小説「地獄の狂宴編」


四代目オリボスが登場する小説です。この小説では悪役がメインです。

第一話「目覚めの時」


彼は最初、人間に危害を加えるレプリロイド、「イレギュラー」を狩る者として生まれた。
しかし彼は戦闘力こそ高かったもののその凶暴性や破壊衝動のため
ハンターに、世間に疎まれ続け拒まれ続けた。
そんな折当時最強のハンター、シグマが人類に反旗を翻しそこから彼は自由を手にした。
それも束の間、彼はB級と侮っていたハンター、ロックマンエックスを追い詰めるも
エックスの怒りと平和への想いの前に敗れ散っていった。
それが彼の復讐者としての人生の幕開けだった。
彼はドップラー事件の時に蘇り爆弾やライドアーマー「ブラウンベア」でエックスに再び挑むも、敗れた。
時が経ってヤコブ事件の時ルミネを誘拐し、何度もハンターを奇襲し、
月でライドアーマー「デビルベア」でエックスに挑むも、やはり敗れた。
何度も、何度も、彼の復讐は潰えた。
その度彼の狂気は確固たるものへとなっていった…

彼の名は、VAVA。

「…最悪の寝覚めだ…」

それまでの戦いを夢で見ていたVAVAは、意識を取り戻すや否や立ち上がった。
まず自分自身の変化に気付いた。
VAVAの外見は前の戦いから変わっており、ボディカラーは最初の姿を基調とし、
各部に虫と炎をあしらった模様や装飾があった。

次に気付いたのは自分が今いる場所だった。
そこは地球のどの地域にも見られない景観で例えるなら瘴気に満ちており
地上や空中には小型の虫型メカニロイドと思しき存在が跋扈している。
常人なら不気味、不吉と捉えるような雰囲気だった。

「ここがどこだか知らんが、まだ俺は終わってはいないようだなあ…ククク…」

ひとまず復活の喜びを噛みしめるVAVAだったが近くから声がする。

「VAVAよ…」
「シグマ、か」

声の主はシグマだった。
彼はヤコブ事件の時不完全だったボディが完全なものになっていた。

「目覚めおったか さて、こうしてワシらがまた復活したという事はやはり何者かが、世界がワシらを必要としている、ということであろう
ここにいるのはワシとお前だけではないのだよ」
「こいつらは…!」

シグマが指し示す方向に十数体のレプリロイド達が眠っていた。
そのレプリロイド達とはヤコブ事件の時各地を占領したレプリロイド、アースロック・トリロビッチ、ギガボルト・ドクラーゲン、
アイスノー・イエティンガー、バーン・コケコッカー、バンブー・パンデモニウム、オプティック・サンフラワード、ダークネイド・カマキール、
グラビテイト・アントニオン、ヤコブ管理官のルミネ、ハンター極東司令部司令官のリディプス、
その腹心デプスドラグーンだった。


「うう…」
「ここは…」
彼等も程なくして目を覚まし、立ち上がった。

「全員目を覚ましおったな、ではまず状況の確認といこうではないか」
得体の知れない場所でもなお、シグマは不敵に笑い指揮を執り始める。

時を同じくしてそんな彼等をモニターを通して監視する3つの影…

「キャーハッハッハ!!!イカしてイカレた空間にようこそ~!!」
「ついに来たか、こいつらを送り込む時が…」
「テメーらの苦痛に歪む顔、ここからじっくり見物させてもらうぜぇ!!ガハハハハハハハ!!!!!!」
それぞれ甲高い声、荒んだ声、ダミ声の彼等は狂喜し、見下した様子でVAVA達を見張る。

こうして新たなる激戦が始まる。
蘇ったイレギュラー達はハンターとはまた違う脅威に直面する事になる。
誰が、何の為にVAVA達を蘇らせたのか?
この不気味で不可思議な異空間の秘密とは…!?


愛や絆が、正義の者だけの物だとは、思ってはいけない。
優しさや思いやりが、極悪人にはないと、思ってはいけない。
誇りと信念が、イレギュラーにはないと、思ってはいけない。

第二話「蜘蛛の糸」


謎の空間で目覚め、一堂に会したイレギュラー達。
彼等の様子は落ち着きを払っていたり騒然としていたりと様々だった。

「この虫は何?ここは何処?私は誰?」
「全く、相変わらずですねぇ貴方は。さて、ここは大気も地質も地球上には存在しないもの…
恐らく亜空間か、もしくは仮想空間でしょうね」

通常通り狂気に満ちた言動のサンフラワードに対しアントニオンが呆れつつも自らの憶測を述べる。

「我々の背後と左右には壁、前方には扉が。という事は前に進むしかありますまい」
イエティンガーがそれに続く。

「…まさか我々の創造主である貴方にこうしてお目にかかるとは。
恐れ多い気持ちもある、が私には私の意志がある。貴方の指図は受けない」

リディプスがシグマに告げる。
そしてルミネもそれに続く。

「私も貴方に従うつもりはありませんよ。
しかし倒されたはずの私や『役目を終えた』はずの貴方がここにこうしているということは
世界がそれを望んでいる…間違った流れを正そうとしているのかもしれませんね」

そんな彼等にシグマは返す。
「フン、何とでも言うがいいわ。ただ時が来たら貴様らのその力、貸してもらうぞ」
「前向きに考えておきますよ、それ以前にここにいても何も始まりそうにありませんが」
ルミネが答える。

…とその時。
上から一際派手な虫型メカニロイドらしき物が現れこの場にいる全員の前に静止した。
そしてその虫は声を発した。

「やあ皆さん、初めまして」

「ほう、喋りおるのか!」
デプスドラグーンが軽く感嘆の声を漏らすと虫からの声が答える。

「これは失敬。喋る事が出来るバグもいるがこのバグにはそこまでの能力はない。
ここから離れた場所から通信している我々の声を届けているに過ぎないのだよ」

そして虫から立体映像が投影された。
映像は3人のレプリロイドの姿で1体は頭に角が7本生えていて体中に刃物のような突起物がついている体格のいいレプリロイド、
もう1体は顔と体に十字をあしらった装飾があり頭の周囲と関節部分に棘が生えた体格のいいレプリロイド、
最後の1体はヘルメットを被っていない中性的な顔をした華奢なレプリロイドだった。
いずれの映像も等身大より小さく映し出されており彼等の本当の大きさは分からない。
これまでの虫からの声の主は7本角のレプリロイドだった。

「まずは自己紹介からいこう。私の名はティターンという」
7本角のレプリロイドが言う。
「俺はゴルゴダだ…」
十字と棘のレプリロイドが言う。
「ボクはビビッド!よろしくね~」
中性的な顔のレプリロイドが言う。

そしてティターンが続けて言う。
「我々はスパイダーズスレード。
この空間は簡潔に言うと罪を犯したレプリロイドが行くところでね、ここの住人はそんなレプリロイドに責め苦を与える為にいるのだよ。
我々はそんな罪人レプリロイド達を助けたくてね、現世への出口に案内する事にしているのだよ」

「蜘蛛の糸、か…」
かつての自分の仮の姿を思い出したリディプスが呟く。
そして彼は問う。

「にわかには信じがたいが…本当にそんな場所が!?」

ティターンが答える。
「厳密にいうとこれはハンターの科学者が作った空間なのだよ。
ハンターが訓練でイレギュラーとの戦いのシミュレーションをするのは知っているね?」

これにシグマが答える。
「うむ」

ティターンは説明を続ける。
「数々の戦いの後ハンターはね、新しく造ったレプリロイドのテストの為と
これまで罪を犯したレプリロイドに更なる罰を課す為にこの空間を作り上げたんだ」

「それは…本当ですか?」
ルミネの問いにティターンが応じる。

「知ってのとおり君達はそれはそれは世間一般から恨まれている。
そんな世間様の要望を叶える為、そして自らの怨みも晴らす為、ハンターはわざわざ君達を再生させてここに送り込んだ、という訳だ」

「許さない…」
唐突にVAVAが語り始める。
「死者に鞭打つような真似をするなんて…レプリロイドの命を、心を何だと思ってるんだ!!」

「どうした、VAVA、お前らしくもない」
シグマがそう言いかけるが…

「…とあいつ、エックスなら言うだろうよ。
だが俺には関係ない、邪魔する奴はぶっ潰すだけだ!
それと今の俺はVAVA-VI(ヘキサ)、だ」
5を表すV(ペンテ)の次という事でVAVAは現在の己の名に6を表すVI(ヘキサ)を付けた事を告げた。

「ところでシグマ様、彼等は、信用できますか?」
パンデモニウムがシグマに囁き彼はそれに応える。

「信用…?何を甘い事を抜かす。利用できるか否か、それだけよ」

これを聞いたティターンは…
「君達が我々をどう思おうが気にはしない、が、これを見たら君達の気持ちも変わるだろう」

そう言った直後虫は現在の地球の様子を映し出した。
それは復興が大幅に進み、イレギュラーも減少し、人間達のレプリロイドやハンター、政府への信頼も回復し
エックスは平和を噛みしめ、ゼロはアイリスと、アクセルはパレットと、エイリアはダイナモと幸せに過ごしている、といった内容だった。


「……………」


しばし沈黙が流れた、が次の瞬間…


「ふっざけんなーっ!!!能無しの分際でーっ!!!ポンコツの分際でぇーっ!!!!!」
「こんなに幸せそうにしやがってよー、俺がズタズタに切り刻んで台無しにしてやろうか?」
「やはり間違っているよ…こんな世界は間違っているよ…」
「お前らこそ地獄に落ちるべきなんだよ、コケーッ!!!!」
トリロビッチ、カマキール、ドクラーゲン、コケコッカーを始めこの場にいたほとんどが不平不満をぶちまける。

「許せないだろ!?腹立たしいだろ!?だったら俺達の言うとおりに動いてもらおうか」
ゴルゴダが憎々しげに言う。

「ああ許せねー!出口知ってんならとっとと案内しやがれ!!」

トリロビッチの恫喝にティターンは落ち着いて応じる。

「まぁまぁ。今のまま出てもハンター達にも勝てないし、それ以前にここの住人達にも勝てないよ。
勝つ為の力を身に付ける為には『インターバグ』が必要だ」

「『インターバグ』だぁ!?」

問いかけるトリロビッチにティターンは説明をする。

「インターバグとは君達の周りにもいるここに生息する虫達の事さ。
特殊なチップに移動能力や強化能力、学習能力等を付け加えた代物で
レプリロイドの強化や攻撃支援、データ解析、通信等様々な用途に用いられているのだよ」

「フォースメタルのような物か…」
「マメQにも似ていますね」

リディプスとルミネが呟く。

「バグを手に取って『同化したい』って思ってみて。
そうしたらバグはキミ達の思考を拾ってくれるから」

ビビッドが言う。

「………」

再びしばしの沈黙が流れた…とその時。

「ええい、ままよ!」
覚悟を決めたVAVA-VIが一番近くのバグを手にした。
すると頭の中で「同化したいか?」といった声がするような感覚を覚えた。
言葉にはならないがこのバグが同化したがっている事が何故だか分かった。
「ああ、同化して力をよこせ!」

するとバグはVAVA-VIの体に吸収された。
そして次の瞬間…

「ううむ、確かに力がみなぎってくる…気がするな」

これにティターンが答える。

「君が手にしたのは攻撃力をUPさせるタイプのようだね。
ここはまだ入り口だからここのバグは大した能力は無いが、奥に行けば行くほど優秀なバグが手に入るよ」

「面白い…超フォースメタルとバグの力で私は神をも超えた存在になってみせる!
そして今度こそこの世に君臨してくれるわ!」
リディプスが猛る。
「止まった世界の流れを正すのが私の役目なのです」
ルミネもそれに続く。
「(フン、上から目線で粋がっているのも今の内、じきにお前たちも利用してくれる)」
シグマは内心ほくそ笑む。
「何だってやってやるよ、復讐の為ならな!!」
VAVA-VIは更に復讐の炎を燃やす。

そしてこの場の一同が周りのバグと同化しようとした時、ティターンが言う。
「ああ、その前にこれを渡しておこう、きっと役に立つはずだ」

その直後立体映像を映すバグとは違うバグが現れ2種類のバグを転送してきた。
それぞれこの場にいる人数と同じ数だけいた。

「一方はアナライズバグ…手にしたバグの種類を解析するバグでもう一方はナビゲーションバグ…我々との通信を可能にするバグだ。
ちなみに私は敵の分析を得意とする」
「俺はエリア全域の事を知っている」
「隠しルートの事はボクに任せてね!」
ティターン、ゴルゴダ、ビビッドがそれぞれ言う。

その後各自バグとの同化を終えた時…
「準備は出来たかい?それなら出発の時だ。見てのとおり前の扉から行く事になっている」
ティターンが促す。

「やはり、か。行くぞ!」
シグマの声と共にこの場にいた全員が扉へと向かい、扉を超えた。

その先には雑兵と思しき大量の量産型レプリロイド達が待ち構えていた。

「ケッケッケ、来やがったか、レプリロイドのクズ共め…」
「成敗してやんよ、オラアアアア!!!!」

雑魚が一斉に襲い掛かってきたが一瞬で蹴散らされた。
「馬鹿な…こんなはずは…」
雑魚達の体が砕けると破片が跡形もなく消滅し、同時に体内に入っていたバグが飛び出してきた。

「これは…」
若干不思議そうに言うVAVA-VIにティターンは説明する。

「バグを使ってパワーアップしているのはここの住人も同じでね、
ランクの高い敵ほどいいバグを沢山持っている。
それと、ここで死んだりするとその魂と亡骸は更に恐ろしい場所に転送される事になっている。
その前に宿主の死を察知したバグは脱出するのだよ」

「成程、な!」
VAVA-VIを始め一同は片っ端から雑魚を蹴散らし出てきたバグも手に入れる。
するとバグに混じって輝きを放つ結晶体も出てきた。

「綺麗でしょ、現世で売るとお金になるかもね。
これはバグクリスタルといってバグに食べさせて成長させるものなんだ」
ビビッドが説明する。	

さらに進むと次にゴルゴダが通信を入れる。
「ここは入り口というだけあって敵もトラップも大した事は無い。
ただプレス機に気を付けるんだな」

実際にしばらく進んだ先に壁が迫ってくる仕掛けがあった。

「下らん!」

パワーに優れたメンバーがその仕掛けを粉砕し、程無くして一同は一際異様な雰囲気を放つ扉の前に辿りついた。

「ここが最後の扉だ。ここの門番はその場から動く事が少ないので正確に狙いを定める攻撃で攻めるといい」
ティターンの通信を聞いた後VAVA-VI達は扉を通過した。

そこには単眼で3本の鋭い爪を持つ巨大レプリロイドが待ち構えていた。

「遂に来たか、最後の大物イレギュラー達が!
俺はジェイルキーパーのディスル、お前等の罪状で送るエリアを選択するのが仕事だが…
この様子だとあまり傷を負ってねーみてーだなぁ。
ちと洗礼を受けて貰うぜぇ!!!」

ディスルと名乗ったレプリロイドはそう言うや否や拳を振り下ろしてきた。
一同は素早く避けるが…

「んー…いい『ボール』があるじゃねぇか…」
と言ってディスルは素早くトリロビッチをキャッチした。
そして手の力を強め始めた。

「くっそ!何つー握力してんだよ!」

抗うトリロビッチだったがその直後勢いよく投げられた。
それを受け止めるパンデモニウム。

「くッ…中々の力だね…!」
パンデモニウムは衝突の勢いで後退する。

「まだまだ行くぜ、オラァ!!」

次にディスルはイエティンガーを掴み投げつけようとするが…
「うお!」

上空に移動したドクラーゲンのサンダーダンサーを喰らった。

「野郎!!」

一瞬ひるんだもののディスルは即座に空いている方の手でドクラーゲンを掴み
イエティンガーとドクラーゲンを投げつけた。

「奴の手の動きは意外と素早いな、距離を取るか…」
リディプスはそう言って距離を取ってバイオレンスアサルトを繰り出す。

他の者も距離を置いて遠距離攻撃を始める。

「バカめ!離れれば投げる物が無くなるとでも思ったか!!」
一同の集中砲火に耐えつつディスルは素手で地面をえぐり取り、それを次々と投げつけ始めた。
そのあまりの勢いの速さと衝撃の強さの為命中した者はパワーや防御力に優れた者を除き攻撃の手が緩んでしまう。

「そーらそらそらそら!!!!!!!!」

砲弾の如き強烈さとマシンガンの如き速射性を併せ持つディスルの猛攻により瓦礫と砂埃が舞い周りが見えにくくなってきた。

「死なねー程度にやってやったが…さて、送るエリアを決めるとするか…何!?」

視界が晴れた時ディスルが目にしたのは攻撃を避け続けダメージを殆ど受けていない者や
命中してそれなりにダメージを受けているものの十分余力を残した者の姿だった。
元々の性能と僅かばかりだがバグによる強化によるものだろう。

「こん…の!まとめてくたばりやがれ!!」
苛立ったディスルは両手で地面をえぐりとんでもなく巨大な塊を投げつけようとした。

「させるかよ、サモンボルダー!」

VAVA-VIが咄嗟に2体のバインドホルダーを召喚し、これによりディスルは塊を両手で真上に抱えた状態で硬直してしまう。
それは時間にして一瞬だったがVAVA-VIとシグマはそれを逃がさなかった。

「喰らえ!」
「フンッ!」

VAVA-VIから放たれたゴーゲッターライトがディスルの顔を、シグマが投げたΣブレードがディスルの胴体を貫いた。

「まさか…これ程とは…グハアアアアアアアアア!!!!!!」

ディスルは爆発と同時に消滅し、そこから大量のバグが飛び出した。

「まずは一勝、だな」
VAVA-VIを始め他の者も士気を高める。
飛び出したバグはこの場の全員で山分けとなった。

その一部始終を遥か彼方からライドチェイサーに乗ったレプリロイドが見ていた。

「始まったか…」

ライドチェイサーに乗ったレプリロイドは静かに呟いた。


第三話「エゴイスト」


VAVA-VI達がディスルを撃破して間もない頃だった。

「前方より高速飛行物体確認!至急戦闘体勢に入れ!」

一同の正面に遥か彼方から高速で飛来する物体が出現し、シグマはそれをいち早く察知したのだった。
その物体の正体は一部始終を見ていたライドチェイサーに乗ったレプリロイドだった。
全身グレーの配色に顔と胸のピンクのクリスタルがアクセントになっている。
体格は常人に比べると遥かに大柄だがこの面子の前では霞むぐらいである。

ライドチェイサーは紫色で怪物を思わせる禍々しい姿をしている。

レプリロイドはVAVA-VI達の近くの上空でライドチェイサーを静止させた。

「また変なのが来たね…」
パンデモニウムが呟く。

「よぉこれはこれは皆さんお揃いで」
「貴様、何者だ!?」

大胆不敵かつ荒々しい口調で語りだしたレプリロイドにシグマが問う。

「俺はトルク。随分前にお前らと同じくここに送り込まれた。
今の今まではそこら中を気ままにライドチェイサーを飛ばして回ってたが状況が変わっちまってねぇ…
お前ら、ディスルを倒したろ?」

レプリロイドはトルクと名乗った後一同に問う。
これにVAVA-VIが答える。緊張感を何とか隠しながら…

「ああ倒したぜ。それがどうかしたのか?」

トルクは現状を説明する。

「奴が倒された事によってこの先のエリアの内4つのエリアへの出入りが自由になった。
この世界は一気に狭くなったんだぜ。
俺はその流れに乗ってここに巣食う悪鬼羅刹の猛者共を狩りまくる!奴等のバグを奪いまくる!!」

そしてその直後漏れた殺気や向けられた武器を察したトルクは…

「まぁまぁ落ち着けや。今のお前らと殺り合うつもりはねぇ。
入り口のバグしか持ってない今のお前らが長年ここで暮らしてバグを集めている俺に挑んだらどうなるか、
賢明なお前らなら…分からねぇわけではないよなぁ?」

そう言うや否やトルクの体の表面の至る所から様々な種類のバグが顔を覗かせた。

その瞬間一同は戦慄した。
このトルクというたった一体のレプリロイドから強烈すぎるプレッシャーを感じたのだった。
彼はあまりに危険で、凶暴で、異常な存在であるとこの場の全員が感じ取った。
その結果武器を収めたのであった。

トルクはそのまま豪語する。
「そうだ、お前らの判断は正しい。

今回ここに来たのはお前らを焚き付けに、それと警告するのが目的だからな。
ここから先、この世界は荒れるぜ?
お前らが引き金引いたんでこの先の連中も警戒するだろうからよぉ。
いいか、ここで生き残りたきゃ自分の事だけ考えることだ。
ここではあらゆる綺麗事が通じねぇ。
甘っちょろい情なんざ捨てて醜く汚らしく自分を通し続けた者が最後に笑うんだよ!
まぁここに送り込まれるような奴には今さら言う必要ないかもしれないが…

ここに送り込まれた奴等も!それを罰する奴等も!裏でふんぞり返っている奴等も!
皆皆自分勝手なエゴイストさ!
それを忘れるな!
そして俺の所まで来い!

俺はもう行くぞ、モタモタしてると置いてっちまうぜ!
お前らがバグに食われちまうようなつまらん奴等でないことを祈ってるよ!

ハァーハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!!」

トルクは高笑いしながらライドチェイサーを飛ばし、奥の扉へと消えていった。
嵐が、去った。

しばし静寂がその場を包んだが…

「何だったんだあの野郎はよ!?」
「もしかしてバグを奪うチャンスを逃しちまったのかねぇ…」
「いや、それが無理だったのはこの場の全員が気付いていよう」

トリロビッチ、カマキール、イエティンガー等を始めそれぞれの意見が交錯する。
そしてドクラーゲンがシグマに尋ねる。

「あの、このまま奴に先を行かせて我々はその後楽になった道に続くというのはどうでしょう…?」
シグマはそれを却下する。

「愚か者が!そんな事をすれば奴一人がひたすら強くなり続けるだけだろう!
それに奴がこの先の敵に勝てる保証はあるのか!?
奴を倒した敵がそのバグを奪ったらどうなるかも考えよ!」
「お、お許しを…」
ドクラーゲンは詫びた。

「やはり俺達もこの先に進んで敵を倒しバグを集め続けるしかないようだな。分かりやすくていいか」
VAVA-VIが言う。

「とはいえまだまだ情報不足。不明な点がいくらかありますね」
アントニオンが冷静にそう言う。

その時スパイダーズスレードの3人が通信を入れた。

「確かに彼、トルクは説明不足だね。そこで我々が説明しよう」

まずはティターンがトルクについて説明する。
「彼は元々自由を信奉し様々な悪事を働くイレギュラーで
死んだのはレプリフォース大戦とユーラシア事件の間の時期とデータにある。
何年も前にここバグズディメンションに数名のレプリロイドと共に送り込まれた。
彼は善戦空しくディスルに敗れこの先のとあるエリアに移送されたが、
ある日脱走しそれ以降は専用のライドチェイサー、エゴイスティックビーストを駆って
様々な悪事を行っては去っていくのを繰り返していた。
先に進むよう助言してあげようともしたが最初の時点で彼はどういうわけか私に強い拒絶反応を示した挙句
『人の言う通りには動かない』などと言ってナビゲーションバグを受け取らなかった。
ああ、脱走できたのは彼だけで彼と一緒に送り込まれたレプリロイドは今は皆死んでいるか、今尚拷問を受け続けているか…だね」

「ディスルに…敗けただと!?」
意外そうなVAVA-VI。
他の者もその事実が信じられない。
何故ならトルクはディスルより格段に強い事をこの場の全員が本能で認識したからである。

ティターンは説明を続ける。
「彼も入り口のバグだけではディスルに勝てなかった。
集団で挑んだとはいえディスルに勝てたのは君達が初めてなのだよ。
脱走した後彼は追っ手をかわしつつもバグズディメンションに散らばるバグを集めて力をつけていった。
今の彼はディスルより遥かに強い」

「ならば早々とディスルを倒し自分で先に進めば良かったのでは?実に不可解ですね」
アントニオンが不思議そうに言う。

「今の彼の言動から察するに競争相手が現れるのを待っていた、と考えるのが妥当だろう」
「ゲームで言うレベル上げをやってたのかもね。この先の敵はもっと強いから」
「それと尖っているのがカッコいいとでも思っていたのだろう。確実に言えるのは奴が極めて異端な存在、という事だ」
ティターンとビビッドが各々の意見を述べる。

「異端ってのは俺達も同じ事だろ。この面子は奇人変人の巣窟だからよ」
カマキールが皮肉っぽく言う。

「いいや、狂っている、イレギュラー、間違っている等の事は下等な人間やそれに与するハンターが常々我々に対して言ってきた事…
我々の事など愚かな者には理解できまい」
サンフラワードが異議を唱える。

「お前の事なんか分からねーし分かりたくもねーよ。
しかし奴は一つだけ正論を言ってたな。
生き延びるために綺麗事に縛られてはいけないって事をよ。
意思を持つ俺達新世代レプリロイド達は自由の存在、奴に言われなくてもそんな事は分かってら!」
そう言い放つトリロビッチに今度はデプスドラグーンが反論する。

「主君の為に己を捨てる事が綺麗事とな!?そういう考えこそが未熟と思わぬか!」

これにリディプスが異議を唱えるが…
「いや、戦場では時として非情な決断を迫られる事がある。
そういう時甘ったれた情は枷にしかならない。
絆、友情、恋愛など下らぬ…
恋愛など、何の意味もない…」

「大佐殿、如何なされました?」
妙な事を呟き出したリディプスにデプスドラグーンが尋ねる。
「口が滑ったな、すまない」
リディプスは落ち着きを取り戻した。

「道はこの先に続いている。まずはこの扉を通りたまえ」
ティターンの言葉と共に扉を通過する一行。
その先にはワープゲートがあった。
さらにそれを通過すると丸く広い部屋に辿りついた。
部屋の周辺には自分達が元来たゲートを含め5つのワープゲートがあった。

全員が揃うのを確認したゴルゴダが説明を始める。
「ここに送り込まれたレプリロイドは犯した罪によって全部で8つのエリアに送られる事になっている。
いま開かれているのはその内の4つ…

まず『色魔の砂漠』。
これは性犯罪を犯したレプリロイドが送られる砂漠地帯だ。
流砂や蜃気楼、ピラミッドの仕掛けに気を付けろ。

次に『悪知恵の迷宮』。
これは豊富な知識や優れた科学技術を悪用したレプリロイドが送られる所だ。
内部は入り組んでいて時間内に突破しないと発動するトラップも多い。

その次は『盗人の港』。
まぁ盗みをやった奴が送られる所だ。
捕まっている奴等は過酷な出荷作業を強いられては賃金をピンハネされている。

最後に『堕落者の学び舎』。
風紀を乱し社会に悪影響を与えたレプリロイドが送られる所だ。
そこでは現世では確実に訴えられるスパルタ教育が行われている。
ちなみにかつてトルクが送られたのもここだ」
ゴルゴダの説明と同時に部屋にいたバグがどのゲートがどのエリアに続いているかを指し示し、各エリアの景観を映し出す。

そしてゴルゴダは説明を続ける。
「残る4つだが…この4つのエリアを攻略しなければ行けない。
厳密には行けるがかなりの遠回りをする事になる。
今行ける4つのエリアを全て攻略すると部屋の中央に新たなワープゲートが出現しその先に残りのエリアがある、という事だ」

次にティターンが説明を始める。
「続いてこのバグズディメンションの住人について説明しよう。

まず最下層がノーマルソルジャー。
所謂雑兵で大した脅威ではない。ただ、最も数が多い。

その上がチーフソルジャー。
ノーマルソルジャーをまとめる兵士で人数はノーマルソルジャーの約千分の一といったところか。
優れたアイテムやバグを持っていてノーマルソルジャーより遥かに強い。
トルクはこのチーフソルジャーを大勢殺しているから元々バグズディメンションでも多少の噂にはなっていた。

その上がジェイルキーパー」

「ジェイルキーパー、だと!?」
VAVA-VIが反応する。
ディスルが自分をジェイルキーパーと言った事を思い出したからだ。

「ジェイルキーパーはここの住人の中でもかなりの上位で10人しかいない。
ああ、君達がその1人のディスルを倒したからあと9人か。
残るジェイルキーパーだが8つのエリアの1つにつき1人ずつ、
それから今行ける4つのエリアとそれ以外の4つのエリアの中継地点に1人配置されている。
今行けるエリアにいるジェイルキーパーはディスルより弱いから今の君達には大した事ないかもしれないね。

さらにその上がエビルスレイヤー。
8つのエリアに1人ずつ待ち構えている強敵だ。
全員ディスルとは比較にならないくらい強い。

そしてその上に君臨するのがディメンションマスター。
バグズディメンションを管理・運営している3人のレプリロイドだ。
8つのエリア全てを攻略しなければ彼等の元に辿りつけない。

また我々が入手した情報によるとここで死んだレプリロイドが転送された先には
そのディメンションマスターよりさらに恐ろしい何者かがいる可能性がある」

「…!!!」

全員が固唾を飲む。

続いてビビッドが説明を始める。
「次にバグについて説明するね。
バグは普通に道中にいるのを捕まえたりバグと同化したレプリロイドを倒すことで入手できるよ。
レアなバグは強いレプリロイドと同化していたり見つかりにくい所に隠れている事が多いんだ。
新世代の人はコピー能力を駆使して手に入れるのがいいかもね。
それと同化するタイプの他にも物を運搬したり攻撃を支援したり通信手段にしたりと色んなタイプがいるよ。
気を付けて欲しいのは同化するタイプのバグで力と心の強さが伴わない者が
バグとの同化を多用しすぎるとそれまで宿主と共生関係にあったバグが宿主を侵食し体を乗っとちゃうんだよ。
そして最終的には巨大化して宿主を食い破って外に出てきちゃうんだ。
こうなったバグはただレプリロイドを捕食するだけの化物。処分するしかない。」

「侵食…ますますフォースメタルに似ているな。そしてトルクの言っていた『バグに食われる』とはそういう事だったのか」
リディプスが言う。

「侵食されない為に必要なのは…気をしっかり保つことだね。
あと元々の体の強さも必要だね。
それが無かったら鍛えるかバグ以外で補強するか、かな。
ボクからの説明は以上だよ」
ビビッドは説明を終えた。

「…さてと、行きますか」
ルミネが言う。

「残念ですが皆さんとはここまでです。私こそがより優れた存在であるといち早く世界に証明してみせますから」
そう言ってルミネはとあるエリアに消えていった。

VAVA-VIもそれに続く。
「俺も先を急がせてもらうぜ。エックスの奴に早く復讐したいからよ。
ただシグマ、俺とお前の仲だから邪魔はしないから安心しな!」
彼もとあるエリアに足を進める。

「抜け駆けはさせんぞ。新たに得たバグの力で地球とバグズディメンションの両方を手にしてくれよう」
「お供致しますぞ、大佐殿!」
リディプスがとあるエリアを選んだ後、デプスドラグーンが彼に従う。

「コケーッ!!勝手な奴等め、トサカに来るぜ!!!シグマ様、俺達にも早くご指示を!!!」
コケコッカーが憤りを露わにしつつシグマに支持を仰ぐ。

「ククク…そうだな、我々もうかうかしてられまい。では…」


第四話「出撃」


色魔の砂漠…
性に関する罪を犯したレプリロイドが送られる所である。
このエリアでは高性能の人工太陽による光が四六時中容赦なく照りつけ、
その気温は人間ならたちまち死亡し、並のレプリロイドでも長時間の活動は困難な程である。
トリロビッチとカマキールはそこに出撃していた。

「俺ぐらいになると何ともねーけどよ、この暑さ、ポンコツ共はくたばるわけだぜ」
「全くだぜ。ま、ピラミッドとやらに着くまでの辛抱だなこりゃ」
地上戦を得意とするトリロビッチと暗闇での戦闘を得意とするカマキールはここ色魔の砂漠に派遣されていた。

しばらく進むと二人はここに送られた見るからにスケベそうなレプリロイド達がミイラのようなノーマルソルジャー達に強制労働を強いられている光景を目にした。
労働の内容は極めて原始的な手法によるピラミッドの建造で
石の一つ一つが非常に大きく重かった。

「オラオラ働けーっ!変態野郎共ーっ!
…!?あいつらは…」

ノーマルソルジャー達はトリロビッチとカマキールに気付いた。

「そうか貴様等が例の…選別もされずに好き勝手にここを歩き回るとはいい度胸してんじゃねーか。
まとめて畳んじまえーっ!!!」

ノーマルソルジャー達は大挙して二人に襲い掛かってきたが呆気なく返り討ちにされてしまう。
そして例によってバグやクリスタルを落として消滅する。

「やっぱ雑魚じゃこれっぽっちしか落とさねーのか、ショベーな」
「それにいたぶり甲斐もありゃしねぇ」

愚痴をこぼす二人に先程まで酷使されていたレプリロイド達が言い寄ってくる。

「おお、ここの兵士達をいとも簡単に倒すとは…!
助けてくださってあり「知らねーよボケが」

言い終わる前に二人は彼等も皆殺しにしてしまう。
彼等が落としたアイテムの質と量はノーマルソルジャーのそれより更に劣っていた。
「テメー等クソゴミ野郎共がどうなろうが知ったこっちゃねーんだよ」
「俺達は飽くまでこのふざけた空間から出たいだけなのさ」

そして二人は何とか砂漠を超えてピラミッドに辿り着いたが…

「何だこりゃ?」
二人が目にしたのはピラミッドの壁を覆い尽くすおびただしい量のラクガキだった。
その内容は目や血しぶき、激しい暴力シーンと言った感じのもので
雰囲気は派手で破壊的、そしてパンク調とも見て取れる。

「へぇ~中々いい趣味してるじゃねぇか。…?この『T』はもしかして…」

カマキールが多少感心しながらラクガキを見ていると描いた者のサインと思しき「T」の文字に気付く。
そしてトリロビッチも何か気付く。

「ここに描かれた灰色の人物にこの動物みたいなライドチェイサー…これ描いたのは…あいつだな」
「ああ、トルクだな」

二人はラクガキの主がトルクであることを確信した。
トルクはこれまで大小様々な悪事を働いてきたが、ラクガキもそれに含まれていたのだ。

「まぁ…何つーか…自由な奴だな…」
「ああ…」

やがてピラミッドに潜入したトリロビッチとカマキール。
薄暗いピラミッド内で彼等を待ち受けていたのは数々のトラップにノーマルソルジャーやエジプト神を模したチーフソルジャー、
それにスフィンクスや蛇を模したメカニロイド達であった。

ここでティターンが通信を入れる。
「敵は兵力としてメカニロイドも配備している。
強さはノーマルソルジャーより弱いものからチーフソルジャーより強いものまで様々だ。
メカニロイドもバグと同化出来るが感情がない為同化出来るバグの量に限界があってね、
倒してもバグはあまり奪えないよ」

「そうかい、忠告有難う…よ!」
トリロビッチはクリスタルで敵を押し潰し、カマキールは鎌で敵を切り刻みながらトラップも突破していく。

しばらくすると二人の前に数体のフンコロガシのようなバグが出現した。
それらは体長が1m程もあり、小型昆虫程の大きさしかない通常のバグと比べるとあまりに大きすぎる。

「こいつらはもしかして…」
トリロビッチがバグを見据えながら過去に聞いた話を思い出していると
丁度その時ビビッドから通信が入った。

「彼等は『巨大バグ』。自分の器が分からず力を求め過ぎた者の成れの果てだよ。
弱いのにバグとの同化に依存し過ぎるとこれまで宿主と共生関係にあったバグは
寄生体になってまずは宿主に異常を発生させる。
それから宿主の中で成長してやがて宿主の体を食い破ると今度は捕食者に変貌する。
そうなったら宿主に飽き足らず他のレプリロイドも食べようとするんだよ。
キミ達もこうならないように気をつけてね…」

ビビッドからの通信が終わるや否や巨大バグ達はトリロビッチとカマキールを見つけ、
丸い岩を転がしながら襲い掛かってきた。

「ケッ、分際をわきまえず力に溺れた結果こんなウンコ転がしてるような奴に体乗っ取られちまうとは、
能無しにふさわしい惨めな最期だぜ。
ま、選ばれし者である俺達はこうはならねーけどな。
そーいや過去の大戦にはフンコロガシをモチーフにしたイレギュラーがいたと聞いた事があるが、不名誉なこったぜ」
「おいおい、スカラベはエジプトじゃ太陽神の化身として崇め奉られているんだぜ?
それにお前よ、一部じゃお前のモチーフはゴキブリだという噂があるぜ」
「誰がゴキブリかっつーの!
いいか、俺のモチーフは古生物の中でもメジャー中のメジャー、
三葉虫だ三葉虫!」
そうやって普通に会話しながらいとも容易く巨大バグを撃破していく二人。
撃破された巨大バグは通常の敵と同じくこの場から消滅し、
中には通常種のバグやクリスタル等のアイテムを落とすものもいた。
そうした巨大バグは既に宿主以外のレプリロイドを捕食していた、という訳である。

さらに進むと二人は一際大きな扉の前に辿り着いた。
「来たな、この感じ…この先に大物が待ち構えているんだろうけど覚悟は出来てるだろうな?」
「ああもちろん、今まで雑魚ばかりだったから両腕の鎌が疼いて疼いて仕方がないんだよ…!
ああもう我慢出来ねぇ、行くぞ!!」
トリロビッチの問いかけにカマキールは応じた直後、勢いよく扉の真正面へ飛び出したが…

「うおっ!?」
突如床が抜け、カマキールはそのまま落下していった。
床はすぐさま閉じ、しばらく経っても何も起こらなかった。

「ケッ、大事なところでつまんねートラップなんかに引っかかりやがってよ、
もういい、俺一人で行くぜ!」

穴の横幅は扉のそれに比べてはるかに狭く、その為トリロビッチは扉の端の前まで移動して扉を通過する。

扉の向こうは広く神聖な雰囲気のある部屋だった。
トリロビッチが部屋に入るや否や上から巨大な何かが勢いよく降ってきた。
それの凄まじい重量の為か落下と共に衝撃音が大きく鳴り響き砂埃が舞う。
その正体は背中と胴回りにロケットブースターを備え、掘削機のような両腕とプレス機のような下半身を持つレプリロイドだった。

「ようやくお出ましか…お前、エビルスレイヤーかジェイルキーパーだな?」

トリロビッチが問い、レプリロイドは答える。
「話が早い。俺はガイアマイスタ。ジェイルキーパーの一人だ。
お前等の事は既に聞いていてな、トラップを追加しておいたのよ。
ピラミッドの侵入者は二人と聞いてたがお前と一緒にいた奴はマヌケにもその罠に引っ掛かっちまったようだなぁ…ククク…」
「デカい図体の割にセコい真似すんじゃねーか。
それとよ、ピラミッドってのは墓なんだよ。
だから敢えてベタな台詞言わせて貰うぜ…
ここがお前の墓場となるのだ!!」

その頃カマキールは穴の下の地下室に着地していた。
「あーしくじっちまったなこりゃ…お?」
カマキールの前に重装備のチーフソルジャーが大勢現れて彼を取り囲んだ。

「ククク…まんまと罠にはまったな。
我々の確実な勝利の為に罠を仕掛けて戦力を分断させて貰った。
お前等の侵入の事もお前等がどんな奴等かも聞いててな…
遠慮無く行かせて貰うぜオラアアアアア!!!!!」

おびただしい武器と殺意をカマキール一人に向けて迫り来るチーフソルジャー達だったが…

「それは結構な事だ。そんな事より俺は久々に獲物の泣き声を堪能したいなぁ…へへへ…へへへへへへへ…」
カマキールは臆するどころかむしろ嬉しそうだった。
程無くしてチーフソルジャー達は次から次へとシャドウランナーに射抜かれ身動きが取れなくなっていく。
瞬時に劣勢に追い込まれた事とカマキールの狂気に満ちた様子を目にしたチーフソルジャー達の
先程までの闘志はとうに消え失せ、あとは恐怖と絶望に支配されるばかりであった。

「聞かせてくれよ~お前らの泣き声をよぉ~!」

それからのチーフソルジャー達の様子は悲惨を極めた。
退路も絶たれすぐには死なせて貰えずバグで切れ味を強化された鎌で
体を少しずつ切り刻まれたり体力を吸われたりしていったのだ。
地下室にカマキールの笑い声とチーフソルジャー達の悲鳴がこだまする。

同じ頃上の部屋ではトリロビッチとガイアマイスタの戦いが繰り広げられていた。 

「おりゃあっ!!!」
ガイアマイスタが勢いよくジャンプしトリロビッチの頭上目がけて落下してくる。

ロケットブースターの為かその落下速度は速く回避が間に合わないと判断したトリロビッチは防御体勢をとる。

「う…おおお…」
アーマーの恩恵で大ダメージは免れたトリロビッチだったがガイアマイスタの重量とパワーの為何秒も持ちこたえられるものではない。
ハンター達のクラッキング性能のある攻撃を思い出させる。

トリロビッチはそのように感じて身を横に逸らして脱出した。

「もいっちょ行くぜ!」
自らの重量による衝撃をものともしないガイアマイスタは間髪入れず再び踏み潰しにかかってくる。
今度はトリロビッチは回避したが直後異臭に気付く。

「何だぁこりゃ、ションベンか?」

先程ガイアマイスタが踏んだ位置が醜い色の液体で満たされており、不気味な色の湯気と異臭を放ちながら泡立っている。

「そいつは強酸だ。アースチェンジャーと言ってな、俺は踏んだ場所を様々な地形に変える事が出来るんだよ。
チョコマカ逃げてっと逃げ場無くなんぜ~!」

そう言ってガイアマイスタは続けてジャンプしては踏み付けにかかってくる。
トリロビッチはそれを避けるもののガイアマイスタが踏んだ跡は強酸の他にも
マグマ、棘、氷、粘着性の強い物質、狂った磁場等あらゆる特殊な地形へと変わっていく。

「どうしたどうした~!!ピンチなんじゃねーの~!!」
「…………」

避けるばかりで防戦一方のトリロビッチ…かに見えた。

「こんなもん、ピンチでも何でもねーんだよ…ウォールウェーブ!」

トリロビッチが無数のクリスタルを発生させ、何とそれらは変化した地形の上に倒れていきフタをしてしまったのだ。
地形の種類によっては徐々にクリスタルを壊していくものもあったが1、2秒持てば充分である。
「からの~…バウンドブラスター!!」

続いていトリロビッチはバウンドブラスターを繰り出す。
無数の弾が壁から壁へ、クリスタルからクリスタルへ、そしてトリロビッチのアーマーを弾いて乱反射する。
ガイアマイスタはその巨体の為格好の的となりじわじわとダメージを受けていく。

「(こ、この野郎…このままじゃジリ貧だぜ!
いや、まだあの手がある…!
一瞬で塞げないような深ーい穴を開けるって手がな!
ここはブチ切れたフリをして奴に隙が出来た時…そこを突く!!)」

そう考えたガイアマイスタは…

「ウオオオオーッ!!!調子に乗るなぁぁぁあ!!!!!!」

激昂したフリをして一気に攻撃の勢いを強めた。
これにトリロビッチは何とか対処するものの余裕が無くなっていく。
そしてある時…

「そこだ!!」

トリロビッチが動きを止めた瞬間ガイアマイスタは今までで最高の速度で急降下する。

「クッ…」
限界までうずくまるトリロビッチだったが…

「何てな、クリスタルウォール!!」

トリロビッチの足元から途轍もなく巨大なクリスタルが隆起してきた。
そしてそれはそれ自体の突き上げる勢いとガイアマイスタの落下する勢いの相乗効果で一気にガイアマイスタの体を貫いた。

「ゴヘェェエエェェア!!!!」

半ば自滅するような形で最期を迎えたガイアマイスタはディスル程ではないが大量のバグを落として消滅した。

「ハッハー、どうだ見たか、能無しがーっ!ポンコツがーっ!」

トリロビッチが浮かれていると地下室を脱出したカマキールが部屋に入ってきた。

「いやぁー悪い悪い、ちょいとしくじっちまってねぇ~」
「その割には何か嬉しそうじゃねーか。…ん!?これは…」

トリロビッチが先程出現させたクリスタルの中に何かがあるのに気付いた。

「ファイルバグだな。どれどれ…」

ファイルバグとは、あらゆるデータファイルの入ったバグである。
同化するタイプではなく、至近距離まで近寄った者の思考を拾うと
その者の頭の中に情報を送信する他成長させれば一度に多くの者に映像を見せる機能がある。

トリロビッチとカマキールは早速このファイルバグを調べてみる。
バグに入っていた情報はこのエリアに捕らえられたレプリロイド達の犯罪記録であった。

「…デヘヘ…デヘヘへへへへ…」
「いいねいいねいいねぇ~!」

しまりのない様子でファイルバグの内容に見入る二人。
しかししばらくした時…

「いけね!こんな事してる場合じゃねぇ!」
「どうしたってんだよぉ~?」

トリロビッチは我に返った。

「さっき俺がこの部屋で倒したのはジェイルキーパーでな、このエリアにはまだ残ってんだよ、…エビルスレイヤーがよぉ」
「このピラミッドは単なる中継地点って訳だな。
そうと分かれば先を急ぐとするか」

二人は部屋の中に出口へ繋がる扉を見つけ、先へと急ぐ。

その頃VAVA-VIは砂嵐が吹き荒ぶ中歩を進めていたが、突如その砂嵐が止んだ。

「嵐が、止んだだと?」

その時ゴルゴダから通信が入った。

「随分無茶をしたようだな。
今しがた砂嵐が止んだのはここの防衛システムの一つがダウンしたからだ。
即ちここのジェイルキーパーが倒された、ということだ。
このエリアの中枢はもう近くだぞ」
「そうか、やはりこの先に…いるんだな」

元より備えた勘なのか、同化したバグによるものなのか、それともその両方からなのか… 
VAVA-VIはピラミッドに到達した時点で非常に強大で禍々しい気配を感知しゴルゴダの通信を無視して砂嵐を突っ切ろうとしていたのだった。
そして今、視界が晴れて一気に進んだ先にはこのエリアの中枢である町があった。
町はそれまでと打って変わってメキシコ風で荒廃した雰囲気だった。
「建物は障害物にもなるが攻撃から身を守ったり身を隠すのにも利用出来るだろう」
「そうかよ」

ゴルゴダの通信を聞いたVAVA-VIは町に足を踏み入れる。

最初に彼を出迎えたのはここに捕らえられた数体のレプリロイド達であった。

「ウゥゥ~…く、くれよぉ~…例の…ブツを…くれよぉ~…」
レプリロイド達はスケベそうというよりむしろラリっているような様子で
不気味な唸り声を上げながらふらふらとした足取りで歩みよってくる。

「邪魔だ!」

VAVA-VIは彼等を一掃して進むと路地裏で同じようにラリったレプリロイド達がギャング風のレプリロイド達にリンチされているのを目にした。

「ほぉ~れ、これが欲しいんだろ、スケベ野郎…だったら俺達の言う事何でもするんだよなぁ、オイ!」

ギャング風のレプリロイドは片手にバグをかざしながらラリったレプリロイド達にあらゆる暴力を振るっている。

「ジャンキーバグ…同化する事で一時的に力と高揚感を得るが効果が切れると苦しみを覚え心身共に破壊されていく、か」

アナライズバグでギャング風のレプリロイドが手にしたバグを解析したVAVA-VIが言い放つ。

「だったらそれは要らないな。お前等のバグを頂くとしよう」
「貴様は…侵入者の一人…!野郎共、やっちまえぇぇえーっ!!」

ギャング風のレプリロイドはノーマルソルジャーだった。
VAVA-VIは彼等を蹴散らし町を突き進む。 

さらに進むと今度は砂漠地帯用のライドアーマー「キャメル」に乗ったチーフソルジャーが現れた。

「よくもうちのシマ荒らしやがって…これでも喰らえ!!」

チーフソルジャーのライドアーマー操縦技術は決して低くはなかったがVAVA-V Iの前では児戯に等しかった。

「そいつはお前には勿体ない…俺が有効利用してやるよ!!」

そう言ってVAVA-VIは敵の頭上に飛び乗りすかさず頭を握り潰しライドアーマーとバグを奪った。


鬼に金棒、VAVAにライドアーマー。
VAVA-VIがライドアーマーに乗ってからは辺りに彼自身による攻撃、吹っ飛ばされた敵、瓦礫等が宙を舞って飛び交う壮絶な光景が繰り広げられた。


「ノってきたぜ、やっぱりコレがないとよぉ!ハハハハハハハ!!!!!」


敵はひたすら砕かれ、潰され、投げられ、蹴散らされていった。


この快進撃は留まることを知らないかのように見えたが、いつまでも続くという訳ではなかった。
VAVA-VIが周囲を花の咲いたサボテンに囲まれた円形のステージの前に到達した時、
先程感じた強大な気配の主がすぐ近くにいる事を感じ取ったのだ。
「いるな、ここに…!」
静寂の中、乾いた風が吹き渡る。
緊張がピークに達した時、それは起こった。


突然ステージの下から大量の砂が噴出し、砂埃の煙幕が視界を遮った。
「来るぞ…!」


VAVA-VIは身構える。
視界が晴れてきた時、砂埃の中から姿を現したのはサボテンとメキシコ衣装を象った姿をした長身痩躯のレプリロイドだった。


「お前がここのボス…エビルスレイヤーだな!?」
VAVA-VIが問う。


「大正かーい!!ワタシがこの


エリアを統括するエビルスレイヤー、ニードル・サボテニクスでタコス!!」
サボテニクスは続けて言う。
「遠路はるばるここまでやって来たアナタの努力は認めるタコス…
しかーし!世の中からスケベを一掃するという崇高な使命の為、ワタシも負ける訳にはいかないタコス!」


「ハ?何だそりゃ!?」
挑発的な口調で言い返すVAVA-VI。


「野獣でもないのに性欲に身を委ね淫らな行為に走るのが言語道断なのは言うまでもないタコスが、
必要以上に性にガツガツしてるのは醜くてみっともないタコス!
そんな輩はワタシが根絶やしにして世の中を綺麗にしてやるタコスーっ!!」


力説するサボテニクスに対しVAVA-VIは冷静かつ呆れ返った様子で答える。


「あのな、いい女見て興奮するなっていうのは基本無理な話だし
そうやってスケベを殺しまくっていると殺されたくないからスケベじゃない振りをする輩も出てくるぜ?
そういう輩の方がよっぽどみっともないと思うがな。
それと、スケベはダメで強制労働とシャブはいいってのもおかしな話だな」


「うるさいタコスーっ!!
どの道アナタ達はここを含む4つものエリアを解放したスケベ以上の重罪人タコス!
このワタシ自らの手で葬られるのを光栄に思うタコス!!」


サボテニクスが言い放った直後、両者共構えをとった。
乾いた風がまた吹き渡り、風の音が止んだ時に先に仕掛けたのはVAVA-VIだった。
ライドアーマーの剛腕でサボテニクスに殴りかかった。
…しかしライドアーマーの拳はサボテニクスの体をすり抜け、空しく空振りとなってしまった。


「今度はこっちの番タコス!」


サボテニクスが殴りかかる仕草をすると直後あらぬ方向からライドアーマーが凹み、爆散した。


「(蜃気楼か…!)」


予備知識によりこのトリックを見破ったVAVA-VIであったが敵は反撃の隙を与えてくれない。


ライドアーマーから脱出し、着地したばかりのVAVA-VIを次に頭上からの連続攻撃が襲う。
「…!!」
少し離れた位置ではサボテニクスがマラカスを振るような動きをしているのが見える。
「お次はこれタコス〜!」


そう言ってサボテニクスはVAVA-VIに様々なプロレス技を決めていく。
「ぐ…は…!!」
「ワタシは『外の世界』に伝わるというルチャリブレ(メキシカンプロレス)を極めているタコス!
とくと味わうがいいタコス〜!」


はたから見ると両者の位置は離れており、パントマイムショーにしか見えないだろう。
実際はサボテニクスが蜃気楼で敵の目に映る自分の位置をずらしており、
直に攻撃を加えているのである。
されるがままのVAVA-VIは次第に体が凹み、亀裂、そしてトゲによる穴で覆われていく。
しかしある時…


「…踏み台だ…」
VAVA-VIが何か一言呟いた。


「あ、何か言ったタコスか?聞こえないタコス〜」
「お前等は所詮踏み台だって言ったんだ…よ!」


冷静さを取り戻したVAVA-VIは攻撃を受けた方向に向けてゴールデンライトを放った。
「ブギャ!!」
至近距離からのゴールデンライトを喰らったサボテニクスは後方へ吹っ飛んだ。
と同時に蜃気楼が消え、サボテニクスは本来の位置に姿を現した。


「まぐれで当てたぐらいでいい気になるなタコス〜!
もう少し本気出していくタコス!!」


そう言ってサボテニクスは再び蜃気楼を出現させ、攻撃を仕掛けるが…


「バカめ、バレバレだ!」
蜃気楼が不完全だった為VAVA-VIの視界には半透明になった2体のサボテニクスが映っていたのだった。
VAVA-VIは即座に肩、腕、膝の兵装からサボテニクスに集中砲火を浴びせる。


「ゲボオオオオオ!!!!!」


VAVA-VIと同じ位か、それ以上にボロボロになっていくサボテニクスだったがある時一気に距離を取って攻撃をしのいだ。


「バカな…バカな…こんな…これ程の強さとは…
あり得ないタコス!信じられんタコス! 
…ニードルバレット!!」
そしてサボテニクスは次に何体もの自分の分身を蜃気楼で出現させ、走り回りながら拳のトゲを放ち始めた。
今回の蜃気楼は完全に本物と見分けがつかなくなっていた。
またこのトゲは放たれたそばからまた新たなトゲが生えてきてそれもすぐ飛ばすことが可能である。


四方八方からトゲが飛んでくるかのように見えるこの技であるが本物の位置を目で追っていたVAVA-VIは
攻撃を避けつつ距離を詰め始める。


「お前、強敵と戦った事があるか?自分に対抗する力を持ち本気で自分を殺しにかかってくる敵とよ」
「……」
「俺はあるぜ。そいつの攻撃は、こんなもんじゃなかった。
それに引き換えお前はどうだ?どんな訓練受けたか知らないが大方自分より遥かに弱い奴を一方的に甚振るだけだろう!?
そんな温室育ちに俺が負けるか!!」
「だ、黙るタコス!!」
「ああ、足元に気を付けろよ?」

VAVA-VIは移動しながら何かを放っていた。
それが今、サボテニクスに炸裂する。

「お、おおお…」
「サーチバグ…攻撃用の使い捨てのバグで地を這い標的を見つけそれに直行するバグだ。
俺がここに送り込まれて手にした力の一つだ」

サボテニクスは攻撃を受け続け、蜃気楼の解除も余儀なくされるがまたしても距離を取った。

「己~!己己己ぇ~!!…これならどうタコス!
デザートカーニバル!!」

サボテニクスは自身を中心に砂の竜巻を発生させ、同時に体中のトゲを飛ばし始めた。
さらにその状態でVAVA-VIに近付いていく。
対してVAVA-VIは続けてサーチバグを放ち続けるも回転の勢いで弾かれてしまう。
他の飛び道具も同様だった。

「なら…!」

VAVA-VIはサボテニクスに向かってダッシュし、そのまま掴みにかかった。
トゲと回転でダメージは受けるものの何とか勢いを殺す事ができた。

「こ、この!離すタコス!!」
「…バーニングドライブ!」
「ぎょおおおおおお!!!!!!!!…この!この!」

バーニングドライブで激しく燃え上がるサボテニクスだったがそれでも尚抵抗し、
VAVA-VIを振りほどこうと殴りつけてくる。

「んー、火力が足りなかったかな?…やっちまえ!」
VAVA-VIから複数の物体が放たれた。
それらは攻撃用のバグであり、上空には蛾のようなバグが、周囲にはミイデラゴミムシのようなバグが両者を囲む位置で静止した。
直後蛾型のバグからは鱗粉が降り注ぎミイデラゴミムシ型のバグの尻からはガスが噴出された。
そしてそれらは炎の勢いを急激に強めたのであった。

「どうだスケールスバグの鱗粉とファートバグの屁の引火性能はよ!
燃えろ燃えちまえ!!ハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

決定打となったのかサボテニクスは攻撃の手を緩めた。そして…

「嫌だタコス…『外の世界』の事を何も知らずに…誰にも認められずに…
こんな…所で…消えていくなんて…」

サボテニクスは無念そうにそう言いながら手を空に掲げた。
そしてディスルよりも遥かに大量かつ上質なアイテムを撒き散らして消滅した。

「敗者の気持ちなんぞ知るか。負けた方が悪いんだよ。
…見ていろエックス!俺はこれからもここの障害を乗り越えて、貴様に復讐しにいくからな!!!」
キッと空を睨んで叫ぶVAVA-VI。

しばらくしてスパイダーズスレードからサボテニクス撃破の報告を受けたトリロビッチとカマキールは悔しがったが
すぐさまシグマの待つ司令室(入り口と4つのエリアを結ぶ部屋)に戻った。


第五話「迷える者」

悪知恵の迷宮… 豊富な知識や優れた技術を悪用したレプリロイドが送られるエリアである。 このエリアには送り込まれた者を肉体的・精神的の両方において苦しめるありとあらゆる仕掛けが用意されている。 ここには特に頭脳面で優れるアントニオンとサンフラワードが派遣されていた。 「確かに入り組んではいますが、これぐらいなら我々には容易い事…でしょうアントニオン?」 「その通り。答が1つしかない事に、私は迷わない」 道中はいくつも枝分かれしていたが2人は一度通った道を忘れる事なく順調に進んでいく。 上を見上げると高い位置に壁を貫通する大きな穴が何ヶ所も開いていたが2人はそれにかまう事なく進んでいく。 さらに進むと曲がり角から体が液体金属で出来たノーマルソルジャー達が襲い掛かってきたので2人は彼等を難なく返り討ちにした。 すると彼等はバグやクリスタル等の通常アイテムの他にDNAコアを落とした。 「ふむ、何かの役に立つかもしれませんね…」 アントニオンはそれを取った。 それ以降も先程と同じく液体金属で出来たタイプ、 他には腕にドリルを装備したタイプや火炎を放つタイプのノーマルソルジャー達が2人に襲い掛かってきたが 同じようにあっさり薙ぎ払われDNAコアを含めたアイテムを提供する事になってしまう。 ここでティターンが通信を入れた。 「このエリアは送り込まれた者を精神的に苦しめる様々な工夫がされていてね… 例えばこのエリアのメカニロイドは見る者に恐怖心を与える為 それは恐ろしい姿に造られている。 並大抵の者は対峙しただけで戦意を喪失してしまうだろう」 「ご忠告わざわざありがとうございます。ま、どうせ見かけ倒しでしょうけどね」 「恐怖心…それは生存本能からくるもの。 故に時として人を突き動かす原動力にもなろう」 あくまで落ち着き払った態度で答える2人。 そしてしばらく進むと壁や床を這う大型で不気味な姿をしたメカニロイドやそれと同じぐらい不気味な巨大バグが出現した。 しかし出現とほぼ同時に彼等もあっけなく撃破された。 「虫の姿に造られた私が言うのも滑稽かもしれませんが、他者を怖がらせる為だけに あのような姿に造られた彼等にはむしろ哀れみすら感じますよ。 おや、これは…」 アントニオンが敵が落としたアイテムの中から何かを見つけた。 「ファイルバグ発見!これより分析を開始する」 サンフラワードがそれがファイルバグである事を察知し、2人はその中の情報を探る。 ファイルバグの中に入っていた内容はこのエリアの過去の出来事であった。 「サッカー楽しいなぁ~!ウヒャヒャヒャヒャヒャ!!」 「へいパース!!」 このエリアのチーフソルジャーである科学者風のレプリロイド達が 何かを蹴飛ばしながら楽しそうに遊んでいる。 「も、もう勘弁してくれぇ~」 彼等がサッカーボールの代わりに蹴り回していたのは頭部だけになったDr.サイケであった。 「フォースメタルとかいうインターバグに負けず劣らず素晴らしい技術を悪用するからこんな目に遭うんだよ~っ」 「こいつ首だけで生きてられるタイプのレプリロイドだからボールにはうってつけだな、ギャハハハハハハ!!!」 「ヒイィ~!」 悲鳴を上げるサイケに構わず彼を甚振り続けるチーフソルジャー達だったが… 「へぇー面白い事やってんじゃねーか。俺も混ぜろや」 「ああいいぜ…って貴様は…!」 後ろからの声に対してチーフソルジャーが振り返るとそこには僅かに浮いたエゴイスティックビーストに寄り掛かって佇むトルクがいた。 「例の『堕落者の学び舎』から逃げ出してきたって奴だな!? ここはインテリ系の罪人が送り込まれるエリアだ、貴様のようなチンピラは場違いなんだよ!」 「こいつみたく俺達のオモチャになるってんなら歓迎するけどよぉ~」 絡んでくるチーフソルジャー達をよそにトルクはサイケに向かってツカツカと歩み寄りスッと手を伸ばす。 「へ、もしかして助けてくれ…」 サイケが言い終わる前にトルクはそのまま彼を掴み… 「ボーリング楽しいなぁ~っ!」 「ギャーッ!!!」 ボーリングの要領でサイケをチーフソルジャー目掛けて投げつけ、 その結果サイケは数体のチーフソルジャーを巻き込んで高速ですっ飛んでいき、彼等と共に壁を突き抜け死亡した。 「…え!?…え…!?」 チーフソルジャー達が唖然とする中次にトルクは長い棒状の物体を手元に転送させる。 これは先端部分を様々な形に換装出来る彼専用の武器「トルクロッド」である。 この時そのトルクロッドの先端はハンマーの形状になっていた。 そして… 「野球楽しいなぁ~っ!」「ギエーッ!!!」 トルクはトルクロッドを野球のバットのように振り複数のチーフソルジャーを打ち飛ばした。 同様に彼等も超高速で飛んでいき壁を突き抜け死亡した。 「こ、この…!」 怖じ気づきながらも挑みかかってくるチーフソルジャーをトルクは素早く足払いで転ばせ、その直後踏み付ける。 踏み付けの力は非常に強くチーフソルジャーは動きを完全に封じられてしまった。 「ゴルフ楽しいなぁ~っ!」 「ウボァーッ!!!」 トルクはトルクロッドを今度はゴルフクラブのように振り、チーフソルジャーの頭を打ち飛ばした。 結果そのチーフソルジャーはもちろん、彼の頭部が激突したチーフソルジャーもその衝撃で吹っ飛ばされ死亡した。 「た、助け…」 最早戦意を喪失したチーフソルジャー。 トルクはトルクロッドを転送させ手元から消すとそのチーフソルジャーを両手で抱える。 「バスケ楽しいなぁ~っ!!!」 「ギョエーッ!!!!!」 バスケットボールのシュートの要領でトルクに投げられた彼は壁を突き抜け即死した。 このようにトルクの攻撃を受けた者は自身が大きな砲弾と化し本人はもちろんその者とぶつかった者も余程の強者でもない限り即死してしまうのだ。 「あー楽しかった楽しかった」 この場にいたチーフソルジャー達を瞬く間に全滅させたトルクは身に宿したバグの1つ「バキュームバグ」の力で敵の落としたアイテムを回収した。 「さて、それじゃこの辺でずらかるとするか」 そう言ってトルクはエゴイスティックビーストに乗り、超高速で壁を突き破りながら飛び去っていった。 情報はここまでであった。 彼に殺された者達は皆その場から消滅したがその爪痕はこのエリアの至る所に残されたのである。 これを見た二人は… 「いやはや、出来る事なら彼とは二度と関わり合いになりたくないですねぇ」 「同じく。彼は存在そのものがエラー…無効なコードと言えよう」 「ほー懐かしいじゃねーか」 後ろからの声に振り向くアントニオンとサンフラワード。 そこにはそのトルク本人がいつの間にかいたのだった。 「」 アントニオンは無言で額に手を当て、サンフラワードは両手の掌を上にして肩をすくめながら首を横に振った。 「何の用ですか」 アントニオンの問いにトルクは応じる。 「バグ、集めてるか? 用なら決まってんだろ。 前にも言ったようにバグを奪いに来たんだよ。 ジェイルキーパーか、エビルスレイヤーか、その両方のな! 俺はもう行くからよ、お前等はせいぜい雑魚野郎共のバグでも集めてろ! ハァーッハッハッハッハ!!!!」 そう言い残しトルクはエゴイスティックビーストで飛び去って行った。 ファイルバグの映像と同じく壁を突き破りながら… 「相変わらず野蛮な方ですね…あのような輩に遅れを取るわけにはいきません」 アントニオンがそう言いつつ先に進もうとするとビビッドから通信が入った。 「確かに彼のやり方は感心しないねぇ。 だって貴重なアイテムとか近道とかをスルーしまくりだもん。 例えば新世代の人達ならここのエリアの敵のDNAコアを使って行けない場所に行ったり隠された物を見つけたり出来るんじゃないかな。 とは言っても、トルク自慢のライドチェイサー、エゴイスティックビーストは凄く速いから油断しない方がいいけどね」 「DNA…」「コア…」 通信を聞いた二人はこれまでの道のりで敵がDNAコアを落とした事を思い出す。 実際進んだ先ではそれらを使ったコピー能力を駆使して至る所で隠しルートや隠しアイテムを見つける事が出来た。 もっとも、こうした隠しルートや隠しアイテムの全てが良い物であるとは限らなかった。 というのも隠しルートの先に大勢の敵が待ち構えていたり 隠しアイテムだと思ったらアイテムに擬態したメカニロイドだったりする場合が稀ではあるがあったのである。 それがこのエリアのいやらしいところだった… それでも何とか先へと進んできた二人はしばらくすると一見先へと続く通路が無く何もない部屋に辿りついた。 ただ1つ、画面とキーボードのあるコンパネを除いて… この時、ゴルゴダが通信を入れた。 「この先に進むためには部屋のコンパネを起動し、そこで出題される問題に答えなければならない。 問題に正解すれば先に通じるワープゲートがこの部屋に出現するのだが不正解ならペナルティが発生する。 そしてもう1つ、コンパネを起動すると同時に制限時間のカウントが始まる。 時間切れでもペナルティが発生するから気を付けろ」 「ペナルティ、と言いますと?」 アントニオンが問い、ゴルゴダは答える。 「例えば部屋のトラップの発動、敵兵の大挙、スタート地点にまで転送される、といった具合だ。 準備が出来たらコンパネを起動させろ」 「さて、どんな問題なのか…」 アントニオンがコンパネを起動させると画面に問題が現れ、制限時間のカウントも画面端に表示される。 問題は以下のとおりである。 次のレプリロイドの内、レプリフォースに所属していなかったレプリロイドはどれか? ①ワイヤー・ヘチマール ②フロスト・キバトドス ③スパイラル・ペガシオン 「何と言う愚問だ!」 アントニオンは迷わず①を選択しその結果道が開けた。 しばらく進むとまた同じような部屋があり、今度はサンフラワードがコンパネを起動させた。 そして問題が表示されるのだが… 今度の問題はいわゆる間違い探しなのだがその画像は大戦の惨禍を表すあまりにもグロテスクで惨たらしい写真とそれを加工した画像であり、 並の神経の人が見れば吐くか卒倒する程である。 凝視するなど以ての外だ。 しかしサンフラワードは瞬時に二つの画像の違いを見抜き、見事正解してみせた。 「この程度で心を乱されるのは旧世代の愚か者だけだ!」 その後も二人は敵を倒しながら問題を解き続け、先へ先へと進んでいった。 知識や推理力が試される問題は二人は楽勝で解く事が出来たのだが 感性が試されたりあまりにマニアックなひっかけ問題はこの二人でも不正解となる場合があり、ペナルティを発生させてしまう事もあった。 また問題には見る者を不安・不快にさせる内容のものが多かった。 しかしそれらは今の二人にとって苦でも何でもなくついには最後の問題が出題される部屋に辿りついた。 最後の問題の内容は以下の通りである。 ヤコブ事件やギガンティス事件に関与した新世代型レプリロイドについて。彼等はどのような存在か。 ①非常に優秀で高等な存在である。新しい世界を担う価値ある者達である。 ②ただの狂ったイレギュラーである。プライドばかり高い惨めな負け犬で無価値な連中である。 ③どちらとも言えない。誰が正しいのか決定する権限は誰にもない。 「」「」 二人は沈黙しながら顔を見合わせ、考えを張り巡らせた。そして… 「有効なコードは1つだけ…だがどれも正当なコードだ…」 「…と言いますと?」 先に考えを述べたサンフラワードにアントニオンが尋ねる。 「①は我々にとっては事実だが旧世代にとっては虚偽だろう。②はその逆だ。③は旧世代の連中が言いそうな事だが 自分達が我々と対等だという思い上がった考えともとれる」 これを聞いたアントニオンは暫し考えると、彼なりの考えを述べる。 「サンフラワード、今まで敵がどのような態度で我々に接してきたか振り返ってみましょう。 いずれも我々を見下し理解しようともしなかった方ばかりじゃないですか。 この問題の出題者も同じ考えのはず。という事は求める答えは…」 言い終わるや否やアントニオンは②を選択した。 「ああ、何という事を…」 サンフラワードは嘆くがどうやらそれが正解だったようだ。 正解を告げるアラームが鳴り響き、ワープゲートが出現するのだが今回それは2つあった。 「ま、ここは迷路ですからね。こういう方が自然でしょう」 「ではこれより別行動を開始する」 二人は別々のワープゲートに入る。 アントニオンが通った先では… 何も無く静寂が包む広い部屋に出た彼だったがしばらくすると突然独特な音が鳴り響き 上の方を見ると面の1つの中央に目らしき物がある大きな立方体が出現していた。 立方体は独特で珍妙な音でワープ移動を繰り返しながら声を発する。 「私は」「ジェイルキーパーの」「マジック・ザ・ブロック」 「それは」「さておき」「貴様」「最後の」「問題を」「解いたな!?」 「それは」「自分で」「自分を」「無価値と」「認めた」「こと」「だろう!?」 これに対しアントニオンは呆れた様子で言う。 「少しは落ち着いたらどうです? あの問題はですね、わざわざ貴方方の考えに合わせて差上げただけなんですよ。 本当の正解が何番なのか、身を以て教えてあげましょう」 サンフラワードが通った先では… そこは「100」と表示された大型モニターのある広い部屋だった。 彼がこの部屋に入って間もなく彼の周囲数ヶ所にワープゲートが出現し、 そこから小型メカニロイドが転送されてきて襲いかかってきた。 「レイスフィア!」 サンフラワードがレイスフィアでその中の1体を捕獲し、それはそのまま部屋中を跳ね回り、 衝突したメカニロイドを破壊していく。 メカニロイドが破壊される度にモニターに表示される数字が減っていく。 「ふむ、そういう事か…」 順調にメカニロイドを撃破していくサンフラワードだったがある時出現する敵がノーマルソルジャーに変わった。 さらにそれを撃破していくと敵はチーフソルジャーに、そしてそれも撃破していくと大型メカニロイドに変わった。 しかし彼等はいずれも最初にレイスフィアで捕らえたメカニロイドが激突するとともにその数を減らしていく。 やがてモニターに表示された数字が「2」になった時… ワープゲートから首から下を大型メカニロイドに換装したチーフソルジャーが出現した。 彼が自分に迫って来る光のネットに包まれたメカニロイドを破壊するとモニターの数字が「1」に変わった。 彼がこの部屋の最後の敵のようだ。 「調子に乗りやがってこの野郎…俺の頭脳と大型メカニロイドの力が1つになったからには「アースクラッシュ!!」 「ギィアアアアア!!!!!」 チーフソルジャーはアースクラッシュで瞬殺され数字が「0」になった。 そしてその直後ワープゲートが出現した。 一方アントニオンはマジック・ザ・ブロックから放たれる弾を回避したり スクイーズボムで消しながら反撃の機を伺っていた。 マジック・ザ・ブロックが出現した瞬間キューブを落とすも全く手応えが無い。 攻撃の為に目を開いた瞬間にキューブを投げつけるもすぐに目を閉じ消えてしまう。 「無駄だ」「無駄だ」「無駄だ」「喰らえ」「喰らえ」「喰らえ」 出現、攻撃、消滅を繰り返すマジック・ザ・ブロック。 彼が目を開く間はあまりに短かかった。 見てからでは攻撃を当てられないと思わせる程である。 そう判断したのか否か、アントニオンはある時自分から攻撃を止め回避に専念し始めた。 「どうした?」「打つ手無しか?」「ジワジワと」「甚振って」「やろうか?」 調子に乗ったマジック・ザ・ブロックが出現した時だった。 「重波斬!」 出現と同時にアントニオンがマジック・ザ・ブロックの目に攻撃を当てた。 「そんな…」「馬鹿な…」「私に」「攻撃を」「当てるとは…」 「ランダムに攻撃していたつもりでしょうが、癖が出てましたよ貴方」 アントニオンはマジック・ザ・ブロックの攻撃パターンを計算していたのだった。 「己…」「これなら」「どうだ!?」 仕切り直しと言わんばかりにマジック・ザ・ブロックは次にダミーのブロックも出現させ、地形を這う弾も放ってきた。 しかしその攻撃を始めてそれ程経っていない頃… マジック・ザ・ブロックが攻撃すべく出現した側からアントニオンが彼の目にブロックをぶつけた。 「な…!?」 「だから少しは落ち着いたら、と言ったでしょうが。先程よりも攻撃が単調になってましたよ」 マジック・ザ・ブロックは落下した。 「無念だ…これも計算なのか…それとも貴様は…未来が…読める…のか…」 ワープする事が出来なくなったマジック・ザ・ブロックは最期の最期に普通に喋りつつバグを落として消滅した。 それと共に部屋にワープゲートが出現する。 「無論計算ですよ。それと、未来は読むものではなくて我々が創るものなのです」 その頃ルミネはこのエリアの奥を凄まじい速度で進んでいた。 そこでは転がる大岩、吊り天井、鉄砲水、消える足場、レーザー砲、地雷などありとあらゆるトラップが待ち構えていたのだが ルミネはそれらを針穴に糸を通すが如く正確に、且つ迅速に突破していく。 「す、すげえ…じゃなくて、やれ!」 そんなルミネの進撃に敵すらも見とれかけるが、我に返って彼に襲い掛かる。 「フフ、愚かな…」 「ギャアァァァアーッ!!!!」 そして、あっさりと返り討ちに遭うのだ。 そんな中ルミネは道中でファイルバグを発見した。 「ファイルバグですか…興味深いですね」 このファイルバグに入っていた情報だが、映像も音声も不完全だった。 「『幼虫』でしたか…」 内容はどことも知れぬ寂れた街で2体のレプリロイドが戦っている場面から始まっていた。 1体は見覚えのある巨人の如き巨大なレプリロイドで、 もう1体は見覚えのあるレプリロイドでこちらも大柄ではあるがせいぜい「大きい人」程の大きさだった。 戦闘力は巨大なレプリロイドの方が圧倒的に高かったのだが大柄なレプリロイドは中々諦めず何度も挑みかかってきた。 しかしその能力差かこの戦いは巨大なレプリロイドに軍配が上がった。 そしてその様子を見覚えの無い長身痩躯の男と同じく見覚えの無い背は低めだが恰幅のいい男が遠巻きに見て高らかに笑っていた… 映像はここで終わっていた。 試しに所持していたバグクリスタルを全てこのファイルバグに与えたものの完全に成長しきらず映像と音声が微妙に明瞭になっただけであった。 「不完全な情報でしたが…どうやら私の予測通りなのかもしれませんね」 次にルミネの前に立ちはだかったのは先述のサンフラワードが最後に撃破した 首から下が大型メカニロイドになっているチーフソルジャーだった。 それも、おびただしい数で… 「死ねぇぇぇい!!!!」 一斉に襲い掛かるチーフソルジャー達。 これに対しルミネは上空へと飛び上がると彼等に向けて使い捨てのバグ「クラックバグ」を撒き散らした。 このバグはサブウェポン「クラッカー」と同様の効果を持ち対象を「暴走」状態にさせる。 「シネシネシネシネシシシシシシシ…」 チーフソルジャー達は敵味方の区別がつかなくなり、結果互いに互いを攻撃し、ほぼ同時に爆死し始めた。 爆発は連鎖し大規模なものになっていき、ついには部屋の壁を吹っ飛ばした。 すると吹っ飛んだ壁の先にワープゲートがあったのでルミネはそれに入る。 同じ頃アントニオンとサンフラワードもこのエリアの奥に進んでいた。 「あのような方に先を越されると新世代型レプリロイドの沽券に関わりますから…」 「エビルスレイヤーも我々で排除する」 彼等は先述の分かれ道の先の敵を倒した後、すぐに合流していたのだった。 二人はこれまでの経験を踏まえ確実にトラップを突破し、隠しルート、隠しアイテムを見つけながら進んでいく。 その一方でトルクもエゴイスティックビーストでここを突き進んでいた。 「オラオラどけどけ雑魚野郎共がよぉーっ!!!」 彼はトラップを気にせず目に映る物を片っ端から破壊しまくり強引に進んでいく。 その頃ルミネは… 「この強力な反応…間違いなくこの部屋にいますね…」 ワープゲートの先の部屋に入ったルミネが身構えると突如部屋の壁や天井からブロックが現れ部屋の中央に集まっていった。 そしてそれらのブロックは散り散りになり中からルミネとさほど変わらない大きさの チンパンジーのようなレプリロイドが現れた。 「貴方がここのエビルスレイヤー、ですね?」 ルミネが問う。 「あーそうだが。ところでおめー、いや、おめーら新世代型レプリロイドってよぉ、 自分で思ってるほど大した存在じゃねーんじゃねーの?」 「はい?」 新世代型レプリロイドを馬鹿にするチンパンジー型のレプリロイドにルミネは若干嫌悪感を含めた反応をする。 「だってよー、ヤコブ事件の時もギガンティスの時も反乱起こした奴はみーんな負けちまったし おめーに至ってはドヤ顔でアクセルにDNAデータを託したそうだが実際はそいつをパワーアップさせただけで おめーらの望む結果にはならなかったそうじゃねーか。 何が新世代型レプリロイドだよ、ちょっと『遅く』生まれたのがそんなに偉いのかっつーの! ウッキッキッキッキ!!」 チンパンジー型レプリロイドはジャンプしながら、頭上で手を叩きながら嘲笑する。 これに対しルミネは… 「確かに我々はハンターに敗れましたが、世界の流れは変わらない…はずでした。 しかし何故か世界は流れを止め停滞してしまった…それを正すべく我々は蘇ったのです。 これは世界の意思なのです」 「あー、おめー、本気でそれ言ってんのか?」 呆れ気味に問うチンパンジー型レプリロイド。 「本気も何も、事実ですよ」 堂々と言い放つルミネ。 「なぁ~にが『世界の意思』だ!そんなもんあるわきゃねーだろ! これはな、『オールエンダ―』という御方の崇高な意思なのさ! おめーのそのどっから来るのかわかんねー自信、このブロッキー・チンパニオンが迷いに変えてやんよ!!」 チンパニオンは言い終わると構えをとる。 ルミネも同じく彼を見据えながら構えをとる。 「(とは言ったものの、こいつ、隙がねぇ~…)」 「(流石はエビルスレイヤー、と言ったところでしょうか。つけ入る隙がありませんね…)」 双方攻撃の隙を伺い、長いようで短い時間が過ぎた頃… 「コールミラー!」 チンパニオンは部屋中に面が鏡になっているブロックを何個も出現させた。 直後額からレーザーを発射しそれはブロック間を乱反射する。 そして自らもブロック間を跳ね回り始める。 「ブロックリフレクションとブロックバウンディングだ。避けきれるかな~、キキキキキ!!」 縦横無尽に跳ね回るレーザーとチンパニオン本体。 しかしルミネは狼狽えることなくレーザーが自分に迫った時だけ最小限の動作で回避し、 直後迫ってきたチンパニオンに焔降刃を見舞う。 チンパニオンは吹っ飛ぶもののすぐに体勢を立て直す。 「キーッ!!いい気になるなよ、これならどうだ!!?」 そう言いつつチンパニオンはレーザーを増やす。 これもルミネは余裕でかわし、再度チンパニオンを迎撃しようとした瞬間… チンパニオンが跳ね回るのを止め、ルミネから一番近いブロックの上に降り立った。 「リモートハンド!」 チンパニオンは直後両手を切り離して飛ばしてきた。 その速度はあまりに速かったのでルミネは攻撃を受けてしまう。 が、攻撃が当たる瞬間体を反らしダメージを最小限に抑えていた。 「やるな…コールヘビー!」 チンパニオンはブロックの種類を変えた。 今までは鏡で出来たブロックだったのが今度は見るからに重そうなブロックである。 「ブロックプレッシャー!」 チンパニオンの声と共にブロックがルミネを押し潰そうと迫ってくる。 「ウェーブウォール!」 ルミネはウェーブウォールで迎え撃つ。 するとクリスタルとブロックが互いに押し合い拮抗状態となった。 「サンダーダンサー!」 ルミネはすかさずチンパニオンに雷を落とした。 「キィィーッ!!!」 チンパニオンは痺れ、ブロックは動きを止め、宙に浮いていたブロックは落下した。 「貴方のブロックを動かす技には集中力と精密性が問われるはず。 ならば頭脳にショックを与えれば容易に封じられる、というわけです」 そう言いつつ再度サンダーダンサーを繰り出そうとするが… 「キーッ、同じ手を喰らうかーっ!!」 一瞬痺れたチンパニオンだったがすぐに復活し、雷を避けると同時にブロックをぶつけてルミネを吹っ飛ばした。 が、やはりルミネは身を反らし受け身を取ったため決定打にはならなかった。 「コールスリップ!」 次にチンパニオンは表面がツルツル滑るブロックを呼び出した。 …が、自在に宙を舞うルミネには意味を成さずチンパニオンの近くに着地した直後 ルミネは葉断突で彼を吹っ飛ばした。 ルミネの頭の回転の速さはアントニオンすらも遥かに超越する。 アントニオンなら確実に喰らい致命傷を負うであろう攻撃をルミネは何とか対処していく。 しかしチンパニオンも負けてはいない。 互いに虚を突き、隙を突き、幾度もフェイントを仕掛け騙し合う戦いとなっていった。 もはやこの戦いは肉弾戦でもあり頭脳戦でもあると言えよう。 サンダーダンサーを始め雷属性の攻撃はチンパニオンには有効なのだが警戒を強めた彼は中々喰らってくれない。 双方体力と精神力を消耗する根比べとなろうとした時… 「コールスプリング!」 チンパニオンはバネのついたブロックを出現させ、さらにその間を跳ね回り始めた。 「ウキキキキキ!!!ブロックのバネとオイラ自身のバネの二段構えよ!かわせるか?かわせるか?かわせねーだろぉ!?」 今までよりも遥かに速い動きで跳ね回るチンパニオン。 並大抵の者ならチンパニオンが消えたように見える事だろう。 これに対しルミネはスノーアイゼンとキューブフォールズを繰り出した。 部屋にキューブと巨大な雪の結晶が豪雨の如く降り注ぐ。 「ウキキキキ!ヤケクソになったかぁ~新世代型レプリロイドさんよぉーっ!? おめーらイレギュラーはろくに迷いもせず悪事を働くからよぉー、 そんな輩を迷って迷って出られない迷宮に閉じ込めておくのがオイラの使命なのさ! どうだ、おめーもその自信がグラついてきただろ、どうなんだ、えぇ!?」 煽りながら、雪の結晶を砕きながら跳ね回りまくるチンパニオン。 バネブロックの上に落ちたキューブはその上でバウンドし続けている。 「この技はおめーなら掠っただけで即死だぜ!喰らいな!」 チンパニオンがルミネに激突した…かのように見えた。 「何だぁ、これ!?」 チンパニオンが攻撃しようとしたルミネはサンフラワードの能力で生み出した幻で攻撃がすり抜けた。 と同時に彼は足元に何かがあるのに気付いたがそれが何かわかる前に… 「サンダーダンサー!」 「キィィィイーッ!!!」 チンパニオンは再度サンダーダンサーを喰らった。 彼の足元にあったのはクリスタルウォールで通常は分散するサンダーダンサーを1ヶ所にまとめて喰らってしまったのである。 結果ブロックは全て落下し、チンパニオンの手足も彼の胴体から離れ、彼は地に倒れ伏した。 「だから言ったでしょう、これは世界の運命なのですよ」 そう言ってルミネは戦闘不能になったチンパニオンを踏みにじり始めた。 「キッ…やめ…キィイィィイイイーッ!!!!」 暫し苦悶の表情で絶叫しつつチンパニオンはバグを落として消滅した。 「オールエンダ―…細身の方か、肥えた方か、それともその両方なのか…」 重要な手がかりを掴みつつあるルミネはこのエリアを後にした。 それからしばらくしてチンパニオンの撃破がティターンによって伝えられた。 「このエリアに先に入っていったのは…ルミネ、でしたね」 「我々の同胞か」 「新世代型レプリロイドの面子は守られましたが、釈然としませんねぇ。後は手筈通りに」 アントニオンとサンフラワードはシグマの元に向かう。 「あーあ、クリアされちまったか、まーこのエリアは俺には合ってなかったって事だな。 じゃ―次は『古巣』にでも向かうとするかね」 自分から吹っ掛けたのでここで憤慨するのは野暮と感じたのかトルクは落ち着きを払っていた。 むしろ焚き付けた甲斐があったのが嬉しそうであるぐらいだった。 そして彼は、かつて自分が捉えられていたエリア「堕落者の学び舎」へとエゴイスティックビーストを飛ばすのだった…

第六話「茶番劇」

「このエリアの敵は運搬に使うあらゆる手段を戦闘に応用してくる。 地上だけでなく上空にも警戒したまえ」 盗人の港に通信を入れるティターン。 彼が通信を切った直後… 「あ゛ーあ゛ーあ゛ー…やっぱ我ながらキモチ悪ーわ、『紳士口調』ってのはよぉ」 声の調子を整え本来の荒い口調とダミ声で話すティターン。 彼は人間とは比較にならない巨大なボディの持ち主だった。 「『オカマ口調』とか『弱虫口調』よりかはマシなんじゃないの?」 そう言うのはビビッド。 彼は甲高い声の持ち主で身の丈は十代前半の少年程だった。 「確かに想像してみると…オエェ~…」 ビビッドの言った口調で喋る自分を想像し、心底気持ち悪がるティターン。 「やめてくれ、俺まで気持ち悪くなってきた…」 ゴルゴダもそれを想像し、荒んだ口調で言う。 彼は非常に大柄な体格だったが人類では存在し得る程度だった。 「ある意味ではあの『悪魔』よりもおぞましいかもね…」 何らかのおぞましい存在を思い浮かべながらビビッドが言う。 「それにしても今回送り込んだ連中も実は俺達がディメンションズマスターだと気付いてねーのだろうかね、 だとしたらおめでたい奴等だぜ」 「そうそう、そもそもスパイダーズスレードというのは『博士』とボク達、 それにエビルスレイヤー以下各エリアの番人全体の事を言うんだからねぇ… つまり罪人を救う為に垂らされた蜘蛛の糸なんかじゃなくて獲物を捕らえる為に張った蜘蛛の巣ってワケ! キャーハッハッハッハッハ!!」 ティターンとビビッドが見下した口調で豪語する。 「勘のいい奴は気付いてるんじゃないか?」 ゴルゴダが異議を唱える。 「シグマとかは茶番の先輩だもんね、彼あたりなら気付いてもおかしくないかも」 ビビッドは頷く。 「そういや盗人の港でも茶番劇が繰り広げられてたな」 ティターンが言う。 「ホント世の中嘘つきだらけだよね、各エリアの番人達だってボク達に騙されてるとも知らずによくやるよ」 ビビッドは呆れと嘲りを織り交ぜた調子で言う。 「そろそろ仕事に戻るぞ」 ゴルゴダがそう言い、3人はナビゲーションを再開するのだった… その頃盗人の港では… 「コラ!テメー!ここにあった商品どこにやりやがった!」 「し、知りません!誓って私は盗んでいません!」 ノーマルソルジャーがここに送られた罪人レプリロイドを恫喝している。 「物音に気を取られてほんの一瞬…目を離した隙に…消えたんですぅ~!!」 「消えただぁ!?んなわけあるかぁ!!」 罪人レプリロイドの供述にブチ切れるノーマルソルジャー。 「もういい、テメーはクビだ」 「そ、それだけはご勘弁…」 言い終わる前にノーマルソルジャーは手にした碇で罪人レプリロイドの頭を吹っ飛ばす。 ここに送られた罪人レプリロイドは何もかも奪われるので彼は何も落とさず消滅した。 「見たか奴の最期の顔!目の前の理不尽に何も出来ずに絶望してたって面だったよなぁ!」 「騙されてるとも知らずによぉ、ギャハハハハハハハ!!」 罪人レプリロイドを殺した後嘲笑するノーマルソルジャー達。 「あのお方の動きはクズ共には見えやしない…俺達にもな。 それで窃盗の罪を罪人レプリロイドになすりつけて罰を下す…もうすぐ外の世界でもそれが出来るって訳だ!」 「ああ、今回送られてきた奴等の件が片付いたらな… しかし今回の奴等はいつもと違って自力で入り口を突破したからいつ来るか分からねぇ。脱走者トルク共々注意しないとな」 「それは俺達のことか?」 「へ?」 ノーマルソルジャーの一人が振り返るとそこにはコケコッカーとドクラーゲンがいた。 このエリアは空中戦を得意とするこの2人に委ねられていたのだ。 「あ゛ぢい゛い゛いぃいぃ~っ!!!」 「あばばばばばばばばばば」 一方は焼き殺され、もう一方は感電死させられるノーマルソルジャー。 今まで搾取してきた為か、彼等はノーマルソルジャーの割には多くのアイテムを落とした。 このエリアには見渡す限りコンテナが積まれていた。 そこでビビッドが通信を入れる。 「このエリアは港だから物資の輸出入が行われているんだ。 だからコンテナの中にはレアなアイテムもあるかもよ?」 「コンテナ…か」 二人が周囲のコンテナを開けると確かに中にアイテムが時々ではあるが入っていた。 しかしその時… 「盗人の港で盗み働くたぁ何事だ!やっちまえーっ!」 先述の碇を持ったノーマルソルジャーに加えパワー重視のライドアーマー「コング」に乗ったチーフソルジャー、 空中輸送メカ、荷物を引っ張るカブトムシのような巨大バグ、といった敵が次から次へと襲い掛かってきた。 「雑魚共が、思い知れ!」 「俺は悪くないよ…」 「ギャアアアアアアアーッ!!!!!」 そんな彼等もやはりこの2人の敵ではなく、蹴散らされてはバグなどのアイテムを提供していく。 さらに進んだ時ゴルゴダから通信が入った。 「このエリアは海を隔てていくつかのブロックに分かれている。 別のブロックに行く最も効率的な方法は停泊している貨物船に乗り込む事だ。 貨物船はバグによる自動航行で動き航行速度もかなりのものだからこの方法がいいだろう」 これを聞いた2人は程なくして停泊中の貨物船を発見した。 停泊所の周辺にはコンテナが山積みになっており、それらの中からアイテムを奪おうとした矢先の事… 2人の頭上を黒い影が覆った。 見上げるとそこには大型の空中輸送メカと思しき物体がこちらを見下ろしながら浮遊していた。 「何だ、デカいヤジロベエか!?」 コケコッカーの発言に対しその物体が言い放つ。 「ヤジロベエとは何だ!俺はジェイルキーパーのマイティキャリーだ! テメー等こそ何か?鶏にクラゲとよぉ…中華料理に添えてやろうか!? とにかく密航なんてさせねーよ!」 これに対しコケコッカーはドクラーゲンに指示を出す。 「あのヤジロベエはディスルより弱いみたいだからお前に任せる。 俺はこの周辺のアイテムを回収するがお前が間に合わなかったら加勢するぞ、いいな?」 「わかったよ… ホアアアアアアア!!!!」 ドクラーゲンは承諾するや否やいきなり奇声を上げながらマイティキャリーに突撃していった。 「ゲ!何だこいつ!?」 思わず引いてしまうマイティキャリー。 そしてアイテムを奪い始めるコケコッカーだが… 最初に開けたコンテナは空でそのかわり何か文字が書かれていた。 その内容は以下の通りだった。 「残念 お宝は頂いた T」 「『T』?これもここの奴等の自作自演か?それとも…」 さらにコンテナを調べ続けていると今度は厳重に包装された箱を発見した。 見るからにレアアイテムといった感じである。 コケコッカーはそれを何とか開けたがその中身はトルクの頭を象ったビックリ箱だった。 「こっこっこの野郎…!」 炎を纏った蹴りでそれを蹴飛ばすコケコッカー。 トルクはかつてこのエリアで盗みを働いたことがあったのだ… 他のコンテナも似たようなものだったがそんな中コケコッカーはファイルバグを発見した。 「やっとまともなアイテムが…どれ…」 バグに入っていた情報は以下の通りであった。 製造中のレプリロイドが入ったカプセル数台の前でルミネも垣間見た細身の男が 映像こそ不鮮明なもののどこかで見た3人のレプリロイド達に向かって話している。 音声も不鮮明で所々にノイズが入っている。 「こいつらはな、……と思っちゃうワケよ。知識を……だけだからねー仕方ないよねー エ………イヤーとかいうご大層な名称も言葉通りの……だろうよ。 そんで得意になって……ってワケさ! そーんなご立派なもんじゃねーっつーの! 本当の目的は……だっつーの!!ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!」 「さすが博士、『こっち』でも茶番ですかい!」 巨大なレプリロイドがダミ声で言う。 「うわぁーえげつないですねぇ、ボクじゃなくてよかったですよ」 小柄なレプリロイドが高い声で言う。 「俺も……が、このような生まれ方をしていたら今より更に世を恨んでいたかもしれない…」 大柄なレプリロイドが荒んだ声で呟く。 映像はここまでだった。 「何か嫌な予感がするぜ…胸糞悪い予感がよ…」 今回得た情報に対して何か怒りと不安の混じった感情を憶えるコケコッカー。 彼は元より信頼できていなかったとある人物達がより一層信頼できなくなったのであった… 一方上空ではドクラーゲンとマイティキャリーが高速戦闘を繰り広げていた。 「喰らえ、コンテナドロップ!!」「キエェーーーッ!!」 「外したか、もう一発!」「キョエーッ!!!」「ぐはっ…!」 マイティキャリーが掴んだコンテナを投げ落としてくるが、中々当てられず反撃を喰らう。 飛行中のドクラーゲンの速さは只でさえライドチェイサー「シリウス」の基本速度を遥かに上回るが、 それがバグによる強化で上乗せされている為、攻撃を当てるのは一層困難になっていた。 「避けるならこっちに引き寄せてやる、マグネットキャッチ!」 マイティキャリーは物資の運搬にも使う掌からの磁力を以てドクラーゲンを引き寄せた。 やっとの思いでドクラーゲンを捕らえたマイティキャリーだったが…それがいけなかった。 「これで終いだ、何!?腕が離れねぇ!!」 マイティキャリーはドクラーゲンを地面に思いっきり投げ落とそうとしたが ドクラーゲンは捕らえられた瞬間電気の力でマイティキャリーの掌の磁場を狂わせていたのだ。 「ワァー!ワァー!ワァー!」 そしてドクラーゲンはバイトを召喚しそれにマイティキャリーの体力を奪わせる。 「力が…抜ける…」 「ウォー!!!!」 そしてドクラーゲンはこの状態のままサンダーダンサーを発動、両者は地面に向けて落下していったが 激突の瞬間ドクラーゲンは離脱した。 マイティキャリーもやはりここに送り込まれたレプリロイド達から搾取し続けてきた為か、 大量のバグやアイテムを落として消滅した。 そしてそれらのバグと同化するドクラーゲンだったが… 「凄いよ…力が…どんどん湧いてくるよ…もっと欲しい…もっとバグが…欲しい…もっともっともっと…」 彼はバグの虜になりつつあった。 その頃リディプスとデプスドラグーンは… 「このブロックも制圧したな。次に行くぞ」 「ハッ!」 1つのブロックからあらかたアイテムを回収し敵も全滅させた2人は貨物船に乗り込む。 貨物船で移動中の時は海上からはボートに乗りライフルを持ったノーマルソルジャーが、 海中からはトビウオ型やサメ型のメカニロイドが襲い掛かってきたが 2人は彼等をコールレッドや雷帝陣で迎え撃つ。 次のブロックに辿り着き、そこでもアイテムの回収や敵の撃破を繰り返す2人であったが、 ある時リディプスがコンテナの中からファイルバグを見つけた。 内容を調べるととある知識が頭の中に入ってきた。 内容は以下の通りである。 「バグはメカニロイドとも同化できるがある程度複雑な構造の武器や搭乗マシンとも同化できる」 「成程な…武器や乗り物も体の一部、という訳か。私の場合はサーベルだな」 「ワシの場合はこの槍と盾ですな」 そしてその後倒した敵が落としたバグを自分達の武器に同化させてみる。 するとそれらの性能が飛躍的に上昇したのだ。 「素晴らしい!素晴らしいぞ!フハハハハ!!!」 こうして2人の進行はさらに勢いを増したが2人が次の停泊所に辿り着いた時の事だった。 2人は上空から強大なエネルギーを察知したが、その直後あらゆる方向からの突風を感じ取った。 空を見上げると翼の生えた何らかの飛行物体が高速で空を舞っているのが見えた。 それは彼等だからこそ見えるのであり、並大抵の者には全く見えない程である。 しばらくしてその飛行物体は上空で2人を見下ろしながら静止した。 その正体は人相の悪いカモメのようなレプリロイドだった。 「エビルスレイヤー…だな!?」 リディプスが問うとカモメ型のレプリロイドは答える。 「察しがいいじゃねぇか、俺こそここのエビルスレイヤー、ロブ・シーガルム様よ!」 シーガルムは続けて言う。 「この空間のルールは知ってるよな、盗めば盗むほど強くなるって事をよ… お前らはただそれを実施しただけだが、ここのボスは俺だ。 故にお前らがこれまでせっせと盗んだアイテムは全部俺が頂くぜ。 わざわざ俺の為にご苦労さん♪」 「ほざけ!」 デプスドラグーンが雷鳴撃を繰り出すがあっさり回避される。 シーガルムはそのまま超高速で2人に迫ってくる。 そして2人の周囲を飛び回り始める。 その速度は強風と残像を生む程である。 「どうだ、この俺の神速は!?」 シーガルムが得意げに言い放った時だった。 「うっ…」 リディプスは原因不明の頭痛と胸の痛みを憶えたのであった。 「大佐殿!?」 「問題…ない…」 何とか体制を持ち直すリディプス。 その後高速で飛び回るシーガルムに何とか攻撃を当てようとする2人だったが リディプスの攻撃が稀にかする程度で決定打にはならない。 しばらくするとシーガルムはすれ違いざまに2人からアイテムを奪い始めた。 その手並みはあまりに鮮やかなものだった。 飛び回りながらまたもシーガルムが言い放つ。 「どうだ、この俺の盗みの技!その名も『アブソリュートゲット』!!!」 「ぬう…!!」 技の名前を聞いたリディプスは再度頭と胸の痛みを憶えた。 「貰ったぜ!」 そんな彼に突撃するシーガルムだったが… 「させるか!!」 デプスドラグーンが割って入って盾でシーガルムを止めた。 盾にひびが入りシーガルムが徐々にデプスドラグーンを押し始めてはいるものの膠着状態になったと思われたが… 「ではお前の命を頂くか!」 リディプスが隙を突く前にシーガルムは背中の2本の曲刀を出しデプスドラグーンを切り刻んでしまった。 「ぐ…は……申し訳…ありません…大佐…殿…」 デプスドラグーンはこれまで集めたバグを落として消滅した。 そしてシーガルムはそれらのバグと同化した。 「中々集めてやがったな…次は今度こそお前のを頂くぜ!」 よりパワーアップしたシーガルムはリディプスに肉薄する。 「奴は私の盾となり殉死したのだ…ここで私が死んでは意味がない!」 サーベルを構えるリディプス。 「おおおおおおおおお!!!!!!」 「はああああああああ!!!!!!」 2本のサーベルと2本の曲刀が凄まじい速さと力でぶつかり合う。 その衝撃波は辺り一面に広がる。 剣をぶつけながら、アイテムも盗みながら、余裕の表情を浮かべながらシーガルムは言い始める。 「この俺の使命は物を盗んだ奴から盗まれる苦しみを味わわせる、という事さ!! まぁ俺自身の欲を満たす為でもあるけどな! 今までこのエリアで過去に死んだ泥棒共から搾取してきたがよぉ… お前等の件が片付いたら『外の世界』で今生きてる泥棒共にもそれをやってやらぁ!! 特にギガンティスの時に名を上げたというマリノ! そいつから何もかも…全てを奪い去ってやるよぉ…!!!!」 その時、シーガルムが力強く吹っ飛ばされたかと思うと、リディプスの体が光に包まれた。 その光が収束した時… そこにはギガンティス島の事件の時ハンター達と共闘し、エンシェンタスとの戦いで散っていった男… スパイダーの姿があった。 「誰を、どうするって…もう1度言ってみな!」 スパイダー…の姿になったリディプスが何故か口調を変えて言う。 「だから、マリノから!全てを!奪うっつたんだよぉーっ!!」 「聞き捨てならないねぇ…」 再度突撃するシーガルムに対しリディプスはトリックスターで回避した後フォーチュンカードを発動した。 結果はロイヤルストレートフラッシュだった。 「ぐはぁあぁあああああぁああぁああああ!!!!!!」 「へえ、これがバグの力か…ロイヤルストレートフラッシュがいとも容易く出せるぜ。 おまけにWEもすぐに回復すると来てる… もう1発喰らいな!フォーチュンカード!!!!」 そしてまたしてもロイヤルストレートフラッシュが出る。 「畜生ーッ!!!!!!!」 シーガルムはデプスドラグーンから奪ったバグも含めて落として消滅した。 「あんたは確かに凄腕の盗賊だ、だがあんたにも盗めない物がある… それは俺の心さ…なんてな」 言い終わるとリディプスは元の姿に戻った。 「デプスドラグーン…お前のバグ…しかと私が受け継ごう…」 そしてリディプスは大量のバグと同化し、その中には非常に珍しいバグも含まれていたが それが能力を発揮するのはまだ先の事である。 戦いが終わり、リディプスは空を見上げる。 「茶番のはずだった…仲良しごっこのはずだったのに…この胸に突き刺さる感覚は何だろう… 思えば私がこのエリアを選んだのはここにいるはずのない君の影を追っていたのかもしれない… 何故私は…君を忘れられないのだろう… マリノ…」 そんな彼の気持ちに応じるが如く潮風が吹き渡っていった… その頃バグズディメンション最深部にて… 暗く広大な部屋の中で巨大で醜悪な何かがデプスドラグーンの死体を貪り食っていた。 それが終わった直後部屋のワープゲートからシーガルムの死体が転送されてきた。 巨大物体は嬉々としてシーガルムの死体を貪り始める。 その様子を高い位置にある窓の外から細身の男が笑みを浮かべて食い入るように観察していた…

第七話「学園地獄」

堕落者の学び舎… 風紀を乱し社会に悪影響を与えたレプリロイドが送られるエリアである。 このエリアの特徴は何といっても全体的に学校のような作りになっているという事。 ここには事前に得たとある情報によりパンデモニウムとイエティンガーが派遣されていた。 その情報とはそこを担うジェイルキーパー、エビルスレイヤーの両名が巨体とパワーで押すタイプである、という事である。 2人が校門に近付くや否や… 「来たな侵入者共め…校内は部外者は立ち入り禁止だ!やっちまえ!」 教師風のチーフソルジャーが現れ数体の犬型のメカニロイド達を放ってきた。 犬型メカニロイド達は何故か黒い眉毛が描かれていた。 「フン、これは随分と間の抜けた…」 「悪いけど通してもらうよ…」 そして直後彼等は2人の腕の一振りで秒殺されてしまった。 校内に入っていく2人にゴルゴダが通信を入れた。 「このエリアは『外の世界』の学校の特徴がそのまま取り入れられている。 またエリア全域にレアアイテムが配置されているから各自の判断でそれらを回収するといいだろう」 ティターンとビビッドもそれに続く。 「このエリアの敵は学校の各教室にちなんだものが多いから学校についての知識があれば対策もしやすいだろう」 「隠しアイテムもそれっぽい所に隠してあるしね」 このエリアは外の世界の一般的な学校に比べても非常に規模が大きく探索・攻略に時間と手間が掛かりそうだった。 そこでイエティンガーとパンデモニウムは二手に分かれることにした。 「…では武運を祈る」 「お互いに頑張ろうね」 2人はそれぞれの道に進んでいった… その頃裏門からもう一人の侵入者が入ろうとしていた。 その侵入者とは色魔の砂漠をクリアした後、このエリアを選択したVAVA-VIだった。 彼は転送機能のあるバグ、「トランスバグ」で呼び出したライドアーマー「コング」に乗っており 守衛のチーフソルジャーと犬型メカニロイド達を瞬殺して校内に侵入していった。 「なかなか暴れ甲斐のあるステージじゃないか、ククク…」 そして空からもまた1人の侵入者が。 彼は悪知恵の迷宮で先を越されたトルクであった。 トルクはエゴイスティックビーストに乗った状態で校舎の窓ガラスを突き破り中へと侵入した。 「帰って…来たぜ!」 ほぼ同時多発的な侵入者達の出現に対し校内全域に火災報知器のようなサイレンが鳴り響き、エリア全域が緊張した空気に包まれる。 「畜生!あいつもこいつも我が校に堂々と侵入しやがって…絶対に食い止めてやるぞ!」 「もし失敗したらグレちまうぜ!」 侵入者達の撃退に燃えるこのエリアの番人達。 グラウンドにて… パンデモニウムを迎え撃つのは赤と白の軍勢だった。 少数のチーフソルジャーの指揮の元赤いボディカラーと白いボディカラーのノーマルソルジャー達が様々な競技にちなんだ技で襲い掛かってくる。 しかしいずれもパンデモニウムにとっては脅威でも何でもなかった。 巨大鉄球を転がしてくるノーマルソルジャーは鉄球をパンデモニウムに押し返されてそのまま潰され、 巨大鉄柱を倒そうとしてくる者もやはり鉄柱を押し返されその鉄柱の下敷きになって死亡していく。 赤と白の手榴弾を投げてくる者もパンデモニウムから放たれるブラストランチャーの勢いに負けて爆死していく。 ロープを投げかけ彼を引きずろうとする者も逆にロープごと振り回され投げ飛ばされる。 高速で周囲を走り回って攪乱しようとする者もベアハングによって絞め殺されていく。 そんな彼の目の前に次に現れたのは赤と白で彩られた正面が盾、裏面がロケットブースターになっている… 旧世紀に出現し今世紀でもそれを参考にしたと思われるメカが大量に開発されている 「シールドアタッカー」シリーズの巨大版ともいうべき敵だった。 「ん、プロテクトラルの強化版かな?」 パンデモニウムの呟きにその巨大シールドアタッカーは反論する。 「あんな雑魚と一緒にするんじゃねぇ!俺はジェイルキーパーのウォールアタッカーだ!! 校内に侵入どころかうちの生徒や教師を殺しやがって!ぶっ潰してくれるわ!」 そう言ってウォールアタッカーはパンデモニウムに突撃していく。 動きが直線的だった為パンデモニウムはサッと回避しその直後グリーンスピナーを見舞う。 だがウォールアタッカーが方向転換するのは意外と早く次の瞬間口からレーザーを放ってきた。 これに対しパンデモニウムは… 「バンブースピア!」 竹を生やしてレーザーを防いだ。 しかしその直後竹を突き破りウォールアタッカーが突っ込んできた。 …がパンデモニウムもそれに合わせて葉断突を繰り出す。 グラウンドに強烈な衝撃音が響き渡る。 暫し押し合いになっていたが… 「ぐ、オオオオオ…」 「やっぱり君はディスルより弱いね…」 徐々にウォールアタッカーの盾に罅が入っていき、そしてパンデモニウムが押し始め… 遂にはパンデモニウムの剛腕がウォールアタッカーを貫いた。 「グオオオオオオオオオオオオォォォオ!!!!!!」 ウォールアタッカーは大量のアイテムを落として消滅した。 ふとパンデモニウムが先程の戦いで滅茶苦茶になったグラウンドを見渡すと何かが掘り起こされているのが見えた。 それはファイルバグだった。 「へぇ、何だろう…?」 そのファイルバグの内容とは権力者と思しき身なりのいい中年達が嬉々として淫行や暴力を含む 酒池肉林のパーティーに興じている、というものだった。 彼等はご馳走をたらふく食べ、酒を浴びるように飲みながら柄の悪い男や ふしだら、または性悪そうな感じの女を完全に遊びの感覚でいじめ抜いている。 その中心人物は「博士」または後に「オールエンダ―」と呼ばれる細身の男、ルミネも垣間見た小太りの男、 そして映像こそ不鮮明だったもののティターンの特徴と一致する巨大なレプリロイドであった。 これを見たパンデモニウムは… 「うわぁ…醜いなぁ…でもこの巨大なレプリロイドって…」 彼もまた、真相に近付きつつあった… 廊下にて… トルクの前に大勢の学ランのようなアーマーを纏った真面目そうな雰囲気のノーマルソルジャー達が出現した。 「久々に現れたと思ったらまたこの対ミサイル用超強化ガラスを割ってくれたな!高かったんだぞ!!」 「しかも今回は夜の校舎でなく白昼堂々とやりおってからに…これ以上の貴様の悪行は許さん!! 我々風紀委員が取り締まってくれる!」 「相変わらず威勢だけはいいなぁ、で、俺を取り締まるって?どう取り締まるのかな!?」 トルクは不敵にそう言い放った後、エゴイスティックビーストの前方に紅エネルギー波を纏った状態でノーマルソルジャー達に突撃した。 「己ぇぇえええええ!!!!何という不真面目な!!!!!」 「行儀よく!真面目なんて!!出来やしねぇーんだよぉーっ!!!」 叫びながらトルクはこの場のノーマルソルジャーを殲滅した後引き続き窓ガラスを壊して回ったという… 同じような光景がそこから離れた廊下でも繰り広げられていた。 ライドアーマーに乗った状態のまま廊下を爆走するVAVA-VI。 彼の前には竹刀を持ったチーフソルジャーが現れた 「貴様ぁーっ!!!何なんだその態度は!!俺の、いや、我が校の指導に行き過ぎはないから覚悟しろよ!!」 そう言いつつ襲い掛かってくるチーフソルジャーだったが… 「奇遇だな、俺にも行き過ぎは無いんだよ…!」 そして直後ライドアーマーの巨大な拳で砕かれるチーフソルジャー。 「誰にも…俺は…止められない!!ハハハハハハハハハ!!!!!!!」 次から次へと現れる敵をVAVA-VIはライドアーマーで蹂躙していく。 プールにて… ここのプールは面積、深さ共に普通の学校のプールの何倍もあった。 しかも水が激しく流れている。 そんなプールでイエティンガーを待ち受けるのは競泳選手風のノーマルソルジャーやチーフソルジャー、 そして魚型メカニロイド達であった。 「かかってこい侵入者め!」 プールの中から言い放つノーマルソルジャー達だったが… 「スノーアイゼン!!」 イエティンガーがスノーアイゼンを繰り出すとプールの水が瞬く間に敵を巻き込み凍ってしまった。 「フン!」 イエティンガーがその上から勢いよく足を踏み鳴らすとプールの氷が砕け散り 中にいた敵もアイテムを落として消滅した。 「大漁…だな」 体育館にて… グラウンドを制圧したパンデモニウムは次に体育館に向かっていた。 そこでも様々な競技にちなんだ能力を持つ敵が待ち受けていた。 「侵入者確認!最前線の剣道部隊迎撃せよ!」 チーフソルジャーの声と共に剣道着のようなアーマーを纏ったノーマルソルジャー達がパンデモニウムに襲い掛かる。 それをブラストランチャーで瞬殺するパンデモニウム。 他に「バスケ部隊」「バレー部隊」「器械体操部隊」なる部隊や跳び箱やマットの形をしたメカニロイド達が襲い掛かってきたが あっけなく返り討ちに遭う。 「そろそろ校舎を目指そうかな…」 音楽室にて… トルクが入るや否や指揮棒を持ったチーフソルジャーの指揮と共に楽器を持ったノーマルソルジャー達が演奏を始める。 これらの楽器から放たれる音は様々な特殊効果があったが… 「うるせーんだよテメーら!!!」 トルクはその場に会ったギターをライブのパフォーマンスの如く振り回しながら彼等を撲殺していった。 他には作曲家の絵やピアノの形をしたメカニロイドもいたがやはりトルクに瞬殺されてしまう。 理科室にて… 白衣を纏いガスバーナー等の実験器具にちなんだ武器を持つノーマルソルジャーの他 人体模型や骸骨模型の形をしたメカニロイド、実験動物の形をしたメカニロイドといった敵がVAVA-VIに迫りくる。 「消えろ、気色悪い!!!」 ライドアーマーや各部兵装で彼等を迎え撃つVAVA-VI。 引火性のガスが充満していた所為か理科室は派手に吹っ飛んだ。 家庭科室にて… 包丁を持ったノーマルソルジャーや手がミシンになっているノーマルソルジャーがイエティンガーに襲い掛かるが… 「貴様らは要冷凍だな…」 瞬時にまとめて凍らされて砕かれるノーマルソルジャー達。 飼育小屋にて… ウサギ型、ニワトリ型の小型メカニロイド達が大挙してパンデモニウムに迫ってくる。 「何かやり辛いなぁ、でも仕方ないよね…」 ばつが悪そうな表情を浮かべるものの彼等を瞬殺するパンデモニウム。 渡り廊下にて… 曲がり角から現れたノーマルソルジャーがトルクに襲い掛かるもパンチ1発で死亡した。 その直後彼の仲間のノーマルソルジャーが6体現れた。 「この野郎、よくも仲間をやりやがったな!」 「なに、身に降る火の粉を払っただけさ」 怒り心頭のノーマルソルジャー達にトルクは落ち着いて言う。 「ええい、6対1で袋叩きにしてくれる!!!」 一斉に6体がかりで襲い掛かるノーマルソルジャー達だったがトルクにとってはノーマルソルジャーは何体いても同じ事だった。 彼等はトルクロッドの一振りで校外に吹っ飛ばされ全員死亡した。 美術室にて… 筆や彫刻刀を持ったノーマルソルジャー達がVAVA-VIに襲い掛かる。 「芸術は爆発だ!…ってな!!」 彼等はそう言い放つVAVA-VIに爆殺される。 コンピュータ室にて… そこでは大型のスーパーコンピュータがチーフソルジャーであり、座席に座りパソコンに向かうノーマルソルジャー達に指示を出していた。 イエティンガーが入ると同時にノーマルソルジャー達がパソコンを操作し部屋がロックされると同時に室内の仕掛けが作動する。 これに対しイエティンガーはスーパーコンピュータに向かってウィルスバグ… サブウェポン「ウィルスミサイル」と同じ性能を持ち対象を状態異常「ウィルス」にするバグを放った。 結果として指揮系統が乱れ直後彼等はイエティンガーの放つ氷の破片で串刺しになり死亡した。 「精密故に脆弱であったな…」 技術室にて… 腕がノコギリやドリル、万力になっているノーマルソルジャー達がパンデモニウムに襲い掛かるも 万力以上のパワーを誇る彼のベアハングによって圧殺される。 「ミサイルやレプリロイドならいざ知らず、何かを作るための技術をこんな事につかうなんて…」 パンデモニウムは残念そうに呟く。 とある教室にて… 教鞭を持ったチーフソルジャーが正座している柄の悪いレプリロイド達… ここに捕らえられている罪人レプリロイド達をその教鞭で叩き続けていた。 「オラア!!!愛の鞭を!!!喰らいやがれぇ!!!!」 「ギャー!!」「痛ぇ!!」「許してくれー!!!」 そんな中トルクが入ってきた。 「相変わらず精が出るじゃねぇか…かつてのお礼にやってきたぜ」 「貴様はトルク…!!ええい、貴様もそこに直れ!!今まで溜めてきた分をその身に叩き込んでくれ…」 言いかけるチーフソルジャーからトルクは素早く教鞭を奪い取る。 そして… 「これが俺からの感謝だ!受け取れ!受け取れ!!受け取れ!!!」 「ガ…!!グェ…ゴハァ…!!!」 自らの教鞭で叩かれ続けるチーフソルジャーは1撃ごとに床にめり込んでいき、最終的に死亡した。 「お、お前はトルク…!お前が勝手に逃げ出した所為で俺達は連帯責任でだなぁ…」 「あ!?」 罪人レプリロイドの1人がトルクに文句を言いかけるが彼の機嫌を損ね撲殺されてしまう。 「お前らなんか仲間でもないし俺さえよけりゃいいんだよ!恨むんなら逃げる力や戦う力の無い自分自身を恨みな」 そう言うトルクに他の罪人レプリロイド達は頷くしかなかった。 彼等は外の世界にいた時からトルクと面識があり同じ時期にこのエリアに送られたのだが元より彼等とトルクの間に仲間意識など微塵もなかった。 正確には奔放すぎる彼についていける者がいなかったといった方がいいだろう。 また各教室には芋虫のような巨大バグもいたが彼等も大した脅威ではなかった。 視聴覚室にて… VAVA-VIが入ると同時に部屋が暗くなりスクリーンに映像が上映される。 そして画面からワイヤーフレームで出来た様々な武器や乗り物、動物などを象った物体が出現し襲い掛かってきた。 「実体化したウィルスか…ドップラーの事件の時にもこんなのがいたよな…」 シュリケインを思い浮かべながら彼等をあっさり撃墜するVAVA-VI。 その後室内を調べてみるとVAVA-VIはファイルバグを発見した。 「へえ、ファイルバグか…」 バグの中の情報を見るVAVA-VI。 その内容は以下の通りだった。 記者達に囲まれている「オールエンダ―」が記者達のインタビューに答えている。 「つまり、ウィルスに侵されてもいない、イレギュラーに生み出されてもいないレプリロイドがイレギュラー化するのは『バグ』が発生するからである。 この『バグ』はウィルスよりも遥かに性質が悪い。 ウィルスや誰に造られたか、等の情報よりもデータに捉え難いのだから。 しかもロボットを人間に近づけようとした結果からか全てのレプリロイドがそれを発生する危険性を秘めている」 「…では博士は『バグ』はどのような経緯で発生するとお考えですか?」 「それは周囲の環境やそのレプリロイドの経験した事によって発生する。 理想と現実のズレ、欲求不満、強すぎる欲望…それらが『バグ』を発生させる主な原因となるのだ」 「それに対し何か有効な解決策はありますか?」 「私の開発した『バグリジェクター』を使えばレプリロイドは常に平常心を保ち『バグ』が発生する事は無くなるだろう。 これを実用化すれば必ずやこれまでの悲劇は報われるであろう」 「研究の完成が楽しみですね。本日はご協力ありがとうございました」 …情報はここまでだった。 「何だこいつ?『バグ』ってここのバグの事じゃない…よな?」 彼がこの科学者こそが諸悪の根源と気付くのにはまだ時間を要するのであった。 職員室にて… イエティンガーが入ると部屋にいたチーフソルジャー達が一斉にイエティンガーを睨み 教鞭を手に襲い掛かってきたが一瞬でアイスガトリングで体を貫かれ死亡する。 そして、職員室の奥には理事長室への扉があった。 巨大かつ豪華な装飾のあるその扉をイエティンガーは通過する。 そこは今までの部屋と比べても広大な空間で前方には巨大な机があった。 そしてその後ろでは逆光を背にこの学校の理事長…すなわちエビルスレイヤーが巨大な座席に座していた。 彼から感じる凄まじい重圧に耐え、イエティンガーは口を開く。 「我が名はアイスノー・イエティンガー。ここのエビルスレイヤーと見受けるが… 無用は争いは好まぬが我々の邪魔をするならば然るべき対応をしようぞ」 「理事長」は大きな声で応える。 「如何にも。ワシがこの学校の理事長にしてエビルスレイヤーが1人、ファング・ダンクルードである。 貴様の事は聞き及んでいる。 環境悪化を憂う平和主義者である、とな。 正直なところここに送られる落ちこぼれ共とは真逆の人物と見受けるが故、戦うのは惜しい。 しかし無許可で我が校に侵入した上イレギュラーの王「シグマ」に加担するなど問題外よ。 こちらとて我が使命を阻むなら排除させて貰おう」 ダンクルードは立ち上がり、その巨躯を表す。 彼は巨大な古代の肉食魚、ダンクルオステウスのような姿をしていた。 「主の違いとはいえ致し方あるまい…いざ!!」 ダンクルードに挑みかかるイエティンガーだったが…力の差は歴然であった。 「アイスガトリング!!」 まずイエティンガーはアイスガトリングを放つがダンクルードは体勢を低くし攻撃を弾きつつスライディングでイエティンガーを吹っ飛ばす。 「が…は…」 壁に強く叩きつけられるイエティンガー。 「…ドリフトダイヤモンド!!」 空中からの体当たりを繰り出すもその長く強靭な尻尾で吹っ飛ばされる。 「…氷龍昇!!」 ダンクルードの顎めがけて氷龍昇を繰り出すがその直後… 「フォッシルヘッド!!」「ぬぉお…!!」 耐えきったダンクルードはお返しに頭突きを見舞う。 「スノーアイゼン!!」 巨大な雪の結晶を降らすもダンクルードはそれをものともせず重い連撃を浴びせる。 「お…おおお…これが…エビル…スレイヤーの…力…なのか… だが…負ける…わけには…いかんのだ…」 ふらつきながらもダンクルードに挑みかかるイエティンガー。 彼は徐々にだがダンクルードの体にダメージを蓄積させていく。 「ぬぅぅ…しぶとい奴め…あの我が校最大の問題児を思い出させるわ…」 苛立ち始めるダンクルード。 その後もダンクルードがイエティンガーを思いっきり吹っ飛ばすがイエティンガーが度々反撃する状態が続いた。 そしてある時… 「氷龍昇!」 イエティンガーがダンクルードの顎に氷龍昇を決めたがダンクルードは耐え切りイエティンガーを力強く床に叩きつけた。 その衝撃はあまりに強烈でイエティンガーの動きが一時的に鈍った。 「好機!サンダーパニッシュ!」 「ぐぅおおおおおおおお!!!!!!!」 ダンクルードはイエティンガーに雷を落としたが、それが決定打となった。 今までで最大のダメージを受けたイエティンガーは力なく横たわる。 「やはり雷が弱点だったか…ワシがこの技を持っていなかったらもう少し良い勝負が出来たかもしれんかったが残念だったな。 ではさらばだ!!!」 その直後ダンクルードはイエティンガーを口の中に入れ、噛み砕き始めた。 彼の牙は鋭利で顎の力も非常に強く容赦なくイエティンガーの体を破壊していく。 「ぬおおおおおお!!!!新世代型レプリロイドは…私だけでは…ない…!!! 例え私が滅びようとも…我々を滅ぼすことなど…出来はせぬ!!!!!」 そう言い残しイエティンガーはダンクルードの口の中でアイテムを落として消滅した。 そして彼が集めたバグと同化するダンクルード。 「フフフ、中々集めておったようだな…しかしその力はワシのものになったのだ!貴様の努力は全て徒労に終わったのだ!! この力を使って…外の世界の落ちこぼれ共の精神も鍛えなおしてくれよう!ウワハハハハハ!!!」 勝ち誇るダンクルードだったが、程なくして部屋にトルクが入ってきた。 「ご機嫌なところ悪いけどよ、お前にもお礼をしに来たぜ、理事長さんよぉ」 挑発的な態度で臨むトルクにダンクルードは応える。 「そうか、貴様が残っておったな…我が校最大の汚点…脱走者トルク!! 行く先々で好き勝手やりおってからに…貴様には相応の躾が必要だ、覚悟しろ!!」 「来いよ、決着を付けようぜ!!!」 トルクは前方にエネルギー波を纏ったエゴイスティックビーストで高速で体当たりを繰り出すが、 ダンクルードはそれを素手で阻み逆に壁に激突させる。 エゴイスティックビーストに搭載されている兵装で攻撃しようにも大した成果は望めない。 それを悟ったトルクはエゴイスティックビーストから降りた。 「ここからが本番だ、おらぁ!!!」 トルクロッドの先端をハンマー状にしてダンクルードに殴りかかるトルク。 それも悪知恵の迷宮の時みたく遊び半分ではなく本気の一撃である。 「ぬぅぅ…テールビート!!!」「くっ…!」 並のレプリロイドなら…否、かなりの強者でも高速で吹っ飛ばされ死に至る一撃であったが ダンクルードはよろけるだけで耐えぬきその後トルクを尻尾で殴り飛ばした。 吹っ飛んでいくトルクだったが壁に接触する瞬間壁を蹴って跳躍しダンクルードに飛び蹴りを喰らわす。 思いの外のダメージを受けたダンクルードは距離を取る。 「流石に長い間バグを集め続けているだけあってやりおるな…これなら…どうだ!フォッシルダイブ!!」 「どおりゃぁあっ!!!」 スライディングで迫ってくるダンクルードに対しトルクはトルクロッドの先端をメイスの形状にして迎え撃つ。 その衝撃は強烈で辺り一辺に鈍い音が響き渡り空気が振動し、両者は互いに後ずさりした。 どちらもダメージを受けているがトルクの方がより大きなダメージを受けていた。 その後も強烈極まりない攻撃の応酬が続き建物全体を揺るがす状態が続く。 しかしトルクの攻撃はダンクルードの強固な装甲に阻まれ決定打にはならず 逆にダンクルードの攻撃の威力はトルクの体に手痛いダメージを与えていった。 しかしそれでもトルクは何度でも立ち上がった。 これにとうとうダンクルードは逆上する。 「貴様が大した根性の持ち主である事は認めよう…だが何故そこまで下らぬ意地を張る!!? その根性を社会にとって正しい方向に向ければ良かったものを!!」 「社会だと!?下らねぇ!俺は誰にも従わねぇ!!やりたいようにやる!それだけだ!!」 「貴様の弁こそ下らぬ!己の欲求のみを優先すれば社会が乱れるであろう!! 許し難きは貴様を含む我が校に送られた落ちこぼれ共が氷山の一角に過ぎぬという事実!! ワシはこの力を以て『外の世界』にはびこる落ちこぼれ共にも躾をしてやらねばならんのだ!!!」 「型にはまった、社会に合わせたようなつまらん生き方なんざまっぴらだ!俺は俺の道を走り続けるぜ!!」 言葉と共に、技もぶつけ合う両者。 そして… 「サンダーパニッシュ!!」「グ…ハ…」 ダンクルードはトルクに雷を落とした。 別にトルクは雷に弱いわけではなかったがこの雷の強さに加えこれまでの戦いによるダメージにより彼は倒れてしまった。 それにダンクルードが歩み寄る。 「全く、今までの生徒の中で一番手を焼いたわい。だが今度こそ本当に最後よ…止め!」 そしてダンクルードはトルクを口の中に入れ噛み砕こうとした。 …その時だった。 「待ってたぜ、そのデカい口を開ける時をよ!」 何とトルクはダンクルードの口の中でトルクロッドの向きを盾にして先端を槍状にして固定し、口を閉じれなくしてしまったのだ。 「(何という小癪な真似を!ええい、武器ごと噛み砕いてくれる!)」 顎に力を入れるダンクルードだったがトルクロッドはなかなかへし折れない。 「無駄だぜ、トルクロッドも強化してあるからな!さぁて、これでも喰らいな!」 トルクロッドをバグで強化した事を告げたトルクは次に攻撃用の使い捨てバグ「エクスプロージョンバグ」をダンクルードの口内に放った。 このバグは強烈な爆風を連続して発生させるバグで、それも完全に成長させてある。 「……!!!!」 白目を剥き口から黒い煙を吐くダンクルード。 「流石にこれじゃくたばらねーか…って訳で…止め!」 トルクはトルクロッドの先端をセイバー状にすると口の中からダンクルードの体を貫いた。 そしてその状態で上に掲げ、床に力一杯叩きつけた。 その衝撃は建物全体を今までで最も大きく揺らし、床をぶち抜いていき、ダンクルードが地面に衝突するとそこから放射状に大きな裂け目が広がった。 直後ダンクルードはイエティンガーから奪ったアイテムを含めた大量のアイテムを落として消滅した。 「卒業証書代わりだな…この下らん支配からの卒業の、な…」 そう呟きトルクはこのエリアを後にした。 同じ頃バグズディメンションの奥深くでは、犠牲者を出しつつも4つのエリアが攻略された事に対し ディメンションズマスターの3人は不敵に笑みを浮かべた。 …と同時にオールエンダ―と謎の怪物はより一層狂喜したという…

第八話「解脱」

時は僅かに遡る。 司令室のワープゲートの1つからアントニオンとサンフラワードが転送されてきた。 「申し訳ありません、先走ったルミネめにより『悪知恵の迷宮』は攻略されてしまいました」 アントニオンがシグマに謝罪する。 「気を落とすな。それより詳細を報告せよ」 そしてサンフラワードが淡々とシグマに報告を始める。 「当エリアでの過去のトルクの映像を収めたファイルバグの入手、その直後我々はトルクに遭遇、 アントニオンはジェイルキーパーを撃破、私は他のルートにて100体の敵を撃破、 その際に私が入手したアイテムがこちらになります」 サンフラワードが入手したアイテムを見せ、アントニオンも報告の後アイテムを見せる。 「ククク…やはり質・量共に入り口の比ではないわ… 残るエリアは2つ、貴様らは手筈通り『アイテム探索』に当たりたまえ」 「「ハッ!」」 そして2人は色魔の砂漠と悪知恵の迷宮に入り取り逃がしたアイテムの探索を始める。 「エビルスレイヤー…確かに性能は高かったかもしれませんが所詮は選ばれなかった者… 私に敵う相手ではありませんでしたよ」 「待ってろやクソ理事長~っ!!!」 ルミネとトルクが司令室に戻りそれぞれ盗人の港と堕落者の学び舎に入ったのはこの直後の事だった。 他のメンバーが4つのエリアの攻略に当たっている間、シグマはバグズディメンションの情報の収集、 アイテムの研究・開発、4つのエリアが攻略されるまでの間の司令室の警備、部下達への指示に当たっていた。 しばらくして今度はコケコッカーとドクラーゲンが戻ってきた。 「すいません、リディプスの奴に先を越されちまいました…ところで…」 コケコッカーはシグマに自らが入手したファイルバグをシグマに見せ、盗聴防止の為か 携帯端末の文字を使ってシグマに尋ねる。 『これに入っている映像を見てくださいよ。 俺は元から連中…スパイダーズスレードは胡散臭いとは思ってましたがこれで一層疑わしくなりましたよ。 奴等この空間で裏で糸を引いてるんじゃないかもしれませんがどうします? このまま奴等の言う通りに動くんですか?』 これに対しシグマは… 「何だ、今頃気付いたのか?」 「(シ、シグマ様!?)…へい」 直接口で言うシグマに焦りかけるコケコッカーは肯定する。 「ワシは『こういう事』をやって長いのでな、臭いで分かるのだよ。 それを踏まえて敢えて乗っているのよ。 事実として奴等がよこす情報は我々に有利なものばかり、不利になるものなど1つもない。 故に下手に歯向かうより有益な情報の入手の為に黙しているだけなのだよ」 敢えて表面上は協力する、騙された振りをする…というのも立派な策の一つ…といったところか。 シグマの言動からはスパイダーズスレード(ディメンションズマスター)の協力が無くとも何とかなるが 少しでも自分たちの有利に進める為に敢えてやっている…そんな余裕すら感じ取れた。 「俺如きが出過ぎたことを…すいませんでした…それでは次は…アイテム探索でしたね?」 「うむ、残るエリアは1つ。いつでもここに戻れるように心がけよ」 「へい」 「バグが…欲しい…もっと…欲しい…」 コケコッカーは頷き先程からバグを欲し続けるドクラーゲンと共にアイテム探索に向かった。 この直後… 「(私の心に…迷いがあるというのか…?私がこの先本当に望んでいるものは…!?)」 リディプスが複雑な表情で1人で現れ堕落者の学び舎へと向かった。 さらにしばらくして… 興奮した様子でトリロビッチとカマキールがアイテム探索から戻ってきた。 「や、やりましたシグマ様…凄ぇレア物を発見しましたよ… これは俺達には役には立たないでしょうがまさにシグマ様の為のバグじゃないんですかい!?」 「うむ?」 シグマはトリロビッチから渡されたバグをアナライズバグを介して解析する。 そして… 「でかしたぞ、どうやらお前の言う通りだ、褒めてやろう」 「ハハァーッ!!」 シグマに褒められ感極まるトリロビッチ。 そしてシグマは自らの所有するバグクリスタルでそのバグを成長させる。 単純に大きくなっただけでなく造形も複雑になり成長したのが良く分かる。 「わぁ~う、でっかくなったねぇ」 カマキールも感心するが… 直後3人全員がそのバグが成長し切っていない事を感じ取った。 「もっとくれ」とそのバグに言われた気がしたのだ。 「フン、まだ『成虫』にならなんだか…まぁよい、この先の敵からクリスタルを奪えばいいだけの事… あとはパンデモニウムとイエティンガーだけ、か 最早時間の問題、お前たち2人はそのまま待機せよ」 そう言いつつシグマがその2人に通信を入れようとした時… 部屋の中央にワープゲートが出現した。 それはこの部屋から行けるエリアが全て攻略されたことを意味する。 直後堕落者の学び舎のワープゲートより帰還する者が現れたのだが、それはパンデモニウム1人だった。 パンデモニウムは悲しげに報告する。 「シグマ様…僕はジェイルキーパーを倒しましたが…イエティンガーは…エビルスレイヤーに1人で挑んだ結果… 死んでしまった…そうです…」 報告を受けシグマは暫し沈黙し… 「(フン、役立たずめ…)そうか、残念だったな…奴の死を無駄にせぬ為にも我々は前に進み続けなければならない。 悲しんでいる暇などないぞ」 内面ではイエティンガーを蔑みつつもパンデモニウムを激励するシグマ。 「おいおい、同じ新世代型レプリロイドのイエティンガーがやられちまうなんてよ、また罠でも仕掛けやがったのか!?」 「もし罠じゃなかったら…それはそれで刻み甲斐がありそうじゃねぇか…」 トリロビッチとカマキールもそれぞれの反応を示す。 そしてシグマはアイテム探索に当たっている残りの4人を呼び戻し、 全員で部屋の中央に新たに出現したワープゲートに入り現在に至る。 ワープゲートの先は前方にのみ続いている長大な石段だった。 石段の両端は奈落の底となっておりそれらを挟んで滝が流れ落ちる。 その時スパイダーズスレード…正確にはその中のディメンションズマスターの3人が通信を入れる。 「まずはここまで来た事に対しおめでとうと言っておこう。イエティンガー君は残念だったね …」 「(白々しいんだよこの野郎…!)」 祝辞と労いの言葉を贈るティターンにコケコッカーは表情を歪める。 「ここの敵だが、道中は前方と側面からの攻撃に注意したまえ。 最後に待ち受けるジェイルキーパーは空中を浮遊し遠距離攻撃、接近戦の両方に対処可能だからどの距離でも油断しないように」 ティターンが言う。 「このエリアだが、この石段を登っていくだけの構造だ。敵に梃子摺りさえしなければ最深部に辿り着けるだろう」 ゴルゴダが言う。 「まぁこんな構造だからボクの出番はないけどね。ただ1つ警告しておくけど… 従来ここに行くレプリロイドはディスルかその部下に戦闘不能になるまでボコボコにされて それをここの兵士が回収して彼等の主であるジェイルキーパーに引き渡される…という流れなんだけど キミ達はディスルを倒し自分達で勝手にここに来た… これはここのルールに反する事だから当然ここの敵も相当おかんむりだから気を付けてね」 ビビッドが警告する。 「そう言えば敵は皆『侵入者は許さない』と言っていましたね」 アントニオンの言葉に皆が頷く。 「では行くぞ…!」 シグマの号令と共に全員で石段を登っていく。 律儀に1段1段を踏みしめて登っていく者はこの場には1人もいなかった。 ジャンプや飛行などを駆使して只々前方へと驀進していく。 しばらくすると両脇の滝から木魚のようなメカニロイドが飛び出してきた。 「シャドウランナー!」 それらを撃ち落とすカマキール。 次に石段の上から狛犬を模したメカニロイド達が駆け降りていく。 「レイガン!」 サンフラワードがレイガンでそれを一掃する。 さらに進むと上空から複数の六角形の角柱の形をした物体が現れた。 それらは浮遊タイプのメカニロイドでシグマ達を確認するや否や体の各部から光を放ちながら 機械音を響かせたかと思うと下部のハッチを開けそこから何かを放ってきた。 それらは爆弾でおみくじで言う大吉から大凶までの文字が書かれていた。 爆弾はすぐには爆発せずそれまでの間にアントニオンがスクイーズボムを発生させ爆発を無効化する。 爆弾を投下し終えたメカニロイド達は来た方向に去ろうとするが… 「逃がすかよ!バウンドブラスター!」 トリロビッチの放つ弾がメカニロイド達の間で跳弾し、瞬く間に全滅させる。 「おや、これは…」 スクイーズボムが消えた後、「大吉」から「末吉」と書かれた爆弾のあった場所にはアイテムがあった。 吉と付く爆弾にはアイテムが入っておりやはり良い結果程良いアイテムが入っていたのだ。 その中にはファイルバグもあった。 そのファイルバグに収められた内容は以下の通りであった。 「巨大バグとは肉体的、精神的、またはその両方の強さが伴わない者がバグとの同化に依存し続ける事で その者と同化していたバグが宿主のボディを喰らい感情を吸収し巨大化した存在である。 あくまで宿主だったレプリロイドとは別の存在であり、また原則的にレプリロイドを喰らう事しか興味がない。 誕生したばかりの個体は知性など皆無に等しいが他のレプリロイドを喰らい続ける事で知能も高くなり力も強くなる。 また各エリアの番人には巨大バグを手なづけて訓練し、利用している者も多い」 「最初にティターンの言っていた『喋る事が出来るバグ』は成長した巨大バグ…その可能性が高いですね」 アントニオンはそのように推測する。 さらに進んでいくと前方から長刀を持った僧兵のようなノーマルソルジャー達が隊列を整えなだれ込んで来た。 「下がっておれ…ドゥームバスター!」 シグマの放ったドゥームバスターがノーマルソルジャー達を飲み込み後に残されたのはアイテムの山だけだった。 石段を登り切るとそこには鳥居があった。 そこをくぐるとそこには巨大な寺院があり、その前には僧侶を模したチーフソルジャー達が待ち構えていた。 「穢れし者共よ…『外の世界』で冒した罪、そしてこの地で禁を破った罪の報いを受けるがいい」 そう言って彼等はお経を唱えだした。 すると彼等の周囲に人魂のような炎が現れシグマ達目がけて飛んできた。 「辛気臭い奴等め、仏教とやらのルールに則り火葬してやるぜ!」 そう言ってコケコッカーはチーフソルジャー達をたちまち焼き尽くしてしまった。 敵をあらかた全滅させてしばらく経った時だった。 「不浄の者達よ…」 寺院の中から重く響く声がすると思うと次の瞬間寺院の扉がゆっくりと開き中から光が漏れてくる。 扉の向こうから姿を現したのはパンデモニウム程はあろうかという体格の高僧のようなレプリロイドだった。 レプリロイドは重く響く声で言う。 「拙僧はジェイルキーパーが1人ラディカルモンク。 お主等が通過したエリア4つとこの先のエリア4つを結ぶ者也。 拙僧の役割はディスルより送られてきた咎人達をその罪に合わせてこの先のどのエリアに送るかを選別する事。 残忍非道の限りを尽くしたシグマ、そしてそのシグマに生み出されし生まれながらの咎人である他7人… お主等を送るエリアは既に決まっておる… されどお主等はこの地での最大の禁を破った。 故にここで拙僧より責め苦を受け、さらにその先にエリアで責め苦を受け続けるが良い。 是即ち因果応報也」 言い終わるや否やラディカルモンクの体を覆う光が増し、臨戦態勢に入った。 「強いな…」 「ああ…」 この場にいるメンバーはエビルスレイヤーと1度も対峙した事が無く、ファイルバグで得たデータで知るのみである。 故にディスルより強い彼はそれまでバグズディメンションで遭遇した敵の中で最も強い事になる。 緊張をしつつも臨戦態勢に入るシグマ以外のメンバーであったが… 「お前達は手出し無用だ、1つ試したい事があるのでな」 シグマが他のメンバーを制し一騎打ちを買って出る。 「ああ、アレですかい」 トリロビッチとカマキールはすぐさに納得した。 「不浄の者にしては天晴な心意気よ。なればお主のその覚悟、試してくれようぞ」 「相応の報いを受けるのがどちらか…身を以て思い知らせてくれるわ」 互いに向き合い、闘気を高めていく両者。 そしてそれがピークに達した時、両者は共に動き出した。 シグマがΣブレードを構えて突っ込んでくるのに対しラディカルモンクは経文のような物を取り出し 彼に向って放り投げた。 「スペルホールド!」 経文は空中で開かれるとシグマの周囲を囲うようにして留まり、 彼の動きを封じただけでなくスパークして徐々に体力を奪っていく。 「ブディスティックランチャー!!」 続いてラディカルモンクは手にした錫杖の周りに自らを覆う光を集中させたかと思うとそこから無数の光弾を放ってきた。 「ぬぅぅん!」 シグマは力づくで経文の束縛を破った。 この手の技は力任せに足掻く事で解除できる場合が多いのだ。 そしてシグマは上へと跳躍し光弾を回避した直後、姿を消した。 「ファントムディバイド!!」 ラディカルモンクの頭上に再度姿を現したシグマは渾身の力で斬りかかる。 それをラディカルモンクは光を集めた錫杖で防ぐ。 凄まじい力のぶつかり合いだっただけに空気の振動と衝撃音が広範囲に伝わる。 この膠着状態が数秒続いた後… 「ミラージュクロ―!!」 シグマがその驚異的な握力でラディカルモンクの頭を握り始める。 「ぐ…があああああ…!!!!」 シグマの指がめり込んでいき徐々にダメージを受けていくラディカルモンクだったが… 「…ダーティクラッシャー…!!」 ラディカルモンクは手の平に光を集めその状態で張り手の連発を繰り出してきた。 この張り手は108連発で威力、速度共に申し分なかった。 シグマは空いた方の手で応戦するもやがて吹き飛ばされてしまう。 ラディカルモンクもこの時頭部にかなりのダメージを負っていた。 それから暫し一進一退の攻防戦が繰り広げられた。 自らの体内エネルギーを攻撃・防御に使用できるラディカルモンクは基本性能も相まって シグマの攻撃に上手く対処してきている。 だがシグマもスペック、技術、経験により相手の攻撃を避けたり耐え切ったりしている。 「(シグマ様、あれを使うのが目的では…)」 中々例のレアなバグを使おうとしないシグマにトリロビッチがそう思い、それを伝えようとした時だった… 「成程な、いい実験台になりそうだ」 「何だと!?」 シグマは不敵に笑うとそのバグを取り出した。 「どれ、早速『ファイナルシグマW』で行ってみるとしようか…」 そう言うとシグマのエネルギーが急激に増大し強烈極まりない光に包まれた。 光が収束する時そこに姿を現したのは上半身だけの巨大化したシグマだった。 ファイナルシグマW…ユーラシア事件の時にエックスを憎むという謎の老人から与えられたという究極のボディである。 …が、事件当時は未完成で上半身までしか出来ておらず腕も出来ていなかった。 それでも当時のエックスとゼロを大いに苦しめたのだが… 今この場に出現したファイナルシグマWは下半身こそ無かったが腕は完成していた。 「な、何という大きさだ…」 その大きさに圧倒されるシグマの配下達だったがトリロビッチが唐突に口を開いた。 「説明しよう!今シグマ様が使ったバグは『メタモリーバグ』。 使用するレプリロイドのDNAデータや記録を遡りそのレプリロイドが過去に強化形態があった場合 それをバグの力で再現出来るのだ!」 ドヤ顔で説明するトリロビッチ。 その頃石段の下の方では… 「へぇ~バカデカくなったじゃねぇか…」 遠くから見えるファイナルシグマWの巨体にトルクは程々に感心する。 「あれが話に聞くシグマの最終形態、か…予想外のエネルギーだな… …ええい、抜け駆けなんてさせるかよ…!!」 焚き付けられたのか、ライドアーマーを疾駆させるVAVA-VI。 「これが我が強化形態の1つ、ファイナルシグマW… バグが成長し切っていなかったから未完成だがな…まーこれで十分だろう」 言い放つシグマに対しラディカルモンクは激昂する。 「如何に力を増したと言えそのような不完全な姿で十分とな!?愚弄するのも大概にせんかぁぁああ!!!!」 そしてラディカルモンクは上空に浮かび上がり手を頭上に掲げ、その上に超巨大な光球を作りだした。 「喰らうがいい、最・大・出・力!カルマイレイザー!!!」 光球を放つラディカルモンクだったが… 「甘いわ…」 シグマはボディをプログラム化し攻撃を完全に無効化してしまう。 その直後… 「ぬおおおおおおおおおお!!!!!!!」 ラディカルモンクの周囲に紫のキューブが生成され彼はそれに巻き込まれる。 これまでで最大の有効打を与えられた。 「十分と言ったであろう…はぁあ!!」 直後シグマは両手で両側からラディカルモンクを挟むようにして叩く。 まるで害虫対治の如く。 「おおおおおお!!!!!!! これで…勝った気になるで…ない!!! 拙僧がここで滅び、お主等が勝手に先に進む事で…この先の方々は一層お怒りになる… それ故より激しい責め苦がお主等を待ち受けておるぞぉぉ!!! そんなお主等の…手向けに教えてやろう、 我々とこの地の…創造主は…『オールエンダ―』… その御方の…目的は…全ての…忌まわしき…争いの…終結… 即ち…解脱で…ある… ぐわああああああああお!!!!!!!!!」 シグマの両手に挟まれ、潰されながらラディカルモンクは断末魔の声を上げ、息絶えた。 そして例の如く大量のアイテムを落として消滅した。 「いい実験台ではあったが…次の戦いまでにこのバグを完全に成長させる必要があるな」 「流石シグマ様!このままガンガン進みましょうぜ!!」 「オールエンダ―だか何だか知らねーが首洗って待ってろや!!」 歓喜に湧くこの場の面々はアイテムを回収後、寺院の中へと入っていった。 VAVA-VIとトルクはそれを追う。 その頃ルミネは… 「出遅れてしまったようですね…しかしこれがあれば何とかなるでしょう」 ルミネもメタモリーバグを手に入れていた。 そしてリディプスも… 「ふむ、抜け駆けされたか…だがこれがあれば…」 彼もまた、メタモリーバグを手に入れていたのだった。 そして現時点で生き残っている彼等12人はこの先、さらなる激戦へと身を投じていく…

第九話「準備」

シグマがラディカルモンクを撃破した直後、バグズディメンションの深部では… 「いやぁ~盛り上がってきた盛り上がってきた、本当にここまで来るとはねぇ~!」 「それもこれだけ生き残るとはな…」 「しかもさっき見た『ファイナルシグマW』って奴、ユーラシアの時より出来てたじゃねぇかよ! こりゃ面白くなってきたぜ!」 ディメンションズマスターの3人…ビビッド、ゴルゴダ、ティターンが シグマを含む自身らが最後に送り込んだレプリロイド達の戦いに感心した反応を示す。 「まーシグマもあれだけ負け続けてりゃ少しは準備もするだろうね」 「ああ、奴も少しは学んだようだ、前に映像で見た時よりかはな…」 「あれはあれで傑作だったがよぉ!ガハハハハハハ!!!!!」 3人は過去の出来事を思い出す。 それはVAVA-VIやシグマはもちろんトルクが送り込まれる前の時、バグズディメンションの1室で… 「これが最初のシグマの第2形態じゃ。手足が無いのはエックスが来るのが早過ぎて未完成だったそーだ」 オールエンダ―がモニターに映されたウルフシグマの説明を3人に行う。 「キャーッハッハッハッハッハ!!!何これ何これ! 手足が…無いでやんの~!!!」 「これだけの完成度で事件を起こす等…奴は短期か!?」 「何だ何だこれっぽっちしか出来てねーのによぉ、アホだ、アホすぎるぜ!! ガーッハッハッハッハッハ」 映像を見た3人は呆れ、嘲笑する。 「それで、だ、ユーラシア事件の時のがコレ! 同じくエックス達が来るのが早くて未完成だってよ!」 続いてオールエンダ―はファイナルシグマWの映像を3人に見せる。 「ハヒッハヒッ…!同じ失敗繰り返してるぅ~!!お腹痛いぃ~!!」 「言葉も出ないな…」 「こいつは傑作だぜ!!組織の頭の癖して学習能力無ーのかよ!! ガハハハハハハハハハ!!!!」 更に呆れ嘲笑する3人。 「それだけではないぞ~、レプリフォース大戦の時とヤコブ事件の時のも未完成の可能性が濃厚じゃ」 そう言ってオールエンダ―はレプリフォース大戦時のシグマ最終形態シグマガンナー及びアースシグマ、 そして最後にヤコブ事件の時のシグマの姿を示す。 「キャーハッハッハッハッハ!!やめて~もうやめてぇ~!!」 「やる気があるのか奴には…!?」 「ひっでぇな~オイ!!!こんなんだから負けちまうんだよ、ガーッハッハッハッハッハ!!!!!」 尚も盛大にシグマを馬鹿にする3人。 それにオールエンダ―は肯定しつつ言う。 「ああ、シグマが負け続けたのはエックスやゼロへの過小評価に己の過大評価、それによる準備不足が大きな原因の1つと言えよう… ワシは違うぞ~、ワシの計画はもっと慎重かつ崇高なものだった…が… ゴミ野郎共に全て台無しにされおった…!!」 急に声の調子を荒げるオールエンダ―。 「ああ、脳みそスカスカの虫食い脳野郎共によって全部ぶっ潰されちまった…!!」 それに呼応してティターンも声を荒げる。 この2人は何か忌々しい過去を思い出しているようだった。 「まぁまぁこれでボク達とも出会えた訳ですし、同じ『外』への不満を持つ者として今の計画の遂行、頑張っていきましょうよ」 「そもそも従来の貴方達の計画に沿っていれば俺やビビッドは粛清されていた存在… 何とも奇妙な縁ですな」 ビビッドとゴルゴダが言う。 「うむ、そうだ、見ておれ~『外』の奴等め… 十分な準備が整い次第、目にもの見せてくれるわ!! ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!!」 「そうだ見てやがれ糞野郎共!! 時期が来たら俺達がテメー等に引導渡してやるからよ! ガーハッハッハッハッハ!!!!」 そしてオールエンダ―とティターンは改めて意気込むのであった。 …そして現在。 「それでその『博士』だけどやっぱ今も『アレ』の研究にご執心なのかなぁ?」 ビビッドの問いにゴルゴダが答える。 「そうとしか考えられまい。何せディスルが倒されて以来それまでの比ではない『ご馳走』が送られ続けているのだからな」 「あの『デカブツ』がいる限りハンターも地上もタダでは済まねーだろ、 現時点でも『博士』の思惑通りになりそうな気がするけどな。 てなワケでそろそろ仕事に戻るぜ」 ティターンが言う。 同じ頃、バグズディメンション最深部にて… 「食わせろよぉ~…もっともっと食わせろよぉ~」 巨大な部屋の中でラディカルモンクの残骸を食べ終わった巨大な怪物が、 その姿に合った大きく醜い声でオールエンダ―に言う。 「本当によく食うのうお前は…まぁそう急かすな、もうしばらくするとまたどんどん飯は来るぞ」 オールエンダ―は言う。 そんな彼は容姿からしてレプリロイドである。 何故なら彼の体は骸骨のように骨格が剥き出しであり、 如何に痩せていようと骨だけで生きている人間などいるわけがないからである。 「ああぁ~待てねぇよぉ~早く…早く食わせろよぉ~!」 更に食事をねだる怪物。 「しょうがない、じゃーこれをやろう、中々の完成度じゃがどーせ試作品じゃし!」 そう言いつつオールエンダ―は巨大な、しかしその怪物からすれば虫程の大きさしかない物体を怪物の部屋に転送させる。 「うめぇぞぉ~…うめぇぞぉ~…」 喜々としてそれを頬張る怪物。 「そうだ食え、そしてもっとデカく、もっと強くなれ…! 今のこいつも過去の一部のシグマの第2形態と同じく未完成… しかしこいつは無限に成長を続けるが為に『完成』することなど無い…! 『完成』して終わる事など無いのじゃ…!!! ヒーッヒッヒッヒッヒッヒ!!!!」 そうしてオールエンダ―は狂気じみた笑い声を上げつつ怪物の食事を見守り続けていた。 しばらくしてシグマ達は寺院の中へと入っていった。 寺院の中は最初の司令室と似たような構造になっていた。 即ち部屋の隅々に4つのワープゲートが存在し、中央には機能しないワープゲートがあった。 「ふむ、これが後半のエリア、という事か…」 シグマが呟く。 まず最初に通信を入れたのはゴルゴダだった。 「よくここまで来たな。 では早速だが今回行けるようになった4つのエリアの説明をしよう。 まずは『破壊者の地下壕』。 街や自然を著しく破壊した者が送られる所だ。 捕まっている奴等は暗く劣悪な地下壕で極々稀に番人達から支給される少ない物資を頼りに ギリギリの生活を強いられている。 次に『憤怒の火山』。 怒りに身を任せた奴が行く所だ。 ここではマグマエネルギーを利用した武器や高温環境で活動できるライドアーマーや装備品が作られ 捕まっている奴等はそれらの実験台にされている。 その次は『虐殺者の針山』。 残忍極まりない殺戮行為をした奴が行く所で 捕まっている奴等は自らが行った残虐行為をそこの番人達から受けている。 トゲトラップがふんだんに仕掛けられているのが特徴だ。 最後は『忌み子の病棟』。 イレギュラー、または人間の犯罪者に生み出された生まれつきのイレギュラーが行く所だ。 患者を治す、というより危険人物を隔離するといった意味合いが強い施設で 捕まっている奴等は日々非人道的な実験が行われている。 この4つのエリアを攻略すればディメンションズマスターの待つ『大蜘蛛の巣窟』に行ける、という訳だ」 続いてティターンが言う。 「これら4つのエリアの番人達はここまで来た君達をより強い殺意を以て迎えるだろう。 だがここまで来た君達の可能性を、私は信じているよ」 ビビッドもそれに続く。 「リスクも大きいけど、リターンも大きいよ。 この先には良いアイテムも沢山眠ってるし敵が持ってたりするからね。 怪しい場所はボクが教えるからそこんとこ宜しく~!」 「うむ。ではこれから指示を出す…」 そしてシグマは配下7人に指示を出し、今回は自らも出撃していく。 暫くしてトルクが、そして次にVAVA-VI、ルミネ、リディプスの順にこの第2の司令室に辿り着きそれぞれの道へ進んでいく。 同じ頃、その4つのエリアの中の1つの中で… 戦いに敗れた人相の悪い囚人レプリロイドが嘲笑しながらアイテムを落として消滅し、 暫くして彼を手に掛けた番人レプリロイドの慟哭がエリア中に響き渡った…

第十話「どん底」

破壊者の地下壕… 街や自然に甚大な被害を与えたレプリロイドが送られるエリアである。 薄暗いこのエリアに送られたレプリロイドは極々稀に配給される雀の涙程の物資を頼りに 細々と生きていくしかなかった。 「うぅ~腹減ったぁ~」 「右足だけじゃなくて左足にもガタが来やがったぁ~」 長期間まともなメンテナンスも修理も受けられない彼等は日に日に衰弱していき、 生前は如何に屈強な体と精神の持ち主だろうが弱弱しく惨めな姿を晒している。 そんな中… 「ほぉ~ら今日の物資だぞぉ~」 そう言って防護服のようなアーマーに身を包んだノーマルソルジャーが入ってきて 持ってきた物資を乱暴に床に投げ捨てる。 「仲良く分け合うんだぞぉ~…ギャハハハハ!!」 嘲笑いながら退出するノーマルソルジャー。 すると… 「これは俺のもんだ!!」 「いいや俺のだ!よこせこの野郎!!」 貴重な物資を奪い合う罪人レプリロイド達。 彼等の中には生前仲間同士だった者達までいる。 実に醜悪な光景に見えるが人間が極限状態の時にそうなり勝ちなように レプリロイドにも同じような事は起こりうるのである。 ましてや彼等は悪事を働くような輩なのでこうした時チームワークが崩れてしまうのは自然な流れと言えよう。 やがてこの中で最も力のある者が物資を独占した時だった。 「畜…生…それを…よこせ…いや…よこして…ください…」 負けたレプリロイド達が彼に物資をせびるが。 「ハッ、馬鹿め、これっぽっちの物資を分け合ってちゃ共倒れするだけじゃねーか! この空間じゃ人様の事なんか考える余裕なんかありゃしねーのさ! 恨むならテメーらの無力さを恨みやがれ!」 「全く正論だな」 「な!?」 罪人レプリロイドが背後からの声に振り返るとそこにはVAVA-VIがいた。 VAVA-VIはそのまま有無を言わさず物資を独占したレプリロイドを破壊しそれらの物資を強奪する。 その罪人レプリロイドが僅かなアイテムを落として消滅すると 他の罪人レプリロイド達は今度はVAVA-VIにアイテムをねだり始める。 中には土下座をしたり足を舐めようとする者までいたが… 「見苦しい、消えろ!」 VAVA-VIは彼等も一掃し前進する。 暫くするとVAVA-VIは先程のノーマルソルジャー達に遭遇する。 「己侵入者め、ついにここまで来やがったか!」 「あの方のご機嫌を損ねるわけにはいかん…やっちまえ!!」 手にした武器から毒ガスを噴射してくるノーマルソルジャー達だったがやはりあっさり一掃される。 彼等は普通のアイテムに混じってDNAコアも落としたが 新世代型レプリロイドではないVAVA-VIはそれには目もくれず前へと進む。 その先に彼を待ち受けていたのは同じタイプのノーマルソルジャーの他 ネズミ型のメカニロイドや蟻型やミミズ型の巨大バグ達だったが いずれも彼の敵ではなかった。 さらに奥へと進んだ時… 「くたばれクソ侵入者がぁーっ!!!」 地中活動に特化したライドアーマー「クレイドラゴン」に乗り込んだチーフソルジャーが現れ VAVA-VIに襲い掛かってきたが 彼はそのチーフソルジャーのみに攻撃を当て、ライドアーマーを奪い去る。 「さてと、今回も大暴れと行こうじゃないか…!」 クレイドラゴンに乗り込んだVAVA-VIが身を乗り出した時、ビビッドから通信が入った。 「…何だよこんな時によ…」 「いいから聞いてよ。 よくある話なんだけどここの番人レプリロイド達は 罪人レプリロイド達には少しずつしかあげないアイテムを 自分達用に秘密の場所に隠してたりするんだよね。 そんでここのチーフソルジャー用のライドアーマー『クレイドラゴン』にはそれが分かる仕掛けがあるみたいなんだ。 ちょっと試してみてよ」 「どれ…」 通信を聞き終えたVAVA-VIがクレイドラゴンの操縦席にあるボタンの1つを押すと クレイドラゴンの胸部ライトからブラックライトが出た。 そしてそれに照らされると一部の壁が周囲と違う色に見えたのだ。 「これが隠し扉って奴か」 VAVA-VIが隠し扉を通ると確かにそこにはアイテムがあった。 それからVAVA-VIは敵を撃破しつつも隠し扉の先のアイテムも集めながら進んでいった。 当然の如くその様は正に破竹の勢いで敵はことごとく砕かれ、吹っ飛ばされては消滅していく。 そんな中VAVA-VIは1匹のファイルバグを見つけたのでその内容を調べてみる。 中に収められた映像と音声はやはり不完全なものだった。 内容は以下の通りである。 報道陣に囲まれたオールエンダ―と見覚えのある巨大レプリロイド、ルミネやパンデモニウムも見た太った男や彼等の取り巻きが 如何にも追い詰められた様子で受け答えをしている。 彼等の様子は一様に落ち着きが無く、体を震わせ、応答もしどろもどろで支離滅裂であった。 対する報道陣は彼等の行為を厳しく追及していく。 VAVA-VIが以前他のファイルバグで見た、オールエンダ―ににこやかに質問をしていた記者も ここでは厳しい詰問口調になっている。 所変わってビルからは警察官と思しき集団が両手に段ボール箱を抱えてぞろぞろと出てきていた。 「…だから誰なんだよこいつは!? それとこのデカいの、ティターンか!?…まぁいい、行くか…」 未だ彼等の正体を知らないVAVA-VI。 だが彼もまた内に秘めていた違和感をより確実なものにしつつあった。 しばらくして彼が辿り着いたのは天井、壁、床のあちこちに掘り返したような穴が開いている広大な空間だった。 そこに着くや否や一際強大なエネルギーを察知したVAVA-VIだったが その直後それは起こった。 床の中央が突如盛り上がりガリガリと地盤を削る音と共に何かが顔を出した。 それは更に周囲の床を削りその恐ろしい全身を現す。 その正体はケラの姿をした巨大バグであったがその大きさは人間の数倍はあり、 今まで見てきた巨大バグより遥かに巨大だった。 「へぇ、随分デカい巨大バグだな」 感嘆するVAVA-VIの前に巨大バグは何と喋り出した。 「おまえが例の侵入者の一人でちゅか。 ぼくはアクティブバグといって巨大バグだけどジェイルキーパーをやってまちゅ。 侵入者は即食べていいって言われてまちゅので遠慮なくいくでちゅよぉ~」 巨大な姿とは裏腹にアクティブの口調は幼児口調だった。 その癖声は巨体に見合って低くエコーのかかったようなものなので不自然かつ不気味極まりない。 「はーはーこれがティターンの言ってた喋るバグって奴か… しかし随分舐め腐った態度だなオイ。 俺にこんな態度とった事を後悔させてやるぜ」 静かだが怒りを込めた口調で言うVAVA-VI。 「ちがうんでちゅ!充分レプリロイドを食べてないから上手く喋れないんでちゅ! これでもマグマード・ドラグーンって奴を食べる前よりかは大分マシになったんでちゅよ! おまえも食べればもっともっと上手く喋れるようになるでちゅ! まずは食べ飽きたクレイドラゴンから引きずり降ろしてくれるでちゅ~!!」 アクティブバグは自身の不完全な言語機能にコンプレックスを持っていたのだった。 対するVAVA-VIは… 「違うな、俺がお前等を喰らうんだよ!! お前も俺の復讐の…踏み台になるがいい!!」 両者は暫し睨みあった後、駆け出した。 「ディギングアームズ!」 ドリルを携えた両腕で振りかぶるアクティブバグに対しVAVA-VIはサッとかわし逆にクレイドラゴンのドリルを突きたてる。 これに対しアクティブバグは再度殴りかかろうとするもすぐに距離を取られる。 「逃がさないでちゅよ!」 アクティブバグは飛行しVAVA-VIに迫る。 これにVAVA-VIはダッシュジャンプで迎え撃つ。 飛行能力こそ無いもののクレイドラゴンにはダッシュジャンプとエアダッシュの機能も備わっており空中戦にもある程度は対応出来るのだ。 「おらよ!」 空中でアクティブバグを叩き落としそのままプレス攻撃を繰り出さんとするVAVA-VIだったが… 「やりまちゅね…でもここからでちゅよ!」 攻撃を回避したアクティブバグは自らが掘った穴の中に逃げ込む。 その直後別の穴からアクティブバグが出現し、攻撃を仕掛けるも VAVA-VIは素早く反応しそれを受け流して反撃する。 そして再度穴に入るアクティブバグだったがVAVA-VIはそれを追う。 アクティブバグが掘った穴には水路もありそこでは彼は高速遊泳でVAVA-VIに迫る。 「へぇ、どこでも有りか…」 VAVA-VIがやや感心した様子で呟く。 地上で、空中で、水中で、地中でドリルを携えた巨体同士が轟音を響かせながら激しくぶつかり合う。 距離が離れた時にアクティブバグは破壊音波を放ってきて一度だけ喰らってしまったVAVA-VIだったが それ以降は予備動作を覚えもう当たる事は無かった。 そんな戦いが暫く続いたが流れは徐々にVAVA-VIの有利に進んでいく。 「馬鹿な…そんな馬鹿な…クレイドラゴンがこんなにちゅよいなんて有り得ないでちゅ!」 「それは乗り手の問題だ、ライドアーマーの操縦で俺の右に出る者なんていないのさ!!」 嘲笑いながらアクティブバグを追い詰めていくVAVA-VI。 そして… 「今度こそ引きずりおろしてやるでちゅ~!」 VAVA-VIと正面衝突したアクティブバグは渾身の力でクレイドラゴンを押さえつけ 両腕のドリルを突き立てるのだったが… 「……」 興奮気味のアクティブバグに対しVAVA-VIは冷静に相手の特に損傷の酷い所にドリルを突き立てる。 「ぎゃああああ痛いでちゅぅ~~~っ!!!!」 断末魔の声を響かせたアクティブバグはそのままアイテムを落として消滅した。 「多少強くても所詮はジェイルキーパー… 俺が倒したエビルスレイヤーはパンチ1発でライドアーマーを破壊したぜ?」 アイテムを回収し先へと進もうとするVAVA-VIだったが… 「とは言え、流石に持たなかったか…」 彼がそう呟くや先程の戦闘で損傷したクレイドラゴンが限界に達し爆散した。 「まぁいい、別の奴から奪えばいいだけの事だ」 そう言ってVAVA-VIは駆け出す。 彼はまだ知らない。 スパイダーズスレードには自身に匹敵、あるいは凌駕するライドアーマーの乗り手がスパイダーズスレードにいる事を… 同じ頃このエリアのより深くにて… ここにはトリロビッチとパンデモニウムが出撃していた。  「しかしよぉー、ここもクソみてーな所だぜ、 地中ってのは俺に合ってるかも知れねーが不潔だし空気もまずいし雰囲気も重いし…」 「でもここで捕まってる人達は世界をこういう風にしたんだよね… ある意味では仕方ない事だよ…」 そう言いながら立ち向かってくるノーマルソルジャーやチーフソルジャー、 ネズミ型メカニロイドに蟻型やミミズ型の巨大バグを撃破していく二人。 トリロビッチがぼやくようにこのエリアの状態も惨たんたるものだった。 錆びた配管からは汚い水が滴り辺りには塵や埃、悪臭、スモッグ等が漂い 至る所に捕らわれの罪人レプリロイド達が横たわっている。 彼等は二人を見つけるや否や物資をねだってくる。 「頼む…何か…俺達に…お恵みを…」 やはりというか彼等は目が死んでおり何もかもに絶望したような様子だった。 「うるせー消えろ、乞食野郎が!!」 「悪いけど君達にあげる物なんて何もないよ…」 そして例によってトリロビッチとパンデモニウムが彼等に取り合う事も無く 無視あるいは殺して先へと進んでいく。 暫く進むと二人は扉を目にする。 そこでゴルゴダから通信が入った。 「この先はあらゆる劣悪な環境が人工的に作られている部屋で区切られている。 それを発生させる装置を破壊すればその部屋の異常は解消される。 それまではその部屋は劣悪な環境下にあるが為あらゆる環境に耐性のある敵の能力を使うのも1つの手だろう」 これを聞いた2人は道中でノーマルソルジャーとチーフソルジャーがDNAコアを落としていたのを思い出し、 チーフソルジャーに変身して扉をくぐる。 最初に入った部屋は超高温状態だったが今の姿の2人には何ともなかった。 「お前等、侵入者共がこっちに来るみたいだから気を付けろよ」 仲間と誤認したのか2人に声をかけるチーフソルジャーの1体だったが… 「残念、俺達がその『侵入者』でした~♪」 トリロビッチがそう言うや否や2人は敵に攻撃を始める。 「畜生!倒した仲間に化けやがって!許さねぇ!!!」 「こ、こいつら…!!」 ここで2人は雑魚である筈のチーフソルジャーとノーマルソルジャー達に思わぬ苦戦を強いられる。 何故なら2人は敵の異常な環境への耐性だけでなくそのスペックまでコピーしてしまったからである。 「ええい、面倒くせぇ!」 トリロビッチは変身を解除した。 炎や高熱を弱点としないトリロビッチは本来の姿でもこの部屋では大した影響は受けなかった。 そしてそのまま敵を屠っていく。 「パンデモニウム、お前はそのままでいろ!熱いの苦手だったろ!?」 「分かったよ。じゃあ僕はこの手で行くね」 トリロビッチに言われパンデモニウムは敵の姿のまま攻撃用のバグで敵を攻撃する。 充分に成長させた攻撃用バグは敵に対しかなりの殺傷力を誇る。 やがてトリロビッチがこの部屋の環境を司る装置を発見し、破壊すると部屋の温度が通常のそれになった。 「これでもう元の姿でも平気だね」 パンデモニウムは変身を解いた。 それ以降極寒、酸性雨、毒ガス等様々な異常環境がある部屋が続いたが2人は従来の姿でも問題なく進めた。 しかし… 「次行くぞ!」 トリロビッチは次の部屋に入るが… 「へべっ!!??」 部屋に入った直後トリロビッチは地面に貼り付けられるように倒れ込み大ダメージを負ってしまう。 そこは重力異常の発生する部屋だったのだ。 「今だ、やっちまえ!!」 止めを刺そうと襲い来る敵達。 「トリロビッチ、変身だよ!!」 彼等を薙ぎ払いながらパンデモニウムが言う。 「全く、弱点突かれた時だけは役に立つな」 嘆息しつつ再度敵に変身するトリロビッチ。 しばらくしてパンデモニウムがこの部屋の装置を破壊した。 それ以降次々と異常環境の部屋を突破していく2人だったが途中でファイルバグを見つけた。 「今度はどんな情報が入ってるんだ?前みたいにムフフな情報でも歓迎だぜ!」 「僕は何か嫌な予感がするな…」 トリロビッチとパンデモニウムがそれぞれ言いつつバグに収められた情報を見る。 それは映像、音声共に不完全だったがバグズディメンションやエビルスレイヤー以下の各エリアの番人が生まれる経緯を示したものだった。 所々音声や映像が乱れているもののある程度の推理力があれば以下の事が推察できる。 それはエビルスレイヤー等はハンターとは全く関係の無い事、 バグズディメンションや彼等が生み出されたきっかけは殆ど逆恨みのようなものである事、 エビルスレイヤーはそれぞれ自分が最強で高潔だと思い込んでいる事、 仮に彼等がバグズディメンションに送られたレプリロイドを全て倒したとしても「外の世界」で 彼等が望むものは無い事、 それにより発する混乱こそ黒幕オールエンダ―の望みである事、 予定では彼等がディメンションズマスターやオールエンダ―、それ以上に恐ろしい何かと戦わされる事も視野に入れられている事…等であった。 「「……」」 暫し沈黙が続いた。 先に口を開いたのはトリロビッチであった。 「うわぁ~、こんな風に生まれたら俺だったら自殺するわ!! ある程度予想してたけどよ、ここの敵はアホがアホな目的で生み出したおめでたい連中だったんだな!」 「終わらせてあげよう、彼等の悲しい運命を…」 パンデモニウムは暗い表情で呟く。 さらに進んで彼等が辿りついたのは複数の異常環境が発生する巨大な部屋だった。 ちなみに高温と低温を発生させる装置は互いの効果を打ち消さないために一番離れた位置に設置されている。 「よーし、弱点だけに気を付けろ!」 2人は自分の弱点とする異常環境を避けつつ敵を撃破し、装置も破壊していく。 そして遂に一際巨大な扉の前に辿り着いた時、ティターンから通信が入った。 「この先の敵はエネルギー攻撃よりもどちらかと言うと物理攻撃が有効のようだ。 特に強烈な物理攻撃は何か大きな効果をもたらすみたいだよ」 「成程、物理攻撃は俺達2人とも持ってるからな」 このエリアに選ばれた理由を改めて納得するトリロビッチ。 そして2人は扉を潜る。 「な、何だこの雰囲気は…」 部屋に入るや否や凄まじい重圧を肌で感じる2人。 その部屋の奥にいたのは複数のモニターに向かう黒くずんぐりむっくりしたクマムシを思わせる容貌のレプリロイドで 重圧は彼から発せられたものであった。 レプリロイドは振り返りつつ口を開く。 「ついに来ちゃったか… 僕はエビルスレイヤーのシェルター・クマムッシュ。ここの担当さ…」 呟くような口調の中にシュコーシュコーと酸素マスクを付けた時のような呼吸音を響かせ語るクマムッシュ。 「僕はここで環境を滅茶滅茶にした人達を罰しているけどこれだけで全部って訳じゃないんだ… 何故ならここにいるのは死んだ人達だけで『外の世界』では今でもそういう人達がのうのうと生きているみたいじゃないか… 許せないよね… そんな奴等も僕がここみたいなどん底に突き落として…そして…」 クマムッシュは遠くからボソボソと語る。 「あぁ~何言ってんだぁ!?聞こえねぇなぁ~?」 足を踏み出すトリロビッチだったが… 「来るなぁぁっ!!!!!!!」 「うお!?」 「うわ!?」 突然今までからは想像も出来ない大声で怒鳴るクマムッシュ。 対して2人は一瞬驚いてしまう。 「そうだ、お前達は僕の領域を侵した…それが一番許せない… だから…さっさと…消えて貰おう…!」 クマムッシュはそう言い放つと己のエネルギーを高めていき自身を中心にオーラのようなものを発生させた。 「ハザードテリトリー…濃縮された異常環境を身に纏う技だよ… 何人たりとも僕に近付けないのさ…」 そう言いつつクマムッシュがオーラの半径を広げていくと… 「熱ちちちちちちち!!!!!!」 「何だこれ俺でも熱ぃ!!!!」 クマムッシュが放ったのは炎のオーラだった。 その出力は先程の異常環境発生装置の比ではなくパンデモニウムはもちろん 炎が弱点ではない筈のトリロビッチにも大ダメージを与える。 「次はこれだよ…」 そう言って次に重力のオーラを発するクマムッシュ。 「ぐへぁああああーっ!!!」 「く、僕にも効くなんて…」 同じく重力が弱点のトリロビッチには絶大な効果を発揮し弱点ではないパンデモニウムにも大ダメージを与える。 「こうなったら地道に遠距離戦しかねぇな!!」 互いにクマムッシュから距離を取る両者だったが… 「なら…ハザードスプレッド…」 クマムッシュは今度は掌からそれぞれ炎と重力波を噴出した。 「ぐわああぁぁああああ!!!!…こうなったら…!!」 2人はチーフソルジャーに変身し、攻撃用バグで反撃を試みたが… 「馬鹿だね…同じような条件だと能力値のある僕の有利に決まっているじゃないか… 攻撃用のバグぐらい僕も持っているんだよ…」 クマムッシュは己の体から攻撃用バグ「ウィップバグ」を出現させた。 このバグは百足のような姿をしており長さだけなら大型の巨大バグほどもある。 そしてエビルスレイヤーであるクマムッシュの腕力で振るわれるそれは凄まじい威力を発揮する。 「クソ、上手く動けねぇ!!」 チーフソルジャーの姿で動きの鈍った2人は鞭を連続で喰らってしまう。 「イテテテ…しょうがねぇ…なら…この手で行くぜ…パンデモニウム、耳貸せ耳!!」 何かを思いついたトリロビッチがパンデモニウムに耳打ちする。 それが終わるとトリロビッチはクマムッシュに迫っていく。 「来るなぁ!!!」 対するクマムッシュは重力のオーラを展開しようとする。 その瞬間、後方で待機していたパンデモニウムがバンブースピアを繰り出した。 「うわぁっ!?」 ダメージを受けつつ転倒するクマムッシュ。 トリロビッチの作戦とは他者が近寄る事を極端に嫌うクマムッシュの性格を利用して どちらかが囮になる、というものだった。 タイミングはギリギリで予備動作を見た瞬間トリロビッチは念の為チーフソルジャーに変身していたのだった。 その後もこの作戦でクマムッシュにダメージを与えていく2人だったが決定打にはならず またクマムッシュもフェイントを仕掛けてくることもあり戦いは長引いた。 だがある時… 「葉断突!!」 それは危険な賭けだった。 それまでは囮の時以外は遠距離から攻撃していたのだが今回は絶大な威力を誇る代わりに 相手に近寄らなければならない技を放たなければならなかったからだ。 だがハイリスクなだけあってハイリターンであった。 「うわぁぁあ~僕のアーマーがぁぁああ~~!!!」 強烈な物理攻撃である葉断突を喰らったクマムッシュからアーマーが剥され吹っ飛んだ。 「返してほしけりゃここまでおいで~」 トリロビッチは嘲笑しつつクマムッシュのアーマーを後方に放り投げる。 そして次にパンデモニウムが囮役として近寄った時の事だった。 「来るなぁ~!来るな来るな来るなぁ~っ!!」 クマムッシュは何故かオーラを出さずウィップバグを振るうのみであった。 「(もしかしたら…)」「(こいつ…)」 そう、クマムッシュのエネルギー攻撃への耐性はアーマーによるものであり、 それが無い時にハザードテリトリー、及びハザードスプラッシュを繰り出すと自らもダメージを受けてしまうのだ。 2人はそれを察しパンデモニウムが鞭を掴みその状態で鞭を握るクマムッシュごと振り回して地面に叩きつけた。 「ガ…ハ…」 昏倒しかけるクマムッシュ。 それ以降戦いはトリロビッチとパンデモニウムの有利に進んだかのように見えた。 だがそれもある時転機が訪れる。 「ほ~れ近寄ってほしくないんだろ!?だったら逃げてみろよほ~れほれ!!」 調子に乗ったトリロビッチがクマムッシュを足蹴にした時だった。 「…いい加減に…しろぉーっ!!!!!」 激昂したクマムッシュがトリロビッチを殴り飛ばしパンデモニウムには砲丸のような攻撃用バグ「ショットバグ」をぶつけた後アーマーに駆け寄り着用する。 そしてその直後。 「リーサルテリトリー!!」 クマムッシュは全身から強烈極まりない破壊光線を発した。 例えるなら一瞬だけ発動するエックスのギガクラッシュが何秒も続けて発動されているようなものである。 「ぐほっ…!!選ばれた俺が…こんな…所で…!!」 1ヒット目でアーマーが剥され、その後その破壊光線に晒されたトリロビッチは力尽き、遂にはアイテムを落として消滅してしまった。 「トリロビッチ…!くっ…!!」 何を思ったのか光線に耐えつつクマムッシュから遠ざかっていくパンデモニウム。 そして限界まで遠ざかった時だった。 「グリーンスピナー!!」 パンデモニウムはバグによる強化によってよりより巨大化したミサイルを連続で放つ。 超巨大なミサイルが技発動中のクマムッシュに連続でヒットする。 1発目でミサイルはクマムッシュのアーマーを剥し2発目以降はクマムッシュ本体にヒットする。 加えてアーマーを失ったクマムッシュは自分の技でダメージを受けていく。 すぐさに技を解除したクマムッシュだったが時既に遅し。 ミサイルと自らの技で致命的なダメージを受けたクマムッシュは全身ズタボロの状態で地に倒れ伏す。 対してパンデモニウムはトリロビッチの落としたアイテムによって回復していた。 「クマムッシュ…」 クマムッシュに歩み寄るパンデモニウム。 「知ってる?君達は世界の為ではなく世界を混乱に陥れるために造られたんだよ…」 パンデモニウムは真実を告げる。 「何…を…訳の…分からない…事…を…」 呻くクマムッシュにパンデモニウムが続けて言う。 「それも…造られたきっかけは…愚かなものだったんだよ…ほら…」 パンデモニウムは拾ったファイルバグをクマムッシュに差し出す。 そしてクマムッシュはバグに収められた情報を見る。 「そんな…それじゃあ僕のしてきた事は…僕の存在意義は…」 愕然とするクマムッシュ。 「でもそんな運命も僕が終わらせてあげる… もうこんな茶番に付き合う事なんて…無いんだよ…」 そう言うとパンデモニウムはクマムッシュにベアハングをかける。 「そんな…そんな…」 他者に近寄られる事を何よりも嫌うクマムッシュだったが今はそんな事はどうでもよかった。 只々騙されたままいい気になって生きてきた事が悔しくやるせなかったのだ。 そしてそのままクマムッシュはパンデモニウムの腕の中でアイテムを落として消滅した。 暗い部屋に1人取り残されたパンデモニウム。 「トリロビッチ、君の分まで僕は戦うよ… そして…エビルスレイヤー…レプリロイドが…こんな理由で造られるだなんて… これで外にまた近付いたというのに…涙が…止まらない…」 バグズディメンションの番人の境遇を哀れみつつパンデモニウムはその場を後にした。 そして暫くたった時、このエリアが攻略された事を知ったVAVA-VIは他のエリアを目指すのだった。 ほぼ同じ頃… バグズディメンションの最深部ではアクティブバグの残骸を巨大な怪物が貪り食っていた。 「何じゃ何じゃこいつはお前と似たような存在なのにこいつも平気で食うのか~? これじゃまるで共食いじゃねーか」 「関係ねぇよぉ~美味けりゃ何でもいいんだよぉ~」 オールエンダ―の問いかけに怪物はそう答え、直後転送されてきたクマムッシュの残骸にも手を付け始めるのであった。

第十一話「怒れる者」

怒の火山。 そこは怒りに呑まれたイレギュラーが送られる地である。 送られたレプリロイド達は耐熱服のようなアーマーを身に纏い ユーラシア事件の時に見られたメカニロイド「ドラゴンマグマ」を小型化したような火炎放射器を持ったノーマルソルジャー達から 実験という名目で辱めを受けていた。 「ギャアアアアアアーッ!!!畜生!畜生ーっ!!」 ノーマルソルジャーの放つ火球が命中し、全身を炎に包まれのたうち回る罪人レプリロイド達。 それを見ながらノーマルソルジャー達は嘲笑を響かせる。 「テメーらが生前怒りを抑えられなかったからこういう目に遭うのさ!!」 「そうだそうだ、我慢さえすれば事は穏便に済んだのによぉ!」 「ブチ切れるだなんて人間のガキや動物のする事だぜ!! そうじゃねーならもっと理性的に、平和的に生きるべきだったなぁ!!!」 そう口々に罵声を浴びせながら火球を放ち罪人レプリロイド達を焼死させていくノーマルソルジャー達だったが… 「『我慢しろ』『穏便に』『理性的に』『平和的に』…か… 俺の故郷の爺共や俺を殺した連中を思い出すぜ…」 背後からの声にノーマルソルジャーが振り返るとそこにはいつの間にかトルクが佇んでいた。 「脱走者トルク…遂にここまで来やがったか…!撃てぇーっ!!」 ノーマルソルジャー達の攻撃を受けながらトルクは平然と歩き彼等に迫ってくる。 「我慢我慢と人様世間様の為に自分を抑えてニコニコへりくだって… 結局テメーの都合でそういう下らねー生き方を押し付けるテメー等みてーな奴等を見ると…反吐が出るぜ!! 俺の生き方を決めるのはな、俺だけだ!!」 そう言うやトルクは先端をハンマー状にしたトルクロッドでノーマルソルジャー達を吹っ飛ばす。 その一振りで彼の近くにいた複数のノーマルソルジャー達が 高速で飛んでいき、その先にいたノーマルソルジャーにぶつかりそのノーマルソルジャーも飛んでいく。 それが何度も連鎖し結果大勢のノーマルソルジャー達がまとめて壁に激突しアイテムを落として消滅していく。 「さぁて、行くかね…」 その場にいた敵を全滅させたトルクはエゴイスティックビーストで駆け出した。 このエリアは下がマグマになっており非常に足場が悪いのだが エゴイスティックビーストは飛行能力を持っている為トルクには何の問題もなかった。 「飛ばしていくぜぇーっ!!!」 足場の上からは先程のノーマルソルジャーの他にアリマキのような巨大バグが、 マグマの中からは龍や魚を模したメカニロイドが、 空中からは飛行能力を持ちマグマを放つライドアーマー「フェニックス」に乗るチーフソルジャーが行く手を阻もうとするが そのことごとくがエゴイスティックビーストの兵装で撃破されていく。 正面の敵はエゴイスティックビーストの獣の口と胸に相当する部分に搭載された砲門で撃ち抜かれ、 背後や側面の敵は側面から放たれる回転ノコギリで刻まれていった。 順調に驀進するトルクだったがある時前方から一際強大なエネルギー反応を捉える。 それを気にせず只々前へと突き進んだトルクは中央の巨大な足場をマグマが囲む大部屋に飛び出した。 そしてトルクは先程感じたエネルギーの発信源が足場の中央に佇むゾウムシの姿をした あまりにも巨大な巨大バグである事を確信した。 「へぇー、これまたバカデカい…」 トルクがその巨大さに感心した時だった。 「よよ、よくここまで来たな… だだだ、だけど、ここ、ここから先は… こ、このジェジェ、ジェイルキーパーの1人… アーマードバグの名に懸けて…とと、通さないゾウ!」 アーマードバグと名乗った巨大バグはアクティブバグ同様に喋り出した。 かなり言葉に詰まりながら。 「成程な、随分前に喋るバグがいるとか聞いたが本当にいたんだな。 しかしよぉ、デカい図体してビビり過ぎじゃねーか!?」 「ちち、違うんだゾウ!まま、まだ十分に罪人レプリロイドを食ってないから ろろ、呂律が回らないんだゾウ! ここ、これでもウェブ・スパイダスとかいう奴を食う前よりかはま、マシになったんだゾウ!! お、おめも食って…スス、スムーズに喋れるようになってやるゾウ!」 挑発気味に言うトルクにアーマードバグが答える。 彼もまた己の不完全な言語機能にコンプレックスを持っていたのだった… 「そりゃ無理な願いだ、これからテメーは永久に喋れなくなるんだから…よ!!」 トルクはエゴイスティックビーストも含め全身にエネルギーを纏った状態で渾身の体当たりを繰り出した。 「ぬおぉお!?」 それを喰らったアーマードバグは後退していった後に転倒したがすぐさに体勢を立て直した。 「(転ぶだけかよ、やはりザコのようには行かねーな…)」 「(オオ、オラの巨体を転ばせるとは…ささ、流石にここまで来るだけの事はあるゾウ…)」 互いにその強さを認め合う両者。 そして彼等の戦いはヒートアップしていく。 トルクはアーマードバグの周囲を高速で旋回しつつ体当たりやエゴイスティックビーストの兵装からの攻撃を繰り出し アーマードバグはそのボディの各所に搭載された砲門で迎撃を試みる。 流石にそのサイズから小回りは効かず被弾率はアーマードバグの方が高いが 強固な装甲の為中々ダメージが与えられず戦いは長引いた。 とはいえトルクは相手の砲門を次々と破壊していき、 ゆっくりと、しかし確実にアーマードバグは追い詰められていく。 そんなある時… 「ちょちょ、ちょこまかと鬱陶しいゾウ!!」 突如アーマードバグがトルクに強烈極まりない体当たりを繰り出し吹っ飛ばした。 そして壁に叩きつけられるトルク。 彼のアーマーは凹みクリスタル部分はひび割れ見るからに大ダメージを負っているかのように見えたのだが… 「効いたぜ…!」「なな、何ぃ!?」 トルクはそう言いながらも平然とした様子で体勢を立て直した。 これにアーマードバグは驚愕する。 トルクは普通なら危篤状態の体でも全く勢いを殺さずに戦える闘志の持ち主。 現在の状態は彼にとってはかすり傷も同然なのである。 「これはお返しだ!」 トルクはトルクロッドの先端を巨大なドリルに変形させるや否やそれを構えてアーマードバグに突っ込んだ。 「ヘルズブレス!!」 アーマードバグは口から炎を吐き出したがトルクはそれを素早く回避、 直後に相手のボディにドリルを突き立てた。 「ぐおおおおおおおお!!!!」 ドリルはアーマードバグの装甲を容易く貫き、食い込んでいく。 そして次にトルクが取った行動は… 「おらぁ!おらぁ!!おらぁぁあ!!!」 凄まじい重量であるはずのアーマードバグをトルクロッドごと振り回し、 床や壁に叩きつけ始めたのであった。 「ぶげ!!ごふ!!びぎゃ!!!」 既にその箇所の砲門は破壊されており反撃の手段を失ったアーマードバグは一気に追い詰められていく。 「これで、終わりだ!!!」 最後にトルクは真下に向かってダッシュし渾身の力で床に埋めるように叩きつけた。 部屋全体が大きく震撼し床は捲れて大穴が開き、そしてそのままアーマードバグはアイテムを落として消滅した。 「さぁて、次行くか…」 トルクは再び駆け出す。 同じ頃… 「聞こえる…聞こえるぞ…殺されていった者達の恨みの声がよ…!」 「私にもさっきから聞こえてますよ。 何せここは怒りに身を任せた者の行く地ですからね」 コケコッカーとアントニオンはこのエリアの深くまで進んでいた。 このエリアはマグマで満ち溢れ、敵は炎を使う他パワーに優れている為 耐熱性の高いコケコッカーと悪い足場に対処できパワーに優れるアントニオンが派遣されていたのだ。 現時点で2人はマグマの滝のある地点まで来ていたのだが、 その時ビビッドから通信が入った。 「レアなアイテムというのは一見危険な場所に隠されている事が多いけどここも当てはまるみたいだね。 虎穴に入らずんば虎子を得ず…とか言うでしょ?」 これを聞いたコケコッカーは… 「このマグマの滝が虎穴って事だな…俺には全然平気だけどよ」 そしてコケコッカーは滝の向こうのレアアイテムをゲットしていく。 暫く進んだ先では下がマグマになっており天井には滑車がいくつか設置されており1つの滑車につき2つの足場が吊るされていた。 よく見ると足場は檻の形をしていた。 「これで罪人レプリロイド達をマグマの中に沈めていった、という事かよ」 コケコッカーは顔を険しくする。 その時今度はゴルゴダから通信が入った。 「この滑車は足場に軽い物が乗っても容易に動く。 足場に長い間乗り続けているとマグマに浸かってしまうぞ。 当然重い物が乗るとより急速に動くから注意して渡れ」 「俺には問題ないな」 コケコッカーは普通に飛んでいく。 「同じく私にも」 アントニオンは重力を操作し足場を動かないようにして飛び移っていく。 そんな状態が暫く続くと途中から2人の前にメカニロイドやフェニックスに乗ったチーフソルジャーが大挙して現れた。 「鬱陶しいです…ね!」 アントニオンの重力操作でまとめてマグマに突っ込む敵達。 しかし彼等はマグマで溶かされることなくすぐ復活してしまう。 ここでティターンから通信が入った。 「言っておくがここの敵は耐熱性に優れている。 よってマグマに落としてもそれで倒す事は出来ないよ」 「成程な…焔降刃!!」 「キューブドロップ!!」 そう言い放つや敵を倒しつつ悪路を順調に進んでいく2人。 暫く進むと彼等はファイルバグを発見した。 そのバグに刻まれた内容はここに送られたイレギュラーに関する事を中心としたこれまでの大戦の記録だった。 データでしか過去の大戦の事を知らなかった2人はここでよりリアルな事情を知る事になる。 これまでの事件でイレギュラーが怒りに呑まれた理由は様々だった。 中には本当に身勝手な理由もあったが人間からの不当な差別や大切な存在を失うなど 理不尽で仕方のない例も数多かった。 それを多くのハンターは下らないと一蹴し見下しながら、又は何の疑問も抱かず淡々と イレギュラー認定された者を処分し続けてきた。 中には疑問を持ち悩み悲しむハンターがいたと思いきゃそれが自身の仇であるあのエックスなのだから堪らない。 「畜生!畜生!ふざけやがってぇーっ!!!」 バグに収められた映像を見たコケコッカーは怒りを露わにする。 「まぁまぁ。我々が新たな支配者として人間や旧世代に取って代わればこのような事も無くなるでしょう。 その為にはここを出ましょうよ」 アントニオンはそんな彼を冷静に窘める。 「…そうだな…ここからはナビをオフにして聞いてほしい」 コケコッカーが真剣な顔で言う。 「はいはい、何でしょうか?」 アントニオンが尋ねた後両者は自らと同化したナビゲーションバグを休眠状態にする。 「俺はな、さっきファイルバグで見たハンター共や人間共にトサカに来てるんだけどよ、 ディメンションズマスターとオールエンダーも同じぐらいか…それ以上にトサカに来てるんだ」 「お気持ちは分かります。我々をこんな所に送り込んだのですからね」 コケコッカーの言葉にアントニオンは頷くが… 「それもあるがそれだけじゃねぇ。 俺が拾ったファイルバグや他の奴の話から聞いた話によると どうもスパイダーズスレードとディメンションズマスターは同一人物見て間違いねぇだろう。 奴等上から目線で俺達を助けながら各エリアの連中も指揮してやがるんだ。 それだけじゃねぇ… オールエンダーとディメンションズマスターは… エビルスレイヤー以下の奴等を騙しているみたいだ。 各エリアにいる奴等は自分達はハンターに造られたとか世の中の役に立つとか思ってるかもしれねーが… 本当はオールエンダーが何かとんでもない事をやらかす為の実験体に過ぎない、という事だ。 要は自分では誇り高い存在だと思ってたのがその実下らねぇお遊びの為に生まれた道化だったという事だぜ…!」 吐き捨てるようにコケコッカーは言う。 これに対してアントニオンは暫し思案した後口を開く。 「確かに彼等には哀れみを禁じえませんね。 ハンターの方々は我々を狂っている、イレギュラーだ、等と断じてきましたが それは飽くまで彼等の無知による事。 しかし彼等は正真正銘製造者の嘘に騙され踊らされ舞い上がっている。 私達は正しく選ばれし者として生まれてきましたが一歩間違えればこのような生まれ方をしていたのかもしれませんね。 私もこのような目的で生まれるなら旧世代の、それも量産型の雑兵レプリロイドや 作業用レプリロイドとして生まれた方がまだマシだと思いますよ。 …おや、どうやら着いたみたいですね」 各エリアの番人達に哀れみと蔑みの念を露わにしアントニオンは頷く。 そして2人は一際巨大な扉の前に辿り着いた 「この扉の向こうに…ええい、行くぞ!!」 扉の向こうより感じられる強大無比なエネルギーに気圧されそうになる自身らを叱責しつつ 2人は扉の向こうへ進む。 扉の向こうは下がマグマで満たされ所々に足場のある途方もなく広い空間だった。 「誰も…いないだと!?」 「いや、そんな筈はありません。先程から凄まじく強いエネルギーをすぐ近くで感じます」 その部屋は一見誰もいないかのように見えた。 にも拘わらず敵の気配を察知した2人は警戒する。 そんな時だった。 「何だ、急に暗くなりやがった」 「いけない、来ます!」 突如2人の視界が暗くなったと同時にその原因を察したアントニオンは すぐさにコケコッカーに注意を促す。 直後両者は後方に飛びのき同時に上から降ってきたとてつもなく巨大な何かが部屋全体を大きく揺るがす。 その正体がフジツボを模した超巨大レプリロイドである事を両者はすぐには気付けなかった。 「エビルスレイヤー…だな!?」 「ドッカーン!!!その通り!!オイがここのエビルスレイヤー、ボルカノ・フジツボットだど!!」 確認するコケコッカーにフジツボ型レプリロイド、フジツボットはその体同様に大きな声で応じ、名乗る。 そしてそのまま彼は自らの「使命」を熱弁する。 「怒るのを我慢できない危険な奴等はオイがパワーでねじ伏せてやるど!! そして大人しい奴しかいない平和な世の中にしてやるど!!」 これに対して2人は… 「「……」」 両者とも明らかに気まずそうな雰囲気を醸し出していた。 先にコケコッカーが口を開きアントニオンがそれに続く。 「意気込んでいる所言いにくいけどよ、お前等に与えられた役目は嘘っ八で お前等がやってきた事は意味なんてねぇんだよ…」 「貴方達は製作者達の甘い嘘に踊らされ得意になって無意味な目標に突き進んでいたのですよ。 対して我々の存在には大きな意味がある。 悪い事は言いませんからここは大人しく… 「ドッカーン!!!何を訳の分からない事を言っているど!! どの道侵入者であるおめー等の話には聞く耳持たんど!! 『外の世界』で活躍する為にもおめー等からぶっ潰してやるどぉーっ!!!」 アントニオンの言葉を遮りフジツボットが怒鳴り散らす。 「話の通じる相手じゃねぇようだな…」 「ま、元々期待はしてませんでしたがね」 相手が話して分からないと悟るやコケコッカーとアントニオンは臨戦態勢に入る。 まずアントニオンが重力を操作し超重力をフジツボットにかけるが… 「何かしたかぁ!?何にも感じないど!!」 「ば、馬鹿な…最大出力なのに…」 フジツボットは凄まじい重力がかけられたにも関わらず平然としており それどころか次の瞬間2人に向かってジャンプしてきたのだった。 咄嗟に後方に飛び退き直撃は回避した2人だったがフジツボットの着地に伴って飛ばされた岩の破片が当たり大ダメージを受けてしまう。 「ぐは…!!」 「おぉぉぉ…」 「『外の世界』には怒りで強くなる奴がいるというからオイはそんな奴等をより強力なパワーでねじ伏せる為 パワーを重点的に設計されているんだど! これっぽっちの重力なんてなーんにも感じないど!!」 地に倒れ伏す2人を見下ろしフジツボットは言い放つ。 余談だがアーマードバグもまたパワー重視の強化を施されてきたのである。 「この野郎、調子に乗るな!これだけデカいと最早的だぜ! クレストシュート!!」 「キューブフォールズ!!」 反撃に転じる2人だったが… 「軽い!軽いどぉー!!マグマスライダー!!」 フジツボットは両者の攻撃をものともせず足元にマグマを撒きそれを利用して 高速でスライディングを繰り出してきた。 その圧倒的な巨体故フジツボットは耐久力も桁外れだったのである。 「やべぇ!!」 「くっ…!!」 スライディングを回避しようとした2人は直撃こそ免れたもののかすってしまい大きく吹き飛ばされ後方の壁に激突した。 「か…かすっただけで…これ程…とは…」 「直撃を…喰らう訳には…いかねぇ…!!」 全身を強く打ち一瞬意識が飛びかける2人。 「どんどん行くどぉーっ!!!!」 その後もフジツボットの猛攻は続いた。 力でごり押しするだけの敵などエックス達が事件の序盤に瞬殺してきた巨大メカニロイド等のように 容易に御せると考えていた2人だったが このフジツボットの攻撃はスケールが違い過ぎる。 そうしたメカニロイド達は動きが緩慢だったり単調だったり隙だらけだったりする場合が多く何より意思がない。 対してフジツボットはそれらのメカニロイドを遥かに上回る巨体に加え 攻撃の勢いも激しく強い闘志を秘めている。 彼が外の世界に出た場合平和どころか短期間に破滅をもたらしてしまうのではと2人には思えた。 「何という事だ…出鱈目過ぎて…攻撃が…読めない…加えて…避け難い…」 「奴は動くだけで…攻撃に…なっちまう…」 フジツボットの攻撃は雑に思えるがそれが逆にアントニオンにも読みづらく その攻撃範囲の広さから回避するのは非常に困難、もしくは不可能である。 またコケコッカーが呟くようにフジツボットがジャンプしたり足を踏み鳴らしたりする度にマグマや岩が飛び散る為、 彼は動くだけで相手を攻撃できると言えよう。 そしてある時を境にアントニオンはキューブフォールズを繰り出し始めたのだが従来とは違い キューブを相手の1つの所に一点集中させて落とすようにした。 コケコッカーは防戦一方になったのか相手の攻撃を回避するだけで度々攻撃をかする形で受けてしまう。 「そろそろ…効いてくる筈です…!」 同じ所に何度も落とされるキューブは着実にフジツボットにダメージを蓄積させつつあったのだが… 「おめぇ…いい加減鬱陶しいどぉ!!マウントプレス!!!」 流石に攻撃が効いてきたフジツボットは勢いよくジャンプしアントニオンの真上にのしかかった。 それを両腕で受け止めるアントニオンだったが徐々に体が軋み押し潰されていく。 「く…この…私が…よりによって…こんな…知性の…欠片もない者にぃぃぃ!!!!!」 心底無念そうな断末魔の声を張り上げながらアントニオンはアイテムを落として消滅した。 「アントニオン…!!」 「さぁ次はさっきから逃げ回ってばかりのおめぇだど!! 最早おめぇに勝ち目はねぇどぉーっ!!!!」 一人になったコケコッカーにフジツボットは狙いを定める。 そしてコケコッカーは変わらずフジツボットの攻撃を間接的にだが喰らい続ける。 「(もっと…もっとだ…!!!)」 やがてコケコッカーがサブタンクの役割を持つバグのエネルギーも使い切り その上でダメージを受け続け、満身創痍となった時であった。 「止めを刺してやるど!!マグマスライダー!!!」 「…喰らいな。一世一代の大博打…焔降刃!!!!!」 スライディングで迫りくるフジツボットにコケコッカーは焔降刃で迎え撃つ。 そしてコケコッカーはフジツボットの先程のアントニオンの攻撃によって損傷した部分に狙いを定め、 さながら光の矢と化して彼の身を貫いた。 ファイアエンチャント…コケコッカーの能力でダメージを受ける度に 技の攻撃力と勢いが増す。 「だが…アントニオンが与えたダメージが無けりゃ…倒せなかったかもな…」 コケコッカーは後ろを振り返る。 そこには中央に風穴を開けられながらも必死に立ち上がろうとするフジツボットがいた。 「まだ…だど…オイは…負ける…訳には…行かないど…!! そして…『外の…世界』…で…」 嘘の目的の為にボロボロの体でも必死になるフジツボットの様子はコケコッカーにとって見るに堪えないものであった。 「もう…いいんだよ…これ以上やっても何にもならねぇんだよ…!!」 そう言ってコケコッカーは過去に自分が拾ったファイルバグの内容をフジツボットに見せる。 「そんな…嘘だど…絶対…信じないど…!!!」 愕然とした声を上げるフジツボットは精根尽きたのか地に倒れ伏し、そのままアイテムを落として消滅した。 アイテムを回収し一人取り残されたコケコッカー。 「何が正しくて…何が間違ってるのかなんて…今の俺には分かんねぇよ… でもよ…俺達は前に進まなきゃいけねぇんだ… 畜生…畜生ォ…!!」 赤々と燃える中コケコッカーの叫びが木霊する。 同じ頃… 「あーあー、また攻略されちまったか…しょうがねぇ、次行くか!!」 フジツボットの反応が消えたことを知ったトルクは他のエリアへと進み始める。 そしてバグズディメンション最深部にて… 「うめぇ…!!うめぇぞ~!!本当にうめぇぞぉ~!!」 フジツボットより更に巨大な怪物が彼の亡骸を貪り食っていた。 「ヒィーヒヒヒヒヒヒヒ!!!こいつと比べるとフジツボットも小さく見えるわ!! 生まれた時はワシより小さかったのにのぉ!!!」 その様子をオールエンダ―は嬉々として見つめていたのだった。

第十二話「信念の刃」

「ギィアァァアアアーーーッ!!!も、もう…いっその事…殺してくれぇぇえええーっ!!!!!!!」 「ぎゃっはっはっはっは、まだだまだだ、もっと苦しめ! テメー等が生前行った事に対する報いを受けやがれ!!」 ここ「虐殺者の針山」では中世ヨーロッパの兵士のような姿をしたノーマルソルジャーが嘲笑を響かせながら 生前残忍非道な行為をした罪人レプリロイド達に対しそのレプリロイドがやった事を本人に行ったり 古今東西の実際に世界各地で行われた非人道的な拷問、処刑をしていた。 「彼等は劣った存在ですのでこうなっても仕方がありませんね。 しかし私から見れば貴方達も彼等と何ら変わりません」 そんなノーマルソルジャー達の前にルミネが姿を現した。 「何だぁ~そろそろ侵入者が来るとか聞いてたがチビでガリガリのガキじゃねーか!!」 「ククク…苦痛に満ちた悲鳴を聞かせてくれよぉ~!」 ルミネを見た目で判断した彼等はルミネに挑みかかるも… 「故に…貴方達もこうなっても…仕方がないのですよ」 「グオオオオオオ…!!」 ルミネは一瞬でノーマルソルジャー達を地面に叩き伏せ、その身体を踏み砕いていく。 暫くするとゴルゴダから通信が入った。 「このエリアにはトゲがふんだんに敷き詰められているが それに伴ってかライドチェイサーや移動リフトも多く、 トゲが平気でDNAコアを所有する敵もいる。 好きな方法で進むといい」 「まぁ私にはどれも特に必要はありませんね」 飛行能力を有するルミネは難なくトゲ地帯を渡っていく。 途中で先程のノーマルソルジャーや拷問器具を模したメカニロイド、蜂や蚊のような巨大バグが行く手を阻もうとするも いずれもルミネの敵ではなかった。 更に進むと今度はビビッドから通信が入った。 「貴重なアイテムっていうのはね、こういうトゲだらけの所に隠してある事が多いんだ。 特に上下左右トゲだらけの所とかね」 これを聞いたルミネが辺りを見渡すと壁の中に天井、床、壁が全てトゲで出来ている洞穴があった。 それも小柄で細身なルミネがギリギリで通れるほど狭かった。 しかしそれにも関わらずルミネは速く正確な動きでそこにあるアイテムを手に入れた。 以降も同じようにアイテムを収集していくとルミネはファイルバグを発見した。 「ファイルバグ、ですか。見てみましょう…」 そのバグに刻まれた情報は以下の通りだった。 「ヒャーッヒャッヒャッヒャッ!!!! 力が漲る!!力が漲るぞぉ~!!!!」 科学者風のレプリロイドが奇声を発している。 彼の周りにはオールエンダーも含めた科学者レプリロイド達がその様子を見張っている。 「ここ、これならぁ…何でもできる気が…気がががががGAGAGAGA…」 明らかに精神に異常をきたしていると思われる彼の立ち振る舞いはより一層おかしくなっていき… 「ガアアアアアーッ!!!!!!ウガァァァアアアアーッ!!!!!!!」 遂には倒れだし手足をばたつかせ始めた。 「う~む、過負荷のようじゃなぁ…」 オールエンダーが唸ったその時だった。 異常をきたした科学者レプリロイドの胸が内側から裂け、その内部から数十cmぐらいの何かが飛び出した。 映像は不鮮明だったがそれは虫を連想させる姿でその光景は非常に恐ろしいものだった。 「キシャアァーッ!!!」 「それ」は周囲のレプリロイド達に飛びかかった。 サイズに対しその力は強く動きも俊敏で部屋の天井、壁、床はそこら中ひびだらけになり 機材は散乱し負傷者も続出したがやがて苦労の末捕獲された。 「何なんだ!!何が起こったんだ!!!」 「こいつめ、踏み潰してやる!!」 その場はパニック状態となりその化け物を殺そうとする者が出た時だった。 「待て!!」「博士!!」 オールエンダーの一喝でその化け物は生け捕りという形になった。 「まさかこんな副作用があったとはのぉ、天才のワシにも予想外じゃったわ!!! 面白そうだから新たな研究材料としてくれよう、ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!」 「…!!」 部下が1人悲惨な死に方をしたというのに新たな発見に狂喜するオールエンダーに対し寒気を覚える科学者レプリロイド達であった。 映像はそこで終わっていた。 「これが『巨大バグ』誕生の瞬間ですか…そしてオールエンダ―は細身の方のようですね」 そしてルミネは暫く先にある扉を潜るとその先には床一面に敷き詰められたトゲの上に浮遊する足場が複数存在していた。 ルミネがそれらの足場の1つに着地すると上空に巨大な影が横切った。 それは暫く上空を飛び回るとルミネの前方で速度を落とし、やがて羽根をばたつかせた状態で空中に留まった。 その正体は蜻蛉の姿をした巨大バグだった。 高速飛行に特化した為かアクティブバグよりも遥かに小型で細長い体躯だったが それでも通常の巨大バグより明らかに大きかった。 この巨大バグも例によって知能を獲得しており、ルミネに向かって口を開く。 「わははははは! わたしの な は フライトバグ! ジェイルキーパー の いちいん だ! ここから さきは とおさないぞ! かくご しろ!」 フライトバグの喋りは感情が全く籠らず例えて言うなら棒読み、大根役者といった感じであった。 「そしてレプリロイドを食べ続け成長した姿がこれ、ですか… それも相手を愚弄する事で心を搔き乱す心理作戦に出るとは… バグにしては知能が高いですね」 ルミネの言葉にフライトバグは異議を唱える。 「それは ちがう! たくさん レプリロイドを たべて ないから こころを こめて しゃべれないんだ! これでも ホイール・アリゲイツ と いう やつを たべる まえ よりは ましに なったんだぞ! おまえも たべて ふつうに しゃべれるように なって やるんだ!!」 やはりフライトバグも自身の喋りを気にしていた… 「…来なさい」 対してルミネは呆れた様子で一瞬間を置いて返し、そのまま構える。 「くらえ クイックストライク!!」 フライトバグはルミネに真っ直ぐ向かって体当たりを繰り出してきた。 「デスイメージ」 ルミネはデスイメージで迎え撃とうとするも… 「あたるか!ツヴァイレーザー!!」 フライトバグ急旋回してこれを回避した直後両前脚からレーザーを放ってきた。 「中々の反応ですね、これはどうです?」 レーザーを回避したルミネが攻撃を仕掛けようとした時だった。 「させるか!クワトロバルカン!」 ルミネが攻撃の予備動作を取ったとみたフライトバグは今度は中脚、後脚からマシンガンを乱射してきた。 「…!」 ルミネは攻撃を中断し素早くそれをかわす。 「こうげきは さいだいの ぼうぎょだ!ツヴァイレーザー!スプレッドボンバー!フラックチェイサー!!」 間髪入れず先程のレーザーに加え胸部からの爆弾や背中からのミサイルで矢継ぎ早に追撃を加えるフライトバグ。 これらをかわしながらルミネは思案する。 目の前の相手は決して強敵ではないが戦うのが面倒であると。 素早く隙こそ少ないが脅威ではないと。 人間が1匹の害虫を退治しようとする時スズメバチなどの極僅かな例外を除いては 攻撃が当たらず苦労する事はあれど生命の危機は感じないだろう。 それどころかケガのリスクも考えないだろう。 逆に害虫は人間の攻撃が1発でもまともに当たれば即死は免れない。 ルミネはフライトバグをその程度の相手としか認識していなかった。 「(この程度の敵に時間を掛けている場合ではありませんね…出し惜しみしている場合ではないでしょう…)」 そう考えたルミネはメタモリーバグの力で胸から水晶が付き出し背中から鋼鉄の4枚の翼を生やした第2形態へと姿を変じた。 「すがたが かわっても この だんまくには かなうまい!!れんしゃ!れんしゃ!!れんしゃ!!!」 「それはどうでしょう?」 ルミネは全身をバリアで覆いフライトバグに高速の体当たりを繰り出した。 「ぎょっ!!」 バリアの破壊が間に合わずフライトバグは直撃を喰らう事になる。 「喰らいなさい…」 続いてルミネは上空から光の雨を容赦なく降り注がせる。 「ぎゃあああーっ!!!!」 見る見るうちにそれに射抜かれていくフライトバグ。 「パラダイスロスト!!」 「ぎょっ!?あたりが くらく なったぞ!?」 ルミネがパラダイスロストを発動させ、辺り一辺が暗くなった。 「ええい!くらえ!くらえ!!」 フライトバグがルミネに向かって攻撃を浴びせるも堅い翼に守られたルミネには一切通用しない。 それどころか瞬時に消えてしまう。 「どこだ!? どこに いる!?」 「ここですよ」 ルミネはフライトバグの真後ろに姿を現した。 「うわあああーっ!!!!」 即座に攻撃に移るもまたしてもルミネは消えてしまう。 「こっちですよ」「う、うわあっ!?」 「フフフ…」「ぎょっ!!」 「どこを見ているのですか?」「ひいいいーっ!!」 出たり消えたりするルミネに対し、フライトバグは攻撃を試みるもいずれも阻まれてしまう。 そして焦りの様子が手に取るように伝わってくる。 しばらくして遂に決着の時が訪れた。 「終わりです…」 「ぐわあーっ!!やーらーれーたーあー!!!」 即死攻撃を喰らったフライトバグは爆散し、アイテムを落として消滅した。 最期の最期まで棒読み調の絶叫を上げながら。 「文字通りの虫けらでしたね。旧世代と言えどあのハンター達はこの姿になった私に打ち勝つ事が出来たのですから」 元の姿に戻ったルミネは見下した様子で言い捨てるとアイテムを回収し先へと進む。 一方その頃このエリアの奥では… 「バグを…もっとバグををををををーっ!!!! ホオオオオオアアアアアァァァアアーッ!!!!!!!」 「おいおい~、俺の分もとっとけよ~?」 我武者羅にバグを求め続けるドクラーゲンがひたすら行く手を阻む敵からバグを奪い続け カマキールがそれに続く。 飛行能力があるドクラーゲンは勿論の事、壁に捕まることが出来バグの影響でホバーの距離も伸びたカマキールにとってもこのエリアは苦ではなかった。 というよりカマキールはこのエリアの情報を聞いてここへの出撃を志願したのであった。 「しかし派手に暴れるなぁ~お、ファイルバグ発見!」 快進撃を続けるドクラーゲンに感心しながらカマキールはファイルバグを発見する。 そのバグに記録された内容は… これまでの大戦でここに送られたイレギュラー達によって行われてきた残虐行為の記録だった。 それらの行為は筆舌に尽くし難く並の者はとても正視できない程のものであった。 しばらくすると場面が変わりこのエリアにてそれまで残虐行為を行ってきた者達が ノーマルソルジャーやチーフソルジャー達によって自身がやってきた行為をそのまま受けている光景が繰り広げられた。 常人なら悶絶する内容の情報を見たカマキールは… 「こりゃたまらないぜぇ!!見るだけじゃ物足りねぇ、自分でもやってみたいぜぇ~っ!!」 興奮するカマキール。 そんな彼の前にここのノーマルソルジャーをアップグレードしたような外見でサーベルを持ち馬のような姿をしたライドチェイサー「チャリオット」を駆るチーフソルジャー達が現れた。 「侵入に飽き足らずよりにもよってこの地で殺戮を楽しむとは何事だ!! これ以上貴様の好きにさせんぞ!!」 一斉に挑みかかる彼等だったが… 「ライドチェイサーか…こりゃあいい!」 カマキールはその中の1体を両断しライドチェイサーを奪うや否や 瞬時に乗りこなし次の瞬間自身の片腕の鎌を真横にかざし通り抜けざまに彼等の体を次々と切断していった。 「ひ、怯むな!突撃ーっ!!」 戦意がそがれつつも立ち向かうチーフソルジャー。 しかしそんな彼等の抵抗も空しく田畑でコンバインに刈り取られる農作物の如く迅速に斬り殺されていく。 辺り一面にオイルや残骸が飛び散るも暫くするとそれらはカマキールの糧となる。 「一気に追いついてやるぜぇーっ!」 この先で猛威を振るうドクラーゲンに追い付くべくカマキールはライドチェイサーのアクセルを全開にして進む。 ライドチェイサーは高速の上トゲの上でも平気である為カマキールは一気にドクラーゲンとの距離を縮めていく。 そしてある時… 「こ、この感じは…もしかすると…」 ドクラーゲンが向かった先とは違う方向から非常に強大なエネルギー反応を感知したカマキールはその方向に向かい始めた。 するとその先には扉が見えた。 「間違いねぇ…この先にいるな…これまでの遅れを取り戻すにゃこれしかねぇ… 悪いが抜け駆けさせて貰うぜぇ!」 カマキールが扉を目指すとティターンから通信が入った。 「この先の敵はスピードと一点においての攻撃力と狙いの正確さにおいてずば抜けている。 反面腕力はそれ程でもないから攻略するには動きを封じるかそのスピードと正確さを逆に利用するという手もあるよ」 「そうか、参考にさせて貰うぜ、とにかく雑魚共は斬り飽きた! 今度こそボスを切り刻んでやるよぉ!!」 カマキールが扉を潜った先にはフライトバグが出現した場所と同様に空中に浮遊する足場がありその下はトゲが敷き詰められていた。 そして足場の上には先端が尖った巨大な杭が何本か立っており その先端にはボディの損傷の激しいレプリロイド達が串刺しにされていた。 ここバグズディメンションでは死んだ者は最深部へと転送されるはずなのだが 依然この場にいるという事は… こんな状態でありながらも彼等は生きている、という事である。 「まるでモズの早贄だねぇ…」 カマキールが呟くとその中の1人、トリケラトプスを模した巨大なレプリロイド、シルバーホーンドが口を開く。 「た、頼む…こ、殺してくれ…」 彼の状態は四肢を失い両目も潰され胴体は刺し傷だらけという 非常に痛々しいものであったが彼の暴挙を知る者が見れば多くは「自業自得」と思うだろう。 「まーアイテムは欲しいからその望みは叶えてやるけどよ、 俺を相手に楽に死ねるとか思うなよ?」 そう言うとカマキールは愉快気にその場にいたレプリロイド達を数回にわたって切り刻み なるべく多くの苦痛を与えながら虐殺していった。 その時… 「貴公のその残虐性…しかと見届けた…」 アイテムを回収するカマキールは上空から聞こえた声の方向に顔を向ける。 空を見上げるとそこにはモズを模した小柄なレプリロイドが腕を組んだまま 羽ばたきながら静止していた。 彼はその状態でゆっくりと下降しながらカマキールの前に降り立ち、名乗る。 「我が名はペネトレイト・モーズリー。この地を統べるエビルスレイヤーだ。 我が使命は外にのさばる虐殺者共に同じだけの苦しみを与えて葬る事。 さて貴公の事は聞き及んでおる。 本来ならばその出自故『忌み子の病棟』行きになるところだがその残忍振りはここで裁かれるに十分に値する… 覚悟は出来たかな!?」 これに対しカマキールは… 「やはりお前がエビルスレイヤーか…相当腕が立つようだねぇ… ところでこれは仲間から聞いたんだけどよぉ、お前等の『使命』とやらはディメンションズマスターやオールエンダーがデタラメ言ってるだけだって話だぜ。 俺達は世界にとって価値のある存在だけどよ、お前等は何の価値もないオモチャでモルモットって事なんだよ。 それでもその『使命』の為に頑張るつもりなのかよぉ?」 嘲るようにモーズリーに問う。 「…戯言を。何があろうと我は我が信念を貫き通すのみ。 仮にこれが真実だとしてもその御四方から血祭りに上げるだけよ。その後で外に蔓延る殺戮者を然るべき裁きにかけてくれよう。 その前に貴公を我が刃の錆にしてくれるわ!」 毅然と言い放つモーズリー。 と同時に彼から放たれる殺気が一気に強まっていく。 「…こりゃ、本気でヤバいかもな…!」 小柄な体に反し圧倒的な存在感を感じさせるモーズリーにカマキールが身構えた時だった。 「ドライブペネトレーション…」 その刹那、モーズリーの姿が掻き消える。 「…な!?」 カマキールがそのように認識した時にはモーズリーは彼の懐に姿を現し、手にしたサーベルで彼の胴体を刺し貫いていた。 さらにカマキールが刺された事に気付いたときにはモーズリーは遥か後方に移動していた。 「急所は外しておいた。楽に逝けると思うなよ?」 そう言ってモーズリーは再度姿を消す。 正確にはカマキールにはそのようにしか見えなかったのだ。 「うおっ!?」 そして気付けば違う部分を刺し貫かれ風穴を開けられた。 「調子に乗るな、シャドウランナー!」 モーズリーが再び姿を現した方向にシャドウランナーを繰り出すカマキールだったが… 「追尾性能か…だがその程度の速度と精度なら振り切るのは造作もない事…」 瞬時にモーズリーは距離を取り別方向から突撃してまたもカマキールの体を貫く。 ブラックアローを予めトラップのように配置するもモーズリーは先程のルミネに勝るとも劣らぬ正確さで ブラックアローを器用に避けカマキールだけに攻撃を当てる。 その後も一方的にモーズリーはカマキールの体にサーベルで風穴を開けていく。 その細身故カマキールが体の一部を失うまでそう時間は掛からなかった。 「くうぅぅ…甚振りに来たつもりが甚振られる事に…なる…とは…これが…エビル…スレイヤーかよぉ…」 「目には目を、歯には歯を、苦痛には苦痛を…貴公が手に掛けた者達もこのような思いをしてきた筈だ。 身を以て思い知るがいい!」 見る見るうちに体を欠損させていき激痛と悔しさに声を滲ませるカマキールにモーズリーは尚も容赦なく サーベルの突きを喰らわせ続けていく。 遂にはカマキールは両羽根と片腕、下半身を失い残っている部分もあちこちに穴を開けられた悲惨極まりない姿となった。 「まだまだ終わらぬぞ…」 「まだ…あるの…かよ…」 瀕死の状態で倒れているカマキールに更に追撃をせんとモーズリーが向かおうとした時だった。 「バグを…バグをくれよ…もっと…もっと…!」「ぬ…新手か!」 明らかに興奮した様子のドクラーゲンが現れ体当たりでモーズリーを弾き飛ばした。 このエリアのアイテムを集め尽くしたドクラーゲンはここのエネルギー反応を嗅ぎつけてやってきたのだ。 「ヘッ…今頃…来やがって…」 虫の息となり上空のドクラーゲンを見据えるカマキール。 ドクラーゲンはカマキールと別れた後もバグを集め続け更にパワーアップしていたのであった。 「ゲッチュー!!ゲッチュー!!!ワー!ワー!ワー!」 奇声を発しながらモーズリーに迫りくるドクラーゲン。 彼は周囲に爆弾を放っていた。 「甘い、セイバーツイスター!!」 サーベルを回転させ、そこから発生する細長い竜巻を鞭のように操り爆弾を破壊し ドクラーゲン自身にもそれを当てようとするモーズリーだったが 爆弾が全て壊された時には既にドクラーゲンは場所を移動させていた。 「サンダーダンサー!」「ぬお!」 ドクラーゲンは上空よりサンダーダンサーを放ちモーズリーに命中させた。 「ええい、まずは動きを封じてくれるわ、サウザンドスティンガー!」 モーズリーはドクラーゲンの近くまで移動し、連続突きを繰り出すが…」 「プラズマガン!!」「!己…!」 サーベルに何度も貫かれながらも至近距離でプラズマガンを喰らったモーズリーは大ダメージを受け、その直後距離を取った。 「フェザーカッター!」 モーズリーが翼から刃状の羽を放つとドクラーゲンはビットを召喚しこれらを相殺する。 それからというもの上空でドクラーゲンとモーズリーの激闘が繰り広げられた。 戦闘は一進一退の攻防戦でどちらも相手にダメージを与えていく。 その様子を地上で倒れ伏しているカマキールは只々悔し気に見上げていた。 「畜生…畜生…同じ…新世代型レプリロイド…だという…のに… 奴の方が…俺より…優れている…と…いうの…かよ…」 ドクラーゲンは全身穴だらけになりもう少しでカマキールと同じ程度の重症になろうとしているが 攻撃の手を全く緩めない。 それどころかどんどん勢いを増している。 「(これほどまでの傷を負いながら微塵も勢いを殺さず戦えるとは、こ奴の信念も相当なものなのか、それとも…)」 モーズリーがそう考えた時、異変は起こった。 「バグを…バ、バ、バグヲヲヲヲヲ!!!!!!グルルオオオオアアアアア!!!!」 攻撃の激しさを増していく反面ドクラーゲンの技は精彩を欠き始め言葉も覚束なくなっていった。 しばらくすると空中で痙攣した動作を始め…それは遂に起こったのだった。 「(力に溺れた、という事か…)」 モーズリーが悟や否やドクラーゲンの胸を突き破りそこから蛆虫のような巨大バグが出現した。 そう、ドクラーゲンはバグに食われてしまったのである。 ドクラーゲンは巨大バグと共に落下していき、その途中で消滅した。 結果ドクラーゲンを喰らわなかった通常種のバグやバグクリスタル等のアイテムがその巨大バグと共に降り注ぐ。 その先には辛うじて息のあるカマキールが横たわっていた。 「奴にアイテムを奪われるのはまずい…ドライブペネトレーション!」 そんな彼目がけてモーズリーはサーベルを構え一直線に突っ込んでいった。 「ああ…これまで…か…何てな!!!」 カマキールは咄嗟に残った手で数個のバグクリスタルを上空に向かって投げつけた。 すると… 「ぐおおおおおおおおおお!!!!!!!」 これらのバグクリスタルがモーズリーの体を貫き全身に致命的な大ダメージを与えたのだった。 モーズリーがサーベルを手放し地面に激突するのとほぼ同じ時… 「(俺と同化しろ!!!!)」 そのカマキールの強い思念を周囲のバグ達が拾い群がるように彼の元に集まっていく。 これらのバグはドクラーゲンが今の今まで集めてきた様々な種類のバグで中には体の損傷を修復させるバグもいた。 そのバグで体の傷を完全に癒したカマキールは… 「さぁて、と…」 恍惚な笑みを浮かべカマキールは地面に落ちたモーズリーのサーベルを遠くまで蹴飛ばし 先程のダメージに悶え苦しむモーズリーに近付いていく。 「ブラッドサイス!」 そして両腕でモーズリーを捕らえ体力を吸収し始める。 「ぐ…お…お…」 抵抗を試みるもエビルスレイヤーでは最もパワーが無くましてや重傷を負っている今となっては カマキールの戒めを振りほどくことは出来なかった。 「あの状況じゃお前は一直線に俺に向かっていくよなぁ… お前の動きは確かに速い。そりゃもうとんでもなく速い。 その速さで自身に向かってくる硬いクリスタルに激突したらどうなるか? 答えは自爆さ。 それじゃあお前がやってきた事を返すとするかね…」 残忍極まりない笑みでカマキールはそのままモーズリーを罪人レプリロイドが刺さっていた杭に串刺しにする。 「ごふっ…!!」 その後カマキールは自身の鎌でモーズリーを徐々に切り刻んでいったが… 「諦めん…諦めんぞ…最期の…最期…ま…で…」 「中々粘るじゃねぇか…それもいつまで持つかな?ククククク…」 どんなに痛めつけられても音を上げないモーズリーをカマキールは更に刻み続けていく。 そんな時だった。 「おおおおお!!!」 カマキールの腕にモーズリーが頭突きを喰らわした。 「チッ、いい加減くたばりやがれ!!」 苛立ちがピークに達したカマキールはモーズリーの首を刎ね、その結果彼はアイテムを落として消滅した。 ドクラーゲンを食った巨大バグをトゲの上に投げ落として殺し、アイテムを回収し己の身に異常を感じなかったカマキールは勝ち誇る。 「ドクラーゲン、お前が俺より優れているとか思っちまったがとんだ思い違いだったな! 普段から変な声上げまくってるから気付かなかったがバグに食われちまうとは新世代型レプリロイドの恥さらしめ! この力は俺が頂いた、そして俺やシグマ様に歯向かう連中を刻んで刻んで刻みまくってやるぜ!!! ククククク…ハァーハッハッハッハッハ!!!!」 暫くしてこのエリアが攻略されたと知ったルミネは別のエリアへと向かった。 同じ頃バグズディメンション最深部では先程ルミネがファイルバグで見た巨大バグがドクラーゲンとモーズリーの残骸を貪り食っていた。 「うめぇ…うめぇぞぉ~!!小せぇけど充分うめぇぞぉ~っ!!」

第十三話「慟哭」

時はシグマ達が後半の4つのエリアに出撃した直後に遡る。 そのエリアの名は忌み子の病棟。 イレギュラーや人間の犯罪者によって生み出された生まれながらのイレギュラーが送られるエリアである。 そこは暗雲が垂れ込める空の下、薄汚れた壁と割れたままの窓ガラスの建物が並び、見る者を不安にさせる雰囲気を醸し出している。 その建物の1つの中の1室にて… 一人の脱走者のレプリロイド…レプリフォース大戦時にシグマのスパイとしてハンターに送り込まれ エックスを欺いたダブルが 今まさに戦いの果てにそのエリアを統べるエビルスレイヤーに止めを刺された時であった。 「生まれながらのクズめ、貴様等は存在そのものが罪なのだ… ここバグズディメンションからも、『外の世界』からも、一人残さず消えるがいい!!」 死に行くダブルに言い放つエビルスレイヤー。 自らの最期を悟ったダブルだったが… 彼は歪な笑みを浮かべていた。 「俺が生まれながらのクズだって? イレギュラーに造られたレプリロイドは存在しちゃいけないって? そりゃあご大層な考えだなぁ… だけどよ、これ見てもお前等と俺達が決定的に違うって言えんのか!?」 そう言ってダブルは自身の所有していたファイルバグをそのエビルスレイヤーに投げつける。 「こ、これは…!?」 そして、彼はその内容を見て真実を知る。 自分達の使命が全くの嘘っ八であった事を。 今まで誇りをもってやっていた事は製作者の下らぬ実験の一環であった事を。 外の世界の者は自分達の事を全く知らないし仮に出ても自分達は彼等に迷惑をかけるだけである事を。 愕然とするエビルスレイヤーを見てダブルはその顔を更に醜く歪め嘲笑を響かせ始める。 「分かったか!?お前等こそ忌み子だったんだよ!! 愉快愉快、お前、俺が騙してたハンター並に甘ちゃんだなオイ!! どーだ…これを見ても自分の道とやらに突き進んで行けんのか!? という訳…で…俺は…先に…地獄で…待ってるぜ… ファーッハッハッハッハッハ!!!!」 そう言い残しダブルはアイテムを落として消滅した。 暫くして… 「おおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」 彼は、全ての目から涙を溢れさせ、あらん限りの声を張り上げ慟哭した。 「何故だぁ!!!何故だ何故だ何故だぁーっ!!!!!!!」 これまで自分は最高で最強の存在だと思っていた。 理想と誇りを胸にこのエリアでの職務を全うしてきた。 そして世界に歓迎される素晴らしい存在だと信じ切っていた。 オールエンダ―とディメンションズマスターから聞いた話を鵜吞みにする事で。 それが今一瞬で嘘だと分かった時、自分は世界から否定された気がしたのだった。 彼の慟哭はエリア全域を震わせ彼が叩きつける両の拳は彼がいた建物を崩壊させ瓦礫の山へと変じさせた。 「これが…こんなのが…俺達の…生み出された理由だというのか…? 俺達もまた存在価値が無いというのか…!? どうすればいい…どうすればいいんだ… 誰か…教えて…くれ…」 絶望に打ちひしがれるエビルスレイヤーだったが彼は丁度その時倒壊した建物の中から ダブルから受け取ったファイルバグとはまた別のファイルバグを発見した。 そして彼は、恐る恐るそのファイルバグの内容を覗き込んだ。 …そして現在。 その忌み子の病棟に1人のレプリロイドが足を踏み入れた。 リディプスである。 彼を最初に迎えたのは犬や猫、カラスを模したメカニロイドや救急車のような塗装とランプを携えた装甲車であった。 リディプスが彼等を屠り一番近くの建物に入ろうとした時、ゴルゴダから通信が入った。 「このエリアは数多くの建物で構成され、建物1棟の1室1室にふんだんに敵やトラップが配置されている。 原則としてどの建物も上の階ほど難易度が高いぞ」 そしてリディプスはその建物に入るのだが… そこはもぬけの殻で、加えて激しい戦闘が行われたのか只でさえボロボロな床や壁が輪をかけてボロボロになっていた。 「全く敵の反応が感じられないな…む、これは…」 不自然に感じたリディプスが目にしたのはその建物の壁の至る所にある落書きだった。 落書きの内容はエロ・グロを含む悪趣味なものでこの不気味なエリアをさらに不気味にしていた。 さらに見ていくと落書きの所々に「T」というサインがあり 落書きの中に獣のようなライドチェイサーに乗った灰色の人物が見られた事でリディプスは落書きの主を察した。 「うかうかしていられぬか…」 この棟がトルクに攻略されたと見るやリディプスは別の凍へと向かった。 建物の外では先程と同じメカニロイドが襲い掛かってきたが彼等はさしたる脅威ではなかった。 次にリディプスが入った棟は未攻略だった。 このエリアの建物は内部も不気味な雰囲気を放っている。 仄暗く点滅する照明、薄汚れてひびだらけの壁、レプリロイドを使った残虐な実験に関する張り紙、唸り声の如く響く機械類の駆動音、鉄格子付きの扉… そして極めつけは奥より聞こえる捕まっている罪人レプリロイド達の絶叫である。 リディプスは絶叫が聞こえる1室に足を踏み入れる。 そこでは女性看護士のようなノーマルソルジャー達と医師のようなチーフソルジャー達が ベッドに拘束された罪人レプリロイド達にありとあらゆる実験を喜々として行っている光景が繰り広げられていた。 ちなみにこのエリアのノーマルソルジャーは女性型ばかりである。 リベリオン兵のプレオンの中にプレオンナースというタイプが存在したが それは見た目に女性を感じさせる要素は一切なく他のプレオンシリーズの同様機械そのものといった外見であった。 対してスパイダーズスレードはその辺の空気は読んでいたようである。 チーフソルジャーの方は他エリアと同じく男性型ばかりであった。 「来たわね侵入者!」 「やっちゃえーっ!!」 ノーマルソルジャーは注射器を手に、チーフソルジャーはビームメスを手にリディプスに襲い掛かるが… 「目障りだ、小娘共!」 リディプスは苛立ちを露わにし瞬時にその場の敵を葬り去り、ノーマルソルジャーはDNAコアを落として消滅した。 するとその時ビビッドから通信が入った。 「このエリアはお約束という事で通気ダクトとかにアイテムが隠してある事が多いんだ。 でも狭いからある程度身体が大きい人には厳しいかもね」 リディプスが部屋を見渡すと確かにそこには通気ダクトがあった。 そしてやはりリディプスには狭すぎた。 「不本意だが…仕方あるまい…」 リディプスはノーマルソルジャーに変身して匍匐前進でダクトの中を突き進む。 「何がお約束かは分らぬが、既視感はあるな…」 アイテムを回収し来た道を戻るリディプスに何かが近付いていく。 それは実験の影響で凶暴化したレプリロイドであった。 「この体は若干不利か…ならば!」 リディプスは攻撃用バグ、サーチバグでこれを撃破した。 その後リディプスは先程のノーマルソルジャー・チーフソルジャーの他にも医療機器を模したメカニロイドや 寄生虫のような姿をした巨大バグを撃破し、トラップも突破しつつアイテムも回収しながら 1棟、また1棟とこのエリアにそびえ立つ棟を攻略していった。 しかしその間にこのエリアのノーマルソルジャーの外見からシナモンを思い出してしまうリディプスは 道を突き進むにつれ頭痛を覚え苛立ちを募らせていった。 「(私は…何がしたいんだ…確かに私は…君を欺きはしたが…それでも私が君と過ごした時間は本物だった… それが…私に変化をもたらしたとでも…!? だが今となっては私は…君にとても顔向けなどできはしない… 君の為にも…私は…ここから…出ない方がいいのでは…!?)」 無論この時彼の意中にある人物はシナモンではない。 迷いつつ、悩みつつもリディプスは立ちふさがる敵達を蹴散らしていき、やがて一際強大なエネルギーを感じた棟に突入する。 その棟は今までと比べて敵の攻撃もトラップの配置も厳しかったがそれでもリディプスには苦にはならなかった。 そして彼が最上階に辿り着いた時、ティターンから通信が入った。 「この先の敵はジェイルキーパーなのだが、他のエリアのジェイルキーパーより格段に強い。 何故なら彼は…」 そんな彼からの通信も上の空でリディプスは扉の先へと進む。 扉の向こうでは暗がりの中、2対の獣のような眼光鋭い瞳が自身を睨み据えていた。 「二人…?いや、一人か…」 そこにいたのは双頭の犬の怪物にしてケルベロスの弟「オルトロス」を模したレプリロイドであった。 「来やがったな侵入者!俺はジェイルキーパーのハウンド・オルトロイドだ!」 レプリロイドは名乗る。 その姿、名前は正に各エリアの主、エビルスレイヤーの如き風体である。 「厳密には今話している俺はメインの頭脳のライトヘッド…」 「俺はサブの頭脳のレフトヘッドだ!」 オルトロイド自身から見て右の頭、左の頭が順番に口を開く。 「ジェイルキーパー、だと?貴様の姿形や名前の特徴はエビルスレイヤーのそれと見受けるが…」 リディプスは問う。 ちなみにリディプスは自らが対峙したシーガルム以外のエビルスレイヤー数体の情報をファイルバグによって入手していたのだった。 「それは俺の兄貴の話だ」 「そんな事よりテメーには使命の下、いや、我々の存在意義の為に消えて貰うぜぇ!!」 オルトロイドは応えるや否や殺気を全開にリディプスに迫り来る。 「むう…!」 同じ頃… 「ね?ね?もうしないから見逃してくれる?見逃してくれたらイイ事してあげるから…」 「知るかよ!!」 トルクが追い詰められたノーマルソルジャーの命乞いを無視して彼女をハンマー状にしたトルクロッドのフルスイングで吹っ飛ばす。 結果彼女は窓ガラスを突き破って外へと放り出され、地面に落ちる途中でアイテムを落として消えていく。 「キーッ!!やったわね!!」 「数はこっちの方が多いんだから、まとめて行くよ!!」 大挙してトルクに襲い掛かるノーマルソルジャーだったが… 「テメー等が何体いようと変わんねーんだよ、クソアマ!!!」 「キャーッ!!!!!!」 一瞬にしてまとめて返り討ちに逢う彼女達。 平均成人男性を遥かに上回る体格のトルクが少女型という事で平均成人女性にも満たない体格のノーマルソルジャー達を 殴り飛ばし、蹴り飛ばし、踏み潰していく光景は見る者に著しい嫌悪感を覚えさせるだろう。 それはここのチーフソルジャーも例外ではなかった。 「な、何という外道だ、女子供相手にここまで…」 これを聞いたトルクはそのチーフソルジャーの方に向き、言い放つ。 「分かってねーなー、相手が女子供だからって手加減するような紳士様はよ、こんな所に送り込まれたりは…しねーんだよーっ!!!!」 「ギャーッ!!!!!!!!!」 刹那、彼もトルクロッドの餌食となった。 その時だった。 遥か遠方よりトルクは爆炎と強烈な閃光を目にして激しい衝撃音も耳にしたのは。 それらの発生源を見遣ると1つの棟が震撼し、何かがぶつかり合う音が幾度も響き、中からガラス片や瓦礫が外へ激しく飛び散っている。 「何か派手にドンパチやってるじゃん?面白そうじゃん?」 トルクは嬉々としてエゴイスティックビーストをその方向へと走らせて行った… その向かった先ではリディプスは先程から感じる迷いからか攻撃に精彩を欠き徐々にオルトロイドに追い詰められていた。 「やる気がねー割にはしぶてーじゃねーか」 「大人しくくたばってアイテム寄越しやがれ!!」 2つの口で吠えるオルトロイド。 「私は…私は…」 「ヘルズクロー!ダブルバイト!!クラッシュハウンド!!!」 「ぐっ…!!」 何とか応戦するも先程からの頭痛と苛立ちの為か劣勢となるリディプス。 「おおらああああああああ!!!!!!」 壁を蹴り高速でリディプスに飛びかかるオルトロイドだったが… 「邪魔するぜぇーっ!!!」 突如としてエゴイスティックビーストに乗ったトルクが壁を突き破って乱入し、オルトロイドを跳ね飛ばした。 ダンクルードやアーマードバグ程のパワー及び重量は無い彼は吹っ飛びこそしたが 衝突の瞬間咄嗟に後方にジャンプし衝撃を軽減し、空中で身を一回転させて着地し即座に体勢を立て直した。 「トルク…か…」 壁にもたれていたリディプスは立ち上がって身構える。 「2人がかりで俺を倒そうって魂胆か!?だとしたら無駄な事だ!何故なら俺は1体にして連携プレーが可能なのだからな!!」 「それに、テメー等がチームプレー出来るようには見えねーけどな!!」 言い放つオルトロイドにトルクは不敵に返す。 「ハッ、何言ってやがる!こいつが何もしねーなら俺一人でテメーの相手をするだけだ!」 未だ戦意の鈍ったリディプスを他所に両者は研ぎ澄まされた殺気を互いに向け合うのであった… その頃シグマはサンフラワードと共にこのエリアのかなり奥の棟を攻略していた。 「フン、懐かしい顔ぶれが揃っておるわ…」 「中には特A級ハンター並のレプリロイドもいますね。救出して戦力に加えますか?」 サンフラワードがシグマに尋ねる。 このエリアで捕らえられているレプリロイド達にはシグマ自らが制作を見ていた者も多かったのだ。 そんな彼等を見ながらシグマは答える。 「必要ない。ここの雑魚にも劣る連中など今更戦力にはなるまい。それに…」 「ヴォォヲオオオヲヲォォォォ!!!!!!」 シグマは自身に襲い掛かってきたネクロバットを一瞬でバラバラにしながら続ける。 「こ奴等はもう手遅れよ。役には立つまい」 この場にいる捕らわれのレプリロイド達は既に実験の影響で凶暴化しており知性と理性を完全に失ってしまっていた。 「それもそうですね。旧世代如きの手を借りる必要などないでしょう」 サンフラワードも自らに襲い掛かってきたモスミーノスをレーザーで射抜きながら言う。 その後も次々と迫り来るかつての部下や敵兵を迎え撃ち、数多のトラップも潜り抜ける2人だったが、ある時ファイルバグを発見した。 「ファイルバグ、か…」 「これより解析を開始する」 このバグに収められた内容は以下の通りだった。 「うう、うちの子がピンポンダッシュをするなんて…」 「何、スカート捲りだと!?貴様には良心という物は無いのか!!!」 「おい、ポイ捨てなどという街の景観を損ねる極悪行為はやめろ!!」 「誰か傷つけないか、いつも怖いよ…」 どんな些細な悪事もしようとせず、他人にもさせようとしない人間達。 彼等は何者かによって都合よく踊らされていたのだ。 その黒幕は言うまでもなく… 「フン、我々が常々『人間は学習しない』と言ってきたから奴らなりに必死で努力しておるのか… 健気よの、そして滑稽でもある」 「芸で猿が反省のポーズを取るのと似たようなものですね」 映像を見たシグマとサンフラワードは見下した様子で言う。 彼等は次に辿りついた棟から強大極まりないエネルギーを察知した。 「いるな、ここに…行くぞ!!」 「ハッ!!」 その棟はこれまでの棟より攻撃も激しくトラップも厳しかったが2人は難なく突破していく。 程なくして最上階の巨大な扉の前に到達した時、ティターンから通信が入った。 「この先に待ち構えている敵はあらゆる能力値がバランスよく高い強敵だ。 状態異常攻撃もしてくるので対策を忘れないように。 また連携プレーも得意とし死角が無いので攻撃範囲の広い技で対処するといい」 「連携プレーだと?このエリアの主は複数おるのか?まぁ良い、何体だろうが打ち砕くだけよ」 「状態異常…となるとブロックバグの準備は出来ていますか?」 「ぬかりない、既に羽化させておる」 サンフラワードの問いにシグマが応じる。 ブロックバグとは全ての状態異常を無効化するフォースメタル「オールブロック」と同様の機能を持つバグである。 そしてシグマは扉を開けた。 扉の先の暗がりの中で2人を睨み据えるは3対の獣の如き瞳。 しばらくして雲が晴れ人口月の明かりがその全身を照らし敵は姿を現す。 「ほう、地獄の番犬、か…」 シグマの言ったようにそこにいたレプリロイドは3つの頭を持った犬…地獄の番犬ケルベロスのような姿をしていた。 その容貌はオルトロイドに酷似していたが頭の数が多いだけでなくボディはより大柄で各部にはオルトロスにはない装飾がいくつか見られる。 彼はその見るからに凶暴そうな口を開く。 「イレギュラーの王シグマにその配下オプティック・サンフラワードだな。 俺はこのエリアを統べるハウンド・ケルベロイドだ。 厳密には今話している俺はメインの頭脳のセンターヘッド…」 「俺はサブの頭脳のライトヘッド…」 「俺はそのまたサブのレフトヘッドだ」 ケルベロイドは自身からみて中央、右、左の頭の順に名乗る。 「そうか…して貴様も…否、貴様等か?どうでもいいが… 与えられた『使命』の為今日までせっせと頑張ってきたのかね?それが全くの虚構とも知らずに…」 シグマは残忍な笑みを浮かべながらケルベロイドに問う。 「知っている…」 暫しの沈黙の後、ケルベロイドは絞り出すような声で答える。 「何?ならばこれからどうするかね?ワシ等と組んで自分達を陥れた連中に引導を渡しに行くか、それとも自らは果ててバグを提供するか…」 「どちらのつもりも無い、従来通り貴様等を始末した後にディメンションズマスターとオールエンダ―を倒し…然る後に『外の世界』で自分の道を模索していくつもりだ」 再度シグマが問いかけ、ケルベロイドはそれにも応じる。 「それは感動的だな。下らぬ生まれにも拘らず…」 「「「生まれが何だ!!!!!!!!!!」」」 嘲笑いながら言いかけるシグマの言葉をケルベロイドは3つの口で同時に大声で遮る。 彼は続けて言う。 「貴様の配下から『真相』を知らされた時それは絶望した。 望まれて生まれてくる者を妬みもしたしそれを裏切った貴様に憤りもしたさ。 だが…『外』のレプリロイド達が教えてくれた…これを介してな!」 そう言ってケルベロイドは1つのファイルバグを投げつけた。 それは冒頭で彼が真相を知った後で拾ったバグで収められた内容はこれまでの大戦における生まれに捉われないレプリロイド達の記録であった。 多くはエックス等S級ハンター3人のものだったが彼等以外のろくでもない生まれにも関わらず自分の道を切り開いていった者達や 名誉ある存在として望まれて生まれたにも関わらず落ちぶれていった者達の生き様、死に様が事細かに刻まれていた。 「分かるか!?然らば俺達にも自分の道を征く権利はある、という事だ。故に…哀れんでくれるな。 どの道貴様は『外の世界』にとって脅威となる存在故…この場で始末してくれよう…!行くぞ!!」 そう言うや戦闘体勢に入るケルベロイド。 2人もすぐさにそれに対応する。 「来い、夢と現実の違いというものを思い知らせてくれるわ!!」 「与えられた役目を果たせない人形め、消え去るがいい!!」 その頃VAVA-VIはライドアーマー「コング」で病棟内を大暴れしていた。 「どけどけぇーっ!!!!」 「な、なんという凶暴性だ…噂には聞いていたが、これ程とは…」 一瞬の間に次から次へと敵兵やメカニロイドがライドアーマーの剛腕の餌食となり、アイテムを落としては消えていく。 1つの棟の攻略が終わる頃にはその棟は瓦礫の山と化している。 そんな中VAVA-VIはファイルバグを発見した。 「今度は何だぁ!?」 ファイルバグの内容は以下の通りだった。 「ここに出しまするは、皆大好き、黄金色のお菓子でございます」 「お主もワルよのう、フハハハハ!!!!」 オールエンダ―が権力者と思しき人物に賄賂を贈っている。 彼はその人物以外にも様々な力のある者に賄賂を贈って回っていた。 「だから誰なんだよこいつはよ!!」 怒鳴るVAVA-VI。 彼がその答えを知るのはそう遠くない未来の事である。 その直後、VAVA-VIは遠方の棟からの爆炎を目にし、衝撃音も耳にする。 「こりゃ親玉だな、間違いねぇ!そう何度も先越されてたまるかよ!!」 VAVA-VIはそのままその棟に向かってライドアーマーを走らせて行く… その頃ルミネもまた、このエリアに足を踏み入れていた。 「オォォオオオォォォオオオオオ…」 凶暴化したレプリロイド達がルミネに迫り来る。 「何とも見苦しい…潔く滅びなさい!」 ルミネはそんな彼等を瞬時に抹殺していく。 また彼はこのエリアでいい気になって罪人レプリロイド達で実験をするノーマルソルジャーやチーフソルジャーにも侮蔑の念を禁じ得ない。 「偽りの役目を信じ切っている彼等もまた残念な存在ですね…その無意味な命、私の為に散らしなさい」 そう言ってルミネがその部屋にいる敵を全滅させた時、ビビッドから通信が入った。 「このエリアはね、通気ダクトの中にアイテムが隠れている場合が多いんだ。でも狭いから…」 その通信を最後まで聞かずにルミネは変身もせずそのままの姿でダクトの中に入り、アイテムをゲットしていく。 「まぁ、キミには特に無用の心配だったみたいだね…」 ビビッドが言う。 ちなみにルミネは変身無しでダクトに入れるほど己の体が小さい事を気にしている様子は特に無かった。 そうしてアイテムを集めていくとルミネはファイルバグを発見する。 「何でしょうか…」 バグに収められた内容は以下の通りだった。 堕落者の学び舎でパンデモニウムが拾ったファイルバグと同じくオールエンダ―にティターン、権力者と思しき太った男を中心とした集団が乱痴気騒ぎをしている光景が繰り広げられている。 彼等は表向きは人格者として通っているが陰では欲望をさらけ出し特定の層を対象にありとあらゆる蛮行を行い搾取しているのだった。 その光景はあまりに背徳的であり、常人なら目を背けてしまう内容だった。 またその集団は権力者という事もあってか、レプリロイドもいたが人間の比率が高かった。 「旧世代レプリロイドは劣った存在ですが…それにも満たない人間等猿と変わりませんね…」 映像を見たルミネは侮蔑を露わに呟く。 この直後彼も爆発や衝撃音で遠方の激闘を知る。 「油断も隙もありはしませんね…」 ルミネもその方向へと飛んでいく。 一方でシグマ達は… 「流石に言うだけあってやりおるな…」 「彼もまた…無効なコードかも…しれませんね…」 ケルベロイドの戦闘力は凄まじくシグマは応戦できているもののサンフラワードは全くと言っていいほど歯が立たなかった。 シグマもサンフラワードも敵の虚を突く技を持ってはいるが相手の全ての頭の注意を引き付けることは出来ず返り討ちに遭ってしまう。 「テラーハウンド!!ヘルズクロウ!!トリプルバイト!!!」 「ぐ…は…!!」 「…ならばこれでどうかね?」 満身創痍となり倒れ伏すサンフラワード。 その一方でシグマはファイナルシグマWに変身する。 …が、未だ彼の有するメタモリーバグは幼虫だったらしく膝から下が出来ていなかった。 「俺をラディカルモンク如きと一緒にするなぁ!!!」 あっという間にファイナルシグマWの体を駆け登り額のコアに猛攻を加え始めるケルベロイド。 「これは失礼した。次はウルフシグマで行くとしようか」 そう言ってシグマは次にウルフシグマに変身した。 こちらは完成しておりケルベロイドに負けず劣らずの俊敏さを発揮した。 「ぐ…だが俺は負けん!!負けられんのだ!!!!」 ウルフシグマに殴り飛ばされ壁に激突したケルベロイドだったがすぐさにその壁を蹴ってシグマに突っ込んでいく。 …だがその瞬間… 「喰らいやがれぇーっ!!!」 シグマ目がけて跳躍するケルベロイドを、突如乱入したVAVA-VIがライドアーマーで殴りつける。 これに対しケルベロイドはライドアーマーの拳を両手で受け止め、次の瞬間ライドアーマーを腕ごと振り回し地面に叩きつけようとした。 VAVA-VIは即離脱し、地面に叩きつけられたライドアーマーは爆発炎上した。 「チッ…またライドアーマーを1撃かよ、やはりエビルスレイヤーは違うな…」 VAVA-VIがぼやく。 「貴様は…VAVA…!」 ケルベロイドが言うや否や上からも声がする。 「私もいます。抜け駆けはさせませんよ」 第2形態に変身したルミネが上から舞い降りる。 「ククク、ヤコブの時を思い出すわ…」 「ハンター時代からの腐れ縁でもあるけどな」 「ディスル戦の時もお忘れなく」 「我々の勝ちだ!!」 シグマ、VAVA-VI、ルミネが不敵に言い放ちそれに回復アイテムで回復したサンフラワードも乗じて言う。 事実4対1となったがケルベロイドもケルベロイドでその戦意は全く衰えていない。 「頭数増やしたからと言っていい気になるな!」 「元より俺は1人で3つと言っても過言でない!!」 「故に相手にとって不足はない!!!」 その頃オルトロイドはトルクの加勢により一気に劣勢へと追い込まれていた。 「負けない…負けられない…俺は…兄貴と…約束した!!」 それでも必死に食い下がるオルトロイド。 一方ではリディプスは相も変わらず実力を出し切れず防戦一方となっていた。 そんな時ふとトルクがリディプスに声をかける。 「おいおい~、神様気取ってたって割には他人の事気に掛け過ぎじゃねーの? もしかしてコレか?」 小指を立てつつ言うトルク。 ちなみにトルクは同化したバグの力である程度近くにいるレプリロイドの大まかな感情を理解できるのだが それが無くともトルクはリディプスの様子から察する事が出来たかもしれない。 同時にその時、リディプスの中で何かが弾けた。 「神…そうだ私は神…全ての頂点に立つ絶対的な存在なのだぁっ!!!!!!」 そう言ってリディプスはメタモリーバグの力でゴッドリディプスに変身した。 だが彼のバグも幼虫だったらしく両肩の超フォースメタルが無かった。 「貴様如きこれで充分!神に楯突いた報いを受けよ!コードブレイカー!!!」 「ゴハアアアアア!!!!!!!!」 剛腕で薙ぎ払われ壁に激突するオルトロイド。 「デウス・エクス・マキーナ…」 リディプスはすかさずオルトロイドの頭上に隕石を降り注がせる。 「ガッ!!グッ!!ゲホッ!!!」 「俺もいるぜ~、喰らえ!!!」 トルクはトルクロッドの形状を大砲型にしてそこから光弾を撃ち放つ。 「グワアアアアアアアアア!!!!!!!!」 懸命に猛攻に耐えるオルトロイドだったが次第にその体は限界に近付いていった。 そんな時オルトロイドは人間で言う走馬燈を見た。 それはこのエリアに侵入者が入った頃… 「オルト…お前を信じて伝えたい事がある…覚悟はいいか?」 「な、なんだよ兄貴、急によ…?」 いつになく真剣な様子で語るケルベロイドにオルトロイドはやや狼狽しながら言う。 そしてケルベロイドはオルトロイドにダブルから手に入れたファイルバグの映像を見せる。 「畜生畜生!!こんな理由で俺達は生まれてきたのかよ!! 何なんだよ!!俺達の存在意義って何なんだよーっ!!!!」 やはりオルトロイドは悲しみと絶望に打ちひしがれる。 「絶望するのはまだ早い。これも見てくれ」 そう言いつつ次にケルベロイドは新たに手に入れたファイルバグの映像を見せる。 「…!?」 「分かるか?生まれなど関係ないという事を…!然らば俺達にも希望はある!! 共にここに送り込まれるレプリロイド、そして俺達を嵌めた輩を倒し、『外の世界』に出ていこうではないか!!」 「ああ兄貴!俺はやる!やってやるぜ!!」 共に涙を流し固く誓い合う兄弟。 …そして現在。 「兄貴…あんたと…一緒に…『外』に…行きたかった…」 遂にオルトロイドは限界に達しアイテムを落として消滅した。絶望と無念を胸に。 「待っておれマリノ…『外』に出た暁には…君を…この手に…!」 元の姿に戻ったリディプスは迷いを振り切ったのか力強く言い放つ。 「分かってきたじゃねーか、ここでの身の振り方がよ。 遠慮なんかするような奴は敗けるかバグに食われちまうぜ。 (俺も、人の事を考えて損した口だからよ…)」 トルクは己の過去を振り返りながら呟く。 オルトロイドが撃破される直前の頃… 「エレジーハウンド!!!!」 ケルベロイドは全ての口から強烈な破壊音波を放つ。 これは真相を知った時の悲しみを思い出しながらそれを破壊力に反映させて放つ技でその威力は従来のケルベロイドの技を大きく上回っていた。 「ぬう…!」 「チッ!!」 「ウッ…!!」 「ああああああああ!!!!!!!!!」 これが放たれる度シグマ達は全身にダメージを受け吹っ飛ばされる。 特にサンフラワードのダメージが大きかった。 だが彼以外の3人は耐えられない訳でもなく反撃に転じようとした時だった。 遥か彼方で大爆発が発生し、一瞬ゴッドリディプスが姿を現し、オルトロイドの反応が途絶えた。 「…オルト…おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ケルベロイドはこの時、肉親の喪失という真相を知った時と比べ物にならない深い悲しみを感じ、 即座にそれをエレジーハウンドに反映させた。 その威力は当然それまでのエレジーハウンドを大きく凌駕し周囲にある物を粉々にしていく。 「そ、そんなあ!!この私が!!!こんな所でええええ!!!!!!」 サンフラワードはその威力に耐えられずすぐにアイテムを落として消滅した。 シグマとルミネは堪えつつ反撃の機会を伺う。 そしてVAVA-VIは最初に飛び出した。 「グリードブーメラン!!!」 VAVA-VIの肩からブーメランが放たれケルベロイドの喉を切り裂きながらアイテムを回収して戻ってきた。 同時にそれはエレジーハウンドを中断させる事に成功した。 「貴様…その力は…!?」 「ああ、これはな、俺が最初に倒したエビルスレイヤー、ニードル・サボテニクスから手に入れたアビリティバグというバグの力でな… エビルスレイヤーが倒される度にそいつの能力が俺にダウンロードされてくるんだよ。 このブーメランはシーガルムって奴の武器で エネルギー攻撃にこれ程の耐性があるのはクマムッシュって奴の能力さ」 愕然とするケルベロイドにVAVA-VIが説明する。 ちなみに彼はダンクルード由来の物理攻撃への耐性も身に付けていた。 そしてこの機を逃さずシグマとルミネも反撃に転じる。 「悲しみを超えた力か…我が宿敵達を思い出させおる。 だが奴等はワシが何度も踏みにじろうと立ち上がってきた修羅達よ。 貴様如きの付け焼刃の力でワシの覇道は止められはせぬ!!」 「邪魔ですからどいてください」 ウルフシグマからの火炎と雷が、ルミネからの光芒が、VAVA-VIからの砲撃が情け容赦なくケルベロイドに炸裂する。 「嫌だ…道半ばで…誰にも知られず消えていくなんて…」 「オルト…約束…守れなくてごめんな…」 「今、そっちに行くぞ…」 どれだけ攻撃を受け続けたのか、永遠にも感じられる程長く攻撃に耐えるケルベロイドだったが、それも空しくとうとうアイテムを落として消滅した。 この瞬間、エビルスレイヤーは全滅したのであった。 「これからが本番だ!」 「ディメンションズマスター!オールエンダー!テメー等倒したら次はエックスだ!」 「待っていなさい、旧き者達よ…私が世界を正しい道へ導く時を…」 意気込むシグマ、VAVA-VI、ルミネの3人。 その頃「大蜘蛛の巣窟」では… 「キャーハッハッハ!!勝っちゃったよ、本当にエビルスレイヤーに勝っちゃったよ!!」 「8人、か…ここまで生き残るとはな…」 「俺の所に来たらとことん甚振りつくしてやるぜぇ!!あの時『あいつら』にやったみてぇによ!! ガーハッハッハッハッハ!!!!」 エビルスレイヤー全滅を受けそれぞれの反応を示すディメンションズマスターの3人。 更にその最深部では… 「うめぇぞぉ~…うめぇぞぉ~…兄弟揃ってうめぇぞぉ~!!」 ケルベロイド、オルトロイド、サンフラワードの残骸にかぶりつく巨大バグ。 「ヒーヒヒヒ、ケルベロイド、オルトロイド~、お前等は十分大切な役割を果たしてくれたぞぉ~!! 兄弟仲良くこいつの栄養分になる、という役割をなぁ!!!!」 それを観察するオールエンダ―は嫌らしい嘲笑を長く、大きく響き渡らせていた… 第十四話「全てが繋がる時」 エビルスレイヤーが全員撃破され、それに呼応して司令室の中央に位置するワープゲートが解放された。 と同時にティターンがシグマ達に通信を入れた。 「まずはおめでとうと言っておこう。さて、ここからが正念場、大蜘蛛の巣窟だよ。 ただここから先はジャミングが強くてね、我々からは通信が出来ないんだ。 しかしここまで来た君達の経験を生かせば突破できると信じているよ」 次にゴルゴダが続く。 「『大蜘蛛の巣窟』はただ下へ下へと降りて進んでいけばいい。手段は問わん。 また『大蜘蛛の巣窟』は大きく4つの階層に分かれている。 最初に入る事になるのは『無法の層』。一見煌びやかだがあらゆる悪事がまかり通る闇の深い階層だ。 敵も凶暴な者やずる賢い者が多い。 その下は『制裁の層』。自らの正義を信じて疑わない者が集う階層だ。 厳しい監視システムが特徴で見つかり次第敵の猛攻撃に晒されるから気を付けろ。 さらに下は『蹂躙の層』。自らの力で弱者をねじ伏せる敵が待ち受けている。 敵軍は単騎の力、兵力の両面において上2つの階を凌駕している。 ここまでの3つの階層はディメンションズマスターの支配下にある。 そして最下層は『捕食の層』。 このバグズディメンションを創り出した『オールエンダ―』が管理する層で未だ多くの謎に包まれている。 最深部というだけあって敵も最も強力だと思われるがそこさえ突破すれば『外の世界』に出られる、という事だ」 そしてビビッドも通信を入れる。 「ま、アイテムは敵を倒して奪えばいいだけだからボクの出番は無いけどね。 陰ながら応援しているよ!」 最後に再度ティターンが通信を入れ締めくくる。 「最後にこれだけは言っておこう。十分な準備は忘れないようにね。君達の武運を祈っているよ」 一通り聞いた一同。 「準備、か…ぬかりはないわ」 シグマが言う。 これまで8つのエリアに眠るアイテムはあらかた回収され尽くしたのである。 「だがここから先は通信が入らぬ以上情報不足は否めぬな。 故に、これまで手に入れてきた情報を見ておく必要がある。 お前達、バグクリスタルは十分集めておろうな?」 シグマが残った部下たちに確認する。 「当然ですぜ」 「へい、この通り」 「一生懸命頑張りました」 カマキール、コケコッカー、パンデモニウムがそれに肯定する。 「私も助力して差し上げましょう」 「ルミネ!」 その場に居合わせたルミネも自らの所持するファイルバグとバグクリスタルを差し出す。 彼は続けて言う。 「認めたくはありませんがエビルスレイヤー以上の敵となれば相当な使い手でしょう。 それに何の前情報もなく挑めばヤコブの時と同じ轍を踏む事になるかもしれません。 ここバグズディメンションに関する知的好奇心もありますがね」 リディプスもそれに続く。 「奴の言う通りこのまま突出するのは愚挙以外の何物でもない。 利用できるものは全て利用するのが勝利への布石よ。このリディプスも力を貸そう」 彼もまたファイルバグとバグクリスタルを差し出した。 「まどろっこしいのは嫌いだが俺の持ってるファイルバグは訳の分からないものばかりでな、それが分からないままなのも煩わしい。 ここで全部見てやるぜ、出撃するのはそれからだ」 VAVA-VIも彼等に続いた。 「………」 しばしの沈黙が続いた後シグマが切り出す。 「では始めるぞ」 シグマ達は自分達が所持するファイルバグを全て羽化させ、次にそれらをファイル番号順にモニター装置に同化させていく。 もちろんナビゲーションバグを休眠状態にするのも忘れない。 皆が固唾を飲んで見守る中バグズディメンションにまつわる過去が紐解かれようとしていた… 時はレプリフォース大戦終了直後。 大戦の惨禍は凄まじく世論は荒れに荒れていた。 そんな中こうした悲劇は何故起こったのか、また再発防止にはどうすればいいのかが自治都市テクノピアで真剣に議論されていた。 この都市は科学技術に重きを置くのがその名の由来で人間とレプリロイドの科学者も多く招集されていた。 そこでは様々な意見が飛び交い議論は暗礁に乗り上げていたのだがそんなある日… 「もっと具体的かつ建設的な案は無いのかね?」 丸眼鏡にチョビ髭、太った体躯の人間の中年男性がその場の一同に言う。 彼こそがテクノピア市長、ヴェルトであった。 「フン、レプリロイドは所詮は機械、信用できるか!!」 「静粛に!ここにはレプリロイドもいる事を忘れぬよう! そもそもレプリフォースを討ったのもまたレプリロイドではないか」 一人の政治家が声を荒げるもヴェルトはそれを制する。 「(このクソ虫が!!好き放題言いやがって!!!)いえいえ、私は全く気にしてはおりません。 これは我々レプリロイドに共通する問題なのですからな」 メデューサやドレッドヘアーのような頭の触手、蝶のような眼鏡、爬虫類のような縦長の瞳、マスクのような口元、細長い骸骨のような体といった 奇っ怪な風体の科学者レプリロイドが本音を隠しつつ口を開く。 彼の名はフィリア…後のオールエンダ―である。 元々はドップラーとも腕を競った優秀な科学者レプリロイドで研究分野は多岐に渡っていたが特にウィルスやワクチン、レプリロイドの感情の研究に力を入れていた。 ハンター組織にも度々技術提供をしてきたがドップラーと比べて今一歩評価されず苦汁をなめ続けてきた。 そしてドッペルタウン建造の際彼もドップラーから招待されたのだが、「ムカつくから」という理由で欠席した。 もしこの時ドッペルタウンに出向いていればドップラーやナイトメアポリス、VAVA-MkⅡ、各地を制圧したレプリロイド達と共にエックス達の前に立ちはだかっていたかもしれなかったが この時は難を逃れドップラー事件が勃発、そして解決した時は内心ドップラーを見下しほくそ笑んでいた。 「フィリア博士、では君には何か考えがあるのかね?」 ヴェルトが尋ねる。 「正規ルートで造られ、しかもウィルスにも侵されていないレプリロイドがイレギュラー化する… これはそのレプリロイドが感じてはいけない無駄で無意味な感情を覚える事で引き起こされるのです。 かのレプリフォースのカーネル、並びにジェネラル等をもイレギュラー化させた感情です。 私はウィルス耐性もあり、しかも先述の感情をシャットアウトするチップを研究しております」 フィリアは言う。 これに他の科学者が尋ねる。 「感情を持ちながらもそれでいて人間に従順、決して犯罪を犯さないレプリロイドを目指しているというのかね? 聞こえはいいが単なるイエスマンばかりを量産する事になりそうなのだが…」 「何を仰る!表舞台で人間社会の役に立つために生み出されるレプリロイドがウィルスにも侵されていない状態で人間に、社会に害を成す事態があっていいはずはないではないか! 犯罪者でもないのに初めから罪を犯させる事を前提にレプリロイドを造る開発者がどこにいる!?」 拳を握り熱く語るフィリア。 「……いいだろう、君の言っている事は至極正論の上その熱意も伝わってきた。 その研究の成果が出るのを心待ちにしているよ」 暫しの沈黙の後、ヴェルトが告げる。 「ハッ、ご期待に沿えるよう粉骨砕身努めてまいります!」 ヴェルトのお墨付きを得たフィリアは大きくうなずいたのであった。 程なくして件のチップの試作品が完成し、フィリアは自らの理論を世に発表した。 テレビ局からの取材も受けるようになった。 「レプリロイドがイレギュラー化する原因としてはウィルス以外には従来は望まれざる悪しき感情を覚えてしまう、というものがある。 私はそうした感情を『Brutally Unbecoming Guilty emotions』、略して『BUG(バグ)』と名付けた。 つまり、ウィルスに侵されてもいない、イレギュラーに生み出されてもいないレプリロイドがイレギュラー化するのは『バグ』が発生するからである。 この『バグ』はウィルスよりも遥かに性質が悪い。 ウィルスや誰に造られたか、等の情報よりもデータに捉え難いのだから。 しかもロボットを人間に近づけようとした結果からか全てのレプリロイドがそれを発生する危険性を秘めている」 「…では博士は『バグ』はどのような経緯で発生するとお考えですか?」 「それは周囲の環境やそのレプリロイドの経験した事によって発生する。 理想と現実のズレ、欲求不満、強すぎる欲望…それらが『バグ』を発生させる主な原因となるのだ」 「それに対し何か有効な解決策はありますか?」 「私の開発した『バグリジェクター』を使えばレプリロイドは常に平常心を保ち『バグ』が発生する事は無くなるだろう。 これを実用化すれば必ずやこれまでの悲劇は報われるであろう」 「研究の完成が楽しみですね。本日はご協力ありがとうございました」 にこやかにインタビューをする記者にフィリアは自信満々に答える。 このバグリジェクターこそがインターバグの前身であるが、その機能や役割は真逆なのであった。 さらに暫くするとフィリアは被験者を募り、それに応募するレプリロイドも出てきた。 最初の被験者はレプリフォースの残存兵であった。 「俺はもう二度と道を踏み外したくない、そして変われるなら変わりたいんだ」 そう言う被験者にフィリアはバグリジェクターを組み込んだ。 そして実験室の扉に向かって指示を出した。 「では入りたまえ」 それに応じて扉の向こうからは鬼の形相をした人間達が入ってきた。 念には念を入れ警備レプリロイドも数体いる。 人間達はその被験者を口々に罵る。 「まだ生き残ってやがったか、殺人軍隊レプリフォース!!!」 「下らねープライドの為に人間様に楯突きやがって、滅ぼされて当然だ!!!」 「家族を返せ、ガラクタ人形があああ!!!!」 さらには懐からジェネラルやカーネルの写真、レプリフォースの旗などを取りだしそれを踏んづけたりツバを吐く者も。 「(く、こいつら…許…そう…俺達が悪かったんだ…彼等に…罪は無いんだ…)」 被験者は一瞬怒りを覚えかけるも瞬時にクールダウンした。 その時… 「そこまで!」 フィリアの声と共に人間達は罵倒を止めた。彼等は研究スタッフだったのだ。 「では脳波を測定せよ」「はい!」 研究スタッフが被験者の感情のパターンを解析すると計器が正常値を示した。 「素晴らしい!彼は落ち着いてますよ!!」 「イレギュラー撲滅への輝かしい一歩ですね!!」 賞賛する研究スタッフ達。 その後もフィリアは被験者に面談を続ける。 「俺達は度し難い事をしてしまいました。自分の命1つで償いきれるとは思えません」 これにフィリアは答える。 「では生きている限り償い続けるがいいだろう。 方法はいくらでもあるぞ?被災地域への寄付や壊した物の弁償、難民への支援等…」 これを言った時、フィリアは感じた。 「(あれ、これ儲かるんじゃね!?)」 そしてフィリアは巧みな話術でその被験者から多額の金を支出させた。 この金は実際に寄付などにも使ったがそれは一部に過ぎず残りはフィリアの懐にしまわれたのだ。 以降の被験者にも同じ事を繰り返した。 この事をフィリアはヴェルトに内密に報告したのだが、ヴェルトは金の話題の所で目を大きく輝かせた。 実は彼もまた、欲深い人物だったのだ… それ以降フィリアが被験者達から金を搾り取った後、フィリアとヴェルトはその金を使って様々な活動を展開していった。 「ここに出しまするは、皆大好き、黄金色のお菓子でございます」 「お主もワルよのう、フハハハハ!!!!」 様々な立場の影響力の大きい者達に賄賂を贈って回るフィリア。 「父ちゃん…母ちゃん…兄ちゃん…僕、一人ぼっちになっちゃったよ…」 「辛かったね…でも君はもう一生分苦しんだ。後はその分幸せになるべきだ。 君の家族もそれを望んでいるよ…私達が付いている、君はもう一人じゃないんだ…」 「ワアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」 「(グヒョヒョ、ちょろいちょろい…)」 戦災孤児に優しい顔で近付くヴェルト。 その孤児はやがて市の運営する孤児院に預けられることとなった。 そしてある時… 「この話が本当なら…いい戦力になるぞ…」 フィリアは放棄された廃工場に足を踏み入れた。 その昔とある軍需企業が闇の組織と組んで正規ルートでは造れない強力な兵器を造り続けていたが 不正が発覚して経営者と従業員は逮捕され工場だけが残された。 そして大金と引き換えに得た情報によるとその廃工場の捜査の及ばなかった奥深くには開発途上の最強兵器が眠っているという。 これらの情報と様々なツールを駆使してフィリアは隠し部屋に辿り着いた。 そこでは「ティターン」と書かれた途轍もなく巨大なレプリロイド製造カプセルが静かに稼働していた。 「兵器とはレプリロイドじゃったか、しかし作業が止まっておる。どれ、ワシが仕上げておくとするかのう」 フィリアの操作で製造作業は再開され、それが完了すると共にカプセルの封印が解かれた。 カプセルから出てきたのは7本の角を持ち体中が突起物だらけの超巨大レプリロイドだった。 レプリロイドは声を絞り出して言う。 「外に…出られた…体が…動く…嘘じゃ…ないんだな…」 ティターンの心理状態を察したフィリアは彼に向って優し気な口調で言う。 「ワシはフィリア。お前の封印を解いたのはワシじゃ」 「だけど…俺が造られた目的は…」 「そんな事は気にする事はない。お前の力が必要でワシはお前を起こしたのじゃよ」 戸惑いの色で言う巨大レプリロイド、ティターンにフィリアは笑顔で返す。 「ウオオオオオン、一生付いて行きやすぜーっ!!!」 「(ヒーヒヒヒ、ちょろいちょろい…)」 感涙にむせぶティターンに内心ほくそ笑むフィリア。 この後ティターンは出自を伏せられフィリアの私兵団の団長になるのだがその禍々しい外見の為公式の場では元の荒い口調ではなく ギャップのある紳士的な口調の方が却って好印象を得るだろうというフィリアの考えの元表では紳士的な口調で話すようにとフィリアから指示を受けた。 これに対しティターンは若干抵抗があるものの恩義を感じているフィリアの手前それを受け入れた。 そんな中1つの問題が発生した。 「何だ、文句あんのかよ、さてはお前…バグが発生しているな?」 「何だと、俺は正常だ!!」 バグリジェクターを組み込まれたレプリロイドがある程度増えてきた時、自分に都合の悪いレプリロイドにバグが発生していると主張する人間が出てき始めたのであった。 それが明らかに人間側に非がある事情だったとしても。 それに伴いバグリジェクターを開発したフィリアは同じレプリロイドからひんしゅくを買い始めつつあった。 しかしこれにもフィリアとヴェルトは手を打ってあった。 それは人間にバグリジェクターを組み込んだレプリロイドの生き方を見習わせようというものだった。 バグリジェクターが組み込まれたレプリロイドの生き方は極めて模範的で醜悪とされる感情を露わにする事が無く 無用なトラブルを起こすことなど決して無かったからだ。 その他にも多額の費用で開発されたレプリロイドにバグを発生させて駄目にさせた、という理由で その原因を作った人間にも責任を問う事にもした。 フィリアがこれを発案した理由には「人間が調子付くのもムカつくから」といったものも含まれていた… より説得力を持たせるため人間であるヴェルトの口からその案は発表された。 「レプリロイドにバグを発生させる原因の1つに我々人間の身勝手というものがある。 思い出してもみたまえ。人間に酷使され冷遇されるレプリロイド達の悲憤を。 『人間は変わろうとしない』という人間の都合でイレギュラー認定されたレプリロイドの主張を。 ならば今がその変わる時ではないか。 創作の世界に登場する自らの装飾を売らせて貧しき者を救った王子の像… 自らの顔を飢えた者に差し出すヒーロー… そこまでしろとは言わないが我々も他者の為に身を捧げるべきではないのか? さすれば世のレプリロイド達も我々人間を見直してくれるだろう。 この度のバグリジェクターは我々人間にいい見本をみせてくれた。 従来のレプリロイドは人間の悪い面まで似せて造られた為バグが発生する仕様だったが それを排した結果理想的な生き方のヒントが見えてきた。 本当の善人は自らの善行を『当たり前』というが悲しいかな現状はそれは否なのだ。 皆が皆普通を悪に、善を普通に生きていけば綺麗事は綺麗事でなくなる… もうかの大戦の悲劇を繰り返さずに済むのだ!」 平時なら一笑に付されてしまうであろうこの発言も時期が時期なだけに真面目に聞く者が多かった。 またいつの時代にも大きな災害や事件の後、各地で愛や絆、平和への望みを謳う声が上がるがこの時代も然りだった。 フィリアやヴェルトから賄賂を受け取った者達がそれらの声に便乗し、その中に上記の主張を織り交ぜた。 テクノピアの住人はそれらの声明に心を打たれ、人の善行は褒めたたえ悪行は貶める事で善悪の基準を厳しくしていこうと、そして清貧であろうと努めた。 「そうだよ、人間にも守る価値があるって事を分からせないとな!!」 「あの人は教会や病院に何100万ゼニーも寄付したそうだぜ!後光が刺して見える…」 「あの人は被災地域の復興ボランティアに精を出してるそうだ!俺達も出来る事をしないとな!」 「『欲しがりません勝つまでは』ではない!『欲しがりませんいつまでも』、だ!」 「うう、うちの子がピンポンダッシュをするなんて…」 「何、スカート捲りだと!?貴様には良心という物は無いのか!!!」 「おい、ポイ捨てなどという街の景観を損ねる極悪行為はやめろ!!」 「誰か傷つけないか、いつも怖いよ…」 しかし身勝手な人間というのは確実に存在する。 ここに来て新たな問題が発生し始めた。 「何何?俺に喧嘩売ってんのー?」 「我慢しろとか人助けとかウザいんですけどー」 迷惑行為に注意をした人間が相手から暴行や嫌がらせを受け始めたのだった。 「どうする?ここは人間用のバグリジェクターでも開発するかね?」 ヴェルトの提案をフィリアは却下する。 「いえいえ、人間の感情をバグ呼ばわりして脳にチップを入れるなど確実にうるさい連中が騒ぎますよ。 それにコストが掛かりすぎる。 リスクとコストは小さければ小さい程いいんですよ。 ご安心ください、私に考えがありますので」 フィリアの案とはバグリジェクターが組み込まれたレプリロイに警察官の格好をさせを四六時中、至る所にパトロールさせる、というものである。 これにより犯罪や迷惑行為を働いた者は人間、レプリロイド問わず即座に通報され、連行される事となった。 また上記の注意されて返り討ちにした者達は特定された挙句その悪事を過剰に報じられ世間全体を敵に回した挙句 公衆の面前で連行された。 そして始まるのは「悪い者いじめ」。 このフィリアという男、自分の事は棚に上げて他人の悪事には腹を立てる面があり連行された者には激しい虐待を行い ヴェルトやティターン、そして彼等の協力者達もそれに乗った。 正に酒池肉林の狂気の宴であり、その光景は目を覆いたくなるものであった。 尤も、さすがにそれは秘密裏に行われたのだが… 「お前、通行人と目が合っただけで殴ったそうだな…で、お前は今ワシを見ておる… って事はお前の理論からするとワシはお前を殴っていいって事になるのう…」 「ちが…そんな訳…ゲホアアアア!!!!」 チンピラ青年に殴る蹴るの暴行を加えるフィリア。 「お嬢ちゃん、太った同級生をその事でいじめたそうだね… 私はねぇ、自分のこの体型の事を気にしていてね…同じデブとして許せないなぁ… という訳で体で払って貰おうか…!」 「僕も気にしてるんだぁ…へへへへへ…」 「ワシもワシも…」 「嫌ああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」 いじめを行った女子生徒に迫り来るヴェルトを始めとする太った政治家達。 この後彼女はヴェルト等の慰み者と化してしまう。 「テメー等は申し訳ない存在なんだ、低い頭をさらに低くして生きてる事そのものに詫びを入れろや!! 同時に床を舐めて綺麗にしておけ、ガーハッハッハッハッハ!!!!!!」 「申し訳ありません!申し訳ありません!!申し訳ありません!!!!」 ティターンに集団で土下座させられる悪人達。 「人様の家の塀に落書きしただと!罰としてお前の体に恥ずかしい刺青を掘ってやる! お前を芸術品にしてやるよ!!」「やめてくれよ…!」 「ゴミを捨てず近所に悪臭撒き散らしやがって!罰としてこの残飯全部食え!!!」「ヴォエ!!」 捕まった悪人や問題児はこのように激しい責め苦を受け、レプリロイドならバグリジェクターを入れられ、 人間なら四六時中バグリジェクターが組み込まれたレプリロイドに監視されるようになった。 そして虐待は世間一般には伏せられたものの厳選された極一部には知らされていた。 その中には孤児院に預けられた子供達も含まれていた。 「ではVTR、スタート!」 孤児院の職員の声と共に子供達の前にあらゆる犯罪や迷惑行為を映した映像が流される。 「ひどーい!!」「ゆるせなーい!!」 当然の如くその場には子供達の怒号が響く。 「ではそういう事をした人達がどうなるか、これから皆に見せておきましょう!」 するとその場にほっかむりに泥棒髭、ヒーロー物の敵戦闘員の格好、如何にもな不良ファッションなどといった格好をした悪人・問題児達が登場し、 それをヒーローの格好をした職員が撃退してみせる。 悪人側は抵抗した場合のリスクを考えたのか一切抵抗しなかった。 その場には子供達の歓声が上がりヒーロー衣装の職員は子供達に声高らかに言う。 「君達に素晴らしいプレゼントがありまーす!!」 直後子供達の前に金や悪人達の所持品が披露される。 「すげぇ…」「これ、本当に貰っていいの?」 「勿論だよ、さあどんどん持って行って!」 興奮する子供に職員が促す。 「やめろ…やめてくれ…それは大事な…」 悪人達が涙ながらに懇願するが… 「うるさーい!おまえ達みたいな悪者がこんなお宝持っててもしょうがないんだーっ!」 「しんじゃえーっ」 子供達は容赦なく彼等を罵倒する。 それを見て職員達やヴェルトはほくそ笑む。 法廷で被告が自分の知る法律の知識を挙げて権利を主張するも… 「ああ!?聞こえねーなぁ!?」 「うん聞こえない聞こえない」 ティターンの「聞こえない」の一声にその場の皆が賛同し意見を聞いてもらえず強引に有罪判決を言い渡されてしまう。 「チクショー!!人でなし!!ろくでなし!!!あんたらには情が無いのか!?心は痛まないのかよ!!?」 「世直しだもん♪人助けだもん♪ワシ何にも悪い事してないもん♪」 訴える悪人に嘲笑で返すフィリア。 そんなある日の事。 「何、裏街にパトロールに行かせたレプリロイド達がことごとく返り討ちに逢っているじゃと!?」 部下からの報告を耳にするフィリア。 テクノピアには治安の悪い区域がありフィリア等はそこに巣食う悪党共を一掃すべくバグリジェクターが組み込まれたレプリロイド達を出撃させたのだが その先で彼等はたった1体のイレギュラーに手も足も出ず撃破され続けているという。 生き残ったレプリロイドによると犯人はライドチェイサーに乗り棒状の武器を持った灰色のレプリロイドだという。 「…ティターン、出撃じゃ」 「へい、出番ですね」 そしてティターンはフィリアとヴェルトを伴い裏街に足を踏み入れた。 「ウチのもん殺ったライドチェイサー乗りのレプリロイドは誰だぁ!?いるんだろ、出てきやがれ!!」 巨大な体で悠々と歩きながら大喝するティターン。 するとそれに応じて下手人は姿を現した。 彼こそ当時テクノピアの裏街に来ていたトルクその人だった。 「最近現れた我慢だ自重だ清貧だとかうるせー連中のボス自らお出ましか? 随分デカい奴を連れてきたが図体頼みで俺に勝てるとか思うなよ!?」 ティターンの巨大で禍々しい姿に臆することなくトルクは見栄を切る。 「根性だけは見上げたもんだな、だけどよ、それもいつまでもつかな?」 ティターンも余裕の態度を崩さず両者は相見えた。 「やっちまえーっ!」「行けーっ!」 遠巻きにフィリアとヴェルトがティターンに声援を送る。 この二者ではティターンの方が圧倒的に高性能ではあったもののトルクはかなり善戦した。 正しく人間に挑みかかり針で刺していくスズメバチの如くトルクはティターンに手痛いダメージを与えていったのだ。 しかしながら勝負は性能で圧倒的に勝るティターンに分がありトルクは戦闘が進むにつれエゴイスティックビーストを破壊され、 トルクロッドもへし折られ手足も失っていった。 「往生際が悪いんだよこの野郎、今度こそ終わりにしてやるぜ!!」 四肢を失い無残な姿となったトルクを握りしめるティターン。だがその時… 「俺の命運もここまでかよ…だけどタダじゃ死なねーぞ、テメーも道連れだ! 俺は俺の道を選んだことを…後悔してねーぜ、ハーッハッハッハッハッハ!!!!!」 言い終わるとともにトルクのエネルギー反応が急速に高まっていく。 「いかん、ティターン!自爆…」 「死にたきゃテメー一人で死ね!おおおおおお!!!」 自爆を察知したフィリアが言い終わる前に既にティターンはトルクを力一杯天高く放り投げていた。 直後上空で大爆発が起こった。 「ケッ身の程知らずめ!勇気と無謀をはき違えてる奴はこうなるんだよ、ガーハッハッハッハ!!!」 「どうだ見たかティターンの力を!ヒーヒヒヒ!!!!」 「このまま一気にここのクズ共を一掃してくれるわ、グヒョヒョヒョヒョ~!!!」 勝利を収め嘲笑を響かせるティターン、フィリア、ヴェルトの三人。 この件で彼等は増々増長していく。 こうしてテクノピアにはヴェルトを頂点とし、その下にフィリア、ティターン、さらにその下に真相を知っていて彼等に協力する層、 その下に真相は知らないがこれが正しい事と信じて積極的に活動する層、その下に何だか分からないが周囲の空気に合わせヴェルト等のやり方に従う一般大衆、 最下層に悪事や迷惑行為を行う者といった構造の見えないカースト制度が形成されていった。 多くの者は自身の欲求を露わにする事が恥であり悪である、と信じ込み市の体制側に「ノー」と言うのは 殺人の自首や同性愛のカミングアウトより遥かに難しいものとなっていった。 しかし自首やカミングアウトを行う者が一定数存在するように市の体制側に抗おうとする者も現れだした。 「このままではいけない…市の暴走を止めなければ…」 オールバックの銀髪にゴーグル、黒いロングコート姿で長身のビリーヴという人間の男性を中心とする抵抗勢力は静かにその反撃の炎を燃え上がらせ始めた。 これに呼応してかせずか自身の大切な者が虐待される危機に直面した者の出現や別の地の影響力のある者が 「欲しいものは手に入れる」と自らの欲求を肯定しテクノピアのやり方を一笑に付した事、 我慢を強いられて泣き叫ぶ子供の姿が世間の注目を浴びた事などでフィリア等への支持に陰りが見え始めてきた。 程なくしてフィリア等もそれに気付かされる事となる。 「『バグ理論』は本当に正しいのですか!?明確な説明をお願いします!!」 「ええい、『バグ理論』は合っとる!ちゃんと根拠もあるんじゃ!!」 疑いの眼差しで詰問するインタビュアーをフィリアは難しい専門用語を並べて適当に説明した後強引にはねのける。 「どうしやす?いっちょシメときますかい?」 殺気を放ちながらティターンが言う。 しかしそれをフィリアは拒否する。 「やめた方がいいぞ、下手に力づくで暴れたら我々にイレギュラー認定が下されるやもしれん。 そうなったらハンターと敵対する事になってしまう。 特にその中でもエックスとゼロはシグマを何度も倒しあの精強のレプリフォースも壊滅させておる… 奴等には例えお前でも勝てるかどうか分からないんだぞ!!」 「…そうですかい…」 フィリアの必死の説得の前に口ごもってしまうティターン。 そしてフィリアは続けて言う。 「ハンター、それもエックスとゼロに力で対抗するのは危険が大きすぎる… ならば事前にバグリジェクターで骨抜きにするまでよ。 今はまだ試作品をテクノピア内で運用しているだけじゃが可能な限り早く完成品を一般普及させてくれよう… さもなくば我々への疑念の芽を摘み取る事は出来はせぬ!」 その後フィリア、ティターン、ヴェルト等は今まで以上の勢いで運動を展開。 我欲を抑える事の美徳を熱弁しまくり邪魔な者は徹底的に糾弾した。 それからさらにバグリジェクターの開発が進むと今度はハンター相手にバグリジェクターの有用性を力説し ミーティングのアポを取るべく交渉し、新総監シグナスはこれを承諾。 この瞬間フィリア等とその協力者達は歓喜に湧きあがった。 それが破滅への序曲とも知らずに… ハンターとのミーティングの日時を指定した直後その件についてテレビ局からの取材の申し込みがあり、フィリアはそれを受け入れた。 取材の直前、フィリアは市庁舎に各関係者を集め決起集会を開いた。 「諸君、私の開発したバグリジェクターは遂に一般普及される運びとなった。 このバグリジェクターの効果、そして諸君の多大なる協力のお陰でイレギュラーハンターも含めた 全てのレプリロイドを我らが管理下に置くことが可能となるのだ! イレギュラーハンター以外にも優秀なレプリロイドや強大な武装組織は数多く存在する。 彼等を一まとめにしてしまえば恐れるものなど何もない! そして同時進行で進めた我欲を抑制する運動… 大多数が欲望を抑え慎ましやかに生きる事を当たり前と認識すればそれこそ 互いに競い合い奪い合う事のない平和な世界が実現するであろう。 真実を知る我等は富を享受出来、知らぬ者達は穏やかな日々を享受できる、即ち互いにとって幸福という訳だ。 諸君、我々はいよいよこれまで誰も為しえなかった偉業を為そうとしている… 争いを根絶し、世界を1つに統一するという事を…!」 フィリアの演説に場内は歓声で沸き返る。 「俺達が…俺達が世界そのものとなるのだ!」 「ククク、確かに闇の武器商人グリズリー、傭兵ダイナモ、自警団レッドアラート…裏組織にも使えそうな奴らがごまんといるなぁ…!」 「性格はアレだけどゲイトとかいう科学者も意外と使えそうだぜ!」 「これらの戦力を1つにしてしまえばもう何も怖くねえ!シグマでも隕石でも宇宙人でも何でも来やがれ!」 そして遂に時は訪れた。 複数のテレビ局の取材クルーが大挙して押し入りフラッシュを焚く。 しばらくしてかつてフィリアに取材をした記者が口を開いた。 「フィリア博士、これは本当でしょうか…貴方が開発したバグリジェクターを使ってレプリロイドから大量の金銭を巻き上げている、という話は」 「…へ…!?」 思わぬ質問に目が点になるフィリア。 見ると報道陣は一様に顔を曇らせている。 そして彼等はヴェルト、ティターン等にも詰問する。 「市長!非行少女に淫らな行為を働いていたというのは本当ですか!?」 「ティターンさん、捕らえた人々に虐待行為を働いたというのは本当ですか!?」 「何かとお金を募っていたのは市民から巻き上げたお金で私服を肥やす為だったんですか!?」 「一言!!一言!!!!一言!!!!!!」 恐れていた、というより夢にも思わなかった事態にこの場の一同は閉口する。 彼等は一般大衆は弱く脆く与しやすいと認識していたからであった。 「えーと…あの…何というかその…」 「そ、それは…つ…つまり…」 「あー!?聞こえね…」 フィリアとヴェルトが言葉に詰まる中いつものようにティターンがしらばっくれる合図をしようとするも… 「聞こえない振りは却って自身の首を絞める事になるが。この場の映像はテレビとネットで生中継されているのだからな」 報道陣の中からビリーヴがその姿を現した。 「だ、誰だ貴様は!?」 フィリアの協力者の1人が声を荒げ問いかけ、それにビリーヴは応じる。 「私はビリーヴ。テクノピアの現行の体制に対する抵抗運動を取り仕切っている者だ。 断言しよう、フィリア博士、ヴェルト市長…貴方達は人間とレプリロイドの 本来守られて然るべき権利を不当に侵害していると!!」 これに対しフィリアは狼狽しながら言葉を紡ぎ出す。 「それは自由だとでも言うのか…!?確かに一理あるかもしれんが… じゃが人間とレプリロイドの我欲を肯定してしまえばそれが愚かな争いに繋がるかもしれん。 先の大戦で学んだはずじゃ、そんな事も分らんのか!?」 ビリーヴは落ち着き払った態度で返す。 「レプリフォース大戦を口実に大衆に自重と禁欲を迫る…という訳か。 私は貴方達が純粋に世の為に今の活動をしていたとしても貴方達に抗っていたであろう。 ましてや貴方達は自らの私利私欲の為に動いていただけではないか。 現にバグリジェクターの入ったレプリロイドは貴方達の不正は見逃している… こんな事が…こんな事がまかり通っていい理由などどこにもない!」 今度はヴェルトが問う。 「馬鹿な…馬鹿な…我々が排しようとした人間の醜悪な欲望に守る価値があると言うのか!? 強すぎる我欲が…無意味で無駄ではないと抜かすのか…!?」 ビリーヴは答える。 「理屈は至って簡単だ。『水清ければ魚棲まず』…皆本当は清廉潔白であろうとするが為に自分を殺すのが嫌だったという事に過ぎない」 一連の問答の中、場がざわつく。 そしてその中から孤児院の職員が声を張り上げる。 「誰だ…内通者は誰だあっ!!?」 その叫びに反応して幼く、悲し気な声が響く。 「僕達です…」 声の主は先述でヴェルトが孤児院に向かい入れた少年だった。 少年は続けて言う。 「傷つけられたから傷つけてもいい…奪われたから奪ってもいい…そう思っていました… でもそれが間違っていた事を…スパイの人達が気付かせてくれたんです… 僕を助けてくれた市長や先生には感謝しています… でもだからこそ…道を踏み外した貴方達を放置するわけにはいきません… 僕に向けてくれた優しい笑顔が…本物であってほしかった…」 「このクソガキがぁーっ!!拾って食わせてやった恩を仇で返しやがってーっ!!」 生中継されているのも忘れ本性を露わにする孤児院の職員に孤児達はただ悲し気な視線を送るのみだ。 「何故じゃ、何故ワシがこんな目に…!」 「ここまで…ここまで来たのに…」 声を震わせるフィリアとヴェルトにビリーヴは言い放つ。 「レプリロイド、そして人間から我欲を含めた人間らしさを貴方達は排除しようとしたが…欲は人間を人間たらしめている重要な要素だ。 貴方達もまた…実に人間らしかった。それだけだ」 「う…う…ううううう…」 その時ヴェルトは唸り声を上げだし全身を震わせ始めた。 顔からは滝のような汗が滴り落ち呼吸音や心臓の鼓動も離れていても聞こえそうな勢いだ。 そんな状態が何秒も続き、場の空気が限界まで張りつめて行った時… この場の全員が信じ難い光景を目にする。 「ウア゛ア゛ア゛ア゛ァァアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! ウア゛ア゛ア゛ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 私はぁ!!!真剣にぃ!!!平和の為に!!!行動してきたんで…すぅーっ!!!!!!!!!!!!!!! それをォ!!!そこのフィリアと…ティターンが…脅してきたんで…すぅーっ!!!!!!!!!!!!!!!!! ウッハッハッハハア゛ア゛ァァァァーンアンアンアン…アア゛ァァァアハーンアァーン…!!!!!!!!!!」 何とヴェルトは年甲斐もなく泣き叫び出したのであった。 その狂乱ぶりは凄まじくその辺のイレギュラーの方がまだマトモに見えるほどだった。 この光景にその場の全員は唖然茫然愕然とした。 しばらく間を置くと罪を擦り付けられる格好となったフィリアとティターンも絶叫する。 「おい、こら、このブタ!!テメーもノリノリだったじゃねーかよ!!! ガキみてーに泣き叫びやがって!!!!! クゥゥゥ~!!!あと少しでドップラーを超える所だったのに… 世界中がワシを称賛しひれ伏す筈だったのにぃ~!!!!」 「俺だってずっと暗い所に閉じ込められててやっと自由になったんだよおおおお!!!!!! だからその分報われたっていいじゃねーかよおおおおおおおお!!!!!!!!!! ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 エックスとゼロに力で勝つ自信がないから頭を使ってどうにかしようとしたフィリアだったが 皮肉にも自分達が力でなく頭で御されてしまった事への無念は計り知れない。 また彼等の協力者達のリアクションも様々だった。 我先にとこの場から逃げ出そうとする者、知らぬ存ぜぬを貫き通そうとする者、他の者に罪を擦り付けようとする者、泡を吹いて昏倒する者… 1つ確実に言えるのは彼等が今の今まで積み上げてきたものが全て総崩れになった、という事である。 ちなみにビリーヴは事前にハンターとも話を合わせていた為シグナスがアポを承諾したというのもブラフだったのだ。 「1つの時代が終わったな…」 「むしろ始まりと捉えるべきなのでは…?」 ビリーヴの呟きに彼の部下が応じる。 そんな中孤児院の子供達が彼等に近付き話しかけてくる。 「これで…良かったのでしょうか…僕は…自分を拾ってくれた市長達に恩を感じているんですけど…」 そんな彼等にビリーヴは返す。 「私は自分のやった事が絶対的正義だというつもりはないが、自分の信じる道は貫き通した。 故に私は君達に自分の考えを押し付けるつもりは毛頭ない。 ただ、君達が道に迷った時や同じ道を選んだ時は出来る限り手助けはするつもりだよ」 「「「はい…!!」」」 子供達は力強く頷いた。 その後… ヴェルト、フィリア、ティターンの世間での評判は地に落ち「三馬鹿トリオ」「アホトリオ」「太糞、長糞、大糞の三本糞」「最低の三悪」などと巷で揶揄された。 バグリジェクターは全て回収されたものの彼等の周囲には冷たい視線と罵詈雑言が付きまとい当然あらゆる権限を失った。 刑務所に入れられた彼等の協力者達は他の受刑者達から自分達のやった事を何倍にもして返された。 「あーあー、これからって時に潰れてくれちゃって…新しい依頼、来ないかな~ …ん、あんたはあの…」 同じ頃フィリアからの依頼がおじゃんになったダイナモにシグマからの通信が入る。 「まああんな連中協力しなくて正解だったな… …何、最近近所に出没するイノシシの暴走族を何とかしてくれ!?」 同じようにフィリアからの依頼がとん挫したレッドに当時イレギュラーだったイノブスキー討伐の依頼が入る。 しばらくしてフィリアとティターンに対する処分が決まろうとしていた時、2人は忽然と姿を消した。 転送装置を使ったのだ。 「復讐…してやる…欲望を肯定し清廉潔白な生き方を否定したな… いいだろう、そんなに欲望を認めるなら誰もが欲望垂れ流しのメチャクチャな世の中にしてやろう…! ワシゃ知らんからなどうなっても…ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!」 放心状態だったフィリアは狂った様子でそう叫び出す。 「では、ハンター共とも戦うという事でいいですかい?」 ティターンの問いかけにフィリアは首を横に振る。 「いいや、今動いてもエックスとゼロに潰されるのがオチじゃ。 行動するのは十分な準備が整ってからでないとな…!行くぞ!」 そしてフィリアは骸骨のような体型を隠すローブに身を包み「フォビア」と名乗り ティターンは鋼鉄のハリボテを着込んで彼の護衛メカニロイド「TTN-01」としてメカニロイド口調で行動し 同じく身元を隠した助手の科学者レプリロイド達と逃避行を開始。 何故か正体はバレなかった。 「まずは最低限必要な機材を調達、然る後に隠れる場所の捜索じゃ!!」 そう言ってフィリア達は最初にティターンの眠っていた廃工場や旧シグマ基地、スカイラグーンの残骸等からありとあらゆる機材やジャンクパーツを調達し、 その後大戦の影響で汚染が進み視界も悪く磁場の乱れも酷いとある地域に目を付けた。 さらにそこに深く穴を掘った後でフィリアは告げる。 「では始めるぞ…!」 そしてフィリアは自らの開発した装置で時空を歪め亀裂を生じさせた。 そこで生じた亜空間でレプリロイドが生存出来ると確認した後はスペースコロニー等に使われる反重力装置をその中に放り込んだ。 「これが新たな研究所の核となるのじゃ。後は、と…」 フィリアはその反重力装置にシグナルを送るとそれは周囲のジャンクパーツと合体していき、見る見る巨大化していく。 過去のイレギュラー、モスミーノス等を参考にしたものであり、それはフィリアの設計通りに形を成していく。 「おおお…」 驚愕する一同にフィリアは得意気に言う。 「これで終わり、という訳ではない。全世界にワシの目となり手となるこいつを飛ばして更に更に増築していくぞ」 そう言ってフィリアは小型で飛行と遠隔操作が可能な転送装置を何台もあらゆる方向に飛ばしていく。 これらは地球内に留まらず一部は宇宙空間にも飛ばし有用な物資を見つけては 先程フィリアの作成したコロニーに向けて転送させていき、コロニーはそれらを吸収する。 ある程度の規模まで成長した時… 「では入るぞ!」 フィリア達はその中へと入っていき地球上から姿を消した。 その際入り口が他者に分からないように光を屈折させておくほどフィリアの計画は念入りだった。 これがバグズディメンションの誕生である。 「この中でワシは次世代のバグリジェクターの研究を続ける訳じゃが、 これから造るのは従来のそれとは真逆の役割を担うのじゃ。 つまり欲望に対するブレーキではなくアクセルとなるのじゃよ。 これで世のレプリロイドの欲望をだだ漏れにして…ヒーヒヒヒヒヒ!!!」 一方外の世界ではユーラシア事件が勃発し地上はウィルスまみれになった事とユーラシアの落下への恐怖で大混乱になった。 中にはウィルスやワクチンに詳しいフィリアに助力を乞う声もあったがフィリアはその様子をバグズディメンションの中から見て無視を決め込んでいた。 「博士、今こそ実力行使の時では?」 ティターンの問いかけにまたもフィリアは首を横に振る。 「まだじゃ、エックスとゼロが健在の内はこれが解決されるやもしれん。 それよりこの事件が我々に有益な情報をもたらしてくれるから余すことなく利用させて貰うぞ」 そしてフィリアは次世代バグリジェクターの研究を重ねた。 周辺の人間やレプリロイドの感情を察知する能力、移動能力、学習能力など様々な性能を付加させていき 寄生生物の特性も持たせた。 そして… 「出来たぞ、これがバグリジェクターの改良版、『インターバグ』じゃ!」 「何とまぁ…虫の形をしているんですかい…」 フィリアが言い放ち、ティターンは思わず零す。 フィリアが作り出した次世代バグリジェクターは虫の形状をしており、しかも動いていた。 「虫もバグというからの、それと掛けたんじゃ。虫っぽいのは見た目だけじゃないけどのう」 フィリアの言った通りインターバグは虫の形状や動く事だけでなくレプリロイドの感情を察知する事や レプリロイドと融合する事、宇宙から転送させた謎の鉱物を『食する』事で進化する事などで 皆を驚かせた。 「それだけじゃない、欲望が人を動かす原動力というならこれは使用したレプリロイドをパワーアップさせる事も可能となるのじゃ!ま、説明するより見た方が早いじゃろ」 そう言ってフィリアは非戦闘用の自分は従来は持てない筈の凄まじい重量の物体を持ち上げたり 超高速の拳の連打を披露してみせた。 「素晴らしい!素晴らしいぞ!!」 その場にいた者達は声を上げて称賛する。 しかしそんなある日の事… 「ヒャーッヒャッヒャッヒャッ!!!!力が漲る!!力が漲るぞぉ~!!!!」 助手のレプリロイドの1人が奇声を発し始めた。 フィリアと他の助手レプリロイド達はその様子を見張っている。 「ここ、これならぁ…何でもできる気が…気がががががGAGAGAGA…」 明らかに精神に異常をきたしていると思われる彼の立ち振る舞いはより一層おかしくなっていき… 「ガアアアアアーッ!!!!!!ウガァァァアアアアーッ!!!!!!!」 遂には倒れだし手足をばたつかせ始めた。 「う~む、過負荷のようじゃなぁ…」 フィリアが唸ったその時だった。 異常をきたした科学者レプリロイドの胸が内側から裂け、その内部から数十cmぐらいの蜘蛛の形状をした物体が飛び出した。 「キシャアァーッ!!!」 「それ」は周囲のレプリロイド達に飛びかかった。 サイズに対しその力は強く動きも俊敏で部屋の天井、壁、床はそこら中ひびだらけになり 機材は散乱し負傷者も続出したがやがて苦労の末捕獲された。 「何なんだ!!何が起こったんだ!!!」 「こいつめ、踏み潰してやる!!」 その場はパニック状態となりその化け物を殺そうとする者が出た時だった。 「待て!!」「博士!!」 フィリアの一喝でその化け物は生け捕りという形になった。 「まさかこんな副作用があったとはのぉ、天才のワシにも予想外じゃったわ!!! 面白そうだから新たな研究材料としてくれよう、ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!」 「…!!」 部下が1人悲惨な死に方をしたというのに新たな発見に狂喜するフィリアに対し寒気を覚える助手レプリロイド達であった。 …それがバグズディメンション最強最悪の魔物の誕生の瞬間である。 それからというものフィリアはその怪物の研究に力を入れるようになった。 最初に彼が取った行動は怪物の宿主だったレプリロイドの残りの残骸を食わせる、というもの。 その結果として怪物がボディを肥大化させた様子を見てフィリアは狂喜乱舞した。 また、その怪物が生まれた仕組みを解明するため彼はレプリロイドを制作した。 それは低コストで何の特徴もない、最低限の感情しかなくて名前もないレプリロイドだった。 彼がエビルスレイヤー以下のバグズディメンションの番人の前身である。 「お早うございます、命令をどうぞ」 名無しレプリロイドにフィリアは指示を出す。 「じゃーこいつらと同化してくれ。念じるだけでいいぞ」 そして名無しレプリロイドは言われるがままバグとの同化を繰り返し、やがてそれが限界に達しバグに食われてしまう。 「やはりそうか!無理してバグと同化するとこれが生まれるんじゃな!」 フィリアはこのような経緯で生まれ、レプリロイドを捕食するようになったバグを巨大バグと名付けた。 しかし2番目以降に生まれた巨大バグは最初の巨大バグに比べて性能は遥かに劣り成長速度は遅く戦闘力も低かった。 最初の巨大バグを再現しようと努力してもそれに匹敵する巨大バグは中々作り出せなかったが それぞれ螻蛄、ゾウムシ、カゲロウの姿で生まれた3体の巨大バグは他と比べて頭一つ抜けて優秀に育った。 フィリアは諦めて、その最初の巨大バグの研究に力を入れた。 「ウマクナイ!!ウマクナイ!!」 フィリアが与えた簡素な造りのレプリロイドに対し覚束ない口調で喋り始めた最初の巨大バグが不満の声を上げる。 「もうお前はこれじゃ足りんか…待っておれ、もっと美味いもん造ってやるからの!」 そしてフィリアはより高性能で狂った性格に設定したレプリロイドを造って彼に与えた。 「……ウマクナイ…」 暫く逡巡した後、またも最初の巨大バグはダメ出しを食らわせる。 「ふ~む、ワザと狂った性格で性能を高くしてもこれか…そうじゃ!これならどうじゃ!」 次にフィリアが思いついたのは過去のイレギュラーの再生である。 彼等には高性能で性格が破たんしている者がいくらでもおり、既にこの世の者ではない為 ここで死んでも外の世界には何ら影響はない、と考えたのである。 その上過去にエックスやゼロに敗れたレプリロイドを御する事が出来なければこの実験には意味がない、とも考えたのだった。 まず最初に第一次シグマ大戦の時のアイシー・ペンギーゴを再生させた。 「何だクワ!ここはどこだクワ!?」 目覚めたと同時に状況の確認をするペンギーゴだったがその直後強大なエネルギーを感知する。 「クウ!クウ!」 「な…クワアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」 状況が理解できないままペンギーゴは一瞬で最初の巨大バグに食われてしまった。 「うめぇぞぉ~…うめぇぞぉ~…」 最初の巨大バグは一気に成長し知能も格段に高くなった。 その様子を見たフィリアは… 「う~む、何かが足りん…何かが引っかかる… そうじゃ!テクノピアの時の『悪い者いじめ』をまたやればいいんじゃ!!」 最初の巨大バグでは例え相手が超高性能レプリロイドだとしても秒殺してしまう為 充分な苦しみを与える事が出来ない、という悩みを抱いたフィリアは ここで過去のイレギュラーを虐待する事を思いつく。 「地獄じゃ!人工的に地獄を作ってやるぞ!」 そしてフィリアはコロニーを更に巨大化させ、しかも地球上のあらゆる環境や施設を再現した区域を建造した。 何故なら過去に散っていったイレギュラーの数はそれこそ甚大だったからである。 この時フィリアは通常のバグの研究も同時進行しておりそのバグの力を使って外の世界より同志を募った。 世の中に対し絶望し、かと言ってハンターに立ち向かう気力もなく自殺する気もないレプリロイドだけを対象に バグズディメンションへと誘う思念を全世界に飛ばしたのである。 理由はそれこそ人手が欲しかった事と様々なレプリロイドの意見を取り入れる為、だった。 結果周囲から村八分にされ身も心もズタズタになったレプリロイド達が続々とバグズディメンションに入っていった。 「はは、何か頭の中で声がする、と思ったらこんな場所があったなんて…」 「俺は遂に人を得た…」 彼等の中にはビビッドとゴルゴダも含まれていた。 過去のイレギュラーの膨大な数と各エリアの広大さの為フィリアを始めとする外の世界から来た層は中央で各エリアに指令を送る事になり 現地で送られたイレギュラーに直接虐待をするのはフィリアが新たに作り出したレプリロイドが担当する事になった。 製造カプセルの中のエビルスレイヤーを背にフィリアはビビッド、ゴルゴダ、ティターンに向かって言い放つ。 「こいつらはな、自分こそが最強で正しいと思っちゃうワケよ。知識を与えるのが自分の都合のいいもんだけだからねー仕方ないよねー エビルスレイヤーとかいうご大層な名称も言葉通りの意味だと解釈しちまうんだろうよ。 そんで得意になって罪人レプリロイドを虐殺しちまうってワケさ! そーんなご立派なもんじゃねーっつーの! 本当の目的は『外の世界』の破滅と混乱だっつーの!!ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!」 「さすが博士、『こっち』でも茶番ですかい!」 「うわぁーえげつないですねぇ、ボクじゃなくてよかったですよ」 「俺も世の中に絶望したが、このような生まれ方をしていたら今より更に世を恨んでいたかもしれない…」 ティターン、ビビッド、ゴルゴダがそれぞれ返す。 「しかもイレギュラー側には救いの手を差し伸べてやる振りをしてあげるのさ。 希望が湧いた後の絶望は半端ないからのう!!!」 にやけ面で言うフィリア。 かくしてスパイダーズスレードは発足した。 送られたレプリロイドは入り口で完膚なきまでに叩きのめされディスルに生前の罪状によって送り先が決められる。 ほとんどの罪人レプリロイドはノーマルソルジャーにも手が出ないが 稀にディスルまでたどり着く者もいた。 過去の大戦で「ボス」と呼ばれたレプリロイド達である。 しかし彼等も大抵ディスルに瞬殺されたがそのディスルも唯一トルクには手を焼いた。 他のレプリロイドが戦闘不能になる程のダメージを与えてもまだまだ挑みかかってくるからである。 「ハァ…ハァ…『堕落者の学び舎』…行き…」 「今に…見てろ…今に…見てろ…」 堕落者の学び舎に送られるトルク。 彼はそこで虐待を受けるもその精神は折れず後に脱走する事になる… 「ここまでディスルは倒される事無く各エリアも解放されねぇ…やはり博士の才能が勝っていたって事か?」 ティターンの言葉にビビッドが異議を唱える。 「分かんないよー?最後に送られるレプリロイドは強者揃いだからねー」 「シグマ、VAVA、ルミネ、リディプス、アースロック・トリロビッチ、ギガボルト・ドクラーゲン、アイスノー・イエティンガー、バーン・コケコッカー、 バンブー・パンデモニウム、オプティック・サンフラワード、ダークネイド・カマキール、グラビテイト・アントニオン、デプスドラグーンか…」 ゴルゴダが確認をする。 「そうじゃ、こやつ等とワシの造ったレプリロイドがどっちが強いか…楽しみじゃわい!ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!」 嘲笑を響かせるフィリア。 映像はここで終わっていた。 司令室の一同が見終わった直後… どこからか声がする。 「へー、ヴェルトはシロだったか…しかしみっともねー面晒してんなーオイ」 「「「トルク!!」」」 そこにはいつの間にかトルクがいた。 「なぁに、全く気にならねーと言ったら嘘になるからせっかくなんで見せて貰ったぜ。 用が済んだから俺はもう行くわ」 トルクはそのまま中央のワープゲートへと消えていった。 「ワシ等も続くぞ!」 「「「ハハッ!!」」」 シグマの声と共に配下の3人もそれに続く。 「こうして見ると愚かな…実に愚かな…」 侮蔑を露わにルミネも続く。 「マリノ、今行くぞ…」 そしてリディプスも続く。 「ケッ、あいつがオールエンダ―かよ… どんなのかと思ったらエックスにビビって引きこもってた弱虫じゃねーか。 そんな奴に俺が負けるかよ!!!!」 VAVA-VIは吐き捨てるように言ってワープゲートへと消える。 果たして彼等は「飛んで火にいる夏の虫」になるのか、それとも… 一方大蜘蛛の巣窟では… 「しっかし良かったのかなー?ファイルバグにはボク達の正体はおろか恥ずかしい秘密まで入っているかもしれないのに…」 「ファイルバグはバグズディメンション内のレプリロイドやサーバーの記憶をランダムに拾うからな…」 ビビッドとゴルゴダがそれぞれ言う。 「なぁ~に、これから死んで奴に…ディバインバグに食われる連中には関係ねーよ、ガーハッハッハッハッハ!!!!」 これに対しティターンは豪快に笑う。 「ううぅ~美味そうな飯が沢山やってくるぞぉ~…食いてぇ…早く食いてぇぞぉ~!!!」 VAVA-VI達が映像で見たより遥かに巨大に成長した最初の巨大バグことディバインバグは醜く大きい唸り声を響かせる。 それに応じてフィリアはこれまた醜い嘲笑で返すのであった。 「ヒーヒヒヒ、そうじゃそうじゃ…これから来る奴等も…外の糞野郎共も…全て全てお前の糧となるのじゃ、ディバインバグよ… ヒーヒヒヒ…ヒーヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

第十五話「喧噪」

遂に大蜘蛛の巣窟へと足を踏み入れたVAVA-VI。 「んん、これは…」 彼が目にしたのは夜の歓楽街のような光景だった。 そこら中がけばけばしく眩しい電光掲示板に彩られクラブ、賭博場、バー、風俗などといった店が立ち並んでいる。 また至る所から悲鳴や怒号、クラクション、銃声、激突音等が響き渡ってくる。 大蜘蛛の巣窟の最上層、「無法の層」はそうしたエリアだった。 「中々いい趣味をしているな、血が騒いできたぜ…!」 そう言ってVAVA-VIは「街」へと繰り出していく。 まず最初に向かったのはバーだった。 「『バー ぼったくり』だぁ?如何にもじゃねーか」 そしてVAVA-VIが入るや否や柄の悪いレプリロイド達が一斉に彼の方に向き直った。 レプリロイド達は席を立ちぞろぞろとVAVA-VIを取り囲みその中の1体が口を開いた。 「へっへっへ、遂にここまで来やがったな、VAVA。 俺達は『エースソルジャー』。大蜘蛛の巣窟を任されてる。 テメー等が8つのエリアで倒してきたノーマルソルジャーやチーフソルジャーとは訳が違…」 言い終わる前にVAVA-VIは彼の頭を掴みその直後バーカウンターに力強く叩きつけた。 「が…!!は…!!」 あっけなく絶命するエースソルジャー。 彼はチーフソルジャーよりもかなり多くのアイテムを落として消滅した。 「成程、確かに落とすアイテムの量からして訳が違うな」 不敵に言い放つVAVA-VI。 「て、てめ…!」 「あーそういやお前等、どこかで見た事あるなぁ…そうか、フィリアの奴に呼ばれて後からバグズディメンションに入っていった連中だな!?」 エースソルジャーがざわつく中VAVA-VIは彼等に問う。 「そ、それがどうしたってんだ!?」 エースソルジャーの1体が肯定しつつ問い返す。 「って事はよ、お前等もフィリアと同じく戦いから逃げた弱虫って訳だ。 ハンター共と戦いもせずに安全な所に引きこもっている分際で何粋がっているんだ!?」 エースソルジャー達の顔を見回しながら余裕綽々と言い放つVAVA-VI。 「うるせー!俺達は現実を見てるんだ!」 「イレギュラーの皆が皆戦闘タイプって訳じゃねーんだよ、この脳筋が!」 「大体お前らがハンターに負けちまうから俺らの居場所が無くなっちまったんじゃねーか!」 図星だったらしくエースソルジャー達はムキになって口々に反論する。 これに対してVAVA-VIは呆れた様子で言う。 「御託はいいからよ、かかってこいよ。それとも何か?怖いのか?」 「糞ったれ、もう許さんぞ!!かかれぇーっ!!!!」 激昂してVAVA-VIに襲い掛かるエースソルジャー達だったが… 「やっと殺る気になったか…でもよぉ、ここに来た時点で…お前らは既に負け犬なんだよ。 エックスが怖くて…イレギュラーやってられるかああああああ!!!!!!!!!!!!」 「「「「ギャーッ!!!!!!!!!!!!!!」」」」 VAVA-VIの火力の前に彼等は瞬く前にアイテムの山へと姿を変えた。 その直後バーのマスターを務めるエースソルジャーの合図と共に店の奥からより屈強なエースソルジャー達が姿を現した。 「お客さぁん、ちょっと店内を荒らしすぎじゃないですかねぇ… この代償として…お客さんの命をぼったくらせて貰いますよぉ…!!」 マスターの号令と共に店員のエースソルジャー達がVAVA-VIに挑みかかってくる。 「そういやここはバーだったな…って事は度数の高い酒も置いてあるって事だ…な!!」 そう言ってVAVA-VIは酒棚を蹴倒して床を酒浸しにする。そしてその直後… 「ドカン」 その一声と共にVAVA-VIは足元に火柱を放ち店員とマスターをまとめて火達磨にする。 「ギャアアアアあぢぃあぢぃあぢぃ~~~~~~~~っ!!!!!」 そして彼等が落としたアイテムを回収したVAVA-VIは店内の中の下のフロアへ通じる道を確認し、そのまま降り始める。 一方シグマ、コケコッカー、パンデモニウム、カマキールはファイトクラブに入っていた。 4人が入ってしばらく進んだ時、天井から四方を囲む金網が降ってきて彼等を囲い込む。 「フン、こんな物で我等の動きを封じたつもりだと言うのか!?」 嘲るようにシグマが言うと前方から柄の悪いエースソルジャー達がぞろぞろと出てきた。 「ククク、お前等の噂はよく聞いてるぜ。外の世界では派手に暴れてたみてーだな…」 「ここまで来れたって事はそんだけ強くなってるって事だろ?まずは俺達がお手並み拝見させて貰うぜ!! 行っくぞぉーっ!!!!!!」 ある者は金網の扉からなだれ込み、またある者は金網をよじ登って上から飛びかかりシグマ達に迫り来るエースソルジャー達。 「ワシ等のパワーアップを理解した上で敢えて挑む健気さだけは褒めてやろう、 だがそれだけで御せるワシ等では無いわ!!」 「熱くなってきたぜぇ、コケーッ!!」 「哀れなまでに身の程知らずだね…」 「雑魚には変わらねぇが、チーフソルジャーよりかは刻み甲斐がありそうだなぁ…!!」 元々喧嘩慣れしており、バグとの同化によるパワーアップで気が大きくなったエースソルジャー達。 しかしそれでもこの4人の敵ではなく次から次へと屠られていく。 その様子をフィリアは「捕食の層」の1室から監視していた。 その部屋には多数のモニターがあり他の場所も監視されている。 「やはりエースソルジャー如きでは相手にならんのう。 ふるいにかける為『あいつ等』を各層に配置して正解じゃったわい」 そしてクラブ内のエースソルジャーが全滅させられた時… シグマ達の眼前に突如砂の竜巻が発生し、その勢いは徐々に弱まっていき、竜巻が収まる頃にはその位置に サボテニクスが姿を現していた。 しかしその目には生気が無かった。 「敵確認…排除スル…」 サボテニクスは抑揚のない口調で言う。 「エビルスレイヤーのニードル・サボテニクスだな… しかしどうやらこれはデッドコピー…過去の大戦でワシがしてきた事の真似事、というわけか」 サボテニクスが放つ強大なエネルギーの前に身構える部下3人をよそにシグマは冷静に言う。 ちなみにシグマ達はこの時既に直に会ったことのないエビルスレイヤー、ジェイルキーパーの全員を ファイルバグを通じて知っている。 「む…!」 「コケッ!?」 「う…!?」 「ぐおっ!!」 直後シグマ達に矢継ぎ早に攻撃を仕掛けるサボテニクス。 当然彼は蜃気楼で自分の現在の位置を異なる位置に映し出しており、シグマ達は自分達から離れた位置にいるように見える彼から 殴られたり、トゲで刺されたり、プロレス技を掛けられたりしていった。 「どこだ、どこにいやがる!?」 「狼狽えるな、音や熱反応など視覚以外にも相手の位置を補足する手段などいくらでもあるであろう!?」 慌てふためくコケコッカーにシグマが言う。 「し、しかしシグマ様、これでは考える余裕など…ごふっ!!」 殴り飛ばされるパンデモニウム。 それだけサボテニクスの攻撃は情け容赦ないのだ。 その様子をフィリアはほくそ笑んで見ていた。 「只のデッドコピーと思うなよ~、こやつ等には貴様等の情報と各エリアでの貴様等との戦いのデータを収めたファイルバグを与えておるのだからのう… しかもデッドコピー故に余計な慢心の無い純粋な戦闘マシーンと化しておるのじゃ、ヒーヒヒヒ!!!」 「デザートカーニバル…」 「ブベベベベベベベベベベベベベ!!!!!!!!!!」 とうとうカマキールが力尽き、アイテムを落として消滅した。 「カマキール…!」 「野郎!!」 パンデモニウムとコケコッカーが怒りと狼狽の間で揺れる一方シグマは感覚を研ぎ澄ませΣブレードを構える。 そしてサボテクニスは方向転換し始めた時だった。 シグマが真上に跳び上がった直後その姿を焼失させた。 「目標視認不能…目標視認不能…」 シグマに迫っていたサボテニクスに一瞬隙が生じる。その刹那… 「ファントムディバイド!!!!」 「ギギギギギギギ…ギゴォォォォォ!!!!!!!」 上空からΣブレードを構えたシグマが現れサボテニクスの頭上にΣブレードを振り下ろした。 結果、サボテニクスは蜃気楼を解除し真っ二つになった姿を元いた位置に現しアイテムを落として消滅した。   「畜生、あと何度こんな思いをしなきゃならねーんだ!!」 「もう嫌だ…もう嫌だよ仲間を失うのは…」 カマキールの死を嘆くコケコッカーとパンデモニウム。 これに対してシグマは諭す。 「容易ならざる道だと分かっておるだろう!奴の死を無駄にせぬ為にもこのアイテムを回収し、前進するのだ! (カマキールめ、死んでアイテムを落とす事でワシの役に立ってくれたな…)」 …飽くまで本心を隠しながら。 そして3人になったシグマ一行はアイテムを回収し、下へと進み始める。 無法の層に配置されたエビルスレイヤーのデッドコピーはサボテクニスだけではなかった。 もう1人のデッドコピーが別の標的へと迫っていた。 道路の上ではトルクが車やライドチェイサーに乗った暴走族風のエースソルジャーや 凶暴そうなデザインのローダー系メカニロイド達を相手に大立ち回りを演じていた。 「オラオラオラオラオラァーッ!!!バイクで俺と勝負なんて100万年早ぇ―んだよぉーっ!!!!!」 「ギャアアアアアアアーーーーーッ!!!!!!」 ある者はエゴイスティックビーストに撥ねられまたある者はエゴイスティックビーストの武装で撃ち抜かれ またある者はトルクロッドの餌食になり最初は大勢いた敵は瞬く間にその数を減らしていく。 トルクがその場にいる敵を粗方一掃し終えた時だった。 強大極まりない反応が高速でこちらに向かってくるのを感じるがその反応の発生源からは感情は感じ取れない。 「メカニロイド…か?」 トルクがそう思案しているとそれはその正体を現した。 「敵確認…排除スル…」 正体はシーガルムのデッドコピーだった。 「シーガルムのデッドコピー…、成程ね、シグマの真似って訳か」 トルクもこの時点で全エビルスレイヤー、ジェイルキーパーの情報は入手しており シグマが過去の大戦で事件の終盤エックス達に各拠点を制圧したレプリロイドのデッドコピー達を差し向けていた事も知っていた。 「排除…排除…排除…」 そんな彼目がけてシーガルムは高速で肉薄する。 「おおおおおらああああああああ!!!!!!!!!」 これにトルクは果敢に応戦する。 両者とも高速で飛行しつつ各々の得物を激しくぶつかり合わせる。 トルクロッドと曲刀の激しい応酬が何合も何合も続いた時だった。 「アブソリュートゲット…」 シーガルムがトルクのアイテムを強奪した。 「そういやお前は盗みが得意、とあったなぁ…だけどよぉ、盗みはお前の専売特許じゃねーんだぜ。 こちとら外にいた時からずっと盗みも働いてきたんだ…よ!!」 そう言いつつトルクもシーガルムの所有するアイテムを強奪する。 その後暫くは得物の鍔迫り合いの他アイテムの奪い合いも繰り広げられた。 そんなある時… 「こりゃいいや…!」 トルクがシーガルムから奪ったのはサブウェポン「スライムミサイル」と同じ役割のバグ「スライムバグ」だった。 これを確認したトルクは即座にスライムバグを使用しシーガルムの動きを封じる。 「ステータス以上『バインド』発生…行動不能…」 「止めだ、フォールドライブ!!」 トルクはエゴイスティックビーストにエネルギーを纏わせて急降下し、シーガルムに体当たりを喰らわせる。 「行動…不能…行動…フ…ノ…ウ…ガガガガガガガガガ…」 直撃を喰らったシーガルムは爆発四散し、路上にアイテムを撒き散らす。 「中々いい運動になったぜ!」 その頃リディプスはカジノに入っていた。 入店と同時に身なりはいいが人相の悪いエースソルジャーが彼の前に現れた。 「お客さぁん、当店に入店されたってこたぁ金ではなくて命を懸ける覚悟はあるんでしょうねぇ!?」 下卑た笑みを浮かべリディプスに迫るエースソルジャー。 「ふぅ…」 一度の嘆息の後、リディプスは口を開く。 「この階層の雰囲気はこの姿では気が乗らないが…」 言いかけるリディプスの体が突如発光した。 「何!?」 店内のエースソルジャー全員が目を剝く中リディプスはスパイダーへとその姿を変じていた。 スパイダーは続けて言う。 「この姿だとノリノリだぜぇーっ!!」 「あ…うあ…」 その瞬間、スパイダーを出迎えたエースソルジャーは顔面をスパイダーの放ったカードが貫通し、絶命してアイテムを落として消滅した。 「こ、この野郎!!!!」 その場にいたエースソルジャー達はスパイダーに麻雀の牌やサイコロの形状をした弾丸を放ってきた。 スパイダーはそれらをカウンターカードで迎え撃ち、結果スパイダーの放ったカードは敵の弾丸を破壊してそのまま敵に到達しその場の全員を死に至らしめた。 「命を懸ける覚悟だ?何を今さら。惚れた女の為には当然の事さ」 ルミネはある建物の周囲に飛び交う蝶や蛍のような巨大バグを全て撃ち落とした後、その建物に入っていった。 「どうもこの層の雰囲気は性に合いませんね、早々に切り上げなければ…」 そう呟いた時だった。 「あらぁ~ん、可愛いコねぇ~~~~♡」 「もしかして私達と同じタイプじゃないのかしら~ん♡」 ルミネの前に現れたのは屈強な体格で顔には青髭を生やしながら化粧が濃く女性レプリロイドのようなアーマーを身に纏い動きもクネクネしているエースソルジャー達であった。 そう、ここはオカマバーだったのだ。 ルミネは今まで感じた事の無い嫌悪感を覚えた。 「痴れ者が…滅びなさい!!!!!!!!!サンダーダンサー!!!!!!!!!!」 「イヤァァァ~~~~~~~~ン!!!!!!!!!!!!!」 ルミネは即座にこの場の全員にサンダーダンサーを喰らわせて全滅させた。 「汚らわしい…こんな階層すぐにお暇しましょう…」 吐き捨てるように言いつつオカマバーを後にするルミネ。 同じ頃、ヤクザの事務所と思しき場所にて… 地響きがした直後突如壁が壊されて破片や設備が散乱し中にいたエースソルジャーも何人か転倒した。 「何じゃあ、カチコミかぁ!!」 「どこの組のもんじゃい!!!!?」 大喝するヤクザ風のエースソルジャー達。 「俺はどこにも属さねぇ…ま、シグマとかと組む事はあるけどな」 下手人の正体はライドアーマー「コング」に搭乗したVAVA-VIであった。 すると部屋の奥にいた組長格のエースソルジャーが口を開く。 「最後に送り込まれた罪人レプリロイドの1人VAVA…ついにここまで来おったか… ワレの武勇は聞いちょるがのぉ、事務所荒らした落とし前は付けて貰うぞコラァ!! 野郎共、やっちまえ!!!!」 「「「「「押忍!!!!!」」」」」 組長の号令と共に銃器やビームソードで襲い掛かるエースソルジャー達だったが、やはり今のVAVA-VIの敵では無い。 エースソルジャーの攻撃はライドアーマーの強固な装甲どころか操縦席にいるVAVA-VI本人にも通じず VAVA-VIは部屋の物やエースソルジャーを投げ飛ばし、踏み潰し、悠然と組長に迫ってくる。 その進撃の勢いは激しくVAVA-VIは従来持ち合わせている凶暴性を如何なく発揮し 当初は威勢の良かったエースソルジャー達は撃破される度に戦意を喪失していった。 VAVA-VIが組長の元へ到達する頃には組長のすぐ近くにいた若頭のエースソルジャーは怖気づいて尻餅をついたほどである。 「ヒッ…く、来るな、来るなぁーっ!!」 情けない声を張り上げる組長を他所にVAVA-VIは告げる。 「何だ何だ任侠気取ってる割には親分のピンチだって時に誰も助けようとしねーのか? 極道が聞いて呆れるぜ!まぁそうだよなぁ…」 言いながらVAVA-VIは組長に向かってライドアーマーの腕を伸ばし…彼の頭を鷲掴みにして宙づりにした。 それを得意気に現在生き残っているエースソルジャーに見せびらかすように振り回しながらVAVA-VIは続ける。 「テメー等が本物の漢だったらよぉ、ここの存在は感知出来なかったんだからなぁ!!」 「お、お助け…」 組長の命乞いを無視してVAVA-VIはライドアーマーの握る力を徐々に強めていき…遂には頭を握りつぶした。 「逃げろぉ~!!」「ヒィィ~!!!!」 組長の死に対して仇を討とうとする者は誰一人おらず、エースソルジャー全員が尻尾撒いて逃げようとするが… 「賢明な判断だ、と言いたい所だが…お前らのシケた姿は1秒でも早く視界から消してぇ。 テメー等も全員死ねぇーっ!!!!」 「ギャーッ!!!!!!!!」 VAVA-VIは瞬時に彼等を全滅させた。 「見かけだけの弱虫共がよ、俺の前に現れ次第片っ端から消してやるぜ!!」 一方トルクは… 「いい運動した後は…コレだよな」 目に止まったソープランドに向かった。 彼は性欲もそれなりにあったのであった… 出迎えたのは忌み子の病棟のノーマルソルジャーとは対照的にグラマラスなボディを持つ女性型のエースソルジャー達だった。 「あーらいらっしゃい、貴方のその汚れた心と体、私達が洗い流してア・ゲ・ル♡」 そう言いつつエースソルジャー達は強アルカリ性の泡を飛ばしてきた。 「サービス悪い店だなぁ、責任とって貰うぜぇ!!」 「キャアアーッ!!!!」 エースソルジャーの攻撃を防いだトルクは彼女達を嬲り者にしていく。 「お客さん何ウチのコ達を傷物に…はぶら!!!」 「今お楽しみ中なんだ、男は引っ込んでろ!!!!!」 奥から現れた店員を務める屈強なエースソルジャーをトルクは1撃で撲殺する。 「あースッキリしたぜ、次行くぞ!!」 性欲を発散させアイテムを回収し終えたトルクは下へと突き進む。 一方でルミネはこの階層のかなり奥深くまで進んでいた。 これまでのフロアにあった店やその中にいた敵はいずれもルミネの気に障る雰囲気で彼は心底うんざりしていた… 今回ルミネが入ったのは巨大なダンスホールだった。 天井にはミラーボールが吊るされ中からはダンスミュージックやラップが喧しく鳴り響き 中には柄の悪いダンサー風、ラッパー風のエースソルジャー達が踊っている。 彼等がルミネの姿を確認すると… 「皆踊れぇーっ!!!!」 奥にいたエースソルジャーの号令と共にこの場の全員が踊るような動きでルミネに押し寄せる。 「YO!YO!YO!」「チェケラッチョ!!チェケラッチョ!!」「Say Hoo!! Say Hoo!!」「プッチハンザ!!プッチハンザ!!」 「…最早何も言う事はありません…全員、消えてください」 呆れ返ったルミネは彼等を瞬殺する。 奥にいたエースソルジャー達が円盤投げの要領でレコードを投げつけてきたがルミネはそれら全てを容易く受け止め同じように投げ返す。 その結果彼等全員の首が胴から離れた。 ルミネがフロアの敵を全滅させた時だった。 部屋の照明が消灯し、ドラムロールが鳴り響き、スポットライトが床を彷徨う。 この時ルミネはエビルスレイヤーよりも遥かに強大なエネルギー反応を感じ取った。 ルミネが身構える中シンバルの音と同時にスポットライトがステージ上に留まる。 スポットライトはディメンションズマスターの一角、ビビッドを照らしていた。 ビビッドはわざとらしく口を開く。 「やあ、直接会うのは初めてだね。助けに来たよ。 ここは『無法の層』最深部、つまりこの層を統括するディメンションズマスターがいるって事だよ」 ルミネは返す。 「茶番はそれまでにしましょう、私はファイルバグで全て見ているんですよ。 まぁその前から薄々感づいてはいましたがね」 「なぁーんだ、やっぱり知ってたの。なら話は早いや。気付いていたっていうのは嘘つきの勘って奴? ほら、キミもヤコブの時に嘘ついてたみたいだしさ」 嘲るように言うビビッドに対しルミネは冷静な態度を崩さず言う。 「…ともあれ貴方達は我々を目覚めさせるという役目を終えました。後は消えるだけですよ」 「データにある通りだねぇ、キミ達の自信過剰っぷりは。 『新世代レプリロイド』という名前の割には遅れてるよ、キミ達。 博士は言ってたよ、『エックスとゼロ、そしてアクセルと正面から事を構えるのは時代遅れ』だって。 それとさ、キミ達はいつも『自分は選ばれた存在だー』とか言ってるけど じゃあキミ達を選んだお馬鹿さんは誰かな? オシッコかな?? ウンチかな???」 ビビッドは邪悪な笑みを浮かべおどけた身振り手振りと共に尋ねる。 ルミネは怒りと呆れの入り混じった口調で返す。 「下賤者め、その口を今すぐ塞いであげましょう!」 「ミュージックスタート!!」 ビビッドの声に伴いホールにダンスミュージックがなり始める。 「死のダンスパーティーの始まり始まり~!エアダンシング!!」 ビビッドは驚異的な瞬発力で一瞬でルミネとの距離を詰めると音楽のリズムに合わせながらルミネに四方八方から蹴撃を浴びせ続ける。 その威力は見た目からは想像できない程重く、またビビッドは無制限にエアダッシュ、空中ジャンプが可能の為機動力と攻撃範囲は大幅に跳ね上がっているのだ。 そんなビビッドに対しルミネは防戦一方になり距離を取ろうにもすぐに詰められてしまう。 「何という脚力…!」 ルミネが思わず呟く。 するとビビッドは口調に怒気を交えて言う。 「そうさ、ボクは元々足の速さには自信があったけど、それを更に更に上乗せしたのさ! 逃げる為ではなく攻める為に!! 逃げ回っていた弱い自分と決別する為に!!!!」 ビビッドの脳裏に蘇るは彼の苦い過去。 ハンターが数々の大戦で弱体化し、ハンターだけでは治安の維持が困難になっていた時代に彼は起動した。 彼の故郷は当時のハンターの手が届かないスラム街だった。 当然の如く治安は悪くイレギュラーの巣食う魔の巣窟と化しており、弱者は只々虐げられ、殺されるのみであった。 しかしビビッドはそこでの生活に満足していた。 逃げ足が速く腕っ節もそれなりに自信があった為何不自由ない生活を享受出来たのだ。 その街では生きる為に悪事を行う事がまかり通っており、ビビッドもそれに従った。 喧嘩、女遊び、ギャンブル、盗みなどが横行するこの街の雰囲気がビビッドは大好きだった。 一方で弱き者はそうした面を忌み嫌い一日でも早い平和の到来を待望していた。 その願いが通じたのか、大戦の終結後、その街は政府、ハンターの目に止まった。 そこを取り仕切る当時のビビッドより遥かに強かったイレギュラーもアクセルに秒殺された。 弱者達は歓喜したが反面ビビッドはそうはいかなかった。 悪事の取り締まりが厳しくなったが為にビビッドは故郷の街を追われるように逃げ出した。 その後の普通の街でのビビッドの生活は上手くいく訳が無かった。 表社会では無名だった為身分を何とかして誤魔化すも彼は常識では「悪事」とされる事を無意識にやってしまう為すぐに終われる身になってしまう。 個人の常識と世間一般の常識は必ずしもイコールではない。 そのズレが大きい事を非常識という。ビビッドは正にそれだった。 自分では当たり前だと思っていた様々な行動が「悪」と見なされあちこちで監視され容易に特定される… 世間では普通の環境はビビッドにはディストピアに見えてしまうのだ。 仕事を探そうにも彼の経歴を知る者は採用するはずがなく採用されたとしても素行の悪さ故すぐに解雇される。 彼の悪い噂はネットを通じて拡散していきいよいよ彼は仕事どころか表を歩く事さえ困難になっていった。 洗浄やメンテも受けられずエネルギーの補給もままならず髪や顔は汚れアーマーも錆びだらけになり 自慢の足の速さも失われていった。 遂には物乞いに身を落としたが道行く人々はそれに応じない。 それどころかそんなビビッドを笑い者にしてネットに晒す始末である。 ある日の事… ビビッドの心情を表すかのように豪雨が彼の身を容赦なく打ち付ける。 「何が平和だよ…!弱っちい奴等はこぞって平和を望んでいたけど、それがそんなにいいのかよ…!! 当たり前に生きていく事が出来ないならば平和になんてならなきゃ良かったんだ…!!!」 平和の到来を嘆くビビッド。 その時だった。 「『こっちに来い』?『ここで待つ』?『お前の居場所はここだ』?何だろう、いよいよお迎えが来たのかな?」 ビビッドはバグズディメンションからバグが放ったシグナルをキャッチしたのだ。 「いいや、あの世なんかじゃない…これは特定の座標を指し示している! 何だろう、でも行こう…!このままじゃ座して死を待つだけだ!!」 最早失うものは何もなくなったビビッドは片足を引きずりながらその座標へ進む。 そして遂にバグズディメンションに辿り着いた。 「ハハ、何か頭の中で声がすると思ったらこんな場所があったなんて…」 そこには大勢のレプリロイドが来ており自身と同じ境遇のレプリロイドも大勢いた。 ビビッドも含めたそうしたレプリロイド達はここ「無法の層」に配属され8つのエリアのシステムの管理の他 戦闘訓練や講習、自信のバグとの同化やその検査に携わる事となった。 ビビッドは彼等の中で頭角を現しやがては無法の層に建造された暗黒街の帝王として君臨するに至ったのだ。 そして現在。 「キミには分からないだろう?底辺の苦しみが!!それが今はどうだ、バグの力でキミ達新世代レプリロイドとも渡り合えるようになったのさ!!」 言い放つビビッドにルミネは声を絞り出す。 「底辺は底辺らしく這いつくばっていなさい…と言いたいところですが貴方の性能は本物ですね。 では私も本気で行きますよ」 そしてルミネは第2形態へと変身したがそれでも尚ビビッドからは強大極まりないエネルギーを感じる。 「OKOK、それじゃ仕切り直し行っくよー!!!」 ルミネ目がけてエアダッシュで迫るビビッドだったが飛行速度の増したルミネは今度は瞬時に距離を取る。 そのままレーザーの乱れ撃ちを繰り出すルミネだったが… 「甘いね!」 ビビッドは手元に銃を出現させそのことごとくを相殺する。 「ボク達ディメンションズマスターはね、バグズディメンションに入ってからS級ハンター3人に因んだ武装を授かっているんだ。 ボクが授かったこのビビッドバレットはアクセルに由来しているんだよ」 「で、他の2人はバスターにセイバー、と。バグでの背伸びに加えて猿真似ですか…」 呆れた様子で言うルミネにビビッドは反論する。 「人の姿と能力をコピーするキミ達が言う資格は無いね!」 そして上空で音楽のリズムに合わせ激しい光弾の撃ち合いが演じられる。 その様子は傍から見れば美しい光景に思えるだろうが本人達にとっては熾烈な命のやり取りである。 ビビッドの攻撃は瞬時にルミネのバリアを破壊しそのまま本体にダメージを与えていくが ルミネもリズムを掴み少しずつ反撃する。 しかし自らの被弾率とダメージが相手を上回ると判断したルミネは遂に最終奥義を繰り出す。 「パラダイスロスト!!!!!!!」 ホールは暗黒に包まれた。 そしてルミネはビビッドの周囲にて出現と消滅の繰り返しを始めるが… 「そこだね!」「うっ!」 ビビッドは神掛かった反射神経でビビッドバレットの代わりに出現させていたバズーカ砲「ブリリアントバズーカ」で迎撃する。 その威力はビビッドバレットの比ではなくルミネは出現の都度これを喰らい続ける。 ボディの損傷はその度に目に見えて蓄積されていく。 そして今回ルミネが出現したと同時にビビッドがバズーカを放った時だった。 ルミネは着弾する寸前に姿を消しビビッドの至近距離に現れる。 「もう許しません、止めです…」 ルミネは即死攻撃をビビッドに喰らわせようとするが… 「その言葉返すよ!喰らえーっ!!」 ビビッドは距離を取ると同時に自身の身体より大きなレーザー砲「エクセレントキャノン」を出現させそこから放たれる極太レーザーをルミネに喰らわせる。 「う、うあああああ!!!!!!!!!!!」 かつてない威力の攻撃で変身が解け、地面に倒れ伏すルミネ。 ここまではヤコブと同じである。 「キャーハッハッハ!!!!新世代レプリロイド様ともあろうお方が無様無様!!! どーれ、お高く止まっていたキミにかつてボクが味わった屈辱を分けてあげるよ!! どうかな、見下していたボクに踏みにじられる気分は!ねえ!?ねえ!!?ねえ!!!?」 嘲笑を響かせながらルミネを踏んづけるビビッド。 その時だった。 突如ルミネから真っ黒な触手が伸びビビッドに侵入した。 「あああああああああ!!!!!!!!!!!!」 全身を襲うかつてない苦痛に絶叫し、悶絶するビビッド。 ここまでもヤコブの時と同じ流れである。しかしそこからは違っていた。 ルミネは起き上がり、今度は逆にビビッドを足蹴にして言う。 「最期の最期で油断しましたね。新世代型レプリロイドとしての力を使わせて貰いました。 旧世代の、その中でも特に卑しき者よ、無様に死んでいきなさい…」 足の力を強めていくルミネに対しビビッドは負け惜しみを言い始める。 「ボ、ボクを倒したぐらいでいい気にならないでよね… まだまだ強敵は残っているよ… 残りのディメンションズマスターはアクセルより強いエックスとゼロに因んだ武装を持っているし、 博士はその2人よりもっと強くなった… 何より…ここバグズディメンションには…最悪の…悪魔が…」 言い終わる前にビビッドは事切れて今まで見た事もない量のアイテムを落として消滅した。 「所詮は敗者の戯言…私の前に立ち塞がるなら等しく死を与えるのみです…」 そう言って下へと進み「制裁の層」に突入するルミネ。 この時彼はまだ知らなかった。 彼の行く末にかつてない恐怖と絶望が待ち受けている事など… 「捕食の層」最深部にて… 「うめぇ!!うめぇ!!俺はずっとこいつを食える日を…待っていたんだよぉ~!!」 VAVA-VI達がファイルバグで見た映像よりも遥かに巨大化していたディバインバグが嬉々としてビビッドの残骸を頬張る。 その様子をフィリアは上記のモニター室で監視していた。 「ヒーヒヒヒ、ご苦労じゃったのう、ビビッド!! さ~てこの先何人がここまで辿り着く事が出来るかのう!?ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!!!」

第十六話「茨道」

ビビッドを撃破したルミネは1つ下の層「制裁の層」へと進みしばらくすると他の者達もそれに続く。 なお、「無法の層」ではどのルートを辿っても必ずビビッドの待ち受けるダンスホールに到達する為 ルミネ以外の者はもぬけの殻となったダンスホールを通過し、その後「無法の層」が攻略された事に気付かされる事になる… 「制裁の層」は警察署、役所、裁判所、政治家の事務所などといった建物が立ち並び 至る所に監視カメラや監視モニターが設置されているという、堅苦しく息の詰まりそうな雰囲気だった。 「…先程までの階層を思えばここなどまだマシですね」 ルミネが呟きながらどこから侵入するか思案いていると… 「目標確認!突撃ぃーっ!!!!」 ルミネの眼前に盾を構えた機動隊風のエースソルジャー達が大挙して現れ、その盾でルミネを押し潰そうと迫ってきた。 「…ウェーブウォール」 ルミネはウェーブウォールを放つ。 すると無数のクリスタルがことごとくエースソルジャー達を押し返し、そのまま押し潰していく。 「では、行きますか」 ルミネは彼等が落としたアイテムを回収すると、行き先を定めてそこへと進む。 同じ頃VAVA-VIは… 「上はガヤガヤ、ここはギスギスってか…ん、あれは…」 ふと上を見上げると、上空にはトンボのような巨大バグが巡回していた。 巨大バグはVAVA-VIを視認するや否や周辺にシグナルを発信し同種の巨大バグや 先述の機動隊風のエースソルジャー達を呼び寄せた。 そしてそのままVAVA-VIに押し寄せる巨大バグ達とエースソルジャー達。 「こりゃいいや、こっちから出向く手間が省けたぜ!!」 VAVA-VIは喜々としてライドアーマーを駆って彼等を一掃する。 一方リディプスは裁判所に入っていた。 彼を出迎えたのは法衣を纏った裁判官風のエースソルジャー達で判決を言い渡すときに使う小槌の代わりに巨大ハンマーを持っていた。 「判決…死刑!即執行する!」 リーダー格のエースソルジャーが言い放つと共にこの場のエースソルジャー達はハンマーを振りかぶってリディプスに襲い掛かる。 「笑止!処刑されるのは貴様等の方だ!!」 エースソルジャー達は呆気なくサーベルで細切れにされていく。 「違反だぁーっ!!」 「不正だぁーっ!!」 「不浄だぁーっ!!」 「無粋だぁーっ!!」 「犯罪だぁーっ!!」 口々にそう言いながら自身に迫り来るこの階層のエースソルジャー達にトルクは心底苛立っていた。 前の階層ではどちらかと言うと機嫌のよかった彼であるがこの階層では完全に機嫌を損ね殺気を露わにする。 「何なんだよ、こことその住人の雰囲気はよ…完全に俺の故郷そのものじゃねーか! 何だこれは!?俺に対する嫌がらせかぁ!?」 当然の如く彼の逆鱗に触れたエースソルジャー達は次々とトルクロッドやエゴイスティックビーストの餌食になっていった… そしてしばらく進むとトルクは運動場に辿り着いた。 すると首にホイッスルを下げた競技の審判風のエースソルジャーが現れた。 「貴様は存在そのものが反則だ!退場!!」 そう言って刃状の赤いカードをトルクに飛ばし始めるエースソルジャーだったが… 「………」 トルクはカードを弾き落としながら無言でエースソルジャーに近付いていく。 そして至近距離に到達した時見事なフォームでエースソルジャーを蹴飛ばした。 ボディを激しく損傷し壁に激突することで追加ダメージを受けたエースソルジャーは力尽きた。 「貴様の…その…強さも…反則…だ…」 そう言い残し事切れてアイテムを落として消滅するエースソルジャー。 「俺はもう昔の自分とは決別したんだよ!!テメー等じゃ俺は止められねー!! …あーそれにしてもムカつく所だここは、とっとと突破してやるぜ!」 苛立ちを露わにトルクは突き進んでいく。 シグマ、パンデモニウム、コケコッカーは警察署を呆気なく制圧し、下へと進むとその先には赤外線が十重二十重に張り巡らされた通路があった。 「赤外線トラップか、ワシもよく使ったものよ」 シグマは懐かし気に呟く。 「どうしますかい?こりゃどう足掻いても赤外線に触れてしまいますぜ?ここは強行突破と行きますか?」 コケコッカーが尋ねる。 「いや、折角だからこれを使った方がいいのでは…」 パンデモニウムはサーチバグの使用を提案する。 「ではパンデモニウムの案を採用しよう。無鉄砲に進んで死んでもつまらぬからな」 そして赤外線の当たる所にサーチバグを放つ3人。 すると壁からマシンガンが出たり、ブロックが落ちてきたリ、壁がせり出したりしてきた。 トラップは飽くまでバグに対して反応したので3人は無傷だった 「では進むぞ!!」 トラップの種類を把握した3人は通路を切り抜けた。 一方でVAVA-VIは探偵の事務所と銘打ってある部屋に入ったがそこは何もない広大な部屋だった。 …と同時に強大極まりないエネルギーを察知した。 「ん、もうボスのお出ましか?」 そう思案する彼の前に現れたのはチンパニオンのデッドコピーだった。 「侵入者…排除する…排除する…」 「何だシグマの真似かよ、確かこいつはブロッキー・チンパニオンだったな…」 抑揚のない声で言うチンパニオンを見てVAVA-VIは呟く。 「コールスプリング…」 早速チンパニオンはバネ付きのブロックを呼び出し、そのまま部屋中を跳ね回る。 ライドアーマーの機動力では対処が難しいと判断したVAVA-VIはライドアーマーから降り、空中で静止して攻撃のタイミングを計る。 そしていよいよチンパニオンがVAVA-VIに迫ってきた時… 「ヘキサインボリュート!!」 早過ぎず、遅すぎない絶妙なタイミングでヘキサインボリュートを展開するVAVA-VI。 VAVA-VIはファイルバグでチンパニオンが電撃に弱い事を把握していたのだった。 結果チンパニオンは手足が切り離されブロックと共に地面に落下する。 即座に手足を再結合し、体勢を立て直そうとするチンパニオンだったが… 「遅ぇよ!!」 VAVA-VIは既にライドアーマーに乗り込みチンパニオンを押し潰す。 チンパニオンはアイテムを落として消滅した。 同じ頃ルミネはモニタールームに侵入していた。 部屋は無駄に広い気がした、と感じたルミネは直後強大なエネルギーを察知する。 そして暫くすると彼の前にクマムッシュのデッドコピーが出現した。 「侵入者…排除…排除…」 「シェルター・クマムッシュのデッドコピー、ですね…有効なのは物理攻撃だったはず…」 やはりルミネもクマムッシュの弱点を把握していた。 「リーサルテリトリー…」 クマムッシュはいきなり持続的に全身から破壊光線を放つ技、リーサルテリトリーを発動した。 「キューブフォールズ…」 対してルミネはキューブフォールズで迎え撃つ。 ルミネがキューブを落とす場所は2ヶ所。 クマムッシュの真上とルミネの眼前である。 その結果ルミネの前に落とされたキューブは破壊光線を遮り、クマムッシュの頭上に落とされたキューブは 何発か当たるとクマムッシュのアーマーを剥した。 アーマーを失ったクマムッシュは自らの技でダメージを受け、アイテムを落として消滅した。 この階層のかなり深くまで進んでいたリディプス。 彼が次に入ったのは礼拝堂であった。 そこには神父風、シスター風のエースソルジャー達が待ち構えていた。 「神の名を騙る不届き物よ、悔い改めて」 そう言って神父風の方は全てのページが金属板で出来た聖書を手に、シスター風の方は先端が刃状になっている十字架の首飾りを振り回しながらリディプスに襲い掛かる。 「無礼者共め、神の御前だぞ!バイオレンスアサルト!!」 リディプスは彼等をバイオレンスアサルトで焼き払った。 すると部屋の照明が消え、パイプオルガンのような音が鳴り響き始める。 同時にエビルスレイヤーより格段に強大なエネルギーをリディプスは感じ取った。 その時、部屋の前方中央がスポットライトで照らされ、上からゴルゴダが十字架を示すように両腕を広げた体勢でゆっくりと降りてきた。 「ゴルゴダ、か…何故貴様がここにいるのかは聞かない。私は知っているのだからな、貴様がディメンションズマスターの1人である事を」 リディプスは冷静に言い放つ。 ゴルゴダは荒んだ口調で返す。 「なら話は早い…リディプス、俺は最後に送り込んだ連中の中で特に貴様をこの手で叩きのめしてやりたいと思っていたのだからな…!」 「何!?」 思わず問うリディプス。 これにゴルゴダは答える。 「権力を振りかざし、職権を乱用し、仲間に卑劣な裏切りを働いたクズめ… 俺もかつて貴様のような輩に騙され、裏切られ、己の全てを否定されたのだ…!」 ゴルゴダはかつてとある辺境の町に保安官レプリロイドとして赴任してきた。 その町は複数のレプリロイドギャングが日々縄張り争いを繰り広げ、治安もビビッドの故郷と同じくらい悪かった。 当時正義感が強く血の気の多かったゴルゴダはギャング達の非道さに対する怒りの余り彼等を見つけるや否や 激しい暴行を加えて叩きのめしてきた。 それだけでなく死んだギャングレプリロイドの頭部を晒し首にしたり 相手が最も嫌がる事を率先してやったり無理矢理仲間同士殺し合わせたりと ギャングに対する暴虐さには枚挙にいとまが無かった… その有様は守るべき弱者達にも恐れられ彼は町の人々からは拒絶され、感謝される事など無かった。 「助けて貰ってその態度は何だ!!」「ヒィ~ッ!!!」 ある日ゴルゴダが自分が助けたがその時分に拒絶反応を示した一般人に声を荒げた時の事だった。 「やめろ、そうやって力任せ、感情任せに動いてばかりでは何も解決しないぞ」 ゴルゴダの同僚のレプリロイドが彼をたしなめる。そして… 「どうもうちの同僚が失礼しました。お気をつけてお帰りください」 彼はその一般人に深々と頭を下げた。 一般人がそそくさと去った後ゴルゴダは彼に詫びを入れる。 「俺が悪かった…」 そしてそのレプリロイドは返す。 「まぁそこまで気に病む必要はないさ。お前も正義の為に行動したんだろうし 俺だってここのギャング共には腹を立てているんだからな。 どうしても耐えられなくなったら俺達を頼ってくれ」 この町のギャング達は残忍さもさることながら狡猾でもあり中々尻尾を掴ませてはくれない。 ゴルゴダ達が取り押さえる事が出来るのはいつも使い捨ての下っ端ばかりで根本的な解決には至らないのだ。 その為ここでは日々理不尽な事が起こり、弱者をギャング達から守れなかったりゴルゴダの仲間の保安官 が ギャングに殺される事もしばしばあった。 しかしそれでもゴルゴダは先述のように自分を支えてくれる仲間達がいたからこそ絶望せずにいれた。 苦楽を共にした仲間達と精一杯出来る事をやってきた。 …そう彼は信じていた。 やがて捜査が進んできたある日、町のギャングと政府の役人が裏で繋がっていると思しき情報を入手したゴルゴダ達は その情報を元に決定的証拠を掴むべくギャングのアジトに潜入する。 これが上手くいけば政府の腐敗を白日の下に晒しギャング達も一気に勢力を縮小する事になるだろう。 そして実際にアジトではギャングのリーダーと(飽くまで赤の他人ではあるが)ヴェルトにそっくりな中年男性がコンタクトを取っているのを目にした。 「追い詰めたぞ!!!」 ギャング達の前に躍り出るゴルゴダだったが… 「バーカ、追い詰められたのはお前の方だ」 嘲るように言い放つギャング。 「何!?」 ゴルゴダが言った直後… 「こういう事さ♪」 「ぐああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」 何とゴルゴダの周囲にいた彼の同僚のレプリロイド達が一斉にビームガンで彼を撃ち抜き、 結果彼は倒れ伏す。 「お、お前等…何故…?」 息も絶え絶えに問うゴルゴダ。 「ワシが説明してやろう、これは最初から全てお前を嵌める為の罠だったのだよ!」 政府の役人が真相を明かす。 この当時、数々の大戦が終結した後、乱世では見逃され勝ちな犯罪が次々と明るみに出てきていた。 ビビッドの故郷も含む比較的都市近郊の地域では最早犯罪者は大きな顔が出来なくなっていったのだ。 しかしそれでも法の網を潜り抜け、上手く隠れる者も存在していた。 ゴルゴダの赴任先の町のギャング達である。 彼等が上手く隠れる事が出来た理由は主に3つ。 1つは町の位置が都市から大分離れた辺鄙な所にあり人の目に付きにくかったこと。 もう1つはギャングと政府の役人にコネがあった事。 最後は彼等はヴェルトやフィリアのように大規模な運動は行わず世間の目に触れなかった事である。 町の保安官達とギャング達は裏で繋がっておりそれを知って異を唱えた保安官は 任務にかこつけてギャングに殺させられていた。 そしてゴルゴダは町に赴任してからあまりに目立ちすぎてギャング達も大っぴらに活動しにくくなった為 口裏を合わせて消す事になった…という事である。 「いや~お前の所為で商売上がったりだったが、それもこれまでだ… 死ぬ前に何か言い残す事はあるか?」 役人はニヤニヤと笑みを浮かべながらゴルゴダに尋ねる。 「お前等…信じて…いたのに…仲間だと…思っていたのに…!」 声を振り絞って言うゴルゴダ。 これに対し保安官達は嘲りながら言う。 「バーカ、お前みたいなおっかない奴仲間だと思った事なんて一度もねーよ!」 「それにお前を消したら大金が貰える事になってるからな、速攻で乗ったぜ!」 「町の人達もお前が消えて安心だとさ、ギャハハハハ!!!!!!」 ゴルゴダは愕然とすると同時に今まで感じた中で最大の怒りが湧いてきた。 「(こんな…こんな奴が権力を握り…無辜の者を食い物にしてのうのうと生きているとは…! 金で釣られる奴も釣られる奴だ…金などよりもっと大切なものがあるというのが分からんのか!? 俺は1人でも多く弱き者を守る為に戦ってきたのに、こんなのはないだろう!! 俺がやってきた事は…全て無駄だったのか!?いや、無駄なのはこいつらの存在そのものだ!!!) オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!」 刹那、ゴルゴダは重傷を負っていたにも関わらず立ち上がり、まず周囲にいた保安官達を皆殺しにした。 「何!?」 目を剥く役人とギャング達。 彼等が状況を理解し切る前にゴルゴダは次にギャング達を殲滅する。 最後に残されるは役人1人。 リアリティを持たせる為に自らこの場に出向いた事、自分を守ってくれるはずのレプリロイドがこの場に大勢いて安心し切った事、 ゴルゴダの気性の激しさを見誤った事が完全に仇になった。 「ワ、ワシを誰だと思っておる!?ワシに何かあったらハハ、ハンター共が黙っておらんぞ!!」 「………」 言葉に詰まりながら必死に喚き散らす役人にゴルゴダは無言で近づいていく。 「そ、そうか、金か?かか、金ならいくらでも払おう!!だだだ、だから…」 「金で済む問題か!?」 あろう事か金で解決を試みようとした役人の言葉をゴルゴダが遮る。 そしてゴルゴダは続けて言う。 「貴様の私利私欲の為に食い物にされてきた弱き者達に対して 詫びの一つも言えないのか!!?」 「たた、助けて…い、い、命ばかりは…」 話が聞こえていないのか役人は謝罪どころか命乞いをしてきた。 さらに恐怖の余り大小便まで漏らす有り様である。 ゴルゴダは最早失望すら感じなかった。 「謝罪の言葉ではなく糞を出すか…つくづく救えない奴め、貴様には金も権力も過ぎたものだったようだな! もういい、死ね…!!」 そう言ってゴルゴダは役人の頭を鷲掴みにし、そのまま握り潰してしまった。 当然、即死である。 「(やってしまったな…後戻りは出来まい…これから俺はハンターか、ギャングの残党に殺されるだろう… 仲間だと思っていた奴等は仲間じゃなかった…守るべき弱き者達も俺を拒む… 周りにいるのは敵ばかりだ…自分の正義に従った結果がこれか… 何故俺はこんな目に遭い腐った輩に金や権力が集まるのだ!? 憎い…分不相応な金と権力を持っている奴等が憎い… 金に容易に靡く卑劣な奴等が憎い… 何も知ろうとせず平和を享受する奴等が憎い… この世の全てが憎い…!)」 一人残され思案するゴルゴダだったがその時… 「『気持ちは分かる、悪いのは世の中だ』?『ならばここに来るがいい』?『力が欲しいならくれてやろう』? 何だ、頭の中で声が聞こえる…誰だ?俺を…呼んでいるのか!?」 後ろ向きな考えを持った時点でゴルゴダはフィリアがバグズディメンションから飛ばしたシグナルをキャッチできるようになった。 そしてゴルゴダはシグナルの発生源に向かう事を決意する。 「もう俺に…行く当てなどない…失うものは、何もない!ならば…!」 ゴルゴダはこの町では容易に手に入るボロ布で全身を覆って素性を隠しシグナルの示す場所へと向かう。 何故か正体はバレなかった。 やがてゴルゴダはバグズディメンションを発見し、その詳細を知る。 本来は出会うはずの無い、また別の形で出会っていれば敵対していたであろうフィリア達との邂逅である。 「俺は遂に人を得た…」 そこにはゴルゴダと似たような境遇のレプリロイドも大勢いた。 その中でゴルゴダは頭角を現し彼等をまとめるようになる。 後に制裁の層の兵士となる彼等と後に無法の層の兵士となるレプリロイド達は何かと反目し合い、 折り合いが悪かった為ビビッドとゴルゴダはそれぞれの層に配下を引き連れて住み分けをするようになった。 そして制裁の層の中で自分達を厳格に律しつつ各エリアの様々なシステムに携わるようになり現在に至る。 「俺は誓った…『外の世界』に等しく混乱をもたらし金や権力が意味を成さぬものにする事を…! 俺を嵌めた奴等や貴様のような卑劣なクズ共を殲滅する事を…!」 ゴルゴダは言い放つ。 「………」 暫しの沈黙の後、リディプスはそんな彼を一笑に付す。 「貴様の言っている事は矛盾だらけで見当違いも甚だしい。 まず貴様が従っているフィリアは正しく欲望の権化だ。 そして私は金や権力で世を握ろうとしたわけではない、純粋な力だ。 金や権力、そしてハンター共への潜入などその足掛かりに過ぎない。 それに、だ…貴様等も我々やエビルスレイヤー共に嘘をついてきたであろう?」 ゴルゴダは反論する。 「博士が表社会で金と権力を欲しいままにしていたのは飽くまで昔の話だ。 今の博士は俺と目的を同じくする偉大なる同志… 貴様がしでかした罪の前では金や権力が目的か手段かは関係なかろう。 エビルスレイヤー以下の連中は博士が博士の計画の為に生み出した道具に過ぎず 罪人である貴様等は何をされても仕方が無いだろう…」 「フィリア如きの愚物の手先に身をやつす貴様こそ罪人だ。来い、この手で断罪してくれよう!」 両者の言葉は平行線を辿り続け、ついには互いに戦闘体勢に入った。 まず最初に仕掛けたのはゴルゴダである。 「スパイキーエクスキュージョン…」 ゴルゴダはトゲの生えたリング弾を放つ。 リディプスはそれを両の腕に手にしたサーベルで弾き返し続けるが、 その矢継ぎ早の攻撃の勢いに徐々に押されていき、とうとうて打ち損じてしまう。 そして数発のリング弾がリディプスの周囲を囲った瞬間リング弾は収束し、 リディプスを締め付けていく。 「ぐあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」 締め付けのパワーと棘による二重のダメージに苦しむリディプスだったが激痛に耐えつつ強引にもがく事で リング弾をぶち破り戒めから解放される。 この手の技から逃れる為の常套手段である。 しかしこの時既にゴルゴダはリディプスとの距離を詰めており、次の瞬間指にエネルギーを込めた状態で十字を切る動作をする。 「クロスエングレイヴ…」 リディプスは咄嗟にサーベルでこれを防ぐがゴルゴダの指から掛かる力が存外強く、徐々に押されていく。 膠着状態が暫し続いた後ゴルゴダは空いた手で同じ技を繰り出そうとしてきたのでリディプスはこれをバックステップで回避。 それからサーベルと指の鍔迫り合いが何合も演じられたがリディプスが不意打ちにバイオレンスアサルトを放つもゴルゴダの勢いは止まらず 足払いを仕掛けようにも相手の足腰は強健で微動だにしなかった。 次第に劣勢になっていったリディプスはとうとうサーベルを押し返され全身の至る所に十字傷が刻まれる。 「細切れにしてやろうかと思ったのだが、この程度の傷の深さとはな…」 苛立ち気に呟くゴルゴダ。 「くっ…!これならどうかな?」 次にリディプスはスパイダーへと変身し、トリックスターを発動。 その状態で移動しながらカードを飛ばし始める。 ゴルゴダは五感を研ぎ澄ませ、自身のバグを使ってスパイダーの感情を読み取りながら腕をバスターに変形させ、 そこから液体を散布した。 液体はスパイダーに掛かったがダメージも状態異常も何も無かった。 「何だ、何ともないぜ?」 スパイダーがそう言うとゴルゴダはバスターからショットを放ち始めトリックスター発動中であるはずのスパイダーにダメージを与え始めた。 「な、馬鹿な!!」 「俺の『ホーリーリキッド』はあらゆる防御手段を無効化できるのだ」 驚愕するスパイダーにゴルゴダは言い放つ。 「だったらこれでも食らいやがれ、フォーチュンカード…ロイヤルストレートフラッシュ!!!」 「甘い!!」 ゴルゴダはバスターにエネルギーをチャージさせてスパイダーの大技にチャージショットで対抗する。 この「ゴルゴダバスター」は伝説の英雄、ロックマンエックスの能力をベースにゴルゴダに与えられた装備である。 当然チャージショットも備わっており、目も眩むばかりの巨大な光弾がカードを飲み込んだばかりかそのままスパイダーも飲み込まんと迫り来る。 「…!やべぇ!」 辛うじて直撃は免れたスパイダーだったが、そのあまりの威力故に右半身が消失してしまっていた。 「ハァッ…!ハァッ…!なら…これしか…ねーな…!」 スパイダー、もといリディプスは元の姿に戻ると次にゴッドリディプスへと変身する。 「ほう…」 これに対しゴルゴダは平静を装ったままだった。 「コードブレイカー!!!」 そんな彼をゴッドリディプスはその豪腕で吹っ飛ばそうとするが… 「ぬん!!」 ゴルゴダはそれを容易く受け止めると次の瞬間ゴッドリディプスに背負い投げを決める。 「今の俺はバグで貴様等の水準まで登り詰めたのだ、故に貴様には絶対的強者、神を騙る資格など無い!」 「ほざけ、デウス・エクス・マキーナ!!!」 ゴッドリディプスは体勢を立て直し、隕石を降らせ始める。 「…サーティーンストック…」 ゴルゴダは最小限の動きで隕石を躱しながらエネルギーをチャージし始め、エネルギーが溜まり切るとチャージショットの連発を繰り出す。 その弾数は13発。 それらは隕石を砕きゴッドリディプスにもダメージを与えていく。 「言うだけあってやりおるな…だが私は退く訳にはいかんのだ、我が目的の為に!!」 ゴッドリディプスのこの言葉を聞いたゴルゴダは問う。 「それは、マリノという女の事か…?」 「…如何にも」 図星だった為に一瞬返答が遅れたもののゴッドリディプスは肯定する。 「8つのエリア攻略中の貴様を見ている時から薄々感付いてはいたが、 先程貴様の感情を読み取る時に確かにその想いを感じ取る事が出来た… …不可解な男だな貴様は… 貴様はかつて奴を騙し、しかも貴様は奴を見下していたのだろう…? それなのに今更…」 「自分でも驚いているがな…」 技の応酬を繰り広げながらも言葉を交わす両者。 そしてゴルゴダは怒気を含めて言う。 「愚かな…今の貴様にマリノが靡くと思うか? 貴様に裏切られ、絶望を与えられた奴が!?」 「覇者たる者には相手がどう思うかなど関係無いわ!!」 異を唱えたゴッドリディプスにゴルゴダは更に激昂する。 「女狂いの愚物が!貴様が感じているのは愛などではなく独占欲だ!! 貴様のような男に…人を愛する資格など無い!!!」 「人を愛するのに資格が要るか!!!」 ゴッドリディプスは大喝しコードブレイカーでゴルゴダを吹っ飛ばす。 今まで以上の威力だった為ゴルゴダは防ぎ切る事が出来なかったのだ。 見るとゴッドリディプスがこれまで受けたダメージは完全に再生されている。 「なるほど、データ通りの回復力だな… しかし貴様の再生能力の源をこちらが把握していないと思うか?」 不敵に言いながらバスターにエネルギーをチャージし始めるゴルゴダ。 そして… 「サーティーンクロス!!!!!」 連続で放たれる13発ものチャージショットが合体し、超巨大かつ見た目も派手な光弾と化しゴッドリディプスを襲う。 「おおおおおおぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」 ゴッドリディプスは全身を激しく損傷した無残な姿となっていた。 しかし超フォースメタルは残っていた。 ゴルゴダが敢えてそうなるように調節したのだ。 「これ程のダメージならばすぐには再生出来まい… その間に、俺はこれを頂く!」 そう言ってゴルゴダはゴッドリディプスの肩から超フォースメタルを引っこ抜いてしまう。 ギガンティスの時もゴッドリディプスは乱入したフェラムに超フォースメタルを引っこ抜かれた事でハンターに敗れたが、 今また同じ道を辿る事となった。 「バグで擬似的に再現された物だろうがどうやらその性能は本物のようだな… 貴様には分不相応なその力、俺が貰い受けよう!」 ゴルゴダは両方の超フォースメタルを装備し、再生能力を失ったゴッドリディプスは歯噛みしつつそれを眺める。 「はあああああああああ!!!!!!!!!!!!!」 ゴルゴダのエネルギーが見る見る高まっていくが…その時だった。 「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!! ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ゴルゴダは全身をスパークさせ、苦しみ出した。 そして地面に倒れ伏し、激しく痙攣し出す。 その数秒後、それは起こった。 ゴルゴダの胸が内側から裂け、中からカマキリのような巨大バグが這い出てきた。 そう、許容量を遥かに超えたバグと同化しようとしたゴルゴダはバグに喰われてしまったのだ。 巨大バグはゴッドリディプスに襲い掛かるが既に申し訳程度の再生は果たしていた彼は容易にかえりうちにする。 結果巨大バグはアイテムを落として消滅し、ほぼ同時にゴルゴダもそれに続く。 落としたアイテムの量は巨大バグの方が多かった。 「バグに喰われおったか、分不相応なのは貴様の方だったようだな!! やはり私こそが全ての頂点に君臨するに相応しい器という訳だ… 待っておれマリノ、私は、もう一度、君を…」 全てのアイテムを奪い返し、ゴルゴダの落としたアイテムも回収し、自らの体に異常だ無い事を確認したリディプスは 下の階層「蹂躙の層」へと歩を進め、しばらくすると他の者がそれに続く。 自らの力を再確認したリディプスだったが、彼は後に思い知らされる事になる、 自分が何者もを超越した存在だというのが、とんだ思い上がりであった事を… その頃「捕食の層」では… 「うめぇぞぉ~うめぇぞぉ~やっぱりこいつらは…エビルスレイヤーなんかよりもずっとずっとうめぇぞぉ~!」 ゴルゴダを喜々として頬張るディバインバグ。 「ゴルゴダよ、ディメンションズマスターともあろう者がバグに喰われてしまうとは… これだからこの実験は何が起こるか分からんわい。 さぁて、この分じゃとワシ自らの出撃も近いかのう。 という訳でアレのチェックチェック~♪」 フィリアはそう言って部屋を移動する。 バグとは別に開発していた何かが眠る部屋へと…

第十七話「暴威」

大蜘蛛の巣窟の第3の階層、「蹂躙の層」は大規模な軍事基地のような景観だった。 最初に突入したリディプスを待ち構えていたのは剣や槍、斧、ハンマーなどといった得物を手にしたエースソルジャー達で、 中には素手のエースソルジャーも見受けられた。 「リディプス、か…ここまで辿り着くとは見事だな。しかし我々の攻撃の前にどこまで身が持つかな…?」 エースソルジャーの1人がリディプスに言うや否やこの場のエースソルジャー全員が殺気を放ち、構えを取る。 「ふむ、見たところ得物や徒手空拳による白兵戦に特化しているようだな。 ならば貴様等に敬意を表して私もこれで相手をしてやろう」 そう言ってリディプスは2本のサーベルを構える。 「かかれぇーっ!!!!!!!!!!!」 武器を手に、そして中には素手で大挙してリディプスに迫り来るエースソルジャー達。 対してリディプスは彼等をすり抜けるように前進していき、やがて彼等のいた位置と反対の位置に到達した時にサーベルを納めた。 「己、逃がすか!!」 エースソルジャー達は振り返りつつリディプスに言うが… 「気付いていないのか?自分達が斬られた事に」 リディプスは彼等に瞳だけを向けて言い放つ。 「何馬鹿なこと…を…!!??」 エースソルジャー達は意識を保ったままリディプスに斬られた面がゆっくりとスライドしていき、次の瞬間崩れ落ちて事切れアイテムを落として消滅した。 「貴様ら如き準備運動にもならぬ!!」 リディプスはその場を後にして下へと降りていき、程なくして他の6人も蹂躙の層へと突入し始めた。 このエリアの敵は単騎での戦闘力と人数の両方を兼ね備え、攻撃の激しさは上の2つの階層の比ではない。 突入しようものなら彼等の所有する数々の強力な兵器の猛攻撃に身を曝される事になる。 …はずなのだがその彼等も数々の修羅場を潜り抜け、敵からバグを奪い続けこの階層まで辿り着いた猛者達の敵では無く次々と返り討ちに逢っていく。 「ここは中々俺好みのバトルステージだぜ、卑劣な策を弄する奴もいないわ汚ぇトラップも無いわで何も考えずに暴れられんだからよぉ」 そう言いながらVAVA-VIはライドアーマーでエースソルジャーの駆る戦車を文字通り千切っては投げ千切っては投げ… そして投げられた戦車は次々と壁に衝突して爆発四散していく。 「奴の…ライドアーマーの操縦技術は…話では…聞いていたが…こ、これ程とは…」 「何でライドアーマーであんな動きが出来るんだよぉーーーっ!!!!!!!!!!!!」 VAVA-VIのライドアーマー操縦の腕前にただただ驚愕し、そして絶命していくエースソルジャー達。 「クククク…この絨毯爆撃に耐えられるかな?」 「……」 ルミネの入った部屋は非常に天井が高く、部屋の上方には戦闘機に乗ったエースソルジャーの大群が待ち構えていた。 それをルミネは無言で見据える。 「投下!!」 爆撃を開始したエースソルジャー達だったがルミネは宙を舞い爆弾を尽く躱していく。そして… 「スノーアイゼン…」 ルミネは無数の巨大な雪の結晶を降らせ始めた。 ルミネの放ったスノーアイゼンは技の一発の威力、同時に出現する結晶の数の両方において大幅にパワーアップしており 結晶は戦闘機に刺さるや否やその箇所から機体を凍らせていき、やがて墜落させていく。 「ギャアアア~~~~~~操縦が、効かねぇ~!!!!!!!」 「つーか腕も…凍って行くぅ~~~~!!!!!!!!」 結果としてエースソルジャー達を乗せた戦闘機は次々と撃墜されていった。 一方でトルクが突入した部屋には何台もの固定砲台が設置されていた。 砲台はトルクの存在を察知すると握り拳大は軽く超える大きさの鉄球を一斉に超高速で放ってきた。 「何だこりゃ、ピッチングマシンか?息抜きにゃ丁度いいぜ!!」 トルクはそう言うとトルクロッドで全ての鉄球を撃ち返した。 撃ち返された鉄球は全てそれらを放った砲台にそっくりそのまま命中し、砲台は全て大破した。 シグマ達も快進撃を続けていた。 エースソルジャー達が武器で挑もうにもシグマの剣技で両断され、強固な守りもパンデモニウムに貫かれ、火器で攻撃しようにもコケコッカーの火炎で誘爆して果てていく。 しかし彼等が次の部屋に突入した時、その快進撃は阻まれる… その部屋はこれまでに比べて必要以上に広かった。 そして暫くして部屋に入った三人は強大なエネルギーを察知する。 「この感じは…」 「またか!?」 パンデモニウムとコケコッカーが身構えていると上からフジツボットのデッドコピーが降ってきて部屋全体を大きく震撼させる。 「侵入者…排除…排除…」 オリジナルとは対照的な抑揚のない口調で言うフジツボットのデッドコピー。 「ほう、今度はボルカノ・フジツボットか…」 「またテメーの顔を見るとはなぁ!!」 「どちらが排除されるか、白黒つけるよ…!」 そんな彼を迎え撃たんとするシグマ達だったが… 「マウントプレス…マグマショット…マグマスライダー…」 フジツボットの巨体から来る圧倒的パワーと火力はオリジナルと変わらず技が矢継ぎ早に繰り出される為シグマ達に中々攻撃の隙を与えてくれない。 そしてある時… 「ホットフラッド…」 フジツボットの口からマグマが土石流の如く流れ出してきた。 これをシグマは素早く回避しコケコッカーは上空にいたため喰らわなかったがパンデモニウムは直撃を受けてしまい、彼は弱点属性による大ダメージを受けつつ押し流されていく。 「うう…グ…グリーンスピナー…!!!」 フジツボットとの距離がかなり離れた時、パンデモニウムは身を焼く熱さに耐えつつ力を振り絞ってグリーンスピナーを放った。 ミサイルはクマムッシュを倒した時より巨大化し、フジツボットに炸裂したが彼は若干のけぞって軽くボディを損傷させただけだった。 同時にパンデモニウムは壁に激突し、これまでのマグマによるダメージとこの時の壁への激突によるダメージの二重のダメージを受ける事となった。 「シ、シグマ様…どうか…僕達の…仇を…!」 パンデモニウムは力尽き、アイテムを落として消滅した。 「コケーッ!!アントニオンのみならずパンデモニウムも殺りやがって!! 上等だ、もっぺんぶっ殺してやるぜーっ!!!!」 「待て…!」 激昂するコケコッカーをシグマは制する。 「お前は既にオリジナルの方を倒したのであろう?ならば今回はワシに仇を討たせてくれ。 …この部屋の広さはあれを試すのに丁度良いしな…!」 そう言うとシグマはファイナルシグマWに変身を遂げた。 この時メタモリーバグは成虫になっていた為ファイナルシグマWも完全なものになっていた。 その巨大さは圧倒的でフジツボットとも差して変わらないサイズとなった。 「マグマスライダー…」 そんなシグマにフジツボットは迫ってくるが… 「生温い…!」 シグマはそれを片手で楽々と止めてしまう。 そして次の瞬間… 「おおおおおおお!!!!!!」 シグマはフジツボットを投げ飛ばし、フジツボットは地面を数回バウンドした後倒れ伏す。 「受けてみよ!!!」 シグマはすぐさまフジツボットの元に駆けつけ、隕石の如き威力の拳の乱打を浴びせ続ける。 「ガ…ガガ…ガガガガガガ…」 見る見る形が変わっていくフジツボット。 「止めだ!!」 シグマは高く跳躍し、フジツボットを踏みつけその脚は彼の胴体を貫いた。 フジツボットは破損した箇所をスパークさせた後アイテムを落として消滅した。 「ククク…素晴らしい!素晴らしいぞ!!」 「凄ぇ…これなら確実に出れるぜ、外に…!」 「流石にエネルギーの消費が激しいがここなら雑魚共からいくらでも賄えよう」 勝利を収めたシグマは元に戻るとコケコッカーと共にアイテムを回収していく。 その時コケコッカーに異変が。 「(ク…もうすぐ俺のバグもそろそろ『致死量』かよ…冗談じゃねぇ、もっと強くならなきゃいけねぇってのによぉ…!)」 それぞれの想いを胸に、二人はさらに下へ降りていく。 その頃VAVA-VIの眼前には単眼で一本足の大型メカニロイド達が飛び跳ねながら迫ってきていた。 大型なだけに重量もそれなりにあり、着地と同時に部屋が震撼する。 「一本ダタラとかいう妖怪をモチーフにしてるみてぇだが、既視感があるのは何故だ? そうか、旧世紀で使われたメカニロイドにこういうのが多かったってどっかで聞いたっけ…な!」 VAVA-VIは落ち着き払った様子で言いながらメカニロイドの中の一体の足をライドアーマーの剛腕で掴むと それを武器のように振り回し、他のメカニロイドを撲殺していく。 最後のメカニロイドを撃破した時、VAVA-VIが武器に使ったメカニロイドのボディも限界に達し、アイテムを落として消滅した。 「何だもう終いか、まぁいい、次行くぞ!」 トルクはグンタイアリの姿をした巨大バグの大群に遭遇していた。 高速走行を得意とし、鋭い牙を持つその巨大バグは侵入者に情け容赦なく襲い掛かる。 しかし… 「地を這う虫ケラ共め、これでも喰らえ!!」 トルクはこの時エゴイスティックビーストに乗って上空にいたため、飛ぶ事の出来ない巨大バグ達は一切彼に手が出せない。 そしてトルクはエゴイスティックビーストから爆弾を落とし始め、一方的に巨大バグを虐殺していく。 一方リディプスもこれまで無数のエースソルジャー、メカニロイド、巨大バグを斬り伏せていったが 一際巨大な部屋に辿り着いた時… 「侵入者は…排除する…」 彼の前にはダンクルードのデッドコピーが姿を現した。 「ファング・ダンクルードのデッドコピーか…私がハンター共にした事を思い出させるな。 弱点は口の中だった筈…」 ファイルバグでダンクルードの事を知っていたリディプスは情報に基づき口の中を狙おうとするが… 「フォッシルヘッド…フォッシルダイブ…テールウィップ…」 どういう訳かダンクルードは中々口を開ける技を出してこない。 当然リディプスはダンクルードに有効なダメージを中々与えられない。 「これはまどろっこしいな…そちらが口を開かぬのなら…開かせるまでよ!!」 リディプスはゴッドリディプスに返信するや否やその圧倒的な膂力でダンクルードの口を無理矢理こじ開ける。 「中を攻撃するまでもない、このまま引き裂いてくれるわ!!」 今までの苛立ちの為かリディプスはなおも力を込め、ダンクルードを口から引き裂かんとする。 ダンクルードは激しく暴れるがゴッドリディプスのパワーに敵わずボディが引き裂かれていくと同時に力も抜けていく。 そして遂にはアイテムを落として消滅した。 「所詮はエビルスレイヤー、神の敵では無かったな!」 元の姿に戻りアイテムを回収して前進するリディプス。 同じ頃ルミネは重火器を装備したエースソルジャー達に囲まれていた。 「この弾幕に耐えられるかな…ファイアーッ!!!!!!」 号令に伴って手にした重火器を一斉掃射するエースソルジャー達だったが… 「これのどこが弾幕ですか…この程度ビビッドどころか…フライトバグにすら到底及びませんよ」 宙を舞う木の葉の如く銃撃の尽くを躱したルミネはエースソルジャーの1体の背後に忍び寄る。 そしてそのまま手刀でそのエースソルジャーの首を切り落としてしまう。 「この…!!」 別のエースソルジャーがルミネに狙いを定めるも瞬時にルミネは彼の至近距離に迫り、斬首する。 「次は貴方ですよ」 さらに別のエースソルジャーの1体を指さして予告したルミネは直後に彼を斬首する。 それを延々と繰り返すルミネ。 エースソルジャー達の士気は目に見えて下がっていく。 明らかにテンパっている為狙いはどんどん粗末なものになっていった。 そしてエースソルジャーが残り1体となった時、ルミネは凶悪な笑みを浮かべ最後の1人のエースソルジャーににじり寄る。 「何か言い残す事はありますか?」 「ひ…あ…あ…」 言葉にならない声を絞り出したかと思うとそのエースソルジャーは口を開けてそこに自分の重火器で砲撃し自殺したのであった。 「まぁ正しい判断ですね…それでは行きますか」 不敵な様子で先に進んでいくルミネであった。 そんな中シグマとコケコッカーは蹂躙の層の最深部に到達していた。 大型サーバーや大型モニター、通信機器が沢山並ぶ司令室と思しきその部屋では 如何にも司令官といった出で立ちのエースソルジャー達が待ちかまえており、 シグマ達を確認するとある者は格闘技で、またある者は銃器で攻撃してきた。 それをあっさりと全滅させる二人。 「随分呆気なかったですが当然でしょう。こんな奴等がディメンションズマスターではないことぐらい、とっくに承知してますからね」 「どうした、近くにいるのだろう?姿を現したまえ」 コケコッカーとシグマが言うと部屋の奥に位置する壁に割れ目が生じ、開閉音を大きく響かせながらゆっくりと左右にスライドしていった。 そして奥にあった部屋にはフジツボットやファイナルシグマW程もある圧倒的巨躯を持ち、 頭部には7本の角を生やしボディの所々に突起物を生やしたレプリロイド… ティターンその人が佇んでいた。 ティターンはシグマ達を確認するとまるで大人が幼児に話しかける時のようにかがみこむ。 それでもティターンの顔はシグマ達の遥か上に位置していた。 その状態でティターンはわざとらしく口を開く。 「やあ君達、よくぞここまで来たね。流石だよ。 でもディメンションズマスターはすぐそこにいるよ。心してかかるように」 これにコケコッカーは完全にぶち切れた。 「コケーッ!!何抜かしてやがる、テメーがそのディメンションズマスターなんだろーが!!! 散々俺達を欺きやがって!!下らねー実験の為にレプリロイドの命を弄びやがって!!! もう許さねー!!!ぶっ殺してやるぜ!!!!!焔降刃!!!!!」 飛び上がった後焔降刃を繰り出すコケコッカー。当然その威力は従来より大幅に上昇している。 しかしティターンはそれをいとも容易く片手で捕らえ、そのまま握る力を込めていく。 「ギィアアアアアア!!!!離せ!!離しやがれ!!!!」 懸命に抵抗するコケコッカーだったが… 「畜生畜生!!!シグマ様ぁーっ!!!!!!」 ティターンの握力に抗う事が出来ずとうとうアイテムを落として消滅した。 満足そうに手の平のアイテムを眺めるティターンだったがシグマは即座にバキュームバグでそれらを回収する。 それを大して気に止めた様子もなくティターンは本来の荒い口調で話し始める。 「ガーハッハッハ、バレちゃしょうがねえ!!そうよ、俺こそがここのディメンションズマスターよ!! いやぁ~正直猫被るのはしんどかったぜ… さて、話は聞いてるぜ、テメー何度も準備不足の所為でエックスとゼロに負けたんだってなぁ! じゃあ今度は俺への準備不足で死にやがれ!!」 嘲笑うティターンはその巨大な足でシグマを踏み潰そうとするが… 「甘い!!」 シグマはファイナルシグマWに変身し、ティターンの足を払いのける。 「俺と同じ目線になるとはな、面白ぇ!!」 「準備不足については否定はせぬ。笑いたければ好きなだけ笑うがいい。だがそれでワシに勝った気になるでない…行くぞ!」 「いいよ、来いよ!!!」 凄まじい猛気を放ちながら睨み合う2人の巨人。 暫し間を置くと両者は互いに向かって駆け出す。 「エッジタックル!!!」 体中の刃を押し当てるべく体当たりを繰り出すティターン。 それをシグマはボディをプログラム化させて回避すると直後ティターンを捕らえ投げ飛ばそうとする。 しかしティターンはシグマに掴みかかり暫しの間取っ組み合いとなる。 両者の立っている場所はそこを中心に亀裂が入り、陥没していく。 そんな中ティターンは強烈極まりない蹴りを繰り出す。 従来の姿のシグマなら即死する威力の蹴りだったがファイナルシグマWとなった今ではそれに耐え、 壁に激突する瞬間壁を蹴って反撃に転じる。 それから暫くの間両者の間で繰り広げられる激しい攻撃の応酬によって部屋中が激しく揺れ、衝撃音も激しく響き渡った。 「流石に秒殺出来ねぇか、だったらこれだ!!!」 ティターンは手元に大剣を転送させた。 この大剣はただの大剣にあらず、周囲にビームが出る仕掛けになっている。 即ち実体剣とビームソードの両方の性質を持つのだ。 「このティターンブレードは重量だけでなくビームの出力も半端ねぇ… そんなこいつを扱えるのは俺だけよ!!」 そう言ってティターンは得意気に軽々とティターンブレードを振り回す。 「マキシマムアーツ!!!!」 ティターンは大剣による連続技を繰り出してきた。 「ぬうううう!!!!!!」 真剣白刃取りでこれを止めたシグマだったがティターンの驚異的な膂力で徐々に押され始める。 暫くしてシグマは絶妙なタイミングでバックステップで距離を取ると手元に普段はキューブ状にする紫色の物体を出現させた。 そしてシグマはその物体をシグマブレードの形状に変じさせた。 「ではこちらも剣術で行くぞ…はあああああ!!!!!!!!」 シグマが具現化した剣も当然凄まじい重量であり、その超重量の剣をぶつけ合う両者の戦いは更に白熱したものとなっていく。 ティターンは単に怪力で打たれ強いだけでなく剣術や戦闘技術も卓越していた。 それ故にファイナルシグマWとなった今のシグマでも十分に苦戦する強さだった。 そんな中シグマは嘲るような口調で口を開く。 「これ程の力を持っているとはな…時期がずれていたので叶わなかったがワシはとんだ逸材を見逃していたようだ… 貴様は…付いて行く男を間違えたな…」 これに対しティターンは反論する。 「テメーに付いて行く方が大間違いだろーが!テメーに付いたらエックスとゼロと戦わされて負けちまうのがオチだろーがよぉ!!」 何を思ったのかシグマは更に問い詰める。 「本気でそう思っておるのか!?戦いもせずに勝てぬと決めつけ…あのような男に従う道が正解だと… テクノピアという井戸の中でくすぶり続ける生き方に…何の疑問も持たなかったのか!?」 これにティターンは怒鳴り散らして反論する。 「テメーに分かるか!!最強の力を持って生まれるはずが何も持たずに生まれちまった俺の気持ちが!!! くだらねー製作者の都合で世の中から拒絶された俺の気持ちが!!!! やっと自由を手にしたと思ったら虫食い脳野郎共にハメられて裏切られた俺の気持ちがぁーっ!!!」 その昔テクノピアにはとある軍需企業があった。 その企業は優れた技術を持ちその分儲かっていたがある時より強大な力を手にして実権を握るべく 闇の組織といくつものパイプを持ち 従来では高額のパーツをほぼタダで入手しては金銭面を気にせず強力な兵器を製造する事を始めた。 当然弱者を脅し泥沼に陥れる事もあり、とうとう追い詰められた被害者が勇気を振り絞って告発した事で不正が明るみになり、 関係者は逮捕され工場は放棄された。 製造された兵器は没収されたが当時ティターンの開発に使われていた部屋は工場の奥深くにあり入り口も分りにくかった為 誰の目にも触れる事無く放置される事となった。 その部屋ではカプセルの中でプログラムに従ってティターンの開発が進んでいたが、定期的なメンテナンスが受けられず ある時エラーが発生しても修復される事は無かった。 そんな時、ティターンは意識だけがカプセルの中で覚醒してしまったのだ。 ティターンはインプットされた情報で世の中の事を知る。 そして自分が置かれた状況がとんでもなく悲惨であることを思い知らされる。 何も見えない。何も聞こえない。手足を動かす事も出来ない。 人間でも目や耳、手足が不自由な状態で生まれたり、事故によりそうなってしまう場合もあるが ティターンは最初からそのような状態で生まれてしまったのだ。 予めインプットされた情報で自らの製造理由を知ったティターンは絶望する。 「(確かに俺を開発した目的は不正かも知れねぇけどよ、俺が何をしたっていうんだ!!! 何も見えねえ、何も聞こえねえ、外に出る事も出来ねえ…こんなの…あんまりじゃねぇかよお!!! こんな事なら…こんな事なら…俺なんか開発されなきゃ良かった…!!!)」 暗い中に閉じ込められたティターンは未来永劫続くであろう暗黒と静寂の世界に絶望した。 しかしそんなある日彼の人生に一筋の光が差す。 フィリアが開発室を発見し、ティターンの製造を完遂させたのだ。 その結果ティターンは外に出られた。 「外に…出られた…体が…動く…嘘じゃ…ないんだな…」 「ワシはフィリア。お前の封印を解いたのはワシじゃ」 「だけど…俺が造られた目的は…」 「そんな事は気にする事はない。お前の力が必要でワシはお前を起こしたのじゃよ」 「ウオオオオオン、一生付いて行きやすぜーっ!!!」 今まで不自由だったティターンは突如自由の身になった事が嬉しくてたまらなかった。 自らの意志で動ける事や話し相手がいる事がただただ感動的だった。 ティターンはフィリアに強い恩義を感じた。 その結果彼と、その更に上の立場に位置するヴェルトに喜んで従った。 不自由の辛さを知る自分が他者に不自由を強いる事になろうとも。 自由どころか富や権力も享受できたティターンは従来の荒々しい性質と合わさり金持ちのドラ息子のような性格になっていった。 もし従来の目的通りに生まれていたら怖いもの知らずの戦士になっていたかもしれない。 自らの生い立ちにコンプレックスによるひがみや強い力を持っている事による優越感により、 ティターンは法や道徳を無視する者やフィリアやヴェルトに歯向かう者を喜々として虐待を加えた。 トルクを殺した後、彼は更に調子付いた。 自らの力に絶対的な自信を持つティターンだったがある時フィリアにエックスとゼロには挑むべきではないと言われ、 それを信じてフィリアがバグリジェクターでエックスとゼロを手懐けるのを待つ事にした。 しかしそれは叶わなかった。 自身とフィリア、ヴェルト等の不正がビリーヴ率いる抵抗勢力に暴露されてしまい保身を図ったヴェルトにはあっさり見捨てられ その後は転落人生を歩むのみであった。 この時フィリアに言われて自分より遥かに弱い者達に迂闊に手が出せない事に不満を抱きつつもティターンはフィリアに同行する。 そしてその不満をバグズディメンションに送られた罪人レプリロイドを間接的にだが虐待する事で現在に至る。 「どのような事情があれワシは目の前に立ちはだかった敵は斬って捨ててきた… それはともかく、だ。 恩義に報いる事は大事かもしれぬがそれに凝り固まるあまり兵器としての、戦士としての己の本分も忘れ… その力を弱者を甚振る事だけに使い…戦ってもいないエックスやゼロにはビクビクし… テクノピアの次はバグズディメンションでくすぶり続ける貴様はその図体に反し実に矮小な男よ。 それこそテクノピアの時に貴様等に恩義を感じつつも己の考えに基づき貴様等を告発した人間の子供以上に、な」 邪悪な表情で言い放つシグマ。 これに対しティターンはシグマ、そして自身の予想よりも精神的に衝撃を受けた。 「(何だ、上手く反論…出来ねえ!!俺のこれまでの生き方って…すげえカッコ悪かったのかよ!? エックスやゼロに挑んだ方が正しかったって言うのかよ…!? 思えば相手が強ければ強い程…手応えがあって楽しかった… 本当はエックスやゼロとの戦いも…望んでいたのかも知れねえ… だけど…俺は…博士を…裏切る訳には…!)」 「隙あり!!」 シグマはティターンに渾身の一撃を浴びせる。 「畜生!!俺は博士を裏切る訳には…いかねぇーんだよぉーっ!!」 反撃に転じたティターンだったが感情的になった為か技の切れが鈍りシグマに足を引っかけられて転倒してしまう。 その後も戦いはシグマの圧倒的有利に進んでいった。 「(ククク…ファイルバグは実に有益な情報を与えてくれおった…こ奴の内にある矛盾による逡巡を知る事が出来たのだからな…! どれだけ力があろうが逡巡は大きな隙を生む…かつてのエックスのようにな!)」 ティターンの防御力はかなりのものであるが今のシグマに一方的に攻撃を当てられては確実にダメージを蓄積させていく。 一方的に攻撃を受け続けるティターンは尚も考えを巡らせていた。 「(確かに…これまでの俺はカッコ悪かったかも知れねえけどよお… このまま終わるのは…もっとカッコ悪いじゃねーか!! みっともないまま終わってたまるか…俺は兵器で…戦士なんだ…!!)」 「貰ったぞ!!」 シグマが止めの一撃を放たんとした時だった。 「舐めるなぁーっ!!!!!!!!!!!!」 ティターンは力強くそれをはねのけた。 「俺は…もう…博士の為じゃねぇ…俺は…俺の為に戦う!!行くぜぇーっ!!!!」 これまでの迷いが嘘だったかのようにティターンの攻撃は激しさを増した。 その勢いは戦闘開始時以上である。 「焚き付けてしまったか…だがそれも良し!!貴様の心意気がどれほどのものなのか…このワシにとくと見せてみよ!!!」 戦う者の性か、シグマの攻撃も勢いを増す。 両者の戦いは時と共に白熱し続けていった。 しかしそれにも終わりの時が来た。 「これで決着を付けるぞ…!」 「望むところだ!!」 満身創痍となった両者は、互いに向かって駆け出す。そして… 「レイヴディバイド!!!!」 「リーサルスティンガー!!!!」 互いに技を決めた後、両者は駆け出した時と反対側の位置に着地した。 程なくして両者とも切り口が裂け、とめどなくオイルが噴き出るがティターンのダメージの方が大きかった。 これが決定打となり、ティターンは力尽きた。 「敗けちまったか…だがみっともねぇまま生き続けるよりかはマシ…だな… 最期の最期で…目覚める事が出来た…それだけでも…良しと…するか…」 そう言い残したティターンはアイテムを落として消滅した。 それはディメンションズマスターの全滅を意味する。 「貴様の事は記憶の片隅にでも置いておくとするか… これで外の世界まであと一歩…ククククク…ウワーハッハッハッハッハ!!!!!」 嘲笑を響かせついに1人になってしまったシグマはバグズディメンション最下層、「捕食の層」に足を踏み入れる。 そこで彼が自身に襲い掛かる過酷な運命を思い知らされる事になるのはそう遠くない未来の事である… その頃その捕食の層では… 「よーしシ全ステムOK、オールグリーン!! お前にもたっぷりと血を吸わせてやるぞ、ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!」 自らが開発していた「何か」の点検を終えたフィリアは喜々として出撃を開始する。 同じ頃… 「うめぇぞぉ~…うめぇぞぉ~…味も量も最高だぞぉ~… もっと…もっと喰いてぇぞぉ~…!!」 ティターンの残骸を頬張るディバインバグ。 彼が侵入者達にその牙を剥くのはもう間もなくの事である…

第十八話「邂逅」

数々の死闘に死闘を重ね、遂に大蜘蛛の巣窟の最下層「捕食の層」に到達しスパイダーズスレードに対抗する戦力は僅か5人となった。 最強のレプリロイドとして生を受けたがウィルスに冒された結果イレギュラーの代名詞と化し、以降何度もハンターの前に立ちはだかったシグマ。 自分達新世代型レプリロイドこそが新たなる地球の支配者と信じて疑わないルミネ。 ハンターを欺き神の座を手に入れようとした一方マリノへの想いが忘れられないリディプス。 そしてハンター現役時代よりその凶暴性を問題視され、イレギュラー化して以来その本領を発揮、 エックスに敗れた後は彼への復讐心を燃やすVAVA-VIとして蘇ったVAVA。 以上最後にバグズディメンションに送られたレプリロイド達の中で最強格の4人に加え自由を信奉し、折れない闘志でライドチェイサー「エゴイスティックビースト」を駆り 己の道を突き進み続ける最強の脱走者トルク。 その中で最初に捕食の層に突入したのはティターンを下したシグマである。 捕食の層は壁や床、天井の所々が血管、臓物、骨、虫などを連想させる機器や装飾で覆われているという 不気味で悪趣味極まりない外観であった。 そしてシグマを最初に出迎えたのは植物と融合したエースソルジャーとメカニロイド達だった。 「薄汚い侵入者め、遂にここまで来やがったな!博士の実験の肥やしにしてくれるわぁーっ!!」 シグマに襲い掛かるエースソルジャーとメカニロイド達だったが… 「馬鹿め、姿形からして弱点が丸わかりではないか!!ブリージングライン!!」 「ギャアアアアアア熱ぅぅぅぅうい!!!」 植物の特性を持つ彼等はやはり炎に弱く、シグマのブリージングラインによって瞬時に焼き払われてしまった。 シグマがこの部屋の敵を全滅させ、下に降りてしばらくすると他の4人もそれに続き、別々のルートに進んでいく。 ルミネの前には血走った目と鋭い牙を持ち、挙動不審なエースソルジャー達と丸いコアをスライム状の物質で覆ったメカニロイドが現れた。 「食わせろよぉ~…俺達の好物は…レプリロイドなんだよぉ~…」 エースソルジャー達は明らかに正気を失っていた。 これに対してルミネは完全に見下した様子で言う。 「最も原始的な欲求の食欲だけに支配されているとは、正に愚の骨頂ですね… 貴方達に比べたら無法の層で見かけた輩の方がまだ理知的でしたよ。 ……滅びなさい!!」 そしてエースソルジャーとメカニロイド達は次々とキューブフォールズを喰らいぺしゃんこに潰れてはアイテムを落として消滅していった。 一方リディプスは白衣を纏ったエースソルジャー達と対峙していた。 エースソルジャー達はリディプスの姿を確認するや否や一斉にドヤ顔で白衣を脱ぎ捨てた。 すると彼等の白衣の下から厳ついフォルムの全身の至る所に強力な兵器を搭載した 見るからに戦闘用といった感じのボディが現れた。 彼等の1人が声高らかに言い放つ。 「『知は力なり』…我々はより多くのバグと同化するために自らのボディを強化改造しているのだ! 科学が生んだこの力、とくと見るがいい!!」 そんな彼等にリディプスは憮然と言い放つ。 「分不相応な力を持ってしまった者のなんと多い事か… 貴様等の相手など、こいつらで十分だ!…殺れ!!!」 リディプスはコールレッドでレッドホイールを召喚した。 当然今のリディプスが呼ぶレッドホイールはバグによって強化されており、エースソルジャーは瞬く間に蜂の巣にされて掃討されていった。 その頃トルクの前には大きなドーム状の頭部の下に無数の細長いマニピュレータを生やした不気味な姿のメカニロイド達が現れた。 「敵確認…罪人ナンバー1069『トルク』… コレヨリ攻撃ヲ開始スル…」 メカニロイドは抑揚のない口調で声を発する。 そしてそのまま膨大なデータに基づいた緻密で的確な攻撃を繰り出してきたが… 「邪魔だぁーっ!!!!!!」 トルクはメカニロイドの1体を殴り飛ばして撃破した。 彼はすかさず周辺のメカニロイドも破壊していく。 「感情を持たず!データしか!頼るもんのない!テメーらみてーな!ガラクタ共に! 俺を!止められる訳!ねーだろうが!よおーっ!!!!」 エゴイスティックビーストで跳ね飛ばされたり爆撃されたり ハンマー状のトルクロッドで撃ち飛ばされたりして次々と破壊されていくメカニロイド達。 程なくしてその場のメカニロイドは全滅し、トルクは先へと進んでいく。 一方でVAVA-VIはこれまで乗って来たライドアーマード「コング」で破竹の勢いで侵攻していた。 そんな中非常に広大な部屋に到達した時、その流れは阻まれる事となる。 「ドライブペネトレーション…」 上空で声がした直後何かが超高速でVAVA-VI目掛けて飛来してきた。 その正体はモーズリーのデッドコピーであり一瞬でVAVA-VIの元に到達し手にしたサーベルでコングの装甲、そして動力炉を貫いた。 爆発四散するコング。 だがしかしVAVA-VIはとうに離脱しており無傷であった。 「あーあー、またお釈迦にしてくれやがって…今度はペネトレイト・モーズリー、だったか?」 不敵な様子で言うVAVA-VIに構わずモーズリーは再度上空へ急上昇した。 「フェザーカッター…」 次にモーズリーはVAVA-VI目がけて羽根を飛ばし始めた。 「フライトショット・Ω!!」 これにVAVA-VIは威力、弾速、追尾性能、連射性の全てが強化された肩の大砲からの光弾「フライトショット」の強化系の技で迎え撃つ。 すると光弾は羽根を相殺するどころか徐々にモーズリーを押し始めた。 「排除…排除…排除…」 モーズリーは技を中断すると今度はVAVA-VIの周囲を高速旋回し始めた。 それを冷静に目で追うVAVA-VI。 そしてある時… 「ドライブペネトレーション…」 上空からVAVA-VIに迫るモーズリー。 …とその時VAVA-VIは片膝をついた。 その直後、正にモーズリーがVAVA-VIを捕らえようとする瞬間、VAVA-VIの膝から何かが発射された。 それは地面に着弾すると巨大な虎ばさみの形となり、モーズリーを捕獲した。 「行動不能…行動不能…」 「脚部兵装『グランドファング』…ダンクルードから獲得したらしい。お前の力じゃ抜け出せないみたいだ…な!!」 行動を封じられたモーズリーにVAVA-VIはゴールデンライトで止めを刺し、アイテムを回収して進んでいく。 その頃トルクにもエビルスレイヤーのデッドコピーが迫ってきていた。 トルクがエゴイスティックビーストを飛ばしている時… 「侵入者は排除する…」「排除する…」「排除する…」 前方に三人分の声がすると思うとその方向からケルベロイドのデッドコピーが出現し、3つの口から破壊音波を放ってきた。 それを喰らってしまった結果エゴイスティックビーストはスパークして煙を吹き、徐々に墜落し始めたのだった。 「チッ…!」 トルクはエゴイスティックビーストから降り、ケルベロイドの方に向き直る。 「病院にいた奴の兄貴か…弟の仇討ち、って訳ではなさそうだな、コピー野郎」 挑発的にトルクロッドをぶんぶん振り回しながら言うトルク。 暫く間を置くと両者は互いに向かって駆け出した。 「おらああああああああ!!!!!!!!!!!」 「排除…」「排除…」「排除…」 トルクロッドとケルベロイドの攻撃が金属音を鳴り響かせながら激しくぶつかり合う。 そんな力と技の激突が何合も続いた時だった。 「エレジーハウンド…」 ケルベロイドは最大奥義エレジーハウンドを繰り出してきた。 「悲しみを力に変える技、だったな…だけどよ、魂こもっちゃいねーテメーみてーなパチモンには技の性能を全然活かしきれてねーぞ。こんなもんそよ風も…同然だぜ!!」 トルクは耐えながらトルクロッドの先端を巨大ドリルに変形させ前進していく。 そしてドリルをケルベロイドの胴体に押し当てるとさらに前進し続け彼を壁に押し付ける。 更にトルクは強引にドリルを押し当てていき、見る見るうちにケルベロイドのボディは壁ごと削り取られていく。 最終的にケルベロイドは粉々になりアイテムを落として消滅した。 壁に空いた大穴は別の部屋へと続いていた。 「ん?こっち行ってみるか…」 トルクは回復系のバグでエゴイスティックビーストを修復してから穴の向こうへと歩を進める。 一方… 「お前達か…こんな所で遭うとはな…」 「奇遇ですね。もう最深部は近い、という事でしょうか」 シグマ、ルミネ、リディプスの3人はかなり奥まで進んだ時点で1つの大部屋で合流していた。 「む、何かが来るぞ…」 前方からの巨大なエネルギー反応を察知したリディプス。 しかしそれは1つの巨大な反応ではなく1つ1つは小さいが膨大な数の反応である事を3人はすぐ理解した。 やがてその反応源は姿を現す。 その正体は蜘蛛の姿をした巨大バグの大群だった。 大きさこそそれまでの道中の巨大バグと変わらないが彼等の放つ獰猛で禍々しい雰囲気は通常の巨大バグと一線を画していた。 「どうやら確定、のようだな。ルミネよ」 「ええ…この先にディバインバグが待ち構えているでしょう」 「仮の名と言えど蜘蛛の名を冠する者として葬り去ってくれる!」 一斉に襲い掛かってくる巨大バグに応戦するシグマ、ルミネ、リディプス。 同じ頃VAVA-VIはライドアーマー無しの状態で道中を突き進んでいた。 そんな時だった。 前方よりライドアーマーに乗ったエースソルジャーの大群がVAVA-VIの前に現れたのは。 エースソルジャーの1人が声を張り上げて言う。 「ハーッハッハッハ、どうだこの高性能ライドアーマー『アグレッシブベア』の大群は!! これはチーフソルジャー如きでは乗りこなせねー優れもんなんだぜ!!」 「…棚ボタだな…」 ぼそりと言うVAVA-VI。 「は?」 意味を理解する前にエースソルジャーの1体がVAVA-VIに撃ち抜かれた。 そしてアイテムを回収しながらVAVA-VIは先程倒したエースソルジャーの乗っていたアグレッシブベアに乗る。 そのままエースソルジャー達の方に向き直るVAVA-VI。 「あれ、俺達もしかして…詰んだ!?」「遅えよ!!!!!!!」 エースソルジャー以上にアグレッシブベアの性能を如何なく発揮したVAVA-VIは瞬く間に彼等を殲滅した。 それ以降もVAVA-VIの快進撃は続く。 敵も壁も滅茶苦茶に破壊されていく。 そんなある時、アグレッシブベアの拳が壁際の敵を背後の壁ごと砕くと 砕けた壁の向こうに隠し部屋が現れた。 「ん?何かあるなこりゃ…」 VAVA-VIは導かれるようにそこに入っていく。 果たして彼の直感は的中する事となる。 この隠し部屋は長い間放置されたと思われる物置きのような部屋で 中には訳の分からない設計図や資料、失敗作と見られる機器があったのだがそれらに紛れて今まで見た事もない 非常に高性能、もしくは特殊なバグが何匹も何匹も出てきたのだった。 「オイオイオイオイマジかよこれ…」 アナライズバグでこれらのバグを調べたVAVA-VIは思わず息を飲む。 何故ならこれらのバグは戦況を幾らでもひっくり返せる性能を秘めたものばかりで 一匹で通常のバグ数千から数万匹分にも相当するのだ。 そしてそれは彼等と同化する事のリスクも意味していた。 余程強力なレプリロイドでなければ即座に彼等は巨大バグへと変貌し宿主を喰い殺すであろう。 「……………」 暫し思案するVAVA-VIだったが… 『お前らがバグに食われちまうようなつまらん奴等でないことを祈ってるよ!』 ふと出会った当初トルクから言われた言葉を思い出した。 「上等じゃねーか…!ここでバグに食われるなら俺はそこまでの男、もっとも俺は…食われたりはしねーけど…な!!」 決心がついたVAVA-VIはこれらの超レアバグ達と同化した。 結果として食われなかった事に安堵というより納得するVAVA-VI。 「どうやら俺にも運が向いてきたらしい…という訳で、仕切り直しと行くか!!!」 更なる力を得たVAVA-VIの猛攻ぶりはより一層拍車が掛かった。 行く手に立ちふさがる敵は尽くが出合い頭に破壊されて行き敵側は完全に厭戦ムードに包まれていく。 先へ先へと怒涛の勢いでひたすら進み続けるVAVA-VIだったがある時感知した。 かなりの質量を持った何かがこれまでバグズディメンションで遭遇したどの敵よりも強烈なエネルギー反応と破砕音と振動を伴ってこちらに急接近している事を。 「面白れぇ、止めれるなら止めてみやがれ!!!!」 VAVA-VIもその存在目がけて突き進んでいく。 それから程なくしてついにその時は訪れた。 VAVA-VIの前方の壁に突如亀裂が入りその直後音を立てて砕け散った。 粉塵が立ち込め暫し視界が遮られたが視界が晴れた時その存在は正体を現した。 その正体はスパイダーズスレード首領フィリアその人で、ライドアーマーに搭乗していた。 ライドアーマーは通常より二回りほど大型のボディで胸部には螺旋状の回転刃が備え付けられてあり、背面からは尾のような長大なパーツが伸び、 肩にはドリルを生やし、剛腕の先端には鋭い爪が付いており。下半身には虫を思わせる脚が4本生えていた。 「ヒーヒヒヒヒ、捕食の層に侵入しやがったって事でこっちから出向いてやったぞ~!!」 嘲るフィリアにVAVA-VIは不敵な様子で返す。 「ついにお出ましか、弱虫博士…! ファイルバグで見たぜ、お前テクノピアでインチキ商売に失敗してその逆恨みで今回の事を起こしたってなぁ」 「うるせーうるせーうるせー!!!これは物分かりの悪い連中が悪いんじゃあーっ!!!! 皆で欲を抑えて大人しくしてれば平和になるのに、それを分からず欲を出す奴が悪いんじゃあ~~~~っ!!!!!!!」 完全に自分の事を棚上げして激昂するフィリア。 これに対してVAVA-VIは冷静に、しかし強気な口調で返す。 「まぁ俺としてはお前らのテクノピアでの計画は失敗して良かったと思うがな。 そんなつまらん世界、反吐が出らぁ!! それに引き換えバグズディメンションでの虫取り遊びは振り返ってみると中々面白かったぜ。 いい感じにイカレた住人に、虫の形をしていて半端者が使用するとそいつを食うかも知れないチップとかよぉ」 するとフィリアは持ち直した様子で答え始めた。 「そうじゃろそうじゃろ、ワシとてこんな事になるとは当初思いつかなんだ、 じゃがとある出会いによってこの研究は一気に進んだのじゃよ!」 「何だそりゃ?」 思わず問うVAVA-VI。フィリアは続けて言う。 「たかだか感情をコントロールするチップを虫の形にして寄生生命体の特徴も持たせようなどという発想が無から来ると思ったか? 本当の冥土の土産に教えてやるがの、インターバグを開発するには協力者の存在が必要不可欠だったんじゃ。 その協力者とはワシが宇宙で見つけた地球外生命体だったのじゃ!!」 「地球外生命体…!?旧世紀に何度か地球と接触した地球外文明の話の類の奴か?」 過去の記録の話を持ち出すVAVA-VIにフィリアは首を横に振る。 「いいや、そいつ等と違ってワシが出合ったのはそれ自体では本能だけの存在、 じゃが様々なエネルギーを利用・増幅する事で如何様にも進化しエネルギーも生み出す奇跡の存在なのじゃよ…!!」 そしてフィリアは詳細を語りだした。 ファイルバグに記録されていなかった真実を… 時はバグズディメンションが出来たばかりの頃。 フィリアはバグズディメンションを形成するコロニーのパーツを地球からだけでは足が付きそうなので 宇宙空間からも集めていた。 当時フィリアは新型バグリジェクターの研究に行き詰っていた。 そんな中宇宙空間に膨大なエネルギーを持つ鉱物を発見したが同時にその鉱物からは有り得ない反応、生体反応が検出されたのである。 早速鉱物を回収したフィリアはその鉱物の上に信じ難いものを目にした。 それは体長数㎜の軟体動物のような生物でナメクジのような体から赤い点がいくつもある突起物が伸びていた。 その直後フィリアは更に驚かされる事となる。 生物が信号を発信したのである。 「餌場だ」「新天地を見つけた」 言葉に例えるならこのような内容の信号をフィリアは受信したのだ。 「何だこれは、たまげたのぉ」 フィリアはその生物を便宜上スタードリフターと名付け、調べ始めた。 調べた結果スタードリフターについて分かった事… それは熱、光、電気等様々なエネルギーを糧とする事が出来、さらにそのエネルギーを増幅させられる事、 エネルギー摂取の際に体の状態を実態とエネルギー体に変換して使い分けている事、 周囲の感情を察知してエネルギーに変換している事などであった。 更に研究を進めていくとスタードリフターは周囲の感情を察知する際その感情の種類によって大きく異なる反応を示す事が分かった。 即ち餌とする感情が破滅的、暴力的な負の感情だった場合彼等は活発化し、逆に穏やかな、優しい感情だったっ場合活動が鈍りしなびてしまうのである。 彼等はよりエゴイスティックな感情を好んだ。 人を愛し平和を願う感情もまたエゴだという者もいるかもしれないが彼等が本当に好んだのはより一方的で、身勝手で、破滅的で、自己中心的な 一般的にエゴと言われ忌み嫌われる感情だった。 内に秘めて外に出さない穏やかな憎しみよりも、ストーカーや殺人に走る倒錯した愛を、彼等は好んだ。 法に触れない単なる迷惑でかっこ悪い程度のちっぽけな悪よりも、自らが悪と断じた者に無慈悲さや残酷さを向ける凶暴な正義の方を、彼等は求めた。 視覚から情報を得る事も可能であり、試しにフィリアが残虐で暴力的な画像や映像を彼等に見せたところ かなり活発化し喜んでいるように見えた。 ホラー映画や昼ドラの場合それが顕著に現れた。 逆に優しい、平和、穏やかといった印象の画像や映像の場合 あからさまに嫌がっているように見えた。 そんな彼等が負の感情を解放する新型バグリジェクターの試作品に興味を示すのは必然的な流れだったのかもしれない。 同時にフィリアが「それ」を思いつくのも。 フィリアがスタードリフターについてある程度理解してきた時の事… 彼が自分で思いついたのか、それともスタードリフターが彼にそのアイディアを授けたのか… フィリアは新型バグリジェクターの試作品とスタードリフターを植物とレプリロイドやメカニロイドを融合させる要領で融合させようと試みた。 その結果生まれた存在は各々の融合前と比べて性能が桁違いに跳ね上がったのだ。 1+1が10にも100にもなったのである。 「 素晴らしい!!素晴らし過ぎるぞ!!!こいつ等との出会いで研究が何年分進んだか分からんわい!!!! ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!!!」 フィリアは実験の成果に狂喜した。 スタードリフターの可能性に目を付けた彼はこれに飽き足らず 今度はスタードリフターと新型バグリジェクターの融合体を更に微生物、ナノマシン、化学物質、電気や放射線等のエネルギー等 用途に合わせ様々な媒体と融合させようとした。 その結果それらの融合体は従来の目的である「欲望の解放」以外にも様々な効果を発揮したのである。 フィリアはそれらの融合体にどれがどの性能を持つか識別し易くする為、 そして感情としてのバグと虫を意味するバグを掛けるという意味合いを込めて地球の虫の形態をインターネットを介して学習させ、 その結果融合体は地球の様々な虫の形態を成すようになった。 これにはスタードリフターが自分達が付着していた鉱物(後のバグクリスタル)のエネルギーを利用する際 少しずつ鉱物を溶かして吸収するという非効率的な手段を用いていたのに対し 虫の姿になってからは鉱物を一気に噛み砕いて飲み込む事が可能となりエネルギー効率が桁違いに跳ね上がった、という利点もあった。 「出来たぞ、これがバグリジェクターの改良版、『インターバグ』じゃ!」 虫の姿をした生きているチップ、インターバグ、通称バグはこうして生まれたのであった。 後日バグの実験の副産物で巨大バグが生まれる事になるがフィリアの仮説によると 1体の宿主となるレプリロイドにあまりに多くのバグ、少ない場合でも高性能故に「燃費の悪い」バグが含まれていた場合 バグ達が宿主から提供される感情では満足できず、宿主のボディのパーツを吸収し自分専用のボディを構築して巨大バグは生まれる、との事である。 宿主が強靭な精神の持ち主だった場合バグ達は宿主から提供される感情に依存する為、 屈強なボディの持ち主だった場合外敵から身を守ってもらう為に宿主と共生を続けるが それらがどちらも満たされなければバグは巨大バグへと変貌し、宿主を食うとフィリアは考えている。 ケージの中のディバインバグや通常の巨大バグを見つめながらフィリアは言う。 「きっとお前達は争いの多い星を見つけては滅ぼしてきたんじゃろうのぉ…だったら丁度滅ぼしてほしい星があるんじゃ。 それはの、ワシの星じゃ~っ!!ヒーヒヒヒヒヒ!!!!」 ……… 「スタードリフターとの巡り合いは正に奇跡じゃった…無神論者のワシが神を信じたくなったぐらいじゃからなぁ!!!!」 興奮冷めやらぬ様子のフィリア。 「あー、スタードリフターとやらとかバグとかが凄いのは分かったけどよぉ、 そんな凄いもん造っておきながらさっさと外の世界で事を起こさないのはやっぱアレか…!?」 フィリアと比べて明らかにテンションの低い様子でVAVA-VIは問いかける。 「そう!!エックスとゼロとアクセルがいるからじゃ!!!! これでのこのこと『ヒーヒヒヒ、バグの力で世の中を滅茶苦茶にしてくれるわ!!』と事をおっ始めて見い! 今までのイレギュラー同様倒されて過去の物となってしまうに決まってるわい!!!」 フィリアは声を大にして言い放つ。 「それをドヤ顔で言うかよ…」 心底呆れた様子でVAVA-VIは呟く。 そして次には口調を挑発的なものに変えて言う。 「戦う前から負けると決めんのか!?勝てる戦いしかしないのか!?下らねぇ!! 俺はエックスと何度も戦ったし昔の弱っちかった頃のエックスも命懸けで俺に挑んだぜ? それに引き換えお前は所謂引きこもりの弱虫じゃねーか!!! お前はな、俺が絶対に超えなければならない『踏み台』だ!!」 フィリアも嘲る様子で返す。 「お前は戦う者、ワシは探求する者、物差しが違って当然じゃい! ワシはのぉ、試したかったんじゃよ… ワシ自身か、過去のイレギュラー達か、ワシが導いた者達か、ワシが造った者達か、偶発的に生まれた者達か… どれが一番世界を滅ぼすに相応しいかをな… そこで互いに戦わせるように仕向けた結果実に興味深いデータが得られたぞ。 特にこれだけのバグと同化しておきながらバグに食われないお前の狂気は実に興味深い… 是非とも戦いを通じて生のデータを採取させてくれ! ワシ専用のライドアーマー『デスワーム』でなぁ!!! このデスワームじゃがお前やエックスみたいなチビが乗る一般のライドアーマーはワシには窮屈での、大幅にサイズアップさせておるぞ! 当然パワーもそれに比例するがな!!ヒーヒヒヒ!!!!!」 「タッパだけのガリガリが何ほざいてやがる!!行くぜ!!!!」 まず最初に2台のライドアーマーが互いの方向に向かってダッシュし、金属音を大きく響かせ正面衝突する。 一般の列車や大型車両同士の衝突とは比べ物にならない衝撃を伴う為この2台を中心に突風が発生した。 衝突の直後、ライドアーマー同士は組み合っていた。 デスワームの巨体は伊達ではなく徐々にアグレッシブベアは押されていく。 「このまま一気に押し潰してくれるわ!!」 デスワームの力でVAVA-VIを一気にねじ伏せようとするフィリアだったが… 「甘いな!!」 デスワームに比べて小振りなアグレッシブベアの両腕は低い位置からデスワームを支えていた為 デスワームの勢いも利用しつつ相撲の吊り上げの要領で持ち上げて投げようとする。 「うおおおおおっ!?」 視界が反転して一瞬怯むフィリアだったが地に落ちる前にデスワームの尻尾と伸ばした腕の先端の爪を地面に突き刺して体勢を立て直す。 「ギガブロウ!!」 続いて「サイクロプス」にもある拳の連打を繰り出すVAVA-VI。 「ヒーヒヒヒ、『手数』は文字通りこっちの方が多いんじゃよ!トリプルラッシュ!!!」 これに対しフィリアはデスワームの両の拳の他にも尻尾を腕のように操って対抗する。 それによって徐々にアグレッシブベアの身が削られていく。 「チッ…!」 VAVA-VIはアグレッシブベアの左肩の大砲から煙玉にもなる爆弾「スモークボム」を放ち距離を取ろうとする。 そして反撃に転じようとするが… 「ここじゃ!!」 既にフィリアはVAVA-VIの後ろにおり殴りかかる。 「デカいから鈍重だと思ったら大間違いじゃ!!目くらましに煙玉を放つなら煙の及ぶ範囲を飛び越えてしまえばいいだけの事! こうやってな!!」 そう言ってフィリアはデスワームで部屋中をダッシュジャンプで跳ね回る。 そのジャンプ力、滞空時間はラビットやホークを凌駕する。 「ちょこまかと…鬱陶しいんだよ!!」 次にVAVA-VIはアグレッシブベアの大砲から障害物を放った。 ブラウンベアにもある機能であるがアグレッシブベアには赤外線トラップが追加されている。 障害物は赤外線を放ちフィリアを補足する度にレーザーを放つが… 「鬱陶しいのは…テメーじゃ!!!」 フィリアはデスワームの両腕を伸ばしそれを振り回す事で一気に障害物を破壊してしまった。 ろくにダメージも与える暇もなく… 「お次は振り子攻撃じゃ、ほぉ~れほれほれ!!!!!」 フィリアは次にデスワームの片腕を真上に伸ばして爪を天井に刺した後、天井からぶら下がった状態でボディを振り子のように振り回し始めた。 「………」 攻撃のタイミングを伺うVAVA-VI。 「言っとくけどワシは乗り物酔いなぞせんからなぁ~」 言いながらデスワームの巨体で部屋中を回るフィリア。 そしてある時… 「そこだ!!」「な!?」 VAVA-VIはサイクロプスとの共通技の「超電磁ナパーム砲」をデスワームが衝突しようとする正にその瞬間放った。 するとデスワームの動きは止まった。 「ギガブロウ!!!」 そこにすかさずギガブロウを叩き込み始めるVAVA-VI。 しかし通常の敵よりも早く超電磁ナパーム砲の効果が切れてしまった。 自由になったフィリアはギガブロウが全部決まる前に一気に距離を取った。 「ヒーヒヒヒヒヒ、その程度の停止時間じゃ焼け石に水じゃよ!!」 嘲笑するフィリア。 それからしばらく一進一退の攻防戦が続いたがやがてフィリアの被弾率がVAVA-VIの被弾率を上回るようになっていった。 デスワームは超高性能のライドアーマーと言えどフィリアはライドアーマーの操縦技術は下手ではないものの 卓越している訳ではない程度であるのに対し VAVA-VIはライドアーマー操縦の第一人者であるからだ。 とは言えデスワームの防御力も桁違いである為戦況は膠着しつつあった。 そんな時… 「ええい、これならどうじゃ!!バキュームミキサー!!!!!」 フィリアはデスワームの胸部の回転刃を回転させVAVA-VIを吸い込みにかかった。 その吸引力は絶大で、逆方向へのダッシュで抗う他無かった。 技を繰り出そうと立ち止まるとその分一気に吸い寄せられる事になってしまう。 また回転刃の切れ味も凄まじく吸い込んだ物体はことごとく細切れにされ飲み込まれていく。 「くそっ!!畜生!!畜生!!!」 明らかにテンパっている様子で逆方向へのダッシュをひたすら繰り返すVAVA-VI。 しかし懸命に抗っても少しずつ、確実にデスワームの方向へと吸い寄せられていく。 「ヒーヒヒヒ、絶望をじわじわと味わうがいいわ~っ!!!」 「畜生畜生畜生畜生畜生~っ!!!!」 嘲笑するフィリアと必死な様子のVAVA-VI。 そして遂にVAVA-VIがデスワームに飲み込まれんとする時だった。 「なんてな!!!」 正に至近距離でVAVA-VIはアグレッシブベアから超電磁ナパーム砲を放った。 そして動きが止まるデスワーム。 「無駄じゃ無駄じゃ~!すぐに動き出すぞぉ~!!」 嘲るフィリア。しかし… 「だよなぁ!!」 デスワームの動きが戻る一瞬の間に何とVAVA-VIはデスワームの腕を掴んでデスワームの回転刃に突っ込んだのである。 「あれぇ……?」 デスワームの動きは戻った。 ただし敵であるVAVA-VIではなく自身の腕を飲み込んでいく。 通常の相手なら細切れに出来るデスワームだがかなりの防御力を誇る自身の腕はそうはいかず 回転刃は軋みはじめ、デスワームの胴体からは火花と煙が出てき始める。 そして… デスワームは派手に爆発四散した。 暫くすると爆炎からほとんど無傷のフィリアが怒りの形相で姿を現した。 「おのれぇ~よくもワシの努力の結晶を台無しにしてくれたな!!! じゃが本番はここからじゃ!!ライドアーマー乗りがライドアーマーより弱いなどと思わない事だな!!!」 「ああ、そのつもりだぜ。俺自身がそうだからよ…掛かって来やがれ!!!」 憤るフィリアにVAVA-VIは不敵に言い放つのであった… その頃バグズディメンションの最深部では… シグマ、ルミネ、リディプスの3人は次第に数を増やしていく蜘蛛型の巨大バグを蹴散らしつつ信仰していた。 ある地点に到達すると見るからに頑丈な扉が行く手に現れ、3人はその扉を潜っていく。 扉は何重にも存在しまるで向うの存在の危険性を物語っているようだった。 ある程度進んだ時、3人は確信する。 扉の向こう側の化物の脅威を。 「ぬうう!!これ程とは…!!!」 「何というエネルギー値…!」 「今まで倒してきた敵共はこぞって『最深部には悪魔がいる』などと言い残してきたが…この先にいる奴の事か…!!」 シグマ、ルミネ、リディプスは扉の遥か彼方からディメンションズマスターやフィリアとは比較にならない あまりにも強大過ぎるエネルギー値と禍々しい気配を感知していた。 思わず圧倒されかけながらも歩を進める3人だったがその時。 突如としてレプリロイドの体が噛み砕かれる音が向こう側から響いてきた。 その直後… 「まずいぞぉ~~~~!!!!こんなんじゃ全然足んねぇぞぉ~~~~~~!!!!!!!! もっともっと美味いもんを…喰わせろよぉ~~~~~~~っ!!!!!!!!!」 遥か彼方から、耳をつんざくような悪声が場の空気を震わせながら響き渡る。 それは3人に更なるプレッシャーをかけた。 「………」 暫し沈黙する3人であったが、最初に口を開いたのはシグマだった。 「お前達、この先の敵には勝てぬ、と思っておろうな?」 「「……!!」」 否定できないルミネとリディプスは歯噛みする。 そしてシグマは続ける。 「ワシは思っておるぞ…… …一人ではな…」 「…と、言いますと?」 ルミネが尋ねる。 「思い出しても見よ、エックスは常に自分より性能で劣る相手とばかり戦ってきたか? 奴は仲間との共闘や強き意志で自分より遥かに性能で勝る相手を何度も打ち負かしてきたではないか。 奇しくも今のワシ等は奴と同じ状況になった訳だ。 奴が出来た事にワシ等が出来ぬ筈が無かろう…」 「「………」」 暫し沈黙するルミネとリディプスだったがまずルミネが口を開いた。 「認めたくはありませんが確かに相手の力量は相当なものですね。 食欲だけの愚物を単独で御せない事実は耐え難いですが意地を張って単独で挑んで敗れるのもまた愚の骨頂… 我々は仲間などという生ぬるい関係ではありませんがここは助力しましょう…」 リディプスもそれに続く。 「私にも譲れない目的があり、その為に手段など選んでいられようか…然らば私も力を貸そう。 (全ては、マリノの為に…!)」 そして3人は扉の先へと進む。 かつてない、絶望へと向かって…

第十九話「無情」

機転を利かせ見事デスワームを撃破したVAVA-VI。 しかしそれが対フィリア戦のほんの前座に過ぎなかったことをこの直後彼は思い知らされる。 爆心地からほぼ無傷で出てきたフィリアは啖呵を切るや否や すぐさにVAVA-VIの…ライドアーマー「アグレッシブベア」の足元に潜り込んだ。 次の瞬間VAVA-VIは自身の体がライドアーマーごと浮かび上がったのを感じた。 フィリアが片手で彼をライドアーマーごと持ち上げていたのだ。 フィリアはすかさずライドアーマーに乗ったVAVA-VIを 人間のプロ野球選手の剛速球をも遥かに上回る速度で放り投げた。 程なくしてライドアーマーは壁に激突して砕け散った。 だがそこにVAVA-VIはいなかった。 「おーおー危ねぇじゃねーか…」 とうに脱出していたVAVA-VIはフィリアの背後で身構えていた。 「そこかぁっ!!」 フィリアは渾身の蹴りを繰り出しVAVA-VIはそれを腕でガードする。 暫し膠着状態となる両者だったが… 「キエエエエエェーッ!!!!!!!!!」 先にフィリアが仕掛け凄まじい速度の拳の連打と連続蹴りを繰り出してきた。 フィリアはVAVA-VIにリーチで遥かに勝り、一発の威力もその細い身体によらず重いものだったが VAVA-VIは辛うじて応戦する。 「それにしても…府に落ちねぇ… 何で元は非戦闘用で中身も腐りきったテメーがこれだけのバグと同化出来るのかが…な!!」 戦いながら問いかけるVAVA-VI。 フィリアはそれに戦いながら答える。 「ヒーヒヒヒ、元々バグリジェクターにはワシ自身が使用しても 感情に影響が及ばぬようプロテクトをかけておったのじゃがそれが上手く働いてくれたみたいじゃ。 おかげでワシは無限にバグと同化できるのじゃよ!! ま、ワシの性格がバグに…スタードリフターに合っていたのもあるかもしれんがのう」 「そういやここに来た時トルクが言ってたな、ここでは醜く汚らしく自分を通し続けた者が最後に笑うとかよ… それなら納得いくが…最後に笑うのは…この俺だ!!!」 「ほざけ!脳天カチ割ってくれるわ!!!!」 煽るVAVA-VIにフィリアはその長い脚で踵落としを繰り出すが… 「フォッシルヘッド!!」 VAVA-VIは頭突きを繰り出しこれを跳ね返した。 ダンクルードから入手した性能「フォッシルフォートレス」は物理攻撃への耐性を強化するだけでなく 頭突きの威力も受け継いでいたのだった。 「うわっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!!!」 よろけて片足で跳ね回るフィリア。 「隙あり!ゴールデンライト!!」 この隙を突こうとするVAVA-VIだったが… 「おおーっっと!!!!」 フィリアは両足で跳躍すると思うと背中の両側から光を発し、その光は徐々に形を成していく。 やがて光は蝶の羽根の形になり光が収まるとフィリアの背中には毒々しい模様の蝶のような羽根が出現した。 フィリアは羽根を羽ばたかせて上昇し、VAVA-VIの攻撃を躱した。 「フゥー…エックスとゼロとアクセル…そしてディバインバグ以外なら素手でも何とかなると思ったが…甘かったのう…」 上空で呟くフィリア。 「当たり前だ!!つくづくムカつく野郎だぜ… テメー見てると外にいたやたらとエックスばかりを評価する糞野郎共を思い出してムカムカするんだよ!!」 「そりゃそーじゃろ、お前エックスに負け続けてるんじゃからなぁ!! 違うか?違わないじゃろ!!?ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!!」 猛るVAVA-VIにフィリアは嘲笑で返す。 「だから…エックスと戦ってすらいねぇテメーに…それを言う資格は…ねーんだよ!フライトショット・Ω!!!」 VAVA-VIは上空のフィリア目がけて砲撃を放つが… 「バタフライグライド!!!」 フィリアは光弾をすり抜けるように躱しつつ地上のVAVA-VI目がけて高速で突っ込んできた。 「ぬおおっ!?」 激突の際両腕でガードするVAVA-VIだったがあまりの威力に息を飲む。 VAVA-VIはフィリアに押され後ずさりしていったがある時身を横に逸らし攻撃から逃れる。 フィリアは飛んできた方向をそのまま直進しつつ再度上昇した。 「それそれそれそれそれぇ!!!」 次にフィリアは滅多に手に入らない成虫のエクスプロージョンバグを大量投下してきた。 「ファイヤーマーレイン!!!」 これにVAVA-VIはファイヤーマーレインで迎え撃つ。 結果エクスプロージョンバグは着弾する前に上空で誘爆していった。 そんな状態が暫く続くとフィリアは地上に降り立った。 そして次の瞬間羽根が光り形を変え先端に砲身を携えた何対ものアームにその姿を変えた。 「デッドバースト!!」 フィリアはそれらの砲身から凄まじい連射速度の一斉掃射を開始した。 激しい攻撃ではあるが冷静に見てみると砲身は長大でフィリア本体から見てかなり前に突き出している。 即ち、懐ががら空きなのだ。 「こんなもん、距離を詰めちまえば…」 姿勢を低くし素早くダッシュしてフィリアの懐に潜り込もうとするVAVA-VI。しかし… 「甘いわ!!」 フィリアの声と共に背中の砲身が光り、今度は五本の指を持つ人の腕のような形状に変化した。 続いて自身と背中のアームの先端の掌に剣、槍、ハンマー、盾、斧、棍棒等々の様々な武器の形をした攻撃用バグが召喚され、 フィリアはそれらの得物を手にしてVAVA-VIを迎え撃つ。 「チッ、どうなってんだ、液体金属か?」 「残念残念不正解~♪正解はぁ~、一本一本は目に見えない極細マニピュレーターじゃ! 自在に形を変えられるから実質変わらんがのう!!」 思わず問うVAVA-VIにフィリアは嘲笑いつつ答える。 それからも暫く両者の間で激しい攻防は続く。 両者とも射程距離や互いの位置関係等の状況に応じた技を揃えており、 それらが激しくぶつかり合う。 そんなある時… 「中々…当たらねぇもんだな…」 「クゥゥゥ~猪口才なぁ~~~~~~っ!!!!」 互いに相手の攻撃に慣れてきた両者は相手に攻撃を躱されたり相殺されたりしてきて 中々有効打が与えられず勝負はズルズルと長引いて行ったのであった。 「…あ、そうだ、だったら死のダンスバトルを始めねぇか!?」 「何じゃと!?」 不敵に言い放つVAVA-VIにフィリアは怪訝そうに応じるのであった… 一方バグズディメンションの最深部にて… 意を決したシグマ、ルミネ、リディプスの3人は扉の向こうに進む。 どうやらこの扉は時空を裂け目を隔てていたようでその先には異空間が広がっていた。 そして…絶望が、そこにいた。 赤く光る8つの歪な眼、何もかもを噛み砕きそうな強靭な牙と顎、 外の世界とバグズディメンションで遭遇したどの敵よりも巨大なボディ、それを支える長大な大樹の如き8本の脚… その脚には嘲笑と憎悪の表情を思わせる人の顔のような造形が見受けられる。 胴体の背面も同様に嘲笑と憎悪の表情を浮かべた人の顔の形状をしていたのだが 巨大すぎて正面から対峙した3人にはそれが確認できない。 蜘蛛の姿をした最初にして最大、最強の巨大バグ…ディバインバグが3人の前に立ち塞がり、見下ろしていた… 「待っていたぞぉ~~お前達が来るのをよぉ~~… ディメンションズマスターを倒したって事は…さぞかし美味ぇんだろうなぁ~~~!?」 その醜い声を荒げてシグマ達に言い放つディバインバグ。 目の前の相手を餌としか見ていないディバインバグに対してシグマ達は足が竦むような…死が突き付けられたような感覚に曝されていた。 自分達はバグズディメンションで着実に強くなった。 出会った時のトルクからは自身を遥かに上回る力を感じたが 今の自分達は当時のトルクをも遥かに凌駕する力を手にしている。 しかし… それでも… 目の前にいるディバインバグからは出会った当時の自分達とトルク以上の力量差を感じずにはいられなかった。 だがしかし理解はしても納得はしないのが彼等であった。 「ディバインバグとか言ったな… 貴様に力があるのは認めよう。 だが同時にそれ故の慢心や驕りも見て取れるわ。 そこを突き…貴様の足元を掬ってくれよう!!!」 「如何に力があっても品性の欠片も無い貴方如き虫けらが私の視界に入るなどそれだけで罪です。 屍を晒しなさい…!」 「貴様はここの住人から『悪魔』と呼ばれていたが私は神… 神が悪魔に負けるわけにはいかんのだ…!」 シグマ、ルミネ、リディプスはそう言うや否やファイナルシグマW、第2形態、ゴッドリディプスに変身した。 それでもディバインバグとのサイズ差と力量差が縮まった感じがしなかった。 ディバインバグはそれ程の存在だったのだ。 「「「喰らえ!!!!!」」」 シグマ達は変身した直後、ディバインバグに集中攻撃を加えた。 喰らえばエビルスレイヤーなどひとたまりもなく、ディメンションズマスターとフィリアもただでは済まない強大なエネルギーの奔流がディバインバグを襲う。 そんな状態が何秒…何十秒…何分続いたのだろうか… エネルギーの浪費を抑える為、現状を確認する為3人が攻撃の手を休めた時だった。 辺りには煙が立ち込めており、それが晴れた時… 眼前の悪魔は完全に無傷で全く体勢を崩していなかった。 「気が済んだかよぉ~?」 ケロっとした様子で言い放つディバインバグ。 「やはり一筋縄ではいかぬか…!しかし、どこかに弱点がある筈…だ…!?」 尚も挑みかかろうとするシグマの胴体を、ディバインバグの脚が貫いていた。 「が…は…!!」 「俺に戦いを挑むっていう根性だけは立派だなぁ~ だったらその心を折ってやるよぉ~~~~っ!!!!」 自身やティターン、フィリアと比較にならない馬鹿力でシグマはディバインバグの脚で串刺しにされた状態のまま何度も、何度も地面に叩きつけられた。 「ぐあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」 そんな時… 「私をお忘れですか?」 ルミネが遥か上空からディバインバグを見下ろしつつ言う。 そしてその直後様々な箇所に狙いを定め光の雨を降らせ始めた。 しかしどこに当ててもルミネの放った光線はディバインバグの装甲にはじき返されていく。 「忘れてねぇよぉ~ずっと喰いたかったんだからよぉ~!」 そう言ってディバインバグはルミネ目がけて口からレーザーを放つ。 レーザーは瞬時にルミネのバリアを破壊しルミネを飲み込み大ダメージを与え始める。 「うううっ…!!ならば…パラダイスロスト!!」 ルミネはパラダイスロストを発動。 暗い部屋が更に暗くなりルミネは出現と消滅を繰り返し始める。 だがそれも一瞬。 次にルミネが姿を現すとディバインバグはハエ叩きでハエを叩き落とすが如く ルミネを空いた脚で叩き落としたのだった。 「うあああああっ!!!」 地面に激突したルミネは第2形態を維持できなくなり元の姿に戻った。 全身を激しく打ち虫の息である。 「まずはお前から食ってやるぞぉ~~~」 ディバインバグがルミネに狙いを定めた時、ルミネは胸から黒い影を放つ。 ヤコブではアクセルを気絶させ、バグズディメンションでもビビッドを倒す決め手となった奥の手である。 しかし… 「うめぇぞ~!何だこれ、美味すぎるぞぉ~~!!!!」 ディバインバグはそれを麺をすするかのように、スープを飲み干すかのように喜々として吸い込んでいく。 「そんな…!そんな…!」 自らの敗北を否応なしに思い知るルミネ。 同時にある考えが頭をよぎる。 自分が相手にしているのはこの先自分達より優れたレプリロイドが現れても それをも喰らい、糧にしていく存在だと… 単独で果てしなく進化を続け自分より古き世代はおろか新しい世代をも淘汰し続けていくと… 「(これが…世界の選んだ答えですか…?我々ではなく…この虫けらを選ぶとでも…!? まぁ…これが世界の意志なら…仕方が…無いでしょう…)」 DNAデータを吸い尽くされたルミネはそのような考えを胸に秘め、事切れた。 そしてルミネのボディからは彼が同化したバグがわらわらと這い出てきた。 宿主であるルミネからの感情やエネルギーの供給が断たれたと察したバグ達が同化を解除したのである。 これまでこの部屋以外の場所で死んだレプリロイドはバグをその場に残し その亡骸がこの部屋に転送されてきたのだがこの部屋で死んだ場合亡骸がその場に残るのである。 ディバインバグはルミネから離れたバグ達と同化し、ルミネの死体も頬張りだす。 「うめぇぞぉ~うめぇぞぉ~…新たな可能性を感じる美味さだぞぉ~…!」 そんな時だった。 突如ディバインバグの足元に穴が出現し、ディバインバグはそれにはまる。 ゴッドリディプスがメメントモリを発動させていたのだった。 「隙を突かせて貰ったぞ…」 穴にはまったディバインバグを見据えて言うゴッドリディプスだったが… 「何だよぉ~人の食事中に…よぉ~っ!!!」 ディバインバグは即座に穴から脱出し、上空高く跳躍した。 「何!?」 自身が逆に虚を突かれたリディプスにディバインバグは渾身のヒップドロップを見舞う。 「おおおおおおお!!!!!!!!」 ゴッドリディプスから体中のパーツが潰れていく嫌な音が響き渡る。 「ブロックバグぐらい持ってるんだよぉ~ 仮に俺が状態異常とかになってもお前じゃ俺を倒せねぇけどなぁ~」 「ほざけ、デウス・エクス・マキーナ!!」 肩の超フォースメタルでボディを再生させてから反撃を開始するゴッドリディプス。 しかし降り注ぐ隕石をものともせずディバインバグはゴッドリディプスの肩を見ながら言う。 「お前のこの部位が…特に美味そうだぞぉ~!」 そしてディバインバグは勢いよくゴッドリディプスの右腕を噛みちぎって喰らい始めた。 「ぬうう!!!だが、この負荷に、耐えらえる…か…!?」 ゴルゴダは超フォースメタルを奪おうとしてその負荷に耐えきれず自滅した。 …が、ディバインバグはそうはいかなかった。 「うめぇぞぉ~!肩肉最高だぞぉ~!こっちの肩も…貰うぞぉ~!!!」 負荷に耐え切るどころか更にパワーアップしたディバインバグは続いてゴッドリディプスの左腕も食いちぎって食してしまう。 「お…おの…れ…!!」 超フォースメタルを失ったゴッドリディプスは元の姿に戻り地に倒れ伏す。 「これで神とか笑わせるぞぉ~…ってな訳で次はお前を喰うぞぉ~!」 そう言ってディバインバグはリディプスにかぶりつく。 「(これが…これが君を欺いた私に課された罰だというのか…!? 君に会う事も叶わず蜘蛛の姿を持つ者の手によって果てる…なんて… せめて…私を忘れないでくれ…許されない方が… 忘れ去られるよりもいい… マリ…ノ…)」 リディプスはディバインバグの口の中で力尽き、飲み込まれた。 彼と同化していたバグもディバインバグのものとなった。 「うめぇぞぉ~うめぇぞぉ~…失恋の味はうめぇぞぉ~… さぁて、次は…んん?」 ディバインバグはシグマの刺さった脚の先端を見遣るとそこにシグマはいなかった。 ボディをプログラム化させて脱出していたのだ。 「ファントムディバイド!!!」 真上からディバインバグに斬りかかるシグマ。 それに対しディバインバグは避けるでもなく平然と受け切る。 「不意を突こうったって無駄なものは…無駄だぞぉ~!!」 ディバインバグは先程のようにシグマを前脚で刺し貫こうとする。 その刹那シグマは再度ボディをプログラム化させ攻撃を躱した。 それに対してディバインバグは… 「甘ぇぞぉ~、俺の中にはこれまでのイレギュラーのデータが入っていてよぉ~… 何の対処法も無いと思ったら大間違いだぞぉ~!」 そう言って口の中を発光させたかと思うと何とプログラム化したシグマを吸い込み始めた。 「何…!?」 シグマは再度実体化して脱出。 その後もシグマはディバインバグに攻撃を続けるも有効打が中々与えられない。 そんな時ディバインバグが口を開いた。 「お前達イレギュラーは外の世界で『ハンター』とやらに狩られていたみたいだけどよぉ~、 お前は飽くまで狩られる対象なんだよぉ~… 狩る者がハンターから俺に変わっただけだぞぉ~ 俺は外に出たらハンターも狩ってやるけどよぉ~!!」 言い終わるとディバインバグは全ての脚でシグマを滅多打ちにし出した。 一発の威力からして半端ないのだが、それが高速連射で放たれる為 すぐにシグマは全身を損傷し動かなくなった。 「では頂くぞぉ~!」 ディバインバグはシグマにかぶりつき、咀嚼し始めた。 その時。 「口の中なら…どうだぁっ!!」 シグマがディバインバグの口内でチャージショット、指からのレーザー、額からの光弾、 紫のキューブを一斉に放ち始めた。 「痛ぇぞぉ~、だけど丁度いい刺激だぞぉ~」 シグマの懸命な反撃もディバインバグにとっては食べ物に例えると「熱い」「辛い」程度のものに過ぎなかった… そしてディバインバグが咀嚼を続けシグマの最期が近付いてきた時… 「(こうなったら…このボディを…乗っ取ってくれるわ!! このファイナルシグマWより遥かに高性能なボディなら…)」 ドップラー事件の時のように今度はディバインバグのボディを乗っ取ろうと画策し始めるシグマ。 「ああ、俺のボディを乗っ取ろうとか考えても無駄だぞぉ~ そもそもバグリジェクターがシグマウィルスに耐性を持っているんだからよぉ~」 「…!!」 ディバインバグの言葉に絶句するシグマ。 いよいよ彼に最期の時が迫ってきた。 「今回は…これまでのようだが…ワシは…滅びぬ!! この世界に君臨するまでは何度でも…何度でも…な・ん・ど・で・も!!!! 蘇ってくれるわ!!!ぐああああああああああ!!!!!!!!!!!」 そう言い残してシグマは本来の姿に戻り、絶命してバグと分離した。 「うめぇ!!うめぇ!!うめぇぞぉ~っ!!! 次の飯が…待ち遠しいぞぉ~っ!!!!」 シグマ達3人を完食してもディバインバグの食欲は収まる事を知らない。 寧ろ増大していくのであった… 同じ頃VAVA-VIは肩の大砲から固いブロックを出現させ、 そのキューブは発射口の近くで浮遊していた。 「リモートブロックだ。チンパニオンから手に入ったらしい」 VAVA-VIはそう言うと出現したブロックに向けて掌をかざす。 するとブロックの表面にあるランプが光った。 それを確認したVAVA-VIはフィリアがいる方向目がけてブロックに手をかざした方の腕を振った。 それに呼応してブロックは目にも止まらぬ速さでフィリア目がけて一直線に飛んでいった。 「当たるか!!」 その速さから喰らえば無傷では済まないと咄嗟に判断したフィリアはこれを回避。 ブロックはそのまま飛んでいき壁に激突すると思われた時。 VAVA-VIはブロックがある方向に向けた腕で一度だけ手招きする仕草をした。 するとブロックが飛ぶ方向を変換し再度フィリアに迫る。 フィリアは背中のマニピュレーターを砲門に変形させこれを撃ち落とす。 「まぁこれは、序の口だぜ!」 VAVA-VIはそう言って次に2つのブロックを出現させた。 そして両方の手をそれぞれのブロックにかざし、それらを微妙に異なる方向に飛ばす。 これらのブロックをフィリアは回避、あるいは破壊する。 ブロックが壊されるとVAVA-VIは新たなブロックを出現させ、それを飛ばす。 両手でブロックを操作するVAVA-VIの身振り手振りはあたかもダンスをしているかのようで 見る者によっては華麗にも暴力的にも見える事だろう。 それらを上手く対処しながらフィリアは面白そうに言う。 「これは面白い、それじゃワシからは…これじゃ!!」 フィリアは空中を浮遊する4体の攻撃用バグを召喚する。 「これはビットバグと言って…体から離れたワシの手のようなもんじゃ」 そしてフィリアからのシグナルを受信したビットバグ達が光弾の高速連射を開始した。 それを見たVAVA-VIは走り回りながらペースを崩さずブロックを操り続ける。 「ああ、言ってなかったが俺が操れるブロックは2つだけじゃないぜ!!」 VAVA-VIはそう言って第3、第4のブロックを呼び出しそれらも自由自在に操作する。 それを対処しながらフィリアは言う。 「ワシが呼び出せるビットバグも4体だけではないぞ!! しかもマニュアルとオートの使い分けが可能じゃ!!」 そしてフィリアは更にビットバグを召喚し、その一部はフィリアの指示と関係なく上空を飛び回りながら光弾を撒き散らしていく。 「どうでもいいが頭上ががら空きだぜ!!」 上空のブロックをフィリアの頭上目がけて飛ばすVAVA-VIだったが… 「どこががら空きかのう!?」 フィリアは頭の髪のような触手を伸ばし、VAVA-VIに弾き返す。 「そうそう、ブロック以外にも気を付けな!」 飛んでくるブロックの軌道を逸らしたVAVA-VIは次にブロックを操作しながらも肩の大砲、マシンガン、脚部の兵装からの攻撃を乱れ撃ちする。 「それはお互い様じゃい!!」 フィリアはそう言ってビットバグを操りながら髪や背中のマニピュレーターからの攻撃も緩めない。 「それと、ブロックは飛ぶだけじゃねーぜ!!」 VAVA-VIはフィリアに迫り来る今ブロックを操作している手を一度握りしめ、 次に濡れた手の水を弾き飛ばすかのように素早く開いた。 するとそのブロックは硬い破片を撒き散らして爆ぜた。 フィリアはこれらを全て防ぎ切る事が出来ず、一部の破片を喰らって大ダメージを受ける。 「やるのう、じゃがビットバグも弾を飛ばすだけじゃないぞい!!」 フィリアの声と共にビットバグの一部がそれ自体が弾丸のようにVAVA-VI目がけて高速で飛来する。 「そうかそうか、じゃあここで更にブロックを増やそうか!!」 「ならワシも更にビットバグを増やすぞ!!」 部屋中にブロック、ビットバグ、弾丸、光弾、ミサイル、触手、マニピュレーター等が 隙間なく飛び交い、ぶつかり合う。 VAVA-VIとフィリアの両者による「ダンスバトル」は次第に白熱していくのだった… その頃トルクは… 「まさか隠し部屋にあんなレアなバグがあるとはな…」 トルクもまたケルベロイドのデッドコピーを撃破した後に出現した隠し部屋で 何種類かの超レアバグを手に入れていたのだった。 そんなトルクにとって最早道中の敵は敵では無く出会い頭に撃破していく。 やがてトルクはバグズディメンション最深部に辿り着いた。 そして最後の扉の前に到達した時… 「ハハ、流石に最後の敵なだけあるな… だけどよぉ、前進以外の選択肢なんざ今更俺には…無ぇんだよぉーっ!!」 ディバインバグのエネルギー値を察知したトルクは流石に一瞬引くが 意を決して扉の向こうへ歩を進めた。 そこにはシグマ達3人を完食して尚食欲旺盛なディバインバグが嬉々として待ち構えていた。 「待ってたぞぉ~お前、色々派手に暴れてたそうだなぁ~ だったらその分美味いんだろぉ~? 喰ってやる…喰ってやるぞぉ~っ!!」 「大人しく喰われてやる道理は無ぇ、代わりにこれを…喰らいやがれぇーっ!!」 トルクは素早くエゴイスティックビーストでディバインバグの胴体付近に回り、 そこに先端を巨大ドリル状にしたトルクロッドを突き立てた。 ドリルはディバインバグの胴体に吸い込まれていき、粉塵も撒き散らすがディバインバグは微動だにしない。 違和感を感じたトルクはトルクロッドを離すがその時驚きべき事実に気付く。 何とディバインバグ自身は完全に無傷でドリルだけが損耗していたのだった。 「チッ、一筋縄ではいかねぇか…うおっ!?」 トルクが呟く中ディバインバグはトルクロッドを先端からかじり始めた。 当然ディバインバグのパワーはトルクの比ではなかった為振り払う事が出来ず このままではすぐにトルク自身に到達してしまう為トルクはトルクロッドを手放すしかなかった。 こうしてトルクは開戦早々にトルクロッドを失ったのだ。 「クソ、ストレートドライブ!!!」 次にトルクは全身にエネルギーを纏った状態でエゴイスティックビーストで突っ込む。 しかしディバインバグはモーションの小さい頭突きでこれを弾き返してしまう。 「野郎…!」 全身に大ダメージを負いながらもトルクはエゴイスティックビーストを駆り、 ディバインバグの周囲を飛び回りながらエゴイスティックビーストの兵装からの攻撃を加えていく。 しかしろくにダメージも与えられないままディバインバグの巨大な前脚でハエ叩きの如く叩き落とされてしまう。 これによりエゴイスティックビーストは機能を停止。 トルクロッドに続いてトルクはエゴイスティックビーストも失ってしまった。 「まだ…まだだ!!」 しかしそれでもトルクは諦めず、立ち上がる。 そんな彼に止めと言わんばかりにディバインバグは口からレーザーを放つ。 その時だった。 トルクの前方に巨大な鏡のようなバグが出現したのは。 それはディバインバグのレーザーを弾き返し、初めて彼に有効打を与えた。 「痛ぇ…痛ぇぞぉ~…」 「ミラーバグと言ってな…先程手に入れた蝶レアバグの1つだ… どうだ、自分自身の攻撃の味はよぉ?」 トルクは得意気に言い放つ。 「だったらビーム系の技を使わなければいいだけだぞぉ~!」 ディバインバグは前脚でトルクに殴り掛かる。 するとトルクは腕でガードするポーズを取った。 「腕でガード出来る訳が…何!?」 衝撃の瞬間トルクの腕の周辺にシールドが発生し、ディバインバグの前脚に攻撃の衝撃を跳ね返してきた。 「な、何ぃぃいいい!!??」 「カウンターバグの力だ、物理攻撃も跳ね返せるのさ」 驚愕するディバインバグにトルクは告げる。 「だけどよぉ…全部の攻撃に対処できる訳が…無ぇだろぉ~っ!!!!」 ディバインバグは全ての脚による連続攻撃を繰り出した。 「確かに…そうだな…だが最大限返してやるよぉっ!!!!」 トルクのこのカウンター技は攻撃を喰らうギリギリのタイミングでないと効果を発揮しない。 早過ぎても遅すぎても駄目なのだ。 一方でディバインバグは脚が8本あり文字通り手数が多く、 その動きもトルクをもってしても容易に捉えられるものではない。 トルクは衝撃を跳ね返す事でディバインバグにダメージを与えていくが 防ぎ切れない攻撃を喰らい自らも重傷を負っていくのだ。 しかしトルクの戦意はそれでも折れる事が無い。 「(これだ…この生きるか死ぬかというギリギリの時こそ…生を実感できるぜ…!! 故郷での死んだような生き方を…あの男が壊してくれた…! あの男が…俺を作った…!! それ以来俺は自分の道を最後の最後まで走り続けるって決めたんだよぉーっ!!)」 トルクとディバインバグの激しい攻防戦は暫く続いたが、 ある時からディバインバグは落ち着きを取り戻してきた。 「必死な所悪いけどよぉ~、俺の脚以外にも注意を向けろよなぁ~…」 「何だと!?」 ディバインバグが落ち着き払った様子でトルクに言った直後だった。 「な…!!あ…!!!!!!!!」 あらぬ方向からトルクに途轍もない衝撃が加わり、トルクの全身は砕け散った。 ディバインバグはいつの間にか尻からワイヤーを出しており、 その先端に自身の何倍も大きく重いスクラップの塊を括り付け、それをバイオレンの鉄球のように振り回していたのだった。 「く…くそっ…!」 ディバインバグはトルクにかぶりつき、噛み砕き始めた。 「まだだ…最期の…最期まで…俺は…!!」 上半身だけになりながら、更に頭だけになってもトルクは懸命に抵抗を続けた。 「うめぇぞぉ~!うめぇぞぉ~!絶望が…無念が…美味みをさらに引き立てるぞぉ~!」 とうとうトルクはディバインバグに飲み込まれてしまった。 「もっと…もっと喰いてぇぞぉ~っ!!」 ディバインバグの食欲は依然として止まる事を知らない。 一方VAVA-VIとフィリアは… 未だに激しい技と技の応酬を展開していた。 そんな中フィリアが1つの攻撃を避けようとした時だった。 「グハッ…!!」 反応が遅れて避けきれなかった。 「よくもやってくれたな!!お返しじゃ!!」 反撃に転じようとしたフィリアだったがあっさりと防がれてしまい逆に自分が追撃を受ける。 「ボゲエッ!この…!!」 それからVAVA-VIの被弾率が下がっていき、逆にフィリアの被弾率が上がっていった。 しかもどういう訳か攻撃を喰らう度にフィリアの受けるダメージ量が上がっていく。 そして遂にその時は訪れた。 「ギャン!!ブヘ!!アダ!!!ヘンビャ!!!」 VAVA-VIの操るブロックが悉くフィリアに命中しだしたのだ。 「(やっと効いてきたか…)」 この逆転劇に何があったのか… 単純にフィリアが技の応酬に付いていけなくなった訳ではない。 真相はVAVA-VIの入手した超レアバグの内の3種類が威力を発揮したのだ。 技の応酬が始まって間もない頃、VAVA-VIは第1のバグを使った。 それは「スローバグ」といって一定時間時間の流れを遅く感じる事が出来るようになるバグである。 これによりVAVA-VIはほとんどの攻撃を見切る事が出来るようになり、 第2のバグを使う機会を伺っていた。 第2のバグは「ホールバグ」。 空間に2つの穴を開け、一方の穴に入れた物がもう片方の穴から出てくる仕組みである。 VAVA-VIは戦いの最中手元に入り口の穴を出現させ、フィリアの死角に出口の穴を出現させては パンチ系の技で攻撃するのを度々繰り返していたのだ。 しかしそれだけではこの逆転劇は生まれない。 それを生んだのは第3のバグの力である。 第3のバグは「スクラッチバグ」といって同化する事で パンチにパワー、スピード、防御力の全てを削る性能を付加させるのである。 即ちフィリアは殴られる度に弱体化していったのであった。 「さぁ~て、と…テメーに最も屈辱的な死をくれてやろう…」 息も絶え絶えのフィリアを見据えてにやけた口調で言うVAVA-VI。 「クレイジーディスコード!!」 まずVAVA-VIはケルベロイドから手に入る肩部兵装からの技を放つ。 「ほぇぇぇぇ…」 肉体と精神の感覚が麻痺し、内部機関を破損させるフィリア。 「ニードルネード!!」 「痛ぇぇぇぇえええええ!!!!!!!!」 大量のトゲを巻き上げるサボテニクス由来の脚部兵装ニードルネードで フィリアは全身穴だらけになりながら上空高く飛ばされる。 「リーサルテリトリー!!」 「ギィアアアアアアアアアア!!!!!!!」 全身から一定時間破壊光線を放つクマムッシュの光線に曝され続けるフィリア。 「ボルケーノマイン!!」 フィリアが落下する先にVAVA-VIはフジツボット由来の脚部兵装を放つ。 これは地面に着弾すると敵が踏むか一定時間経つとマグマを噴き上げる地雷である。 そして噴き出すマグマに吹っ飛ばされるフィリア。 「あぢぢぢぢぢぢぢぢ!!!!!!」 再度落下するフィリアだったがVAVA-VIは彼が地面に到達する位置にダンクルード由来のグランドファングを仕掛けた。 「もう…やめ…」 全身を両側から挟まれ身動きが取れなくなるフィリア。 そんな彼にVAVA-VIはシーガルム由来のグリードブーメランを放ち 彼を切り刻みつつアイテムを奪い続ける。 「ワシが…悪かった…勘弁…」 とうとうフィリアは命乞いまで始める。 「どうだテメーのくだらねぇ目的で造ったレプリロイドの技を受ける気分は!! エックス達を必要以上に怖がり… 俺達や自前のレプリロイドをモルモットのように扱い… そんで自分の身が危うくなったら命乞いかよ… エックスも含めた俺が戦ってきた奴等や曲がりなりにも信念持ってたエビルスレイヤーに比べると テメーなんざ糞だよ糞、ハハハハハハハハ!!!!」 嘲笑いながらフィリアを甚振るVAVA-VIだったが… 彼の頭上には巨大な拳が出現していた。 それは肘から下まである腕で、肘に近くなるにつれて徐々に消失しているように見える。 「(調子に乗るのもそこまでじゃ!この『インビジブルアームズ』のパワーは束ねた本数に比例する… 全てのマニピュレーターを束ねて放つ『ジャッジメントフィスト』の威力は今までの技の比ではないぞ…!)」 フィリアは背部にあるマニピュレーターの付け根ではそれらを束ねず、途中から全てのマニピュレーターを束ねていたのだった。 「(喰らえい!!!!)」 フィリアがその巨大な拳を振り下ろした正にその時。 「ああ、調子に乗って痛い目見るのはよくある話だからよ、 勝利を前に油断する程俺は抜けちゃいねーぜ」 VAVA-VIはひょいとこれを躱す。 「あ…」 「死ね、ピンポイントエクスキュージョン!」 モーズリー由来の手を指差しの形にした状態で放つロケットパンチ系の技、 ピンポイントエクスキュージョンを放つVAVA-VI。 この技は点における攻撃力が極めて高くそれはフィリアの動力炉を貫いた。 「……!!……!!」 その時、床のあちこちで爆発は発生した。 「ヒーヒヒヒ…もしもの…時の為に…捕食の層の… あちこちの床に…爆弾をしかけて…おいたんじゃ… 全ての床が抜けた時…必然的に…ディバインバグの元に…到達する…! ディバインバグの強さはワシなどとは…比べ物に…ならん!! アレに勝つことが…出来る…かのう…!! ヒーヒヒヒヒヒヒヒ…!!!!」 フィリアは声を絞り出した後、アイテムを落として消滅した。 どこまでも身勝手を地で行くマッドサイエンティストの最期である。 そして暫くすると床が抜け、VAVA-VIは落ちていく。 真っ黒な奈落の底に… 悪魔が待ち受ける無間地獄に…

第二十話「覚醒の時」

「こりゃ丁度いい、このままゴールまで一直線だぜ!!」 今わの際のフィリアが床を起爆させた事によって真下へと落下していくVAVA-VIだったが彼はすぐさま背中のバーニアを噴かし体勢を整えると不敵に笑う。 しかしその余裕と闘志はほんの束の間のものに過ぎなかった。 ある高度まで降下した時、VAVA-VIは巨大な空間の裂け目を通過した。 それと同時にこれまで感じた事もない程のあまりにも強大無比なエネルギー反応を感知したのである。 「な…!!」 その圧倒的なエネルギー値は勿論の事、来る者全てを喰らい尽くさんとするおぞましい気配に飲み込まれそうになるVAVA-VIは言葉を失う。 そしてVAVA-VIはその気配の発生源が何なのか確信していた。 大蜘蛛の巣窟突入前にファイルバグで見た映像と、散り際にフィリアが放った言葉から。 下に目を遣ると視界に飛び込むは見る方向によって憎悪の表情にも嘲笑の表情にも見える巨大な顔。 映像でも見た「それ」の最大の特徴の1つである。 「ディバインバグ…か…成程、こうして直に見るとデカいな…」 ディバインバグのサイズと気配に圧倒されつつもVAVA-VIは降下を続ける。 しかし彼の視界に入るディバインバグの姿は次第に大きくなっていくものの彼自身は中々地面に到達しない。 「おいおいおい、どれだけデカいんだよ…!」 かつてファイルバグで見たディバインバグの巨大さはかなりのものだったが、今実際に目にしているのはそれを遥かに凌駕していたのだ。 スローバグを作動させてもいないのに、VAVA-VIは地に降り立つまでの時間を実際よりも遥かに長く感じていた。 やがてVAVA-VIは地面に到達し、あまりに巨大なディバインバグを見上げる。 意志を持つ災厄。理不尽の権化。最悪という言葉が形を成した存在。 VAVA-VIがディバインバグに感じた印象はそれだった。 奴は歩くだけで…否。声を発するだけで…否。呼吸をするだけで…否! そこにいるだけで、攻撃になってしまう。 少なくとも人間なら奴と対峙しただけで心肺停止を起こし、通常規格の戦闘用レプリロイドもショックで機能停止してしまうだろう…それが容易に想像できる。 VAVA-VIはそのように感じていた。 彼自身体中が危険信号を発している。 そんな彼を他所にディバインバグは口を開く。 「待っていたぞぉ~VAVAぁ~…いや、今はVAVA-VIだったかなぁ~… お前が最後の侵入者だろぉ~…!? 俺はなぁ、ここに送られてきた強者という強者は粗方食い尽くしてしまってよぉ~… もう待ち切れねぇ、早く…食わせろよぉ~…!」 「………!!」 ディバインバグから放たれるプレッシャーと大音量の悪声に圧倒されそうになるVAVA-VIは暫し沈黙する。 そして何とか声を絞り出す。 「俺は…外でやらなきゃいけねぇ事が…ある…ぶっ倒さなきゃいけねぇ…奴が…いる… どんなに叩いても…甘い理想ばかり語る…気に食わねぇ奴さ… 俺は…かつて奴に…敗れて…死んだ… だが運命って奴は…そう簡単に俺を死なせなかった… 何の因果か知らんが…俺は2度も3度も現世に舞い戻り…復讐のチャンスを得た… …だけどよ、その都度奴に、返り討ちに遭った…!」 この時から話し始めた時と比べ、VAVA-VIの口調は徐々に徐々に強くなっていく。 「で、今回は…このバグズディメンションとやらで復活したんだが、今回俺を復活させた奴はくだらねぇ考えの為か 俺をそう簡単に奴と引き合わせちゃくれなかった… 実験だか何だか知らねぇが邪魔な奴等を次から次へと送り込んで来やがったよ… 俺は…そいつらを片っ端からぶっ潰し、つい先程その張本人も始末してきてやった… 全ては俺がまた外に出る為の糧だったのさ… フィリアの糞野郎の次はテメーだ、外に出る為の、踏み台になって貰うぜ!!!」 最終的に大喝するVAVA-VIの最後の一言にディバインバグは反論する。 「嘘つけぇ~、フィリアの体はここに来てねぇぞぉ~!」 「そういやバグズディメンションで死んだ奴は死んだ後消えたがそれはテメーに食わせる為にフィリアがワープさせてたって事だな。 無駄にプライドの高い奴の事だ、テメーみてーな虫けらに自分の体を食われるのは嫌だったから自分だけはどこか別の場所に死体が行くようにしてたんだろ。 ともかく…奴からの最後の試練、乗り越えてやるよ!!!」 完全に闘志を復活させたVAVA-VI。 彼もまた、ディバインバグの凄まじさを理解はしても納得はしない者だったのだ。 「面白れぇぞぉ~!さっき俺が食った奴等もそうだったが…その無意味な自身、砕いてやるよぉ~!!」 対するディバインバグは闘志…というよりも驕りと食欲を発揮して言い放つ。 感情の種類は違えど、互いに相手を倒したいという想いを胸に睨み合う両者。 憎悪、苛立ち、殺意、征服欲、食欲、破壊衝動、加虐心…等々様々な感情がこの場を支配し、同時にエネルギーも高まっていく。 そして…先に仕掛けたのはVAVA-VIだった。 「リモートブロック!!!」 VAVA-VIはディバインバグ目がけて無数の硬いブロックを高速で飛ばし始める。 飛ばす方向は全て同じである為、VAVA-VIの手の動きはさしずめ連続張り手のようである。 そしてそれらのブロックは尽くディバインバグに命中しては砕け散る。 対してディバインバグであるがフィリアですら避けに徹していたブロックを微動だにせず平然と受け続ける。 全く手応えというものが感じられない。 「(やはり…かなりの防御力だな…)」 VAVA-VIがそう思案している時だった。 ディバインバグは口を開けると飛んでくるブロックを口の中に受け止め、次の瞬間力強く噴き出してきたのだ。 噴き出されたブロックはVAVA-VIが飛ばす以上の速度で飛来し、ミサイルの如く降り注ぐ。 「く…!!」 回避が不能と見たVAVA-VIは咄嗟にホールバグで空間に穴を開け先程とは反対の方向に避難。 「(流石に桁外れの化物だなこりゃ…だが今の俺には超レアバグがある。 持久戦にはなるかもしれんが…地道に…)」 出口の穴から出て反撃に転じようとするVAVA-VIだったがここでまた驚愕させられる事となる。 自分はディバインバグの背後を取ったはずだが相手はもう既に自分の方に向き直っているのだ。 「俺が食った奴の中に瞬間移動する奴もいたけどよぉ…それに対処出来ねぇ程…俺はのろくはねぇんだよぉ~!!」 ディバインバグはそう言ってVAVA-VIに向けて脚の一本を振り下ろす。 「うお!!」 VAVA-VIは再度空間に穴を開けて攻撃を回避するが穴から出た矢先にディバインバグはもう次の攻撃に移っているのだ。 「速過ぎる…ならスローバグ発動だ!!」 スローバグを作動させ動体視力を極限まで高めたVAVA-VIだったが… 「何かしたかよぉ~!?」 「馬鹿な…スローバグ使ってこの動き…だと!?」 時間の流れを遅く感じる事が出来るようになるスローバグは、確かにその機能を発揮した。 しかし超高速で移動する物体がスロー再生でもその動きが捉えられないように、VAVA-VIの目に映るディバインバグの動きは スローバグの効果を以てしても十分超高速だったのだ。 「ええい、こうなりゃヒットアンドアウェイだ!」 「ゴールデンライト!」 「ファイアマーレイン!」 「ヘキサインボリュート!」 「リーサルテリトリー!」 穴から穴へ瞬間移動してその都度攻撃を繰り出そうと試みるVAVA-VIだったが先程と同じく通常の兵装や攻撃用バグ等では全くダメージを与えられない。 そればかりか回避も防御も困難極まりないディバインバグの攻撃が矢継ぎ早に襲い掛かってくるのだ。 ディバインバグは動体視力においてもスローバグを使ったVAVA-VIを凌駕しておりスクラッチバグの効果を付加したパンチを放つ隙も与えてくれない。 またホールバグで開けられる空間の穴は一度に一組である事と穴を開ける際に予備動作がある事は既にディバインバグに見切られてしまっている。 その為VAVA-VIは次第に防戦一方になっていき、ついには攻撃を喰らい始めた。 「ぐぅああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」 防御力やLEを半端にバグで強化していたVAVA-VIは即死は免れたものの全身打撲により瀕死の重傷を負ってしまう。 それを回復アイテムの役割を持つバグで治癒して再度挑みかかるVAVA-VIにディバインバグは無慈悲に返り討ちにする。 攻撃を喰らう度にVAVA-VIは身体の一部が吹っ飛ばされたり刺し貫かれたり焼き尽くされたりした。 それをVAVA-VIは治癒しては立ち向かう。 常人どころか歴戦の猛者でも心が折れていっそ死を望むはずなのだがVAVA-VIはなおも食い下がる。 相手を絶望させる事を望んでいるディバインバグは苛立ちを感じ始めたのか、声を荒げ始める。 「俺はよぉ、最強なんだよぉ~っ!! 他の誰よりもよぉ~っ!!! だのにフィリアの奴は俺をこんな所に閉じ込めて出してくんねぇんだよぉ~っ!! エックスとゼロとアクセルは俺よりも強いだのここに送られてくるレプリロイド共を食い尽くすまでは出る時期じゃねぇだの、訳分かんねぇ事ばっか言いやがってよぉ~っ!! だからお前等を食って…力を付けて出てやるんだよぉ~!! そして外の連中も食って食って食いまくってやるんだよぉ~!!!」 ディバインバグもまた、エビルスレイヤー等と同じく外の世界に出る事を渇望していたのだ。 そして自分は最強であると確信していた。 その自信の根拠はバグズディメンションでディバインバグとして生を受けてある程度まで成長した後、 データ上自分より戦闘力がある者がバグズディメンション内にも外の世界にもいなくなったからというだけではない。 それよりも遥か昔… 自身を構成するバグがスタードリフターだった頃まで遡る。 スタードリフターは広大な宇宙を果てしなく長い時間をかけて旅してきた。 その際エゴイズムが渦巻き争いの絶えない星を見つけては身勝手な感情を食い物にし、 時にはバグズディメンションにおけるインターバグのような進化を遂げては最終的に星を滅ぼし、別の星へと渡ってきたのだ。 ある時は肉食獣と合体して巨大怪獣になった。 またある時は四六時中強烈な雷と酸性雨を撒き散らす雷雲になった。 またある時は感染すれば長い期間惨たらしい症状と地獄の苦しみを伴って死に至り、 治療は絶対に不可能な病原体になった。 隕石とも融合し意志のある彗星として複数の星々を壊して回ったりもした。 それらは自身の記憶ではない。 己の前身か、その祖先が残した己の中に眠るデータに過ぎない。 しかしこれらのデータと比較しても今の自身はそれ以上の力を得た事を、彼は本能的に知っているのだ。 そして今回新たな星に辿り着いたものの自身がいるのはその星の中に作られた極々狭い空間であり、出会う者もそこの住人のほんの一握りに過ぎない事も聞かされていたのだった。 ディバインバグは続けて言う。 「レプリロイドを直接食う時はなぁ、絶望させてから食うのが一番だがさっきの連中といいお前と言い身の程というもんを知らず俺相手に絶望しやがらねぇ… 最強であるこの俺相手に、まだ希望が持てんのかよぉ~っ!!??」 尚も撃たれ焼かれ貫かれては回復して挑みかかるVAVA-VI。 「(確かに、奴は最強だ…普通なら反則のスローバグやホールバグを使っても勝ち目はねぇ… ならば…更なる反則技を使うまでの事!!奴で最後なんだ、もう出し惜しみする必要はねぇ… 出番だぜ!!)」 VAVA-VIはそう思案していた。 また彼はディバインバグが怒りで我を忘れつつある事を踏まえ慎重に、慎重にタイミングを見計らっていた。 そしてある時… VAVA-VIは通常のバグだけが通れる極々小さな穴を手元の空間に開けた。 同時にその出口の穴はディバインバグの視界には収まらない、背面の付近に出現させたのだ。 穴の小ささとディバインバグの激昂により、穴はディバインバグの視界には入らなかった。 というよりも、人間サイズかそれ以下の者がVAVA-VIの近くに寄って彼の手元を凝視しなければ穴を見る事は必然的に不可能なのである。 これには相当の集中力が要り、VAVA-VIは神経を限界まで研ぎ澄ませた。 「(今だ…!!)」 遂にタイミングを掴んだVAVA-VIはとあるバグを穴の中に放った。 バグは即座にディバインバグの背面を捉える。 その結果… 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 痛ぇ!!!痛ぇ!!!!痛ぇぞぉ~っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ディバインバグは全身をスパークさせ、口からは変な液体を吐き出し苦しみ悶え始めた。 「流石に応えたようだなぁ、相手の体力を半分にするデスサイズバグはよぉ!! この際だ、全部使ってやるぞ!!くたばりやがれぇーっ!!!!」 デスサイズバグとは、捕食の層でVAVA-VIが入手した超レアバグの内の1つである。 効果は対象のその時のLEを半分にする事だが使い捨てタイプの為、使用すると消滅してしまい、 VAVA-VIの手元には4体しかいなかった。 そしてVAVA-VIは間髪入れず残りの3体もまとめて使用する。 「グオオオオオオ!!!!ギャオオオオオオオオ!!!!!!!グロボロオオオオオオオォオオオオオン!!!!!!!!!!!」 1体目のデスサイズバグはディバインバグのLEの50%を削り、2体目は25%を、3体目は12・5%を、最後は6・25%を削った為 ディバインバグは合わせて93・75%ものLEを削られたのである。 「このバグだけではどんな雑魚も殺す事は出来ねぇからな、これも…喰らいやがれ!!!」 そう言ってVAVA-VIは新たな使い捨て超レアバグを放つ。 その名もリベンジバグ。受けたダメージを攻撃に変換する効果がある。 「ボゲエエエエエエエエエェーッ!!!!!」 先程のトルクとの戦いの時と同じく自らの攻撃を利用される形になったディバインバグは更なる大ダメージを受けのたうち回る。 しかし体力の大半を奪われたとはいえそこは桁外れの体力・防御力を誇るディバインバグ。 そう簡単に死にはしない。 「ならくたばるまで残りのリベンジバグを全部くれてやるぜ!!」 VAVA-VIが止めを刺しにかかった時だった。 「調子に…乗るんじゃ…ねぇぞぉ~っ!!小細工使う奴には…これだぞぉ~!! チートキャンセラー!!!」 体勢を立て直したディバインバグはリベンジバグを回避し、その直後VAVA-VIに向けてシグナルを発した。 これを受けたVAVA-VIは… 「何、『正々堂々素手で勝負しろ』? 『小細工無しじゃ勝てないのか』? 上等じゃねーか、今のテメーはそれこそ虫の息、テメー倒すのには拳で十分だ!!」 言葉に例えると上記のような内容のシグナルを受信したVAVA-VIはスクラッチバグの効果を付加した拳でディバインバグを殴り始める。 そのあまりに太長い脚の1本の、さらにその爪の先端を、ひたすら懸命に殴り続ける。 彼は気付いていなかった。 自分がディバインバグの術中に嵌まっている事を。 チートキャンセラーとは、相手の脳波を刺激してあまりに特殊な攻撃や防御を無効化してしまう技である。 相手の力がどれだけあっても特殊な効果で倒してしまう反則的な能力をもつ敵を、 自分が最も得意とする力勝負に持ってくる事が出来るのだ。 現状を把握しているVAVA-VIは自らの勝利を疑わなかったためこの技の影響で拳で決着を付けようとしたのだ。 暫くディバインバグの脚を殴り続けているとVAVA-VIに異変が発生し始める。 ディバインバグが拳でダメージを受ける事が無いのに対しVAVA-VIの拳は殴れば殴る程損傷していくのだ。 先程のトルクロッドのドリルのように。 それはディバインバグの装甲があまりに硬い為である。 フィリアのテストにおいて、余程の攻撃力がない限りディバインバグは殴っても殴った者の拳の方がダメージを受け、 刃で斬ろうとしてもその刃が刃こぼれを起こし、火器で攻撃しようにもその火器が弾切れしてもディバインバグ自身は無傷で耐え抜く事が証明された。 ディバインバグは一定以上の力を持たない者には負ける事が出来ない。 絶大な攻撃力を誇るファイナルシグマWですら防御力の劣る口の中にやっと多少のダメージを与えられる程である。 それでもVAVA-VIはスクラッチバグの効果が出てくる事を信じて必死に殴り続けている。 己の体力と身体を徒に削りながら。 ディバインバグはこれが愉快でたまらなかった。 「止めだぞぉ~!!今度こそ絶望しろよぉ~!!」 ディバインバグはVAVA-VIに殴られている脚を上げると彼の胴体を刺し貫いた。 そしてそのまま地面にその爪の先端を刺して徐々に徐々に地に脚を喰い込ませていった。 「まだ…!!まだだ…!!」 回復用のバグがエネルギー切れを起こしたVAVA-VIは暫くすると上半身と下半身が分断された。 それでも懸命に殴り続けている。 「だからいい加減…諦めろよぉ~!!」 尚もディバインバグは脚を地面に深々と刺していき、胴体を貫かれて上半身と下半身に分かれたVAVA-VIは今度は押し潰されていく。 「こんな…所で…死んで…た…ま…る…か…俺…は…あい…つ…を…」 最後の最後まで抵抗し続けたVAVA-VIだったがやがて彼の体にも限界が発生。 ペシャンコのグシャグシャといった姿になり果てたVAVA-VIはとうとう力尽きてしまった。 「やっとくたばったぞぉ~!!最後まで絶望しなかったのが気に入らねぇけど、喰ってやるぞぉ~!!」 VAVA-VIだった物体にかぶりつかんとするディバインバグ。 この時VAVA-VIは時間の流れをスローバグ使用時の何倍も長く感じていた。 しかし自らの動きもまた然りで、しかも損傷具合から文字通り手も足も出ない。 彼は感じ始めていた。 自分と同化しているバグ達が自分から離れていくのを。 いつも感じていた、特定のバグとの同化を解除する時の、身体から装備品を外す感覚に似たものを、今は全身で感じ取っていた。 その時だった。 「(待てよ…)」 死に行くVAVA-VIは己から離れんとするバグ達に向けて心の声で言う。 すると彼の脳裏に返事が返ってきた。 無論言葉ではないが、心ではっきり感じる事が出来るシグナルを、バグ達は送信したのだ。 「(死に行くお前に興味はない。我々は新たな宿主…いや同胞と1つになる。 最強の力を持つ者の一部になれる…我が種としてこれほど素晴らしい事があろうか)」 バグ達の「言葉」を訳すと上記の内容になる。 「(ふざけんな、俺はまだ、くたばっちゃいねぇ… それに奴はただ単に力があるだけの奴だ、俺が倒したい奴は…あいつは…力だけでは測れない何かを持っていやがる… だからよ…この程度の壁は超えられないと…意味が…無ぇんだよ…! その為にもお前等が必要だ、だから最後まで俺に利用されやがれ!!)」 VAVA-VIの「声」にバグ達の反応は変化を示す。 「(何と勝手な…いや…その勝手さこそ我々の求めるものかもしれんな… フィリアともディバインバグとも違う狂気、憤怒、悪意…悪くないぞ… 美味い!お前の感情は美味い!!そこまで言われるとその感情、さらに欲しくなった! だが忠告しておこう、力は貸すがそれに振り回されたらその時は、我々は捕食者となり、 お前を喰ってやるぞ)」 VAVA-VIは心の声で応じる。 「(へっ、その時は俺がお前等を喰らいかえしてやるよ…ん、何だ…この感じは…!?)」 VAVA-VIは心境に違和感を覚え始めた。 それと同時にバグ達も奇妙な反応を示し始める。 「(ろくでもない感情を喰いたい?世の中を欲望まみれにして滅ぼしたい?これは、俺の意志なのか!?)」 VAVA-VIは己がバグが、スタードリフターが望んでいる事を共有し始めた事に気付く。 「(ロックマンエックスなるレプリロイドに復讐したい?ライドアーマーで暴れ回りたい…? これは、我々の種の望みなのか?)」 バグ達は元々VAVA-VIの持つエックスへの復讐心とライドアーマーへの思い入れを共有し始める。 VAVA-VIと集団で意志を持ち始めたバグ達の意識と記憶、欲望が絡まり合い、混ざり合い、そしてその想いは次第に強まっていった。 「(俺はVAVA-VIなのか、それともバグなのか…)」 「(我々は巨大バグなるものになろうとしているのか、それともこの者に吸収されているのか…)」 「「((これもう分かんねぇな…))」」 そして想いを共有したVAVA-VIとバグ達にこれまで大量のバグと同化してきたレプリロイド達と全く異なる変化が生じる。 「それ」が終わると同時にVAVA-VIはディバインバグの視界から姿を消す。 「何だ、消えたぞぉ~!!」 楽しみにしていたご馳走が突如消え、パニックと苛立ちに陥るディバインバグ。 その直後、彼はこれまでと比較にならない値に上昇したVAVA-VIのエネルギー反応を感知し、その方向に目を遣る。 そこには緑色を基調に虫の頭部のようなヘルメット、虫の腹部や脚部のような節々、不気味な虫そのもののような両肩の砲身等 元より見られた身体の至る所の虫を彷彿とさせる要素がより強くなったVAVA-VIが宙に浮いていた。 死ぬ間際のVAVA-VIの想いを拾ったバグ達がパワーアップしVAVA-VIのアーマーに変化を生じさせたのだ。 「何だ何だ、虫モチーフの奴等みたいになっちまったじゃねーか… さしずめバグフォームってとこか?」 力と闘志を漲らせるVAVA-VIが不敵に言う。 「喰い損ねたのには腹立ったけどよぉ、却って美味そうになったぞぉ~! 今度こそ喰ってやる…喰ってやるよぉ~!! それにフィリアが言ってたけどよぉ、希望に満ちた時の絶望はもっと深くなるぞぉ〜… だから今度こそ…絶望のどん底に叩き落としてやるよぉ〜っ!!!」 ディバインバグもディバインバグでその食欲は止まる事を知らない。 暫く睨みあう両者は再度激突した。 「ピンポイントエクスキュージョン!!」 VAVA-VIは先程までは通用しなかった技の一つ、ピンポイントエクスキュージョンを放った。 何故か今は通用する気がしたからである。 果たしてその予感は的中した。 「ぐ…ほ…!」 飛ばした腕の指先がディバインバグの装甲に突き刺さり、確かなダメージを与えたのだ。 「やはり手応え有り…だな! お次はコレだ、喰らえ!!!」 次にVAVA-VIは通常の攻撃用バグのサーチバグやエクスプロージョンバグ、ミサイルバグ等を次から次へと放ち出す。 結果… 「痛ぇ、痛ぇ、痛ぇぞぉ〜っ!!!」 従来なら全く通用しない筈の通常のバグも今ならディバインバグにダメージを与えられるようになっていた。 「普通に攻撃すりゃ傷付く程度に成り下がっちまった今のテメーなんぞ絶望する価値も無ぇ!! このまま一気に畳みかけてやるよ!!フライトショット・Ω!!」「ぐえ!!」 VAVA-VIは流れに乗ったかのようにディバインバグに攻撃を加え始める。 そして攻撃を喰らう度にダメージを負うディバインバグだったが… 「ゴーゲッターライト!」「ぬおお!?」 「バンザイビートル!」「ぶ!」 「リモートブロック!」「チッ…」 「グリードブーメラン!」「……」 慣れて来たのか、徐々に攻撃を喰らう際のディバインバグの反応が薄くなっていく。 そしてある時だった。 「ファイアストリーム!!」「…って言うかよぉ…」 火柱を放つVAVA-VIにディバインバグが何か言いかける。 この時VAVA-VIは気付いていなかった。 自分のすぐ側に巨大な「壁」が迫って来ている事を。 その「壁」の正体はディバインバグの尻から出されるワイヤーで繋がれた超巨大かつ超重量のスクラップの塊だった。 ディバインバグはいつの間にかスクラップ塊の繋がれたワイヤーを振り回しており、 やがてスクラップ塊は技を放ち続けるVAVA-VIに激突した。 「飯の分際で…粋がるのも…いい加減にしろよぉ〜っ!!!!」 激突の瞬間ディバインバグの怒号が響き渡る。 「な…!あ…!?」 そして凄まじい速度で吹っ飛んでいくVAVA-VI。 全身を砕かれそうな程のダメージを受け、それまでの自分なら即死していた事を確信する。 事実先程トルクはこの攻撃を喰らって五体をバラバラにされてしまっている。 全身を襲う激痛に耐えつつ辛うじて立ち上がるVAVA-VIはここでまた恐ろしい事態を目の当たりにする。 かなりの距離を、それも一瞬で吹っ飛ばされた筈の己の眼前にもう既にディバインバグが殺気を剥き出しにして佇んでいたのだった。 「ちょっと強くなったから最初は面食らったけどよぉ、こんなの俺にとっちゃかすり傷だぞぉ〜! 俺とお前は所詮『食う者』と『食われる者』なんだよぉ〜っ!!」 ディバインバグの言葉の通りVAVA-VIはバグフォームが発動し大幅にパワーアップしたのだがそれでも依然として両者の力の差は歴然だった。 例えて言うなら人対羽虫が人対蚊…せいぜいミツバチになっただけのようなもの… しかも今のディバインバグは従来のようにただ食べ物が運ばれてくるのを待っているだけの怠け者ではなく 自ら獲物を狩りに行く捕食者としての様相を呈している。 先程の空間に極小の穴を開ける事による不意打ちをする隙など与えてはくれないだろう。 だからと言ってVAVA-VIは諦めない。 「(こりゃ持久戦になるな…)」 VAVA-VIがそのように考えつつも身構えた時だった。 両者が想像だにしなかった事態に直面したのは。 「覚悟しろよぉ~…お…おぉ…おおぉおお…!!??」 今まさに襲い掛からんとするディバインバグ突如呻き声を上げ、急にビクンと震え出す等その挙動にも不自然さが生じ始めた。 その直後… 「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!痛ぇ!!!!!!痛ぇ!!!!!!!!!!!! 腹が!腹が痛ぇぞぉ~っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ディバインバグは腹痛を訴えながら脚をばたつかせ、転げ回る。 あたかも食あたりを起こしたかのように。 「何が起こったんだ!?俺は何もしてねーぞ…!!」 ディバインバグがそのあまりに巨大な体で、あまりに高速で暴れ回る為VAVA-VIはひとまず様子を見る。 すると程なくして… 「オ゛エ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ェ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛――――ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 しばらくの間苦しみもがいていたディバインバグが口から何かを吐き出した。 吐き出された物体は地に衝突することなく空中で静止した。 その正体は身長は4mはあろうかという獣人型レプリロイドでボディカラーは紫であり2本の角を生やしている。 「あれは…」 VAVA-VIはレプリロイドの姿に見覚えがあった。 そう、彼が思い描いたのはトルクの愛機、エゴイスティックビーストでディバインバグの口から現れたレプリロイドは そのエゴイスティックビーストが人型になったような姿をしていたのだった。 そんな彼を他所にレプリロイドは力なく息を荒げるディバインバグに向かって得意気に笑いだす。 「ハァーハッハッハッハッハ!!!!思い知ったか、俺を食うとなぁ、食あたりを起こすんだよ!!!!」 彼の声と雰囲気から察したVAVA-VIは思わず問いかける。 「トルク…なのか…!?」 レプリロイドはVAVA-VIの方に向き直るとボディが箱の蓋のように割れて上半身のみが後方に倒れ、 中からトルクの顔を覗かせて答えてから再度顔をエゴイスティックビーストが変じたアーマーに収納すると問い返す。 「ああ、トルクだ!そういうお前はVAVA…VIだろ?」 VAVA-VIは獣人型レプリロイド、改めトルクに答える。 「そうだけどよ…」 そして… 「「その姿はどうしたんだ!?」」 思わず同時に互いに問いかけてしまう両者。 まず先に答えたのはVAVA-VIの方だった。 「おっと質問が被っちまったな…俺の今の姿だがつい先程俺はこのディバインバグに殺されかけた。 それでバグ共が俺から離れようとするもんだから俺は最期の力を振り絞って奴等を呼び戻そうとした。 その結果俺の感情を拾ったバグ共がパワーアップしそのバグが俺をパワーアップさせて今に至るワケよ」 「ククククク…ハァーハッハッハッハッハ!!!!こいつは傑作だ!!流石だぜ…やはりそうでなくてはなぁ!!!!」 これを聞いたトルクは大笑いする。何かに納得しているようにも見えた。 「…?…」 それにVAVA-VIが怪訝そうにしていると次にトルクが先程の問いかけに答える。 「ああ、俺のこの姿だが俺も奴に敗れ、食われた… その結果、俺が持っていたバグの1つ『リボーンバグ』が効果を発揮したのさ。 捕食の層の倉庫で手に入れたバグでなんでもくたばった時くたばる前よりパワーアップさせて復活させる効果があるみてぇだ。 エゴイスティックビーストと合体しているのは同じく捕食の層で手に入れた『アダプターバグ』の効果でこっちはライドメカやサポートメカの変形チップの効果があるらしい。 それで『リサイクルバグ』で復活させたエゴイスティックビーストと合体してこの姿になった…名付けてエゴイスティックウォリアー! この力を得た俺はさっきまで奴の体内を探検しながらバグを集めてたんだが、如何に奴でも体内の方は脆くてよ、ちょっと暴れ回ったら吐き出されちまったぜ!」 その時、2人は眼前のディバインバグがいつの間にか姿を消していた事に気付く。 同時に上からディバインバグの大音量の悪声が聞こえてきた。 「俺を無視してんじゃねぇぞぉ~っ!!!」 ディバインバグはその圧倒的な質量によるヒップドロップを繰り出していたのだ。 この技でゴッドリディプスは瀕死の重傷を負わされた。 「上か!」 咄嗟にVAVA-VIはホールバグで回避したが何故かトルクは構えをとった状態でその場から動かなかった。 そしてその直後バグズディメンションに入って以来最も信じ難い光景を目撃する。 衝突の瞬間トルクの全身が一瞬光ったかと思うと彼は何と超重量かつ超怪力の筈のディバインバグを素手で弾き返したのである。 「ぎょわぁあああああ〜っ!!!!!!!!」 ディバインバグは落ちて来た方向とは間逆の方向の真上に向かって飛んでいき、やがて落下した。 「やられたらやり返す…倍返しだ!!」 得意げに言い放つトルク。 無論カウンターバグの力で相手の攻撃力を逆に跳ね返した訳だがこの時トルクはある事を理解していた。 それはエゴイスティックウォリアー発動時はカウンター技が有効となる時間が2倍になっている事、 そしてもう1つ、その時間の丁度真ん中にカウンター技を発動すると受けた攻撃の威力を2倍にして返せる事である。 その情報の発信源は彼に宿るカウンターバグそのものだった。 ディバインバグはこれにより甚大なダメージを受けたのだが未だ決定打にはならず落下の直後立ち上がる。 「この野郎ぉ〜、また俺の力を逆に利用しやがったなぁ〜っ! ズルをする奴にはチートキャンセラーだぞぉ〜〜っ!!!!」 怒ったディバインバグはトルクに向けてチートキャンセラーを発動した。 シグナルが届く範囲にはVAVA-VIもいる。 しかし… 「あぁ!?シグナルの類か!?んなもん着信拒否だ!!!」 そう言ってトルクはチートキャンセラーを無効化した。 バグの力でシグナルの種類を察知したトルクの意志を彼と同化しているバグ達が拾い、一致団結して弾き返したのである。 チートキャンセラーのシグナルは途轍もなく強力なのだがトルクと同化しているバグ達も今の状態では従来よりパワーアップしており、それによって無効化出来たのだ。 「同じく、俺もな!!」 同様にしてVAVA-VIにも効かなかった。 「畜生畜生畜生ぉぉおおおおお〜〜っ!!何で…何で最強の俺が…ここまでやられなきゃ…なんねーんだ…よぉ〜っっ!!!!!!!」 ムキになって全ての脚で連続攻撃を繰り出そうとするディバインバグだったが… 「さっきのもレアなバグの力だな…中々面白いもん見せて貰ったが… 相手の攻撃を利用出来るのは今の俺も同じだぜ!!!」 そう言ってVAVA-VIはディバインバグの攻撃が届く範囲に巨大な穴を8つ出現させた。 その結果… 「ぐげええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」 穴の出口はディバインバグの胴体付近に現れ彼自身の胴体に次々と突き刺さっていく。 しかしそれすら止めを刺すに至らなかった。 自分の脚が自分の胴体に突き刺さり始めた事を理解したディバインバグは 脚が深く突き刺さる前に攻撃を中断したからである。 「お…の…れ…」 息を荒げつつ立ち上がるディバインバグ。 「しぶてぇな…使い捨てだからとっといたがもう仕方ねぇ、 これでも喰らいやがれ!!!」 実はトルクも使い捨て超レアバグを何種類か持っており、 その中の3種類を一気に放った。 「ぐぅああああああぁぁぁあ〜!!熱いぞぉ〜!痺れるぞぉ〜!苦しいぞぉ〜!」 ディバインバグは全身を炎と雷に包まれて苦しみのたうち回り出した。 「どうだタイプ別のカースバグの効果はよ!! これでくたばるのも時間の問題だぜ!」 トルクの放ったカースバグとは超レアバグの1つで使うとそれ自体は消滅する代わりに 相手が死に至るまで継続してダメージを与える効果がある。 3種類の亜種が存在し相手を炎で焼き続けるタイプF、スパークさせてダメージを与え続けるタイプT、体力を削り続けるタイプPがある。 しかしディバインバグは桁外れの体力もさる事ながら耐熱性、耐電性も相当なもので中々死が訪れなかった。 「おいおいまだくたばらねーのかよ…ならアレしかねーな… テメー倒せば終わりなんだろ!?最後のリベンジバグを…喰らえーっ!!!」 VAVA-VIはリベンジバグを放ち、それは彼自身の開けた空間の穴に向かっていく。 穴の出口は勿論ディバインバグに続いている。 「やっとだ…やっと外に出られるぜ…!」 「まぁここでの暮らしもいい思い出に…なるのか…?」 「嘘だ…最強の俺が負けるなんて…そんなの嘘だぞぉ〜!!!!!!」 VAVA-VIとトルクは自分達の勝利を、ディバインバグは自身の敗北を確信していた。 その時だった。 「おぉ〜っと、そうはいかんのよぉ〜!!」 どこからか聞き覚えのあるいやらしい声が響いてきて 同時にリベンジバグが穴に入る前に見覚えのあるバグで阻まれた。 そのバグはビットバグであり、リベンジバグを受け止めると大爆発を起こした。 リベンジバグは穴に入る前だった為穴の近くにいたVAVA-VIとトルクは爆風で吹っ飛ばされてしまう。 「何…!?」 「何が…起こった!?」 VAVA-VIとトルクは着地して声のした方向に目を遣ると、そこには先程VAVA-VIに撃破されたはずのフィリアが宙に浮いていた。 その姿は全身から煙を吹き、火花を散らせ、身体の至る所に眼帯、包帯、絆創膏、ギプス等を連想させるバグが巻き付いているという痛々しいものだった。 「ヒーヒヒヒ、お互いに随分と雰囲気が変わったのう!」 フィリアは2人を見下ろし嘲笑を響かせる。 「フィリア!テメーとはテクノピア以来だなぁ!!!!」 フィリアと因縁のあるトルクが怒号を響かせる。 「あートルクか…そういやそんな奴もおったのう。 言っとくがお前なんぞテクノピアでワシ等に逆らったアホ共の1人という認識に過ぎんわい。 あの時お前を倒してから歯向かうアホはめっきり減ったが別のアホの所為でワシ等は追い詰められ…現在に至る訳じゃ…」 最初は得意気だったが最後は憎々し気に言うフィリア。 トルクは返す。 「ケッ、あんなの自業自得だ!それにな、世間の目だの建前だの平和だのを気にして自分を押し殺すのが利口だというならな、俺はアホで結構だぜ!!」 次にVAVA-VIが問う。 「どういう事だ!テメーあの時アイテム落として消えたじゃねーか!」 これにフィリアは嘲笑を交えて答える。 「インターバグを造ったのは誰だと思っとる!ワシ自身とお前等全員に仕込んでおいた、死ぬと自動でここに転送されるバグをワシは死ぬ前に手動で起動させたんじゃよ。 ワープした先はワシの研究室、アイテムを落としたのは死を偽装する為じゃ。 まんまと引っかかりおって、バーカバーカバーカ!!!! 詳細はここにあるからくれてやるぞ!!」 フィリアは1体のファイルバグを手元に出現させて真下に放り投げた。 「ファイルバグ…か…」 このファイルバグからは記録された情報以外のシグナルは出ない事を即座に感知した2人はバグの中のデータを見る。 真相はこうである。 フィリアはディバインバグの研究とインターバグの研究を同時進行する為にスパイダーズスレードのシステムを開発した。 しかしディバインバグの成長が思いの外早過ぎたため急遽彼をバグズディメンション最深部に作った異空間に隔離したのだ。 何故ならフィリアはバグズディメンションで試したい事が色々あり、強大になりすぎたディバインバグがそれらを試す前にバグズディメンションのエリアを破壊し尽くす事や ディバインバグが外に出てしまいエックスとゼロに倒される事を危惧したからである。 効率よくディバインバグに食事を与える為フィリアは自身も含めたスパイダーズスレードの構成員と罪人レプリロイド達に 転送装置の役割を担うバグ「ワープバグ」の特殊版を秘密裏に同化させておいた。 このバグは原則としてディバインバグのいる異空間への片道切符であり、インターバグ開発者のフィリアは例外であり、フィリア以外この事実を知る者はいない。 そして宿主の死と同時に宿主と同化していた他のバグを伴ってディバインバグの元へと転送される。 フィリアはバグズディメンションでディバインバグと同時にスパイダーズスレード構成員や罪人レプリロイドを育てては競い合わせるのという目的もあったため ワープバグが同じ宿主と同化したバグの情報を認識し、ディバインバグの元へと転送するまでの間に時間のラグが発生するようにした。 その為これまで罪人レプリロイドやスパイダーズスレード構成員などここで死んだ者は全てのアイテムを落としたわけではない。 宿主が死んだ場所で落とされなかったアイテムの残りはディバインバグの元へと宿主の死体ごと転送される。 その割合は原則として50%で10%程の誤差がある。 この為ディバインバグはバグズディメンション内のレプリロイドが死ぬ度に膨大な量のアイテムも手に入れてきたのだった。 それと同時に同じだけの悪意や狂気も拾ってきた為想像を絶する化物と化したのである。 フィリアは続けて言う。 「いや、最初は世界が滅びるならワシ自身はどうなっても構わんとか思っとったが やっぱ死にたくないしぃー!負けるのもムカつくしぃー!!それにどーーーーーーしても試したい事があるしぃー!!! ってなワケで今回の対応を取らせてもらったワーケー!! ワシにはある仮説があっての、ワシがこんなになっても生きとるのもその仮説を裏付ける証拠の1つなんじゃよ… ヒーヒヒヒヒヒ!!!!!!!!!!」 「野郎…」 「ケッ!」 自らの体も実験台にするようなフィリアの言葉に2人は嫌悪感を覚える。 そんな中次にフィリアに声をかけたのはディバインバグだった。 「フィリアぁ~…助けてくれよぉ~…」 「おおスマンスマン…可哀そうに…お前の全身の傷も、この忌まわしい炎も電気も毒も何とかせんとのぉ…」 フィリアはそう言ってバグを使ってディバインバグのダメージを回復させ、全身を蝕む炎と雷と毒も消し去ってしまった。 そしてフィリアはディバインバグに問いかける。 「ディバインバグよ…奴等に勝ちたいか?」 「当たり前だぞぉ~!最強の俺に絶望しないどころかここまで追い詰めたのは許せんぞぉ~!!」 「奴等を食いたいか?」 「それも当たり前だぞぉ~!強くなってる分美味そうだし、今倒すと今度こそ深い絶望を与えてやれるぞぉ~!!!」 ディバインバグの返答に再度フィリアは問いかけ、ディバインバグもそれに答える。 その先のフィリアの言葉はこの場にいる誰もの想像を超えたものだった。 「ならば…ワシを食え!」 これに対しディバインバグはその食欲を剥き出しにして言う。 「いいのかよぉ~?本当にいいのかよぉ~?ずっと…ずっと我慢してたんだぞぉ~!! 仮に食おうとしても変なシグナルで食欲が萎えちまうしよぉ~!!」 ディバインバグはろくでもない性格と夥しい数のバグで絶大な力を得たフィリアを心の底では食いたいと思っていた。 しかし彼の言うシグナルとフィリアから自分がいなければ外に出る事も飯を食う事も出来なくなると言い聞かされそれを信じた事で実行せずにいたのだ。 「ほう、やはりワシがバグに食われなかったのはプロテクトの力じゃな!ならばそれは解除しよう! さあ、ワシがワシの中のバグに食われる前にお前が食うのじゃ! 遠慮はいらんぞ、これで一つどうしても気になる事が確かめられるのじゃからなぁ!!! ヒーヒヒヒヒヒ!!!」 「させるかよ!!!」 VAVA-VIとトルクは空間の穴に向けて一斉に技を放ち出すが、体力の回復したディバインバグに尽く防がれていく。 そしてディバインバグはフィリアにかぶりついた。 「うめぇぞぉ~!!うめぇぞぉ~!!!今までで…一番うめぇぞぉ~っ!!!!」 ディバインバグは狂喜してフィリアを食い、急激にそのエネルギーを増大させていく。 「ヒーヒヒヒ!!!ヒーヒヒヒヒヒヒ!!!!最後にして最大の実験じゃあーっ!!!!!」 フィリアは食われているのに喜び、そのどこまでも汚らしく正気の欠片も感じられない感情はVAVA-VIとトルクに十分すぎるほど伝わってくる。 ただでさえ強大無比なのにそれをさらに超越した何者かになろうとしているディバインバグ。 そんな彼を前にした2人はある決意を胸に秘めていた…

第二十一話「桃色の蜘蛛」

最強とは、これ以上強い存在は有り得ないという事。 最悪とは、これ以上悪い事態は有り得ないという事。 最強より強く最悪より悪い存在… そんな存在など認めたくなかった。 信じたくなかった。 現れてほしくなかった。 そう思うVAVA-VIとトルクを他所にその「有り得ない存在」が今、目の前に降臨した。 変身が終わり、光が収束し、その存在は姿を現す。 色調が緑から毒々しいピンクに変わった以前より更に巨大化したボディ。 そのボディにいくらか追加された突起物や装飾。 そして頭部に生やした触角と背中に生やした蝶の羽根。 以前より遥かにパワーアップしたディバインバグが2人に無慈悲な現実を突きつけたのであった。 「おおおおおおおおお!!!!!!!! 力が漲ってくるぞぉ~!!!!!食欲も湧いてくるぞぉ~っ!!!!!!!! この力でお前等と、外の奴等を…喰らい尽くしてやるぞぉおおおおおお~っ!!!!!!!!!!!!!」 以前を超える大音量でディバインバグは雄たけびを上げる。 そして次の瞬間… 「ヒーヒヒヒ、実験大成功じゃ!!!!」 VAVA-VIとトルク、そしてディバインバグ自身はディバインバグの中からフィリアの歓喜の声を耳で聞くのではなく頭で感じ取る。 フィリアの確かめたい事とは、バグへの精神転送だった。 というのもそれを裏付ける現象がフィリアの前で起こった事があったからである。 バグは宿主が死ぬと宿主から離れるのだがそうしたバグの中で稀に生前の宿主と似たような行動様式をとるバグがいる事にフィリアは気が付いた。 その宿主が凶暴ならそのバグは凶暴性があり、大人しかったらバグも大人しくなり、宿主が好きだった物には興味を示すという事だ。 調べてみるとそれらのバグは宿主の生前の記憶をいくらか有していた。 フィリアはバグが宿主の感情のみならず「魂」を丸ごと拾ったのではないかと考えたが こうしたバグは宿主の記憶の大半を失っており知性も通常のバグに毛が生えた程度であったため これらのバグが死んだ宿主の生まれ変わりと断じるのは難しかった。 フィリアの考えではそれはバグの容量不足によるものだった。 故により高性能のバグと同化した宿主が死んだ後、その宿主から離れたバグを調べても結果は芳しくなかった。 そもそも「それ」を思いつく者が中々いなかった、という可能性も大いにあった。 そこでフィリアは従来のディバインバグの研究やバグズディメンション各エリアでの 罪人レプリロイドと自らが制作したレプリロイドを使った実験に力を入れ、 バグへの精神転送に関する実験は二の次三の次にしていったのだ。 それは地道で気長な作業だったが今回フィリアが戦いに敗れた事で とうとう自身を実験台に実験の遂行に踏み切ったのだ。 実験遂行に踏み切った根拠は自身とディバインバグが膨大な数のバグと同化している事、 そして自身がバグへの精神転送を思いついている事だけであり、確証も何もなかった。 しかしフィリアはディバインバグに食われる際「空き領域」の多い高性能バグに自身のソウルを吸収させて見事実験を成功させたのだ。 尚、シグマはウィルスとしてディバインバグの体を乗っ取ろうとしたが それ自体は不可能であったもののバグの1体にソウルを移す事はもしかしたら出来たかもしれない。 しかしディバインバグもフィリアもシグマのソウルを宿したバグの存在を感知できない為、 ディバインバグの中にシグマがいるか否かは誰も知る由も無い。 「ぶっちゃけこの体を思いのまま操りたいというのもあったがこれ以上の特等席はないわい! これからワシ等はバグを愛好する者…バグフィリアと名乗らせて貰うぞ、ヒーヒヒヒヒヒ!!!!」 フィリアはディバインバグ、改めバグフィリアの体内から嘲笑を響かせる。 「それはともかくよぉ~、俺は早くこいつ等食って外に出たいんだよぉ~」 バグフィリアの中のディバインバグの人格がフィリアのそれに言う。 「よお~し、ではまずこの異空間の出口を作ってやるとしよう」 フィリアがそう言うと上空の空間の裂け目がバグフィリアが通れる程に大きくなった。 「これなら、俺でも出れるぞぉ~!!」 バグフィリアは喜々として背中の巨大な羽根を羽ばたかせ上へと急上昇していく。 その勢いは凄まじく飛び始めてすぐ捕食の層の天井をぶち抜き蹂躙の層に達し、 さらに時間を空けず同様に蹂躙の層、制裁の層、無法の層の天井もぶち抜き外に出て バグズディメンション全域を見下ろした。 「出れた!!出れた!!!出れたぞぉ~っ!!!!!!」 歓喜の声を上げるバグフィリア。 「次はあいつ等を…食ってやるぞぉ~! これで…外の世界にも出られるんだろぉ~!?」 「ああ、出してやろう!!」 バグフィリアの中でディバインバグがフィリアに言う。 そして次にバグフィリアは急降下した。 降下に掛かる時間もほんの一瞬でありバグフィリアは床付近に到達すると同時にVAVA-VIとトルクを睨み据える。 「お前等を絶望させてから…食ってやるぞぉ~!!」 再度2人に向かって大音量の悪声を響かせるバグフィリア。 これに対しVAVA-VIとトルクは身構える。 「来るぞ…!」「ああ…!」 まず最初にバグフィリアは渾身の体当たりを喰らわせてきた。 これをVAVA-VIはホールバグで、トルクは本来攻撃用の技であるストレートドライブで回避する。 そして今度はVAVA-VIとトルクが反撃に出る。 「おらああああああ!!!!!!!!!」 「喰らいやがれぇーっ!!!!!!!!」 VAVA-VIは両肩の砲身と腕、膝の兵装からありったけの技を放ち、 トルクは額、両目、胸部、両腕などの兵装全てに一斉に火を噴かせる。 当然の如くそれらは全くダメージを与えられない。 「何じゃ何じゃ、ヤケクソになったか!?」 今更全く役に立たないであろう通常攻撃を懸命に放つVAVA-VIとトルクを嘲笑うフィリアだったが… 「言ってろよ、これには…」 「当てる事に、意味があるんだよ!!」 ある程度攻撃を当てたVAVA-VIとトルクはそう言うとVAVA-VIがホールバグでバグフィリアの背中の上に移動した。 そしてVAVA-VIの周囲にエネルギーフィールドが発生する。 エネルギーフィールドがバグフィリアを補足した時だった。 時間が止まり、トルクがVAVA-VIのすぐ近くに瞬間移動し、 両者がバグフィリアにかつてない勢いと威力で猛攻撃を加えだしたのだ。 ダブルアタックバグ…超レアバグの中でも高性能なバグの一つで 効果はヤコブ事件の時でハンター達が繰り出すダブルアタックが可能になるというもの。 極めて優秀なバグで使い捨てですらないがスタンドプレーでは全く役に立たないバグである。 「痛ぇぞぉ~っ!!」 「クゥゥ~油断したわい!!」 手応えは十分でバグフィリアの中でディバインバグとフィリアの両者は歯噛みする。 「ええい、仕切り直しじゃ!」 「同じ手は食わんそぉ~!」 バグフィリアは反撃を開始しVAVA-VIとトルクはそれに果敢に応戦する。 「20m砲を喰らえ!!」「これは…速過ぎる!!」 20mの砲弾を立て続けに放つバグフィリア。 対するVAVA-VIとトルクは砲弾に攻撃を当てようとしたものの 砲弾の飛ぶ速度があまりに速過ぎた為回避に専念する事になってしまう。 「フォーメーションミサイル!!」 続いてバグフィリアはまるで戦闘機のように編隊を組むミサイルを発射。 「これならコンボ数が稼げるぜ!!」 ミサイルは砲弾に比べ速度はゆっくりだった為ダブルアタックの準備を許す事となる。 「今のうちに回復を…」「させるか!!!」 互いに隙を伺い、回復しようとするなら妨害しようとしつつ技を繰り出す。 両勢力間の意地の張り合いと技の応酬は白熱していきいつしかそれは地表に到達する。 そしてバグズディメンションの8つのエリアを駆け巡りながら次々とエリア中を破壊していく。 自身がこれまでせっせと作ってきた各エリアを破壊し続ける事を フィリアは気にも止めなかった。 メインの人格ではないにせよ強大な力を振るえる自分に酔いしれているというのもあったが 目の前の敵を倒す事に躍起になっているというのもあった。 考えようによってはバグズディメンションの8つのエリアで裁かれるレプリロイドの罪状は 全てフィリア自身に当てはまるものなのかもしれない。 色魔の砂漠…フィリアは性欲も強くテクノピアでは罪を犯した女性や逆らう女性に卑猥な行動をとった。 悪知恵の迷宮…これは言わずもがなである。 盗人の港…フィリアはバグリジェクターを使ってテクノピア市民から膨大な量の金品を巻き上げた。 堕落者の学び舎…フィリアはテクノピアを裏で不正がまかり通り 一部の者のみが甘い汁を吸う社会にしてしまっていた。 破壊者の地下壕…フィリアはティターンを使って治安の悪い地域の家屋を破壊し尽くしていた。 憤怒の火山…フィリアはテクノピアでの不正をすっぱ抜かれると逆恨みで今回の事を起こした。 殺戮者の針山…フィリアはテクノピアで罪人や歯向かう者に残虐非道な行為を働いた。 忌み子の病棟…これだけはフィリアと無関係かもしれない。 しかしフィリアが欲深いのは製作者の「欲深い方がより情熱的でバイタリティがあるようになり その分世間、そして自分に利益をもたらしてくれるだろう」という考えに基づくものである。 またフィリアの製作者は裏では欲深い本性を露わにしておりフィリアはその影響をもろに受けた。 ヴェルトが欲深いのもフィリアは製作者を通して知ったのだ。 それだけでなくフィリアの製作者はテクノピアでのフィリアの不正に加担し あまつさえそれが自分の手柄であるかのように振舞った。 不正がすっぱ抜かれた後はとち狂いながらその罪をヴェルトに擦り付けようとした挙句ブタ箱行きとなってしまった。 故に見方によってはフィリアは罪人に造られしレプリロイドという事になる。 それらの事実をフィリアは知らなかったのか、それとも知ってて自分の事を棚の上にしたのか… 今の彼にはそのような事はどうでもよかった… 「ヒィィ~、もう終わりだぁ~っ!!」 「せっかくエビルスレイヤー共から解放されたのにぃ~っ!!」 最早完全にレベル外扱いとなった生き残りの罪人レプリロイド達は この戦いに巻き込まれ次々命を落としていく。 バグフィリアはこの事を全く気にも止めない。 「お、丁度いい、コンボ数を稼がせて貰うぜ!!」 VAVA-VIとトルクと鉢合わせた罪人レプリロイド達は威力の低い技の連撃を喰らい 死を以て彼等にコンボ数を提供する事となっていく。 こうして一進一退、一喜一憂の攻防戦が繰り広げられている時だった。 バグフィリアは上空に上昇すると静止し、その状態で尻から出るワイヤーで巨大なスクラップ塊をぶら下げた。 そして… 「ほお~れほれほれほれ、振り子攻撃じゃ~~~っ!!」 バグフィリアはフィリアの嘲笑を響かせながらスクラップ塊を振り子のように振り回す。 その重量にも拘らず羽ばたいて飛ぶだけでも凄まじいパワーが要るのだが、 さらに自身を超える重量の物体をぶら下げて振り回すバグフィリアのパワーは圧巻である。 その結果生まれる衝撃と風圧は凄まじく瓦礫が埃や紙くずのように宙を舞う。 しかし… 「それがどうした!!」 VAVA-VIとトルクはスクラップ塊が来る方向を前もって予測しながら 上空で静止しているバグフィリアに攻撃を加え始めた。 「ええい、ならば攻撃の手を分散させるとしよう!」 フィリアの声と同時にバグフィリアはスクラップ塊を分解し、 その破片に向けてビットバグとシグナルを放つ。 すると破片はビットバグを核とした巨大版ビットバグに変じた。 続いてバグフィリアは目からワイヤーフレームで出来た光弾を次々と発射し、 それらは地上に達するとバグズディメンションの道中で現れたメカニロイドの姿になった。 「貴様等が攻撃する瞬間死角を突いてくれるわ!」 そう言うや否や巨大版ビットバグやメカニロイドに攻撃命令を下すバグフィリアだったが… 「馬鹿か、的増やしてどうすんだよ!!」 VAVA-VIが不敵に言い放つとVAVA-VIとトルクは背中合わせになり周囲を取り囲む巨大ビットバグとメカニロイドの大群を次々撃破しコンボ数も稼いでいく。 そして… 「「ダブルアタック!!!」」「ぐわーっ!!」 その後もVAVA-VIとトルクは何とかしてバグフィリアにダブルアタックを辛うじて決めていった。 避けられる事もあり、相手に回復を許したり、こちらが攻撃を喰らったり、回復を阻まれる事もあった。 しかし2人はどちらかの体力が尽きそうになった時、より体力の多い方が攻めに回り ダメージの大きい方が守りに入って体力を回復するというハンターさながらの方法で ダメージを最小限に食い止めてきた。 そうせざるを得なかった。 2人はバグフィリアが現れてからこのような選択を取ったのである。 そしてバグフィリアのダメージが蓄積されてきた時だった。 「ディバインバグよ、奴等のいいようにされて悔しくないか?」 バグフィリアの中でフィリアがディバインバグに尋ねる。 「当たり前だぞぉ~!どんなに痛めつけても抵抗しやがってよぉ~!!」 ディバインバグは応える。 「だったらその悔しさを…今からワシが送るイメージでぶつけてみるがいい…!」 フィリアは自身の過去の記憶のイメージをバグフィリアに送る。 そして… 「ウア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛―ッ!!!!!!!!! ウア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーッ!!!!!!!!!!!!」 かつてない大音量でバグフィリアは咆哮する。 そう、フィリアが送ったイメージはテクノピアでヴェルトが号泣するシーンだったのだ… 結果としてVAVA-VIとトルクは大きく吹っ飛ばされて大ダメージを負う。 それだけでなく周辺にあった建物や瓦礫の山も遥か彼方に飛んでいった。 「ぐ…!」「何つー威力…!!」 その思わぬ威力に歯噛みする2人。 「ヒーヒヒヒ、ヴェルトの豚野郎め、思わぬところで役に立ったわ!! 外に出て生きとったら殺すけどのう!! さぁ~て、反撃開始じゃ!!」 そして次にバグフィリアが仕掛けた攻撃は…ジャッジメントフィストであった。 ジャッジメントフィストとは背中のマニピュレーターを全て束ねて拳の形にして放つ フィリアの最大の技であり、 バグフィリアの背中の蝶の羽根も実は不可視のマニピュレーターで同じ事が出来るのである。 バグフィリアのパワーはフィリアの比ではない為ジャッジメントフィストの威力は測り知れない。 実際にバグフィリアの放つジャッジメントフィストはあたかも空が落ちてくるかのようだった。 衝突の瞬間バグズディメンション全域に激震が走った。 VAVA-VIはホールバグで何とか回避したが… トルクはカウンターで返そうとして失敗し、五体をバラバラにされてしまっていた。 「畜…生…」 トルクのエネルギー反応が消えるのをVAVA-VIは感じた。 「チッ、振り出しに戻ったか…!」 半ば覚悟を決めたVAVA-VIだったが… 「なんてなぁ!!!」 バラバラになったトルクの体が元通りになり、同時に彼から離れ始めたバグも彼の元に戻っていく。 「リボーンバグは1体しか持ってないと言った覚えはないぜ!!!」 不敵に言い放つトルク。 「畜生、また食い損ねたぞぉ~!」 「テクノピアの頃から往生際の悪さは変わっとらんのう!」 これに対しディバインバグとフィリアはバグフィリアの中で悔しがる。 そしてリボーンバグの力でトルクの反撃は勢いを増す。 「俺も負けてらんねーな…よし、これで行くか!!」 VAVA-VIは何故かたったの今思いついた事を実行しようとする。 彼が思いついたというより彼に宿るバグ達がアイディアを授けたのかもしれないが… それは両肩の砲身を分離させるという事だった。 すると分離した砲身は従来の円筒形からより虫に近いフォルムに変形し、巨大バグのような姿になった。 続いてVAVA-VIはそれらにシグナルを送った。 シグナルを受け取った砲身だったバグは何と卵を産み始めた。 卵は次々とふ化してそれぞれの小型版が生まれていく。 「一斉掃射だ!!!!!!」 VAVA-VIの声と共にVAVA-VI本人とバグと化した砲身とそこから生まれたバグは一斉に光弾を乱れ打ちにする。 これにより一気にコンボ数を稼いだ。 そして間もなく… 「「ダブルアタック!!」」「ぐぅあ!!」 この調子で快進撃を続けていく2人だったがバグフィリアの反撃も勢いを増していく。 双方傷だらけになったある時… 「俺はファイナルストライクバグを持っていてもうすぐそれも使えるがこっち側には2人しかいねぇ…どうする?」 トルクがVAVA-VIに問いかける。 ファイナルストライクバグとはギガンティス事件の時にハンター達が繰り出したファイナルストライクが可能になる効果があるバグである。 ダブルアタックバグより強力なのだが使う側が3人いないとその効果を発揮しない。 「俺が3人分になる…俺が持ってるファイナルストライクバグに確認してみたら 渋々了承してくれたよ」 3人分とは、VAVA-VI本人と両肩から分離しバグになった砲身の事である。 「じゃあ俺は2人分になるわ」 トルクはそう言うとエゴイスティックビーストのアーマーから抜け出した。 エゴイスティックビーストのアーマーは中のトルクがいなくなっただけで、外面は変わっていない。 バグによる遠隔操作をする、という事である。 そしてトルクが所有するファイナルストライクバグも渋々「2人分」と認識したのであった。 「こざかしい、まとめて砕け散れ!!!」 バグフィリアはVAVA-VI達に体当たりを繰り出すが… 「今度は…外さねぇ!」 トルクがカウンター技を発動し体当たりのダメージを相手に返す。 「ぐぎゃああああああああーっ!!!!!!!!!!」 これにより、バグフィリアの体力がファイナルストライク発動条件を満たした。 「畜生畜生畜生ぉ~っ!!」 「ええい、もっぺんこれを喰らわせてやるわい!!」 バグフィリアが再度絶叫しようとした時だった。 「んなクソダセー技でくたばってたまるかよ!!」 VAVA-VIは前方の空間に穴を開け、その中に飛び込む。 元砲身のバグ、トルク、エゴイスティックビーストのアーマーを伴って。 「チィィッ、まぁ~たホールバグか、 まあいい、見つけ次第…」 フィリア…のソウルを宿したバグがそう言いかけた時だった。 「あれ、奴等が見つからん…奴等の反応はこのすぐ近くにある…の…に…」 バグフィリアの視界を通して周囲を見渡すフィリアだったがVAVA-VI達が見当たらない。 しかし、彼等の反応は自分のすぐ近くに出ている。 この矛盾の真相に気付くのにはそれ程時間が掛からなかった。 「よぉ」 「ヒッ…!!」 VAVA-VI達はバグフィリアの体内に侵入していたのだった。 「さっきトルクがヒントをくれたから体内に入らせて貰ったぜ。 いやぁ、かなりの集中力が必要な博打だったよ」 「流石に外側に比べて脆い体内でファイナルストライク決められたらお陀仏だろ!?」 不敵に言うVAVA-VIとトルク。 これに対してバグとなったフィリアは酷く狼狽していた。 「待った待った待った!!!やめてやめてやめてぇーっ!!!!」 「あばよ、文字通りの弱虫博士!」 「これで全ての決着を…付ける…!」 「「ファイナルストライク!!!!!」」 かつてない威力の攻撃にフィリアのソウルを宿したバグが飲み込まれていき、 その衝撃はバグフィリアの全身に伝わっていく。 「馬鹿な…馬鹿な…天才のこのワシが…」 「最強のこの俺が…」 「「何でこんな目にぃ~っ!!!!!!」」 そして上空でビッグバンの如き大爆発が起こり、バグフィリアはその肉体を維持できなくなり 無数のアイテムと残骸と化して地に落ちていった。 「…やったぜ…」 こうしてVAVA-VIとトルクは長きに渡る戦いの末、バグフィリアを、スパイダーズスレードを下したのであった。

第二十二話「アンチヒーロー」

戦いは終わった。 それに伴いVAVA-VIはいつの間にか元の姿に戻り、トルクのエゴイスティックビーストも従来のライドチェイサーの姿に戻っていた。 「疲れた」「腹減った」 バグ達からこのようなシグナルを2人は感じ取った。 VAVA-VIとトルクがバグフィリアの落としたアイテムを回収し終えたとほぼ同時の事だった。 バグズディメンションと外の世界を隔てた次元の裂け目が広がっていき、 その裂け目はバグズディメンションを構成するコロニーに近付いていき、やがてはコロニーを飲み込むように広がっていき、 最終的にコロニーの全てが外に出ると閉じた。 コロニーはフィリア達が掘った穴の中に着陸した。 外の様子はバグズディメンションが造られた時と変わらず磁気嵐が激しく吹きすさんでいた。 そんな中VAVA-VIが口を開いた。 「なあ、俺もスタミナ切れだし気にならないと言ったら嘘になるからこの機会に聞かせてくれないか? 何故お前はここまで自由にこだわるのか、それまでに何があったのかをよ…」 トルクは応え始める。 「奇遇だな、俺もいつか話そうと思っていたところだ。 俺は最初はしがない存在だった… いや、あんなのが俺だと思うと反吐が出るぐらいだ… だから『そいつ』は死んだ事にした。俺とは別れた事にした…!」 そしてトルクは語りだす。 自らの生い立ちを。人生の転機を。 トルクの故郷は…凄惨ではなかった。 しかし、理不尽だった。 貧困は無かった。 しかし、皆が皆質素な暮らしを強いられていた。 争いごとは無かった。 しかし、右を見ても左を見ても同じであり、不自然極まりなかった。 安全だった。 ただ、現代社会では広い範囲で保障される権利が…自由が、無かった。 時は昔々のそのまた昔に遡る。 トルクの故郷となる町「ソリッドタウン」は工業で栄えた町だった。 様々な地域から職人が集い、頑固な気質の者が多かった為「頑固親父の町」と揶揄された。 ある時、互いの勢力の考えの違いによる大きな、そして悲惨極まりない争いがおこった。 ただただお互いを憎み合い、理解せず、傷つけ合う日々が長らく続いたのだ。 そんな日が続く中、ある日町の長老が涙ながらに頭を下げて戦いを止める事を懇願した。 その長老は十分人徳もあり、真剣に平和の事を考えている事は誰もが知っていた。 その姿を見て保身に入るヴェルトのような見苦しさを感じる者などいるはずがなかった。 住人の誰もが狼狽し、そして申し訳なく思った。 それからその長老の指示の元、真剣に話し合って皆の考えを統一するように努めた。 そして「人間が愚かな争いをするのは仕方が無い、故に我々だけでも賢くあろう」 という考えの元外との交流を厳しく取り締まるようになった。 後に「大賢者」と呼ばれるこの長老の死後も住人の頑固な気質が相まってその伝統は守られ続けた。 軽率に外に出る事はタブーとされ、 外の世界の住人は年がら年中発情し女を見つけるとすぐに襲い掛かるだの 些細な事ですぐにキレて暴力を振るうだの 手癖が非常に悪く至近距離に立った者の持ち物をすぐ盗むだの 虚実を混ぜつつ悪い点や恐ろしい点ばかりが過剰に伝えられたのだ。 そしてこれは愚か者に自由を与えた代償だとも付け加えられた。 とはいえ、町の維持のためには最低限の交易は必要だった。 そこでソリッドタウンの住人は外との橋渡し役には「賢者」という資格を与え、 外に出る事を許可し始めた。 これは「愚か者に自由を与えてはいけないが愚かでない者なら自由を与えてもいい」という考えに基づくものである。 この「賢者」になる為には四六時中勉強や訓練をしなければならなかった。 何せ賢者とは兵士、学者、政治家を兼ね備えたような存在だったからである。 しかも欲深い、危険と判断されたら受験者は即不合格、既に賢者の地位を得た者はその地位を剥奪されるのだ。 結果として賢者達は本当に高潔で潔白な精神の持ち主か、迫真の演技力で私欲を隠す者の2つのタイプに分かれ、ソリッドタウンと外を繋ぎ止めてきた。 時は流れ、ソリッドタウンにもレプリロイドが導入された時… 町の周囲は厳重なバリケードに囲まれ、町の中は監視カメラだらけになりさながら フィリアが台頭した時のテクノピアや制裁の層のような息の詰まりそうな雰囲気を醸し出していた。 この時になると生涯を町の中で過ごす人が大半となっていた。 地域によって人の気質は異なるが、先人達はせっせとソリッドタウンのそれを無欲で清貧、潔白なものに作り変えていったのだ。 そこに明確な支配者はいなかった。 ただ、「賢くあろう」という空気が町を支配していたのだった。 そんな時代の中、警備用レプリロイド「TRQ-819」…後のトルクはこの世に生を受けた… TRQ-819は何の変哲もない警備用レプリロイドだった。 道端の雑草や石ころの如く誰も見向きもしない存在だった。 ただ与えられた仕事を黙々とこなす毎日を過ごしていた。 ある日の事… TRQ-819は談笑する老人達の会話を耳にはさんだ。 「ホッホッホ、今日も何にもなかったのう」「平和じゃのう」 これを聞いた彼は心の奥底で何かを感じた。 「(確かに事件や事故、いざこざが無いのは好ましいかもしれないが… 如何せん何かが物足りないような… ハッ!いかんいかん、警備用レプリロイドの私がこんなこと考えてどうする!)」 また別の日の事…彼は祖父に叱られる少年の姿を目にした。 「何、賢者じゃなくても外に出たいじゃと!?駄目じゃ駄目じゃ、そんな考えは駄目じゃ! いいか、ワシ等が平和を享受できるのはある程度賢くない者に自由を与えない事による恩恵なのじゃ! 外は愚者にも自由を与えるが故に危険がいっぱいじゃ。 うかつに関わってはならんぞい。 それに、友達にはくれぐれもこの事を言うでないぞ。 さすがに外の住人のような「いじめ」という野蛮な行動はせんと思うが皆お前と距離を置くのは確実じゃ。 わかったか!?返事は!!?」 「はい…」 老人の孫はシュンと首を垂れた。 一部始終を見たTRQ-819は… 「(本当に老人の言っている事が正しいのだろうか?少年が言っている事は絶対に間違っているのか…? 自由とは…そんなにいけない事なのだろうか…? …ハ!いかんいかんいかん…私は役割に忠実な…一介のレプリロイドだ、余計な事は考えるな!)」 このように彼はソリッドタウンのルールや自分の生き方に心の奥底では疑問を抱いていた。 しかし、それを決して表に出す事は無かった。 誰にもそんな権利など無かったのだから… そんな中、彼の人生の転機となる出来事が起こる。 それは様々な試験を通過したレプリロイドを賢者の護衛役に抜擢するという事である。 ソリッドタウンのレプリロイドの中では能力が高かった方のTRQ-819は一連の試験をパスし、 見事賢者の護衛役の座を勝ち取った。 彼は内心高揚感に満ちていた。 「(やっと…外に出れる…外は一体どんな所なのだろう?)」 そして遂にTRQ-819が担当する賢者が外へと旅立つ日が訪れた。 しかしその日、彼は思いがけない形で自由を手にする事になる。 この時世間ではドップラー事件が勃発したばかりであり、ドップラーの手先と見られるイレギュラーがソリッドタウンに襲撃してきたのだ。 イレギュラーは単独犯であり、ライドアーマーに搭乗し青いボディカラーで右肩には砲塔、左肩にはミサイルポッドを装備していた。 その名をVAVA-Mk-Ⅱ。 ソリッドタウンでは外の住人は凶暴で凶悪と伝えられていたのだが、よりにもよってその最たる存在がやってきたのだ。 「警備が厳重だと聞いて来てみたらこの程度か、これじゃ準備運動にもなりゃしねぇ…」 VAVA-Mk-Ⅱが吐き捨ているように言いながら侵攻を続ける。 やがてVAVA-Mk-ⅡはTRQ-819と対峙する事に。 「マスターには指一本触れさせん!!」 「あぁ!?」 TRQ-819はソリッドタウンの開発した武器を駆使して果敢に挑みかかる。 そしてVAVA-Mk-Ⅱと直に交戦した彼が感じた事は… 「(何なんだ、このレプリロイドは…こんなレプリロイドは見た事がない… このレプリロイドは…『凄い』…)」 TRQ-819はVAVA-Mk-Ⅱに対して怒りや恐怖、町や主人を守る為の使命感等を超越した感情を抱いていた。 既存の法律や道徳心などの檻に捉われない力強さにただただ圧倒されていたのだ。 この時が彼のこれまでの人生で最も心を突き動かされた瞬間であった。 そして勝負の行方は…TRQ-819の惨敗だった。 一瞬の内にTRQ-819はVAVA-Mk-Ⅱに撃破され、彼に町への侵攻を許してしまう。 全てが終わった後、降りしきる雨の中彼は目覚めた。 周囲を見渡すとそこには累々たる屍と瓦礫の山があった。 助かったのは人間や他のレプリロイドより頑丈に出来ていた自分だけのようだった。 彼の目に飛び込んできたのは無念の表情を浮かべた一般人の亡骸… それと隠れて贅沢三昧をしていた賢者達の亡骸であった。 VAVA-Mk-Ⅱの侵攻によってここに賢者達の実態が白日の下に曝された事になるのだが、 賢者の邸宅の地下室や隠し部屋からはVAVA-Mk-Ⅱには何の価値もない 金銀財宝があふれ出てきたリ、酷い場合は酒池肉林の宴を開いた跡もあった。 しかもそうした賢者に限って一般人の行動に厳しく口出ししていたのだ。 本当に人の為に高尚な目的を持った賢者はどちらかと言うと少数派だったという。 この光景を見渡したTRQ-819の中に様々な感情が濁流のように交じり合って溢れてくる。 「(こんな目に…逢うために貴方達はこれまで生きてきたのか…これでは…殺され損ではないか… 賢者は…賢者の皆さまは…結局私欲の為だけに…その資格を得たというのか… 本音を隠し…自分達だけが贅沢をする為に… そして私のこれまでの人生は…何だったんだ…自分の考えを伝える時間は…あったと…いうのに… もう永久に失われてしまった… いや…そもそもこれまでの私は生きていたと…言えるのだろうか…!?)」 暫し思案しながら沈黙するTRQ-819。しかし次の瞬間… 「フフフフフ…ハァーッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!!!」 トチ狂ったかのように笑い出した。 それは歓喜からくるものでもあり、嘲笑から来るものでもあり、自嘲からくるものでもあった。 「ざまあねぇな!!言いたい事やりたい事ずっと我慢し続けた結果がこれか!! 意地汚い本性を隠し通そうとした結果がこれかよ!! お前等の人生は無意味だ!!死んじまった今はもう全部無意味だ!!!! だが俺は生きている!お前等が生きる事の出来なかった人生を生き抜いてやる!! 俺の道は俺が切り開いてるやるよ!! あの世で指くわえて見てろや、ハァーッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!」 気が付いたら今までからは考えられない汚い言葉を吐き出している。 これまでの生き様に対する反動とVAVA-Mk-Ⅱの凶暴性からくる力強さを目の当たりにした事による衝撃が入り混じった結果である。 一しきり激情をぶちまけたTRQ-819は、歩き出した。自分の道を… 「あばよ、ソリッドタウン、クソジジイ共、そして…TRQ-819!!」 TRQ-819という名前…というより型番を与えられたレプリロイドは壊滅したソリッドタウンを去った。 倒壊したものの顔面の原型は留めている大賢者像の顔への落書き…それが去り際の彼が生まれて初めて働いた悪事であった。 その後TRQ-819はそれまでの名を捨てトルクと名乗り、元々備えていた高い学習能力と 賢者に同伴する為に会得した知識やスキルを自分の為だけに使い、力を付けていった。 ボディをより戦闘用にカスタマイズし、トルクロッドとエゴイスティックビーストもその過程で手に入れた。 さらに時は流れレプリフォース大戦が終結した時、トルクはとある治安の悪い町に身を落ち着けていた。 そんな時… 「我々はフィリア博士の私兵団!君達を更生させに来た! 博士の開発したチップ『バグリジェクター』を組み込めば君達も我々のようにまともなレプリロイドになれるのだ! 抵抗をしないのなら手荒な真似はしない…しかし抵抗するならば射殺も許可されている!」 その町はテクノピアのスラム街で、フィリアにバグリジェクターを組み込まれたレプリロイド達が踏み込んできて 住人を強制連行してはバグリジェクターで人格を強引に矯正し始めていたのだ。 「畜生離せ!離しやがれ!!!」「えぇい、抵抗をやめろ!!」 次々と力づくで連れ去られるスラム街のチンピラレプリロイド達。 これを見たトルクは… 「何だよ、ソリッドタウンの糞ジジイ共みたいな連中のお出ましか…!? 自分達の都合で人に我慢を押し付けまくって何様のつもりだ、あ゛ぁ!!? テメー等見てるとムカムカしてくるんだ…よぉーっ!!!!!!!」 「ギャー!!!」 たちまちフィリアの私兵団員達はトルクロッドの餌食になり吹っ飛ばされていく。 「強い…強すぎる…ティターン団長と…博士、市長に報告…だ…」 命からがら逃げだした私兵団員はトルクの存在をフィリア達に報告しに行った。 それ以降は、大蜘蛛の巣窟突入直前にファイルバグで見た通りである。 「…という訳で言うなれば俺はウィルスとか関係なしにお前に感染しちまった、というワケだ」 トルクは己の過去を話し終え、その際自分を変えたのがVAVAだった事を明かした。 これを聞いたVAVA-VIは暫し思案した後に応じる。 「ソリッドタウン…か…歯ごたえの無い所だったからろくに憶えちゃいねーが、まさか生き残りがいたとはな… しかし俺はとんでもない奴を目覚めさせちまったようだ、世の中何が起こるか分かったもんじゃねぇ…」 「分かってたらつまらんだろ、ソリッドタウンやテクノピア以上にな」 トルクが返す。 「違いねぇ。ところでいいのかよ、俺は故郷を滅ぼした仇なんだぜ?恨まれこそすれ感謝される覚えは無いな」 VAVA-VIが尋ね、トルクは応える。 「そんじょそこらの道徳心やら絆やらに縛られた奴等ならお前を仲間の仇だなどと言って憎むだろうよ。 しかしお前は俺を縛るクソみたいな環境を…心の壁を壊してくれた…それを何故恨む必要がある? バグズディメンションで『堕落者の学び舎』を脱走してすぐに事を起こさなかった理由にはお前を見てみたかった、借りを返したかった、というのもあるんだぜ」 「ククク、そりゃ前向きなこった」 「トルクとしての人生を始めた時から、俺は前しか見ちゃいねーさ…」 VAVA-VIの返答にトルクは応じる。 そんなこんなで2人の体力も回復してきた。 「これから俺は俺の目的を果たしに行く。お前ともここでお別れだな」 「俺は目的そのものを探しに行く感じだな。これまで通り好き勝手にやらせて貰うさ。 ただいつか…バグが俺達を引き合わせるだろう」 そう言ってVAVA-VIはトランスバグで呼び出したライドアーマー「アグレッシブベア」で、 トルクはエゴイスティックビーストでそれぞれ真逆の方向に駆け出した。 それぞれが磁気嵐が発生している領域を抜けた後の空模様も外に出た彼等を祝福するが如く荒れ果てていた。 暫くたった時…VAVA-VIは己の中の異変に気付いた。 「出れたぞぉ~!!!今度こそ外に出れたぞぉ~っ!!!!! 食わせろ…食わせろよぉ~!世の中の奴等の絶望を食わせろよぉ~!!!」 頭の中で聞き覚えのあるやかましく耳障りな声がする。 「ディバインバグ!?俺の中にいやがるのか…!?」 VAVA-VIはその声に反応する。 「フィリアがやってた事を真似してみたら出来たぞぉ~… 俺はお前からのの感情エネルギーを貰うため力を貸すけどよぉ~、俺に振り回されるような事があったらお前を食ってやるぞぉ~」 ディバインバグは死の間際フィリアの行ったバグへの精神転送を行い成功させていたのだ。 しかもかなりの高性能のバグに移った為これを手放せば力の大半を失う事になる。 さらにディバインバグは再度宿主を食って巨大バグになる願望もちらつかせた。 そのような現状にも関わらずVAVA-VIは不敵に告げる。 「違うな、俺がお前を喰らうんだよ!!!」 同時刻…トルクもまた自らに起こった異変に気付く。 「ヒーヒヒヒヒ、ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!何とか間に合ったわい、ほとんど博打だったがのう!!!」 頭の中で聞き覚えのある嫌らしい声がする。 「フィリア…!!テメー俺のバグの中に逃げ込みやがったな!!??」 声の主に気付いたトルクはフィリアの宿るバグとの同化を解除しようと試みる。 しかし何故か出来なかった。 「何じゃ、『出てけ』とは冷たいのう…いいか、今のお前は例えて言うなら『豪邸』じゃ! 出てけと言われて素直に去るワケがなかろう!」 「豪邸…だと!?」 トルクが問う。 「バグとなったワシにとってはお前は住み心地が良い、って事なんじゃよ。 出てって欲しかったら優しさと思いやりを身に付ける事じゃな。 常に平和の事を考え、皆の幸福を願い、慈しみの感情を向ける… そんな奴の住み心地なんぞ何年も手入れしてないボロアパートと同じじゃわい。 お前がそうなったら出てってやるが…どうするかのう!?」 にやけ声でフィリアはトルクに問う。 「~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!」 フィリアが頭の中にいるのは嫌に決まっている。 それを分かっているからフィリアは居座ろうとしている。 しかしだからと言って今更「善人」になる気など毛頭ない。 自殺するのも以ての外だ。 そうした思いを巡らせ暫し逡巡するトルクだったが… 「居候は良くねぇなあ…」 語気を強めて呟き出す。 「何じゃと!?」 フィリアの問いかけにトルクは返す。 「住み心地がいいからってタダで居座るのは良くねぇっつってんだよ! そもそもバグというのは宿主の力になるもんだろうが!! テメーも俺の力になったっつーんならとことんコキつかってやるから覚悟しろ!!!」 「フン、どうとでも言うがいいわい、お前のそういう感情がワシを力づけるんじゃからなぁ!! ワシの研究は終わってなどいなかった…むしろこれからじゃわい、ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!!」 フィリアすらも己の力として利用する事を決意したトルクに、フィリアは嘲笑で返すのであった。 さらに同時刻… 世界中の空に映像を映すバグが現れ、フィリアの映像を映し出す。 映像は過去に録画されたもののようで、言わば遺言ビデオのような意味合いに近かった。 「ヒーヒヒヒ、知っとる奴は久し振り、知らん奴は初めまして… ワシはフィリア、科学者レプリロイドじゃ! その昔ワシは平和の為の研究『バグリジェクター』を邪魔されてのう、その仕返しに来たのじゃ! ワシは秘密の研究所でバグリジェクターの改良品とたまたま見つけた地球外生命体を組み合わせて悪魔を生み出した… その名もディバインバグ! 只の巨大メカニロイドと同列に考えてはいかんぞぉ~、こいつの強さは世界中が束になってかかっても到底敵わんのじゃ!!」 フィリアが話し終えるとバグはディバインバグの詳細を記録した映像を映し出す。 その映像が終わると再び映像はフィリアに切り替わる。 「ワシは研究所にてこのディバインバグと再生させた過去のイレギュラー共を戦わせ、勝ち抜いた者を世に送り出した。 このディバインバグか!それを倒した者が!これから世の中に大いなる災いをもたらすじゃろう!! ただお前等にもチャンスをやろう。 ワシが作り出したバグリジェクターの改良品『インターバグ』。 これは様々な特性を持ちレプリロイドの能力を底上げする優れものじゃ」 次に映像が通常のバグの詳細を映したものに切り替わり、その後再度フィリアの映像に戻る。 「このバグを使えばその大いなる災いをもしかしたら退けることが出来るかもしれんぞぉ~? 力が欲しい者、名声が欲しい者、己を苦しめる現状を打破したい者は是非ともバグを使うがいいじゃろう。 使用方法に注意してのう! バグはこの映像が終わり次第世界中に降り注ぐじゃろう! どう使うかはお前等の足りん脳で一生懸命考えるんじゃなぁ、ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!」 映像は終わった。 その直後世界中の空から通常のバグが豪雨の如く降り注ぎ始めた。 バグズディメンションのコロニーに残存していた通常のバグ、そして新たに自動製造され続けているバグが世界中の空にワープしたのである。 これに世界中が戦慄した。 未曽有の大災厄の到来を誰もが直感していたのだ。 VAVA-VIの復讐心が、トルクの反骨精神が、フィリアの逆恨みが、ディバインバグの食欲が世界を正に飲み込まんとしていた… それに立ち向かうのは、勿論…! 地獄の狂宴編・完
ELITE HUNTER ZERO