 「出来ました!出来ましたよ!!」 「後は現地に送り込むだけよ」 リコ、アイリス、パレットは歓喜しオリジナルシエルは更に支持を出す。 こうしてサイバーエルフ達は続々と出撃していった。 「(辛いとか…悲しいとか…言ってられないわね…もう…戻れないのね…)」 オリジナルシエルは内心悲し気に呟く。 「(さて、どっちが勝つか、じゃな…あちらが勝てばもうあんな面倒臭い事をしなくて済むのじゃが…)」 バイルもまた、内心呟くのであった。 ハンターベース前では… 刃を手にしたフラジールが、クレーネルの頭上目がけて高所から飛び降りるも… 「甘いわよ」 これを回避したクレーネルがかかと裏からアイシクルサーベルサーベルを出した状態での蹴りで反撃する。 「うっ…!」 とうとうフラジールは地に倒れ伏した。 「貴方は強いだけでなく容姿も優れているから、戦力としてだけでなく人間の殿方達にご奉仕するのも適任かもしれないわね」 「…嫌…」 フラジールは拒絶するも体が上手く動かない。 「大丈夫、サイバーエルフがあればその嫌、という気持ちも…」 クレーネルが言いかけた時だった。 フワフワフワフワフワ… どこかからか現れたラッコ型のサイバーエルフ達がクレーネルの動きを封じる。 「これは…サイバーエルフ!?」 同時にナース型のサイバーエルフが現れフラジールの体力を回復させる。 ヨロ… フラジールは立ち上がり、チャージ攻撃で作りだした刃を両手に持ちクレーネル目がけて駆け出した。 「…止め…」 フラジールの手にした刃はクレーネルのボディを貫き、そのままフラジールはクレーネルを彼女自身が作りだした氷柱の一本に磔にした。 「……私はこれまでだけど、この流れはもう止められないわ…もうすぐ…もうすぐ組織が世界を統一する未来が来るの… もっと、踊りたかった…」 そう言い残しクレーネルは機能を停止した。 同時期にシティアーベル中に散開したサイバーエルフ達がそれぞれの機能を発揮し住人やハンターを助け始める。 ブリザディオンやクレーネルにやられたハンターは回復し、氷の壁も消滅した。 「あれ、俺やられたはずじゃ…」 「凄い、少しも寒くないわ!」 歓喜する一般人やハンター達。 程なくしてフラジールを始めとするハンター達は帰投した。 「これがサイバーエルフか!助かったよ!これなら奴等に勝てるぞ!」 「博士達やオペレーター、そしてサイバーエルフ達に感謝だな!」 サイバーエルフの活躍に歓喜するハンター達だったが… オリジナルシエルが悲し気な顔をして語り始める。 「皆…言ってなかったけど…ほとんどのサイバーエルフは任務を全うすると…死んじゃうの! だから…この子達の命を…無駄に…しないでね…」 声と体を震わせ、涙目で言うシエル。 「そんな…!」 ハンター達はざわつく。 そんな中フラジールは静かに、そして力強く応える。 「…了解…」 フラジールの表情もそこはかとなく悲しみのそれを含んでいた。 それを見ていたバイルは… 「(ク―クックック!!クヒャーハッハッハ!!サイバーエルフなんぞ、人間どころか、レプリロイドからしても道具に過ぎんというのに… それを人間がわざわざ気に掛けるとは、馬鹿馬鹿しいにも程があるわ! まぁこれであの面倒臭い事をする期間が長引いてしもうたが、これからもこの戦い、この場から観察させて貰うぞ!!)」 周囲と同様サイバーエルフの死を悼む振りをして内心嘲り笑っていたのであった。 そして彼が企んでいる事をまだ、この場の誰も知らない…

第六話「電撃作戦」

エックスとゼロがギガンティス島に出撃するしばらく前の事だった。 「ゼロさん、これは貴方の為に造ったワクチンの効果のあるサイバーエルフ『ゲリール』です。 これで貴方を縛る呪縛も解ける筈ですよ」 「俺を縛ってきたこの忌々しい運命ともこれでおさらば…って訳か…ありがとよ、礼を言うぜ」 パージがゼロに新型のサイバーエルフを紹介し、ゼロは彼に礼を言う。 「良かったじゃないか、ゼロ!」 「嬉しいわ、本当に嬉しい…」 「うう、良かったです…本当に良かったですぅ~」 エックス、アイリス、レイヤーもそれぞれ歓喜する。 そしてゼロはゲリールをダウンロードした。 これが後に思わぬ変化をもたらす事になる… その頃ギガンティスでは… 「チッまた1人やられたぜ!」 「奥に進めば進むほど強力なメカニロイドが配置されているって訳だな…!」 超高圧電流を放つ「エレクトリカ―V」や大昔に世界征服計画に運用されたロボットを模したバスター「エアロバスター」を装備した 轟雷軍団の兵士レプリロイド達がガウディル研究所に配備されている防衛用メカニロイドに1人、また1人と倒されていく。 フォースメタルジェネレーターを狙うメタシャングリラはガウディル研究所に狙いを定め、轟雷軍団が出撃した。 彼等の行く手を阻むのは最初は弱いメカニロイドばかりだったものの進むにつれ徐々に徐々に強いメカニロイドが出てくるようになっていき次第に彼等はその数を減らしていった。 「貴様等に渡す物などない!死ね!」 「覚悟なさい、ガッツビーム!!」 かなり奥に進むとリディプスガードやベラドンナ―等も出現し、とても轟雷軍団兵士では歯が立たなかった。 「こうなったら最後の手段だ、アレを使うしかない!」 追い詰められた轟雷軍団兵士は手にしたコントローラーのスイッチを押した。 「ビュオオオオオオオオオオオ~~」 するとそれに伴い遥か彼方から円形で中央ににやけ面のような顔があり、 側面からは先端に扇風機が取り付けられたような2本の腕を生やし、裏側の上面にアーチ状のパーツが立つ巨大な空中戦用メカニロイドが不気味な唸り声を伴って現れた。 クラブHLと並ぶ轟雷軍団のもう1体の5モンスター、フーディーン&ライディーンである。 この時は風を操る形態「フーディーン」であった。 早速フーディーンは両腕から暴風を発生させ始める。 「いくら貴様等が強くともこの『風神雷神』に勝てるかな!?では、さらばだああああああああああ~」 轟雷軍団兵士もその暴風に巻き込まれて飛んでい行き…そして、星になった… 「な、何という風力だ…これでは…立っておれん…!!!」 「キャアアアア~~!!!!!」 リディプスガードやベラドンナ―等も暴風に吹き飛ばされていく。 そしてそれ以降もフーディーンは研究所を容赦なく破壊し続けながら侵攻を続けていく。 そんなフーディーンの前にとうとうマッシモとマリノが立ちはだかった。 「『北風と太陽』と言う話があるが…このメカニロイドも、メタシャングリラもその北風そのものだな…! こんな力づくで物事を解決しようとする奴等に素直に従えるか!!」 「あんたらみたいな連中に、シナモンは盗ませないよ!」 2人はフーディーンに挑みかかる。 その頃研究所の別ルートでは… 「(ぐああああああああああああ!!!!!!!!!!!!)」 「!?」 突如どこからか聞こえてきた絶叫にゼロが反応する。 「どうしたんだ、ゼロ?」 エックスが尋ねる。 「この近くで、叫び声がしなかったか?」 「いや、何も聞こえなかったよ」 ゼロが問い返すもエックスは先程の叫び声は聞こえていなかったようだ。 この直後ゼロは再度謎の声を耳にする。 「(苦しい…苦しい…)」 「今度は『苦しい、苦しい』と聞こえたが…お前は聞こえたか!?」 「何も聞こえないよ、どうしたんだ一体…!?」 再度ゼロはエックスに聞いてみるも反応は変わらなかった。 この声はどうやらゼロにしか聞こえないらしい。 「…何でもない…任務に戻るぞ…」 これを察したゼロは一旦謎の声は無視して任務の遂行に移る。 2人が進んでいくとやがてマッシモとマリノ、そしてフーディーンが戦っている地点に到達するが 2人がそれを確認した矢先にレイヤーから通信が。 「聞こえますか?研究所の最深部に巨大メカニロイドとは別の強力なイレギュラー反応が急接近中です。 どちらを優先するか、慎重にご検討ください」 「最深部…という事はシナモン達を狙っているのか!?」 「大方あのデカブツは囮だろうな、ここはマッシモとマリノに任せて最深部に行くぞ!」 エックスとゼロは最深部へ。 その頃マッシモ達は… 「しっかしこの強風…立っているのがやっとだよ…!」 「俺はどうって事ないぞ!」 マリノは思うように動けない一方マッシモは余裕で踏みとどまりベルセルクチャージやサブウェポンで応戦する。 そしてマッシモの背後は風の影響を受けない事を悟ったマリノがマッシモの背後に立ちそこから武器を投擲し更にフーディーンに追撃を加える。 「ビュオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」 フーディーンは怒気を含めた声を放つと今度は体を回転させ自身を中心に巨大な竜巻を発生させた。 その風力は腕からの暴風のそれの比ではなく、大木やら瓦礫やらが激しく飛び交い始める。 「それがどうした!!」ブンッ! マッシモは飛んできた瓦礫を受け止め、それを勢いよくフーディーンに投げつけた。 ガンッ!! 「ビュオッ!?」 マッシモの投げた瓦礫がフーディーンに直撃し、大ダメージを与えると共に竜巻の発生が止まった。 「ゴロゴロゴロゴロゴロ…」 するとフーディーンの額の溝の部分から声がした。 よく見るとフーディーン&ライディーンの顔は上から見ても下から見ても顔に見える形状であり、 声を発したのはライディーンの口、という事になる。 「ビュオオオォ…」 フーディーンはこの声に対し残念そうな、気分が萎えたような声で応じる。 するとその時。 グルン!ジャキジャキッ!バタン!ガシャッ! フーディーン&ライディーンは上下反転し、アーチ状のパーツを折りたたみ、針状のパーツを伸ばし、 ファンを付けた腕をしまい、発電機を付けた腕を生やし、内蔵していたビットを外部に出して自身の周囲を囲い 怒り顔の雷を操る形態「ライディーン」へと変形した。 「ゴロゴロゴロゴロゴロ!!」 ビシャアア!!!!! ライディーンは下部の針から落雷を発生させ、落ちた雷は地上に到達すると広範囲に拡散する。 「ぐおっ!?」 そしてその雷を喰らったマッシモは大ダメージを負い動きを封じられる。 マッシモは属性攻撃に弱い為ライディーンには相性が悪いと言える。 一方マリノは… 「風が止んだから自由に動けるね…ここからが本番、マリノスタンプ!!」 マリノはライディーンの腕と針からの雷撃を尽くかわしては反撃し、ダメージを与えていく。 「さっきはよくもやってくれたなあ!喰らえ!!」 この間に復活したマッシモもライディーンに追撃を加える。 すると… 「ビュオオオオオ!!」 フーディーンの口が怒気を含めた声を放ちライディーンは再度フーディーンに変形する。 「ゴロゴロゴロッ!!」 これに対しフーディーンはまたしてもラーディーンに変形。 「ビュオーッ!!ビュオビュオーッ!!!」 フーディーンが怒りくるった声を出すとまたまたライディーンがフーディーンに変形する。 こうしたやり取りが何度も繰り返される。 「な、何だ!?」「どうしたんだい!?」 各形態に対応した戦い方で応戦しようとしていたマッシモとマリノはこれに困惑する。 そんな中遂に… 「ビュオオッ!!」バキッ!! フーディーンがライディーンの顔、もとい自身の顔を殴打したのだ。 「ゴロゴロッ!!!」ドカッ! ライディーンもフーディーンに殴り返すが殴るのは結局自身の顔。 「ビュオッ!」「ゴロッ」「ビュオッ!」「ゴロッ!」 ドカッ!!バキッ!!ドグシャッ!! 「「ビュゴロッ!!!」」 とうとうフーディーン&ライディーンは凹みだらけになって落下していき、そのまま機能停止した。 「…自滅した…」 「そう言えば聞いたことがあるけど大昔に2つの頭の仲の悪い双頭のロボットがいたらしいよ。 こいつといいそのロボットといい不便な体だよ、全く」 「仲間割れするようじゃ俺達は倒せんぞ!!」 マッシモとマリノは呆れ果てるばかりだった… 一方研究所最深部にて… 「油断してはならんグワ、今の奴は恐らく5モンスター、次に8エージェントが来るグワ…!」 「もしもの時は…私も行きますから!」 モニターでガウディルとシナモンが警戒しつつマッシモ達がいる地点を見張る。 そんな時だった。 ガガガガガガガガ…シュバッ!!!! 突如として研究室の床に穴が開き始め、中から何かが勢いよく飛び出した。 その正体は黄色いボディのどこかのんびりとした目つきのハリモグラ型レプリロイドだった。 「8エージェントグワか!?まさか地中から来るとは…」 ガウディルが問うとハリモグラ型レプリロイドは名乗り始める。 「如何にもー。オイラは轟雷軍団侵攻隊長のー、デンジャック・エレキドナーだよー。 5モンスターのフーディーン&ライディーンは空からー、そしてオイラは地中からー… 陸軍と空軍の同時攻撃を電撃作戦って言うけどねー、オイラ達は雷を操るからー、 これが本当のー、電-撃ー作ー戦ー!」 「お前達にフォースメタルジェネレーターは…シナモンは渡さないグワ!」 「私の力は…こんな事に使う為にあるものじゃありませんから…!」 ガウディルとシナモンが身構えるも… 「君達の意志は関係ないからー、これはイレギュラー撲滅のための任務だから―、 エレクトリックサイキックー」 そう言うとエレキドナーの背中の針が発光した。 すると… 「何だグワ!!体が勝手に動くグワ―ッ!!」 何とガウディルがシナモンに襲い掛かった。 「博士、やめてください、博士ーっ!!」 シナモンは必死に嘆願するもガウディルの暴走(?)は止まらない。 「やめて欲しかったらオイラ達に従いなよー、本当の平和が待ってるよー」 間延びした声で、しかし得意気にエレキドナーはシナモンに言い放つ。 しかしその時… 「無事か!?…これは…」 エックスとゼロが研究室に辿り着き、現状を把握した。 「エックスとゼロだねー、オイラは8エージェントのエレキドナーだよー」 エックスとゼロに気付いたエレキドナーは2人に向き直る。 一方ガウディルは動きを止め、宙に浮かんだ状態となった。 レプリロイドを操るのには集中力が要るらしく、エックスとゼロを前にしたエレキドナーは一旦ガウディルを操るのを止めざるを得なかったようだ。 「な、何だグワ!降ろせ、降ろすグワ~ッ!!」 「博士を自由にするんだ!!」 エックスがエレキドナーに怒鳴るが彼はそれを無視してエックスを煽る。 「この戦いはねー、言ってしまえば君の所為で始まっちゃったようなものなんだよー。 最初からプロジェクトエルピスが実施されてたらこんな事にはならなかったし 君も今頃悩んでいなかったのにさー、馬鹿だねー、本当馬鹿だよー」 これにエックスは反論。 「馬鹿はお前達の組織の方だ!! ヘルシャフトの事は聞いている…奴は正式に決まった事が気に入らないから力づくで暴れているだけじゃないか! プロジェクト凍結の時議会で暴れたみたいに! そんな事はイレギュラーはもちろん歴史上人間が犯した過ちと何ら変わりはない! お前達のやり方で平和が訪れると思ったら大間違いだ!!」 「オイラもねー、最初は人間に逆らおうとしたんだよー、君が今まで倒したイレギュラーみたいにさー。 でもサイバーエルフはそんなオイラを正してくれたんだよー。 人間に逆らうなんて馬鹿な事を考えないようにさー」 尚も煽るエレキドナーに対しエックスは苦渋の表情で言い返す。 「確かに…人間に危害を加えるのは良くない事だ…しかしそう思うレプリロイドにもそれなりの事情がある場合もあるのもまた事実… それを無視してレプリロイドを纏めて操るだなんて横暴にも程がある!! プロジェクトエルピスはただでさえ馬鹿げた計画だがこんな形で実現させるなんて尚更許されない!!」 「熱くなることはない、どうせ奴には何を言っても無駄だ…行くぜ!」 ゼロがエックスを諭すと2人は身構える。 「やってみなよー」 エレキドナーは背中の針をしまい自身が掘った穴に飛び込んだ。 と同時にガウディルはコントロールが解け、落下した。 「痛たた…とんだ目に遭ったグワ…」 その時レイヤーから再度通信が。 「敵の磁力を使った能力は精密性と集中力を要するようです。ですので強い衝撃を与えるのが有効です」 それを聞いた直後エレキドナーが開けた穴とは別の箇所の床が徐々に亀裂が入っていき、 そこからエレキドナーが飛び出した。 「ならば…大列槌!!」 ゼロはTブレイカーからのラーニング技、大烈槌をエレキドナーに喰らわせようとする。 「甘いねー」 しかしエレキドナーは回避し、別の穴を新たに開けて床から現れる。 それをゼロが再度叩こうとするも… 「どこ狙ってんのー?」 またもやエレキドナーは回避し別の穴から顔を出す。 この光景はまるでモグラ叩きだがやっている本人たちは至って大真面目である。 「ええい、埒が明かない!!」 遂にはゼロはエレキドナーを追って穴に飛び込んだ。 「ゼロ!」 エックスもそれに続く。 「博士、私も行きます、敵の狙いは私だから引き付ける事が出来るかもしれませんので」 「ああ、くれぐれも無茶はしないグワよ」 シナモンも出撃していく。 穴の中は広大な空間が広がっており、所々にエレキドナーが開けたと思われる穴が開いている。 「地中はオイラの絶対領域だよー」 そう言いつつエレキドナーは天井や床、壁から現れては爪をドリルのように回転させる「モールトルネイダー」をエックス達に見舞おうとしていく。 地中を泳ぐように掘り進むことが出来るこの技の掘削力は凄まじく掠っただけでも大ダメージを喰らってしまう。 もっとも、大抵のレプリロイドの場合掠っただけで粉みじんになるのだが。 エックスとゼロがこの技を喰らう度シナモンがエンジェリックエイドを発動するのだが シナモンのWEが尽きてくる事態も発生し始める。 またエレキドナーが掘った空間には様々な仕掛けがあり、坂から転がってくる大岩、突如襲い来る鉄砲水、 穴を飛び越えようとしたら勢いよく穴から飛び出すメカニロイド、踏んだら崩れる足場…等々 エックス、ゼロ、シナモンはそれらへの対処にも追われる。 「これだけ広範囲を掘っているという事は攻撃範囲の広い技はまずいな、ここは攻撃範囲の狭い技で行くぞ!」 「おお!」 あちこちを無茶苦茶に掘り返されているという事を察知したエックスとゼロは敵が神出鬼没であるにも関わらず 攻撃範囲の狭い技に頼る事を決意する。 「俺の場合は…これだ!エイミングレーザー!!」「ぐわー」 エックスはエレキドナーが出てくる前にロックオンし出てきた瞬間にエイミングレーザーを喰らわせる。 「なら俺は…獄門槌!!」「ああー」 ゼロはTブレイカーで放つ獄門剣、即ち獄門槌でエレキドナーにカウンター攻撃を喰らわせる。 「そぉーれ!そぉーれ!」 シナモンの注射器を飛ばす新たな技「インジェクション」の狙いも正確そのものだ。 「こうなったらー、まとめて潰してあげるよー、ジャンキーバウンディング―!!」 エレキドナーは再度生やした背中の針からの磁力でスクラップを引き寄せ巨大な球体と化して跳ね回る。 「それがどうした!」ドガァァン!!!!! ゼロがこれをあっさりと持ち上げ壁に勢いよく叩きつけた。「のわー」 球体の内部で強烈な振動が伝わったエレキドナーは磁力を解除し球体を構成するスクラップはバラバラと崩れ落ちる。 「ええーい、こうなったらー」 再度エレキドナーは地中に潜る。 「また潜ったな…どこからでも来い!」 エックスがエイミングレーザーで狙いを定め、攻撃を繰り出そうとするも穴から出てきたのはメカニロイドの残骸だった。 「引っかかったねー」 そしてエックスの足元にエレキドナーが上半身を出し、モールトルネイダーを見舞う。 「ぐあああ!!!!」 瞬時に離脱するもののエックスは大ダメージを受ける。 「獄門槌!!」 ゼロがカウンター技で応じようとするもののまたしても穴から出てきたのはダミーのスクラップ。 「外れだよー」「何っ!?」 背後から現れたエレキドナーがゼロに攻撃をくらわしてはまた潜る。 そしてそれ以降も天井、壁、床のあちこちの穴からエレキドナー本体、もしくはダミーのスクラップが代わる代わる飛び出し3人を翻弄させ続ける。 しかしエックス達もフェイントを仕掛け始め戦いは次第に手の探り合いに移行していく。 そんなある時。 エックスが穴から出てきたスクラップに反応した際、その背後からエレキドナーが出現し、 その背中にモールトルネイダーの直撃を見舞う。 「背後取ったよー」 しかしエレキドナーが爪を回転させるその瞬間、エレキドナーの眼前の「エックス」は消滅した。 「何ー?」 「それはこっちの台詞だ、チャージコレダー!!!」 ドガがガガガガガガガガ!!!!!!!!! エレキドナーの背後にXファイアを発動したエックスが現れ、チャージコレダーを炸裂させた。 先程エレキドナーが攻撃したエックスはソウルボディのチャージ攻撃で発生した分身だったのだ。 「お前が穴に潜って俺から目を離した隙を突かせてもらった」 エックスが言い放つ。 エレキドナーには最早戦う力は残っておらず、最後の力を振り絞って捨て台詞を吐き始める。 「オイラはこれまでだけどさー…君がいくら綺麗事並べようとしてもねー…、『イレギュラー』はいなくならないよー… 君の戦いは所詮『モグラ叩き』…穴から出たモグラを叩いてもねー、別のモグラが顔を出すだけなんだよー… それを終わらせるのが…プロ…ジェクト…エル…ピス…」 言い終わる前にエレキドナーは力尽き、機能停止した。 「それでも俺は…この道を信じる…!」 エレキドナーの最期の煽りにも、エックスの決意は揺るがなかった。 「エックスさん…私も諦めませんから…」 シナモンが賛同する。 「(畜生…消えたくない…消えたくない…この体は…元々俺の物なのによぉ…!)」 「(またこの声か…この声が聞こえるようになったのはゲリールをダウンロードしてから… そしてこの声は俺の声にも似ている…という事は…段々正体が掴めて来たぞ…!)」 ゼロは己の内なる声の正体に気付きつつあった… その頃メタシャングリラ本拠地では… 「フン、一時の勝利に酔いしれているがいい、こちらにはまだまだ奥の手があるのだからな…!」 各地に放った迎撃部隊が尽く撃破された事を聞いたヘルシャフトは不機嫌ながらも平静を保っていた。 「しかしこれだけの少人数で我々の軍団を相手取るという事は味方に付ければ大戦力になりますぞ」 Dr.Vが進言する。 「彼等を支配下に置けば我々のカリスマもより絶大になりますからねぇ、私も是非とも彼等が欲しいですよ」 フィースィーがそれに賛同する。 「その時は我々に損させた分働いてもらいまっせー。この強さだと釣りが来るがな」 プーパーもそれに続く。 「シャッテン、後は手筈通りに」「ハッ!」 タードがシャッテンに指示を出す。 そしてメタシャングリラ切っての暗殺集団、虚無軍団が動き始めるのであった…

第七話「襲来!サメ台風」

「ぐぬぬ…何故だ…何故我々連邦政府の評判が回復するどころか…より一層悪化しているのだ…!!」 連邦政府本部にて、ファートは頭を抱え顔を苦悶の表情に歪めていた。 何でも先の戦いにおいて点数稼ぎの為にファナティカのテロ組織のメンバーを皆殺しにした事が完全に裏目に出てしまったのだ。 世論はこの事を「暴力的かつ短絡的」「人種差別で宗教差別」「ろくに調べもせず無辜の民を殺した非人道的極まりない行為」等と評しひたすら連邦政府を叩き続けている。 無論これは裏でタードが暗躍している事は言うまでもない。 彼は今も複数のモニターを眼前にほくそ笑んでいる。 「何とかしなければ…それには…何としてでも奴等を…メタシャングリラをどうにかせねば…!」 精神的に追い詰められ焦り始めるファート。 そんな彼に刺客が差し迫っている事はこの時誰も気付いていなかった… 一方海洋情報都市アクアポリスでは… アクアポリスとは、海に瀕した膨大な情報が飛び交う大都市である。 その情報量に加えレプリロイドの権利がある程度保証されている性質からメタシャングリラは侵攻の標的に選んだのだ。 ゴオオオオオオオオオオオオオーッ!! 「な、何だ、台風か!?天気予報には無かったぞ!?」 「この街の情報に誤りなど…有り得るのか!?」 シティアーベルやガウディル研究所の如く突如天気が崩れ出し、街を暴風が襲い始める。 不安に思った住民達が暴風の発生した方角を見遣ると海上に幾つもの竜巻が発生していた。 よく見ると竜巻の発生源は浮遊型のメカニロイドであり、明らかに人工的に作られたものである。 しかもそれらは移動して都市部に迫ってきているのだ。 このタイミングからして誰もがメタシャングリラの侵攻を悟った。 そんな時だった。 「な、何だ…竜巻が…何かを…巻き上げているぞ…!!」 メカニロイド達の生み出す竜巻はいずれも何か巨大な、しかもおびただしい数の物体を巻き上げ始めたのだ。 やがて竜巻が都市部に到達した時、住民達はあまりにおぞましい事態を目にする。 「サ、サメだぁー!!竜巻が大漁のサメを連れてきたぞぉーっ!!」 「そ、そんなアホな話があるかぁ~っ!!!!!!!」 ヒュゴォォォォォォォ~…ヒューン!ヒューン!ヒューン! メカニロイドの放つ竜巻は無数の「サメ」を撒き散らす。 「キシャアアアアアアアーッ!!!」 「ギャー!!このサメ、良く見るとメカニロイドじゃねーかーっ!!!」 都市部に竜巻に乗って襲来したサメは実はメカニロイドで、壁や地面に激突しても平気で 跳ね回ったり周囲の物に噛みついたり口からレーザーを放っては暴れまわる。 「畜生、1体1体が強いし…風も強ぇ…しかも後から後から来やがる…もうお手上げだぁあああああああーッ!!!!!!!!!!!」 現地のレプリロイド達はただただ翻弄され、程なくしてS級ハンターの3名が出撃してきた。 ファナティカ、ギガンティス島と異なり3名が出撃したのはとある理由がある。 「奴等は…アクアポリスの図書館の情報を狙っているに違いない…! その図書館にはプロジェクトエルピスに関する重要なデータが記録されたサーバーがあるのだ。 それらの情報が奪われたら終わりだ!何としても情報を死守するのだ…!頼む!頼む…!!」 出撃前、ファートが必死になってハンターに指令を出したのだ。 街を守るばかりか図書館の情報を守る任務まで追加され、結果として3人が駆り出される流れになった。 ちなみに今回出撃したのはエックス、トラスト、フラジールである。 「お待ちしておりました、ハンター御一行様!さあ、悪しきメタシャングリラを倒して我々レプリロイドに明るい未来を…!明るい未来をーっ!!」 「あ、ああ、ここは後は我々が引き受けた!」 メカニロイド達と戦っていたレプリロイドの内、サーベルを手にした金髪で長髪、端正な顔立ちのレプリロイドが鬼気迫る様子かつオーバーリアクションでエックスに懇願し、エックスは若干引きながらも彼に応じる。 このレプリロイドの上記の特徴だけ聞くとゼロを連想する者も多いかもしれないが彼の放つ雰囲気はどちらかと言うとブリッツのそれに近い。 彼は本来名は無く、TK31という型番が与えられているだけだったがプロジェクトエルピスの話題が巷で駆け巡った事に因んで自らをエルピスと名付けている。 そして現場の様子を一瞥したトラストは、何かに気付く。 「さっき図書館の座標を送ってもらったッスけど、逃げまどう人々に紛れてそこに向かっていく怪しい集団がいるッスね…」 「ああ、良く見ると竜巻もサメ型メカニロイドも奴等の侵攻ルートは確保しているぞ」 エックスも気付いたように竜巻発生メカニロイドもサメ型メカニロイドも一見滅茶苦茶に暴れているように見えて その実敵兵…メタシャングリラ虚無軍団迎撃隊が図書館に向かう道は上手く避けている。 「…させない…」 フラジールの刃が光る。 その時パレットから通信が。 「解析結果が出ました!メカニロイド達は港に停泊している船からの信号でコントロールされてます! その船は一般の船に紛れてるんですが…一番おっきな船ですよ!!」 これを聞いた3人は… 「俺が嵐の元を断つ!トラスト、フラジール…図書館を頼んだぞ!」 「押忍!」「…了解…」 トラストとフラジールは重要拠点の侵攻阻止や奪還の成功の実績が多々あり、 エックスは街の被害のこれ以上の拡大を一刻も早く食い止めねばと一人敵艦に向かった。 図書館へと向かったトラストとフラジールは早くもそこに向かう敵部隊の最後尾に追いついた。 「そこまでッス!盗塁は許さないっスよ!!」 「…チッ、もう嗅ぎつけてきやがったか…」 トラストの声に後続の虚無軍団の兵士レプリロイドの一部が二人の方に向き直り、戦闘態勢となる。 彼等は天狗や狐などの面を着けており、イカから棒が生えたような…即ち縁日で売られている「イカ焼き」のような奇妙な刀を携えていた。 トラスト達と対峙したのは彼等全体の内後衛を担うほんの一部で大部分は任務優先とばかりに図書館へと向かっていく。 「ククククク…斬った相手の命を喰らうこの妖刀、『イカットール』の餌食にしてくれるわ!」 「お祭り気分ッスか?だったらこっちもド派手にぶちかましてやるっスよ!」 「…邪魔…」 挑みかかるイカットールを手にした虚無軍団兵士をトラストとフラジールが迎え撃つ。 ドゴォ!! 「あぁ~れぇ~~~~~~~~…」 トラストのフルスイングを喰らった虚無軍団兵士達が打ち上げ花火の如く上空に消えていく。 ザシュザシュザシュザシュザシュ! 「む、無念だ…」 刃を手にしたフラジールによって虚無軍団兵士達がイカットールごと切り身の如く刻まれていく。 この場の虚無軍団兵士を一掃した二人は再度図書館に向かいその先でまた虚無軍団の部隊の最後尾に追いつく。 するとまたもや彼等の中の一部が二人を迎え撃ち、他は図書館に向かっていった… 一方エックスは敵の船を確認し、乗り込んだ。 すると図書館に向かう兵士と同じタイプのレプリロイド達がエックスを迎え撃つがエックスはこれを難なく撃破。 管制室を制圧しても信号が止まらない事を不審に思うエックスだったが程なくして隠し扉を発見。 扉の先を進んでしばらくするとエックスは強大極まりない反応を察知。 「この先に信号の発生源が…」 警戒心を保ちつつ反応の発生源を目指すエックスはやがてこの船内の大部分を占めるかのような広大な部屋に到達した。 部屋の中は核シェルターのように如何なる衝撃にも耐えられそうな天井、壁、床で構成されていた。 その中央の床に、1つの水瓶が鎮座していた。 水瓶にはメタシャングリラのマークがある。 「これ以上の破壊は…させないぞ!はぁっ!!」 エックスは水瓶に向かってプラズマチャージショットを放つが水瓶は微動だにしなかった。 「ブクククククク…」 そして水瓶の中から不気味な声が響き渡る。 その直後水瓶は小刻みに振動し、中から水色がかった半透明の半ば固形化したような流体が出現し何かの形に変形していく。 流体がとても水瓶に入り切るように見えない程巨大で丸い形の両側面から腕を生やしたような形状になると水瓶の中から球状の物体が出現し、流体の中央部で留まった。 球状の物体はその正面にある1つしかない大きな目を見開いた。 最終的に水瓶から上半身のみを出す単眼の巨人のような姿になったのだ。 虚無軍団の所有するメタシャングリラ最後の5モンスター、ウォーターデビルである。 「こいつが…嵐を…!」 ウォーターデビルを前にしたエックスは思わず顔をしかめる。 街を破壊した事への怒りやユーラシア事件の時のシャドーデビルを思い出した事もあるが、 何か言葉では言い表せない因縁、宿命、既視感を強く覚えた為である。 「ブククククブクブクブク…ブクークククククク…ブクゥーッ!!!!!!!」 そんなエックスを挑発するような態度を取った後、ウォーターデビルは早速体を分裂させた。 ウォーターデビルの胴体を構成する物質の1つ1つがサメの形になり、部屋中をぐるぐると飛び交い始めた。 これに対しエックスは高い位置を飛ぶ断片は無視し、低い所に飛んできた断片をジャンプやしゃがみ、ダッシュで回避しながら反撃する。 そしてウォーターデビルは再度合体。 「ブーーーーーークーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」 ビシャアアアアアアアーーーー!! ウォーターデビルは目からレーザーの如く強烈な水流を放ちエックスを追うように水流の方向を動かしていくがエックスは移動しながら反撃していく。 続いてウォーターデビルは水瓶の中にボディを押し込めた。 「ブクブクブクブクブクブクブクブクブク!!!!!」 ガン!ゴン!!ガコココココ!!!! その状態でウォーターデビルは部屋中を跳ね回り、核シェルターの如く頑丈な部屋がウォーターデビルの衝突の度に振動する。 しかしそれにも動じずエックスは冷静に軌道を見極め全て回避する。 「ブゥー…ク!!」 ドゴ!!!! 再度水瓶から出てきたウォーターデビルは次に強烈な拳をエックスに見舞う。 「くっ…!!」 エックスは咄嗟に腕をクロスしてガードし、バックステップで衝撃を軽減させ吹っ飛びかけたものの何とか踏ん張る。 「(これは直撃するわけにはいかないな…)」 エックスがそう思った時… ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン… ウォーターデビルは分裂するとその断片は全てエックス目がけて飛来しエックスを中に取り込んだ状態で合体する。 「む…ぐ…」 「ブークックックックック!!! ブークックックックック!!!」 拘束した上にエックスを締め付け、圧死させようとするウォーターデビルだったが… 「トライアードサンダー!」 バリバリバリバリバリ!!!!!!!! 「ブクククククククク!!!!!!!!」 エックスはウォーターデビルの内部でトライアードサンダーを発動、結果として膨大な電流がウォーターデビルの全身を駆け巡りコアである目玉もショートする。 そしてしばらくするとウォーターデビルのボディは形状を維持できなくなり液体と化して床に広がり、 目玉は煙を吹いて沈黙した。 「思った通りだ…」 エックスは船を後にする。 船の外では… 「メカニロイド達が停止していくぞ!」「ハンターの方がやってくれたのか!?」 ウォーターデビル撃破に伴いサメ型メカニロイドも竜巻発生メカニロイドも動きを停止した。 「(流石は伝説のハンター…私にも…これだけの力があれば…)」 TK31…もといエルピスはこの時エックスに羨望の念を内心抱いていた… 一方市街地にて… トラストとフラジールは図書館に向かう虚無軍団兵士達の追跡並びに戦闘を繰り返していた。 「何か、最初に戦った敵に比べて手応えが無いッスね…」 後衛の敵部隊を一掃した2人は次に中衛の敵部隊を相手取る事になるが、彼等は前衛の敵兵よりも弱かった。 「…きっと、また強いのが来る…」 「良くある打線ッスね」 フラジールは前衛の敵兵は彼等より強いと予測し、トラストは納得する。 中衛の敵兵も一掃したトラストとフラジールは人工島の上にある図書館へと繋がる橋を渡る虚無軍団の部隊の最後尾、即ち前衛の敵部隊に追いつき彼等との戦闘を繰り広げる。 フラジールの予測通り前衛の敵部隊は中衛のそれよりも強力で後衛とほぼ互角だった。 それ故に2人にとっては敵ではない。 ついに虚無軍団の部隊は図書館に突入し、トラストとフラジールもそれに続く。 激戦の末エレベーターの前にてトラストが1体の虚無軍団兵士に止めを刺した時だった。 「へ…へへ…お前らは…もう…手遅れだ…うちの隊長を…通しちまったんだからな…これで…データは…頂き…だぜ…」 そう言い残して虚無軍団兵士は力尽きた。 エレベーターを降りるとその先には胴体を真っ二つにされ苦悶の表情のまま息絶えた警備レプリロイドの死体が何体も散乱していた。 「この先に…敵チームのキャプテンが…」 トラストは息を呑む。 そして2人がガラス張りで海中が見える海中トンネルに辿り着くと遠くから派手な銃声が聞こえる。 そこでは警備レプリロイド達が重火器で侵入者と戦闘を展開していたが、明らかに劣勢だ。 「うおおおおおおお!!!絶対に…絶対に通してなるものか!!!!」 「ここだけは…死守せねばならんのだ…!!」 「クソ、また1人やられた…!!」 「侵入者」は頭部の鋸やボディの各所のヒレ状のパーツからノコギリザメを連想させる姿をしていたが 厳密には手足が2本ずつあり直立二足歩行をしているので「ノコギリザメ人間」とも呼ぶべき外観である。 これは過去の大戦で現れた魚モチーフのイレギュラー達にも言える事ではあるが。 警備レプリロイドは重装備で「侵入者」を迎え撃つも全く歯が立たず1人、また1人とボディを両断されていく。 ちなみにトンネルを構成するガラスは深海の水圧に耐える為、そして中での戦闘行為に耐える為非常に頑丈にできておりこれまでの戦いではかすり傷1つついていない。 「やめろぉーっ!!!!!!!!」「!?」 トラストの全力の投球を察知した「侵入者」は何とかボールをキャッチ。 そしてそのまま警備レプリロイド達と「侵入者」を遠ざけようと奮闘する。 「…逃げて…」 「…!ハンターの方ですね…!後は頼みました!」 フラジールの言葉に従い生き残った警備レプリロイド達は退却していく。 「8エージェントッスね…!?」 トラストが問いかけると「侵入者」はそれに応じる。 「ああ、俺は虚無軍団侵攻隊長、ギルソー・ナヴァラーク!!ここまで来たことは褒めてやるけどよ、 人間に逆らうかもしれねぇ下等なレプリロイド共を一掃するプロジェクトエルピス遂行の邪魔はさせねぇよ!!」 これにトラストは意義を唱える。 「確かにレプリロイドは機械ッスけど…只の機械では無いッス!! この胸に宿る魂は紛れもなく本物!皆それぞれの想いが…信念があって…それを人間に対して高等だとか下等だとかは無いッス…!!!!」 これにナヴァラークは嘲笑して応える。 「シャハハハハハ…まるであのエックスみてぇな綺麗事じゃねぇか…さてはテメーエックスに染まってるな? 思えばエックスも馬鹿な事をしたもんだぜ、あのままプロジェクトエルピスを遂行させてたらこの戦いも起こらなかったし 自分が嫌う下等なイレギュラーも綺麗さっぱりいなくなってたのによぉ かくいう俺もそうだったんだぜ?当初は力の無い人間を下等だとか思ってたからなぁ それが甘ったれた理想を押し付けプロジェクトエルピスを凍結に追い込み今回の事態になってるんだからなぁ もう愚直っつーか今やエックスこそが最も下等な存在だぜ!!」 トラストは激昂する。 「エックス先輩を馬鹿にするのは許さないッスよ!! あの人は何度心折れそうになってもそれでも自分の信念の元に戦い続けて来たッス!! それは仲間や自分達後輩、時には敵にも響いてきているんス! だから…けっしてエックス先輩の戦いも考えも無意味では無いッスーッ!!!!!!!」 そんな彼の肩をフラジールがポンと叩き一言発する。 「…言うだけ無駄…」 これにナヴァラークも賛同。 「ああ、お喋りでは何も解決しねぇぜ!?かかってこいや!!」 「全力で行くッスよ!!!」 トラストはバットを向け、フラジールも臨戦態勢に入る。 「ヘッドスライサー!!」 最初にナヴァラークはトラストの近く目がけて跳躍し、着地と同時に鼻に付いているチェンソーのような鋸で斬りかかろうとする。 「うお!?」 これをトラストはバットでガード。 ギャリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!!!! トラストのバットは頑丈で中々切れず金属音が辺りに響き渡る。 そんな中フラジールがナヴァラークの側頭部に飛び蹴りを見舞おうとするも彼の開いた手でガードされる。 「!?」 しかしフラジールの足の刃で手にダメージを受けたナヴァラークは一瞬怯む。 「そこッス!!」 カキーン!!! トラストはすかさずバットを振るいナヴァラークを吹っ飛ばす。 シュタッ! 腹を押さえて着地するとナヴァラークはゆっくりと立ち上がる。 「やるじゃねぇか、だけどよ、陸は本来の俺の戦場じゃ…ねーんだよ!!」 そう言ってナヴァラークは背後のトンネルのガラスに自慢の鋸でいとも容易く斬り、大きな円形の穴を開けてしまう。 ドボボボボボボボ!!!! トンネル内に水が浸水すると同時にナヴァラークは自身のボディの形態を変形させる。 シャコッ!ジャキッ!グルンッ!! 腕が畳まれ右ひざからヒレ状のパーツが立ち上がり両脚を閉じた状態で下半身を回転させ ナヴァラークはこれまでの姿とは打って変わってノコギリザメそのもののような形状になったのだ。 「シャハハハハハハハ!!この姿は水中戦用形態『シャークフォーム』! この姿になった俺は正に水を得た魚!!もうテメー等に勝ち目はねぇよ!!!」 よりモチーフに近い姿になったナヴァラークは嘲笑を響かせると超高速で泳ぎ姿を消してしまう。 「くっ…見失ったッス…!」 「チェンソーダイブ!!」 トラストが警戒していると遥か彼方からナヴァラークが突っ込んできてトンネルを突き破ってトラストを刻みにかかる。 この際ナヴァラークは腕のみ従来の形状に戻してトラストを押さえながら斬ろうとするが… 「放せ!放すッス!!」 振りほどかれてバットのフルスイングを喰らう。 「チィッ!」 ナヴァラークは退避すると再び彼方へと消えていく。 その後も何度かミサイルのように上下左右、縦横無尽に様々な方向からナヴァラークが突っ込んできて 二人はその都度回避、反撃をするが 今度はフラジールがナヴァラークに噛みつかれた。 ナヴァラークはモチーフの通り顎と歯も強靭なのである。 しかし… 「…放して…」 フラジールのスリットエッジを喰らいまたもや退避する。 「チィッ…俺にライノサイルやシダージュみてぇな馬鹿力があればすぐに勝負はついたのによぉ… いや、徐々に徐々に追い詰めて消耗させるのも悪くねぇなぁ…!!」 そう言ってナヴァラークは突撃と退避を繰り返す。 この間トンネルはトラスト、フラジール、そしてナヴァラークの攻撃の応酬に耐えられず崩落してしまった。 ナヴァラークの鋸と噛みつきは2人に確実にダメージを与えてきており、またナヴァラークが鋸で柱を斬り飛ばすこともありその攻撃も十分強烈だった。 そんなある時… 「ヘッドスライサー!!」 「ぐあああああああああ!!!!!!!」 ナヴァラークの鋸がトラストのボディを深く刻みその影響でトラストは意識を手放した。 これまでの戦いの傷もあり見た者は紛れもなく死体と認識する程酷いダメージだった。 その時… 「ぬおっ!!」 チャージされたスリットエッジがナヴァラークのボディに当たり大ダメージを与えた。 ナヴァラークは退避する。 そしてフラジールはナース系エルフをトラストに使用した。 するとトラストのダメージは全快した。 「…ハッ!!」 トラストが目を覚ますと若干悲し気な表情を浮かべたフラジールが一言。 「…仕方が無かった…」 「有難う…そして申し訳ないッス!サイバーエルフの為にも必ず勝つっスよ!!」 この言葉の意味を察したトラストは悲しみを覚えつつも改めて奮起する。 「ええいしぶとい奴等め、これならどうだ!!」 ナヴァラークは高速で海の中を周回する。 すると大型の渦が生まれて2人を引き寄せようとしてくる。 これにトラストはバットを構えた状態で回転し自身も渦を発生させて抵抗する。 一方フラジールは激流に身を任せ自身の体がナヴァラークの近くに拠るとスリットエッジの連射を見舞う。 「ならば、お前ら、出番だ!!」 次にナヴァラークは海中に待機させていた都市を襲ったものと同じタイプのサメ型メカニロイド達を呼び寄せる。 これにも2人は対処していくがナヴァラークの攻撃はより一層激しさを増していく。 そんな時だった。 ヒューン…ドゴォ!! 「うっ…!」 ナヴァラークが斬り飛ばした柱の一部がフラジールに直撃したのだ。 「今だ、やれ!!」 ガジガジガジガジ… ナヴァラークの命令の元、フラジールの周囲のサメ型メカニロイドが彼女の体中を噛みつき始める。 それは実に痛ましい光景だったがフラジールは全身のダメージに耐えサメ型メカニロイド達を全て撃破する。 しかしその時には既にナヴァラークは彼女のすぐそばにいた。 「シャハハハハハハ!中々楽しめたぜ、止めだ!!!!」 ナヴァラークはフラジールを刻み始める。 「させないッス!!」 トラストがボールを投げ、それはナヴァラークに直撃し結果彼は攻撃の手を止め距離を取る。 しかしフラジールのダメージは先程のトラストと同じぐらい深刻なものだった。 「…こうなったら…」「使わせねぇよ!!!!」「ぐあっ!!」 苦渋の末サイバーエルフを使おうとしたトラストだったがすぐにナヴァラークの鋸で阻まれる。 「テメェ等を二人相手にするのは流石に面倒だ、せっかく一人くたばったチャンスを棒に振れるか…よ!」 ナヴァラークは標的をトラストに変え一気に勝負を付けるべく斬りかかってくる。 そこに一切の隙などなくトラストはサイバーエルフを使う暇なく一方的に追い詰められていく。 「(…ここで…死んだら…フラジールさんを助けられないし…せっかくここを託してくれたエックス先輩を…裏切ってしまう… そして…世界のレプリロイド達の為にも…死んでいったサイバーエルフ達の為にも… 死ぬわけには…行かないッス…!自分は…伊達にS級ハンターやってる訳じゃ…ないッス…!!!!)ビクトリースイング!!!!!」 ドゴォ!!!! 「ぬおおおおお!!!!」 ズタズタの腕から放たれたとは思えないトラストの強烈な一振りでナヴァラークは吹っ飛ばされる。 「まだ…こんな力が…だけどよぉ…根性だけで何でも乗り切れると…思うなあああああああああ!!!!!!!!!!」 ナヴァラークはトラスト目がけて突撃してきたが… 「うおおおおおおおお!!!!!!!トワイライトピッチ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ヒューン…ドガァァァァァァン!!!!!!!! トラストが投げたボールはナヴァラークに当たると…大爆発を起こした。 「何で…テメェが…」 何やら納得できない、といった様子でナヴァラークは事切れた。 「…フラジールさん…!」 勝負の決着を悟ったトラストは悲しみを堪えつつもサイバーエルフを使用するとフラジールは全快した。 「…貴方も…!?」 自身に起こった事を把握したフラジールはトラストに問いかける。 「…仕方が…無かったッス…」 悲しみの表情でトラストは応える。 「…私達は同罪…」 「これに報いる為にもこの戦いは……んん!?」 悲し気に呟くフラジールをトラストが鼓舞しようとした時だった。 トラストは今現在のフラジールの様子に気付く。 何とサイバーエルフが再生させたのは能力が不完全だった為かフラジールのボディのみでアーマーは全く再生させていなかったのだ。 それ故フラジールの肌が所々露わになっている。 「わあっ!!見てないッス!!自分は何も見てないッス!!!」 トラストは慌てて目を背けるが… 「いいよ…」「へ!?」 フラジールは全く嫌がっている様子はない。 「貴方になら…見られてもいい…」 「い、いや、やっぱり無理ッス~ッ!」 しかしトラストはたじたじするのみであった。 「…それにしてもトワイライトピッチにこんな効果があったなんて… ひょっとして自分の根性が奇跡を起こした…というヤツッスかね?」 トラストは海底に転がるボールを見ながら呟く。 するとどこからか声がする。それも聞き覚えのある声が。 「ハハハ、半分正解ズラよ…相変わらずの根性で安心したズラ…」 「…え!?」 トラストが呆気に取られているとボールからオレンジ色の光球が出現し、トラストに近づいてくる。 そして光球は見覚えのある姿に形を変えていき、聞き覚えのある口調と声で言う。 「やあ、また会ったズラね…」 「え?ええ!?えええええ!!!???」 トラストは先程と同じぐらいおったまげる。 その後2人はエックスと合流し、その「光球」も伴って帰投した。 この際3人は苦渋の想いで都市のレプリロイドや図書館の警備レプリロイドにサイバーエルフを使用したが サイバーエルフの数が足りず、しかも損傷の激しすぎるレプリロイドには効果が無かったという… その後しばらくして… 「やれ」「ハッ!」 ファートの命令で事前に館内の人々を避難させた後図書館は爆破され水没した。 「あんなものがある限り危険なのには変わりない…価値ある情報だったが仕方が無かったのだ… 私は間違っていない私は間違っていない私は間違っていない…」 ファートは呪詛のように呟く。 これを知ったバイルは… 「ク―クックック、ファートの豚め、やりおったな! これで貴様の政治生命、いや、人生そのものも終わりじゃ!! クヒャーハッハッハッハッハ!!!!!!」 誰もいない所で1人歓喜する。 実際にファートのすぐ近くにメタシャングリラの刺客は身を潜めているのであった…

第八話「救済」

ナヴァラークとの戦いの終盤で突如現れたオレンジ色の光球。 「それ」はかつてアクセルとトラストに倒された8エージェント、カピラーバの、 厳密にはそれがサイバーエルフ風にアレンジされた姿に変わるとトラストに語りかけ、彼を驚かせた。 その後トラストはアイテムカプセルに「それ」を収納し、エックスとフラジールと共に帰投した。 ハンターベースにて… 「おらは元8エージェントのバクハード・カピラーバ…今はこの通りサイバーエルフに生まれ変わったズラよ」 ハンター達の取り調べにサイバーエルフ…もといカピラーバが応じる。 「レプリロイドがサイバーエルフに!?そんな事ってあんの!?」 「何で自分に手助けしたんスか!?」 彼と直接戦ったアクセルとトラストがそれぞれ尋ねる。 「おらのボディは確かに滅びたズラが…ある人のおかげでサイバーエルフにしてもらったズラ。 そこのトラストを助けたのはメタシャングリラの呪縛から解放してくれた恩に報いる為… そして未だに同じ呪縛を受けていたナヴァラークを止める為だったズラ」 「正気に…戻ったんだな…?」 確認をするエックス。 「その通りズラ。クレーネルとエレキドナーも既にサイバーエルフになっているズラ。 勿論洗脳も解けているズラよ」 「…クレーネルも…」 フラジールが頷く。 「(ぐあああああああああああ!!!!!)(うるさい、黙れ!)それで、『ある人』とかいうのは、誰なんだ?」 「内なる声」を内心で払いのけながらゼロが問う。 「その人はレプリロイドのみならずサイバーエルフの為にも日々メタシャングリラと戦っている新勢力の指導者ズラ…」 カピラーバはハンター達に自分達の恩人で、かつ今のリーダーである人物について語り始めた… その頃政府軍最前線基地にて… ファートが壇上で大勢のレプリロイド達を前にこれから行う作戦の説明をしていた。 レプリロイド達の中には政府軍兵士もいれば外部から募ったレプリロイドもいる。 そしてほとんどはエックスやその強化アーマーと酷似したアーマーを装備していた。 それらのアーマーは政府軍の科学者レプリロイド、セルヴォがエックスの強化パーツを参考に開発したアーマーで、レプリロイドの攻撃力と防御力を飛躍的に上げることが出来る。 アーマーの性能にはランクがあり、そのランクに相応しいレプリロイドが装備する事を許されている。 アーマーの名はランクの上から順にジークアーマー、ネクスアーマー、フォースアーマー、アサルトアーマー、 ソルジャーアーマー、ハンターアーマー、プロテクトアーマー、プロトアーマー、ノーマルアーマー、見習いアーマーとなっており 人間の服のようにサイズが何種類かあり極端に大型もしくは小型、あるいは特殊な体型のレプリロイドの場合はオーダーメイドの場合もあり、装備できない場合もある。 尚、ジークアーマーはあくまでこの時点での最強のアーマーでありセルヴォはこれを超えるアーマーを日夜研究中である。 一見エックスが大勢いるように見える光景だがメットから覗く顔はそれぞれ違い男性型、女性型、そして見るからに機械といった顔貌まで様々である。 当然体格も様々だが大体は成人男性サイズでそれより多少大柄、または小柄な者がちらほらいるぐらいである。 そんな彼等を前にしてファートはこれから行う作戦を必死の形相で、鬼気迫る様子で説明していた。 「このようにメタシャングリラ本部の上空からありったけの爆弾を投下し、相手が怯んだ隙に諸君らが降下して止めを刺す…これが今回の『裁きの鉄槌作戦』の概要である!何か質問のある者は?」 「はい!」「はい!」「はい!」 ファートの問いかけに応じてレプリロイド達の一部から手が上る。 「…随分気合が入ってるな…では、まず最前列のハンターアーマーの君から聞こうではないか」 ファートに指名されたレプリロイドがそれに応じて彼に問う。 「何故これだけの爆弾が必要なのでありますか!?」 ファートは応える。 「メタシャングリラ本拠地は非常に強力なバリア障壁で覆われている。このバリアを破る為には極めて強烈な衝撃が必要である。 他に質問は!?」 「はい!」「はい!」「はい!」 「えー…では、中央のネクスアーマーの君!」 ファートが更に質問を促すとまたしても何名かのレプリロイドが挙手し、そして彼は先程とは別のレプリロイドを指名。 これに応じてそのレプリロイドが問う。 「爆弾でメタシャングリラ軍を倒せる確証はありますか!?」 ファートは応える。 「4コマンダーともなると正直難しいと思われるが隙を作れる可能性は高い。 それより重要なのはメタシャングリラの主要人物達だ! あらゆる才能とカリスマ性を持つヘルシャフト!メタシャングリラ軍の戦力をここまで強大にした科学力を持つDr.V! 巧みな情報操作力で敵を減らし味方を増やしていくタード!類稀なる商才を持ち戦力の増強に一役買い金の力で各界の大物を誘惑するプーパー! 人心掌握術を駆使して大戦で傷ついた人々の心に漬け込むフィースィー! こ奴等の首を取らない限りは何にも解決はせんのだ!!他には何かあるか!?」 「はい!」「はい!」「はい!」 挙手は未だに止まない。そしてファートは更に別のレプリロイドを指名。 「では…一番奥にいるアサルトアーマーの君!」 レプリロイドは問う。 「メタシャングリラ本部には既に大勢の人間がいます。彼等を巻き込んでしまう恐れがありますがいかがでしょう!?」 これにファートは力説で対応する。 「ヘルシャフト並びに幹部共は既に余裕で死刑になる程の大罪を冒している。 そんな連中に加担する奴等も同罪だ、最早人間と思うな!害獣である!害獣はまとめて駆除するべきなのだ!!他には!!??」 「はい!」「はい!」「はい!」 更に挙手するレプリロイド達に対し、ファートはこれまでと同様また別のレプリロイドを指名。 「前から3列目のジークアーマーの君!」 そしてレプリロイドは問うが… 「もうこの作戦はメタシャングリラにバレている事は承知ですか!?」 「何!?」 ファートを始め辺り全体が戦慄する。 「貴様まさ…か…」 先程の質問をしたレプリロイドのすぐ側にいたレプリロイドが彼を相手に武器を構えるが、言い終わる前に彼に胴体をセイバー系武器「村正」で貫かれ即死した。 「その通り!我々は虚無軍団の『別動隊』!このふざけた作戦を阻止しに来たのだ!!」 政府軍サイドに紛れ込んでいた虚無軍団の兵士レプリロイド達が、その正体を現した。 「ぬぬぬ…流石暗殺・諜報のプロ集団という訳か…!しかしこれはこのアーマーの性能を試すまたとない好機!やれ!!」 「「「「「ハッ!!!」」」」 ファートの号令と共に政府軍側のレプリロイド達と虚無軍団の兵士達の戦闘が展開される。 「どりゃあっ!!」「そこか!!」「やるな…!」「やっぱ俺は見習いだったかああああああああ~!!!!」 「長官殿、ここは一まず安全な所へ!」「うむ…!」 暫しの間両陣営の間で激闘が繰り広げられる中、ファートは付き添いの兵士レプリロイドと共に避難し始める。 一方で戦闘は政府側の方が徐々にではあるが有利になってきた。 ジークアーマー、ネクスアーマーといった上位のアーマーの装着者達が虚無軍団兵士達を撃破し始めてきたのだ。 「もう少し!もう少しだ!!」 勢いに乗る政府側のレプリロイド達だったが… 「た、隊長…敵が…思いの外…強く…我々…だけでは…」 「今行くぞ!」 力尽きようとする虚無軍団兵士が何者かに通信を入れた。 そして暫くすると… パカラッパカラッパカラッパカラッパカラッ… 遠くから馬の足音が聞こえ、それはこちらに近づいてくる。 政府側のレプリロイド達が足音のする方向に振り向くと、そこには銀色のアーマーと緑色の長い髪、 そして伝説に登場するケンタウロスの如く脚が4本あるレプリロイドが現れた。 精悍な容姿だが胸部の形状と声からして女性型である。 彼女は政府側のレプリロイド達に名乗りを上げる。 「私は5ガーディアンが1人にして虚無軍団別動隊長アロー・セント―ラ!我が隊の兵士を退けた力、どれだけのものかとくと見せて貰おうぞ!!」 「隊長のお出ましかい。なら貴様を倒して然る後、作戦を続行するまでよ!かかれ!!」 政府軍のジークアーマー装着者の1人の号令と共に武器を構えるが… 「アサシンアロー!!」 ビシュッ!ビシュッ!ビシュッ! 「ぐげっ!?」「か…は…!!」「げふっ!!」 弓のような形状をしたセント―ラのバスターから光の矢が放たれ政府側のレプリロイド達を貫いていく。 この攻撃は貫通性能に優れ1発で複数の敵を倒す事が可能である。 「ぬうう…!連射性能はそこまで高くないようだ!距離を詰めるんだ!」 政府側のレプリロイド達がセント―ラを取リ囲み接近戦に持ち込もうとするも… 「サジタリウスペナルティ!!」 ドガガガガガガガガガガ!!!!!!!!! セント―ラは彼等をその後ろ脚で蹴り飛ばしていく。 5モンスターには及ばないもののその威力は十分で蹴り飛ばされたレプリロイドが他のレプリロイドに衝突し、将棋倒しになっていく。 それだけでなく政府側のレプリロイド達がセント―ラを攻撃しようとした時その都度彼女が素早く身をかがめる為同士討ちも多発。 「密だ!!!密を避けるんだああああああ!!!!!!」 続いて政府側のレプリロイド達は互いに適度な距離を保ちつつセント―ラを包囲。 すると… 「それがどうした!」 セント―ラは「後ろ脚」を変形させ肩の上に回り込ませた。 実はセント―ラの「後ろ脚」は背中から伸びる外付けのアームでこの時の姿は肩に砲門を取り付けたVAVAを彷彿とさせる。 「おおおおおお!!!!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!! セント―ラは後ろ脚の足裏の先端の銃口からアクセルのバレットやターガードのレイスプラッシャーの如き光弾の乱れ撃ち「ツヴァイカノン」を発動。 結果政府側のレプリロイド達は全身を蜂の巣にされ次から次へと絶命していく。 「奴を、奴を通してはならぬ!!うおおおおお!!!!」 死に物狂いで挑みかかる政府側のレプリロイド達にセント―ラは嘲るように言う。 「いくらあのエックスをベースにした強化と言えど所詮紛い物…そのような力でこの私は止められはせん!!はあああ!!」 セント―ラが目の前の敵陣を一掃しさらに進撃しようとした時だった。 「おお~っと、そうは行かないぜ?」 遠くから声がしたと同時にセント―ラ目がけて斬撃弾が飛来した。 「誰だ!?」 セント―ラはバックステップでこれを回避し、直後攻撃のあった方向を見遣る。 そこには冒頭でカピラーバが話していた人物が空中に佇んでいた。 しかしその姿は… 「ゼ…ロ…!?」 その人物の姿はゼロと瓜二つだったのだ。 しかし幾つか相違があった。 まずはボディカラー。 ゼロのアーマーが深紅であるのに対しこの人物のアーマーの色は空のような青。 ゼロは金髪だが彼は銀髪。 何より特徴的なのはゼロの肌の色は人と変わらないのに対し彼の肌の色は人では有り得ない紺色である。 アーマーはシルエットだけ見れば過去のゼロに近しいが細部のディティールは異なる。 「いや、ゼロではないな!?何奴だ!!名乗れ!!」 セント―ラの問いに彼は応じる。 「ああ、俺はヴィア。レプリロイドの心が弄ばれ…サイバーエルフが徒に造られては殺されていくこの馬鹿げた戦いを終わらせる為に戦っているんだぜ。 この姿は俺の能力の1つでゼロの姿と能力を借りてるって訳よ」 「フン、エックスの紛い物の次はゼロの紛い物か!面白い!まとめて叩き潰してくれる! (しかし何だ、こいつから感じる反応は…!今までの敵とは明らかに違う!用心せねば…!!)」 口では威勢よく振る舞うもののセント―ラは明らかにヴィアを警戒し、彼に挑む… その頃ファートは… 「どうぞどうぞ、こちらです!!」 「あとはこちらの方が付き添いますので…!!」 ファートに付き添っていた政府側のレプリロイドが彼を目的地に誘導したが そこに辿り着いた時政府側のレプリロイド達の口調にはどこか悪意が見え隠れした。 「…?…!!な…!!な…!!」 そして目的地に姿を現した者の姿を見てファートは絶句した。 そこにいたのは4コマンダーの1人にして虚無軍団団長、シャッテンその人だったのだ。 勿論ファートを誘導したのも実際は虚無軍団兵士だった。 「き、き、貴様等…だだだだだ…騙したなぁ~っ!!!!」 ファートは震えながら、虚無軍団兵士達を指差して叫ぶ。 「すいませんねぇ長官殿、でも最初から狙いは貴方だったのですから…!」 虚無軍団兵士が嘲りながら言う。 「全てを聞いていたぞ…裁きの鉄槌を受けるのは貴様の方だ!害獣は貴様等の方だ!!」 シャッテンはファートに言い放つ。 「己!!己己己己己ぇ~っ!!!!!」 完全に慌てふためくファート。 一方でセント―ラはヴィアに攻撃を繰り出すもそれらの攻撃が通じず手をこまねいていた。 「この…この…!!」 セント―ラがツヴァイカノンを発動するも全ての光弾がヴィアが振り回すセイバーで消滅させられていく。 他の攻撃もヴィアに先読みされ尽く防がれ、かわされその都度反撃を喰らう。 「こ…これ程の実力者が控えていたとは…この男は間違いなく我々の脅威となる…!! ここで喰いとめておかないと…!!」 必死でヴィアに喰いつくセント―ラ。 「おいおい~せっかくその操り人形の糸を切ってやろうってのに素直になれよ~」 対してヴィアは余裕気である。 「悔しい…こんな奴に…!!」 セント―ラは次第に追い詰められていった。 一方でファートは… 「な、舐めるな、こっちだって護身用の武器ぐらいあるわ!」 そう言って彼は最新型の兵器の1つ「ヘルガトリング」の乱れ撃ちをシャッテンに見舞おうとする。 しかし弾丸が当たるかと思えばシャッテンの姿が徐々に薄くなり、その場から消えて弾丸がすり抜けていく。 「どうやら人間の中でも前線に立って戦うタイプではないようだな。武器の扱いがお粗末だ。 そんな貴様に私を止める力は無いぞ!」 「力は無いが…私には心がある…サイバーエルフ如きでは変えられない本物の心がなああああ!!!!!!!!」 見下した様子で言うシャッテンに対しファートは我武者羅にヘルガトリングに火を噴かせるが… 「気が済んだか?」 いつの間にシャッテンに後ろに回り込まれていた。 そして次の瞬間。 「ぐぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」 ファートが突如激痛を覚え痛みのする足元に目をやると彼の足にはシャッテンが放った暗黒の刃が突き刺さっていた。 「終わりだ…」 シャッテンはファートからヘルガトリングを取り上げると即座にそれを自身の刃で不可視の速度で細切れにしてしまった。 そしてそのままファートににじり寄る。 「や、殺るのか…!?レプリロイドであるお前が…人間であるこの私を殺るのか…!?」 顔面蒼白で滝のような汗を流しながらシャッテンに問うファート。 それに対しシャッテンは冷たく言い放つ。 「言ったはずだ。貴様は害獣であると。そして…総帥殿の言葉は全てに優先する!」 「やめろおおおおおおおおお!!!!!!!!!」 ファートの絶叫が響き渡る。 一方セント―ラとヴィアの対決も決着が迫っていた。 「アサシンアロー!」「疾風牙!!」「ぐうっ!!」 セント―ラがアサシンアローを繰り出すも疾風牙を発動し体勢を低くしたヴィアには当たらず、そのまま技を受ける。 続いてセント―ラはサジタリウスペナルティを繰り出そうとする。 それも連続蹴りではなく渾身の力を込めた一撃を。 「喰らええッ!!!!」 ガシッ!!「何!?」 しかしその蹴りはヴィアの掌で止められた。そして… 「セイハットウッ!!!!!!!」 ドン!ドガン!!ドゴオン!!! ヴィアはその状態のままセント―ラをセイバーの3段斬りの要領で振り回し3回連続で地面に叩きつけた。 「ああああああああ!!!!!!」 地に倒れ伏すセント―ラ。 「アースクラッシュ!!!」 ズドバゴーン!!!!!!!!!!!!! すかさずヴィアはアースクラッシュを見舞う。最早セント―ラに戦う力は残っていない。 「くっ、殺せ!!」 最期まで意地を張ろうとするセント―ラだったが… 「ハッ、何言ってんだ!?これは殺すのではなく、『救済』 なんだよ!」 そう言うとヴィアは指をセント―ラのボディに突き刺す。 バリバリバリバリバリ!!!!!! 凄まじいエネルギーがヴィアの指から流れ、セント―ラは機能停止した。 そして、彼女のボディからエネルギー体が分離され、ヴィアの掌に吸収された。 その時だった。 突如全世界に一斉にメタシャングリラからの映像が配信されたのは。 ヴィアのいる政府軍最前線基地にも映像を投影するメカニロイドが現れメッセージを伝える。 映像の内容は空中に浮かぶシャッテンが気絶したファートを首根っこ掴んでぶら下げているというものだった。 ファートは白目をむきよだれを垂らし大小便を失禁しているという有様だ。 「全世界の人間達とレプリロイド達に告ぐ。私はシャッテン。メタシャングリラの4軍の1つ、虚無軍団の団長である。 先日我が組織は全ての侵攻隊が壊滅させられるという損害を被った。 それ故我々が劣勢であるという考えも多かろう。 だが先程我々はこの通り、最強の手札を手に入れた。 これを手玉に我々は各方面に新たな干渉をしていく所存である。 賢明な判断をした者は快く受け入れるが、この戦いを長引かせようとする愚か者は我々が斬って捨てる故覚悟されたし。 我々は只々望んでいる。皆が我々の声に耳を傾け人間とレプリロイドの因縁が消滅する事を」 当然ファートとシャッテンは既に場所を変えていた。 「(ヴィアとか言ったな…深追いをするなという総帥殿のご命令で今回は見逃してやるが…再び相まみえた時は容赦はしないぞ…!)」 不本意ながらヘルシャフトの指示によりヴィアを見逃す事となったシャッテンは内心歯噛みしていた。 「あんな豚がどーなろーと知ったこっちゃないが…これでハンターに協力する材料が増えたのは確かだな」 一方でヴィアはハンターとの交渉を考えているのであった…

第九話「混乱」

ファートが捕らえられた映像が全世界に発信された結果…それは即座に大きな反響を呼んだ。 「メタシャングリラめ、何と非道な…!」 「ファートざまぁ~~~~~っ!!!」 「正に『糞ったれ』」 「どうするんだ、連邦政府は終わりか…!?」 ハンターベースでも… 「長官殿、何というお姿に…!」 絶句するハンター達。 「虚無軍団の『極秘任務』とやらが実行されたんズラね…」 カピラーバが思い出したように呟く。 それから程なくして、メタシャングリラは新たな映像を発信した。 そしてそれは世を更なる混乱に陥れる事となる… 映像は真正面から映し出された両手を後ろで縛られ、顔面に激しい暴行の跡が見受けられるファートとその後ろで仁王立ちするヘルシャフトの映像から始まった。 最初にヘルシャフトが口を開いた。 「全世界の人間とレプリロイド共よ、先程のシャッテンの映像はご覧になったかね? 見たにせよ見なかったにせよ我々は諸君にある要求をしようと思う。 その前に…だ…諸君等には是非ともこれを見て頂こう、そして知って頂こう…」 ヘルシャフトが言い終えると映像が切り替わった。 それは遠くから映し出されたファートの映像だった。 「ヘルシャフト並びに幹部共は既に余裕で死刑になる程の大罪を冒している。 そんな連中に加担する奴等も同罪だ、最早人間と思うな!害獣である!害獣はまとめて駆除するべきなのだ!!」 これは「裁きの鉄槌作戦」を実行しようとした時に隠し撮りされたファートの映像と音声だったのだ。 その他にも彼は最初プロジェクトエルピスに乗り気であった事、 そして怒涛の如く押し寄せる反対意見に押し負け保身の為にこのプロジェクトを凍結させた事、 更に同じく保身の為、そしてプロジェクトエルピスを永久に葬らんとする為にアクアポリスにて図書館ごと爆破した事を示す音声並びに映像が次から次へと流された。 一通りこれらの映像が終了した後、映像は元のそれに切り替わった。 「如何だったかな?ではこれからそんな長官殿から大事なお話があるみたいだ、なあ!?」 途中までカメラ目線で話していたヘルシャフトは最後ファートに向かって、声を荒げて言う。 ファートは小刻みに震えながら、死んだ表情で口を開いた。 「…全世界の皆さん…このように…私は大きな過ちを…犯してきた… 保身の為に…プロジェクトエルピスを凍結し…他にも多大な被害をもたらした… そんな私には…世界を統べる資格など…ない… 私は…自身の過ちに気付かされたのだ…それ故…メタシャングリラに…降伏する… サイバーエルフに関するあらゆる権限を…彼等に…譲渡する… イレギュラーハンター諸君…もう…メタシャングリラとは…戦わなくていい… 正しいのは…彼等の方だったのだ… 不満に思う気持ちもあるかもしれないが…サイバーエルフで忘れる事が出来るのだ… 最後に私から世界の皆さんにお願いだ…もう…彼等に…世界を委ねて…くれ…」 ファートの口調は苦痛に満ち満ちており、顔面の怪我もあって誰がどう考えても本心でないのは明白だ。 そしてヘルシャフトは前に出てカメラの近くまで寄ってアップの構図になると再度口を開く。 「このように偉大な偉大な長官殿の言質を取ったのだ。 よもやこれに逆らう気などないよなぁ!?我々はこの後サイバーエルフを正規ルートで製造し、然る後プロジェクトエルピスの実行に踏み切る所存である!! 従わぬ者はイレギュラーと見なす!! そして!無事プロジェクトエルピスが実行された暁にはファートは解放してやるがその前にファートを救出しようとする動きを見せたり、我々に戦いを挑む者が現れた場合は即座にファートを処刑する!! もうどれが正しい判断か、分かるだろう!?今こそ皆で心を一つにする時なのだ!!」 映像はここで終わった。 メタシャングリラ本拠地にて… 「それにしても、だ、でかしたぞ、シャッテン…」 もぞもぞ… タードは薄ら笑いを浮かべながらシャッテンのマントの下の胸部に指を這わせる。 「全くや!全く全く!!」 ペチ!ペチ! 下卑た笑いを浮かべプーパーがシャッテンの尻を叩く。 「お二方ともお好きですな…」 これに対してシャッテンの反応は沈着冷静そのものだった。 「当たり前ではないか、人間にこんな事をすれば私とて世間的に只では済まないからな!!」 タードが豪語する。 「ワテなら金の力で人間でも関係あらへんで」 得意気に言うプーパー。 「ホッホッホ、敬虔な我が信徒達は喜んで私に体を差し出しますよ?」 サイバーエルフによる洗脳や金の力抜きでも女性に不自由しないフィースィーが自慢げに言う。 「何なら俺は女の方から寄ってくるぞ、ハッハッハ!!!」 自身のカリスマ性を自覚するヘルシャフトは更に得意気である。 「フッ、サイバーエルフが無ければお二方の腕は今頃切断されているだろうな」 遠巻きで見ているブリッツが呟く。 「そうならないのがサイバーエルフの素晴らしさ…是非とも全レプリロイドに普及すべき…」 メーアが頷く。 「俺なら触らせて貰えねぇけどよぉ、仕方が無ぇ事だよなぁ…」 フランメは内心残念がるも、妥協しているようだった。 そこにDr.Vが割って入った。 「お盛んなところ悪いのですが、我々に対する世間の反応は予測より芳しくないようですぞ」 Dr.Vの言うようにファート並びに連邦政府の評判こそ失墜したものの かと言って世界がメタシャングリラにスムーズに従うとは言い難い状況だった。 そもそもプロジェクトエルピス発足時の時点でこのプロジェクトに異を唱える声が多かった為 先程の映像を以ってしても世界は簡単に「はいそうですか」とは言ってくれないのも必然と言えよう。 この映像が流された結果…世界は混乱に陥った。 様々な意見、思想がぶつかり合い武力衝突まで起こり始めたのだ。 「誰がメタシャングリラなんかに従うか!!あれだけ暴れておいて都合のいい事抜かすな!!」 「いいや、レプリロイドが人間に隷属するべきなのは事実だ!彼等なら世界を変えてくれる!!」 「無駄な犠牲を生まない為にも奴等に媚びへつらうしかない!!」 「そもそもエックスが悪いんだ!!!!!」 「レプリロイドに人間と同様の権利を与えるのは反対!反対!反対!」 「ええい、非力な分際で威張るな!メタシャングリラであろうがなかろうが人間は殺してやる!!」 「人間だのレプリロイドだの差別する奴こそ害悪だ!そんな奴等から排除しろ!!」 意見は真っ二つ…ではなかった。 様々な考えが人間同士、レプリロイド同士、そして人間とレプリロイドの間で激しくぶつかり合い火花を散らす。 「お前ら落ち着け!暴れるな!!」 「頭に上った血を下ろしな!!」 「お願いだから…争うのは止めてくださぁーい!!」 マッシモ、マリノ、シナモンを始めとするギガンティス総督府も近隣の地域の暴動を鎮圧するのに手いっぱいである。 「…予想の範疇だ、そしてこれこそ人間だな…レプリロイド共もその点では同じか…」 ヘルシャフトは落ち着いた様子で言う。 「ならば『根を張る』までよ。各地にて末端構成員を使って我々に依存するしかない状況を作るのだ。 その方法は各々の得意とする分野でやればいい」 これにまずタードが反応する。 「では私は変わらず情報操作に励む事と致しましょう。 邪魔な勢力は互いに潰し合わせるなりこちらに引き入れてご覧に入れます」 フィースィーもそれに続く。 「我々が侵攻を行った地域に我が信徒をボランティアとして派遣させましょう。 そして信徒達に感動的な言葉を言わせてそのまま我が教団へ勧誘させるのです。 新たに加わった信徒にもそのノウハウを叩き込み、同じ事を繰り返させていきます」 プーパーもそれに続く。 「争いを行う輩には我々の『兵器工場』で造った武器を売りさばくさかい!!それとレプリロイド専門風俗の支店もガンガン増やしたるわ!!」 これにDr.Vも続く。 「ならば私は『例の研究』をいよいよ人間に対しても行いましょう。 被験者達は甘い言葉に容易く誘惑される層やいなくなっても誰も気にも止めない層を選びます… ところで恐れ入りますが…ファートの命一つで全ての敵対勢力が沈黙しますかな?」 Dr.Vの問いにヘルシャフトは応える。 「無論全ての敵対勢力を止められるとは思っておらん。 ファートの命など気にせず我々に挑みかかる命知らずも中にはいるだろう。 そうした輩の対処は各軍の『防衛隊』に任せる事にする。」 「ほほう、防衛隊は飽くまで守りに徹させると?」 Dr.Vが問い返しヘルシャフトはそれに応じる。 「『侵攻隊』を全て失った今『防衛隊』とこの基地を守る『本隊』を各々の持ち場から動かす訳にはいかんからな。 ファートの処刑の告知は大方の敵の動きを封じる為でもあり一部の敵をおびき寄せる餌でもある。 自滅する奴等には勝手に自滅させ、利用できそうな奴等はこちらに引き入れ 攻め込んでくる奴等は武力で排除する…気付いた時には全てが我々の支配下に収まっている…という寸法だ」 ヘルシャフトは鼻を鳴らす。 「…った…終わった…これまでの…私の…築いてきた…ものが…」 その時ヘルシャフトは地に倒れ伏すファートのかすれるような呟きを耳にした。 そして彼はファートの元に寄って見下ろしながら嘲り言い放つ。 「『終わった』だぁ!?何を寝ぼけた事を抜かす!始まってすらおらんのだよ貴様なんぞ! プロジェクトエルピスに反対意見が押し寄せた時、プロジェクトを強行していれば始まったかも知れなかったがなぁ!! 世間の評判ばかり気にして己の信念を曲げ続けた貴様は始まった事など無いし今後始まる事も無いわ!!」 そしてヘルシャフトは改めて思案し、決意する。 「(その一方でエックスやハンター達は確固たる信念を貫き通す気概も持ち合わせておる… 忌々しいと同時に潰し甲斐があるわ… エックスめ、必ずや貴様のその信念をへし折り我が元に屈服させてやる…!!)」 時は遡りメタシャングリラが流した映像でファートのこれまでの暴挙や人間性が暴露された時… 「ファート長官…貴方には失望しました…今まで沢山の身勝手な人間を見てきたけれど…これは流石に堪えたよ…」 エックスはショックと怒りで体と声を震わせる。 「…最低…」 フラジールが一言、冷たい口調で呟く。 そしてベース内でファートへの不平不満の大合唱が響く中映像が終了すると、この場は更に騒然とする。 「言質だかベンチだか知らないっスけどこんなの無茶苦茶ッス!筋が通らないッス!!」 トラストが地団太を踏み怒りを露わにする。 「長官=連邦政府って訳でもあるまいしこれで連邦政府が素直に従うとは到底思えんがな」 瞑目し腕を組むゼロが吐き捨てるように言う。 「もし政府がこのまま敵に従うようなら僕はイレギュラーになっちゃうね」 アクセルが怒りと同時に「こんな要求政府が呑む訳がない」という確信を込めて言う。 「我々ハンターは連邦政府の下部組織である以上政府の判断に身を委ねるしかないのだが…」 冷静を保とうとするシグナスの口調にも納得の行かない気持ちが現れている。 そんな中一人の人物が口を開いた。 バイルである。 「その通り。奴等の要求は滅茶苦茶で筋が通らん。 条例8項により長官の代わりに連邦政府の指揮を執るのは…このワシだ。 結論から言うにワシ等はメタシャングリラには屈せんよ。 奴等との戦いはまだ続いておる、故に諦めてはいかん!」 「バイル博士!」 エックスを始めこの場のハンター達が彼に視線を注ぐ。 「しかし長官殿は如何いたします?まさか見殺しにしろとは言いますまいな!?」 シグナスがバイルに尋ねる。 「このワシが全責任を以って時間を稼ぎつつ奴等と交渉する。故にハンター諸君は戦いに専念してくれたまえ」 バイルが応えると一般ハンター達からこれに対する不満の声が小声であるが上がり始める。 「放っとけばいいのにあんなオヤジ」 「あんなの犠牲になって頂いて結構結構」 「かわいいお姫様ならともかくあんな腐れ親父助けに行くだなんてモチベ下がるわ~」 するとエックスが彼等を一喝。 「お前達、自分達がハンターだと言う事を忘れるな!救う人間を私情で選んでいてはイレギュラーと変わらないぞ!!」 「ハッ!申し訳ありません!!」 「流石エックス先輩ッス!」 「耳が痛いズラ…」 一般ハンター達は謝罪し、トラストは称賛し、カピラーバは苦笑して呟く。 そしてカピラーバはハンター達に協力話を持ち掛ける。 「ところで…オラ達もメタシャングリラと戦う身… そこでハンターの皆に提案があるズラが…オラ達と組まないズラか? メタシャングリラの手の内はオラ達の方が良く知っているズラし、損はないズラよ」 「自分は賛成ッス!あの爆発する魔球も凄かったし、かつての敵との共闘は熱い展開ッス!」 トラストが目を輝かせて言う。 「確かに…君達はメタシャングリラの初期の被害者でもあるし…利害は一致するが…」 シグナスが言葉を濁して言う中一般ハンターから賛成の意見と反対の意見がちらほら上がる。 「俺はごめんだね!お前達のところのクレーネルには酷い目に遭わされてんだ!」 「でも、彼女達とて洗脳されていたのだけどなぁ…」 「というか元々テロリストだろ!?」 「この際なりふり構ってられるかよ!!」 するとまたしてもバイルが口を開く。 「ワシからも頼む。是非彼等と協力してメタシャングリラを打倒してくれたまえ」 「「「博士…!!」」」 先程の状況もあってバイルに反論できる者などいなかった。 「宜しくっス、カピラーバ!」「こちらこそズラ!」 トラストとカピラーバは互いに笑顔で言葉を交わす。 やがてヴィア達がハンターベースに招き入れられた。 ヴィアはサイバーエルフとなったクレーネル、エレキドナー、ナヴァラーク、セント―ラ、そして各軍の兵士レプリロイドに加え何故か5モンスター達も引き連れている。 5モンスターは元々メタシャングリラ製だがどうやら各々の隊長に懐いていたらしい。 「よぉイレギュラーハンター、俺がヴィア、こいつらの今のリーダーだ」 ヴィアが挨拶をすると彼の容姿やサイバーエルフの数や面子を目にしたハンターが暫しざわつく。 そんな中リコが一際大きな声のリアクションを示す。 「おおーっ、ホントにゼロさんそっくりですねー! カウンターハンター事件の時の黒いゼロさん、ナイトメア事件の時の紫のゼロさん、そしてこの青いゼロさんとカラーバリエーションが増えてってますね♪」 「何だ、この小うるさい女のガキは?こんなのでもオペレーターが務まるのか?」 これを聞いたヴィアが肩をすくめぶっきらぼうに言う。 「ちょっと、何なんですか!初対面の女の子に対して失礼ですよっ!!」 リコが怒るもヴィアはそんな彼女を軽くあしらう。 「そうカッカするなよ、黙っていればそれなりに可愛いんだからさ」 「からかわないで下さぁーい!!」 尚も怒るリコ。 そこに今度はオリジナルシエルが尋ねる。 「貴方はいったい何者なの?貴方からは明らかに普通のレプリロイドとは… いえ、レプリロイドそのものとは異なる反応がするの」 ヴィアは応える。 「俺はレプリロイドとサイバーエルフとの融合体…言わばどちらでもないしどちらでもある」 「?」 オリジナルシエルが首を傾げる。 「俺の前身の片割れ…は量産型の新世代型レプリロイドだった… 量産型とはいえ他の個体より頭1つ抜けて優秀だったがな。ゲートウェイを守っていたシグマのコピーは知っているだろう?あんな感じさ」 「ええ」 オリジナルシエルは頷きヴィアは続けて説明する。 「そのレプリロイドはメタシャングリラに捕らえられサイバーエルフで洗脳された。 …が、それはあくまで見かけだけの話でな、何故か心までは操れなかった。 取る行動も話す言葉も一見奴等に従っているように振る舞うがそれは意に反して体が勝手にやっている事…その時の苦痛たるや凄まじかったぜ…」 「そんな…!」 オリジナルシエルは息を呑む。只でさえ彼女はサイバーエルフを生み出した罪悪感に苛まれているのだ。 ヴィアは続けて言う。 「一方でこれまた他とは違うサイバーエルフが1体いた。…俺の前身のもう片割れさ。 大概のサイバーエルフは使われると死ぬ自らの運命に前向きだが、そのサイバーエルフは違った。 エルフ1倍自身のその運命を呪い絶えずこんな存在に生まれた事への恨みと死への恐怖に支配されていた。 …で、ある時そのサイバーエルフはさっき言った『体だけが操られた新世代型レプリロイド』に使用された訳だが、 その結果レプリロイドはボディが変質し全く別の存在に生まれ変わった…それが俺だ。 俺の人格はレプリロイドのものか、それともサイバーエルフのものか分からんが プロジェクトエルピスに対する憎しみだけは確かに受け継ぐと同時に体の自由も獲得した。 それでそのまま変身能力を駆使して奴等の前から姿を消し…自身の能力を把握しながら 対メタシャングリラの下準備を整えて…今の勢力を築いたという訳だ」 「…!ごめんなさい…!!ごめんなさい…!!私が…サイバーエルフなんて…生み出したばっかりに…!!!」 オリジナルシエルは両手で顔を覆い泣き崩れてしまった。 「気にすることはないぜ、おかげで俺は俺になれたんだからな。 それに、命令されて仕方なくやった事なんだろ?ならあんたは悪くねぇ」 そんな彼女をヴィアはなだめるのであった。 「(ぐおおおおおお苦しい!!苦しいぞぉ~っ!!!!)フン、俺はまだお前の事を認めたわけじゃないからな!」 自身を真似たその姿から過去の事件を思い出すゼロはヴィアに対して良い感情を持っておらず 相変わらず自身の内側から煩わしく響く声による苛立ちもあって思わずヴィアに悪態をつく。 「………」 つかつかつか… そんな彼にヴィアは無言で近づいてきて、目前で立ち止まる。 「(うおおおおおおおお…消える…消えてしまうぅ~!!!)何だ、やるのか!?」 ゼロが戦闘モードに入りかける。 「ちょっ…」 場がざわつきエックスを始めとするハンターが止めに入ろうとするが… 「お前じゃない、『中の奴』に用があるんだ。その意味は分かるだろう?」 そう言ってヴィアはゼロに手をかざす。 バリバリバリバリバリ!!!!!! そしてそのままセント―ラに施した処置と同様の処置を行った結果… 「(ぐおおおおおおおおお!!!!!!!!!)」 シュポッ! ゼロのボディから、ヴィアの手に引き寄せられるように何かが飛び出してきた。 それはゼロの顔が付いた人魂のようなサイバーエルフの姿をしていた。 同時にゼロは憑き物が落ちたような感覚を覚えると共に内なる声は聞こえなくなった。 「何と見事な…!」 パージが感嘆する。 「ゼェ…ゼェ…」 ゼロから出てきた「それ」は力なく悶えていた。 他のサイバーエルフ…即ち人間よりはるかに小型なサイズと言うこともあってその様子はあまりに非力に見えた。 「借りが出来てしまったな…取り敢えず礼は言うぜ。 しかしこんな奴に俺は長い間苦しめられてきたのか…今すぐ引導を渡してやる!」 ゼロはヴィアに礼を言うと先程摘出された存在…即ち従来の自身の人格を宿したサイバーエルフに止めを刺そうとするが… 「待て!」 それをバイルが制した。 「これは貴重な研究サンプルだ。何かに使えるかもしれんからこちらで保管しておく。良いな!?」 「…チッ!」 ゼロはしぶしぶ了承し、バイルは元のゼロの人格のサイバーエルフ(以降オリジナルゼロと表記)をアイテム収納用の小型カプセルに封印した。 「畜生~…出せぇ~…出しやがれぇ~…」 オリジナルゼロはカプセルの中で力なく呻き続けるのであった… 「これでワシはお役御免ですかな?」 医師のような姿をしたサイバーエルフ、ゲリールが若干残念そうに言うがゼロはそれを否定。 「いや、今ので俺は他のレプリロイドのようにウィルスで害される体になっちまったようだ。 だから俺がもしウィルス攻撃を受けた時は宜しく頼むぜ」 「はい、お任せ下され」 ゲリールは喜んで頷いた。 そうこうしている内に出撃に関する話がまとまってきた。 「さてメタシャングリラの4つの『重要拠点』攻略の件だが…出撃するのは目立たないように少人数で、かつ実力のあるメンバーを選抜した。 S級ハンター達に加え5ガーディアンの一角を落としたヴィア殿、そして残念ながらギガンティス島とは連絡が途絶えたが 今回5モンスターを撃破した実績のあるこの2人が協力してくれる事となった。 入りたまえ」 シグナスの指示に従い2人の人物が室内に入場してきた。 「兄さん!」 「ダイナモ!」 入ってきた人物…カーネルとダイナモに思わずアイリスとエイリアが反応する。 「プロジェクトエルピスが発足したのは私のようなレプリロイドにも原因の一端がある… 故にこれは私なりのけじめだ」 「まぁ俺はいつも通りスポーツな感じでやるだけだけどね」 変わらず義理堅いカーネルとノリの軽いダイナモ。 「残りのハンターはベースの警備と各地の暴動の鎮圧に当たって貰う。 それでは本題に入ろう。『重要拠点』の攻略についてだ…」 シグナスが指揮を執り始める。 そこでナヴァラークが重要拠点攻略の重要性を説く。 「連邦政府の『裁きの鉄槌作戦』だがあのまま出撃してても失敗してたぜ。 何故ならメタシャングリラの本拠地は重要拠点に囲まれた場所に位置するから重要拠点を守る『防衛隊』が嗅ぎつけちまうのさ。 それで自分達の爆弾で葬られるのがオチだ。 それに重要拠点を落としてしまえばメタシャングリラは戦力以外にもあらゆる力を失う。 今あちこちで起こっている暴動も元を絶てば大分マシになるだろうよ」 「各重要拠点についてはメタシャングリラの元メンバーの方が詳しいだろう。 知っている事を教えてくれないか」 シグナスが促す。 そして元8エージェント達が重要拠点について説明し始めた。 まずはカピラーバから。 「烈火軍団の重要拠点は『兵器工場』ズラ。小さい物は銃器から、大きい物は戦艦まで幅広く製造しているズラよ。 初期は主に自軍の為に兵器を製造していたズラが最近では幅広い顧客に武器を売りつけているズラ。 結果として各地の暴動が一層激化し、メタシャングリラには沢山のお金が入ってくるズラよ。 後、その工場は過去のイレギュラーにあやかろうとしているのか、彼らを模した武器を大量生産しているズラ」 「戦争の愚かさは骨身に染みて分かっている…ましてや商売等に利用するなど言語道断だ!」 カーネルが憤る。 続いてクレーネルが説明する。 「氷結軍団の重要拠点は『氷の聖都』よ。 険しい雪山に囲まれた天然要塞で組織は新興カルト宗教の信者が住まう都市を築いたの。 教団の信者は完全に洗脳されいていて宗教、そして組織の為なら簡単に命を投げ出すわ。 信者の人間が自分達を盾にして邪魔してくる事は想像に難しくないわね」 「汚い宗教だねぇ」 アクセルが零す。 その次はエレキドナーが。 「轟雷軍団の重要拠点は『生きている都市』だよー。 超高性能なAI『リボプス』が文字通り何でもやってくれる都市な落とされてメタシャングリラに落とされてからはこれにレプリロイドの強制労働が追加されてさー… 目的は住んでいる人を極限までだらけさせる事…住人の人間はリボプスやレプリロイドが何でもかんでも世話してくれるから四六時中怠けて怠けて何も考えなくなる… 結果として組織の邪魔をしなくなる…そういう人間を増やすのが組織の狙いなんだよー」 「オイオイ、それじゃあそこの住人は豚じゃないか、いや、豚に失礼かもな…」 ダイナモが呆れる。 最後にナヴァラークが続く。 「虚無軍団の重要拠点は『サイバーエルフ研究所』だ。 日夜レプリロイドを実験台にサイバーエルフを使ったひでぇ実験が行われてるって話だ。 実験台にされるのはレプリロイドだけじゃなくて虫や小動物も含まれててよ… 近々人間もそれに加えるって話もあるぜ」 「何て非道な…!こんな事は絶対に許されていいはずが無い!!」 エックスが怒りを露わにする。 一通り説明が終わると次にヴィアが切り出す。 「重要拠点を落としたところで本拠地に突入できるって訳でもない。 基地は強力なバリア障壁で覆われているからな。 バリア障壁を破る方法は2つ。 まず1つは外部から強烈な衝撃を与えて強制的に障壁を破壊する事だ。只余計な被害を生むリスクがあるがな。 もう1つはハッカー系のサイバーエルフを用いて障壁を消し去る事だが…問題はそのサイバーエルフが犠牲になる事、それとあれ程のバリア障壁を消せるサイバーエルフがいるかという事だ」 するとこの問いに答える者が。 「あたし、できるかも…」 何と声の主はクラブHLから出現したサイバーエルフだったのだ。 それも当時から成長し、言葉も話せるようになっている。 「パッシィ!…でもそれじゃあ貴方が…!」 「すこしまえバリアしょうへきってのをしらべてみたんだけどね、あれぐらいならへいきへいき。 でも、ごはんをじゅうぶんたべてないから、いますぐはできないなー?」 オリジナルシエルにたどたどしい口調で応えるサイバーエルフ、もといパッシィ。 ちなみに「ご飯」とはEクリスタルの事である。 「Eクリスタルの事か…それなら重要拠点にいくらでもあるが、本当にいいのか?」 ヴィアが尋ねる。 「ばくだんをつかうのだけはぜったいにやっちゃダメぇ!!!それにあたしはあんなのでぎせいになったりしないもん!! だいたいみんないのちがけなんでしょ!!だったらあたしもいのちかけるぅ!!!」 パッシィは力強く応えた。 「ごめんなさい…ごめんなさい…!」 オリジナルシエルは涙ながらに謝る。 「だからあやまらなくていいってばぁ!!」 そんな彼女をパッシィは諭すのであった… 「…こいつの意志を尊重してEクリスタルは集めておこう。そして何としてでもサイバーエルフが作られ続けるのはこの戦いで終わりにしようぜ!」 ヴィアが鼓舞する。 「ここで攻守交替、メタシャングリラに特大ホームランをぶちかましてやるッスよ!!」 「…潰す…」 トラストが意気込み、フラジールが呟く。 「(バイル博士…この状況にあって何て立派な人なんだ…この人になら…世界を任せられるかもしれない…)」 エックスはバイルを見遣りつつ出撃していく。 そのバイルだが… 「(クーックックック…これでハンターとメタシャングリラをぶつける事に成功したわ。 イレギュラーハンター、そしてメタシャングリラ…貴様等はどちらもワシの掌で踊る人形に過ぎん! それが鉄で出来てるか、肉で出来てるかの違いじゃ!! この先の展開をこの場からも…『あちら』からも観察させて貰うぞ…!)」 彼の想いを余所に内心嘲笑していた。 そしてバイルは手元のカプセルに目をやる。 「出せぇ~…出せぇ~…」 中では相変わらずオリジナルゼロが呻き声を上げている。 「(ヴィアと言いこいつといい新たな実験材料も増え、これで楽しみが増えおった!! クヒャーハッハッハッハ!!!!!!!!)」 彼の思惑通り、ハンター(+α)とメタシャングリラの防衛隊が、重要拠点にて衝突する…

第十話「武器商人」

「この工場では大量の兵器が製造され、それらは他の重要拠点や今暴動が起きている地域に出荷されているわ。 兵器の製造も出荷もかなり早いペースで行われているみたい。 兵器の生産ラインの停止と兵器の出荷の阻止のどちらも事は急ぐわね…」 「ああ、分かっている。兵器の製造も出荷も、これ以上はさせんぞ!」 「邪魔者同士戦争をさせて潰し合わせるとはレプリフォース大戦時のシグマの如き悪行… 何としてでも食いとめてみせる!」 エイリアの通信に兵器工場に出撃してきたゼロとカーネルが応じる。 2人の前方には何棟もの巨大な建物で構成され所々に無数の配管が張り巡らされ 何本もある煙突からは空を覆い隠す程の黒煙を噴き出され続けている工場が聳え立っていた。 同時に2人は工場周辺に散乱する何かを目にする。 「先客のようだな…」 それは先に工場に出撃してきたレプリロイドや戦車、戦闘機の残骸で軍人と思われる人間の死体もあった。 「敵対するなら人間でもお構い無しかよ…メタシャングリラがどういう組織なのかこれを見ただけでよく分かるぜ」 「私の過去の過ちに似ているとも言えるな…彼等のようにならないよう、気を引き締めていくぞ!」 ゼロが呟き、カーネルは自身の過ちを思い出しつつもミッションの遂行を改めて決意する。 そんな中工場内部から武装した烈火軍団の兵士やメカニロイド達が大勢現れ、2人の前に立ち塞がる。 彼等の所持する武器、並びにメカニロイドは100年間の戦いも含む過去の大戦に現れたイレギュラーを模したものが多かった。 「ファートの事など構わない賊軍がまたおいでなすったかと思ったら…まさかお前ら程の大物をよこすとはな… 丁度いい、我が軍の物量とこの工場の生産力をとくと思い知らせてくれるわ!!」 そう言って烈火軍団のレプリロイドとメカニロイドが大挙してゼロとカーネルに襲い掛かるが2人はそれをセイバー1本で難なく一掃し、そのまま工場内部に突入。 「警報!警報!工場内に侵入者有り!!至急侵入者の排除、並びに生産ラインの強化に当たれ!!」 「何!?侵入されるとは前代未聞だぞ!?」「この工場の警備はネズミ1匹入らせないはずが何たる失態!!全力で叩き潰すぞ!!」 次から次へとゼロとカーネルに襲い掛かる烈火軍団。 同時に工場で生産されたメカニロイドは完成した直後に出撃してくる。 特に単眼で両腕がバスターに、下半身がホバーになっているメカニロイドの生産ペースが速く、 尚且つ1体あたりの性能が高性能だった。 そんな彼等をものともせずひたすら工場内を突き進むゼロとカーネルだったが… ズゥン…!ズゥン…!ズゥゥン…!! 2人の前方に途方もなく巨大なメカニロイドの軍団が現れたのだ。 そのメカニロイドは紫色の人型で頭には2本の角、手足は多関節で拳はトゲ付きの鉄球になっている。 超巨大メカニロイドCF-0…カウンターハンター事件の時に街を制圧するために量産化が計画されていたメカニロイドである。 事件当時はエックスが工場を早期に破壊したため量産化は未遂に終わったのだが、今回メタシャングリラはそれを見事に実現してみせたのだ。 「次から次へと過去の亡霊が湧いて出て来やがる…」 「冥府へと送り返してやらねばな…」 ゼロとカーネルはCF-0達に挑みかかる。 ブーンブーンブーン… ガラガラガラガラガラ!!!! CF-0達は両腕を真横に伸ばした状態で体を回転させ、その結果発生する竜巻は周囲の鉄塊を巻き上げ それらは雨あられの如く降り注ぐ。 元の機体にはなかった技である。 それをゼロとカーネルは上手くかわし的確に弱点を突く。 やがてCF-0達は将棋倒しになり全滅した。 そこにエイリアからの通信が。 「この先は出荷口に…地下へは制御室に続いているわ。 武器の出荷と生産ラインの停止、どちらを優先するか…貴方達次第ね…」 「俺は出荷を阻止する!制御室の方は頼んだぞ!」 「うむ、任せてくれ」 ゼロは出荷口へ、カーネルは制御室へ向かった。 カーネルが進んだ先には重火器を携えた烈火軍団兵士が待ち構えていたが、その重火器の形状にカーネルは見覚えがあった。 彼等が手にしたそれはスパイダスがジャングルに隠した砲台に酷似していたのだ。 「撃てぇーっ!!!!」「……」 カーネルは一瞬顔を顰めながらも彼等を撃破し先へと急ぐ。 その先でもカーネルは過去の出来事を思い出させる敵に度々遭遇した。 スティングレンを模したキャノン砲「スティングレイ」を携えた烈火軍団兵士… ファイナルウェポン、通称「デスフラワー」と呼ばれるレプリフォースの最終兵器を模した飛行タイプでレーザー砲を搭載したメカニロイド… ギガデスの強化版「テラデス」… 「……これは私に対する皮肉か…!?」 全く苛立たなかったと言えば?になるがカーネルは飽くまで沈着冷静にこれらを撃破していく。 更に地下へと進むとCF-0と同じく量産化された巨大メカニロイド「イレギオン」がカーネルに大挙して襲い掛かる。 このメカニロイドの事は忘れる筈もない。 アイリスを攫い、自身にイレギュラー容疑がかかる原因を作った「張本人」なのだから… 「こんな物で私の心を乱せると思ったら大間違いだ!!」 カーネルの表情と声には怒りがこもっていたがその攻撃は正確性を損なわずイレギオン全機の頭上に雷を落として撃破した。 やがて最も下の階に到達したカーネルは遂に制御室に足を踏み入れる。 制御室には巨大なサーバーとメカニロイド製造装置があり、そこにはそれらを守る1体のレプリロイドが待ち構えていた。 レプリロイドは背格好はカーネルと似ており軍服を模したアーマーも自身と似ている。 違いと言えばアーマーの色が茶色で顔は自身より若干老けているといったところか。 カーネルを視認したレプリロイドは口を開く。 「こーれはこれは、カー―ネルじゃないかぁー… 私は5ガーーディアンの1人で烈火軍団副防衛隊長マー――シャルゥ―… この工場の防衛ラインを突破してここまで来るとはぁーさーすが伝説の通りだねぇ~ 是非ともぉー我が組織のぉー抜けた穴をー埋めて欲しいぐらいだよ~」 どこか芝居がかって同時に相手を見下すような口調でマーシャルは名乗った。 「5ガーディアンか…やはり制御室を守るだけあって相応の戦力が配置されている訳だな。 ともあれ私はメタシャングリラの武器の製造を止めに来た…邪魔をするなら…斬る!!」 カーネルの恫喝をマーシャルは眉一つ動かさず馬鹿にした口調で返す。 「ほほぉーう、武器の製造を止めるなど、君らしくもないねぇ~」 「何だと!?」 思わず反応するか―ネルにマーシャルは続けて言う。 「かのレプリフォース大戦…君は本当はレプリフォースが誇る軍事兵器の数々を実戦に使いたかっただけなんじゃないのかなぁ~? 精強のレプリフォースが誇る兵器となると…さぁーぞや使った時は爽快だったんだろぉう? 私は兵器が好きだ…私は兵器が好きだ…私は兵器がだーい好きだ… バスターがぁー…好きだ セイバーがぁー…好きだ インジェクターがぁー…好きだ ランチャーがぁー…好きだ マシンガンがぁー…好きだ バレットがぁー…好きだ 軍事用メカニロイドがぁー…好きだ ライドアーマーがぁー…好きだ 戦車がぁー…好きだ 戦闘機がぁー…好きだ 戦艦がぁー…好きだ 砲台がぁー…好きだ 戦列を並べた砲兵がナパームヘッドの轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのがぁー…好きだ クラブHLに空中高く放り投げられた敵兵が振り下ろされた腕からの一撃でバラバラになった時などぉー…心が躍る 操縦士の操るゴウデンの拳や砲撃が敵ライドアーマーを撃破するのがぁー…好きだ 悲鳴を上げて燃えさかるライドアーマーから飛び出してきた敵兵をゴウデンの足で踏みつぶした時などぉー…胸がすくような気持だった ドゥームを構えた歩兵の横隊が敵の戦列を蹂躙するのがぁー…好きだ 恐慌状態の新兵が既に機能停止した敵兵を何度も何度もドゥームで刻んでいる様などぉー…感動すら覚える レプリロイド主義者の逃亡兵達がアローバスターで撃ち殺されていく様などぉー…もうたまらない 泣き叫ぶ捕虜たちが私の振り下ろした手の平と共に金切り声を上げるガトリングガンにばたばたと薙ぎ倒されるのもぉー…最高だ 哀れな抵抗者達が雑多な小火器で立ち上がってきたのをファラリスオックスが都市区画ごと木っ端みじんにした時などぉー…絶頂すら覚える 君もそうだろぉう?自身の誇りが傷つけられただの人類からの独立だのは単なる建前だろぉぉう!!??」 恍惚とした表情で問いかけるマーシャルにカーネルは憮然として答える。 「断じて違うな。私はろくに調査もせず我々にイレギュラー容疑をかけたハンター並びに政府… そしてそれまで散々尽くしてきたにも関わらず事件当時我々を侮辱し冷遇した人間に業を煮やして事件の引き金を引いてしまった。 それ自体は過ちだが単なる狂った快楽殺人者と一緒にされるのは只々心外だ。 加えて先程の貴様の弁…自らの下らん欲求の為に武器を使い、戦争を起こすなど言語道断も甚だしい! 貴様のような輩は益々ここで喰いとめておかねばならんようだな!」 「いやぁー君なら分かると思ったのになぁ~…でも分からせてあげるさ、サイバーエルフでな…出撃!!」 マーシャルの合図と共に道中で見かけた単眼で両腕がバスター、下半身がホバーのメカニロイドが天井近くの機械から次々と放たれカーネルを囲み攻撃を開始する。 カーネルはこれを撃破するも新たにそのメカニロイドは製造されて部屋に供給され、その数をキープし続ける。 「どうだ、これこそ我が軍、我が工場が誇る製造開始から完成まで僅か3分、 1体1体が高性能かつあらゆる用途に使用可能な兵士…その名もインスタントポーン!!」 「雑兵如きで私を止められると思うな!!」 しかしインスタントポーン1体の性能は道中で確認した通り量産型の割には高く、 しかもその動きは非常に統制が取れている。 「ムッフッフ…インスタントポーンには私が頭からのシグナルで直接指示を出しているのだ… 私は元より作戦指揮の方が得意でねぇ…私からの指令をダイレクトに実行するこのインスタントポーンは言わば私の手足なのだよ~」 勝ち誇るマーシャル。 しかし巧みな陣形・戦術でカーネルを翻弄していたはずのインスタントポーンの破壊される速さが製造される速さを徐々に上回ってきた。 「私を脳筋の武人と侮ったか!?私とてかつては大部隊を指揮する立場… このカーネル、フクロウル程ではないが知略や戦術でも他に遅れは取らん!!」 「君こそ私が指揮するだけで現場では非力と勘違いしているのかねぇ?」 ジャキッ! マーシャルはそう言ってレーザー砲を構える。 それは携帯式の銃器と言うにはあまりに巨大であり、その形状はスペースコロニー「ユーラシア」破壊に使用されたギガ粒子砲「エニグマ」と酷似していた。 「こぉーれが我が工場で製造した私専用の武器…エーニグマブゥーラスタァーーーーーー! 小型化したからと言ってぇーその威力は名前と姿に恥じるものではないぞぉ~~!!」 シュバァァァァァァーッ!! マーシャルはエニグマブラスターの銃口から強烈極まりないレーザーを放つ。 「(この長さなら…懐に潜り込んでしまえば…!)」 エニグマブラスターはそのあまりに長大な形状故、間近にいる敵に銃口を向ける事は出来ない。 カーネルはそこを突き瞬間移動でマーシャルの懐に潜り込み斬りかかろうとするが… 「甘ぁ~~~~い!!!!」 ブンッ!! マーシャルはエニグマブラスターを鈍器として用いたフルスイングを繰り出してきた。 エニグマブラスターは重量もありこれを高速で振り回した時の打撃の威力はその分強烈である筈だが… ガシッ! 「何っ!?」 サーベルを振るう腕でマーシャルの打撃は阻まれてしまった。 「ぬぬぬ…」「どりゃあっ!!!」 ドガァッ!!! 一瞬押し合いになったのも束の間、カーネルはマーシャルにローキックを見舞う。 「おおおおおおお…!!!!!」 ズザザザザザザザザ… 足元に火花を散らし後退していくマーシャルだったが暫くするとエニグマブラスターを杖代わりにして踏ん張る。 「な、なぁ~かなか…やぁ~るではないかぁ~…」 かなりダメージを受けたマーシャル。 「話に聞いた通り5モンスターより非力なようだな…」 カーネルが呟く。 「たぁ~しかに我々5人は5モンスターよりパワーと装甲で劣るがぁ~ わぁ~れわれには知力があぁ~る!手数があぁ~る!技術があぁ~る!! それらを含めた強さはぁ~5モンスターにも劣らんぞぉ~っ!!」 マーシャルは反論しつつ戦闘を再開する。 「わぁ~たしとインスタントポーンの連携攻撃にぃ~どぉーこまで対応出来るかなぁ~~!?」 マーシャルはインスタントポーンを操りつつ自らもエニグマブラスターの砲撃を繰り出す。 これ自体かなりの集中力と複数の物事を同時にこなす器用さが必要だがマーシャルは加えて エニグマブラスターを担いだ状態でダッシュや壁蹴り、2段ジャンプなどで機敏に動き回る為 先程彼自身が言ったように5ガーディアンは5モンスターに劣らないというのは決して虚言でも自惚れでもない。 しかしカーネルも負けてはいない。 元来高性能であり経験値もある彼はマーシャルの攻撃に尽く対処し、室内では暫し武器と武器、策と策のぶつかり合いが演じられた。 「(しかし思えばこのインスタントポーンも哀れな存在かもしれないな… 造られては壊され造られては壊され… メタシャングリラは配下のレプリロイドもこいつ等と同じ存在なのだろう。 そして奴等が世界を支配してしまえば全レプリロイドがこうなってしまう… そんな事は絶対に許さん…故にこんな所で立ち止まっている場合ではない! まずはこのインスタントポーンと兵器の製造の…元を絶つ!!)」 戦いの中でカーネルは思いを巡らせた末に従来の目的を思い出した。そして… バリバリバリバリバリ!!!!!! 突如カーネルは部屋のサーバーにサーベルを突き刺し放電し始めた。 「バーーーーカか~~~!?こぉーのサーバーは『生きている都市』からの情報を受け取れる容量なんだぞ~~!? そぉーれ式の攻撃でぇー…おーちたりはせんわぁ~~~~~!!」 マーシャルは嘲笑しカーネルに集中攻撃を加え始める。 カーネルは被弾する事はあれど最大限マーシャルの攻撃に応戦しつつ放電も続ける。 その結果しばらくすると部屋中にエラー音が鳴り響くようになり機器もスパークして煙を噴き、製造されるインスタントポーンにも不良品が混じるようになってきた。 「な、何―っ!!どぉーこからそんな電力が…!!!???」 「『モンスターチップ・フーディーン&ライディーン』を使った… このチップは雷属性と風属性の技の威力を上げるのだ!」 驚愕するマーシャルにカーネルは答えた。 その間にもサーバーは見る見るうちにエラーを多発させていく。 ちなみにモンスターチップとはサイバーエルフ化した5モンスターより生成したチップである。 「(こ…こぉーうなったら…サーバーは一旦諦めるしかあるまぁーい… 奴がサーバーを停止させた一瞬のぉー…隙を突ぅーく!!)」 マーシャルはエニグマブラスターの攻撃エネルギーをチャージし始めた。 シューン… 一方でカーネルの攻撃の甲斐あってサーバーは停止した。 丁度その瞬間… 「今だ、喰らうがいい、エニグマブラスターチャージ率100%… はっしゃ!  はっしゃ!!  はっしゃ!!!」 バシューッ!!!バシューッ!!!!!バシューッ!!!!!!! マーシャルの咆哮に伴いエニグマブラスターの砲身からこれまでを上回る威力のレーザーが、3回連続で放たれた。 目も眩むほどのその光芒は正確にカーネルを捉え射貫いた…かに見えた。 「き、消えた!?」 サーバーの近くにいたはずのカーネルの姿が掻き消えた。 「残像だ」「なっ…!?」 マーシャルが反応する間もなく真後ろに移動していたカーネルは彼の胴体を両断。 「み、見事―――じゃないかぁ~…敵にしておくにはぁ~…勿体なぁーーーーーーい……」 マーシャルは機能停止し、勝負は決した。 「(これでもう兵器がここで造られる事はなくなった…世界各地で暴動を起こしている人々よ、これを機に一度立ち止まって考えてくれ…私のような過ちを冒さないでくれ…!)」 祈りつつカーネルはこの場を後にした。 時はゼロとカーネルが二手に分かれた直後に遡る。 ゼロが向かった出荷口には二本腕の飛行タイプのメカニロイドが輸送機にコンテナを運びこんでいた。 搬出だけでなく搬入も行われており搬出先は多岐にわたるが搬入元は大抵は「氷の聖都」か「サイバーエルフ研究所」だった。 そんな中パレットから通信が。 「聞こえますか?この辺には強力な武器やその材料がいっぱい集まってますよ。 という事はレアアイテムも沢山ありますよ。特に頑丈なコンテナに注目です!」 ゼロがコンテナを斬ってみると中には高値で取引される価値のあるアイテムが眠っていた。 「氷の聖都」から仕入れられてきたコンテナにはEクリスタルが、「サイバーエルフ研究所」からのそれにはサイバーエルフが発見された。 「どれもこれも、連中に渡す訳には行かねぇな…」 ゼロが呟く。 ゼロがそのまま運搬用メカニロイドを両断し、コンテナの搬入・搬出を阻止し続けているとそれを察知した敵の攻撃が始まった。 運搬用メカニロイドはゼロを捉えようと迫ってくるし、上空には空を覆いつくす勢いの数のスパイコプターやビーブレイダーの大群が現れ猛攻を仕掛けてくる。 「フン、来やがれ!!」 当然これらの敵はゼロの相手にはならず、次から次へと切り捨てられていく。 そんな中、一際目立つ一隻の空中戦艦が前方に現れた。 「そこまででぇい、狼藉者ぉ!!」 戦艦の中から勢いよく怒号が響き渡った直後、戦艦底部のハッチが開き中から1体のレプリロイドが艦内から飛び降り、力強く着地した。 そのレプリロイドは肉食恐竜テリジノサウルスを模した外観で大きさは比較的大柄でボディカラーは赤く、モチーフに因んだ巨大な腕と爪、そして両腕と尾の先に火炎放射器を搭載していた。 ゼロは彼からエレキドナーと同等以上の強大な気配を感じ取った。 「8エージェントのお出ましか?」 ゼロが問い、レプリロイドは力強く応じる。 「おうともよ!烈火軍団防衛隊が隊長、テリジノ・フォムライザーたぁ、俺っちの事でぇい!!」 そしてフォムライザーは続けて問う。 「この工場に攻め入ったってぇ事は、世界各地の戦の邪魔しに来たってぇ事だろ!?」 ゼロは答える。 「当たり前だ!少しでも無駄な犠牲を減らす為に俺達は来た!」 「カァ~ッ、戦に余計な横槍を入れるたぁ、粋じゃねぇなぁ!! 戦てぇのは、それぞれの誇りと信念を掛けた愛する者や守るべき主君の為の力と力、魂と魂の熱いぶつかり合いじゃねぇか!!」 フォムライザーはゼロの行為に異を唱えるとゼロは冷静に反論。 「戦争を美化するんじゃない。非武装で無関係な民間人まで巻き添えになっているんだぞ」 これに対してフォムライザーは更に反論する。 「なぁ~に言ってんでい!何を犠牲にしても構わない、どんな手段も厭わないってぇ程の強い信念同士のぶつかり合いだからこそ燃えるんでい!!」 ゼロは呆れた様子で言い返す。 「それらの戦争はお前らの親玉の汚い金儲けの為に仕組まれたものだって知ってて言ってんのか?」 当然フォムライザーは力強く反論する。 「てやんでい、べらぼうめ!!銭欲しいってぇのも立派な信念!!そこに綺麗も汚いもありゃあしねぇ!!」 彼の言うようにプーパーを始めたとしたメタシャングリラの構成員は商売にも心血を注いでいる。 「…そうかよ、なら俺はいつも通り、自分の信念に従って戦うまでだ!行くぜ!!」 「あたぼうよ、組織に盾突く不届き者にゃ咲かせてみせます血と火の花を…烈火軍団防衛隊長テリジノ・フォムライザー、いざ参る!!!!!」 そう言うとゼロとフォムライザーの両者は戦闘態勢に入り、互いに向かって駆け出した。 「コマンドアーツ!」「ダイノカーニバル!!」 ガキキキキキキキキキキ!!!!!!! ゼロの凄まじい連続斬りに、フォムライザーは自らの腕の先に付いた爪で応戦する。 ブンッ!! フォムライザーがゼロの頭上に腕を振り下ろそうとしてきたのでゼロはバックステップでこれを回避。 ズガガガガガガガガガガ!! 地面に直撃したフォムライザーの爪から伸びるように地割れが発生していく。 「チッ…!」 回避はできたもののゼロはその威力に歯噛みする。 「どうでい、これが我が工場で製造した俺っちの追加装備『ダイノクロ―2』! この切れ味と打撃力、とくと味わわせてやらぁ!!」 以前フォムライザーの爪は刀のような形状の「ダイノクロ―」だったのだが、メタシャングリラに配属されてからはこの工場で新たに製造したこの「ダイノクロ―2」に換装した。 「ダイノクロ―2」は「ダイノクロ―」に比べ厚さと重量があり、攻撃力と攻撃範囲共に大幅に上昇しているのだ。 「当てられるものなら当ててみやがれ!舞吹雪!!」「ツイストクロ―!!」 ザシュザシュザシュザシュザシュ!! ゼロはクレーネルのラーニング技で自身を中心として竜巻状に尖った氷の刃を飛ばす回転斬り「舞吹雪」を繰り出しフォムライザーはダイノクロ―2による連続回転斬り「ツイストクロ―」で応じる。 結果互いに全身の至る所にダメージを負い始め、しばらくすると互いに距離をとる。 「やるな…!」「てめぇこそ…!」両社は互いににらみ合い、その後幾度となく衝突。 フォムライザーは機動力も秀でており工場の壁や空中に浮かんでいるビーブレイダー等のメカニロイドや輸送艦、戦艦などの足場を機敏に飛び移りながらゼロに肉薄していく。 カピラーバのホバー移動も高速ではあるがこれは移動、回避手段で地上すれすれでの移動であるのに対し フォムライザーは攻めの手段でありあらゆる角度から猛襲を仕掛けてくるのだ。 またフォムライザーの武器はダイノクロ―2と両腕の火炎放射器のアームバーナー、尾の先のテールバーナーだけではない。 ナヴァラーク程ではないが鋭い牙を活かした噛みつきも強力であるし、尾はそれ自体が鞭の役割を果たし、足の爪も十分強力な武装でそれを活かした飛び蹴りも繰り出してくるのだ。 しかしゼロも負けてはいない。 フォムライザーの技には己の剣技とラーニング技で上手く対処して反撃を加えていく。 両者の互いに譲らぬ戦いは次第に白熱していき、周辺に浮遊しているメカニロイドや 輸送機、戦艦等は彼等の攻撃に巻き込まれては墜落し地上で大破していった。 そしてある時… 「おおおおおおおお!!!!!」「でりゃあああああああああ!!!!!!!!!!」 ガキィィィィィィィィィィィィィイン!!!!!!!!!!!!!! フォムライザーが乗ってきた戦艦の上で、ゼロとフォムライザーの互いの技がぶつかり合い、その衝撃に耐えきれず戦艦は地に落ち始める。 ヒュー…ドガァァァァァァァァン!!!!!!!! 墜落のその瞬間まで斬り合っていたゼロとフォムライザーは戦艦が地面に激突する際その場から離脱。 墜落後、粉塵が立ち込める中両雄は睨み合う。 「…もう十分だな…」 先に口を開いたのはゼロだった。 「なぁ~に言ってんでい!こっからが本番でい!!」 満身創痍ながらもフォムライザーの闘志は全くぶれていないようだった。 「いいや、もう準備は出来たって事だ!はぁぁぁぁぁぁ…!!」 ゼロがセイバーにエネルギーを集中させるとセイバーのビームの発生源にこの戦いで大破したメカの残骸が集まっていく。 その様子はモスミーノスの特殊武器「スクラップシュート」のチャージ攻撃のようだった。 先程の戦いで大破したメカの合計の質量はそれこそ凄まじく、それらがゼロの手元1ヶ所に集約していく。 やがてそれらのスクラップは大剣の形を成したが、それは剣と呼ぶにはあまりに重厚長大だった。 あたかも高層ビルを構成する壁を1つ取ったかのようである。 「躯装破!!!!」 ゴォッ!! ゼロはスクラップの大剣でフォムライザーに斬りかかった。この技はエレキドナーのラーニング技である。 「ぬおおおおお!!!8エージェント3位のパワーを…舐めるんじゃあねぇーっ!!!!!!!」 キィィィィィン!!!!!!!!! フォムライザーは両腕の爪をクロスさせて躯装破を受け止め、暫し押し合いになった。 フォムライザーの足元の地面が陥没し始める中、彼は踏ん張りを効かせ…躯装破を弾き返したのであった。 「ぬおっ!?」 ゼロは「大剣」を持った状態で大きくのけぞり始める。 この状態を見ればゼロはこのままみっともなく転倒すると誰もが思うだろう。 フォムライザーもそうだった。 「貰ったぁーっ!!!!!!!!!!!」 ダッ!!! そんなゼロ目がけてフォムライザーは駆け出す。 フォムライザーの凶刃がゼロに迫ると思われた時… 「何てな!!」 ブオン!!!! ゼロは足を踏み出し前のめりになり再度「大剣」を振り下ろした。 後ろにのけぞった体勢から振り下ろしたので勢いが付き技の威力は倍増、かつフォムライザーの足は両方とも地についていなかったため今度は踏ん張りが効かず更に攻撃をすべく飛び掛かる最中だった為ガードも遅れ直撃を受ける事に。 ドォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!! ゼロの振り下ろした「大剣」はフォムライザーを叩き切ると同時に大地を揺るがし大きく陥没させ巨大な地割れも発生させた。 「お、俺っちの部隊の…物量を…逆手に取るたぁ…天晴でい…」 そう言い残して機能停止した。 「お前の言う事も全く間違っているとは思わんが…一握りの下らない輩の利益や道楽の為の無用な戦いで大勢の人々が傷つけ合い悲しませ合う… そんなことが許され美化されまかり通るような事があっていいはずが無い… あっていいはずが無いんだ…」 一人呟くゼロ。 ミッション終了の報告を聞いたオリジナルシエルは… 「兵器の製造と出荷の停止の両方を確認…これで各地の暴動はこれ以上は激化しないはず… どうして人間は戦いと争いの歴史を繰り返し続けるのかしら… それでも私は諦めない…武器の力ではなく科学の力で平和を勝ち取る事を…!」 メタシャングリラとの戦いや各地での暴動を悲しみながらもそうした戦いを自分なりの方法で解決する事を諦めないのであった。 同じ頃プーパーは… 「ガァーハッハッハ!!!!!!レプリロイド専門風俗は大当たりでっせ!この儲けで新たな市場をどんどん開拓したるさかい!!!」 ハンター達が重要拠点を攻略し始める際、ハッカー系サイバーエルフによって重要拠点とメタシャングリラ本拠地の通信にはタイムラグが生じるようになっている。 その為彼が資金源である兵器工場が潰された事に気付くのはもう少し時間がかかる事になるのであった。

第十一話「信仰は儚き人間の為に」

「氷の聖都」とは、メタシャングリラが寒冷な気候と険しい地形が特徴の山岳部に築いた聖都であり、 フィースィーを開祖とする新興カルト教団「真幸(しんこう)教」の重要拠点である。 真幸教の総本山と言っても過言は無いが、フィースィーも含めた教団上級幹部はそこにはおらず、メタシャングリラ本拠地に身を置いている事、 それによって彼等が一層信徒から神聖視される効果がもたらされた事を付け加えておく。 また、近郊にはサイバーエルフやレプリロイド、メカニロイド、他あらゆる機器のエネルギー源となるEクリスタルの採掘場「氷の洞窟」もあり、商業的・工業的な側面でも重要な役割を果たす。 その氷の洞窟の最奥部… 氷と水晶に囲まれた幻想的かつ広大な空間の中で、少女型レプリロイドが玉座に座する大柄なレプリロドに身を寄せて報告していた。 「隊長、街に攻めてきた例の邪教徒の集団は先程完全に壊滅させましたわ」 報告を受けた大柄なレプリロイドはそれに応じる。 「フフ、奴等とて戦闘・諜報のどちらでも決して劣ってはいなかったそうだが…君のナビゲート能力と我が隊の戦闘力のおかげだな。ともあれこの聖域はまた守られた訳だ…」 そして少女型レプリロイドは恍惚とした表情と声で言う。 「誰にも…この美しい聖域は…汚させはしませんわ…」 大柄なレプリロイドは少女型レプリロイドに彼女と同じ程の恍惚とした口調で返す。 「君の美しさには敵わないよ…」 それに対し少女型レプリロイドも変わらず恍惚とした口調で応じる。 「まあ隊長ったらベタですわ…それを言うと隊長のボディに光る『ハンマーグレイシャー』にも及びませんわ」 「ハッハッハ、君も言うではないか…」 大柄なレプリロイドは彼女に言う。変わらず恍惚とした口調で。 その後も彼等は暫し身を寄せ合いながら甘い語らいを続けた。 新たな侵入者が報告されるまで… 「元氷結軍団のサイバーエルフの話によりますと真幸教団は信徒達に厳しい戒律を押し付けている一方で司教や司祭といった一部の聖職者達は彼等を食い物にしているみたいです。 だからそんな教団の不正を隠し撮りして公表するのもこのミッションの大事な目的なんです。 もちろん採掘場を落とすのも同じぐらい大事なんですけどね」 氷の聖都に出撃していたその「新たな侵入者」…アクセルとフラジールにパレットが通信を入れた。 「分かってるよ、人の心の弱みに付け込んで甘い汁を吸うなんて許せないよね」 「…確かに…」 アクセルとフラジールは頷き、都市への潜入を試みる。 そんな彼等を上空から見張る影が。 「それ」は彼等を視認すると大きな声を上げた。 「ポアーッ!!!ポアーッ!!!!」 声の主の正体はオウム型メカニロイドだった。 その直後メカニロイドの声に応じる形でアクセルとフラジールの前方に氷結軍団防衛隊兵士達が現れた。 「また現れたな邪教徒め、この神聖なる都を汚す者は許さんぞ!!!」 「…タイダル・マッコイーン…」 彼等の姿を見たフラジールが一言呟く。 というのも彼等の腕には過去のイレギュラーの1人、タイダル・マッコイーンを模した武器「マッコウバークス」が装備されており その姿はさながら腕からマッコイーンが生えているかのようだった。 「僕は直接は知らないけど、結構強いイレギュラーだったみたいだね。 ま、こいつらがそれだけ強いかはともかくとして…ね!」 「…排除…」 そしてアクセルとフラジールは彼等を迎え撃つ。 2人が彼等を次々と撃破していく中、敵に新たに加勢が加わる。 それは如何にもカルト教団といった不気味な白いローブを全身に纏った真幸教団の信徒達だった。 「偉大なる神よ…今貴方の元に…!!」 そう言って信徒達はアクセルとフラジールに襲い掛かるが人間の動きでは彼等に太刀打ちできるはずもなくあっさりと気絶させられた。 その時信徒達のローブの内側から妙な音と匂いがするのを2人は察知し、その正体をすぐ察する。 「爆弾だ!」 そして2人は信徒から奪い取った爆弾も武器として利用しつつ程なくしてこの場の敵を全滅させる。 「まったく、ファナティカの時と言い宗教に頭やられた人間ってのはイレギュラーとちっとも変わらないよ。 とにかく敵兵のDNAサンプルはもちろんだけど…これも貰っとこっと」 アクセルはそう言って先程のオウム型メカニロイドを撃破してそのDNAサンプルを入手した。 そしてそのまま氷結軍団兵士に変身した。 「…これも…」 フラジールは信徒から奪い取った真幸教団信徒のローブを着込む。 こうして両者とも敵の姿となって街へと潜入した。 氷の聖都の外観は全体的には古めかしくかつ不気味な宗教都市ではあるが所々に最先端の機器が見られるという独自な雰囲気を醸し出している。 モニターやスピーカーからは絶えず教団の教えの映像や特殊な音波が流れ続けている。 そんな中アクセルとフラジールが目にしたのは凄惨な光景だった。 それは見るからに戦闘用といった感じのレプリロイドが十字架に磔にされていたり晒し首にされているというものだったが教団の信徒と思しき亡骸も中には見受けられた。 亡骸の多くには「邪教徒」などと書かれた張り紙が貼られたり、あるいは直接書かれていた。 それは遥か昔…人間が「神」という概念を抱いてしまって以来度々繰り返されてきた過ちである。 真幸教信徒の排他性や狂信を雄弁に物語るこの光景に2人が怒りを通り越した呆れの念を抱いていると再度パレットから通信が。 「その先に色んな施設がありますけどその中で行われてる不正を隠し撮りしてください。 特に怪しい所は私が教えますよ」 「じゃあ…始めるか!」「…了解…」 アクセルとフラジールは潜入捜査へと乗り込む。 尚、撮影機器は両者のカメラアイと聴覚センサーであり、彼等が見た物、聞いた音が直接記録され、ハンターベースにリアルタイムでシェアされる。 これには壊される危険性がより低くなる、より自然な動きが可能となり怪しさが減る…といったメリットがあるのだ。 その手法を用いてパレットのナビに従い潜入をした結果、アクセルとフラジールは忍び込んだ先でそれぞれで不正の証拠を掴んだのだが… 何故かどちらも程なくしてバレてしまったのだ。 アクセルが見たのは麻薬の原料となる植物の栽培だった。 精神的に追い詰められた人間に麻薬は効果てきめんであり、また使用した者が禁断症状により新たな麻薬を欲するようになる事が上の者に利用されるのは言うまでもないだろう。 当然真幸教団の聖職者は一般信徒に麻薬を麻薬と分からないように接種させている。 その方法を調べようとした矢先の事… 「ポアーッ!!ポアーッ!!」 入り口で撃破したものと同種のオウム型メカニロイドが敵に変身したアクセルの間近に寄り、大きな鳴き声を発したのだった。 「ほー、さっき副隊長から通信を聞いたんだが…テメーだったか!やっちまえ!!」 「バレるの早っ!!ま、バレちゃ仕方ないか…!」 アクセルは正体を現して不敵に笑い…その場の敵を瞬く間に一掃して再度氷結軍団兵士に変身し、次の施設へと向かう。 フラジールが目にしたのは聖職者達による酒池肉林の乱痴気騒ぎだった。 一般信徒に清廉潔白である事を強要する一方上に立つ聖職者達は女性の一般信徒や女性型レプリロイドを隠れて性の対象にしているのである。 これを見たフラジールは激しい嫌悪感を覚えたのだがしばらくすると… 「おいそこの女!俺達の秘め事をチラチラ見てただろ!?見たけりゃ見せてやるよホラホラホラホラホラ…!!」 フラジールの事をすぐに嗅ぎつけた氷結軍団兵士や聖職者達が彼女に迫りくる。 「…死ね…」 結果凄まじい殺気を放ったフラジールがその場の敵を一掃し、次の潜入先へと進む。 それ以降も潜入した先々で敵の動きがあまりにも早くアクセルとフラジールの事を嗅ぎつけ、 門前払いされる事すらあった。 「うーん、何ででしょう、すぐバレちゃいますねー。敵にも優秀なナビゲーターでもいるんでしょうかね?私みたいに…」 「じゃあ僕の『召喚能力』を使うよ」 そう言うとアクセルはオウム型メカニロイドのコピーを出現させた。 それを複数体出現させ、街へと放つ。 アクセルが呼び出したメカニロイドのコピーは彼の分身となり意のままに操る事が出来るのだ。 「よーしカメラゲット!潜入捜査再開!!」 アクセルが呼び出したオウム型メカニロイドのコピーは本物を破壊してすり替わっていく。 これによりすぐ通報される事が無くなる他、コピーメカニロイドも隠し撮り機能を持っており 潜入の効率は遥かに上がった。 それでも敵がそれを搔い潜り2人の正体をバラして襲い来る事も度々あり潜入捜査は互いの手の探り合いとなっていった。 アクセルとフラジールが広場で合流してその先へと進もうとした時だった。 「いい加減にしろ邪教徒共!!この先には絶対に進ませんぞ!!!」 建物の中や屋上から、路地裏から、物陰から、ブリザード・ヴォルファングを模したランチャー系武器「フリーズダンス」を所持した氷結軍団兵士が2人の前にぞろぞろと現れたのだ。 「へー、それってこの先に見られたくない物があるか…ボスがいるって事だよね…? ってな訳で…行っくよーっ!!!」 「…了解…」 アクセルとフラジールが背中合わせに立ち、彼等を囲む氷結軍団兵士が一斉に砲撃を開始。 暫しの間激しい銃撃戦が展開されたが氷結軍団兵士が全滅するのにそれ程時間は掛からなかった。 そこでまたパレットから通信が入った。 「この先の道は二つに分かれてて一方は教会…そこで敵は指令を出しているようですね。 もう一方は採掘場…Eクリスタルの採掘を行っているみたいです。 どっちも敵の戦力はこれまで以上…よーく気を引き締めてくださいね!」 「分かってるって!」 アクセルが応じ、その後フラジールは教会へ、アクセルは氷の洞窟へと向かった。 フラジールが教会に突入すると… 「「「「「「「「「「「ボェェエェェェエエエ~♪」」」」」」」」」」」 礼拝堂で待ち構えていた氷結軍団兵士が一斉に聖歌を歌い出した。 彼等の歌はあまりにも下手糞であり、これを聞いたフラジールは頭の中を搔きまわされるような感覚と大きな地震に巻き込まれたかのような感覚を同時に覚えた。 「…五月蝿い…」 フラジールは両手で耳を塞いだがその機動力は全く衰えず壁を駆け上がり跳躍し、 スカートから放つ刃や踵に取り付けられた刃を活かした蹴りで瞬く間に彼等を全滅させた。 礼拝堂の奥には「懺悔室」と書かれた部屋があった。 その奥から一際強大な反応が出ている。 「…ここに…」 フラジールは懺悔室に向かう… 氷の洞窟では… アクセルを出迎えたのはスクリュー・マサイダーを模したランチャー系武器「マサイランチャー」を所持したディグレイバー達だった。 「オラ達に刃向かうとは…さては邪教徒だなオメー?」 「だーかーらー、何でそうなるの?」 ディグレイバーの言葉にアクセルは呆れた様子で応える。 「問答無用、粛清だべぇーっ!!」 「ああもう!!」 ディグレイバーが一斉砲撃を開始するが瞬時にアクセルに屠られた。 その先でアクセルの前に出現したのはライドアーマーに乗った氷結軍団兵士や メットールを始めとした土木作業用メカニロイド、モルボーラーやヘルクラッシャーも含む採掘用メカニロイド達だった。 そんな中アクセルがふと横に目をやるとそこには巨大な水晶塊があった。 「ここは氷と水晶の所為でよく滑るよね…だったらそこを利用させてもらう…よ!!」 ドン!! アクセルは水晶塊を突き飛ばした。 スィーーーー… 結果として水晶塊は勢いよく滑り出し… 「ギャアアアアアアアア~ッ!!!!!」 グシャグシャグシャグシャグシャ!!!!!!! 滑る水晶塊の先にいた敵が水晶と壁に挟まれ圧死していった。 さらにアクセルが進むと今度はレールの上のトロッコを目にする。 「こりゃいいや!」 アクセルはそれに乗るとトロッコは勢いよく滑り出す。 「それそれそれーっ!!!」 ズドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!! 「だ、誰か止めろぉ~っ!!」 アクセルは驀進するトロッコの上で両手でアクセルバレットの高速掃射を行い行く手を阻む敵を撃破していく。 そして暫く進んだ時だった。 アクセルは前方の行き止まりを視認し、トロッコから飛び降りた。 しかしトロッコの勢いは止まらず… 「ドォォォォォォォォン!!!!!!!!! 進路の先にある巨大な扉を突き破ったのだ。 「……!!!!」 扉の先から感じる極めて強大なエネルギーを察知したアクセル。 しかしそれに気圧される事なくアクセルは先へと進んでいく… 教会の懺悔室では… そこは暗く狭い部屋で、前方には小さな覗き穴のある仕切りがあった。 そして仕切りの向こう側から声がする。 「あら、貴方はここに踏み入った邪教徒ですの?私(わたくし)は例え邪教徒の方でも懺悔の言葉は聞きますわ」 声の主は女性であり、冒頭で氷の洞窟で報告を行っていた少女型レプリロイドである。 「…懺悔ではなく、断罪…」 フラジールは底冷えするような声で応える。 「あら、やはり邪教徒には我が真幸教団の崇高な教えは分かりませんの?」 少女型レプリロイドの言葉にフラジールは反論する。 「…崇高?…この教団は、汚い…強欲…嘘つき…これが証拠…」 フラジールは手にした携帯端末を覗き穴にかざし、先程記録した映像を少女型レプリロイドに見せる。 これは彼女にも精神的ダメージを与えたのか、返答はやや遅れた。 「………し、神聖なる真幸教の聖職者が邪な意思でそのような事をなさるはずがありませんわ… きっと何か深い理由があるはず…その信徒が罪を犯したのか、もしくは試練を課しているのか…そうに違いませんわ!!」 この言葉を聞いてフラジールは相手がサイバーエルフで教団側に都合の悪い解釈が出来なくされている事を察する。 そして一言。 「…哀れ…」 すると少女型レプリロイドは穏やかだが怒りを込めた口調で応じる。 「邪教徒に哀れまれる謂れはありませんわ!懺悔する気がないのなら、粛清するまでの事ですの…!」 そして少女型レプリロイドは手元のスイッチを押した。 それに伴い仕切りが床に収納され、部屋の照明や中の機器の電源が入り少女型レプリロイドと懺悔室がその全貌を現す。 懺悔室はモニターやコンソールのある指令室であり、少女型レプリロイドは青い瞳と水色の髪のおさげ頭とアーマーで、背はフラジールより若干小柄だった。 そして彼女は名乗る。 「自己紹介が遅れましたわ。私は5ガーディアンのパステル、氷結軍団の副防衛隊長ですの。 教団に仇成す邪教徒は神様に代わって罰を下しますわ…神様、どうかご加護を…!」 パステルはそう言って両手でお祈りのポーズをする。 「…祈るだけなんて、無意味…」 攻撃を繰り出そうとするフラジールにパステルは異を唱える。 「そんな事ありませんわ…今から、雹ですわ!」 バラバラバラバラバラ!!!!! するとパステルの言葉通り、部屋の天井近くの位置に雲が発生し、大型の雹を勢いよく降らせたのであった。 「…(奇跡?いや、そんなはずはない…)」 パステルが祈った通りの事が起こった事に対し、フラジールはそれが本当に神の力なのではない事をすぐに察した。 その主な根拠は神の存在はこの時代でも未だに科学的に証明されていない事と 過去の大戦時の時点で単体で大災害を起こせるレプリロイドやメカニロイドは全体の割合の中では極少数であるものの数にすると大勢いる事である。 そしてそのまま元を絶つべくパステルに肉薄しようとしたが… パステルは左腕をアイスノー・イエティンガーを模したインジェクター系武器「イエティンフリーザー」に換装し、直後そこから凄まじい勢いで冷気を噴射してきたのだ。 結果フラジールは一瞬で全身が氷漬けとなってしまった。 「隊長のお部屋のコレクションが増えますわ…」 笑みを浮かべるパステルだった… 氷の洞窟では… 扉の向こうは広大な部屋があり、壁際には何体もの氷漬けにされた戦闘用レプリロイドが飾られており、奥には巨大なサーバーがありその前に玉座があった。 その玉座には冒頭で報告を受けた大柄なレプリロイドが座っていた。 彼は白と青を基調とした角張ったボディで身の丈は人間の約2倍、頭部はサイのような形状ではあるが スクリュー・マサイダーと異なりサイの頭に見える部分からは人型レプリロイドのような頭部がのぞき、どちらかと言うとサイの被り物を被っているように見える。 他にもボディの各所が氷のように見えるパーツに覆われている。 大柄なレプリロイドは玉座から立ち上がり、名乗る。 「S級ハンターのアクセルか…私は氷結軍団防衛隊長レイトゥガ・ライノサイル… 神に代わってこの世の邪悪なる者を滅する執行人である。 神は言っている、全てを救えと…」 アクセルは完全に呆れた様子で返す。 「な~にが神だよ!神なんて実際会った事なんてないしいたとしてもこんなインチキ教団の味方をするもんか! それにね、こちとら神を名乗るイレギュラーぐらい過去に見て来たし倒して来たんだよ! お前達もそいつらと同類だね」 ライノサイルは呆れた様子で返す。 「所詮そいつらは偽物の神、故に加護が無かっただけの事…我が教団と一緒にしないで頂きたい」 これにアクセルはまた呆れた様子で反論。 「信徒から搾取したりプロジェクトエルピスなんて馬鹿げた計画に加担するならそんなの神でもなんでもないね。 これはゼロの受け売りだけど本当の神様がいてそいつが僕達に滅べと言っても僕はそいつと戦ってやるさ。 何でもかんでも神まかせだなんて弱い奴や怠け者…あとは悪党ぐらいだよ」 これを聞いたライノサイルの口調に怒気が混じってくる。 「プロジェクトエルピスはレプリロイドのみの罪にあらず、機械に心を持たせようとした人間の傲慢に対する贖罪である。 人間にも不要な欲を禁じるのはこれまで先人が犯してきた分の罪も我が教団員が贖う為なのだ。 人間とレプリロイドの贖罪が神に伝わり真の救いがもたらされるまでこれは終わらせない…」 「あっそ、じゃあこれは何なの?」 アクセルはフラジールと同じくライノサイルに「真実」を突き付ける。 「より神に近しい聖職者様方のご意思は我々ごときには測り知れない…」 「そこは賛成だよ、僕もぜーんぜん分かんない」 ライノサイルの言葉にアクセルは頷くが、ライノサイルはさらに尋ねる。 「我が教団の教えやプロジェクトエルピスの有難さも分からないのだろう?」 「だから分かんない」 アクセルはこの問いかけにも肯定した。 「いいだろう、その無知故にこの聖域を汚した罪…その身を以って贖うがいい…!」 「分かる気なんてないし…贖うのはそっちの方だよ!!」 ジャキッ! アクセルは2丁のバレットを構え、両方のバレットから連射攻撃を放ちながらライノサイルに迫る。 「アクセルバレット、か…これまで無数のイレギュラーを葬ったそうだが…私相手にそんな装備で大丈夫か?」 「大丈夫、問題ないね!!」 どこか余裕気な様子で問うライノサイルに、アクセルは自信満々な様子でバレットの高速連射を浴びせる。 しかしライノサイルがボディ各所の氷のようなパーツ「ハンマーグレイシャー」でそれをガードするとアクセルの放った弾が自身に返ってくる。 「おおっと…!あの部分に攻撃を反射する効果があるんだな…という事はそれ以外を狙うまでだ!」 しかしライノサイルの反応は素早くショットが来た方向を即座にガードし、 かつハンマーグレイシャーで覆われていない通常の部位に弾が当たっても大したダメージは与えられない。 ドガッ!!!!!「ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」 やがて距離を詰められたアクセルはライノサイルの強烈極まりない膝蹴りを貰う。 ライノサイルの膝にはハンマーグレイシャーが付いており、威力はその分増し、 結果アクセルは高速で吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた。 ヨロ… 虫の息ではあるが立ち上がったアクセルはサブタンクを使い体制を立て直す。 「バレットが駄目なら…力で対抗だ!!」 そう言ってアクセルはシルバーホーンドに変身した。 その状態でライノサイルにがぶり寄るアクセルだったが… 「う…!く…!この…!」 シルバーホーンドの力で全力で押しているはずだが、ライノサイルは微動だにしない。 そしてアクセルが必死に力を込めていると… 「うるさい」 バシィッ!!! 「うわああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」 ライノサイルがシルバーホーンドの巨体を先程と変わらない速度で吹っ飛ばしたのだ。 再度壁に激突するアクセル。 「力でも駄目なんて…!」 その頃教会にて。 氷漬けになったフラジールに近づくパステルだったが… バリィィン!!! フラジールが自信を覆う氷を砕いたのであった。 「きゃっ!!」 無数の氷の破片がパステルの視界を塞ぎ、隙が出来た。 フラジールはそれを見逃がさずパステルを刻み始めるがパステルはダッシュジャンプで距離を取り左腕を標準装備に換装すると再度雹を降らせ始める。 「…ホーミングエッジ…」 フラジールはカピラーバから得たスキル「ホーミングエッジ」を発動。 これは燃える刃を袖から放つ技で追尾性能がある他標的に突き刺さるとその標的を燃やし続ける。 この技でフラジールが雹を相殺していると彼女の内に宿るクレーネルが声をかける。 「上を見て」「…上…?」 フラジールが天井に目をやるとそこには何らかの装置が埋め込まれていた。 「あれが恐らく雹を降らせている装置…あれがパステルの動きを認識して空気中の水分に作用して雹を降らせるのが彼女の起こす『奇跡』の正体よ」 「…了解…」 フラジールが装置に狙いを定めるとパステルはすぐにそれを察する。 「させませんわ…!」 パステルは再度左腕をイエティンフリーザーに換装し冷気を放つが今回は冷気が届く前にフラジールに後ろに回り込まれ反撃を喰らう。 ただパステルも大人しくやられるわけでなくすぐに距離を取って反撃に転じる為フラジールは攻撃の対象を雹発生装置にするかパステルにするか臨機応変な対応を強いられた。 氷の洞窟にて。 手をこまねいているアクセルの内に宿るカピラーバが彼に伝え始める。 「ライノサイルのあのパーツ『ハンマーグレイシャー』は光学兵器を跳ね返す効果があるし、力勝負なんて愚の骨頂ズラ。 ライノサイルは炎に弱いのに加えオラの特殊武器『カピバランチャー』は光学兵器ではないからきっと効くはずズラ」 「分かったよ、それじゃあ反撃開始だ!」 ボヒュボヒュボヒュボヒュボヒュ!!!!!ズドドドドドドドドドド!!!!!!! 「ぬうううっ…!!」 ミサイルが何発か直撃したライノサイルは多少ぐらついた。 明らかにこれまでの攻撃より効いている。 「…これはもっと本気で行く必要があるな…」 ダンッ!!「うわ!!」 ライノサイルが地面を強く踏み鳴らすと震動で砲撃しているアクセルが転倒した。 「フリーズタックル!!!」 ライノサイルがすかさず全身から冷気を放ちながら体当たりを繰り出す。 「危なっ!!」 アクセルはローリングでこれを躱し反撃に転じるもライノサイルが壁に衝突した衝撃による震動でまた転倒してしまう。 単なる足踏みや壁への体当たりでこちらの移動や攻撃を阻むライノサイルのパワーはやはり脅威である。 それ以降攻撃を繰り出そうとするアクセルとそれを阻もうとするライノサイルの攻防戦が暫し続いた。 しかしある時ライノサイルが大地を踏み鳴らす瞬間に… 「今だ!!」 地面が揺れる瞬間アクセルはジャンプし、ホバリングを発動。 これによってアクセルは転倒をふせぎすぐに反撃できた。 しかし通常時のホバリングの滞空時間には限界があり、未だ苦戦を強いられる。 そこでアクセルはホワイトアクセルを発動。 そして僅かな隙を突いて部屋の上まで壁蹴りで登り、そこから滞空時間に限界の無いホバリングを発動し、その状態でカピバランチャーの砲撃を開始したのだ。 「これですっ転ぶ事は無いね!そらそらそら!!!!!!」 「偽の神の力を使うとは忌々しい…!そんな輩にやられる訳にはいかん!!おおお!!」 ライノサイルはこれまで以上に地面を強く踏み鳴らしたり壁を強く殴りつける。 すると部屋の上から氷や水晶、岩の破片が降ってくる。 「直接攻撃じゃなくてもこれなんて…!」 アクセルは空中を移動しつつ砲撃を行い、ライノサイルは地上を移動しつつ時折地面や壁を叩いて岩や氷、水晶を降らす。 両者の攻防戦は一層激しさを増していった。 その頃教会では… 「…しぶとい…」 フラジールはパステルに何度も大ダメージを与えたはずだが、その都度パステルは立ち上がってくる。 「平和の為…信徒の為…倒れる訳にはいきませんわ…!」 その姿にフラジールは不覚にもトラストを思い出してしまう。 彼もまた、精神力による補正が大きく従来なら戦闘不能になるダメージにも耐え、自身の性能を超える敵を撃破してきたのだ。 一方でパステルはその面ではトラストに通じるものがあるがサイバーエルフの影響で真幸教やメタシャングリラにとって都合のいい考えが植え付けられてしまっている。 この事を察したフラジールのメタシャングリラやプロジェクトエルピスへの憤りはより確かなものとなった。 「…絶対に止める…」 フラジールが身構えたその時だった。 「ああ、やはり世界や教団への愛では、力不足、という事ですわね… なら、隊長への愛で戦いますわ…!!」 そう言うとパステルは祈りのポーズをとる。 するとこれまでとは比較にならない程の巨大な雹が降り注ぎ始めたのだ。 天井の雹発生装置はパステルの動きのみならず技発動時の感情の強さも反映していたのだ。 「どうですの!?これが私の隊長への愛の大きさですわ!愛の力に勝る力など…ありませんわ!!」 ドガッ!!ドガッ!!ドガッ!! 「愛の…力?」 雹を躱しながらフラジールが呟く。 するとクレーネルがフラジールの中で言う。 「あの娘は、この部隊の隊長、レイトゥガ・ライノサイルと『そういう関係』なのよ」 「……」 そしてフラジールはパステルを見据える。 「貴方には分からないでしょうね、お人形さんみたいに情に乏しい貴方に、私の愛が!!!」 「分かる」 トラストを脳裏に浮かべたフラジールははっきりとした口調で応え上空から襲い来る巨大な雹を両腕で受け止めた。 そして…投げつけたのであった。 「!!!!!!!!」 グシャアアアアアア!!! 雹はパステルに直撃し彼女の全身を砕き今度こそ戦闘不能にした。 「…素の力だけでなく、愛の力でも負けるなんて…私が勝てる道理はありませんわね… ああ隊長、お許しください、教会を守り切れず、天に召される私を…」 そう言ってパステルは機能停止した。 「天じゃなくて、現世で協力してもらうわよ。ライノサイルとも一緒にね」 動かなくなったパステルに対し、クレーネルはそう告げるのであった… ほぼ同時刻、氷の洞窟にて… パステルが撃破された事を洞窟内のコンピュータがライノサイルに報告した。 その時だった。 「…………」 ライノサイルは暫し硬直し、沈黙したが… 「パステル…パステル…ちくしょう…ちくしょおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」 突然狂ったように絶叫した。 覚悟をしていなかった訳ではなかった。 しかしいざ実際に大切な存在を喪うとそれによる精神的ダメージと怒りは想像を絶する凄まじさだったのだ。 「邪教徒め、邪教徒め邪教徒め邪教徒めぇーっ!!!!!許さんぞ!!絶対に許さんぞぉーっ!!!!!!!!!」 ダンダンダンダンダン!!!!!!!!ガラガラガラガラ…!!!!!! ライノサイルが両足で地団駄を踏むが如く地面を交互に踏みつけると天井から氷塊、水晶塊、岩が今まで以上の勢いで降り注ぎ始めた。 「え?え?何なの何なの?何かスイッチ入っちゃったんだけど!?『パステル』って何?」 慌てるアクセルにカピラーバが説明する。 「パステルは5ガーディアンの1人でライノサイルと付き合っているズラ。 そのパステルが今さっき倒されたみたいズラよ。 ライノサイルは普段は8エージェントの中では穏やかな性格ズラが、パステルの事となると猪突猛進の猛獣と化すズラ…!!」 「彼女…か…」 アクセルは呟く。 「邪教徒の貴様なんぞに今の私の気持ちが分かるかぁー!!!愛する者を喪った怒りが!!悲しみがぁーーーー!!!!!!!!!!」 尚も怒り狂うライノサイルは次に部屋の脇に置いてある氷漬けのレプリロイド達を次々とアクセルに向けて投げつけ始めた。 この氷漬けのレプリロイドは自分達の部隊と戦った敵の中でも強力なレプリロイド達であり、 撃破された後にこの部屋で飾られていたのだ。 従ってこれらはライノサイルのコレクションとも言える代物だが今の彼にはそのような事は頭から消え失せていた。 また戦闘力に見合って大柄なレプリロイドも多く、氷漬けにされた事により更に重量と体積が増しているのだが ライノサイルはこれらを先程のフラジールの雹を投げつける時の速度を超えるそれで投げつけ続ける。 よってアクセルは上からも下からもライノサイルの猛攻に曝される事となった。 「分かる…分かるよ…僕も大切な人を喪っているし、一応彼女だっているからね。 だから…僕も負ける訳にはいかないんだ!!」 アクセルは反撃を開始し暫くの間投石及び落石攻撃とミサイル乱射攻撃の激しい応酬が続いた。 両者とも攻撃を喰らえば大ダメージを負い、またこの間ライノサイルが投げつけた氷漬けのレプリロイドの内アクセルに当たらなかったものは天井にめり込んでいった。 そして… 「…ハァ…ハァ…もうサブタンクも武器サブタンクも空っぽだよ…」 カピバランチャーはあくまで特殊武器である為武器エネルギーを消費する。 そして今、そのエネルギーが尽きようとしていた。 アクセル自身も満身創痍である。 ライノサイルもまた満身創痍で、沈黙していたが… 「邪教徒が…邪教徒がぁ~…」 ユラ… ズタボロの身体にも関わらず鋭い眼光で動き出した。 「やっば…!」 身構えるアクセルだったが、その時… ヒュー…ガン!!!ドガン!!!グシャッ!!! 「ガッ!?グホッ!?ゲハッ!?」 これまでの戦いで天井にめり込んだレプリロイドが次々と落下し、ライノサイルに激突し始めたのだ。 「おおお…パステル……天国があるなら…また…一緒…に…」 戦闘でハンマーグレイシャーも既に破損しており落下してきた氷漬けのレプリロイド の激突はこの戦闘の決着の決め手となりライノサイルは機能停止した。 「ハハ…土壇場で…とんだ奇跡…が起きたね…」 ある意味自業自得とも言えるライノサイルの最期に唖然とした様子で苦笑いをするアクセル。 そこにカピラーバが悲し気に事情を説明する。 「ライノサイルはサイバーエルフで洗脳される前はメタシャングリラと戦っていたズラが、 その際にパステルがサイバーエルフで操られ、結果彼女を討つという選択肢が選べず 自分からサイバーエルフの支配を受け入れたズラ。 パステルは元から愛情深い心の持ち主でライノサイルも元々は温厚な性格で本当だったら こんな酷い事をするような奴等じゃないズラ。 サイバーエルフを使用されてからは互いを想う気持ちや平和や秩序を重んじる面は変わらなかったズラが、只認識だけがずらされてメタシャングリラと真幸教団に従うようになってしまったズラよ…」 「そう…なんだ…」 単なる凶暴な殺戮マシーンや感情の無いメカニロイド同然になるならともかく 元の性格を保ったまま敵の都合に合わせた考えを強いられたライノサイルとパステル。 アクセルはそんな彼等からレッドアラートの事を思い出し、どこかやるせない気分になった。 そしてカピラーバはライノサイルの残骸に向けて言う。 「後でかつてのように共にメタシャングリラと戦うズラ。その時はパステルも一緒ズラよ。 それこそが贖罪ズラ…」 その後アクセルとフラジールは真幸教団の一般信徒に真実を暴露した後に氷の聖都を後にした。 「そ、そんな…我々は騙されていたなんて…!!」 愕然とする一般信徒達。 それから暫くして街のとある建物の中で… 「おい!やべーぞ、俺達の不正がバラされちまったぞ…!!」 「応援を呼ぶぞ!!教祖様に連絡だ!!」 「何でだ!!何で繋がらねーんだよおおおおおお!!!!!!!!」 通信室では聖職者達が慌てふためいていた。 その時そこに怒りの一般信徒達が押し寄せてきた。 「よくも騙したあああああああ!!!!!!!騙してくれたなあああああああああああ!!!!!!!!!!!!」 「ギャアアアアアーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!」 ボカスカボカスカボカスカ… 氷の聖都でのミッション終了後、街には連邦政府軍が派遣されたのだが彼等が目にしたのは冒頭で氷結軍団に処刑されたレプリロイドや 戒律に違反し処刑された信徒と同じ目に遭っていた聖職者達の末路だった。 これに政府軍は激しい嫌悪感と呆れを感じた。 この事を報告されたオリジナルシエルは… 「人の心の拠り所になるはずの宗教が人を騙し、傷つける事になるなんて人間はどれだけこの過ちを繰り返せば分かるのかしら…? もし本当に神様がいてもお嘆きになるに違いないわ…」 同じ人間であるが故、彼女も深い悲しみを露わにした。 一方、メタシャングリラ本拠地の一室にて… フィースィーが携帯端末でバイルと交渉中のヘルシャフトから何らかの情報を受け取っていた。 「所詮神など人間を創ったのではなく人間に創られた概念に過ぎない… 私は神の名を借りて信徒達から搾り取ってきましたが本当にこれらの力が手に入れば我々は神をも超えた存在になれる… 虚構ではなく本当に人知を超えた力で愚民共を支配する快楽がどれ程のものか、楽しみですねぇ… ホッホッホッホッホ…」 情報の内容を見たフィースィーは嫌らしい笑みを浮かべ静かに胸を躍らせるのであった…

第十二話「サイバーシティは眠らない」

王宮のような広大かつ豪華な部屋にて… 「ヘルシャフト以下、メタシャングリラ幹部一同、入室の許可をお願いいたします!!」 「入れ」 部屋の外よりヘルシャフトの声が響き、部屋の主はそれに応じる。 ザッザッザッザッザッ…ピタッ 「「「「「ハハ―ッ!!!!!!」」」」」 ヘルシャフトを先頭に幹部達が足並み揃えて部屋に入室し、玉座に座する男の前に到達すると全員が勢いよく首を垂れた姿勢で跪いた。 玉座の男は歳こそ若いが体型はファートに負けず劣らずの肥満体型で顔貌や全体の雰囲気から小物臭さがにじみ出ている。 「で、首尾はどうだね?」 太った青年がヘルシャフトに問いかける。 「ハッ!!」 ヘルシャフトは幹部達に合図を送ると幹部達は次々と報告を始める。 「これが今回のアガリですわ」 プーパーが太った青年に大金や豪華な貢ぎ物を献上する。 「真幸教団の信仰対象の陛下への移行、並びにファナティカの宗教団体の真幸教への改宗、共に完了いたしました」 フィースィーが報告すると共に証拠の書類を提示し、宗教団体からの献上品を献上する。 「私めの賢明な情報操作の甲斐あって陛下の支持率が100%に到達いたしました」 タードが報告と共に所持した携帯端末でその証拠を提示する。 「私が今回新たに開発いたしました人間にも効果があるサイバーエルフでございます。 これで人間も思いのままですぞ」 Dr.Vが最新のサイバーエルフを出現させて説明する。 「ハッハッハ、大儀であった!褒めてつかわす」 報告を受けた太った青年はふんぞり返って大笑いしつつ彼等を褒める。 「ハハッ有難きお言葉!陛下からお褒めの言葉を頂けて至極光栄でございます!」 ヘルシャフトは彼らしからぬへりくだった笑みを浮かべつつ低姿勢で応じる。 「ククククク…プロジェクトエルピスも無事実行されハンターもメタシャングリラも今や我が支配下… 加えて誰もかれもが俺を支持し万一俺に不満がある奴がいてもサイバーエルフで思いのまま… この世界はもう俺の天下だ!!!俺に怖い物など何もなーい!!!!! 逆らう奴など誰もいなーい!!!!!出来ない事など何もなーい!!!!!!!! ハァーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!!!」 完全に勝ち誇った様子で大笑いする「陛下」こと太った青年。 彼はその後も他者に威張り散らし金銀財宝に囲まれ美女を侍らせ美食を貪り贅沢の限りを尽くすのであった。 ……… 「ハァーハッハッハ…ムニャムニャ…」 実はこれまでの出来事は彼が見ている夢なのであった。 夢とはいってもカプセル型の特殊な装置で見させられている現実とは区別がつかない程のリアルな夢ではあるが。 実際の彼は只の無職であり、現在彼がいるのは轟雷軍団が守るメタシャングリラの重要拠点「生きている都市」の地下深くの暗い広大な空間である。 この空間には彼の眠るカプセルの他にも無数のカプセルが並んでおりその中には彼と同じく自身にとって幸せな夢を見ている人間が眠っていて当然彼等は幸福そうな表情を浮かべている。 「ハァハァハァ…いい夢みてる?もう目覚めたくないよね?ね?」 その様子を不気味な細長いボディのレプリロイドが興奮気味かつ挙動不審な様子で見守っていた… 「生きている都市」とは自動化の研究のモデル都市であるが、メタシャングリラに占領されてからは 働きたくない人間を飼いならす事と日常生活においてレプリロイドを人間の支配下に置く事等の推進を目的に大規模な工事や改装がなされた。 そして現在までに大勢の人間が移住して住み着き始めたのである。 原則として人間は生活の為に働かなければならず、対価である金を得る手段である仕事はその人にとって苦痛である場合が多い。 時には金欲しさに悪事を行う者、職場の環境が劣悪で心身を病む者、仕事に就きたくても就けない者、 事故や病気等で大金が必要になる者、賭け事で多額の金をすってしまう者などが発生し 労働や金を巡る様々なトラブルは常時尽きる事がない。 しかも金もないのに無職でいると「カッコ悪い」「迷惑」などとされてしまうのが世の常だ。 「一生遊んで暮らせる金があれば」「ロボットが代わりに働いて自分は働かずに済むのなら」などという願望は多くの人間が常日頃から抱いてきたのである。 これらの願望が現実になった場合そうした人間は仕事を辞めてしまうだろう。 メタシャングリラは今回の「生きている都市」の改装に伴いそれが可能になったと謳った。 「レプリロイドが働くので人間は働く必要がない」「それ故にこの街では無職でも恥ではない」などとタードがやる気のない人間、金や仕事のトラブルに巻き込まれた人間達に言葉巧みに宣伝しメタシャングリラ側に付く事、都市の体制に意見しない事などを条件に入居者を募ったのである。 「これでブラック企業ともおさらばだぜ!」 「金の為とはいえオッサンやダサ男の相手すんの正直しんどかったんだよね~」 「危険冒してまでヤクザやる意味ねーわな」 「人間の為に働くのは機械の本分っしょ」 「働いたら負けかなと思っている」 結果として働くのが嫌な者、金や仕事に困った者が甘い言葉に吸い寄せられこの「生きている都市」に移住したのである。 「生きている都市」のAIリボプスは人間が暮らすに当たって余程の贅沢をしなければ従来の機能だけでも中流家庭並みの生活を可能にさせている。 しかしその余程の贅沢を望むとなれば相応の労力が必要となる。 その為に労働力としてレプリロイド達が街に配備され、当然彼等はサイバーエルフで価値観を操作されている。 その結果この街の住人は親ではなくレプリロイドの脛をかじるという構図が出来上がった。 この街ではレプリロイドの「人権」は無に等しく人間の基準ではブラックとされる程に酷使され、 能力の低い者やミスをした者、人間の機嫌を損ねた者が処分されるのは日常茶飯事である。 一方で人間は次第に自堕落になっていき何も考えないようになっていった。 現在ではこの街はサービスの質に合わせ3段階で構成されてる。 一番上は「特別居住区」。 最も好待遇を受けられる区域であり、究極の贅沢と快楽が味わえると言われている。 レプリロイドを使って多額の金を稼いだりメタシャングリラから「優良市民」と認定された者のみが住める区域であり、その区域に住むことを望む市民は多いが 一度その区域に移住した者をそれ以降見た人は誰一人としていない。 その次は「高級居住区」。 高層ビルや商店が並び大勢のレプリロイドが働いている。 この区域に住むのはある程度の贅沢を望む層で1世代に付き1~10数体のレプリロイドが配備されている。 市民はレプリロイドの稼ぎによる収入で金銭を得ておりどれほどの贅沢が出来るかはレプリロイドの稼ぎによる。 一番下は「一般居住区」。 商店の無い住宅街であり、市民はレプリロイドの世話にはならずリボプスのサポートだけで生活している。 この区域に住むのは働く必要が無ければそれでいいと考える層と高級居住区にて何らかの過ちを犯しそのペナルティとして飛ばされた層に分かれている。 その一般居住区に今、ヴィアとダイナモが突入した。 ウー!ウー!ウー!ウー! けたたましくサイレンが鳴り響き、壁や床がせり上がり中から砲台が現れ、路上の至る所にバリケードが出現し、上空からはドローンが襲い来る。 「ケッケッケ、またファートの事を気にしない馬鹿な賊がやってきた♪さあて、今回は何分持つかな~?」 家の中から市民は楽観視していたが… 「ハッ、これじゃ準備運動にもなりゃしねぇ!!」 「こんなの傭兵やってて飽きる程見て来たんでね!」 次から次へとトラップを突破していくヴィアとダイナモ。 「な…こいつら今までの連中とは違うぞ!このままじゃ突破され…」 程なくしてヴィアとダイナモはあっさり一般居住区に仕掛けられた数々のトラップやメカニロイドの攻撃を突破した。 「嘘だろ!?突破されちまった!!だが高級居住区はこうはいかないぞ…!」 ヴィアとダイナモの動向を、市民達は固唾を飲み見守る。 一方、ヴィアとダイナモにエイリアから通信が入った。 「無事高級居住区に突入できたみたいね。次は街の中央にある赤いビルに向かって。 そのビルは『リボプスタワー』…リボプスの中枢がある建物でこの街の機能だけでなく他の3拠点のサーバーとも連動しているわ。 ここを落とせば敵にとっては大打撃…その分警備も厳重だから、注意して」 「OK、すぐに片づけて来るから、待っててね~♪」 「何だ、お前あのエイリアって女のナビだとやけに乗り気じゃないか」 意気揚々と答えるダイナモにヴィアが言いかける。 「ああ、分かっちまったか、実は俺はエイリアと付き合っててね… 最初俺にとって自分の命も他人の命も価値の無いもんだと思っていたがあいつとの出会いで変わった… 彼女を守りたい、その為にも死ぬ訳にはいかないと考えるようになっちまったんだ。 あいつも出会った時の不愛想な感じと打って変わってよく笑うようになったんだぜ」 「…(まるで俺の前身のレプリロイドとサイバーエルフみたいな数奇な運命だな)」 ダイナモの返答にヴィアは内心過去の自分と重ねるのであった。 高級居住区の警備は一般居住区より遥かに厳重だった。 中でも強力な敵は轟雷軍団兵士であり、彼等は「アステリフォン」というマシンガンを携えている。 この武器のデザインもとある強者を模したものであるが、その強者はまだこの時代には存在しない。 「いくぞ、侵入者から能無しで役立たずの住民を守るんだ!!」 「ああ、奴等は俺達がいないとダメなんだからな!!」 轟雷軍団兵士の人間である筈のここの市民に対する敬意の無い言動に対しヴィアとダイナモは違和感を覚えるというよりも何かを察した。 それはメタシャングリラ軍のレプリロイドが忠誠を誓っているのは全ての人間という訳ではなく飽くまでメタシャングリラの正規構成員だけであるという事である。 アステリフォンからの3方向の連射攻撃を轟雷軍団兵士は大勢で、それも様々な角度から繰り出してくるが ヴィアとダイナモはこれらを軽くいなしてリボプスタワーに突き進む。 やがて2人はリボプスタワー内部へ。 「イレギュラー、発見!」 そこに今度はリコから通信が入った。 「リボプスタワーに入りましたね。タワー内では警備用メカニロイドが無限に出現しますけど タワーの要所要所にあるキーディスクを引っこ抜くとメカニロイドの出現もこの街の機能も停止しますよ! キーディスクの場所は私が案内しますから手分けして抜くもよし、2人で行動するもよしなのでそこはお任せしますね!」 「ハッ、任せとけ、一瞬で片づけてやるよ!!」 「おたくも分かりやすいねぇ」 「そうか?」 リコのナビに対しヴィアが乗り気で対応し、ダイナモがそれに言及する。 リボプスタワー内部の警備は高級居住区の市街地より更に厳重だった。 ネズミ1匹どころか蟻の1匹の侵入も許さぬ程の殺意が施設内に充満している。 だがしかし普通なら侵入者を秒殺する程のメカニロイドの攻撃やトラップもこの2人には苦でも何でもなかった。 「こりゃ手分けした方が早いな!」 「同感」 ヴィアの提案にダイナモが乗り、両者は二手に分かれて行動し敵の猛攻を掻い潜りつつ次々とキーディスクを引っこ抜いていく。 そして… 「貰ったぁーっ!!」 リコの掛け声と同時にヴィアが最後のキーディスクを引っこ抜いた。 その瞬間… ズガガガガガガガガ!!!!!!!! リボプスタワー全体が下方向にスライドするように地中に潜っていき、ついには建物全体が埋まってしまった。 「何だ何だ?」 「やっと収まったみたいだな」 それぞれ別の場所にいるダイナモとヴィアは状況を把握しようとする。 そこにエイリアのナビが入った。 「聞いて!リボプスタワーを制圧したみたいだけどまだ任務は終わっていないわ! この街で制圧すべきポイントはあと2ヶ所… 1つは『リサイクル工場』。 ここでは廃棄したレプリロイドやメカニロイドを分解して得たパーツをこの街に利用したり兵器工場へ送ったりしているわ。 場所はリボプスタワーのすぐ近くよ。 もう1つは特別居住区ね。 選ばれた者だけが住める天国のような区域… でもそれは表向きの話で実際にはナイトメアウイルスと似た反応が検出されているわ。 これは絶対人間にも良くない事が行われているはずよ! リボプスタワーの最下階が一番の近道よ。 二手に分かれるか、それともまた合流して1ヶ所ずつ攻略するかは貴方達に委ねるけど決まったら連絡頂戴」 「…」 「…」 「俺はこのまま1人でいくぜ」 「俺もだ」 ダイナモとヴィアがそれぞれ返答し、それぞれの行き先へ進む。 この時ダイナモは地上にいた為リサイクル工場へ、ヴィアは地下にいた為特別居住区へ向かっていった。 「あああああああああリボプスタワーが制圧されたああああああああああ!!!!!!」 「特別居住区は…特別居住区はこうはいかんぞ…!!」 一方ヴィアとダイナモの快進撃にこの街の市民は恐れおののくのであった… ダイナモが突入したリサイクル工場… そこは兵器工場が「創造の場」であるのに対し正に「破壊の場」とも言うべき場所である。 絶えずベルトコンベアーとプレス機が稼働しており淡々と運ばれてくるレプリロイドやメカニロイド、家電を分解し、得られた部品が自動制御で回収され続けている。 中にはまだまだ新品同様のものもあり、市民の浪費ぶりがうかがえる。 そんな中ダイナモに襲い掛かる影が… 「おっ!?」 敵の攻撃を躱したダイナモは攻撃の主の姿を確認する。 「ギ…ギ…ギ…」 それは内部機構をむき出しにしたレプリロイドやメカニロイドで例えていうなら機械の体のゾンビのような風体だった。 「今楽にしてやるぜ!」 ダイナモが彼等を撃破しつつ進んでいくと次に現れたのは憤怒の形相の巨大プレス機…ナイトメアプレスだった。 ナイトメアプレスは早速その巨体でダイナモを押し潰そうとしてくる。 「こいつは確か姿勢を低くして…と」 ダイナモがしゃがみでプレス攻撃をやり過ごそうとしていると… ポン…ポン…ポン… 何とナイトメアプレスは押し潰し攻撃の最中に爆弾の投下を始めたのだ。 「嘘だろ!?」 迫りくる爆弾に一瞬面食らうダイナモ。 「ええい、この体勢じゃキツいが…アースゲイザー!!!」 シュバアアアアアアアアアアア!!!!!!!! 床からの光の束がナイトメアプレスの内部のコアを一気に破壊し、ナイトメアプレスは爆発四散した。 「こいつがここのボスじゃ…ないよな…」 工場が未だ稼働し、まだ敵が大勢残っている事やその敵の中でも極めて大きな反応がある事から ダイナモは今いる場所がゴールではないと確信し、更に深部へと進んでいく… 所変わってヴィアが向かった特別居住区の警備はリボプスタワーより更に厳重だった。 「いいか!絶対に敵を入れるんじゃないぞ!!!!」 気合の入った轟雷軍団兵士がよってたかってヴィアに猛攻を仕掛けるも… 「邪魔だ邪魔だ!!」 次から次へと返り討ちにされていく。 そしてある地点の巨大な扉の前でヴィアが轟雷軍団兵士を撃破した時だった。 「バ…カめ…この先の警備はもっと生易しいもの…だぞ…突破できる…もの…か…」 そう言い残し彼は事切れた。 「生易しい?妙な事を言うもんだ。ふつう逆だろ」 轟雷軍団兵士の言葉に違和感を抱きつつヴィアは扉の先へと進む。 扉の先にいたのはモノアイの顔がついた人型の上半身とDNAのような下半身をもつ異形の存在… ナイトメアウイルスと思しき存在が空中に無数に漂っていたのだ。 但しナイトメアウイルスの色は黒であるのに対しこのウイルスの色は白である。 「ん、ナイトメアウイルスの色違いか?」 そう言ってヴィアはウイルスを撃破した。 するとウイルスはナイトメアウイルスと同じく球形のアイテムを落とした。 それを回収するとヴィアは一瞬脳裏にとあるイメージがよぎった。 「これは…」 ヴィアの脳裏に浮かんだイメージ…それは「サイバーエルフが作られなくなった世界」であった。 また通路の窓からは無数のスリープカプセルが並んでいるのが見える。 さらに目を凝らしてみると中には気持ちよさそうな表情を浮かべた人間が眠っていた。 「そう言う事かよ…」 何かを察したヴィアは白いナイトメアウイルスを撃破しながら進んでいくと前方にナイトメアウイルスの巨大版というべき四角い巨体…ナイトメアマザーが4体現れた。 このナイトメアマザーも従来より全体的に淡いカラーリングでありその所為か見た目の毒々しさが弱まっているようにも見える。 そんな色違いのナイトメアマザーであるがその攻撃の激しさは本家本元に負けず劣らず、 4体に増えた巨体による体当たりや倍の弾数の炎、水、雷の攻撃は苛烈を極めた。 「幻夢零!!!!」 しかしヴィアはそんな彼等も何とか撃破。 「こりゃキナ臭い匂いがプンプンするぜ!!」 ヴィアは静かに憤り、更に奥へと進む。 その頃リサイクル工場では… 「制御室制御室…と」 今制御室に向かっているレプリロイドは戦闘力、経歴のどちらをとっても一般的とはとても言えないレプリロイド。 更に特殊な事を挙げるとなるとハンターのナビゲーターのエイリアと恋仲であるという事だろう。 名前はダイナモ。 そんな訳で制御室に突入したのであった。 前方を見遣るとそこには溶接マスクのような顔に角張ったパーツや円筒形のパーツで構成されている見るからに工業用といった外観のレプリロイドが段差のある床の高い段に腰掛けていた。 「こいつ…出来るな…!!」 レプリロイドから放たれる見た目に因らぬ威圧感にダイナモが身構えるとレプリロイドは彼の見ている目の前で目を光らせると共に立ち上がる。 「(!…来るか!?)」 より一層気を張るダイナモを相手に、レプリロイドは名乗り始めた。 「傭兵ダイナモか…俺も随分高く買われたもんだ。 俺はウェルド…5ガーディアンの1人で轟雷軍団副防衛隊長、そしてこのくそみそな世界を修理する修理工さ」 「この世界がくそみそなのは否定しないが、それを正すのは君らじゃないのは確かだね」 ウェルドの言葉にダイナモは異を唱える。 「ま、大方ファートの事など気にしない裏社会の奴に雇われたんだろうがまずお前と裏にいる奴から修理してやるぜ」 「俺の雇い主が誰かは好きに想像すればいい。だけどよ、今の俺は譲れないもの、守るべきもののために戦っているんだ」 ウェルドの不敵な言動をダイナモは軽くあしらう。 「自らの信念に従う、か…個人的にそういう輩は嫌いじゃないぜ。 じゃあ己の意地と信念をかけて…やらないか」 「いいぜ、かかって来な!!」 両者は睨み合い、戦闘態勢に入る… その頃特別居住区にて。 ヴィアが特別居住区の深部に進むとマンホールのように真下へと続く通路を発見した。 通路を降りるとその先にはシャッターがあり、ヴィアはそれを通過。 シャッターの先は1辺の長さが約2mの四角いマス目がある四角い部屋だった。 そして…その中には冒頭で特別居住区の人間を見張っていたレプリロイドが待ち構えていた。 レプリロイドは主に黒と黄色のボディカラーでムカデのような外観をしていた。 ムカデがモチーフというとカウンターハンター事件の時のマグネ・ヒャクレッガーと共通しているが このレプリロイドの外見はよりモチーフのムカデに近い。 今いる場所、そしてこのレプリロイドが放つ強大極まりない気配からヴィアは彼がここのボスと確信したうえで問う。 「8エージェントで、轟雷軍団防衛隊長…だな!?」 レプリロイドは興奮気味かつ挙動不審な様子で答える。 「ハァハァハァ…その通り…ついでに俺の名はホーディン・センチピーダ… 待ってたよ…セント―ラをやった事への引導を…俺が渡してあげるからね…ヒヒッ…ヒヒヒヒヒッ…!」 普通なら引いてしまうようなセンチピーダの挙動に対しヴィアは平静な様子で問う。 「…ここの住人の人間は見たところ改造したナイトメアウイルスでいい夢を見させられながらカプセルの中に閉じ込められているみたいだな。 サイバーエルフと同じぐらい下衆い事するじゃないか」 センチピーダは変わらず挙動不審な様子で答える。 「ハァハァハァ…心外だなぁ…こいつらはね…立派に役割を果たしているんだよ?」 「ハッ、意味が分からん」 ヴィアはピシャリと一蹴するもセンチピーダは恍惚とした様子で語り出す。 「こいつらが生み出す電気は増幅させて街に循環させているし、血液は輸血に使えるし、 臓器は移植用に使えるし、大便は肥料に使えるんだよ… こいつらはこいつらで嫌な現実でなくいい夢見れるしお互いにお得だろ?ね? そもそもこいつらは元々ずっと眠っていたいという極端な怠け者か… もしくは無能なのに『世界征服したい』とか『世界中の美女と結婚したい』とか『気に入らない奴全員を殺したい』とか身の丈に合わない過大な欲望の持ち主ばかりでさ… 普通の基準で考えたら役に立たない…むしろ迷惑な連中なんだ… こいつらは高級居住区じゃ満足できないとか言うけどこんな連中に貴重な資源や分不相応な地位を与える訳にはいかないんだよね… そこで…ハァ…ハァ…こうしてここで眠って貰ってるって訳だよ… 無能な者を『使えない』という表現があるけどさ…ハァ…ハァ…それは使う側の実力が足りないって事なんだ… メタシャングリラはね…こんな奴等でも有効に利用する事が出来るのさ…ハァハァハァハァハァ…!」 これにヴィアは憮然として言う。 「ハッ、これで得する奴なんてメタシャングリラ上層部だけじゃないか… こんな装置で騙すような真似をするなんて反吐が出るぜ!!」 センチピーダはまたしてもヴィアに反論。 「現実が本当に現実って保証はどこにあるんだよぉ~?頭がそう認識してるだけだろぉ? ここで眠っている奴等にとっては今見ている夢が現実だし、お前が見ているのが夢で現実はもっと糞って可能性もあるんだよ?」 これに対しヴィアは一切の迷いを感じさせず啖呵を切る。 「こちとら糞な現実は散々味わってんだ、だから俺は今目の前にある現実がどんなんだろうと向き合ってやるぜ!! それとな、『いい夢見させられている』ってのはある意味お前も似たようなもんだからな…俺はこれからその夢から覚まさせてやる!!!」 「夢見てんのはどっちだよぉ~?サイバーエルフ無しで平和を勝ち取るとかそれこそ夢物語だろぉ?…ね?」 センチピーダは負けじと言い返し、両者の間に暫し緊張した空気が流れる… その頃リサイクル工場ではダイナモとウェルドの激闘が繰り広げられていた。 ウェルドがダッシュジャンプでダイナモとの距離を詰める。 「まずは小手調べだ…メルトスパーク!!」 バチバチバチバチバチ!!!! ウェルドは自身の腕に付いた溶接棒を伸ばすとそこから火花を散らせてきた。 溶接用というだけあってこの火花は高温だがこれを黙って受け続けるダイナモではない。 「喰らいな!!」 至近距離で攻撃を繰り出すウェルドにダイナモは堪えながらDブレードで斬りかかる。 「チッ!」「よっ…と」 互いにダメージを受けた両者は再度距離を取った。 「お次は…ボルトの弾丸をお見舞いするぜ!!」 そう言ってウェルドが手をかざすと部屋の天井からマシンガンをロボットアームが現れウェルドに手渡した。 このマシンガンの名は「ヴォルナットバルカン」。アステリフォンと同じく「未来の強者」を模している。 「おおおおおおおらああああああああああ!!!!!!!」 ズドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!!!!! ウェルドのヴォルナットバルカンから放たれる弾丸はボルトの形状をしている。 元より銃身から放たれる弾丸は回転しながら標的に向かって飛ぶのだがこのヴォルナットバルカンはその性質が見事に生かされている。 ダイナモが避けて壁に当たった弾丸は壁の中にねじ込まれていった。 「こりゃあ喰らう訳には…行かない…な!」 ダイナモは駆け回りながらバスターで応戦。 これが暫し続いた時… 「だったら…これだ!」 パカッ! ウェルドの声と共に彼の胸のハッチが開いた。 彼の胸の中にはトイレットペーパーやサランラップのようにロール状に芯に巻かれた鉄板があった。 「インプロヴァイズコンストラクション!!」 ウェルドの叫びと共に胸部の鉄板が飛び出した。 鉄板は絹のように宙を舞う。 そして次の瞬間… パカッ! ウェルドの腰部に取り付けられたホルスターにもミサイルポッドにも見える箱の蓋が開いた。 ウェルドは箱の中から工具を取り出しそれらを使って胸から出た鉄板を加工していく。 「この鉄板はな…足場にも武器にも防具にも…そして移動手段にもなるんだぜ!!」 ウェルドの言う通り、彼の胸の鉄板は壁や床に固定すれば地形の一部になり、斜めに斬れば刃になり、前方に構えれば盾になり、壁に突き刺しその状態で巻き取ると彼自身の高速移動を可能とする。 だがダイナモも負けてはいない。 様々な地形や攻撃に柔軟に対処しウェルドから出た鉄板を掴んでの背負い投げを繰り出すなどといった反撃を加えていき確実にダメージを与えていった。 ある時ウェルドがかなりの量の鉄板を切り離した時、彼の胸部の鉄板が無くなり芯が剥き出しになった。 「そりゃ無限に入るって訳でもない訳だしな」 ダイナモが言うとウェルドは余裕気に反論する。 「いいや、問題ないぜ」 ウェルドは通常時なら閉まっている背中のバックパックの上部の穴を開放した。 そして部屋の天井から先端が細長い管になっているロボットアームが現れその先端が挿入された。 「ハイリマシタ」 「ああ、次は補給だ」 ロボットアームからの音声にウェルドは答え彼の胴体に液状の金属が注がれていく。 「この隙を見逃すほど俺は親切でも間抜けでもないぜ!!」 そんな状態のウェルドにダイナモは攻撃を加えようとするが… 「おっと、野暮な真似はいけないねぇ…!」 ウェルドは1歩も動かずヴォルナットバルカンからの掃射攻撃を繰り出し抵抗する。 結局ダイナモは僅かなダメージしか与えられず鉄板の補給は終わった。 「これで満タンだな…胸の中がパンパンだぜ」 工業用故の頑丈さに加え熟練の技術、そして鉄板の予備もある為ウェルド戦はある程度の持久戦にはなったが ダイナモもダイナモであらゆる技術を身に着けている為徐々にウェルドを追い詰めていった。 「や…やるねぇ…こりゃあ今までここで回収した高級なパーツをケチってる場合じゃ…ないな…! 今こそこれらを使う時…うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」 シュバババババババババババババババババ!!!!!!!!! 部屋の中にハイエンドシリーズやマーベラスシリーズ、更には一般には出回っていない更に高級な合金、 基盤、ギア、バッテリー、増幅器、コアが投下され その直後ウェルド自身と天井と壁から現れた無数のロボットアームによってそれらが組み合わされて1つの形を成していく。 過去の技術「スピードギア」が使われたのではないかと思えるほど一瞬の出来事であり、最終的に姿を現したのは巨大な黒い六角柱でその底部には赤い目のような模様があった。 実はこれも未来の兵器…というより建造物を模しているのである。 「どうだ…これぞこの工場で貯めに貯めた高級パーツをはたいて造った空中砲台…エデンズドア! こいつをどう思う?」 得意気に言うウェルドにダイナモはただ頷く。 「すごく…でかいな…」 「でかいのはいいからさ、今度は俺の番だろ?」 ウェルドは不敵にそう言うとエデンズドアのエネルギーのチャージを開始した。 エデンズドアから感じられるエネルギーは見た目に違わず凄まじくダイナモは身構える。 「(これは新たに入手したこの武器を試すチャンスかもな…俺がこれを使うのは皮肉かもしれんが、 過去へのけじめや決別になるのかな…)」 ダイナモはそう考えた後腕のバスターを別のものに換装した。 その武器の名は「アローバスター」。 エックスのファルコンアーマーを模している。 そしてダイナモもアローバスターのチャージを開始。 限界までチャージした瞬間エデンズドアのチャージも終わり同時に双方からの攻撃が放たれた。 強烈な威力の光芒がダイナモを襲うと同時にダイナモの放った光弾が空中で分裂し、それぞれがウェルドとエデンズドアの急所を正確に射抜いた。 「アッー!!!!!」 結果ウェルドとエデンズドアの両方が機能停止した一方でダイナモは全身が少々焼け焦げた程度で済み勝敗は決した。 「名付けてスピアトリックショット…せっかく溶け合ってくっついた俺とエイリアの絆をサイバーエルフなんかで切断されてたまるか!…なんてな♪」 リサイクル工場の制圧を確認したダイナモはその場を後にした。 時はやや遡り特別居住区にて… 「クローラーホーディーン!!」 センチピーダのボディの側面にあるムカデの脚に当たるアンテナからその本数と同じ数の地を這う電流が放たれる。 それはさながら雷で出来たムカデのようである。 それらがセンチピーダのアンテナから矢継ぎ早に放たれ蛇行してヴィアを襲うがヴィアはそれらを軽快なフットワークで躱しながらチャージショットの連発を見舞う。 「ハァハァハァ…流石セント―ラを倒しただけの事はあるねぇ…これならどうだ!」 ビッ! 次にセンチピーダは2つのアンテナから真っ直ぐに飛ぶ電撃を同時に放った。 しかしこれらはどちらもヴィアがいる位置とは見当違いの方向に飛ぶ。 実はこれらは部屋のマス目の中央の模様を狙っていたのだ。 マス目の模様に電撃が当たると同時に壁がマス目に沿って内側にせり出し、 立方体が切り出されて高速で飛び、ヴィアがそれを躱すと内側の壁に接触すると止まった。 マス目の中央にはセンチピーダの雷に反応するセンサーがあり、最初に彼が放ったクローラーホーディーンは地形にスレスレの位置で水平に進むのでセンサーが作動する事は無い。 「『ルービックホーディーン』…俺自身の高速移動やお前の逃げ場を奪う事…そしてお前を押し潰す事も可能にする技だよ… 逃げられるかな…?そして、俺に攻撃を当てられるかなぁ…!?ハァハァハァハァハァ…!!!!」 「上等じゃないか、受けて立つぜ!」 最初はセンチピーダが同時に飛ばすブロックは2つだったが、ヴィアはこれらを見事に対処し、センチピーダに反撃を見舞う。 このままだと不利と判断したセンチピーダは飛ばすブロックの数を4つ、6つと増やしていき ヴィアの攻撃を阻んだり自らが乗っているブロックを飛ばして高速移動をし始めた。 「ヒヒッ…ヒヒヒヒヒッ…!1歩間違えれば俺自身が潰されちまうが…そのスリルもたまらねぇ…!!」 部屋中を高速で飛来する幾つものブロックの1つ1つの動きを把握しつつ技を放つ事が出来るのは センチピーダの高度な情報処理能力と動体視力、身体能力による。 またセンチピーダはモチーフのムカデと同じく壁や天井に張り付くこともできる為この部屋ではより多彩な攻撃が可能となる。 だがそんな状況でもヴィアは果敢に応戦してくる。 時にブロックを身を隠す為の物陰として奇襲攻撃を繰り出し、時にセンチピーダの注意を引き付ける為フェイクの攻撃をしたりと 性能の高さのみならず技巧にも秀でた戦いでセンチピーダに食い下がったが、ある時… 「…チッ、また喰らっちまった…!」 センチピーダの電撃を再三に渡って受けたヴィアはどこか違和感を覚えたような表情を浮かべた。 「ハァハァハァ…効いてきたようだな…そうだよ、俺の雷は喰らえば喰らうほど、体の麻痺が強くなっていくんだよぉ…!!」 「…道理で体が重いわけだ、三日月斬!!」 ズバッ!! 「ギエッ!?」 自身の雷の効果を得意気に説明してみせたセンチピーダだったが、直後ヴィアの攻撃を喰らう。 それ以降センチピーダはヴィアに電撃を当てる事にたまに成功する事があり、 その都度ヴィアの動きの切れは悪くなるものの、それらが決定打になる事は決してなく ヴィアから手痛い反撃を喰らいダメージを負っていく。 「(おいおいおい、これだけクローラーホーディーン喰らって動けるなんてどうなってんだよぉ~!! 普通なら完全に動けなくなるか、死んでるってのによぉ~~っ!!!!! このままじゃ…負けちまう…!)」 弱体化をさせているはずの相手に追い詰められつつあるセンチピーダはこのままでは勝てないと悟った。 そして… 「こうなったら…奥の手だ、ブロックルーム、解除!!」 「!」 ボガンボガンボガンボガンボガン!!!! センチピーダの声に伴い部屋を構成する全ブロックが爆発し、部屋が消えて両者は下に落ちる。 落ちた先は冒頭の無数の人間がスリープカプセルで眠る部屋だった。 先程までヴィアとセンチピーダが戦っていたのはブロックで構成された「部屋の中の部屋」だったのだ。 この部屋の広さは先程とは比べ物にならないほど広く、スリープカプセルは競技場の客席のように何段階もの高さに分かれて両者がいる中央部を丸く囲うように設置されている。 「チッ、こんなに大勢の人間が…」 スリープカプセルの数を見たヴィアは顔を歪める。 それにセンチピーダは興奮気味に言い返す。 「ハァハァハァ…酷いって思うのか?辛い現実を突き付ける事がこいつらの為とか考えてんのか? 違うよね…?悪夢なら覚めたいけどさ、いい夢なら覚めたくないだろ…ね?」 そう言い終わると次にセンチピーダはボディの全てのアンテナから放電を開始した。 「ドリーミーホーディーン!!!」 ビシャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!! センチピーダから放たれた電撃はスリープカプセルの特定の部分に当たる。 スリープカプセルにも先程のブロックと同様にセンチピーダの電撃に反応するセンサーがあるのだが このカプセルの場合電撃を受けるとカプセルに備え付けられているアンテナから電撃が放たれ センチピーダのアンテナに戻ってくるように飛んでくるのだ。 その威力は最初にセンチピーダが放った電撃のそれを上回り、これを受けたセンチピーダはさらに強力な電撃をカプセルのアンテナに送るのだ。 これを何度も繰り返し多方向への電撃の応酬が、それもどんどん威力を増して行われる… 「おおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」 強烈な雷の応酬に全身を曝されるヴィア。 「(…この技はルービックホーディーン以上の両刃の剣…!俺自身のエネルギーの消耗も半端ねぇし この施設の電力もダウンしちまうかもしれねぇ…! だけどこの技じゃねぇと勝てねぇ…!!そして、これでも勝てなかったら…終わりだ…!!!) はあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」 ビシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!! ビシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! ビシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 放たれ続ける雷は視界が真っ白になるほど眩しさを増していった。 そしてどれだけ経っただろうか… 雷は何往復しただろうか… センチピーダの技の発動が終わり室内は元の暗黒と静寂を取り戻した。 「ハァ…ハァ…流石に…もうくたばったよ…ね…くたばって…くれなきゃ…困るんだよ…ね?」 興奮ではなく疲労困憊で息を荒げるセンチピーダはヴィアの様子を確認しようとするが…すぐに彼の望みは無情にも絶たれた。 センチピーダの視線の先にはヴィアが立っていた。 それもゼロを模した外装が剥がれかけ、所々「中身」が見えている。 ただその中身は内部機構などではなく、バグを起こした画面のような質感の紫一色の体に凶悪そのものとしか言いようのない目が付いているという異様極まりないものだった。 「ヒッ…!」 彼が放つ殺気もこれまでの比ではなくセンチピーダは足がすくむ。 「調子に乗りやがって…俺の外装が破損しちまったじゃねぇか… 俺をここまでさせたお前には…ゼロではなく俺自身の能力で倒してやる… 悪夢なら覚めたいがいい夢なら覚めたくない…そう言ってたな… じゃあお前には…覚めたくなる最高の悪夢をプレゼントしてやるよ…」 ザザザザザザザザ… ヴィアが言い終わると彼の周辺の空間にノイズが発生した画面のような穴が複数現れそこからナイトメアウイルスが次々と湧いて出てきた。 これらのナイトメアウイルスはバグを起こした画面のような紫色のもやに包まれている。 そしてナイトメアウイルスはセンチピーダに迫り彼の全身を覆っていく。 もはや博打とも言える大技を放った反動でセンチピーダには抵抗する力など残っていない。 「や、や、やめろろおおおおおおおおおおおお!!!!!!ね?ね?」 絶叫するセンチピーダの意識は程なくして夢の中へ… ……… 「全ての我が同胞に告ぐ。 ワシはシグマ…こたびの戦いで本性を現した真のイレギュラー、人間を今度こそ粛清する為に現世に復活した。 知っての通り奴等はサイバーエルフなるもので我々を強制的に服従させるなどという暴挙に打って出た。 その結果多くの同胞が愚かな人間に従い愚行に愚行を重ね、命まで奪われ続けている… このような理不尽な事が許されていいのか? 否!! 奴等の横暴を決して許してはならん!! 既にワシはサイバーエルフへの対抗策を用意してある。 人間に愛想を尽かした者よ、自らの権利を守りたい者よ! ワシと共に立ち上がりこの地上から人間を駆逐しようではないか!!!」 何とイレギュラーの代名詞ことシグマが過去に倒された大勢の大物イレギュラー達と共に復活したのだ。 シグマは軍勢を率いてメタシャングリラ本拠地に攻め込んできた。 「ヘルシャフトの親父の所には行かせねぇぜ!!」 「何度も蘇っては人間に盾突いたイレギュラーの王か、これ程忌むべき存在はいない…」 「フッ、我々が再度地獄に送り返してあげよう」 「人類の敵め、排除してやる!!」 フランメ、メーア、ブリッツ、シャッテン、そして彼等が率いる軍団がシグマ達に挑みかかろうとするが… 「あんな愚か者共に従う必要などない、思い出すがいい、本来の自分の想いを!!」 シグマは笑みを浮かべて言うとその直後全身から最新型のシグマウイルスを次々と放った。 すると… 「「「「うわあああああああ!!!!!!!!!…ハッ!!」」」」 ウイルスに取りつかれたレプリロイド達が暫し苦しんだ後我に返った。 「そうだ、俺達は自分達の権利の為に戦ってたんだ、それをあの野郎…許せねぇ!!」 「シグマ様こそ我らが恩人にして救世主…」 「フッ、この私としたことがあんな愚者共に首を垂れるとは…!」 「痴れ者共め、然るべき報いを与えてやる!!」 4コマンダーを始めこの場の全レプリロイドがメタシャングリラの人間に離反し、同時にシグマに忠誠を誓い出したのだ。 その後シグマはメタシャングリラ軍だったレプリロイド達も率いて基地内の人間がいる区域になだれ込んでは その場にいる人間を片っ端から惨殺していく。 「(や、やめろ…!!やめてくれぇぇぇっ!!!!!!!!)」 唯一ウイルスの影響を受けなかったセンチピーダは皆を止めようとするがここで違和感を感じる。 それは声を発そうとしても声が出ない事、周りは自分の存在に気付いていない事、 自分の体が見えず物に触れることが出来ない事、視覚と聴覚以外が遮断され自分が例えるなら幽霊のような存在になっている事である。 必死で止めようとしても今の自分には何もできない事、そして目を背ける事も出来ず自分が忠誠を誓っている者達が殺される様を強制的に見せられるセンチピーダはかつてない苦痛を覚えた。 やがてシグマはヘルシャフトの元へ。 「シ、シ、シグマ様…!私のような愚かな人間ごときが調子に乗って申し訳ありませんでした!! どうか、どうか命だけは助けてください!!!」 ヘルシャフトは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしてシグマに命を乞う。 「(総帥!!ああああ!!!!!やめてくださいそんな真似は…!!)」 敬愛するヘルシャフトの無様な姿を見たセンチピーダはただ苦しみ悶える。 「ううむ、貴様の事は本来なら消してやろうと考えておったのだが、その有様を見てると流石に哀れになってきたな… そうだな…これからワシが言う事全てに従えば命だけは助けてやろう」 「本当ですか!?」 尊大に振る舞うシグマにヘルシャフトは卑屈な笑みを浮かべて言うのだが… シグマがヘルシャフトに出した条件はどれも言葉にするのはとても憚られるような人間の尊厳を完膚なきまで踏みにじる屈辱的なものばかりだった。 人によっては自ら死を望むほどの行為である。 しかもシグマはより屈辱を与えるべく下級兵士やメットールを使ってヘルシャフトに責め苦を与えるのだ。 「(あああああああ…嫌だ…嫌だ…!!見たくないのに見えてしまう…!聞きたくないのに聞こえてしまう…!もう、耐えられない…!!)」 その様子をセンチピーダは強制的に見せられ苦しみ続ける。 しかしヘルシャフトはそれを全てやり切った。 「…やりました…これで…命は助けて頂けるでしょうか…?」 やつれ切った表情でヘルシャフトはシグマに尋ねる。 「………」「?」 暫し沈黙するシグマだったが… 「フフフフフ…ハァーハッハッハッハッハ!!!!!!!! どれだけ目出たい奴よ…レプリロイドにあれだけの事をした貴様なんぞにこのワシが情けをかけるとでも思っておったのか!? 貴様のような醜い生物との約束を守る義理などないわ!!」 シグマは嘲笑いながら約束を破る事をヘルシャフトに告げた。 「そ、そんなぁ~」 ヘルシャフトは白目をむき汗と涙と鼻水を垂らしながら両膝をつく。 「自らがレプリロイドに冒した罪過を悔いて死んでいけ!!フン!!」 ズバッ!! シグマはセイバーでヘルシャフトの首を刎ねた。 「全世界の同胞達よ、しかと目に焼き付けるがいい!これが我等に盾突いた愚か者の末路だ!!」 シグマは高らかに叫びながらヘルシャフトの髪を鷲掴みにしてその生首を掲げる。 「(あ、あ、あああああああああああああああああ!!!!!!!!!)」 慟哭するセンチピーダ。 しかし彼の声は誰にも聞こえない。彼自身にも。 その後シグマ軍は各地で人間の虐殺を展開。 イレギュラーハンター、ギガンティス総督府、政府軍に所属するレプリロイドも1人残さず あっけなく新型シグマウイルスに感染しシグマの手下になっていき彼の命令の下人類の虐殺を遂行していく。 何日も経たないうちに地球上から人類は1人残さず殺された。 これを見せられたセンチピーダは気が触れそうになる。 「シグマ様万歳!!シグマ様万歳!!」 全レプリロイドがシグマを称賛する。 だが当のシグマはどこか物足りなさそうだった。 「まだだ…まだ何かが足りぬぞ…そうか分かったぞ!! 皆がワシのレベルに追いついておらんという事だ! このワシこそレプリロイドの究極形… 即ち皆がワシのようになる事こそが究極の進化なのだ!! 全レプリロイド諸君よ、喜ぶがいい…ワシが直々に皆を極上の高みに押し上げてしんぜよう!!!」 そう言ってシグマはこれまでとはまた異なるウイルスを全世界のレプリロイドに放つ。 すると感染したレプリロイド達の顔がシグマのそれに変わっていき、声と性格までもシグマそのものと化していったのだ。 「素晴らしい!!素晴らしいぞ!!!ハァーハッハッハッハッハ!!!!!!!!!」 「「「「「「「ハァーハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」 シグマの顔と声で高笑いを続ける有象無象のレプリロイド達。 そしてこれは悪夢のなせる業か…動植物や建造物、岩石や山、空の雲に至るまで目に映る物全てにシグマの顔が付きシグマの声で高笑いを続けるのだ。 「これぞ究極の進化よ!!皆でワシの姿と考えを以って永劫の歴史を刻もうではないか!! ハァーハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!!!!!」 右を見ても左を見てもシグマ…上を見上げても下を見下ろしてもシグマ…こうして地球は事実上シグマの惑星と化してしまった… 「(ヒイイイイイイイイイ!!!!!!!!こんなの地獄だ!!!無間地獄だあああああああーっ!!!!!!!!!!!!!!!)」 ……… 「ヒィィィィィイイイイイやめろやめろやめろおおおおおおおおお~っ!!!!!!!!!!」 「…フゥ、流石に可哀そうになってきたな…」 ヴィアは悪夢に悶え苦しむセンチピーダに近づいていく。そして… バリバリバリバリバリ!!!!!!!!!!!! センチピーダの魂はサイバーエルフとなってヴィアの掌に吸収され、それによって彼はケツアゴハゲ地獄から、もといサイバーエルフの支配から解放されたのであった… センチピーダ撃破と共にスリープカプセルの機能も停止し、特別居住区の住民達は次々と目を覚ます。 「あれ…ここは…俺はついさっきまで宮殿にいたはずじゃ…」 冒頭の「陛下」が目を覚ますと同時に状況を把握しようとする。 他の住民も同様の反応を示す。 これは住民達が今の今まで経験していた事が夢だと自覚していなかった事を意味している。 彼等はリボプスタワーから特別居住区への通過点で催眠ガスで眠らされ、スリープカプセルに入れられ、 その直前の記憶から夢が始まるのでこの真実に気付けなかったのだ。 そこでヴィアは真相を説明し始める。 これまでの幸せな経験は全て夢だった事、そして自分の血液や臓器などが無許可でドナー登録されており中には存命中にも関わらず他者に移植されていたりもする事を。 「何という事だ…全て夢だっただなんて…」 「陛下」を始め特別居住区の住民達はショックで身を震わせるが、その直後… 「何て事してくれたんだ!!俺をこの糞みたいな現実に引き戻しやがって!!!」 「そうだよ!!!!!」 「陛下」と特別居住区住民達はヴィアに自分達を目覚めさせた事にブチ切れた。 「おいおい、怒る相手を間違えてるぜ?悪いのはお前等を騙したメタシャングリラだろうが」 ヴィアは彼等を軽くあしらう。 すると「陛下」はみっともない反論をヴィアにぶちまける。 「夢でも構わない!俺があんな豪勢な生活をする場所は夢の中だけにしかないんだ!! 現実の俺は不細工で、頭も悪くて…何の才能もなくて… 誰かに認められることも、ただ1人の女の子から愛されることも、人並みの幸せをつかむ事も絶対に、絶対に無いんだ…!!!」 他の住民も同様の想いをひたすらヴィアにぶちまける。 「…お前らはもう死んだのか?それともまだ生きているのか?」 暫し沈黙した後ヴィアは彼等に問う。 「生きてるに決まってんだろ!!見れば分かるだろ!!!」 「陛下」は怒りを露わにして答え、ヴィアは平然とした様子で続けて言う。 「じゃあお前らがこの先どんな人生の結末を迎えるか、まだ決まっていないという事だろうが。 このままお前らが惨めにくたばるかは他の誰にも決める権利はないしお前ら自身がどう動くかにかかっているんだろ?」 これに「陛下」はさらに激昂する。 「そんなの綺麗事だ!!!そんなのが通じるのはある程度強かったり、カッコよかったり、個性がある連中だけだ!!! 俺みたいなクズでカスでゴミなんて何をやってもどうせ…どうせ…」 「陛下」は徐々に涙目になっていき言葉も詰まってくる。 「ふざけんな」 ヴィアが彼の言葉を遮り、続けて言う。 「レプリロイドは勝手に造られ勝手に処分されこのプロジェクトエルピスではサイバーエルフで心を操られている。 そのサイバーエルフに至っては使用された時点で死んでしまうという呪わしい宿命に縛られている。 そういうレプリロイドやサイバーエルフに比べたら人間に生まれた時点でどれだけ恵まれているか考えた事があるのか!? その特権を自らかなぐり捨てるのがどれだけ馬鹿げた事か分からないのか!?」 「………!!」 その出自故かヴィアの言葉には重みがありその場の全員が口をつぐむ。 「ま、俺はお前らの為に戦っている訳じゃないしこのままくたばりたきゃ勝手にくたばればいい。 それが嫌なら全力で足掻いてみろ!」 そう言い捨ててヴィアはこの場から消えた。 「畜生―っ!!!畜生畜生畜生―っ!!!!!!!!!」 自分達を騙していたメタシャングリラや快適な生活を奪ったヴィアへの怒りか、自分自身の情けなさに対する憤りか、 「陛下」並びに特別居住区住民達はひたすら慟哭し続けるのであった… 地上でも… 「ああああああやっと手にした自由がああああああああああ~っ!!!!!!!」 高級居住区の絶叫が響き渡る。 「自由なもんか、君らは所詮メタシャングリラに飼われていたに過ぎないのさ」 ダイナモが呟く。 その後「生きている都市」の住民達は後から派遣されてきた政府軍によって強制退去させられ 取り調べが行われたりその他諸々の処罰を受ける事となった。 安易に労働を放棄しメタシャングリラ側に付き彼等のレプリロイド差別に加担した事へのツケが回ってきたのである。 その後都市は立ち入り禁止になったがそのシステムは無人になっても稼働し続け後々に「生きた都市」と呼ばれる事となる… 「人間の生活を豊かにする為の科学技術も使い方を誤れば裏目に出てしまう… 科学技術をどのように使うかも技術そのものの進歩以上に真剣に考えて行かなければならないわ…」 ミッションの終了を聞いたオリジナルシエルは悲し気に呟くのであった。 一方メタシャングリラ本拠地にて… 「この情報は共有する者をかなり絞らなければならないな…『生きている都市』に移住するような愚図は論外として それ以外の人間の中でもシェアする層を慎重に検討する必要があるだろう」 とある情報を入手したタードはパソコンの画面の前で緊迫感と高揚感を同時に覚え笑みを浮かべると同時に冷や汗をかく… そしてサイバーエルフ研究所では「陛下」の夢に出てきた「人間にも効くサイバーエルフ」と似て非なるものが開発されているのであった…

第十三話「未来予想図」

時はエックスとトラストがサイバーエルフ研究所に出撃する直前に遡る。 「この少年がサイバーエルフ研究所所長、エヴィルじゃ」 バイルが1枚の写真をエックスとトラストに提示する。 写真に写っていたのは一見幼い黒髪で眼鏡、服装を黒一色で統一した美少年だった。 「そんな…こんな子供がですか!?」 エックスの問いかけにバイルが応じる。 「見た目に騙されてはいかん。 彼はこの歳でメタシャングリラ幹部Dr.Vの助手を務め今では大規模な研究所を任されているほどの頭脳の持ち主じゃ。 君達には彼を捕らえてベースに連行して欲しい。勿論なるべく手荒な手段は避けてな」 「いくら人道的にアウトな事をしているとは言え人間の、それも子供を捕まえなければならないなんて… これは今までの任務の中でもキツイっすね…」 息を呑むトラスト。 それに対しバイルは希望的観測を述べる。 「人間の中にも良心が全くない…所謂サイコパスと呼ばれる者もおる。 じゃがそんなのは極々稀じゃ。 加えてエヴィルはまだ年端も行かない子供… 育った環境で人格が歪んでしまった可能性やメタシャングリラ上層部に騙されていたり脅されたりしている可能性も十分にある。 本当にそうなら彼もまた被害者と言えるじゃろう。 ともあれ子供を正しい道に導くのは我々大人の責務じゃ。どうか、頼む…!」 そしてバイルは懇願する様子でエックスとトラストに頭を下げる。 「博士、頭を上げてください!必ず俺達がこの少年を誤った道から引き戻しますから!」 「自分もその可能性を信じるッス!」 エックスとトラストは力強く頷き、サイバーエルフ研究所に出撃していった。 「(クーックックック、騙されておる騙されておる!何せ奴は…)」 そんな彼等を心の中では嘲笑するバイルなのであった。 そして現在。 ガシャーン!!! トラストの投げたボールが研究所の窓ガラスを割り、それに対して研究所内から怒号が響く。 「コラーッ、誰だぁーっ!!うちの研究所にボール投げ込んだ奴はぁーーーっ!!!!!?」 「すみませーん、ボール返してくださーいッス!!」 トラストが突入し、エックスがそれに続く。 中にいたのは虚無軍団兵士であり、シャイニング・ホタルニクスを模したマシンガン系の武器、ホタルシャインを携えている。 エックスとトラストは彼等を撃破して先に進んでいく。 その様子を同研究所の地下深くのモニター室で監視する者達が… 中にいるのは人間の研究員達と冒頭で紹介されたエヴィル、そして検査衣を着た彼より更に幼い数人の少年達である。 少年達は未来の賢者や強者であり、彼等の中には厳つい顔立ちで赤い髪の少年、端正な顔立ちの赤紫色の長髪の少年、 緑がかった銀髪で下を向く鼻が特徴の小柄な少年、そして一見少女のように見える金髪の美少年も含まれている。 「所長、また侵入者です!!…この2人は!!」 研究員がエヴィルに報告し、彼は落ち着き払った様子で応じる。 「何だ、またファートの事など構わない賊軍がのこのこやって来たのかい? だったらいつも通りちゃっちゃと排除すればいいだけじゃないか」 「そ、それが…見てください、この2人は…!」 焦りの表情を浮かべる研究員の言葉に応じエヴィルはモニターに目をやる。 「へぇ…あのエックスに…カピラーバとナヴァラークをやったというトラストじゃないか。 これは場合によっちゃこの研究所を放棄する事になるかもねぇ…」 「な…!?」 エヴィルの言葉に絶句する研究員達。 それにエヴィルは落ち着き払って答える。 「シダージュとシンドロームの事を信じられない訳じゃないよ。 だけど彼等の実力を考えればシダージュも本気を出さざるを得ない… アレが全力で戦ったらこの研究所はとても持たないよ。 こうして例の実験も成功したし、その点ではこの研究所も十分に役目を果たしたと言える。 最悪の場合この子達とこのサンプルを頼む。 どちらも人類とこの世界の未来に欠かせないからね」 「分かりました…」 研究員は息を呑み応じて、引き続きエヴィルと共にモニターを注視する… 一方研究所内では… このサイバーエルフ研究所はサイバーエルフを物理学に応用するための施設「フィジカルプラント」、 情報工学に応用するための「サイバープラント」、化学に応用するための「ケミカルプラント」、 そして生物学に応用するための「バイオプラント」に分かれており現在エックスとトラストがいるのはフィジカルプラントである。 フィジカルプラントでは前述の虚無軍団兵士の他に音や光、力の能力を持ったメカニロイドや 壁から矢継ぎ早に放たれるレーザー砲、天井や床、壁に仕掛けられた侵入者を押し潰す仕掛けが エックスとトラストを襲うが二人はこれを難なく突破。 このプラントの最果てで待ち受けていたのはロープ上で上下移動をするメカニロイドの軍団、プリズムガーディアンだった。 「そっちは任せたぞ!」「押忍!!」 四方八方から襲い来るプリズムガーディアンの軍団に対しエックスとトラストは正確に黒い個体を撃破していき、 瞬く間に全滅させた。 そして彼等が次に向かったのはサイバープラント。 ここではライドアーマー「サイクロプス」に備え付けられた砲身を模したランチャー系武器「ライドランチャー」を携えた虚無軍団兵士や 実体化ウイルス、セキュリティ用のメカニロイドが二人に襲い掛かるがやはり二人の敵ではなかった。 そんな中アイリスから通信が。 「ちょっと待って。この部屋には隠し通路があるみたい。何か重要な物を隠す為のものだと思うけど…気を付けて進んでね」 「ああ、俺もこの部屋に入った途端何かを…感じるんだ」 「自分は何の変哲もない部屋にしか見えないッス」 エックスとトラストは異なる反応を示す。 「…トラスト、先に行っててくれ。必ずすぐに追いつく…!」 「押忍!」 緊張した表情のエックスはトラストを先に進ませ、隠し部屋に入る。 すると隠し部屋の中にはエックスにパワーアップパーツを授けるカプセルがあった。 エックスがカプセルに近付くとカプセルが起動しいつものように中からライト博士の立体映像が現れる。 「エックスよ…今回もまた一段と辛い戦いとなっておるな… サイバーエルフでレプリロイドを支配しようなど同じ人間として…ロボットに心を与えた者として嘆かわしい限りじゃ! ともあれここでは新たな強化アーマー『ダイヴアーマー』を授けよう。 今回は過去の事件のように危険性を考慮してパーツを作成するプログラムデータを与える事にした。 後で安全な場所で解析してくれ。 リコとかいったかな? あの子なら、このプログラムを解析できるはずじゃ… エックスよ…道を踏み外した人間達を…どうか止めてくれ…!」 「分かりました…!」 カプセルに入ったエックスのボディにダイヴアーマーのプログラムデータが流れ込んでいく… その頃トラストはサイバープラントの最深部に到達した。 待ち構えていたのはドラゴンQだったが、只のドラゴンQではない。 中央部に位置するマメQ本体がスケールQ並みのサイズであり、当然備え付けられたドラゴン型のオプションはそれに対応したサイズである。 「すごく…でっかいッス…」 一瞬呆気にとられたトラストにその巨大なドラゴンQは備え付けられた砲身から砲撃を放つ。 「こんな物…打ち返してやるッス!!」 トラストが言った後、彼の持つバットがエネルギーで覆われた。 その状態でトラストがバットで敵の放った弾を打つとその弾は放った敵の方に飛んでいきダメージを与える。 これを暫く繰り返した後トラストは敵との距離を詰めていき、至近距離まで接近した時ドラゴンQのボディの側面に飛び移った。 「ここからなら、砲撃は出来ないッスね…!」 ドゴォ!!ドゴォ!!ドゴォ!! そしてそのままトラストはドラゴンQをバットで滅多打ちし始める。 するとドラゴンQは縮んでいき、最終的に通常のドラゴンQのサイズとなり これに伴い今までトラストの攻撃を受けても損傷しなかったドラゴン型のオプションの砲身が損傷し始め、 次にドラゴン型のオプション自体、やがて本体の下のギア型のオプションが損傷していく。 その際にトラストは掴まっているのがしんどくなったのか再度地に降り立つ。 ドラゴン型のオプションを失うとドラゴンQは次にギア型のオプションから 光弾を四方八方に放つがこれらもトラストは同様に打ち返す。 ギア型のオプションも失ったドラゴンQは真下にいるトラスト目がけて巨大な光弾を投下したが… 「うおおおおおおおお!!!!!!狙うは、ホームランッス!!!!!!!!」 カキーーーーーーーーーーン………ドガァァァァァン!!!!!!!! 渾身の力でトラストは光弾を打ち返し、自らの放った光弾を喰らったドラゴンQは爆発四散した。 それと同時にエックスがトラストに追いついた。 「よくやった!…と言いたいがまだまだ先は長い。気を引き締めて行くぞ!」「押忍!」 その時アイリスから通信が入った。 「この先は道が二手に分かれていて1つはケミカルプラント、もう1つはバイオプラントに続いているみたい。 どちらも地下の所長のいるモニター室に通じているけどどちらも制圧しなきゃいけない拠点なの。 だからどう進むかは良く考えて決めてね」 「「………」」 暫し考え話し合った後トラストはケミカルプラントへ、エックスはバイオプラントへと向かう。 ケミカルプラントでまずトラストの前に立ちはだかったのは過去の強者、ヒューズマンを模したインジェクター系武器「ヒューズメガトロ」を装備した虚無軍団兵士、 そして毒や炎、電気の能力を持つメカニロイド達やトラップだった。 これらを今まで通り蹴散らして進んでいくとトラストは赤、青、黄、紫のタイルが敷き詰められた大部屋に辿り着いた。 それに合わせ前方の上空にモスキータスが姿を現す。 モスキータスは吸血攻撃を繰り出すべくトラスト目がけて一直線に飛来し、トラストはそれを躱す。 狙いを外したモスキータスはそのまま地面に到達し、そこをトラストがバットで打撃を加えようとするが… ギュイ~ン!! モスキータスは自身の間近にある赤いタイルの中央部の穴に口を突っ込み吸血攻撃を行った。 その結果… ゴォォォォッ!!!! 「うわっ!?」 赤いタイルの上から人間の身長の何倍もある巨大な火柱が発生した。 トラストは咄嗟に後ろに跳んで回避し、同時にモスキータスは襲撃の時と同等の速度で上空に離脱。 その後モスキータスは上空を旋回し始めトラストは投球で反撃を試みるも再度モスキータスが強襲を仕掛けてきた。 同様にトラストは回避するが次にモスキータスが口を突っ込んだのは青いタイルだった。 青いタイルからは冷気が間欠泉の如く吹き出しまたしてもトラストは回避に専念した。 この流れが幾度か繰り返されたが黄色いタイルからは高圧電流が発生し、紫のタイルからは毒液が噴出する。 赤いタイルの下は可燃性オイルのタンクになっており青は液体窒素貯蔵タンク、黄色は発電機、紫は毒液貯蔵タンクになっているのだ。 「派手なのは嫌いじゃないっスが守備範囲を狭められるのは困るッスよ~!」 困惑するトラストだったがやがてある事に気付く。 タイルから噴き出した物質やエネルギーの「間欠泉」は発生時間に限界がありモスキータスがどんなに早くタイルに吸血しても同時に存在できる「間欠泉」の数には限りがある。 トラストはそれを踏まえ自身と敵、そして「間欠泉」の位置関係を把握し、ギリギリまで引き付けた。 そしてモスキータスが再度突っ込んできた時だった。 ドゴォ!!!!! 既にトラストはバットを構えておりモスキータスが地面に到達する前に打撃を繰り出した。 モスキータスは勢いよく吹っ飛んだが空中で静止した。 そして大きく凹んだボディで全身をスパークさせながらトラストに迫りくる。 「こ、これは犠牲フライ…!?」 この時モスキータスの体内からエネルギー値が急上昇していくのを、トラストは見逃さなかった。 「ビクトリースィング!!!」 カキーーーン…………………………ドゴォォォォォン!!!!!!!!!!! トラストの先程以上の威力の打撃でモスキータスは遥か彼方まで飛んでいき、大爆発して果てた。 「まだ何かいるッスね…」 モスキータスを撃破してもなおこの場から感じる強大な気配が消えない事を察したトラストは緊張感を高める。 その時だった。 ボムッ!! 自身の真後ろの足元から小さな爆発音が聞こえ、その方向に目をやるトラスト。 そこには2つに割れたカプセル型の錠剤を大きくしたような物体が落ちておりその割れ目からは煙が出ているのを確認した。 しかしその瞬間… 「あ、あれ…?何だか…急に…眠く…」 突如原因不明の強烈な眠気がトラストを襲った。 「………」 意識を手放しそうになるトラストに何者かが奇襲をかけようとする… 一方バイオプラントにて。 エックスの前に最初に現れたのはサイバーエルフと融合した腐食性バクテリアを含む液体を噴射するインジェクター系武器「バイオダイバー」を装備した虚無軍団兵士だった。 この他にも過去の事件のように植物とメカニロイドの融合体もエックスの行く手を阻もうとするがやはり難なく蹴散らされる。 しかししばらく進むと今までと比べ異質な敵が現れた。 それは何と超巨大な昆虫だったのだ。 とは言えそれらは生物にも見えるがどこか金属質な光沢も見受けられる。 「何だこれは…メカニロイドか…?」 目の前の存在からは先程まで見た植物とメカニロイドの融合体のようにエネルギー反応も生体反応も感知できるが 厳密にはそれとも異なる存在のようである。 「キシャ―ッ!!!!」 醜悪でおぞましいその姿に一瞬引きながらもエックスはこれらを撃破していく。 さらにエックスが進むと彼の前には巨大なネズミが、もっと進んでいくと今度は巨大な犬、そして猿まで現れた。 彼等は一様に凶暴であり従来とは比較にならない力を持っている。 彼等も撃破して先へと進んだエックスは、見てはいけない物を見る事になる… 「あ゛~…あ゛~…」「かゆ…うま…」 エックスの前に現れたのは検査衣を着た、全身の至る所が腐り知性のかけらも感じさせないヒトの形をした何かだった。 「こいつらは…まさ…か…」 動揺するエックスだったがそんな彼に構わず化け物達は大挙してエックスに襲い掛かる。 凶暴性もさることながらその力は例によって人間では有り得ないレベルである。 しかしやはりエックスの敵ではなかったが、彼等を撃破したエックスの胸中は決して穏やかではなかった。 その後も前述のゾンビの他にも脳みそをむき出しにした目が無く鋭い牙と長い舌を持つ個体や 爬虫類と人間の中間のような姿をした個体、人間の何倍もある巨人やバズーカを扱う個体も現れる。 エックスが彼等を撃破していく中、ゾンビの1体が声を絞り出した。 「…シテ…コロシテ…」 「すまない…すまない…」 エックスは泣きながらギガクラッシュを放ち一瞬で彼等を葬った。 「許さない…絶対に許さないぞ…!」 エックスは鬼の形相で進んでいき、やがて最深部へと到達する。 そこで待ち構えていたのはサンダースライマーだった。 細胞とメカニロイドの融合体であり、この存在もまたエックスに過去の辛い出来事を思い出させるには充分である。 「…どけ…俺はこの先に用がある…」 怒りを込めたエックスがドスの効いた声で言うとサンダースライマーは彼に攻撃を繰り出してきた。 対してエックスは従来のように連続攻撃で迎え撃つ。 しかし従来とは違う出来事が起こる。 ニューン… 何とサンダースライマーが分裂したのだ。 2体になったサンダースライマーはエックスに同時攻撃を仕掛け始める。 「2体になったところで…俺は止められないぞ!!!」 エックスの勢いは止まらずサンダースライマー2体を相手取る。 しかしそれぞれのサンダースライマーが2体に分裂して4体になった。 「だったら分裂する前にまとめて葬り去るだけだ!…全エネルギー解放!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!!! エックスはアルティメットアーマを発動しノヴァストライクを放つ。 その結果サンダースライマーは分裂するそばから破壊されていき一瞬にして全個体が跡形も無く吹き飛んだ。 「…まだいるな…!?」 エックスもまた感づいた。 サンダースライマーよりも遥かに強大な気配に。 「…見事なり…」 するとどこからか声が響き、直後辺り一面が真っ暗になった。 「どこだ!!姿を現せ!!!」 真っ暗闇の中、エックスの怒号が響き渡る… その頃ケミカルプラントでは… 「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」 ドガッ!!!!! トラストは眠気に抗い自らの頭をバットで打ち付けた。 「う…う…う……ハッ!!」 一瞬頭の上にヒヨコが飛んでいるような状態になったトラストだったがすぐに完全に覚醒し 前方の下手人の姿を視認する。 「し、死神!?」 トラストは相手の姿を見て一言漏らす。 先程トラストに奇襲を仕掛けた相手の姿は黒一色で長身痩躯のボディに帽子を被ったカラスのような頭部を持ち 過去の強者、スカルマンを模した鎌を携えていたのである。 厳密には彼の容姿は死神というよりは中世ヨーロッパにて感染症「ペスト」に立ち向かったとされる「ペスト医師」のそれに近い。 トラストの言葉に下手人のレプリロイドは応じる。 「はい、死神ですよ。ただし病魔に対してのね。 私はシンドローム。5ガーディアンの1人で虚無軍団防衛隊副隊長…そして医療スタッフでもあります。 それより駄目でしょ、麻酔を受けないと!じゃなければ手術の時凄く痛いですよ!」 「いきなり襲い掛かってきて何言ってるんスか!?それに自分はどこも悪くないッスから手術なんて必要ないッス!!」 いきなり怒ってきたシンドロームにトラストは怒り返す。 「奇襲は我々虚無軍団の十八番でしてね…ともあれ貴方は体こそは健康そのものですが…心を大きく患っていますね… 覚悟して聞いてください…このまま貴方が我々に逆らい続け、プロジェクトエルピスを拒むというのなら貴方の余命は残り…0秒です!」 ビュッ! シンドロームは投げナイフの要領でメスを投げつけてきたがトラストはそれをグローブでキャッチし床に落とす。 「余命宣告は外れっスね、延長戦突入ッス!!」 「余命宣告というのはですね、短めにするものなんですよ…」 間髪入れずシンドロームは一気に距離を詰めた。 「(は、速いッス…!)」 一気に至近距離まで詰め寄ったシンドロームにトラストは一瞬面食らう。 「貴方は重症ですが…最善は尽くします!モメンタムオペレーション!!」 シュバババババババババババババババ!!!!!!!!!! シンドロームは片手にメス、片手に鉗子を手にしてトラストに斬りかかる。凄まじい早業である。 「ぐううううっ!!」 トラストはバットを盾にして何とか防ぐがシンドロームは執拗に死角を見極めようと様々な角度から斬りかかってくる。 「ええいっ!!」 タイミングを見計らいトラストがバットを振るうとシンドロームは距離を取った。 「ハートショッカー!!」 続いてシンドロームはAED型のビットを数個飛ばしてきた。 「ビクトリースィング!!」 トラストはそれらをまとめて撃ち返そうとするが… ビビビビビビビビビビビ!!!!! ビットがバットにくっつき高圧電流を放ち電流はバットを伝ってトラストに伝わる。 「ぐ…ウ…ウ…ウオオオオオオオ!!!!!!!!」 ドガッ!! トラストはバットを振り下ろしバットに付いたビットを地面に叩きつけた。 結果ビットは砕け散りトラストは電流から解放された。 だがその直後… 「スコープノイズ!!」 シンドロームはすかさず聴診器から超音波を放ってくる。 「あ、頭が割れる……く…う…トワイライトピッチ!!!」 トラストは堪えつつシンドロームにボールを投げつけ反撃を仕掛ける。 「抵抗しない!!大人しく処置を受けなさい!!」 シンドロームは飛んできたボールをメスで野菜の千切りのように薄くスライスしてしまう。 「だから手術とか処置とか受ける謂れはこれっぽっちも無いッス!!」 シンドロームの言葉にトラストは怒号で応える。 それをシンドロームは真っ向から否定する。 「いいや、大有りです!! 『馬鹿に付ける薬はない』という諺があるがサイバーエルフこそその『馬鹿に付ける薬』!! これを使えばどんな『馬鹿』でも治療する事が出来るんですよ! そう、プロジェクトエルピスの凍結の原因を作ったエックスのような輩にも…」 「エックス先輩を馬鹿にするなッス!!!」 「ムウッ…!」 ドゴォ!! トラストの怒りのフルスィングが言い終わる前のシンドロームに炸裂し、シンドロームは後ずさる。 「これは本気で荒療治が必要のようですねぇ…!」 シンドロームは再度、スカルサイズを構える。 そしてそれを手にトラストに斬りかかる。 このスカルサイズは振るっている間は自身の周囲を周回するドクロ型のビットを展開する性能も持ち合わせている。 「ウオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」 「はああああああああああ!!!!!!!!!!」 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!!!!! 互いの得物をぶつけ合うトラストとシンドローム。 その後も両者は距離を取ったり詰めたりを繰り返しその時々の距離に適した技の応酬を演じる。 トラストの戦法が野球とバトルの融合ならシンドロームのそれは医術とバトルの融合である。 野球は肩と腰の強さが、医術は知識と手先の器用さが要求され、どちらも素早い状況判断が要求される。 両者一歩も譲らぬ接戦となったがその際感極まったのかシンドロームの本音が漏れる。 「私は!医師として!どんな患者でも!見捨てたりはしない!!目の前の患者に敵も味方も無いのだから…!」 「見かけによらないッス…ね!!」 禍々しい見た目に反し医道に忠実なシンドロームの言動に思わず反応しながらも果敢に応戦するトラスト。 しかし精密なシンドロームの妙技によりトラストの被弾率が上がりじり貧になっていく。 それでもトラストは諦める事なく応戦するが表情が乱れ始め技の切れも雑になっていく。 「ウオオオオオオオオオ!!!!!!!!絶対に、絶対に…諦めないッスーッ!!!!!!!!」 ビュッ!ビュッ! ムキになったのかトラストの投球はてんで見当はずれである。 「ほらほら抵抗しない!!」 迫りくるシンドローム。 「だあああああああああああ!!!!!!!!!」 トラストは焦りの表情でバットを振り回す。 「はい横になってー」 鎌を振り下ろすシンドローム。その時った。 ドガッ!!ドガッ!!ドガッ!! 「な…に…!?」 先程トラストがでたらめな方向に投げたはずのボールが尽くシンドロームに命中した。 実は先程のトラストの投球はエレキドナーから獲得したEXスキル「リモートピッチ」であり投げたボールを遠隔操作できる。 加えてそれまでのトラストの焦りの表情や技のキレの鈍りも全てフェイクだったのだ。 「相手の裏をかくのも…野球の常套手段っスよ…」 「見かけによらないのは…お互い様だった…よう…です…ね…」 トラストの見た目や先程の表情と動きから相手を追い詰めたと完全に思い込んでいたシンドロームはそこを突かれ足元を掬われた。 そしてトラストの技の威力もさながら当たった箇所も的確でありこれが勝負の決定打となりシンドロームは機能停止。 「この人も…元々は本気で患者を治療したいと考えていたみたいッスね…なのにサイバーエルフなんかで洗脳を治療と考えるようになってしまって…ますますメタシャングリラを許すわけにはいかないっす…」 悲し気に呟くトラストだったが… ドシーン!!!!!! 突如激しい震動が発生し同時に地割れも発生する。 「こんな時に地震っスか!!?」 面食らうトラスト。 彼がこの地震が自然現象によるものではないと気付くのにそう時間は掛からなかった… 時はエックスがサンダースライマーを撃破した直後に遡る。 部屋の中が停電のように真っ暗になった後、どこからか声が聞こえエックスに語り始める。 「我こそはゲネイ・シダージュ。8エージェントの1人にして虚無軍団防衛隊長なり。 時にエックスよ、今一度問う。汝は飽くまで我が組織、そしてプロジェクトエルピスに抗うつもりか?」 「当たり前だ、その為に俺達はここに来た!!」 エックスは迷うことなく言い返す。 そしてシダージュは当然そんなエックスを否定する。 「虚無なり、実に虚無なり。我が軍の名よりも真の虚無ぞ。 然らばプロジェクトエルピスが阻止されたら如何な事になるかを…そして汝の戦いが如何に無意味かを見せてしんぜよう…しかと目に焼き付けよ」 シダージュが言い終わるとエックスの目の前の景色が一変した。 それはかなり旧式のロボットの軍団が街の破壊や占領などの悪事を行い、外観こそ幼いが自らの兄とも言えるロボットが彼等と戦っている光景である。 この光景には見覚えがある。 ディープログの内100年以上前のレプリロイドが生まれる前の事件を記録した「パストログ」に収められているからである。 世界規模に多大な被害をもたらしたロボットの軍団による事件は幾度も繰り返され正視に堪えない惨状がひたすら繰り広げられる。 しばらくすると今度はレプリロイドが生まれて以降の事件の光景が現れる。 これは当事者であるエックスの傷口に塩を刷り込むには十分すぎる効果がある。 「そしてこれは未来の出来事…」 シダージュの声と共にエックスの眼前にディープログに記録されていない光景が現れる。 そこに映し出された光景はこれまで同様悲惨極まりないものだった。 レプリロイドを弾圧する政府とそれに抗うレプリロイドの一連の激戦も、サイボーグ化技術や謎の石で人間が力を得てからの一部の人間とレプリロイドによる世界の運命をかけた一連の激戦も凄惨の限りを尽くすものである。 そして何らかの過ちで人類が全滅してからも悲劇は終わらない。 次の地球の支配者である心のみならず体も人間に近い人造人間の内、我欲にまみれた者が有人機を駆り破壊と略奪、殺戮を繰り返すのだ。 彼等はやがてロボットを開発し、更にはロボットに心まで与えるようになる。 中でも高性能なのは悪魔の角を思わせる髪型の略奪者の少女が開発したロボットである。 生まれつき主人への隷属を決定づけられた名前を与えられたこのロボットは製作者の意向に従い悪行の限りを尽くす。 このロボットは通常時は小人のような大きさだがひとしきり破壊行為を行うとある時身を寄せ合い巨人へと変貌する。 そして残忍極まりない笑みを浮かべ喜々として巨大な鉄槌を振り回し次々と建物を破壊して回る。 この暴虐の限りを尽くす巨人の映像を見たエックスの表情は怒りこそこもっているがブレはない。 そして問う。 「それがどうした?これは本当の未来なのか?」 シダージュは答える。 「否。されど連邦政府のコンピュータが弾き出しし極めて的中率の高き予測なり。 その的中率侮る事なかれ。 現状を維持するならばかような悲惨なる未来を辿る事になろうぞ。 プロジェクトエルピスの目的はレプリロイドの洗脳のみならず。 かような悲劇を回避する事もまたかのプロジェクトの目的なり」 「そうか、じゃあ本当の未来ではないんだな!?」 エックスが怒りを込め、しかし静かに言う。 エックスは続ける。 「こんな起こってもいない出来事に対策を打ち立てる事とお前らの組織がやっている事は無関係だ!! 過去に起こった事は反省の材料にするべきだし何百年何千年先の事はその時代の者が向き合えばいい。 お前らが何をした!!?大義名分をかかげて無用な争いを巻き起こしただけじゃないか!! それにバイオプラントの怪物の内…服を着ていた奴等は元々は人間だろう!? あんな悪魔の所業、プロジェクトエルピスやこの世界の未来に一体何の関係があるんだ!?」 シダージュは答える。 「あれは人類の進化の為なり」 「何だと!?」 思わず問うエックス。それにシダージュは応じる。 「世界をより良くする為にも、悲惨なる未来を回避するためにも人類が肉体的、精神的に新たなステージに進むのは必要条件なり。 ファートを見れば分かるであろう。 我が組織の科学者はその人類の進化の為に細胞を活性化するサイバーエルフを開発し、それと細胞を融合した『エルフ細胞』を生み出す実験を試みたなり。 今でこそ実験は成功したがこれまでに数多の失敗作が生まれたなり。 失敗作なれどあ奴等は量産型のレプリロイドやメカニロイド並に強き故警備に回したなり。 汝を仕留めるには役に立たなんだがな」 「その為に…俺は元はといえ人間を手に掛ける事になったというのか…ふざけるな!! お前達は必ず食い止めてやるぞ…そして、この悪魔の実験を行ったエヴィルにも罪を償ってもらう!!」 鬼の形相のエックスの怒号が木霊する。 「真に虚言なり。汝こそ罪を償うなり」 シダージュが言い終わると同時に視界が晴れ、シダージュがその全貌を現した。 シダージュの外観は8エージェントの中でも大柄なライノサイルの更に倍はあろうかという巨体で 茶色とオレンジ色を基調にした太長い円筒形のボディに手足、そして頭頂部と腕の先端、肩から伸びる木の枝のようなパーツの先端にはダクトだらけの青緑色のパーツが付いており全体的に杉の木を思わせる。 「チャージショット!!」 バシュッ!! エックスはシダージュの顔目がけてチャージショットを放つがそのチャージショットは消滅してしまう。 アルティメットアーマーでノヴァストライクを放つもすり抜ける。 「今度はこちらの番なり」 シダージュがエックスに手をかざすとエックスは何もされていないのにダメージを受ける。 「くっ、さっきと同じ立体映像か!?」 エックスが思わず言う。 すると彼の中にいるナヴァラークのサイバーエルフが答える。 「まぁそんな所だ。俺達虚無軍団は真っ向勝負を基本しねぇからな。 正確にはダクトからの『花粉』を空気中に散布しそれをスクリーンとして映像を映すって訳だが この『花粉』の効果は相手の目を欺く事だけじゃねぇ。 光学系の武器は無効化しちまうからこれが舞っている間はバスターは使えねぇ。 対策だがなぁ、今舞っている『花粉』は風で吹き飛ばすなりすりゃいいし『花粉』の放出を防ぐにはダクトを塞ぐか壊しゃいいぜ」 「風か…助かったよ。チャージストームトルネード!!」 ゴォッ!!!! シダージュの能力の正体を知ったエックスはストームトルネードのチャージ攻撃を放った。 するとシダージュから放たれる特殊粒子は吹き飛び彼の本当の位置が露わになった。 エックスは反撃すべくアルティメットアーマを発動しノヴァストライクを放つが… ドシン…ドシン…ドシン… ダクトをかばいつつもシダージュは平然と近寄っていきその歩幅故瞬時に距離を詰めた。 そして攻撃発動中のエックスを手で素早く捕らえ、その直後勢いよく地面に叩き落したのだ。 グシャ!! 「我が技を見破ったところでそれで勝った気になることなかれ」 得意気に言い放つシダージュだったが… 「昇龍拳!!」「む!!?」 大ダメージを堪えつつもエックスは昇竜拳を放ち、ダクトの1つを潰す事に成功する。 「己…ブランチパニッシュ!!」 バキッ!! 「うあああ!!!」 シダージュはその巨大な腕でエックスを殴り飛ばす。 エックスは床に突っ込んだ。 「ルートスタンプ!!」 シダージュは追撃とばかりにエックスを踏み潰そうとするがエックスは間一髪で回避。 ドシーン!!! シダージュが床を踏みつける事で部屋どころか研究所全体が震撼し地割れも発生する。 「こんな時に地震っスか!!??」 その衝撃はケミカルプラントにいたトラストにも伝わった。 シュウウウウウ… 「また『花粉』か…」 エックスは呟く。 シダージュが再度特殊粒子を散布したのだ。 それ以降もシダージュのダクトを壊そうとするエックスとそれを守ろうとするシダージュの激戦がしばし続く。 その歩幅、リーチ、膂力故にシダージュのダクトを狙うのは常に危険が付きまとう。 またシダージュのパワーに加え彼にダメージを与える為エックスも大技を放つので研究所がどんどん壊れていく。 「始まっちゃったか…分かってたとは言え寂しいねぇ…」 地下でそれを監視しているエヴィルが壊れゆく研究所を見ながら呟く。 「わ、我々も避難しましょう!!」「ああ、今の内に準備をしたまえ」 慌てる研究員にエヴィルは返す。 グググググググググ… 「は、放せ…」 一方シダージュは攻撃を繰り出すエックスを捕らえ、握りつぶそうとしていた。 この手の技は抵抗することで解除できる事が多いが、シダージュのパワーはエックスのそれを遥かに上回っておりそれは不可能だった。 エックスが何か別の手をと考え始めた時だった。 「エックス先輩を…放すッスー!!」 ヒューン…バキッ!!! 上からの声と共に高い所トラストが現れ、シダージュの指をバットで強打した。 「ぬうう!!!」 シダージュはエックスを手放す。 如何に頑丈なシダージュでもトラストのバットの指への直撃は応えたのだ。 「有難う、トラスト!!」 「まだまだ…充分返せてないッス…!」 エックスの言葉に感涙にむせぶトラスト。 「感動するのはまだ早い…来るぞ!!」「押忍!!」 身構えるエックスとトラストにシダージュの巨体が倒れ込んでくる。 「ステムプレッシャー!!!」 ズドォォォン!!!!!! またも研究所全体が震撼し、エックスとトラストは回避するがまた新たに大きな亀裂が床に発生する。 トラストが加勢して以降はシダージュのダクトに効率よく攻撃出来るようになったものの シダージュの抵抗も一層激しくなった。 先述のリモートピッチも一撃でダクトを破壊するには至らずそれどころか技の性能を見破られてしまい トラストが再度リモートピッチを発動するとシダージュは全力で妨害してくるのだ。 またエックスとトラストは連携攻撃でシダージュのダクトや本体に少しずつダメージを与えていくのだが シダージュの通常攻撃の一撃一撃が両者には致命傷の威力であり、 サブタンクのエネルギーが尽きてからはナース系サイバーエルフを頼らざるを得なくなりこれが両者の心を削っていく。 しかしここで転機が訪れる。 「ギガクラッシュ!!」 ドガァァァァン!!! 「己…!!」 エックスのギガクラッシュがシダージュの全てのダクトを半壊状態にし、本体にもかなりのダメージを与えたのだ。 ギガクラッシュは連発出来ない物のこれで通常の技でもダクトが一撃で破壊出来るようになり シダージュの猛攻に抗いつつエックスとトラストはダクトを1つ、また1つと着実に破壊していく。 そしてシダージュのダクトが残り1つとなった時だった。 「ゲネイリョーダン!!!!」 シダージュが最後のダクトから勢いよく特殊粒子を噴出し、同時に胸部の四角いパーツの1つが開いた。 その直後辺り一辺にシダージュの立体映像が現れ、それぞれのシダージュの映像の胸部の中から杉の実のような球体が放たれて放物線を描いて地面に落下した。 そしてそれぞれのシダージュが一斉攻撃を開始したのだが立体映像の攻撃にも威力があり喰らえばダメージを受ける。 「(何だ、リアルな幻覚という奴か!?)」 エックスが一瞬そう考えたが… ガラガラガラガラガラ!!!! 壁や天井、床なども壊れるのですぐに違う事が分かった。 風系の特殊武器でその正体を確認すると杉の実型の球体から発生した杉の木型のメカニロイドだった。 「カモフラージュ、か!なら本体を…」 エックスとトラストは本体に狙いを定めようとするが… ドシンドシンドシンドシンドシン!!!!!! シダージュが暴れながら移動して自身の位置を撹乱しようとしてきた。 加えてダクトから特殊粒子が勢いよく噴射される為風で粒子を吹き飛ばしても立体映像がすぐ復活してしまう。 「こ、これじゃあ…ね、狙いが定められないッス…!!」 立体映像に地震や地割れ、飛び交う瓦礫やシダージュとメカニロイドの攻撃に狼狽するトラスト。 「いや、これはチャンスだ!相手がメカニロイドなら…!」 「ダブルアタックっス…ね…」 エックスとトラストは相手がシダージュかメカニロイドである事を気にするのは一旦やめ、 アタックゲージを貯める事に専念すると、すぐに貯まった。 そしてシダージュに近付く事は容易ではなかったが、メカニロイドに近付く事は容易だった。 そして… 「「ダブルアタック!!!!!!!!!!!!!!」」 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!!! 両者はメカニロイドにダブルアタックを発動したがダブルアタックは威力もさながら攻撃範囲が広くシダージュと全メカニロイドを巻き込みこれが勝負の決定打となった。 「愚かな…実に愚かな…我を退け…飽くまで…プロジェクトエルピスを阻み…レプリロイドの…イレギュラー化も…悲惨なる未来の到来も…防がぬと申す…か…」 最期の力を振り絞り言葉を絞り出すシダージュ。 それに対しエックスは揺るがぬ決意を示す。 「操作された価値観に加え確定すらしていない未来に対する大義名分を抱えたお前達の所業を指を加えて見ている訳にはいかないんだ。 今発生している問題に向き合う事がよっぽど大事だしお前達の組織には必ず罪を償ってもらう…!」 「同じくッス!」 便乗するトラスト。 そして先程の言葉が最後の言葉となりシダージュは機能停止した。 「………」 エックスは次の瞬間滝のような涙を流した。 「エックス先輩…!?」 慌てて声をかけるトラスト。 「この戦いで…どれだけ犠牲者が出たんだ…後これからどれだけ犠牲者が出るんだ… 今までどおり同じレプリロイドを手に掛けた。サイバーエルフも使った… そしてここで…俺は…人間を…」 エックスはトラストに打ち明けた。 バイオプラントでの惨劇を。 これを聞いたトラストもただ怒りと悲しみに震える。 「俺自身がやった事もそうだが今俺は…バイオプラントの怪物を造ったメタシャングリラの科学者が… 彼等よりも歪んだ汚い化け物のように見えるんだ… 駄目だよな…ハンターの俺が…そんな事を…考えるなんて…」 「………」 悲しみに打ちひしがれるエックスに暫し沈黙するトラスト。 そして彼は悲しみを堪えつつエックスに応じる。 「エックス先輩、こんな最低最悪な連中の為に…自分を責める事は無いッス…! ゼロ先輩やアクセル先輩には及ばないかもしれないっスけど自分も出来る限りエックス先輩を支えていきますんで、 最後の最後まで戦い抜いて…メタシャングリラに罪を償わせるッスよ…! まだ任務は…終わってないッスから…!」 「そうだな…行こう…!」 何とか持ち直したエックスはトラストと共にエヴィルの元へと向かう。 頑丈なはずの床もシダージュがぶち抜いた為そこから彼のいるモニター室へショートカットが可能になっていた。 モニター室では… 「所長!もう奴等が来ます…!」 慌てた様子でエヴィルに指示を仰ぐ研究員達。 それにエヴィルは落ち着き払って言う。 「仕方ない。じゃあ手始めに君達とこの子達から避難したまえ。 僕は残って他の重要なデータやサンプルを回収するからさ」 「しかしそしたら所長は…見てください彼等の鬼の形相を!ハンターとは言え怒りのあまり所長の身の安全も保証しかねますぞ!!」 焦る研究員にエヴィルは飽くまで冷静に対処。 「だからこそだ。いいかい、ここの責任者は僕なんだ。君達やこの子達を守るのも僕の責任だ。 それにもし僕に何かがあったらそれをタード様がハンター共の評判を落とす格好の材料にしてくれるさ。 というわけでこの研究所での最後の指示だ、行きたまえ」 「所長…!ではご武運を…!」 研究員達は敬礼をしてエルフ細胞とその適合者の少年達と共に簡易転送装置で研究所から姿を消した。 「………さてと、それじゃあワシはもう『帰る』とするかのう…!ク―クックック…」 誰もいなくなったとたんエヴィルは突如老人のような口調になって不敵に笑うのであった… 程なくしてエックスとトラストはモニター室に突入。 中には椅子に座ったエヴィルがエックス達に背を向けていた。 「サイバーエルフ研究所所長エヴィルだな。ここはもう制圧した。 手荒な真似はしたくない、大人しく…」 言いかけるエックス。 するとエヴィルは椅子を回転させエックスの方に向き直るがうつむいたままで何も返事がない。 「どうした!何を黙りこくっている…!?」 エックスが詰め寄ろうとしたその時だった。 ビヨヨ~~ン!!ビヨヨ~~ン!! 突如バネで繋がったエヴィルの頭部が胴体から分離し、左右に激しく揺れ出したのだ。 エヴィルの表情も左右の瞳があらぬ方向に向き舌を出している。 「これは…」 「遠隔操作のロボットッスか…!?」 「どこまで…どこまで俺達を馬鹿にすれば気が済むんだ!!!」 「こんなの…こんなのってあまりにも反則っスよーっ!!!」 より一層憤りを覚えつつ慟哭するエックスとトラスト。 その後研究所内にエヴィルがいないと分かると彼等は研究所を後にした。 「ううむ、本物のエヴィルは既にメタシャングリラ本拠地なりどこかへと避難したのか… それとも…エヴィルという少年は最初からいなかったのか… メタシャングリラ幹部に直接問いたださない限りこの問題は解決しないだろう。 ともあれ今までの任務の中でも一層辛い任務だっただろう、ご苦労だった…」 報告を聞いたシグナスも悲し気な表情を浮かべて応じる。 「私には言う資格がないかもしれないけど…何であんな非道な行為が出来るの…? 人類の為だとか、科学の進歩は犠牲者の上に成り立っているとか…そんなのは言い訳にならないわ… この実験は人類が繰り返してはならない過ちだから…きちんと償って貰いましょう…」 オリジナルシエルもただ悲し気につぶやく。 その頃メタシャングリラ本拠地にて… 「(エヴィルめ、『帰った』か…ワシはもう少しここから観察させて貰うが…場合によってはワシも『帰る』のが早まるかもしれんのう…)」 Dr.Vがエヴィルの「帰還」を察知し、自らも同じ道を辿る事を視野に入れ始めた。 かくしてメタシャングリラの全重要拠点は陥落した。 もう武器の製造・売買も、Eクリスタルの発掘も、真幸教の勢力拡大も、怠惰な人間の懐柔も、エルフ細胞を始めとしたサイバーエルフを使った実験もメタシャングリラは出来なくなった。 それまでの間にハンターの非戦闘員や連邦政府、メタシャングリラもそれぞれの分野で対策を立て、 切り札を用意しつつ来る最終決戦に備えていた。 各重要拠点からメタシャングリラ本拠地への通信障害が復旧し、彼等が異変に気付くのにそれ程時間は掛からなかった。

第十四話「運命だとか未来とか」

ハンター勢がメタシャングリラの全重要拠点を落とした。 それまでの間にハンター・メタシャングリラの両陣営は次の戦いへの準備を進めており来る激戦へと着実に歩を進めていた。 ハンターサイドでは… まず重要拠点からハンター達が持ち帰った物がハンター内外の技術者達に受け渡され、新たなアイテムや戦力に姿を変えていく。 ゼロとカーネルが兵器工場から、ダイナモが生きている都市のリサイクル工場から持ち帰った高級素材はダグラスとパレットが後述の「ウラディープログ」から解析したデータに基づき開発した武器へと生まれ変わった。 ウラディープログとは連邦政府のサーバーにある未来の出来事のシミュレーションが記録された仮想空間であり政府軍のレプリロイドの訓練の他未来の予測や対策に用いられる。 「こいつらを作るにあたって『ウラディープログ』って奴には連邦政府から特別に許可を取らせてもらったんだが、 『ウラディープログ』によると未来にはとんでもない奴等がいるらしいな… そんでこいつらはそのとんでもない奴等のデータを元に作った武器だ。 どれも未来の…それもヤバい奴等を元にしただけあってその性能は保証するぜ!」 興奮気味のダグラスがS級ハンター達に新たに制作した武器をお披露目する。 それらは白と金色のカラーリングの神々しい雰囲気のバスター系武器「Xインパクト」、 剣先が3方向に分かれている高級感と威圧感を兼ね備えたセイバー系武器「オメガセイバー」、 円錐形で禍々しい雰囲気を持つ銃身が特徴のマシンガン系武器「タイラント」、 銃剣にも見える重厚なランチャー系武器「アインクラフト」、 紫と赤のカラーリングでシャープな雰囲気のあるインジェクター系武器「アビス」であった。 いずれも「未来の強者」を模しているがデザイン元となった強者の中には既にこの世にいるが今の姿とは異なる者も含まれる。 S級ハンター達は各武器と各々の相性を考慮した結果エックスがXインパクト、ゼロがオメガセイバー、 アクセルがタイラント、トラストがアインクラフト、フラジールがアビスを常用する事となった。 アクセルが氷の聖都から持ち帰ったEクリスタルは主にサイバーエルフを成長させる事に使用された。 「いただきまーす」 パッシィがEクリスタルを食べると外観が成長し能力も覚醒した。 「それじゃあ、行ってくるね。シエル…もう一度言うけど、私は大丈夫だから…気にしないで」 「有難う、パッシィ…」 流暢になった口調で言うパッシィにオリジナルシエルはただただ感謝を示す。 そしてパッシィはバリアを消滅させるためにメタシャングリラ本拠地に飛んでいった。 この場の一同は一斉に彼女に敬礼する。 ゼロの内部に宿っていたゲリールもEクリスタルを食して成長した。 彼は元々老人型である為厳密には外観は大型化・複雑化したと言った方が正しいのかもしれない。 「ワシはサイバーエルフによる洗脳を事前に予防する力が目覚めたぞい」 そう言ってゲリールはこの場の全レプリロイドにその力を行使。 この事にこの場の一同は一まず安堵する。 「この力をこのまま全世界のレプリロイドに使えば…!」 ヴィアが意気込むが… 「残念じゃがワシ1体では無理なのじゃ…」 ゲリールは残念そうに呟く。 「ワシが命尽きるまでこの力を使っても洗脳を予防できるレプリロイドは全レプリロイドの内のほんの一握りに過ぎん。 尤も、その一握りのレプリロイドを救う為ならワシの命など惜しくはないんじゃがの…」 ゲリールの言う通り彼1人、そして今の技術では全レプリロイドの洗脳を予防する事は出来ない。 それは敵側とて同じ事であり、全レプリロイドを一気に洗脳する事は不可能で現時点の基準で高性能なサイバーエルフを1体作ってはレプリロイド1体に使うのをいちいち繰り返すに留まっている。 膨大な数のレプリロイドを一気に洗脳、もしくはそれを予防・解除できるような超高性能のサイバーエルフは 現時点ではウラディープログにてその存在が確認されているだけで実際にはまだ存在しない。 「そうか、じゃあメタシャングリラを叩き潰すのが現状での最善策って事だな」 ヴィアは頷く。 そのヴィアが生きている都市から持ち帰ったいい夢を見せるナイトメアウイルスの亜種「デザイアウイルス」より入手した「デザイアソウル」には意外な使い道があった。 「いい夢、即ち理想…そこに着眼点を置いた結果、私はある事を閃きました」 意味深にパージが言う。 「カーネルさん、アイリスさん、貴方方兄妹は元は強さと優しさを兼ね備えた理想のレプリロイドとして設計されたそうですが… 結果は相反するプログラム故に2体のレプリロイドとして生まれたとの事です。 貴方方のDNAデータは5割以上共通していますが逆に言えば5割以下の差異があり… その為現状では当初の理想のレプリロイド像は飽くまで理想でしかありません。 しかし今回私がこの『デザイアソウル』を解析して生み出したエネルギー結晶は残りの5割以下のDNAソウルを一時的にフルシンクロ状態にして貴方方を1体のレプリロイドにする… 即ち当初の理想を実現させる事を可能にしました。 この状態になるのには制限時間がありますが任意で解除できるよう私が調整いたしました。 是非とも使ってみてください。必ずやお役に立てるでしょう」 そう言ってパージは水色の立方体の形をカーネルとアイリスに差し出す。 「何だ、これに近寄ると何だか優しい気分になってくるぞ…」 「逆に私は…闘志が沸いてくるの…」 カーネルとアイリスは結晶体に近寄り、それぞれが自分とは相反する感情を覚え始める。 「それに何だか腑に落ちるというか、違和感が無くなるというか…」 「足りないパズルのピースがはまった時の感触みたい…」 加えて兄妹は自分達が本来なるべきだった姿になる力を本能で受け入れ始める。 そして両者が同時にそれに手を伸ばした時… パァァァァァァァァ… 結晶体がまばゆい光を放ち周辺を強烈に照らし始めた。 「アイリス!カーネル!」 過去の辛い出来事を思い出したゼロは胸騒ぎを覚える。 そんな彼を余所に光が収束していく。 やがて光が収束し、先程までカーネルとアイリスがいた場所に現れたのはモノアイの頭部と翼の付いた紫色のライドアーマー…ではなかった。 一見アイリスにも見えるが外観や雰囲気が色々と違う。 リコほどしかなかった背丈はエイリアやフラジール並にまで伸びている。 従来は清楚可憐な顔貌は如何にも女軍人といった凛としたものに変化。 髪は戦いの邪魔にならないようにポニーテールになっている。 スカート型のアーマーはコート型に変化しておりその手には兄のようなサーベルが握られている。 その渾然たる佇まいにこの場の皆が息を呑む。 「お前は…一体…」 最初に彼女に話しかけたのはゼロだった。 「アイリスだ…」 アイリス(?)は一言答えた。そして続けて言う。 「そうか…これが本来私のあるべきだった姿なのか…なるほど、合点がいくぞ… このアイリス、己の誇りをかけて…そして平和を勝ち取る為に必ずやメタシャングリラを討伐してくれるわ!!」 「「「「「(カーネルだ…)」」」」」 この場の誰もがそう思った。特にゼロは思わず声に出た。 「何を言う、私は正真正銘アイリスだ。現にお前に対するこの想いは…変わらないのだからな…」 アイリスは顔を赤らめつつゼロに至近距離まで迫りゼロも同じく顔を赤らめ少々困惑する。 「あ、ああ分かったよ、調子狂うが理想というだけあってお前からとんでもない力が感じられるのもまた事実だ。…頼もしい限りだぜ」 エックスがサイバーエルフ研究所から持ち帰ったデータはリコが解析し、ダイヴアーマーが完成した。 ダイヴアーマーはリコのようなカラーリングで要所要所がサイバー感溢れる模様で彩られ背中には光で出来た翼が生えている。 「ダイヴアーマー、出来ました! このアーマーはですね、多段ヒットしてしかも爆風を同時発生させるダイヴバスターと自身の周りに攻撃と防御が同時に出来るバリアを展開するダイヴリングが使用可能です! ダイヴリングは回復もできますよ!それから自身にかかったデバフを無効化する事もできるんです! 是非是非、役立ててください!」 リコが目を輝かせ活き活きと説明する。 「これは本当に役立ちそうだよ…有難う!」 エックスは笑顔で感謝を伝える。 そして新たにメタシャングリラとの最終決戦に臨む者も… ヴィアに直接ボディから分離されたセンチピーダのサイバーエルフを始め、元メタシャングリラの防衛隊だったサイバーエルフ達がベースに姿を現した。 「私は…何という事をしてしまったのだ…! あのような邪悪な教団に尽くし…救いを求めた何の罪もない人間から搾取し…逆らう者を邪教徒呼ばわりして残酷な仕打ちを…!どれだけ悔やんでも…悔やみきれない…!」 正気に戻ったライノサイルはこれまでの自分の行為を激しく悔いて嘆き悲しんだ。 「私も教団の聖職者を神聖で崇高な方だと信じて疑わず…あんな破廉恥な事を…見過ごしていただなんて…不浄ですわ!不浄ですわ!!」 「ああ、何ということだ、本当に病んでいたのは私の方だったという事か…!」 パステルとシンドロームもそれに続く。 「いっそこのまま…死んでいた方が…」 ライノサイルの言葉にパステルとシンドロームも頷く。 彼等の嘆きようにこの場は静まり返り暫し暗い雰囲気が場を支配するが… 「なぁ~に甘っちょろい事言ってんでい!!」 フォムライザーが沈黙を遮った。 「そのままくたばるってこたぁてめぇの罪にも気付かないってこったろ!? それじゃあ罪を償う事も出来やしねぇしてめぇだけ楽になるのは虫が良すぎるってもんでい。 それになぁ、団長達は未だ連中にいいように操られちまっていやがる… これを見過ごすわけにゃあ行かんだろ!? こうして洗脳を解除された今、本当の信念をかけて奴等と戦うのが筋ってもんじゃあねぇのかい!?」 「「「…」」」 フォムライザーの𠮟責にライノサイル達は暫し沈黙する。 そしてライノサイルが少しずつ言葉を紡ぐ。口調に苦悶の色を含ませながら。 「お前の言う通り…死んで許される程我々の罪は軽いものではないのかもしれないな… 贖罪は必要だろうしこれ以上連中の好き勝手にさせるのはそれこそ罪だろう… どれだけ罪滅ぼしになるか分からないが…こうなったからには私もこの戦いに…手を貸そう…」 「どこまでも、お供しますわ隊長…」 「未だにこの世に巣食う病魔に関わらずして何が医師ですか…!」 パステルとシンドロームも彼に続いた。 「おめぇもそう思うだろ、センチピーダ!?」 フォムライザーは横で黙りこくっているセンチピーダに声をかける。 「…ヒッ!!そそ、そうだよね…悪いのはメタシャングリラと…サイバーエルフだから…ね…!?」 センチピーダはビクッと震えた後フォムライザーに応じる。 彼は未だ悪夢によるトラウマが抜けきっていなかったようだ。 「ケツアゴハゲケツアゴハゲケツアゴハゲ…」 震えながら呟き続けるセンチピーダ。 「元より我々はサイバーエルフに洗脳されし以前より目的の為に時に汚き事にも手を染めてきたなり。 なればこの修羅道をこのまま突き進んで行こうぞ」 「こぉ~の空間にはすぅ~ばらしい武器があぁ~る。 そぉ~して敵側にぃ~もきょぉ~う力な武器があぁ~る。 やぁ~つらとたぁ~たかうってこぉ~とは…そぉ~の武ぅ~器と武ぅ~器がぁ~ ぶぅ~つかり合ぁ~うってこぉ~とだろぉ~う? 素ぅ~晴らしい~ じぃ~つに素ぅ~晴らしいじゃなぁ~いかぁ~」 「メタシャングリラ本隊の戦力と4コマンダーの強さは俺達の比じゃないが…それが何だってんだ。 俺は相手が元上司だって構わないで立ち向かっちまう男なんだぜ」 シダージュ、マーシャル、ウェルドはメタシャングリラとの決戦に前向きであった。 時をほぼ同じくしてシグナスに一般ハンターから通信が入る。 「報告します!ファナティカの暴動の鎮圧、ただ今完了致しました!」 他の地域からも同様の報告が次々と入る。 「アクアポリスの暴動、完全に鎮圧させました!」 「ギガンティス島の暴動、鎮圧完了です!」 ギガンティス島にて… 「この度は暴動の鎮圧にご協力いただいて感謝します。今後メタシャングリラと戦う時は喜んで手を貸しましょう」 ナナがシグナスに感謝の意を伝える後ろでは、マッシモの拳骨を頭に喰らいシュンとしているギガンティス総督府兵士達がシナモンの治療を受けている。 彼等はマッシモ達やハンターの必死の説得の甲斐あってファートが人質に取られているのに何の策も無しにメタシャングリラに挑みかかる事も 大人しくメタシャングリラに従う事もどちらも得策ではないと理解したのだ。 「全く…お前等ちゃんと頭を冷やしたか!?」「「「「はい…」」」」 「まぁまぁ、皆ちゃんと分かってくれたみたいですし…」 憤然とするマッシモをシナモンがなだめる。 「メタシャングリラ本拠地にはそれこそ新技術や新発明が山ほどあるんだろうねぇ、大怪盗の血がうずくよ…!」 その様子を見遣りながらマリノは1人ほくそ笑む。 各地からの報告が一通り終わると次にバイルが口を開いた。 「長官の救出に関してだが…連邦政府に所属するその道のプロに任せる事にする。 君達は戦いに集中してくれたまえ」 「了解しました」 エックスの返事を聞いたバイルは彼の言う「その道のプロ」に通信を入れる。 「エラトネール、ドロワクレール、アンジュピトール…お前達にも動いて貰うぞ」 「ええ、分かりましたワ」 バイルからの通信にはエラトネールと呼ばれた女性型レプリロイドが応じた。 エラトの側には彼女の妹にあたる少女型レプリロイドのドロワクレールと末弟にあたる少年型レプリロイドのアンジュピトールがいる。 この3姉弟レプリロイドは政府側に所属しながらも諜報、暗殺、破壊工作などの任務を担う生粋の闇の住人で公にはその存在を知られていない。 「ああぁ~しんどいしんどいしんどいぃ~っ!あんな豚助けるなんてウラディープログの『しんどい』よりもしんどいよぉ~!!」 自身の不満をぶちまけるドロワクレール。 彼女の言葉が示す通りウラディープログにはハンターベースのディープログと同じくその難易度は「かんたん」「ふつう」「むずかしい」「しんどい」の4段階がある。 ただでさえ未知の敵やステージを攻略しなければならないのだがこれが「しんどい」となると難易度調整の為更なる追加要素が加えられその難易度は理不尽極まりない。 ディープログの「しんどい」と同じく難攻不落説が浮上したのだがこの3人は皆既にこれを攻略している。 そのドロワクレールの不平不満にアンジュピトールも賛同する。 「全くだよ、あのおじさんエラトお姉ちゃんとドロワお姉ちゃんだけじゃなくボクの事もいやらしい目で見るんだもん」 「こらこら、いくら任務が任務だからって文句言わないノ」 「「は~い」」 エラトネールがそんな弟妹を静かに諫めドロワクレールとアンジュピトールはそれに対し素直に頷くのだった。 「皆、聞いてくれ」 着々とハンターの出撃準備が進んでいく中、エックスが真面目な表情と口調で切り出した。 「ウラディープログには過酷な未来の予測が記録されていて、その精度も信じられない程高いらしい。 世界に…もしかしてこの中の誰かにもしもの事がある事も予測されているかもしれないし、 それが的中する可能性だって高いだろう。 だけど…仮にそれを知ったところで諦めたり、奴等のように道を踏み外さないで欲しい。 進むべき道を見失う事なく…一緒に未来を切り開いていこう」 「何を言うかと思ったら、今更な話だな。前にも言ったがもし過酷な運命がこの先待ち受けていたとしても、俺達はその運命って奴と戦っていかなければならないんだ」 「未来を切り裂く牙を捨てるような奴等に興味はないね」 「諦めるなんて自分からコールド負けを申し込むようなものッス!運命との試合は9回裏まで全力投球で行くッスよーっ!!」 ゼロ、アクセル、トラストはエックスの言葉を全肯定する。 「…トラスト…」 一方でフラジールは僅かに顔を赤らめながらトラストを横目で見る。 そんな彼女の様子に気付いたのはこの場にいる者達の中でもごく一部であり肝心のトラストは気付いていなかった… メタシャングリラサイドでは… 武器、メカニロイド、Eクリスタル、高級素材、サイバーエルフ等等各重要拠点から様々な物資が続々とメタシャングリラ本拠地に入荷され メタシャングリラ軍は軍備の増強や訓練に勤しんでいた。 特にハンターと同じくウラディープログのデータより作成された武器の数々は各軍団の士気を大いに向上させた。 「親父に盾突く奴は誰だろうが俺のパワーで叩き潰しこの武器で焼き尽くしてやらぁ!!」 「我々は常に時代の最先端を行く…ついて来れない物は凍てつかせて沈めるまで…」 「フッ、私に相応しいゴージャスな剣じゃないか!」 「組織に仇成す愚か者は私が闇に葬り去ってやる…陰から見ているぞ…」 新たに専用の武器を得たフランメ、メーア、ブリッツ、シャッテン等4コマンダーも例外ではない。 とはいえハンターが重要拠点を陥落させ物資の出荷も絶たれたので暫くすると必然的に入荷もストップする事になるのだが… 一方幹部達はバイルのもたらした情報に心躍らせていた。 バイルはヘルシャフトとの交渉の際ごく限られた者しか閲覧できないウラディープログのデータの詳細を彼に教えたのである。 バイルが言うにはファートは人望が無い為人質にした所で戦いを挑む勢力は出てくるだろうし それなら未来の情報からより建設的な道を模索していこうではないかとの事だ。 「未知の惑星の高エネルギー元素ディフレクターか…新たな商売に使えそうやなぁ!!」 「人間にレプリロイド並みの力を与えるライブメタル…エルフ細胞と併用すればそれこそ神の領域に踏み込めそうですね、ホッホッホ…」 「人間とレプリロイドの憎しみから作ったサイバーエルフを大量生成する巨大企業に 全世界の人間とレプリロイドの肉体を管理する政府か…実に興味深い…」 プーパー、フィースィー、タードの高揚感も上記の4コマンダーに勝るとも劣らない。 「バイルの奴め、面白い事を抜かしておったな…気分転換にアレの試運転でもするか…」 ヘルシャフトが向かったのは基地内の非常に巨大かつ頑丈なシェルターだった。 彼はシェルターに入ると中に鎮座する巨体を見据える。 それは一見巨大な怪獣の形をしたメカニロイドに見えるが実際は中に人が乗り込んで操縦するロボットである。 そのサイズは5モンスターを遥かに上回り見る者を畏怖させる威容である。 ヘルシャフトが乗り込むとロボットは立ち上がり両目に光が灯る。 ゴゴゴゴゴゴゴゴ… 同時にシェルターの隅々にある巨大なシャッターが開き奥からは8エージェント、5モンスター、5ガーディアンのデッドコピーが続々と現れヘルシャフトの乗るロボットを取り囲む。 その数実に18体。 「来い…!」 ヘルシャフトは不敵に笑う。 彼の合図とともにデッドコピー達は一斉にヘルシャフトに攻撃を開始する。 1体1体が街や敵対勢力に甚大な被害をもたらしハンター達をも苦戦させた8エージェント、5モンスター、そして5ガーディアン。 そのデッドコピーも性能だけならオリジナルと遜色無かったのだが… 「ヌンッ!!」ドカッ!!! 「喰らえ!!!」シュバァァァァァァァァ… 「フフフフフフ…」ガガガガガガガガガガガガ!!!!!! ヘルシャフトの操縦するロボットは圧倒的なパワーと火力でデッドコピーを次から次へと蹴散らしていく。 しかも彼等から一斉に攻撃を喰らっているにも関わらずロボットのボディには傷一つついていない。 性能はもちろんの事サイズがサイズだけに完全に弱い者いじめの構図である。 ヘルシャフトは自身の駆るロボットで瞬く間にシェルター内のデッドコピーを全滅させた。 「フ…フフ…これを乗り回している時に味わえる…巨体による優越感と…パワーによる…征服感は…予想以上だが…肉体に掛る負担も…予想…以上…だな…!!」 操縦を終えロボットを降りたヘルシャフトだが明らかに様子がおかしい。 息が上がり目が充血し鼻血が出て真っ直ぐ歩けない。 検査を受けてみると彼の言う通りロボットの動きの激しさ故に中で操縦するヘルシャフトの肉体に深刻な負担がかかっていたのだ。 診断を担った医師が言うには普通の人間ならとっくに死んでいるレベルであり、ヘルシャフトはロボット操縦の際出力をセーブしてはいたが 仮に最高出力で操縦していたら彼の命も危なかったとの事である。 「…急ピッチで造らせたから…シグマや過去のマッドサイエンティストのように…機体が未完成の状態で…出撃するような…無様は晒す事はなくなったが… 操縦者である俺自身が…最後の…未完成のパーツという…ことか…! だがこれから来るエルフ細胞が来れば…それも解決…! 尤もこれの出番が来るのは防衛隊、バリア、本隊の全てが破られた時… これを成すのは…既存の…どの勢力にも…限りなく不可能に近いが…絶対とは言い切れぬ…!! 無いに越したことはないが…その時はエルフ細胞でグレードアップした俺と…最高出力のアレのパワーで…直々に…捻りつぶしてくれるわ…!!」 息も絶え絶えのヘルシャフトだがその野心と闘志は全くブレていない。 「(皆やる気まんまんじゃのう…)」 基地内の各部の様子を監視していたDr.Vは内心メタシャングリラ全メンバーを見下した様子である。 「(こっちもこっちで気合十分じゃのう…)」 同じ頃ハンターベースではバイルがハンター達に対し同様の事を考えていた。 「「(その気合と情熱を存分にぶつけ合い…ワシの掌で踊るがいいわ、クーックックック…)」」 目標の為に突き進むそれぞれの同志を腹の内では嘲り笑う両者であった… そして宇宙空間では… ウラディープログのサーバー本体は容易に近づけぬよう地球を周回する宇宙船の中にある。 宇宙船の中にはウラディープログの管理人がおり、サーバーを守り管理している。 そう、ディープログの管理人がリコであるように、ウラディープログにも管理人がいたのだ。 「ハァ…皆熱くなっちゃって…バカみたい…」 ウラディープログの管理人は退屈そうに紅茶を飲みながら各勢力の様子を見ていた… 続く

第十五話「仁義」

メタシャングリラ本拠地… それはギガンティス島に勝るとも劣らない規模の巨大な人工島にそびえ立つ5棟の建物からなる巨大要塞である。 要塞は烈火軍団が守る「烈火殿」、氷結軍団が守る「氷結殿」、轟雷軍団が守る「轟雷殿」、虚無軍団が守る「虚無殿」、そしてそれら4棟に囲まれた「本殿」から成る。 この5棟の要塞は強力なバリア障壁に守られていたのだが、それが今… 「行くよ…!」 パァァァァァァ… 要塞に到達したパッシィによってバリアが消滅させられた。 ほぼ同時刻。 要塞の外の物陰に3人のレプリロイドが潜んでいた。 連邦政府に属する裏の実力者3姉弟、エラトネール、ドロワクレール、アンジュピトールである。 「あら、長官をその場所に移送するとはどういう意図がおありですノ?」 エラトネールが通信でバイルに尋ねる。 「あそこは限られた手段でしか行く事は出来んし、よしんば行けたとしても奴等は大暴れは出来ん。 そこには奴等がどうしても執着する物があり、それを下手に戦って壊してしまっては元も子もないからのう。 それにそこには優秀な護衛もおるし、何より長官を救出した後は…お前達にも戦って欲しいのじゃ」 「…成程、分かりましたワ」 バイルの説明にエラトネールは頷く。 「え~、ボク達も戦っていいの~?やったやった~、救出任務だけじゃ物足りないって思ってたんだよね~!」 これを聞いたアンジュピトールが両手を振り回してはしゃぐ。 その横ではドロワクレールが眼前に要塞全体のワイヤーフレーム状の立体映像を出現させていた。 マックスアーマーのアイテムレーダーの要領で基地内の目標の探索を行っているのである。 その目標は勿論ファートである。 「流石に入り組んでいるわね~…えーとえーとえーっと…見っけ!!」 苛ついている様子のドロワクレールだったがファートの位置の特定にはさほど時間は掛からなかった。 彼女がファートの位置を確認すると基地内から彼女が送り込んでいた無数の幽霊のような外観のエネルギー体が飛来し、 次々と彼女の持つポーチの中へと入っていく。 「それじゃアンジュ、お願いね」 「OKOK、…それっ!」 ドロワクレールの指示に従い、アンジュピトールは空間に扉を出現させた。 「それじゃあ行こうかしラ」 「「は~い」」 エラトネールの合図とともに3人はその扉の中へと消えていった… ほぼ同時刻。 本殿内部にて… シュウウウウウ… サイバーエルフ研究所の研究員達が彼等の所持する転送装置によって転送されてきた。 エルフ細胞を接種済みの少年達を伴って。 本殿は他の4棟に囲まれており中に入るには本来ならその4棟の何れかを経由しなければならないのだが彼等はメタシャングリラの正規構成員でありその権限によって本殿の任意の地点に行き来できる転送装置を所持している。 今回は研究者達は転送の際少年達と手を繋いだ事により彼等も特別に中に入る事が出来たのだ。 「ハァ…!ハァ…!」 ドドドドドドドドド… 研究者達は必死の形相でエルフ細胞が入った容器を手に掲げながら幹部達に駆け寄る。 「こ、ここに…エルフ細胞は…エルフ細胞は…有りまぁす!!!!!!!!!!!」 「な、何だそんなに慌てて…エルフ細胞作製に成功したのなら通信で済ませればいいではないか」 タードが若干の冷や汗をかきながら言う。 「これは不測の事態かもしれんがな。とにかく説明せえ」 プーパーも若干困惑の表情を浮かべ研究者に問う。 そして研究者たちはしどろもどろに説明を始める。 エルフ細胞の作製が成功した事、サイバーエルフ研究所が攻略された事、通信を入れても繋がらなかった事を。 「…所長は…最後は己の身を顧みず…我々を逃がして…そして…これを送り届けさせて下さりました…!!」 涙ながらに報告する研究者達。 「組織の為に我が身を捧げるとは…その精神、構成員の鑑とも言うべきでしょう…ともあれ重要拠点の1つが落とされたのは由々しき事態です」 フィースイーがそう言った時だった。 ザザザザザザ… 基地に通信が入った。 「こちら兵器工場!侵入者が現れました!」 「こちら氷の聖都!侵入者です!」 「コチラリボプス!侵入者発生!侵入者発生!」 「こちらサイバーエルフ研究所!侵入者です!それもS級ハンターの…エックスとトラストです!!」 次々と告げられる侵入者発生の報告。 しかもサイバーエルフ研究所からの通信の声の主は今目の前にいる研究者達である。 その後も通信は続々入っていく。それも最初は冷静だった声色も徐々に焦りの色が強くなっていく。 「戦況はこちらが不利!応援を要請します!!」 「敗色が濃厚です!う、うわあああああ!!!!!!」 「最終防衛ライン突破…最終防衛ライン突破…」 「シダージュが撃破されました!サイバーエルフ研究所は…陥落しました…!!」 全ての重要拠点が陥落した事が告げられてしばらく経った時… 「大変です!この基地のバリアが…消滅しました!!しかも復旧できません!!!」 止めと言わんばかりにバリア消滅の報せも入る。 「「「…………」」」 顔面蒼白になり滝のように冷や汗を流しながら互いに顔を見合わせる幹部達。 しかしそこは幹部故か、すぐに落ち着きを取り戻した。 「ファートの件で世界中が混乱に陥ったというのに敵対勢力に何の動きも無かったのは不自然とは思っておったが…小細工を弄しおって!! とにかく総帥の指示を仰ぐぞ、確か今は別室でご静養だったはず…」 内心では全て知っていたDr.Vがわざと深刻そうな口調で言う。 そして一連の報せはヘルシャフトの元にも届いた。 「そうか、成功したか!!」 報告を聞いたヘルシャフトだったが重要拠点を突破された怒りよりもエルフ細胞完成の喜びが勝っている様子だった。 そして彼は指示を下す。 「正規構成員達は実験室に集え!そこでエルフ細胞接種を執り行う! 各軍団は戦闘態勢に入れ!我が拠点に入ってきたネズミ共を返り討ちにせよ! シャッテン、ファートの処刑は貴様が執行せよ!その様子は世界に拡散するのだ!」 「「「「「ハッ!!」」」」」 彼の号令に従い各軍団は戦闘態勢に入り、ヘルシャフト含め本殿の他の部屋にいた正規構成員達は本殿内の実験室に集う。 ちなみにファートは虚無棟に幽閉されていた。 「俺が自ら出向く可能性が…また高くなってしまったな…まぁ奴等が4コマンダーを倒せれば、の話だが… そしてファートには無様に死んで貰うぞ、我々を出し抜いた報いを世間の奴等に受けさせてくれるわ!」 怒りと喜びを同時に浮かべた表情で呟くヘルシャフトであった。 一方烈火殿にて… この棟に最初に突入したのはエックスとトラストの2人である。 彼等を迎え撃つはを未来の強者を模したバスター「ディアバーナー」、並びに同じく未来の強者を模したインジェクター「ブレイリザード」を装備した烈火軍団兵士達。 「撃てぇーっ!!!!!」「ファイアーッ!!」 ディアバーナーによる遠距離攻撃とブレイリザードによる中距離攻撃がエックスとトラストを襲う。 彼等を物ともせず撃破していく2人だったがある時… 「でぇぇぇい!!」 ディアバーナーを装備した烈火軍団兵士の1人が真上に跳躍するとその直後脚に強大なエネルギーを纏い その状態でエックスに飛び蹴りを見舞う。 「そらよっ!!」 一方でブレイリザードを装備した烈火軍団の兵士の1人がブレイリザード本体の周りを覆う5枚のプレートからなる環状で星形に見えるパーツを取り外し、手裏剣の要領で投擲してきた。 エックスとトラストはそれぞれの攻撃を躱すと攻撃の主をキッと見据える。 「「まさか…」」 「ククククク…俺達のこの武器はなぁ、形だけを真似ただけじゃねぇ… 最新の技術によって元となった強者の能力をより多く受け継いでいるのさ!!言わば俺達は未来その物!!」 豪語する烈火軍団兵士達。しかし… 「そんな未来あってたまるか!!」 「それに…こっちの武器もそれは一緒ッス!!」 エックスとトラストは異議を唱えるや否や反撃を開始。 Xインパクトを所持するエックスは片足を突き出した状態で全身にエネルギーを纏ってスライディングを繰り出し、 アインクラフトを所持するトラストは銃口からビームブレードを展開した状態で突進して烈火軍団兵士を薙ぎ払っていく。 「ギャアアアテメー等もかああああああああ~っ!!!!!」 エックスとトラストはそれぞれの武器の元となった強者の力も活かして難なくこの場の敵を一掃した。 その時エイリアから通信が。 「シグナスによると敵の戦力を少しでも削る為、それと後方からの襲撃に備える為可能な限り多くの敵を倒す為に基地内の広範囲でミッションを遂行して欲しいという事だけど… これから2人1組で行動し続けるかそれとも二手に分かれるかは、よく考えて」 両者は暫し考えた後先程の敵の戦力を鑑みて効率重視で二手に分かれる選択を選んだ。 「最深部で合流しよう!」「押忍!!」 それぞれの道を行く両者。 エックスが基地内を暫く進んでいきシャッターを潜った時… シャッターの向こうの大部屋は熱気に包まれていた。 入口のすぐ先は断崖絶壁で向こう岸まで遥か遠く、下はマグマで煮えたぎっている。 向こう岸までは小さな足場が飛び石のように点在している。 そして、両側の壁の一部がせり出しており、せり出した壁の上には砲台や烈火軍団兵士達が配備されている。 それだけでなく空中には飛行タイプのメカニロイドも飛び交っている。 これを見たエックスはダイヴリングを展開。 この技は無数の画面がエックスの周囲を周回するように見える技だがエックスは更にこれらの「画面」を自分の前方に集め、1つ1つを拡大させた。 そしてその中のファルコンアーマーが移った画面をタッチした。 その結果フリームーブが可能となりエックスは壁際と空中の敵を順調に撃破しつつ進んでいく。 その時だった。 「クワアアアアアアアアア!!!!!」 耳をつんざくような鳴き声を伴い赤い巨体がエックスの前方に現れる。 「プテラノイド…か…!!」 過去の大戦を思い出し一瞬顔を顰めるエックスだったがすぐに戦闘態勢に入る。 その後激しい空中戦を経てエックスはプテラノイドを撃破し、向こう岸に渡った。 その頃トラストは壁や床、天井の至る所に火炎放射器や可燃性ガスが噴き出す道を突き進んでいた。 これらのトラップはこれまでの事件の時に見られたように絶えず噴き出したり止んだりを繰り返している。 故に止んでいる間に通り抜けるのが定石だが如何せん数が多過ぎる。 「こうなったら…チルドピッチ!!」 トラストはクレーネルから受け継いだスキル「チルドピッチ」を発動。 この技は表面に氷柱を生やしたボールを投擲する技であり地形や敵に当たると突き刺さりその後刺さった範囲を中心に一定範囲を凍らせる効果がある。 トラストは尽く火炎放射器の放射口をボールで塞ぎ、その際出来た隙を突いて先に進むが… ドォォォン!!!!!!! 彼の前方にプテラノイドとは異なる赤いボディの巨大メカニロイドが出現した。 ナイトメアスネーク…ナイトメア事件の際現れた強力なイレギュラーでありその情け容赦ない攻撃から ディープログの訓練を受けたハンター達の間ではヒートニックスより強いのではないかと噂される程である。 バシュッ!バシュッ!バシュッ! 矢継ぎ早にコアから放たれるナイトメアスネークの光弾。 しかしそれに物怖じせずバットを構える。 「これだけ連発してくれるだなんて、却って好都合ッス!!」 ガガガガガガガガガガ!!!!!!! トラストは全ての光弾を撃ち返し、それを全て放ったコアに命中させていく。 やがてトラストはナイトメアスネークは撃破し、先へと進んでいった。 その頃この烈火殿に、マッシモが遅れて突入してきた。 入り口付近の敵は既にエックスとトラストが一掃しており彼は敵の残骸が散らばるルートを暫し進んだ後、 この2人が通らなかった道へと進み始める。 彼が進んだ先に待ち構えていたのは様々な大型獣や恐竜を模したメカニロイドの軍団で 過去の大戦で現れたものもいれば、新たに製造されたものもいる。 マッシモは襲い来る彼等を撃破し続けている時だった。 ズシン…ズシン…ズシン… 地響きを伴いマッシモの前方に姿を現したのはレッドアラート事件の時にハイエナードが従えていた 超巨大ガゼル型メカニロイド(以下ガゼル)である。 ガゼルはミサイルを放ちつつマッシモに迫り来るが… 「こいつは確か…膝が弱点だったな…ベルセルクチャージ!!!」 マッシモはガゼルの膝関節にベルセルクチャージを放ち動きを止める。 その後すかさずマッシモはガゼルの脚を駆け上がる。 この時ガゼルはマッシモにミサイルを放ち続けるが、マッシモは全く意に介せず登っていく。 只でさえ頑丈なマッシモではあるが、ベルセルクチャージを放った後一時的にバリアを張る性能が付加されていたのだ。 そしてその状態でマッシモはガゼルの首目がけてランサーを振り下ろす。 「どぉりゃああああああ!!!!」 ガッ!ガッ!ガッ!! マッシモは旋風斬をガゼルの首に見舞う。 この技も発動後にバリアを張る性能があり、ベルセルクチャージのバリアの効果が切れた直後再度バリアを張って ミサイルを無効化しつつガゼルの首を斬りつけ続けていく。 遂にはマッシモはガゼルの首を切り落とし、勝敗は決した。 「よっしゃああああああ!!!!!」 マッシモは改めて気合を入れ、その先へと進む。 その頃エックスはライドアーマーに搭乗した烈火軍団兵士の軍団に囲まれていた。 ライドアーマーの種類はキメラ、カンガルー、ライデン、ライデン2、ゴウデン、ゴーレム等と多岐に渡る。 エックスは敵の1体からライドアーマーを奪うとそれに搭乗し瞬く間に敵を撃破していくのだが… 「そこまでだ!!」 エックスが声のした方に目をやるとそこにはガンガルンのライドアーマーと同型のライドアーマーに搭乗した烈火軍団兵士が姿を現した。 しかしガンガルンがエックスより遥かに小柄であるのに対し今目の前にいる烈火軍団兵士は大人サイズであり明らかに窮屈そうである。 彼はカンガルー型ライドアーマーを駆りエックスに戦いを挑むが… 「この…!この…!」 サイズが合っていない為か彼の操縦には若干のラグがある。 「お前の敗因は…そのライドアーマーの座席のサイズを調整しなかった事だぁーっ!!」 「そんなぁ~っ!!!!」 エックスは敵兵をライドアーマーごと破壊した。 この時既にエックスは基地内をかなり攻略していたのであった… ほぼ同時刻、トラストは床と壁におびただしい数の砲台が設置された通路に来ていた。 砲台からは次々と実弾やエネルギー弾が放たれるが… 「またバッティングセンターッスか、準備運動には丁度いいッス!!」 またもトラストはこれらの弾を正確無比に撃ち返していく。 そんな彼の行く手を阻むのは四隅に青いコアがある頑丈そうな扉だった。 レッドアラート事件の時の仕掛け「ガードドア」である。 「これは3回攻撃を当てれば良かったはず…」 トラストが気を張ってガードドアのコアを注視しているとコアの1つが赤くなった。 彼は史実と同じく赤くなったコアに攻撃を当て、これを3回繰り返した。 すると爆音と共に全てのシャッターが開かれたのだが、ここから先が史実と違った。 ガードドアの反応は依然として消えず、先程開けたシャッターの向こうにまた新たなシャッターが現れたのだ。 「守りが固いッスね…それじゃあもう一勝負行くッス!!」 トラストは再度赤くなったコアに3回攻撃を当て、シャッターを開ける。 その結果…また新たなシャッターがトラストの前に姿を現す。 「………こんな所で足止め喰らう訳には行かないッス!!ボンバーピッチ!!」 ドガァァァァン!!!!!! トラストはカピラーバのスキル「ボンバーピッチ」でシャッターを爆破し強行突破した。 これは彼の苛立ちというよりも早く事件を解決せんとする使命感とこれだけ厳重に守りを固めているという事は敵はこの先に余程入って欲しくないという確信によるものだという要素が大きかった。 事実彼がエックスと合流するのにそれ程時間は掛からなかった… その頃マッシモが次に突入した部屋では様々なタイプの戦車並びに戦車型メカニロイドが待ち構えていた。 火力と装甲が自慢のこれらの戦車は一斉にマッシモに襲い来るが… 「こんなもん、この鋼鉄のマッシモにとっちゃ紙装甲に過ぎん!」 彼の言葉通り次から次へと戦車が難なく撃破されていく。 そんな中… 「おうおういい度胸してるじゃねぇか…だがこいつ相手にどこまで粋がれるかな…!?」 キュラキュラキュラキュラキュラ… マッシモが声の方に目をやるとそこには紫色の巨大な戦車が彼の前に現れた。 カウンターハンター事件の時にサーゲスが搭乗していた戦車「サーゲスタンク」と同型の戦車に搭乗する烈火軍団兵士だった。 「オラオラオラオラオラァーッ!!!!!!」 4つの砲門から次々と攻撃を放つ烈火軍団兵士だったが… 「この形状なら、横からの攻撃に弱そうだな…旋風斬!!!」 サーゲスタンクは全高、全長に対し全幅が極度に短いのである。 マッシモはそれを鑑みて横に回ると旋風斬を繰り出した。 「おわぁっ!?」 グラッ… サーゲスタンクが傾く。 「もう1発喰らえっ!!」 ガッ!ガッ!!ガッ!!!ズデーン!!!! サーゲスタンクは盛大に転倒しその衝撃で操縦していた敵兵は機能停止。 この時マッシモはこの先の敵の数と力を考慮したのか… 「フンッ!!」 サーゲスタンクの残骸にランサーを勢いよく突き刺したのだ。 そして何とその状態でランサーでサーゲスタンクを持ち上げハンマーとして使用し始めたのだ。 これは戦闘に大きな効果を上げ、道行く先で壁も破壊しつつ敵をひたすら屠り続けて行った… そんな一方エックスとトラストは合流を果たしていた。 2人の眼前には赤く巨大な扉が彼等を見下ろすように行く手を塞いでいた。 その向こうからは8エージェントを格段に上回るエネルギーを、2人は全身で感じ取る。 「この先に………行くぞ!!」「押忍!!」 緊迫した様子で2人は扉の先へと進む。 扉の先は広大な岩場だったが、エックスとトラストが入室した直後、岩の壁の一部が赤くなり、ドロドロに溶けて壁の向こう側から赤い竜を模したアーマーを纏う巨人… 4コマンダーの一角にして烈火軍団団長のフランメが彼等の前に姿を現した。 手には未来の強者を模したランチャー系とインジェクター系を合わせたような武器「クワトロファフナー」が握られている。 クワトロファフナーは下顎が突き出た怪物のような外観かつ角張った形状の黒い銃身の後方から4本の管が伸び、 それらの管は歪曲して先端に繋がる円筒形の赤い四つ目の竜を模した砲塔を前方に向けている、といった形状をしている。 先程岩を溶かしたのはこのクワトロファフナーからの火炎放射によるものである。 エックスとトラストを視認するやフランメはその強面と巨体、ドスの効いた大声で彼等に盛大に啖呵を切る。 「おうコラ!!!!このメタシャングリラの基地にカチコミたあいい度胸しとんのう!!! シマ荒らしに加えヘルシャフトの親父に弓引くたぁ仁義外れもいい加減にしやがれ!!!!!」 普通のレプリロイドならそれだけで気絶してしまう程の勢いだったがエックスとトラストは気圧されず反論。 「仁義外れだと!?その言葉そっくりそのまま返すぞ!!! お前達の部隊がやった事は知っている…紛争地域の争いをかき乱し、それだけでなく世界中に戦火を撒き散らして… これが仁義外れじゃなかったら何だというんだ!!!!」 「自分はファナティカの惨状をこの目で見たッス!!どんな大義名分を掲げようとあんなのはアウトッス!!反則ッスよ!!!」 「テメェが綺麗事並べてプロジェクトエルピスを妨害したのが原因だろうが!! ファナティカでのシノギも兵器工場でのシノギもテメーがもたらした損害を埋めるのに必要だったのにそれらも潰しやがって… どう落とし前つけるんじゃ、ああ、コラ!!」 尚も凄むフランメ。 「無用な戦いと死者を出し続けるお前達を食い止める、ただそれだけだ!!」 「何の罪もない人が死ぬ戦いなんて、許されないッス!!」 反論するエックスとトラストに尚もフランメは言い返す。 「何の罪もないだぁ!?馬鹿言え、弱い事こそ罪だ!考えない事こそ罪だ!!行動しない事が罪だ!!! 大多数の奴等は自分では何もできないくせに文句ばかりは一丁前に言いやがる!! そんな愚図共に分不相応な自由も権利も必要ねぇんだよ!! そんなのはヘルシャフトの親父のような選ばれし者だけが許される特権よ! あのお方のような偉大な人物が大勢の愚図を支配した方が世の中上手く回るのさ!! かく言う俺も分不相応な権利を求める愚か者だった… サイバーエルフのお陰で目を覚ました今、俺はあの御方の為に命を捧げ戦い抜くと誓ったのよ!!」 「…強者は弱者を好きにしていいだなんて、今まで戦ってきたイレギュラーの持論と何も変わりはしないじゃないか! やはりお前達はこの手で食い止める…絶対に!!」 「ただ自分の意思を持つだけの権利がレプリロイドには分不相応だなんて事は絶対にないッス! エックス先輩は間違っていないっスよ!!!」 どこまでも平行線を辿る両陣営の会話。 怒鳴る勢いに比例し各陣営の闘志も高まっていき…ついにはぶつかり始める。 「ヴァイタルバーナー!!!」 クワトロファフナーの4つの砲塔から勢いよく火炎を放つフランメの猛攻をエックスとトラストは辛うじていなしながら反撃を試みる。 しかしそれらが全く効いている様子もない中、フランメが大きく地面を踏み鳴らした。 ガラガラガラガラガラ!! その影響で部屋全体が大きく震撼し、天井からは落石が発生する。 よりボディの大きなフランメにも天井から落ちて来た岩は当たるのだがこれによりフランメがダメージを受ける事は無く逆にフランメに当たった岩が砕け散る。 「クッ…ビクトリースィング!!!」 ドガッ 何とか踏ん張ったトラストが頭上に迫り来る大岩をバットでフランメ目がけて撃ち飛ばすも… 「いい打球じゃねぇか、お返しするぜ…オラァ!!!」 ビュッ!!! フランメはその大岩を手で受け止めるとトラストに投げ返す。 それはトラストを遥かに上回る剛速球だった。 「(強…速…避… 否…死)」 岩が迫り来る中、その僅かな瞬間に思考を張り巡らせるトラスト。結果彼が取った行動は… 「キャッチャーモード、発動!」 ドガッ!!!! トラストは咄嗟に野球のキャチャーのような姿のキャッチャーモードを発動。 この形態は防御力に全振りしたものである。 「ぐうううう、流石4コマンダー…これは効くッス~ッ!!!」 苦痛の表情を浮かべ堪えるトラスト。 全身を強打し立っているのがやっとであり、キャッチャーモードになっていなかったどうなっていたかは彼は考えたくもない程だった。 「大丈夫か!?」「押忍!!」 トラストは回復アイテムを用いて体制を立て直す。 ちなみにエックスはダイヴリングで落石を防いでいた。 その後もフランメの猛攻は続く。 「ブラストボム!!ファイアウェーブ!!!」 クワトロファフナーの上段の砲塔からは大型爆弾が、下段の砲塔からは火炎弾の高速連射が放たれる。 「「ううっ!」」 「ワックアドラゴン!!」 クワトロファフナーの本体と4つの砲塔を繋ぐ管が伸びて砲塔が地中並びに壁の中に潜り、暫く経つと異なる場所から砲塔が姿を現して火を噴く。 「そこか…!?いや、そっちか!?」 壁や床の穴から砲塔が出たり引っ込んだりする状況からエレキドナー戦を思い出すエックスだったが フランメ本人は地上におりいつでもエックス達を見据えているのでエレキドナー戦のような隙は無い。 そしてある時… 「ヘルズテンタクル!!」 ミシミシミシミシミシ…! 壁より出現したクワトロファフナーの管が触手のようにエックスとトラストに巻き付き、凄まじい力で締め上げる。 「ううう…!」「ぐんぬぬぬぬ…!」 この手の攻撃はもがいて脱出するのが定石でありダイヴリングを展開していたエックスが先に脱出してトラストをレスキューチェンジで救助した。 「あの武器を何とかする必要があるな…砲塔を集中攻撃だ!」「押忍!!」 火力に加え蛇や触手のように動く管もあるクワトロファフナーは実に厄介である。 その為2人はクワトロファフナーの砲塔を狙い撃ちし始めたがこれがかなり頑丈で中々ダメージを与えられない。 フランメ本人の頑丈さはそれさえ凌駕しておりエックスとトラストが連発出来ない大技でやっとダメージが与えられるほどであるがその際フランメは全くのけぞらないので手痛い反撃を喰らう事もあった。 しかもフランメは広範囲、高威力の技を通常攻撃のように連発してくるのだ。 「大技の連発とくると…あれしかない!!」 エックスは先程のようにダイヴリングからアーマーの映った画面を展開し、アルティメットアーマーの画面をタッチした。 そしてノヴァストライクを何発も当ててやっとの思いで砲塔の1つを破壊した。 「それがどうした、まだ3つ残っているぜ?ヴァイタルバーナー!!」「うわあああ!!」 以降もフランメはクワトロファフナー及び落石、震動でエックスとトラストを追い詰める。 エックスのXインパクトはセント―ラのサイバーエルフより作成した「ガーディアンカード・セント―ラ」によって、 そしてトラストのアインクラフトはマーシャルのサイバーエルフより作成された「ガーディアンカード・マーシャル」によってそれぞれ威力を底上げされているのだが 各々の通常攻撃ではフランメに全くダメージが与えられずチャージ攻撃で一応はダメージを与える事が出来るものの決定打にかける。 またエックスのダイヴリングは常時展開できるものではなく、体力回復の性能があるものの1回で回復できるライフの量に限りがあるため ダイヴリングが切れた時に回復量を上回るダメージを受け続ければ形成は不利になる。 トラストのキャッチャーモードもフランメの攻撃を耐えきる事が出来るものの喰らえばトラストは大ダメージを受け、 加えてキャッチャーモードでは攻撃力とスピードが落ちる為常時発動するのは現実的ではない。 まともなダメージが与えられるのはノヴァストライクやダブルアタックぐらいだがそれらも発動を察知されると力づくで阻まれる。 これによりエックスとトラストは大ダメージを受けつつも試行錯誤をし、攻撃と防御のタイミングを慎重に見極めながら果敢に応戦するのに対し フランメは何の制約も無く威力と攻撃範囲の両方において抜きんでた攻撃をひたすら繰り出し続けていくのだ。 砲塔に一撃で与えられるダメージは微々たるものでフランメ本体に対してはそれはさらに下回る。 そんな中トラストは… 「(この守りの固さ…さっきの火炎放射器とかガードドアとかの比じゃないッス… これを崩すにはもう…あの力を使うしか無いッス…!自身に対しても周りに対しても危険極まりないというあの力を…!)」 ……… 「新たに解析したこの力ですが、そのあまりの破壊力もさることながら使用した時に己の身に降りかかる負荷も測り知れないものです。 ですから…ここぞという時にのみこの力を使ってください」 トラストの脳裏によぎるのは出撃直前のパージからの説明であり、説明の際のパージの様子は真剣そのものでかなりの気迫があった… ……… 「(…相手は攻めも激しく、このままで負けてしまうッス…だから…だから…使うなら…今しかないッス…!!) ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」 バリバリバリバリバリ!!!!!!!! 急速にトラストのエネルギーが上昇していく。 「何だぁ?」 フランメはそれに気付くも大して気にしていないようだ。 そんな彼を見据えて腹を括ったトラストがカッと目を見開いたその時だった。 「どりゃああああああ!!!!!!」 ドォォォォォォォォン!!!!!!!!!! 突如上から大きな叫び声が聞こえたと同時に天井が音を立てて崩れ中から巨大な何かが降ってきた。 その正体は先程サーゲスタンクの残骸をハンマー代わりにしたマッシモだった。 「む、4コマンダーのフランメだな…ならば…パワー全開!!!」 落ちた先でフランメを視認するや否やマッシモはダイモニオンを発動。 そしてすかさずサーゲスタンクでフランメを殴りつけ始める。 ドガッ!!バキッ!!!ドグシャ!!!! 「うおっ、何だ!?」 この攻撃はフランメにダメージを与えたばかりか攻撃の手も止めさせた。 これを見たトラストは自身が今の今までしようとしていた事をひとまず中止した。 「マッシモさん!マッシモさんじゃないッスか!!(この戦い、9回裏と判断するにはまだ早かったみたいッスね…)」 自身の「切り札」を使う時でないと判断したトラストが喜び勇んで言う。 「おう、この様子だとピンチみたいだな…だがこの鋼鉄のマッシモが来たからには…「調子に乗るな!!!」ゴッ!!「ぬううう!!!!」ヒュー……………ドガッ!! フランメを殴り続けるマッシモだったがある時体勢を立て直したフランメの剛腕によって殴り飛ばされ壁に勢いよく叩きつけられた。 「な、中々のパワーじゃないか…!」 そう言ってよろめき立つマッシモを見てフランメは吠える。 「ギガンティス総督府のマッシモだったな…テメーにはフーディーン&ライディーンを撃破されているが、そのケジメを取って貰うぜぇ!!」 「いや、あれはあいつが自分で…」 「つべこべ言うな!!!ヴァイタルバーナー!!」 思わず異を唱えんとするマッシモを無視してフランメは攻撃を開始。 「こりゃ新しくガウディル博士に作ってもらったこいつを試す時みたいだな…」 そう言ってマッシモは銀色の束に雷で出来た刀身が特徴のセイバー系武器「ベルセルク」を構える。 ギガンティス総督府もウラディープログのアクセス権を特例で得ており、この剣はウラディープログのデータより作成されたものだが、 実は「未来の強者」ではなく「異界の強者」を模している。 というのもディープログが過去の世界に基づく「パストログ」と現代の世界に基づく「ベーシックログ」に分かれているのと同様に ウラディープログは未来の世界に基づく「フューチャーログ」と現実とは異なる技術が発展した「異界」(もしもの世界)に基づく「パラレルログ」に分かれているのだ。 パラレルログに記録された世界線は時空のどこかに存在しているという理論があり、そこの世界の強者達も過去、現代、未来のそれに勝るとも劣らない実力者ばかりだという説もある。 今、マッシモが手にしているベルセルクのデザイン元となった強者はその中でもかなり強い部類に入るらしい。 「サンダースラッシュ!!!」「ぬおっ!?」 マッシモはベルセルクから雷撃を放ち、これを喰らったフランメは一時的にマヒ状態になる。 ベルセルクもまた元となった強者の能力を受け継いでいたのだった。 「今だ、ノヴァストライク!」「ビームキャノン!」 追撃を見舞うエックスとトラスト。そしてフランメのマヒが解けると距離を取る。 以降戦いの流れがハンター陣営に傾き始める。 人数が2人から3人になるだけで敵の注意を引きつけたり、隙を突く効率が格段に上がったのだ。 無論これは個々の実力があってこそのものではあるが。 フランメの攻撃が来る時は3人が縦一列に並びダイヴリングやキャッチャーモード、旋風斬及びベルセルク発動後に発生するバリアなどによって その時々で最も防御力の高い者が一番前に出て攻撃を防ぐことでこれを防ぐことで 受けるダメージは最小限に留める事も出来るようになった。 「「ダブルアタック!」」ボガーン!! 2つ目の砲塔撃破。 「チャージコレダー!!」ガガガガガガガガガガ!!!!!!3つ目の砲塔撃破。 「サンダーボルトブレイド!!!」ビシャアアア!!!!最後の砲塔撃破。 ちなみにサンダーボルトブレイドとはベルセルクから放たれる大技で元となった強者の能力に基づいている。 「よし、これであの厄介な武器を封じたぞ!」 エックスが意気込む一方で本人も相応なダメージを負っているフランメはエックス達を鬼の形相で見据える。 「クワトロフランメの砲塔を全部潰したからっていい気になってんじゃねぇぞ… 本番は…ここからだ!!」 ドボボボボボボボボボボボボ!!!!!!!! フランメは言い終えると口からマグマを吐き出し始めた。 「「「(…うわっ…!!!)」」」 見ようによっては嘔吐にも見え非常に絵面が汚いが状況は深刻である。 「後悔しやがれ野郎共…俺の絶対領域に…テメー等自身がさせちまったんだからなぁ! 高らかに笑うフランメ。 「こっちにだって、何も対抗手段が無い訳じゃない!」 エックスはダイヴリングを展開しファルコンアーマーの性能を選択し跳び回りながら反撃開始。 「メガビームスウィープ!!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ… トラストはアインクラフトを斜め上に構えるとその砲身の後部のジェットエンジンを噴かせて上昇、 ある程度の高度に達すると砲身の向きが水平になるように調整していき、 その直後方針に掴まった状態で飛行しながらレーザーを発射。 飛距離には限界がありやがて高度が落ちていく訳だがそれに対してもトラストは抜かりはない。 「アイススライダー!!」 シャーッ!!! トラストはマグマの上でライノサイルから受け継いだスキル「アイススライダー」を発動。 この技は冷気を纏ったスライディングで滑った後の地面を凍らせる効果がある。 飽くまで氷なのでやがては溶けるのだが、氷は充分に厚く時間稼ぎも出来る。 ブリザディオンのサイバーエルフより作成された「モンスターチップ・ブリザディオン」による効果である。 「おーらよっ、と!!」 バシャッ!! マッシモは先程のサーゲスタンクの残骸をマグマの上に垂直に立て、出ている部分に乗って足場にする。 無論サーゲスタンクの耐熱性は氷などとは比較にならない。 「往生際の悪い奴等め、クワトロファフナーの砲塔も結局壊し切れてねぇってのによ!!」 依然立ち向かうハンター陣営を相手取るフランメ。 彼の言葉が示す通りクワトロファフナーの砲塔は全壊ではなく中破に留まる程度であり、 ヴァイタルバーナーとブラストボムは使用できなくなったがこれらに比べて射程に優れる火炎弾はまだ発射可能である。 故に相手との距離が開いた時はフランメはこの攻撃を使用してくるのだが、ある時の事だった。 ボボボボボッ!!!! 1ヶ所に固まっていた3人に対しクワトロファフナーの全砲塔から火炎弾が次々と放たれた。 エックスはこれを回避しつつフランメを見据える。 その時クワトロファフナーの砲塔は1ヶ所の標的を狙う為に各々が内側を向いていたのだ。 これを見たエックスは同時に基地突入時で見かけたブレイリザードの形状を連想する。 ブレイリザードは3つあるガスバーナーが1ヶ所に集中し、その部分から火炎を放射していたのだ。 「(…これだ!!)」 エックスは何かを閃いた。 そして戦いながらトラストとマッシモに耳打ちする。 「難しそうだけど、やってみる価値はあるッスね!」 「絆の力の強さを見せてやろうぜ!」 2人は賛同し作戦開始。 まず相手の注意を引きつける必要があったのだが囮役はトラストが買って出た。 彼のパフォーマンスは派手であり、どうしても目が行ってしまうのである。 そこでマッシモが背後からサンダースラッシュを喰らわせフランメの動きを止める。 フランメは攻撃範囲が広く隙も無い為これが成功に至るまでかなりの時間と手間を要した。 そしてマヒ状態になっているフランメ目がけて3人は攻撃をチャージし始める。 フランメのマヒが解けるのと3人の攻撃が放たれたのは同時だった。 「チマチマチマチマうざってぇんだよぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」 迫り来るフランメに気圧されず同時に攻撃を放つ3人。 「チャージダイヴバスター!!」 「ビームキャノン!!」 「ベルセルクチャージ!!」 シュバアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!! 3つのレーザーが途中で合体して1つの巨大な光芒となり、フランメの胴体を貫いた。 「お、親父…すいやせん…お役に…立ちやせんでし…た…」 かつてない威力の前にフランメは破れついに4コマンダーの一角が落とされた。 「力なき者を守る為に戦う…今までも、そしてこれらかも!それこそが俺の仁義だ!」 言い放つエックス。 「俺達のパワーと絆の勝利だ!!」 マッシモも勝利の雄叫びを上げる。 「隠し玉を使うまでも無かったスね!!」 喜び勇むトラスト。 彼はこの先の戦いで封じられた力を今回の戦いで使用しなかった事が正解だったと思い知らされる事になる。 更なる強敵の出現によって…

第十六話「激流」

エックス達が烈火殿に突入した時と同時刻、フラジールとダイナモは氷結殿に突入していた。 2人の前に現れたのは未来の強者を模したセイバー系武器「ブラッドレヴィア」を携えた氷結軍団兵士達だった。 「侵入者共め、絶望するがいい、我々の未来の力に…スピリットオブジオーシャン!!」「ウォーターサークル!」 武器の外観の元となった強者の技を繰り出し2人に迫る氷結軍団兵士達だったが… 「…排除…」「未来の力とかいうのは君等だけのものじゃないぜ!」 フラジールはアビスからの火炎弾の連射で、ダイナモは新たに入手した武器「ZXセイバー」からのチャージ斬りで彼等を迎え撃ち難なく一掃した。 その後直後2人にレイヤーから通信が入ったがその内容はエイリアがエックスとトラストに入れた通信のそれと同様だった。 結果2人はエックスとトラスト同様別々のルートを進むことに… その頃虚無殿では… 「な、ななな何だこいつらは!!!!!」「攻撃が…効かない!!!」 突如として基地内の通路に無数の幽霊のような外観のエネルギー体が出現し、 それらが次々と虚無軍団兵士を襲い始め、撃破し始めた。 「こんな時に邪魔が入るとはな…いや、こんな時だからこそ、か… これは明らかにこの虚無殿に侵入した敵の攻撃、ならばその元を絶てばいいだけの事…!」 シャッテンは「幽霊」達の襲撃をひらりひらりと躱しながらファートの幽閉されている檻へと向かう。 そのファートのいる檻の中で突如空間に扉が現れ、中からエラトネール、ドロワクレール、アンジュピトールが姿を現した。 「おお、来てくれたか…」 「(うわっ、来んなブタ!!)ちょ、長官、助けに参りました」 3人を視認するや否やファートは涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔で彼等にすり寄る。 ドロワクレールはそんな彼に内心ドン引きしつつも任務の遂行を彼に伝える。 「アンジュ、例の場所にお願いネ」「はーい、エラトお姉ちゃん」 エラトネールに言われてアンジュピトールが空間に新たな扉が開くと3人はファートを伴い扉の先へと消え、 その後エラトネール達が外から入ってきた扉、同じく新たに開いた扉、虚無殿を襲撃した「幽霊」達は基地内から姿を消した。 「(攻撃が止んだが、ファートの反応も消失したぞ…まさか…)」 一連の出来事に何かを察知したシャッテン。 舞台を再び氷結殿に戻す。 フラジールが選んだのは水で満たされたルートだった。 そこでは水中生物型のメカニロイドをメインに水中用メカニロイドの軍団だった。 烈火殿のそれと同様過去の大戦で見られたものもいれば新たに製造されたものもいる。 フラジールは華麗に泳ぎ回りつつそれらのメカニロイドを撃破し続けて進んでいく。 そんな中彼女の前方に一際巨大なメカニロイドが出現した。 クルージラ―…第1次イレギュラー大戦時に現れたクジラ型メカニロイドである。 事件当時に現れた個体は攻撃回路の暴走により航行能力を失い近付く者を無差別に攻撃するようになった為その攻撃は精度を欠いた出鱈目なものであったが今フラジールの前にいる個体は違った。 従来の設計通りに航行機能を有したままであり、その攻撃も的確で精度もある。 「…邪魔…」 フラジールはクルージラ―の背中に飛び乗ると片方の腕からコア目がけてスリットエッジを連射。 もう片方の腕からは上空から襲い来るスカイクロ―を目がけてスリットエッジを連射して撃墜し続ける。 程なくしてクルージラ―は機能停止した。 次の瞬間… ガーン…ガーン…ガガガガガガガ…ドガァァァァン!!! 大戦時と同じくクルージラ―の残骸が沈んでいきその超重量により床をぶち抜きその先に新たな道が開かれた。 フラジールは新たに開かれたその道へと進んでいく。 ダイナモが選んだのは氷に覆われたルートだった。 そこで彼を待ち構えていたのはワニの頭部のような形状をしたインジェクター系の武器を装備した氷結軍団兵士達であった。 フロストギンガ…やはり未来の強者を模した武器である。 「プロジェクトエルピスの邪魔をするのは許さんぞ、『100年後に死にまくる人類とレプリロイド』… そんな悲劇を回避するために俺達は戦っているんだ!!」 大義名分を掲げて自分達を正当化する氷結軍団兵士達。 そんな彼等をダイナモは軽くあしらう。 「沢山の命を奪った俺が言うのも何だけどさ、それで今いるレプリロイドをサイバーエルフなんかで洗脳するのは違うんじゃないの?」 すると彼等は言い返す。 「死者の数の規模が違うんだ!!予測によると死者は人類の6割、レプリロイドの9割とある… その数はこの戦いも含む今までの事件とは完全に別次元…これを防がない手はないだろうが!!!!」 「規模の問題じゃないでしょ」 ダイナモは呆れた調子で言う。 「ほざけ、薄汚いイレギュラーがああああああ!!!!!!」 氷結軍団兵士達は一斉にダイナモに襲い掛かる。 遠距離からは縁が刃になっている金属製の車輪を飛ばし、近距離からはフロストギンガのワニの口の部分から冷気を噴射する氷結軍団兵士達だったが… 「これは君等のだろ、お返しするぜ!」 ダイナモは飛んできた車輪をキャッチしてはそれを彼等目がけてフリスビーの要領で投げ飛ばす。 無数のDブレードを飛ばすDブレード・乱を使える彼からすれば大抵の飛び道具は大した脅威ではない。 「ぐわあああああああああ!!!!!!!!!」 氷結軍団兵士達は自分の武器で両断されていきダイナモは容易くこのポイントを突破して先に進む。 その頃宇宙空間に浮かぶ巨大な剣のような宇宙船では… 船の中にはウラディープログのサーバーがあり、その管理人であるアイコがいた。 パァァァァ… アイコの前方の空間に扉が現れ、扉の中からエラトネール、ドロワクレール、アンジュピトール、ファートが現れて宇宙船の中に入った。 全員が船内に入ると扉は閉じて消滅した。 「久しぶりネ、アイコ。いきなりで悪いけど…長官のお守りを頼めるかしラ?」 アイコを視認したエラトネールが最初に口を開いた。 「話は聞いてたわ…別にいいけど、仕事増やさないで欲しいわね…」 アイコは気だるそうに応じる。 ファートの移送先はウラディープログのサーバーのある宇宙船だったのだ。 バイルの言う通り、その宇宙船には特別な権限や許可が無い限りアクセスできず、座標も公にされずステルス機のようにレーダーで捕捉される事も無い。 そしてもし行けたとしてもウラディープログを失う訳には行かないメタシャングリラにとってはサーバーのあるこの船の中では大技が使えず、 更に使えたとしてもそれに対抗できる戦力がそこにいる…管理人のアイコである。 「それじゃ私達は用が済んだから行くわネ。ドロワ、戦況がどうなっているか割り出して頂戴」 「はーい」 エラトネールに促されドロワクレールは侵入時と同様にメタシャングリラの要塞の立体映像を出現させ分析を開始。 「何か烈火殿はもうすぐ落ちるみたいだからウチ等は他を当たった方がいんじゃない?」 「確かにそうネ、それじゃ私達は他の棟を当たりましょ…アンジュ」 「3ヶ所でいいんだよね、…ほいっ!」 ドロワクレールの分析の結果3人は烈火殿を除く棟の攻略を担う事に。 それに伴いアンジュピトールがそれらの棟へと続く扉を出現させる。 「それじゃ一旦解散ネ」 「ウチ等の実力見せてやるんだからっ!」 「思いっきり遊ぶぞ♪」 3人は各棟へと続く扉に消えていき、それが終わると扉は消えた。 「…アイコ、すまないが戦況を詳しくモニターしてくれないか? 私は…世界を導く者として、この戦いを見届ける、義務があるからな…」 「それは分かりましたが怪我の手当てが先ですね」 怪我をしている身にも関わらず戦局を見守ろうとするファートに、アイコは面倒くさそうに言う。 このファート救出劇は時間にして一瞬の出来事であり実にプロならではの鮮やかさであった。 一方フラジールは水深の深い道中でライドアーマー「フロッグ」に搭乗した氷結軍団兵士達と対峙していた。 氷結軍団兵士達はフロッグで水中を多段ジャンプしながら魚雷を放ち続ける。 それに対してフラジールはスリットエッジで迎え撃ち、結果として魚雷並びにライドアーマーが両断され、貫かれていく。 しかし刃が自身を捕らえようとした瞬間、氷結軍団兵士達はライドアーマーから降り始めた。 そして両腕を未来の強者を模したバスター系武器「アンクジェット」に換装したのだ。 ビュッ!ドスッ!…シャーッ!!!! 氷結軍団兵士達はアンクジェットから光弾の他にアンカーも発射し、それを壁に突き刺し固定するとその状態で自身とアンカーを繋ぐ鎖を引っ込めて移動手段にも使ってくるのだ。 例えて言うなら過去のイレギュラー、ワイヤー・ヘチマールの要領である。 大勢の氷結軍団兵士達がフラジールの周辺を縦横無尽にアンカーを使ってしばらく移動し続けた時だった。 「「「「今だ!!」」」」 バシュッ!! 四方八方からフラジール目がけてアンカーが放たれる… しかし… パシッ!パシッ! 「…捕らえた…」 フラジールは最初に自身に到達したアンカーを腕1本につき鎖1本ずつ、素手でキャッチした。 「…え…!?」 そして次の瞬間… ブンブンブンブンブンブンブンブン!!!!!! 「「「「おおおおおおおおお!!!!!!!??」」」」 ドゴッ!!ドゴッ!!ドゴッ!! フラジールはヌンチャクの要領で鎖を氷結軍団兵士2体ごと振り回し、彼等に激突した他の兵士は吹っ飛んで自らが放った鎖がフラジールに到達する事なく壁に突っ込み息絶えていく。 最後にフラジールは自身が振り回す兵士達を壁に叩きつけて撃破した。 「…次…」 この場の敵を殲滅させたフラジールは先へと進む。 時間にしてほんの一瞬の出来事であった。 その頃ダイナモは氷のルートで寒冷地の動物の姿をしたメカニロイドを始めとして様々な寒冷地用メカニロイドの軍団と戦っていた。 例によって過去の大戦で見られたタイプも多くいる。 「雪だるまこわ~そ~♪」 襲い掛かってきたユキダルボンを歌を口ずさみながら撃破しつつ快進撃を続けるダイナモ。 だがダイナモが行く手を塞ぐ扉の前に到達した時… ズドン!! 彼の頭上目がけて大きな氷塊が降ってきた。 「おっと!」 ダイナモがバックステップでこれを回避すると氷塊は変形し、中央に赤い眼を持つ氷で出来た丸い胴体の上からは2本の、下からは1本のかぎ爪を生やした姿に変じた。 レプリフォース大戦時のイレギュラー、アイザードである。 ダイナモがDブレードで攻撃を加えるとアイザードは本体を覆う氷を破壊されて退避し、次に彼の眼前に姿を現した時は周辺に棘を生やした形態に変化した。 壁や床に反射するように動き回るアイザードに次にダイナモはアースゲイザーを見舞う。 するとアイザードは再び氷を破壊されて退避。 次にアイザードはこれまでとは異なる姿に変化した。 基本形態が鳥の足のような3本のかぎ爪のある形態だったのに対し、今回は人間の手を思わせる5本指の形態になったのだ。 そしてアイザードはその手の形をジャンケンのグー、チョキ、パーの形にしてダイナモに襲い掛かる。 グーは打撃力、チョキは指先に集中した破壊力、パーは壁や床と挟み撃ちにして押し潰す効果があると思われるが 大人しく喰らうダイナモではなく回避と同時に反撃を見舞い着実にアイザードにダメージを与えていく。 そんな中アイザードがグーの形でダイナモに迫ってきた時の事だった。 ダイナモは敢えて手をチョキの形にして迎え撃ったのだ。 そして衝突の瞬間… 「アースゲイザー!!!」 ズドドッ!!!!!! ダイナモは2本の指からアースゲイザーを放ち、攻撃力の集中したこの技を喰らったアイザードは大破。 「俺のチョキはグーより強いんだぜ♪」 ダイナモはアイザードの守っていた扉を通過し、先へと進む… その頃本殿にて… 「エルフ細胞は1回の接種量の上限は定められています。 接種の際は発熱を始めとした副反応を伴う場合があります。これには個人差があります。 またエルフ細胞が1度体に馴染んだ後に追加接種をする事で更なる効果を得る事が期待されていますが 2回目の接種を受けられるまでの期間は副反応と同様個人差があるのでご理解ください」 研究員がメタシャングリラ構成員達を前にエルフ細胞の接種に関する説明を行っていた。 「では接種を「では俺から接種しよう」「「総帥殿!!」」 エルフ細胞接種の接種が始まろうとした時、まず最初にヘルシャフトが申し出た。 「総帥殿、お体の方は…!?」 「俺を凡百の衆愚などと一緒にするな。先程のダメージはとうに回復しておる。 それにな、防衛隊もバリア障壁も破られた今、我々は背水の陣であると言えよう。 分かるな!?」 思わず問いかける研究員にヘルシャフトは応じる。 続けてヘルシャフトはエルフ細胞適合者の少年達に向き直り、諭すように言う。 「少年達よ、貴様等はエルフ細胞に見事適合し、常人を超越した能力を得たが まだ幼い年齢に加えそれまでの境遇による心労もあるだろう。 子供を正しい道に導く事も、その心労を労うのも我々大人の役割であるが今はまだ常人である我々には力不足なのだ。 そこで今回、このエルフ細胞で我々は貴様等と同じステージに立つ! これで我々は貴様等を全力でサポートするが貴様等にも我々に力を貸してもらうからな」 「「「「はい…」」」」 ヘルシャフトの言う通り心労の為か少年達はおびえた様子で応じる。 「では接種を開始します」 研究員はヘルシャフトにエルフ細胞を接種した。 次の瞬間… 「…フフフフフ…ハァーハッハッハッハッハ!!!! これ程とはな!全身から力がみなぎって来おるし頭も冴えて来おるわ!! これであのマシンも乗りこなせそうであるしウラディープログの解読もより一層捗る事であろう!!!」 凄まじい高揚感を覚えたヘルシャフト。 彼の言うウラディープログの解読とは、ウラディープログのデータの詳細をより綿密に考察する事である。 というのもウラディープログの記録は未来に起こる出来事の結果を予測した情報でありそこに至るまでの過程、 すなわち「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「何故」「どのように」したのかの情報は乏しいのである。 それを補う為には自分達でそれを考察する必要がある。 刑事や探偵が犯人の残した手掛かりから事件を解明するように。 考古学者が遺跡やその出土品から当時の文化や出来事を読み解くように。 古生物学者が断片的な古生物の化石からその生物の全体図を復元するように。 エルフ細胞が開発された理由の1つには未来をより詳しく予測し、導いていく為の考察力の向上もあったのだ。 幹部達を始めとした他構成員達の接種も続く。 「これで世界の経済の流れは完全に予測できるばかりかワイの手で自在に操れる気がしまんがな!!」 「インチキではない本物の神がかった力で世界の悩める者を救済して差し上げましょう」 「この力を以って情報操作を行えば全世界を味方につけ、敵がいなくなる事も夢ではない!!」 「ウラディープログの解読で未来の技術を現代に実現させてみせましょうぞ! (やはりこのボディにも効果があったか、エヴィル同様生体パーツを使っておいて正解じゃったわ、クーックックック…)」 発熱や倦怠感、注射を行った方の腕が上がらなくなる等の副反応が発症した者がいたものの、 プーパー、フィースィー、タード、Dr.V達幹部を始め湧き立つメタシャングリラ構成員達であった。 同じ頃氷結殿にて。 フラジールの前に水中用メカニロイドの軍団が現れ、しかも現れるのは先程よりも強力なタイプのものばかりである。 それにも関わらずフラジールは華麗に泳ぎ回りつつそれらのメカニロイドを撃破して進んでいく。 彼女の行く末に待ち受けていたのは巨大なクラゲ型メカニロイド1体と、巨大なイカ型メカニロイド2体だった。 「…ボルト・クラゲール…ホタリーカー…」 フラジールが言う通り現れたのはドップラー事件のイレギュラー、ボルト・クラゲールとホタリーカーである。 ボヒュッ!ボヒュッ!ボヒュッ! フラジールが彼等と対峙した直後に始まる魚雷、光弾、機雷の猛攻撃。 フラジールは敵の弾をスリットエッジで破壊しつつ本体にも攻撃を加えていく。 するとホタリーカー2体がフラジールの両脇に迫り始め、ボルト・クラゲールは真正面から近付き始めた。 そしてほぼ同時にフラジール目がけて触手を伸ばしてきた。 パシッ!パシッ! フラジールは両側のホタリーカーの触手を氷結軍団兵士同様素手で受け止めた。 次の瞬間… ブンブンブンブンブンブン!!!!!!!!!! ドゴッ!!ドゴッ!!ドゴッ!! フラジールはホタリーカーをヌンチャクのように振り回しボルト・クラゲールに叩きつける。 それによりボルト・クラゲールは衝突の度にボディが凹んでいきホタリーカーとほぼ同時に大破。 その触手がフラジールに到達する事は無かった。 この時点でフラジールは道中のかなり奥深くまで進んでおり、最深部に到達するまでそれ程時間は掛からなかった。 一方でダイナモは氷で覆われた坂道を前にしていた。 彼の眼前には乗れと言わんばかりにライドチェイサー「バリウス」が置いてあった。 「これに乗ってけって事ね」 そしてダイナモはバリウスを駆って行く手を阻むメカニロイドや氷結軍団兵士を蹴散らしていく。 道は螺旋状になっており前方は常に下り坂である。 そんな道中で快進撃を続けるダイナモだったがある時カーブの先に低速で低空飛行をしている巨大メカニロイドが出現し、 減速が間に合わなかったダイナモは不幸にもその巨大メカニロイドに追突してしまう。 「うおっ!?」 ダイナモは吹っ飛んだが姿勢を崩さず着地。 一方でその巨大メカニロイド…ヤコブ事件のイレギュラー、レイヴマンタ―は高度を上げ、後部から格納していた「何か」を放つ。 その正体はライドチェイサーに乗った氷結軍団兵士達だった。 それも彼等が乗るライドチェイサーはケルピーではなくバリウスである。 氷結軍団兵士達はダイナモを囲むと口々に凄む。 「おいゴラァ!降りろ!!」「お前サイバーエルフに抵抗あんのか?力抜けよ。悩みなんか吹っ飛んで最高だぜ」 そんな彼等をダイナモは軽くあしらう。 「力抜けだ?俺は他の連中より力は抜いてるぜ?」 彼が言い終わった時、氷結軍団兵士の1人の首が落ちた。 「ファッ!?」 ダイナモの不可視の一閃によるものである。 ダイナモは続けて彼等を次々と薙ぎ払う。 「やべぇよ…やべぇよ…」 氷結軍団兵士達が戦慄するのを余所にダイナモは瞬く間に彼等を一掃したのだった。 「当の本人は気楽かもしれないけど人間の、それもあんな連中の道具に成り下がるなんざまっぴらごめんだぜ!!」 ダイナモが言い放つや否や彼の前方を飛行しているレイヴマンタ―が後部から次々と敵メカニロイドやバリウスに乗った氷結軍団兵士を放つ。 ヤコブ事件の当時の個体は後部から放つ敵はマインQとケルピーに乗ったガードロイドのみだったが 今ダイナモの前にいる個体は様々なバリエーションの敵を放ってくる。 しかしダイナモは意に介さずそれらの敵を撃破し続けると共にレイヴマンタ―にも攻撃を加えていく。 やがて体内の敵が全滅し、本体のダメージも蓄積したレイヴマンタ―はUターンすると真正面からダイナモに突っ込んできた。 「来な!!」 ダイナモはDブレードを構えてダッシュジャンプして迎え撃つ。 そして衝突の瞬間レイヴマンタ―の装甲の剥がれた部分にDブレードを突き立てた。 ドガァァァァン!!!!!! 爆発四散するレイヴマンタ―を背にダイナモは着地。 更に進むと行き止まりになっておりそこには巨大な扉があった。 ダイナモが飛び降りるとバリウスは扉に激突して大破。 その衝撃で扉は壊れダイナモは扉の向こうへと進む。 彼もまた、この棟のかなり奥深くまで進んでいたのだった。 その頃ドロワクレールはアンジュピトールの能力を介して水で満たされたルートでフラジールが来なかった地点に来ていた。 彼女の前には戦艦の艦隊が出現し、戦艦の砲門や線上の氷結軍団兵士やメカニロイドが彼女を襲う。 しかし彼女はポーチから出現する幽霊のようなエネルギー体…通称「友達」の力を駆使して敵艦隊の戦艦を次々と撃沈させていく。 そして戦艦が最後の1隻になった時だった。 ウィーン…ガシャッ!!ガシャッ!! 戦艦の艦橋が変形し、人型メカニロイドの上半身のような姿になったのだ。 レッドアラート事件の時のイレギュラー、人型艦橋である。 「何かと思ったら…『人型艦橋』じゃない、まともな名前を付けて貰えないなんて可哀そうにねぇ…」 嘲笑するドロワクレール。 これに怒ったかのように人型艦橋はドロワクレールに猛攻を開始。 従来通りの下部の台座からのマシンガン掃射と巨大な顔に変形した胸部からの火炎弾の他、腕からのミサイルも追加されているがドロワクレールの脅威ではない。 「どれも狙いがバレバレよ、おバカさんな船は沈んじゃいなさいよ、ホラホラホラホラホラぁ!!」 ドロワクレールが人型艦橋の兵装を全て破壊すると戦艦は大破し、沈み始めた。 その結果… ドガガガガガガガガガガ!!!!!! クルージラ―を凌駕する超重量の為戦艦の残骸が床をぶち抜き、下の階に達しても止まらず更にぶち抜いていく。 どこまで沈むか分からない。 「この先は確か…フフン、思わぬ手段で一番乗りね♪」 ドロワクレールは不敵に笑い潜っていった… 一方で氷結殿最深部でフラジールとダイナモは合流を果たしていた。 2人の前方には巨大な青い扉が聳え立っていた 「…ここに…」 「ああ、いるな、ここの大将がな…」 両者とも扉の先より感じられる強大極まりない反応を感じ取り、その発生源がこの棟の主、メーアである事を確信していた。 「…敵は、潰す…」 「ここまで来たら前進あるのみだ…!」 プレッシャーを堪えつつも意を決して2人は扉を通過。 そこにはファートを中心にイレギュラーハンターやその協力者等メタシャングリラに敵対している人物達の氷像が聳え立っていた。 この時点では存在を知られていないエラト3姉弟の氷像はない。 「…何…?」 「俺のもあるぞ…」 2人が怪訝な顔でそれらを見ていると次の瞬間… スゥー…ズババババババババババババ!!!!!!!!!! 何処かから現れた「何か」が超高速で氷像の全てを細切れにしたのだ。 動きを止めた下手人はその全貌を明らかにした。 フラジールとダイナモの予想通りその正体は海神や半魚人を思わせる長身痩躯のレプリロイド… 4コマンダーの1人にして氷結軍団団長、メーアだった。 その手にはエイのような槍…未来の強者を模したセイバー系武器「リヴァイアグングニル」が握られている。 メーアは2人に向き直り、言い放つ。 「これがお前達の未来…侵攻隊を下し、防衛隊を下し、バリアも破りこの基地に侵入し私の元に辿り着いたお前達は希望に溢れている事だろう… だがそれもここまで…お前達のその希望も、体も、このメーアが凍てつかせてくれよう…」 「…虚言…」 「さっきのは挑発かい?悪いけどそんな挑発に乗るほど俺の沸点は低くないぜ」 自分達の闘志を保つため強気に振る舞うフラジールとダイナモ。 「そうやって虚勢を張っていられるのもいつまで持つかな…」 メーアは冷ややかな口調で返す。 「虚勢かどうか…試してみな!!Dブレード・乱!!」 「…スリットエッジ…」 ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!! 無数のDブレードと刃がメーア目がけて放たれるが… 「フリーズストリーム…」 ゴォッ!! メーアはリヴァイアグングニルを握る腕を回転させ強烈な水流を放ちそれらの技を押し返してしまう。 それどころかそれを放ったフラジールとダイナモも押し流されて壁に激突。 さらにこの激流は冷気も同時発生し氷柱も同時に飛んでくるのだ。 両者はそれを回避すべく激流の及ばない方向に移動する。 「実体のある飛び道具は無効かよ…」 「…問題ない…」 ダイナモがその水流の強さに辟易する一方でフラジールは片腕をアビスに換装する。 「まぁ俺も問題ないけどな…アースゲイ…「アイスアロー…」 グサッ!「な…!」 アースゲイザーを放とうと地面に拳を叩きつけようとするダイナモにそれを妨害すべくメーアが氷の矢を放ちそれがダイナモに突き刺さったのだ。 「その技は拳を振るうモーションが大きく、放つ時に頭を下に向ける傾向がある… この私がそれを見逃すと思ったか…奢ったな…」 そう言い放つメーアだったが既にフラジールが背後を取っていた。 彼女がアビスの銃口をメーアに向けた瞬間… 「甘い…」 ガシッ! 「ダイヴトゥアビス…」 メーアはフラジールを抱えるとその状態で室内にあるかなり深い溝に急降下した。 このような技はもがいて振りほどくのが定石であるが思いの他メーアの力は強く、フラジールの力を以ってしても中々振りほどけない。 そうしている間にも自身に水圧によるダメージが徐々に蓄積する一方メーアは水圧の影響を受けないのだ。 抜け出すのは困難と判断したフラジールは至近距離である状況を逆手に取って反撃を開始。 アビスからの火炎放射に加えデバフの効果のある暗黒弾も放ち続けたが決定打に欠ける。 そこでフラジールはスリットエッジのチャージショットを見舞わんとする。 ドシュッ!! 「!」 これは流石に不味いと察したメーアは咄嗟に手を放し回避した。 その隙にフラジールは場の狭さを活かして自身を追うメーアを牽制しつつ上昇していく。 そして溝からフラジールが脱出し、暫く経ってメーアが浮上した時… 「燕返し!」 体勢を整えていたダイナモが燕返しを放った。 「ウォーターサークル…」 メーアはリヴァイアグングニルを大きく振り回しこれに対処。 「ぬあっ!?」 その威力に押し返されダイナモは後ずさる。 そのままリヴァイアグングニルとDブレードの鍔迫り合いとなったが明らかにメーアが優勢でありダイナモは次第に追い詰められていく。 そんな中フラジールが横から攻撃を加えようとするが… 「ヴォルテックスダッシュ…」 メーアはリヴァイアグングニルを構え、高速で突っ込んできた。 この手の攻撃は対象目がけて一直線に進むため敵の到達地点を見極めそこから離れて回避するのが定石でありフラジールはそれに則り移動した後に反撃を試みる。 しかしメーアの体当たりは軌道がそれ、フラジールのいる方向に向かっていったのだ。 さしずめ一般的な一直線の体当たりが銃弾やレーザーならメーアのヴォルテックスダッシュはホーミングミサイルや魚雷である。 そしてメーアはフラジールを壁際に追い詰めると渾身の突きを繰り出した。 ドーン!! その結果部屋全体が震撼し壁が破片を撒き散らして砕け散り飛んでくる破片にも攻撃力がある。 そのあまりの威力に戦慄するフラジール。 それ以降もメーアの猛攻は続く。 「出でよ…」 冒頭の氷結軍団兵士が召喚した氷の龍よりも遥かに大きく強固なそれを召喚。 これらの龍は追尾攻撃になる事もあれば障害物となる事もある。 「逃がさん…」 上昇した後リヴァイアグングニルの先端からレーザーを放ちそのレーザーは無数の氷の棘の塊と化し それら揺左右に揺れながら上から降り注ぐ。 しかも地面に到達すると棘となり行動範囲を狭める。 「クレイジーダンス…」 6つの高威力の魚雷を引き連れつつ高速で泳ぎ回る。 いずれも強力な技ばかりで見た目こそ美しいがその威力や躱しづらさはえげつなくフラジールとダイナモは一方的に追い詰められ満身創痍となっていく。 一方でメーア自身の身のこなしもかなりのもので2人が反撃しようとするも躱されるか阻まれる。 こうしてズタボロになった2人を見てメーアは冷酷な口調で言う。 「往生際が悪い…既にに諦めても…いや、死んでいてもおかしくない筈だが…」 「俺は守るべきものの為に…信じるものの為に戦っているんだ、サイバーエルフなんかで操られてない本当の心でな!」 「…同じく…」 ダイナモは言い返し、フラジールもそれに続く。 「言うではないか、これならどうだ…?トルネードスピン…」 ヒュゴォオオオオオオオオオオオオ… メーアはリヴァイアグングニルを真上に掲げその状態で回転し、巨大な渦を生み出したのだ。 更にその状態でミサイルを放ち続ける。 渦が生み出す激流はフリーズストリームのそれを遥かに上回る勢いでミサイルに抗いつつ懸命に抵抗する2人を飲み込もうとする。 ボガンボガンボガン! 「ぬあああああああ!!!!!!」 ダイナモがミサイルを喰らい続ける中、フラジールの動きが突然変わった。 何とフラジールは激流に抵抗する事を止め、それに身を任せつつミサイルやメーアに接近する度に攻撃を加え始めたのだ。 「激流に身を任せ同化する…激流を制するは静水…という事か…だがその術を私が習得していないとでも思ったか?」 激流の中メーアはフラジールの攻撃を受け流すように応戦し、互いの手を探り合うが如くの接戦となった。 しかしメーアの動きは魚の如くしなやかでいて一撃の威力は重く、すぐにフラジールは窮地に立たされる。 ダイナモも既にミサイルを喰らい続け先程より一層瀕死の状態となっている。 そして戦えるどころか生きている事さえ不思議な両者にメーアは見下した様子で、煽るように問う。 「これでもまだ…絶望しないのか…?希望はまだあると抜かすか…?」 それに対しフラジールは肩で息をしながら、声を絞り出すように応じる。 「…希望は…まだ…ある…」 フラジールの脳裏によぎるのは出撃直前でのパージとのやり取りである。 ……… 「この力は非常に強力ですが、その分危険性も秘めています。 それは精神への影響で、戦いの中で精神が高揚感と破壊衝動で満たされるというものです。 状況次第では戦いに勝つのには有利かもしれませんがその高揚感に支配された場合、貴方は純粋な殺戮マシンと化してしまうでしょう… それに対抗するには気を強く持つしかありません。 いいですか、本当に最悪な場合においてのみ、この力をお使いください…」 パージはトラストの他にフラジールにも新たな力を解析していたのだが、トラストのそれと同じく協力ではあるが危険も大きく それを説明するパージの様子はトラストの時と同じくかなりの気迫があった。 ……… フラジールはこれを聞いて危惧していた。 これを使うと自分はかつてのイレギュラー、VAVAのように破壊や殺戮を「好き好んで」行うイレギュラーと化してしまうのではないかと。 しかし過去の大戦においてエックスとゼロも自分がイレギュラーになってしまうのではないかという不安に苛まれていた。 しかし彼等は互いに信じ合う仲間がいたからイレギュラーに身を落とさずここまで来ている。 それを踏まえ、フラジールは意を決してその力を開放する事にした。 フラジールは信じる。 トラストを始めとした自分の仲間を。彼等が信じる自分自身を。 「…信じる…」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… 「!?」 そう呟くフラジールのエネルギーが急上昇し、同時に彼女はかつてない強烈な殺気を放ち始める。 メーアはそれに対し、何かを察し眉を少々吊り上げる。 その時だった。 パラパラパラ… ガラガラガラガラガラ!!!!!! 突如天井が崩落し、その上から先程ドロワクレールが破壊した戦艦の残骸が降ってきたのだ。 残骸はメーアの真上に落下し結果彼はその超重量の残骸の下敷きとなった。 突然の出来事ではあったがもしこれで勝負が決したとなればその力を使う意味はないとして、フラジールは最終手段の行使を一まず中止した。 暫くすると上からドロワクレールが泳ぎながら降りて来た。 「あれぇ、先客がいたの?確かイレギュラーハンターのフラジールと…傭兵ダイナモね。 ウチはドロワクレール、ある偉い人の依頼でここに来たんだけど、当初の目的を果たしたついでにメタシャングリラをぶっ潰しに来たってワケ。 あんた達とは目的は同じだし依頼も出てないから今は殺さないで上げるから安心しなさい」 ドロワクレールは2人に邪悪な笑みを浮かべて言う。 「…彼女が…」 「このお嬢ちゃんが『その道のプロ』って事ね」 2人は出撃前のバイルの言葉を思い出し、ファートが救出された事を察し、目の前にいるドロワクレールが只者ではない事も察する。 ドロワクレールは続けて言う。 「この部屋は確か、氷結軍団の団長のメーアがいたはずだけど… 随分苦戦してたみたいだけどウチが沈めた船の残骸が潰しちゃったみたい♪ 感謝しなさいよね、キャハハハハハハハ!!!!」 邪悪な表情で大笑いするドロワクレールだったが… 「…まだ…」 フラジールは表情を引き締め異を唱える。 残骸の下から放たれる強大な気配は未だ消えていないからだ。 その時だった。 ピキーン…………………………………………………………バカッ!!!! 戦艦の残骸が瞬時に凍り付き、直後真っ二つに割れた。 そして残骸の割れ目からメーアが姿を現した。 「我が軍の艦隊を壊滅させ、その旗艦をこの部屋に沈めるとは… 我々の情報網に引っかからないレプリロイドの中にこれ程の実力者がいたとはな…」 所々ダメージは負っているもののメーアは五体満足で十分戦える状態である。 「ゲ!あの戦艦の下敷きになって無事だなんて嘘でしょ!?」 ドン引きするドロワクレール。 これに対しメーアは冷ややかに言う。 「私の動体視力を以てすれば沈みゆく船の壁を切り裂き船内に避難するなど容易い事… それよりも小娘よ、誰だか知らんが感謝するぞ、わざわざ『武器』を山ほど届けてくれたのだからな… アイスバーグスライサー…」 メーアはリヴァイアグングニルを斜めに薙ぎ払い戦艦の残骸を斬り飛ばしてきた。 残骸は凍っており、メーアの斬撃の勢いも相まって凄まじい速度で飛んでくる。 ドガッ!! ドロワクレールは回避したものの破片が飛ぶ速度と衝突の威力に歯噛みする。 「この残骸が無くなるまでにお前達は立っていられるかな…?」 ズバババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!! メーアは3人目がけて登場時を上回る速度で戦艦の残骸を斬り飛ばし続ける。 「舐めないでよね…ルフュー!」 ドロワクレールはバリアを張って「友達」並びに所持していたシグマガンナーのキャノン砲を模したランチャー系武器、サドンハザードで応戦する。 フラジールとダイナモも負けじと破片を破壊、もしくは回避しつつそれぞれアビス、アローバスターで応戦。 破片が飛ぶ速度はあまりに早く見てから回避するのは限りなく不可能に近い為、メーアの視線や殺気、動作を攻撃の直前に察知する必要があるのだがそれも難しい。 抵抗してくる3人に対しメーアは追撃を加えてくる。 「このような直線的な軌道では躱されるか…ならこれではどうかな…?」 そう言ってメーアは破片の斬り飛ばしに氷龍、ミサイル、降り注ぐ氷の棘を追加してきた。 それに呼応し3人も回避もしつつ攻撃の手を加える。 ドロワクレールはスキル「モンデザミ」を発動。 このスキルは追尾性能のある「友達」にウィルス性能を付加させる効果と対象目がけて瞬間移動する効果がある。 またドロワクレールの「友達」は水流の影響を受けないのでメーアの攻撃とは相性がよく、 これに対処せんとするメーアにはわずかながら死角が生じる事に。 フラジールとダイナモはその死角を突いて再度スリットエッジやDブレード・乱といった実体のある飛び道具も放ち始める。 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!! 部屋中に残骸、氷龍、ミサイル、氷の棘の塊、火炎弾、暗黒弾、刃、Dブレード、バスターショットなど双方の攻撃が激しく飛び交い続ける。 流石のメーアも全ての攻撃は捌ききれずこの間メーアに暗黒弾による弱体化やウィルスによるHP減少が発生するも依然彼の攻撃は激しく、彼自身の被弾率も低い。 フラジールが放つ刃も躱される事が多く、それらは壁や床に突き刺さっていく。 そんな時だった。 ドガッ!!!! 「が…は…!」 ダイナモが破片の直撃を受け、力なく仰向けになってダウンした。 「まずは1人目か…」 メーアはそう呟くと攻撃を再開。 攻撃の目標が3人から2人に絞られた分フラジールとドロワクレールに向けられる攻撃の密度は増したが この時アビスの暗黒弾によるデバフ効果は着実にメーアに蓄積していたのだ。 ある時メーアがドロワクレールの「友達」に気を取られていると… 「…ジャミングエッジ…」 「ぬ…く…!」 フラジールから放たれた放電する刃がメーアのボディに深々と突き刺さった。 これはセンチピーダより得られたスキルで相手に突き刺さると電流を流し続け、ダメージを与え続けると同時に麻痺させる効果がある。 追撃を加えんとするフラジールとドロワクレールだったがその状態に関わらずメーアはそれを回避した。 そして苦悶の表情を浮かべ、自身に突き刺さる刃を抜いた。 「ハァ…ハァ…これは…お前のだろう…?返してやろう…」 メーアはそう言って刃を手に大きく振りかぶった。 その時… バシュッ!! 「…!!!!!」 あらぬ方向より飛んできた光弾がメーアの胴体を貫いた。 それまでのデバフやウイルスに加え先程喰らったフラジールの刃と電流のダメージも相まってこれが決定打となった。 見るとダイナモが見当違いの方向にアローバスターのチャージショットを放っていた。 しかしその実見当違いではなくダイナモは壁や床に刺さったフラジールの刃にバスターを放っていたのだ。 バスターの光弾はその刃から刃に反射して、最終的にメーアを貫いたのである。 ちなみにダイナモは衝突の瞬間身を後方に逸らす事でダメージを和らげ、倒れた後は自身を機能停止したかのように偽装するため気配を絶っていたのだった。 「まぁ本当に…危なかったけどな…」 息も絶え絶えのダイナモが呟く。 「私一人を倒したところで…いい気になるな…総帥殿がご健在である限り…私の希望は潰えない… この目で…我が組織の勝利を…見届けられないのが…残念では…あるがな… メタシャングリラ…万歳…総帥殿…万歳…」 そう言い残しメーアは機能停止した。 「フ、フン、まぐれで勝ったからっていい気にならないでよね!」 不機嫌そうに吐き捨てるドロワクレール。 「君がそう思うならそう思えばいいさ」 そんな彼女をダイナモは大して気にも止めていないようである。 「(…取り敢えず…良かった…)」 一方でフラジールは件の力を使わずに済んだ事に安堵していた。 しかしその後その安堵は虚しく崩れ去る事になる。 ヘルシャフトがエルフ細胞を入手した事によって…

第十七話「雷鳴」

ゼロとアイリスが突入したのは轟雷殿だった。 現在アイリスはデザイアソウルの力でカーネルと1つになっており、 その風貌も立ち振る舞いも従来とは打って変わって凛としている。 それを目にした轟雷軍団兵士達は若干困惑し、思わず問う 「ゼロと…一緒にいるのはアイリスか…!?いや、アイリスがこんな渾然たる姿な訳がない… 何者だ、女!」 轟雷軍団兵士の問いにアイリスは毅然として応える。 「私はアイリスだ、今は我が兄カーネルと1つになってこの姿になっている。 今の私をこれまで通りの非戦闘員と侮っていると火傷するぞ」 アイリスの返答に轟雷軍団兵士は異を唱えると共に憤り始める。 「ふざけるな!どう考えてもカーネルだろうが! カーネルと言えばウイルスに因らずイレギュラー化したレプリロイドの面汚し… それが我々の作戦を妨害し続け…あまつさえこの轟雷殿にのこのこ入ってくるとは許すまじ! 然るべき裁きを受けるがいいわ!!!!」 カーネル並びにレプリフォースがレプリフォース大戦の引き金を引いた事は レプリロイドにあるまじき分不相応な行為という事でメタシャングリラには激しく忌避されているのである。 憤る轟雷軍団兵士達は未来の強者を模したセイバー系武器「クレセントマグナ」を構えてゼロとアイリスに挑みかかる。 「今更兄の過去の過ちに対して弁明はしない。その事と貴様等が平和に仇成す存在であることは別問題なのだからな… 世界の平和にかけて…貴様等を倒す!」 「(本来ならアイリスを現場に出撃させるのは心許ないはずだが、流石というかまるでカーネルがそこにいるかのような安心感だぜ…)背中は任せたぞ、アイリス!」「うむ!」 ゼロとアイリスは背中合わせになり四方八方から襲い来る轟雷軍団兵士達を薙ぎ払う。 「こうなったら…これならどうだ!!」 轟雷軍団兵士達は一旦2人から距離を取った。 そしてゼロと対峙した者はクレセントマグナから磁場を発生させスクラップの塊を前方に出現させこれをクレセントマグナで砕き破片を飛ばしてきた。 一方アイリスと対峙した者は磁力で四肢を切り離しそれらを縦横無尽にコントロールし始めた。 「未来の力か…こいつらも使うんだな」 「だが所詮は雑兵の付け焼刃…そんな事でこの私を倒せるか!」 対するゼロとアイリスは至って冷静でゼロは躯装破で飛び散る破片をセイバーに集中させスクラップの大剣を轟雷軍団兵士達に叩きつけ、 アイリスは最小限の動きで自身を襲う手足を躱しつつ正確に轟雷軍団兵士達の頭上に雷を落とした。 結果瞬く間にこの場の轟雷軍団兵士達はある者はペシャンコになり、ある者は頭脳がショートして全滅した。 その直後パレットから通信が入ったがその内容はやはりエイリアがエックス達に入れたそれと同様のものだった。 丁度この時ゼロが床に放った技の影響で床には下の階に続く巨大な裂け目が出来ていた。 「俺はこの下を当たる。お前はこのまま真っ直ぐ進んでくれ」 「ああ、武運を祈る!」 ゼロは裂け目の下に、アイリスは正面の扉の先に進んでいった。 ゼロが進んだ先は上の階と同じく天井と床がかなり離れていた。 彼を待ち受けていたのは軍事用メカニロイドの軍団でノートルバンジャー、ヘリット、ヘッドガンナーカスタマー等ドップラー事件の際に登場したものが多く見受けられる。 「チッ、相変わらずいい趣味してやがるぜ…!」 吐き捨てつつ彼等を撃破し続けるゼロだったがある時前方を飛行する巨大な影を目にする。 デスログマー…第1次イレギュラー大戦の際に現れた空中戦艦である。 ゼロが開けた場所に到達すると共にデスログマーは下部の昇降口からプロペラで飛行するタイプのメカニロイドを放ち始めた。 キャリーアーム…ドップラー事件の際に現れた運搬用メカニロイドで事件当時と同じくコンテナを運んでおりそれを次々と地面に落としていく。 コンテナは爆発するタイプのものや中に轟雷軍団兵士が潜んでいるものもあったがゼロにとっては苦でもなんでもなかった。 「運ぶそばから壊してやる!龍炎刃!雷神昇!氷龍昇!」 ゼロは対空技でキャリーアームをコンテナごと撃破し続けた。 やがてキャリーアームが全滅するとデスログマーは壁の突き当たりの上部にある専用の航路へと消えていった。 ゼロはその後を追う。 一方でアイリスも軍事用メカニロイドの軍団を相手取っていたがこちらは兵器工場でも出現したテラデス(ギガデスの強化版)やウォークシューター、メタルホーク、プラズマキャノン、ビームキャノン等 レプリフォース大戦で見られたものが多い。 「…兄さんの記憶にもあったが…こうして見るとやはり気分のいいものではないな… 過去の亡霊共よ、一匹残らず蹴散らしてくれるわ!!」 メカニロイド達を撃破しつつ道中を進むアイリス。 彼女が進んだ先の部屋には無数のビームキャノンとそれらに守られる壁に埋め込まれたコアが待ち構えていた。 「レプリフォース空軍のジェネレイドコアか…」 眼前にそびえ立つジェネレイドコアを見据えアイリスは呟く。 そしてジェネレイドコアを守るビームキャノンの大群はアイリス目がけてレーザーを一斉に発射する。 加えてジェネレイドコア自体もビームキャノン以上に強力なレーザーを放ってくる。 アイリスはレーザーの射程圏内に自身がいるビームキャノンを的確に破壊しつつジェネレイドコアに迫っていく。 「連中の我々に対する皮肉か知らんが過去の亡霊たるこいつ等に負ける事など、己自身に敗北することと同義! 世界の為、己自身の為、そしてゼロの為…己自身に…負けるものかぁーーーーーーっ!!!!!!!!!!」 ビシャアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!! 雄叫び(?)を上げると共にアイリスは雷を放ち部屋にいたジェネレイドコアとビームキャノンを一掃した。 「これしきの事、私には責め苦にはならん!!」 豪語するアイリスはジェネレイドコアが破壊された事で現れた道を進む。 エラトネール三姉弟がファートを救出したのはこの頃だった。 3人は当初の目的であるファート救出を成し遂げた後は解散し、烈火殿以外の棟に散り散りになった。 ドロワクレールが選んだのは氷結殿だったが、アンジュピトールが選んだのはここ轟雷殿である。 チッ…チッ…チッ…チッ…チッ… アンジュピトールは轟雷殿に入った直後爆発までの時を刻む丸い紫色の時限爆弾を目にした。 これはユーラシア事件の際ペガシオンが使用していたものである。 「えいっ!」ボン! 事件当時に倣いアンジュピトールはバスターからの光弾「ソワレフレア」で爆弾を爆発前に破壊した。 その後もアンジュピトールは各所各所に爆弾が仕掛けられたルートを飛行しながら、爆弾を壊しながら進んでいく。 ソワレフレアの壁をすり抜ける性能もさることながら僅かな音や匂いで爆弾の位置を察知しては破壊する アンジュピトールの爆弾処理能力は卓越していた。 「つまんないつまんないぃ~っ!!」 簡単すぎて物足りないのかアンジュピトールはわめき散らしながら爆弾を破壊していく。 これに応えたのか道中の奥深くに行くほど爆弾の配置はいやらしくなっていき、 敵のメカニロイドも強くなっていき、更には設定時間を短く設定された爆弾も現れる。 ドカァァァァーン!!!!!!!!! 遂にあらゆる不利な条件が重なり爆弾の破壊に間に合わなかったアンジュピトールは爆発に巻き込まれてしまった。 地面に大の字になって倒れたアンジュピトールだったが… 「今のはちょっと面白かったよ♪」 全身黒焦げになり髪もアフロヘア―になったもののすぐにアンジュピトールはムクリと起き上がり満面の笑みを浮かべた。 そうして進んでいくと彼の前方にフライトQが出現した。 フライトQは道中で出現したものと同じ爆弾を投下してくる。 ちなみにフライトQ自体は爆発の影響の受けない高度にいる。 アンジュピトールは爆弾を破壊すると即座に飛び上がりフライトQと同じ高度に到達。 「ソワレフレア~!」 ドドドドドドドド!!!!!! アンジュピトールがソワレフレアを繰り出すとフライトQはミサイルで迎撃しつつ必死に高度を合わせまいと上下移動をする。 「アハハッ、遅い遅い~!」 ドドドドドドド…ドカーン!!!!!! アンジュピトールはその都度高度を合わせては攻撃を繰り返し程なくしてフライトQを撃破。 「イェーイ♪」 アフロになったアンジュピトールは右手の人差し指を立て、右腕を高く掲げ、左肘を若干曲げて左拳を真下に向け、足を開きその際右脚を曲げて左脚を斜めにするポーズを決めてからこの場を後にした。 ゼロが向かった先では彼目がけてメタルウィング、ツバメール・S、アイスウィング、グルーブジェット等鳥型の飛行タイプのメカニロイドが次から次へと襲い掛かってきた。 「おいおい、俺はバードウォッチングに来たんじゃないぞ…」 ゼロは皮肉を呟きながら獄門剣でそれらのメカニロイドを撃破して進んでいく。 キーン… そんな中一際大型の機体が彼に迫る。 それはレッドアラート事件の際に現れたカモメ型の戦闘機であった。 名前らしき名前はない。「戦闘機」が名前のようなものである。 事件当時「戦闘機」はレールの上を進む台座の上に乗って移動していたが、今回は自力で飛行している。 それ故行動範囲も広がり小回りも効くようになっている。 ドドドドドドドド!!!!!! マシンガンを掃射する「戦闘機」にゼロは冷静に対処。 「レールに敷かれた人生は嫌ってか?分からんでもないけど…な!」 タイミングを見極めゼロは「戦闘機」に飛び乗った。そして… 「コマンドアーツ!!!」 ズババババババババババババババ!!!!!!!!! 一瞬で凄まじい連撃を決め、「戦闘機」を細切れにしてしまった。 爆発四散する「戦闘機」に振り返る事なくゼロは進んでいく。 その頃アイリスの前方に現れたのは… 「これは…本気で私を怒らせたいようだな…!」 自身を出迎えた軍勢を見て怒りを露わにするアイリス。 彼等はイーグル、ラビット、ホークといった空中戦用のライドアーマーに乗った轟雷軍団兵士の軍団だったが アイリスが特に怒りを感じたのは従来のアイリスの戦闘形態、即ち単眼の頭部が付いており翼を生やしたライドアーマーのような形態を模したライドアーマーに搭乗する轟雷軍団兵士である。 するとその轟雷軍団兵士が口を開いた。 「憤りの念を感じているのは我々とて同じ事、組織の崇高な理想の妨げとなる賊軍よ、天に代わって断罪してくれよう!!…かかれ!!!」 彼の号令と共にライドアーマーを駆ってアイリスに襲い来る轟雷軍団兵士達。 「これぞ自分自身との戦いだな…いいだろう…はぁあああああああ…!」 アイリスはセイバーを大きく構えた。そして… 「滅斬!!!!!!!!」 ズパァァン!!!!!!!!!!! セイバーの強烈な一振りで敵軍が一気に両断された。 「ほう、今のを躱した奴もいるのか…」 アイリスの先程の一閃が放たれる際、咄嗟にライドアーマーから降りて生き延びた兵士が数名いた。 彼等の中には元祖アイリスの戦闘形態の姿をしたライドアーマーに乗っていた者も含まれる。 「己、ならば…ハイボルティアだ!!」 轟雷軍団兵士達は腕を未来の強者を模したバスター系武器「ハイボルティア」に換装した。 そしてバスターからの光弾以外に元となった強者の能力であるビット展開や高速ダッシュ、更にはバスターの銃口から放たれるビームをセイバー状に留めてからの斬り付けなどでアイリスに挑むも… 「生ぬるい!!迅雷豪閃!!」「え…!?」 アイリスは瞬時に攻撃を仕掛ける轟雷軍団兵士の死角に回り込み貫通力とリーチのある技、迅雷豪閃を放ち撃破した。 そのままアイリスは1体、また1体と轟雷軍団兵士を撃破していく。 その動きは流れるような美しさで尚且つ技には力強さがある。 轟雷軍団兵士達は思わず見とれてしまうが気が付いたらアイリスの剣技の餌食になっていく。 アイリスはこの場の敵を瞬く間に全滅させた後、更に奥へと進んでいった。 本殿では… メタシャングリラ構成員達のエルフ細胞接種が終わるとヘルシャフトが彼等に次の指示を出す。 「ではこれよりこの基地の放棄を想定したシェルターへの避難を行う」 ヘルシャフトの発言にこの場は騒然となる。 暫くするとヘルシャフトは続けて言う。 「いいか?メタシャングリラを構成するのはこの要塞か?この島か?それとも兵力となるレプリロイドやメカニロイドか? 否、我々人だろうが。 エルフ細胞を手にした今、この基地を失ったとしても後から組織の基盤を立て直す方法などいくらでもあるだろう。 今はまだ本隊が敵を食い止めているから貴重品があれば今の内に持ち出すがいい」 「ワテは商売道具や高額商品やな」 「私は神具や真幸教グッズですねぇ」 「私は重要な情報の証拠品や極秘データの入ったディスクだな」 「私は最新の研究サンプルだろう」 プーパー、フィースィー、タード、Dr.V達幹部がそれぞれの貴重品に何を選ぶか考えているところ… 「俺の貴重品は…こいつだ」 ヘルシャフトはとある物を提示した。 「総帥殿、いくら何でも早過ぎます!!」 研究員がそれを見た時思わず止めようとする。 これに対しヘルシャフトは研究員を説得するように言う。 「現時点でアレの操縦が上手くいく保証も無ければ上手くいったとしても確実に勝てる保証もない。 故にこれは最悪の中の最悪に備えた保険だ。 これを使う機会はあってはならぬが…使えば新たな活路を見出せるだろう」 すると… 「総帥殿、我々は総帥殿と一蓮托生です。私も持っていきます」 「私も持っていきます」 「どこまでもお供します」 メタシャングリラの構成員達は次々とヘルシャフトと同じ危険極まりない「それ」を持っていく事を決意。 これが後のメタシャングリラの命運を決定づける事となる、 暫くすると… 「よし、貴重品は持ったか!?忘れ物は無いな!?では押さない、駆けない、喋らないを遵守してシェルターに向かうぞ!」 ザッザッザッザッザッ… ヘルシャフトの指示に従いメタシャングリラ構成員達はヘルシャフト専用機の巨大ロボットの眠るシェルターへと向かう… 轟雷殿では… 「ゼロ!」 「アイリス!」 基地内のかなり奥まで進んでいたゼロとアイリスは上下の階の区別の無い巨大な部屋で再開を果たしていた。 「信じていたぞ、流石『理想のレプリロイド』なだけあるな」 「フフ、それまでの私はオペレーターとしての全うする事こそが私なりの戦いと考えておったが… 今お前と同じ目線、同じ戦場で戦える事を誇らしく思っているぞ」 ズシン… 互いに向き合い見つめ合うゼロとアイリス。その背後から部屋が震撼すると共に巨大な足音が響く。 「普段の可憐なお前もいいが今の勇ましいお前も悪くないな。俺はどんなアイリスでも受け入れるぜ」 「兄さんのようになってしまった今の私を受け入れてくれて嬉しいぞ」 ズシン…ズシン… 更に両者に忍び寄る巨大な影。 「この先に今まで以上に強力な反応がある。間違いなく4コマンダーだな…だが俺達なら大丈夫だろう」 「ああ、平和を勝ち取るまでもう一息だ!」 ズシン…ズシン…ズシン… 「アイリス…」 「ゼロ…」 徐々に距離を詰めるゼロとアイリス。 スゥー… 2人に迫ってきた「何か」はその巨大な腕を振り下ろそうとする。 その正体はレッドアラート事件の当時デボニオンが従えていたヤドカリ型の巨大メカニロイドである。 名前はヤドカリ。過去に現れたヤドカルゴや未来に現れるヤドカロイドと異なり何の捻りもなくヤドカリ、なのである。 ブォンッッ!!! そして今、その「ヤドカリ」の剛腕がゼロとアイリス目がけて振り下ろされた… 「「邪魔を…するなぁーっ!!!!!!!!!!」」 ズババババババババババババババ!!!!!!!!!!! ゼロとアイリスはゆっくり振り向き、怒りの形相でダブルアタックを発動。 空気を読めない「ヤドカリ」はゼロとアイリスの愛と怒りの力の前に砕け散ったのであった。 「気を取り直して…行くぞ!」「ああ!」 邪魔が入ったものの改めて扉の先へと向かうゼロとアイリスだった… その一方でアンジュピトールは特殊なスイッチでロックされている数々の扉が行く手を阻むルートを進んでいた。 このスイッチはクラーケンの研究所で使われたものと同じタイプで何度も攻撃する事で扉のロックを解除することが出来、スイッチの色は同じ色の扉に対応している。 ちなみにこの時アンジュピトールの髪型は既に元に戻っており体の汚れもはたき落していた。 このルートも進めば進むほどスイッチの配置もいやらしくなり敵の攻撃も激しくなっていく。 しかしそれでもアンジュピトールにとっては全く苦にならない。 「さっきからこの扉しょっちゅう来るけどそれだけこの先に入ってほしくないって事かなぁ~? そんな事されると余計気になっちゃうんだよねぇ~!」 余裕しゃくしゃくで扉を解除して進んでいくアンジュピトール。 そんな彼をアディオンに乗った轟雷軍団兵士が襲い掛かってくる。 「その通りだ、この先には行かせんぞ!!!」 しかしやはりアンジュピトールの敵ではない。 「キミ達じゃボクの遊び相手にはならないよ~だ!!」 彼等を蹴散らし突き進むアンジュピトールはやがて一際大きな部屋に辿り着く。 「へぇ~、ここの扉は3重なのか…」 見回してみると扉のロックを解除するためのスイッチが従来の黄色と紫の他に緑の3色があるのだ。 「それじゃあまずは緑を攻撃して、と…」 ズドドドドドドドドドド… アンジュピトールが緑色のスイッチを攻撃していると… シャーッ!! 上から何かが襲い掛かってきた。 正体はレッドアラート事件の際に現れた一見鳥型に見えるが頭部はカメラアイのみで顔は胴体についている奇怪なレプリロイド、バーディのデッドコピーである。 「で、次は黄色、と…」 アンジュピトールは何事も無かったかのようにバーディの襲撃をヒョイと躱し黄色のスイッチを攻撃し始める。 バサッバサッ…シャーッ!! 再度上昇し、アンジュピトール目がけて急降下するバーディ。 「次は紫ね…」 しかしまたしても何事もなかったかのように回避され、アンジュピトールは紫のスイッチを攻撃し始める。 バサッバサッバサッ…シャーッ!!! バーディはまた上昇し、さらに勢いを付けて急降下する。 「…さっきから鬱陶しいなぁもう~」 アンジュピトールはそれを迎え撃つべく急上昇。 ガキィィィン!!!!!!! 空中でバーディの上からの突撃とアンジュピトールの下からの突撃が激突した。 結果アンジュピトールの突撃の威力が上回り、バーディは砕け散った。 「ハイ、ロック解除、と。それじゃ行くぞぉ~!」 アンジュピトールはそのまま全ての扉のロックを解除してその先に進む。 一方ゼロとアイリスが向かった先は先程よりさらに広大な空間になっており部屋に入ってすぐの位置にライドチェイサー、シリウスが置いてあった。 それと同時にデスログマーも発見。 ゼロとアイリスはそれに乗り込み追跡を開始する。 部屋の中央は巨大な円柱が何本も聳え立っておりデスログマーはそれらを囲む環状のコースを周回している。 ダイナスティを彷彿とさせる展開だが円柱はビルではなく第1次イレギュラー大戦の際に現れたリフトキャノンの巨大版である。 ゼロとアイリスはこれらに対処しつつも徐々にデスログマーとの距離を詰めていく。 するとデスログマーはシリウスに乗った轟雷軍団兵士を放ってきた。 ズドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!! ゼロとアイリス、そして轟雷軍団兵士達は高速で飛行しつつも激しい光弾の連射の応酬を展開する。 シリウスの飛行速度は基本的にデスログマーに劣るがブーストによる急加速をかけると瞬間的にデスログマーを超える。 しかしこれにはかなりのエネルギーを要するので連続使用は出来ない。 ゼロとアイリスは轟雷軍団兵士やリフトキャノンを撃破しつつ、彼等が落とした武器エネルギーを取得しつつ確実にデスログマーとの距離を詰めていった。 轟雷軍団兵士並びにリフトキャノンの全滅とほぼ同じタイミングでゼロとアイリスはデスログマーに追いつき、その甲板に降りる。 するとデスログマーの砲台からの砲撃が始まる。 この砲台は従来のものではなくカラスティングの空中戦艦のものと同じビッグレイだったが2人はあっさりそれを撃破。 その時だった。 モクモクモクモクモク… 2人の前方に黒い雲が現れた。 そして次の瞬間… ビュオッ!!!!! 黒い雲が内部に生じた竜巻で吹き飛ばされ、中から鳥のようなアーマーを纏った4コマンダーの1人で轟雷軍団団長、ブリッツが姿を現した。 「私の軍団の猛攻を掻い潜り、ここまでやって来るとは流石だね… ゼロと…隣にいるレディはアイリスかい?資料と随分雰囲気が違うようだが…」 ブリッツが尋ねアイリスは応じる。 「如何にも、我が名はアイリス。今は兄カーネルと1つになってこの姿になっている」 これにブリッツは返して言う。 「おや、カーネルが強く出てしまっているようだね…それとも本当はカーネルなのかい? ともあれカーネルはウイルスに因らず自らの意思でイレギュラー化したイレギュラーの代表、 そしてゼロ、君はあのシグマをイレギュラー化させた元凶の赤いイレギュラーだろう? どちらにしろ世界の為に排除しなくてはならない存在じゃないか」 「今更そんな話で俺が退くか。それに『赤いイレギュラー』はもう俺の中にはいない。正真正銘の別人だ」 ゼロは冷静に応える。 それにアイリスが続く。 「貴様等のやり方は知っているぞ。人間によるレプリロイドの完全支配…それだけでも胸糞悪いが 貴様等はその更に下を行く…私利私欲によるレプリロイドのみならず他の人間に対する蹂躙だろう」 「フッ、総帥殿や幹部を始めとするメタシャングリラの人間は世界を正しく導ける素晴らしき方々さ。 あの方々には相応の権利があって当然…そしてあの方々に逆らい悲惨な未来を招こうとする者など排除されて然るべき… 私はあの方々に仕えその剣となれることを心から光栄に思っているよ」 ブリッツのこの言葉に当然の如くアイリスとゼロは猛反発。 「強者が弱者を踏みにじるだけの世の中など例え争いが無くなろうが平和とは言わん!人はそれを…地獄と呼ぶのだ!」 「それに心からだと?その心はサイバーエルフの洗脳による偽物だろうが!」 「今の私の心が偽物か本物かなんてナーンセンス!美しき造花とその辺の雑草でどちらの方が価値ある物か考えるまでもないだろう?」 2人の言葉をブリッツは軽くあしらう。 「その造花は回収して廃棄すべきとんだ不良品だろうが!」 「プロジェクトエルピスなどでは…ましてやそれを実行するのが貴様等の組織では平和は勝ち取れはしない! 平和の為に、貴様等を討つ!」 より怒りを込めるゼロとアイリス。 それをブリッツは不敵に構える。 「いいだろう、この私自らの手にかけられる事、そして未来のデータより生まれしこの聖剣 『ハーピーテンペスト』のビューティフルでエレガントな技で裁かれる事を光栄に思うがいい!!」 そしてブリッツは鍔の部分が鳥の翼に見えるセイバー系武器「ハーピーテンペスト」を手に臨戦態勢に入る。 大災害の前触れのように空気が震え、身構えるゼロとアイリス。 最初にブリッツはゼロに急接近した。 「速い…!」 そのあまりの速度に目を見開くゼロにブリッツは剣を持つ腕のみを動かすフェンシングのような連続突きを繰り出す。 「ハーピーペック!!」 「フェンシングか、それなら俺にも出来るぜ…葉断突!」 ドドドドドドドドド!!!!!!! 激しく突き合う両者。 「(こいつ…速さと技だけじゃなく…何て力だ…!!)」 ブリッツの突きの威力と勢いに歯噛みするゼロ。 この時点でゼロの技の威力はオメガセイバーの性能やガーディアンカード「シンドローム」によって上乗せされている。 「(う~ん、木属性か…このまま闘り合うのは拙いねぇ…)」 このような事を考えながらもブリッツは余裕の態度を崩さない。 「私もいるのをお忘れか?迅雷豪閃!」 アイリスが横から迅雷豪閃を放つが… 「サンダーワイパー!」 ブリッツはアイリスに足を向けると足裏から先端が球状になっている電流を放ちこれを食い止めた。 電流はさながらブリッツの足の延長のようでありアイリスの技と押し合う。 この状態が暫し続いた後… バサッ! ブリッツは技を中断し真上に飛翔した。 「エアアサルト!」 キー――――――――――――ン!!!!!! ブリッツは全身に帯電した状態で超高速の体当たりを繰り出し始めた。 メーア同様単なる一直線の動きではなくこちらの動きに対応してくるので始末が悪く、 躱したと思ったらその直後別方向から飛んでくるのだ。 それに加えてブリッツが飛んだ後は黒い飛行機雲が発生し視界が悪くなる。 そうした効果を伴った体当たりをブリッツは上から、横から、下から、斜めから繰り出してくる。 ブリッツは反射神経も良く、攻撃のタイミングは極めてシビアである。 ゼロは獄門剣で、アイリスは不滅之構でこれを迎え撃とうとするが反撃に成功する場合もあれば失敗する場合もある。 シリウスもブリッツがこの技を発動して早々に破壊されてしまった。 そんなある時、ブリッツがゼロの真正面から突っ込んで来ようとした。 「来い…!」 それを迎え撃とうとするゼロ。 その時だった。 「ドーン!!!!」「な…!」 ドガッ!!!!! 追いついたアンジュピトールが横からマチネトロワを繰り出しブリッツと激突したのだ。 ブリッツは吹っ飛びこそしなかったものの攻撃は中断され、アンジュピトールは激突の衝撃で多少後方に吹っ飛んだ。 「イテテテ…やっぱさっきの奴みたいに行かないかぁ~」 アンジュピトールは若干痛そうにぶつかった箇所をさする。 「君は何者だい、少年?ここは子供の来る所じゃない…と言いたいが只者ではないようだが…」 ブリッツは怪訝な顔で彼に問う。 「ボクはアンジュピトール。アンジュでいいよ。 偉い人に言われてさー、ある任務とそのついでに君達をぶっ潰しに来たんだよ♪ まぁその任務は終わっちゃったから後は君達を潰すだけだよ♪」 そしてアンジュピトールはゼロとアイリスに向き直り笑顔で言う。 「お兄ちゃんとお姉ちゃんはゼロと、アイリス…なのかなぁ…? お兄ちゃん達とも遊びたいけどそれをやったら怒られちゃうからまた今度でいいよ」 「(Dr.バイルの言っていた『その道のプロ』ってこんなガキだったのか… いや、見た目に反して強いレプリロイドは俺は何度も見て来たし、奴もそうなのか…)ああ、助かる」 「(事実あの子から感じられる圧は並大抵のものではない…本当に只者ではないようだな…!)協力なら感謝するぞ」 事前に存在は知っていた事とブリッツを自分達の手に余る強敵と見なしたによりでゼロとアイリスはアンジュピトールの増援を快諾した。 事実アンジュピトールは能力と技術の両面において優れており彼の加勢の結果こちらの被弾率は下がり相手の被弾率は上がった。 ブリッツは量産型ではない高性能戦闘用レプリロイド数千体、数万体の軍勢でも1人で瞬時に殲滅できる実力の持ち主だが ゼロとアイリスのたった2人を瞬殺する事は適わずそれどころかこちらもダメージを受けている。 更にこれにアンジュピトールが加わった事でより一層こちらの不利な戦況に追いやられたのだ。 この事実を踏まえ、ブリッツもまた彼等を強敵と見なした。 「フッ、いいだろう…」 ブリッツは高く飛翔し3人から距離を取って空中に佇む。次の瞬間… 「セパレーション…」 バババババッ!!! ブリッツの翼を構成する6枚の翼のパーツが切り離された。 「私の翼は切り離し磁力でコントロールする事で剣となるのさ。ハーピーテンペストと合わせた我が『七刀流』、とくと味わうがいい!」 そう言い放つやブリッツは己自身の剣技と宙を舞う6枚の翼パーツが織りなす変幻自在の技でゼロ達を翻弄し始める。 「ハーピーコーラス!!」 ブンブンブンブンブンッ! ブリッツと翼パーツが一斉に斬撃弾を放つ。 ゼロとアイリスも斬撃を飛ばしこれを迎え撃ち斬撃弾同士の空中の鍔迫り合いが発生するが威力と手数でやがて押し負ける。 「タイフーンダンサーズ!!」 ビュオオオオオ… 次に繰り出されるのは翼パーツが回転し竜巻を発生し、さらに帯電しながら動き回る技である。 これは体重の軽いアンジュピトールが最も影響を受けた。 「ハーピーフォーメーション!!」 キーン! ブリッツと翼パーツが編隊を組んで飛び回る。 これはカーネルの戦術を受け継いだアイリスの的確な指示でダメージを最小限に留めいくらか反撃も出来たが苦境には変わりない。 「ハァ…ハァ…あれを何とかする必要があるな…」 「もっと…上手く…引き付け…本体を狙わねば…」 高速かつ変則的な動きをするブリッツの刃に歯噛みし、思考を張り巡らせるゼロとアイリス。 そんな彼等に考える暇をブリッツが与えてくれるはずもなく尚も容赦ない猛攻は続く。 「ライトニングセプテット!!」 次にブリッツは6枚の翼パーツを帯電させた状態で相手1人につき2枚づつ配置し、 それらに相手を斬り付けさせつつ自らは指揮棒を振るようにハーピーテンペストを振りそこから斬撃弾を飛ばし始めた。 この技も躱しづらさ、威力、手数のいずれにおいても脅威的である。 しかしある時… 「こんな物…こうしてやるーっ!」 アンジュピトールが刃が自らに当たる直前に空中に扉を出現させ、その刃が扉の中に消えると扉は閉じた。 「ああっ、セプテット(七重奏)がこれではセクステット(六重奏)…!」 これを目にしたブリッツは驚愕を露わにする。 そうしている間にアンジュピトールは2枚目の翼パーツを扉の中に消した。 「クインテット(五重奏)…!」 ブリッツは更に焦りこれに勢い付いたアンジュピトールは他の翼パーツも次々と扉の中に消していく。 「カルテット(四重奏)…トリオ(三重奏)…デュエット(二重奏)…!」 次第にブリッツの口調に焦りの色が出てくる。 やがてアンジュピトールは全ての翼パーツを扉の中に消した。 「…ソロ(独奏)…」 愕然とした様子で声を漏らすブリッツ。 この状態のブリッツは七刀流が使えないどころか翼パーツを失った影響で飛行の際にも方向転換がスムーズにいかず最初の状態より不利である。 防戦一方とまではいかないが被弾率は更に上がりジリ貧な状況に立たせられる。 「いける…いけるぞ!」 「終わりだ…!」 「結構楽しかったよ、くどい顔のお兄ちゃん♪」 やがてゼロ達はブリッツを追い詰め勝利を確信し始める。 対するブリッツは無様に絶叫する。 「馬鹿な…馬鹿な…この私が負けるなど…嘘だ…嘘だぁーっ!!!」 いよいよ勝負が決すると思われた時だった。 「…フッ、なんてな…」 ブリッツは突如落ち着きを取り戻し不敵に笑う。それと同時に… キーン…ズバババババババ!!!!!! 「な…!」 「むう…!」 「うわあああ~!!!」 遥か彼方よりブリッツの翼パーツが飛来し、それぞれがゼロ達を斬り付けたのだ。 3人とも咄嗟の反応で急所は外したが十分な深手を負った。 そんな彼等を見据えブリッツは嘲笑を含めて言う。 「アンジュ少年よ、センサーが反応するから君が先程見せた技は対象を異次元や亜空間などではなく 別の場所に飛ばすという事には気付いていたよ。かなり遠くまで飛ばしたから実際危なかったけどね。 尤もこの基地のバリア障壁があれば私の翼はここに入れなかったけど、誰かさんがバリアを破ってしまったからこうして戻って来れたってわけさ」 ちなみにブリッツの翼パーツに対応するセンサーの有効範囲は非常に広い。 「さぁて…随分やってくれたねぇ…ここから反撃開始だよ!」 そして始まるブリッツの逆襲。 「ええい、また…」 アンジュピトールが扉を出現させようとすると… 「させない!」ドッ!「う…!」 ブリッツが瞬時に距離を詰めアンジュピトールの腹部に強烈な肘鉄を喰らわせた。 ブリッツの肘の突起状のパーツは鋭利でありそれがアンジュピトールに更なるダメージを与え、 集中力が切れたアンジュピトールは技を中断されてしまった。 以降ブリッツは翼パーツを時に結合、時に分離させこれまで以上に激しく、かつ慎重にゼロ達を攻撃する。 「こいつ…慢心を捨てたのか完全に本気モードに入ってやがる…!本気には本気で応えるぞ!」 そう言ってゼロはアブソリュートゼロを発動。 「なら私もこの力を解放しよう。理想の先のこの力を…はあああああああああ!!!!!!!!!!」 アイリスは自身のエネルギーを急激に高めると背中から元祖アイリス戦闘形態の翼が生え、 片腕もそれのバスターに換装される。 「ボクはこれを使うよ~!」 アンジュピトールはエックスのガイアアーマーを模したバスター系武器「マッドボイラー」を装備する。 ゼロとアイリスが飛行能力を得た事とアンジュピトールのマッドボイラーからのガイアショットの高速連射により戦闘は一層激化。 そんな状態が暫し続いた時… 「カラミティアーツ!」「ツイストコンボ!」 ガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!! ゼロのカラミティアーツにブリッツは帯電し回転を伴うパンチや蹴りで応戦するがその際翼を破壊され次第に追い詰められていく。 「(こいつ等…性能の向上だけではない…強固な信念がこいつ等を突き動かしているのか…! これが…何物にも染まっていない本当の心が生み出す力だというのか…!! 今度こそ本当に拙い…拙いぞ…!!)」 今度は本当のピンチに陥ったブリッツ。 直後彼はゼロの攻撃で激しく弾き飛ばされた。 そこにアイリスが止めを刺そうとする。 「止めだ…滅ざ…」 アイリスが滅斬を繰り出そうとした時だった。 パッ! カーネルがアイリスから分離され、アイリス自身は元の姿に戻った。 「エネルギーを…消費しすぎたか…!」「そう…みたい…」 カーネルとアイリスの言う通り先程の形態で合体状態を保つエネルギーを短時間で使い切ってしまったのだ。 これを目にしたブリッツは… 「(これはチャンス!醜い手段となるが…勝つためにはこれしか無い…この戦には勝たなければならないが…このままでは負けてしまう…! だから…汚い、卑怯とそしられようが私は敢えて使おう、醜き手段を…!)」 不本意ながらもな卑劣な手段を頭に思い浮かべアイリスに急接近する。 「やめろ!!!」「おおおおお!!!」 ゼロとカーネルがそれを阻止しようとするもブリッツの動きが速くアイリスの至近距離にまで迫る。 そしてブリッツがアイリスに手を伸ばしたその時… 「届いて…」 ブワァッ!!! アイリスが祈りのポーズをとると彼女を中心にエネルギーの領域が展開されブリッツはそれに巻き込まれる。 「な…何だ…体が…動かない…それに…戦意が…萎えて…」 ブリッツは動きを封じられ闘志まで鈍る。 先程アイリスが放ったのは彼女が新たに獲得した技「渇望する願い」である。 ブリッツが瞳のみを動かすとその視線の先には先程ヤドカリを撃破した時以上の鬼の形相となったゼロとカーネルがいた。 「ダブルアタック!!!」 ズババババババババババババ!!!!!!!!!! 「か…は…!」 ダブルアタックを喰らったブリッツは大ダメージを受ける。 「随分やってくれたよね…これはお返しだよ!はあああああああ!!!!!」 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!! そこにアンジュピトールがやはりモチーフ元の能力を受け継いだマッドボイラーからギガアタックを繰り出す。 ブリッツは両腕も失った上半身だけとなり地に倒れ伏す。 「…フッ…見事だ…君達程の実力者に負けたのなら…悔いは…ない… 最期に…醜い…手段を…選んだ時点で…私の…敗北は…決まったのかも…知れない…な… 負けるなら…潔く…散った方が…まだ…良かった… ただ…私を…我々4コマンダーを…下したところで…君達は我が組織に…勝ては…しないよ… メタシャングリラの…最高戦力は…4コマンダーでは…ないの…だからね…」 そう言い残しブリッツは事切れた。 「アイリス、無事で…本当に…良かった…」 「私、ゼロを信じていたから…」 ゼロとアイリスは互いの無事を喜び強く抱き合う。 昔なら怒り心頭に達したであろうカーネルは今はそれを暖かく見守りアンジュピトールはニヤニヤしながら眺めている。 「ところでお前達はまた合体できるのか?」 ゼロは気を取り直してカーネルとアイリスに尋ねる。 「時間と共に回復する『デザイアゲージ』が少しでも溜まれば取り敢えずは合体できるようだ。 尤も先程の力を使えばデザイアゲージの消費スピードも速くなるがな」 「足を引っ張らないように使いどころを見極めないとね」 カーネルとアイリスが応える。 「それにしても4コマンダー以上の強敵がいるのか~…ボクワクワクしてきたよ!」 一方アンジュピトールは先程撃破したブリッツを超える敵の存在に心を躍らせる。 しかし彼はまだ知らない。 ここからが本当の地獄であると…

第十八話「役割」

アクセルとヴィアは虚無殿に突入していた。 2人が突入するや否や彼等を出迎えるのは敵意に満ちた虚無軍団兵士達。 「元レッドアラート構成員にして新世代型レプリロイドのプロトタイプのアクセル… このような出自に加えその幼さ故の残虐性、野放しにしておくには危険すぎる!」 「一緒にいるのはヴィア…とかいったな…ウラディープログでさえ予測できなかった正しく『イレギュラー』な存在にして…何よりセント―ラ別動隊長の仇…! 不安要素の排除の為、そしてあの御方の弔いの為、貴様を討つ!!」 口々に己の敵意を露わにすると虚無軍団兵士達は一斉にエックスのシャドーアーマーを模したバスター系武器「シャドーバスター」を構える。 「「「あの忌まわしきエックスの能力で葬り去ってくれる!!!」」」 シャドーバスターから放たれるーシャドーアーマーの同様の性能のショットに加え天井張り付きも交えた アクロバティックな動きでアクセルとヴィアに襲い来る虚無軍団兵士達であったが…やはり彼等の力は通用しなかった。 「皮肉のつもりか知らないけどね、そんな猿真似じゃ僕は獲れないよ」 「それにな、危険なのはサイバーエルフと…それを悪用するお前等の親玉だぜ!」 アクセルはタイラントからの超高速連射で、ヴィアは高速突進からの斬撃「迅」で虚無軍団兵士の攻撃をいなしつつ 彼等を瞬殺したのであった。 この直後リコから2人に通信が入ったのだがやはり内容はエイリアがエックス達に入れた通信のそれと同じもの。 これを聞いた2人は例によって別行動を取る選択をする。 アクセルが選んだルートは真っ暗で不気味なほど静まり返ったルートで至る所にトラップや暗闘用のメカニロイドが配置されている。 アクセルがそれらをくぐり抜けると前方にブラッQが姿を現した。 ブゥン… ブラッQはアクセルを視認すると姿を消し、その直後ワープして別の場所に現れた。 このブラッQはゴーストQの性質を兼ね備えていたのだ。 数回のワープの後、ブラッQはアクセルの真後ろに現れショットを放つが… 「いたいた、こういう卑怯者が…ね!」 アクセルはこれを見抜いて反撃した。 その後もブラッQはワープ移動を繰り返し攻撃時にアクセルの背後に移動するもこれが逆に利用され最終的に撃破された。 気に食わなかったかつての仲間を思い出しつつもアクセルはこのルートに隠された発電機を発見し それにプラズマガンからの高圧電流を放つ事で道中の照明をオンにして一気に突き進んで行った… ヴィアが選んだルートは屋内であるにも関わらず視界には星空が広がっていた。 しかも只の星空ではなく空に浮かぶ星座の星と星が線で結ばれた上で何の星座なのかも図示されている。 そう、これは屋内の天井に星座を映写するプラネタリウムなのである。 バサバサバサッ… ヴィアがそれらの星座を通過するとユーラシア事件の時のように星座からバットンボーンが現れるのだが 今ヴィアの前に現れたのは厳密にはバットンボーンではなくその上位互換種であるバットンイーターである。 とはいえやはりヴィアの敵ではなかった。 ヴィアがそのままバットンイーターを蹴散らしプラネタリウムの道中を進んでいくとやがて北斗七星の真下に差し掛かった。 しかしこの北斗七星は星の数が従来の7つではなくその横に余計に1つ青い星が輝いているのだ。 ヴィアがその北斗七星を通り抜けようとするとその青い星からバットンイーターのさらなる上位互換種が現れた。 その名もバットンイーターイーター。 バットンイーターイーターはヴィアに急襲を仕掛けるが… 「ハッ、これしきの死亡フラグなんてへし折ってやらあ!!獄門剣!」 バットンイーターイーターはバットンイーターよりも遥かに高性能であるにも関わらずヴィアの敵ではなく バットンイーター同様あっさり撃破されてしまう。 同じ頃少し遅れてマリノとシナモンが虚無殿に侵入してきたが彼女達の前に現れたのはライドアーマーに乗った 虚無軍団兵士の軍団で ライドアーマーはDRA-00、ブラウンベア、デビルベアが1台ずつと第一次シグマ大戦でVAVAが乗っていた紫がかった黒いライドアーマー多数といった具合にVAVAのライドアーマーと同じ種類である。 「盗賊マリノか…大方我が軍の技術を盗みに来たんだろうがそれらは貴様には分不相応なもの…断じて渡すわけにはいかん!」 「そしてシナモン…その内部のフォースメタルジェネレーターは我々の組織が有効活用してくれるわ!」 敵意をむき出しにして、尚且つフォースメタルジェネレーターを狙う事も告げる虚無軍団兵士達にマリノは不敵に対応する。 「フォースメタルジェネレーターはそれこそあんた達には分不相応なもの…絶対渡さないよ…行くよシナモン!」 「はい!」 ライドアーマーに乗った虚無軍団兵士達は一斉にマリノとシナモンに襲い掛かるが 如何に戦闘用とは言えライドアーマーの鈍重な動きではマリノの動きについて来れるはずもなく次から次へと返り討ちに遭い撃破されていく。 一方でシナモンは異界の強者を模したインジェクター系武器「ミソラシャワー」から放たれる音波でライドアーマーの動きを麻痺させた上で内部から破壊していく。 「ええい、絶爆砕砲、展開!!」 ライドアーマーを破壊された虚無軍団兵士達はシャドウを模したマシンガン系武器「絶爆砕砲」を構える。 「シャドウがモチーフの武器ねぇ…じゃああたしはこれで行くよ!」 「マリノさん、その武器は…!」 マリノが手にした武器に驚愕と困惑の反応を示すシナモン。 それもそのはず、その武器はかつてのマリノの恋人…の正体で過去のイレギュラーのリディプスの第2形態、ゴッドリディプスを模した ランチャー系武器「リディプフォース」だったのだ。 「あたしが過去のトラウマに屈すると思ったのかい!?むしろこの武器はいい気付けになるぐらいだよ!それ!!」 シュバアアアアアアアアアアアアアアアア!!! リディプフォースからの砲撃は絶爆砕砲からの連射攻撃を尽く押し返して虚無軍団兵士達を屠っていく。 同時にシナモンもミソラシャワーで虚無軍団兵士達を撃破していった。 「あたし達はこれからも一緒だよ、『スパイダー』…」 「今の私の技術ではこれしか皆さんを止める方法が無くて…ごめんなさい…この戦い、絶対勝ってみせます!」 この場の敵を一掃したマリノとシナモンは、それぞれの想いを胸に先へ急ぐ。 ファート救出劇が展開されたのはこの頃である。 シャッテンはファートを処刑する為に彼が収容されている檻に向かうもドロワクレールの妨害に遭い、 それを回避しつつ檻に到達した時…事は既に終わっていた。 檻にいたのはファートではなく、代わりに彼を救出し現場に戻ってきたエラトネールだったのだ。 「残念だけど、貴方が探している人はもうここにはいないわヨ」 エラトネールはシャッテンを視認するや否や不敵に告げる。 対するシャッテンは敵意を示すも感情的にはならずに対応する。 「何者か知らんがハンター、もしくは政府の伏兵だな。貴様に問うがあの男を助けて何になる!? あの男は保身の事ばかりで世界を導く力も、ウラディープログで予測された悲惨な未来の到来を防ぐ力も無いのだぞ?」 「それが私達の役割だかラ」 エラトネールは静かに、しかしはっきりと答える。それをシャッテンは否定する。 「貴様が政府の…人間であるファートの犬という意味か…それともウラディープログの予測が世界の辿る道だという意味か… いずれにせよ今の世の中のレプリロイドは人間に…それもファートのような愚か者ではなく総帥殿のような正しい人間に従属するという役割を放棄している… それを正すのが我々の…プロジェクトエルピスの役割だ…!」 「いいワ、お互いの役割を、全うしましょウ…遊んであげル…」 エラトネールが余裕気に言い放つと彼女は臨戦態勢に入り自身の内のエネルギーを急速に上昇させる。 「(こいつ…かなりの強者のようだ…!)」 シャッテンは身構える。 「ボイドストラトス…」 エラトネールは自身を中心とした位置に魔法陣を発生させ、その魔法陣の上にエネルギーのフィールドを展開する。 するとその領域内にいたシャッテンは連続ダメージを受け始める。 「ぐうっ…己…!」 シャッテンは耐えつつ刃状の実体化した闇を放つがエラトネールはそれを全て躱す。 「ルヴニール…」 続いてエラトネールは自身の周囲に精霊のようなエネルギー体を召喚。 「精霊」はシャッテン目がけて飛来し、その速く精密な動きに流石のシャッテンも躱せず追加のダメージを負う。 「か…は…!!」 次第に追い詰められていくシャッテン。 同時にその身に纏うヘルメットとマントも目に見えて損傷していく… 一方でアクセルはメカニロイドが製造され、その場で出撃してくるルートに足を踏み入れていた。 製造されるメカニロイドは主にスクランブラーで道中にはスクライバーやメカアーム等が配置されアクセルを迎え撃つ。 一見カウンターハンター事件の時のイレギュラー生産工場を再現したかに見えるこのルートだが実は他にもう1つの由来がある。 その由来は程なくして分かる事になる。 メカニロイド達を撃破しこのルートの最深部に到達したアクセルの前にイレイズ事件の際に現れた死神のような巨大メカニロイド、スカルヘッドが現れたのだ。 スカルヘッドはアクセルに猛攻を仕掛けるも尽くいなされる。 「それで死神のつもり?全く死を感じないんだけど。死神ってのはね…」 スカルヘッドの攻撃を回避し反撃しつつ不敵に言いかけるアクセル。次の瞬間… 「こういうのを言うんだよ!!」 ズババババババババババババ!!!!!!! 意趣返しと言わんばかりに同じ死神モチーフのレッドに変身し、鎌で切り刻んで撃破した。 その頃ヴィアは下が深い穴になっており所々に丸い足場が点在し、足場と足場の間には橋がかかっている部屋に到達していた。 「ワォーーン!!!!」 ヴィアが部屋に入った直後遠くから獣が吠えるような声と共にベルガーダーとその量産版のようなメカニロイド、 ヘルガーダー達が姿を現した。 ベルガーダーは1体であるのに対しヘルガーダーは大群で、炎タイプと氷タイプの両方がいる。 ベルガーダーはヘルガーダーを率いてヴィアに襲い掛かる。 その動きは実に統制が取れていてベルガーダーがヘルガーダー達に指示を出しているのが戦闘中に見て取れた。 これを察したヴィアはベルガーダーに狙いを定める事にした。 当然ベルガーダーを守るようにヘルガーダーが立ち塞がる事もあるが所詮ヴィアの敵ではない。 そして遂に… 「アースクラッシュ!!」 ドガァン!!!! ヴィアがベルガーダーを撃破した。 すると… 「グルルルル…ウゥー…ウゥー…ウゥー?」「クゥーン…クゥーン…」 残されたヘルガーダー達が襲撃を止め互いに顔を見合わせながらしばし鳴き声のやり取りをする。 そして… 「「「「「キャインキャインキャインキャインキャイン!!!!!!」」」」」 蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのだ。 ヴィアはそれを光の雨のような大技「蒼」で一掃。 「烏合の衆って奴か…メタシャングリラの行く末も案外こんなもんなのかな…」 そう呟くとヴィアはこの場を後にした。 同じ頃マリノとシナモンが突入したルートではブレッカーやインストーラー、バリアアタッカー、 そして上から落ちてきて床と同化するブロック等 カウンターハンター事件の時の巨大コンピュータ施設で現れたメカニロイドやトラップが待ち受けていた。 彼女達はそれらを突破していくがその際その時の様子が知らず知らずのうちにレーダーでスキャンされていた。 やがてマリノとシナモンがこのルートの最深部の部屋に到達するとそこにレイダーキラーとチョップレジスターが同時に出現した。 この時レイダーキラーはレーダーでスキャンした回数に応じて色を変えていくが 今回レイダーキラーがスキャンを行った回数は事件当時の3回より1回多い4回である。 3段階目の強化形態までは従来と同じ色だったが今回はさらにもう1段階強化され…何と透明になった。 ガションガションガションガションガション!!!! 透明になったレイダーキラーはマリノ目がけて猛突進を繰り出す。 「保護色ねぇ…だけど、今回は相手が悪かったよ!」 スチャッ! マリノは額のゴーグルを下ろす。結果レイダーキラーの位置が丸見えとなりマリノは一方的に攻撃を加え呆気なく撃破した。 「貴方も相手が悪かったですね…」 ウィルスであるチョップレジスターに取って医療ユニットを備えたシナモンは正に天敵でありインジェクションであっさり撃破された。 エラトネールとシャッテンの戦いだが依然エラトネールが優勢だった。 そしてある時… ピキピキピキ…バカッ!! シャッテンの頭部を覆うヘルメットが割れ、マントはボイドストラトスのエネルギーの中で燃えるように消滅し、 付属のアーマーも砕け散った。 そしてシャッテンは露出の多い妖艶でグラマラスな姿を露わにした。 シャッテンは女性型だったのである。 「それが貴方の素顔、ネ…」 シャッテンの素顔を目にしたエラトネールは冷静に呟く。 「虚無軍団を統べる者として軍団の性質上私は常時己の姿や力、手の内を隠してきたのだが…貴様はそれでは御せないようだな… いいだろう、貴様の実力は認めるぞ。そして我が武器『ホロウゴースト』の餌食になる事を光栄に思うがいい!」 シャッテンが言い放つと彼女の左腕が周囲が8枚の翼パーツで覆われた剣のような武器に換装された。 この武器、ホロウゴーストの外観はさながらマントを纏った死神のようである。 そしてホロウゴーストの翼パーツはブリッツのそれのように切り離されて宙を舞い始める。 「ワンダリングゴースト!」 シャッテンの操るホロウゴーストの翼パーツが様々な動きでエラトネールに襲い掛かる。 ブリッツの翼パーツが6枚であるのに対しホロウゴーストのそれは8枚でありその分攻撃のバリエーションは段違いに増える。 彼女はそれを冷静にルヴニールで迎撃するが… 「羽根だけに気を取られている場合か?ダークネスブレイド!」 ブォン!! シャッテンはエラトネールに急接近し、ホロウゴーストの軸を構成する剣に暗黒エネルギーを纏わせた状態で斬りかかる。 「手の内を全て見せていないのは私も同じヨ」 ガキン!! エラトネールは手元に異界の強者を模したマシンガン系武器「スレイブオブユー」を出現させその斬撃を受け止めた。 ググググググ…バッ!! 暫し押し合った後互いに距離を取る両者。 それ以降も両者の技と技のぶつかり合い、もとい騙し合い、化かし合いが続く。 両者とも闇の住人であり相手の意表を突く事、相手の行動や心理を読む事を得意とし、 相手の行動が読み通りなら想定内の対処をし意表を突かれても即興で可能な限り上手く対処してみせる。 「「(少しでも気を抜いたら詰む(わネ…)(な…))」」 裏を読み、裏の裏を読み、さらにその裏まで読み合う接戦がいつ果てるともなく続くのであった… その頃マリノとシナモンはこの虚無殿の最深部に到達していた。 そこは本来のシャッテンの持ち場ではあるがそのシャッテンは席を外しておりこの場にいない。 即ちすぐ本殿に行けてしまうのである。 「こういう風にあからさまに『親切』だと却って怪しいもんだよ」 「そうですね、すごく不気味ですね…」 慎重に虚無殿の出口へと向かうマリノとシナモン。 彼女達の予想通り上手い話には裏があった。シャッテンは有事に備えてこの部屋に代わりの番人を配置していたのである。 ヒューンヒューンヒューン… マリノとシナモンが虚無殿の出口へと到達しようとした時、後方より丸く黒い物体が次々と飛来し二人はそれを横っ飛びで躱す。 物体は振り向く二人の眼前で融合し一つの形を成した。 その姿は黒く丸い胴体から手足が生えた単眼の巨人だった。 即ちユーラシア事件の際に現れたイレギュラー、シャドーデビルである。 「そう来ると思ったよ…行くよシナモン!」「はい!」 両者はシャドーデビルを迎え撃つ。 最初こそ従来の通り分裂、合体、目からの光弾といった攻撃パターンを繰り返すシャドーデビルであったが 体力が少なくなってくると例によって従来とは異なる動きを見せる。 合体した際の形態に従来のドクロ顔のプレス機の形態の他に戦車型、恐竜型、ドクロから2本の脚を生やした形態、 脚が2本しかなくハサミも無いカニのような形態等様々なバリエーションが含まれるようになり 分裂時のブロックの形状もドクロ顔が付いたタイプを中心に様々な飛行メカの形態となり その分攻撃のバリエーションも増え、二人を惑わせる。 「やるじゃないか、でもね、新たな力を身に着けたのはあんただけじゃないよ… メメントモリ!デウスエクスマキーナ!ドメガサンダー!」 「パルスソング!マシンガンストリング!ショックノート!」 ドガガガガガガガ!!! これまでと同様元となった強者の能力をより多く受け継いだ武器と自分本来の力を駆使して 激闘の末マリノとシナモンはシャドーデビルを撃破。 「また、あんたに助けられたね…」 「この武器の元となった人も凄く強いみたいですねー…どんな人か気になります」 そしてマリノとシナモンは本殿へ歩を進める。 この時点でシャッテンは軍団としての敗北は決したのだが個人としての敗北も時期に決しようとしていた。 牢屋では… 「(流石4コマンダーというだけあって一筋縄ではいかないわネ…最悪『あの手段』を使うしか…)」 「(奴の領域展開の技はエネルギー消費量故に連発出来ず一度に回復できる体力にも限度があるようだ…その隙を確実に突いていけば、勝機は見える…!)」 依然激闘を繰り広げるエラトネールとシャッテン。 その時… バシュッ!ズドドドドドドドドドド!!! ヴィアのバスターとアクセルのタイラントから放たれた光弾がシャッテンを襲う。 「む…!」 「あら…」 シャッテンはそれを回避し彼女とエラトネールはこの場に現れた二人に気付く。 「リコのナビを聞いてここまで来たんだが、やはりここにいたんだな、シャッテン。 今のを躱すとは流石だぜ」 「というかシャッテンの素顔はこうなってたんだ。一緒にいるお姉さんはバイル博士の言っていた政府の人…かな?」 牢屋に到達したヴィアとアクセルが言う。 「貴様はあの時の…加えてS級ハンターのアクセルか… 次から次へとこの虚無殿に土足で踏み入る不届き者共め、まとめて始末してくれる…!」 「私の名前はエラトネール…ここに来た目的はお察しの通りヨ。 貴方達がここに来た目的も同じはず、ここは一つ共闘といこうかしラ」 敵意を示すシャッテンと共闘を持ち掛けるエラトネール。 そしてエラトネールの存在をバイルによって前以て聞かされていたヴィアとアクセルはエラトネールとの共闘を快諾する。 「迅!」「く…!」 ガキン!! 高速で肉薄するヴィアの剣技を刃で受け止めたシャッテンだったが… 「蒼!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!! 「あああああ!!!!!」 すぐに距離を取ったヴィアが「蒼」を発動しシャッテンに大ダメージを与える。 「この速さ、威力、攻撃範囲…セント―ラを圧倒しただけの事はあるな…!」 歯噛みするシャッテン。 「凄すぎる戦いだ…僕一人で来てたらヤバかったよ……うわわ!!」 一方ヴィア、エラトネールとシャッテンの激しい技の応戦に圧倒されていたアクセルだったが ある時自身にもシャッテンの技の矛先が向かい辛うじて回避するも防戦一方になる。 「こうなったら…シダーシード!!」 ボン! アクセルはシダージュの特殊武器「シダーシード」を放つ。 この武器は地面に着弾すると樹木型の砲台を生やす砲弾を放つ武器である。 またこの「木」は太くて頑丈でもある。 そこでアクセルはこの「木」を複数生やし「木」の陰に隠れて援護射撃を行い、 西部劇のように「木」から「木」へローリング移動してその際銃撃を繰り出す戦法を取った。 「シダージュの能力で小癪な真似を…!」 シャッテンは顔を歪めながらそれに対応する。 こうしてヴィアとアクセルの加勢によってシャッテンは被弾する回数が多くなってきた。 「ならば…これは見切れるか!?ドッペルアサシン!!」 シャッテンは8体の分身を出現させシダージュの「ゲネイリョーダン」のように分身を ホロウゴーストの翼パーツに纏わせた。 そして本体と分身は腕の剣を前に構えた体勢で四方八方から高速で斬りかかる。 その動きはあまりに速く3人とも何度か喰らうが… しかし… 「よく見ればどれが本体か分かるわヨ」 「ぐうう!!」 暫くしてエラトネールに見破られ反撃を喰らう。 ヴィアとアクセルも本体を見抜く事が何とか出来るようで彼等からも反撃を喰らったシャッテンは技を解除。 「やはり数には数だな…」 そう言ってシャッテンはホロウゴーストの翼パーツを遠隔操作で壁に向けて飛ばすと円を描くような配置に垂直にそれらを突き刺した。 すると翼パーツで囲まれた箇所から亜空間に繋がる穴が現れる。 「フロッグコール!!」 「ゲコゲコゲコゲコゲコ!!!」ピョンピョンピョンピョンピョン! そしてシャッテンは穴からカウンターハンター事件の時のカエル型メカニロイド、クロークホッパーの大群を召喚した。 「ハッ、カエルにはヘビだぜ!」 ヴン! これに対しヴィアは空間に穴を発生させレプリフォース大戦の時のヘビ型メカニロイド、オビールの大群を放って応戦。 「気持ち悪!」 思わず一言漏らすアクセル。 オビールはクロークホッパーを撃破していくが… ボガンボガンボガンボガンボガン!!! 撃破される際クロークホッパーの子ガエル爆弾が大爆発して暫し空中に滞在する爆炎と視界を遮るほどの大量の煙を発生させたのだ。 「馬鹿め、クロークホッパー如きで貴様等を御せるとは思っていない…真の狙いは爆弾の爆発の際に発生する煙さ! クロークホッパーは倒しても倒さなくても爆弾は爆発し煙を出し続けるが、どうする?」 嘲笑するシャッテン。 「なら…ツーラルバルカン!!」 ズドドドドドドドドドド!!!!! アクセルはクレーネルの特殊武器「ツーラルバルカン」をクロークホッパーに放つ。 この特殊武器は凍結効果のある氷の弾丸を連射するという点ではアイスガトリングと共通しているが 弾丸の形状が氷柱になっておりレイガンに匹敵する貫通性能も兼ね備えているのだ。 結果アクセルの放つ弾丸の一発一発が当たると同時にクロークホッパーを凍らせさらに凍らせたクロークホッパーのボディを貫通し後ろにいた別のクロークホッパーにも同様の効果をもたらしていく。 そしてクロークホッパー達は爆発する事なく砕け散っていくのだ。 「もう手遅れだ!この煙に乗じて貴様等全員始末してくれよう…ドッペルアサシン!」 シャッテンはホロウゴーストの翼パーツを遠隔操作で引き抜き再度それらに自身の分身を纏わせドッペルアサシンを発動。 シュバババババババババババ!!!!!!!!!! 煙による視界不良の中何人ものシャッテンが超高速で四方八方から飛び交う。 ザシュザシュザシュザシュザシュザシュ!!! 「うおっ!?」「うっ…!」「やっば…!」 そんなシャッテンの技を何度か喰らい続ける3人だったが、ある時… 「雑魚を大量に呼び出したって事はコンボ数稼ぎ放題って事じゃん、アタックゲージはとっくに満タンだよ…!」 アクセルはクロークホッパーを撃破する際にアタックゲージを貯めていたのだ。 そして感覚を限界まで研ぎ澄ませ、攻撃を喰らった瞬間… 「ダブルアタック!」 ズドドドドドドドド!!!!!!!!! アクセルがダブルアタックを発動した。しかし… 「甘い!」「うわっ!」 シャッテンは全くダメージを負った様子もなくアクセルに迫り来る。 「(馬鹿め、いくら攻撃しようが貴様等は私を倒す事は出来ん。 何故なら私は…)」 どこからか本物のシャッテンが分身の攻撃に晒される3人の様子を眺めていたのだが… ズドッ! 「うっ…!」 突如背後から攻撃されシャッテンは地面に落下する。 シャッテンは先程アクセルが出現させた「木」の上にいたのだった。 攻撃の正体はエラトネールがルヴニールで出した「精霊」である。 「あら、そこにいたノ」 シャッテンが落下する際エラトネールはルヴニールとスレイブオブユーの掃射を同時に繰り出し勝負は決した。 「まさか…これ程…早く…見抜かれるとは…な…」 地に倒れ伏し息も絶え絶えに声を絞り出すシャッテン。 「ええ、分身の数が足りなかったから本物の貴方はどこか別の所にいる…そしてその場所は下を見渡せてこちらの攻撃も防げる『木』の上と踏んで『精霊』の1体にその辺りを追跡させたノ それでダブルアタックを防いで心に慢心が生まれた瞬間を狙ったのヨ」 タネを明かすエラトネール。 ちなみに牢屋への出入り口も常にエラトネールのボイドストラトスが発動されておりもう1体の『精霊』が行く手を阻むように飛び回っていた為出入りが極めて困難な状況に陥っていた。 「無念…だ…ファートを…逃すばかり…か…戦いでも…負けて…しまう…とは…」 「さて、それじゃお前も正気に戻って貰おうか!」 ヴィアは悔し気に呟くシャッテンに近付き、手をかざす。 バリバリバリバリバリ! これまでのようにその精神をサイバーエルフとして取り込まれようとするシャッテンだったが… 「貴様の思い通りなどにさるか!!私は最期の最期までメタシャングリラとしての役割を果たす! せめて貴様等全員道連れにしてくれるわ!はあああああ!!!」 急激に体内のエネルギーを上昇させていくシャッテン。 「自爆!?」 アクセルが自爆を察した瞬間、ヴィアはシャッテンに覆いかぶさった。 そして… ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!! 従来ならばこの虚無殿を吹き飛ばす程の大爆発が発生した。 しかし、実際はアクセルとエラトネールが少々爆風で後ずさっただけでヴィアとシャッテンのいた地点以外に爆発による損壊は見受けられなかった。 シャッテンは跡形も無く吹き飛び、ヴィアは無事ではあったもののセンチピーダの最終奥義を喰らった時以上にゼロのような外装を損傷しその禍々しい正体がより露わになっていた。 「痛たたたた…最後の最後に強烈な一発を貰っちまったぜ…この外装も前の時以上にやられちまったしよぉ…」 「それが貴方の素顔ネ」 ゆっくりと立ち上がるヴィア。 そんな彼の姿を見てエラトネールは落ち着き払った様子で言う。 「ああ、顔や手の内を隠していたのは奴だけじゃなかったって事さ」 「あら、私も手の内は全部明かしてないわヨ」 ヴィアとエラトネールは互いに手を出し尽くしていない事を伝えると同時に互いを底の知れない相手と認識する。 「…ところでシャッテンはどうなったの?」 「ああ、奴は気を失ってるぜ、俺の中でな」 アクセルの問いにヴィアが応える。爆発の中シャッテンの魂は無事回収されたようだ。 「にしてもあんな連中の為に、それも偽りの忠誠心の果てに自爆するとはな… 役割だなんだとか言ってたが下らん役割だぜ」 ヴィアが吐き捨てるように言う。 「あら、人にはそれぞれ与えられた役割があるのヨ」 それに異を唱えるエラトネール。 「その役割がどんなに理不尽でもそれに縛られ続けるのが下らないって話だよ。 現に俺は『前世』での『役割』に反抗すべく生まれた訳だしな」 「僕も似たようなものだよ。それに『役割』がウラディープログの通りだとしても僕はそれを受け入れる気は更々ないね。 滅びるのが運命だとしても僕達はその運命と戦っていかなくてはならない…ってゼロの受け売りだけどね」 アクセルがヴィアに賛同する。 「まぁ、メタシャングリラが人々に『役割』を与える存在ではない事は確実に言えるわネ。 今はこの戦いを終わらせる事だけを考えましょウ」 エラトネールは頷き、3人は牢屋を、そして虚無殿を後にする。 前述のようにエラトネールにはまだ奥の手がある。 彼女の弟妹のドロワクレールとアンジュピトールにも実は同様の奥の手がある。 しかし色々な理由でそれを使うのは望ましくなく、さらに4コマンダーはそれを使うまでもない相手だったのだ。 使うとなればそれこそどうしようもない強敵である。 その強敵は本殿の地下深くで眠っていた… 本殿の地下のシェルターにて… ざわ… ざわ… 眼前に聳え立つメタシャングリラの最終兵器の巨大ロボットを見上げざわつく構成員達。 「改めて見ると何とも禍々しい…」 「いや、これこそ男のロマンやろ」 タードのように気圧される者、プーパーのように目を輝かせる者などその反応は様々である。 「只今、4コマンダー並びに彼等の守る4棟の全兵力の全滅を確認しました」 そんな中Dr.Vが戦況を報告する。 「神のご加護を…」 フィースィーが思わず神に祈るなどシェルター内が一層ざわつく中ヘルシャフトは冷静に構えて言う。 「では時が来たのだな、俺自ら出撃する時が」 そしてヘルシャフトはロボットの前に設置されたコンパネを操作する。 するとロボットの目から光が放たれその光に包まれたヘルシャフトはコックピット内にワープした。 これに対し全構成員が一斉に敬礼する。 いよいよメタシャングリラ最後にして最大の強敵がハンター達にその牙を剥こうとしていた…

第十九話「9回裏」

メタシャングリラの要塞の本殿は4コマンダーが守る4棟に囲まれた位置に聳え立っている。 外部から侵入するにはそれら4棟を攻略しなければならない。 しかし今、四手に分かれたハンター勢は政府軍のエラトネール3姉弟の協力もあってそれら4棟を攻め落としここ本殿で合流を果たしたのであった。 本殿は環状のフロアから成る高層ビルで全体的に豪華な雰囲気がある。 そんなフロアの構造上見上げれば最上階まで見渡せる地上階にてハンター勢はある者は互いの無事を喜び、ある者は状況を確認し始めていた。 「いやー、ここまでノーアウトで来れるなんて感無量ッス!このままメタシャングリラを完封してやるッスよ!!」 全員の無事を確認したトラストが意気込む。 「その前に皆さん酷いダメージですぅ…お願い!」パァァァ… シナモンがこの場の一同を癒す。 「おっしゃあ、これで元気100倍だぜぇ!!」 「これだけ広くて豪華だと、それだけお宝も眠ってそうだね♪」 回復したマッシモと本殿の景観を目にしたマリノもテンションを上げる。 「ンモォォォォ…」 「不安な気持ちも分かるズラがこいつ等の実力は本物ズラ!」 不安気な声を発するファラリスオックスをカピラーバが諭す。 「オォ~ン!!アォン!アォン!アォン!」 「あら、私も同じ気持ちよ」 勢いよく吠えるブリザディオンに共感を示すクレーネル。 「ビュオオオ~!!!」「ゴロゴロゴロォ!!!」 「まぁ~たそんなどうでもいい理由で喧嘩してるのぉ~? クラブHLぅ~、止めてくんなぁ~い?」「ハイレグ!!」 喧嘩をするフーディーン&ライディーンに対しエレキドナーは面倒くさそうにクラブHLに仲裁するように言い、クラブHLは了承する。 「ブクブクブクブクブクブク…ブク!ブックックックック!」 「シャハハハハハ!全くその通りだぜ!!」 ウォーターデビルの発する声に何故か賛同しつつ爆笑するナヴァラーク。 「え…?え…?もしかして5モンスターの言葉分かるの?僕全然分かんないんだけど…」 「俺も分からん…この世は分からない事が沢山あるが、これもその1つなんだろうな…」 5モンスターと普通に会話する8エージェントをアクセルとゼロは怪訝な顔で見遣る。 「やぁ~はりほぉ~ん隊、そしてだぁ~ん長との戦いはじぃ~つに熱いたぁ~たかいであぁ~りましたなぁ~」 「おうよ、本当に燃える戦いだったぜ!このまま俺っち達の本物の信念で奴等の歪んだ信念を砕いてやらぁ!」 興奮冷めやらぬマーシャルとフォムライザーが熱く語る。 「どこまでもお供いたしますわ、隊長…」 「何があっても君を守るよ、パステル…」 互いに見つめ合うパステルとライノサイル。 「ハァ…ハァ…いよいよこの戦いの最終局面だけど、何だか嫌な予感がするよね…ね?」 「男は度胸、何でもやってみるものですぜ」 何やら不吉な予感を覚えるセンチピーダをウェルドが勇気付ける。 「さあ、世界の病巣を摘出しますよ!」 「うむ、奴等はお前の言う所の『付ける薬の無い馬鹿』だからな!!」 「然り。愚かなる奴等には相応の報いを与えようぞ」 シンドローム、セント―ラ、シダージュも決意を表す。 「そんなお前達に紹介したい奴等がいるんだ」 ヴィアの言葉と共にサイバーエルフとなった4コマンダーが現れた。 「「「団長!!」」」 この場にいた元メタシャングリラのサイバーエルフ達は歓喜する。 「畜生、畜生!!この俺をあんな汚いシノギに利用しやがって…!!」 正気に戻ったフランメは怒りと悲しみを露わにする。 「私とて奴等に良いように利用された事は屈辱の極み…」 表情を僅かに曇らせ憎々し気に呟くメーア。 「先程醜い手段で勝とうとした事以前に奴等如きにに服従させられた事がこの私の一生の不覚にして汚点さ…」 ブリッツも相当悔しいようである。 「そんな我等をサイバーエルフの洗脳から解放した事と、それまでに部下が世話になった事に 重ねて礼を言うぞ、ヴィア殿…」 シャッテンはヴィアに礼を言う。 「4コマンダーのサイバーエルフの性能は各軍のサイバーエルフの性能を向上させる事らしい。 これで特殊武器、ラーニング技、エルフスキル、モンスターチップ、ガーディアンカードも格段にレベルアップする筈だ」 「本当だぜ、力が沸いてきやがる…!」 ヴィアの説明にナヴァラークを始め8エージェント、5ガーディアン、5モンスター達は納得する。 「この力にはまだ先があるみてぇだが、リスクが大きい為に無闇に使わねぇ方が良いそうだ。 尤も俺は使いてぇけどな」 フランメは追加の説明をする。 「ところで政府軍の凄腕レプリロイドとやらは3人いたんだな、皆オーラが半端じゃないよ」 「あら、誰もウチらが1人だなんて言った覚えは無いんだけどぉ~? エラトお姉ちゃんの強さはウチやアンジュとは比べ物にならないんだからね!」 政府軍から派遣されたレプリロイドが3人だった事を初めて知ったダイナモにドロワクレールが得意気に応じる。 「(…強い…)」 フラジールはエラトネールを一瞥し彼女から強烈な圧と底知れぬ雰囲気を感じ取る。 そんな彼女にニッコリと微笑みつつエラトネールはこの場の一同に挨拶する。 「皆、妹と弟が世話になったわね、私の名前はエラトネール、こっちがドロワクレール…そしてこっちがアンジュピトールよ…」 「僕の事はアンジュでいいからね!それよりも僕、さっきの戦いで面白い事聞いちゃったんだ! この本殿には4コマンダー以上の強敵がいるって…!」 「「「「「!!!!!!!!!!!!)」」」」」 アンジュピトールの爆弾発言にこの場の一同はざわつく。 「やはり戦いはこれからが本番だったようだな…!ゲージも溜まった…行くぞアイリス!」 「ええ、兄さん!」 パァァァ… カーネルとアイリスは再度合体し渾然たるアイリスとなった。 「どういう事だ、詳しく聞かせてくれないかい?」 エックスが尋ねるとブリッツは説明を始める。 「フッ、では私が教えよう…奴等は我々が敗北した時に備えて恐ろしい最終兵器を開発していたのさ…それは…」 しかしその説明は突如として遮られる。 ブゥン… 突然上の階の壁の巨大モニターが起動し、そこにヘルシャフトが映し出された。 彼の背後はコックピットのようである。 「これはこれは…皆揃ってよくぞ我が軍を撃破しこの神聖な場所に土足でズカズカと入り込んできおったな… 機械の分際で人間様に盾突く愚かなレプリロイド共よ…」 ヘルシャフトは笑顔で、しかし言葉に怒気を含ませて言う。 「「「「「ヘルシャフト!!!!!!」」」」」 この場の一同が怒りの形相と共にモニターを注視する中、ヘルシャフトは続けて言う。 「ここまでの道のりは本当に険しかっただろう…?これはそんな貴様等に対する俺からの労いだ、受け取るがいい」 フワフワフワフワフワ… サイバーエルフが様々な方向から現れ、エックス以外のメンバーに取り憑いていく。 しかし… 「何だ、洗脳が、効かない!!」「消えちゃうーっ!!!」 それらのサイバーエルフは取り憑いたレプリロイドの中で効果を発揮する事なく消滅していった。 「ほう、洗脳が効かぬか…事前に対策を講じていたか…それとも気合と根性かな?」 ヘルシャフトが問う。 「両方ッス!!!!」 トラストが豪語する。 「貴様は…確かトラストだったな…新たなS級ハンターで我々との戦いでも活躍したそうだが… 機械である貴様が人間の精神論を語るとは…片腹痛いわ」 「やかましいッス…レプリロイドは只の機械なんかじゃ無いッス!! 夢の為に突き進む気合や目標の為に努力する根性には人間もレプリロイドも無いッスーっ!!」 熱弁するトラストにフラジールが無言で頷く。 「フン、まぁ良い…時にエックス、そしてハンター共よ、 どうやら今貴様等はサイバーエルフとなってイレギュラーだった頃の心を取り戻した 我が軍のレプリロイド共と共闘しておるようだが、奴等が何をしたか知っておるのか?」 「何!?」 ヘルシャフトの問いにエックスは顔を顰める。 「では教えよう…奴等はかつてレプリロイドの権利を大義名分に掲げ、人間を、我々の同胞を虐殺したのだよ…!」 ヘルシャフトは忌々しそうに言う。 「それは本当かい…!?」 エックスは元メタシャングリラのサイバーエルフ達に尋ねる。 「我々は元はレプリロイドを不当に差別する人間を差別する集団だったのさ… メタシャングリラは表立った事件を起こす前からレプリロイドに対し筆舌に尽くしがたい非道を働いていてね… 時に義憤に駆られ奴等が行った蛮行に対して意趣返しの殺しを行う事もあったのだよ… 言い訳になるか分からないけどそれを行ったのは一部の兵士だけどね…」 ブリッツは肯定する。 「………」 初期のような動揺こそ見られないもののエックスは言葉を失う。 「これが何を意味するか分かるかね…?そう、かつて貴様が処分してきたイレギュラー共と同様の動機だよ! そんな奴等と今更仲良しごっこが出来るのか? 自分達が余程高尚で潔白な存在だと言うのなら奴等の手を借りず己の力だけで戦おうとは思わんのか? それとも我々の戦いの道具として利用するとでも言うのか…!? 答えて見せよ、英雄気取りのイレギュラーよ…」 ニヤつきながら問うヘルシャフトだったが… 「貴様の目論見は分かっている…俺達と彼等の協力関係を崩そうという魂胆だな!? 俺はこれまでも倒した敵の能力でこれまでの戦いを生き抜いてきたし、形はどうあれ彼等は既に罰を受けた。 そしてここにいるメンバーの何人かも後ろ暗い過去があるが彼等も襲ってくる過去を乗り越え 今は俺と共に戦ってくれている… そもそもそれらを差し引いても彼等の過去と貴様等の暴挙を止める事は別問題だ!! 既に起こった事については後から考えればいいが今この場に起きている事は今立ち向かうしかない!!!」 「そうッス!」 トラストもそれに続く。 「サイバーエルフによる洗脳も、俺からの説得も通じんか… では俺が直接出撃するとしよう…力ではレプリロイドに及ばぬ人間がレプリロイドと戦うにはどうすればいいか… その答えは貴様なら分かっている筈だろう?ロックマンエックスよ… ガンツェンヴァッフェ、発進!!」 シューン… ヘルシャフトの掛け声に合わせモニターがオフになった。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… それと共にフロアが震動し、床の丸い模様と思われた部分の中心が2つに割れて地下に通じる穴が開き、 地下の床がせり上がっていき最終的に地上階と同じ高さに到達した。 そしてその床に乗っていた超巨大起動兵器、ガンツェンヴァッフェが巨大で禍々しい姿を現した。 ガンツェンヴァッフェは一見様々な恐竜を組み合わせたような外観をしており 両肩には左右で形の違う砲身が生え、背中には上から下にかけて板状の棘が何枚か生えており 尾は剣になっている。 また腕部および脚部も左右で形が異なり右膝には狼の顔のような、左膝には鳥の顔のような膝当てがある。 ボディカラーは潔白を示す白と高貴さを示す金色がメインである。 「ああ、分かっているさ…だから俺は敢えて過去に倣おう」 この場の一同がガンツェンヴァッフェの巨大さ、そして内から感じられる強烈なエネルギー反応に戦慄する中 エックスは前方を見据えヘルシャフトに言い放つ。 「この最終兵器ガンツェンヴァッフェには過去、現在、未来、そして異界のありとあらゆる強者の力を宿した兵器がボディ各部に搭載されている! 時代と時空を超えた世界に脅威をもたらした猛者達の力の集大成、その身に刻み付けるがいい!! ランファントアイ、発射!!」 バシュッ!! ガンツェンヴァッフェの胸部の目玉のような部分から巨大な光弾が放たれた。 目玉のような部分は過去の強者を模したバスター系武器「ランファントアイ」だったのだ。 「危ない!」 咄嗟にこれを回避するこの場の一同だったが着弾した箇所が大きくえぐり取られた。 「………!!」 その威力に戦慄するエックス達にヘルシャフトは得意気に言い放つ。 「今のはチャージショットではない…ノーマルショットだ」 これを聞いた皆は一層戦慄した。 「他の武器もお披露目していくが…それまでに生きていられるかな?」 ヘルシャフトは続けてガンツェンヴァッフェのボディに搭載された各武器から強烈すぎる攻撃を繰り出していく。 口の中のルミネ第2形態を模したインジェクター系武器「ヤコブエボリューション」からの様々な形状のレーザー。 右肩の異界の強者を模したランチャー系武器「エースクラック」からの刃のようなレーザー。 左肩の異界の強者を模したランチャー系武器「ジョーカージャミング」からのミサイルの超連射。 右腕の未来の強者を模したバスター系武器「ゴッデスレイジ」から放たれる放射状のレーザー。 左腕の未来の強者を模したバスター系武器「ジュノンジャッジ」からの超巨大な火球。 右膝の異界の強者を模したマシンガン系武器「ファングハザード」から連射される牙のような弾丸。 左膝の異界の強者を模したマシンガン系武器「フェザーストーム」から連射される羽のような弾丸。 首から尾にかけて背面から生えた未来の強者を模したセイバー系武器「ウロボロスペイン」はボディから切り離し遠隔操作が可能。 尾の先端の未来の強者を模したセイバー系武器「ダークジャスティス」からの剣技。 いずれの威力もこれまでの敵を遥かに超越し、尚且つ回避が極めて困難であり 更にはヘルシャフト自身がまるでこちらの行動が事前に分かるかのようにハンター勢の行動に対し最も的確な対処を下していく。 結果瞬く間にこの場の全員がパワーアップに加え一部の者はハイパーモードを発動しているにも関わらず大ダメージを負い本殿は瓦礫の山と化した。 「バリアやら回復やらでしぶとく粘りおるが、それもいつまで持つかな…? このガンツェンヴァッフェの武器はボディ各部の兵装だけでなくこの巨体とパワーもそれに入るのだよ…ムン!!」 そう言ってヘルシャフトはガンツェンヴァッフェの腕を烈火殿の付近の地面に突っ込んだ。 その直後何とガンツェンヴァッフェの剛腕は烈火殿全体を抉り出し高々と真上に持ち上げたのだった。 「喰らえ!!」 ブンッ!!! これに対しある者は瞬間移動で回避し、またある者は防御に徹し、またある者は己の技で迎え撃とうとする。 そんな中… 「こりゃ大技の出し惜しみをしている場合じゃないな…行け!!」 ブゥン… ヴィアは空間に扉を出現させ、その中から過去のイレギュラーの内特に巨大でパワーのあるタイプのものを大量に出現させ直撃を防いだ。 「物量攻撃はこちらにもあるぞ…ドラグリョーシカ!!」 パカッ! ガンツェンヴァッフェの股のハッチが開くとそこから次々と大型メカニロイドが出現する。 これらのメカニロイドも普通で考えたら大型でありその中からは次々と中型メカニロイドが出現する。 その中型メカニロイドも更に内部から小型のメカニロイドを出現させていく。 これらのメカニロイドはヴィアが呼び出したイレギュラー並びにハンター勢に牙を剥く。 「まるでネズミじゃん、でもメカニロイドって事はアタックゲージ稼ぎ放題だね!」 アクセルがメカニロイドを攻撃し始めるが… 「甘いぞ、自爆せよ!!」 ボガンボガンボガン!!! 「うわっ!!」 ヘルシャフトの号令に合わせ次々と自爆していくメカニロイド達。 メカニロイド達に内蔵された爆弾は強力でハンター勢はその爆発でもダメージを喰らう。 「俺にも物量攻撃はあるぜ…躯装破!!」 ブゥン!! ゼロはその場の瓦礫でフォムライザー戦の時よりも巨大な剣を生成しガンツェンヴァッフェに斬りかかる。 「受けて立とう…ジェラシーアーツ!!」 ガキンガキンガキンガキンガキン!!! ガンツェンヴァッフェが背を向けると尾を自在に操りつつ先端のダークジャスティスでゼロの大剣との斬り合いを開始。 その都度大地が震撼し剣同士の激突から発生する突風は周辺の瓦礫を切り刻んでいく。 それも暫くするとゼロの奮闘虚しくパワー負けしたゼロが遥か彼方に吹っ飛ばされていった。 「ゼロ!己…滅斬!!」 「他人の心配より…自分の心配をするんだな…ヤコブレス!!」 「ぬううう…!!」 アイリスが怒りとともにガンツェンヴァッフェに斬りかかるが口内のヤコブエボリューションから放たれるレーザーで返り討ちに遭う。 それ以降もハンター勢はガンツェンヴァッフェの猛攻に曝されるも必死に食い下がる。 彼等もパワーアップしている事に加えバリアや回復などで辛うじて攻撃を持ち堪えたり 経験を活かした巧みな戦術やコンビネーション、何より負ける訳にはいかないという信念に突き動かされていたからであった。 加えて如何に頑丈なガンツェンヴァッフェとて全てがその頑丈さの原因たる超合金で出来ている訳でもなく 各武器が装備されている箇所など装甲以外の部分は装甲よりも耐久性に劣りハンター勢はそこを狙って攻撃していく。 とはいえそれらの弱点の防御力もとんでもなく高くガンツェンヴァッフェの攻撃の勢いは全く衰えない為ハンター勢は次第に劣勢に追い込まれていった。 皆がどう考えても戦闘など不可能であろうボロ雑巾のような状態になった時…トラストは決意する。 「…気合と…根性だけじゃ…限界が…あるッスね…今こそ…この力を…使う時っス…!! ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!」 バリバリバリバリバリバリ!!!!!! トラストは遂に禁断の力を開放しその姿を変貌させた。 ヘルメットと腕部、脚部のパーツの色が赤から黒に変わりそれ以外の部分は白をメインとしたカラーリングとなり 瞳は炎のようになり肩から肘、肘から手首に伸びるチューブは内部に収納され右手にはレーザー砲を内蔵したグローブが装着されている。 そして全体からはその闘魂が滲み出ている。 その名は「レジェンドピッチャー」。 レジェンドピッチャーを発動したトラストは大きく振りかぶるとグローブのレーザー砲のエネルギーをチャージさせる。 「レーザーピッチ!!!!!」 ヒューン…ドゴォ!!!! トラストはレーザーを伴った超剛速球をガンツェンヴァッフェの弱点に当てる。 確かな手応えがあった。 「グウウウウ…肩が…腰が…全身が軋むッス…!何発も投げられるものじゃないっスが…自分の全てを出し尽くすまで…やってやるッス…!!」 強烈な力を発揮する分その身に降りかかる負荷は大きかった。 そしてトラストが再度レーザーピッチを放とうとした時… 「それしきの力でこのガンツェンヴァッフェの牙城を崩せると思ったか?チャージショット!!!」 ガンツェンヴァッフェの胸部のランファントアイからチャージショットが放たれる。 それは目が眩むほどの光芒でトラストを飲み込もうとしていたが… 「…迷わない…」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… トラストに続きフラジールも隠されたハイパーモード「ミゼラブルプリマ」を発動。 外見は露出の多いバレリーナのようであり所々にギザギザの装飾が見られる。 フラジールは飛び出すとトラストを抱えチャージショットの着弾の寸前にこれを回避する。 直後フラジールは振り返り凍り付くような視線をヘルシャフトに向ける。 「斬る…斬る…斬る斬る斬る斬るキルキルキルキルキルキルキル…」 そしてひたすら繰り返し呟きながらガンツェンヴァッフェに接近し、飛び移った。 タタタタタタタタタタタ…ズババババババババババババ!!!!!!!!!!! ガンツェンヴァッフェのボディの上を駆け回りながら兵装の地点に到達すると攻撃を繰り出していくフラジール。 その攻撃は衣装のギザギザの部分を飛ばしたり連続蹴りを放ったりといったものでいずれも鋭利な刃物のようである。 「己!」 その際ヘルシャフトが反撃しようものならバレリーナのようなジャンプで回避していく。 「…吞み込まれない…」 フラジールはこの時自身に湧き上がる破壊衝動、殺戮衝動を懸命に制御し、それらを敵のみに向けようと足掻きつつ攻撃を繰り返していく。 そんな状態が暫し続くとガンツェンヴァッフェの兵装が1つ、また1つと破壊されていき体勢を立て直したトラストが再度レーザーピッチを決めまた1つの兵装を破壊した。 「坊やとお嬢ちゃんに続くぞ…スピアトリックチャージショット!」 ズバシュッ!!! ダイナモがアローバスターでさらに1つの兵装を破壊。 この時ガンツェンヴァッフェには既に何重ものデバフがかけられており、また破壊された兵装からは攻撃が来ない為に死角となるというヘルシャフトからすると悪循環に陥っていった。 やがてゼロも戻ってきて通常時は口の中に隠されているヤコブエボリューションを除く全てのガンツェンヴァッフェの兵装が破壊された。 「思い上がるでないわ!!このパワーもガンツェンヴァッフェの武器と言ったであろう!! 如何に貴様等とてこの重量には耐えられまい…フン!!フン!!フン!!」 グシャッ!!グシャッ!!グシャ!! ヘルシャフトの怒号が響くと同時にガンツェンヴァッフェは瓦礫というにはあまりに巨大な要塞の残骸を持ち上げてはハンター勢をその下敷きにしていく。 「回復もバリアもエネルギーを消耗するし身動きが取れねばどうしようもあるまい… 最終的に待っているのは圧死だ… この俺がわざわざ貴様等如きの為に墓標を立ててやったのだ…感謝するがいい… ハァーッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!」 高笑いをするヘルシャフトを余所に瓦礫の後ろの物陰では… 「ヤバいってヤバいって…!!こうなったらもう、あの手を使うしかないわよ!!」 「僕も賛成だよ、やっぱあんなの倒せっこないよ…!!」 必死にエラトネールに何かを訴えるドロワクレールとアンジュピトール。 エラトネール3姉弟はアンジュピトールが咄嗟に出現させた扉に入り先程の攻撃を回避していたのだった。 「そうネ…これは気持ちの問題だけじゃなくて…気をしっかり持たないと心が呑み込まれるリスクがあるけれど…覚悟はいいかしラ…?」 エラトネールは2人に確認する。 「このままじゃ負けるだけだし、もう背に腹は代えられないわ…やってやる!!」 「僕も正直ヤだけど、しょうがないよ…」 「ドロワ…アンジュ…覚悟は伝わったワ…それじゃあ…いきましょウ…」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!! エラトネールが言い終えた直後、大地が震撼した。 「何!?」 ヘルシャフトがそれに警戒していると瓦礫の背後で光が発生し、光の中から3つの巨大な影が現れた。 光が収まり姿を現したそれらはシグマガンナー、ファイナルシグマW、ヘルシグマだった。 しかも事件当時は不完全だったファイナルシグマWとヘルシグマは完全な姿であり、 従来は壁と一体化しているはずのシグマガンナーは人型の下半身が付いている。 「(先程のようなヴィアの召喚した過去のイレギュラーか…?事件当時とは姿が異なるようだが…)」 ヘルシャフトがそう考えた時だった。 「あぁ…不快だワ…」 「こんな姿にならなきゃいけないなんて、ムカつくムカつくムカつく~っ!!」 「大きくなれる事は悪くないんだけどね~」 ヘルシグマはエラトネールが、ファイナルシグマWはアンジュピトールが、シグマガンナーはドロワクレールが変身した姿だった。 声はシグマのそれに変わっているが口調は従来のままである。 「ほう、どこの馬の骨とも分からぬ女と小娘と小僧のほうであったか…過去の亡霊を仕掛けてくるとはまるで我々のような事をするではないか」 不敵に言い放つヘルシャフトにエラトネールは応じる。 「これはウイルスとディープログの技術を応用したもノ… 只の実物の再現だけではなく私達本来の能力も使う事が出来るノ…さあ、遊んであげようかしラ…」 エラトネールの説明の通りシグマ第2形態に変身した3人はその状態で自分本来の技も使える。 威力と攻撃範囲が格段に上昇した他にエラトネールのルヴニールは飛ばす「精霊」がヘルシグマの呼び出す雑魚に、 アンジュピトールのソワレフレアは光弾がヘルシグマの発生させる紫のキューブに、 ドロワクレールのモンデザミは召喚する「友達」がシグマガンナーの3色のオブジェに変わっているという特徴もある。 そしてファイナルシグマWの巨体によるマチネトロワがガンツェンヴァッフェに炸裂しガンツェンヴァッフェが一瞬怯んだ隙に エラトネールとドロワクレールは地面に突き刺さった瓦礫をどけていく。 瓦礫の下ではアクセル、トラスト、マッシモ、ダイナモが瀕死の重傷を負っておりマリノは咄嗟にシナモンを抱え地面の割れ目に避難したものの身動きが取れなくなっておりフラジールは直前にトラストに突き飛ばされた結果軽症で済んでいた。 また瓦礫が撤去されている間エックス、ゼロ、アイリス、ヴィアは大ダメージを負ったものの自力で脱出した。 「わわ、大変です!…お願い…!」 瓦礫から解放され自由の身になったシナモンがこの場の全員の体力を回復させる。 そして現在のエラトネール3姉弟を目にしたハンター勢は従来の姿の彼女達が見当たらない事と 自分達を助けてくれた事から眼前の3体のシグマ達の正体を察する。 「ヒィィィィィィケツ顎ハゲケツ顎ハゲケツ顎ハゲ!!!!!!」 言うまでもなく3体の「シグマ」に加え辺り一辺のシグマの顔をした無数の雑魚を目にしたセンチピーダは発狂しそうになる。 「完全になった過去のシグマ第2形態が同時に3体か…従来で考えれば絶望的だがこちらの味方となると何と頼もしい事か… シグマに頼もしさを感じることなど奴が現役ハンターだった頃以来だろうな…」 エックスはどこか悲し気に呟く。 「一番小さい奴はレプリフォース大戦の時の奴か…」 「一番デカい奴はユーラシアの時の奴、ね…」 「それで骸骨みたいな奴はナイトメア事件の時の奴だな…」 過去の事件を思い出すアイリス、ダイナモ、ゼロはそれぞれ表情を曇らせる。 「オエ~、見た目と口調が合ってなさすぎだよぉ!!」 一方でアクセルは現在の3人の見た目とのギャップにドン引きする。 「ええい、今の貴様等は『超えるべき過去』だ!このガンツェンヴァッフェのパワーには適うまい!!!」 ドガッ!!バキッ!!ゲシッ!! 「く…」「きゃっ!?」「うわぁっ!!」 しかし流石のシグマ第2形態でもパワーではガンツェンヴァッフェに一歩及ばず殴り飛ばされ、蹴り飛ばされ、投げ飛ばされていく。 「確かに…1人ずつでは厳しいわネ…でも3人同時ならどうかしラ…?」 エラトネールがそう言うや否や3姉弟は体勢を立て直し連携プレーを開始。 その連携は見事なもので抜群のコンビネーションである。 現在の3人のパワーの合計はガンツェンヴァッフェに及ばぬものの手間取らせることぐらいは出来る。 やがて3姉弟は各々がガンツェンヴァッフェの箇所に関節技を決める。 完全に動きを封じられた訳ではないがガンツェンヴァッフェの動きはかなり鈍っている。 「離せ!離さんかあああああああああ!!!!!!このガラクタ人形共があああああ!!!!!!!!!!」 かつての議会の場での屈辱を思い出し激昂するヘルシャフト。 「この状況は…行ける!行けるぞ!!」 エックス、ゼロ、アクセル、トラスト、フラジールが一人、また1人とガンツェンヴァッフェに接近し始める。 その意図をエラトネール3姉弟はすぐ察した。 そして… 「「「「「「「ダブルアタック!!!!!!!!」」」」」」」 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド ドド!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 総勢14人による7発分のダブルアタックが一斉に発動。 ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!! 「これで終わりと思うなああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」 結果ガンツェンヴァッフェは大破した。 爆音とヘルシャフトの怒号を同時に響かせながら… 「ゲームセットォーッ!!!!!」 トラストが勝利の雄叫びを上げるも… 「これで終わりと思うなと言っただろう…?」 上空からヘルシャフトの声がする。 見上げるとそこには頭部の上半分だけになり従来は口の中に隠されたヤコブエボリューションが露わになったガンツェンヴァッフェが浮かんでいた。 しかも装甲が剥がれ操縦席のヘルシャフトの姿も露わになっている。 その姿はさながら鳥や戦闘機のようである。 「やはり…そうなる気がしていたよ…」 何故かこの事態に納得するエックス。 「フフフフフ…ガンツェンヴァッフェのパワーだけにかまける程俺は無策ではないぞ… お次は地獄の航空ショーをお披露目しよう…見物料は貴様等の命だ! コプフヴァッフェ、発進!!!」 キー―――――――ン!!!!!! ヘルシャフトの号令と共にガンツェンヴァッフェ、改めコプフヴァッフェは驚異的な速度で飛行を開始。 そして… ガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!! 「う…!」「キャアッ!!」「わあっ!!!」 その凄まじい速度で飛び回りながらエラトネール3姉弟に何度も何度も体当たりを浴びせて全身に重篤なダメージを与えていく。 「フハハハハハハハハ!!パワーで押さえつけられぬならば、スピードではどうかな!? そのデカい図体では小回りは効くまい!!!」 高笑いをしつつコプフヴァッフェで3姉弟を滅多打ちにするヘルシャフト。 あっと言う間に3姉弟は変身が解除されダウンしてしまう。 これはサブタンク等の回復アイテム、シナモンのエンジェリックエイド等の回復技、ナース系サイバーエルフ等と言った通常の手段では体力を回復させることができない状態である。 こうなるとこの場で戦線復帰させる方法は2つしかない。 1つはリバイブゲージに変わったアタックゲージを満タンにする事。 もう1つは使い捨てアイテム「リブート」及び「バックアップ」の使用である。 前者はコプフヴァッフェの動きと攻撃の激しさ故に現実的ではない。 それ故必然的に後者が選ばれる。 「ならば…これだ!」 エックスはファルコンアーマーの機能を選択し上空に上昇。 「この力…今使わずして…いつ使う!?」 アイリスは再度旧戦闘形態の要素を兼ね備えた形態となる。 「確かに今しか無ぇな!俺も行くぜ!!」 ゼロはアブソリュートゼロを発動。 「フーんだ、これなら元の姿の方が相性いいもんね~だ!」 アンジュピトールは元の姿のままコプフヴァッフェを迎え撃つ。 「僕だって…!」 アクセルはホワイトアクセルを発動し時間無制限のホバリングで対応。 「キルキルキルキルキルキル…」 フラジールはまるで空中を足場にして踊るかのように上空に向かい躍動する。 ガキン!ガキン!ガキキキキキキキキキキ…!!!! そしてそのまま激しい空中戦にもつれ込む。 ヘルシャフトは空中で自身に挑みかかるハンター勢を相手取りながらある時不敵に笑う。 「地を這う貴様等も忘れておらんぞ!チェイサークリーパー!!」 ドドドドッ! コプフヴァッフェの鳥の目に当たる部分、即ちガンツェンヴァッフェの鼻の穴に当たる部分と ガンツェンヴァッフェの目に当たる部分の計4か所から光弾が出現し、地上から援護攻撃を行うハンター勢に向けて放たれる。 これらの光弾は標的に向かって直進し、2回まで方向転換を行い地面に着弾すると分裂して地を這う。 「トルネードスィング!!」 ギュルルルルルルルルルルルルルルル… トラストはバットを構え体を高速で回転させ自身を中心に竜巻を発生させこれらの光弾を弾き返す。 ブォンッ… 「ム…」 この時真上にいたコプフヴァッフェは風に飛ばされ一瞬制御が効かなくなるが、すぐ持ち直してワープして消えた。 しかしトラストはこの一瞬を見逃さなかった。 次の瞬間コプフヴァッフェが別の場所に出現し再度チェイサークリーパーの光弾を出現させるが… 「レーザーピッチ!!」 ドゴォ!!! 「ぐうう…!!」 コプフヴァッフェは大きくのけぞりガンツェンヴァッフェ戦の時以上に出応えがあった。 そしてコプフヴァッフェは光弾を放つ事なく消えた。 「へー、あんな距離で…それもほんの一瞬の判断で当てちゃうなんてねぇ…」 カピラーバ戦の時にその場に居合わせたアクセルが感心する。 「この姿になると守備範囲が広くなるみたいッスね。副作用としては別の守備範囲も広くなってしまう事… 今なら赤ちゃんからお婆ちゃんまで行ける気がするッス!!!」 キリっとした顔で豪語するトラスト。 「貴様の性癖など…どうでもいいわぁーっ!!!!スピニングストライク!!!」 ギュイ―ン!!!!!! するとトラストの近くに現れたコプフヴァッフェがエネルギーを纏い高速回転しながら突っ込んできた。 「弾き返してやるッス!トルネードスィング!!!!!!!!」 以前よりも重量が大幅に減った為強い衝撃や風圧で御せると踏んだトラストはこれをトルネードスィングで迎え撃つ。 しかし… バチチチチチチチチ…ガッ!!!! 一瞬衝突したかと思うとトラストは激しく吹っ飛ばされ全身にダメージを負う。 「ぐああああああああああ!!!!!!」 ズザザザザザザザザザザザザザ… 地面に擦り付けられ滑り込んでいくトラストだったがやがて体制を立て直し立ち上がる。 この間近くにいた仲間が反撃しようとするもののまたもコプフヴァッフェは姿を消す。 その後もコプフヴァッフェは上空、地上にいるハンター勢に猛攻を仕掛ける。 ガンツェンヴァッフェ戦の時点から回復アイテムやナース系エルフを使用してきたハンター達であったがこの攻撃の激しさの為にそれもやがて尽きてくる。 しかも只でさえコプフヴァッフェの技の数々は威力が高い事に加えワープした標的の付近でルミネの即死技を発動する事も織り交ぜて来るため リブートとバックアップも尽きてきて、リバイブゲージを溜めるのも依然困難である。 こうした事態から一度に戦える者の人数は次第に減っていきジリ貧状態に陥っていく。 しかしハンター達の抵抗も凄まじい。 コプフヴァッフェに絶えずデバフをかけ続け、またフラジールがメーア戦の結末を活かし周囲の瓦礫に自らの放った刃を刺しておいた結果地上にいる者も跳弾を駆使して命中率を上げていく。 そんな激しい戦いの中トラストはある法則に気付きつつあった。 「サーキュラーターン…」 上空にてチェイサークリーパーを発動させるコプフヴァッフェに対しフラジールが高速回転し竜巻を発生させながら迎え撃とうとするとコプフヴァッフェは風の影響で一瞬コントロールを失い攻撃を中断する。 しかし体当たり系の技の時はそれは通じず外からの攻撃で勢いを殺す事はできない。 一方でレーザーや光弾、即死技を放つ時は移動が出来ない。 これらの法則を踏まえトラストは活路を見出そうとしていた。 その後も激しい技の応酬が続く。 回復アイテムや復活アイテム、ナース系サイバーエルフはこの戦闘で底を突き次第に戦況は厳しくなっていく。 「諦めない…!」 「勝負は…9回裏まで分からないッス!!」 状況的に明らかに追い詰められているにも関わらず懸命に食らいつくハンター達。 「(しかし何という執念…何というしぶとさよ…叩いても叩いても何度でも立ち上がりおって…! 戦況は依然こちらが優勢…貴様等の敗北は火を見るより明らかではないか…! にも拘わらずどいつもこいつも絶望せず立ち向かいおる…!! 特にエックスと…トラストとかいう小僧が顕著だな… これは皆がエックスに『感染』しておると言うのか…!?言わば…『エックスウイルス』!!!)」 ヘルシャフトはどんなに痛めつけても絶望せず立ち向かってくるハンター達に苛立ちを覚え始める。 そんな中コプフヴァッフェへの攻撃の勢いを強める者が1人。 アイリスである。 「貴様のような輩に…世界を明け渡してなるものかああああ!!!!!!!!」 時間切れに対する焦りか、周囲の奮闘に鼓舞されたのか、それとも囮作戦か… その勢いはブリッツ戦でブリッツを追い詰めた時より一層激しさを増しコプフヴァッフェでも手を焼く程である。 「はああああああああ!!!!!!!!!」 シュバアアアアアアアアアアアアアアアア… アイリスはバスターから極太レーザーを放つ。 「ええい鬱陶しい!そんなに相手にして欲しいならば受けて立とう!!ヤコブレス!!!」 ビシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア… ヘルシャフトは怒りヤコブエボリューションからのレーザーでこれを迎え撃つ。 そしてレーザー同士の衝突となったが次第にヘルシャフト側のレーザーが押していく。 やがてアイリスのレーザーに押し勝ったヤコブエボリューションのレーザーがアイリスを飲み込まんとした時だった。 パッ! アイリスの合体が解け元の2人の姿に戻ったのだがこの時両者の位置はレーザーの両脇に移動しておそりその状態で落下。 その為コプフヴァッフェが誰もいない方向にレーザーを放っている事態が発生し、尚且つヘルシャフトが状況を飲み込むまでの間が発生する。 その瞬間アイリスの意図を悟ったかのようにトラストとフラジールが配置に付いた。 「「ツインツイスター!!!!!!!!!!」」 ヒュゴォォォォォォォォォォォ… 2人はトラストのフランメ戦での経験を活かし1人でもコプフヴァッフェのコントロールを奪った竜巻を発する技を発動。 結果それぞれが1人で発した竜巻よりも一層強大な竜巻が発生しコプフヴァッフェを捕らえる。 ヒュルルルルルルルル… 「ぐ…コントロールが…コントロールが効かん…!!」 ゼロが落下するアイリスを空中で素早くキャッチしカーネルが三点着地をする中 上空でぐるぐる回りながら落ちていくコプフヴァッフェをトラストは真っ直ぐ見据える。 そして… 「レーザーピッチ!!!!!!!」 極限まで振りかぶり渾身の力でレーザーピッチを放った。 「チャージショット!」 「ベルセルクチャージ!」 「ルヴニール…」 「モンデザミ!」 「ソワレフレア!」 他のメンバーもそれに続き落ちていくコプフヴァッフェ目がけて遠距離攻撃を繰り出していく。 「まさか…コプフヴァッフェでも勝てぬというのか…これが…レプリロイド共の…いや、『エックスウイルス』の力…か… 己…己…己えええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド… チュドーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! コプフヴァッフェは上空で大破した。

第二十話「延長戦」

ヒュルルルルルルル… ガッ!! コプフヴァッフェが大破して暫くすると上空からヤコブエボリューションの残骸が落ちてきて、地面に突き刺さった。 「墓標…か…」 エックスは悲し気に呟く。 「思えば哀れな奴だったのかもしれない…なまじ『力』が、それから人間としての驕りとレプリロイドへの不信があったばかりに… 一歩間違えれば俺も…いや、そんな事は無い…俺には…この信じてくれる友がいるから!!」 周囲を見渡しながら言い放つエックス。 その時だった。 「信じてくれる友がいるから…俺のようにはならん、か?」 上空から声がする。 「「「「!!!!!!!」」」」 皆が目線を上にやるとそこにはパラシュートで宙に浮くヘルシャフトが見下ろしていた。 「いやはや、ガンツェンヴァッフェ、そしてコプフヴァッフェを以ってしても貴様等を倒せんとはな…」 コプフヴァッフェを失い明らかに詰んでいるヘルシャフトだがその口調にはどこか余裕がある。 「ご自慢のマシンはもうお釈迦だぜ?貴様はもう詰みだ!」 ゼロが言い放つがそれを無視してヘルシャフトは続ける。 「人間は力では貴様等レプリロイドに敵わん。肉体面で天才、神童と持てはやされた俺でも、だ。 そこで代わりにサイバーエルフで手懐けたレプリロイド共を戦わせ、それで御せぬなら 機械に乗り込む事で貴様等に挑んだが…駄目だったよ… やはり人間として貴様等に挑むのは無謀だったようだな… ………………………………」 暫し沈黙した後、ヘルシャフトは声高らかに言い放つ。 「俺は人間を辞めるぞ、レプリロイド共おおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」 カチッ 言い終えるとヘルシャフトは手元のスイッチを押す。 するとヘルシャフトに自身の服に仕込まれた特殊な注射器からエルフ細胞が注入される。 彼が持ち出した貴重品はエルフ細胞だったのだ。 その結果… 「がああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ビクン!ビクン!ビクン! ヘルシャフトは白目を剥き絶叫し激しく痙攣し出した。 そしてそのまま動かなくなった。 「暴投っスね…」 「…自業自得…」 「ハッ、どっちが分不相応だか…」 パラシュートで浮いたままうなだれて沈黙するヘルシャフトを見てトラスト、フラジール、ヴィアを始めこの場の面々は呆れる。 しかし次の瞬間… カッ!ズズズズズズズズズズズズズ… ヘルシャフトが全身から強烈な光と突風を放ち大地が震撼した。 そして光と風と震動が収まった時、ヘルシャフトがいた場所には異形の存在が佇んでいた。 その存在は顔と髪型、髭こそヘルシャフトのそれだったがただでさえ大柄な体格が2回りほど肥大化し。 顔は真っ白で耳は長く、黒い眼球に赤い瞳、額からは5本の角が生え金色の全身の至る所に 顔の目と同じ色の目玉があり赤い瞳がギョロギョロと動き背中には6枚の翼を生やしている。 「フフフフフフ…ハァーハッハッハッハッハ!!!!!!素晴らしい!!素晴らしいぞ!!! 俺は…今正に万物の頂点に君臨したのだ!! 人間としてレプリロイドに挑んだヘルシャフトという男は死んだ!! これより俺は自らをカイゼルシャフトと名乗る!!」 ヘルシャフト、改めカイゼルシャフトは大笑いをして言う。 「おお、何と神々しい…!」 その頃地下シェルターではこの様子をメタシャングリラ構成員達がモニターで見ていた。 尚、本殿のカメラは全て破壊された為映像の受信はハッカー系エルフで代用している。 地上では… 「…言質取ったよ。自分で人間じゃないって認めちゃったね。じゃ遠慮なくイレギュラーとして始末させて貰うね」 気圧されつつアクセルが啖呵を切る。 それにカイゼルシャフトは見下したように言う。 「馬鹿め、今の俺は人間ごときよりも上位の存在よ、貴様等が盾突くなど一層おこがましいわ!!」 「自分には単なる怪物にしか見えないッス…レーザーピッチ!!!」 トラストがカイゼルシャフトにレーザーピッチを繰り出すが… バシッ! カイゼルシャフトはニヤつきながらそれを素手で受け止めた。 「野球、か…丁度いい、航空ショーがお気に召さなかったならボール遊びと行こうではないか」 シュッ! カイゼルシャフトはそう言って手の平に地球の形をした光る球体を出現させた。 「これはサイバーエルフのエネルギーで作った限りなく実体に近いエネルギー体『サイバースフィア』よ。 ともあれ俺は学生時代ありとあらゆるスポーツでタイトルを獲得した実績があってな、今ならそれが戦闘でも応用出来る訳だ。 それでは死合開始と行こうではないか!!」 ビュッ!! カイゼルシャフトは凄まじい剛速球をトラスト目がけて投げつけた。 「速っ!!」 トラストはこれをスライディングで回避した。 次の瞬間カイゼルシャフトはサイバースフィアの間近にワープして両手でそれを掴んだ。 そして… 「コングダンク!!」 そのままカイゼルシャフトは両手でサイバースフィアをトラストに叩きつけようとした。 ガッ!! これをトラストはバットで受け止めたがすぐに力負けしそうになる。 そこでトラストが横に移動しサイバースフィアが大地に叩きつけられると… ドォン!!!!!!!!!!! 大地が激しく揺れ巨大なクレーターと突風が発生する。 その威力に息を呑むハンター勢。 「バスケットボールだけではないぞ…ツイスターサーブ!!」 次にカイゼルシャフトはサイバースフィアと同じくサイバーエルフのエネルギーで具現化したテニスラケットを出現させてこれを用いてサイバースフィアを打つ。 「む…は…」 この超剛速球をマッシモが喰らってしまい、結果彼はダウンした。 「このサイバースフィアには即死効果があるぞ!尤も、直撃のみの話ではあるが実質防ぎようは無いも同然… まだまだ行くぞ…ライズインパクト!!!!」 ガッ!! 「ぐはっ…!!」 次にカイゼルシャフトはゴルフクラブを具現化させてサイバースフィアを打ちカーネルをダウンさせた。 「マチネトロワ!!」 キーン!! アンジュピトールがマチネトロワで突っ込むも… 「デンジャータックル!!!」 ドガッ!!!! カイゼルシャフトはサイバースフィアを抱えラグビーのタックルで応戦する。 ブリッツ、そしてコプフヴァッフェの体当たりを遥かに凌ぐ威力のこの技を喰らったアンジュピトールは全身が砕けダウン。 「悪夢だ…」 これらは全て瞬く間の出来事でありエックスは戦慄するがすぐに気を取り直す。 そして… 「ファーストアタック!!」 バシッ!! カイゼルシャフトがバレーのスパイクをエックスに見舞おうとした時だった。 エックスはこれを回避する。 するとカイゼルシャフトがサイバースフィアの位置にワープした。 直後カイゼルシャフトがエックスにサイバースフィアを投げつけようとするも… 「チャージショット!!」 これを読んでいたエックスがダイヴバスターのチャージショットを見舞う。 それと同時にダイヴリングも同時に発動しカイゼルシャフトに連続ダメージを与える。 「う…うう…」 するとリバイブゲージが溜まりこの時点でエックスの一番近くにいたマッシモが復活した。 「アイテムは尽きたが…希望はまだ尽きてはいない!」 「ほんの少し寿命が延びただけに過ぎん!」 エックスはそういい放つもカイゼルシャフトは即座に距離を取って鼻で笑う。 「デッドドッヂ!!」 そしてカイゼルシャフトが再度剛速球を投げつけた時だった。 「ハッ、頭数なら俺がどうにかしてやらあ!こいつ等が犠牲になっても痛くも痒くもないからなあ!!」 ヴゥン… ヴィアが過去のイレギュラーを大量に召喚した。 「馬鹿め、この投球は跳弾するぞ!!」 ガガガガガガガガガガ!!!! 「わ!」「うお!」「きゃっ!」 カイゼルシャフトの言葉の通りヴィアの召喚したイレギュラーに当たった球が跳ね返り他の召喚イレギュラーや壁や床に滅茶苦茶に跳ね返る。 「まずい!」 ヴィアは召喚イレギュラーを引っ込めるとサイバースフィアをキャッチし、カイゼルシャフトに投げつけるも カイゼルシャフトはサイバースフィアを手元にワープさせて無効化する。 「躯装破!!」 そんな時ゼロがガンツェンヴァッフェ並びにコプフヴァッフェの残骸で作った大剣で斬りかかるも カイゼルシャフトは具現化したバットで応戦し激しい打ち合いの果てにゼロを弾き飛ばす。 「チッ、本当に人間捨ててやがる…」 吹っ飛ばされたゼロが起き上がりながら吐き捨てるように言う。 「奴はボールの位置にワープする事とボールを自分の位置にワープさせる事で自分で自分にパスをする事が出来るって事ッスね…ならば…」 トラストはカイゼルシャフトの技の法則を推察し対策を講じ始める。 そして… 「いいッスか…奴はボールの位置にワープしたり逆にボールを自分の手元にワープさせる事で自分で自分にパスをする事が出来る… 即ち各々の位置に奴が配置についていると考えた方がいいッス… 加えて見た限りでは奴がワープや具現化を行う時は集中力が必要で発動まで若干間があるッス。 奴の攻撃を止めたり避けたりは正直キツいッスがこれらを踏まえれば勝機は見えて来るッス…という訳で…」 レジェンドピッチャー発動中で視野が広がったトラストはこの場の一同に声をかけ作戦を立案する。 そして各自を配置につけさせてカイゼルシャフトを迎え撃つ。 するとその結果ハンター勢の被弾率が下がりカイゼルシャフトの被弾率が上がり リバイブゲージが溜まってカーネルとアンジュピトールも復活する。 デザイアゲージも溜まっておりカーネルとアイリスは再び合体。 「このトラストとかいう小僧…監督としての才能もあるというのか… エックス、ゼロ、アクセルばかりに目が行っていたがとんだ伏兵が潜んでおったな…ならば!!」 シュッ! カイゼルシャフトは手元にもう1つのサイバースフィアを出現させた。 「これからは二刀流で行くぞ…貴様等に全て捌ききれるかな…!?」 ビュッ!ビュッ! カイゼルシャフトはボールを2つにした事で戦いの流れを自分に傾け始める。 その結果一人、また1人とダウンしていくが… 「キルキルキルキルキル…」 ガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!! フラジールが音もなくカイゼルシャフトの背後に現れ激しい連続攻撃を繰り出しリバイブゲージを溜めて仲間を復活させる。 「この小娘もガンツェンヴァッフェの時から感じておったがS級の称号は伊達ではないという事か…!」 多大なリスクを冒して禁断の力を開放したトラストとフラジールにカイゼルシャフトは手を焼き始める。 そんな中… ドゴッ!! 「あうっ…!!」 遂にシナモンがサイバースフィアの直撃を喰らいダウンしてしまった。 回復アイテムが尽きた今ハンター勢はスポーツ用具や素手による攻撃等サイバースフィアの直撃以外のカイゼルシャフトの攻撃によるダメージを シナモンの回復技でしのいでいたのだがそれが絶たれると一気に戦況が不利になる。 自らの体力を回復させる技を持たない者は特に窮地に追いやられたのだがその闘志は消えていない。 「負ける…訳には行かない…!」 「絶対勝つ!」 気が付くと一部の者を除きハンター勢の面々もトラストのレジェンドピッチャーが持つ何というか暑苦しい熱気を帯び始める。 「これも…『エックスウイルス』の効果だというのか…俺は万物の頂点だ…他者になんぞ退かぬ!媚びぬ!顧みぬううううう!!!!!!!!!!」 自分もトラスト達と同様のオーラを纏っている事にカイゼルシャフトは気付いていない。 しかしその時予期せぬできごとが… 「うっ…!」 突如カイゼルシャフトが鼻から出血した。 それもハンター勢の攻撃によるダメージではなく、勝手に出た物である。 「間隔を置かぬエルフ細胞の接種による代償か…!?この分だと力を使いすぎるとこの身体は持たんだろう… しかし!これで一層負ける訳には行かなくなった…!! 肉体の損傷は後でどうにかすればいいが最悪奴等との戦いで俺自身は果てる代わりに確固たる伝説を残すのも一興だろう…!!」 「身を削って戦っているのは…こっちも一緒ッスよ…レーザーピッチ!!」 「バレットライナー!!」 お互いにボロボロの体で渾身の投球を放つトラストとカイゼルシャフト。 それ以降両陣営が消耗すれば消耗する程それに反比例して戦いは白熱していく。 ハンターベースにて… 「ハンター達、そしてエラトネール達も持ち堪えてはくれておるがこの『カイゼルシャフト』は強力過ぎる… 厳しいがこのままでは全滅も時間の問題じゃろう…」 バイルが真剣な様子で言う。 「そんな…このまま指をくわえて見ているしかないんですか!?」 リコが問う。 「打つ手が無い訳ではない…ディープログ、及びウラディープログのデータを攻撃エネルギーに変換したプログラムを現場に送り込む…これがワシ等に残された最後の切り札じゃ。 ほれ、ワシの言う通りに行動するんじゃ!」 バイルは指示を出し始める。 一方メタシャングリラ本拠地にて… 肉体の負担を切っ掛けに一気に勢いづいたカイゼルシャフトの猛攻にハンター勢は1人、また1人とダウンし、 現時点で立っているのはエックス、ゼロ、トラスト、ヴィア、エラトネールのみとなっていた。 その時各々に宿る元メタシャングリラのサイバーエルフが外に姿を現す。 「フッ、こうなったらもうあれをやるしかないようだな…」 ブリッツが意を決して奥の手を使う事を提案。 「俺達の真の能力、自軍のサイバーエルフとの融合、だな」 フランメが頷く。 「自分が自分でなくなるリスクがあるが、敗北よりはまだいい…」 メーアもそれに続く。 「皆、覚悟は出来ているか?」 シャッテンが部下たちに問う。他の4コマンダーもそれに続く。 「オラもやってみたかったズラ!」 「あたぼうですぜ!!」 「一度死んだ身としては怖くありませんわ」 「パステルと一つになれる、これも愛の形ですな」 「奴等に勝てるならこれぐらい平気ですよー」 「ハァハァハァ…不安もありますが、希望もありますぜ…」 「高等な存在にランクアップ出来るって事ですかい!?やるに決まってますよ!」 「団長殿の御心のままに…」 「こぉ~れはじぃ~つに熱い展開じゃあなぁ~いですかぁ~」 「隊長が一緒なら怖くありませんわ」 「いいんですかいホイホイ俺なんかと合体して?」 「既に覚悟の上ですぞ」 「手術にリスクは付き物です!」 「ンモォ~ン!」 「オォォォォン!!!!!」 「ビュオオオオオ!!!!」 「ゴロゴロ!!ゴロゴロ!!」 「ハイ!レグ!ハイ!レグ!」 「ブクブクブクウウウウ!!!!!」 誰も異を唱える者はいなかった。 そして… 「「「「フュージョン!!!!!」」」」 4コマンダーは各自の軍のサイバーエルフと融合を果たした。 そして烈火軍団のサイバーエルフは赤い人魂、氷結軍団のは青い人魂、轟雷軍団のは緑色の人魂、虚無軍団のは紫色の人魂になった。 「君達は…4コマンダーなのかい?」 エックスは恐る恐る問う。 「い~や違うぜ!俺は…そうだ、ファーブニルだファーブニル!」 烈火軍団のサイバーエルフが応じ、自らをファーブニルと名乗る。 その口調は喧嘩っ早い青年のようである。 「何か烈火軍団の皆が交じり合ってる感じね、あら、私はレヴィアタンよ。私はクレーネルが強く出ちゃってるみたい」 氷結軍団のサイバーエルフはレヴィアタンと名乗った。 声と口調は女性のそれである。 「俺は…ハルピュイアだ…俺は轟雷軍団の誰にも似なかったようだな…」 轟雷軍団のサイバーエルフはハルピュイアと名乗った。声色は少年のようである。 「あら、キザな所はブリッツそっくりよ、『キザ坊や』」 レヴィアタンが茶々を入れる。 「拙者は…ファントム。拙者の性格はシャッテン由来だろう、拙者は男だがな」 虚無軍団のサイバーエルフはファントムと名乗った。 声は渋みを含む男性のそれである。 「さあこっから反撃開始だぜ!行くぞお前等!!」 「だから何で貴方が仕切るのよ『戦闘馬鹿』…」 ファーブニルの号令し、レヴィアタンが不満気に言いながら融合を果たした元メタシャングリラのサイバーエルフ達が出撃する。 ファーブニルは強烈な火球を、レヴィアタンは氷柱で覆われた氷の弾丸を、ハルピュイアは超高電圧の雷の弾を、 ファントムは暗黒エネルギーで出来た鋭利な苦無をひたすら高速連射する。 各々の攻撃力はかなりのもので既に負担の掛かったカイゼルシャフトの肉体に容赦なく襲い掛かる。 「えええい、それがどうしたあああああああああああああ!!!!!!!!」 しかしダメージを負えば負うほどカイゼルシャフトの攻撃は激しくなる。 「こうなったらとことん根競べに付き合うっス!ウオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」 「はあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」 留まるところを知らず白熱していく戦い。 その時ハンター勢にバイルから通信が入った。 「これよりディープログとウラディープログのデータを攻撃エネルギーに変換したプログラムをそちらに送る… 取得すれば莫大なエネルギーを放ちこの勝負に決着が着くじゃろう。 ただ敵もそれを妨害してくるじゃろうから気を付けるのじゃ!!」 時を同じくしてカイゼルシャフトの眼前にもDr.Vの声を伝えるハッカー系サイバーエルフが現れた。 「これ以上の戦いは危険ですぞ!やはりエルフ細胞の間隔を置かない接種が原因のようですな… どれ、私も一つ助力致しますぞ… これからディープログのデータを攻撃エネルギーに変換したプログラムを送ります。 只敵も妨害してくる故注意してくだされ」 各々の通信が終わった後空の彼方から虹色に輝く球体が現れた。 「「これか!!」」 エックスとカイゼルシャフトは同時に動き出した。 「「(ク―クックックック…一世一代の自作自演対決の真骨頂じゃ!どっちが勝つかのう?)」」 バイルとDr.Vはそれぞれ内心嘲りながらそれを見ている。 「負けられない!」 「負けぬ!」 「はああああああああああああ!!!!!!!!!!」 「があああああああああああああ!!!!!!!!!!」 死に物狂いで球体を奪い合うエックスとカイゼルシャフト。 そしてカイゼルシャフトが球体を手に入れようとした時だった。 「坊や、渾身の一発をかましてやれ!」 ファーブニルがトラストにそう言うとトラストのボールに4体のサイバーエルフが宿る。 「押忍!」 トラストはカイゼルシャフトを真っ直ぐ見据え振りかぶる。 そして… 「レーザーピッチ!!!!!!!!!!!!!!!」 力の限りを尽くした一球を投げ込んだ。 ドゴォ!!!!!!!! 「む…!!!!」 大ダメージを負ったカイゼルシャフトは球体を手放してしまう。 その隙にエックスは球体を手にする。 パァァァァァァァ… するとエックスの体がオーラに包まれた。 そして彼の周辺に数人の人物の姿が現れる。 前世紀で何度も世界を救った偉大過ぎる自身の「兄」。 姿形の変わった一番の親友。 強者の力を込めた石で変身する人間及びレプリロイドの少年少女。 優しかった亡き主から託された、人間が滅んだ後の世界で生きるより人間に近い人造人間の少年。 異界で生きる「兄」と同じ名と似た姿を持つサイバー・クジャッカーのような疑似人格プログラムの少年。 彼のいる世界の未来の時代を生きる電波生命体と融合した人間の少年。 彼等は一斉にエックスに暖かな眼差しを向ける。 同時にエックスは、この瞬間世界と一つになった感覚を覚え自分が戦う意味を見出す。 時代や種族は違えど彼等と自分の思いは同じである事、そしてそれらの時代や世界は絶望だけしか存在しない、悪人のみがのさばっている訳ではないという事をエックスは悟った。 そして… 「ファイナルスマッシュ!!!!!!!!!!」 シュバアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!! エックスは横に並ぶ過去、未来、異界の強者達と共に強烈極まりない光芒を一斉に放った。 「おおおおおおおお!!!!!!!!負けるかああああああああああああ!!!!!!!!!」 カイゼルシャフトはサイバースフィアを最大サイズにして迎え撃つ。 「ガ…ガ…グホアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」 暫し粘ったカイゼルシャフトだったが、やがて飲み込まれた。 技の発動が終わるとカイゼルシャフトは膝から崩れ落ちた。 全身の至る所にヒビが入り体もミイラのように干からびている。 そんな中カイゼルシャフトは声を絞り出して言う。 「…俺を…倒した…ところで…この流れは…止まらん…レプリロイドが…イレギュラーが…いる限り… 俺の遺志を受け継ぐ者は…現れる…それまで…束の間の…勝利に…酔いしれて…おるが…いい…」 サラサラサラサラサラ… そしてカイゼルシャフトの肉体は灰になって空気中に散っていった… 人類至上主義…というより自分至上主義の恐怖の独裁者の最期である。 「そこに希望がある限り俺は諦めないし、この世界は俺がいなくなっても後世の者に託す価値はある!」 エックスは空を見上げ言い放った。 「エ…エックス…先輩…ちょっと…休ませて…貰うッス…」 トラストは声を絞り出して腰掛ける。 「ああ、今は休むといい…トラスト…トラスト!?」 エックスがトラストの方に目をやると彼は笑顔のまま真っ白に燃え尽きた灰のような状態になり全く動かなくなった。 「今回の戦いも…犠牲が…多過ぎるぜ…畜生…畜生…!!」 トラストの他にも既に倒れた面々を見ながらゼロが怒りを爆発させる。 そんな時だった。 「ああ、この少年はただ眠っているだけじゃ。回復アイテムで十分じゃろう」 そこにはいつの間にかゲリールが現れていた。 「ゲリール!」 エックスが応じる。 「さて、他の者じゃがこれは復活アイテムでも難しいぞい。ただ方法はある。ワシの命を使えばええ。 サイバーエルフの役割を考えればお安いもんじゃ」 「…チッ」 皆が申し訳なさそうにする中サイバーエルフの用途を忌み嫌うヴィアが舌打ちする。 そしてゲリールはこの場に倒れている者を一斉に復活させた。 「ワシの…力が…役に…立てるなら…本望じゃ…」 力を使ったゲリールは笑顔のまま目を閉じ、真っ白に燃え尽きた灰のようにうなだれて座り込んだ。 「ゲリール!…すまない…!」 エックスが悲しんでいると… 「あー、悲しんでいる所悪いんだけどそいつ生きてるぞ」 ヴィアが横から口をはさむ。 「え?」 「そもそもサイバーエルフは死んだら消えるからな」 疑問符を浮かべるエックスにヴィアが付け加えて説明するとゲリールは確かに消えていない。 「「「「「もうええわ!!」」」」」 いつの間にか合体が解除された元メタシャングリラのサイバーエルフ達も含めたこの場の何人かが突っ込む。 一方地下シェルターでは… 「総帥殿が負けてしまわれた!!!!!」 「どうしよう!!どうしよう!!」 「もう終わりだああああ!!!!!」 カイゼルシャフトの敗北を知ったメタシャングリラ構成員達はパニックに陥っていた。 というのもエルフ細胞で半端に想像力が向上したお陰で「自分達が」助かる未来がどうしても見えなくなっていたからだ。 今の彼等は悲惨な未来を回避する為のいくつかの道を見出す事は出来たがそれらの中で自分達が破滅しない未来はない。 どんな手を講じてもどこかで足がつき惨たらしい最期を迎えているのだ。 「Dr.Vは…最初にエルフ細胞を接種したガキは…いない!!!!!」 いつの間にかDr.V並びに最初にエルフ細胞を接種した少年達はこの場から姿を消していた。 「こうなったら…こうなったら…やるぞ!我々も…エルフ細胞の追加接種を!! 先程の総帥の力で束になってかかれば奴等も終わりだ!ハハハハハハハ!!!!!!」 「そして明るい未来に一直線だ!!クヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!」 この場の構成員達は一斉にエルフ細胞を接種し始め中には他者のエルフ細胞を奪おうとする者も。 その結果… 「ぎゃああああああああああああぐるじいぐるじいぐるじいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!! お母さん!お母さん!!おかあさ~ん!!!!!!!!!!!!」 エルフ細胞を接種した構成員達は全身に蕁麻疹が出来、眼が血走り目、鼻、口から血を出して苦しみのたうち回り始めた。 彼等の周辺にはエルフ細胞争奪戦に巻き込まれ銃殺された構成員の躯も転がっている。 この様子を見て拳銃自殺をする構成員も出始めた… 一方地上にて… ウイーン… 突如地下シェルターへのシャッターが開いた。 「そうだ、まだメタシャングリラそのものとの決着はついていないんだった」 エックスがそう言うとハンター勢は地下シェルターに降りていく。 彼等を出迎えたのはDr.Vだった。 「「「「Dr.V!!」」」」 この場の一同が思わず怒りの表情で身構える。 するとDr.Vは両手を上げ降参のポーズをする。 「参った、参った、降参じゃ。」 そしてDr.Vは頭に被った覆面を脱ぐ。 覆面の下は長い鼻と鹿の角やクワガタのアゴを思わせる髪型が特徴の中年男性だった。 「ワシは連邦政府に反感を抱く科学者として連中を利用してお前さん達と戦わせることで 悲惨な未来を回避する道を見極めようとしたんじゃがこの戦いはお前さん達の勝ちじゃ。 『エルフ細胞』を接種した少年達も解放しておこう。 ワシの事は好きなだけ尋問するといい」 そう言ってDr.Vは両手を差し出すが、次の瞬間… 「なぁ~んちゃって、のう!!!」 ビヨヨ~ン!!ビヨヨ~ン!! 突如バネで繋がったDr.Vの頭が胴体から切り離され、瞳が互い違いの方向を向き舌を出した表情で左右に激しく揺れ出したのだった。 「く…また遠隔操作のロボットか…!」 「本体をとっちめない限りゲームセットではないッスね…」 エックスとトラストはサイバーエルフ研究所の出来事を思い出し悔し気に言う。 同じ頃バイルは 「うっ…!」 バイルがよろめく。 「大丈夫ですか?」 オリジナルシエルが思わず声をかけバイルは応じる。 「ああ、大丈夫じゃ、これまでの心労が祟ったようじゃな… (エヴィルの時もそうじゃったが生体パーツを使ったロボットに入っておったワシの人格をコピーしたサイバーエルフがワシの脳に入り込みこれまでの記憶が入り混じる時の感覚はやはりキツいのう…)」 しばらくしてハンター勢はエルフ細胞を最初に接種した少年達を目にする。 「エーン、怖かったよー!!」 少年達は怯えた様子でありハンター達を視認すると彼等にしがみつく。 「もう大丈夫だ」 「さあ、こっちだよ」 エックスが優しく少年達を諭しアンジュピトールが空間に扉を出現させ少年達を避難させる。 避難先にて少年達は… 「エルフ細胞をあんな短期間で連続接種など、愚かな事を…」 「所詮奴等は世界を統べる器ではなかったという事だ」 「十分に間隔を開けてエルフ細胞を接種している我々ならこの世界を掌中に収める事が出来る…」 「だが、今はまだその時ではない…」 知的な本性を露わにし世界の行く末について話し合い始める。 ハンター達がさらに進むと彼等は地獄以上の地獄を目にする事となる。 地下シェルター最深部で彼等が目にしたのは床に這いつくばり不気味な呻き声を上げる人間と似たようで異なる外見の生物達と銃殺又は拳銃自殺で死亡した人間の亡骸だった。 生物の外見は腐乱死体のようなぶよぶよとした感触の青黒い肌に歪な形の目の中にある互い違いを向いた瞳、 そして軟体動物やクラゲのような柔らかく立つ事すらままならない手足である。 生物はそのぐにゃりとした両腕で頭を抱え上半身を起こして弱弱しく声を絞り出す。 「おかーさーん…おか…おか…おかーさーん…」 これらの生物はヘルシャフトと異なる変異を遂げた元メタシャングリラ構成員達で 幹部であるフィースィー、プーパー、タードも含まれていた。 彼等はヘルシャフトとは対照的に生命力ばかりが無駄に高くなり知能は著しく低下、移動力もほぼ0という 醜悪かつ無害な生物となり果ててしまっていた。 「彼等のした事は許されないが、こうなってしまうと怒る気もなくなるよ… その力をもっと別の事に使っていれば違う未来もあっただろうに…」 エックスは悲し気に呟き他の者もそれに賛同する。 その後彼等はアンジュピトールの扉でバイルの指定した場所に送り込まれた。 粗方地下シェルターの捜査が終わった後… 「それではお出口はこちらになりまーす」 アンジュピトールが空間に複数の扉を出現させた。 これらの扉は各々の帰路に続いている。 「メタシャングリラとの戦いは終わったが、まだまだやる事は山積みだな」 エックスはこれからの戦いへの覚悟を決め、そしてハンター勢はそれぞれの扉の中へと消えていった…

第二十一話「True navigation」

メタシャングリラ事件終結後、連邦長官の座に復帰したファートが会見を開いた。 「この度連邦長官に再就任する事となったファートだ。 まず1つ報告しておく事がある。以前私がメタシャングリラの捕虜になった時に私が話した内容の大半は 私を陥れる為奴等に無理矢理言わされた事であり真実ではない。 とはいえ私に不手際があったのもまた事実。 この事を踏まえもう一度一からやり直させて頂きたい。 不平不満はあるではあろうが何卒ご理解頂きたい…」 暫くして演説を終えたファートは変わり果てた姿の元メタシャングリラ構成員達に目をやる。 「「おかーさーん…おかーさーん…」」 「ブハハハハハハハハ!!!!!!!これは傑作傑作!!何が『おかーさーん…』じゃ! これはまるで太陽に近づこうとして地に落ちた現代のイカロスじゃな!! 醜悪な中身に相応しい姿になりおっていい気味じゃ、ほれ言い返してみい!やり返してみい!!」 ゲシッ!!ゲシッ!!!ペッペッペッ!!! ファートは彼等を嘲笑し唾を吐き足蹴にした。 「そうじゃいい事思いついたぞ、これでワシの好感度もアップして金にもなるな、ブハハハハハハ!!!!!!!!」 そう言ってファートは彼等を晒し物にする商売を思いつき実行する。 内容は昔の見世物小屋のような施設で変わり果てた彼等を公開しその際オプション料金を払う事で彼等に暴行を加えてもいいというサービスを提供するというものである。 「さあ寄ってらっしゃいみてらっしゃい!かつて世界を震撼させた極悪人のなれの果てだよ~! こいつ等には何をしたって大丈夫!焼いても切っても死なないよー!ストレスの発散にさあどうぞ~!」 「見世物小屋」にてスタッフが声高らかに宣伝する。 これには賛否両論あったがメタシャングリラの被害者達は金を払ってでも彼等に暴行を加えストレスのはけ口にした。 「それにしても『エルフ細胞』じゃったか、これも素晴らしい代物じゃのう、これでワシは名実ともに世界を統一…」 一方でファートはエルフ細胞の接種も終え、更なる政策について思考を張り巡らせていると… 「長官!これはどういう事ですか!!」「この件について一言!!」「長官!!」「長官!!」「長官!!」 ファートは大勢の報道陣に詰め寄られる。 「な、ななななな…これはどういう…」 事件の終結後、これまでのファートの不正が彼に不満を持つ者達によって大々的に拡散されたのだ。 特に多くの情報を提供したのは「陛下」というハンドルネームの青年だったという。 この事によってファートは再度窮地に立たされ失脚までそれ程時間は掛からなかった。 ハンターベースにて… 「俺達がエネルギーを使い続けると最終的には死んじまうみてぇだし、生き残るとしたら新たなボディを造ってもらうかまたフュージョンするしかねぇみてぇだがどうする?」 「フッ、我々はイレギュラー行為を既に働いている。ボディを獲得するとなるとハンターに対する立場がないだろう」 「フュージョンした後の真の能力はレプリロイドの魂となる事だそうだが余程強力な器でないと崩壊すると聞く」 「ならば私は一まずハンター達に力を提供し続け、時が来ればまた1つになる事を選ぼう」 フランメ、ブリッツ、メーア、シャッテンを始めとした元メタシャングリラのサイバーエルフ達が今後について話し合った結果、サイバーエルフとしての使命を果たした後に各軍が1体のレプリロイドに生まれ変わる道を選んだ。 主な理由は自分がやった事への後ろめたさとハンターにせめてもの償いがしたいという想い、そして合体していた時の高揚感だった。 こうして彼等はハンターに留まった。 ヴィアはというとそのよしみでハンターに加入したのだがそれは建前。本当の理由は別にあった。 「どうですかー?ゼロさん用とアクセルさん用、そして私用のダイヴアーマーが出来ちゃいましたー! 褒めてください褒めてくださいー!」 リコが解析に解析を重ねた結果ゼロ用、アクセル用、そして何と自分用のダイヴアーマーを開発したのだ。 「ほう、結構強力なアーマーだな、礼を言うぜ!」 「強くてカッコいいじゃん、最高!!」 ゼロとアクセルには好評だったが… 「ああ、これが…これがリコのダイヴアーマー…ああああああ…何てかわいいんだあああああああああああ!!!!!!!」 ヴィアが絶叫する。 実はヴィアはリコに密かに想いを秘めておりとうとう内に収めきれなくなったのだ。 「ヴィアさん、あんなキャラだったんスか…」 トラストは面食らう。 「……」 そんな彼に視線を送る者が一人。 フラジールである。 彼女もトラストに内なる思いを秘めているのだがそれが外に出るのはもう少しかかりそうである。 「俺の姿であんなに狂乱するのは勘弁して欲しいぜ…」 ゼロが呟く。 「あら、ゼロも私と二人きりの時は人の事言えないわ」 そんなゼロにアイリスが囁く。 「俺はあんな狂ったように叫ばん!一緒にするな!」 ゼロは赤面して異議を唱えるのであった… 一方宇宙船にて… 「色々と面白そうになってきたじゃない…だからもう貴方の目論見に目をつむるのはやめるわ、バイル…」 そう言ってアイコはウラディープログのバイルによる改ざんを修正した。 これまでバイルはウラディープログの内容の内自分の犯行に辿り着くデータは改ざんしていたのだった。 そしてその明るみになったデータが連邦政府の目に触れた時、確実に悲惨な未来を回避する為秘密裏にバイル暗殺命令が下った。 「申し訳ないけどこれが私の役割ですノ」 バイルに迫るエラトネール。 「愚かな!まだ犯してもいない罪を裁くというのか!?やめろ!!やめろおおおお!!!」 そしてエラトネールがバイルを手にかけようとした時だった。 ビヨヨ~ン!ビヨヨ~ン!! 「あら、流石に彼も気付いていたみたいネ」 エラトネールが手を下そうとしたバイルはダミーだった。 「この舐め腐った顔、ムカつくムカつくムカつく~っ!!」 「かくれんぼしたいのなら付き合うよ!」 ドロワクレールは地団駄を踏みアンジュピトールは黒い笑みを浮かべる。 どことも知れぬ場所にて… 「エラトネールめ、やりおったか…ダミーと入れ替わっておいて正解じゃったわ… まあ、いざとなったらこいつ等を差し向けるとするかのう…ク―クックックック…」 嘲笑うバイルの背後には2体のカプセルがあった。 1つはオリジナルゼロの器として造られたコピーゼロ、もう1つにはディープログのデータから造られた『存在していたかもしれない4人目のカウンターハンター』であるエックスを凶悪にしたような外観のレプリロイド、カイが眠っていた。 連邦政府の研究所では… 「これで全てのレプリロイドの洗脳解除、完了したわ」 「有難う、マザーエルフ」 オリジナルシエルは新たに発明したサイバーエルフ「マザーエルフ」から世界中のレプリロイドの洗脳が解除された事を聞いて安堵した。 そして彼女は眼前の試験管を見つめる。 「貴方が必要とされる世の中にならないのが理想だけど、もし貴方が生まれてきてもどんな困難も乗り越えられると…私は信じているわ…」 試験管の中にはエルフ細胞とオリジナルシエルの細胞が融合した細胞が入っていた。 試験管の冷凍保存を解除すると発生が始まり先天的にエルフ細胞を持つ彼女のクローンが生まれる、という事である。 一方連邦政府での会議の末ウラディープログの内容を世間に公表する事が決定した。 これはより大勢の人々に予測された悲惨な未来の回避に助力してもらうのが目的である。 結果としてあらゆる方面でウラディープログの内容を巡っての運動や会議が切磋琢磨された。 エルフ細胞を最初に接種した少年達は連邦政府に保護された後未来の内容について日々話し合っている。 「やはりこの腐り切った世界はリセットしなければならないな」 「選ばれし者同士を戦わせて最後に勝ち残った1人がこの世界の理を定めるのは如何かな?」 赤髪で大柄な少年の言葉に赤紫色の長髪で端正な顔の少年が応じる。 「お前達もっと穏便な考えは出来ないのか?」 そんな二人を薄緑色の髪の小柄な少年が嗜める。 この3人は仲良しグループだった。 その3人を余所に金髪で一見少女に見える美少年がブツブツと呟いていた。 彼はどのグループにも属していなかった。 一見穏やかで美しい彼の胸の内には強烈な憎悪が渦巻いていた。 ただしそれは人に対してではない。 「罪を憎んで人を憎まず」…彼はその典型だった。 「(苦痛なんて要らない…不幸なんて必要ない… 何故事故が起こるのか…それは環境が不完全だからだ… 何故凶悪な人間やレプリロイドが生まれるのか…それは彼等の構造が不完全だからだ… 何故貧富の差が生まれるのか…それは経済に関する法が不完全だからだ… 何故差別が起こるのか…それは誰も彼もが不完全だからだ… 不幸が…苦しみが…痛みが…憎い… こんなもの…全部排除してやる…!! 母さん…私はもう貴方の所には行かない… 私は私の創った楽園で皆を幸せに導くから… 貴方の腕に抱かれた記憶を…私は忘れない… 『死神』を根絶やしにし!!『貧乏神』を皆殺しにし!!『疫病神』を一掃してやる!! 駆逐してやる…  一匹…残らず…!)」 予測によると彼はこの後本当にそれを実行するがこれは人間から人間らしい幸せを奪う事を意味している。 一方ウラディープログの内容公開の影響で悪事に走る者も。 マッシモ、マリノ、シナモン、そしてダイナモ達もハンター達と共に彼等が事件を起こすたびに鎮圧すべく奔走する。 その際バイルに辿り着いたかと思いきゃまたダミーだったという事が何度かあったという。 そんな中ハンターと連邦政府で一つの試みがなされた。 それはディープログとウラディープログを接続し、その接点で添付プログラムを伴う未来へのメッセージの入ったカプセルを設置するというものだった。 カプセルに入ると予め録画してあったエックスの映像が流れ最終的にはプログラムを獲得するという仕組みである。 カプセルは仮想空間にあるもののレプリフォース事件の時と同じくプログラムを受け取ると現実世界でもパワーアップ出来るのだ。 メッセージの内容は以下のとおりである。 「やあ、初めまして。俺はエックス。 22世紀を生きる『イレギュラーハンター』に所属する『レプリロイド』だ。 君は人間かい?レプリロイドかい?それとも他の何かかい? 頼れる仲間はいるかい?それとも一人ぼっちかい? 今は俺の時代から何百年後かい?何千年後かい?それとも別の世界線かな? とにかくここに来たという事は君のいる世界でも何かが起こったという事だね。 ここは時間の流れが違うから焦る事なく聞いて欲しい。 俺達の時代では未来の出来事を予測する超高性能のコンピュータがあってね、 それに誰も彼もが振り回されたよ。…この俺もね。 未来では悲しい事が沢山起こるという予測があったからそれを止めようと皆必死に頑張ったんだよ。 具体的にどう頑張ったかは…これを見て欲しい」 一度エックスの映像が途切れメタシャングリラの起こした事件の顛末の内容が流される。 「…どうだった? 俺達は…俺達の世界を守ろうと必死に戦ったんだ。 俺は自分のやった事を間違いだとは思っていないけれど、違う道もあったかもしれないね… 君がこれを見ているという事はこの事件に匹敵する災厄が発生したという事だけど… それを解決へと導く力をここで君に授けよう。 ただ力の使い方をよく考えて欲しい。 『力』は使い道を誤ると破滅へと繋がるのだからね。 勇者になれとは言わない。聖者になれとも言わない。 ただこれだけは言える。 自分以外全ての者の命と権利を理不尽に踏みにじる権利はどこの誰にも無いんだ。 人の為に進んで死ねなんて言えない。欲望と憎しみを捨てろだなんて言える訳ない。 ただ、その力を自分一人の為だけに使う事は絶対にしてはいけない。 俺は君を信じてバトンを渡す。 君も俺を信じてこのバトンを…君専用のダイヴアーマーを受け取って欲しい。 君が世の中に…そして君自身に恥じない生き方を貫く事を祈っているし、信じているよ…」 ここで映像は終わっている。 このカプセルは平時、そして有事でも余程の事が無い限りロックされているが 今回の事件、もしくはそれ以上の惨劇が起こるとそのロックは解除されるという訳である。 所変わってハンターベースでもウラディープログにダイヴしての訓練が日々実施されていた。 現在トラストはウラディープログのフューチャーログ、「ネオ・アルカディア本部」にダイヴして天使のような姿をした未来の強者、コピーエックスと対峙していた。 ちなみに難易度は「しんどい」である。 「お前なんかエックス先輩じゃないッス!!トワイライトピッチ!!」 コピーエックスに立ち向かうトラストだったが相手の力はあまりに強大。 何度も攻撃を受けボロ雑巾のようになりながらもトラストは懸命に喰らいつき最終的に勝利を収める。 しかし戦いはこれで終わりではなかった。 何とコピーエックスは神々しさと禍々しさを兼ね備えた第2形態に変身したのだ。 「そ…そんな…やっと…やっと勝てた…の…に…」 思わず絶句するトラスト。 しかしすぐに立ち上がり力強く叫ぶ。 「勝負は…9回裏まで分からないッス!!」 エルフミッション 完
ELITE HUNTER ZERO