小説「宇宙からの逆上陸者編」


三代目オリボスが登場する小説です。この中の「テリジノ・イフリーテス」は管理人ではなくZZZさんが考案しました(使用許可取得済み)。

第一話「Starlight Destiny」


ここは宇宙空間。
果てしなく広がるかのような星の海の中、1つの物体が漂っていた。
形状、大きさからしてレプリロイドのようである。
「こん…な…ところで…みん…なの…ために…も…」
そのレプリロイドは全身に傷を負い、懸命に気を失うまいとしていたが、
体は最早限界に近く、とうとう力尽きた。
その後もレプリロイドは宇宙空間を彷徨い続けた。

一方地球では…
度重なる大戦で世界各地は重篤な被害を被り、
未だその傷跡は癒えていなかった。
しかし生き残った人間とレプリロイドはそれに屈せず
日々街などの復興作業に励んでいた。
当然イレギュラーハンターも例外でなく、今日も忙しい1日が終わった。

「あー終わった終わった」
「ところで聞いたか?例の飛び抜けて復興の早い地域の話」
「ああ、最早復興前よりも街を豊かにしてる所だろ?」
「なんでもそこには戦闘力、科学力、心理学、リーダーシップ、真面目さ、優しさと
なんでもありのレプリロイドがいて早い復興は主にそのレプリロイドあってのことと聞いてるけど」
「うへぁ、神様かよそいつ。うちの隊長たちとどっちが強いんだろうな」
「俺も知ってる。そのレプリロイド達は画期的な大発見をしたとかしないとかで
宇宙に行ったそうだぜ」
「マジかよ、本当なら帰ってくるのが楽しみだな」

仕事終わりのハンター達の世間話が響きあう中
黒いボディにやや長い茶髪で、銃を持っている少年型レプリロイド――
S級ハンターの1人アクセルが緑色のボディに2つ結びの金髪、
光り輝くような広い額に特殊な形状の銃を持つ少女型レプリロイド――
ナビゲーターのパレットを待たせていた。

「ごめんごめんパレット、遅くなっちゃった」
「もー遅いですよ、アクセル。さ、行きましょ」
アクセルが軽く謝りパレットは軽く怒り、それが済むと彼等はある場所に向かった。
2人が向かった先はハンターベースと近隣の街が見える小高い丘の上だった。

「綺麗ですねー…」
「うん、そうだね…」
夜空は晴れ渡り星空も一段と美しく見えた。
そしてハンター本部の近隣の街もハンター本部のおかげでイレギュラーも近寄らず、
その分復興も早いほうで街の明かりも星空に負けぬ美しさがあった。
パレットはそれに見とれていたが、アクセルは見とれつつも
「星になった」レッドアラートの仲間のことを思い出し、少し切なくなった。

自然と両者の距離が縮まる中、夜空に流れ星が横切った。
「あっ流れ星だ!」
「わっ、本当ですー」
パレットは流れ星に気づくや否や祈りのポーズをとった。
「こうやって流れ星にお願い事をすると願い事が叶うみたいですよ」
「何いってるのさ、そんなの迷信だよ」
「ちょっとぐらいムード考えてくださいよぅ〜」
2人がそう言いあいしていると空にもう一度流れ星が現れた。
「あっまただ!」
「せっかくだからアクセルも何かお願いしてみてはどうですか?」
「まぁせっかくだし…(悪い奴等がいなくなりますよーにっ!)って…
アレ!?」
何とその流れ星は2人のいる場所に向かってくるではないか。
「ちょっと、ウソでしょ!?」
「あわわわわ…!!!!」


ドゴォォォ!!!!!!!!!


流れ星はついに地面に激突した。
「あ、危なかった…ってうわあああ!!!!
ぱ、パレット…べ、別に変な意味はなくて…あの…その…」
「助けてくれて有難うですぅ〜」
アクセルはパレットを庇うため盾になろうとしたが
流れ星の衝撃で転びパレットに覆いかぶさる形で転倒してしまったのだった。
パレットは変な意味は理解せず、衝撃のパニックもあってか、
普通にアクセルに感謝した。
「まったく何でこんな時に隕石なんか降ってくるのさ…
(ちょっと得したかも…いやそんな場合じゃない!)どれ…」
2人は落下のあった場所に駆け寄った。

「これは…レプリ…ロイド…?」
落下地点の中央には冒頭で宇宙空間を漂っていたレプリロイドが力なく横たわっていた。
こうして、彼等は出会った。
彼等がこれから巻き込まれる熾烈な戦いを、この時この場の誰も予想していなかった。
これから起こる事件の始まりは汚れなき善意であったことも……

第二話「宇宙からの帰還者・宇宙への侵略者」


アクセルとパレットがいい雰囲気になってきたところ、
突如上空から傷だらけのレプリロイドが降ってきた。
突然の出来事に2人は狼狽した。

「何で空からレプリロイドが降ってくるんだよ!?
パレット、これどうしたらいい!?」
「手当てするに決まってるじゃないですか!
この人まだ生きてるみたいですし」

そのレプリロイドは重篤な損傷が見られたが辛うじて生きているようだった。
しかしその損傷具合は応急処置が必要とみられ、
たまたまハンターベースも近かったため2人は
そのレプリロイドを抱えてハンターベースに戻ることにした。
この時点で2人共相当な脚力を得ていたが下手に走って
このレプリロイドに負荷を与えないためレプリロイドの
体の向きを一定に保ち、尚且つ迅速にハンターベースへ運んだ。

「何で戻ってきたんだよ!?」
「急患なんだよ!手当てしてもいいでしょ!?」

この時ハンターベースにはさしたる力もない隊員が1人だけ警備に当たっており、
状況を把握するや否や入れてくれた。
現時点ではイレギュラーが発生する可能性は極めて低く、
ましてやハンターベース本部を襲撃するイレギュラーなど
無に等しくなっていたため、夜間の警備は誰でも良くなっていた。

そしてレプリロイドの手当をすることになったのだが
これはナビゲーターで
レプリロイド工学の心得があるパレットが
主に行い、レプリロイドは何とか一命をとりとめた。

このレプリロイドの外見的な特徴は水色の長髪を持ち、
外見年齢は10代前半ぐらい、顔立ちは少女のようであるが
アーマーの形は男性型ともとれる。
体型は痩せ型で身の丈はアクセルより高く、エックスより低い。
アーマーの色は主に水色と白でところどころ金色の装飾がみられる。

頑丈そうには見えない外見だが傷だらけで大気圏に突入し、
さらに地上に激突しても生きていることは
このレプリロイドが並々ならぬ耐久力を持つことを物語っていた。

それを考えアクセルは内心このことに感心していたが、
そんな中遂にレプリロイドは眼を開け、上半身を起こした。

「わっ、起きたよ!」
「よかったですぅ〜」
アクセルは驚きパレットは胸をなでおろした。

「(……ここは…地球のハンターベース…?僕はどうやらまた、助けられたみたいですね…)」
そう考えながらレプリロイドは試しに手を開閉させたり、腕を回したりした。
そのスピードは極めて速く、スピードに自信のあるアクセルでさえ驚嘆させた。
素人が見ればレプリロイドの腕が消失したかのようにしか見えなかっただろう。
どうやらスピードも相当あるようだ。

「ええと、それじゃ聞くけどさ、あんたは何者で、どこから来たの?」
とアクセルが問いかけるとレプリロイドは答えた。
「初めまして、僕の名前はリュミエールと言います。
あなた方と同じ地球出身のレプリロイドですが訳あって地球を離れていました。
助けていただいたことに感謝いたします」
「『僕』ってあんたは男なの!?」
「『ボクっ娘』かもしれないですよ〜」
驚くアクセルにパレットは耳打ちした。
「何かと間違えているみたいですが僕は男ですよ」
「エー嘘でしょ?(ってそう言えばあのルミネもあれで男だったっけ)」
「女の子みたいな男の子ですぅ〜」
レプリロイドの名前はリュミエールといい、彼が男だったことに2人は若干驚いた。
「あ、そう言えば僕は名乗ってなかったね。
僕はアクセルでそっちの女の子がパレット」
「お2人のことは既に知っております。
S級ハンターの1人のアクセルさんと、隠しルートの分析に長け、
さらにアクセルさんの戦闘技術を受け継いだナビゲーターのパレットさんですね」
「何だか僕達すっかり有名人になっちゃったみたいだね…」

また驚きつつもアクセルは質問を続けた。
「ところで何で傷だらけになって落ちてきたの?」
「それは仲間に…裏切られたからです」
アクセルは仕事終わりのハンターの世間話を一部始終聞いており、もしやと思って
リュミエールに聞いてみた。
「もしかしてリュミエールは最近よく聞くすごい勢いで復興してる街と何か関係あるの?」
リュミエールの返答に、2人はさらに驚くことになる。

「よくご存じですね、仰るとおりです。
僕等のチームは宇宙でとある発見をしまして、それにより
地球の全てを完全に復興させようとしたのですが欲にまみれた仲間に裏切られ僕は2回殺されかけました。
彼等はその発見を悪用し他の星々を瞬く間に侵略したのです」
「他の星々って宇宙人相手に暴れ回ったってこと!?(いやもしかしてこの人頭を強く打ち過ぎたんじゃ…)」
「いや本当かもしれないですよ。今の時代宇宙人の目撃例とか宇宙人の残した物とかの話も
信憑性のあるものが大分増えてきましたし」
リュミエールの突拍子もない話に対し2人はそう耳打ちし合っていたが…

ふと2人は妙な感覚に襲われた。
リュミエールの話のイメージがどんどん頭の中に流れ込んでくるのだ。
それはあまりにリアルで頭部の強打によるヨタ話などでは到底説明がつかなかった。
「な、何かさ、ちょっと疑っちゃったんだけど今ならあんたの話信じられる気がするんだ。
よく分からないけどあんたの話は分かり易過ぎるぐらい分かり易いというか、
あんたの頭の中を見ている気分になるというか…」
「私も同じ感じです〜」
「これは僕の能力の1つですね。俗にいうテレパシーのようなものです。
他に他者の精神を安定させたりも出来ますがこれは未完成で
ある程度強い精神と肉体を持つ者には効かず、裏切った仲間からも返り討ちにあってしまいました」
耐久性にすぐれたリュミエールがここまでの傷を負わされた、
ということは相手がさらに強大な力を持っているということである。

そう考え固唾を飲みつつもアクセルは途端にため息をつきこう言った。
「しっかし何というか、恥ずかしいなぁ〜」
「はい?」「と言いますと?」
「だって地球から侵略者が出ちゃったんだよ。
他所様の星に迷惑かけるなんて同じ地球のレプリロイドとして不名誉極まりないね」

悪の宇宙人が地球侵略にやってくる話は数多の娯楽作品で目にするものである。
しかし今回の事件はその真逆である。
悪の地球人(レプリロイドだが)が宇宙人を侵略しに行ったのである。

「た、確かに地球人の沽券に関りますね〜」
パレットはそれに頷いた。
そしてリュミエールはさらに恐るべき話を続けた。
「起こってしまったものは仕方がありません。
どの道今は彼等は倒すべき敵です。
彼等が大軍を率いて地球に戻ってくるのも時間の問題でしょう」
大変なことが起こったと警戒したアクセルだったが、
同時にテレパシー以外に妙な感覚を覚えている自分に気がついた。
それは言葉にすれば既視感(デジャヴ)であった。
彼はリュミエールに自分と同じ匂い、さらに突き詰めればリディプスや
ルミネと同じ匂いを感じていたのだ。
さらにリュミエールとその仲間は宇宙開発に関与していたという事実がある。
これらを踏まえ、アクセルは一か八かリュミエールに尋ねてみた。
「もしかしてリュミエールってコピー能力とかあるの?」
「察しがいいですね。僕と仲間だったレプリロイド達は新世代型レプリロイドです。
もちろんあなたが我々の始祖である事も知っていますよ」

「!!!!!!!」
リュミエールの返答に2人は身構えた。
新世代型レプリロイドにはろくな思い出が無いからである。
「ご心配なく。我々は自分の意志でイレギュラーになれるはずですよね?
しかし僕はその意志は全くありません。
全地球の救済こそが僕の意志です」

その時アクセルは彼が自分と同じように「血筋」に振り回されず
自分の道を力強く歩んでいることを強く感じ取った。
これはリュミエールのテレパシーの効果かもしれなかったが
何より彼の強く輝く瞳が口やテレパシーよりもそれを雄弁に物語っていた。
そんな気がしたのだ。
それに新世代型レプリロイドだからと言って否定すれば
自分自身やアルバート・W・ワイリーに作られたゼロの存在も否定することになってしまう。

「ごめんよ、リュミエールのこと疑っちゃって…」
「気にしていませんよ。さて僕はこれから国に帰って彼等への反撃の準備をしなければならないのですが…
あいにくまだ傷が完治していません。半日もあれば治ると思いますが…」
「どの道他の皆にもリュミエールの話を聞いてもらいたいし、治るまでいていいよ。
っていうかその戦い僕にも参加させてよ!
何ていうかその…運命というか宿命みたいなものを感じるんだよ!」
地球出身のレプリロイドとして、また自分とほぼ同じDNAを持つ者としての
運命を感じ取ったのかアクセルは参戦を申し出た。
「ちょっと待ってくださいよ、前にも自分の出征の秘密を探るとか行って
1人でギガンティス島に行っちゃったみたいじゃないですかぁ。
今回は皆にも相談した方がいいと思うですよ。
それに急に地球に置いていかれても困りますよぉ〜」
パレットがそうアクセルを制した。
「ハンターの皆様のご意見を参考にするのもいいでしょう。
とりあえず夜が明けるのを待つのがいいと思います」
「ううう…」
アクセルはもどかしさを感じながらも冷静さを取り戻した。
そしてリュミエールは他のハンター達にも会うことを決め、夜明けと回復を待つことにした。



――一方その頃、地球から比較的近い惑星では…

「隊長、大変ですぜ!リュミエールの野郎が生きてやがりました!」
巨大な宇宙船から1人の巨大なレプリロイドがドタドタと下りてきた。
向かった先にはその星の戦利品を大勢のレプリロイドが囲んでおり、
巨大なレプリロイドはその中にいるリーダー格の虫のような小柄なレプリロイドに報告した。
「それは大事である。2度も生き延びおって真にしつこいである」
虫型レプリロイドは不快そうな口調でそう返した。
「どうですか!?今すぐブチ殺しに行きますか!?ご命令お願しやす!!」
巨大なレプリロイドは鼻息を荒げ虫型レプリロイドを急かした。
「せっかくだが我輩はこの戦利品をどれを上に献上し
どれを自分の所有物にするかの品定めが忙しいのである。
これは我輩の後の地位にも力にも関わるであるからな。
どうしても行きたくば貴様1人で行ってくるがいいである」
「ボクもそれを薦めるヨ。キミの性格からその方がいいだろうしネ」
虫型レプリロイドは巨大なレプリロイドに出撃を許可し、
彼のそばにいた彼よりさらに小さい超小型レプリロイドも賛同する。
「了解しやした!最大の献上品としてリュミエールの首を土産に帰って来やしょう!」
巨大なレプリロイドは喜び勇んで彼専用のポッドに乗り、
地球、それもハンターベースへと向かっていった…

「…で、結局奴に勝算はあるのでしょうかネ?」
「まあ、五分五分といったところであるか」
超小型レプリロイドの問いに、虫型レプリロイドは答えた。
「いくら力を失った残りカスで手負いとはいえリュミエールはリュミエールである。
それに対し奴は万全の状態で強化されたとはいえあの程度の抵抗値では
元とさして変わらないである」
「手助けしなくて大丈夫ですかネ?」
「その時はその時である。もともとあんな暑苦しい奴いなくなってくれても問題ないである」
「同感ですネ。ボクもリュミエールは大嫌いですが実はあいつも大嫌いデス」
「まあ同士討ちになってくれれば一番いいであるな」
陰湿な口調で2人は盛り上がっていた。
彼等が地球に来るのはあまり先のことではない。

第三話「血に飢えし者」


アクセル達の会話が一区切りつき、夜明けを待とうとした矢先、
突然事件は起こった。

ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!

「ギャアアアア助けてくれぇぇぇえええ!!!!」

警報がけたたましく鳴り、それと共に警備のハンターの絶叫も聞こえる。

「大変です大変です!入り口付近に強力なイレギュラー反応発生です!」
「今度は何なの!?リュミエール、ちょっとここで待ってて!
すぐ戻るからさ!」
事件の現場にパレットが向かい、さらにアクセルも向かおうとした。
「しかし…」
「怪我人なんだから無理しない方がいいって!」
リュミエールも行こうとしたがアクセルに制された。
そしてアクセルも現場に行った。
実際のところその時点でのリュミエールは上半身はある程度動かせても
脚部はまだ自由が利かなかった。

現場には傷だらけで青ざめた顔をして倒れているハンターと、
体の所々にトゲがついた太った体型の巨大レプリロイドがおり、
壁や設備もいくらか損傷していた。

このイレギュラーが放つあまりに強大で禍々しい雰囲気とそれに見合った強さに
ハンターは完全に戦意を喪失していたのだった。

「誰だか知らないけど、随分暴れてくれたみたいだね…(いや、この感じは…)」
「ほぉう、俺達のプロトタイプのアクセルか、上等な貢物がまた増えたな。
だが今はテメーには用は無ェ!
リュミエールがいるんだろぉ!?出しやがれ!」
イレギュラーにやや怒りを交えた口調で啖呵を切るアクセルだったが、
同時にこのイレギュラーから自分やリュミエールと同じ雰囲気を感じていた。
そしてそれは的中していた。
このイレギュラーこそ敵の最初の刺客だったのだ。

「リュミエールから聞いたよ。お前達、宇宙に地球の恥を曝しに行ったって。
そんな奴らの1人をリュミエールと会わせるわけにはいかないね」
事態を察したアクセルはきっぱりと断った。
「何だとぉ!?だったら力づくだぁ!!!」
「結局こうなるのか、行くよパレット!」「了解ですぅ!」

イレギュラーは主にパンチやボディプレスなどの力任せな攻撃や
体のトゲ部分を利用したエルボーやタックル、蹴り等で攻めてきた。
これに対し2人はそれらの攻撃を華麗にかわし、
バレットの弾を当てて行った。
両者とも相手の少しでも防御の薄そうな部分を集中して狙うため、
地味に、しかし着実にダメージが重なっていった。
「畜生、鬱陶しーんだよ!まずはテメーから死ね!!」
イレギュラーはパレットに殴りかかった。
「えいっ!」
これに対しパレットは両手で防御しようとした。
しかし流石にイレギュラーのパワーが勝りパレットは後ずさりしていった。
「女のガキがパワーで俺と勝負なんてちゃんちゃらおかしいんだよ!おおりゃああああ!!!」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜…なんてねっ」
パレットは急に横へ移動した。
「うおっ」
反動でイレギュラーは転倒する。
「やあっ!」
転倒したイレギュラーのこめかみにアクセルは蹴りを入れた。
「ごはぁっ!!」
イレギュラーのこめかみから血が噴き出した。

「そうだ…これが戦いだ…戦いとは流血を伴うものなんだ…
だが俺だけ血を流すのは気に入らねえ…
テメーらの血も見せろぉぉおおおお!!!!」
イレギュラーは逆上し、体のトゲを飛ばしてきた。
その勢いは激しく、2人が避ければ避けるほど周囲の被害が増えていった。
「(このままじゃ僕達はともかくベースとあの隊員が危ない!
早く決着をつけないと…!)」
焦燥感を抱きながら応戦する2人だったが、その時空間を1つの声が横切った。

「ゴアファイターさん、」

「!!!!!!!!」

何とそこにはリュミエールが立っていた。
もうそこまで回復していたのだった。

「リュミエール!何で来 「現れやがったかリュミエールゥゥゥ!!!」
アクセルの言葉をイレギュラー、もといゴアファイターが遮った。
「テメーの無血主義にはいつもイライラさせられてきたぜ!
妙な能力発明してどいつもこいつもテメーに戦わずしてペコペコするようにさせやがって!
こんなのつまんねーんだよぉぉおおお!!!」
「何なの?何なの?」
どうやらゴアファイターはリュミエールに私怨があったらしく、
出撃前もそれが原因で意気込んでいたようである。

「戦いも流血も楽しむべきものではありません。むしろ避けるべきもので可能な限り避けるべきなのです。
もうお忘れですか?」
「うるっせええええ!!!つまんねえ思想押しつけやがって!この代償はテメーの血で償え!!!」
ゴアファイターはリュミエールに殴りかかった。
それも、トゲをリュミエールの体に当てるようにして。

「リュミエール!…え?」
ゴアファイターのパンチを直撃で食らったにも関わらず
リュミエールは1mmも後退せず、全く姿勢も崩さず立っていた。
しかもゴアファイターの拳のトゲがひしゃげてしまっている。

「戦い…それも流血に快楽を求め…」「な…」
リュミエールは飛び上った。
「平和主義を忌み嫌い…」「ぐぅ!!」
さらに一瞬でゴアファイターの頭の真後に移動し、
「地球に恥を曝した貴方に生きている価値はありません」
そして首に絞め技をかけた。
「がああああああ!!!!!!!!」
リュミエールの腕の長さから見てはゴアファイターの首は太いが
それに関わらず一瞬で強引にリュミエールの腕に収まるまで絞めた。
パワーもなかなかのものだ。

「が…は…」
次に体勢が崩れていくゴアファイターの首に向かって
リュミエールは両手を開いた状態で互いの手を
ある程度の距離を開けて向かい合わせる構えをとった。
するとリュミエールの手の内側の空間がレンズのように屈折していった。

「さようなら」

リュミエールの手が光り、その光はレンズのような部分に放たれ、
そのレンズは光を集めゴアファイターの首に集中的に大ダメージを与えた。
これは攻撃範囲の狭さを活かした技「ヴァーチュズ・フォーカス」である。
これ以上被害を出さないため彼はこの技を使用したのだ。

「畜生…畜生ぉおお…俺は選ばれし者なのに…神様になったのに…
何でこいつらに血を一滴も出させられねぇんだよぉお…!!」

ついにゴアファイターは息絶えた。

あっけに取られたアクセルだったが、しばらくすると拍手した。
「へー結構やるんだね」
「もう治っちゃったんですか?」
パレットが聞いた。
「まだ完全ではありませんよ。たまたま彼がさほどパワーアップしていなかっただけです。
さて彼の手当をしたいのですが…」
リュミエールは冒頭でゴアファイターに襲撃されたハンターを見た。
「あいにく今の僕にその力は残っていません。
この場で出来ることをやるしかありませんね」
「大変だ!早くしなきゃ!」
負傷したハンターは一命を取りとめたがリュミエールと同じ治療を施しても
彼のように回復は上手くいかず、しばらく入院することになった。

「ベースの修理も手伝いましょう。何か指摘があったら言ってください」
「そうだね、これも何とかしなきゃね」
「片付けるですよ〜」

かくして3人は滅茶苦茶になったベースを片づけながらこの長い夜の夜明けを待った。


一方…
「言わんこっちゃないである」
ゴアファイターの上官の虫型レプリロイドは呆れ返っていた。
「自業自得ですネ」
超小型レプリロイドもそれに頷く。
「さて、準備もととのったことだし我輩達も地球に帰るである」
「素晴らしい世界を目指しましょウ、隊長殿」

そう言って彼等とその部下たちは宇宙船に乗りこんだ。
その時虫型レプリロイドに通信が入った。

『おい死体マニア』
「なんだ寒冷マニアであるか」
『一部始終状況は把握したぞ。俺の部隊も地球に帰ることにした』
「ならばどちらがよりよい世界を創れるか勝負である」
通信を入れたのは虫型レプリロイドと同格のレプリロイドらしく、
彼も地球を目指すようだ。

やがてそれぞれの宇宙船は進行方向先にワープホールを開け、その穴を超えて
地球に接近し、それぞれ異なる場所に着陸した。

こうしてこの長く、激しく、悲しく、儚い戦いの火蓋は切って落とされた。

第四話「マインドコンタクト」


長い夜は明け、ハンター達が出勤してくる。
もちろん彼等の中にはエックス、ゼロ、シグナス、エイリア、レイヤー、ダグラス、ライフセイバー達もおり、
日々の復興作業の協力者であるカーネル・アイリス兄妹も来ている。
彼等の話題は昨夜の2度に渡る衝撃音、すなわちリュミエールの不時着とゴアファイターのポッドが
着陸した時のものの事、リュミエールが復興している街の噂が中心だったが…

「なあゼロ、今日はやけに皆の様子が和やかじゃないか?」
「それだけ平和が戻ってきたんだろ?いい事じゃねーか」
「まあそうだけど、なんかクセの強い隊員の毒が抜けたというか、癖が取れたというか…」
「平和ボケで機嫌が良くなってるだけじゃねーか?最も俺はそいつらのようにはいかないがな」

エックスとゼロ、そして他のハンターやナビゲーターがこの日のやけに良い雰囲気について話し合っていた。
というのもレプリロイドはロボットとはいえ心を持っている。
さらに人間のようにそれぞれ性格や個性、思想が違うのだ。
それが只の友人付き合いではなく仕事で一同に会すれば各レプリロイドの間に何かと問題が生じてくる。
例えば威張り、喧嘩、嫉妬、軽蔑、差別、セクハラ、ノイローゼ、いじめなどといった形でそれらは現れる。
現にエックスもB級ということで冷遇されていた時期があったのだ。

しかしその日の朝は違っていた。
水と油のごとき不仲なハンター達は顔を合わせてもいつものように睨み合わず、
血の気が多く部下に威張ってばかりのハンターはいつものように威張り散らさず、
下品な男性ハンターはいつものように女性ハンター達に下品な事を言わなかった。
そして皆それらのことを不思議がりつつも嫌な顔はしなかった。
ちなみにゴアファイターに破壊された部分はリュミエールの技術により
かなり修復されたので気付く者は少なかった。

「お、何でアクセルがいんだ?あとパレットも」
「昨日の当番はお前じゃなかったはずだが」
「それはね…」

ゼロ達に聞かれアクセルとパレットは昨夜リュミエールが地球に不時着したこと、
ゴアファイターがそれを追ってベースを襲撃したこと、本来の警備担当者が入院に追い込まれたこと、
そしてリュミエールは応接室に待たせてあることを説明していった。

「ではそのリュミエールというレプリロイドに会わせてもらおうか」
「了解。 …リュミエール、ハンターの皆だよ」
シグナスの指示に従い、ハンター達は応接室に向かった。

「初めまして、僕はリュミエールといいます。こうして会うのは初めてですが皆様のことは聞き及んでおります」
「こっちも最近やたら復興が早い街があることは聞いてるぜ」
ゼロが答えた。

「(元々はDr.ワイリーに造られたイレギュラーのゼロさんですか。
アクセルさんと共に僕が思い立ったきっかけを作った方の1人ですね。それと…)」
ゼロを見ながらそのような事を考えていたリュミエールだったが今度は
カーネルとアイリスの方を見た。

「(この兄妹は元々は1体のレプリロイドとして造られるはずが
『強さ』『優しさ』のプログラムの拒絶で2体になったそうですが…
何故でしょうか…彼等の生い立ちに関して僕の中で何かが引っ掛かりますね…)」

ゼロとアクセルはリュミエールの人生に影響を与えた人物の中に含まれていた。
今まで直接面識はなかったものの、その情報だけで彼の生き方に十分な影響をもたらしていたのだ。
また、カーネル兄妹の出生の秘密に関してリュミエールは何かを感じ取っていた。
しかしそれが具体的に何なのかはその時のリュミエールには
正確に思い出すことは不可能だった。
一瞬の間にそれらの考えを巡らせた後、リュミエールは説明に踏み切った。
「さて、僕の方からも昨夜の事件のことを説明いたしましょう」

そしてリュミエールもハンター達に自らの素性と昨夜の事件のことを説明した。
「にわかには信じられない話ばかりだ。
あの噂が本当でその当事者がここにいることも、新世代型レプリロイドが宇宙人を侵略したことも、君が男だってことも」
「そこを突っ込むか」
「また間違えられましたね〜」

リュミエールはエックスからも女性と間違われてしまい、それにゼロとパレットが相槌を打った。
「でも、何故か頭がそれを受け入れようとしているんだ。
イメージがどんどん伝わってくる。これがテレパシーってやつかい?」
「精神を安定させるとも聞いたが今朝の隊員共の平和ボケっぷりはそのせいか?」
エックスとゼロが立て続けに質問した。

「僕のこの能力は主に電気信号を介して情報を他者に提供すること、
それと生活する上で無駄で有害な感情を抑える効果があります。
これらを総称してマインドコンタクトと言います」
マインドコンタクト…
これはこの物語において極めて重要な用語である。
他者への感情の制御はある程度強靭な心身を持つ者には無効だが、
情報の伝達は何者に対しても可能のようだ。

「なるほど…あのゴアファイターってやつが『どいつもこいつもリュミエールに
戦わずしてペコペコする』ってのはそういうことだったんだね」
アクセルがそう返した。
「待ってくれ、感情を操るなんて倫理的にどうかと思うぞ」
エックスが反論した。

「そうは言いますが僕がこの能力を裏社会の者や危険な思想を抱く者に発揮することで
彼等の犯行を未然に防ぎ、被害者はおろか彼等が法で裁かれることも回避してきました。
ハンターの皆様におきましてもこのままでは何かと不都合があり、問題も発生するでしょう。
過去にそれが事件に繋がった例が実際にあることはデータにあります。
その倫理を重要視すればまた同じ過ちを繰り返す可能性を残すことになりますがいかがでしょうか?」

「それは…(どう答えたらいいんだ…こうでもしないと本当の平和は来ないのか?
俺は皆の可能性を信じたいのに…)」
言葉に窮してしまったエックスだったがそれを見るに見かねてかゼロが切り返した。
「イレギュラーが現れたら叩き斬る。それでいいだろうが」

「でもイレギュラーが出ないに越したことはないでしょ?」
平和を愛するアイリスは感情を操る、という行為にやや疑問を抱きつつもゼロに意見した。
「まあ言ってしまえばそうなるけどよ…」
ゼロもまた複雑な感情を覚え言葉を渋った。
「(そりゃ僕だって『悪い奴がいなくなりますよーに』って星に願っちゃったけどさ…)」
この物語の冒頭で流れ星(実際はリュミエール)にそう祈りをささげたアクセルも心の中でそう呟いた。

「この能力は平和維持には大いに貢献することが出来ますが
悪用すると大惨事を引き起こします。
僕は本当に人間とレプリロイドを助けるためだけにこの能力を使ってきました。
問題は敵がこの能力を悪用してしまっていることです」

リュミエールは自分が私利私欲のためにマインドコンタクトを使っていなかったこと、
そして敵がマインドコンタクトを悪用して宇宙を侵略したことを伝えた。
ちなみにマインドコンタクトはリュミエールの能力の中では後天的なもので、
新世代型レプリロイドと言ってもそこまでコピーするのは難しい。
何故敵がマインドコンタクトを使えるかはまた別の理由があるが
それが明かされるのはもう少し先のことである。

「とんでもねぇことしやがるな、お前の元仲間は」
「地球の恥だよね。だから血を分けた僕としてもそいつらを潰してやりたいよ」
「それで敵のことを詳しく教えてもらえないかな」
ゼロを始めとするハンター達は驚きと呆れ、怒りの感情を覚え、
アクセルはそれに頷き、そしてエックスがリュミエールに敵の情報を求めた。
「はい。それでは組織のことを話しましょう。」

全宇宙を股にかけた驚異の侵略者達とは一体…!?

第五話「失ってしまった代償」

リュミエールは敵組織のことを説明し始めた。 「彼等は組織名をロードキングダムといいます。 自らを神とした帝国を創るという目的に由来しています。 『絶対神』を名乗るレプリロイドが頂点に君臨し、その下に三神帝、八神将、十使徒という大幹部が仕え、 さらに下に正規兵、すなわち僕の仲間だったレプリロイド、そして侵略先の幹部クラス、 侵略先の雑兵・雑用・奴隷という構成になっているようです。 ちなみにゴアファイターさんは十使徒の1人でしたから補充でもしない限り 十使徒はあと9人ですね」 これらのデータはゴアファイターの頭脳を解析して得られたものが多い。 尋問してもゴアファイターが吐く可能性は無に等しいのでわざわざ首を破壊して 死に至らしめ、その頭脳部分に残ったデータを解読したのであった。 しかしこれらの解読でリュミエールは敵の全てを知ったわけではない。 大幹部といえども十使徒レベルでは知らされていないこともあるし、 またデータのロックもあまりに厳重だったからである。 その為後にリュミエールは戦いを通じてこの時知らなかったことを知ることになるが、 果たしてそれは彼に幸と出るか不幸と出るか… 「新世代型でしかも神ってリディプスかよ…」 あの忌まわしい事件を思い出したゼロがつぶやいた。 「リディプスさんですか…確かにロードキングダムの構成員も彼のように 超フォースメタルを使ってパワーアップしているのです。 新世代型に超フォースメタル、それゆえ『神の力を得た』ということです」 「超フォースメタルだと…!?」 「そんなものが大量にあるわけないだろ!」 「ゴッドリディプスみたいなのが何人もいたらそりゃ宇宙でもひとたまりもないでしょ…」 一同は騒然とした。 何せ現在では地球上では超フォースメタルなどわずかに残った欠片から途方もない 技術と手間を要して1個再生できるか否かという代物である。 しかしリュミエールの元仲間達の人数は数百人はいる。 では何故超フォースメタルがそれほどの数だけ存在しているのか? 「何故かといいますと僕のチームは宇宙の遥か彼方にかつて地球に落下した フォースメタルの原石を含む隕石の元となる惑星を発見したからです。 いわば星そのものがフォースメタルといったところですね。 僕達はその惑星で超フォースメタルを大量に精製したのです」 「宝の山にも程があるよ。それで欲張りな仲間に裏切られちゃったんだね」 アクセルがそう返した。 「リスクを考慮に入れなかったのか!?これじゃ同じ過ちの繰り返しじゃないか!」 エックスが抗議した。 「もちろん細心の注意は払いましたよ。 事実として元仲間たちの中で僕を除けば最も力も技術もある ディザストールというメンバーでさえその両方において 当時の僕には到底及びませんでしたし、僕以外の全員が束になってかかっても 僕の勝利は揺るぎないものでした。 そもそも我々新世代型レプリロイドには厳重なプロテクトもかけられてましたし 彼等が僕を裏切る決定的な理由など無かったのです」 「じゃあ何でこんなことになっちゃったわけ?」 アクセルの問いにリュミエールは答えた。 「それはですね、まず僕が超フォースメタルを装着しようとした次の瞬間、 僕は突然宇宙空間に放り出されていました。 そして遠くから見たこともない攻撃が迫って来るので 携帯していた爆発性のあるアイテムを身代りに攻撃を回避したのです。 しかしその時僕は体も弱体化し、ダメージ量も甚大だったため 近くの惑星に不時着しました。 そして現地の方に助けて貰い、準備を整え次第仲間に再会しようと試みたのです。 しかし再会した仲間達は僕の思想を完全に否定すると共に 神として宇宙を支配する意思を表示したのです。 食い止めようとしたものの彼等は既に大幅にパワーアップしており、 弱体化していた僕では歯が立ちませんでした」 「ゴアファイターは弱かったけどリュミエールを倒したメンバーは あんなのよりずっと強いってこと?」 リュミエールの強さを実際に目にしたアクセルが問いかけた。 「勿論です。それは同じ新世代型レプリロイドでも抵抗値に大きな差があるからです。 僕を倒したメンバーの中にも先ほど申し上げたディザストールさんも入ってます。 彼は抵抗値においても抜きんでておりましてあらゆる能力が飛躍的に上昇していました。 彼が『絶対神』とみて間違いないでしょう」 リュミエールによると絶対神ことロードキングダムの首領の名はディザストールというらしい。 彼こそリュミエールの知る中で最高の力と知能とカリスマ性を持っているメンバーだ。 地球に落ちてきた時のリュミエールの深い傷跡の数々は主にディザストールによるものである。 「そいつが…この事件の首謀者なんだね…」 アクセルは固唾を飲みつつ言った。 彼はディザストールに対して戦慄と同時に闘志を覚えていた。 「ところで1ついいかね?君の口述によると君は超フォースメタルを装着しようとしたら いきなり宇宙空間にいたそうだがこの辺をもう少し詳しく聞かせてくれないか」 シグナスが問いかけた。 マインドコンタクトを通じても言葉通りのイメージしか伝わってこなかったためだ。 「もしかして、記憶が飛んでんの?」 自らも記憶喪失者であるアクセルがそう問いかける。 「それ以外ありえませんね。 僕の記憶容量は最新式の大型サーバーを軽く超越し、 その上極めて大きな衝撃を受けても失われることはありません。 しかし1度目の敗北以降記憶を部分的に失っております。 それは超フォースメタルを装着しようとした時から宇宙空間に放り出されるまでの記憶と、 いつも僕のそばに居続けた人物に関する記憶です」 「それって彼女?」「兄弟か?」「お友達?」 リュミエールの言う彼の肉親らしき人物のことでハンター達はあれこれ予想して聞いてみた。 「恋人なのか、兄弟なのか、親友なのか、恩師なのか、弟子なのか、ライバルなのか… 今の僕では思い出すことは出来ませんが必ずこの記憶は取り戻します。」 「その方がいいよ。 本当に大切な人だったらリュミエールにとっても、 その人にとっても凄く悲しいことだと思うし」 同情したのだろうか、アクセルはリュミエールに記憶を取り戻すことを勧めた。 「悲しみですか…実は僕はその人物に関する記憶と共に心の痛みも無くしました。 いかなる状況を予想しても心が痛むということは無いのです。 この事は大勢の人間やレプリロイドの運命を背負う僕にとっては都合のいいことでしょう。 その人物の記憶は取り戻したいのですが痛みも取り戻すのは御免こうむりたいですね。 かつて仲間だったゴアファイターを躊躇なく殺めたのもその影響であろう。 「誰だって悲しい思いはしたくないし、大切な人に悲しい思いはさせたくないよ。 俺も今までいくつもの悲しみを背負ってきたし、 数えきれないぐらいの同胞に悲しい思いをさせてきたさ。 だからこそ俺は自分も他人も傷つけるような戦いを終わらせるために戦ってきたし それは全く無意味でないと思いたい。 君に傷ついて欲しいとは言わないけど俺としては 痛みや悲しみの存在そのものを否定して欲しくはないな」 先程は言葉に窮してしまったエックスだったがこんどははっきりとした口調でそう言った。 それに対してリュミエールは… 「(…!この感じは、似ている!遠い星で出会った、あの人に… プロパガンダさん…あなたは今、どこで、何をしていますか…?)」 リュミエールの思想の一部に過酷な運命や戦いで心が傷つくというのは弱いということである、 というものがある。 何故なら生きていく、とりわけ戦っていくのにいちいち傷ついていたら 様々な支障をきたしてしまい上手く立ち回れないからである。 しかしそれは痛みに押しつぶされそのまま潰れてしまう者達に対しての思想だった。 痛みを知る故その痛みに立ち向かっていく、もしくはその痛みを他者に感じさせまいと努めるのは 弱いことでも醜いことでもない、ということもリュミエールの思想に含まれていた。 1度目の敗北の後、重症のリュミエールを助けた人物の名はプロパガンダというらしい。 その人物も傷を持つゆえの強さと深い愛情を内に秘めた人物のようだ。 痛みを知らなくなり、その意味すら見失いかけたリュミエールにとって エックスやプロパガンダなる人物は自分に出来ないことが出来る数少ない人物であり、 ある意味では尊敬の対象になっていた。しかし… 「(それでも僕は…痛みまでは取り戻したくなどない…地球のためにも…皆のためにも…)」 自らの立場を自覚しているリュミエールはどんな苦難にも立ち向かうため、 自らは痛みは忘れたままでいいと改めて思うのであった。 「ともあれ、事件の手がかりとしても君が記憶を取り戻すのは必須だな。さて…」 シグナスの口から結論が出ようとする。 「ロードキングダムだがまず超フォースメタルの悪用… これは過去のイレギュラーと同じ過ちを犯していることになるな。 そして異星の侵略行為… せっかく接触できた地球外の知的生命体に対し友好関係を結ぶどころか こちらから侵略行為を行うなど言語道断も甚だしい。 他国への侵略が許されざるものなら異星への侵略もまた同じ事であろう。 さらにうちのハンターへの暴行に、地球への脅威ともなる可能性… 以上の事からイレギュラーと見なす! 我々は奴らと戦うことをここに宣言する!」 「総監のお墨付きを貰っちゃ戦うしかないよね♪」 前々から参戦を希望したアクセルは意気込んだ。 「それでどうすんだ?またエニグマやスペースシャトルでも使うのか?」 未だ宇宙にいるであろう敵に対し迎撃するあてはあるのかとゼロが尋ねた。 「僕の本拠地には大型の宇宙観測装置がありまして、 宇宙で彼等の存在が観測され次第随時連絡しましょう。 さて誠に勝手な願いですがこれ以上地球の罪を重ねないために ロードキングダムにおける宇宙人の構成員は可能な限り殺生を避けて頂きたいのですが」 リュミエールは彼等を発見し次第連絡を入れることを伝え、 同時に敵との戦闘において宇宙人は殺さないよう求めた。 「確かに彼等は被害者だからな。殺さずに済むなら殺したくないよ」 殺生、という手段を好まないエックスは賛同する。 「それに俺達は敵だけ倒して捕虜はしっかり救助するという事は何度もやってきたからな。 そのぐらい何ともないぜ」 過去の対戦で幾度も敵だけを器用に倒すことをやってのけたゼロも頷いた。 他のメンバーも犠牲者を出すのは望ましくないという意思を示した。 「しかしロードキングダムの正規兵以上の構成員は新世代型レプリロイドのためコピー能力を持ってまいます。 そこで…」 説明しながら、リュミエールは持っていたゴアファイターの残骸のほんの一部と、 ゴアファイターが乗ってきたポッドの部品などからほんの一瞬にしてアイテムを作り出した。 「これを使用することをお勧めします」 「速っ…」 「これは一体…」 その鮮やかな技術に驚きつつハンター達は尋ねた。 「これは装着すると新世代型レプリロイドとそれ以外を識別出来るアイテムです」 「へぇ…ちょっと試させてよ」「いいですよ」 早速アクセルが装着してみた。 するとアクセルの視界の中のリュミエールの周囲に白い枠が現れその頭上には『NG』の文字が浮かび上がっていた。 「『NGぃ!?何なのこれ!?』」 「New Generation(新世代)の略です」 驚くアクセルにリュミエールは答えた。 「どれ…なんだお前にも出てるぞ、『NG』ってな」 「そんなぁ〜酷いよぉ〜」 ゼロもそのアイテムを装着してみたがどうやらアクセルもそう見えてしまうらしい。 そしてアクセルはNGの2文字から一般的に用いられる意味を連想してしまい、 そのため若干凹んだのだった。 「しかしどうするんだ、もし敵が君たちに変身してきたりしたら…」 「その時はですね…こうすればいいのです」 「な、なるほど…」 エックスの質問をリュミエールはマインドコンタクトを介して回答した。 それに対しハンター一同は大いに納得した。 その方法がそれほど確実性のあるものだったからだ。 「何はともあれ僕はこれより本拠地に帰り体制を立て直そうと考えております。 もちろん先程申し上げたように彼等を確認できたら連絡しましょう」 「こちらからも出来る限りのことはやるつもりだ。双方の武運を祈る」 「何だかもどかしいなぁ」 リュミエールは本拠地に帰り敵を発見し次第ハンターとは別々に行動する事を伝え、シグナスも了解した。 またシグナスも独自の調査や手配をするようである。 彼は早速ナビゲーター達に指示を仰いだ。 そして戦闘が先延ばしされたアクセルはまたももどかしい思いを抱えた。 その直後のことだった。 「大変よ!戦没者共同墓地が掘り返されてゾンビが発生しているわ!」 「ギガンティス島とその近辺の島々が謎のイレギュラーに襲撃されて雪と氷に覆われています!」 ハンターがリュミエールとロードキングダムの存在を知る前、巨大な飛行物体が現れた事が 早朝細々と報じられ、一部のマニアの関心を引いた。 それを元にその地域の映像と情報を入手したエイリアとレイヤーがそれぞれ報告した。 彼等は既に地球に帰ってきており、侵略も進めていたのであった。 「早速やってくれたようですね」 帰ろうとしたリュミエールは足を止めた。 「もう待ったなしだよ!」 アクセルは臨戦態勢に入っているようだった。 「その前に聞いてくれ。ハンターベースが襲撃された事もあり これからはベースにはある程度腕の立つ者が最低1人は残らなくてはならない。 エイリア、レイヤー、パレット… お前達もまた腕が立つことは知っているが敵は極めて高性能のレプリロイドゆえに 力だけでなく戦略に長けた者も多いであろう。 よって最低1人は本来の役目を担ってほしい。 そしてリュミエール君、君はこの事件の関係者ではないか。 敵のことを知る君にこそ、この戦いに直接協力して頂きたい」 「良いでしょう。僕もお供いたします」 シグナスはハンター達とリュミエールに指示を仰ぎ、リュミエールは ハンター達と共闘することになった。 現場で戦う者、警備の者、ナビゲーターが決まると現場行きになった者は 事件が起こっている地域へと向かっていった。 そして、地球と宇宙の命運をかけた激戦が本格的に始まる…

第六話「フォートレス・オブ・ザ・デッド」

ゼロとアクセル、パレットはゾンビが大量発生しているという共同墓地に向かった。 墓地は既に荒らされた後で、ゾンビ達は近くの街へ繰り出していた。 「うわ…何これ…」 アクセルは絶句した。 そこには生きている人間とレプリロイドが長蛇の列を作り、どこかへと向かっていくところだった。 マインドコンタクトの影響か、彼等は列を乱さず全員無表情だった。 その周囲に武器を手にしたゾンビ達が監視していた。 このゾンビ達であるがレプリロイドのゾンビもいれば中には人間のゾンビもいた。 「どうなっているの!?レプリロイドのゾンビは今までの事件でも出てきたけどさ、 人間のゾンビなんて映画かホラーゲームの世界じゃん!」 アクセルが驚くとゾンビ達の中から1つの人影が出てきた。 「それはな、マインドコンタクトは『頭脳』を持つもの全てに作動するからさ! それがメカニロイドでも人間でも宇宙人でも死体でもなあ!」 出てきたのはガードロイドで、アクセル達の視界には彼の頭上に「NG」の2文字が浮かんで見えた。 「教えてくれてありがとよ!」「そりゃどー…も゜!?」 言うが早いか、ゼロはガードロイドの首をはね、即死させた。 「敵だーっ!かかれーっ!!」 正規兵であるガードロイドの号令の下、正規兵とゾンビ達は3人に襲いかかり、 一般の人間とレプリロイド達はハンターをためらわせる為か、彼等の周囲を固めた。 「遅いな…」「楽勝だねっ!」「これぐらいなら大丈夫ですよ〜」 3人は一瞬にして民間人に攻撃を当てることなくゾンビと正規兵を全滅させた。 すると民間人たちは正気を取り戻した。 「何だか向こうに行く気がなくなっちゃった…」 「さっきまであっちにいこうとしてたんだけど、何でだったんだ!?」 「…とうよりなんでゾンビが平気だったんだ…!早く片付けてくれ〜!」 操作されたのは意志だけだったので彼等はちゃんと記憶もあったようである。 その事を踏まえパレットが彼等に聞いてみた。 「あなた達はどこへ向かおうとしてたんですか?」 すると民間人たちは一様に自分達が向かっていた先にある城のような建造物を指した。 「あの城だけど…ついこの間までなかったよな…」 その城は、今回の敵部隊が地球に着陸した直後ロードキングダムの技術で一瞬で建造したものだった。 「あの城が本拠地か…」 「いくよ、2人共!」 そして3人は城に到着した。 その頃… 「ほう、早速侵入者が現れたであるか… ビルよ、そやつらの映像を映すである」 ゴアファイターの上官だった虫型レプリロイドの声に答えるかのように モニターが作動し、3人の姿が映し出された。 「これはこれは…S級ハンターが2人とは大きく出たであるな。 特に我々の同胞アクセルは是非とも組織に欲しいである。 …それとなんだパレットであるか。我輩はガキやチビ女は興味ないである。 どうせならレイヤーかエイリアが良かったである」 一方城に入ったハンター達を迎えたのは角や牙、触手、多数の目… などを持ついかにも醜悪で悪人面の宇宙人のゾンビ達だった。 「グロォォォォ〜」「ヴォァオオオオ…」 「うわぁ〜気持ち悪っ!!」 「生で見るとキッついですね〜…」 「お前ら驚いている場合か!来るぞ!!」 宇宙人ゾンビのあまりにグロテスクな外見に度肝を抜かれたアクセルとパレットだったが ゼロの呼びかけと宇宙人ゾンビ達の襲撃に応じ、彼等を一瞬で全滅させた。 中に進むと既に他の町から攫われた民間の人間とレプリロイド達が 死体の手入れ、武器の製造や改造などの雑用をやらされていた。 彼等は肉体を酷使していたが、嫌な顔一つしていなかった。 「『頭』を潰せばいいんだよね…だったら…!」 アクセルは正規兵を見つけ次第、倒していった。 すると民間人たちは正気に戻りかけたが、それでも完全ではなかった。 ゾンビも動きは緩まったものの、活動を停止していない。 「俺達はこんな所でこんな事やってていいのか?」「やっぱ逃げた方がいいのか!?」 「これは…」 疑問を抱くアクセルだったが… 「聞こえる皆、城の中に2つの強力なイレギュラー反応があるわ! このイレギュラー達はマインドコンタクトの出力も強くて 彼等を倒さない限り民間人達を完全に元に戻すのは無理みたい!」 「『頭』を潰さなけりゃこいつらはこのままってわけだな。 それでエイリア、奴等はどこだ!?」 「今から場所を教えるわ。まず1人目は…」 エイリアから通信が入り、ゼロとアクセルは二手に分かれその場所に向かった。 パレットは戸惑う民間人達を説得し、彼等を既に制圧した冒頭の街へと転送させた。 要救助の人間またはレプリロイドを安全な地へ転送させるのは常套手段である。 そして再び奥へ進もうとしたところ、宇宙人ゾンビがいたところから物音が聞こえてきた。 その音は肉を貪るような音で見ると何人かの不気味だが体格がさほど良くない 宇宙人達が活動を停止した宇宙人ゾンビの体を貪り食っていた。 「きゃっ!」 そのグロテスクな光景にパレットは思わず声を漏らし、宇宙人達はそれに気がついた。 「何だお前!?食事の邪魔してくれるなよ」 「ここの隊長殿は偉大だぜ、スカベンジャーの俺達が本能の赴くまま 堂々と死体を食える環境を作ってくれるんだからなぁ!」 「嬢ちゃんは機械みたいだから俺達は食えねーな… 隊長殿の好みにも合わんようだし、こりゃ別の意味で頂くしかねぇなあ!!」 どうやらゾンビではなく生者だったようだ。 この宇宙人達はその星のスカベンジャー(腐肉食性動物)から進化した種族で 文明の発達とともに彼等の星で死体を食べる事は非合法になっていたが ロードキングダムに入ってから死体を食べる事を許されたようだ。 そして彼等はパレットに襲いかかった。 「こういう時は…スライムミサイル・改!」 パレットは持続時間を大幅に伸ばしたスライムミサイルで彼等をバインド状態にした。 「畜生!動けねぇ!!」 すかさずパレットは彼等をハンターベースのシェルターに転送した。 これはマインドコンタクトが解除されるまでは宇宙人は危険であり、 さらに取り調べの必要があること、ハンター達が持っている転送装置の出力では 他の星に飛ばせないこと、彼等の出身星も分からないことといった理由の為である。 ハンターベースにて… 「来たぞ!」 エックスが言った。 「お前ら何する気だ!!」 「大丈夫よ、悪いようにはしないから」 「尋問よりマインドコンタクトが解除されるのを待った方がいいでしょう。 最も、それまでの間に我々も最善を尽くしますがね」 必死で抵抗する宇宙人達にアイリスやライフセイバーが説得する。 「みんな頼むぞ…」 今回警備に当たることになったエックスはただ祈った。 その頃ゼロは、暗く薄気味悪い城の廊下を歩いていた。 その近くには既に強力なイレギュラー反応の発生源が身を潜めていた。 「(来イ…来るんダ…そのまま進メ…)」 「ん…」 ゼロの脚や胴体に何かが引っ掛かった。 「何だ蜘蛛でもいやがるのか!?」 体のあちこちに引っ掛かった糸のようなものを手に取りゼロは呟いた。 「(バカな…ボクの糸で何ともないなんテ…!)」 「新築なのに蜘蛛が巣を張ってるなんて、妙な話だな…なんてな!」 気付かない振りをしていたゼロが急に糸を引っ張った。 「うおっ!?」 糸に引っ張られ宙を舞ったそのイレギュラーはその糸を切り離し地上に降り立った。 ゼロの目の前に、かなり小型で呪い人形のようなレプリロイドが現れた。 「人形遣いに見せかけた人形は使わないのか?」 「ボクは十使徒の1人デモンズドール。 そのボクがそんな陳腐な手など使うわけがないヨ」 敵の姿を見たゼロがそう皮肉り、デモンズドールはそれに応じた。 「とにかく墓場の奴等は今まで眠ってたんだ。 てめぇらのくだらん戦いの為に叩き起こすんじゃねぇ!」 「くだらないのはリュミエールとそれに与するおまエ達…それを教えてあげるヨ!」 デモンズドールの武器は指先から発する極細ワイヤーで、 しかも蛇や触手のように自在に動かせる。 「さきほどは罠として張っていただけだったけど、これならどうかナ?」 ワイヤーをゼロの体に瞬時に巻きつけ、切断しようとしたが… 「なに気張ってんだ?」 「そんナ…最大出力で締め付けているのニ…ならバ…」 締め付けの力はデモンズドールの力とリンクしており、 さまざまな物体を簡単に輪切りに出来るはずだが、ゼロには通用しなかった。 そして切断を諦めたデモンズドールは次にゼロをワイヤーで持ち上げ、 振り回そうと試みた。 「フン!」「…!!」 ワイヤーが千切られてしまった。 「おおお!!!」 そして皮肉にもゼロがそのワイヤーを束ねデモンズドールを振り回し、壁、天井、床に衝突させた。 「ブギャ!ボゲ!!ギャブ!!!」 ぶつかる度に大ダメージを受けるデモンズドールだったがある時ワイヤーを切り離し、 体勢を立て直して着地した。 「ハァァ…ハァァ…これならどうかナ…?」 次にデモンズドールはワイヤーの先端を鉄塊に突き刺し、合計10個の鉄塊を ワイヤーごと操りゼロにぶつけようとしてきた。 「だから無駄だっつってんだろ!」 ゼロはそれらの鉄塊全てを細切れにしてしまった。 「(そんな…そんなバカナ… ハッ!こいツからは今の、いや全盛期のリュミエール以上の力を感じる… いや、そんなはずはなイ!そんな化け物がいるわけなイ!) いてたまるカーッ!!!!」 デモンズドールは口を開くと、釘型のミサイルを発射してきた。 「この釘ミサイルは重量と速度故、街1つ簡単に貫けル! おまエにこの技を破れるカーッ!」 「どこが速いんだ?」 次々と発射される釘ミサイルをゼロはまたしても細切れにしていった。 必死にミサイルを撃ち続けるデモンズドールだったが次第に両者の距離は縮まっていった。 そして、ゼロのセイバーが遂にデモンズドールの体を貫いた。 「グ…ハァ!!ボクもこれまでカ…でもこれも運命…ボクもそこまでの男…!!」 「何言ってるんだ?」 「死というのは誰にも平等に訪れるもノ… 人間はもちろンボク達レプリロイドだって事件や事故でいつ死ぬか分からなイ… だからこそ皆一生懸命生きるのニ… それなのにあいつは…リュミエールは…『死』をこの世から無くそうとしているんダ… 死のない薄っぺらい人生に意味などあるのカ? 価値などある…の…カ…?」 リュミエールは死をこの世から無くそうとしていたようだ。 デモンズドールはこの事を不服としたことを語り、その直後死亡した。 死を無くす事がどういった事かは後に明かされることになる。 「死について云々は俺も答えかねるがイレギュラーのてめぇらが何を言ったところで 説得力も何もねぇよ」 そう呟きながらゼロはさらに奥へと進んだ。 その一方アクセルもまたエイリアが教えた場所に向かったが… 「(確かに感じるぞ…凄い気配だ!)」 扉に近づくにつれ、強く禍々しい気配をアクセルは感じていた。 「ええい、戸惑ってる暇はないぞ!」 アクセルは勢いよく扉を開けた。 そこにいたのは、虫、厳密には蚤のような姿をしたレプリロイドだった。 背丈こそアクセルと同じぐらいだったが、そのレプリロイドからは ゴアファイターなどとは比較にならないほどの凄まじい力と悪の気配が感じられた。 「(強いね…)」 アクセルが固唾をのんでいるとその蚤型レプリロイドが語りだした。 「ここまで辿り着くとは、感心である。 ああ、我輩はダムド・フリードリヒ。八神将の1人である」 「ふぅん、ところで道中で宇宙人のゾンビを見かけたんだけどさ、 あれはお前達がやったものなの?」 「我輩達がただの1人も宇宙人を殺した事がないわけではないが、 この城にいた奴等は違うである。 奴等は自分達のくだらぬ運命と意地に振り回されて死んでいったクズ共である」 フリードリヒの気配に圧倒されつつアクセルが尋ね、フリードリヒは答えた。 さらにアクセルは質問を続けようとした。 「ちょ、それどういう事?」 「詳しい話は貴様が我輩達の仲間になれば聞かせてやるである。 貴様の居場所はレッドアラートでも、イレギュラーハンターでもないである」 既にアクセルの素質と潜在能力を見抜いたフリードリヒはアクセルを勧誘した。 「お前達の仲間になるなんてまっぴらごめんだね!僕はイレギュラーハンターのアクセルだ!」 「これはちょっと手荒な真似をせねばならないであるな。 加減を間違えて死体にしてしまった時はリサイクルしてやるである」 突如、アクセルの視界からフリードリヒの姿が消えた。 「消えた?」「上である」 フリードリヒは消えたように速く跳躍しておりアクセルが気づいた時には 既に頭上近くに降ってきていて… 超強力な蹴りをアクセルの頭上に次々とヒットさせていった。 「うあっ!げほっ!くうぅ!!」 「貴様のエネルギーを頂くである」 さらに首に口の針を突き刺し、アクセルのエネルギーを吸ってきた。 「ふぅ…男の血はマズいであるな…」 「うぅぅ…」 一瞬の連続攻撃にアクセルは倒れ伏した。しかし… 「強い…強いけど…立てる!戦える! リュミエールを倒したことのある奴等はこんなもんじゃないはずだ!」 意志と体力、その両方の要素によりアクセルは立ち上がった。 「ステルスモード!」 「ハイパーモードであるか。だが持続中に我輩の体力を削りきれるかな?」 アクセルはステルスモードを発動し、無敵時間中にフリードリヒを倒そうとした。 しかしフリードリヒは防御力を強化されており、さらにアクセルから見ても高速で跳躍するため 急所を狙うのは難しく、やがて持続時間は切れてしまった。 「さて、反撃である」 例によってフリードリヒは跳躍しアクセルの頭頂部を蹴りにかかった。 「その跳躍力、逆に利用してやる!」 上空にいるフリードリヒの少しでも防御の薄そうな部分を狙い撃ちするアクセル。 しかし落ちている間に弾を当てられる回数やダメージ量などたかがしれている。 「そりゃ!」 着地したフリードリヒはすかさず地を蹴りアクセルに体当たりして、アクセルは壁に叩きつけられた。 それ以降フリードリヒはダメージの蓄積を避けるためやたら高くジャンプしなくなり 地上からそれほど高くないところから、しかし飛距離は長い 飛び蹴りやタックルをアクセルに浴びせていった。 一撃一撃のダメージはフリードリヒの攻撃が遥かに勝りアクセルは追い込まれていった。 「う…う…」 「さあマイケル!この愚か者と我輩の戦いにスポットライトを当てるである!」 するとそれに合わせ自動照明装置が現れ両者の頭上を照らした。 「そしてジェームズ!貴様の出番である!」 その呼び声に合わせて巨大な引き車が召喚された。 「あんた変人だよ…モノをあたかも人みたいに呼ぶなんてさ…」 血を吐きながらアクセルは強がりを言った。 「フフフ、こ奴等は元々レプリロイドでその死体をリサイクルしたものである。 生前はクズでも死んでからは役に立つのである。このようにな!!」 フリードリヒは後部をジェームズと呼ばれた引き車と連結し、その状態で跳躍した。 そしてそのままアクセルを轢いた! 「ぐあっ…!…!」 「フフ…フフフフフ… 武器…道具…兵力…雑用…鑑賞用…宇宙人のエサ… 死体は我輩が使うことで様々な用途に役立つである!それがどんなクズでもな! なのにあの愚か者(リュミエール)は死体のできない世界を作ろうとしているである! これではクズの無駄使いである!絶対許せんである! そんな愚か者と手を組む貴様等も同罪であーる!!!」 興奮状態のフリードリヒは何度も、何度もアクセルを轢いた。 しかしこれで倒れるアクセルではなかった。 「始まったばっかなのに…いきなり倒れるわけには…いかないね!!」 アクセルはフリードリヒを引き車ごと引き倒した。同時に引き車も破壊された。 そして隙が出来たところを撃ち続けたがやがてフリードリヒの反撃が始まった。 「(く…こいつの最大の武器は跳躍力…でも今は ロードキングダムのボスの特殊武器なんて1つも持ってない… かくなる上は!)スパイラルマグナム!!!」 アクセルは過去のイレギュラーであり、己やロードキングダムの同胞でもある グラビテイト・アントニオンの特殊武器を使った。 これによりフリードリヒ自慢の跳躍力は一時的に奪われダメージもかなりあった。 「グ…オオオオオ!!こともあろうにわが同胞の武器を使うなどとは… あくまで我々に刃向う意思を表したつもりであるか…!?」 「そんな御大層なものじゃないね。ただハンターとしてイレギュラーを狩る、 それだけだよ!」 スパイラル・マグナムの連射性能は低いのでアクセルはもう片方の手で アクセルバレットを連射することでカバーした。 フリードリヒにダメージが重ねられていくのは明白だった。 しかしフリードリヒもなかなか倒れてくれない。 やがてスパイラルマグナムの武器エネルギーが切れた。 「ハァ…ハァ…どうだ!!」 「まだだ…まだである…」 フリードリヒはよろめきつつも起き上がり、渾身の飛び蹴りを放った。 「(来るぞ…少しでもズレたらアウトだ…)」 アクセルは全身の神経を研ぎ澄ませた。 そして、フリードリヒの飛び蹴りがまさにアクセルを捕らえようとしたその瞬間、 アクセルはギリギリでそれを交わし、すかさず既にダメージを与えていた箇所に、 ありったけの弾丸をぶち込んだ。 「が…はっ…」 とうとうフリードリヒは地に倒れ伏した。 「終わっ…た…?」 満身創痍で全身が痛むアクセルだったが、まだ警戒を解いていない。 「我輩は…そしてかつてのリュミエールも今までクズ共の死体を使って 奴等を死後もこき使い続けてきたである… 実験だのリサイクルだのという形でな… 貴様もこれからの戦いに役立てたいなら我輩の死体を使えばいいである… さあ…使うがいいである…」 フリードリヒはアクセルに吐き捨てるように言った。 その瞬間… 城の中のオーディオが作動し、曲が流れてきた。 「おお、ヘンリーよ…我輩のために歌ってくれるであるか… レクイエム(鎮魂曲)…我輩の…我輩の最期にふさわしい曲である…」 そしてフリードリヒは死亡した。 「ああ、使ってやるさ。お前の武器やDNAデータをね。 今までずっとそうしてきたんだ、そして今回もそうやって 絶対神…ディザストールを倒すんだ!!」 アクセルがフリードリヒを撃破するとほぼ同時にゼロとパレットも城の制圧を完了し、 帰還することにした。 フリードリヒの死に伴いベースの宇宙人達も正気を取り戻し、 記憶がある為罪悪感に苛まれたがハンター達の説得で立ち直り、 今回の戦いのバックアップに多少なりとも協力することを申し出た。 さて戦いの舞台は1つだけではない。 もう1つの舞台であるギガンティス島でも激戦が繰り広げられているのだった…

第七話「WILD FANG」

リュミエール、カーネル、レイヤーはギガンティス島に到着し、 島全体がメルダ鉱石プラントのように雪と氷で覆われて、 さらに島のレプリロイドやメカニロイドの死体があちこちに散乱しているのを確認した。 「観測した時よりさらに酷くなっていますね…」一度映像を見ているレイヤーは驚愕した。 「レプリフォースにも雪と氷にゆかりのある暴れん坊がいたがロードキングダムにもいるようだな。 こういう輩を放し飼いにするとは敵もけしからぬ連中だ」 カーネルが呟いた。 「こんな事をするのはレオパルダーさんしかいないでしょう。 セントラルタワーの方角から感じるこの荒々しくて冷たい気配は間違いなく彼のものですね」 リュミエールは既に犯人を特定していた。 そしてセントラルタワーを目指す一行。 「これは…」 セントラルタワーに近づくにつれ三人は既に何体ものロードキングダム正規兵が 胴体を真っ二つにされ死んでいるのを確認した。 周囲には大きなクレーターや地割れもいくつかあった。 その頃セントラルタワーでは… 「各エリアに報告します。セントラルタワー付近に敵を確認しました。 容姿からイレギュラーハンターのレイヤー、元レプリフォースのカーネル、 そして我々の宿敵・リュミエールと思われます。」 指令室でナナが島全体のエリアに放送を入れていた。 シルバーホーンドの時と違い、無理矢理ではなく自らの意思で敵に従っていた。 マインドコンタクトは極めて強い体と心を持つ者以外には通用するので、 優秀とはいえ非戦闘員であるナナも術中に陥ってしまったのだ。 彼女の周囲には何体かの正規兵もいた。 「つきましては未だ完遂していないギガンティス島制圧と侵入者排除の為、 各エリアの皆様は至急全員、セントラルタワーに…」 コン… ナナが放送を続けようとしたその時部屋のどこからか物音がした。 「何事だ!」 正規兵達がその音の発生源を突き止めようとした時、天井からナナの頭上に向かって 逆さの人影がぶら下がって降りてきた。 「(ムグ…!)」 その人影の主はナナの口を塞ぎ、一瞬で天井裏に引きずりあげ、さらに 物音一つ立てずに天井裏を駆け抜けていった。 「くそ!やられた!」 「マインドコンタクトが通じないのにその強い気配を感じさせないとは…まさか…」 正規兵達はある人物を思い浮かべていた。 その人物、マリノが向かった先は既に奪還済みのとある部屋だった。 そこではギガンティス島の職員や民間のレプリロイド、そして 白い体毛で覆われた大柄な宇宙人達が拘束された状態でシナモンの治療を受けていた。 敵より情報を入手したシナモン達はリュミエールと似たような理由で宇宙人も治療していたのだった。 「連れてきたよ、シナモン」 必死で治療をするシナモンにマリノが報告した。 「離してください!私はもうロードキングダムの一員ですよ!」 ナナは必死に抵抗していた。 「ナナさんまで…酷い…」 この惨状にシナモンは涙ぐみかけた。 「泣き言言ってる場合じゃないよ!この娘さえ何とかすればこの状況も 大分良くなるはずだよ!」 「わかりました…!」 治療中のレプリロイドや宇宙人達の様子を見ながらシナモンは改めて決意を固めた。 「畜生!いっそ殺せぇ〜!!!」 「嘘だ!俺の中に戸惑いが生まれてるなんて嘘だ!」 「俺達は悪なのか?お前等の方が正しいってのか!?答えろ!!」 シナモンの治療とマッシモの侵攻で正規兵が次々と死亡している事が重なって 彼等はマインドコンタクトの効果が薄らいできており、葛藤状態になっていた。 「まったくとんだ技術だね、あたしが盗むとしたらこんな曲った事には使いやしないよ。 さて、シナモンを信じてあたしも行くとしますか」 ギガンティス島の中でもマインドコンタクトが通じないのは今や マリノ、シナモン、そしてマッシモだけになっており、 マッシモは主に敵の撃退を担当していた。 そして当初の目的であるナナの救出を達成したマリノは シナモンを信じて改めて戦場に向かった。 その頃マッシモは1人で正規兵を次々と倒していた。 「ボスはどいつだ!?お前等じゃないことぐらい分かっているぞ!」 「こいつ…我が軍の冷気放射器が通用しないぞ!!」 正規兵達は火炎の代わりに冷気を噴射する火炎放射器のような武器で マッシモに立ち向かっていったが、それは全く通じず 次々と叩き切られたり砕かれたりしていった。 そうして侵攻を進めるマッシモが1つの大部屋に到着すると彼の前に 冬季スポーツ選手のような姿をしたレプリロイドが現れた。 「へえ、おたくも操られない者だったのか… 味方なら頼もしくて敵なら戦いに張りが出てきて、いいねえ」 そのレプリロイドは不敵にマッシモを挑発した。 「いきなりやって来て好き勝手暴れ回りやがって!ナナさん達を元に戻せえ!」 マッシモは激昂した。 「ククク…この戦いは俺達操られない者達による、操られるカス共、 そして地球と宇宙の運命を賭けた戦争、ってわけだ… 俺は十使徒のフリーズエッジ。カス共を助けたきゃかかってきな!」 マッシモはフリーズエッジに斬りかかった。 しかし氷に覆われた足場の悪さと敵がそれをものともしない為か中々攻撃が当たらず、 その強烈な打撃は床にばかり直撃し、派手に亀裂を広げていった。 「すげえ馬鹿力だな。だけど、その馬鹿力も当てられなければ全く意味はないぜ!」 さらにフリーズエッジは冷気をまとった刃による蹴りや背中からアイスホッケーのパックのような 円盤を発射し、それをスティックを使って何発もマッシモにぶつけつづけた。 しかしマッシモも全く手も足も出ないわけではなく、ある時攻撃をフリーズエッジにかすらせた。 「かすっただけでこのダメージかよ…!しかもこいつ中々くたばらないぜ!」 攻撃を当てるチャンスはフリーズエッジが勝るが一回でもマッシモの攻撃がかすれば フリーズエッジにもそれなりのダメージを受ける。 持久戦になる事をフリーズエッジが覚悟しようとしたが… 「強がりはやめだ、こいつで決めるぜ!」 マッシモはサブウェポンのホークアイを使った。 そして再度フリーズエッジに斬りかかった。 「ギエエエェェーッ!!!」 ホークアイ作動により攻撃が命中し、フリーズエッジはあっけなく死亡した。 マッシモは実は己の弱点である攻撃の鈍さ・不器用さを補うため 敢えてホークアイを使わないことに努め、雑魚ではそれで問題なかったが 今回は相手が悪かったため敢えてその封印を解いたのだった。 しばらくしてマッシモは敵兵を大勢倒したマリノと合流し、共に侵攻を続けた。 その頃シナモン達は… 「ううぅ…ナナさん…頑張ってくださいよぅ…」 「何故でしょう…たった今…さらに迷いが…大きく…なりました…」 フリーズエッジの死とシナモンの治療の効果が重なり、 マインドコンタクトがさらに解除されつつあった。 その時、何人かの人物が扉を開け部屋に入ろうとしてきた。 「だ、誰ですか?」シナモンは身構えた。 入って来たのはリュミエール、カーネル、レイヤーだった。 「カーネルさんと、レイヤーさん、あと敵が言っていたリュミエールさん、ですね。 敵の頭の中から貴方のイメージが伝わってきたのですけど…」 「初めまして、シナモンさんですね。ギガンティス島事件の噂はかねがねお聞きしています。 それにしても流石ですね、初見でマインドコンタクトの効果をここまで緩和させるとは… ここまで出力レベルが下がっていれば今の僕でも…」 リュミエールは島全体を対象に自らが放つマインドコンタクトの出力を強めた。 そして、ナナも含めその場にいた全員にかけられたマインドコンタクトが解除された。 「私は…私はやはり間違っていました…!敵の仕業とはいえ何という事を…! どんなに謝っても足りませんっ…!」 正気を取り戻したナナは号泣した。 そして同じくギガンティス島職員や宇宙人達も同じ感情に襲われた。 「あああ、俺達は何てことしちまったんだ…!魔が刺したんだ!魔が刺した気がしたんだよ!!」 「『絶対神』発祥の地を俺達に住みよい世界に出来るとか聞いてその気になっちまったが… とんでもねぇ事をやっちまったのか…」 「俺はイレギュラーだぁーーーーっ!!!!!」 悲しみと自責の声が部屋中に響き渡る。 マインドコンタクトによる行為は通常考えられるイレギュラー化とは違い、 記憶の連続性があり、そのため解除された時の罪悪感も大きくなるのだ。 「今までの皆様の行為は皆様の本来のご意思によるものではなく、 今回島にやってきた敵が作った意志によるものなのです。 ですからご自分を責めるのは…」 リュミエールが言いかけた時だった。 「そうだ!マッシモさんとマリノさんは!?」 職員の1人がハッと思いだした。 「皆さんをこんなにした敵を倒すため今も戦っています」 シナモンが答えた。 「こうしちゃおれん、早くこれを外してくれ!」 部屋にいた者達は拘束具を外すよう促し、シナモンもそれに応じた。 そして部屋にいた全員はナナの指示に従い、持ち場に戻ったり、 ナナが指令室に戻る際行動を共にしたりした。 こうしてセントラルタワーの機能は急速に回復していった。 リュミエール達3人はボスを目指して先に進み、やがて敵兵と戦うマッシモ、マリノと合流した。 「こりゃ助かったぜ!」 「あんたがリュミエールって人だね。さっきモニターで見させてもらったよ」 こうして彼等は敵兵を次々と倒していった。 ある時敵が乗っていない最新式ライドアーマーが一台放置されていた。 「丁度いい所に…」 レイヤーがそれに乗り込んだ。 「覚悟なさい!はあああああ!!!!」 ライドアーマーに乗ってテンションの上がったレイヤーはそれまでより さらに激しく敵を撃破していった。 「ヤコブの事件の時もああだったと聞くぞ…エイリアもな…」 カーネルが呟く一方リュミエールはある考えを張り巡らせていた。 「(性格の豹変…これもカーネル兄妹の出生同様何かが引っ掛かりますね… 僕の記憶を取り戻す重要なヒントの気がします…)」 そう考えつつもリュミエールは指先から連続で発射される小型レーザー弾、 「エンジェルズシュート」で正規兵の頭部を正確に射抜いていった。 その頃セントラルタワーの外では… 「ナナって女の話じゃリュミエールが来ているらしいぜ…」 「丁度いい、弱い者を狩るよりよっぽど面白そうだな」 「突入だ!」 ギガンティス島のセントラルタワー以外のエリアならび島の外にいた敵兵がセントラルタワーに到達し、 侵入していった。 屋上から感じる強大なイレギュラー反応を頼りにそれを追う一向だったが、 最後には今までよりも大勢の正規兵が扉の前で待ち構えていた。 敵の中には大型の雪上車のような戦車に乗っている者もいる。 「ここを突破すれば…」 皆がそう感じた刹那、大勢のイレギュラーの気配を感じ、さらにその直後 先程侵入してきた敵兵の集団が後ろに現れた。 「どうだ!前門の虎、後門の狼って奴だ!」 「隊長殿に会わせるまでもなく袋叩きにしてくれる!」 正しく一行は挟み撃ち状態になった。 「貴様等が分かれているならこちらも分かれればいいだけのこと!」 「あたしはあんた達を信じている、だからあんた達もあたし達を信じて早くいきな!」 そしてリュミエール達は門前の敵を一掃し屋上に到達すると同時に マッシモとマリノは背後の敵を一掃し下で行われている激戦に加勢しに行った。 下でもナナの指示の下正気を取り戻した職員達と敵が戦っていたのだった。 屋上は、周囲に高い氷の壁がそびえ立ち、また凍った床からは何箇所か 氷が丘のように高くなっていた。 そこに3人が到達するや否や突然敵の奇襲が。 その敵はまず高所から一瞬でレイヤーの頭上付近に飛び降り、 レイヤーがそれに気づきライドアーマーのアームを振るうも その敵はライドアーマーを瞬時に凍らせて引き裂いた。 レイヤーが辛くも脱出すると同時に次にその敵はまた高所からカーネルを襲撃し、 氷の爪で大ダメージを負わせたがその瞬間カーネルが サーベルで切りかかろうとしたためまた間合いを取りに高所へ移動、 最後にリュミエールに斬りかかったが片腕でガードされ数秒間 こう着状態になったがやがてはじけ飛ばされるように3人の前の 特に高い丘に着地した。 3人を襲った敵は冷たい眼を持ちユキヒョウのような姿をしていた。 ギガンティス島を襲撃した敵部隊の中で最も強力なイレギュラー反応を示し、 尚且つ最も高出力のマインドコンタクトを使う彼こそこの部隊の隊長で、 八神将の1人だったのだ。 「スノー・レオパルダーさん、やはり貴方でしたか」 リュミエールの予想は的中していた。 「名乗りもせず不意打ちとは…無粋な真似をするな」 ダメージを堪えつつカーネルが言った。 「何故このような真似をしたのか答えなさい」 レイヤーが聞いた。 「それはこの大馬鹿野郎が糞みたいな思想を皆に押し付けるからだ。 人間とレプリロイドは自然保護区域に立ち入り禁止、というな」 リュミエールは自分の管轄下では自然保護区域の人間及びレプリロイドの立ち入りを マインドコンタクトを使って出来ないようにしていた。 通用する者はそれでいいがレオパルダーのように通用しない者はただ歯がゆさを感じていたのだ。 そして彼はそれを行った理由を述べた。 「人間とレプリロイド、その2つの存在と自然を分け隔てるのは 双方の為を想っての事です。 それに対し貴方は皆に今さら互いに得をしない原始時代みたいな生活をしろとでも仰るのですか?」 「……」 これを聞いたカーネルは何かを考えていた。 リュミエールの発言にレオパルダーは異議を唱える。 「俺達に生ぬるい温室みたいな場所で暮らすことを強制し、 厳しくも美しい自然に、特に極寒の地に触れるなという貴様の思想こそ虫唾が走るわ。 太古の昔より人は自然と時に共生し、時に戦ってきた。 俺達レプリロイドとて精神、肉体共に強くなければ自然の中では生きられん。 それ故自然と共生する者は気高く美しいのだ。 温室でしか生きられん弱者に対する優しさや思いやりの方がよっぽどくだらない」 レオパルダーは自然、とりわけ寒冷地で生きることや そこでの人々の生き様を良しとしていた。 そして弱い者など死んで当然と考えており、彼等を守ろうとするリュミエールの思想が気に入らなかったのだ。 「貴方の部隊はいたずらに弱き者を虐げ、平和と正義を想う心を踏みにじってきました。 それを良しとする貴方は見た目だけでなく心まで獣になってしまったのですね」 「俺を貶すか。…貴様はいつも言っていたな、悪意や凶暴性を抱えた性格を『獣の心』、と。 だがこの言葉は俺には侮辱ではなく褒め言葉だ。 俺を説得したければ力で捻じ伏せてみろ、大馬鹿野郎共!」 犯した暴挙もさながら性格・思想からして話の通じるような相手ではなく、戦いは再開された。 レオパルダーは高速で氷から氷へと跳ねまわる。 そして攻撃する時は高所から相手目掛けて飛びかかる。 それを見抜いたレイヤーは敵が来る瞬間それを潜り後ろからレイピアで突こうとした。 「この洞察力に剣さばき…新入り以外の十使徒ぐらいならいい勝負が出来るかもな。 だが、俺は八神将だ!」 そう言ってレオパルダーはレイヤーに吹雪を浴びせ、凍らせてしまった。 直後氷の爪でレイヤーを引き裂こうとするレオパルダーだったが、 カーネルが雷を落とそうとしたのでそれを避けると同時に 一気にカーネルとの間合いを詰めた。 そして白兵戦に突入しかけた時… 「軍隊ならではの格闘センスに俺にも劣らぬ闘争心、さらにこの場所での雷は威力も増すだろう。 だが貴様も氷が弱点らしい!」 カーネルは氷の攻撃には弱く、レオパルダーの攻撃で大きなダメージを受け 隙が出来るや否やすぐ凍らされてしまった。 その時レオパルダーにリュミエールのエンジェルズ・シュートが何発か命中した。 「リュミエールよ、上から聞いているぞ、今の貴様は弱体化で大技が使えなくなったとな!」 エンジェルズ・シュートをものともしなかったレオパルダーは大量の雪と強風を同時に発生させ、 雪崩としてリュミエールにぶつけ、彼を押し飛ばし、壁に叩きつけた。 「さて…」 レオパルダーは先ほど凍らせたレイヤーとカーネルを殴打した。 「あああああ…!!!!!」「ぐぅぅうううう!!!!!」 砕けはしなかったものの凍らされた状態からの打撃は威力を増し、 2人は全身に激しいダメージを受け、激痛を覚えた。 「一発ではいかなかったか、ならもう1度!」 レオパルダーは再度2人を凍らせ、今度こそ砕こうとしてきたが… 「させません」 体勢を立て直したリュミエールが今度は手を手刀の形に構え、 そこから剣状のビームを発生させた「アークスブレード」で斬りかかった。 「俺のマインドコンタクトを相殺するために無理をしているようだな… 今の貴様はこの2つの小技が限界か!?」 アークスブレードでもレオパルダーにはあまりダメージを与えられなかった。 「そうでもありませんよ。(とはいえプリンシパル・リフレクションは流れ弾の危険性があるし、 ヴァーチュズ・フォーカスは相手が受けてくれる隙を与えてくれない…なら!) パワーズ・アーツ!!!」 リュミエールの両手足が光に包まれ、光を纏った手足で打撃と蹴りの高速連打を レオパルダーに浴びせた。 「中々やるな…ならどちらの力と速さが勝るか勝負だ!」 光の拳と氷の拳が、激しくぶつかり合った。 両者が着地したり壁、床に叩きつけられれば大きな亀裂が入り、 手足がぶつかり合えば火花が散る。 互いに少しずつだが、確実に傷を重ねあっていった。 時を同じくして凍結状態が解除されたレイヤーがカーネルにウォームアップを使用し、 彼の凍結状態を解除させた。 「お怪我は大丈夫ですか、カーネルさん」 「大丈夫とは言い難いが、戦う力は残っている。 …それにしても何というスピードだ…」 2人はリュミエール、そしてレオパルダーのスピードにただ呆然としていた。 「とにかく、奴を倒すにはほんの一瞬のチャンスも見逃せんぞ」「はい…!」 リュミエールとレオパルダーは近接戦闘をしていることが多く、 しかもその動きが速過ぎるためうかつには手だしはできない。 ただ両者とも強い力でぶつかり合っているため、時折弾き飛ばされる。 そこが狙い目だ。 そして、レオパルダーがまたしても弾き飛ばされ床に激突した。 「「好機!!」」 カーネルが雷を落とし、動きをマヒさせたところレイヤーが刺突を何発か決めた。 「ぐあああああ…!!この…!!」 レオパルダーはすぐに動きを取り戻し、2人に雪崩をぶつけて大ダメージを与える。 「調子に乗るな…グォア!?」 再度リュミエールを攻撃しようとしたが時既に遅く パワーズ・アーツが何度もヒットして吹っ飛ばされてしまう。 その後もレイヤーとカーネルはダメージを堪えつつチャンスを最大限に活かし 攻撃の支援を行った。その効果は決して微々たるものではない。 しかしある時… 「いい加減にしろ!!!」 レオパルダーは床から盛り上がった山のような氷の塊を斬りだし、持ち上げて2人に投げつけた。 「……!」 このダメージでこの氷塊をこの速さでぶつけられたら流石に命はないかもしれない、 と2人が感じた時だった。 氷塊と2人の間にリュミエールが割って入り、粉々に砕いた。 「かたじけない…」 カーネルは圧倒されつつもリュミエールに言った。 「他者を守るための力か…俺はそんな力に屈するわけにはいかん!断じて!」 「本当に何も分からないのですね、あなたは」 そしてリュミエールとレオパルダーは今までよりもより一層強く衝突し、 その分強く弾き飛ばされた。 「自分や身内だけではなく力無き大勢の人々の剣と盾となり命を守る… イレギュラーハンターも、私がいたレプリフォースもそういう存在だ!」 今までよりさらに大きな隙を見せたレオパルダーにカーネルは通常なら複数本の雷を 今回は1本に束ね、彼に落とした。 1つになった雷はそれだけ威力を増し、氷上の地の利も相まって レオパルダーに甚大なダメージを与えるばかりか、強いマヒも発生させた。 「ぐおああああああ…!!!!!!」 「続きますわ…雷光閃!!」 カーネルに続きレイヤーがドクラーゲンのラーニング技、雷光閃を決める。 「今なら当てられる…!ヴァーチュズ・フォーカス!!!」 リュミエールがレオパルダーの胸にヴァーチュズ・フォーカスを放った。 この技は当たればパワーズ・アーツより高いダメージを与えられるのだ。 そして… 「ファイナルストライク!!!!」 ついに3人はファイナルストライクを発動し、これが決定打となった。 「グ…ハ…無念…だ…だが、これだけは…言っておく… 自然の掟では…強い者が…勝つ… 俺は弱いから負けた、が…リュミエール、貴様も2度負けてるで…あろう… いや、何度立ち上がっても…貴様等は…あの方々には…勝てん… 俺を軽く凌駕する…グレイシャア様の…凍気を…忘れたわけでは…ある…まい…」 そう言い残し、レオパルダーは息絶えた。 「グレイシャア…『三神帝』の1人で間違いないでしょうか?」 「八神将より上に立ち、絶対神の下に付く以上、それで間違いありませんね」 レイヤーの問いにリュミエールが答えた。 ほぼ同時刻、マッシモ達は正規兵を全滅させ、この戦いに幕が下ろされた。 レイヤーとカーネルは特にダメージが酷かったので 程なくしてシナモンに回復させてもらった。 しばらくして… 「またフォースメタル使って何かをやらかす連中が出てきたのかよ… しかも地球の顔に泥を塗るとはとんだ連中だぜ!」 「こんな奴等がまだまだ沢山いるなんて黙ってられないよ、 よそに迷惑かけるのも、優れた技術を悪用するのも見逃すわけにはいかないね」 「私達でよろしければ是非ともお力になりたいのですが…」 マッシモ、マリノ、シナモンはレイヤーにハンターへの協力を申し出た。 「マインドコンタクトが通じない程強い方の存在は貴重ですから私としても歓迎しますし、 総監も歓迎してくださるでしょう」 こうしてギガンティス島のメンバーもこの事件に関わることになった。 時を同じくして、カーネルがレオパルダーとの戦いの直前に考えていたことを リュミエールに打ち明けた。 「ところで少し気にかかることがあるのだが…お前が人間とレプリロイドを 自然と関わる事を禁止した事に関してその理由を詳しく聞かせてもらえないだろうか」 リュミエールは答えた。 「僕が救済したいのは人間とレプリロイドだけではありません。地球全体です。 人間もレプリロイドも自らのエゴで自然を汚してきた事実もありますし、 逆に自然の過酷な環境で彼等が命を落とす場合もあります。 そこで双方を救うため互いに切り離すことにしたのです」 少なからず自然と触れることを好んでいたカーネルは、彼に反論しようとする。 「レオパルダーの行為は確かに残虐にして非道だった。 この事件を起こす正当な理由にはなりえない。 しかしもう少し人間とレプリロイドを信用してやれんのか?」 「無理な相談ですね、それが出来れば僕もこの技術を発明していませんし、 人と自然は『溶け』合えないのは火を見るより明らかですから」 「……」 リュミエールは迷いのなさや意志の強さを示すかのような強い輝きを瞳に宿しながらそう言い放ち、 それにカーネルは言葉を失った。 レオパルダーの死後は彼に抑圧されていたリュミエールのマインドコンタクトが島民に作動し、 性格や素行に難のある者がその性格や素行を大幅に改善された。 これはメリットがデメリットを大きく上回る為、不服とする者は出なかったという。 これはハンター達も同じ事で「悪い性格だろうがそのままでも構わん」 などとは相手の欠点までもを余程強く大切に思わない限り中々言えるものではない。 それもリュミエールの場合は全くの別人や無感情な機械人形にしてしまうのではなく、 根本となる人格は残しているのでその分批判の声も少なかった。 敵のマインドコンタクトは問題視されるのだがリュミエールのマインドコンタクトに対しては 大多数が肯定し、少数が多少の疑問を持っているだけで、現状では強く批判する者など現れないのだ。 しかし、これを大いに不服とする者がロードキングダムに存在する。 その人物と戦うのは他でもないリュミエールである。 そう遠くない未来、この2人の「心」をめぐる激しい戦いが繰り広げられることになる… かくして宇宙人を転送させた後、リュミエール達はギガンティス島のメンバーを伴ってハンターベースに帰還した。

第八話「Nightmare of fire」

フリードリヒとレオパルダーの部隊が壊滅させられて間もない頃― 地球から遥か彼方に位置する、全体が美しく輝く惑星… ロードキングダムの本拠地はそこにある。 その基地の中の一室で2人のレプリロイドが対峙していた。 「グレイシャアよ、今日も1つ手合わせ願おうか」 そう言ったのは身の丈は人間の数倍はあり横幅もそれと同じぐらいあろうかという 巨大なレプリロイドで、厳つい顔立ちをしており 炎を思わせる形状と色のアーマーを装備していた。 「おおアブレイズよ、今日も狂った闘志に妬かれるのか!!! ならばこの私の氷の術を以って貴方のその悲しき闘志を沈めてくれよう!!!」 過剰な身振り手振りと高らかに響く声で答えたのは 身の丈は非常に高いものの辛うじて人間並みのレプリロイドで、 横幅はその長躯に対してあまりに小さく、骨と皮、電信柱などと人は形容するだろう。 顔は濃いメイクをしたような風貌でアーマーは氷のような飾りが所々にある。 「お前のその過剰な振舞いが俺の闘志に火をつける…いざ!」 巨大なレプリロイド、アブレイズと長身痩躯のレプリロイド、グレイシャアは 互いに構え、戦闘を開始した。 アブレイズが床をマグマに変えるとグレイシャアは宙に浮いて批難する。 続いてアブレイズが元は床だったマグマをグレイシャアに向かって飛ばすと 彼はそれを凍らせる。 しかしそれは布石で隙を突きアブレイズはグレイシャアに拳を振り落とした。 マグマに真っ逆さまに落ちるグレイシャアだったがその直前に彼は 床のマグマを凍らせて事なきを得た。 次にアブレイズはその床を両手でえぐり、グレイシャアを押し潰そうとしたが、 彼は自分の周囲に吹雪を発生させそれを利用してかわした。 互いの攻撃は非常に強力だったが双方の頑強さの為中々決着はつかない。 炎の力と氷の力はなおも激しくぶつかり合い、この戦いには終わりが来ないかのようだったが… 「お前達、遊びは中止だ」 1つの声が遮り2人は戦いを中止した。 「ディザストールか…」 そこに現れたのは大柄な魔法使いのようなレプリロイドで、 金色や黄色を基調としたアーマーを身にまとい、体のあちこちに 雷を連想させる模様が刻まれていた。 彼こそリュミエールの知る中で最強のロードキングダムのメンバー、 ディザストールだった。 事実として彼から放たれるプレッシャーは他の二人の比ではない。 ディザストールは続けた。 「報告だ、フリードリヒとレオパルダーの部隊がイレギュラーハンターに壊滅させられた。 そして奴等の中にはまたしても生き長らえたリュミエールもいたらしい」 「ああ、リュミエールが生きていて、さらに我が同胞から犠牲者が出たのか…!!! 悲しい…!!私は悲しい…!!!」 悲しげながらどこか恍惚とした表情と声でポーズを決めながらグレイシャアは叫んだ。 「敵が強いのは俺としては喜ぶべきところか… いや、ここはイフリーテスに任せるのがいいだろう。 奴も喜ぶだろうし、それに奴に負けるようでは俺と戦う資格は無いからな。 ディザストールよ、イフリーテスに命令を下して良いか?」 アブレイズは尋ねた。 「構わぬ。負ければそこまでの連中、勝ってもその先さらなる苦しみを味わうのだからな」 ディザストールは許可した。 「ああ、グレイシャアを超えたら次はお前だ、待っていろよ」 「まあ頑張りたまえ(どうせ無駄な努力だ、我はさらに速く成長しているのだからな…)」 アブレイズの挑発をディザストールは軽く受け流した。 その頃地球では― 「大分収穫がありましたね。僕はこれからメンテナンスに入りますが それが終わり次第こちらから出撃しましょう」 「その間に俺達もこの戦利品で強化パーツを作っておくからよ、 任せときな!」 リュミエールはパワーズ・アーツを使いすぎて体に負担がかかっており、 体力は回復はしたもの中程度の技に使用制限があったり大技が使えないのは これからの戦いに不利であるため、メンテナンスに入ることにした。 また敵は強力な分様々なアイテムを持っており、それらはこちらが使えば十分役立つ為、 ダグラス、アイリス、パレット、シナモン等の技術を持つ者が手を加えれば 如何様にも使い道はある。 そしてそれらはリュミエールが失われた力を取り戻すのにも大いに貢献することになる。 「ところでさーエックス、」 「何だいアクセル」 エックスとアクセルが雑談をしていた。 「もしリュミエールのマインドコンタクトが完成したら僕の性格も修正されちゃうのかな?」 「多分そうだろうね、君も何かとクセのある性格だからね」 イレギュラー嫌疑とまでいかなくてもその子供っぽさゆえ何かと問題を起こしているアクセル。 リュミエールはそのような性格を矯正しているためアクセルも可能になりさえすれば その性格を修正されるのは二人には想像に難しくなかった。 この時二人の頭の中には誠実な表情をして目を輝かせながら 「ぼくはきれいなアクセル!」 などと言う不気味なほど品行方正なアクセルが描かれていた。 「…何か想像つかないや」 「俺も複雑な気分だよ、今でも人格を操作するのはどうかと思う。 しかし今まで俺が倒してきたイレギュラーの中には性格や意見が食い違い、 結果俺と戦い倒されていった者も多いんだ。 彼等がもう少し分かってくれたのならっ、て戦う度に思ってきたよ…」 「ふーん…(僕だって辛かったよ、レッドアラートの皆と戦うのは…)」 今までのイレギュラーには単なる暴走ではなく自分の意志でハンターと戦う道を選び、 その結果命を散らした者は数えきれない。 彼等が話しても分からなかったこと、そして自分には彼等を殺める事しか出来なかった事を踏まえ、 改めて人格を操作する事について複雑な葛藤を覚える二人だったが… 「大変、事件よ!しかも今度は敵が堂々と犯行を予告してるわ!」 エイリアの報告によるとロードキングダムのメンバーが所謂ガラの悪い地域を中心に 電波をジャックし自己紹介しながら宣戦布告をしていた。 その内容はこうだった。 ―「ようテレビの前の皆、ゾンビ発生事件とギガンティス島凍結事件は知ってるよな! あれは両方とも俺達の仲間がやったことなんだぜ! 俺達は宇宙に行って、それで宇宙を侵略して、今度は地球も征服するために帰ってきたわけだ。 俺達の実力はご覧の通り。場所はここだ。 自己紹介が遅れちまったが俺はこの組織『ロードキングダム』の幹部『八神将』の一人、 テリジノ・イフリーテス。 地球を守りたい正義の味方も、強い奴と戦いたいファイターも、本物の宇宙人を見たいマニアも み〜んな歓迎だ!待ってるぜー!」 「俺、『十使徒』のファイアダンサー!俺も強い奴待ってる!」― テレビには恐竜のようなレプリロイドと部族の戦士のようなレプリロイドが映っており、 それぞれテリジノ・イフリーテス、ファイアダンサーと名乗った。 彼等がいた場所は凶暴・凶悪で有名なギャングの溜まり場である暗黒街だったが 二人の後ろにはそのギャング達の屍が山積みになっており、 さらには建造物が取り壊されて更地にされ、そこに基地が建造されていた。 またイフリーテスは場所を丁寧に教えていたのだった。 「ここまであからさまだと罠かもしれんぞ…」 「いや、十分行く価値はあるだろう」 シグナスとゼロが話し合ってるとモニターに通信が入った。 「よぉハンター共、もう放送は見たか!? どうせ来るだろうが俺はリュミエールの糞ボウズか伝説のS級ハンターをリクエストするぜ! 必ず来いよ!!」 「お前達来い!俺待ってる!!」 通信を入れたのはイフリーテスとファイアダンサーだった。 「早速こっちにも宣戦布告してきたか…」 シグナスが呟いている間にまた通信が入った。 「今度は何だ!?」 次に通信を入れたのはダイナモだった。 「ごきげんようハンターの皆さん!俺はたまたまこっちに通りがかったんだが、 イレギュラー共が暴れてるそうだな。 一応言っとくが俺は奴等の使う妙な能力は通じないし、 例の放送をした連中は本当にその場所にいるぜ。 ハンターには何かと世話になってるし手を貸していやってもいいぜ?」 「手を貸してくれるのは有り難い。…お前も変わったからな」 元イレギュラーだったダイナモだったがとある人物の影響で悪事から足を洗ったのだった。 「気をつけて…」 その人物とはエイリアであり、彼等の仲は今や周知の事実だった。 そしてシグナスが改めて指令を出そうとした。 「では今回は誰が行くのだね?敵はS級ハンターをリクエストしていて リュミエール君は今すぐ出撃するのが難しいのが現状だが…」 「じゃあ敵のリクエストに応えて俺が行くしかねぇな」 「戦いを扇動するとは何事だ!俺も行くぞ!」 「僕も行くけど八神将は結構強かったからアイテムを装備した方がいいと思うよ。 何かある?」 「今だとこれぐらいですよ」 今回はS級ハンター三人が出撃することにし、その際には強化アイテムもいくらか身につけた。 その頃敵の基地の付近では… 「調子に乗りやがって、俺達の実力見せてやるぜ!」 戦闘意欲に駆られたものが集まって来ていた。 「ここには放送を入れた奴ら以外にもイレギュラーが集まってくる可能性は高いな… 一網打尽にしてやろう」 イレギュラーが集結することを懸念した政府軍も来ていた。 そして彼等が近付くと… 「ん、『修羅の世界へようこそ』?奴等め、どこまでもふざけやがってぇぇぇぇえ!!!」 「燃えてきた!燃えてきたぜ!」 「お前強いらしいなぁ!イフリーテスとかいう奴の前にお前が先だぁ!!!」 イフリーテスが立てた看板の先は既に彼の部隊の縄張りであり、 やってきたレプリロイド達にはマインドコンタクトが作動し、闘争心が強化され、 互いに戦いだしたのであった。 元々彼等の中には好戦的な者も多く、その分その光景は地獄絵図と化した。 その中に躍り出た影が一つ。 ダイナモだった。 「あーあー、まんまと釣られちゃって…お前ら寝てろ!」 「こいつダイナモだぞ!丁度いい、かかれぇ!!」 暴徒と化したレプリロイド達がダイナモに襲いかかったが 所詮マインドコンタクトが通用する程度の強さなので次々と蹴散らされていった。 そしてその時、一体のレプリロイドがダイナモの前に立ちはだかった。 彼こそファイアダンサーだった。 「お前強い!戦士の誇り賭けて戦え!」 「見た目通り暑苦しい奴だなぁ。もっと冷静にいこうぜ」 「戦う心、戦う力、これ共に誇るべきもの!それが無い奴、認めない奴に価値無い!」 ダイナモとファイアダンサーの間の空気に緊張感が張り巡らされたかと思うと 刹那Dブレードと両端が炎になった槍の打ち合いが始った。 一秒の内に何合もぶつかり合い、両者ともにその技は速く、巧みでもあったが やがてダイナモに流れが傾いてきた。 そんなとき… 「出でよ炎の精霊達!!」 ファイアダンサーがステップを踏みながら叫ぶと小人のような形の炎が現れ 踊るような動きで交代しながらダイナモに接触していった。 それと同時にファイアダンサーもそれらの炎の「踊り」に合わせて動き、 槍で尽きを放ってくる。 「これは鬱陶しいな…」 そう言うや否やダイナモはDブレードを大量に飛ばしそこから発生する竜巻で 小人型の炎を一気に消し去ってしまった。 「己!!」 ファイアダンサーは口を開け中の火炎放射器で巨大な炎を出してきた。 「その顔自前だったのか、よ!」 軽やかな大ジャンプで回避し、着地と同時に背後を取り、至近距離のアースゲイザーで止めを刺した。 「グハアアアアアア!!!!!!」 その直後ハンターの三人がやって来た。 「ダイナモ!ダイナモじゃないか!」 「十使徒のファイアダンサーを倒したって事はお前もマインドコンタクトが通じないみたいだな」 「協力してくれるの?」 三人はそれぞれ言った。 「ああ、今回の事件は俺も手を貸すことにしたぜ!」 「有難う。よし、行こう!」 三人改め四人は残りの暴徒を鎮圧した後、基地へと向かって行った。 基地の中は更に酷い有様だった。 各地から集った荒くれ者同士が互いに殴り合い、蹴り合い、斬り合い、撃ち合っていた。 中には正規兵が一か所に固まった暴徒達を笑いながら火炎放射器で焼いていたり、 大柄で見るからに凶暴そうな宇宙人がその剛腕やそれ故に扱える武器で暴徒達をいたぶっていたりした。 「酷いね…」 「よし、俺は一刻も早くイフリーテスを倒しに行くぞ!」 「なら俺達はこいつらを何とかしよう!」 ゼロは壁を次々と壊し中央へ進んだ。 この基地は何重もの勘定になっており、中央から最も強力な気配がするのだった。 その際暴徒がゼロを攻撃するも全く通じず、 あまりに邪魔な場合はゼロが裏拳を食らわせ吹っ飛ばしていった。 一方… 「変身!ホワイトアクセル!」 アクセルはホワイトアクセルとなり上空からのホバリングで その場にいた正規兵の頭を全て撃ち抜いた。 「これで大人しくなってくれるかな…?」 「バカめ!俺達の闘争本能は本物だ!」 今までと違い十使徒に加えかなりの正規兵が倒されてもさほど影響はなかった。 「へぇ〜身の程ってもんを知らないんだねぇ」 アクセルの顔に黒い笑みが浮かんだ時… 「何が戦いだ…何が闘争本能だ…」 エックスが呟きだした。 「とか何とか言っちゃって自分も戦いに来てんじゃん。本当はテメーも戦いたいんじゃねぇの?」 暴徒が口走った。 それがいけなかった。 「ふっざけるなあああああ!!こんなことは絶対に間違っているんだああああ!!!!!」 「ギャアアアア〜!!!!たったっ助けてぇ〜〜〜っ!!!!」 エックスの気迫に暴徒が一気に圧倒されてしまった。 「おーこわ」 ダイナモが呟いた。 さらに進撃を続けるエックス達だったが敵の数が多すぎる上、 その敵の身元も多様だったためアクセルがハンター本部に通信を入れた。 「何かもう面倒くさいことになってるんだけど、倒したの皆こっちに転送しちゃっていいでしょ?」 「こんな状況なら仕方ないわね。こうなったら別に倒さなくてもいいわよ、 何たってこっちにも十分な戦力があるんだから」 エイリアが答えた。 そしてハンター本部に待機しているメンバーの協力もあり、 正規兵全滅と暴徒鎮圧が達成されようかという時… 「いるな…奴が…」 最後の壁を破壊したゼロ。 そこには闘技場のような舞台の上でイフリーテスがその中央に堂々と立っていた。 「来たか…ゼロ!!」 「今までの奴等同様ふざけた真似をしてくれたかねぇか」 「1つはこの世を戦国時代にするため、そしてもう1つは俺自身強い奴と戦いたいからだ! 最初は雑魚ばかりだったが見事大物が引っ掛かったなぁ!」 「後半は分からんでもないが前半は許さねぇ…行くぞ!!」 両者は互いに地を蹴り急接近し、セイバーと巨大な爪をぶつけ合った。 接戦がしばらく続いたがある時イフリーテスが腕に装備した火炎放射器で ゼロの顔めがけて炎を放った。 「おっと!」 二段ジャンプで回避し、そのまま氷裂斬を決めようとするゼロだったが 何とイフリーテスは尻尾の先端も火炎放射器になっており、 そこから炎を放ってきた。 ゼロは即座に技をキャンセルし懐に潜り込み攻撃しようとしたが それと同時にイフリーテスも腕で防御し、 しばらく経つと互いに一気に間合いを取った。 「すげえ…すげぇぜおめぇ…!! 闘争心、戦闘力共に糞ボウズ以上だぜ!!」 十使徒のデモンズドールはゼロがリュミエール以上の戦闘力を持っていると確信しかけた時、 狼狽し、恐怖した。 しかし、イフリーテスは喜びさえ感じていたようだった。 「てめぇも中々やるな…!はあああ!!!」 ゼロも感情の昂りを隠しきれない。 そして両者はまたしても衝突した。 何秒も経たないうちに床、壁、天井、宙などで二人の力と技が何発もぶつかり合い、 地割れが起こり、壁に大穴が開き、天井は崩れだした。 やがてそれに耐えられなくなり基地そのものが崩壊し始めた。 「まずいな…一旦退くぞ!」 エックス達は一度基地を後にする事にした。 「もう嫌だああああ!!!!」 まだ残っていた暴徒だったレプリロイド達も一緒に逃げていく。 遠巻きに基地を見ている一行。 彼等の視界の先には煙が立ち込め、何度も爆発が起こったり、 巨大な岩が上に向かって飛んで行ったりした。 「何が起こっているんだよ…」 アクセルは呟いた。 「きっとゼロとイフリーテスが戦っているんだ…」 エックスは心配そうに答えた。 「いつ見ても凄過ぎるぜ…」 ダイナモも半ば呆れるように驚愕していた。 ちなみに暴徒だった者は大人しく捕まっていた。 一方ゼロとイフリーテスは… 「俺達戦う者にとっては戦いこそが最高のコミュニケーションだぜ! 強い者と戦う事の悦びをわからねぇとは言わせんぞ! なのにあの糞ボウズは『戦うな』『穏やかに』『平和的に』『優しく』 などというくだらねぇ事ばかり押しつけやがる! 戦いのない退屈な世界などありえねぇだろうが!! それでもおめぇは糞ボウズの側に付くというのかぁ!!」 「俺は戦いだけに生きてる訳じゃねぇし、守るべきものもある。 リュミエールに妄信する訳じゃねぇが平和は俺の最も大事な者が 願ってやまねぇ事だ。 それを守るために俺は、戦う!!」 技と技をぶつけ合いながら両者は互いの信念もぶつけ合っていた。 二人ともかなりの傷を負っているが、勢いは全く衰えていない。 そしてある時、後一撃決めれば勝負はつくと思ったのか、両者は攻撃を止め、 睨み合い、互いにタイミングを探り始めた。 「トライ・バーナー!!!!」 イフリーテスが両腕と尻尾から同時に火炎を放った。 「襲雹牙!!!!」 ゼロはそれに対しレオパルダーのラーニング技で対抗した。 最初は押し合いになったが炎と氷の相性、さらにゼロのパワーが勝り。 イフリーテスに攻撃が直撃した。 「グ…ハアアア…!!!」 これが勝敗を分けた。 「ゼロよ…礼を言うぜ… 最期の最期に最高に燃える事が出来たんだからなぁ… あと、これだけは言っておこう… これからもロードキングダムと…戦うなら… お前は…絶対に…生き残れない… もしくたばって俺の所に来るなら…その時は続きをやろうぜ… 俺は、先に逝ってるから…な…」 それがイフリーテスの最後の言葉となった。 「てめぇらイレギュラーと、一緒にするんじゃねぇ… てめぇの所に俺は行かないからな…」 勝ったもののどこか複雑な表情を浮かべゼロは呟いた。 その頃… 「音が止んだ…」 「煙も晴れていくよ!」 「ゼロ、大丈夫か!?」 エックス達はゼロの元へ向かおうとした。 すると煙の中からイフリーテスの遺体を背負ったゼロが現れた。 「さすがゼロ、勝ったんだね!」 「ああ、何とかな…」 アクセルは歓喜の声をあげ、ゼロはそれに応えた。 その時だった。 「ハンターの皆様、ご迷惑お掛けしてしまい申し訳ありませんでした!」 正気に戻った政府軍のレプリロイドが謝罪した。 「只今上と連絡を取りましたところ、我々政府軍はこれからは この戦いでは後方支援という形で協力させていただく事、 並びにここに集まったレプリロイド達は身元が判明するまで 各国の機関で預かり処分を決定する事、 そして異星人は従来通りイレギュラーハンターにお任せする事に決まりました! 最後に政府に身を置く者としてあるまじき醜態を晒してしまったことを 重ねて深く謝罪申し上げます!」 現在政府軍では生きていて行方も分かり、さらに今なお政府軍に身を置く者で 非常に高い戦闘能力を持つ者はいなかった。 今までロードキングダムが起こした事件の現場に派遣されたハンターやその仲間が 極めて戦闘力の高い者のみだったのは、そうでなければ敵に操られてしまうからだった。 そしてことの実態を把握した政府は上から言われてイレギュラーハンターに事件の解決を ほぼ完全に委ねることにしたのであった。 「あなた達が正気に戻って本当に良かった。俺も恥ずべき姿を見せてしまった事を謝ろう」 エックスはそう返した。 かくしてS級ハンター達はダイナモを伴ってハンターベースに帰還した。 既にリュミエールはメンテナンスを終えており、 今回転送されてきた宇宙人にもマインドコンタクトを作動させていた。 「何か白けた気分がさらに白けちまったぜ」 「冷静に考えてみたらここにいる連中は強すぎるから 俺達が戦ったり修業したりすんのが馬鹿馬鹿しくなってきたな」 宇宙人達は口々にそう言った。 「ちぇ、何か張り合いのない連中だなぁ」 アクセルがそうぼやいた。 「それは違いますよアクセルさん、 抑止力があるからこそ無駄な戦いが避けられるのです。 我々が強い力を持つことにより戦意が殺がれる方がいる、これが重要なのですよ。 そもそも戦いは楽しむものではありません。 さて、事は急ぎますね。いよいよ出撃の準備にかかりましょう」 リュミエールはそう言い放ち、さらに本格的に迎撃する意思を示した。 彼は既に大幅な回復を経ており、いよいよハンター側の方から仕掛ける時がやってきた。

第九話「セイントサンクチュアリ」

「それにしても随分カオスな光景になってきたわね…」 エイリアが呟いた。 今のハンターベースにはそれまでの戦いで救助した数種族の宇宙人が大勢いる。 「おい、宇宙人の中にも俺達と同じレプリロイドがいるようだぜ、 こいつは驚いた!」 ダグラスによれば保護した宇宙人の中にも思考力を持ったロボット、 地球で言うレプリロイドがいるという。 「レプリアンと名付けましょう」 「アステロイドじゃ駄目なの?」 「そりゃ不味いでしょう、色々と」 地球外レプリロイドの事をエイリアはレプリアンと名付けた。 その際アクセルの提案は却下された。 「レプリアン、ですか。 実は宇宙でかつて僕を助けた方も『レプリアン』なのです」 「へー、そうなんだ」 リュミエールは他の星で彼を助けた人物がレプリアンである事を言い、 アクセルはそれに軽く驚く。 「名前をプロパガンダと言い、外見はご覧の通りです」 「この人が…リュミエールを…」 リュミエールはハンター達にマインドコンタクトでプロパガンダの容姿を伝えた。 プロパガンダは全身銀色で体格は大柄、そして巨大な盾を装備していた。 いかにも戦闘用な外見だが不気味さや禍々しさは感じさせられなかった。 「あと思ったんですけど宇宙の人達も中々凄い科学技術を持ってますねぇ〜 私もビックリですよ」 保護した宇宙人達はレプリロイドや機械の能力を向上させるアイテムを既に持っており、 大半が戦闘を目的としたものだった。 これらはパレットをも驚かせた。 「それは、俺達は来るべき有事に備えていたからです。 宇宙では長年広範囲に及ぶ戦争が起こっていて、俺達の星は部外者でしたが いつ巻き込まれても対処できるように様々な策を講じていました。 結局それらの策は役に立ちませんでした。 戦争をしていた連中は和解したと思ったら実は奴等は両者ともロードキングダムの支配下に置かれていて 共に俺達の星に攻めてきて制圧してしまったのです」 「俺達はその戦争とやらさえ知らなかったけどな。 気づいたら奴等の言いなりになってたって訳だ」 科学技術の発達した星出身の宇宙人の供述に、 それがさほど発達していない星出身の宇宙人が続けた。 「宇宙でも戦争が起こっていただなんて…」 戦いを嫌うエックスはやはり悲しげな反応を示した。 「プロパガンダさんはその戦争をしていた勢力の重要人物の1人です。 お聞きしますが、プロパガンダさんの現状はご存じですか?」 リュミエールは宇宙人に訊いた。 「我々は存じません。 その方はともかくとして我々が知るところでは奴等自身は ロードキングダムの抱える八神将の部隊の中でも 最低最悪の3部隊に配属された、という事です。 残りの5つの部隊は俺達の星のような宇宙の中では 辺境の星の住人の統治を担当していたわけです」 「その3部隊や絶対神、三神帝の部隊はとてつもなく恐ろしい存在ですが 宇宙の中心領域でどっしり構えていてそう簡単に動かない、とも聞いております」 今ハンターベースにいる宇宙人達はプロパガンダを含む 戦争の当事者の現在の詳細は知らなかった。 「確かにここにいらっしゃる皆様は僕も初めて見る種族ですからね。 僕が知る限りのロードキングダムの傘下についた種族はこのような外見です」 そしてリュミエールは宇宙で見た、ロードキングダムに配属された事が 分かっている宇宙人の外見を伝えた。 「うわっ!!気持ち悪っ!!!」 「何かお城にもいたよ〜な…」 驚きと不快感を露にするアクセルとパレット。 同時に彼等はフリードリヒの基地にいた宇宙人ゾンビと酷似していたのだった。 「何でも俺達の隊長だったフリードリヒが上に媚を売って 奴等の一部の死体を貰ったそうです」 スカベンジャーの宇宙人が答えた。 「放っとくとどんどん力をつけるのか…早く片付けるに限るね!」 アクセルは改めて意気込んだ。 「(今まで倒したロードキングダムのメンバーの記憶データにも彼の情報は一切ありませんでした… プロパガンダさん、貴方は無事ですか? 生きて、戦っておられるなら今度は僕が助けて見せます…!)それでは…」 決意を胸に秘めたリュミエールは改めて説明を始めた。 「大まかな流れですがこれから今まで出撃を担当していたメンバーで僕の管轄する領域、 『セイントサンクチュアリ』に行きます。 そこでは以前申しました大型の宇宙観測装置を搭載した宇宙船を製造しておりまして その宇宙船で宇宙にいるロードキングダムを迎撃する訳です。 特に十使徒から上のメンバーは必ず倒さなければなりません」 「てっとり早く主要メンバーを片づけるわけか。 だがどうするんだ?ハンターベースの戦力はスカスカじゃねぇか」 ゼロが尋ねる。 「それはご心配なく。 まずは皆様の余った戦いの戦利品や異星の方々の技術を活用します。 これらは戦闘に役立つものばかりです」 「確かにすごいのばっかりですね」 「これを使えば俺達だって…!」 ハンター達はこれまで敵から多くの戦利品を得ており、これらの武器やアイテムは レプリロイドの強化に大いに貢献する。 重すぎる武器や強力過ぎて反動もきついアイテムとなどいった 制限付きのものは出撃するメンバーが使えばいいし、 そうでないものは通常のハンターや非戦闘員が使えばいいのである。 「次にナナさん、いいでしょうか?」「はい」 「ギガンティス島でのアイテム探索に使われていたメカニロイドを 貸して頂けないでしょうか?」 「彼らで良ければ…また活躍出来ることを喜んでくれると思いますし、 何よりあんなことになった私自身少しでも力になりたいです…!」 リュミエールはハンターベースに来ていたナナにメカニロイドを ハンターベースの警備のサポートに使用する事の許可を申請し、 ナナはそれを受け入れた。 ギガンティス島のメカニロイドはリべリオン軍・リディプスの事件の時 アイテムの探索時に活躍し、現在は任務を終えていた。 「次に僕の端末の一部をここに転送します」 「端末ですか?」 「僕の体の一部みたいなものですよ」 すると空間に何体かの戦闘用のオプションが召喚された。 「今までの敵でもメカを遠隔操作してくるタイプがいくらかいましたが リュミエールさんは星を隔ててもそれが可能、というわけですね」 レイヤーが感心する。 「最後に宇宙船には有事の際地球へ戻って来れるポッドを 人数分以上用意してあります。 多少体の大きな方でも十分入れますよ」 「そいつは便利だな」 この中で一番大柄なマッシモが言う。 「ナビゲーションはどうするのかしら?」 今度はアイリスが聞いた。 「モニターや通信機器も完備していますよ」 敵の動きに合わせリュミエールは様々な策を講じていたのであった。 主戦力メンバーが抜けても十分な戦力は補ったし、 よほど強力な敵が来ても主戦力メンバーが速攻で返り討ちにする事も可能である。 もっとも、ロードキングダムの中でも相当な猛者達は高みの見物とも言うべきか、 さほど動かないわけだが用心にこしたことはない。 最終的に宇宙へ行くメンバーは以下のようになった。 戦闘・宇宙船警備 アクセル エックス ゼロ カーネル ダイナモ マッシモ マリノ 戦闘・宇宙船警備・アイテム開発 リュミエール シナモン 戦闘・宇宙船警備・ナビゲーション エイリア レイヤー 戦闘・宇宙船警備・アイテム開発・ナビゲーション パレット アイテム開発・ナビゲーション アイリス アイテム開発 ダグラス ライフセイバー 「何か私が一番お仕事多いですけど地球と宇宙のために精一杯頑張ります!」 只1人全ての役割を担う事になったパレットだが、彼女は強い意志を示した。 「…ようし、善は急げって言うしさ、直ぐに行こうよ、 リュミエールの国に!」 「うむ、皆、武運を祈る!」 アクセルがはりきり、シグナスも指示を出す。 その時リュミエールの頭脳に1つの信号がアクセスしてきた。 「また、ですか…しかもこれから行こうとした矢先に丁度のいいことですね」 「何があった!?」 「セイントサンクチュアリの周辺5ヶ所にロードキングダムの部隊が着陸しました」 「いくら何でも早過ぎるよ!」 「早くも主戦力をぶつけるチャンスが来やがったか…」 リュミエールにアクセスしたのはセイントサンクチュアリに存在する リュミエールの端末の1体だった。 信号の内容によると何とまたしてもロードキングダムが地球に刺客を送り込んできたのだ。 驚きや闘志を表す3人のS級ハンター達。 彼等とその仲間はそれぞれ敵地へ出撃しに行った。 今回の事件における彼等の地球最後の戦いである。

第十話「後半戦突入」

リュミエールの管理下にある領域「セイントサンクチュアリ」付近にロードキングダムの部隊が送り込まれてきた。 セイントサンクチュアリは今やかなり広大化しており、その周辺にはバリア障壁が設置されている。 さらにこのバリアは自然保護区域や人間・レプリロイド居住区域ごとに複雑に張り巡らされていた。 今回地球へやってきたロードキングダムの部隊はバリア内にはワープ出来ず、 上空からの侵入も不可能と知るや否やそのバリアを破壊しようとしてきたのだった。 「このバリアは本体である僕を経由して端末が許可した相手をすり抜けさせる性能があります。 つまり皆さんは自由に入れますが敵は容易には入れません」 「りょーかい」 リュミエールの説明にアクセルがうなずく。 かくしてハンター達のうち戦闘員のみが5つに別れて出撃しにいった。 「ギャアアアア!!!!!!」 ウォーターガンを持った正規兵の1人が穴を開けたバリアの再生に巻き込まれ、体を切断されて死亡した。 「このクソバリア、すぐ再生しやがる!皆で大穴開けてその度に1人ずつ通るしかねえな!」 「そうはさせん」「…お前等は!!」 エックスとゼロが現れ正規兵を次々と葬り去っていく。 「このサメって生き物うめーな」 「タコって奴ももいけるぞ」 海で水生生物のような宇宙人が海洋生物を乱獲していた。 「お食事中のところ悪いんですけど、ハンターベースに来て頂けないでしょうか?」 「何だ、このガキは…ってでけぇ!!」 「こっちの女は胸がでけぇ!」 マッシモ、シナモン、マリノが現れて宇宙人を撃破していく。 「糞ったれ!またバリアかよ!」 「ハエ共もうぜー!!」 海上で水上バイクを駆る正規兵が次々と現れるリュミエールの戦闘端末と戦いつつ バリアを攻撃していた。」 「そこまでだ、イレギュラー共!」 「え、後ろから…何でテメーらは通れるんだよぉぉぉぉ!!!!」 やや大型でその分高出力の水上バイクに乗ったカーネルとダイナモが 正規兵を見つけ、そして斬り捨てていく。 一方でアクセルとリュミエールは1隻の巨大戦艦の甲板の上にワープで着地した。 この戦艦のミサイルは非常に高威力であり、次々と現れる リュミエールの戦闘端末を来たそばから全て一発で破壊してしまう。 そしてどういうことか戦艦の上に「NG」マークが見えていた。 「(あれ?船自体に『NG』マークが見えるってどーいう事!?)」 アクセルがそう考えていると艦橋の最下部の扉から正規兵と宇宙人達がぞろぞろ出てきた。 敵兵達は二人を囲み、二人は背中合わせに立ち臨戦態勢に入った。 戦いが今正に始まる、と思った時… 「ブゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」 「何、何なの!?」 正規兵が一斉にヤジを飛ばしたのだった。 「死ね死ね死ね死ね死ねーっ!!」 「女男〜!」 「ナルシスト〜!」 「一人よがり〜!!」 罵言雑言をリュミエールに浴びせ続ける正規兵達。 「嫌われてるんだね…」 驚くアクセル。 「彼等はそれぞれ危険な思想を持っているが故、 僕のやり方が気に入らなくて仕方がないのですよ。 まあ、今の僕は心が傷つきませんのでどんな事を言われても この加減したエンジェルズ・シュート一発分のダメージも受けませんがね」 そう言った直後リュミエールはエンジェルズ・シュートを放ち 一気に五人の正規兵を倒してしまった。 「や、やりやがったな〜!!かかれぇーーーっ!!!」 当然の如く彼等は烏合の衆。 一瞬にして全滅させられ宇宙人はハンターベースに転送された。 「フッフッフ…中々やるようやね… こんな雑魚共にやられるようじゃ潰しがいがなかとよ!」 艦橋から声が響いた。 「この声と喋り方はブルーネイビーさんですね…」 「違か!今の俺は超フォースメタルでパワーアップしたブルーイージスとばい!」 声の主がブルーイージスと名乗った後艦橋がロボットのような姿に変形した。 「俺はパワーアップに合わせ形と名前ば変えた唯一の十使徒ばい! これが俺の『成りたい自分』ってもんったい!」 「あ〜、ウオフライの卑怯者と戦った時もこんな奴いたね…」 過去の戦いを思い出すアクセル。 「俺とそいつは関係なかばい!喰らうばい! ミサイルレイン!!!」 ブルーイージスが技の名を叫ぶと共に艦橋部や船体部に設置された 多数の砲台からミサイルが発射され、二人の下に雨の如く降り注いだ。 ちなみに甲板はかなり頑丈であり自身のミサイルでは傷一つつかない。 それを素早くかわし砲台を攻撃する二人だったが、さらに追加攻撃が放たれた。 「テンタクルアンカー!!!」 ブルーイージスはミサイルと共にあまりに巨大な錨を突き刺そうとしてきた。 「これはまともに喰らうとヤバいかも…」 そう考えつつもアクセルは錨を避けた後、錨に繋がれた鎖を伝って ブルーイージスの頭部付近に到達し、顔面にエクスプロージョンをお見舞いした。 一方でリュミエールは被弾しながらも平然とブルーイージスの船体の甲板を 素手で剥がしてしまい、それを彼の胴体に水平に投げつけた。 ブルーイージスの砲台はことごとく破壊され胴体からは煙も吹き始めた。 「強かばい…ほんなこつ強かばい…船長〜!」 「やっぱ指揮るってのは性に合わねぇなぁ… 俺がここでこいつら倒した後、他で暴れてるハンター共を皆殺しにしてやるとするか…」 扉の奥から声が響く。 そして中から古代の海の王者・アノマロカリスのような姿をしたレプリロイドが現れた。 「マリン・アノマロイドさん…貴方がこの部隊長の八神将ですね…」 「ケッ、相変わらずナヨナヨした立ち振舞いだぜ!! 大方ハンター共にもさざ波一つない甘〜い人生を押し付けるつもりだろ!? セイントサンクチュアリのゴミ共にやったようになぁ!!」 例に洩れずアノマロイドもリュミエールに対し怒りを露にした。 「また『男らしさ』語りですか。 男性のみに危険や困難に立ち向かい、乗り越えることを求める 貴方の考えの方が愚かしいですよ。 多くの人間とレプリロイドは危険や困難に脆い存在です。 そんな彼等に苦しみや悲しみを一切与えないように守ってさしあげるのが僕の務めです。 肉体や精神の強さと性別は全く関係ないことですよ。 現にロードキングダムと戦う力と度胸のある女性達を僕は知っています」 リュミエールはセイントサンクチュアリでは住民に人生における種々の困難が訪れないように 様々な策を講じていたのだった。 それは彼の弱い者を守りたい、力の無い者の力になりたいといった願いによるものだった。 「うるせえええ!!!!! 男のくせに体ヒョロヒョロ髪の毛サラサラお目々キラキラで 甘い物大好きなオカマがぁぁぁぁあ!!!! 波瀾万丈!荒波乗り越えて生きていくのが男ってもんだろぉがああああ!!! 俺達までオカマにしようとしやがって!絶対許さんぞおおおお!!!!」 「船長の言う通りばい!!人生の荒波ば乗り越えられん男などオカマばい!」 「おうよ!それにそんなリュミエールの肩を持つハンターもオカマだぁーっ!!」 そんなリュミエールの考えが気に入らなかったアノマロイドとブルーイージスは激昂した。 「食べ物の好みは関係ないじゃないですか。まあ言っても分からないでしょうけどね」 「僕はオカマじゃなーい! (てゆうか何か皆リュミエールに反感持ってるみたいだけど何がそんなにいけないのかなぁ…)」 リュミエールがあくまで冷静に振舞う中、アクセルは疑問を覚えたのだった。 「まずは一番憎いテメーからぶっ殺してやるぜ!次にこのガキ、最後は他の四ヶ所で暴れてる連中だ!」 そう言ってアノマロイドはリュミエールに襲いかかって来た。 光の技と水の技が激しくぶつかり合う。 「(凄い…!これが今のリュミエールの戦い… この間の強化で得たあの力を使わないとまともに付いてけないかも…)ってうわ!!」 ブルーイージスが巨大な手でアクセルを叩きつけてきた。 「お前の相手は俺ばい!」 そのままアクセルを掴みもう片方の手の指先からミサイルを浴びせ続けた。 ピンチと思われたアクセルだったがリュミエールもアノマロイドで手一杯だった。 「スクリュースプラッシュ!!」 アノマロイドは口から明らかに自身の体積を上回る量の水を 回転力をつけ一気に強く噴射してきた。 とっさに腕でガードするリュミエールだがしぶきの量が多すぎて 視界を塞いでしまう。 「隙あり!」 時間にして0・1秒も無かったがほんの一瞬目を眩まされ隙を見せたリュミエールは アノマロイドに背後を取られ口の側にある触手で捕らえられてしまった。 「ホールドスプラッシュ!!!」 激しい衝撃音とも破裂音とも取れる音が響き渡った。 アノマロイドは今度は触手で固定したうえで至近距離から 先ほどの要領で水を噴射したのだった。 「クソ!粉々に飛び散ると思ったのに原型留めてやがるとはな!!」 ホールドスプラッシュの直撃を喰らったリュミエールの腹部のアンダースーツには 大穴があき、肌には螺旋状の傷が刻まれていた。 「これだけ回復した僕の肌に傷をつける事は評価に値しますね。 あの技を試してみるとしますか」 その頃アクセルは… 「痛いけど、動けないって程じゃない!エクスプロージョン!」 「なあっ!?」 ブルーイージスの指を吹っ飛ばしたアクセルは再び反撃に出る。 甲板を剥がされたブルーイージスは器用にもミサイルを甲板のあった部分に 着弾させないように飛ばすがそれにアクセルは見事に対処していく。 1つ、また1つと砲台を破壊していく。 とうとう全ての砲台と錨を破壊し終えた。 「おのれぇ〜〜〜なめるなあああああ!!!!! ギガトンボム!」 ブルーイージスは一定の間隔で胸部から大型で高威力の爆弾を発射してきた。 アクセルは一瞬で移動して避けるが次の爆弾がアクセル目掛けて飛んでくる。 「流石に甲板が無ければ痛かばい…ばってんその痛みを乗り越えてこそ男ばい!」 「あ〜あ〜この人自滅しようとしてるよ、まぁそれまで待ってあげるほど気が長くないけど、ね!」 何を思ったのかアクセルはブルーイージスの胸部の砲台に壁蹴りで到達し、 砲門の中に入った。 そして次の瞬間… 「変身!シルバーホーンド!」 何とアクセルはシルバーホーンドに変身し訪問に栓をしてしまったのだ。 さらにその反動で爆発する直前に一瞬で脱出し、着地した。 「無念とばいーーっ!!!」 ブルーイージスは爆発を起こした。 時を同じくしてリュミエールはアノマロイドの口付近のパイプ目掛けて 目からビームを出した。 「ドミニオンズ・ティア!」 「な、もう使えるようになったのか…!?」 この技はヴァーチュズ・フォーカスより強力な技で一瞬で アノマロイドの口のパイプを破壊した。 そしてそのパイプからは大量の水が漏れだした。 「これだけの圧力の水が流れているのですからパイプさえ損傷すれば 威力は半減するのです」 「オカマの分際でえええええ!!!!まだ終わっちゃいねーぞおおおお!!!! !?何だ!?」 死に伴いブルーイージスは本来の姿に戻り沈んでいった。 「こりゃ丁度いい機会だね…変身!」 アクセルはホワイトアクセルに変身した。 実はこれまでの戦いでの強化によりホワイトアクセルは ホバリングとエアダッシュの性能が大幅に強化されており、 ホバリングはアクセルバレット発射中でなくとも半永久的に出来るようになった上 前後移動も出来るようになりエアダッシュはあらゆる方向に何度でも出来るようになったのだ。 もちろんアクセルのみならず各ハンターはそれぞれの能力を かなり引き上げられているがこれらは後々明かされることになる。 「今行くよ、リュミエール!」 水中戦へともつれ込んだリュミエールとアノマロイドの戦いに、アクセルが加勢する。 今のアクセルには、水の抵抗の影響も受けなくなっているため水中でも 空中戦の要領で戦える。 動体視力も向上し、アノマロイドのスピードにも付いて来れるようになった。 「チッ、一人増えやがったか…アクアフェザー!!!」 アノマロイドは体の両側のヒレを羽ばたかせ、そこから二方向へ衝撃波を発射した。 その切れ味は凄まじくかすっただけでアーマーの一部が切断されたり、 切り傷が刻まれたりした。 それでも尚攻撃をかわしてアノマロイドに応戦する二人。 「く…こいつらもう息が合って来てやがる! それにリュミエールの迷いのない強い光にアクセルのガキ故の真っ直ぐな光… 波の無い人生では本当の男には成りえねえ… 全ての存在をそういうオカマに変えちまうのは許せねぇ… だがこいつら自身はどうだ!? 共に苦しい過去を背負いそれでもなおその苦しみを乗り越えているじゃないか…! 本当にこいつらはオカマなのか!? いや違う!俺は認めねえ!認めねえからな!!!」 怒りに任せ攻撃の勢いを増すアノマロイドだったが、ある時… 「ついに来たね、ダブルアタックの時が…!」 二人はダブルアタックを発動した。 両者が一気に距離を取り、それぞれの拳に光を纏い、 その状態で拳を突き出した体勢で突撃した。 そしてその光拳でアノマロイドを同時に殴り飛ばした。 「ブライト・フィスツ!!!」 これはアクセルとリュミエールが2人揃って初めて出せる技である。 「オカマに負けるとは…やはり…人生…甘くねぇ…! グホアアアアアア!!!!!」 光のエネルギーを吸収したアノマロイドは海の外まで遥か彼方に吹っ飛び、大爆発を起こして死亡した。 「凄い威力だったね!」 「ええ、今は使えない僕の上位技位の威力はありましたよ」 こうして八神将の内実に半分が倒された。 しかしアノマロイドの部隊はまだ壊滅したわけではなかった。 大都市に瀕した場所でエイリア、レイヤー、パレットが見たものとは…

第十一話「GONG」

「どうやら俺のチームが一番乗りのようだな。 変態カルト野郎め、テメーが作り上げた『帝国』をぶっ潰してやるぜ!!」 海に瀕して遠くにバリア越しに巨大な都市が見える場所で 正規兵と宇宙人を率いたプロレスラーのような巨大レプリロイドが彼等と共に バリアに激しい攻撃を加えていた。 「船長からの連絡と気配が途絶えたがあの船長が負ける訳が無ぇ… 俺等は与えられた任務を遂行するのみだ! 攻撃を続けるぞ、野郎共!!」 「ハッ、副船長!!」 船長とはもちろんアノマロイドの事であり、その巨大レプリロイドは ブルーイージスと共に副船長を張っていたのだった。 彼等がバリアを攻撃していると突如バスターの轟音と共に3つの影が… 「貴方達そこまでよ!」 「ここから先には行かせませんわ」 「やめなさーい!」 彼等と対峙したのはエイリア、レイヤー、パレットの3人だった。 「随分早いご到着だな…変態カルト野郎がまたつまらん小細工しやがったわけか…」 バリアをすり抜けることでスムーズに到着した彼女達に、巨大レプリロイドは 吐き捨てるように言い放った。 「…変態カルト野郎…リュミエールさんの事でしょうか?」 「なんか貴方達こぞってリュミエールに恨みつらみがあるみたいね。 貴方にも何か彼に私怨があるのかしら?」 レイヤーとエイリアがそれぞれ訊いた。 「ああ、あの変態カルト野郎の所為でな、格闘技がつまんなくなっちまったんだぁーっ!!」 「…はい?」 「そんな事で反乱を?」 理由を聞いて呆気に取られる彼女達だったが、巨大レプリロイドはそれに対し激昂しつつ続けた。 「『そんな事』だと!? 奴がやった事はなぁ、酷いとか下らねぇとかそういう言葉では表せないほど酷いもんだぜ! あれは奴がマインドコンタクトを発明する前の事だった… 格闘界では試合事故などで死亡事故や相手に重大な後遺症を残す事が少なからず有り得る。 それに対し選手の命を尊重したあの変態カルト野郎は見えにくいおもりをつけたり 薬剤を投与したりと選手達に全力を出し切れないような処置を講じやがった… 奴は選手達にあたかも全力を出しているかのように見せる演技も仕込んだが 俺のように見る者が見れば分かる。 そこで法の目を潜り抜け非合法で開かれるデスバトルが開かれることになった。 訳あって直接試合に出れねぇ俺は後から闇サイトで配信される映像を楽しみにしていたが その大会を奴はいち早く嗅ぎつけ主催者、選手、客を全員逮捕しやがった! 『下品だ』『野蛮だ』『危険だ』などと抜かしながら機動隊を動員し、 時には奴自ら大会を潰しにかかった。 そうして奴は裏の武闘会を荒らし回り、後でマインドコンタクトを発明し、 本物の刺激を求める奴等を腑抜けにしちまいやがった! 今じゃセイントサンクチュアリの格闘界はガキの喧嘩にも劣る 『おゆうぎ』レベルよ!!」 「(ゴクリ…)」 巨大レプリロイドの供述に、固唾をのむ3人。 「この十使徒・マーダーレスラーが腐り切った腑抜け共に 本物の刺激を与え、目を覚まさせてくれるわ!」 「本物の、刺激…?」 今度はパレットが訊いた。 「ああ、奴が大切に大切に守ってきた奴等を殺しまくり 偽りの楽園をぶっ潰してくれるわ!」 巨大レプリロイド、もといマーダーレスラーは大量虐殺・大破壊をやらんとする意志を示した。 「私は…リュミエールさんの考えや行為を否定する気も肯定する気もないです。 ただそれが、罪無き人々の命を奪う理由にはならない事ぐらいは分かりますよ! 悪いんですけど、ここで貴方達を成敗する事にしますよ!」 パレットはそのように返した。 「チッ、イレギュラーハンター共はもう変態カルト野郎の手下に成り下がったってわけか… 相手にとって不足は無ぇ、全員でかかれ!!」「ハッ!!」 マーダーレスラーとその部下達は一斉に三人に襲いかかって来た。 「リビングジャンク!」 エイリアがフリードリヒの特殊武器、リビングジャンクを使用し、敵兵を次々と撃破していった。 そして彼女の周辺にいたアノマロイドが従えていた時と 同じタイプの宇宙人の転送を終えた時… 「リビングジャンク…のチャージショット!!」 「どうなってやがる!?データとは違うぞーっ!!」 巨大な引き車が召喚され、正規兵を一気に引き潰していった。 エイリアは強化により従来出来なかった 特殊武器のチャージ攻撃が出来るようになっていたのだった。 その一方でレイヤーも強化され新たな力を得ていた。 「アースクラッシュ!!」 「グハアアアアア!!!!!」 レイヤーがエネルギーを込めた拳を地面に叩きつけ、周囲の敵兵を一気に吹っ飛ばした。 これはゼロの技であるが今回の強化で彼女も習得したのだった。 「畜生!こうなりゃ道連れだ…あ…?」 大型の爆弾を抱え自爆しようとした正規兵だったが言い終わる前に 爆弾ごとレイヤーに輪切りにされてしまった。 その頃パレットは、マーダーレスラーと対峙していた。 「嬢ちゃんが相手か…だが容赦はせん! データによると俺達十使徒とテメーらの戦闘力は互角らしいからなぁ!! レッドラム・ダイブ!」 そう言うや否やマーダーレスラーは背中の2ヶ所、胴体下部、両足裏の 計5つのロケットブースターを起動し、驚異的なスピードで突進してきた。 スピードのみならず威力も凄まじくマーダーレスラーは 地面をまるで水面を突き進むかのようにえぐりつつ驀進してきた。 「こ、これは喰らうとやばいですね〜」 避けながらパレットバレットの銃弾を浴びせ続けるパレット。 しかし直線的ながらも彼が動きを止める時間は意外と短く、とうとう直撃を喰らってしまった。 「う…く…」 吹っ飛ばされ全身の軋みを感じつつ体制を立て直そうとするパレットだったが、 間を置かずしてマーダーレスラーの手に捕らえられてしまった。 「俺の全身の関節は外したり360°回転させたりと自由自在だ!」 そう言って彼は腕や指を普通では有り得ない形をとらせ、 独自の関節技をパレットにかけてきた。 「ぐ…と…トリプル…イグニッション!!」 「ぐわちゃ!!」 パレットは何とかイフリーテスから得たアクセル、そして彼女専用の特殊武器、 トリプルイグニッションを使用した。 これは3つの照準を発射し、ロックした相手を燃え上がらせる武器で、 マーダーレスラーのボディの3ヶ所に発火させたのだった。 マーダーレスラーは熱さのためパレットを手放し、 今度こそパレットは体制を整えたのだった。 「一筋縄ではいかねぇって事かよ…まぁその方が刺激があっていいけどな!」 「まずは2つで行ってみますね」 そう言うとパレットの傍にレアメタル…正確にはレアメタルをベースにしたビット (攻撃支援メカ)が2基、現れた。 これが今回の強化でパレットが得た代物でさながら彼女の3本目以降の腕のようなものであり、 強固なので楯の役割も担う。 「己…変態カルト野郎の真似事か!気に入らねえ…!! レッドラム・プレス!!!」 マーダーレスラーは次にロケットブースターで上空に移動すると体の向きを逆転させ、 パレット目掛けて一気に頭から落下した。 パレットがそれを避けると彼女のすぐ側に地中深く大穴があいた。 「ええええ〜い!!」 ありったけの銃弾と特殊武器を撃ち込むパレット。 そうしていると… 「レッドラム・ロケット!」 地中からマーダーレスラーが一気に上空に飛び出て来た。 「きゃん!」 パレットはビットごと吹っ飛ばされた。 「中々しぶといですね〜じゃあ、3つ!」 パレットはビットを更に1基召喚した。 上下左右に突進してくるマーダーレスラーを、パレットは両手のバレットと 3基のビットと、実質バレット5丁分の銃弾でいなしていくが 目に見えるダメージはなかなか確認できない。 「4つなら…!」 パレットはさらにビットを1基召喚したが。 これにより手ごたえはあったかに思われた。 しかし… 「くうっ…!」 4つも召喚すると精神に負担がかかり隙も大きくなり、 敵の攻撃を喰らってしまった。 「テメーも中々しぶといな…刺激があるのはいいがこれじゃ埒が明かん… 最高出力のレッドラム・プレスで一気にケリをつけてくれる!」 そう言うとマーダーレスラーはパワーもスピードも従来より遥かに上昇させた レッドラム・プレスを繰り出してきた。 それはあまりにも速く、パレットは勘で避けた。 しばらくしてレッドラム・ロケットで上空に戻ってきたマーダーレスラーは 頭部に若干ダメージを受けているように見えた。 「この技は全力で出すと俺自身もダメージを受けるが、テメーを倒す為に使う覚悟はできている。 どっちが先にくたばるか、根競べだ!!」 マーダーレスラーもブルーイージスと同じく自らのダメージを省みず 攻撃を仕掛けてきた。 「(う〜ん、ビット3つでは一瞬一瞬ではちょっとのダメージしか与えられないけど、 4つ以上使うと今度は私にも隙が出来てしまう… いや、相手が私に一直線に向かってくるというなら…!!)」 敢えて多数のビットで真正面から迎え撃つことを考えたパレットだったが これはリスクが大きい。 しばらくヒットアンドアウェイで何とか銃弾を当てていったが、 マーダーレスラーから煙が吹き始めた時、パレットは意を決した。 「(今こそチャンスです!)」 「今度こそくたばれやあああ!!!!」 そしてマーダーレスラーはまたレッドラム・プレスを繰り出してきた。 今までより更に速くて強力な一撃だった。 「え〜い、思い切って、5つ!!」 パレットはさらに1つのビットを召還した。 それは凄まじい集中砲火となり、マーダーレスラーはもろに全弾被弾しながら 地上のパレット目掛けて落ちていった。 とうとう両者は激突し、パレットは両腕とビットでマーダーレスラーを抑えつけようとしたが 勢いで負け、銃を乱射しつつも地中深くへと押し込められていった。 「今はビットは5つしかないのに…流石にやばいかもしれないです… …いや、最後の最後まで絶対諦めませんです!」 パレットが攻撃を続けている時だった。 「どうやら俺はここまでのようだ… まぁ平和ボケして永遠に生きるよりも強敵と戦ってくたばる方が、 俺にはお似合いだし、本望だ… 後は変態カルト野郎がくたばるのを冥土で待つだけだな… パレットとか言ったな… 冥土の土産に良い事を教えてやろう… 絶対神様、三神帝に八神将の方々はもちろん…同じ十使徒でも… 宇宙で加入した奴等は…俺よりも…つよ…い… 最後に…船長…申し訳ありやせん…」 マーダーレスラーはとうとう力尽き、大爆発を起こした。 「今の爆発は一体…!?」 「パレットの身に何が…?」 穴からの爆発音と煙に敵兵を全滅させたばかりのエイリアとレイヤーが反応した。 するとしばらくして傷だらけのパレットが壁蹴りで戻って来た。 「私はこの通り、大丈夫ですよ〜」 「信じていたわよ、パレット!」 「私は少々心配しましたわ…」 三人が敵を全滅させるとしばらくして通信が入った。 「こちらエックス!この辺りの敵を全滅させた事を報告する!どうぞ!」 エックスに続き次々と通信が入る。 「こちらアクセル!終わったよ、どうぞ!」 「カーネルだ。こちらも任務を完了した。どうぞ」 「マリノだよ。こっちも終わりだね。どうぞ!」 彼等に続き、パレットも報告を続けた。 「パレットです〜。こっちも終わりですからミッションコンプリートです!以上、報告を終了します!」 「うむ、良くやった!それではこれより残りのメンバーをそちらへ向かわせる。 それまでに全員現在エイリア、レイヤー、パレットのいるポイントで待機していてくれ」 シグナスが報告に応じ指示を出した。 残りのメンバーとは非戦闘員の事であり今回現地へ出撃しなかったアイリス、 ダグラス、ライフセイバー達のことである。 「…ところで何を考えているの、パレット?」 「いえ、何でもないですよ(本物の刺激がどうとか、格闘技がどうとか 私にはあんまり興味のないことですし、リュミエールさんのやった事は 私には責めるつもりはないです…でもハンターの中でもアクセルや ゼロさんはどっちかと言うと好戦的ですし、刺激を求める人が いることも分かってます。リュミエールさんは無理矢理そういう人達を 押さえつけてるみたいですがこれは本当に正しいんでしょうか? もしリュミエールさんが嫌われても仕方のない、曲った行為をしていたら 私は困っちゃいますよ…いやいや、思い出すのです、あの日の夜を…!)」 マインドコンタクトが通じないパレットにはリュミエールのやり方に対し 多少の疑問を覚え始めたが、それでも目の前の敵を倒す事を改めて決意するのだった。 その後ハンター達の下にアイリス、ダグラス、ライフセイバー1名(他の2名は地球に残る事になった) が到着し、リュミエールの管理する大都市へと歩を進めた。 そこでは常軌を逸した光景が繰り広げられていた。

第十二話「アンインストール」

「ここが…リュミエールの国、セイントサンクチュアリか…」 セイントサンクチュアリの大都市を目にしたアクセルが呟いた。 アイリス、ダグラス、ライフセイバー1名と合流したハンター達はリュミエールの管理下にある国、 セイントサンクチュアリに入国し、彼の案内に従い宇宙船を目指して足を進める。 その光景は辺り一面が徹底的に機械化されており、22世紀の常識で考えても、 そして度重なる戦争の後と考えても信じられぬほどの膨大なテクノロジーが集約されていた。 地上またはその付近ではパトロール用や工事用、清掃用等の端末が道行く人間とレプリロイドに紛れ 黙々と、的確に作業を行っていた。 上空ではコンテナを抱えた輸送用端末が高さ、幅、奥行きの何れも他の建造物より遥かに巨大なビルを出入りしていた。 これだけ開発が進んでいても、空気の浄化技術も発達しているためその空気は山よりも奇麗である。 またありとあらゆる作業をリュミエールの端末が行っており、民間の人間とレプリロイドで仕事をしている者は見られない。 そのため、彼等には職業・身分等を象徴するものが一切見られず、ほとんどが私服で、 アーマーを着用するレプリロイドもいるが彼等とてその身分を象徴する「記号」は一切見受けられない。 それだけでなく、全員が見た目が若く、20歳以上に見える者は全くおらず、 しかも世間一般で言う「美形」とされる顔の者が多かった。 大都会にも関わらず、彼等全体の雰囲気はいたって平和的で、笑顔が絶えない。 彼等はリュミエール、そしてハンター達を確認するや否や一斉に敬礼した。 「お帰りなさいませリュミエール様!そしてようこそハンターの皆様、セイントサンクチュアリへ!」 彼等はさらに続けた。 「今回はリュミエール様にとっても危険な任務でしたね… しかし敵の攻撃から2度も生還なさるとは流石です!」 「ディザストールさん達の事は残念な気もしますが、リュミエール様に見放されたのなら 仕方のない事ですな」 「イレギュラー化したアノマロイド達が攻めてきた時は驚きましたが、 リュミエール様方の事は信頼しておりました!」 どうやら国民はリュミエールをかなり崇拝しているようだ。 建物を見ると至る所にリュミエールのポスターや看板があり、 壁や装飾品の数々にもリュミエールを模したものが多々存在していたのだった。 そんな彼等にリュミエールは返す。 「まずは本来の目的を遂げず帰ってきてしまった事をお詫びします。 ここに既に送信した情報にもありますが、ディザストールさん達は僕を裏切り 宇宙を侵略して回り、今度は地球を侵略しようとしています。 ですがご安心を。僕は現在までこちらにいらっしゃる方々と共に彼等と戦い、 既にいくつかの部隊は壊滅させました。 これから敵の本拠地に彼等と共に向い、然る後に組織・ロードキングダムを 壊滅させに向かいます。 必ずや敵を撃ち滅ぼし、その後に地球全土にあなた方と同様の幸福を分けてさしあげましょう」 彼の返答に、またもや群衆は歓喜の声を上げる。 「リュミエール様が死ぬわけも負けるわけも無い!」 「リュミエール様よりも長くイレギュラーと戦い、 多くの伝説を残してきたハンターの人達もいれば怖いもの無しだぜ!」 「ああ、ロードキングダムが滅ぶのも全世界がリュミエール様のご慈愛に包まれるのも時間の問題だな!」 この反応に若干驚くハンター達。 「リュミエールって…凄く偉かったんだね…僕も『様』をつけないとまずいのかな?」 アクセルが尋ねる。 「それは感謝の気持ちによるものですよ。 普通の人々はこれだけ平和が続けば精神が堕落し、様々なものの有難味を忘れてしまうでしょう。 そこで僕は平和な時間が如何に貴重であるかを忘れないよう彼等の感情を操作しました。 彼等はここの平和が僕によるものである事も知っておりますのでこうなるのは自然な事態です。 僕には政治的な肩書はありませんし、彼等に『様』づけを強要してもいません。 それに彼等でも全員が全員僕を『様』づけで呼ぶわけでもありませんし、従来の呼び方で構いませんよ」 リュミエールはそう答えた。 すると群衆はまた歓喜の声を上げつつ、それぞれリュミエールに感謝の気持ちを示した。 「これが感謝せずにいられますか。 社会が抱えるありとあらゆるトラブルがここでは存在しないのはリュミエール様のおかげです!」 元政治家の知的な雰囲気の青年がそう言う。 「いつも私を悩ませていたバグが完治したのはリュミエール様のおかげです!」 レプリロイドが言う。 「子供が非行をやめたのはリュミエール様のおかげです!」 元不良の両親が言う。彼等も見た目は十分若かった。 「ワシが若返って昔の甘いマスクと健康を取り戻せたのはリュミエール様のおかげじゃよ」 下手したらその夫婦よりも若く見える青年が言う。 「恋の悩みが解決したのもリュミエール様のおかげです!」 少女が言う。 「つまらない勉強や辛い労働をせずに済むのもリュミエール様のおかげです!」 少年が言う。 「私がこの年齢にして父と母に迷惑をかけずに済むのもリュミエール様のおかげです!」 人間の1歳ぐらいの幼児がはっきりとした口調で言う。 「何よりリュミエール様は私利私欲の為でなく純粋な善意で我々の面倒を見て下さっています。 そしてリュミエール様が我々に作ってくださった『善き心』は何よりも素晴らしい宝物です。 私達も地球全土がこうなることを心より願っています!」 ただただ驚くハンター達。 暫しの間沈黙が続いたが… 「胸糞悪ぃな…」 ゼロが沈黙を破った。 「『心が宝物』だと?聞いて呆れるぜ。 要するにここにいる連中はリュミエールのマインドコンタクトで『良い子ちゃん』に 無理矢理させられているわけで、今の姿は仮初の姿って訳だ。 自分自身の意思も信念も道もあったもんじゃねぇ。 それに住民の悩みや苦しみを一切消してる事にも疑問が沸くな。 人生においてぶつかる壁から常に逃げてるようじゃ薄っぺらで スカスカな人生しか送れねぇだろうが。 ハンターベースをこうした時から思っていたんだが こんなのが救いか?これが完全に正しい事かよ?」 これに対する群衆の反応は… 「分かる分かる!よく分かりますよその気持ち!」 「あるある〜」 「昔はここでもそう言う方いましたよ!」 どこか得意げに2、3度頷く群衆。 「しかしですね…」 群衆は続けた。 「それはハンターの皆様のように立派な方々の理論です。 本当の我々は決して褒められたものじゃないんですよ…」 住人の1人が苦笑いを浮かべながら言った。 それに対しリュミエールは1つ提案した。 「それでは心当たりのある方は簡単に自己紹介をどうぞ」 するとハンター達の視界に入り、声も届く所にいる群衆の一部が 次々と簡単な自己紹介を始めた。 「元不良っす」 「元DV親父です」 「元ヒステリーババアよ」 「元モンスターペアレンツです」 「元『悪女』です」 「元ストーカーだよ…」 「元悪徳政治家です」 「元詐欺師でございます」 一通り自己紹介が終わった時、リュミエールは改めて話を続けた。 「いかがですか? ここに住んでいる方々の一部は性格に何らかの問題を抱えていたのです。 彼等は飽くまで世間一般で良しとされない心を持ち、周囲を傷つけ、迷惑をかけてきました。 中には事件や事故を起こしたり、その可能性を十分に秘めた方もいらっしゃいました。 口で言ったり態度で示したりしても変わりようのない方も少なくありませんでしたよ。 僕はそんな方の悪い部分のみをマインドコンタクトで修正することで 彼等やその周囲の環境を安全かつ円滑にしているのです。 多種多様な性格があるとはいえ他者にやったら嫌がる事を故意にやったり、 しかもそれを反省すらしない事が許されていいのでしょうか。 皆様にもやって欲しくない行為やいたら困るタイプの1つや2つぐらいあるでしょうに。 もしそれらが全く無いのであれば心が無い、即ち只の機械と同じですよ。 皆様の心がある状態のまま真の平和を見出すにはこれしか方法は無いのです。 仕方のない事なんですよ」 「…そう簡単に決めつけられる問題じゃねぇだろ」 異議を唱えるゼロだったが、その時何とエックスがさらに異議を唱えた。 「俺は…本当にこの方法しかないのならそれに賭けてもいいと思う…」 「…!お前まで何を言っている!まさかもう操られちまったのか!?」 「彼は本心からそうおっしゃっています。今の僕にはまだ彼の感情は操作出来ませんので」 動揺するゼロに対してリュミエールは答えた。 そしてさらにエックスは続けた。 「俺は今までイレギュラーと戦い、殺すことで平和に貢献しようとしてきた。 俺にとって戦いは望むものではないが戦いを止めるためなら自分の意志でもやってきたんだ。 それでも戦いは避けたかった。今でも出来ることなら避けたいよ。 イレギュラーとされる者が過ちを犯さなければ、話を聞いて分かってくれるなら どれだけいいと思ってきた事か…! しかしマインドコンタクトを使えば間違った事を考えずに済むし、犠牲が増えることも無くなる。 誰かの命を奪うよりは悪意のみを奪う方が遥かにマシだと俺はこう思う」 エックスの表情は十字架を背負い続ける者ならではの苦しげな、悲しげなものだった。 「さすがエックスさん、話がよくお分かりですね」 「でも勘違いしないでほしい。俺はやっぱりこんな技術を使わなくても 皆に本当の意味で分かり合ってほしいんだ。 それはあまりに難しい事だと分かっているし、飽くまで戦いを繰り返す事よりは マシ、ぐらいにしか認識していない。 君が言うとおり本当に仕方のない事かもしれないね」 リュミエールの言葉にエックスが答えた。 それに対しゼロはエックスに耳打ちするように囁いた。 「お前が今までの戦いで悩み抜き、苦しみ抜いてきた事は俺もよく知っている。 けどな、いくら何でも感情を操作するなどお前が望んだ平和とは相反してねぇか? 大体リュミエールはある意味今回の事件の元凶みたいなもんだろ」 「リュミエール本人はロードキングダムと戦っているし、 悪事を働いているのはロードキングダムの方じゃないか。 それを言ったらシグマを作ったDr.ケインも否定する事になるし…」 「そのシグマがイレギュラーになった原因は…クッ…ッ! (確かに今の俺も本来の姿じゃねぇ… 本来の俺は、エックスの製作者に対抗すべきして造られた存在で、凶暴なイレギュラーだ… ケインのじいさんのおかげで俺は今の心を手にしてこうしてイレギュラーと戦っている… それを考えるとリュミエールも俺と同じく敵はおろか自分の運命とも戦っているとも言えるな… だがしかしどうも俺はリュミエールの事はいけすかねぇ…) まぁいい、操られるような奴は所詮その程度の奴って事にしておくか。 俺は絶対に操られたりはしないからな!」 この会話をリュミエールは聞き逃してはいなかった。 「(やはり難しいものですね。 一刻も早くマインドコンタクトを完成させて貴方がたを楽にさせてあげましょう。 そしてゼロさん、貴方はイレギュラーの元祖でありながらも その運命に逆らい、今ではイレギュラーを狩る側にいらっしゃる… 僕達のプロトタイプのアクセルさんも、過去の事件に加担したカーネルさんも ダイナモさんも今ではこちら側にいる… これらの事が当初の僕を奮い立たせたのですよ。 出生や経緯はどうあれ貴方達がその運命を乗り越えた事実が 自分が新世代と知っても絶望せずに済んだのです。 僕は貴方達のように自分なりに出来ることを最大限にやろうと考えたのです。 その出来る事がマインドコンタクトや他の発明なのですよ…) 分かりました。それでは改めて宇宙船へとご案内します。 あのビルが僕の自宅にして、研究所です」 リュミエールとハンター達がそのビルへと向かおうとするや否や群衆はモーゼのように別れ、 彼等に道を開けた。 「いってらっしゃいませ、リュミエール様、ハンターとそのお仲間の皆様!」 リュミエールが指し示したビルは上記にある輸送用端末が出入りしている一際巨大なビルだった。 「うわぁー、近くで見ると本当に大きいんだねぇー」 「まるっきり壁ですよ、これ〜」 ビルの大きさに素直に驚くアクセルとパレット。 中に入るとビルの中の様々な事務をこなす端末が動いており、中央には巨大な転送装置があった。 「それでは第四十三開発室へお願いします」 リュミエールの合図とともにその場の全員はその第四十三開発室という部屋に転送された。 そこには遠くから見ないと全体の形が確認できないほどの巨大宇宙船が存在し、 完成しているため周囲のロボットアームは動きを止めていた。 その部屋には宇宙船だけでなく、無人の宇宙戦艦も数十隻あった。 それらはリュミエールの宇宙空間用の戦闘端末である。 「これまたでっかいなー…」 「これでも最小限の大きさに留めているんですよ」 また驚くアクセルにリュミエールは答える。 この宇宙船は今回の任務に必要な装備を整えるのには必然的に大きくなる。 出来る限り無駄を排除してもとんでもなく巨大になるのだ。 もし一般の科学者がこの宇宙船と同じだけの機能を持つ宇宙船を開発すれば リュミエールのそれの3〜5倍ぐらいの大きさになってしまうだろう。 「では中へどうぞ」 ハンター達はリュミエールに続き宇宙船の中へと入っていった。 「実際に見てみると本当にすごい設備ね」 「これだけあれば何も困る事はなさそうだぜ!」 エイリアとダグラスが感心する。 そしてリュミエールはとある装置を起動させた。 「これが以前申した宇宙観測装置です」 すると装置の上に球形のホログラムが浮かび上がり、天体の座標が現れた。 「この装置は宇宙空間の天体その他の物体の位置、速度、外観などを 様々な視点で表示します。 宇宙全体で言いますと地球や太陽系を含む銀河系はここですね」 「何だ、はじっこじゃないさ」 装置の映像では地球・太陽系を含む銀河系がほんの隅っこに表示された。 「そしてこれが宇宙の中心領域で、フォースメタルの惑星や 宇宙規模の戦争が存在していたところです」 装置には球体の中央の大部分が表示された。 容積で言えば表示された部分の方が遥かに大きかった。 「ちょっと、むちゃくちゃ広いじゃないの! どうやって敵を探すのさこれ!?」 あまりの広さにアクセルは驚き、リュミエールに尋ねた。 「ご心配なく。装置にデータさえ送信すればよほど強力な ジャミングでもされない限り調べられますよ。 今の目の前の目標は宇宙の中心領域と我々の銀河系の間、 下手すればもう太陽系に入っているかもしれませんが、 そこにいるロードキングダムの部隊を調べてみましょう」 リュミエールは自身の保有するデータを装置に送信した。 結果が装置に現れる。 「…やはりジャミングされていて鮮明な映像は出てきませんでしたが 座標は特定できました。これからその座標へ向かいましょう。 光の速さでも数十年かかる距離ですのでワープ装置を起動する必要もありますね」 リュミエールは敵の位置を捕捉した。 その部隊はロードキングダム5番目の部隊にして、辺境の星を担う最後の部隊である。 遂に出撃の時が来たのだ。 リュミエールの操作により、ビルの上部のハッチが開き、そこから宇宙船が発射される。 それに続き、無人宇宙戦艦数十隻も続々と宇宙へと飛び立っていく。 あっという間に宇宙船は地球から遠ざかったかと思うと、前方にワープホールを開け、 その中に入っていった。 この穴は先ほど宇宙観測装置が示した座標の地点へと続いている。 「よーし、首を洗って待っていろよー! (とは言ってもねえ、正直僕もリュミエールのやり方には全面肯定はしかねるね。 レッドアラートの皆はリュミエールが良しとしない性格の持ち主ばっかりだったし、 もしレッドの性格ややり方がリュミエールみたいだったら皆ついて来なかったかもね。 その場合レッドも強引に皆の感情を操作してたのかなぁ? リュミエールとレッドの決定的違いって一体何だろう… それのどっちが良いとか悪いとかは僕が簡単に決められる事じゃないけど、 僕としてはレッドの方がまだいいよ…)」 打倒ロードキングダムに燃えるアクセルだが、同時に彼もまた先ほどの会話や セイントサンクチュアリの風景からリュミエールのやり方に多少の疑問を抱いた。 そして、またレッドを偲ぶのだった。 一方でリュミエールもまた宇宙にいる敵にその思いを張り巡らせていた。 「(余計なもの、余計な考えを全て消去する事で地球はまた始まるのです。 先人の罪を重ね、それどころかさらにその上塗りまでしたロードキングダムは 存在そのものが余計なんですよ。 全ての余計なものは僕が完全に消去しましょう。 それから今は記憶の片隅におぼろげに存在する、僕の大切な方… 僕が貴方の記憶を取り戻し、地球全てをセイントサンクチュアリにした時、 きっと貴方もお喜びになるでしょう。 その全ての妨げになるディザストールさん、いえ、絶対神…貴方だけは絶対に許しません)」 そしてハンター達を乗せた宇宙船はワープホールを抜け、敵艦隊を目指し突き進んでいった。 その頃ロードキングダムの本拠地では… 「報告します」 ディザストールが不気味な装置の前でひざまずき、何者かに報告していた。 「リュミエールとその下僕になったハンター共が地球を離れ、我々の下へ向かいました。 次の目標は宇宙の辺境を担う最後の部隊と思われます」 「イヒャァーハッハッハ!!!アヤツモヤリオルワ!」 装置からは機械で加工された不気味な声が響き渡る。 「ソコノ部隊モマタエゲツナイ部隊ダカラノウ、キャツラガ地獄ニツキオトサレルノガ 容易ニ予想デキルワ!フヒャッ、フヒャッ、フヒャアーハッハッハ!!!」 ディザストールは賛同しつつその人物に装置を介して報告を続けた。 「全くですな。そしてもう1つ、報告があります。 奴は、リュミエールは三神帝であるこの私めを『絶対神』、すなわち貴方様と 誤認しているようでございます」 「フヒハハハハハ!!!!余ノ事ヲ忘レルトハ、ジツニアヤツラシイワ!!!! キャツニハ余ノ正体ノ記憶ヲ消シテオラナンダガ、自分デ消シオッタ!! アクセル…ウヌハ血ヲ分ケタ我等ノモノニナルベキダ… エックス…イツマデモウジウジ悩ムノナラ我等ノコマトシテ楽ニナルガイイ… ゼロ…リュミエールヲモ超エタチカラ、我等ニ貸シタ方ガ無駄ハナイゾ… ホカニモオモシロソウナ奴ガウジャウジャイヨルノウ。 コヤツラ全員余ノエサジャ! ダガリュミエール、ウヌダケハ、絶対ニユルサン…!」 絶対神はディザストールではなかった。 そして本当の絶対神はリュミエールのつねに側にいた人物だったのだ。 絶対神は狂気を全開にして、高笑いをした。 その笑い声はディザストールのいる部屋に大音量で響き渡る。 しかしその人物に固く忠誠を誓うディザストールは嫌な顔一つしなかった。 こうして宇宙全体を舞台にした戦いが、本格的に始まった。

第十三話「COZMIC TRAVEL」

第13話「COZMIC TRAVEL」 ハンター達とリュミエールを乗せた宇宙船がワープホールを抜け、宇宙空間で航行中の敵艦隊のいる場所に到達した。 「ここまで近くに来ると敵の映像もバッチリね、行くわよ!」 エイリアが改めて激励する。 同時に敵もハンター達の宇宙船の位置を捕捉した。 「とうとう来おったか。辺境最後の防衛戦、気合を入れて行くぞい!」「御意!」 隊長格の八神将がハンターの出現を部下達に告げ、戦闘準備に入る。 最初に敵の戦艦から正規兵の乗り込む カラスのようなデザインの宇宙空間用戦闘機が次々と放たれた。 「『NG』、ねぇ。んじゃぁ、遠慮はいらね〜な!」 そう言うダイナモと共にエックス、エイリア、レイヤーが彼らに対し 戦闘機で迎え撃った。 無人宇宙戦艦もそれを援護する。 無数のレーザー弾が宇宙空間で激しく交錯し、敵機が次々と撃墜されていく。 第三者が見れば美しい光景かもしれないが、これは当人達にしてみれば命懸けの戦争である。 「あれが旗艦だな」 旗艦を確認したエックスは他の三人と共にその旗艦を取り囲んだ。 「姑息な真似を!追尾ミサイルで撃ち落としてくれる!」 旗艦を除く一般の戦艦に搭乗している敵兵が船内の機械を操作し、それぞれ四人にミサイルを放つが、 見事破壊されるか、引きつけられた挙句旗艦に命中してしまう。 「乗っているのは正規兵や幹部のみとは限らないぞ!兵装だけを攻撃だ!」 こうして四人は旗艦や他の戦艦の武器を破壊していき、敵の弾幕が薄くなるや否や ハンター側の宇宙船が旗艦に接近した。 「暗くて入り組んでますねぇ、でもこういうステージこそ私の本領発揮ですよ」 「攻略はあたしが適任だね!」 「僕も行くよ!僕もこういうの自信あるしね」 モニターに映る敵の旗艦内は真っ暗で、通路も非常に入り組んでおり、さらにトラップが大量に仕掛けられていた。 そんなステージに対し出撃はアクセルとマリノが、ナビゲーションはパレットが担う事になった。 「分かりました。では、突入です」 リュミエールの操作と共に宇宙船から大径のタラップのような通路が伸び、旗艦に穴をあけ、 直後二人は旗艦内に侵入しに行った。 「!」 その時、連絡通路内を幾つかの影が駆け抜けて行った。 「今の見えた、マリノさん?」 「ああ、確かに見えたね。あれは正規兵だね あたしは何体かしとめたし、船に残ってる仲間も気付いちゃいると思うけど 連絡しているだけしてみましょ」 「僕だって何体かしとめたさ。 で、この先のことだけど元々戦える人が何人も警備で船に残ってるんだし、 この状態が長く続くのはマズいからさ、僕達が敵艦に入ったら 事が終わるまで通路は封鎖してもらおうよ」 「それもそうだね」 敵も通路を介して侵入しようとしてきたのだ。 彼等は正規兵で、忍者や日本妖怪のような姿をしており、 皆動きが速いか、姿が見えにくいかのいずれかの特徴を備えていた。 そして二人は無事に侵入した。 と同時に今もなお侵入を続けようとする正規兵達を一通り片づけた。 「侵入成功だよ!ただし敵さんの方もそっちに侵入してみたいだから注意しな! あたし達が戻るまでには通路は封鎖しておくんだね!」 「分かりました、これより返り討ちにしますので… (初期段階とはいえこの船の警報を自動で作動させない兵を抱えているという事は、 この部隊の隊長はあの方しかいませんね) 皆さん、敵が侵入してきているようです。直ちに戦闘態勢に入りましょう」 マリノの報告にリュミエールが応答し、同時に彼は船内に警備にあたっている メンバーに敵の侵入を伝えた。 まずはリュミエールが通路を封鎖し、この時通路にいた正規兵を宇宙空間に放り出した。 「ギャアアアア〜〜ッ!!!!!」 直後宇宙船からのレーザーで彼等は撃破された。 「現在この船内にいる敵は四人ですね… 訂正します、三人ですね」 パレットが早速天井から襲いかかってきた河童のような正規兵を撃破していた。 「じゃあそれぞれ敵の向かいそうな場所へ行くぞ! 俺は開発室だ!あそこにはアイリスを始め非戦闘員がいるんだ!!」 「何だと!?ならば私も開発室だ!」 ゼロとカーネルは開発室へ。 「私は自分の身を守りながらナビゲートしますよ!」 パレットはそのまま指令室へ。 「それじゃあ、私は治療室に行く事にします」 シナモンは治療室へ。 「では、僕達はコンピュータルームへ行きましょう」 「おう!」 リュミエールとマッシモはコンピュータルームへ。 こうしてそれぞれの闘いが始まった。 「本当に真っ暗だけど、このぐらいなら何とかなりそうだよ」 「いや、ここは隠し通路とかトラップが結構多いからその度に 私が教えてあげますね」 「こういう所にはお宝が転がってるって相場が決まってるね♪」 パレットのナビの下入り組んだ艦内を最短ルートで進む二人。 その時、壁に違和感が。 「ん?何かいるのかな?」 実はそれは体の色を背景と同じに変える事のできる宇宙人であり、 直後二人は彼等に取り押さえられた。 しかしながら彼等は単純なパワーとスピードでは二人に大きく劣り、少人数では振り払われると知るや否や 大挙して飛びかかり、多人数で押しつぶすように押さえようとしてきた。 そして二人に隙が出来たと判断するや否や彼等は何と味方ごと刃物で貫こうとしたり、 味方に「流れ弾」が当たる危険性も顧みず大量の小型の刃物を飛ばしてきたのだ。 「なんて真似するんだい!」 実際のところ二人に隙など出来ておらず、すぐに彼等は振り払われ、刃物も全て止められてしまった。 「ううう…」 しかし至近距離にいた宇宙人の何人かは味方の攻撃を受けてしまい重軽傷を負ってしまっていた。 彼等は口々に言う。 「我等個々の命など全体の為、そして殿(隊長)の為にはゴミクズも同然!」 「旗艦や殿、副隊長殿をお守りする為には喜んで命を投げ出そう!」 「船で頭冷やしな!!」 マリノがそう言い放った直後一瞬で宇宙人達は捕縛され、宇宙船へと転送された。 地球を離れてからはロードキングダムに操られた宇宙人は船の治療室に飛ばすことになっていた。 「パレット、こっちの宇宙人、そっちに送ったよ」 「了解ですぅ。…シナモンちゃん、敵艦の宇宙人達を治療室に送りましたよ。 彼等は改心してるはずなので攻撃しないでくださいね」 「分かりましたー」 宇宙船の治療室にはリュミエールが開発していた敵のマインドコンタクトを遮断する装置があり、 転送された時点で宇宙人は改心する仕組みである。 そしてその通り、宇宙人達はすぐに改心した。 「いてて…何で俺達あんな奴等の言う事聞いてたんだ…?」 「おい、誰か来るぞ!」 ドアを開けたのはシナモンか、それとも… その頃敵艦内では… 「こいつら本当に地球の恥だね、先を急ごうマリノさん!…あれ?」 マリノがいない。 「マリノさんは後ろの隠し扉の向こうですよ!すごい速さで引っ張られてしまいました…」 実はマリノはつい先ほど真後ろの隠し扉の向こうから宇宙人とは比較にならない力と速さで 室内に引っ張られてしまっていた。 彼女はすぐに抜け出せたものの扉が閉ざされるのが速かった。 「この扉、外からじゃ開かないや、めんどくさいから壊そ!」 扉の破壊を試みるアクセルだったが、後ろから多くの殺気を感じた。 振り向くと物陰から多数の正規兵と宇宙人達がアクセルを 後ろから襲撃しようと身構えていた。 「へぇ、背後を狙うなんてどっかの卑怯者そっくりだ」 「バレちゃしょうがねぇ、かかれ!」 敵兵はまとめてアクセルに襲いかかった。 一方でマリノは隠し部屋の周辺を見回したが、気配はすれど姿は見えない。 五感を研ぎ澄ませ敵の位置を捕捉しかけた時、突然その方向から何かが飛んできた。 「よっと」 マリノはそれを全て避けた。 飛んできた物体は透明度の高い刃物で、暗闇がそれを余計見えにくくしていた。 「今のをかわし切るとは、流石でござる」 「場所は分かってるんだ、姿を現しな!」 誰もいないように見える部屋から声だけが響いたと思うと、 その声の主は光学迷彩を解除し、特殊工作員のような真の姿を現した。 「姿も名も明かさぬのは幹部の矜持に反するが故、 今回に限り姿を披露し名乗りもあげてやるでござる。 拙者は十使徒が一人、インビジアサシン… 地球出身の最後の十使徒でござる!」 「おや、さっきの非礼は幹部の矜持とやらに反しないのかい?」 「問答無用!いざ参るでござる!」 インビジアサシンは直後また姿を消した。 「クリアブレーズ!」 先程のと同じ透明な刃物を飛ばしてきた。 マリノは額のゴーグルを下ろし、敵や刃物の形状や位置を把握しながら応戦した。 「これはビームソードが必要だね…!」 インビジアサシンは驚異的な速度で無数の刃物を飛ばし、また本人の移動スピードも速かった。 これに対しマリノは最強武器であるビームソードで応戦し、互いに高速戦闘を繰り広げた。 しかし段々とマリノの動きがぎこちなくなってきた。 「この透明の刃は壁や地面に刺さりさながらまき菱の役割を果たすでござる。 拙者は専用のセンサーと速さと技術がある故問題は無いが お主の逃げ場所は無くなっていくでござるよ!」 「参ったね…」 マリノの周辺に刺さる刃物が増えて行き、避ける範囲が着実に狭まってきた。 「止めでござる!」 「な〜んて、ね」 ほとんど動きを封じられたかのように見えたマリノ目がけてインビジアサシンは 止めの一撃を繰り出さんとしたが、突如マリノが宙高く飛翔した。 「ハイパーダイブ!」 WEを溜めたマリノはハイパーダイブを繰り出しインビジアサシンを自分の捲いた種ならず 刃物めがけて吹っ飛ばした。 「おがああああああ!!!!!!」 あまりの速度で吹っ飛ばされインビジアサシンは壁に激突すると共に 全身が自らの刃物で滅多刺しになった。 「不覚…でござる…だが…今残っている幹部の中では拙者は最弱… 今のうちに勝利の余韻に浸るがいいでござ…る…よ…」 インビジアサシンはそう言い残し絶命した。 「やれやれ、とんだ足止め喰らっちゃったよ。扉は確かここだったね」 隠し部屋の扉は内側からは簡単に開いた。 扉の向こうには今しがた敵を片付け終えたアクセルがいた。 「あれ、マリノさんも終わったの?」 「あんたも足止め喰らってたんだね、さ、先を急ぎましょ」 その場の宇宙人を転送し、二人はパレットの指示の下先に進んでいった。 そして最後の大部屋に辿り着いた時、 「とんでもなく強力なイレギュラー反応がありますよ!注意してくださ…」 ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!!!!!!!! 「わあっ!何か来た!」 「ボスのご登場かい!」 パレットの通信を聞き終える前に二人の周囲を無数の黒い葉のようなものが舞い、 視界を遮断した。 やがてその物体は次第に数を減らしていき、視界が晴れた時の事だった。 「これは…どういう事だい?」 「「ええっ、何で僕が二人いるの?」」 マリノの目にはアクセルが二人に映っていた。 否、実際にこの場には二人のアクセルがいたのだった。 「そういやロードキングダムは新世代型レプリロイドだったっけ。 じゃあ片方は偽者ってわけだね」 「「僕は本物だってば!こいつが偽者だよ!!」」 二人の「アクセル」は全くのズレもなく同じ行為を取る。 しかもマリノの視界には両者の頭上に「NG」の文字が浮かんでいたのだ。 …とその時片方の「アクセル」の口元がニヤリと笑った。 第十四話「心の闇」 アクセルとマリノが敵艦の最深部に辿り着く頃、ハンター達の宇宙船の中でも 所々で戦闘が展開していた。 船内に侵入出来た敵兵は4体もいるわけだが、それ以前に撃破された兵の数の方が圧倒的に多く また彼等はいずれもスパイ活動全般のプロ中のプロであるため 4体までに押さえたハンターの対応の早さと戦闘力が驚異とも言えるだろう。 さらにはその内の1体までもが侵入早々に撃破され、残りは3体である。 ―治療室 シナモンがドアを開け、室内に入る。 「(あ、本当にいますね…)皆さん大丈夫ですか?」 すると部屋にいた宇宙人達は震えながら指さし、口々に言う。 「後ろだよ後ろ…!」 「後ろがなんですか?」 シナモンが振り向くとそこには悪霊風で、且つ病人風の非常におぞましい形相の正規兵がいて、 悪声を発してシナモンに襲いかかってきた。 「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!」 「きゃあっ!!」 あまりのおぞましさにシナモンは正規兵に渾身のビンタを喰らわせた。 「へぶっ!」 正規兵は吹っ飛び壁に叩きつけられ、壁に貼り付け状態になったが しばらくしたら壁からずるりと剥がれ落ちた。 「やったか!?」 「この!この!よくも俺達をいいように操ってくれたな!」 「気持ち悪いんだよ、この野郎!死ね!死ね!」 「ヘボアアアアアアアア!!!!!」 悪霊風の正規兵は怪我を負っていない宇宙人達大勢に足蹴にされ、刃物で滅多刺しにされて死亡した。 「うぅ〜怖かったですぅ〜」 「あんたもな」 尚も怖がるシナモンに宇宙人の1人が突っ込む。 ―コンピュータルームへの通路 「こんな所に壁なんてあったか?」 「いえ、ありませんよ」 コンピュータルームに向かうはずのリュミエールとマッシモだったが 目の前には無いはずの壁があり、行き止まりになっていた。 すると壁に顔が浮かび、変形し「ぬりかべ」のような姿になった。 「この速く重い倒れ込みに耐えられるかあっ!」 ぬりかべを模した正規兵は2人に倒れかかった。 「邪魔だ!」 「ぶぎゃん!!」 一度にリュミエールとマッシモの2つの豪拳が叩きつけられ、 彼のぺしゃんこな体はさらにぺしゃんこになってしまった。 ―開発室 「へっへっへ、あんたらにゃ大事な人質になってもらうぜぇ」 アイリス、ダグラス、1人のライフセイバーの前に忍者風の正規兵が立ちはだかる。 ライフセイバーがアイリスを庇う一方、ダグラスは正規兵に銃を向けた。 「戦場に来てるんだぜ、丸腰で来るとでも思ったか!」 発砲するダグラスだったが、ことごとく避けられる。 「遅ぇ…遅ぇなぁ…弱い癖に戦場に来てんじゃねーよ! 地球(うち)でメカいじりでもやってるべきだったなぁ!!」 あっという間に三人は捕縛されたが、直後部屋にゼロとカーネルが入ってきた。 「へっへっへ、遅かったな…こいつらのいの…いの…いのののの… NO――――――――!!!!!!!!!」 ゼロが目にも止まらぬ速さでBファンを正規兵の頭部に投げつけ、死亡させた。 「人質を助け、敵だけ倒すのはとっくに慣れてんだよ!」 そしてゼロはアイリス達を解放した。 「ゼロ…私は貴方の事、信じていたわ…」 「少し怖い思いをさせちまってすまなかったな」 愛する者の無事を確認したゼロはアイリスを抱き寄せた。 「熱いなぁ…で、こっちは怖ぇなぁ…」 2人の世界に入りつつあるゼロとアイリス。 その一方でカーネルは正規兵になおも攻撃を加えていた。 これにダグラスは呆気にとられていた。 「このイレギュラーがああああ!!!!!! よくも私の妹にあんな事ををををを!!!!!!」 「落ち着いてください、もう死んでますよ」 「おっとすまなかったな、私とした事がつい取り乱してしまった」 カーネルはライフセイバーに制されて冷静さを取り戻した。 その時船内に放送が入った。パレットである。 「只今船内に侵入した敵は全滅しました。各自持ち場に戻ってください」 「残りはエックス達にアクセル達か…頼んだぜ!」 ゼロは船の外の仲間を信じて警備を続けた。 「(あの方の部隊とはいえ、敵の侵入を許すとはセキュリティの強化が必要ですね…)」 そう考えたリュミエールはコンピュータルームに入りメカの操作を始めた。 その頃敵艦内では… 2人に増えたアクセルの片方がニヤリと笑った。 次の瞬間彼は次から次へと今までの闘いで倒した敵に変身したのだ。 レッドアラートの仲間達、リべリオン軍幹部、リディプス軍、 ヤコブ計画に参加していた新世代型レプリロイド、さらに既に倒した ロードキングダムの幹部達… そしてその「走馬灯」のように変身を続けた方のアクセルは叫ぶ。 「これが僕が本物である証拠だ!今まで倒してきた敵達のDNAデータは 僕の中にはっきりと刻まれているんだ! 直接会っても倒してもないレプリロイドにこう易々と変身できるものか! さあ正体を見せろ、ロードキングダム!」 すると変身をしなかった方の「アクセル」の口調が変わった。 「ホッホッホ…こうなる事を予測しておったか。如何にもワシが偽者じゃ。 先手を打っておったのは褒めてやるがのう、1つだけ不正解があるわい」 「へー、何それ…え!?」 偽アクセルは本物のアクセルと同じ変身の繰返しをした。 違うのは変身の度に煙が出ることだった。 姿と声を変えながら偽アクセルは言う。 「この煙はのう、ワシの趣味というかノリみたいなものじゃ。 ワシは八神将の一員にして変装、変身、諜報、暗殺、その他諸々の闇の仕事の達人… 名をシャドー・タヌキースじゃ!」 偽アクセル、もといタヌキースは小柄で肥満体形のタヌキのようなレプリロイドだった。 また彼は侍のような出で立ちをしており、懐には刀の代わりに 瓢箪の形状の物体が装着されていた。 タヌキースは語る。 「時にお主ら、ワシと同じ闇の住人の匂いがするのう…」 「お前らなんかと一緒にするんじゃない!」 「まぁ当たらずとも遠からずだけどさ」 アクセルとマリノはそれぞれの反応を示す。 「基本的には一緒じゃよ。お主らは初期は自らの正義の為に 法に背くと知りつつも盗みや殺しをやっちょったじゃろ。 1つ良い事を教えてやるわい。 ワシもセイントサンクチュアリでは世の為人の為に必要な盗みと殺しをやってきた。 お主らとワシ、そしてかつてのリュミエールの小童は同じ穴のムジナじゃったのじゃ…」 タヌキースが語る驚愕の真実に二人は言葉を返す。 「あんたはともかく、リュミエールがそんな事を…!?」 「あの坊やは義賊だったのかい!?」 さらにタヌキースは続けた。 「なに、時代劇でも良くある事じゃ。 馬鹿正直に法律を守っておったら時に法律で悪人を守り、その被害者は泣き寝入りってこともあるからのう。 そんなんじゃ太陽が西から昇るようなものじゃろ。 じゃからワシ、それ以前はあの小童が中心になって法で裁けぬ悪人に制裁を下していたのじゃ。 只昔のお主らと違うのは政府も味方しておったことじゃな。これもよくある話じゃ。 ワシらはのうのうと生きてるクズ共相手に表では出来ない汚い事はなんでもやったぞい。 でっち上げ、自作自演、濡れ衣、詐欺、窃盗、…そして暗殺じゃ。 知能と感情と個性を持つ存在があれだけいれば闇は確実に生まれる。 ワシやあの小童も、そしてお主らも元々はその闇の中に身を置く存在… 光の下に出てはいけないんじゃよ。 じゃが、あの小童は『光だけの世界』を創ろうとしおる。 これもまた太陽が西に昇るような理不尽で馬鹿馬鹿しいことなのじゃ!」 タヌキースの記憶が二人に流れ込んでくる。 それは、リュミエールがマインドコンタクトを発明する前であり、 また彼が政治の実権は握ったものの表には出てきていない頃だった。 人気のない夜道の中、一台の車が爆発する。 車は爆炎に包まれ、乗っていた男は当然即死だった。 その男は数々のヤクザと繋がりのある大物政治家だった。 そう、1つの暗殺の任務が完了したのだった。 燃え上がる車を男達が炎に照らされながら横並びになって眺めていた。 彼等はリュミエール、タヌキース、インビジアサシン、鑑識のフリードリヒ、 当時の首相のランバートという名の人間の男、他に警察、記者等であった。 ちなみにランバートとはハンター達に最初にリュミエールへの感謝の言葉を述べた 知的な青年の事であり、もちろん当時は中年だった。 彼等は盛大に歓喜の声を上げていた。 「ハーハッハッハ!!!ざまあみろ、ド腐れ政治屋め!」 「も〜えろよもえろ〜よ〜♪なんちて〜〜」 「使えねー神様に代わって俺達が成敗してやったぜ!」 「見事な焼死体であるな。だが焼死体だって我輩にかかれば有効に使えるである」 そしてランバートがリュミエールに語りかける。 「全く以て奴には相応の報いですな。ご気分は如何でしょうか、リュミエール様?」 彼は既にリュミエールから多大な恩恵を受けており、それによりリュミエールを崇拝していたのだった。 それに対するリュミエールの反応は… 「これで彼の傘下にいた組織は一気に弱体化する… 彼に搾取され、暴力に怯えていた方々にも平穏の日々が訪れる… しかも世間では『事故』としか認識されないから もし彼を大切に想う方がいてもその方には憎む対象はいない… 憎しみの連鎖は起こらない… これで、良かったのです…悲しんでは、いけないのです…」 当時のリュミエールは悲しみや痛みを知っており、暗殺の度に悲しみに震えていた。 この時暗殺した男は相当性質が悪かったので周囲にいた面々は いくらリュミエールでも悲しまないと思っていたが、それは間違いだった。 ランバートは驚き、直後謝罪した。 「リュミエール様が悲しんでおられる…!やはりこの御方は非情になり切れないのだ! なのに我々はこんな無様な姿を…!申し訳ございませんでしたリュミエール様! 見苦しい姿を見せて本当に申し訳ございませんでした!!」 ランバートの目には涙が浮かんでいた。 それに警官や記者が続く。 「本官もお詫び申し上げます!年甲斐もなく感情的になってしまい…ううう…」 「俺もすまなかった!みっともない事をした事を許してくれ!」 彼等は世の為人の為を想ってこの暗殺に加担したのであり、 人並みの情は備えていた。 むしろ普通の人に対しては優しくて愛情深いぐらいである。 そんな彼らにリュミエールは告げた。 「謝るなら、僕に対してでなく彼に対してです… 僕も彼にお詫びしますので…」 リュミエールは炎に向かって敬礼した。 「私も詫びよう。こうするしか君の被害者を救う方法が無かったのだよ…」 ランバートも詫びた後敬礼した。 「お前が道を踏み外さなかったら…良き家に生まれ、良き友に恵まれていたら こんな事にはならなかったのにな…」 「俺達はお前の死を絶対に無駄にしない!約束する!」 警官や記者達も泣きながら謝る。 彼等とは別にフリードリヒとタヌキース、インビジアサシンが話し合っていた。 「フン、クズ相手にとんだ茶番であるな。これをどう思うであるか、タヌキース爺よ」 「やはりお館様には暗殺は向いちょらんな。ここはワシが一肌脱ぐとするかのう」 「お供致すでござる」 そしてタヌキースはリュミエールにそっと語りかけた。 「お館様…やはりお館様は心が優しゅうございます。 かような任務はこのタヌキースめに全てお任せ出来ませんでしょうか? 私めなら守るべきものの為ならどこまでも卑怯に、そして非情になれますぞ」 「タヌキースさん…」 優しげな表情で語るタヌキース。 「お館様が辛ければ私めも辛うございます。 かような輩の所為でお館様の手を汚すのはあまりに腑に落ちませね。 これからはお館様は今まで通りの綺麗な事に専念された方が宜しゅうございます。 汚い事は私めが全て被りとうございます。 それに…アレに身を委ねるわけにも行きますまい」 「確かに…もしそういう事になればこの世界は終わります。 ならば貴方の腕を見込んで悪人の暗殺を任せましょう」 「かたじけのうございます」 こうしてタヌキースは暗殺を含むスパイ活動全般を請け負う事になった。 彼は隣にインビジアサシンを従え部下達の前で命令する。 「良いか皆の者!クズを殺せ!殺すのじゃ! 無益な殺生はいかんが有益な殺生はどんどんやったれい!」 インビジアサシンもそれに加える。 「あくまでクズだけを殺すでござる!無関係の者を巻き込んだり 目撃されたりするのはご法度でござるよ!」 「まずはデータ収集からじゃ!二人一組に分かれて国中の民のデータを収集せよ! クズのデータが揃ったら後にワシらで議論して処罰の方法を取り決めるぞい!」 「はっ!」 タヌキースの部下達、つまり後の正規兵達はある者は姿を消し またある者は民間人に変身して迅速に散り散りになっていった。 「さて、ワシらも行くかのう。全ては世の為人の為、お館様の為じゃ!」 「御意!」 タヌキースとインビジアサシンも意気込みつつ調査に行った。 程なくして会議を経て国中で暗殺、その他の破壊工作が始まった。 彼等は決して暗殺等を悟られることは無く、世間では殺された悪人の死因は 「病気」「事故」「自殺」などとしか認識されず 報道規制で悪人の死が一般では知られないことさえあった。 そうこうしてしばらく経った日の事だった。 リュミエールと後のロードキングダム幹部達のミーティングが終わり、解散して間もないころ リュミエールがタヌキースに語りかけた。 「タヌキースさん、数日前『急性アルコール中毒』で亡くなった会社員と 『転落事故』で亡くなった小学生の少女の件は貴方の仕業ですね」 その二人の死は世間には知らされてないが膨大な個人情報を握るリュミエールは直ぐに嗅ぎつけた。 「流石はお館様。よくぞ見抜かれましたな。その通りでございます」 どういうわけかタヌキースは堅気の者さえも毒牙にかけていたらしい。 嘘が通じる相手ではないと悟ったタヌキースはそれをあっさり白状した。 そんなタヌキースをリュミエールは咎めた。 「何故暗殺までする必要があったのです!?彼等は民間人でしょうに。 僕が暗殺してきたのは社会への影響力、武力、悪事の頻度、内容、改心の見込みなど 多角的な視点で見て本当にどうしようもない犯罪者のみです」 「その会社員は部下に対して横暴、上司には生意気な態度で接し家族には常に暴力を振るい 酒癖も女癖も最悪でした。 小娘の方は常日頃から同級生や下級生、動物に陰湿ないじめを行い 注意した教師にもいやがらせを行うぐらいでした。 しかもそれとは別に恐喝事件も起こしていたのですぞ。 両者共々頻度、影響、改心の見込み等において不合格でしたので殺しましたぞい」 すると横から長身痩躯の植物型レプリロイドが割り込んできた。 「ウジュルウジュル…小さな女の子を殺すなんて最低だろぉ〜」 これに対しタヌキースは腫れ物に触るような態度で彼を罵倒した。 「黙らんか!その小娘はお主のようなロリコン男を誘惑しては騙して金をむしり取っておったんじゃぞ! そやつは稀に見る狡猾さの持ち主じゃ!お主が思うような天使なんかじゃないわい!」 「ウジュルウジュル〜それじゃ〜可愛い小悪魔ちゃんじゃないか〜 どうせ殺すなら僕が愛情をた、たっぷりと注いで、ぞ、ぞぞ、存分に可愛がって…ウジュルウジュルウジュル…!!!」 「やめんか、気色悪い!シッシッ!」 興奮する植物型レプリロイドをタヌキースが制すとリュミエールが話を続けた。 「彼等のような方は特設住宅に謹慎させ、改心するまで無期限に他人との交わりを禁止するか 破壊工作で周囲から孤立させて孤独な人生を歩ませる…それで十分ですよ」 これに対し今度は別の二人が割り込んだ。 「ケッ、どうせこの国にゃはみ出し者の人権なんざありゃしねえ。 同胞のよしみで適職に就けてもらっておいて何だがよ、俺から見ればあんたら全員の方が異常だぜ」 長身痩躯だが鋏と針、そして体中の突起とガサツな振舞いで十分厳つく見える虫型レプリロイドが言う。 「絵を描くとする…描くなら美しい絵がいい…絵を醜くする色は無用… それらの色があるだけで絵は醜くなる…みすぼらしくなる…不快になる… だから削除する…消去する…廃棄する…」 人型レプリロイドがつぶやくようにその虫型レプリロイドの言葉に異議を唱える。 彼は体が大きすぎて部屋に入らなかったので普通のサイズのレプリロイドをコピーして 部屋に入っていた。 もちろん他の巨大サイズのレプリロイド達も同様に建物の中では人間サイズのレプリロイドに変身していた。 「お主らは引っ込んどれ、この鬼畜共が! それでお館様、話を戻しましょう。今回の件で私めをこの任務から外されますか? その場合アレの危険性とまたしても向き合う事になりますが如何いたしましょう?」 「こうなったのも貴方にこの任務を全て任せた僕の責任ですし、 彼らに非が無いと言ったら嘘になりますので今回は保留にします。 しかし次回以降は僕と同じ基準で任務に当たってくださいね。 (何故皆余計な事を考え余計な事をするのでしょうか…心に闇があるからでしょうか… もし最初から心に闇が無ければ誰も余計な事を考える事もそれに順じた行為もしなくなるはず… ならば心の闇は余計な存在ですね… いよいよ弱き者の心の闇を消滅させるあの計画を実行する時でしょう…)」 この時からリュミエールはマインドコンタクトの準備を始めていた。 そしてあらゆる準備が整い、世論が感情操作を受け入れるまでになった頃に とうとうそれを実行してしまった―― そして現代。 「その結果群衆の心から闇は取り払われたのじゃが… 誰もが真っ白になったがためにワシの立つ瀬は無くなった。 罪悪感は感じちょらんが己の在り方を見失ったのじゃよ。 それに加えワシは任務に当たって社会のありとあらゆる黒い部分に触れてきた… 闇を内に秘めた群衆はその分実に生き生きしていて味わい深いものじゃった。 皆が皆闇無き者ならばそれは生ける屍の世界と何ら変わらぬわ! 闇とは消し去るものでなく上手く隠して潜めるべきものなのじゃ!」 狂気じみた供述をするタヌキース。 唖然としていた二人だったがアクセルが反論を始めた。 「2つ、気になる事があるんだけどさ。 当時のあんたは関係無い者は巻き込まないようにしてたみたいだけど 今は巻き込んでんじゃん。他の星の人たちを。 あとあんた自身もロードキングダムもその闇を上手く隠し切れてないんじゃないの?」 これに対するタヌキースの返答もまた狂気じみていた。 「全ては絶対神様…今のお館様のご意思に沿うための事じゃ! あの御方は芸術的なほど鮮やかに我々全員を欺き、騙し、闇に引きずり込んだ! 警戒を怠らなかったワシですらな! 感情操作などせずともお館様は様々な方法でワシらに取り入り、 結果としてお館様の目論見通り組織の皆がお館様を選びおった! ワシらが使っているマインドコンタクトはお館様からのおこぼれに過ぎぬわ! …あの御方は闇の住人に非ず、闇そのものじゃ! 万物はお館様の前では皆飲み込まれるべき存在じゃ!星の違いなど関係無いわい!」 今度はマリノが怒りの反応を見せた。 「誰かの前では皆無価値ってことかい!?そんな事あってたまるかい! それと神だか新世代だか知らないけど勝手に人の生き様決めつけるんじゃないよ!」 「必死に否定しちょるがお主らとワシは何も違わんよ… お館様がワシを飲み込んだように、今度はワシがお主らを飲み込んでくれよう!」 そう言ってタヌキースは戦闘態勢に入った。 「先程は既存のレプリロイドに変身して見せたがワシが戦闘に使う変身は 先人が闇への恐怖より思い描きし存在…妖怪変化への変身じゃ!」 タヌキースはそう言って印を結び鬼に変身した。 「オーガスィング!」 巨大な棍棒を叩きつけてきた。 「速い…!」 何とかかわし切るとタヌキースは変身を解除し上空に跳ね上がった。 直後再び印を結び今度は釣瓶落としに変身した。 「フォールヘッド!」 頭だけの巨体となり二人を押し潰そうと落下する。 これも辛うじて避けたが次にタヌキースはヤマタノオロチに変身した。 「スネークヘッドバット!」 8つの巨大な頭部で頭突きを繰り出してきた。 「わあっ!」「くううっ…!」 流石の二人もこの速く多方向から来る技は避け切れず直撃し、吹っ飛んで壁に激突した。 相当強く叩きつけられ、一瞬意識も吹っ飛んだ二人だったが意識を取り戻すと 反射的に自分たちも変身した。 アクセルはホワイトアクセルを、マリノはクイックシルバーを発動したのだ。 二人はそのままオロチ形態のタヌキースと応戦へ。 「的がデカけりゃ当たりやすくていいや!」 「今回の強化で得た力を喰らいな!」 両者ともさらにスピードを増し、スネークヘッドバットをやり過ごしながら攻撃も加えて行く。 アクセルは上空からアクセルバレットを連射し、マリノはクイックシルバー時限定で出来るようになった ミラージュダイブの連発をお見舞いしていく。 「ぬううううう!!!!!」 やがてタヌキースは変身を解除した。 「ふむ、データ以上の実力じゃな。 今見せた妖怪への変身はワシに欠けているパワーを補うためのもの… じゃが図体がデカくなる分普通に動いても被弾率が上がる。 お主らとは相性が良くないようじゃな。 …これがワシの真骨頂、高速戦闘と影の刃じゃ! シャドーリーフ!」 タヌキースは懐に固定していた瓢箪状の武器を取り外し、スイッチを押した。 すると登場時に見せた黒い葉の形をした闇のエネルギーが瓢箪から放たれ、 タヌキースの周囲を竜巻状に旋回した。 この状態でタヌキースは部屋中を縦横無尽に跳ね回った。 「この影の刃はワシを中心に回っておる! インビジアサシンみたく己の刃で滅ぶ事などありはせぬわ!」 二人はタヌキースに攻撃を加えようとするがほとんどはエネルギー弾に阻まれる。 それでもエネルギー弾の隙間をぬってタヌキースが被弾する事があったため タヌキースは武器の出力を増した。 「どんどん増やすぞい!ワシが見えるかのう!?攻撃を当てられるかのう!?」 闇で出来た「葉」の数はどんどん増していき、やがては登場時ほどに視界がさえぎられていった。 それだけではない。「葉」が二人の体を徐々に切り刻んでいくのだ。 「真っ暗だ…何も…見え…ない…この暗闇の中…僕は…死ぬの…か… いや…闇があるなら…光で照らせばいいだけ…トリプルイグニッション!」 アクセルは相手の体に直接ヒットするイフリーテスの特殊武器、 トリプルイグニッションを使った。 この武器は厳密には炎の武器だが炎も光を発し、相手との間に障害物があってもヒットし、 さらに強大な力を持つ八神将の武器であるため敢えてそれを選択したのだった。 これはアクセルの予想以上の効果を上げた。 「ぐわちちちちちちち!!!!!」 タヌキースは背中が炎で燃え上がり、瓢箪を手放し、デタラメに走り回った。 「エクスプロージョン!」 アクセルは瓢箪を壊した。 「そういやあんたらあの超フォースメタルでパワーアップしたんだってね…絶対いただき!」 スキだらけになったタヌキースからマリノは超フォースメタルをぶん取った。 ゴッドリディプスから超フォースメタルのかけらをぶん取ったように。 「おおお何て事を!じゃがワシは超フォースメタルのみならず宇宙の戦利品でも パワーアップしておる!まだ勝敗は決しとらんぞ!」 なおも高速戦闘で二人と張り合うタヌキース。 「レイガン!」 アクセルは次にサンフラワードの武器で貫通性に優れる光の特殊武器、レイガンで タヌキースの胸部を貫いた。 「ぐが…!」 「もう一度…絶対いただき!」 マリノは再度隙が出来たタヌキースから宇宙の戦利品までもぶん取ってしまった。 「ぬおおおおお!!!!何故ワシが超フォースメタルや宇宙の戦利品でパワーアップできたか知っちょるか!? それは抵抗値じゃ!つまり元からワシは強いのじゃあああああ!!!!!! 思い知るがいい、小娘に小童があああああ!!!!!!!」 完全に予想外の屈辱に怒り狂ったタヌキースはまずはマリノに飛びかかった。 「散華!!」 マリノは見事カウンターを取り散華を喰らわせ、タヌキースは力尽きた。 「こうして闇の住人は葬り去られて行くのじゃよ… ワシはこれまでじゃがお主らはこれからもワシと同じにならずにいられるかのう…? 八神将の最後の三人は強さだけでなく…皆…気の触れた鬼畜ばかりじゃ… お主らの…ちっぽけな正義が…どこまで通じるか…のう…」 ひたすらに闇に生きたタヌキースはその生涯を閉じた。 「僕に心の闇が無いとか、この先闇に負ける事は無いとは断言できないさ。 でもそんなのやってみないと分からないじゃないか! 僕の中に闇があるなら逆に上手く使いこなしてみせるさ。 お前等には出来なかったが僕はやってやる!」 そう言ってアクセルはマリノと共に旗艦を後にした。 リュミエールに己の意思を伝える事を胸に秘めながら… そしてエックス達も一般の敵艦を制圧し、帰還した。 しばらくしてコンピュータルームから出てきたリュミエールにアクセルは話しかけた。 「リュミエール、ちょっといい?僕の感情なんだけど、 もしマインドコンタクトが完成してもやっぱり操作しないでほしい。 もちろん自分の感情だからいじらないで欲しいってのもあるけど、 僕は自分自身の考えで自分や他の誰かの心の闇、それから社会の闇を見て歩んで行きたいんだ。 この気持ちは誰かに消されたり変えられたりするべきじゃないよ…」 そんなアクセルに彼は答えた。 「自分の力で闇に挑みたい、と。これは実に尊ぶべき考えです。 このように考えられる方が現実にいるのは本当に喜ばしい事ですよ。 故に今の貴方のような心の強さを秘め、且つ正しき道を歩まれる方には 感情操作など無用かもしれませんね。 ただそれが出来ない方があまりに多い事を、忘れないでください。 貴方達ならともかく、そのような方々には感情操作は必須だという考えは 今のところ譲れませんので…」 「リュミエール…」 リュミエールはあくまで「一般人」が本来の感情で行動するのを良しとしなかったので 心が強く、且つ悪人で無ければ感情操作は無用という考えも持ち合わせており、 今回アクセルにそれを示した。 それに対しアクセルは、彼が逆に一般人を見下しているようにも感じられ、若干困惑した。 こうして微妙なこじれを抱えつつも船は宇宙空間を進んで行った… そのころロードキングダム本拠地では―― 「タヌキースの部隊が壊滅したと…するといよいよ私が育て上げたあの地獄の番犬達に スポットが当たるという事なのか…! 奴等と当たるハンターとあの三流脚本家の事を思うと… ああっ…!何て、何て悲しいのだろうか…!!」 広間でグレイシャアがオーバーな身振り手振りで発狂していた。 そこへアブレイズがやってきた。 「相も変わらずやかましい奴よ」 彼からは燃え上がるような闘志がみなぎっていた。 「これはアブレイズ!貴方の部下の軍隊出身の部隊が全滅したのが そんなに遺憾というのか!?」 逐一ポーズを取りながら尋ねるグレイシャア。 ちなみに軍隊出身の部隊とはイフリーテス、アノマロイドの部隊の事である。 「否、奴らがそれだけ強い事に血がたぎっているだけよ! もちろんお前のいちいち鼻につく態度にもな! ちょうどいい…今日も1つ、手合わせを願おうか…!」 「望むところ…!今の私は悲しくて悲しくて機嫌が良いのだから! 貴方の荒ぶる魂に最後まで付き合ってあげよう! さあ始めよう、武の宴を!」 そう言って二人は大広間で今日もまた激しい戦いを始めた。 タヌキースやグレイシャア、そして解放された宇宙人等の言及通り、 宇宙の中心領域で待ち受ける八神将の残りの三部隊は強力かつ 異常極まりない存在である。 過去に大規模な戦争が展開されていた宇宙の中心地。 これからまた、新たなる大戦が始まろうとしている…

第十五話「強さと優しさ」

その戦いは誰が望んだのか――― 今回の事件が勃発するしばらく前までは、宇宙全域は戦いの渦に呑まれていた… 戦争が行われていた宇宙の中心領域では、数多くの知的生命体が存在していた。 巨大な種族、小柄な種族、地球人に似ている種族、地球の動物や虫に似ている種族、 地球の何れの生命体にも似ていない種族、エネルギー生命体のような種族… 数多くの星と種族が存在していたのにも関わらず、彼等は星々の間で交流を深めていくと 2つの巨大組織に分かれ、思想・信念の違いからいつ果てぬともない戦争を始めたのだった。 「―何故俺は戦わなきゃいけないんだーっ!」 「―おい、こいつは敵だぞ、治療なんかすんじゃねぇ!」 「―この戦いが終わったら結婚するって言ってたのにーっ!」 「―これが戦争だ、諦めて前へ進め…」 「―死ねーっ!皆皆死んでしまえーっ!!!」 「―ここでは戦争の影響が無い…猛獣がうろついてても構うものか!」 「―俺から全てを奪った奴等を許さない…全員、殺してやる!」 「―敵対する俺達が一緒になるには国なんか捨てて『宇宙海賊』になるしかないが、ついてくるか?」「―ええ、貴方とならどこまでも…」 戦争はあまりに永く、その分苛烈を極めた。それはまさに、 ――宇 宙 最 悪 の 戦 争 ―― 皮肉にもこの戦争で彼等の科学技術は発達していき、やがては ロボット兵器(後にエイリアにレプリアンと命名される)が戦場に投入されるようになった。 時が進むと一方の国家はより良きパートナーとする為にロボットに心を与え、 もう一方はより深く相手への支配感に浸りたいというサディズムによりロボットに心を与えた。 この「心のあるロボット」達が戦争に導入されて以来戦争はより一層激化した。 戦争の中ではこのしがらみに嫌気がさし国家を捨てて宇宙海賊に身を落とす者が後を絶たず その中に非情に強力なロボットも含まれていたため宇宙全体は滅茶苦茶に荒れ狂っていった。 繰り返される悲劇… 連鎖する憎悪… 失われて行く人々の良心… 暴力しか知らずに生まれ育つ命… この戦争は果てしなく成長していく「魔物」のように思われた。 …しかし、その「魔物」さらに強大な「魔物」のエサに過ぎなかった。 それがロードキングダムである。 発足後間もない彼等はどのような経緯かこの忌むべき戦争を終わらせ、絶対的なカリスマとして君臨した。 その後それぞれの国家、そして宇宙海賊の出身者は現在残っている八神将三人の下に配属された。 これに対し宇宙の辺境の解放を終えたハンター達が彼等も解放すべく 宇宙の中心領域を目指し、またしてもかつての戦場で戦いの火蓋が 切って落とされようとしていた… 現在ハンター達が向かっているのは戦争をしていた国家の片方「コズミックヴァンガード」の拠点、 フラン星だった。 その星には次の部隊を率いる八神将と十使徒がいるという。 コズミックヴァンガードとは、愛や勇気、絆などを重んじる国家で、 ロボットにパートナーとして心を与えたのも彼等である。 「いよいよ来ましたか。今行きますよ、プロパガンダさん…」 フラン星を捕捉したリュミエールが呟く。 そう、フラン星はプロパガンダの出身地であり、かつてリュミエールが不時着した星だったのだ。 それに対しアクセルが語りかけた。 「そういやプロパガンダって人の事良く聞いてなかったね」 戦いに明け暮れる中、様々な困難を乗り越え仲間を導き、さらには リュミエールを助けたその人物の事を、アクセルは少なからず気になっていた。 それにリュミエールは答えた。 「本当に素晴らしい方でした。僕のように感情操作しなくとも彼の仲間は自然と彼についていき、 それどころか敵まで彼に惹かれていったのです。 戦いを経て敵との間に友情を育むなど僕には不可能な事も彼は出来ました。 そして僕がフラン星に不時着した時プロパガンダさん達はまだ戦争のさ中にあるにも関わらず 無償で僕の命を救ってくださりました」 宇宙船が自動操縦でワープホール内を進む中、リュミエールは語る。 そしてその記憶の一部始終がアクセルや周囲にいたハンター達に流れ込む。 ――それはリュミエールが一度現在のロードキングダムに敗れ、 フラン星に不時着し、命を取り留めた時だった。 「おい、空から妙な子供が降ってきたぞ!」 「この子は…ロボットか?見た目こそ我々を含む数種族に似ているが こんな構造のロボットは見た事ないな…」 「どうします、プロパガンダさん?」 「当然治すに決まっているだろう。目の前で瀕死になっている者を助ける時、 その人が誰かを確認するのは無用だからね」 薄れゆく意識の中、リュミエールは複数の人物による会話を聞いていた。 ほどなくしてリュミエールは目を覚まし、彼等もそれに気付いた。 「あ、ロボットの子が目を覚ましましたよ!」 「良かった…気がついたみたいだね」 リュミエールの目の前には青白い肌以外は地球人そっくりのフラン星人と 他の種族の宇宙人が数人ずつ、そしてプロパガンダがいた。 「助けて頂いて有難うございます。ここは…どうやら故郷ではないようですね。 僕は太陽系の第3惑星の地球という星から来たリュミエールです」 リュミエールは、名乗った後自分の事情を説明した。 この時彼はわざわざ自分の行う感情操作の事までは話さなかった。 「そうか…私の名はプロパガンダ。ここのリーダーを務めている。 …しかし驚きだ。君が我々の認識しない星系からやってきた存在だとは… 君や君の星の人間とレプリロイドと呼ばれるロボット達の運命も驚きだよ」 一通り事情を聞いたプロパガンダもまた名乗った。 彼やその仲間達はリュミエールが自分達の関与しない星からやって来た事に関心していた。 「自分の星を救うためにこんな事になってしまったなんて…辛かったね。 私達も今辛い戦いのさ中にいるから君の気持ちは分からないでもないよ」 丁度休戦時という事もあり、プロパガンダは宇宙の中心領域で起こっている事を大まかに説明した。 話の内容は主に自分達の国家はコズミックヴァンガードで敵国の名はドルフエンパイアである事、 ドルフエンパイアを率いるドルフ星人の気質は概して凶暴で残虐であり知能も高い事、 ドルフ星人は暴力による独裁主義の元宇宙の星々を侵略して回り、 植民星の人々を奴隷としてこき使っている事、 自分達はそれに対抗し、宇宙の平和の為日々彼等と戦っている事、 そしてこの戦争が長く続いてきた事だった。 この説明の締めにプロパガンダが放った言葉にリュミエールは意外性を感じざるを得なかった。 「それでもこの戦いでドルフ星人達とも分かりあえる事を私は信じたい。 これから控える最終決戦で、全てに決着をつけてみせる」 リュミエールは驚きつつプロパガンダに尋ねた。 「今のお話によりますとドルフ星人なる種族は大変好戦的で聞く耳も持たず、 貴方達も戦わざるを得ない状況にある、ということですね? ならば何故この戦争が始まる元凶であるドルフ星人を打ち滅ぼすのではなく 分かり合う事を目指しているのでしょうか…?」 これにプロパガンダは答えた。 「心が…あるからだよ」 「心…ですか?」 プロパガンダは更に続けた。 「戦いを通じて分かったんだ。ドルフ星人達も我々と同じように喜び、悲しみを感じる事、 そして自分達の仲間を想う事が出来る存在である事を。 ならば国も種族も関係ないじゃないか」 この話を聞いた仲間の一人が彼に賛同した。 「こんな事を普通の人が言ったら失笑ものだけどこの人が言うと説得力があるぜ」 これを聞いたリュミエールが改めて聞いた。 「そう上手く行くのでしょうか?」 するとこの場にいたプロパガンダよりも大柄な体格の宇宙人が頭部全体を覆うヘルメットを外した。 「俺がそのドルフ星人の一人だ」 直後彼は戦争の資料写真をリュミエールに提示し、自分の顔がドルフ星人の特徴と一致している事を確認させた。 「…!」 言葉を詰まらせたリュミエールにドルフ星人はこう付け足した。 「俺達のボスだったディクテイテスの野郎にはうんざりしてたし、大海賊プランダラも相当ヤバいっていうからな。 結局俺はこの人についていく事にしたまでよ。 まぁ今じゃすっかりこの人に惹かれちまったけどな。 今でこそ俺みたいな奴は少数派だけどこの戦いが終わるころにはもっと増えてると思うぜ」 これにリュミエールはただ感嘆し、敗北感さえ感じた。 「(僕には出来ない…敵だった者とここまで仲良くなれるなんて…! いや、出来ない事を無理にやろうとする必要はないですね… プロパガンダさんにはプロパガンダさんのやり方があると言うのなら 僕は僕のやり方で地球を救ってみせます…)」 この時既に心の痛みを無くしたリュミエールは敗北感こそ感じたが、 それでめげたりすること無く直ぐ開き直った。 しばらくして体も回復したリュミエールは廃材の利用許可を得て即席でレーダーを搭載した 宇宙船を作り上げ、フラン星から旅立つ事になった。 「本当にお世話になりました。 お礼と言っては何ですがこの戦争をより確実に勝つ方法を提供したいのですが…」 そう言ってリュミエールはプロパガンダ達に感情操作の説明をした。 その結果は「NO」だった。 「この技術は確かに高度なものだけどそれを使ったら本当に分かり合えた事にはならないし、 散っていった先人達も浮かばれないよ。 君が我々の為に祈ってくれる、その気持ちだけで充分だよ」 断るプロパガンダに彼の仲間が続いた。 「嬢ちゃ…じゃなくてボウズにはボウズの戦いがあるんだろ?だったらそれを優先しなって」 「本当に…言葉も見つかりません…お互いに平和が訪れた時、また会いましょう」 プロパガンダ、そしてコズミックヴァンガードを信じたリュミエールはフラン星を後にし、 ロードキングダムの元へと向かった。 しかしリュミエールは三神帝により返り討ちにあってしまい、再び生死の境を彷徨いつつ 体内に所持していたワープ装置を起動させ、地球の近くに移動し、そのまま地球の引力に引っ張られて落下したのだ。 「…へー、宇宙には凄い人がいるもんだね」 アクセルも驚いていたがエックスはより強い衝撃を感じていた。 「俺は何て馬鹿な事を言ってしまったんだ…! なんだ、ちゃんとあるじゃないか、皆が本当に分かり合える可能性が! 考えても見たら今までのイレギュラーで改心した者がただの一人もいないか? ここにもいる元々は敵だったメンバーと俺達は今は利害の一致だけで繋がっているのか? いいや、そんな事は無いはずだ! このプロパガンダという人は苦しみつつもちゃんと頑張って敵とも分かち合っているじゃないか! なのに俺は安易に感情操作なんかに頼ろうと少しだけだが考えてしまった… 彼をそっくり真似ようとせずとも良い参考になるには違いない… この先皆と分かり合える確実な保証はないけど…しかし! たとえ辛くとも俺はもう諦めたりはしないぞ!」 アイリスもエックスに賛同した。 「私もほんの少しマインドコンタクトに頼ってもいいかな…って考えちゃったけど… やっぱり良くないよね、こんな技術で平和を勝ち取っても… 私としてはリュミエールさんのやり方よりもこのプロパガンダさんのやり方の方が断然好きよ」 これにゼロが続いた。 「よく言ったぞエックス! そしてアイリス、お前は人は憎まなくても罪は憎むからなぁ… お前等のマインドコンタクトへの反応に俺は困っていたがこれでもう悩む事は無いな! リュミエール、お前はそのプロパガンダって奴の爪の垢でも煎じて飲みやがれ! それともそんなに自信が無ぇのか!?」 ゼロの言葉にリュミエールはそっけなく答えた。 「自信が無い訳ではありません。彼が凄すぎるだけです」 「それを自信が無いって言うんだよ!」 ゼロはそう言い放った。 こうしてリュミエールとハンター達の考えの違いによる関係のこじれが明らかになる中、 宇宙船はフラン星に着陸した。 今回出撃するメンバーはエックス、ゼロ、リュミエール、カーネルに決まった。 「強さも優しさも持つレプリアンか…私も興味深いな」 カーネルが言う。 「強力な反応が二ヶ所に分かれているわね。ここは二手に分かれて頂戴」 エイリアからの通信を聞いた四人はエックスとゼロ、そしてリュミエールとカーネルの二手に分かれた。 エックスとゼロがエイリアの示すポイントに向かうと武器を持ったフラン星人とその仲間の宇宙人達が待ち構えていた。 「早速出てきたか…」「待て、様子がおかしい!」 エックス達を確認したフラン星人達は一斉に武器を捨て、何と白旗を上げた。 「何!?」 「お願いです、我々に力を貸してください!」 「ここの部隊の隊長と副隊長を助けてください!」 「組織を…ロードキングダムの暴走を止めてください!」 彼等は口々に言う。 「落ち着いて!これじゃ何が起こったのか良くわからないよ!」 慌てるフラン星人達にエックスは注意を促す。 すると彼等の中にいた小柄な老人のフラン星人が名乗り出てきた。 「それでは私が説明しましょう」 「おお、先代!」「お願いします、先代!」 この老人が出てくると彼は仲間達から先代と呼ばれた。 「遠い所からご苦労様です。私はこのコズミックヴァンガードの前の代のリーダーのウォーレスといいます。 今の状況はと言いますとここの部隊の隊長・副隊長が組織を裏切る動きを見せ、 それを知った正規兵達が我々の中の女性と子供を人質にとって逃亡したわけです。 副隊長は我々の今のリーダー、プロパガンダというのですが奴は今その正規兵達を追っています。 客人達、もし奴等を見かけたら人質を解放するとともにプロパガンダに 貴方がたと組むよう説得していただけませんかのう?」 「プロパガンダだと!?もっと詳しく聞かせてくれないか?」 ウォーレスに対しゼロが尋ねる。 「ゼロ、尋問は君に任せよう。俺は先に人質の解放に向かうがいいかい?」 「ああ、話を聞いたら俺もすぐ駆けつけるぜ!」 事態を重く見たエックスは一足先に人質救出へと向かった。 ゼロは引き続き事情聴取を行った。 もちろん彼には裏をかかれるような隙は無かったがフラン星人が嘘偽りを話しているわけではないのは ゼロにも明白だった。 ウォーレスの供述によるとプロパガンダはロードキングダムの傘下に入った後 ここの部隊の十使徒になったがそれは力に屈服したわけではなく、 玉砕して仲間達の未来を奪うよりも生き延びて彼等と戦う機会を伺っていたという。 そしてここの隊長の八神将は元は荒れ果てた性格の持ち主だったが 今はプロパガンダの影響でその心が氷解しかけ葛藤状態にあるらしい。 同時に彼はマインドコンタクトを憎んでいるため組織を裏切る気配も見せているという。 それを悟った正規兵が隊長とプロパガンダに背きこっそり女性・子供を人質にとって逃げたというのだ。 さらにプロパガンダはロードキングダムと戦う意志があるにも関わらず ハンターが来たら手合わせしたいと言っているようだった。 「あのバカ息子は同じ目的をもつ貴方達と敢えて戦いたいなどとぬかすのです…! 何でわざわざ戦いなんて乱暴な方法を取るんじゃ! 確かに優しさのほかに闘争心をプログラムしたのはワシじゃが 今は戦う相手を間違っているじゃろうに! 客人よ、ここはプロパガンダに穏便に協力するよう話をつけて貰えませんかのう?」 ウォーレスは科学者でもありプロパガンダの生みの親だった。 彼は宇宙の中心領域の戦争を終わらせるべく闘争心と平和を愛する心を兼ね備えたロボットとして プロパガンダを製作したのだった。 「何だと、信じられん!これはまるであいつらみたいじゃねぇか!」 あいつら、とはカーネル兄妹の事。 彼等と同じ目的でプロパガンダが創られた事を知った事にゼロは驚きを隠せない。 違うのはプロパガンダはこの2つのプログラムが見事に融合し、 目的通りの闘争心と優しさを兼ね備えた一体のロボットになった事である。 それだけではない。 プロパガンダはその優しさや器の大きさにおいて生みの親のウォーレスさえも超えた事である。 この場では語られなかった事だがウォーレスはコズミックヴァンガード側の「人間」とレプリアンのみならず、 ドルフエンパイア側の「人間」とレプリアンにも聖者の如く慈悲深かったが、 諸悪の根源のドルフ星人に対してのみ鬼畜化していた。 彼はドルフ星人とは絶対に分かり合えないと決めつけ、ドルフ星人に対し楽しみながら 大量虐殺行為を行ってきた。 彼だけでなく歴代のコズミックヴァンガードのリーダー達は概してそうだった。 ドルフ星人と分かり合う事を目指したのはプロパガンダが初めてで前代未聞の事だった。 時のリーダー、ウォーレスはそれに怒り狂い闘争心のプログラムを強化改造するとプロパガンダに食ってかかったが プロパガンダは自分の心を試すと言って敢えて改造を承認、 結果改造後もプロパガンダの意思は変わることが無く、この事で敗北感を覚えたウォーレスは 現役を引退しプロパガンダを新しいリーダーに選抜したのだった。 「そうか、話は分かった。エックスは充分信頼出来る奴だから心配は無ぇ。 爺さん、あんたも自分の息子を信用してみたらどうだ? という事で俺も話つけに行ってくるぜ!」 事情聴取を終え、通信でエックスに話の概要を伝えた後、ゼロもエックスに続いて現場へと向かった。 その頃、居住区からそう離れていない荒野でスタンガンや電気鞭を持った正規兵達が フラン星人の女性と子供を伴って逃亡していた。 「全く、冗談じゃねぇ!セイントサンクチュアリの時から悩んでいる時の隊長は 一触即発の危険人物だったが今回の悩みぶりは今まで以上だぞ!」 「副隊長も副隊長だ!絶対神様に挑むなんて無茶無謀だっつーの!」 「どうする、ドルフ星とカオス星のどっちにトンズラこく?」 「カオス星はやめろ、嫌だよあんなマジキチ部隊!」 「オラ、キリキリ歩けぇ!!」 「ムガー!!ムガー!!」 …とその時正規兵の頭部に次々と穴が開いて絶命した。 遠くからエックスが狙撃したのだった。 当然の如く人質は全員無事だった。 「君達、怪我は無いか!?」 エックスは人質を解放した。 「有難うございます!本当に有難うございます!」 「ブェェ〜ン、怖かったよぉぉぉお〜!!!」 人質だったフラン星人達が仲間の元へ向かった直後だった。 「良い反応だ。確かに彼等はその場で説得が通じる相手ではないだろうからね」 「!!」 強大なエネルギーを感じたエックスが振り向くとそこにはプロパガンダがいた。 以前リュミエールがマインドコンタクトで伝えた姿と一致していたためエックスは直ぐに分かった。 「私がここの十使徒のプロパガンダだ。私を倒さぬ限りこの先には進めないぞ」 エックスの視界の中のプロパガンダには十使徒であるにも関わらず、「NG」の文字は映っていなかった。 「実際には初めてお目にかかる。貴方の話はリュミエール、そしてウォーレスさんから聞いている。 貴方はロードキングダムと戦おうとしているそうじゃないか。 ならば俺と貴方が戦う必要はないだろう。 このまま投降して我々に力を貸していただきたい」 エックスに対するプロパガンダの返答はこうだった。 「君の話もリュミエール君から聞いているよ。 君も悩み苦しみながらここまで来たそうだね。 この先の試練は今までより一層厳しくなるが、私は敢えて戦いを通して 君の覚悟がどれだけのものか見たいんだ。 私も、君も、戦いに身を置く者。 そして時として戦いは言葉以上に相手を知る手段にも成り得るのだよ。 君が断ろうともこちらから行くが、覚悟はよいだろうか?」 「…」 エックスは暫しの間悩んだが、直後先程の自分の考えを思い出した。 「…良いだろう。俺の覚悟を見せてやる!」 両者は互いに身構えた。 「ノヴァストライク!」 先ずエックスがアルティメットアーマーを装備し、ノヴァストライクを繰り出した。 「ヴァンガードストライク!」 これにプロパガンダは盾を構えてのエアダッシュで迎え撃った。 辺り一辺に衝撃音が響き、両者は互い違いに吹っ飛ぶ。 「ウォールショット!」 続いてプロパガンダはジャンプして盾を中心に巨大なバリア障壁を張り、 それを飛ばしてきた。 「チャージコレダ―!」 チャージコレダ―でバリアを破壊したエックスは次にプラズマチャージショットを プロパガンダに放った。 「どうだ!盾を構えてもプラズマまでは防げないだろう!」 「確かに…そうだな!」 ダメージを受けたプロパガンダだったが何とか耐え、反撃に出た。 プロパガンダは守りが堅いだけでなく機動力も高く、エックスの攻撃を見事に裁き エックスにもダメージを与えて行った。 ここでエックスはある事に気が付いていた。 それはプロパガンダはバスターを盾ではじく時、上空に逃がしている事と、 戦っているうちに両者が居住区から遠ざかって行く事、 彼がバリアを張る際そのバリアが必要以上に巨大である事だった。 その真意を悟ったエックスは自らも誰もいない所へとプロパガンダを誘導していった。 居住区が見えなくなると両者の攻撃はさらに激しさを増した。 「ヴァンガードブレード!」 続いてプロパガンダは凄まじい重量の盾にエネルギーを纏わせて回転力をつけ水平に投げつけてきた。 盾は高速で飛来してくる。 「おおおおお!!!」 エックスは渾身の力を込めて盾を叩き落とした。 そして手の痺れに耐えつつも間髪入れずノヴァストライクを繰り出した。 本来この技は盾が戻ってくるはずだが今はその盾は地面にめり込み、 戻ってくることはなかった。 盾を失ったプロパガンダは体当たりで対抗しようとするが 直ぐに押し負け、両者は突き進んでいく先に存在する岩を次々に砕き、 最終的には切り立った崖に激突し、岸壁にはプロパガンダを中心とした大きな亀裂が入った。 プロパガンダは相当なダメージを受けた様子で、暫し沈黙が流れた。 「どうやら…覚悟は本物のようだね…」 プロパガンダは立ち上がり、そう言った。 「戦っていて分かった。貴方の巨大なバリアも、俺のバスターを上空に逃がしている事も、 人気の無い場所へ誘導している事も、皆守るべきもののための事だと… やはり貴方は悪に染まっていない…ロードキングダムに屈服してなんかいないんだ…! もう一度言う。力を貸して頂けないだろうか」 「それを直ぐに見抜いた君も中々だ…良し、私でよければ力になろう」 「ご協力感謝する」 ハンターに力を貸すと明言したプロパガンダにエックスは頭を下げた。 「そう言えばリュミエール君もここに来ているようだね。 前会ったときはそれぞれの道を行く事にしたが、今回は他人事じゃ無くなってしまったね。 彼の『感情操作』については私も思う事があるんだ。 また会ったときは前より真剣に話し合う必要があるかもしれないな…」 プロパガンダは困惑気味にそう言った。 「…」 少しでもマインドコンタクトに頼ってもいいと考えたエックスは気まずそうに頷いていた。 そこへゼロが現れた。 「どうやら話つけたようだな、信じていたぜ! さて、カーネルとリュミエールの所にでも行くか?」 そして合流した三人はリュミエールとカーネルが向かった先に足を進めて行った。 一方で、リュミエールとカーネルの目の前には真っ黒な砂の砂漠が広がっていた。 「これは砂鉄ですね。という事はここの隊長は…」 「!!」 リュミエールが隊長の名前を言い終える前に突如砂鉄の砂嵐が発生した。 「何が起こった!?」 やがて視界が晴れるとカーネルの目の前からリュミエールがいなくなっていた。 「どこだ、リュミエール!?」 辺りを見回すカーネルの前に現れたのは…

第十六話「反逆」

突如リュミエールが姿を消したかと思うとカーネル目の前には キャラピラ付きの自動電気椅子、空中を浮遊し真下に雷を落とすメカニロイドを始め とてつもない数のメカニロイドの大群が現れた。 今までのロードキングダムの部隊でもメカニロイドはいないわけではなかったが、 正規兵や宇宙人のおまけに過ぎなかった。 しかしここではメカニロイドはそれらの常識を覆すぐらい溢れ返らんばかりに存在していた。 「随分多いな…しかし私は立ち止っている暇はない。道を開けてもらおう!!」 カーネルはメカニロイドの大群に挑む。 その頃リュミエールの前にはここの隊長の八神将で長身痩躯の虫、 改めサソリのようなレプリロイドが立ちはだかっていた。 「やっと会えたか…あんたには本当に世話になったが同時にいつも疑問に思う事があった… 考えてみた結果俺とあんたはやっぱり相容れねぇ… これから決着をつけてやりてぇところだが、一つ確認してぇ事がある…」 「何ですか、スコルピーさん」 依然強く輝く瞳で尋ねるリュミエールにスコルピーと呼ばれたレプリロイドは応じた。 「あんたが『強制収容所』に送り込んだ連中はどうしても感情操作する必要があったのか? ありのままのあいつらはどう考えても汚物同然の存在だったのか?」 これにリュミエールはキッパリと応える。 「その通りです。彼等は本来の人格のままだと他者を傷つけることしか出来ませんので。 それにそう判断するのは僕の主観ではなくちゃんとデータに基づいている故のことなのですよ」 それを聞いたスコルピーは激昂した。 「これで決まりだな、この分からず屋が! データやら検査やらであいつらの事を何から何まで知ったような気になりやがって! 気に入らねぇ!俺はあんたがマジで気にいらねぇ!! あいつらが収容所でどんな面を見せたか知っているのか!?」 「彼等の事でしょう。命乞いをするか 反省もせず貴方達に対しただ恨みや恐怖しか感じなかったでしょうね」 「やっぱりあんたは何も分かっちゃいねぇ! あいつらだってなぁ、あんたが良しとしたものをちゃんと持っていたんだよーっ!」 スコルピーは絶対神から確かにマインドコンタクトを授かったが 感情操作を嫌っていたためその目的では使わず情報の伝達ののみに使用していた。 そしてスコルピーはマインドコンタクトでリュミエールに伝える。 自らの過去とその思いを。 それはリュミエールがマインドコンタクトを発明する前ではあるが、 政治の実権を掌握し、世論操作も出来るようになっていた時の事だった。 リュミエールはセイントサンクチュアリの住民の内、 法で裁ける犯罪者や迷惑者を大きく分けて三種類の施設に隔離していた。 一番刑が軽いのは要注意人物隔離施設。 この施設には犯罪にはならないものの暴力、障害、意地の悪さ、卑猥さ、 奇天烈さなどが目立つ者や軽犯罪者が収容されていた。 そこでは面会を除き受刑者に世間との関わりを禁止し、軟禁状態にしつつ更生を促した。 受刑者は人間やレプリロイドとしての尊厳は一通り認められ、 施設内では比較的自由に振舞う事が出来た。 この施設は教育の場でもあり、グレイシャアが考案した様々な教育カリキュラムが 年齢問わず受刑者に実施された。 また罪状に応じて刑期が定められるが、刑期が過ぎても更生が認められなかったり、 危険性が消失するまでは出る事は出来ない。 しかし職員の真摯な努力により大多数は刑期満了と共に出所出来た。 中間の位置に存在するのが刑務所。 よほどの極悪人を除く犯罪者はここに収監された。 ここでは人間・レプリロイドの尊厳は必要最低限認められ、 暴力も止むを得ない場合を除き無かったものの罵倒を始めとする 精神攻撃は往々にしてあった。 要注意人物隔離施設と同様刑期が満了しても更生するか無害になるかしないと出られないが、 刑期満了と同時に出られる者も少なくなかった。 なお、これら2つの施設の職員ではロードキングダムに入った者はほとんどいない。 そして本当の極悪人が放り込まれるのが強制収容所。 重大な罪を犯し、且つあらゆる観点から見て酌量の余地も更生の見込みもないと 断定された者のみがこの施設に収監された。 そこでは人間・レプリロイドの全ての人権が奪われ、受刑者は完全に汚物扱いされた。 施設内では受刑者に対しおぞましい拷問や処刑が行われ日々断末魔の叫びが響き渡っていた。 あまりにも酷過ぎるためこの施設の存在は公になっていなかった。 収容所は受刑者に応じ「成人犯罪者」「少年犯罪者」「異常犯罪者」の3つの担当グループに分かれていた。 後に八神将になりフラン星の部隊を率いる事になるマグネサンド・スコルピーは 強制収容所の二人いる副所長の片割れにして成人犯罪者担当長官だった。 「ヒィィィィィィお許しをぉ〜!!!」 「怖がる子供を殺しておいて助かりてぇと思うテメーの虫の良さが気に入らねぇ!」 「ギャーッ!!!!!」 スコルピーは日々、受刑者達を両腕の鋏で切り刻んだり尾の針で刺したり、 自らの操る砂鉄で押しつぶしたりして処刑又は拷問を行ってきた。 元々彼はその短気で凶暴な性格ゆえ周囲から孤立していたが ある日リュミエールにセイントサンクチュアリの力になるよう誘われ、 この現場を任されたのだった。 「テメーは卑屈さが気に入らねぇ!テメーは顔つきが気に入らねぇ! テメーは存在そのものが気に入らねぇんだよーっ!!」 憤るスコルピーは受刑者をいたぶり尽くす。 「グハアアアア!!!!!!」 「う…うぅ…」 その様はあまりに荒々しく後にロードキングダム正規兵となる彼の部下でさえ 恐れおののいた。 スコルピーは誰からも好かれていなかった。 その性格ゆえ部下からは敬遠され、後の八神将やディザストールからも煙たがられ、 アブレイズは己より遥かに弱いスコルピーには無関心で、 自分を認めてくれたリュミエールとは飽くまで利害の一致での繋がりで一般人は彼の存在さえ知らない。 リュミエール以上に彼を評価してくれたのはグレイシャアだが そのグレイシャアとて彼を強制収容所という「舞台」に合った「役者」としか見ていなかった。 それに半ば妥協しつつも苛立っていたスコルピーはその日もまた受刑者達で鬱憤を晴らさせていた。 しかしスコルピーはそこで信じがたいものを見た。 「こいつらの代わりに、俺を殺れ!」 受刑者達に拷問を加えていたスコルピーにその受刑者達の親分だった受刑者が言い放った。 「何だぁ!?テメー子分がそんなに可愛いか? そういう感情があんだったらなぁ、ここに来るような事をやるんじゃ…ねぇ!!」 そう言ってスコルピーはその元親分を切り刻み、滅多刺しにして処刑してしまった。 すると彼の子分だった者達が泣き崩れた。 「親分ーっ!俺達の為にわざわざ…畜生!よくも親分を!」 「やめろ、わざわざ死に急ぐ事は無ぇ!」 「だけどよ…!だけどよ…!」 子分達が揉めているとスコルピーは彼等に対しても立ち向かっていった。 「今度は親分思いかよ…だったら一思いに親分の所に行かせてやるぜ!」 「グアアアアアアア!!!!!」 猛り狂ったスコルピーは子分達も斬り殺し、刺し殺していった。 その様子は凄まじく一般看守が屋外に避難するほどだった。 一通り処刑が終わるとスコルピーは白けた気分になると共に一握りの疑問を胸に抱くようになった。 それからというもののこういう事態はしばしば起こった。 処刑を目前に控えた受刑者はスコルピーにこう囁いた。 「とうとう私も最期の時ですか。看守さん、私を処刑したら娑婆にいる子供達に伝えてください。 こんな馬鹿な親父にはなるな、と…」 「うるせえ!知らねーよ!」 スコルピーは怒り、この受刑者を処刑した。 さらに彼等のような受刑者がスコルピーの元へ送り込まれていく。 「父さん、母さん…先に逝く俺を許してくれ…」 「今行きます、組長…」 「相棒よ、逃げて逃げて逃げ続けろ…こんな所に放り込まれるんじゃねぇぜ…」 「俺は後悔していない…仇を討ったんだから…」 今わの際に大切な者の名を叫ぶ者、 目の前で仲間が傷つけられスコルピーや看守に立ち向かっていく者… そしてそんな者に勇気付けられ、彼等に続く者… 彼等には確かに自分がやった事に反省は無く、世間への考えも変わらない者が多かったが 同時にはみ出し者同士ならではの絆を見せる事があったのだ。 「テメーらゴミクズじゃねーのかよ!?救えねー存在じゃねーのかよ!?」 これに対しスコルピーは自らの行為や彼等自身に対する 疑問から来る苛立ちを余すことなく爆発させた。 従来以上に凶暴に暴れ狂い、益々部下との距離も広げていく。 そうこうしているとある日の事、リュミエールがマインドコンタクトの前身となる装置を発明し、 まずは強制収容所に持ち込み死刑囚で実施することとなった。 装置は椅子の形をしており、大型だった。 「いよいよですな…我々の新たなる前進の時が…」 リュミエールの傍らにいたランバートが言う。 強制収容所にはリュミエールとランバートを始め、後のロードキングダム構成員や 当時の政界の中心人物達や科学者達が集っていた。 彼等は皆冷ややかな目で死刑囚を見ている。 「まさか本当に感情を操るとかいうアレを実行する気なのか!?」 「これは多数決で決まったことですし、貴方の為でもあるのですよ。 貴方の部下から『受刑者の態度が原因でスコルピー副所長が荒れ狂っている』 という連絡がありました。 成功すれば受刑者が問題を起こす態度は取らなくなるでしょう」 尋ねるスコルピーにリュミエールはそう答える。 この時既に世論は感情操作を受け入れる姿勢を示し、スコルピーもそれを知っていたが 賛成はしていなかった。 そして看守が無理矢理死刑囚達を装置に固定した。 「やめろーっ!何する気だーっ!!」 抵抗する死刑囚達をよそにリュミエールはスイッチを押した。 すると次の瞬間… 「俺達は過ちを侵したんだ。罰を受けて当然だ…」 死刑囚達は反省の態度を示した。 「その言葉を待っておりました。では僕が指差す先に絞首台がありますので順番にどうぞ」 リュミエールの指示通り死刑囚達は一人ずつ迷いのない足取りで絞首台に昇り、 時間のロスも無く自ら首をくくっていった。 「…」 リュミエールはやや辛そうにその様子を見て、しばらくするとこう言った。 「成功ですね。次は死刑囚以外の受刑者です」 そしてまたしても成功を収めたリュミエール達は次は刑務所の受刑者にそれを行うべく 強制収容所を後にした。 装置で改心させられた強制収容所の受刑者達は長い刑期を設けられ それまでスコルピーを含む職員達が面倒をみる事となった。 受刑者達は既に態度を改め、スコルピーを困らせたような態度は取らなくなった。 「俺も罰を受けて当然ですし、ここにいる俺の仲間も同様です。 どんな罰も受けましょう」 「俺達はゴミクズで汚物です。仲間達もそうです。 なので今更どうされようが文句を言えた立場じゃありません」 そんな彼等に対しスコルピーはつぶやいた。 「釈然としねぇ…こんなんで良かったのかよ…」 受刑者達は既に自分自身や強制収容所に収監された自分の仲間達を 何をされてもいい軽い存在と見なし、今までほど大事に思わないようになっていたのだ。 スコルピーは受刑者達が自らの立場を自覚した一方で 何か大切なものを無くした事に対し複雑な思いを抱えた。 その後スコルピーは疑問を抱きつつも白けた気分で受刑者達の面倒を見続けた。 「まぁ副所長が大人しくなってくれりゃ万々歳だな」 看守達はあっさり納得してその後の業務を遂行した。 その一方リュミエール達は感情操作装置に改良を加えていき、装置は小型化し性能は向上し、 遂にはリュミエール自体が感情操作装置になった。 やがてリュミエールはどこにも収監されていない民間人の感情まで操作するようになっていった。 さらに時が経つとフォースメタルで出来た惑星にて現ロードキングダムの正規兵以上の構成員が 一斉にリュミエールを裏切り、一度目の勝利を収めた。 この時リュミエールの反応が消えたのでこの場にいた者はリュミエールの死を確信した。 絶対神はスコルピーに告げる。 「スコルピーヨ…ウヌガリュミエールニ不満ヲ抱イテイタ事ハ見抜イテオッタワ。 余ハアリノママノウヌヲ受ケ入レヨウ。付イテクルガイイ…ウヒャッウヒャッウヒャッ!」 程なくしてロードキングダムが宇宙の中心領域を制圧すると スコルピーはコズミックヴァンガード出身者を率いる部隊の隊長に任命され、 プロパガンダと出会った。 プロパガンダを十使徒に加えて数日たった日の事だった。 元コズミックヴァンガードの兵士の中にドルフ星人が交じっている事を知ったスコルピーは それまで自分が抱いていた疑問をプロパガンダにぶつけた。 「何故ドルフ星人がここにいる!?宿敵じゃなかったのかよ!?」 「良いだろう。その経緯を話すとしよう。 実は私も最初ドルフ星人の大虐殺に加担していたんだよ…」 「何だと!?」 驚愕するスコルピーにプロパガンダはドルフ星人の一部が仲間になるまでの経緯を話した。 コズミックヴァンガードの鉄則の一つでドルフ星人だけは 決して許してはならないというものがあり、これはウォーレスの代まで貫かれていた。 当時のリーダー、ウォーレスはかなりの人数のドルフ星人を殺したが それでも戦争が衰える気配が無かったので終戦を目指してプロパガンダを開発した。 初期はプロパガンダはウォーレスの期待通りに動いた。 彼は生みの親のウォーレスを慕っていたし、ドルフエンパイア側であろうが ドルフ星人以外に対しては深い慈愛の精神を示し 一方でドルフ星人には大量虐殺行為を任務と割り切り遂行していた。 しかし戦っている内にドルフ星人が仲間への想いを示したのを機に 彼の心に疑問が芽生え始める。 やがては彼はドルフ星人も含めて救いたいと思うようになりウォーレスにそれを伝えた。 最初は反対したウォーレスだったが改造手術に屈しなかったプロパガンダの考えを受け入れ 現役を退いたというのだ。 「俺は何て事を…!プロパガンダと比べたら俺は…!俺は…! 気に入らねぇ!ただ暴れることしか出来なかった自分が気に入らねぇ!」 「ここまで来るのに私は体にも心にも幾度となく傷を負ってきたが 気力と支えてくれる仲間のおかげでなんとかやってきた。 大丈夫。まだ出来る事はある筈だよ。君もまだ生きているじゃないか」 後悔の念に打ちひしがれたスコルピーをプロパガンダはそっと励ました。 その後プロパガンダの力もありスコルピーを受け入れる 元コズミックヴァンガードの兵士は少しずつだが増えていった。 同時にスコルピーはロードキングダムのやり方にも疑問を抱くようになった。 そんな中リュミエールがフラン星に向かった事を知ったスコルピーは かつての恩人でロードキングダムと戦う意志のあるリュミエールと 戦うか話し合うかでも悩んでいたのだった。 「分かるか?世間とか社会に対しての行為や態度だけがあいつらの全てじゃねぇんだ! ビルも!マイケルも!ジェームズも!ヘンリーも! 皆皆あんたが求めていたものを持っていたんだ…!!!」 時は現代に戻り、スコルピーは自らが殺めた主だったレプリロイド死刑囚の名を叫ぶ。 これにリュミエールは返した。 「誰かを大切に想う気持ち自体は確かに価値あるものです。 しかし逆に誰かに危害を加えたいという意志は正当性でもない限り全くの無価値です。 ですから僕はそういう意思を消すことで皆さんを救おうとしているのですよ」 「これ以上言葉はいらねぇようだな!今度こそ決着をつけてやる! あんたと、そして過去の俺とのな!!」 両者は互いに睨み合い、一気に間合いを詰めた。 最初にスコルピーが両腕の鋏でリュミエールの胴体を挟む。 この鋏は極めて硬く鋭利で、挟む速さも力も驚異的である。 しかしリュミエールの体には浅く刺さったものの中々食い込んでいかない。 「く…予想以上の硬さだ!」 スコルピーが尾の針を構えると既にリュミエールはヴァーチュズ・フォーカスを スコルピーの胴体に喰らわせていた。 「畜生め!」 スコルピーは一気に距離を取った。 「ヴァーチュズ・フォーカスではこの程度ですか…」 スコルピーもまた頑強で胴体の装甲の一部が焼損しているだけだった。 パワーズ・アーツではさらに小さなダメージしか与えられないと判断したリュミエールは 一気に上空へと飛びあがりドミニオンズ・ティアを発射しようとした。 しかし… 「マグネットストーム!」 スコルピーは足元に大量の砂鉄を噴射し一気に周囲の足場をせり上げ、 リュミエールの高さに到達した。 そして技発動中で一瞬だが隙の出来たリュミエールを地面に叩き落とした。 スコルピーはすかさず地面に飛び降りリュミエールを抑えつけた。 「俺が死刑囚達にやった処刑法の1つを喰らえ!」 そう言ってスコルピーはリュミエールを押さえつけていない側の鋏の隙間から リュミエールの口目がけて多量の砂鉄を噴射してきた。 これを喰らった死刑囚は体が内部から破裂して死亡してきた。 「ケホッ…ペッ!」 しかしリュミエールは口の中に入った砂鉄を光のエネルギーを纏わせて吐きつけた。 「ぬおっ!?」 頭を横に反らし辛くも避けたスコルピーだったがその隙に パワーズ・アーツを発動して光る両足でスコルピーを蹴りつけ、 またしても両者の距離が広がった。 その後も両腕の凄まじい力と速さ・技術が織りなす熾烈を極めた攻防戦が展開された。 砂鉄や鋏、針を操りながらスコルピーは力の限り叫ぶ。 「あんたは確かに皆に多くのものを与えてきたが、同時に同じだけのものを…奪った! 世の中に生きる奴はあんたを除いて皆ありのままに生きちゃいけねぇってのか!? 見たいものを見て言いてぇ事を言うのがそんなに悪いのか!? 感じたいように感じちゃいけねぇって言うのかーっ!!!! 馬鹿にするな!俺達を…あんた以外の存在全てを馬鹿にするなぁーーーっ!!!」 パワーズ・アーツ、ヴァーチュズ・フォーカス、ドミニオンズ・ティアで応戦しながら リュミエールもその思いをぶつける。 「僕が皆さんの感情を操作するのは地球を…そこに生きる者を救いたいからです。 感情操作をしなければ人間やレプリロイドは道に迷う… 僕はそんな彼らに正しき道を示しているのですよ。 それは地球と皆さんを愛しているからです。 何が悪いのです!?愛する者の為を想って何が悪いのです!?」 攻撃を強めたスコルピーの声が響く。 「うるせぇ!プロパガンダはそんな事をしなかった! 奴は少なからず宿敵のドルフ星人とも絆を深めたし 俺にも何も影響を与えなかったとは思えねぇ!」 「彼は特別です!それに彼のような人物は地球を救うには少なすぎるのが現実です! そもそも不器用な貴方が彼のようになれますか? 僕でさえ言葉や態度だけでは説得出来ない方は数多くいます! だから僕は自分で出来る事で皆さんを救いたい… 地球に沢山いる危険や困難に脆い方々を僕は見過ごしません!」 リュミエールもそう叫びを上げつつ応戦し、戦いはエスカレートしていく。 そのころエックス、ゼロ、プロパガンダは… 「何だこのメカニロイドの大群は…あ、カーネル!」 エックス達はメカニロイド達と戦うカーネルの姿を確認した。 「おお、エックスにゼロ!…とそこにいるのはプロパガンダだな」 「如何にも。積もる話は後にして今は共にこのメカニロイドとやらを片付けさせてもらおう」 「事情はよく分からぬが恩に着る!」 カーネルもかつてプロパガンダの外見をリュミエールのマインドコンタクトを介して見ており、 今まで聞いた話もありここはプロパガンダを信用する事にした。 こうして三人はカーネルに加征した。 「この部隊の主力はメカニロイドなのか?さっきの正規兵より明らかに多いぞ」 「多少の正規兵が欠けてもこいつらがいるって訳か。ここの隊長の人望は高が知れてるな」 エックスとゼロが言うようにこの部隊のメカニロイド率の高さは隊長スコルピーの 仁徳の無さを物語っていた。 その時エックス達は突然地響きを感じると共に遠くの地形が変形していき、 何かの形を成そうとしているのを見た。 「何だあれは!?」 「よそ見すんな!まだ来るぞ!」 一瞬気を取られたエックスにゼロが注意を促す。 変形する地形の正体はスコルピーの操る砂鉄だった。 砂鉄はスコルピーの周囲からせり上がり、巨大なサソリの形状に変化した。 「マグネット・アームズだ!」 砂鉄で出来た巨大サソリの頭部から顔を覗かせたスコルピーが技の名を言う。 この状態では砂鉄の巨大サソリがスコルピーの体の操作系統通りに動き、 巨体を自由自在に操りリュミエールを押し潰そうとしてきた。 一方でリュミエールはドミニオンズ・ティアの連続使用で体に負担がかかり、 動きが鈍ってもろに砂鉄の豪腕の直撃を受けてしまう。 只でさえ多量の砂鉄がリュミエールの体にのしかかるが さらにスコルピーが力を加えているのでリュミエールはじわじわとダメージを受けていく。 それでもリュミエールは諦めなかった。 この状況から脱出しスコルピーも倒すにはドミニオンズ・ティア以上の負担が体にかかる 上位技を使うしか方法が無いと判断したリュミエールは 両方の手のひらを全開にした。 「僕は地球の皆さんの為に、勝つ!スローンズ・ブレイザー!!!」 この技は手のひらから放射状の極太レーザーを出す技で方向は手のひらを向けた向きに従い、 両手を近接させていれば2つのレーザーが1つになり威力が増す。 辛うじてレーザーを1つにしたリュミエールは巨大サソリを更生する砂鉄を消滅させ、 中にいるスコルピーにも決定的ダメージを与えた。 リュミエールも体への負担が大きかったがそれ以上にスコルピーのダメージが大きく、 スコルピーは地に落ち倒れ伏した。 その頃エックス達はメカニロイドを全滅させていた。 「何だったんだ今のバカデカいサソリは…」 ゼロが改めて巨大サソリの事を気にするとエイリアから通信が入った。 「リュミエールの反応がその場所にあるわ」 それを聞いた四人がリュミエールの元へ向かおうとすると後ろから足音がし、 見ると数人の人影があった。 「何故貴方達がここに!?」 驚く四人だったがここは彼等と合流する事にした。 「俺はここまでのようだな…さあ止めを刺しやがれ! あんたが勝っても、絶対神が勝っても皆が自由に生きる事は出来なくなっちまう… そんな時代が来るまで俺は自分の意思を少しでも長く貫きたかった… 俺は最後の最後まで抵抗してやったぞ… プロパガンダ、すまねぇ…後を頼む!」 「随分潔いですね…さようなら」 自分もまた息絶え絶えのリュミエールが拳に光を集めた時だった。 「やめてくれ、リュミエール君!」 「!」 リュミエールが振り向くとそこにいたのはハンター達、プロパガンダ、ウォーレス、 元コズミックヴァンガード兵士数名だった。 その中にはドルフ星人も含まれていた。 「プロパガンダさん…!ハンターの皆様も… 一体何のつもりです!?彼はロードキングダムの八神将なんですよ!?」 リュミエールにコズミックヴァンガードの兵士達が応える。 「確かにそうだがこの人は違う!今じゃ俺達と共に歩む仲間の一人だ!」 「組織に籍を置きつつも我々が本来の心を持っていられるように 努力しているのはプロパガンダさんとこの人だけです!」 さらにはドルフ星人も頭を下げた。 「ボウズ、俺からも頼む!この人は無茶苦茶やりやがるロードキングダムに対しての 大きな希望の1つなんだ…!」 ウォーレスも続いた。 「ワシからも頼む。これ以上息子の大事な者同士が 争うのはワシにとっても勘弁してほしいのじゃよ…」 リュミエールは彼等に言う。 「ここは危険ですから貴方達は避難してください」 しかし誰一人として立ち去ろうとしない。 これに瀕死のスコルピーは激昂した。 「お前等何でわざわざこんな所に来た! 俺はこいつが言うように危険な存在なんだぞ! やっぱりお前等気に入らねぇ!俺なんかのために体を張るお前等が気に入らねぇ…!! どっかに…行きやがれ!!」 するとプロパガンダはスコルピーに語る。 「『なんか』なんて事はないさ。君は充分に変わって 懸命にやり直そうとしているじゃないか。 少なくともここの人々はそんな君しか知らないよ」 さらにゼロ、エックス、カーネルも続いた。 「、だそうだ。プロパガンダやウォーレスの爺さんの手前もあるが 俺個人としてもこのままこいつを切り捨てちまうのは気に食わんな。 そもそも『八神将と十使徒を倒せ』と言ったのはお前だが 俺はお前の部下になった覚えはねーぜ」 「今の俺はマインドコンタクト抜きで敵と分かり合える可能性の方に懸けたいんだ…!」 「私はかつて『余計な感情』で過ちを犯した者だが敢えてその立場から言わせてもらおう。 彼の存在を受け入れてはくれぬか?」 「(…ドクン!)」 その時リュミエールに失われていた「悩み」の感情が再び芽生え始めた。 「(今の僕は只でさえゼロさんには力が及ばない上にしかも手負い… 戦いを挑むなら不利過ぎる状況ですね… 感情を操作できそうなのはウォーレスさんやプロパガンダさん除く彼の仲間ぐらい… しかしそれはプロパガンダさんの意志に大いに反するからとても出来ない… プロパガンダさんが認めた方に手をかけるのも避けたい… しかしここで退くわけにも…いきません!) …ならば間を取ってこうしましょう。 『ケルビム・ジャッジメント』を使います」 するとスコルピーが返した。 「俺を試すのか…」 「どういう事だね、リュミエール君?」 プロパガンダがリュミエールに尋ね、リュミエールが応える。 「今から見せる技は通常状態の僕の最強技ですが これは技の威力と使う相手の心の波長がリンクしております。 『悪の心』が強い者にはダメージを与えますが 逆にその相手の悪の心が必要な『限度』に達していなければ全く効きません。 技の威力と相手の悪の心の強さは反比例し、威力が高くなるほど通用する相手が減ります。 認めたくありませんが今の僕は精神状態が不安定ですので敢えてこれを使いましょう」 リュミエールの表情は今までに見せた事の無い困惑した表情だった。 「…」 ウォーレスはかつてプロパガンダに人格を改造する試練を与えた事を思い出した。 「いいぜ、受けてやろうじゃないかその試練!だけどあんたの体は持つのかよ!?」 スコルピーの問いかけにリュミエールは応じる。 「僕はこの戦いのためには体を張っているんですよ。 しかも『死ぬ覚悟』ならぬ『死なない覚悟』で戦いに臨んでいます。 この技を使ったぐらいで滅ぶ体ではありません。 威力は貴方が本当に変わったかどうか分かる程度に調節します。 ではいきましょう…」 リュミエールは宙に浮き、両腕を大きく真っ直ぐに広げて十字架のポーズを取った。 その直後リュミエールの全身が光に包まれた。 「ケルビム・ジャッジメント!!」 リュミエールの体から断面が十字架の形をしたビームが発射され、 スコルピーに直撃した。 「!!!!!」 辺り一面を閃光が照らす。 光が収まるころには何事もなかったかのように立っているスコルピーがそこにいた。 「信じていたぞスコルピー君!」 プロパガンダやウォーレス、コズミックヴァンガードの兵士達が喜ぶ。 「この威力で何ともなかった…というなら…貴方を受け入れてもいい…よう…ですね…」 そう言うとリュミエールは落下した。 「リュミエール、大丈夫か!?」 エックス達が駆け寄る。 「無茶しやがって、気に入らねぇなあ」 スコルピーがつぶやく。 数分後リュミエールは何とか立てるぐらいまで回復した。 「今回の戦いでは貴方を受け入れる事にしましたが感情操作に関する議論はまた後ほどにしましょう」 「何だよ、先延ばしかよ。けどロードキングダムも早く何とかしなきゃならねぇしなあ」 一方でウォーレスはプロパガンダを見送る事にした。 「フラン星はワシに任せて言っておいで。お前からは教わる事ばかりじゃのう」 「それでは言ってきます。星を宜しくお願いします、父上」 プロパガンダ、そしてスコルピーをも伴ったハンター達が宇宙船に向かおうとした時… 突如上空にエアディスプレイが浮かび上がった。 「良いムードの所を失礼する」 宙に浮かぶ巨大な画面にディザストールが映し出されていた。 「ディザストール…!」 スコルピーは憎々しげに言う。 「貴様等が裏切る事も予想の範疇だし、あの御方にとってはそんな事は些細な事でしかないのだ。 スコルピーよ、これで敵として貴様を処罰出来るわけだが その前に八神将では誰と誰が残ってるか知らぬわけではあるまいな…!?」 「あいつらか…!」 スコルピーは植物型レプリロイドと巨大レプリロイドの事を思い出し、戦慄する。 「プロパガンダよ、十使徒では誰と誰が残っているのかな…? 奴等がスコルピーや一部のドルフ星人みたいに貴様に手なずけられるかな?」 ディザストールの問いにプロパガンダは答えた。 「共に生きる事だけが分かり合う事ではないし、彼等が仲間を、 宇宙を傷つけるなら戦い抜くまでだ! いずれ彼等とは決着を付けなければならないが故、 あらゆる現実と運命を受け入れる覚悟はとうに出来ている!」 一方でドルフ星人は怯えていた。 「俺がここに来たのは奴等…ディクテイテスとプランダラの手から逃れるためだ… 奴等はヤバい…本当にヤバい…」 「仲間を増やしたのは正解だったな…」 エックスは固唾を飲む。 「敵がどんなにヤバかろうが叩き斬ってやるぜ!」 ゼロは啖呵を切る。 「まぁ精々頑張る事だ、リュミエール、そしてその下僕共よ…」 ディザストールはそう言い残し、エアディスプレイが消えた。 「俺達は下僕じゃねぇ!」 ゼロが空に向かってそう怒りの声を上げる中、リュミエールは何か考えていた。 「(絶対神は、ディザストールさんじゃない!? スコルピーさんの記憶の中の絶対神は装置越しで声さえ変えられてるけど 明らかにディザストールさんの口調とは違いますね… しかもあの口調からは懐かしささえ感じる… そして何故か思い出してはいけないような事も… 一体どういう事でしょうか?)」 リュミエールの中には悩みの感情と共に、絶対神の記憶も蘇ろうとしていた。 こうして新たに仲間を二人加えた一行は今度こそ宇宙船に乗りこみフラン星を後にした。 次の舞台は元ドルフエンパイアの本拠地のドルフ星…

第十七話「エイリアンVSエイリアン―ザ・ワーストウォーズ―」

かつて宇宙の中心領域で起こっていた大戦争の発端となったドルフ星人。 それは地球の生物が持つあらゆる利点と地球人の基準で言う乱暴で好戦的、 かつ残虐で身勝手な性格を兼ね備えた存在だった。 猛獣の如き牙と爪と凶暴性、大型草食獣の如き巨体、ゴキブリや植物にも勝る生命力、 下等な動物並の繁殖力を兼ね備えた動物が進化して 地球人を超える知能も身に付けたのが今のドルフ星人だ。 知能と科学力を身に付けたドルフ星人は死ぬ確率がさらに低くなり 他の種の生物や環境も省みず急激に増殖し、自分達の星を占領し尽くし破壊し尽くした結果、 種族全体をドルフエンパイアという国家として宇宙に乗り出して他の星を侵略して回った。 その影響でコズミックヴァンガードが発足し、宇宙の中心領域は戦火に包まれた。 ドルフエンパイアは戦争が勃発して以来さらにその独裁性を増長していき、 今の代のドルフエンパイア君主、ディクテイテスはそれが最も顕著であると言われている。 「というわけなんだがディクテイテスも実は君達の言う『レプリアン』なんだ。 最強の宇宙海賊プランダラもね。 それがロードキングダムが我々に目を付けた理由の1つとも言えるだろう」 ハンター達と合流したプロパガンダはドルフエンパイア発足の経緯の概要を話した後、 ディクテイテスとプランダラがレプリアンである事を付けくわえた。 「何だって!?どういう事なんだ?」 「宇宙の中心領域のリーダーは何だってレプリアンばっかなのさ?」 エックスとアクセルがそれぞれ訊いた。 プロパガンダはそれに応える。 「私は人間である父上からリーダーの地位を譲り受けたものだし、 プランダラは元の種族も出身も一切関係ない宇宙海賊だから 力も頭も秀でた彼が台頭するのは自然な流れだった。 しかしディクテイテスだけは違った。 彼は力で今の地位を奪い取ったんだよ」 プロパガンダによるとディクテイテスは政権を強奪して今の地位に納まったというのだ。 それは彼が造られた理由と元々のドルフ星人の気性に起因していた。 科学が進歩しロボット兵器が出てくるようになるとドルフ星人は そのロボット達に対しより支配感に浸れるよう心を持たせたのだった。 後にレプリアンと命名される事になるそのロボット達は力も頭も生身のドルフ星人を上回っていたが 主君であるドルフ星人に逆らえないようなあらゆる手段を講じられたので、 奴隷や牛馬の如くこき使われてきた。 しかもドルフ星人以外の種族の地位を彼等の下に配置されたため、 それらの種族で憂さ晴らしすることを余儀なくされた。 時が進むとドルフエンパイアにとって脅威となる男、ウォーレスが現れた。 彼に対抗するため飽くまでロボット部隊の隊長としてディクテイテスが開発された。 ディクテイテスは戦闘力のみならず今までの戦争のデータがインプットされ、 さらには性格もドルフ星人の特徴を色濃くして造られたのだった。 それが逆に災いすることとなった。 ディクテイテスは最初にあの手この手でドルフ星人達を騙して自分達の立場を有利にした後、 堂々とレプリアンを率いてクーデターを起こし、ドルフ星人をも自らの下に配して 自分は新たなる王朝を立ち上げたのだった。 「何という事だ…!地球で起こった事件と変わらないじゃないか…!」 この事実を知ったエックスは他人事の気がせず、嘆き悲しんだ。 「ロードキングダムの中でもあそこまでロボット至上主義を掲げるのはディクテイテスぐらいだろう。 事実として彼が配属された部隊では『人間』はレプリアンの下に配置されてるからね。 さらにその『人間』にも出身や特徴によって階級を設けているから始末が悪い。 最下層の種族は力も頭も他に譲り体も虚弱体質だけど その種族だって小動物を虐待して憂さ晴らししているのが 今のドルフ星の現状だよ」 「…胸糞悪ぃ星だな」 ゼロが呟いた。 「おまけにドルフ星人は『力が全て』と言って自分達より強い奴にはへーこら付いていくからな、 ロードキングダムに負けたからそのまま尻尾振って付いてっちまったわけだ。 ドルフ星を任された八神将はメルト・フライーターと言って相当な鬼畜だが そいつがどんな奴だろうと力があれば奴等にはお構いなしだ…気に入らねぇ奴等だぜ!」 我が強く反骨精神のあるスコルピーも吐き捨てるように言った。 彼はディクテイテスに対し元の国家に反逆して君主の地位についていた事は評価していたが フライーターに何もかも服従する姿勢は気に食わなかったようだ。 「…そうだ、私達の星を解放してくれた礼と言っては何だがこれを皆にあげたいのだが。 これからの闘いに是非とも役立てて欲しいんだ」 そう言ってプロパガンダは光輝く結晶体を出した。 「これはパワークリスタルと言ってコズミックヴァンガードが使っていた 機械全般の性能を引き上げるエネルギー体なんだ」 「そういやあたしがタヌキースから盗ったお宝にもこんなのあったねぇ。 これが沢山あればこっちも大助かりだよ。 他にもこんなのあったよ」 マリノはそう言って漆黒の結晶体を取り出した。 「これは…ディアブルジュエルじゃないか。 このディアブルジュエルはドルフエンパイアが使っていたパワーアップアイテムだ。 パワークリスタルとこれを両方所有していたのはロードキングダムの他に 宇宙海賊がいたがこれらを1つの体に併用してパワーアップに成功したレプリアンは聞いた事が無い。 これが八神将の力なのか…」 「ああ、元々超フォースメタルを装着していてさらにこの2つのアイテムも 身に付けたが何ともなかったぜ」 驚くプロパガンダにスコルピーが応える。 「とにかくこれらのパワーアップアイテムもロードキングダムが 我々やドルフエンパイアに目を付けた理由に含まれるのも確かだな」 「力を求めて争いを起こし、そのためにレプリアンが生まれて 今回の事件にも巻き込まれてしまったのか… 所詮世の中力なのか… いや、そんな事言ったら地球のイレギュラーやドルフエンパイアと変わらないじゃないか! 何かある筈だ…力に代わる方法が…」 エックスは悲しみ、そして悩んだが、直後改めて茨道を歩む決心を示した。 かくして宇宙船は次の舞台、ドルフ星に着陸した。 着陸した場所は要塞からやや離れた場所で、要塞の前には都市が広がっていた。 今回はアクセル、パレット、ダイナモ、エイリア、スコルピー、プロパガンダが出撃することになった。 彼等が目にした都市ではドルフ星人が他の種族をこき使い、その種族が さらに下位に位置する種族をこき使っている光景が繰り広げられていた。 「何だよこれ…」 酷使振りも酷かったがドルフ星人やその支配下の宇宙人の外見も 地球の基準で言えば酷いものばかりだった。 アクセルがそれに呆然とする一方都市の宇宙人達はハンター達に気付いた。 「何だ!?イレギュラーハンターとかいう奴か?」 「八神将のスコルピーと十使徒のプロパガンダもいるぞ…どういう事なんだ…」 彼等は下っ端であるためスコルピー達の裏切りは知らなかった。 反応に困る宇宙人達だったがその中からドルフ星人が一人出てきて スコルピー達に尋ねた。 「スコルピー様、お疲れ様です! 何故に貴方様達はハンターを伴ってこの星においでになったのでありますか!?」 スコルピーは応えた。 「今の俺はロードキングダムを抜けてこいつらの側に付く事にした。 プロパガンダもな。 これからここの部隊をぶっ潰しに行かせてもらうぜ」 すると宇宙人達はざわついた。 「どうする!?このまま彼等に任せるか?」 「いや、ここを通したという事で奴等が俺達を始末しに来るぞ!」 パニックになった宇宙人達に対してアクセルが言った。 「だったら安全な場所に避難させてあげるよ」 そうしてアクセル達は都市の宇宙人達を宇宙船に転送した。 「おい、こいつら戦争の当事者共じゃねぇか!?やべぇぞ!!」 宇宙船の治療室にてタヌキースが従えていた宇宙人達が驚愕した。 「いや、今となっちゃ俺達も被害者だぜ」 ドルフ星人の一人がそうつぶやいた。 一方ドルフ星では… 「よし、行こう!」 一行は要塞へ辿り着いた。 敵もそれを確認し続々と敵兵が出てきた。 敵は皆レプリアンだった。 外見はドルフ星人やその支配下の宇宙人を模したものでグロテスクなものが多かった。 「うわ出たよ!本当に気持ち悪っ!」 「でも正規兵よりは弱いはずですよ!」 アクセルとパレットがそれぞれそう言いつつ身構えていると 要塞の上に只でさえ大柄なドルフ星のレプリアンの中でもさらに 大柄な体格のレプリアンが出現した。 彼こそが元ドルフエンパイア君主にして、この部隊の十使徒のディクテイテスだった。 「ディクテイテス…!」 プロパガンダは見上げてそう叫んだ。 「プロパガンダよ…貴様が裏切った事は既に聞き及んでいる。 どうやら貴様とは戦う運命にあるようだな…! ディクテイト・メテオ!!!」 ディクテイテスはそれだけ言うといきなりハンター達に向かって隕石を降らせてきた。 これに対し隕石を壊す者もいれば避ける者もいた。 実はこれは彼による誘導作戦だった。 「これを待っていたぞ!ディクテイト・コメット!」 ハンター達が散り散りになった事を確認したディクテイテスはプロパガンダ目掛けて より大きな隕石を降らせてきた。 プロパガンダは隕石の直撃を受け、彼がいた場所には深い大穴が開いた。 「プロパガンダさん!」 驚愕するアクセルを他所に今度はディクテイテスは大穴の前に隕石を降らせて 壁を作った。 「これしきでくたばる貴様ではあるまい。 兵士たちよ、奴に手出しは無用だ! お前達は残りの敵を排除せよ!」 ディクテイテスはその直後自らも自分で開けた大穴に飛び降りた。 穴の外では残りの5人を敵のレプリアン達が取り囲んでいた。 「見た目に惑わされないでください。彼等は正規兵より弱いはずですから」 「分かってるってば!」 アクセルとパレットはレプリアン達と戦う事にした。 「かかれ!」 レプリアンが大挙して押し寄せ、アクセルとパレットがそれに応戦する一方、 スコルピーはたまたま近くにいたダイナモ、エイリアと共に 砂鉄で出来た砂嵐に乗って城壁の前に来ていた。 「おらぁ!!」 スコルピーは硬い城壁にパンチ1発で大穴を開けた。 「すごい力ね…」 「感心してる場合じゃねぇ!ここの八神将のフライーターは この中でとんでもねぇ事やらかしてんだ! 一刻も早くぶっ潰すぜ!」 そして3人は要塞へ侵入していった。 「クソ、通しちまった!」 「要塞の内部の警備はここより厳重なのによ…バカ共め!」 3人に侵入を許してしまったのを見たレプリアン達は一時的に口々に反応を示したが すぐさまアクセル、パレットとの戦いに戻った。 穴の中ではプロパガンダは勿論無事であり、 彼の目前にはディクテイテスが立ちはだかった。 「ディクテイト・バン!」 ディクテイテスは敵の近くに到達すると大爆発を起こす衝撃波を放った。 これをプロパガンダは盾とバリアで防ぎ、衝撃を周囲に逃がす。 「プロテクション・キューブ!」 プロパガンダは硬いブロックを多数出現させディクテイテスに向けて飛ばしてきた。 「ディクテイト・メテオ!」 先程の隕石で迎え撃ち、双方の攻撃が相殺された。 両者が技を出し、それに対処するたびに穴は広く、深くなっていく。 ある時、ディクテイテスは小型で球形のビットを2基召喚した。 「ディクテイト・サテラ!!」 するとビットがプロパガンダの間近に移動し、彼の周囲を 衛星の公転の如く回りながら攻撃してきた。 「ぐうう!!」 「このビットは常に貴様の周りを回転し、攻撃を続けるぞ。 盾やバリアでは防げまい。硬さも相当なものだ。 こんな状態でワシの攻撃をさばけるか!!」 しばらくビットに攻撃されつつもディクテイテスに応戦するプロパガンダだったが ある時ビットをそれぞれの手で握り動きを止めた。 「見くびるな…おおおおお!!!!!」 そのままプロパガンダはビットを握り潰してしまった。 「馬鹿な!このビットを止めて壊すとは…!」 「ヴァンガードストライク!」「ぬおっ!?」 隙が出来たディクテイテスにプロパガンダが反撃した。 それ以降も穴の中での激闘は続いた。 「お前にも同胞を想う心があるのだろう!? ならば何故我々やお前達が支配ている者の心を 頑なに理解しようとしないのだ!?」 攻撃しつつも問いかけるプロパガンダにディクテイテスは応える。 「ワシはこの宇宙で最も優れたものとして生まれてきた。 事実周りはワシより遥かに劣る奴ばかりだった。 しかしロードキングダムと出会いそれが全くの間違いだと知った。 ワシもドルフ星のレプリアンも高貴な存在故大事には想うが あの方々の為なら喜んで命を捨てる覚悟は出来ている!」 「その為に弱者を虐げ私達まで巻き込むのは許さない! 戦争の時からお前は負けたら従うと豪語していたな…! 今こそ全ての決着をつけるぞ!」 プロパガンダは平和、そして守るべき仲間への想いを込め、 ヴァンガードブレードを繰り出した。 「ゲボアアアアア!!!!!!!!!!」 ディクテイテスは体のあちこちのパーツが破壊され、動きを停止した。 プロパガンダはディクテイテスに歩み寄りこう言った。 「もう今のお前に反撃する力は残っていないだろう。 お前は勝者には従うと言っていたな。 ならばこのまま投降するんだ。 今回の敵は手強い。出来れば力を貸して欲しいのだが…」 「ふざけるな!!!!」 ディクテイテスはプロパガンダの要求を強く拒んだ。 そして直後体が光り出した。 「ワシは負けたわけでは…ないわ! その程度の力で上の方々に抗おうなど…片腹痛い! もう一度言うぞ…!ワシは負けてなどいない! 主君の為に貴様も道連れに殉ずるのだぁぁああああああ!!!!!」 「待て、はやまるな!」「聞く耳持たぬ!」 ディクテイテスの自爆を悟ったプロパガンダは直ぐに上空にエアダッシュし、 下をバリアで蓋をして一気に外へと駆け上がった。 プロパガンダが外に出ると同時に穴から光がわずかに漏れ、地響きも若干感じた。 「私には守るべき仲間がいる…ここで死ぬわけにはいかないのだよ…」 プロパガンダはそう呟き、壁になっていた隕石の山をどけた。 その向こうにはレプリアンを倒し、宇宙船に転送し終えたばかりのアクセルとパレットがいた。 「プロパガンダさん、無事だったんだね!」 「勝ったんですか?」 アクセルとパレットがそれぞれ尋ねた。 「ああ。最後まで…分かり合えなかった… こうやって最後の最後まで分かり合えなかった事は一度や二度じゃない… ディクテイテス、これから私はお前が忠誠を誓った相手に挑みに行くぞ。 お前の想いは敢えて踏み越えて行こう…」 「プロパガンダさん…」 長い間宿敵だったディクテイテスとこのような形で離別する事になったプロパガンダはどこか悲しげだった。 それを見たアクセルとパレットも同時に悲しい気分になる。 「大丈夫だ。 こんな所で立ち止っているわけにはいかないからね。先を急ごう」 かつての暴君の死で1つの時代が終わった。 しかしこれで今回の事件が解決したわけではない。 ドルフ星では彼を従えたフライーターがおり、カオス星という星では 最強の宇宙海賊プランダラとそれを従える八神将がいる。 さらにロードキングダムの本拠地では絶対神と三神帝が残っているのだ。 それを踏まえアクセル、パレット、プロパガンダも要塞に突入していった。 時はさかのぼり要塞に侵入したばかりのスコルピー、ダイナモ、エイリアは 要塞の中には宇宙植物が生い茂っているのを確認した。 「何だこりゃ」 「あいつらしいな」 ダイナモとスコルピーがそれぞれ言う中で、 宇宙植物の陰から多数の敵が出現した。

第十八話「GROWN KIDZ」

時はややさかのぼりアクセルとパレットがディクテイテスの部下のレプリアンを全滅させ、 宇宙船に転送した直後の時… 宇宙船の治療室にはドルフ星人、及びその支配下の宇宙人達に続きレプリアン達が転送されてきた。 従来なら彼等は改心するはずだったが、実は今回はそうはいかなかった。 突如として船内に警報が鳴り響いた。 それに伴い、治療室の一番近くにいたゼロが駆け付けた。 「何事だ!」 見るとレプリアン達がドルフ星人達に武器を向けつつゼロに敵意を示しつつ要求もしてきた。 「こいつらの命が惜しかったら俺達を解放しやがれ!」 「おかしいな…何で元に戻りやがらねぇんだ!?」 ゼロが疑問を示すと口々にレプリアン達は応える。 「俺達は感情を操作されてねぇんだ!ディクテイテス殿下に忠誠を誓っているからなぁ!」 「おうともよ!あの御方は奴隷だった我等を救済してくださったのだ!」 「俺達の部隊では感情操作など隊長殿がメスガキ共にご機嫌取りする時にしか使わねぇんだよ! どうせこんなチンケなクズ共が何しようが怖くもなんともないしな!」 「分かったか?俺達は根っからロードキングダムに尽くすことにしてい…ヒィィィィ!!」 レプリアン達はゼロが放つ凄まじい殺気を感じ取った。 戦いに身を置く者としての直感がフルに稼働したのだ。 「てめぇら…力には屈するそうだな… ここにロードキングダムがいるか? この状態とはいえこのまま俺に挑んでも勝ち目あるとでも思ってんのか!? グダグダ言ってると正規兵以上の奴等みたく叩き斬るぞ!!」 「ギャアアアアアア!!!!!」 レプリアン達は腰が抜けてしまった。 そこにメンテナンスを終え、体力も回復したリュミエールが現れた。 彼は一部始終を見ていたのだった。 「聞きしに勝る危険な輩ですね。 ここは念のため彼等を隔離しておくべきでしょう」 「今回ばかりはそうするしかねぇようだな…」 リュミエールの提案にゼロはしぶしぶ同意した。 その後レプリアン達は無人の宇宙戦艦に移された。 さらにドルフ星人達も危険とのことで別の無人宇宙戦艦に隔離されることとなった。 「いかがでしょうか?彼等の様な輩にも感情操作は不要ですか?」 リュミエールがゼロに尋ねる。 「それとこれとじゃ話は別だろ」 飽くまで感情操作には異議を唱えるゼロ。 この時彼はドルフ星における人間とレプリアンの確執についても複雑な想いを抱えているのだった。 その頃ドルフ星の要塞ではスコルピー、ダイナモ、エイリアが内部に侵入していた。 しばらくすると彼等の前に敵が現れた。 敵の構成は宇宙人の子供達とメカニロイドの大群だった。 宇宙人の子供達は何故か男の子ばかりで、女の子も少数いたが それはドルフ星人含む地球人の基準で言えばグロテスクな外見の種族のものだった。 メカニロイドは蝿や芋虫の形状をしたものが多かった。 「た、隊長殿の命令だ!こ、ここから先は通さないぞ!」 男の子の一人がそう叫ぶ。しかし彼の声は震えていた。 「ちょっとやりにくいけど、何とかなりそうね」 「逆に言えば手強くはなさそうな分、面倒くさいな」 エイリアとダイナモがそれぞれ言うと敵の大群の真ん中から正規兵達が出てきた。 彼等は巨大な植木鋏のような武器を持つ者やトゲに覆われた扁平な盾を持つ者、 分銅の様な形状の2つの盾を両腕で1つずつ持つ者で構成されていた。 「ここの主力は俺達だ!こいつらは飽くまでパシリよ!」 「この部隊は良い部隊だぜ!何せ行くあての無い戦災孤児共を食わせてやってんだからな!」 「テメーらは俺達の『華道』でレプリロイドの生け花にしてくれる! そんでお嬢ちゃん達にたむけてやるよ!」 正規兵達はそう言い放ち、その直後敵兵はまとめて三人に襲いかかった。 「えい!やあ!」 素手では弱い宇宙人の子供達が武器を使って果敢にエイリアを攻撃してくる。 エイリアはそれを軽くさばき彼等を転送していくがある事に気がついた。 「ゼェ…ゼェ…ゼェ…」 それは子供達が肉体の強さに対し強力すぎる武器を使っていた事、 即ち無理な負担を自分自身にかけつつ戦っている事だった。 金属製の武器は重すぎ、ビームサーベルや銃器類は出力が高すぎるので 子供達の体はそれだけでもダメージを受け続けることになる。 「何故そんな無茶をするの!?」 「こうするしか、僕達が生き残る方法は、無いんだ!それに…戦争はこんなものじゃなかったぞ!」 子供達は確かに酷使はされていたが、それでも「戦争よりマシ」と言い聞かされ、 自分たち自身もそう思いこの部隊に仕えてきたのだった。 「まともじゃないわね。こんな事しなくたって貴方達は生きていけるわよ」 しばらくしてエイリアは子供達を全員転送した。 「喰らいな!」 ダイナモが無数のDブレードを飛ばし、メカニロイドを撃破していく。 Dブレードは各々が竜巻を生じるため一瞬で大量のメカニロイドが細切れになっていった。 「俺の怖さを忘れたわけじゃねぇだろ」 スコルピーが正規兵に立ち向かう。 「怖くねぇっつったら嘘になるがよ、俺達は隊長も怖いんだ。 それに裏切り者を許す訳にはいかねぇな。覚悟しな、スコルピーさんよぉ!」 どうせ怖いなら、と言わんばかりに正規兵がスコルピーにかかってきた。 「マグネット・アームズ!」 元八神将なだけあって、スコルピーと正規兵の戦力差は歴然だった。 彼等は一瞬にしてまとめて砂鉄で押し潰され、スクラップと化してしまった。 「よし、行くぜ!」 三人は更に奥に進む。 その途中でナビゲーターのレイヤーから通信が入った。 「ここの隊長は影や闇…そういった武器や技に弱いようです」 「影とか闇と言ったらあれね」 エイリアは心当たりのある特殊武器を思い浮かべた。 「植物だから暗闇が嫌い、子供好きだから社会や大人の闇が嫌いってか?」 スコルピーもフライーターの弱点に心当たりがあるようだった。 さらに進むと壁の向こうから小さな女の子のような声が複数響いてきた。 「キャハハハハ…」 「気持ちいい…」 「もっとやってよぉ…」 声が要塞の内部に木霊する。 「気味悪いわね…」 エイリアが呟く。 「フライーターの野郎だな。 奴はマインドコンタクトを女のガキへのいたずらに使っていやがるんだ」 スコルピーが言う。 「俺も色々悪事をやってきたけどよ、流石にこれにはドン引きだぜ」 ダイナモがそれに頷く。 一方でそのフライーターは、奥の部屋で三人に気がついた。 「ウジュルウジュル〜僕達の大事な時間を邪魔する奴等が来ちゃったよぉ〜 でもぉ、僕の可愛い天使ちゃん達…君達は絶対に他の男には渡さないからねぇ〜」 程なくして、ついに三人はフライーターのいる部屋に辿り着いた。 「さぁ観念しなさい…って何よこれ!」 「おいおいおい…」 「ここまでやりやがるとはな…」 三人の目の前には天井から吊り下がった数多くの鳥籠のような檻の中に 尖った耳以外は地球人にそっくりな宇宙人の女の子達が一人ずつ閉じ込められていた。 彼女達は皆地球上に存在するありとあらゆる変態プレイの餌食になっていた。 「キャッキャッ…もっともっとぉ〜」 その様子は悲惨凄惨を極め、筆舌に尽くし難かった。 通常なら精神に多大なダメージを与えるようなプレイで、 しかも肉体までかなりの傷を負っているはずなのに彼女達の表情と声は恍惚としていた。 これはマインドコンタクトによるものに他ならなかった。 中央にはこの部隊の隊長の八神将でハエトリソウのような姿をしたフライーターが玉座に座していた。 「ここに来て小汚い欲望のタガが外れたようだな、フライーター!」 スコルピーが凄む。 「ウジュルジュル…この地位に納まって僕は可愛い天使ちゃん達と存分に戯れる権限を手にしたんだよぉ〜 あの最低男の呪縛から解き放たれてね… それにこの娘達は戦争の所為で行き場を無くしちゃってさ、 こうして僕が保護して、可愛がってあげてるんだよぉ〜 その代わりにちょっと素直になってもらってるだけなんだぁ〜 こんな僕の事汚いと思うぅ?狂ってると思うぅ? いぃや、ぼ、僕なんかよりもあ、あの最低男の方が遥かに汚らしいに決まってるぅ!! 皆皆あの最低男が悪いんだぁあ!!!ウジュルジュルジュルジュル…!!!」 彼の言う最低男とは他ならぬリュミエールの事。 そしてフライーターは語る。 己とリュミエールの過去を、当時のビジョンを交えて。 リュミエールがマインドコンタクトを発明する前、フライーターは セイントサンクチュアリの強制収容所にて副所長と同時に 少年犯罪者担当長官の地位についていた。 「ウジュルウジュル…この国はねぇ、よい子の味方なんだよぉ… だからさぁ、逆に言うと悪い子は排除する事になってるんだぁ… まぁ、僕からすれば君等はおじさんなんだけどね!」 「ギャアアア助けてぇ〜〜〜〜〜!!!!!」 フライーターは受刑者の少年達に散々暴行を加えた挙句処刑していた。 「ウジュルウジュル〜ここに天使ちゃんか小悪魔ちゃん来ないかなぁ… こんなおじさんばっかじゃつまんないよぉ〜!」 極悪人のみが収監される強制収容所では少年受刑者と言っても十代後半以降の者が多く、 さらに性別はほとんどが男だった。 小さな女の子が好きなフライーターはこれに不満を募らせていた。 もともと子供好き(主に女児)なフライーターだがその愛情は非常に倒錯したものだった。 彼は子供(主に女児)と接する仕事を希望していたがその危険性ゆえ一応子供が相手である事、 そして適材適所とのことで強制収容所少年犯罪者担当長官に納まったのである。 強い欲求不満によるフライーターの受刑者への八つ当たりは激しく、 その様子は部下からも恐れられた。 彼もまた、全く仁徳が無かった。 「全く、女のガキがいねぇ時の副所長の癇癪にも困ったものだな」 「受刑者のガキに同情すら覚えるわ」 後に正規兵となる看守達が雑談していた。 「同情なんて奴等に必要ねぇだろ。こういう番組の影響受けねぇ方が悪いに決まってら」 看守の一人がテレビを付けた。 テレビに映っていたのはセイントサンクチュアリで放送されている 教育番組やドキュメンタリー番組などだった。 これらの番組は世論操作に大きく貢献しているため それでもなお更生しない問題児が余計目立つ事となった。 「あとこれも興味無くね?若返り特集。 俺は綺麗なねーちゃんがババアになんのはごめんだから賛成だな!」 別の看守がテレビで宣伝されていた科学番組について言う。 この番組が扱う若返りの技術は後にセイントサンクチュアリで実施されることになる。 そんな強制収容所の通称「少年課」でも少女の受刑者が全く収監されなかったわけではない。 ある日少年課に十五歳の少女の受刑者が収監されることになった。 「ふざけんな!何で私があの噂に聞く強制収容所行きなんだ!」 「お前がそこに収監されている非行少年グループと繋がりがある事が分かったからだ」 彼女は殺人含む数多くの犯罪を犯した不良グループに加担しており、 その不良グループのメンバーは既に強制収容所に収監され、何人も処刑されていた。 「放せ!放せよ!」 受刑者の少女は必死に看守に抵抗したがそれも空しくやがてフライーターの前に突き出された。 「ウジュルウジュルウジュル〜!!ちょ、ちょっと年増だけどぉ、 や、やっと小悪魔ちゃんが来たよぉ〜! ね、ねえ、僕と良い事をしようよぉ…お、おじさんは怖くないからねぇえええ」 「嫌…やめろ…来るな…来るなぁああああ!!!!」 身の危険を一瞬で感じ取った受刑者の少女は恐怖による悲鳴を上げるが、 それにフライーターは構う事無く彼女に変態プレイの数々を実施した。 後日彼女は多大すぎる心身のダメージにより絶命した。 このようにフライーターは少年受刑者には暴虐の限りを、 少女受刑者には変態の限りを尽くして職務を遂行してきた。 しばらくするとセイントサンクチュアリでリュミエールによるマインドコンタクトが実施された。 「これで皆様が余計な感情を覚える事も無くなり、街はより平和になるでしょう。 あとはセイントサンクチュアリの領土をより拡大し、 マインドコンタクトの出力をより強めて行くだけです。 極少数とはいえまだ効かない方がいらっしゃいますからね」 「全く素晴らしい技術でございます、リュミエール様! 多くの者はこうして素の感情を捨て去るべきですな、それが世の為人の為…」 当時の首相で、この時医療技術で若返っていたランバートがリュミエールに言う。 マインドコンタクトの成果で強制収容所の受刑者は減る事はあれど 増える事は無くなった。 そこでフライーターはリュミエールに尋ねた。 「リュミエールくぅん、これから僕達どうなっちゃうのかなぁ?」 「お忘れですか?僕は自身のあらゆる端末を駆使して 皆様が労働せずとも済む世界も目指しているのですよ。 もちろん貴方達も例外ではありません。 僕のマインドコンタクトが完成し、貴方の危険性が修正されたら 好きなだけ子供達と戯れるがいいでしょう」 リュミエールは応える。 しかししばらくしてフライーターは街の子供たちの現状を知った。 「外の世界では子供達は親や教師から教育を受けなければいけないみたいですがどう思います?」 「大変ですね。教える側も教えられる側も」 「外の子達は色々な事を知らないし、思慮に欠ける面も多々あるみたいですよ」 「危険ですね。会うことがあったら近寄らない方がいいでしょう」 「我々は恵まれています。ランバート首相がついていらっしゃるのですから」 「是非とも全世界がこうなるべきですよ。ランバート首相の今後の活躍に期待しましょう」 これが一〜二歳児の会話である。 フライーターはリュミエールに食って掛かった。 「ウジュルウジュル!どういう事だよぉリュミエールくぅん! 子供達が子供らしくなくなっちゃってるじゃないかよぉぉおお!」 これにリュミエールは返答した。 「子供独特の余計な感情を全て消し去り同時に必要な情報も与えた結果ですよ。 彼等はルールもモラルもマナーも守り過ちは絶対に犯さないのです」 マインドコンタクトの影響は人生経験も浅く人格形成もあまりされていない子供には 極めて色濃く現れ、彼等はさながらリュミエールのコピーのようにも見えた。 「ウージュルジュル〜!やだやだこんなのやだぁ!気色悪いよぉ〜!」 「ならば本来子供が抱くこういう面は尊ぶべきものでしょうか?」 リュミエールの合図に合わせテレビ型の端末が空中に現れ セイントサンクチュアリの教育番組やドキュメント番組の一部始終を映し出した。 そこには子供の悪い面がいくつも収録されていた。 「や〜いや〜い弱虫や〜い!」 「てめぇよくもチクりやがったな!」 「万引きってスリルあるよな〜」 「もっと沖に行ってみようぜ」 「このガスって気持ちいいらしいぜ」 「ちょっと大人の世界を覗いてみようよ!」 そこにはいじめの陰湿さ、少年犯罪の低年齢化、 そして好奇心ゆえに危険に首を突っ込む子供たちの映像が映っていた。 「ウジュルウジュル〜それでも小さい女の子なら許しちゃうのにぃ〜」 「貴方が許したところで許さない方は大勢いますよ。 それに貴方もいつか必ず慣れるでしょう」 フライーターにリュミエールが言う。 この慣れるとは、即ち感情を操作される事である。 「ウジュルウジュル〜…」 フライーターは子供達への違和感による苦しみは忘れてしまいたいと考える一方 今の自分の価値観を無理矢理変えられるのも嫌だと少々考えていた。 これとは別にほぼ同時期にセイントサンクチュアリの人間に対し若返りや不死化、 自己治癒力や免疫力を強化する技術がリュミエールによって開発され、強く奨励され出した。 この事に関する宣伝文句や民間人の会話などでは「後継者に悩まなくて済む」 「子孫ではなく自分自身を遺そう」などとあちらこちらで謳われた。 フライーターはそれに対して嫌な予感を覚えた。 同時に彼はある疑問が浮かんだ。 もしこのまま地球全土の人間が不老不死になれば、人口は爆発するだろう。 地球の環境も大切にするリュミエールはそれを許さない。 何せ自然保護区に人間を立ち入り禁止にしているぐらいだから。 しかしかと言って産児制限を厳格に定めても普通は上手くいかないであろう。 という事は… 「もちろんその時は皆様の子を望む意志を消去して適正人口を保ちます」 フライーターの予感は当たっていた。 リュミエールは来る人口爆発には感情操作で対処するというのだ。 「ウジュルウジュル〜!それじゃあ人間は大人だけになっちゃうじゃないかぁ〜 やだやだやだぁ〜!!」 「ご安心を。僕がそれを行うのは遥か未来のことですので。 そうなるまでにはマインドコンタクトは完成させますよ」 リュミエールはフライーターに大人だけの世界を感情操作によって 受け入れさせることも示した。 ちなみに子供型レプリロイドとてリュミエールに感情を操作されれば 子供らしさを失うのでフライーターには無価値だった。 「ウジュル〜…」 フライーターはもちろん不服に想った。 しかし戦闘力でも権力でも頭脳でもリュミエールに抗うすべは無い事、 そしてリュミエールが真剣に平和の事を考えている事を知っている為、彼はもう諦めかけた。 彼だけでなく当初リュミエールに反感を持っていた者達の多くが 次々と我が道を行く事を諦めていった。 自分はリュミエールの考えが気に入らない、しかし自分の大切な者は リュミエールのやり方にすがろうとしている、 もしくはリュミエールの手を借りなければ助からない状況にある時、 当時感情操作が効かなかった者達もリュミエールについていく道を選んでいった。 そうした者達の中にはそのまま染まってしまう者が多い一方 後のロードキングダム構成員は絶対神の力により リュミエールでも感知し得ないほど心の奥底に不満の気持ちを封じ込めてきた。 さらに時が流れ、リュミエールが最初に撃破された直後 絶対神は現ロードキングダム構成員が封じ込めてきた不満を解き放った。 フライーターもその中に入っていた。 絶対神は言う。 「ソウダ!ソレコソガウヌノアルベキ姿ジャ! 思ウガママニ小娘共ト戯レルガヨイワ! ソレトソノ中デモ特上品ハ余ニ献上シタマエ! イヒャアーヒャッヒャッヒャッ!!!!!」 かくしてロリコンで変態のフライーターは返り咲いた。 「ウジュルウジュル〜僕がやりたいようにやれるのも絶対神様のおかげなんだよぉ… しかもマインドコンタクトまで使えるようにして貰ったから この天使ちゃん達は僕の悪戯に抵抗しないどころか喜んでくれるんだよ〜 君等邪魔者を排除したら次は地球の天使ちゃん達をこうしてあげるんだぁ〜 ウジュルジュルジュルジュル!!!」 時は現代に戻りフライーターはエイリア、ダイナモ、スコルピーに言い放った。 これにエイリアが尋ねる。 「強制収容所についてはどうこう言う気は無いわ。 ここにいる私達も皆職務や任務で他者を大勢殺めてきたから。 でも今の貴方は罪もない女の子に私情で危害を加えて、 これからもそうしようとしているみたいね。 男の子も体力の限界以上まで酷使されているのを見たわよ。 これをイレギュラーと呼ばずして何をイレギュラーと呼ぶのかしら」 当然話の通じる相手ではなかった。 「ウジュルウジュル〜!! このおばさんがぁ〜!!あの最低男の肩持つならやっつけてやるよぉ〜!! 悪いのはあの最低男なんだよぉ〜!! あの最低男は子供達から純粋さや無垢な面まで消して しかも地球を汚い大人だけの世界にするつもりなんだぞぉ〜! それに僕は危害なんか加えてないぞぉ〜!天使ちゃん達喜んでるじゃんかよぉ〜! でもでもぉ、このまま戦うと天使ちゃん達に被害が及んじゃうからぁ、 下に案内してやるよぉ〜!ウジュルジュルジュルジュル!!!」 フライーターは激昂して周囲の床に強酸を撒き散らし、 己を含むこの場に立っていた者達全員を下に位置する広場へ落下させた。 「何だこりゃ?」 「酷い…」 「死体の山だな…」 そこにはフライーターやディクテイテスに抵抗したため処刑された大人、 過酷な労働や訓練で力尽きた男の子、激しすぎる変態プレイに体が耐えきれなかった女の子の 宇宙人の死体が山のようにあった。 フライーターを睨みつける三人。 「弱い奴や逆らう奴はこうなって当然なんだよぉ〜 あと天使ちゃん達も戦争なんかじゃなくて僕によって快感の内に死んだなら本望だろぉ〜… ウジュルウジュルウジュル!」 「貴方みたいな敵は悩まなくて済むからその分楽ね。 それと、さっきはよくもおばさん呼ばわりしてくれたわね… これはそのお礼よ!シャドーリーフ!」 エイリアはタヌキースの特殊武器、シャドーリーフをフライーターに命中させた。 「ウジュル〜〜!!!汚いよぉ〜!闇は嫌いだよぉ〜!」 かなり効いていた。 「もう一発、喰らいなさい!」 「調子に乗るなぁ〜!メルティバイト!」 技が出る直前にフライーターはエイリアに頭と両腕の「口」で同時に噛みついた。 「きゃああああ!!!!」 傷口から強酸が追加ダメージを与えていく。 「エイリアを離しやがれ!」 ダイナモがフライーターの体にアースゲイザーの連撃を叩きこむ。 彼は強化によりアースゲイザーを高速で、かつ連発で出せるようになっていた。 攻撃がヒットする度にフライーターの体の穴から光が漏れ、 周囲の床が陥没していった。しかしある時… 「うっとぉしいんだよおじさぁん!」「ガホッ!」 フライーターは片腕を振り払いダイナモを吹っ飛ばした。 ダイナモは壁に強く衝突してめり込んだ。 かなりのダメージを負っている。 しかしその隙にエイリアが再びシャドーリーフを放ちフライーターにヒットさせた。 「ウジュルジュルジュルジュル!またやったなぁ〜!」 フライーターは腕を力強くエイリアに振り下ろそうとしたがそれをスコルピーが阻止した。 「俺もいる事を忘れるな!」 「出たな〜裏切り者ぉ〜!」 そしてスコルピーとフライーターは激しく互いの力を衝突させた。 両者の技の威力も速さも殺気も凄まじく、エイリアは目で追うのが精一杯だった。 ある時スコルピーが砂鉄を纏って巨大なサソリとなる「マグネットアームズ」を発動した。 「喰らえ!」 スコルピーは砂鉄で出来た巨大な鋏でフライーターに殴りかかった。 「メルティバイト!」 しかしフライーターは砂鉄の鋏を食いちぎり、続き3つの口であっという間に 砂鉄のサソリを食いちぎっていき、 ついにそれをコントロールするスコルピーに噛みついた。 「ウジュルウジュル…僕の強酸はねぇ…砂鉄なんか簡単に溶かしちゃうんだよぉ… それに虫は食虫植物に食べられる運命だろぉ?」 「ぐああああ!!!!!」 スコルピーは酸に弱く、基本的な戦闘力こそフライーターと互角であるものの相性は悪かった。 「もっとも、君みたいなおじさんなんか、食べてもおいしくないんだけどね!」 そう言ってフライーターはスコルピーを強く振り払い、壁に激突させた。 「インモラルシード!」 フライーターは両腕から沢山の小さい物体を発射したかと思うと その物体は地面に着地するや否や植物型メカニロイドを生やし、 その植物型メカニロイドはそれぞれ強酸の弾丸をスコルピーに発射し始めた。 「ウジュルウジュル〜!これでじわじわ苦しんで死ねぇ〜!…さぁて、さっきのお返しをしよっか?」 「くっ…!」 フライーターはエイリアに向かって振り返った。 彼の強さと禍々しさを身にしみて感じたエイリアは一瞬ひるんだが 弱点も分かっている為応戦する事にした。 シャドーリーフは確かにダメージを与えられるがノーマルショットでは決定打にならない。 チャージしようにもその隙を相手はくれない。 そもそも相手が立ち向かってくる以上ノーマルショットでも当てられる確率は低いのだから。 ついにエイリアは地に倒れ、フライーターは彼女を踏んづけた。 「く…あ…あ…」 踏みつけの力は強く、エイリアは全く身動きがとれなくなった。 それにフライーターは容赦なく強酸の雫を垂らしていく。 「ウジュルジュル…ねぇ、痛いでしょぉ?苦しいでしょぉ? 1ついい話があるんだけどさぁ、これから君等の仲間のシナモンたんとパレットたんを 呼んでほしいんだ〜… ちょっと年いってるけどぉ、僕はあの娘達気にっちゃったぁ〜 もしその2人を呼んでくれるなら君等はこれ以上苦しませずすぐ殺してあげるぅ。 でもでもぉ、駄目って言うなら君等を絶対神様の所に送っちゃうよぉ〜。 絶対神様は僕なんかよりももっともっと怖いんだぞぉ〜。 今よりもっと凄い地獄が待ってるよぉ〜。 ウージュルジュルジュルジュル!!!」 「ダイ…ナモ…」 エイリアはかすれるような声でダイナモの名を口にする。 その時だった。 「だからエイリアに何しやがる!」「ウジュル!」 ダイナモが両脚で壁を蹴り、その反動でフライーターに体当たりを決めた。 「Dブレードとアースゲイザーを同時に喰らえ!」 ダイナモは無数のDブレードとそこから発生する竜巻をフライーターに当て、 自らもDブレードを操りつつアースゲイザーを連続で放った。 しかししばらくすると形勢が逆転し、フライーターがダイナモを追い詰めていった。 「ウジュルウジュル〜…さっきより強くなってるけどさぁ、 それぐらいでやられる僕じゃないよぉ〜… おじさんにもたっぷり仕返ししてあげるぅ〜」 フライーターがダイナモに狙いを定めたと思ったその時、 遠くから声が聞こえた。 「ダイナモ、離れてて!チャージ・シャドーリーフ!!」 エイリアは遂にチャージショットを放つ隙が出来たので シャドーリーフのチャージ攻撃を発動させた。 エイリアの頭上に黒い葉のようなエネルギー体が出現し、 彼女の周囲の数か所に暗黒の刃が密集し、形を作っていく。 やがてそれらの暗黒の刃は様々な日本妖怪の形を成し、 フライーターに向かって突き進んでいった。 さながら百鬼夜行のような光景である。 「ウジュッ!ウジュッ!グジュっ!」 フライーターは今までにないダメージを受けた。 「ち、ちくしょぉ〜!こ、この僕がこ、こんな弱い奴等に後れを取るなんてぇ〜!」 「くうっ!」「ぬおっ!?」 フライーターは激昂してより激しく酸を撒き散らしてきた。 「どうする?また隙を作るか?」「厳しいわね…」 とその時フライーターにシャドーリーフが命中した。 「ウジュル〜二度も三度もぉ〜!」 「私じゃないわ!…ってあれは…」 そこには死んだはずのタヌキースが立っていた。代わりにスコルピーはどこにもいない。 彼が先程までいた場所の付近には植物型メカニロイドの残骸が転がっていた。 「貴方は…スコルピー?」 「ああそうだ。本来の姿では弱点を突かれちまうならこっちから弱点を突けばいいだけだ!」 タヌキースと思われたのは実は彼をコピーしていたスコルピーだった。 「ウジュルジュル〜!あ、あんなに『ありのままの姿』にこだわってた癖してき、汚いぞぉ〜!」 「俺は心までは真似しねぇ!…っつってもこのジジイの姿を長い事借りるのは しんどいからとっとと勝負をつけてやらあ!」 彼が言ったのは強がりである。 スコルピーは別にタヌキースを倒したわけではないので長時間は変身していられないのだ。 「フォールヘッド!」「ウジュルゥ〜!!!!!!」 先程スコルピーの放ったシャドーリーフと今までの攻撃によるダメージで 隙だらけになったフライーターは釣瓶落としに変身したタヌキース、 もといスコルピーにあっけなく押し潰されて死亡した。 その直後スコルピーは元の姿に戻った。 「レプリロイドの押し花って奴だな」 ダイナモがこぼす。 そしてスコルピーはダイナモとエイリアに振り返った。 「そういやあんたら元々は敵だったがいつの間にやら今の仲になったと聞くが… リュミエールじゃないが感心するぜ」 「色々あったのよ、ハンターにも…」 エイリアがしみじみと言う。 「俺にもチャンスはあるだろうか…こんな不器用な俺にもよ…」 「分からないわ。でも貴方が変わり、 貴方を受け入れてくれる人が増えてると言うなら きっとチャンスはある筈よ」 スコルピーにエイリアが言った。 そしてダイナモは上に囚われている宇宙人の女の子達の事を思い出した。 「おっといけねぇ、速くあのお嬢ちゃん達を助けなきゃな!」 三人が上に行くと既にそこにはアクセル、パレット、プロパガンダがいて 既に宇宙人の女の子達は宇宙船に転送済みだという。 「いやぁ、今まで見てきた悪人の中でもとくにえげつない事するよね」 「思い出させないでください〜」 「もう少しで危ないところだった。あの宇宙船の設備なら あの子達も少なくとも体は早く治るだろう」 アクセル、パレット、プロパガンダがそれぞれ言う。 その後合流した六人は宇宙船に戻った。 しばらく経ったときの事だった。 「怖いよぉ…」 「お兄さん達本当に何もしないの?」 宇宙人の子供達の心の傷はやはり深い事をハンター達は知った。 「この子供達の心の傷はマインドコンタクトでなら瞬時に治せますよ。しかし…」 リュミエールが言いかけた。 「おいおい」「結局感情操作かよ!」 ゼロとスコルピーが野次を入れる中、エイリアも意見を出した。 「そんな事したらリュミエール、貴方はこの子達を貴方と同じ性格にする気でしょ? それは褒められたものじゃないと思うわ」 そして他のハンター達もセイントサンクチュアリで見た子供たちの事を思い出し、 気味悪いと感じたのでエイリアに賛同した。 するとリュミエールが言った。 「落ち着いてください。僕は心理学や精神医学も身につけてますので マインドコンタクトを使わずにこの子供達の心を癒せないわけではありません。 しかしその場合は時間もかかりますし成功しない可能性も多少はあります。 ならばどちらが良いか皆様にお訊きしたかったのですが、 その必要は無いみたいですね」 「リュミエールが…他人の意見を聞く…だと?」 ゼロが意外そうに言う。 同時に彼は先程リュミエールがレプリアンに即行でマインドコンタクトを使わなかったことや スコルピーとの戦いでも同様だったことをふと思い出した。 そしてリュミエールは続けた。 「もともと僕は世論操作をした上でマインドコンタクトを実施しました。 僕はセイントサンクチュアリでは実質的に頂点に立っていますが ここでは一個人に過ぎません。 皆さんのと子供達の意を両方尊重したうえで焦らずメンタルケアを施していきましょう」 これに対しプロパガンダが言った。 「それなら喜んで協力しよう。我々コズミックヴァンガードは戦争で心に傷を負った者への カウンセリングの技術も進歩させてきたし、私も相応の自信がある」 すると子供達の一人が彼に気がついた。 「このおじさんはもしかしてあのドルフ星人にも歩み寄ろうとしているプロパガンダって人じゃないの? それなら大丈夫だよ!周りにいる人たちも皆!」 「本当に貴方には負けますよ、プロパガンダさん…」 リュミエールはまたしてもある種の敗北感を覚えたようだった。 そんなリュミエールをアクセルが見ていた。 「(リュミエールが…少しずつ…変わろうとしている?)」 リュミエールの変化に彼も気付き始めているのであった。 こうして宇宙船は進む。 最後の八部隊が待つ、カオス星に向かって。

第十九話「義賊VS逆賊」

カオス星… そこは宇宙の中心領域で只の2つしか存在しない国家「コズミックヴァンガード」及び 「ドルフエンパイア」のいずれにも収まらなかったはみ出し者、 「宇宙海賊」の溜まり場と化している星だったが現在では最後の八神将の管轄下にある星である。 「グフフフ…俺様がこれだけの財宝と力を手に入れる事が出来たのも絶対神様のおかげだぜ…」 元最強の宇宙海賊のレプリアンにしてこの星の十使徒のプランダラが 宇宙中の財宝に囲まれながら、事の発端を思い出していた。 ―それは宇宙の中心領域ではコズミックヴァンガードとドルフエンパイアが戦争の真っ只中にあり、 地球ではリュミエールらがフォースメタルで出来た惑星を目指して旅立った時の事だった。 「お頭!今の我々は相当の量の『パワークリスタル』『ディアブルジュエル』、 その他各国の様々な兵器をを奪い取り、良い人材もかなり集まって来ておりやす! 今ならもっとデカい事も出来ると思いやすがいかが致しやしょう!?」 「プロパガンダとディクテイテスを見くびるんじゃねぇ。 そうだな、現状に何かデカい『+α』でもありゃ俺様も一山狙ってみるとするかな」 功を焦る部下にプランダラが諭しつつも共感の意も示した。 宇宙海賊にも規模・危険度において様々な種類の者がいた。 弱小宇宙海賊は戦火の収まった戦場で満身創痍の兵を襲ったり、 死体から物資を盗む一方、 力のある者は各国の部隊に対し奇襲を行ったり正面切って戦った。 プランダラ率いる宇宙海賊団、名称はそのまま「プランダラ海賊団」は その中でも規模・危険度共に抜きんでており、 戦いが続くにつれてそれらをさらに増していった。 しかし両国家の規模も日々膨れていくため、それらを完全に叩き潰す機会を狙うには慎重を極めた。 そんなプランダラ海賊団に転機が訪れる。 「大変ですぜお頭!未開の領域にて何かとてつもないエネルギー反応を発見しやした! これは『パワークリスタル』『ディアブルジュエル』と同等かそれ以上と思われやす!」 「何だと!?それは本当か!?」 船員の一人の科学者がフォースメタルで出来た惑星を発見した。 そこは宇宙の中心領域と言えど知的生命体が存在せず、環境も悪いので あまり目をつけられていない場所だった。 「グフフフ…運が向いてきたぜ! コズミックヴァンガードとドルフエンパイアの糞共に一泡吹かせてくれるわ!」 やがてプランダラ海賊団はその惑星に着陸した。 しかししばらくしてそこで先客がいる事に彼等は気がついた。 そう、その先客とは既にリュミエールを倒し惑星で開発を進めていたロードキングダムだったのだ。 既にその惑星ではロードキングダムの基地が建造されていた。 これにプランダラは激怒し、部下を率いて基地へ侵攻しに行った。 「テメーら何人のもん横取りしようとしてんだ!? このお宝は俺達が先に見つけたんだぞ! 文句があるなら力で奪ってから言いやがれ!!」 「ギャアアア何だこいつら!!リーダー格は俺達より強いぞ!」 部下は後の正規兵より弱く返り討ちに合う一方、 プランダラはその正規兵となるレプリロイドを蹴散らしていった。 「どいているがいい…この存在には、貴方達の力は及ばない…」 しばらくすると基地の中から他の兵と変わらない大きさ、 即ち人間サイズで人型のレプリロイドが出てきた。 「あ、貴方は…やばい!基地に逃げるぞ!」 ロードキングダムの兵達は安堵するどころかそのレプリロイドを恐れて基地内に退散していった。 「何だぁ?テメーがボスか?」 地球人より遥かに巨大な体格のプランダラは人型レプリロイドを見下ろして凄んだ。 すると人型レプリロイドはつぶやくように、しかし大きく響き渡る声で言う。 「何故貴方はここにいるのか…?」 「何訳の分からない事言ってんだ!宝を目にして見逃す海賊がいるかぁ!」 これに対し人型レプリロイドはさらにプランダラに問いかける。 「その発言に絶対的根拠はあるのか?貴方の言う事は絶対か?真理なのか?普遍なのか?」 「ええい、問答無用!!」 プランダラは彼から感じられる狂気と威圧感に半ば圧されながらも大剣を振り下ろしたが… 人型レプリロイドは変身を解き、プランダラ以上に巨大で異形な真の姿を現し、 体を張って斬撃を止めてしまった。 大剣は人型レプリロイド、改め巨大レプリロイドの体に食い込み、離れない。 「な…!」 驚愕するプランダラをよそに巨大レプリロイドは言う。 「私を律するのは絶対的存在…私はただその存在の為に存在し、存在し続ける… それ故に私達に仇なす者は…排除する…始末する…抹殺する…」 そして間髪入れず巨大レプリロイドはプランダラに硬化した拳を振り下ろした。 「ブベッ!!!」 鈍い音と共にプランダラは逆様の姿勢で地面にめり込んだ。 「お、おのれ、よくもお頭をを〜!!」 まだ残っていたプランダラの部下が巨大レプリロイドに挑もうとするが 巨大レプリロイドは全身から電波を放った。 すると… 「う…う…アーッハッハッハッハッハッハッハ!!!」 「私は誰だ何故ここにいるここはどこだ真理とは何だ人生とは何だ…」 「ああ、何て人生は素晴らしいんだ!何もかも、輝いている!!」 「撃てーっ!!攻撃だぁー!」 プランダラの部下達は思考回路が暴走し、それぞれが滅茶苦茶な行動を取った。 しきりに独り言を言う者、同じ動作を何度も繰り返す者、奇声を発する者、 自傷行為を行う者、プランダラに攻撃をする者、どこかへ走り去っていく者… 「なん…だ…部下達に…何を…した…」 己を攻撃する部下を押さえつけ、プランダラは立ち上がった。 「これは真理への探究だ…貴方も招待しよう…肉体と精神を超越した領域へ…」 巨大レプリロイドがそう言った後、プランダラは記憶が飛んだ。 我に返るとさらなるダメージを巨大レプリロイドに与えられている事に気づく。 そのダメージの大きさもさることながら、巨大レプリロイドから溢れ出る狂気、 しかも彼よりさらに上が存在する事よりプランダラは敗北を悟らざるを得なかった。 「畜生…畜生…!!これであの宇宙で調子に乗ってる奴等に勝てる所だったのに…! パワークリスタルやディアブルジュエルに並ぶこの新たなエネルギーを独占して 宇宙を制覇出来る所だったのに…!」 プランダラから悔しさの声が大きく漏れた。 「なかなか興味深い事象だ…あの方々も喜ばれる可能性が高い…」 これを聞いた巨大レプリロイドは自らの体の一部を切り離してプランダラを拘束し、 彼の部下達も洗脳を解いたうえで同様に拘束して三神帝の前に突き出した。 絶対神も装置越しにそれを見ていた。 「何と!宇宙にはこのような秘密があったとは… いかが致されましょう?」 ディザストールが絶対神に尋ねた。 「ウヒャーヒャヒャヒャヒャヒャ!!!コレハ傑作ジャ! コノフォースメタルノ山以外ニモ宝ガ見ツカルトハノウ! 一石二鳥ドコロカ一石三鳥ヨ!! 超フォースメタルモソノ宇宙ノエネルギー体トヤラモ 余ガ独占シテ宇宙ヲ制覇シテクレルワ! プランダラトヤラ…ツイテクルガイイ… 力ヲ与エル代ワリニ我等ニソノ力ヲ貸スノダ… キャツラヲ倒スニハウヌノ存在ガ役ニ立ツノダカラナ!!!」 新たな力、新たな支配を求めて絶対神は宇宙侵略に乗り出すことにした。 ちなみにリュミエールがフラン星に不時着しプロパガンダに助けられたのはこの頃である。 かくしてプランダラは結果として本来望んだ物を手に入れる事が出来た上、 かねてから敵視していたコズミックヴァンガードと ドルフエンパイアを倒せる事に希望を見出し、 しかも八神将以上の者の強さに屈服したのでロードキングダムに加入した。 この時彼は直接自分を倒した者ということで巨大な八神将の部下となった。 「すげえ!すげえぞ!!これなら本当に宇宙制覇が出来そうだぜ!」 元々宇宙海賊はコズミックヴァンガードとドルフエンパイアの出身者で構成されており、 ロードキングダムが制圧したエリアの者は和解という形で同じように吸収され、 次々と組織の支配下に入っていった。 この間復活してロードキングダムの居場所を突き止めたリュミエールが 彼等に挑むも再度返り討ちに遭うという事も起こった。 ある時そんなロードキングダムを無視できなくなったドルフエンパイアが特殊部隊を差し向けた。 それは囚人、しかも極悪死刑囚で構成された部隊だった。 実はディクテイテスもリュミエールと同じく囚人の人権を剥奪していたのだが 彼の場合囚人達に秘密裏に過酷な訓練を施し最も危険な任務専用の部隊としていた。 ディクテイテスは囚人部隊に指令を出した。 「ロードキングダムとやらを叩きのめせ!然らば貴様等に自由をやろう!」 「敵がどれほど強かろうが、自由になれるならやってやるぜ!」 囚人部隊は捨てられた事にも気付かず半ばやけになってロードキングダムに挑みかかった。 「死刑囚か…普通の宇宙人がエサならこいつらは糞だな! 吸収してやる必要なんざこれっぽっちも無ぇ!殺っちまえ!!」 囚人部隊もかなりの強豪だったがロードキングダムの前では全くの非力で 瞬く間に撃破されていった。 「良い事を思いついたである」 部下達と共に囚人部隊の構成員をじわじわと痛めつけていたフリードリヒが言う。 「まずは過去の事件に習いレプリロイドからはソウルを抜き取るである。 宇宙人の方は精神データをプログラムに変換して抜き取るである。 それを封じ込めた装置をプランダラ、貴様の宝刀に取り付けるである」 「それで何が出来るんでやすか?」 「我が故郷で過去に行われた『ソウル』を用いたパワーアップである」 そしてフリードリヒはプランダラの宝刀にソウルを封じ込めた。 「こ、これは凄ぇ!恩に着やすぜ、フリードリヒ様!」 プランダラは刀から凄まじい力がみなぎって来るのを感じた。 その後「魂」を抜き取られた囚人部隊の死体はフリードリヒが譲り受ける事になる。 そうこうしている中、コズミックヴァンガードとドルフエンパイアの間で会談が行われた。 両者の間ではとてつもない因縁があり、またドルフ星人の気質も危険極まりないので 会談は場所を隔てて、映像と音声を介して行われた。 「両国家に未曾有の危機が迫っている。 かのプランダラ海賊団が謎の集団と共に各地を侵略して回っているそうだ。 ここは一時的に手を結び、奴等に立ち向かうのはどうだろうか!?」 「貴様等と手を組むなら、死んだ方がマシだ!」 「そうやってどんな時も手を組まず個々の部隊が宇宙海賊にやられて 共倒れになった例を知らないと言うのか!?」 「知らねーよ!文句があんだったらテメーらからぶっ潰してやるぜ!」 両国家は強すぎる因縁の為こうやって各首脳部によりどんな時も手を組むという選択肢は拒まれ続けてきた。 当時プロパガンダに寝返ったドルフ星人も少数派であったため、 会談は瞬時に決裂した。 最終的には各々の国の本隊同士をぶつけ合う最終決戦を予定通りの日程と場所で行い、 勝った方が負けた方を従えてロードキングダムに挑む事になったが… その最終決戦が始まる矢先にロードキングダムは姿を現した。 「降伏せよ。残ったのは貴様等『本隊』のみである。 残りは全て我等の支配下に収まった」 ディザストールが両国の艦隊に通信を入れる。 「我々は貴方がたの為を想って敢えて降伏を要求します! 今こそ手を取り合い戦争を止めるべきです! なによりかつての主と戦いたくありません!」 既にロードキングダムの傘下に入っていた両国の出身者も通信を入れた。 「宇宙海賊に従うわけにはいかない…よって降伏を拒否する!」 「戦わずして降伏だと!?そんな事を抜かすのはワシらを倒してからにしろ!」 宇宙海賊の危険性を知るプロパガンダと 自らを最強と自惚れるディクテイテスはそれぞれ降伏を拒んだ。 「愚か者め…」 このロードキングダム、コズミックヴァンガード、ドルフエンパイアの三つ巴の闘いだが、 あっけなくロードキングダムの勝利に終わった。 何しろロードキングダムの戦闘力が圧倒的であったし、この時かなりの数の宇宙海賊と 両国の支部が彼等についており、チームワークも優れていたからだ。 対してコズミックヴァンガードとドルフエンパイアは敵対している関係ゆえ チームワークは0に等しくパワークリスタルとディアブルジュエルも それぞれどちらか片方しか持っていなかった。 開戦して間もなくそれぞれの旗艦はアクセルとマリノがタヌキースの部隊にしたような要領で、 しかもよりスムーズにあっけなく制圧されてしまった。 「く…強い!彼等は…まさか…リュミエール君の…言っていた…!?」 「ワシは…最強じゃ…なかったのか…?」 プロパガンダもディクテイテスもあっさりと撃破されてしまった。 「グフフハハハハ!!いい気味だぜ!!!」 プランダラは彼等を嘲笑う。 「降伏しよう。我々は貴殿の要求を全て飲む事に致そう」 戦いに敗れたディクテイテスは素直に降伏した。 「こんな形で終わるとは…しかしドルフエンパイアが降伏し、 未来に少しでも希望が持てるなら…」 プロパガンダはロードキングダムの今後の動向を気にしつつも 玉砕を良しとはせず一先ず降伏する事にした。 「これから俺達はどうなるんだ…」 「戦争で俺達は多くの罪を重ねてきたんだ…勘弁などしてもらえないだろう」 戦争が終結したものの両国首脳からは不安の声が止まなかった。 するとディザストールは言った。 「あの恒星の輝きを見よ… 敵対しているお前達も平等に照らしているではないか… 我々も同じだ。 出生や所属などに関係なくお前達の復興とその後の発展に力を貸そうではないか。 既にお前達の配下だった者共は共に力を合わせ従来以上の力を身に付けた。 お前達に出来ぬ筈がなかろう」 「うおおおおお!!!戦争で多くの罪を重ねた俺達を許すどころか 助けてくださるとは!! 我々は貴方がたに付いて行きますぞ!!」 「本当に戦争が終わったんだな!あの長く苦しい戦いが!!」 ディザストールの言葉に多くの者が心を打たれた。多少は感情操作の影響もあったのだが… そしてディザストールの言葉通りコズミックヴァンガードとドルフエンパイアは 復興し、さらなる発展も進行していった。 もっともその恩恵に直接あやかるのは幹部クラスのみで 下々の者は搾取されこき使われる事となるがこれに気付く、 もしくは異議を唱える者は組織の手回しや感情操作の影響で中々現れなかった。 戦争の終結後、プロパガンダとディクテイテスはロードキングダムの幹部に就任し、 組織での配属も決まり現在の体制が整った。 さらに時が進むとロードキングダムの八部隊の内五つの部隊が 宇宙の辺境を侵略して回ったのだが やがては地球で復活したリュミエールに気付き現在に至る。 「結局俺様自身は宇宙の頂点に立てなかったが これだけの地位と力と宝があれば文句は無ぇな…」 「お頭、イレギュラーハンターとかいう輩がこの星に接近しておりやす。 いよいよ戦の時ですぜ!」 過去を振り返っていたプランダラに彼の子分が報告した。 「ああ分かってるさ。おいお前等、今回も俺様に力を貸してもらおう…」 プランダラは禍々しいオーラを纏った自分の刀に向かって言った。 彼は正確には刀にではなく、その内に封じられた魂の主達に言ったのだ… 同じ頃ハンター達の宇宙船ではプロパガンダが子供達の世話の合間を縫って プランダラが回想した事とほぼ同じ内容をハンター達に話していた。 「…という訳でプランダラがロードキングダムと組んで 我々とドルフエンパイアを手中に収めたんだ。 宇宙海賊はある意味では共生という生き方の先駆者なのかもしれない。 しかしプランダラは力や財宝への欲が強すぎて只々略奪の事しか頭に無かった。 実際に『プランダラ海賊団が通った後は弱者と貧困しか残らない』 と言われるほどだったんだよ。 戦争終了後は不可侵条約で確かに両国の因縁は解消したかのように見えた。 ドルフエンパイアも宇宙海賊も私達に手出しをしなくなった。 しかし戦争の放棄の名目の下ディクテイテスもプランダラもかつての横暴が黙認された。 それまでそれぞれの支配下にあった人々に対してのね。 戦争をしないからと言って弱き者が脅かされていい筈がないと私はこう思う。 何より宇宙海賊の中には私の同胞のフラン星人も含まれていたから尚更だよ」 「力があるからって弱き者から何でもかんでも奪い取るのかい。 あたしはプランダラとか言う奴の同業者かもしれないけど恥ずかしくなるよ」 プロパガンダの説明の中にはプランダラが新技術や新発明を 私利私欲の為に奪ってきた事も含まれていた。 この事に対し同じような事をやって来たが目的は正反対だったマリノが憤りを見せた。 「僕はセイントサンクチュアリで皆様の暮らしをより便利に、より豊かにしてきました。 そうすれば皆様の心に余裕ができ、安らぎを生むからです。 周りから只々搾り取って自分達だけ贅沢するのは愚の骨頂ですよ。 しかもその暴力支配にマインドコンタクトも悪用されてますので他人事ではありませんね」 リュミエールもプランダラを批判した。 「このプランダラって奴がこの戦いに宇宙を巻き込んだ直接の原因なんだね」 アクセルが肯く。 「力を巡っての戦い、か…この流れに地球も宇宙も無いんだね…」 エックスはまたしても嘆きの声を漏らす。 「そいつらもそいつらで気に食わんな」 リュミエールに反感を持つゼロだがプランダラにも強い反感を現した。 「力をこんな形で使う人が多いのは私も悲しいです。 今は博士が私にフォースメタルジェネレーターを託した理由が改めて分かった気がします」 シナモンもどこか悲しげだった。 しばらくしてプロパガンダは子供達のカウンセリングに戻り、宇宙船はなおもカオス星を目指して進んだ。 そして遂に宇宙船は着陸した。 最後の八部隊が待ち受けるカオス星に。 今回はアクセル、リュミエール、パレット、シナモン、マリノ、マッシモが出撃する事となった。 「さてと、いよいよ八部隊もこれで最後だな…って何これ!?」 「さっきの話で思った以上に酷いな…」 アクセルとマッシモがカオス星の現状を見て絶句した。 「わーいわーい」 「ワハハハハハハハ!!!!!」 「私は狂っていない。真理を求めているだけだ。真理とは何だ真理とは何だ真理とは何だ…」 「私はどこに行くのだろう。それともここに普遍的に存在するのか…?」 カオス星でハンター達が目にしたのは様々な種族の宇宙人やレプリアンが それぞれ支離滅裂、奇妙奇天烈な振舞いを行っているというものだった。 構成はフラン星人、ドルフ星人、現地人のカオス星人、その他諸々の種族の宇宙人や 彼等に造られたレプリアン達だった。 カオス星人は原則的には地球人と似たような姿だが髪色、瞳の色、顔立ち、体格が 地球人以上にバリエーションに富み、多くは地球で言うとかなりの不細工に見える。 そんな彼等はある者は壁や床に異様な速度で落書きを繰り返し、ある者はうずくまって独り言を言い続け、 ある者は変な姿勢のまま高速で走行し、またある者は修行者のように敢えて体を痛めつけて瞑想していた。 中には暴力行為や自殺にまで走る者も見受けられた。 奇行だけではない。 彼等の内宇宙人は体はすっかり痩せ細り、体にはボロ切れを纏い、時折現地の虫や雑草を食していた。 レプリアンは戦争で負った傷、もしくは体の錆ががほったらかしにされている。 「こりゃ酷いや!今すぐ転送だ!」 アクセル達は宇宙人やレプリアンを転送しつつ珍妙な形をした敵要塞へと急いだ。 その際既に虫の息の者はシナモンの応急処置を受けた。 宇宙海賊は危険との情報があったためここの宇宙人やレプリアンは無人の宇宙戦艦へと転送された。 そうして遂に一行はボロ小屋ばかりの中に一際目立ってそびえ立つ、 奇妙奇天烈な形をした要塞に辿り着いた。 「ここに最後の八神将と十使徒が…突入だ!」 一行は要塞へと突入した。 要塞の内部で一行が最初に出くわしたのは宇宙海賊出身者の内、プランダラ海賊団に所属していた者達だった。 「来たなハンター共!かかって来やがれ!!」 彼等は要塞外にいた者達と違い正気を保っており、ハンター達を確認するや否や襲いかかって来た。 しかし当然正規兵より弱く、瞬時にハンター達に倒されて転送されてしまった。 「こいつらこんなにアイテム持ってるなんてやっぱり良からぬ事をやってるんだね」 宇宙人やレプリアンからアイテムをごっそりすり取ったマリノが言う。 更に奥に進むと扉が2つあった。 扉の内1つは「宝物庫」、もう1つは「混沌の間」と書かれていた。 するとアイリスから通信が入った。 「気を付けて。どっちの先からも強力なイレギュラー反応があるわ」 「両方に進まなきゃいけないのか…どうする?」 アクセルが尋ねる。 「あたしは『宝物庫』の方だね。お宝にも興味あるけどプランダラって奴が許せなくてさ」 マリノは「宝物庫」を選ぶ事にした。 「なら僕は『混沌の間』ですね。ここの隊長は財宝などには興味がありませんし、 何より彼の方が僕と関連がありますので」 ここの隊長の八神将を知り、因縁もあるリュミエールは「混沌の間」を選んだ。 「マリノさんが行くなら俺も行くぜ!」 「私もです」 ギガンティス島の仲間のよしみという事でマッシモと力の濫用を悲しむシナモンが「宝物庫」に行く事にした。 「僕は『混沌の間』だね!僕だって八神将と同じDNAがあるし僕の手で勝負を付けたいんだ!」 「アクセルが一緒ならどんなヤバい敵でも怖くないです。私もそこに行くですよ」 アクセルとパレットは「混沌の間」を選んだ。 「それじゃ、互いを信じて、行くぞ!」 こうして一行は三人ずつに分かれそれぞれの道へと進んで行った。 「これは…眩しい…そんであんたがプランダラだね」 財宝に文字通り目が眩んだマリノが暫くして言う 宝物庫の中には宇宙全域から集められた金銀財宝やレアアイテムが山のようにあり、 奥ではその部屋の主にして最後の十使徒、プランダラが待ち構えていた。 プランダラはディクテイテスよりもさらに大柄で肥満体形、 顔は頭頂部・即頭部合わせて十本の角が生え牙をむいているという非情に醜悪な外見のレプリアンである。 これは彼が宇宙の中心領域に生息する肉食動物の外見を模して造られたためである。 それは正しく八神将を含む過去のイレギュラー事件に関与した数多くのレプリロイドが 地球の動植物を模して造られた事と同じ理屈なのだ。 そんな彼の醜い外見を補うがごとく体の各所に金色の装飾や宝石の装飾が見られる。 「グフフフ…その通りよ。如何にも俺様がプランダラだ。 お前達の情報も色々とこちらに入ってきていてな、特にマリノとやら… 俺様はお前に興味がある。 同業者の上顔も体も美しいと来てやがる。今まで見たどんな財宝よりもな… 敵にしておくには勿体なさすぎるぜ。 どうだ、俺の所に来ないか?絶対神様に尽くせば今まで以上に宝が手に入るぜ?」 マリノに目を付けていたプランダラが言う。 「お断りだね!誰があんたなんかと! あたしは見たよ、外で大勢の人が貧しい目に遭ってる事とそれに気付かない事を! 同業者だからって一緒にするんじゃないよ!」 「断られると余計に欲しくなるぜ。 それとな、俺様は弱い奴と頭の悪い奴の事なんざ知ったこっちゃねーんだよ。 周りの奴等、つまり元から俺様の部下だった奴以外は 隊長殿の力で哲学者気取りだか修行者気取りだかになって お宝の有難味がちっとも分からねえ。 これが俺様にとって都合がいい訳よ。 まあとにかく俺様達宇宙海賊は相手の事情など省みねぇ。 欲しけりゃ奪い取る、それだけよ! お前もそうやって奪い取ってくれるわ!」 プランダラはマリノ達に向けて手をかざした。 「まずは…トレジャークリエイション!!」 これはプランダラに元からある技で、宝石の破片や貴金属の欠片を精製し、相手へ飛ばす技である。 マリノはこれを避けつつ攻撃の間をぬってファイアコメット、アイスコメット、 サンダーコメット等を飛ばす。 マッシモは突進して飛んでくる欠片を弾きつつビーストランサーで応戦する。 この時彼は強化によりビーストランサーを使ってもHPを消費しなくなっていた。 シナモンは辛うじて耐えつつも時折反撃し、にゃんこグローブで ダメージを与えつつ特殊効果も狙おうと試みる。 「(チッ…このマリノという奴はデータ通りすばしっこい女だぜ… マッシモとか言う男は俺様どころかディクテイテスよりチビなのに このパワーは侮れねぇ… シナモンというガキは…パワーもスピードもリーチも全然ダメだが データにある回復力と防御力は油断ならねぇな…) ならば…バイキングチョップ!」 プランダラは幾度となく宝刀を地面に叩きつけてきた。 その衝撃は凄まじく宝刀が地面に当たる度地震が起き地割れが発生する。 もちろん宝刀の威力も驚異的なのだがマリノ達に反撃する力があると悟ったプランダラは敢えて大地を攻撃対象にしたのだ。 「この衝撃であたし達が足場をとられるのを狙うってのかい!?そうはいかないよ!」 マリノは地震が起こる度に小刻みにジャンプ、足をとられることなく攻撃を続けた。 「確かにちとしんどいが無理という訳ではない!」 踏ん張りの強いマッシモも地震や地割れにも関わらず猛攻を続けた。 「わっ!わっ!わっ!」 シナモンは足もとられダメージも受けていったがこまめに回復しながら プランダラのボディの一ヶ所に集中的にダメージを蓄積させていき、 そこに他の二人の攻撃がクリーンヒットした。 「グウッ…!流石に強ぇな…! だったらこれでどうだ!バイキングチョップとトレジャークリエイションの複合技…トレジャーチョップ!」 プランダラは巨大な宝石の塊を作り出したかと思うと直後それを宝刀で高速で叩き割り無数の破片を飛ばしてきた。 この攻撃にも三人は見事に避けたり耐えたりして応戦した。 そしてある時… 「動きを封じるのは貴様の専売特許じゃないぞ!ショックランサーβ!」 マッシモは電気属性でバインドの効果を持つ武器、ショックランサーβでプランダラを麻痺させ、 その隙をついてマリノがプランダラの顔面にハイパーダイブを喰らわせた。 「グフ…グフフフ…やはりこいつらの力を借りるしかねぇようだな…はぁぁあ!!」 プランダラが力むと共に宝刀から禍々しいオーラが発生し始めた。 「これは俗に言う妖刀よ。 正確にはロードキングダム発祥の地でお前らの故郷でもある 地球で起こったとある事件に習って宇宙の糞野郎共の魂のデータを封じ込めた代物だ。 ロードキングダムの技術が凄いのかこいつらの恨みが深いのかは知らねぇが 威力は今までとは比較にならんぞ… ともかく死してなおこいつらは俺様にこき使われ続けてるのさ!」 「噂に聞く事件だったけど真似する奴がいるとはね…どこまで曲がってんだいあんたらは!」 マリノは尚も憤る。 「宇宙海賊に義理とか人情とか求めてんじゃねーよ! ゴーストチョップ!」 今まで以上に強力な斬撃が三人を襲う。 「(く…今まで以上に速くて強いね…それでもこのままヒット&アウェイを続けていけば…!)」 マリノは当てる回数よりも避ける回数が多くなってきたがそれでも防戦一方とまではならなかった。 「きゃあああっ!!!」 シナモンは吹っ飛んで気を失ってしまった。 そして、マッシモは直撃を受け続けており、動きも止めている。 「マッシモ!何やって…」「ベルセルクチャージ!!」 ショックランサーβ以上のダメージと隙を与えようとマッシモはベルセルクチャージを繰り出したのだ。 「何発か貰っちまったぜ…もっとチャージ時間を短くする必要があるな。…さあどうだ!?」 「ブベボベブー!!!ブゴチャゴヘンベベベ!!!ブビャバベビブーッ!!!」 プランダラは完全に暴走状態になりブラインド状態にもなっているため攻撃の正確性を失い 時折体がスパークして動きが止まり、ウィルス状態でHPも削られていった。 「散華!!!」 この状態のプランダラにマリノは散華を喰らわせたが… 暫しの沈黙の後プランダラは状態異常も回復し我に返った。 「おのれぇぇええええ!!!!!よくも俺様にこんな無様な真似をさせてくれたなぁあああ!!!」 プランダラは怒りを爆発させていた。 「ちっ、しぶといな…!」 マッシモが呟く。 「おらおらおらおらおらぁ!!!!!」 より一層凶暴性を増して暴れまくるプランダラ。 「ならもう一発ベルセルクチャージをくれてやるぜ!」 「待ちな!様子がおかしいよ!」 見るとベルセルクチャージを再度喰らったわけでもないのに プランダラの理性が崩壊し、動きもデタラメになっていく。 そしてある時、プランダラは自身の首を刎ねた。 「!!!!!」 マリノとマッシモは唖然とし、シナモンは目を覚まし状況を理解しようとする。 直後プランダラは大爆発を起こし、爆炎の中から彼の宝刀が空中で数回転した後に、床に突き刺さった。 「声が聞こえる…これは幻聴かい?」 マリノは宝刀から複数人分の声が聞こえてくるのを感じた。 「いや、俺にも聞こえるぞ」「私にもです」 マッシモとシナモンにもその声が聞こえるようだ。 三人は耳を澄ます。 「(有難ウ…ロクデナシダノクズダノ糞ダノゴミダノト言ワレ続ケテキタ俺達ヲ解放シテクレテ有難ウ…)」 「(最後ノ最後ニ…ヤット…自由ニナレタ…感謝スルゼ…)」 「(俺達ハモウ逝クゼ、サヨウナラ…)」 そして宝刀はひび割れて砕け散り、中から大量の光が漏れて散っていった。 「例にはおよばないよ…あんたらは…最後は自分達で止めを刺したじゃないか…」 マリノは悲しげに言う。 「悪い人達とは言えかわいそうです…このプランダラという人も… でも宇宙の戦争が最初から無かったらこの人達は存在すらしなかったんですよね…」 戦没者の生の声を聞き、そしてレプリアン発生の境遇を考えたシナモンは悲しみの涙を流す。 「…悲しんでる暇はねぇ…行こう、まだアクセル達からの連絡がないからな!」 そう言うマッシモも悲しげだった。 これで宇宙の中心領域の出身者の中で地球、宇宙、ハンター達にとって脅威となる者はもういなくなった。 また1つの時代が終わったのである。 後は残りの地球出身のロードキングダムのメンバーを撃破するだけだ。 その頃「混沌の間」では… 「これは…一体…何なんだよ…」 アクセル達の眼前にあまりにも異常・異質な光景が繰り広げられていた。

第二十話「虹」

アクセル達の入った「混沌の間」では、まるで異次元世界のような空間が広がっていた。 建物の中にも関わらず上には天井は見られず 代わりにさまざまな色が入り混じった空らしき景色が広がっている。 その「空」には雲の代わりに地球や宇宙に存在する有像無像の物体や概念の映像が浮かんでいる。 地上又は上空は通路を構成する壁や珍妙な形のオブジェがそびえ立つ他 ひたすら奇行を繰り返す正規兵と奇怪な姿形をしたメカニロイド達で溢れ返っていた。 正規兵は皆リュミエールの顔を変な風にアレンジした被り物を頭に被り、 うずくまって独り言を言い続ける、妙な歌や踊りで盛り上がる、 奇声を発しまくる、壁にひたすら落書きし続けるなど 各々が意味不明、奇想天外、支離滅裂な行為を繰り返す。 メカニロイドは人体や動物のパーツがでたらめにくっつき合ったり、 身の周りのさまざまな道具や機械に目や手足を付けたり、 適当な図形や文字の形に変な顔を付けたりとあたかもシューレアリズムと呼ばれる絵画や 子供の落書きから抜け出してきたような外見をしている。 これらのメカニロイドもやはり意味不明な動作を繰り返す。 「へ、変な顔のリュミエールさんがいっぱいですぅ… 何かよくわかんないけどとにかくヤバイですよここの部隊は…!」 パレットは思いっきり引いていた。 「どうせリュミエールを嫌ってるって事を表してるつもりでしょ。 その証拠にほら、落書きの内容だって…」 アクセルが壁の落書きを見ながら言う。 壁には前衛的とも退廃的とも言える絵が描かれていたが、 その中にちらほらとリュミエールを風刺する絵が見受けられた。 絵の内容はリュミエールがたこ焼きサイズの地球に爪楊枝を刺して大口開けて食べようとしている、 サッカーボールサイズの地球をリュミエールが愉快げに蹴飛ばして遊んでいる、 群衆がガリガリに痩せ細っている一方リュミエールは豚のごとく肥え太っている、 群衆が「魂」と書かれた商品をリュミエールに渡しリュミエールはその群衆に金貨を差し出す、 といった具合でリュミエールへの風刺の為に描かれた事は明白だった。 またこれらの落書きには描き手の心情が顕著に反映されている為か、 リュミエールが変な顔に描かれている事に加え 極めて下品、もしくはグロテスクな表現も含まれていた。 「前衛芸術のつもりでしょうか。理解出来ませんし、したくもありませんね」 心の痛みを感じないリュミエールが冷静に呟く。 すると正規兵達が三人に気付いた。 「来たな白の化け物リュミエール!貴様を倒して悟りを開いてやる!」 「我々は敢えてこの醜い仮面を被っている。この心に湧き上がる情念を忘れんが為に…」 「隊長はおっしゃられている…貴様等を倒せばより真理に近づけるとな…!いくぞ!!」 号令と共に正規兵達は攻撃を開始した。 彼等の攻撃方法やとった行動も様々でそれが度々アクセルとパレットの注意を一瞬だが逸らそうとする。 「ばきゅ〜んばきゅ〜ん!!」 「わあっ!?何で銃からおっさんの顔が…!?」 正規兵の持つ銃から中年男性の顔のようなエネルギー弾が発射されてきた。 しかし流石にアクセルの動きが速く、その正規兵は直ぐに集中力を取り戻したアクセルに 弾丸をかわされた挙句自らも頭部を撃ち抜かれてしまう。 「俺の描いた絵は本当になるんだぞぉ〜!!」 正規兵の一人が手元にエアディスプレイを出現させ、次にペンのような小型の装置で そのエアディスプレイに絵を描いた。 絵はここのメカニロイドや落書きに負けず劣らずシュールでグロテスクな物体が描かれていたが 突如それがエアディスプレイから出てきて実体化した。 これは過去のイレギュラー戦争にも見られたウィルスを実体化させる技術である。 正規兵は高速で珍妙な外見のウィルスを召喚してくる。 「ひぃぃぃぃ!!!気持ち悪いですぅぅぅ!!!」 そう言いながらもパレットは直ぐにウィルスを召喚している正規兵を撃破し、 ウィルス発生の元を絶った。 「ウキーッ!ウキャーッ!ウッキッキーッ!」 「我が踊りとくと見よ!」 猿の真似をする正規兵と奇妙な踊りをする正規兵がリュミエールに挑みかかってきた。 彼等のこの動きは実は拳法であり、普通なら非常に読み辛く、かわし辛い動きだった。 そんな彼等の動きをリュミエールは軽くいなし、同時にエンジェルズ・シュートで撃破した。 「只暴走している訳ではなく戦う意志はあるようですね」 リュミエールがそう言うと正規兵達がこれに応じた。 「如何にも。我等の行為一つ一つに意味があるのだ。我等は意味があってここにいる… そして貴様らのような視野の狭い連中が狂っている、無意味だ、必要ないと言う この宇宙のありとあらゆる存在や行為にも意味がある…! それ故あらゆるもの、あらゆる行為の意味を否定し、存在を抹消してしまうリュミエール、 そしてその同志を粛清する事こそ真理への大いなる一歩なのだ!」 訳のわからない事をまくしたてながら正規兵はなおもメカニロイドを従えて三人に襲いかかってくる。 実際に彼等の奇行は全て攻撃へと繋っていた。 ある者はゴミをしきりに投げつけるが実際はそれは爆弾かもしくは凄まじい重量の金属塊だった。 またある者はおもちゃのピコピコハンマーと思しき武器を振り回すが そのピコピコハンマーはおもちゃっぽいのは見た目だけで 重量も打撃の威力も見た目からは想像がつかない程だった。 全く攻撃に関係ない奇行を行う者もいたがそれは注意を自分に引き付け、 違う方向から他の正規兵やメカニロイドに攻撃させるための囮作戦だった。 しかしそれらの攻撃が激戦をくぐり抜けてきたアクセル達に通用する事は無く、 正規兵とメカニロイド達は急速に撃破されていき、その数を減らしていった。 「ならばこれでどうだ!?ア゛〜ア゛ア゛〜ア゛ァ〜♪」 「ボエェェェ〜♪」 正規兵達は突如として一斉に歌い出し、中には楽器を演奏する者もいた。 「こ、これは…!?」 曲調は狂気が滲み出ていた。 常人が聞けば確実に発狂するだろう。 この歌と演奏は破壊音波を生み出す為のものでレプリロイドの感覚や精神を狂わせる効果がある。 その一方でこの音波の波長は自分達やここのメカニロイドには無害で 同時にメカニロイドに指示を出す役割も持っている。 「それがどうした!!」 これもアクセル達には効果が薄く、頭の中にちょっとした不快感を与えるだけに過ぎず、 しかも意識を集中させる事で容易にはじき返す事が出来た。 こうして勢いが止まることなく正規兵達とメカニロイド達は一掃されていった。 「……」 その様子を遠くからこの地を統括する八神将が監視していた。 その頃ハンター達の宇宙船では… 「最後の八神将だが絶対にナメてかからねぇ方がいいぞ… 奴の名はカオシック・アメーバイオと言ってな、 元々は俺も配属されていた強制収容所で所長をやっていた。 奴は最強の八神将で、パワーもスピードも防御力も八神将一だが 本当のヤバさはそこじゃねぇ。 何か言葉では表し辛ぇ恐ろしいものが奴にはあるんだ… それは直接奴に会って初めて分かるだろう…」 スコルピーがハンター達にカオス星を統括する八神将、アメーバイオの事を深刻そうに話していた。 「そんなにやべぇのか…だが強い奴、やばい奴を俺達はこれまで何人も相手してきた。 そのアメーバイオとか言う奴もその中の一人にしかならないだろうし、 そうならなきゃならねぇ。 事実アクセルも事件の度に確実に成長してるからお前もアクセルをナメない方がいいぜ。 とにかく注意は必要かもしれんが余計な心配は無用だな」 ゼロがスコルピーに言う。 「彼の特徴から言えばヒット数の多い攻撃が効きそうですね。 あと今のパレットもアクセルさんとのチームワークは評価出来ますよ」 アメーバイオのボディの特徴の事を既に聞いていたレイヤーが言う。 「頼もしい事を言ってくれるじゃねぇか。 確かにアメーバイオ如きにつまづいてる場合じゃねぇからな。 リュミエールもさらに力を取り戻したし、 アクセルの可能性も否定できたもんじゃねぇらしい… ならば俺達はここでどっしり構えてるとするか (アクセルか…奴の境遇にも気にかかる事があるな…)」 スコルピーが何かを考えながら言う。 実はスコルピーは自分とは似て非なる立場のアクセルの生き様についても考える事があった。 同じDNAを持つのはもちろん元々日の当らない所で悪人を殺してきた事も共通している。 しかし自分は政府公認の組織で職務を遂行していたが後にイレギュラーであるロードキングダムに身を落とした一方で アクセルは政府非公認で仕事をしていたが後に政府公認のイレギュラーハンターになったという差がある。 またかつて自分が強制収容所で職務を遂行する時には悩みに振り回されたが、 アクセルには悩みが無いという逸話があり事実彼には一見悩みが無いように見える。 彼には本当に悩みは無いのか、それとも彼にも悩みはあるのか… また自分と彼を比較して何が見えてくるのだろうか… そんな思いを張り巡らせるスコルピーだった。 一方アクセル達が奥に進んだ先には壁一面に奇妙な絵画のような物がびっしりと飾られていた。 壁に飾れらている絵の内容は白い背景の中央に色のついた顔のような模様がついているといったもので 色は赤、青、黄、緑、紫、ピンク、オレンジ、黒などと様々だったが 顔のような模様は一概に苦悶の表情を浮かべていた。 「また変な顔がいっぱいですよぅ〜…!」 パレットはまた引いていた。 「これ何?」 「これはこの星の八神将のカオシ…」 アクセルが疑問の声を漏らし、リュミエールが説明しようとすると、 突如として上からスライム状で半透明の物体が降って来た。 「(来る…!)」 アクセル達はその場の空気が狂気に包まれていくのを感じ取り、 その物体が降ってくる場所から一気に距離を取った。 降って来た物体は既に地に落ちていた物体と結合し、どんどん大きくなっていく。 最後は巨大で球形な本体が降ってきてスライム状の物体の中に入り込み、 その物体から手足が生えた。 どうやらそれの正体はレプリロイドで、スライム状の物体の中に核があるという容貌は アメーバを彷彿とさせる。 球形の本体の両脇からはパイプのような腕が生え、 下部は左右で2つずつ、合計4つの小さなパーツと結合せずに連絡されている。 この小さなパーツは膝関節と足の役割を担い、 スライム部分の脚の動きを制御する為にある。 何より強い特徴は狂気を感じさせる白い瞳だった。 彼こそが最後にして最強の八神将のカオシック・アメーバイオである。 「これが…最後の八神将…!」 アクセルはやや気圧されつつ固唾を飲んだ。 明らかに異質な空気を感じ取ったのである。 「また不可解な破壊活動をやっているんですね、アメーバイオさん」 リュミエールが言う。 「貴方がここのボスですね!ほんとに貴方は何をやってるんですか!? 訳の分かんない事に皆を巻き込むのはやめてください!」 パレットがかなり引きつつ言う。 これにアメーバイオはつぶやくように、しかし大きく響き渡る声で応えた。 「…万物は解釈だ…」 「???」 三人が唖然とする中アメーバイオは続けた。 「アクセル…貴方の顔には傷がある… 傷は美貌を損なうと言われている… しかし一方で戦いの勲章という見方もある… 故に数多の戯曲で顔に傷を持つ登場人物は数多い… パレット…貴方は女にも拘わらず胸が無い… しかしそれを好む男も多いだろう… そして…白の化け物リュミエール… 貴方の容貌は多くの女に好かれるだろう… しかしたくましさ男らしさを求める女にとっては 貴方は貧相・貧弱に映る事だろう…」 「ちょっと何ですか!人の事いきなり胸が無いって…!」 パレットが抗議しようとするがアメーバイオはそれを無視して話を進める。 「このように世界には様々な見方がある…解釈が存在する…色がある… この神聖なる法則は絶対に覆してはならないのだ… にも拘わらずリュミエールは…この世に存在するありとあらゆる色を白で塗り潰す… 只一つの色ばかり偏愛し世界を食い荒らし飲み込もうとする… そんな貴方は白の化け物だ… 貴方のやり方は真理への冒涜であり、貴方のやり方に反する事と、 貴方を粛清する事こそ歴然たる大原則なのだ…!」 「また来るぞアレが…うう…頭が割れそうだ…!」 アメーバイオはマインドコンタクトで己とリュミエール、 そしてセイントサンクチュアリの過去を伝え始めた。 彼の狂気じみた性格の為か伝わってくるイメージも退廃的で 言葉ではとても表せない禍々しさを秘めていた。 ―それはリュミエールがマインドコンタクトを発明する直前の頃だった。 アメーバイオは当時セイントサンクチュアリで強制収容所の所長であると同時に 異常犯罪者の担当長官でもあった。 セイントサンクチュアリでは犯罪を犯した者、もしくは他人に迷惑をかけた者は 精神に異常をきたしていても隔離施設、刑務所、 そして強制収容所に収監される事になっていた。 「俺は悪くないんだぁぁぁあああ!!! 俺を無視したあの娘が悪いんだぁあああああ!!! 俺とあの娘は愛し合う運命だったんだぁぁあああ!!! これは宿命なんだよぉぉぉおおおおおぉぉおお!!!」 ストーカー殺人を行った受刑者が発狂しながら叫び狂っていた。 「何故そうなるのだ…?確固たる根拠はあるのか…? いずれにせよ貴方の虚言は通じない…誰にも届かない…」 アメーバイオは彼を無視して電波を彼に向けて放った。 「何でだぁあああ…何で俺が罰を受けぼあ!!!!」 アメーバイオの電波は精神を破壊する効果があるが、 それに伴って肉体まで破壊する効果もある。 受刑者は発狂した後体が内部から破壊されて死亡した。 これは人間がしばしば精神のダメージが肉体に影響を与える事にも似ており、 レプリロイドにそのような状態が発生した事件も過去に起こっている。 それはナイトメア事件である。 もちろんアメーバイオはナイトメアウィルスを放っているわけではないが 理屈は似たようなものである。 そしてアメーバイオは死んだ受刑者の顔に派手な色のペンキを塗って それを紙の上に力強く押しつけた。 「貴方の色は世間からは醜く見られて、受け付けられない… 故に貴方は世間に捨てられたのだ… しかし私はそんな貴方に綺麗な色を与え、その顔を遺しておいてあげよう… 私は背負っていく…貴方の死に顔を… 貴方がいた事を私は忘れない…」 アメーバイオはこうして出来た受刑者の顔の魚拓のような物を壁に飾った。 既に色とりどりのデスマスクの魚拓が沢山飾られている。 魚拓だけではない。 アメーバイオは様々な処刑法で受刑者を処刑し、 その亡骸を様々な形のオブジェにして飾っていた。 「うげぇ〜、良い趣味してるぜ本当によ…」 「頭が変になりそうだぜ…」 後に正規兵となる彼の部下はその様子に引いていた。 この時彼等はまだ奇行に走っていなかった。 他にもアメーバイオはとてつもない豪腕の持ち主でもあり、 受刑者を圧殺する時の衝撃は凄まじく、施設中に地響きと共に断末魔の絶叫が響き渡る。 これも部下達から恐れられていた。 強制収容所は広さ、頑丈さ共に彼に合わせて設計されていたが 離れた場所で彼のパワーを感じる度、看守達は建物が壊れるのではないかと言う不安に晒された。 彼もまた、全く仁徳が無かった。 ほぼ同時期にセイントサンクチュアリの街では問題のある人格を 科学技術で矯正する事が叫ばれ始めていた。 問題のある人格とは乱暴な性格や意地の悪い性格は勿論、 思慮の足りなさや奇妙奇天烈さの事でもある。 そもそもセイントサンクチュアリでは犯罪や迷惑行為を行う者、 自らを危険に晒す者を隔離施設、刑務所、そして強制収容所に収監しているが、 これを実行する前にも下準備があった。 本格的な犯罪者ならいざしらず、 ちょっと意地悪だったり変わっていたりしているだけで直ぐに捕まえて隔離するのはきりが無く、 また社会に対し色々と弊害をもたらす為に本当に酷い者をふるいにかける手段が実施されたのだ。 それが教育番組やドキュメント番組、その他諸々のキャンペーンである。 この運動はセイントサンクチュアリの民度を高める事に貢献し、 それでも変わりようの無かった酷い性格の持ち主が目立つ事になった。 そういう人物が捕まって、各施設に隔離されたのだ。 強制収容所は只受刑者を苦しめた挙句処刑するのが主な目的だったが 隔離施設と刑務所では受刑者を更生させる事が真剣に取り組まれた。 そして大抵の受刑者は刑期満了と同時に出所できたが、全員がそうではなかった。 更生せず刑期が延長され続ける者が刑務所に少なからず存在し、 隔離施設ではさらに少なかったが0人ではなかったのだ。 隔離施設では… 「えぇ〜まだ出れないのかよぉ〜」 「我々も精一杯努力しているが君自身が変わらなければどうしようもないんだ。 君がそのまま出る事で傷つく人がいる。分かるかい?」 隔離施設の職員が受刑者に諭す。 刑務所では… 「く…何故また不合格なんだ…(俺の迫真の演技が…)!」 「テメーみてーな糞出してやんねーよ! くっせぇ芝居しやがって、バレねーと思ってんのかコラ!!」 看守が受刑者を罵る。 その一方で受刑者達の刑期が延長する度に悲しむ者も確実にいた。 「いつまでも待っているから、早く帰ってきて…」 「あの子が早く出てこれるよう寄せ書きを書きましょう」 この事態を知ったリュミエールは悩んだがさらに彼を悩ませる事件がある日起こった。 タヌキースが任務に当たる際民間人まで暗殺し始めたのだ。 その民間人達は素行の悪さが発覚するや否や隔離施設行きかその他の処罰が検討されたが そのさ中にタヌキースに暗殺されてしまった。 「(これは事を急ぎますね… 性格に問題を抱える方々を放置すれば社会に弊害が出るのは明白… かと言って容易に処刑や隔離しても誰かが傷ついてしまう… ならば皆が皆最初から性格に問題が無ければ… 余計な感情が無ければ…最初から苦労はしません。 いよいよあの手段を使う時ですね」 そしてリュミエールは様々な手段を通じて悪い性格のみを科学技術で修正する案を 国中に広めていき、徐々に受け入れさせた。 そんな中リュミエールはマインドコンタクトの前身となる装置を開発し、 まずは強制収容所で実施した。 この時「常識」「模範」「道徳」などを刷り込まれ全く「普通」になった受刑者達に アメーバイオは何か強い不快感を覚えた。 「彼等から色が消えた…個性が消えた… 彼等には彼等の色があったのに社会に合わないと言うだけで消されてしまった… こんな事が許されていいのだろうか… 人の心という真の聖域(サンクチュアリ)を侵す事が… 許されて良いのだろうか…」 その後リュミエールがは装置に改良に改良を加えつつ、刑務所、隔離施設の受刑者達の 性格の修正も実施した。 同じ頃街の中でも「酷い性格の持ち主」に感情操作を行う事が既に叫ばれており、 ついに民間人まで感情操作を行う日が訪れた。 その日はセイントサンクチュアリ全域で生放送が行われた。 番組で時の首相、ランバートが演説する。 「親愛なる国民達に告げる。 今日はこの国に生きる人類とレプリロイドにとって新たなる門出の日となる。 さて、この世の中が紳士・淑女だけで成り立っている訳ではないのはご存じだろう。 むしろ現実では悲しむべき事にその逆があまりに多い。 諸君の周りにも嫌な人・困った人がきっといるはずであろう。 彼等の時に粗暴、時に卑劣、時に未熟、時に奇天烈な性格や行為は常に諸君を傷つけてきた。 その一方で彼等にも愛する人がいて、彼等を愛する人もいる。 それ故に彼等を受け入れる事も諸君の課題の一つではないだろうか。 しかし彼等の全てを受け入れるのは諸君にとってあまりに過酷な課題である。 その結果として彼等の性格の問題のある部分のみを最新の技術で修正する事が決定した。 感情を操るなんて、と思う方もいたであろう。 しかし彼等が心の内に抱える数々の問題点は後生大事に取っておくべきものだろうか。 それを諸君に深く理解していただいた結果、遂に世論はこの手段を受け入れ、 現在では反対する方は統計学上0人に等しくなった。 この結論は諸君自身で出したものなのだ。 そしてこれは彼等を救う事にもなる。 彼等の性格が修正される事で傷つく人は減り、彼等自身が傷つく事も無くなるからだ。 それは結果として本当の平和と平穏に繋がるのだ。 古来より精神の自由を侵す事は禁忌とされてきた。 だがしかし我々は人類とレプリロイドの未来の為に敢えて禁忌を侵そう。 それにより我々は莫大な恩恵を受ける事が出来るのだから。 願わくば、地球全土に我々の愛の恵みを…」 これを見た視聴者達は完全にこれから行われる事を受け入れる準備が出来ていた。 「まぁクズがいなくなってくれるならな…」 「うちの子、手が掛かるのよね…」 「クラスのウザい奴が黙ってくれりゃ万々歳だぜ」 この中には自分の汚点に気付かず他人を何とかしてほしいと考える者も数多くいた。 そして、遂にそれは行われた… 「素晴らしい…知識と愛が溢れてきます… もう私が誰かを傷つける事はないでしょう。 父さん、母さん、私はもう二人や社会に迷惑をかける事はありません。 今の私は本当に幸せです…」 赤ちゃんが淀みない口調で言う。 「まぁ、こんなに立派になって!ママ嬉しいわ!」 「これで辛い子育てをしなくて済むぞ、ハッハッハ!」 赤ちゃんの両親も感情操作の影響か、これをすんなり受け入れた。 「周りに嫌な奴がいなくて勉強も全部わかるって何て素晴らしいんだ…! こんなに世界が明るくなるなんて思わなかった!」 小学生達が歓喜の声を上げる。 「もうやんちゃは卒業だ…この国では権力に逆らえば逆らうだけ空しいだけだもんな…」 「ああ、それに世間様に迷惑をかけようなんて余計な感情、捨てちまおうぜ」 不良予備軍の少年達が何かを悟ったように改心していった。 「私は罪を犯したんだ。どうか裁いてくれ…!」 思い当たる節がある者が次々と自首、ないし懺悔し始めた。 感情操作の結果治安が急激に良くなり、セイントサンクチュアリに平穏の日々が訪れた。 しかしアメーバイオはこれを快く思わなかった。 「人は集まって社会を成せば確かに個性は薄まる…色が薄くなる… それは集団が集団たる為には仕方のない事だ… それでも個々には心があった…魂があった…色があった… これはこの世界の大原則だったというのに… 何故その大原則を破壊する… 何故世をたった1つの色で塗りつぶす… 何故貴方が基準なのだ…」 問いかけるアメーバイオにリュミエールが応えた。 「従来の社会では悪事を行う事も誰かを傷つける事も良しとされていません。 社会があれば法律は勿論の事、常識やマナーも守らなければなりません。 それをしない、もしくは出来ない方は『悪』と見なされ他人を脅かし自分の身も滅ぼしてしまうでしょう。 そんな『悪』とされる事を皆様が最初からやらないようにしてどこが困るというのです? 僕は自分を基準に皆様の性格を修正しているわけではありませんし、 僕は皆様の個性を全て奪ってはいません。良い個性は残して差し上げてます」 「(これが世間の下した結末なのか…消えていく…廃れていく…滅んで行く… 群衆の織りなす模様が…群衆が奏でる音色が…群衆の持つ色が…)」 リュミエールに対抗する術が無かったアメーバイオは途方に暮れた。 そんなアメーバイオに転機が訪れた。 フォースメタルの惑星にてリュミエールが最初に撃破され、 アメーバイオも含む現ロードキングダムの構成員達の内に秘めていた思想が解放されたのだ。 絶対神はアメーバイオに言う。 「フヒャーヒャヒャヒャ!愉快ジャ!実ニ愉快ジャ! ウヌハソウヤッテ心ノ赴クママ狂イマクルガイイワ!!」 しばらくしてアメーバイオはプランダラを倒し、この事件が発端となり宇宙の中心領域が ロードキングダムの支配下に収まった。 その際アメーバイオはカオス星を統括する事になった。 カオス星に駐在する宇宙海賊は種族も容姿も思想も性格もバラバラだったので これがアメーバイオに刺激を与えた。 「何と言う色とりどりの世界だ… この星の住人には様々な見方がある…色がある… ならばこの私がさらに真理へと近づけてあげよう…」 …といった唐突かつ不条理な理由でアメーバイオはカオス星に更なる混沌をもたらしたのだった。 …… 「うぅう…やっと終わったですぅ〜…」 伝わって来たイメージがあまりに滅茶苦茶だった為パレットは 精神的にかなり疲弊していた。 「何か詳しい事までは良く読み取れなかったんだけどさ、 あんた『色んな人がいるから面白い』と言いたい訳? そりゃ分からないでもないけどあんたはやっぱイレギュラーだよ。 だってあんたはこの星の人達を徒に暴走させてるだけじゃん。 結果として悪い奴等(プランダラ海賊団)は好き勝手やるし、 他の人達もとち狂って餓死とか殺し合いとか自殺とかしてさ… これが真理だって本気で言ってるの? 僕だって何が悪い事かは分かってるつもりさ。 それにね、今のリュミエールは変わり始めているんだよ?」 アクセルが言う。 「そもそも混沌を重んじるのが愚の骨頂なんですよ。 人が集まる時、法も秩序も指導者も無ければ皆迷い果ててしまうでしょう。 僕は皆が迷わぬよう、世に完全な秩序を見出そうと努めてきました。 故意に人を迷わせるどころか倫理や感性を破壊してしまう貴方のやり方は論外です。 皆が皆平和に暮らすには秩序が必要なんですよ」 リュミエールが言う。 「分からなくもないですがこれもちょっと引くかもです…」 パレットがリュミエールにそう言いかけた時… 「パレット…貴方は絵を描く時の画材を元に名付けられている… 丁度いい…貴方に問う… 絵を描くとする…描くなら美しい絵がいい… 白一色で美しい絵が描けるか…?」 アメーバイオがパレットに尋ねてきた。 「え、え?あの…」 パレットがあたふたしてると銃声が響いた。 ホワイトアクセルを発動したアクセルがアクセルバレットをアメーバイオに撃ち込んでいたのだ。 「パレット、迷うこと無いよ、こいつは敵なんだ…要塞の外で何を見たか思い出すんだ…」 アメーバイオはと言うとバレットの弾がスライム部分を押しのけ、 あと僅かで本体に弾が到達する所まで来てたが、直ぐにスライム部分の形状を元に戻した。 「宜しい…ならば貴方達も招待してあげよう…肉体と精神を超越した世界に…」 まず最初にアメーバイオは目から電波を放った。 「ルナティックパルス…」 「く…気をしっかり持つんだ…!」 この電波レプリロイドの精神を破壊し、肉体も破壊する効果がある。 普通なら即死レベルなところを三人は何とか耐えたが、 耐えきる前にアメーバイオが次の行動に移った。 「コラプトスライム…」 アメーバイオはアクセルに向かって自分の体の一部を飛ばして動きを封じた。 「こんな物で固めた所で直ぐに抜け出し…うぎぎ…!!」 スライム部分には電波を増幅させる効果も備えており、 アクセルはより多量の有害電波を浴び、精神のダメージが肉体に作用し、 体の所々にダメージを負っていった。 「ソリッドハンマー…」 次にアメーバイオは硬化させた拳をパレットに振り下ろした。 「きゃっ!?」 咄嗟にビットを召喚し攻撃を防ごうとしたパレットだったが 瞬時に押し負け、ビットが破壊されて地面にめり込んだ。 パレットは相当なダメージを負ってしまった。 「セパレーションタックル…」 さらにアメーバイオはスライム部分を分裂させて リュミエールに向けてそれを次々と高速で飛ばし、その中に本体も交えてぶつけてきた。 スライム部分の破片数個と本体がリュミエールに衝突し、その度にリュミエールはダメージを受けた。 この時のスピードはタヌキース以上であり、リュミエールは何とか踏ん張ったものの 体の各所に傷を負っていた。 しばらくして飛んでいったスライム部分が結合し、その中にアメーバイオの本体が入った。 一方アクセルはスコルピーの特殊武器、マグネットストームで自らの体を覆うスライムを吹き飛ばしていた。 「あいてててて…さっきレイヤーが言った事が役に立ったな…」 マグネットストームはヒット数が多く電波も妨害する効果があった。 そしてアクセルはすぐさまパレットに回復アイテムを与えた。 「有難うです、アクセル」 パレットはアクセルに礼を言った。 リュミエールもダメージは負ったものの直ぐに体勢を立て直していた。 そして三人の反撃が始まった。 アクセル、パレットはマグネットストームでアメーバイオを攻撃し、 リュミエールはスコルピーのDNAデータをコピーしてアメーバイオに挑む。 ちなみにこの時リュミエールは変身している訳ではなく ルミネのようにボディの色が変わっており、深い紫色になっていた。 元々アクセルはパレットと息の合ったコンビネーション攻撃を得意としていたが、 この戦いを通じてリュミエールとも息の合った戦闘が出来るようになっていた。 その為この三人が組むと個々で戦う時と比較にならない強さが生まれるのだ。 しかし最強の八神将だけあってアメーバイオも負けてはいない。 肉体と精神の両方にダメージを与え攻撃範囲も広いルナティックパルスはまともに浴びれば隙を作ってしまうし、 巨大な体に見合ったパワーも桁外れでその上さらに硬化させた腕で殴られればアクセルとパレットはダウンしてしまう。 その場合でも残る二人で何とか応戦し、アメーバイオに隙が出来次第 一人が倒れた者に回復アイテムを与える事で戦況は再度好転する。 こうして一進一退の激しい攻防戦が展開されていくかのように思われた。 その頃マッシモ、シナモン、マリノは「混沌の間」に侵入していた。 「何なんだこの光景は…訳が分からねぇぜ…」 「全くだよ。頭がおかしくなりそうだね」 混沌の間の様子を目にしたマッシモとマリノはやはり引いていた。 「それより向こうの方で何か起っているみたいですよ。…凄い音ですね…」 シナモンがそう言う通り、アクセル達の激戦による衝撃音や地響きはこちらにも伝わってきていた。 「ボスと戦っているに違いない!こりゃ行くしかないだろ…!」 そして彼等はアクセル達の下を目指した。 さてアクセル達だがしばらくするとアメーバイオにやや流れが傾き初めていた。 こちらの回復アイテムはもう尽きようとしており、その為アメーバイオは攻撃をかわすのに必死なのに対し、 先程から攻撃を受け続けているアメーバイオはまだ余裕が見られた。 「弱点武器で攻撃してこれかよ…!」 「本体も充分硬いなんて反則すぎるですよ…!」 アクセルとパレットは追い詰められていた。 「ソリッドプレス…」 アメーバイオは全身を硬化させ、三人を押し潰しにかかった。 「うわ!」 三人はアメーバイオの下敷になってしまった。 アクセルはパレットをかばって瀕死の重傷を負い、パレットは直撃こそ免れたもののかなりのダメージを負った。 一方でリュミエールも両腕でガードしたもののその腕にダメージを受けた。 直後今度はパレットがアクセルに回復アイテムを与え、三人は再度体勢を立て直した。 「もう出し惜しみしている場合ではありませんね…」 リュミエールがそう呟いた。 「「えぇっ!?まだ何かあるの!?」」 アクセルとパレットが驚きつつも尋ね、リュミエールはそれに答える。 「実は僕にもハイパーモードがありまして、その状態でのみ私用出来る最強技もあります。 計算上今の僕はそれらが使えるまで力を取り戻しました。 しかし同じく計算上それらを使うと体に負担がかかるので今まで温存していました。 ですが相手の守りの堅さと攻撃力を踏まえ、尚且つ仲間を守る為なら今その力を解放しましょう。 …ハイパーモード・レインボーセラフ、発動!!!」 そう言ってリュミエールは上空に浮かび上がり、次の瞬間リュミエールの体の中から途方もない力が満ちあふれてきた。 そしてリュミエールは虹色のアーマーで背後には6個の結晶体の形をしたビットを従えた姿「レインボーセラフ」へと変身した。 「これが…リュミエールのハイパーモード…」 アクセルはただただ圧倒されていた。 その頃マッシモ達もまたリュミエールが放つパワーを感じると共に遠くでその発生源を確認した。 「何だ、リュミエールが…虹色に…!?」 「あのでっかい奴が八神将だね…あいつも凄そうだけど…」 「と、とにかく凄いです…」 彼等もまた圧倒されていた。 「この姿を見るのは本当に久しい… 白の化け物の分際で虹色を呈するとは何ともおこがましい事だ…消え去るがいい… セパレーション・タックル…」 アメーバイオはリュミエールにセパレーションタックルを仕掛けてきた。 「セラフィム・バースト!!!」 リュミエールはこれに向けて全てのビットと両手から虹色のレーザー弾を一斉に放った。 「おおおおお…」 アメーバイオはスライム部分が吹っ飛び、全身に大ダメージを受けた。 しかしまだ息があり、飛び散ったスライムが本体に集まり始めた。 その時だった。 「(来たぞ…!)」 ファイナルストライクが発動した。 「「「はああああああああ…!!!!」」」 三人が上空に浮かびあがり、アメーバイオの真上で正三角形の形に配置した。 次にアクセルが赤い光を、リュミエールが青い光を、パレットが緑色の光をアメーバイオに放つ。 その光は一ヶ所に集まるとドーム状の爆風を生む大爆発を起こした。 「消えていく…私という存在が無になっていく…」 アメーバイオは消滅した。 「はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」 三人は地に降り立ち、リュミエールはクールダウンした。 リュミエールの計算は正しく彼は反動で相当疲弊しているように見えた。 「…皆さん大丈夫ですかー!?凄い傷ですね…」 落ち着きを取り戻したシナモンが三人を回復させる。 「よ、良くやったな…ハハハ…」 「たまげたよ本当に…」 マッシモとマリノも感心していた。 彼等がこの戦いを見たのは一瞬だったが遠くからでも分かるアメーバイオの強さと存在感、リュミエールのハイパーモード、 アクセル達のファイナルストライクからとてつもない激戦があった事は容易に分かった。 「まだですね…レインボーセラフ発動の度に負荷が掛かるようでは…この先の戦いには… アクセルさん、パレットさん…先程は手を煩わせてしまいましたね… 僕がもっと力を取り戻していれば…一人で敵を倒す力を持っていれば… 今の僕の力では地球を救う事なんて…」 リュミエールが呟き始めた。 彼が滅多に見せない悩みの表情を浮かべながら… 「何言ってるんだよリュミエール、そういう時こそ助け合うんじゃないか! 僕だってこれまでずっと仲間と助け合ってここまでやって来たんだよ!」 アクセルが言った。 パレットもそれに続く。 「何でも一人でやろうなんて水臭いですよ。私でよければいつでも力になりますよ。 それに秩序とか平和っていうのは皆で力を合わせて守るものだと私は思いますよ」 「……!」 リュミエールははっと何かを思いだし、色々と思いを張り巡らせた。 自分はこれまで数多くの人々を助けてきたが、同時に自分も数多くの人々に助けられてきた。 セイントサンクチュアリ建国当時も現ロードキングダムの構成員やランバート、 その他大勢の権限やスキルのある人々の力を借りたし、 力も頭も優れている訳ではないが傷付き悩んでいる時自分に優しく声をかけ、 励ましてくれた人々はさらに多くいた。 今回の事件でもフラン星でプロパガンダに、地球でアクセルとパレットに命を助けられ、 ロードキングダムとの戦いでもハンター達の協力のおかげで 独力で臨んだ場合とは比べ物にならない程早く戦いを進める事が出来た。 これらの事を踏まえ、リュミエールは言う。 「互いに助け合う事…それは確かに尊ぶべき事ですね… あわよくばそれを全員が出来ればいいのですが…」 「リュミエール…」 複雑な表情でアクセルが呟いた。 だがしかしリュミエールの当初の 「最終的に自分一人だけで地球全土を管理し、他の全ての感情を操り、思想や価値観を共有する」 という目的は確実に揺らぎ始めたのであった。 こうしてロードキングダムが抱える八部隊が全て壊滅した。 残るはフォースメタルの惑星で待ち構える絶対神と三神帝、そして彼等が率いる部隊のみである。 同じ頃そのロードキングダムの本拠地にて決起集会が行われた。 「兵共よ、先程遂に八神将の部隊が壊滅した!いよいよ我等の決戦の時が迫って来たのだ! リュミエールがしでかしてきた事と裏切り者のスコルピー除く八神将の死を忘れず手筈通りに事を進めよ! 貴様等の武運を祈る!」 基地内の全正規兵の前でディザストールが演説する。 「リュミエールの糞ガキめ、俺達の恨みをぶつけてくれるぜ!」 「フリードリヒ様、レオパルダー様、イフリーテス様、アノマロイド様、タヌキース様の死を無駄にするな!」 「まぁフライーター様とアメーバイオ様はいなくなってちと安心したがスコルピー様が裏切ったのかよ… いや、それが何だ!絶対神様の為ならば…!」 正規兵達は湧き上がった。 必然的な流れかフライーターとアメーバイオの死を悼む者は彼等の中にはいなかった。 アブレイズとグレイシャアもそこにいた。 「あああああ…!あのフライーターとアメーバイオが死にスコルピーが裏切ったと…! 何と言う悲しさだろうか! 特にスコルピーよ、面倒を見てあげた恩を仇で返すなどとは… あの男に少しでも私の悲しみを分けてあげようではないか…!」 グレイシャアが逐一ポーズをとりながら絶叫する。 「やかましい!しかし八神将を倒すとは、俺と戦う資格は十分にあるわけだ… たぎる…!闘志がたぎるぞ…!」 アブレイズがそう言いかけた時… 場の空気が急激に張りつめた。 「イヨイヨダナ…余ガ言ワントスルコトハ先程ディザストールガ言ッタガ、 余カラモ言ワセテ貰オウ… 全テハ余ノ為ニ、ウヌ等ノ力ヲ捧ゲルノジャ!余モウヌ等ノ武運ヲ祈ッテオルゾ!!!」 そこには身長は人間の二倍程で単眼、頭は角だらけで肩当ては棘だらけ、 黒く厳つい腕が覗く紫色のマントを纏ったレプリロイドがいた。 声は機械で変えられたかのような不気味な声だった。 そのレプリロイドが現れた時、正規兵達は一斉に地に伏し、頭を地面に当てた。 「絶対神様…!貴方様のお姿を拝するのは久しゅうございます! このディザストール、従来より真の主と見込んだ貴方様の為に 全身全霊をかけて戦に臨みましょうぞ…!」 ディザストールが言う。 三神帝と正規兵達の前に現れたレプリロイドは絶対神だったのだ。 「私は絶対神様をお守りする立場…今でこそグレイシャア並の力しかありませぬが いつかはグレイシャア、ディザストールを抜き、貴方様の力も…」 アブレイズが言う。 「貴方様とリュミエールの秘密はあまりにも悲しゅうございます! この悲劇を奴等が知るのを私も心より楽しみに待っております…!」 グレイシャアがまたしてもポーズを決めながら言う。 「イヒャヒャヒャヒャヒヒヒハハハァ!!!!!! ディザストール、ウヌノ忠義ハ変ラナイノウ! アブレイズノ闘志トグレイシャアノ滑稽サモ相変ワラズデ何ヨリジャ! イヨイヨリュミエールヲ暗闇ノドン底ニ突キ落トス時ガ来タワ! アクセルハ収マルベキ鞘ニ収マルガヨイ! 他ハ余ノ赴クママ料理シテクレヨウ! ウヌ等ガ来ルノヲ待ッテオルゾ…! フヒャーヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!!」 絶対神は狂ったように笑い続ける。 宇宙の運命を懸けた激烈なる最終決戦は、すぐそこまで迫ってきているのだった…

第二十一話「造られし者」

ハンター達がフォースメタルの惑星「メタルプラネット」に着陸するしばらく前の事… 「さて、これで他の星の方々を帰す事が出来ますね」 機械を操作しているリュミエールが言う。 というのもリュミエールは今までに保護した宇宙人達を帰す準備もしていたのだ。 各星にはセイントサンクチュアリと同じバリア障壁を張り、無人の宇宙戦艦には 操縦法や宇宙の情報をマインドコンタクトで伝える装置も備えた。 「まずはこの船の皆さまですね」 この時ハンター達を乗せた宇宙船はタヌキースの宇宙戦艦より保護した宇宙人達と ドルフ星より保護した宇宙人の子供達がいた。 「これで俺達は星に帰れるんだな」 「有難う、お姉ちゃんみたいなお兄ちゃん!」 「元々僕の星の者がした行為ですので当然の事ですよ。ではお元気で」 リュミエールは彼等を無人戦艦に転送した。 「次はドルフ星人に宇宙海賊の方々ですね」 危険につき別々の無人戦艦で保護されていたドルフ星人とその支配下の宇宙人 、ドルフ星のレプリアン、宇宙海賊達は直ぐ星に帰される訳ではなく、 最初はフラン星のウォーレスの下に護送される事となった。 彼等を直ぐ解放すると何かと弊害が発生するのは明白であり、また宇宙の事情は宇宙で対処しようと皆で決めた結果こうなった。 もちろんウォーレスとも通信で相談しており、彼は快く引き受けた。 昔の彼ならともかく今の彼は感情に振り回されて大虐殺をやったりはしない。 それをプロパガンダやハンター達も良く知っている事もあって、この結論は下されたのだ。 また危険性を考慮して彼等を乗せた数隻の無人戦艦には操縦法を伝える装置は無い。 「どうせ俺達は悪事に手を染めた身…どうされるかぐらい分かってら…」 「ディクテイテス殿下…」 「お頭…」 絶望と不安の声を漏らす彼等を乗せたそれぞれの船は自動操縦でフラン星に向かっていった。 「さて最後は…」 今度は誰も乗せていない無人戦艦がその前方にワープホールを開け、そのままそれを通り抜けて地球に向かっていった。 「シグナスさん、予定通り無人の戦艦をそちらに送りました。確認して頂けませんか」 「うむ、確かにハンターベース付近にそれらしき物体が現れたぞ」 リュミエールが地球にいるシグナスに通信を入れ、彼はそれに応答した。 「それでは同じく予定通りにその船に今ハンターベースにいらしてる他の星の方々を誘導願います」 再度リュミエールが指示を仰ぐ。 「よし、では君達、この船の中へ」 シグナスがハンターベースで保護されていた宇宙の辺境出身の宇宙人とレプリアン達を無人戦艦に誘導した。 「散々な目に遭ったぜ。悪い夢と思って忘れよう」 「操られていたとはいえ奴らに加担した我々をここまでしていただいて有難うございます。 宇宙の中心領域に旅立たれたハンターの皆さまの健闘を祈っております」 彼等はそれぞれの反応を示しながら無人戦艦の設備を頼りに自分達の星へと帰っていった。 「次は端末の配備ですね」 こうして決戦の準備を進めつつ、リュミエールは船を進めた。 同じ頃アクセル、マッシモ、ダイナモは船内のシュミレーターでトレーニングをしていた。 「ハァ…ハァ…今更だけどこのシュミレーター、ほんと良く出来てるよね…ハンターベースのと同じぐらい? いや、それ以上かも…」 シュミレーターは今までの敵幹部、そして彼等と同様のパワーアップをしたと仮定した場合の三神帝との戦闘を 擬似的に可能にしていた。 難易度の調整も可能である。 「ガウディル研究所の『無限の森』ともいい勝負だぜ…八神将相手だとホークアイ無しじゃ攻撃は当てられんし、 当てても一発や二発じゃくたばらねぇってどういう事だよ… いやいや、弱気になってちゃ駄目だ!うおおおおおお!!!!」 苦戦をしつつも音を上げること無く、マッシモはひたすらトレーニングに打ち込んだ。 「ゼェ…ゼェ…よくこんな奴等相手に頑張る気になれるな… とはいえ、俺もちっとは見習わないと、これからの戦いに勝ち抜けねぇ…な!」 ダイナモもいつになく真剣にトレーニングに取り組む。 開発室では、シナモン、パレット、ダグラス、ライフセイバーがアイテムの開発を進めており、 警備を兼ねたマリノもそこにいた。 「皆さんどんどん強くなって強力なアイテムも装着できるようになってきてますねぇ。 私達も負けませんよぉ〜!」 「この間新しく精製したフォースメタルも私達を含めて皆装備できるようになりましたね。 皆が強くなれば抵抗値も上がり、もっと強力なアイテムが装備出来る… この調子でアイテム開発もトレーニングも頑張るです」 「俺は専ら後方支援だがよ、こういう時こそ腕の見せ所だぜ!」 「同じく」 パレットとシナモン、ダグラス、ライフセイバーがそれぞれそう言いつつ、 アイテムの開発に励む。 彼等が言うようにハンター達が強くなればなるだけアイテム装備時に負荷が掛からなくなり、 その分強力なアイテムも装備出来るので、 それと同時にアイテムの性能も一層求められるようになっていく。 それに応えるべく彼等やこの時はこの場にいないアイリス、リュミエール はアイテムの開発にも心血を注いでいたのだ。 またアイテム開発には宇宙で敵から手に入れたアイテムも大きな効果を発揮していた。 その中には元盗賊であるマリノが敵からすったアイテムも数多い。 その事を踏まえてマリノが言う。 「宇宙で手に入れた力は敵が使うと恐ろしいけどこっちのものになれば確かに便利だね。 でもこの戦いが終わったらあたしは宇宙のアイテムを現地の人達に返そうと思うんだ」 「え、どういう事ですか、マリノさん?」 シナモンが尋ねる。 「あんた達も見ただろ、宇宙の悲惨な状況を。 こうなったのは半分はあちらさんの都合だけどもう半分はあたし達の星のレプリロイドが巻き込んじまったんだ。 だからこの戦いに勝ったらこの力を宇宙で困っている人達に返す事で少しでも償いをしたいと思っているんだよ。 あたしが何故盗賊をやっていたか知っているだろう?」 マリノが答える。 「マリノさん…」 「ちともったいない気もするがそれなら別に構わないぜ」 シナモンはマリノが貧しい人々の為のに盗みを働いていた事を思い出し、ダグラスは妥協と賛成の反応を同時に示した。 「ま、その為にはこの敵から盗ってきたアイテムから強力なアイテムや武器をどんどん開発しなきゃね。 頼んだよあんた達!」 「はい!」 「おう!」 マリノの励ましの言葉に四人は改めて気合いを入れてアイテムや武器の開発に努める。 ロビーでは休憩中のカーネル、アイリス、プロパガンダがそれぞれの生い立ちについて話し合っていた。 「なるほど。やはり本人から聞くと色々な事が分かるよ。『レプリフォース大戦』はさぞや大変だったろう」 一通り話を聞いたプロパガンダがカーネル・アイリス兄妹に感心と共感の言葉をかける。 「私達兄妹は言わば失敗作…実際に私は先の戦いで己や軍の誇りにこだわるあまり 軍全体を巻き込みアイリス、そしてゼロを傷付けた… 似たような目的で造られて成功作の貴方が正直羨ましくもあるが貴方も貴方で傷付き悩んできたのだろう」 カーネルが言う。 彼も宇宙の中心領域での大戦とプロパガンダ辿ったの経緯に深い感銘を受けていた。 アイリスも続いて言う。 「確かに私達自身は製作者が意図して生まれてきた訳じゃないけど、 それでも私は私として生まれてきたから今のゼロへの想いがあるからこれで良いと思うの。 それに二人として生まれてきたなら力を合わせる事で本来通り、 いいえ、それ以上の事が出来る可能性だってあると思うし… 一人で製作者の人の期待を超えたプロパガンダさんには敵わないかもしれないけど…」 「自分が尊敬していて権力も仁徳もある人に異議を唱えようとはそうそう思えないだろうからな」 カーネルが付け足した。 これにプロパガンダは答える。 「製作者の意図通りか否かは大した問題じゃないさ。 自分がどうあろうかは自分自身で考え、時には仲間と共に考えればそれでいいんじゃないのかな。私達は心があるのだから。 少なくとも君達は今までの試練を乗り越え今は色々な立場の人達と支え合っているのだから決して自分を卑下することはないと思うよ」 「そう考えて見るとするか…私とした事がつい後ろ向きになってしまったな…」 「心…そうね、私達は私達なりの道を行きましょう」 カーネル兄妹は改めて前向きに生きる決意を固めた。 その近くではエックスとゼロが一部始終を聞いていた。 「出身や過去に捕われる事はない、か… 俺達の出生や運命の事を考えるとつくづくそう思うよ」 エックスがゼロに言う。 「ああ、俺達は元々は敵同士と宿命付けられてたみてぇだが今はそんな運命糞喰らえだぜ。 例え人に造られし存在でも自分の運命は自分で決める。 口出しするのが偉い奴だろうが自分を造った奴だろうがそれは譲れないだろ。 俺は他人の心をねじ曲げ生き様を決めつけようとするリュミエールのやり方が気に食わなかったが 最近ではそのリュミエールの考えが変わり始めているらしいのがせめてもの救いだぜ」 ゼロが返す。 平和の為とはいえ他者の信念や運命を結果として弄ぶリュミエールのやり方が気に入らなかったゼロだったが、 彼はそんなリュミエールに変化の兆しが見えてきた事に僅かながら希望を見い出し始めていた。 司令室ではレイヤーがスコルピーにロードキングダムの構成員の情報についていくつか尋ねていた。 「絶対神の素性に関する記憶だけはまだ戻らないのですか…」 レイヤーが問う。 実はスコルピーは既に絶対神がディザストールではない事、そしてその絶対神は 何らかの理由でスコルピー含む己の部下達に自らの素状に関する記憶を消している事を ハンター達に明かしていた。 「すまねぇな。 どういう訳か奴は自分と三神帝以外の者から自分に関する記憶を中途半端に残して消しやがった。 マインドコンタクトは感情操作よりも記憶や情報を与えたり消したりする事の方が簡単だからよ、 思い出したくても思い出せねぇ」 スコルピーがそう答えるとレイヤーは次の質問をする。 「ではその残された記憶に関して再度大まかに説明して頂けませんか」 「それは奴がリュミエールの影のような存在だった事、 性格には世間やリュミエールが拒絶するあらゆる要素を持っていた事、 にもかかわらず俺達にはじわじわ影響を与えて引き付けていった事、 元々マインドコンタクトが使えた事、 俺達にもマインドコンタクトを使えるようにした事…ぐらいだな」 スコルピーが答えた八神将以下のロードキングダムのメンバーが絶対神について覚えている事はそれぐらいだった。 ちなみに十使徒にはさらに多くの記憶が消され、正規兵には絶対神の存在そのもの以外の記憶が大抵消されているという。 「不可解ですね…何故記憶を消したのか、そして一部の記憶は残したのか…」 レイヤーが不思議そうに呟く。 「俺の憶測だが『新たな人生を始めたかった』、『自分のカリスマ性は覚えていて欲しかった』 、って具合じゃねーか? 事実奴は三神帝以外には本名を明かしてねぇんだ」 スコルピーが言う。 「了解しました。今現存する情報で絶対神の正体を検証していくことにします」 正体不明の敵、という状況は決して珍しくないためかレイヤーには困惑の様子は見られず 代わりに覚悟と決意の表情が見られた。 「これは…」 同じく司令室ではエイリアがモニターに表示されたメタルプラネットの映像を見て表情を曇らせていた。 「やっと星の位置も要塞の位置も特定出来たけど、これはどういう事なの? データと違うじゃない。 それに何よこのエネルギー反応は!? …流石に最後に構えているだけあって侮れないわね…!」 ロードキングダムはメタルプラネットを占拠した後は科学技術で星の配置を変えた後、 八部隊のそれより遥かに強力なジャミングで居場所を隠していたのだった。 戦利品による設備の強化でようやく解析できたがそこで判明した メタルプラネットの現状にエイリアは戦慄したのであった。 しかし今まで幾度も大規模な戦いに関与している彼女もまた、これで絶望する事はなかった。 彼女も強い気持ちで最終決戦に臨もうとしている。 こうしてそれぞれの想いを乗せて船はメタルプラネット目指して突き進んでいった。 この間リュミエールは強化により弱体化以前の力を完全に取り戻した。 そして船がメタルプラネットに接近した時の事だった。 「!!!!!」 突如モニターの映像がジャックされ、三神帝が映し出された。 最初にディザストールから名乗り出た。 「知らぬ者の為に名乗ろう、我がディザストールだ。 リュミエール、裏切り者のスコルピー、そしてハンター共よ… 八神将との戦いをくぐり抜けよくぞここまで辿り着いたな… だがしかし褒めてはやらぬぞ。 リュミエール、貴様の罪を考慮すればこれしきの事は貴様を褒める理由にはならぬ。 それに従う奴等も同様だ。 特にアクセル、我等と血を分けた貴様はこちら側に付くべきなのだよ。 基地で貴様等を待ち受けるのは今までとは比較にならない苦しみと…絶望だ。 それでも構わぬと言うのなら、盛大に歓迎してやろう」 アブレイズとグレイシャアもそれに続く。 「俺はアブレイズだ。 八神将を倒した力で俺を満足させてみろ…!貴様等への闘志がうずいて仕方が無いわ!」 「私はグレイシャア… 私に直々に制裁を下される運命とは、貴方がたの末路はとても悲しい!」 最後にディザストールが締めた。 「…という訳で我等はいつでも歓迎するぞ…身の程を知りたくばかかってくるがいい」 通信はそこで終った。 「誰がお前等なんかの仲間になるんだ!新世代だかDNAだか知らないけど生まれや育ちが何だって言うんだよ! お前等も後ろで構えてる絶対神とかいう奴もこの手で倒してやる!」 アクセルが憤る。 「この宇宙全域でもロードキングダムと戦えるのは私達しかいないですからね、全力で頑張って勝ちましょうよ!」 パレットも意気込む。 「今こそ全てに決着を付ける時です。地球と宇宙を救う為にも必ずや彼等を撃破してみせます」 リュミエールが瞳を強く輝かせて言う。 「上等じゃねぇか。口先だけなら何とでも言えるからな。俺達をなめるなよ!」 「ゼロ、必ず戻って来てね…」 強気な態度に出るゼロにアイリスが口を添える。 「分かってるよ。俺はもう二度とお前を傷付けたりしないからな」 ゼロが返す。 やがて船はついにメタルプラネットに着陸した。 「最初に来た時と大分様子が変わっていますね」 リュミエールが言う。 エイリアも言っていたこのメタルプラネットの変化とは、環境が整備されて生物が住める程になり、 以前は無人の惑星だったにも関わらず至る所に町が出来ている事だった。 特に基地周辺の町の規模は並々ならぬものだった。 基地から放たれるエネルギーはあまりに強大で町も船を泊めるには狭すぎる上、 犠牲を最小限に留める為にも船を着陸させたのは町の郊外だった。 その際船内全域と船の周囲に無数のリュミエールの端末を配置し、 船全体をバリア障壁で覆った。 さらに船の機械にリアルタイムで新たに端末を製造させ、それらはハンター達と共に基地へ出撃させるわけである。 「では、行くぞ!」 戦闘メンバーが総出撃し、かなりの数のリュミエールの端末もそれに続く。 町には宇宙人とレプリアン達が住んでいたが、彼等には2つの特徴があった。 1つは外見が今まで出会った宇宙人を合成したようなもので、地球人そっくりな者もいた。 もう1つは町は一見普通の営みをしているが個々の人間関係が険悪であり、あちらこちらで小競り合いが見られ、 全体として地球の大都会並みかそれ以上に荒んだ雰囲気を醸し出している事だった。 「これは一体どういう事なの?ここの人達は何者で何でこんなに仲悪いのさ!?」 アクセルが言う。 「僕の推測ですがここの住人達はロードキングダムが今まで関わった種族のDNAを交配して造り出した新種で、 レプリアンも宇宙の各勢力のそれや地球のレプリロイドの製造技術を応用して造ったものでしょう。 お互いに不仲なのはグレイシャアさんの趣味でしょうね」 リュミエールはそう推測するが、それは両方とも的中しているのである。 「リュミエールとハンター共が来たぞ!シェルターに避難しろ!!」 ハンター達に気付いた彼等は一斉にシェルターに避難し始めた。 やがて宇宙人、改めミュータントとレプリアン、改め新型レプリアンの軍隊が現れ ハンター達の前に立ちはだかった。 「我らが主の為、いざ参らん!」 彼等はハンター達に攻撃を開始した。 しかし如何せんまだ正規兵よりは弱く、ハンター達には全くと言っていいほどダメージを与えられない。 「…どうする、こいつら?」 「非情に複雑な存在ですね。流石に僕の一存でどうこうする訳にはいきませんので一度拘束した上で 宇宙船に転送し、アイリスさん達の意見も取り入れた上で手を打ちましょう」 アクセルの問いにリュミエールが答える。 いくらロードキングダムが造り出した存在とは言え普通に生活している民間人や それを守る軍隊を一方的に皆殺しにする事に抵抗を覚えたハンター達はミュータントや 新型レプリアンを今までの宇宙人と同様に扱う事にした。 船にいる非戦闘員達に直接見せる為ハンター達はかなり強化したスライムミサイル・改を敵に当て、 数多くの端末も同様の動作を行った為一瞬で事は済んだ。 「アイリス、今からそっちの治療室にここの住人共を送るぞ! これには面倒臭い事情があってだ、…」 ゼロがアイリスに大まかな事情を説明し、承認を得た後 ハンター達はミュータントと新型レプリアンを船の治療室に送った。 船内ではアイリス達が転送されたミュータントと新型レプリアンの様子を見に行ったが… 「コロシテクレ…俺達ヲコロシテクレ…」 彼等は堅い表情と抑揚のない口調でそう呟いた。 「え、何を言っているの…?」 アイリスが尋ねると彼等は続ける。 「俺達ハ我等ガ創造主、ロードキングダムニヨッテ生ミ出サレタ存在。 知識モ感情モ全テ主ニヨッテ与エラレタ。 造ラレタ目的ハ主ニ役立チ、奉仕スル為。 シカシココデハ主ノ為ニアルベキ感情ガ全テ消去サレタ。 ヨッテ我々ハココニイルベキデハナイ。 主ニ役立テズ貴方達ニモアダナス我々ハ消エナケレバナラナイ。 故にコロシテクレ…」  これに三人は騒然とした。 「驚いたな…従来の常識では人間がレプリロイドを造るけど この星ではレプリロイドが人間を造ってんのか。 レプリロイドも造ってるけどよ…」 「八部隊は既にいる者の統治を、本部は新たに生み出した者の統治を行っている、 と言う訳ですか…」 ダグラスとライフセイバーがそう言っていると… 「何よ、造られた理由が何だっていうの!? ロードキングダムの役に立たないのが何だっていうのよ!? そんなことにこだわって自分達で消えたいとか、そんな悲しい事言わないで…!」 アイリスが非常に悲しげ様子で言う。 自分を造った者の運命に縛られる彼等を不憫に思ったのだ。 「アイリスさん、ここは私が1つ彼等と向き合って見ましょう。 私としても彼等からロードキングダムへの忠誠心を取ったら何も残らない事に 納得しかねます。 貴方は引き続きナビゲートの方をお願いします」 ライフセイバーが言う。 量産型レプリロイドの1体である彼とて心があり、彼等の事情が気にかかったのだ。 一方ハンター達はロードキングダムの基地、「メタルパレス」の入り口の近くに到達した。 すると周囲から重火器で装備した多数の正規兵が現れた。 リュミエールの姿を確認した彼等は一斉に野次を飛ばした。 「来やがったなリュミエールゥゥゥゥ!!!」 「身勝手ーっ!!!」 「インチキ小僧ーっ!!!」 「エセ救世主ーっ!!!」 「消・え・ろ!!消・え・ろ!!消・え・ろ!!」 「口だけでは僕は倒せませんよ」 「その通り!」 リュミエールに続きアクセルが返す。 直後正規兵達はハンターに襲いかかって来た。 彼等は先程のミュータントと新型レプリアンよりは強いとはいえ、あっさり返り討ちにされた。 門前の敵陣を突破したハンター達はついにメタルパレスに辿り着き、その全貌を目にする。 「どうやら4つの階層で成り立っているようですね」 リュミエールが言うとおりメタルパレスは上から下にかけて4つの階層で構成されていた。 そこでハンター達はアノマロイドの部隊と戦う時の要領で、今回は4ヶ所に分かれて行動する事にした。 1階では、エイリア、レイヤー、カーネル、ダイナモの前に軍隊出身の正規兵達が待ち構えていた。 彼等は元々の所属故に戦車や爆撃機、装甲車、ライドアーマーに乗った者が数多く、 一方で軍刀や手榴弾を持っている者も見られた。 大型の軍事用メカニロイドも大量にいた。 「撃てぇーーーーっ!!!!!」 正規兵達が一斉に砲撃を始めた。 彼等の攻撃は遠距離ならミサイルや大砲、近距離ならライドアーマーの豪腕や軍刀と どちらの射程にも対応していたが、それは今のエイリア達にも同じ事。 四人は圧倒的な火力を持つ正規兵達を撃破していきながら奥へと進んだ。 ちなみにリュミエールの端末も正規兵の撃破に大きく貢献はしたが これらは同時に敵に破壊され尽くしてしまい、新しい端末がやってくる間隔が次第に長くなっていった。 リュミエールの端末は従来は大抵の軍隊に圧勝出来る性能があるのだが、 今のロードキングダムからすればそこまでの脅威にはならないのだ。 四人が辿り着いた先は行き止まりで、代わりに転送装置のカプセルが2つ置かれていた。 「この先に進むにはこの転送装置を使わないと…」 アイリスが通信を入れかけた時… 「え…!?」 ディザストールがその通信に割り込んできた。 「良い事を教えてやろう。我等と絶対神様がまともに戦うにはこの基地は狭すぎるし、脆すぎる… そこで我等の部屋は時空の狭間に設置した。 貴様等がそこに行くには転送カプセルを使わないと不可能だ。 死に急ぎたくば、カプセルに入るがいいわ…」 通信が切れた。 「これはきっと…アレね」 「アレですね」 エイリアとレイヤーが言う。 「私は経験したこと無いがデータでは知っているぞ。 お前達が大体何を言おうとしてるのかは予想できる」 「俺も」 カーネルとダイナモも何となく予想は出来たようだ。 そして四人は二人ずつに分かれてそれぞれのカプセルに入った。 レイヤーとカーネルが入った先には格の高そうな赤いボディの正規兵が待ち構えていた。 「予想が…外れたのでしょうか…?」 レイヤーがそう言いかけるとその正規兵が語り始めた。 「ククク、よく来たな、ハンター共… …イフリーテス様、使わせてもらいます!」 すると彼はコピー能力でイフリーテスに変身した。 「当たったようですね」 「うむ、実際に経験するのは初めてだ」 「テメーらがすんなりアブレイズ様の所に行けると思うかぁ!? 俺はこの基地に八人いる、八神将の能力をコピーしている兵の一人だ! 俺達皆特殊な訓練を受けて八神将の戦いをモノにした上、変身時間も長いんだぜ! 残念だが、ここでくたばりな!ケッケッケッケッケ!!!」 二人に赤い正規兵、改めコピーイフリーテスは応じた。 直後彼は二人に襲いかかった。 「おらぁあぁぁああああああ!!!!」 「く、流石に強いな…だがこちらも負けてはいないぞ!」 「私もですわ!」 コピーイフリーテスは炎と爪を駆使して二人と激しい攻防戦を繰り広げるが、 徐々に押され始める。 「く、二人相手だとしんどいな…なら、テイルビート!!!」 「ぐうっ…!」 コピーイフリーテスの尻尾はカーネルに命中し、彼を遥か彼方に弾き飛ばし、 壁に激突させてめり込ませて大ダメージも与えた。 「この隙に…まずはテメーからだぁ!!」 コピーイフリーテスはレイヤーに狙いを定めた。 一人だと流石に苦戦するレイヤー。 「強い…ゼロさんはこんな敵を、しかも本物を倒しているのですね… いえ、届かない想いと知っていても私はゼロさんの為に戦い続けます…! 貴方の戦い方を受け継ぐ事で…双海斬!!」 レイヤーはコピーイフリーテスにアノマロイドのラーニング技であり イフリーテスの弱点技でもある双海斬を放った。 「ぐぅおっ…っ!?」 コピーイフリーテスの腕と尻尾の炎が消え、火炎放射器が切断された。 「はぁぁぁああああ!!!!」 その後もレイヤーはコピーイフリーテスに双海斬を当て続け、大ダメージを与えていったが… 「調子に乗るなぁ!ダイノクロー!!!」 コピーイフリーテスはレイヤーを爪で滅多切りにした挙句壁に叩きつけた。 「う…」 レイヤーは頭を垂れて気絶した。 「ハァ…ハァ…決まった…な…次はカーネル…だ…!?」 コピーイフリーテスのすぐそばに復活したカーネルが瞬間移動してきていた。 「よくも私の仲間を…許さぬ!!」 カーネルはコピーイフリーテスをセイバーで串刺しにして上にかかげ、その状態のまま雷を落とした。 「ぐあああああああああ!!!!!!!」 既に満身創痍のコピーイフリーテスはそのまま爆死した。 エイリアとダイナモが入った先にはコピーイフリーテスの本来の姿と同型の青い正規兵が立ちはだかっていた。 「不正解…だったかしら?」 エイリアがそう言ってると彼はアノマロイドに変身した。 そう、彼はコピーアノマロイドだったのだ。 「…正解のようね」 「ハッハッハー!力がみなぎって来るぜぇー!! 喰らえ、スクリュースプラッシュ!!!!」 コピーアノマロイドは二人に向けてスクリュースプラッシュを放って来た。 「させるか!」 ダイナモはDブレードを回転させて防ごうとしたが水撃の威力が強すぎて Dブレードが吹っ飛ばされた上にDブレードを持っていた方の腕にダメージを負ってしまう。 「ハッハッハ―!もう一発ぅ!!!!」 コピーアノマロイドが再度スクリュースプラッシュを放たんとした時… 「フリーズブレイク!」 エイリアがレオパルダーの特殊武器、フリーズブレイクを喰らわせた。 「おぉ…体内の水が…凍る… ゴホッ…!ゴホッ…!ゴホッ…!」 コピーアノマロイドの体内に流れる水が凍って膨張し、内部から体に負担をかけた。 もちろん氷をぶつけられたダメージも受けている。 この武器は実はイフリーテスにも大きなダメージを与える事が出来るのだが こういった理由でアノマロイドに使用する方がより効果的なのだ。 「お…の…れぇ…なら…ファングバインド…!」 コピーアノマロイドは一気に間合いを詰めて頭部にある二本の触手で エイリアを締め付けようと迫って来た。 その時… 「アースゲイザー!」 「どああああああああ!!!」 ダイナモが無傷の方の腕でコピーアノマロイドの足元にアースゲイザーを繰り出し、 天井高く吹っ飛ばした、 「ぬおおおおおお!!!!アクア・フェザーを喰らいやがれぇえッ!」 コピーアノマロイドはヒレをばたつかせアクア・フェザ―を繰り出そうとした。 「甘いぜ!!」 ダイナモは空中に無数のD-ブレードを飛ばし、コピーアノマロイドのヒレを全て切断した。 「ガハッ…!」 コピーアノマロイドは地面に落下した。 「止めよ!チャージ・フリーズブレイク!!」 エイリアがコピーアノマロイドに巨大な氷塊をぶつけた。 「ガ…ガハァ…ッ!お、俺はこれまで…だが…只では死なねー…ぜ… ロードキングダムに…栄光あれぇーーーっ!!!!!」 「な、何!?」 二人が対応する隙も与えず、コピーアノマロイドはディクテイテスの時と違って間髪入れず自爆した。 それは凄まじい爆発で、部屋中が爆炎に包まれた…

第二十二話「猛る者」

「一体、何が起こっているのかしら…」 船内ではアイリスが不安の声を漏らす。 というのも現在の宇宙船の性能ではメタルパレスの最深部まで調べる事が出来るのだが、転送カプセルで移動した先まで調べる事は困難を極めた。 それでも彼女は諦めず解析を続けた。 一方メタルパレスの1階では… 「大丈夫かレイヤー !すぐに回復を…何!?」 カーネルはレイヤーに回復アイテムを与えようと向かったが、先程レイヤーが飛ばされた場所には彼女の姿はなかった。 「どういう事だ? 少し前までは…む!?」 今度はカーネルの足下が光ったかと思うと 直後彼は別の場所に飛ばされた。 ダイナモとエイリアがコピーアノマロイドと戦った部屋では… 「ダイナモ!どこなのダイナモ!?」 つい先程の大爆発が起こった瞬間ダイナモはエイリアに覆い被さり爆発から彼女を守ろうとした。 おかげでエイリアのダメージは少なくて済んだのだが、視界が晴れて来た頃そこにダイナモの姿はなかった。 辺りには変身が解除されたコピーアノマロイドの残骸は見られたがダイナモの残骸は全く見られなかった。 …とその時エイリアも別の場所に飛ばされた。 その場所にはカーネルがいた。 同時にそこは通路であり、奥には巨大な扉があった。 「エイリア!ダイナモはどうした!?」 カーネルの問いにエイリアが答える。 「敵がいきなり自爆して、彼がその爆発から私をかばってくれたの。おかげで私自身は無事だったけど 爆発がおさまった後は彼がどこにもいないのよ…!」 「そうか…こちらの状況も似たようなものだ。敵との戦闘中のどこかでレイヤーが突如姿を消した。 私はレイヤーを探そうとしたのだがその矢先にこの部屋に飛ばされたのだ」 互いの状況を理解した二人は今回の戦いで起こった事を思い出した。 カーネルはスコルピーがいきなりリュミエールを連れ去った事を、 エイリアはフライーターがほのめかした絶対神による捕えた者への虐待の事をそれぞれ思い出した。 そして両者共今まで敵に操られた宇宙人を転送してきた事を思い出し、二人の予測はある方向へと導かれていった。 それは消えた二人は何らかの方法で絶対神の下に転送された事、そしてその目的は彼等への虐待であるというものである。 「希望がなくなったわけではないが、先を急がねばならないようだな」 消えた二人の生存への希望と彼等への虐待の懸念を同時に覚えたカーネルが言う。 「…その為には目の前の壁を突破するしかないようね。貴方も感じるかしら、この押し潰されそうな感じを…」 一旦気持ちを整理したエイリアは扉の向こうからそれまでの敵を遥かにしのぐ 覇気とも怒気とも闘気ともとれる圧倒的な威圧感を感じているようだった。 「ああ、私もさっきから感じているぞ…しかし退路も絶たれているとなればこの先に進むより他に道はあるまい。 …いざとなれば先の強化で得たあの力を使う」 カーネルが言う通り現在二人がいる部屋には転送装置も何もなく、 あまりに強いジャミングの為に外部と通信出来ず自身を元来た道まで転送する事は不可能だった。 もっともカーネルには元々退く事など性に合わず、退路を絶たれている事自体は大した問題ではなかった。 その上彼は他のメンバーと同様既に強化改造を受けており、今度の戦いでその力を発揮させる意志も示したが 自身の強化について言及する時の彼の表情と口調はどこか険しかった。 そして二人は覚悟を決め、扉の先へと進んだ。 「…これは何だ?」 扉の向こうには壁こそあるが天井は見えない巨大な空間が広がっていた。 その中央には一つの巨大な岩が堂々たる様子で存在していた。 それを二人が警戒しつつ見ていると、突如その岩の塊にひびが入り、岩は赤く光り出しひびからは強い光が漏れ出した。 そしてそれは次の瞬間轟音と共に激しく爆ぜた。 岩の破片はマグマのしぶきとなり辺り一辺に四散した。 「くっ…!」 「きゃあっ!」 二人は何とかそれを避けた。 そうしていると爆心地の煙の中から三神帝の一人、アブレイズがその威圧感のある巨躯を現した。 「アブレイズ、か…!(ぐ、何なんだ奴から感じるこの闘気は…!!)」 「ダイナモとレイヤーを、どうしたの…!?」 アブレイズの威圧感に圧されながらもカーネルとエイリアがそれぞれ言う。アブレイズはそれに答える。 「待ってたぞ、貴様等がここまで来るのをな。消えた奴らだがここに来る資格がなくなった故に退場してもらったまでよ」 「どういう事かしら?ダイナモ達はまだ生きているの!? 生きているなら今はどこにいるの!?答えなさい!」 エイリアがやや強い口調で問いただす。 「やかましい!これから奴等と同じ目に逢う貴様には全く関係の無い事だ!」 「く…っ!」 アブレイズはエイリアの詰問にぞんざいに返し、あまりの威圧感にエイリアは怯んでしまう。 次にアブレイズはカーネルに問いかけた。 「時にカーネル…貴様はかのレプリフォース大戦の引き金を引いた男で今は反省している事で有名だが、 本当に今の己に満足しているのか?」 これにカーネルが応じる。 「満足しているか…だと!? …」 カーネルはやや険しい表情で次の言葉を出そうと考えを張り巡らせようとした。 しかしそれより先にアブレイズが口を開いた。 「貴様が反省や罪悪感の名の下で誇りも闘志も捨て去り平和主義に媚びへつらう豚に成り下がっているか否か、という事だ。 現に今の貴様はあのリュミエールの下僕と化しているからな…」 「何を言う。私はリュミエールの下僕などではない。事件の解決の為に行動を共にしているだけだ。 それに私は誇りを捨て去るつもりも魂を売り渡すつもりも毛頭ないぞ!」 カーネルが答える。 そしてアブレイズは声を荒げつつそれに応じる。 「果たしてそうか!?リュミエールはかつて『平和の為には誇りや闘志を捨てろ』と幾度も言ってきた… 豚になれと…豚になれと奴は言ったのだ! おそらく奴の事だ、過去の貴様の行為をほじくり返し貴様に己の甘い思想を押し付けているであろう… その場合貴様が如何にリュミエールに染まっているか、と言っているのだ…」 カーネルは答える。 「少なくとも今のリュミエールはそのような事はしないぞ。奴には奴で何らかの心境の変化があるみたいだからな。 仮に奴が私にそのような事をしても魂まで売り渡すつもりはない! …どうやら貴様もリュミエールへの私怨で動いているようだな」 するとアブレイズはより怒気を強めて語り始めた。 「いかにも。貴様が豚になっていなければ何か感じるだろう、これがあのたわけが下した仕打だ!!」 そしてアブレイズはカーネル達にマインドコンタクトを使って自身とリュミエール、 セイントサンクチュアリに起こった事を伝え始めた。 「私には初めての事だな、敵側から見たセイントサンクチュアリを直に感じるのは…!」 「きっと戸惑わせて判断を鈍らせる気よ、惑わされないで!」 カーネルとエイリアは覚悟を決め、真実と直面しようとする。 時はリュミエールがマインドコンタクト、そして自身の端末を発明する前に遡る。 当時セイントサンクチュアリには極めて強大な軍隊が存在していた。 アブレイズは防衛長官でイフリーテス率いる陸軍、アノマロイド率いる海軍、 マーダーレスラー率いる空軍をさらに上から統括していた。 軍の任務はイレギュラーを含む敵対勢力との戦闘、災害時の救援活動、 被害が酷い地域の復興支援、治安の向上など多岐に渡っていた。 ある日の事… 「フン、実に生ぬるいわ…」 アブレイズの前には先ほど撃破した無数のた武装テロリスト達が地に伏していた。 当初実質的にはリュミエールの管理下にあるセイントサンクチュアリ政府のやり方に不満を抱き、 武力で抗おうとするテロリストが稀に現れたが、いずれもアブレイズ率いる軍隊によってあっけなく壊滅させられてきた。 また別の日では… 「わ、我々の負け…だ…こ、降伏しよう…」 セイントサンクチュアリの軍が敵国の軍を破ったばかりの事である。 「我が軍に立ち向かっていった根性だけは認めてやるが、それだけでは何も出来ぬのだ」 アブレイズが敵国の敗残兵達に言い放つ。 セイントサンクチュアリは周囲の国々を吸収合併していく事で領土を拡大してきたのだが、 その際どうしてもセイントサンクチュアリと相入れず、かつ戦いを挑んできた国とは戦争に発展する事が稀にあった。 こうした敵国の軍にもセイントサンクチュアリ軍は常に圧勝してきた。 アブレイズは己が率いる軍の強さと高い志に強い誇りを持っていた。 己自身に熱心に強さを追求し、また異なる思想の持ち主と力と心をぶつけ合って打ち勝つ事にも快感を覚えていた。 それだけでなくより多くの者が戦争に参加し、戦力となる事も望んでいた。 反面この軍隊が敵と戦闘になる事は少なく、さらに時を経るにつれてそれは益々少なくなっていった。 何故ならセイントサンクチュアリ内ではその利便性や快適さに甘える者が圧倒的に多く、 政府に意見すれば肩身の狭い思いをする事になるし、 警察や軍隊の戦力を知る者はテロ行為に走る事などなくなっていったからである。 他国でもやはりセイントサンクチュアリの利便性や快適さ・警察と軍隊の戦力を考慮して 大人しくセイントサンクチュアリに吸収される国が多くを占めていた。 そりが合わない国もランバート達が交渉に交渉を重ね、じわじわと引き付けていき、 気付けばそういった国はセイントサンクチュアリ側に付いて「戦争」という選択肢は排除されていったのだ。 これはリュミエールの戦いを避けたいと言う願いから生まれた結果である。 アブレイズはこれを回りくどいと思っていたが彼の想いとは裏腹に 話し合いで解決する事が多くなっていき、自らの信念や思想を捨ててついていく国が増えていった。 さらに時が経つとアブレイズの不満をより確かなものにする事が起こる。 それはリュミエールによるマインドコンタクトの発明と、端末の発明である。 当時セイントサンクチュアリと隣接していた国は軍事国家で統治者も戦争好きだったため 戦争になる可能性が高いと思われていたが、 リュミエールはマインドコンタクトによりあっさりと話し合いでその国をセイントサンクチュアリに取り込んだ。 その際の要求は「無条件降伏」であった。 通常ならこの国の統治者はそんな要求を呑むはずはなかったのだが、 感情操作で戦意が消されてしまい何の議論もせずあっけなく従ったのである。 「やはり素晴らしい!一滴の血も流さずあの国を従えるとは…!」 ランバートを始めとした国民達はこの結果を歓喜する。 その一方でアブレイズは疑問と不満を覚えていた。 「(何と無礼な事を…!このような輩とは戦ってこそ意味があると言うのに! 俺はこの闘志をどこに向ければいいのだ…!)」 同時にリュミエールは自らの端末の発明によって労働者を「解放」する政策も行っていた。 最初はこれらの端末の機能は現在より低く、労働力として極普通の一般人の代わりにしかならなかったが 機能の向上によって優れたスキルやセンスを持つ者の代わりにもなっていき、 それに伴い無職でも普通に生活できる者が増えていった。 軍隊も例外ではなかった。 端末の性能が次第に上の階級の軍人に追いついていくとその階級の軍人たちは 生活が保障された上で解雇されていったのだ。 始めは兵士、そして下士官、次には尉官が感情を持たないリュミエールの端末に置き換えられていった。 この時喜んで無職になる者もいたが、誇りと闘志をもって異議を唱える者もいた。 そうした者は感情操作でその不満の気持ちを消されていった。 これらに我慢出来なくなったアブレイズはついにリュミエールに食って掛かった。 「リュミエール殿!端末の性能の向上次第ではもしや俺や元帥、大将まで軍務から外すと言うのか!?」 リュミエールは応える。 「ええ、その通りです」 アブレイズは憤る。 「何故このような事を!?我々はあっさりやめた豚共を除けば誇りを持って軍に身を置いているというのに…!」 リュミエールはさらに応える。 「皆様を危険な目に遭わせたくないからですよ。 僕の端末は心がありませんし代わりはいくらでもあります。 1つ1つが壊れた所で悲しむ者はいないでしょう。 それらの端末は僕の髪の毛の先程の価値もありませんし。 例えば戦になるとして兵士が何人か犠牲になる事と僕が髪の毛一本失う事でどちらが良い結果でしょうか?」 これに対してアブレイズはさらに憤慨した。 「犠牲になる事も軍務の1つでむしろ名誉ある事だ! この意志さえ貴殿は潰すというのだな!? ならば俺と勝負せよ! 日々の修行の成果、そしてつまらぬ端末との違い、見せてくれよう!!」 リュミエールはこう言った。 「僕達は話し合いをしているのですよ。 それに僕と戦う事が如何に無意味であるか、分からない訳ではありませんよね?」 「問答無用!」 アブレイズは炎の技とパワーでリュミエールに挑みかかったが… 「どうやら今の貴方には話しても分からないし、感情操作も通用しないようですね…」 そう言ってリュミエールは一瞬にして宙高く飛び上がった。 「な…一瞬で!!」 そしてリュミエールはアブレイズの頭上に渾身の掌底を叩きつけた。 「ぐわあああああああお!!!!!」 アブレイズの全身に衝撃が伝わり、彼は地面に倒れ伏してしまった。 「ご安心を。 僕のマインドコンタクトが完成すれば貴方もこの辛い想いをせずに済むでしょう。 そして誰も争わない世界で幸せに暮らすのです」 そう言い残しリュミエールはその場を後にした。 「な…何と言う…力…だ…もう…どうにも…ならない…の…か…」 去りゆくリュミエールの後姿をアブレイズはただただ悔しげに眺めていた。 それからアブレイズは妥協しかけ、その闘志を持て余し、くすぶらせていったが しばらく後のメタルプラネットでのリュミエールの最初の敗北が彼にとって大きな転機となった。 絶対神は言う。 「ウヒャーヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!! ウヌノ闘争心トチカラヘノ貪欲サ、実ニ頼モシイ限リジャ!! ソノチカラヲ余ニ捧ゲルト共ニ存分ニ精進スルガイイ!!!」 そしてアブレイズの闘志は再び燃え上がり、同時に軍人魂も燃え上がらせ 直属の部下の正規兵達を指導すると共にメタルプラネットで生み出した ミュータントと新型レプリアンにも軍務への協力を強制したのだった… 「思えばセイントサンクチュアリは巨大な養豚場だった… あのたわけは皆を豚にして可愛がろうと言うのだ…! それだけでなく地球そのものを豚の惑星にすると言うのだぞ! 強い力も高い志も奴一人だけのものになってしまうのだぞ! だがしかし絶対神様は俺に再び戦う機会、修行の機会をくださった… それだけでなくあの御方は条件付きで俺に御自らへの挑戦権もくださったのだ! それは俺がより力をつけると言う事! 俺はこれからも己の戦闘力と軍の兵力を高め、いつかあの御方も超えてくれるわ! カーネル、豚でなくば貴様にも俺の気持ちが分からなくもあるまい!」 過去のイメージを伝え終えたアブレイズが言う。 「…満足してなどしていない…」 「何だと!?」 カーネルが呟くように言い、アブレイズがそれに反応する。 「貴様がたった今見せたリュミエールの行動を全肯定する気も貴様の気持ちを全否定するつもりもない… 私にあるのは死より難しい生きて罪を償う事と、大切なものを守り通すことだけだ! それに確かな答えなどあるかどうか今も分らぬ… 只貴様等が私の仲間やさらにその仲間がいる世界、そして宇宙にとって脅威となるならその為に私は戦う!」 アブレイズは返した。 「フン、貴様は只の豚ではないようだな… 貴様の返答がどうであれ俺は貴様と戦うつもりだったが、貴様が豚か否か確かめておきたかったのだ… 俺は豚と戦う趣味は無いからな… さあ無駄話はここまでだ…参られよ…!」 「何よ、人の事置いてけぼりにして…!」 エイリアが言う。 しかしそれにも構わずアブレイズは攻撃を繰り出してきた。 「バイオレンス・フレイム!!」 アブレイズは全身の至る所から火炎を発生させ、二人に向けて飛ばしてきた。 これを何とか避けつつ二人は反撃していくがアブレイズはピクリとも動かない。 「ヘルグラウンド!!」 そのままアブレイズは床をマグマに変えてしまった。 「ぐううっ!!」 これでは足場も悪くなりダメージも受けてしまう。 「フリーズブレイク!」 エイリアは咄嗟にフリーズブレイクで自身の周囲のマグマを凍らせたがマグマはすぐに溶けていく。 「それならもう一発、それから…チャージ・フリーズブレイ…」 エイリアは再びマグマを凍らせ、さらにチャージ攻撃を試みたが… 「チャージの隙をわざわざ与えると思うか!!」 アブレイズはエイリアにバイオレンス・フレイムを放ってきた。 「危ない!」 カーネルはエイリアごと瞬間移動し、直後自分の周囲のマグマをサブウェポン「クライオジェニック」で凍らせた。 「ならば隙を作ればいい事だ!」 カーネルはアブレイズに一本にまとめた雷を落とした。 それは非常に強力な一撃だったが… アブレイズには何のダメージも与えていなかった。 「生ぬるい…生ぬるいな…八神将との戦いの時よりパワーアップしているみたいだが、こんな程度だったとはな… むん!」 アブレイズは片足を上げたかと思うと、その足を力強く地面に下ろした。 「ぬおっ!?」 「きゃあっ!?」 凄まじい地震と衝撃音が発生し、二人の体は宙に浮いた。 その直後、アブレイズはその宙に浮いた二人をそれぞれの手で一人ずつ、鷲掴みにしてしまった。 「おおおおおおお!!!!!」 アブレイズは両手を握りしめた。 このまま二人を潰す気である。 「ぬ…おおおおお!!!」 「往生際の悪い奴よ!!」 カーネルは潰れにくく、また激しく抗うのでアブレイズはカーネルをマグマの中に放り込み、今度は踏みつけた。 このためカーネルは踏みつけとマグマによるダメージを同時に受けることになる。 エイリアは激しい勢いで体中が破壊されていった。 「ぐ…うう…ダイナモの…為…に…も…」 エイリアの表情には悔しさが滲み出ていた。 しかしどんなに激しく抗おうにも敵の力と威圧感が強すぎてどうにもならなかった。 「悔しかろう…だがここは本来貴様が来るべき所では無かったのだ… 貴様のために倒れたダイナモとかいう奴の方がまだ少しだけ素質があったわ… 直ちにこの場から消えろ!!!」 アブレイズはエイリアを上に向けて思い切り放り投げた。 天井も見当たらない部屋の上に向かってエイリアは飛んでいき、やがて姿が見えなくなった… 「もう片方もそろそろ…な!?」 カーネルへの踏みつけの力を強めていくアブレイズだったが、突如その足が凄まじい力で押し返された。 そしてアブレイズの足下から強烈な威圧感を放つ「何か」が浮上してきた。 その存在はライドアーマーに単眼の頭部と翼を付けたような外見をしており、ボディカラーは灰色を基調としていた。 「アイリスとゼロを傷つけたこの姿には出来ればなりたくなかった… だがしかし、戦いに勝つにはこれを使うより他に道はあるまい… それにこんな姿は私の方がアイリスよりもお似合いだ! これが私の強化形態、フォビドン・アームズだ!」 ライドアーマーのようなレプリロイドからカーネルの声が漏れる。 そう、そのレプリロイドの正体はアイリスとの融合を疑似的に再現したカーネルだったのだ。 この時のカーネルはボディカラーを除けばレプリフォース大戦時に彼の 記憶チップを組み込んだ時のアイリスと全く同じ姿をしていた。 「感じる…感じるぞ…強大な力を…俺の闘志がたぎるのを…! イレイズ・シャウト!!!」 闘志を燃え上がらせたアブレイズはカーネル目がけて口から巨大な炎を放射してきた。 カーネルはこれを避けた後、バスターからレーザーを発射し、そのレーザーはセイバーのような形を成した。 「レーザーセイバーだ!」 そしてカーネルはそのままアブレイズの側面から従来の要領で腕から伸びた「セイバー」を振るって 衝撃波を飛ばしてきた。 この衝撃波は従来よりも遥かに巨大で威力も比較にならない。 アブレイズは斬撃によるダメージを受けていくが… 「小癪な!レッドコリジョン!!!」 アブレイズは今度は全身に炎をまとって体当たりしてきた。 「ぐぅっ…まだ、まだだ!!」 アブレイズの体当たりを喰らう瞬間カーネルは急速にバックすることでダメージを軽減した。 そしてすかさずレーザーセイバーで直にアブレイズに斬りかかっていった。 「己ぇ、フレイムラッシュ!!!」 次にアブレイズは肩の上と脇の下から炎の腕を生やし、 その炎の腕と自らの腕で一斉にカーネルに殴りかかったが… 「な、攻撃を受けることでサポートメカが出てくるだと!?」 アブレイズの拳がヒットする度にカーネルの体から攻撃支援メカが発生していった。 「やれ!!」 カーネルの声に合わせてそれらのメカニロイドが雷を放ってきた。 「まとめて消し飛べ、イレイズ・シャウト!」 アブレイズはイレイズ・シャウトでカーネルごとメカニロイドを一掃しようとした。 結果これまで出てきたメカニロイドは一掃されたのだが… カーネルからは新たなメカニロイドと、菱形の結晶体が出現していた。 「これで二刀流だ!!」 カーネルはこの結晶体にもレーザーセイバーを形成させ、 そして二本になったレーザーセイバーでより激しくアブレイズを攻撃した。 「本体さえ破壊すれば済むことだ!」 アブレイズはメカニロイドを出てきては一掃しながらカーネルに攻撃を加えていった。 「それまで貴様の体が持つか!!」 カーネルも負けてはいない。 こうして相互に大ダメージを与えながら戦いは激しく加熱していった。 「おおおおおお!!!!!強敵こそわが喜び!!!! 貴様は俺にとって良い踏み台になるだろう!!! そしてまた一歩絶対神様に近づくのだぁあああ!!!!」 「貴様の自己満足の為に戦争を起こすのは許せぬ!!! 貴様こそ私にとって超えるべき壁だ!!! 私は貴様を倒して仲間を取り戻す!!!」 両者共々ボディにダメージがかなり蓄積されていったが、 それと反比例するがごとく両者の精神は昂ぶっていった。 そして遂に… 「喰らえ、レッドコリジョン!!!!!」 かつてない勢いでアブレイズが突っ込んできた。 「(まずい…あと一発でも喰らえば…流石に…)」 既にかなりのダメージを負っているカーネルだったが、それでも迎え撃とうと身構えた。 そしてアブレイズのボディがカーネルにぶつかろうという時… 「…何…だ…?」 アブレイズの動きが完全に止まった。 どうやら体の方に限界が訪れたようだ。 アブレイズは猛り狂った表情と突撃中の体勢のまま、こと切れていた。 「勝った…の…か…」 カーネルはアブレイズの死を確認すると次に辺りを見回した。 「エイリア…どこだ…私がついていながら…お前まで…消える…事など… 許さぬ…ぞ…」 エイリアがどこにも見当たらない事を知り、彼女に呼び掛けるカーネルだったが、 しばらくすると戦いのダメージが大きすぎたのか、彼は力尽きてしまった。 彼の肉体にも限界が訪れていたようだ。 こうして辛くも三神帝の一人、アブレイズを落としたのだが、 それまでにエイリア、レイヤー、ダイナモは謎の失踪を遂げ、 カーネルは倒れてしまった。 四人の運命はこれからどうなるのだろうか…

第二十三話「鬼畜再び」

2階では… マッシモ、マリノ、シナモン、スコルピーが突入し、待ち構えていた正規兵達と対峙していた。 ここの正規兵は一概に派手な外見をしており手にはサーベルを持っている。 また彼等は大道具の姿をした大型メカニロイド、小道具や撮影用機材の姿をした小型メカニロイドも従えていた。 「ようこそ死の舞台へ!我々の舞踏にして武闘、とくとご覧あれ!」 「見物料は、皆様の命!」 そう言って正規兵達は一斉に四人に歌って踊りながら襲いかかってきた。 「悪いがテメー等はとっとと退場して貰うぜ!」 「あたしは元々舞台に立つなんて柄じゃないよ!」 スコルピーとマリノが正規兵を蹴散らしていく。 「ステージ全部が敵かよ!まとめて壊してやるぜ!」 マッシモが大型メカニロイドを撃破していく。 「わあぁ〜、セットが襲って来るですぅ〜!」 そう言いながらもシナモンは小型メカニロイドを破壊していく。 「何という強さだろう!ならば…フォーメーション13だ!!」 正規兵の一人がそう言って合図をすると他の正規兵達は陣形を整え、 極めて息の合った、かつ巧みな剣さばきと足さばきで四人に立ち向かっていった。 この際彼等は悲しげな歌を声を揃えて大声で歌い、それに合わせてか スピーカーを搭載した小型メカニロイドも悲しげな音楽を奏で始めた。 その様子は視覚的・聴覚的共に見る者を悲しませる効果を備えていたのだが… 「連携プレイに加え心理攻撃かい…」 「確かに何だか悲しくなってきます…でも…」 「本物の悲しみを乗り越えてきた俺達にとっちゃこんなもんお芝居に過ぎんぞ!」 「引っ込んでろや、大根役者共!」 そう言ってマリノ、シナモン、マッシモ、そしてスコルピーは彼等に立ち向かっていった。 正規兵達の剣技も演技も四人には通じず、あっけなく一掃されてしまった。 「ああ…所詮我々脇役は早々に退場するのが役目なの…か…」 最後の一人がそう言い残し息絶えると同時に四人に割り込み通信が入った。 通信を入れたのはグレイシャアだった。 「そう…彼等は脇役に過ぎない… 貴方達の引き立て役を演じ切った…それだけの事。 しかし! この先にはよりよい役者を用意した。 私の舞台に立つには貴方達はその役者達の審査を受けねばならないのだ! ああ、何て…何て悲しいんだ!!!」 グレイシャアからの通信が終わると、しばらくするとアイリスからの通信が入った。 「やっと通信出来るようになったわ… メタルパレスの最深部はもう少し先だけど、そこには転送カプセルしかないわ。 先に進むにはそのカプセルに入るしかないみたい。 カプセルの転送先に何があるのかは分らないから今調べているところよ。 兄さん達もついさっきカプセルに入ったばかりなの… シナモンちゃん達も気をつけて!」 通信が終わった。 「わかりました…!」 シナモンが返事をした後四人が奥に進むとその先には3つの転送カプセルがあった。 「…本当にありましたね…」 シナモンが不安と覚悟の表情を浮かべながら言う。 「裏口とか隠しルートとかが一切無いようじゃ、これに入るしかないみたいだね」 マリノもまた、この先にある脅威に立ち向かう姿勢を見せていた。 「俺は怖くない!怖くないからな!」 マッシモからは恐怖心が見え隠れしていたがそれでも尚闘志も同時に垣間見せていた。 「その言葉が本当なら頼もしい限りだぜ。 この先のさらに先にいるグレイシャアは俺も含めた八神将より遥かにヤバい奴だからな… 俺自身怖くない訳ではねぇが、それでも行かなければならねぇ!」 スコルピーがマッシモに言う。 彼の言うようにロードキングダムの暴挙を止めるには例えどんな恐ろしい敵でも 立ち向かっていかなければならない事は、既に皆が承知している事だった。 そして四人はカプセルに入り先へと進んだ。 この時シナモンとマリノは同じカプセルに入り、他の二人は別のカプセルに一人ずつ入った。 スコルピーが入ったカプセルの転送先には赤紫色の正規兵がいた。 その直後彼はスコルピーに変身した。 彼はコピースコルピーだったのだ。 「スコルピー殿…自分は組織を裏切った貴官を許せないであります! 自分が貴官の力を使って直々に制裁を下すであります!」 「あんな組織元から気に入らなかったんだよ! 一度妥協してついてっちまったがもうそんな妥協はもうやめだ! テメーは俺のDNAデータを使うようだな… 丁度いい、これが本当の『己自身との対決』だぁーっ!!」 コピースコルピーに本物のスコルピーが返し、間もなくして戦闘が始まった。 砂鉄とハサミ、尻尾の針による技を激しくぶつけ合う両者。 「地球と宇宙に有象無象といる何の力も才能もない虫ケラ共には体の自由も心の自由も不要であります! そんな虫ケラ共は優れた者に管理されるのが世の定めであります! 絶対神殿こそ全てを管理するに相応しいお方… あの御方の前では自分とて貴官とて虫ケラに過ぎないであります! 前々から虫ケラ共を自由にする事を望み、あまつさえ絶対神殿に刃向おうなどとは 言語道断であります!!!」 「俺のDNAをコピーしてる割には考えは真逆じゃねーか…気にいらねぇなぁ! 誰も彼もが絶対神のイカレ野郎の言いなりになるべきだぁ!? そんな事は絶対にさせねーよ!!!」 同じ技同士の衝突がしばし続いたが… 「ぐ…何という強さと凶暴性でありますか…!」 ほぼ無傷なスコルピーに対してコピースコルピーの体は切り傷・刺し傷だらけになっていた。 「かくなる上は…マグネットアームズ!!」 コピースコルピーは砂鉄を身にまとい巨大サソリと化した。 「マグネットアームズ!」 これに対しスコルピーもマグネットアームズを発動して迎え撃った。 そして互いのハサミで取っ組み合いになったと思った時… 「な、何でありますか…!?砂鉄を操れない…!?」 何とコピースコルピーの操る砂鉄がどんどんスコルピーの方に流れて行った! 「じ、自分の砂鉄が引き寄せられて…」 砂鉄を失ったコピースコルピーは遂に地面に落下した。 その直後上を見上げた。 「で、でかーーーーーーっ!!!!」 コピースコルピーの分の砂鉄も吸収したスコルピーはさらに巨大なサソリになっていた。 「喰らいやがれ!!!」 「ギャブアアアアアア〜!!!!!」 コピースコルピーは一層巨大化した砂鉄のサソリに押しつぶされ、圧死した。 「どうだ!審査に合格してやったぜ!!」 その頃マッシモの前にはボディカラーが青緑、黄色、ピンクから成る正規兵が立ちはだかっていた。 その正規兵はコピーアメーバイオであり、マッシモの姿を確認すると直ぐにアメーバイオに変身した。 「フヘヘヘヘ…人を見下ろすのってやっぱ気持ちがいいなぁ… おっと、テメーの『表向き』の名前はマッシモだったな… テメーら程有名な輩はなぁ、色んな事が裏で知られるようになるんだよ。 ああ、俺はよ、八神将最強のアメーバイオ様のDNAデータをコピーしてるんだぜ。 俺もニセモノ、テメーもニセモノ、 ニセモノ同士の対決と行こうじゃねぇかぁ!!!」 コピーアメーバイオがマッシモを見下ろしながら言う。 「貴様俺の秘密を… まぁニセモノ呼ばわりをしたければ勝手にしろ。 只俺はマッシモの名とアーマーを受け継いだ事だけは言っておく! …お話はここまでだ、かかってこい!!!」 マッシモはコピーアメーバイオにビーストランサーの渾身の一撃を叩き込んだ。 しかしスライム部分が押し返されただけで本体は無傷である。 「もう一撃!」 「甘ぇ!」 かなり凹んだスライム部分にもう一度攻撃を当てようとしたマッシモだったが、 それより早くコピーアメーバイオがソリッドスラップを喰らわせてしまった。 鈍い音が響き渡り、マッシモは膝をつきかけた、が… 「甘いのは貴様だ!!」 マッシモは直ぐに立ち上がりカウンターを喰らわせた。 その際スライム部分がさらに凹んで攻撃が本体まで到達した。 その後もしばらく強大なパワー同士の攻防戦が続いた。 「この!この!とっととくたばりやがれ、ウンコがぁあああ!!!!」 ひたすら猛攻を加えるコピーアメーバイオ。 「……」 彼に応戦するマッシモは何かを感じ取っていた。 「(こんなもんか?確かに奴から受けるダメージはでかいが、 俺が少しだけカオス星で見た本物はこんなもんじゃなかったぞ…)」 マッシモはカオス星で本物のアメーバイオを僅かの間だが見ており、 その時彼から感じる圧倒的な存在感を確かに感じていた。 しかし目の前にいるコピーアメーバイオからはそれが感じられない。 「(そろそろ、だな…)ベルセルクチャージ!!!」 マッシモはベルセルクチャージを放った。 ベルセルクチャージは威力に加えヒット数が多く最初の数ヒットでコピーアメーバイオの本体に到達し、 そのまま本体にまでステータス異常と共に決定的なダメージを与えた。 「グホヘハ…何故…アメーバビオ様のDNAデータをぶがっだおでが… ごん…な…ウンコなぼに…ベバババババ…」 「それは本物を超えているかどうかの違いだ! 貴様は力を過信して、それで本物にも及んでいない! そんな貴様ごときに負ける俺じゃないぞ!」 「あ…ば…!?」 その時コピーアメーバイオの変身が解け、 マッシモより遥かに小柄で細身な本来の姿に戻ってしまった。 「止めだ!!!」 「ゴブアアアアアアア!!!!」 コピーアメーバイオはそのまま粉砕され、直後爆発した。 マッシモは改めて気合を入れて雄叫びを上げる。 「次はグレイシャアだ!!!」 シナモンとマリノの前には黄緑色の正規兵が待ち構えていた。 「あんたかい、いい役者さんってのは」 マリノがそう言い終わる前に彼はフライーターに変身した。 彼はコピーフライーターだった。 「ゲヒャッゲヒャッゲヒャッ、俺様は本物と違って守備範囲広いからよぉ、 二人とも美味しくいただいちゃうぜ! この姿になると本当にムラムラして敵わねぇ…!」 コピーフライーターは二人に対し邪な感情を露わにした。 「来るよ…!」 「はい!」 マリノとシナモンは応戦する。 シナモンはにゃんこグローブで、マリノはビームソードでコピーフライーターを攻撃していく。 対するコピーフライーターはシナモンにはにゃんこグローブの攻撃を受けないよう 足払いや蹴りで対処しつつマリノの攻撃の方に懸命に対抗しようとする。 しかしマリノの動きが速く何発も攻撃を受けていく。 「(う〜む、一撃一撃の威力は低いが手数と特殊効果でカバーする、か… この程度のパワーなら捕まえちまえば脱出はまず出来ねぇだろ。 ならばチャンスを待つとするか。 こうやって足場を狭めていけばチャンスは必ず来る…!) インモラルシード!!」 コピーフライーターはメカニロイドの種をまいていった。 このメカニロイドは意外と硬く、どんどん数を増やしていく その結果足場は次第に悪くなっていき、同時に様々な方向から攻撃が来るのだが それでも二人は果敢にコピーフライーターに攻撃を加えていった。 …とその時メカニロイドが放った強酸の水滴がシナモンに一斉に命中した。 「きゃあああああああああ!!!!!」 シナモンは全身に大ダメージを負い、地面に崩れ落ちてしまった。 「シナモン!…うぐっ!」 「ゲヒャッゲヒャッ…思ったより沢山喰らっちまったが、やっと捕まえたぜぇ…!」 一瞬の隙を見せたマリノは遂にコピーフライーターに捕獲されてしまった。 「ガキの方はともかくテメーはじわじわいたぶるにゃちと手強いな… 回復されたら厄介だ、回復不可能なまでに、一気に壊し尽す!! メルティバイト!!!」 「うあああああ!!!」 コピーフライーターはマリノに挟みつけと強酸によるダメージを同時に与えた。 それによりマリノは全身を酷く損傷し、そのままダウンしてしまう。 そしてコピーフライーターは倒れて起き上がりかけているシナモンの眼前に マリノを勢いよく振り落とした。 「ゲヒャッゲヒャッゲヒャッ、これでもう回復は出来ねーだろ! さぁ絶望しろ!泣きわめけ!テメーはじわじわといたぶってやんよ!」 コピーフライーターはシナモンを見下ろしつつ凄む。 しかしシナモンからは絶望や恐怖の様子は見られなかった。 「まだ終わってません…リジェネレーション!」 シナモンは倒れたマリノにリジェネレーション、即ちダウンした者を 体力全快まで回復させるわざ「リジェネレーション」を発動させ、 同時にハイパーモード「アイアンメイデン」も発動させた。 シナモンがリジェネレーションを使えるのは今回の戦いでの強化によるものである。 「恩に着るよシナモン、さぁ反撃と行こうじゃないか」 マリノは体力が全快し、クイックシルバーも発動させて反撃に臨んだ。 「こいつは誤算だったな、まずテメーから始末してくれる!」 激しい攻防戦の末コピーフライーターはメルティバイトでシナモンを捕獲してしまった。 「やあああああああ!!!」 挟みつけられ溶かされていくシナモンの絶叫が木霊する。 コピーフライーターは得意げにシナモンをマリノの前に掲げたが… 「く…それ!」 マリノはそれに構わず敵目がけてファイアステラ、アイスステラ、サンダーステラを投げつけた。 コピーフライーターはそれの一部を弾いたが一部は喰らってしまう。 しかし大したダメージは与えられずシナモンを挟みつけたままである。 「こういう手はのろくて脆いザコにしか通用しねーんだよ!」 通常攻撃では敵にシナモンを手放させる程の十分な威力は望めない。 この時シナモンの声は聞こえなくなりつつあった。 「(…このままじゃ、二人ともやられる!こうなったら…!)」 マリノは突如自分で自分を攻撃した。 「何だぁ!?」 コピーフライーターがそう言う間にマリノは驚異的なスピードで一気に間合いを詰め、 リベンジハリセンを叩き込もうとしたが… 無情にも攻撃が繰り出される瞬間コピーフライーターに捕獲されてしまった。 そしてコピーフライーターはマリノも挟みながら溶かそうとしてくる。 「ゲヒャッゲヒャッゲヒャッ、今の俺様の集中力と動体視力があれば これぐらいのスピードまでなら何とか見極められるんだぜ! 奢ったな!今度こそおわ…べ!!!!!?」 コピーフライーターは頭部に大ダメージを負うと同時に顔が上に撥ね退けられた。 そのまま天井を見るとつい先程マリノが投げたリベンジハリセンが突き刺さっていた。 「な、投げた…だと…これだけの…腕の…可動範囲で…当てた…だと… グオアッ…!!!!」 あまりの衝撃にコピーフライーターがマリノを手放すと同時にシナモンを挟みつけていた手が 激しい勢いで破壊された。 シナモンは虫の息になりながらもにゃんこグローブで少しずつ攻撃していたのだ。 コピーフライーターから解放されたシナモンはそのまま地面に落下した。 「なんで…テメーらは…こんなに…瀕死になりながらも…攻撃できんだ…よ…」 コピーフライーターは今も尚シナモンとマリノ程のダメージを負っていないように見えたが、 完全に戦意を喪失しているようだった。 「只一方的に相手をいたぶることしか考えていないあんたと 守る者の為に戦っているあたし達とじゃ覚悟が違うのさ! ミラージュダイブ!!!」 「ゲヒャアアアアアアアアア!!!!」 今までのダメージと合わさって、コピーフライーターは死亡した。 「何とか…倒…したね… …!シナモン!?シナモン…!?」 マリノが力を振り絞ってシナモンの様子を確認しようとしたが彼女は既に全く動いていなかった。 とその時マリノも戦いのダメージによるものか意識が急激に薄れていった。 「地球と…宇宙の為に…も…こんな所で…倒れる…訳には… まだ…この先にも…敵が…いる…んだ…」 しかしそれも空しく彼女も力尽きてしまった… 敵を倒したものの自らも倒れてしまったシナモンとマリノ。 彼女達を待ち受ける運命とは…!?

第二十四話「氷上の惨劇」

八神将のコピーを見事撃破したマッシモとスコルピー。 二人は戦闘に勝利したしばらく後、それぞれ別の場所に転送された。 二人の転送先は共通して劇場の廊下のような場所で、前方には豪華な雰囲気の扉が見えた。 「…!何だこの悪寒は!?えぇい、怖じ気付いてる場合じゃねぇぞ!」 突如背筋が凍りつくような恐怖と寒気を感じとったマッシモだったが気を取り直すと扉の先へと進んだ。 その頃スコルピーも… 「相変わらず半端ねぇな、この全身が凍りつくような禍々しい感じはよ…それでも…逃げる訳には行かねぇんだよ!」 スコルピーもまた扉の向こうから強大かつ禍々しい気配を感じたのだが、意を決して先に進んだ。 そして扉の先の派手な雰囲気の劇場のような場所で両者は再会した。 「スコルピー!」 「マッシモじゃねぇか!シナモンとマリノはまだ来てねぇのか!?」 二人はそのまま辺りを見回す。 すると二人が入ってきたそれぞれの扉ともう一つの扉の真上にモニターがあるのが見えた。 この3つのモニターには先ほど八神将のコピー3体との戦闘があった部屋の現在の様子がそれぞれ映し出されていた。 いずれも先ほど撃破された正規兵の残骸のみが映っており、他には何も映っていない。 「じゃあ、あいつらも勝ったんだな!?」 「ああ…!もうすぐこの扉から入って来るぜ!」 シナモンとマリノの勝利を確信したスコルピーとマッシモは希望を胸にその扉に目を向けるが… 「しかしそんな彼等の望みも空しく、ついにシナモンとマリノは入ってくる事は無かった…」 どこからともなく悲しげで芝居がかった声が響き渡る。 「誰だ妙なナレーション入れるのは!」 マッシモが憤る。 「グレイシャアだ…!」 スコルピーがそう言うや否や突如舞台上にドライアイスが噴射され、同時に悲しげなBGMが鳴り響き出した。 やがて舞台の中央に三神帝・グレイシャアが姿を現した。 「出やがったな演劇野郎!」 「マリノさんとシナモンが来ないとはどういう事だ!」 スコルピーとマッシモは気圧されつつもグレイシャアに啖呵を切る。 「残念ながら彼女達は審査で不合格だった為、舞台を降りてもらった… 彼女達がもう少しだけ頑強だったら…しぶとかったのなら… 貴方達と同じ舞台に立つ事が出来たのに… 惜しい!実に惜しい!」 グレイシャアは芝居がかった口調と過剰な身振り手振りで答えた。 彼の言うところによると、シナモンとマリノも「消えて」しまったようだ。 「舞台を降りた、だと!?それはどういう意味だ!」 「ろくでもねぇ予感しかしねぇぜ…!」 グレイシャアの言った意味が理解出来ない、もしくはしたくないのか マッシモは怒気を交えて問掛け、スコルピーもそれに続く。 「だけど悲しむ事はない…貴方達もすぐ後に彼女達の後を追う事になるのだから! これはあの三流…リュミエール以外に用意された、悲しきシナリオなのだ!」 グレイシャアが言う。 「何を訳の分からない事を!…それとまたリュミエールか!」 なおも憤りと疑問の感情をグレイシャアにぶつけるマッシモ。それにスコルピーが相づちを入れる。 「俺も含めてロードキングダムの構成員は大抵リュミエールに何らかの不満を抱いている訳だが、 こいつの不満の内容はマジで異常…」 「黙りたまえ!!」 「「!!!」」 グレイシャアの一喝がスコルピーの声を遮った。二人はそれに驚く。 「スコルピー…アドリブだけで劇を成立させようとする貴方の考えもまた、実にナンセンスだよ! 無知で無力な群衆は脚本通りの演技をしなければ劇が成り立たないというのに…!」 「俺達の人生は劇じゃねぇ!!」今度はスコルピーが憤る。 これにグレイシャアは答える。 「否!優れた少数の者が劣った多くの者を支配する事と、 人が社会生活を営む上で本音を隠す場面が多い事は世の常… それに加えて凡夫の心までも操り全てを支配出来る技術、マインドコンタクトが発明された事によって この世は巨大な劇場に他ならなくなった! しかし…当初は一つの問題があった… それはリュミエールが描く脚本があまりにもつまらなかった事だ…!!!」 「そこは分からんでもねぇが、脚本だの何だの言って人の生き様を、 それもとんでもねぇ方向性に決めつけようとする あんたの考えも気に入らねーんだよ!」 スコルピーは一部は共感しつつもグレイシャアの考えを否定した。 これにグレイシャアはさらに反論した。 「その私に貴方は目をかけてもらったというのに、その恩を貴方は仇で返すというのか…!! 悲しい!私は本当に悲しい…!!」 「あんなの恩でも何でもねぇ!」 スコルピーは開き直った。 そんな彼を軽くあしらうようにグレイシャアは続ける。 「…まぁそれはともかくとして…あの三流がもたらしたもの… それは…悲しさならぬ空しさだ…! 彼はセイントサンクチュアリにおいてこの世に存在すべき あらゆる悲劇の舞台をことごとく消しさっていった… それは例えば学校、会社、病院、戦場、隔離施設、刑務所、そして…強制収容所…」 「強制…収容所…」これに対して今度はマッシモが顔をしかめた。 というのもマッシモは強制収容所の存在を知った時ティアナ海底収容所で虐殺された初代マッシモを連想したのか その存在に激しい嫌悪感を覚えていたのだ。 ちなみに彼はスコルピーに対しては実際に処刑や拷問をしてきたとはいえ、 背景や心情を察して同情や憐憫のような感情を抱いていた。 そしてグレイシャアはより声の調子を強くして言う。 「これから貴方達は私と同じ舞台に立つ訳だが…その前に一つ前座の余興をお見せしよう… 括目して見よ… これが…あの三流が犯した所業だ…!」 グレイシャアが言い終わると突然辺りが真っ暗になった。 同時にグレイシャアの姿は暗闇に紛れて見えなくなり、 彼から放たれる凍てつくような強く禍々しい気配もこの場から完全に途絶えてしまった。 「野郎どこに行きやがった!?」 マッシモとスコルピーが身構えつつ辺りを見回していると二人の目の前に巨大なスクリーンが現れ、 直後そのスクリーン上に何らかの映像作品らしきものが上映され始めた。 それは当然のごとく悲しげな、悲劇作品のような雰囲気を醸し出していた。 「今までの奴等は頭に流し込むと聞いたがこいつは目に訴えるのかよ!?」 「それがグレイシャアだ…!」 驚くマッシモにスコルピーが返す。 「…これを見せている間に不意打ちを喰らわしてくるなんて事はないだろうな!?」 マッシモが慎重な様子で言う。 「俺は奴と長く関わって来たが、奴はそういう事は無粋としてるからまず有り得ねぇ。 下手に刺激するよりもここは警戒しながら前座とやらに付き合ってやるのが得策だ…!」 スコルピーの言う通りグレイシャアは顕示欲が強いが為自分が見せたいものを見せている時はその相手に他の事はしない。 「よし、いいだろう。全部受けとめてやるぞ!」マッシモは警戒もしながら覚悟を決める。 そして、スクリーン上にはセイントサンクチュアリの過去がきらびやかだが悲しげな様子で上映される。 …セイントサンクチュアリの始まりは、良くも悪くも普通のレベルまでに復興した国「ホープランド」に 近隣の地からやってきたリュミエール達があらゆる方面に介入した事からだった。 この時リュミエールは既に現ロードキングダム構成員とランバート及びその仲間と行動を共にしていた。 これ以前からリュミエールは悪人や迷惑者を対象者に合わせてあらゆる手を使って冷遇していた。 特に彼が許さなかったのは過ちを何度も繰り返す者、罰を受けても懲りない者、 悪事を手段ではなく目的として行う者、道を踏み外した理由に同情の余地が全く無い者だった。 さらにその中でも重大な罪を犯し、確実に死刑になるような極悪人に対してリュミエールは 敢えて肉体・精神共に激しい苦痛を与えた上で処刑してきた。 その様子は大変悲惨なもので、これを見ていたグレイシャアは悲しみつつも悦に浸っていた。 「ああ!悪に身を染めたばかりにこのような結末を迎えるなんて、何と悲しいラストなんだ…!」 その一方でリュミエール本人はというと、彼自身もまた、心を傷めていた… 「このような事なって本当に残念ですが、 貴方が己の愚かさ故に他者に危害を加え続け、 さらにそれを悔い改める見込みも無いのならこうするしか無いのですよ… 貴方が傷付けた方々の苦しみ、そして貴方が周囲と友好関係を築けない事に対する僕の苦しみをこの身にしかと刻み込むのです… その後で…死を以って平和に貢献してください…」 リュミエールが自分が処刑した悪人に悲しげな様子で言う。 彼が悪人を虐待死させるのは、単純な憎しみから生まれるサディズムではなく、 「共に生きるには楽しい事だけでなく苦しい事も分かち合うべき」という倫理観の内、 「苦しい事も分かち合うべき」の部分を悪人のみに当てはめている事によるものだった。 これはリュミエールの悪人達に対する思いやりにも似た感情だが、やはり他者を傷つける行為ゆえに 彼は心を傷めていたのだ。 その為かリュミエールによる虐待の惨たらしさの程度は(グレイシャアから見て)限度があった。 これにグレイシャアはいつしか物足りなさを感じていくようになった。 「(この悲劇にはリュミエール殿は役者不足にして、役不足ではないか… もっといい役者はいないのだろうか…?)」 役者不足とは、良い役に駄目な役者が当てられる事で、 役不足は逆に地味な役に良い役者が当てられる事である。 転じて、悪人を虐待などという汚れた役目は事実上最高指導者のリュミエールがやるような事ではないし、 虐待の有様もリュミエールがやる場合は中途半端で生ぬるいと、グレイシャアは解釈したのだ。 そこでグレイシャアが目をつけたのがスコルピー、フライーター、アメーバイオの3人だった。 この3人は特に性格に問題があり、リュミエールの厳しい監視によって何とか事件を起こさないでいた。 「(この3人なら…この3人ならあの役をより巧くこなせるのではないか…! 常日頃から除け者にされてきた彼等だが、今こそ役に立つ時!)」 そう考えたグレイシャアはこの事でリュミエールにかけあってみた。 「確かに…彼等ならさらなる苦しみを極自然に悪人達に与える事が出来るでしょう。 僕は快楽や憂さ晴らしの為に悪人達を傷めつけているわけではありませんので 彼等の方が間違いなく適任ですね」 こうしてリュミエールはグレイシャアにスコルピー、フライーター、アメーバイオを託した。 グレイシャアの監督・指導によりこの3人はますます凶暴性・異常性を増していった。 やがてリュミエール達がホープランドの政治・経済を掌握しセイントサンクチュアリが発足し、 新しい体制が整うとグレイシャアはよりよい精神の育成の為教育・文化面と 収監された犯罪者の更正の促進等を同時に担う「法務教育大臣(旧文部大臣法務大臣を合わせたような職)」 に就任した。 彼は子供達には健全な精神の発育を促し、犯罪者や迷惑者などを反省・更正させることに大変大きく貢献した。 その一方であらゆる角度から既に手遅れと判断された極悪人専用に新たに設置された 強制収容所にスコルピー、フライーター、アメーバイオを就任させ受刑者に地獄の苦しみを与えさせた。 ある意味では強制収容所はこの3人を世間との接触を避けさせる為に設置されたのかもしれない、 彼の期待通り強制収容所での受刑者への虐待、処刑は凄惨を極めた。 「気にいらねぇんだよぉーっ!!」「ギャアアアアアーーーーーッ!!!」 「ウジュルウジュルウジュル〜!」「助けてぇ〜っ!!!」 「世界は貴方の色を排除する…消去する…廃棄する…」「ウキャーーーッ!!!」 これにグレイシャアは悲しみながらも感動し、興奮した。 「おお!何て見事な惨劇なんだ!これ程の悲しさを味わえるとは何と素晴らしいんだ…! リュミエール殿は他者を甚振る事には二流だが、この3人は正しく一流でないか…!!」 こうして強制収容所では受刑者たちが日々リュミエールの手に直接かけられる事無く 虐待を受け、処刑されていった。 このように悪人に対しては散々な扱いをするリュミエールとその管理下の政府だったが リュミエールは罪無き者が傷つき苦しむ事も許さなかった。 当初のホープランドの情勢は良くも悪くも平均的であり、日常生活の中にある悩みや苦しみもあり、 また本当に偶発的・突発的な事件や事故も確実に起こっていたのだ。 中には悲劇作品の登場人物のような目に遭う人間とレプリロイドも存在していた。 リュミエールはそのような人々を更正した元悪人も含めて苦しみから救おうと尽力した。 それは見返りを求めぬ、無償の愛であり、慈悲だった。 苦しむ人々を苦しませる原因が悪人ならその悪人を排除し、 病気や怪我なら最新の技術で治療を施し、貧困なら多くの物資を与えて 豊かな生活を出来るようにした。 リュミエールは、 学校の存在を不幸と見なしていた。 …何故なら学校は子供にとってはつまらない勉強を無理やりさせる所で、 精神的に未熟な子供を一ヶ所に沢山集めるので様々なトラブルを産む可能性を秘め、 教師はそんな子供達に責任を負わなければならないし、 逆に子供達を苦しめる教師が出てくる可能性もあり、 子供の親が「モンスターペアレンツ」となる可能性もあるし、 登下校中に子供が犯罪者に狙われたり事故を起こすかもしれないから。 労働を不幸と見なしていた。 …何故なら生活の為とはいえやりたくもない事を好きでもない者と共にしなければならないし、 その中でも性格や態度が悪い者がいても共に働かねばならず、 心身共に多大な苦痛を伴う事が多く、家族や恋人と共に過ごす時間も取れず、 例え努力しても結果を出せる保証がないから。 そして中には危険を伴う仕事もあるから。 三角関係以上の恋愛関係を不幸と見なしていた。 …何故なら一人が複数の者を同時に恋愛の対象にするのは汚く許されざる行為であり、 誰かが失恋しなければならないから。 貧困を不幸と見なしていた。 …何故なら欲しい物も満足に買えず、やりたい事も思うように出来ず、 心に余裕も持てず、酷い場合は餓死や治療費不足で死ぬ可能性もあるから。 富める者も時として不幸と見なしていた。 …何故なら家柄や世間体を気にする事が多くなり、自由な恋愛も出来なくなるかもしれないし、 金持ちの家の子供が親から過度な期待やスパルタ教育を受ける事もあるから。 それだけでなく主人の下に仕えるという使用人達の身分もリュミエールは哀れに感じていた。 老化を不幸と見なしていた。 …何故なら見た目の良さを損ない心身の機能も低下するから。 大きな病気や怪我を不幸と見なしていた。 …何故ならそれら自体が肉体的苦痛を伴うものだし、治すためには 多額の医療費を払わねばならず、払えない者は最悪そのまま死亡、 払えたとしても経済的に甚大なダメージを受け、 医療ミスの危険性もあるから。 死を不幸と見なしていた。 …何故ならこの世全てと別れねばならず、遺された者にも悲しみを与えるから。 グレイシャアはこの考えに共感していたが「それ故に素晴らしい」と考えていた。 しかしリュミエールはこれらを全く良しとはせず日常生活の中にある様々な「不幸」を科学技術や ありとあらゆる政策でとことん消そうと努めた。 その結果… 「不治どころか不死身になったわ!」「やった!これでずっと一緒にいられるぜ!!」 不治の病で余命いくばくもないと診断された「薄幸の美少女」が遺伝子改造で生命力を強化されて 病気も完治して恋人の少年と共に喜びを分かち合う。 「今日からこの家に住むがいい。 私はお前達に多くを望まないし、欲しい物は何でもあげるよ」 「え、いいの!?やったー!!」 「これから内職なんかしなくていいしご馳走も食べ放題だぜ!!」 リュミエール達と繋がりのある家柄も人柄も良い大人が両親もなく貧困に苦しむ少年達を 養子に迎え入れる。 勿論その大人はリュミエールの影響を多大に受けており、下心など全くない。 「しかし本当に事故減ったよな」 「ああ、工事は一瞬で終わるし、仕事しなくていいから交通量も減ったし、 何せ車は軽い上に安全装置満載だからな〜」 街ではリュミエールの端末の出現により通勤する人々が減って交通量も減り、 車やその周囲には数多くの安全策が施されていた。 歓喜する人々。しかし逆にグレイシャアは嘆いた。 「台無しだ…これでは台無しだ…! 薄幸の美少女が不死身のクリーチャーに、いたいけな貧乏少年が 食べて寝てばかりのドラ息子になってしまうなんて感動が台無しではないか…!」 悲劇作品を好む人のように、グレイシャアは自分にも他人にも悲しい事が起こると 悲しみつつも感動し、悦に浸っていた。 それ故世の中のあらゆる不幸や苦労、悩みをひたすら消していくリュミエールのやり方に対して 悲しみとは違う負の感情を抱き始めた。 しかしいかに技術を進歩させようが、見事な政策を立てようが、人間や それを模して造られたレプリロイドに心があり、個性がある以上必然的に何かと問題が生じるのは そう簡単に変わる事はなかった。 「お前!あの家の息子と付き合ってるというのは本当か!?」 「何よ、家同士のつまらない喧嘩にいつまでもこだわって!パパのバカ!!」 仲の悪い2つの家のそれぞれの息子と娘の恋愛が発覚し、親子喧嘩が起こる。 「何なのよあの女!私というものがありながら!」 「(クソ、バレたか!)あ、あれは一瞬の気の迷いとかそういうもんで…」 彼女持ちの男性がその彼女に他の女性と仲良くしている事がバレてしまう。 「ああ!何と悲しくも美しい愛憎劇なんだ…!」 これらの人間模様にもグレイシャアは悲しみと感動を同時に感じていたが… リュミエールがマインドコンタクトを発明し、それらの苦労さえも消されるようになった。 「因縁の両家の和解パーティーだ!乾杯〜!!」 「これで堂々と愛し合えるわね」 仲の悪い家同士が感情操作で敵意を消されて和解し、 それぞれの家の息子と娘も自由な恋愛が可能となった。 「例の女の子とは、友達付き合いという形に収まったよ。 向こうも快く了解してくれた。俺はこれからもお前一筋だぜ」 「良かったわ〜、一時はどうなるかと思ったわよ。 私もずっとあなた一筋よ」 浮気男性の浮気の気持ちも、浮気相手の彼への恋愛感情も消されて全て丸く収まった。 グレイシャアはさらに落胆した。 しかもマインドコンタクトの最初の実験台はよりによって強制収容所受刑者でそれがあっさり成功し、 皆一瞬で処刑されるか釈放を待つ身となったので彼の落胆はなおさらだった。 遂にグレイシャアはリュミエールに自分の意見を訴えた。 「悲劇作品は長きに渡って多くの人の心を動かしてきた… 悲しい展開はより愛の深さや苦難に立ち向かう人の強さを引き立てるもの… 幼子に向けられた娯楽作品にも悲劇要素が盛り込まれている事が多いではないか…! 悲しみや苦しみ無くして人の強さや愛の深さは語れないではないか…! 現実も然り! 悲しみも苦しみも一切ない人生など何の意味があるというのか!? 多くの者は力と心の両面において劣った存在だからこそ、 彼等に少しでも深みや美しさを与える為に悲しみや苦しみは必要不可欠だと言うのに! しかも一般人の台本を作るという素晴らしい能力を考えておきながら 何のイベントも感動も無いシナリオを用意するとは如何なる事なのか!? もっと悲劇を…!もっと感動を…!」 リュミエールは答える。 「僕は好きではありませんが、確かに悲劇作品が好きな人はいますよ。 そして悲劇作品は人に大切な事を教えてくれる事も認めます。 しかしそれを現実に求めないでください。 悲劇作品はお話の中なら美しいかもしれませんが現実で起こると洒落にもなりません。 僕は人々の何でもない日常を、幸せを守っていきたいのですし、 その考えを譲るつもりは毛頭ありません。 そもそも僕に異議を唱えた所で貴方が満足のいく結果になる可能性が1%でも上がるとでも 考えておいでですか? 分ればもうお引き取りください」 余談だがリュミエールが好きな娯楽作品・芸術作品は優雅で甘美な雰囲気のものが多く、 そこに悲劇要素は含まれていなかった。 グレイシャアは絶望し、士気が抜けていった。 「この事態はこの私ですら受け入れ難い… 悲しい事が好きな、この私が… いや、どんな悲劇にも終わりは来る… その終わりの時が来ただけなのかもしれない…」 しかし、悲劇は終わってなどいなかった。 メタルプラネットで絶対神がリュミエールを倒し、それだけでなく今のロードキングダム構成員達に マインドコンタクトを使えるようにしたのだった。 絶対神はグレイシャアに告げる。 「ウヒャヒャヒャヒフヘハハハハハ!!!! ウヌノ言ウトオリ力無キ者ガ苦シミノタウチマワルノハ愉快痛快ジャ! 余カラ与エラレシコノ力、存分ニ愚者共ニ使ウガイイワ!! 良イシナリオヲ期待シテオルゾ!!!」 そしてグレイシャアはまず最初にメタルプラネットで新たに生み出した新型レプリアンとミュータント達の 感情を操作して、彼等にとって悲しい事が絶えないようにした。 ここまでの出来事を手短に収めた映像がようやく終了した。 …と同時にどこからか声がして部屋中に響き渡る。グレイシャアの声だ。 「しかしこれはほんの始まりでしかなかった… メタルプラネットで生み出した者達はいわゆるモルモットに過ぎない… 彼等に用意されたシナリオは既に存在している宇宙の住民達にも応用されていく事になるのだ… 私は全宇宙を舞台に今日も脚本を書き続けている。 いつか地球を再び悲劇で埋め尽くすその日まで…」 「む、どこだ!?」「出てきやがれ!」 マッシモとスコルピーが身構えていると彼等の目の前にスポットライトの光が落ちる。 その光の落ちた先にグレイシャアが再度姿を現した。 グレイシャアは二人に言う。 「いかがだったかな、前座の余興は!? スコルピー、フラン星での茶番には実に失望した!貴方と比べたらあのアクセルの方が余程素質があるだろう! 彼が無邪気さ故の残虐さを持つのは余りに有名な話!私が指導すれば貴方以上に強制収容所で役に立つだろう… 彼をこちらに引き入れた時は是非とも新強制収容所に欲しい…! さて、私もあの三流の思想には一部は賛同しているのだよ… 苦しみや悲しみは共有すべきもの… 即ち貴方も貴方の裏切りによる私の悲しみを共有してもらおう! マッシモ、本来のマッシモの役を演じながらも彼を超越した貴方は実に良い役者だ… あの三流ではなく私の下に来ればよりよいシナリオを用意してあげよう…!」 ふとスコルピーは少し前アクセルの言った事を思い出した。 決戦直前の宇宙船内での一時、アクセルと少しの間互いの過去や思想などについて話し合っていた時にアクセルは言った。 「僕が今までの戦いで悩んだり迷ったりした事があるか、だって? まぁ確かに悪い奴には容赦しないけどレッドアラートの皆、特にレッドと戦う事になった時は辛かったかな… でもあの時はレッドも望んだ事だし、レッド達の為にも僕が落ち込む訳にはいかない、って思ったね。 悪い奴とはどんな奴か、とかいう事だけど、僕はそこまで深く考えた事はないや。 なんとなくだけど自分勝手だったり人様世間様に平気で迷惑かける奴等って感じかな。 リュミエールだけど僕としては微妙なところだなぁ… リュミエールはリュミエールなりに人の事考えているかもしれないけど、感情を操るとかいうのはちょっと、ねぇ… ああ、ロードキングダムは論外だね。 私利私欲で人の人生を弄んでしかも地球の外にまで迷惑かけるなんて、 これまで見てきた奴等の中でも最低最悪な連中だよ」 それを思い出しながらスコルピーはグレイシャアに力強く言い放つ。 「俺があいつと共にいた時間はわずかだがあいつがあんな役割を喜んで引き受ける訳がねぇのは明らかだ。 感情を操作しない限りはな! あいつをあんな役にはさせねーよ! …俺は感情を操作する事自体気に入らねぇがそれをくだらねぇ方向に利用するのはもっと気に入らねぇ!! 強制収容所副所長スコルピーも八神将スコルピーももう死んだ! テメーら潰してこの悲劇とやらを終わらせてやるぜ!!」 マッシモも続く。 「俺はリュミエールといた時間は短いがあいつが好き好んで人を傷つけている訳ではない事は分ったつもりだ。 手段はともかく強制収容所を廃止させたあいつの行動はある意味正しいだろう。 それを貴様は復活させるだと!? しかも共に戦った仲間のアクセルにそんなホーンドの野郎みたいな役目を負わせるわけにはいかんぞ! それに確かに悲しい事も大切かも知れんがわざわざ意図して皆を傷つける奴は悪役に決まっている! ロードキングダムも強制収容所もこれで終わらせてくれる!!」 グレイシャアは徐々に宙に浮かび上がり二人を見下ろしながら言う。 「いい目だ…実にいい目だ… しかし勇気と無謀は違うもの… この私がそれを教えてあげようではないか! …エターナルグレイシャア!!!」 グレイシャアが手を下に向けて叫ぶと同時に瞬間的に床が凍りついた。 「ぬおっ!?」 凍っていく床の先端を二人は何とかジャンプして避けた。 「地形を凍らせてこちらの足場を封じる気か!?」 マッシモがそう言うとグレイシャアは降りてきて答えた。 「それもあるが、本来の目的はこちらだ! デスシュプール!」 グレイシャアはポーズを決めた状態で氷上を高速で滑り回り、二人の周りを舞うように回る。 そして二人との距離を詰めたり離したりする。 「ぐっ…そこだ!」 グレイシャアの動きは目で追えるものの非常に読みづらい。 タイミングを見計らった二人は遂にそれぞれグレイシャアに攻撃を仕掛けようとするが… 「甘い!何と甘いんだ!」 「ぐう!?」 「うおあああ!!!」 一瞬にしてグレイシャアは攻撃もかわしながら腕や脚を軽く払うだけで二人を弾き飛ばしてしまった。 この時二人にはグレイシャアの姿は見えても攻撃を受け切れていなかった。 「流石にやばいな…ハイパーモードになるしか…ない!」 立ち上がったマッシモはダイモニオンを発動した。 スコルピーも立ち上がり反撃を試みる。 しかし二人は先程のように攻撃を喰らわせようとする瞬間弾き飛ばされてしまう事を繰り返す。 ホークアイを使おうにもグレイシャアは自分からも攻撃をしかけてカウンターをとり、威力を相殺してしまう。 「何て奴なんだ!見えるのに攻撃を防ぎきれないとは…!」 マッシモが戦慄する。 するとグレイシャアが滑りながら語り出す。 「その通り!何故なら私は見せているのだから! アブレイズはパワーに頼りディザストールはスピードに頼るという実に無骨な戦いをする… だが私は違う! 私の戦いはステージを盛り立てる為に優美さも兼ねているのだ! 事実として格闘技術という点では三神帝でも私の右に出る者はいない!!」 今度はスコルピーが言う。 「相変わらずの見せつけかよ、ますます気に入らねぇ…!マグネットストーム!」 そしてスコルピーはマグネットストームを放った。 「ブリザディアグリーフ!!」 グレイシャアは泣き顔の形を成し、大勢の人の泣き声にも聞こえる猛吹雪を放ち、 大量の砂鉄を吹き返し、それをスコルピーにぶつけて吹き飛ばしてしまった。 「ぐおおおおお!」 「こうなったら滑れないようにしてやる!おおおお!!!」 マッシモはビーストランサーの一撃を地に叩きつけ、地面を覆っていた氷を粉砕した。 「そんな事は些細なる問題だ!」 グレイシャアは踊るように跳ねながらマッシモに迫ってくる。 「これならどうだ!」 迫りくるグレイシャアの顔に向かってマッシモは無数の小さな氷の破片を投げつけた。 マッシモの腕力で投げられているのでこの時の氷の破片の衝突する時の威力は 通常の弾丸とは比較にならないものになっていた。 グレイシャアはそれを察したのか氷の弾丸を指でつまんで防いでいく。 「今だ、喰らえ!」 「ああ!」 隙をついてマッシモはグレイシャアにビーストランサーの一撃を叩き込んだ。 確かに決まった。 グレイシャアは絶叫して激しくのけ反る。 「俺もいるぞ、マグネットストーム!!」 この直後再度立ち上がったスコルピーがグレイシャアにマグネットストームを喰らわせた。 「ああああ!」 これも確かに決まった。 そしてグレイシャアはまたも絶叫し、壁まで飛ばされて砂鉄の重量と衝撃によるダメージを受ける。。 「あ…あ…あああ…」 激しくふらつき倒れそうになると踏みとどまる動作を繰り返すグレイシャア。 「効いてる!効いてるぞ!ベルセルクチャージ!!」 マッシモはベルセルクチャージを放った。 攻撃がまさにグレイシャアに到達すと思われた、その時だった。 「フロストミラー!」 グレイシャアは瞬時に前方に氷の鏡を生成し、ベルセルクチャージを放たれた方向そのままに返してしまった。 「ごおおおおおお!!!!」 マッシモは反射された自分の技を受けてしまった。 オールブロックをつけていたおかげで状態異常は発動しなかったがダメージはかなり大きい。 「野郎!シャープテイル!」 スコルピーはグレイシャアの後ろに回り込み尻尾で突き刺そうとした。 しかしグレイシャアは即座に両腕でスコルピーの尻尾を固定し、そのまま捻って地面に落した。 「ぐ…ダメージを受けていたように見えたのは芝居だったのかよ…」 スコルピーが呟く。 「いいや、私はちゃんとダメージを受けている。 リアルな演技というものは体を張るもの…つまりこれはショーを盛り上げる為の演出なのだ!」 プロレスという格闘技には実際にショーを盛り上げる為に攻撃を受ける事とそのリアクションも 重要な要素になる、という話があるがグレイシャアが言った事は正にその理論である。 「そうかよ…なめ腐った態度を取りやがって、本当に気に入らねぇ…! マグネットアームズ!」 スコルピーは大量の砂鉄をまとって巨大サソリと化した。 「ブリザディアグリーフ!」 これにグレイシャアはブリザディアグリーフで迎え撃った。 しかしマグネットアームズは砂鉄とスコルピーの結合力が強く、砂鉄は吹き飛ばない。 「いける…! …何だ!?急に動かなくなった…だと!?」 攻撃が当たる直前で巨大サソリの動きが止まった。 何とグレイシャアは先程の技で巨大サソリの全体を凍結させていたのだ。 「だから言ったであろう…勇気と無謀は違うとな!」 そう言ってグレイシャアは凍った巨大サソリに突きを繰り出した。 突きの衝撃は巨大サソリの内部を伝わっていきスコルピー本体に到達した。 「ぐうあああああああ!!!!」 巨大サソリは粉砕されその時の衝撃を受けたスコルピーも大ダメージを負ってしまう。 「んん?まだ立ち上がるのか…聞きしに勝るタフさではないか…」 グレイシャアが目をやった先にはまたしても立ち上がったマッシモがいた。 「貴様が…貴様等がどれだけ強かろうが…恐ろしかろうが…こんな所で倒れる訳には…いかんのだ!」 マッシモはビーストランサーと持ち前のパワーとタフネスで果敢に立ち向かう。 しかしグレイシャアの技術力に翻弄されてしまう。 「俺もくたばる訳には行かねぇんだよ!!」 相当量のダメージを受けているにも関わらずスコルピーは体勢を整え、グレイシャアに挑みかかる。 そんな二人を嘲笑うがごとくグレイシャアは二人の攻撃を巧くさばきながらダメージも与えていった。 しかしある時… 「あう!!」 二人の攻撃が同時にグレイシャアにヒットした。 しかもその時グレイシャアは「演出」として敢えて攻撃を受けていたのだが、 意地、怒り、それとも信念によるものなのかその威力はグレイシャアの予測をわずかばかり上回っていた。 「今までで一番効いたぞ!このまま一気に勝負をつけてやる!」 マッシモは意気込んでグレイシャアに攻撃を仕掛けるが… 「どうやら私も甘かったようだ… 貴方達二人を同時に相手にするにはこのような演出はカットする必要があるだろう… これからスコルピーに用意したイベントの為にも、マッシモ…まず貴方から消えて貰おう! ブリザディアグリーフ!」 「な!?」 グレイシャアはすぐに立ち上がり、迫り来るマッシモを凍らせてしまった。 さらにその直後鋭い突きを繰り出しマッシモの胴体を砕いてしまった。 「ぐおあああああ!!!」 「野郎…!」 憤るスコルピーにグレイシャアは向き直った。 「さて…邪魔者は消えた所でいよいよ貴方には私の悲しみを共有して貰おう…スノーワルツ!」 続いてグレイシャアは自身の周りに吹雪をまとい、スコルピーを巻き込んだ状態で宙を舞い始めた。 グレイシャアは吹雪で冷気をまとった他速さも増した動きで踊るようにスコルピーに攻撃を加えていく。 スコルピーの体の各部分はグレイシャアの手足が触れる前に凍りつき、 手足が凍った箇所に触れる頃にはその部分はひびが入って砕け破片を飛ばす。 「ぐは…!うごあ!げほっ…!」 徐々に体を削られていくスコルピー。 「与えられた役をこなせない貴方は実に役立たずだ! 私は貴方の個性に…才能に目をかけたのに、つまらぬ情にほだされおって! 私がどれだけ努力して貴方達を指導してあれ程素晴らしい役者に仕立てたと思っているのだ!? これは私の受けた悲しみの分だ、存分に思い知るがいい! いや、貴方の悲劇はまだ終わらない… これからさらなる惨劇が貴方を待っているのだから! 先に行った者達の後を追いたまえ!そしてそこで洗礼を受けるのだ!!」 グレイシャアはさらにテンションを上げて叫び狂いながらスコルピーを甚振り続ける。 …とその時… 地面から空中にいるグレイシャア目がけて何か一つの物体が飛んできた。 ビーストランサーである。 「例え…身体を半分失おうとも…この俺の…闘志は…砕けん…」 上半身のみになり凍りかけているマッシモがありったけの力を振り絞って投げたのである。 ビーストランサーはグレイシャアとの距離を一瞬で縮めていった。 しかし… 「全く、まだ邪魔をするというのか!今度こそ退場したまえ!!!」 グレイシャアはビーストランサーを軽く受け流して地面に叩き落としてしまった。 そしてマッシモも完全に凍らせてしまった。 その後もグレイシャアはスノーワルツで部屋中を舞いながらスコルピーの体を削り続けた。 スコルピーはやがて両腕、両脚、尻尾が吹き飛び残りの胴体も傷めつけられた。 「畜生!畜生…!!」 やがてスコルピーが頭部と胴部だけになりそこも酷く損傷し、 スコルピーから戦意が感じられなくなるとグレイシャアは技を解除した。 そして大げさな身振り手振りと共に大声で叫び始めた。 「ああスコルピー!何て悲しい人生なんだ! 誰にも好かれず与えられた役もこなせずこれ程無様な姿になるなんて…! しかもこの悲劇がまだ続くなんて…! しかし貴方はもう楽になる事など許されない …い…いぃ…!?」 声高らかに叫ぶグレイシャアに突然、異変が現れた。 何とグレイシャアの背中からビーストランサーが突き刺さり、胴体を貫いていたのである。 ビーストランサーの柄の部分からは大量の砂鉄がこぼれ落ちる。 「手足や尻尾が無くたって…砂鉄は…操れんだよ…」 スコルピーが途切れ途切れに言う。 「ああっ…何という事だ…!貴方がやられた振りをしていたなんて…! しかも…これ程の技術力を身に着けていただなんて…!!」 グレイシャアは激しくよろめきながら声を絞り出す。 「そんな器用な真似…俺が出来るかよ… さっきの攻撃も…ぶっつけ本番だ…」 スコルピーが返す。 スコルピーは先程ビーストランサーに砂鉄を纏わせ、高速回転させ、 さらに無音で飛ばしたのである。 只でさえビーストランサーの出力は高いが大量の砂鉄が付着して重みが増し、 さらに回転力も加わっているのでその攻撃力は如何に三神帝のグレイシャアでも一たまりもなかった。 「何と悲しいんだ… もう少しで倒せそうな裏切り者…それも元教え子に…倒される…と…は… しかも…この先の悲劇を…私自身が…見届けられない…なんて… いや…主君の為に殉じる…これもまた素晴らしき悲劇の形では…ないか… そうか…私も…悲劇の…主人公…だったの…か… さら…ば…だ…」 そしてグレイシャアは虫の息にも関わらずポーズを決め、その状態のまま 自らを凍らせて事切れた。 「最後まで…気取りやがって… …ありがとよマッシモ…あんたの武器の…おかげで…助かったぜ… …!?マッシモ、どこに…いきやがった…!? 全く…ここは…敵味方…問わず…急に…姿を…消しやがる…」 スコルピーの視界の先にはつい先程までマッシモが倒れていたのだがいつの間にかマッシモがいなくなっていた。 彼もまた、謎の失踪を遂げたのだった。 それを確認した直後、スコルピーも力尽きてしまった。 先程まで激闘があった部屋は一転して静寂に包まれ、冷たい風がその中に吹き渡った…

第二十五話「懐かしき未来に向かって…」

3階では… エックス、ゼロ、プロパガンダが突入し、 制圧に乗り出していた。 彼等の前に現れたのは工事用や工業用のレプリロイドと一目で分かる正規兵、水晶玉を持った占師のような正規兵、 工事用や工業用の大型メカニロイド達だった。 「ククク…久々にやり甲斐のある仕事だぜ!!」「テメーら全員地獄の底まで運んでやるぜ!」 工事用や工業用のレプリロイドの正規兵達が言う。 「本日はこの辺りに血の雨が振るでしょう」 占師風の正規兵が言う。 そして彼等は一斉に三人に襲いかかった。 「喰らいやがれぇーーっ!!」 工事用や工業用の正規兵がエックスに向けて大岩や超合金製の鉄骨、ダイナマイト等を投げつけてくる。 「何の、チャージショットだ!」 エックスはチャージショットを放ち正規兵達を彼等が投げた物体ごと消滅させる。 「これより局地的に集中豪雨が予想されます」 「後ほど晴れる見込みです」 「台風に注意しましょう」 占師風の正規兵がゼロの頭上に気象コントロールユニットを召喚し、 激しい勢いでゼロの真上の「天気」を変えていく。 激しく撃ちつける豪雨、超高電圧の雷、容赦なく照りつける太陽光など いずれの「天気」も並のレプリロイドなら一瞬で機能が狂ってしまう強烈なものだったが… 「さっきの予報は大当たりだな。 ただ1つ違うのは血の雨というのは、てめぇらの血の事だぁーっ!!」 正規兵が起こす異常気象を物ともせずゼロは彼等を一瞬で八つ裂きにしていく。 プロパガンダには工事用や攻撃用の大型メカニロイドが襲いかかっていた。 上空からは輸送用の大型メカニロイドが巨大コンテナを落とし、プロパガンダを潰そうとしてくる。 地上ではブルドーザーのような大型メカニロイドがプロパガンダを 掘削用メカニロイドの掘った穴へ落とそうと迫ってくる。 「人の生活を支える為に作られたものをこんな事に使うとは何事だ!…ヴァンガードブレイド!!」 プロパガンダは盾を投げつけメカニロイドを一掃する。 そして敵の猛攻を突破してしばらくするとゼロにアイリスから通信が入った。 「聞こえる、ゼロ? これからもう少し行くと転送カプセルのある部屋に行き当たるわ。 でもその部屋は本当の最深部じゃないの。 先に進むにはそのカプセルに入るしか方法は… きゃ、またなの!?」 またしてもアイリスの通信にディザストールが割り込んできた。 「よくここまで来たな、S級ハンターのエックスにゼロ、そして裏切り者のプロパガンダよ… ここから先は我が直々に貴様等に裁きを下してやろう。 但し、今すぐにではない。 我に裁かれるという名誉ある役目を弱者に与えるわけにはいかんのでな。 そこで貴様等に試練を用意した。 試練を受けるには最深部にある転送カプセルに入らねばならない。 その試練を乗り越えた者にのみ我の裁きを受ける資格を与えよう。 期待して待っておるぞ、ククク…」 ――ブツン! 通信が終わった 「そうやってふんぞり返っていられんのも今の内だぜ、糞が!!」 只でさえディザストールに敵意を抱いていたのだがここでアイリスとの通信中に割り込まれた為か ゼロはさらに怒りを込めて言い放った。 さらに進むと三人は3つの転送カプセルにある部屋に辿り着いた。 「いよいよだな。…プロパガンダさん、」 エックスはプロパガンダの方を見て言いかける。 「何だい?」 「今更ながら俺達の星のレプリロイドが貴方達に、宇宙に迷惑を掛けてしまった事を本当に申し訳なく思います」 エックスは同じ星の者として責任を感じたのか改めてプロパガンダに謝った。 プロパガンダは返す。 「いいや、気にする事はないよ。 そもそも我々コズミックヴァンガードも過去に戦争で勝つ為に数えきれない程の星を巻き込んできたから そういう意味では我々も地球全体を責める権限はないさ。 それにこの事件は君が起こしたわけではないし出生の問題など関係無いだろう?」 ゼロも彼に続く。 「そうだ、気にする事なんかないぜ。 俺なんか自分の出生の事を気にしていたらハンターなど勤まらねーしな。 それに、今は目の前の敵を倒す事が先決だぜ」 「分った…では全員の武運を祈って…行くぞ!」 決意を新たにしたエックス。 そして三人は1つのカプセルに一人ずつ入って行った。 プロパガンダの転送先には黒い正規兵が待ち構えていた。 彼はプロパガンダが部屋に現われるのを確認するとフリードリヒに変身した。 彼はコピーフリードリヒである。 「プロパガンダや…まろは綺麗ごとばかり抜かし絶対神殿に楯つこうとするそちが誠に気に召さぬでおじゃる。 本来の姿では元十使途のそちに敵わぬが故八神将の力を以って成敗するでおじゃる!」 「例えあの戦争が終わったとしても理不尽な支配を受けるのは偽物の平和でしかない! お前達が私の守るものを傷つけ続けるなら、その理不尽な支配をする範囲を拡大し続けるなら、 私はそれを阻止するために戦う!」 コピーフリードリヒにプロパガンダが返した。そして直後戦闘へ。 「リビングジャンク・スコット!」 数個のガラクタの塊がプロパガンダ目がけて飛んできた。 これは追尾機能があり、エックスの特殊武器のリビングジャンクの通常攻撃は この攻撃を元に作られているのだ。 「プロテクションキューブ!」 プロパガンダは重いブロックを発生させ、ガラクタを押し潰してしまう。 「モータルレッグ!!」 続いてコピーフリードリヒは飛び蹴りを喰らわせてきた。 「ヴァンガードストライク!」 これにプロパガンダはヴァンガードストライクで迎え撃った。 双方の衝突で激しい衝撃が生まれたがこの衝撃でコピーフリードリヒは脚にダメージを負った。 「ぬぬぬ…リビングジャンク・ジェームス!」 遂にコピーフリードリヒは巨大引き車を召喚した。 そしてそれを引き回してプロパガンダの方へダッシュする。 「ヴァンガードブレード!!」 プロパガンダは盾を引き車の側面に投げつけた。 すると引き車は横へ吹っ飛び破壊され、コピーフリードリヒ自体も 引き車から引き離されて吹っ飛び壁に激突した。 それからも戦局はプロパガンダが押していった。 「クウウウウウ…おかしいでおじゃる!こんなのおかしいでおじゃる! いくら不完全とはいえ八神将の力を使っているまろが元十使徒なんぞに苦戦するなんてぇぇぇ!」 「この戦いは私一人での戦いではないのだ!」 コピーフリードリヒにプロパガンダが言い放つ。 、とその時コピーフリードリヒが切り札を出した。 それは超フォースメタルを始めとした様々なパワーアップアイテムだった。 「勝つためには、これしかないでおじゃる!はあああああああ…!」 意を決した様子でコピーフリードリヒは各種パワーアップアイテムを装備した。 すると… 「ギャアァアァアァーーー!ウアッウアッウアッ…ホアアアアアアア!!!!!」 コピーフリードリヒのエネルギーは増大したが同時に彼は精神が暴走してしまった。 そう、抵抗値を超えてアイテムを装備してしまったのだ。 「ウガー!ウゴ―!フンギャーッ!!!!」 力ばかり上昇し闇雲にプロパガンダに襲いかかるコピーフリードリヒ。 彼の逆襲が始まろうとしていたが… コピーフリードリヒは戦えば戦うほど煙を吹いたり損傷個所から火花を散らしたりと 肉体の崩壊も始めていたのだ。 「何故ここまでする必要があるのだ…!ともかくこれではもう手遅れだろう。 ヴァンガードブレード!!!」 「ウギョアアアアアアーッ!!!」 理性をかなぐり捨て肉体を壊しながらも戦うコピーフリードリヒを哀れに思ったのか。 プロパガンダは盾を投げつけ止めを刺した。 その衝撃と肉体の崩壊が合わさって、コピーフリードリヒの体は砕け散り、爆発した。 「絶対神の為にここまでするとは、ロードキングダムは本当に危険な組織だな。 これは一刻も早く止めねばならないだろう…!」 プロパガンダも改めて強く決心した。 エックスの前には白い正規兵が立ちはだかっていた。 彼はレオパルダーに変身し、自分がコピーレオパルだーである事を示した。 「グルルルルルル…来たぞ…獲物が来たぞ… 引き裂いてやる…切り刻んでやる…噛み砕いてやるぅぅ!!!」 「俺はハンター、つまり狩られるのは貴様の方だ!!」 コピーレオパルダーにエックスが応えた。 その直後コピーレオパルダーはエックスに襲撃した。 部屋中を駆け回り、跳ね回りやがてエックスに上から襲いかかった。 「リビングジャンク!」 コピーレオパルダーが飛びかかるタイミングを見極めたエックスが 弱点武器のリビングジャンクで迎え撃った。 「グ…ガ…」 コピーレオパルダーは大ダメージを受けつつもすぐに体制を立て直した。 「スノーハント!」 その後もコピーレオパルダーはエックスに襲撃を加えようと試みるがいずれも返り討ちにされてしまう。 このリビングジャンクは追尾精度が非常に高くコピーレオパルダーには防ぎきれなかった。 「グルルルルルゥ〜!フリーズデストラクション!」 コピーレオパルダーはエックスに巨大な氷塊を投げつけ一気に勝負を決めようとした。 「ノヴァストライク!!!」 エックスはノヴァストライクで氷塊を粉砕し、そのままコピーレオパルダーに突っ込んだ。 そのダメージは決定的なものだった。 「グロアアアアアア!!!」 コピーレオパルダーは倒れて動かなくなった。 「やったか!?」 エックスが勝利を確信しかけた時だった。 「グルルルルァァアァア!捕まえたぞぉぉぉ!!!」 コピーレオパルダーは素早く起き上がり、今まで以上の素早さでエックスを羽交い絞めにした。 「く、まだ息があったのか…!ん、自爆!?」 突然コピーレオパルダーの体が光を放った。 「させるか!」 エックスは一瞬でコピーレオパルダーを投げ飛ばした。 「グルアアアアァァアァァアアア!!!!」 エックスから離れた場所でコピーレオパルダーは大爆発を起こして死亡した。 「自爆、か。何故あんな奴等に対してここまでするんだ…!」 エックスは彼の行為に複雑な想いを抱えた。 ゼロの前には青紫色の正規兵が立っていた。 彼はコピータヌキースであり、ゼロを見るや否やタヌキースに変身した。 「恒例のやつか…ん?何震えてやがる?」 コピータヌキースはプルプルと震えていた。 そしてしばらくすると彼は耳の後ろに手の平を当てて返事をした。 「あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜?」 これは耳が遠いときの仕草であった。 「えぇ〜と、お前さんは確か…ゼロ、じゃったな。 カぁ〜しんどいのぅ〜よりによってお前さんが来るとは…腰に来る腰に来る…」 コピータヌキースは震えながら声を絞り出すように言う。 「何かやりにくいがそうは言ってらんねー… 俺はこの先に用があるんだ。通してもらうぞ!!!」 ゼロはコピータヌキースに挑みかかった。 「ハァ〜しんどいしんどい…しんどいから…一気に勝負をつけると…するかのう…」 コピータヌキースは鬼に変身した。 「オーガ…スィング…!」 コピータヌキースはゼロに棍棒で殴りかかった。 しかし… 「ふん!!」 ゼロの片手で余裕で防がれてしまい一瞬押し合いになったかと思うと すぐにゼロが勢いよく押し返し、コピータヌキースは棍棒ごと壁に衝突する。 「ひょおおおおおお〜〜〜〜!」 そしてコピータヌキースはタヌキースの姿に戻り、シャドーリーフを発動させた。 力比べで部が悪いのでスピードと技術で勝負しようとしたようである。 しかしゼロは彼の速さにも見事に対処し、攻撃を捌いていく。 「ヒイッヒイッ、パワーに加えて…何という技術と…スピードじゃああ〜 それなら…影の刃を…もっと…増やすかのう…」 コピータヌキースは自身の周囲に葉の形をした影の刃の数を増やしていった。 無数の暗黒の刃がゼロの視界を遮ろうとしていたが… 「龍神槍!」 ゼロはタヌキースのいる場所に的確にイフリーテスのラーニング技「龍神槍」を繰り出した。 「ああ〜しばれるう〜」 コピータヌキースはそう言い残して死亡した。 その時だった。 三人に同時にディザストールから通信が入った。 「ククク…これは傑作だ。まさか一人も欠ける事無く我の試練を乗り越えるとはな… 良いだろう、貴様ら全員に我に裁かれる権利をやろう。 これから我が部屋に案内してやるから、覚悟が出来次第入ってくるがいい」 通信が終わると同時に三人は通路のような場所に1ヶ所にまとめて転送された。 通路の先には巨大な扉があった。 「「「!!!!!!!」」」 扉の前に転送された三人は転送された直後愕然とした。 「これほどとは…!」 「こいつは流石にやべぇな…」 「前に会った時より格段に力を増している…!」 エックスも、ゼロも、プロパガンダも扉の向こうから感じる強烈で圧倒的な気配に戦慄した。 暫しの間沈黙が訪れたがある時エックスがゆっくりと口を開いた。 「俺は思うんだ…俺達の戦いは皆の戦いでもあるんだと。 俺は今、今の仲間達と過去に散っていった仲間達、仲間のそのまた仲間達、結局すれ違ってしまった者達、 地球や今回の事件だと宇宙で助けを待っている皆の想いを背負ってここに立っている。 それを考えれば例え辛い戦いだろうとどんな強敵が相手だろうと前に進める気がするんだ。 一度は諦めかけた本当の平和を俺はもう一度信じたい… リュミエールが諦めたものを、俺は諦めない…!」 これにプロパガンダが返す。 「私はリュミエール君と何度か話しているが彼も他人の感情を操作する事は不本意みたいだよ。 感情操作によって世を治め続けるのは彼にとっても良くない事なのかもしれない… 私としてはリュミエール君にももう一度本当の平和に希望を見出して欲しいよ。」 ゼロも続く。 「4階に行ったアクセルも同じ気持ちだろうな。 あいつもあいつなりに修羅場をくぐり抜けて成長したからな。 俺はお前やアイリスが望み続けるものの為にロードキングダムを叩き潰す! …行くぞ、懐かしき未来をつかみ取る為に!!!」 「(争いも悪政も無い世の中か… 私も父上もそれを知らない…しかしそれ故に私も父上も望み続けている… この戦いが終われば実現するのだろうか?…いや、実現してみせる!)」 プリパガンダはそう感じていた。 三人は互いを見た後、力強く歩み始めた。 その様子は激しく吹き荒れる嵐にも吹き消されず燃え上がる大火のようであり、 彼等を取り巻く大勢の人々に押されているようでもあった。 彼等は歩を進める。 扉に向かって… 懐かしき未来に向かって…

第二十六話「負けない愛がきっとある」

ディザストールの待つ部屋への扉を通過したエックス、ゼロ、プロパガンダの三人。 「誰も…いないだと?」 「いや、確かに何かがいるぞ…!」 「この感じは…間違いなく、ディザストールだ…!」 エックスの言うようにその部屋はもぬけの殻で、中央に魔法陣が存在し、 壁面では機械が静かに作動しているだけだった。 強大な気配と張り詰めた空気を感じ取ったゼロとプロパガンダはエックスに異を唱えたのだが エックス自身もまた、それを確かに感じ取っていた。 彼等が感じ取っているあまりに圧倒的な気配は次第に強さを増していき、空気も緊張していき… そしてある時… 「…来るぞ!!」 三人が身構えた刹那、魔法陣の上に強烈な落雷が発生した。 雷が落ちた場所からは煙が立ち込め、煙が晴れるとそこには最強最後の三神帝にして かつてリュミエール及びハンター達に絶対神と思われていた男、ディザストールが佇んでいた。 「ついにお出ましって訳か…!」 ゼロが身構えつつ言う。 「俺は今回の事件でお前達の非道な振る舞いを何度も目にしてきた… リュミエールのやり方に賛同するつもりはないし、彼に不満を持つ気持ちも分らなくもない。 だけど…かと言って…何の罪もない弱き人々の感情をいいように操り… 私利私欲の為に利用し…快楽の為だけに奪い…殺し…弄び… あまつさえそれを地球の外にまで飛び火させて… そんな事がまかり通っていいと思うか!!! 大きな力を弱者を踏みにじる為だけに使うのは今までのイレギュラーと何も変わりはしない!!!!」 エックスは目の前の敵の脅威を感知してはいたがそれよりも彼、 そしてロードキングダムへの怒りが上回り咆哮した。 「戦争をしない事と平和は必ずしも一致しない…今回の件でそれが改めて分ったよ。 仲間達と宇宙の未来の為にも、お前達は絶対に食い止めなければならない…!」 プロパガンダも戦意を現す。 そんな三人に対しディザストールは荘厳な様子で語り始める。 「改めて歓迎しよう、貴様等の到着を待ち侘びておったぞ。 我に対してここまで啖呵を切れるとは、伊達に修羅場を潜り抜けていないようだな… それだけに貴様等があの偽善者リュミエールの下に付いているのが悔やまれる…」 「だから下僕じゃねぇって言ってんだろうが!!」 ゼロが怒りとともに反論するがディザストールはそれにさらに反論する。 「口でどう言っても貴様等がリュミエールの側に付いている以上は セイントサンクチュアリにいたつまらぬ愚民どもと変わらんよ。 仮に違うとしてもだ、偉大なる絶対神様に刃向う事自体が許されざる暴挙なのだ」 これにエックスは尚も憤る。 「力だけが全てだと言うつもりか!?そんなのは絶対に間違っている!!」 ディザストールはエックスに対しても反論する。 「それは違うな。あの御方は戦闘力は勿論絶大だが知性とカリスマ性も備えていらっしゃる… 何より違うのはあの御方は民のあり方を良く分かっていらっしゃる事だ!」 「民のあり方、だと?」 プロパガンダが問い、ディザストールは答える。 「世の中に対し如何に貢献できるか、役立つか、そしてそれに対して如何に熱意や忍耐力があるか… これは愚民共に見出される貴重な価値なのだ。 古来より労働は人間の責務であり、互いに支え合い仲間と共に事を成すのは尊い事ではないか。 だがしかし、あの偽善者は民に労働を強いるのはかわいそうなどと抜かした… そしてその思想故に従来は忌避されるべき無職や引きこもりを推奨したのだ…! 貴様等も信念を以って任務に当たる立場ならこの思想の無意味さ、愚かさが分るであろう!!」 そしてディザストールはマインドコンタクトで己とリュミエール、 セイントサンクチュアリの過去を三人に伝え始めた。 「く…一瞬で膨大な情報が入ってくる…!!」 セイントサンクチュアリの前身ホープランドは平均的にまで復興した地域であり喜びや楽しみもあったが、 当然そこには日常の労働による苦しみも存在していた。 「急がないと遅刻するう〜!」 「お前使えねーなー!」 「トロトロやってんじゃねー!」 「このプロジェクトも失敗か…」 「ごめん、仕事が忙しくてまた今度、な」 「仕事と私でどっちが大事なのよ!」 「ちょっと!セクハラはやめてくださいよ!」 「あいつパワハラでノイローゼになったみたいだぜ」 「畜生!また不採用だ!!」 「申し訳ありません!申し訳ありません!」 「毎日毎日残業で妻との会話も減り子供も反抗期…ウィ〜」 これは過去の大戦時や復興が遅れて荒廃している地域に比べれば遥かに恵まれているのだが、 当人からすれば地獄の苦しみそのものである。 リュミエールはこの状況に見るに見かねていた。 「例え戦いが無くなっても、街が復興してもそれで人々が幸せになるとは限らないようですね。 的確な改善と改革が必要でしょう」 そこでディザストールが名乗り出た。 「ならば我に任せるがいいだろう。 今や天候の操作など僅かの力で出来るし、余ったエネルギーを使う良い機会であろう。 労働環境を整えるのも世を救うためには必要な課題だろうしな」 この時既にディザストールはリュミエールと行動を共にしており、セイントサンクチュアリが設立されるや否や 従来の能力である天候操作に加え、元々人を使うのが上手かった生かし厚生労働大臣に就任した。 彼の活躍により労働環境はかなり改善されていった。 「やった!俺に合った仕事が見つかった!」 的確な就職指導により不採用を繰り返した求職者が職にありつけた。 「警察だ!テメーだな、パワハラで部下を苦しめている上司ってのは! ちょっと署まで来やがれ!」 「俺はただ仕事をしていただけなのに〜!」 「うるせえデブジジイ!まぁパワハラ程度じゃせいぜい隔離施設行きだな… 豚箱に入れられねぇだけでも有難いと思え!」 セクハラやパワハラへの罰則が強化され、行った者には様々な社会的制裁が下された。 「勤務時間も減ってお前と過ごす時間も増えて本当に幸せだ…今までごめんな」 「私も嬉しいわ。何もかも新政府のおかげね」 過密スケジュールで距離が開いていった夫婦の距離が縮まる。 しかしそれで全てが解決したわけではなかった。 少なくともリュミエールにはそう思えた。 何故なら仕事の中には危険を伴う仕事もあったし、誰もが個性、才能、やる気、コネ等があるとは限らず 最悪の場合これら全てが欠ける者もいたからである。 こうした人物の訓練にはそれこそ多大な苦労を要した。 そして多くの者は仕事中は辛そうだったからだ。 そこでリュミエールが開発したのが高い性能を備えた自身の端末だった。 これらの端末は人々になり変って仕事をする事になった。 最初はあくまで仕事のサポートの為の存在だったが、ある時リュミエールはディザストールに提案した。 「能力の欠ける者は勤労の義務を免除して差し上げるのは如何です? 今や彼等よりも僕が開発した端末の方がより良い仕事をするでしょうし」 「何を言う。労働は人々の義務ではないか」 ディザストールは異議を唱えたがリュミエールは続けた。 「ある程度復興が進んでいる地域なら子供、主婦、老人、病人、怪我人等は 仕事をせずにすみますよね。 彼等もその中にも入れる、という事ですよ。 能力の劣る者は効率を下げ、無駄なエネルギーを消費しますし 彼ら自身にとっても役に立てない事が心の負担になり 雇う側も必然的に彼等を快く思いません。 中にはそれが原因で彼等に辛く当たる輩も出てきます。 故に能力が低い物は戦力外にした方が全体に良い影響が出てくるはずです」 ディザストールは若干納得した。 「一理あるな。確かに役に立たない者は職場にいない方がいいだろう」 こうして特に能力のない者は子供、主婦、老人、病人、怪我人などと同列に扱われ 生活保護の対象となった。 この事で能力がある為働かねばならない者による不満や嫉妬に対してもリュミエールは手を打っていた。 1つは能力の無い者を「かわいそう」「労わるべき存在」だと世間に吹き込む事、 もう1つは端末の性能を上げ、彼等も仕事をせずに済むようにした事だった。 「まぁ…やる気のない者も職場にいない方がいいからな… リュミエール君の端末は文句一つ言わないしな」 ディザストールも妥協しつつ能力はあるが嫌々仕事をする者を職場から外した。 この時欠けた労働力は端末の他に隔離施設、刑務所、強制収容所の受刑者も使って補った。 厚生労働省が企業と各施設のパイプ役を担うのである。 セイントサンクチュアリでは隔離施設を除き受刑者たちの人権は極度に軽んじられているので 人件費も抑える事が出来たのだ。 また言われた事だけこなせばいい仕事はともかく自分独自の創意工夫を求められる仕事の場合でも 「良いアイディア」を膨大なデータからはじき出し抽出、実行する 非常に高性能な端末が出来たことで補う事が出来た。 客と接する仕事では客が商品やサービス目当てで来る店の場合は見た目が只の機械でも良かったが、 店員自体が客の目的である店は人間そっくりのメカニロイドを使用した。 こうした商売の一部はリュミエールは「汚い」と言って完全に撤廃した。 他にも金持ちの家の使用人に対しても縦社会や主従関係を良しとしなかったリュミエールは 「不平等」「かわいそう」と言って、いかなる金持ちでも使用人を雇うのを禁じて、 代わりに端末を使う事を推奨した。 芸術・創作関連を始めとした何かを生み出したり、本人の強烈な個性を売り出す人気商売だが、 こればかりは仕方が無いので本人が望み、危険を冒さず、反体制表現をしない限りは認められた。 さらに時が経つとタヌキースが問題のある会社員を暗殺し始めてしまう事が起こった。 セイントサンクチュアリはこの時領土を拡大しており、新しく統合された地域では まだ従来の問題もあり、セクハラやパワハラを行う者も見られたのだった。 そうした者が暗殺され始めたのがきっかけでマインドコンタクトが発明される事になった。 これによって群衆が自動的に法律や道徳を守るようになる為教育機関は不要となり、 また「危険な仕事をしたい」という気持ちもリュミエールの「心遣い」により消されるようになった。 さらには政府も実質完全にリュミエールの指揮下に入った為政治家までも仕事から外された。 「今まで有難うございました、ランバートさん。これで貴方はもう自由の身です」 「名残惜しい気もしますが、リュミエール様のお役に立てて私は本当に幸せでした。 しかし自分の時間を下さるというリュミエール様のご厚意を受け取らないのは逆に貴方様への非礼というもの… この度謹んで一市民に戻らせて頂きます」 当時の首相でリュミエールに尽力したランバートも任を解かれて自由の身となった。 ランバートはリュミエールを崇拝していたが為本来なら迷いや抵抗があったはずだが やはり感情操作によってすんなりこの事態を受け入れたのである。 そしてある時、リュミエールの研究所もある超巨大ビルの上の方の階で リュミエールと共に大きな窓から機械で埋め尽くされた夜景を見下ろしながらディザストールは言う。 「リュミエール君、あれから確かに暮らしは便利で豊かになった。 効率も上がった。 だがしかし人間とレプリロイドをこのまま怠けさせて本当に良いのだろうか? 端末は仕事の上では脇役のはずだったろうに主役にしてどうするのだね? 人々を働かせないという事は彼等から生きる意義や社会に貢献できる事への喜び、 仲間と協力して事を成す事の尊さを奪う事ではないか。 しかもあれほど君に尽くしたランバートまで切り捨てるのはいくらなんでも勿体ないであろう」 リュミエールは返す。 「『社会の為』『見返りがあるから』という大義名分があれど 人間とレプリロイドに苦しい事を強いて道具のように使うのは奴隷や家畜扱いと変わりありませんよ。 奢れる者は労働者を『道具』『駒』『代わりはいくらでもいる』と見なしているようですが ならば本物の『道具』『駒』を使えばいいのです。 これら1つ1つは大した価値はありませんし代わりはいくらでも作れます。 これからは実質的に僕一人が全ての労働を請け負い皆様に奉仕する訳です。 いずれ全世界から『労働の苦』を消してみせましょう」 リュミエールが瞳を強く輝かせて言う。 彼の大真面目ではっきりとした口調と強い眼差しからディザストールは 何を言っても彼に自分の意見は通じない事を悟り始めた。 そして力でも頭でも敵わず彼の心を動かす術を見つけられなかったディザストールは 次第に意気消沈していった。 「(人々は働いてこそ生きる意義と価値があるのに何故それが分らない? 労働は己の苦しみと引き換えに多くの者に喜びを与える素晴らしさがあるではないか… 愛しいからただただ甘やかすというのが本当の愛なのか? 大体感情を操作する技術を発明しておいたなら 人々に労働意欲と知性を与えて労働に使う方が余程有意義ではないか… これが…こんな事が人間とレプリロイドの幸せなのだろうか? だが我はこの事態に対し何も出来ない… 最早彼は何者も手出しできない存在にまでなってしまったのだから… いずれは我のこの葛藤も消えてしまうのだろう… この国は、この星はどこへ行こうとしているのだ…?)」 しかしさらに時が経つとメタルプラネットでリュミエールが絶対神に倒され その際絶対神は現ロードキングダム構成員にマインドコンタクトを使えるようにしたのである。 絶対神はディザストールに言う。 「ウキョヒョヒョヒョヒョヒョ!!! 愚民共ハ世ノ為、ソシテ偉大ナル余ノ為身ヲ粉ニシテ働クベキジャ! 本来愚民共ハ奉仕ヲスルベキ存在ダガ逆ニキャツラニ奉仕ヲ捧ゲタアヤツガ間違ッテイタノジャ!   ディザストールヨ、ウヌニモタップリト働イテ貰ウゾ!!!」 「ハッ、仰せのままに!!」 ディザストールは喜んで絶対神に従った。 そしてその後メタルプラネットで自分達の下僕として試験的に製作したミュータントや 新型レプリアンには彼はマインドコンタクトで労働意欲を与え、 ロードキングダムの為に体を酷使して働くように設定した。 現在はその影響をメタルプラネットの外にまで広げようとしている所まで来ているのである… ……… 「…社会の為、偉大なる絶対神様の為に労働や奉仕をせぬ人間とレプリロイドは 只の肉人形と機械人形に過ぎぬわ! 何もしなければ何の価値も無い奴等でも相応の仕事を与えることでやっと生きる価値があるのだ! そして絶対神様の下に直接仕え、最も大きく貢献し、愚民共に仕事を与えてやってる我こそは 愚民よりも遥かに尊ぶべき存在なのだぁーっ!!!」 先程過去のイメージを伝えたディザストールが三人に言う。 これに対しまずゼロが答える。 「成程、これが当時のリュミエールか…確かに気分悪くなるぜ。 だがなぁ、てめぇ等は何なんだ!? エックスの言う通り弱ぇ奴等を弱ぇからって好き放題にすんのは 典型的なイレギュラーだろうがぁ!! こんなのが…牛馬のごとくこき使われんのが民のあり方か!? ふざけんのも大概にしろ!!!」 プロパガンダも続く。 「民には民のあり方があるかもしれない。 しかし統治者にも統治者のあり方がある… 少なくとも民をそのような目でしか見ない者に統治者の資格などない! そのような者に私の仲間を託す事は出来ない! …私は出来ればお前とも心を通わせたかった… しかしお前が絶対神を崇拝し暴力支配を続ける心を譲らないのならば戦って止めるより他に道はない!」 エックスも平和への想いを強く表しつつ言う。 「確かにリュミエールのやり方にも多少の問題はあったのかもしれない… しかしリュミエールは手段はともかくとして自分の力を弱者を守る為に使おうとした筈だ! 強い力があるなら…その力を弱い者を守る為に使うべきじゃないのか! 地球を…宇宙を強者だけが我が物顔ではびこるこの世に地獄になどさせない!! …俺は未来の平和の為にお前を…お前達を倒す!!!」 ディザストールは余裕気に返す。 「ククク…随分と威勢のいいものだ… 絶対神様は益々貴様等を気に入られるだろう… あの御方はリュミエールなどと違って器の大きな方でいらっしゃるが故、 リュミエール以外の全てを受け入れるつもりでいらっしゃる。 当然貴様等もな。 だがしかし貴様等がそのままでは愚民共へのつまらぬ想いを持ち、 愚かな意地がある為簡単に我等に従わぬのは百も承知。 そこで一度貴様等には洗礼を受けて貰わねばならない。 これから受ける我の裁きはその洗礼のさらに前座に過ぎぬのだ…!」 言い終わるとディザストールは構えた。 次第に彼のエネルギーは増大していき、空気の緊張も高まる。 「な…!」 「うあ…!」 …刹那、エックスとプロパガンダが高速で吹っ飛ばされ、壁に激突して深くめり込んだ。 これと同時にゼロもディザストールの攻撃を受け、両腕で何とかそれを止めていた。 が、ディザストールの攻撃の勢いが勝りゼロを押し始める。 ダウンしそうになったゼロだがその前にバックステップで一気に間合いをとった。 「とんでもねぇスピードと…威力だな!」 何が起こったのかというと、ディザストールは一瞬の内に三人を殴っていたのだった。 しかも何の変哲もない只のパンチだった。 「我のスピードを以ってすれば貴様等を素手で倒す事もたやすいのだ…」 ディザストールが得意気に言う。 「な…めるなぁ!!!」 まずゼロはハイパーモード、ブラックゼロを発動した。 そしてすかさずディザストールに挑みかかる。 セイバーと拳の激しい攻防戦しばし続いた後、ディザストールが間合いをとった。 「中々やるではないか…これならばどうだ!」 そう言ってディザストールは手元にハンマーを出現させ、ゼロに殴りかかった。 「なら…Tブレイカーだ!」 ゼロは防御の堅い敵でも難なく破壊できる強力なハンマー「Tブレイカ―」で応戦した。 「ぐぐぐ…」 「おおおおおお!!!」 暫しの間強烈極まりないハンマー同士の押し合いが起こったが… 「ぬん!」 「ちぃっ…!」 すぐにディザストールのハンマーの勢いが勝り、Tブレイカ―を弾き飛ばしゼロを遥か彼方へ吹っ飛ばした。 しかしゼロが壁に激突する時…ディザストールが別方向から攻撃を受けた。 「行けますか、プロパガンダさん」 「うむ、予測はしていたがかなり手強いな…」 その攻撃の正体はチャージショットとプロパガンダが出現させ、飛ばしてきたブロックだった。 「ほう、まだ足掻くか…が、無駄な抵抗というのが分らんのか!」 攻撃は当たったもののディザストールはダメージなど受けていない様子で 今度は標的をエックスとプロパガンダに定め突っ込んできた。 エックスもプロパガンダも懸命に応戦するが一瞬の内にハンマーで何発も殴られ、 大ダメージを負って地に倒れ伏してしまう。 「う…ううう…」 「ぐうう…」 「止めだ!!」 ディザストールはそのまま二人に止めの一撃を喰らわせようとする。 その時ディザストールは横から攻撃を受けた。 今度はアブソリュートゼロを発動させたゼロからの攻撃だった。 ディザストールはゼロの攻撃を数発喰らった後、防御をして間合いをとった。 「ハイパーモード、アブソリュートゼロか… だが我等はこの形態の弱点も調査済み…瀕死になると見境が無くなるようだな。 我のスピードと攻撃力を以ってすればその状態にするのは容易いこと…行くぞ!!」 「やれるもんならやってみやがれってんだ!」 尚も余裕気な態度をとり挑みかかるディザストールをゼロが迎え撃つ。 「カラミティアーツ!」 ゼロがディザストールに激しい攻撃を加える。 「ぬぬぬ…何という技の巧みさよ…! ええい、多少のダメージは仕方あるまい、トールパニッシュ!」 カラミティアーツの巧妙な動きを読めず攻撃を喰らってしまうディザストールは ダメージ覚悟で反撃する事にして、 電気を帯びたハンマーで殴りつける「トールパニッシュ」をゼロに繰り出す。 「速い…しかも強い…!しかし動きは直線的だな…対処出来なくも…ない!」 ディザストールの動きはゼロから見れば単調だった。 その為攻撃の方向を予測して避けたり防いだりする事も出来たが、 そのあまりの速さの為喰らってしまう事もしばしばあった。 「まだ…まだ来ないのか…!」 トールパニッシュを喰らわせても中々「暴走」状態にならないゼロに対し ディザストールの余裕気な態度に陰りが出てきた。 そこに追い打ちをかけるがごとく立ち上がり回復アイテムも使用した エックスとプロパガンダがディザストールを攻撃する。 この時エックスはハイパーモード、アルティメットアーマを発動していた。 「ゼロ、行くよ…ノヴァストライク!」 「バリアキューブ!」 エックスはゼロに合図した後激しい一斉砲撃を放ち、 プロパガンダはバリアをまとったブロックをディザストールの真上に降らせる。 これらの攻撃もディザストールに少しずつダメージを与えていく。 「全く諦めの悪い奴等よ…トールマジック!」 ディザストールが三人全員の頭上に超高電圧の雷を落とす。 「ぐ…あああああ!!!」 三人共かなりの大ダメージを負い、特にエックスとプロパガンダは瀕死の状態にまで追い込まれたが、 唯一体の動いたゼロによって回復アイテムを与えられ、再度体勢を立て直して反撃に転ずる。 この激しい戦いはもう暫く続いたが、やがて回復アイテムも尽きてきて三人は追い詰められていった。 一方でディザストールは多少ダメージを負っているもののまだ余裕が見られた。 「全宇宙の未来の為にも…倒れる訳には…いかない!!キューブストライク!!!!」 プロパガンダは数個のブロックを盾で押してダッシュした。 これは自身のスピードをブロックが飛ぶスピード以上に加速した状態でのダッシュで、 ブロックの重さと硬さ故にその衝撃力は計り知れない。 しかし… 「ハンマーラリアット!!」 ディザストールはダッシュすると同時に腕の代わりにハンマー部分をぶつけるラリアットで迎え撃った。 この技の威力はキューブストライクとは比較にならない程高く、 ブロックを、盾を粉砕しプロパガンダのボディまでも大破させた。 「ぐふ…!最早…私は…これまでか…父上…面目ありません… すまない…コズミックヴァンガードの皆…イレギュラーハンターの皆…リュミエール君…スコルピー君… 後は…頼ん…だ…」 「プロパガンダさん…!…おのれ!!」 これにエックスが激しい怒りを示した。 そして、イフリーテスの部隊と戦った時以上の闘気を放ち今までのあらゆる種類のチャージショットを ディザストールに向けて次々と放った。 「これが俺達の怒りだ!!これが俺達の悲しみだ!!これが俺達の痛みだ!! これが俺達の祈りだぁーーーーっ!!!!!!」 エックスは自身と仲間、過去の敵の想いを胸にひたすら猛攻を加えた。 対してディザストールは… 「ほう、力が見る見る上昇しているな… その感情の爆発によるパワーアップで今まで自分を上回る敵を倒してきた訳か… だがそれは今までの敵の実力がそれだけ半端だったからに過ぎん。 気合だけで倒せるほど、我の力は生半可ではないわ!!!」 ディザストールはチャージショットに抗いながら一瞬でエックスに突っ込んでいき、 トールパニッシュを一気に何発も喰らわせた。 「うううう…まだだ…まだ…俺は…」 エックスもまたボディを酷く損傷し、倒れてしまった。 「エックス!!!…このイレギュラーがあああ!!!! てめぇだけは、絶対に許さねぇ!!!!クリムゾンエンド!!!!」 先程からゼロもディザストールに攻撃を加えていたのだが、 ディザストールのあまりのスピードと勢いからエックスとプロパガンダを守り切れなかった。 それによってディザストールへの怒りは勿論、己への怒りも力に変えてゼロは攻撃の勢いを上げる。 「貴様もその口か…だがしかしその様子だと、もうすぐ来るな…! トールパニッシュ!!!!」 ゼロの攻撃を受けながらもディザストールはまたしてもトールパニッシュの直撃を喰らわせた。 「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!」 ついにアブソリュートゼロの弱点が発動してしまった。 ゼロはがむしゃらにディザストールに襲いかかる。 「これだ!これを待っていたぞ!拙速の方を重んじて技の巧みさなど二の次にした 我の目からしても今の貴様の動きはいい加減で雑極まりないわ! この勝負、貰った!!!!」 ディザストールがゼロに止めを刺そうとした瞬間、ゼロがハイパーモードを解除された後 ブラックゼロを発動し、さらに正気も取り戻して間合いを取った。 「何!?」 ディザストールはこの時何者かの気配を感じ取り、その方向に目を向けた。 そこにはエックスが立っていた。 彼は復活すると同時にゼロをクールダウンさせていたのだ。 正気を取り戻しブラックゼロを再び発動させたゼロはエックスに礼を言う。 「礼を言うぜ、エックス!」 「Xハートが効果を発揮したみたいだ。今度こそ勝負をつける! (プロパガンダさんがいない…俺が倒れている間に完全に消滅させられたのか!? いや、ここまで綺麗さっぱり消えているのも不自然だ… とにかく、今は目の前の敵を倒すことに集中だ!!)」 エックスが答える。 と同時にプロパガンダが先程倒れていた場所から完全に消えている事に気づく。 プロパガンダも謎の失踪をしてしまったのだ。 ディザストールはエックスに言う。 「今回は間に合わなかったか…全く便利なフォースメタルだな。 だが何度来ても同じことよ!はああああ!!!!」 エックスはバスターをチャージし始めた。 そして突っ込んでくるディザストールに向けてチャージショットを発射し始めた。 「どうやら貴様にダメージを与えるには一度に大きなダメージを与えなければならないらしいな。 それならば…この強化版クロスチャージショットでどうだ!!」 エックスがそう言うと自身の放ったチャージショットが後から放たれたチャージショットに吸収され始めた。 従来のクロスチャージショットでは二発分のチャージショットしか重ねられないが、 今回の強化でエックスは一度に十発以上のチャージショットを重ねられるようになっていたのだ。 巨大な光がディザストールを包む。 「ぐ…おおおおお…!!!」 かなり効果があった。 ディザストールの突撃は先程のクロスチャージショットで勢いを殺されてしまう。 「幻夢零!!!」 ゼロが今回の強化で身に付けた力は覚醒無しでも幻夢零を使えるようになった事であり。 ディザストールの胴体に大きな切り傷を刻んだ。 ディザストールは一瞬のけ反ったが…     「これぐらいで…調子に乗るな!! 偉大なる絶対神様の為にも負けるわけにはいかんのだ…! ハンマーラリアット!!!!!」 ディザストールも感情の昂ぶりによって勢いを増し、かつてない速さで エックスとゼロにハンマーラリアットを喰らわせた。 そして二人が高速で吹っ飛んでいる間に… 「トールマジック!!!」 「ぐああああ!!!」 「ぬおっ!?」 ディザストールは吹っ飛ぶ二人に雷を落とした。 この手の技はその時相手がいた位置目がけて発動するものが多く、動き回ればかわされる場合が多いが ディザストールは驚異的動体視力で吹っ飛んでいる相手に正確に雷を当てたのだった。 「どうだ、打撃のダメージと雷の痺れを受けている状態でさらに吹っ飛ばされた状態… そこに追い打ちの雷と来れば一たまりもあるまい!」 ディザストールの言う通りエックスはこれまで以上のダメージを受け、ボディを著しく損傷してしまう。 ゼロも既にかなりの傷を負っており、地に倒れ伏す。 そしてディザストールは倒れた二人に向かっていった。 ディザストールが二人が吹っ飛ばされた地点に到達しようとした時だった… 「何…この状況で失敗だと!?」 この時エックスは既にこの場からいなくなっていたがゼロは意識を取り戻すや否や セイバーを抜いて収める動作を一瞬で行った。 「プロパガンダに続きエックスまで『消し』て俺も『消そう』としやがったな… つまらねぇ手を使いやがって、俺もなめられたもんだぜ! てめぇらが何するつもりか知らんが種が分った以上まだ希望は持てるって事だな… ともあれてめぇを倒してエックス達を取り戻してやるぜ!! コマンドアーツ!!!!!」 「ゲボアアアアア!!!!!!」 ゼロは謎の失踪の正体を知った後コマンドアーツによる無数の連続切りを ディザストールに叩き込んだ。 ディザストールの胴体はさらに切り刻まれてしまう。 直後ディザストールは間合いを取り構えなおした。 「強い…!あまりに強い…!だがそれ故にこの男を倒せば手柄は大きいだろう! 全ては絶対神様の為、我の全てをぶつけてくれよう…! ディバインテンペスト!!!!」 ディザストールはハンマーを持った状態で回転し始めた。 その回転速度はあまりに速くディザストールの体が浮いてきた。 これと同時にディザストールは雷雲を呼び出していた。 そして、避けようもない凄まじい攻撃を繰り出した。 この技は自らを中心に竜巻を発生しハンマーの打撃のみならず旋風による斬撃も放つ。 竜巻の周囲には磁気嵐を発生させ感覚を狂わせ視界も遮る。 さらには上空には雷雲を呼び出し激しい雷雨を発生させる。 雷は超高電圧で雨も散弾銃の如き豪雨であり 床に落ちた雨水に雷を当てることで床全体に漏電させることも可能。 即ち逃げ場が全くなくあらゆる攻撃を同時に発動させたディザストールの究極技なのだ。 この技にゼロは臆することなく迎え撃った。 「狂想舞!!」 ゼロはアメーバイオのラーニング技、狂想舞を繰り出しディザストールの下を目指す。 やがてゼロはディザストールの下へ到達した。 そして、ディザストールを斬りつけ始めた。 「何という男よ…!この激流に身を任せ同化するとは!」 「激流には只々抗えばいいってもんじゃねぇんだよ!!」 この技を発動中のディザストールの回転の勢いは相当なものである。 それ故にブレーキが利かずゼロの攻撃を受け続けるはめになってしまう。 しかしゼロもディザストールのこの技によって徐々に体を破壊されていく。 「俺は確かに過去のイレギュラー大戦の直接の原因かもしれない… だがそんな事にはもう囚われたりはしない! 過去を捨て、未来の為に今を生き抜き信念を貫いてやる!! 俺を受け入れ平和を望み続けるエックス、そしてアイリスの為にもな! エックス達を取り戻す為に、帰りを待っているアイリスの為に、てめぇらをブッ倒す!!!」 「感情の高揚を力に変える、か… しかしそれは我も同じ事! 大いなる絶対神様のお力になる為我は全生命を喜んで捧げよう! 今まで様々なものをあの御方に献上してきたが貴様はその中でも最大の献上物になるだろう!! 光栄に思え、我に裁かれる事と絶対神様の貢物になる事を!!!!」 ゼロの叫びにディザストールが返す。 両者とも肉体は限界に近付いているが技の勢いはより一層増していく。 「おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「はあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 部屋全体が震えた。 旋風が吹き荒れた。 雷の轟きが部屋中を覆い尽くした。 そして、激闘の終わりを告げるかのような大爆発が起こった… 爆風が晴れるとゼロは満身創痍ながらも何とか五体満足で立っていた。 一方でディザストールは胸から下までを失い残った部分も酷く損傷し倒れていた。 「お、己…これ程とは…!」 虫の息となったディザストールが声を絞り出す。 「まだ息があったのか…さて、エックス達をどこにやったのか、 そして絶対神の正体を吐いてもらおうか!!」 ゼロがディザストールに言い放つ。 しかし… 「ククク…ハハハハハハ!!!!」 ディザストールが笑い出した。 「何がおかしい!?」 ゼロが問い詰めようとすると… 突如ディザストールがゼロの胴体に指を突き立てた。 「何!?」 ディザストールはすかさず指先からゼロのボディに電流を流し始めた。 「ダイイングスパーク!!!」 「この…離し…やがれ!!」 ゼロはすぐにディザストールを振り払ったがこの技は既に効果を発揮していた。 ディザストールはゼロに言う。 「我は三神帝、その中でも最も尊き存在よ…このまま負ければ三神帝の名折れというもの… この雷は我が命の雷だ…消える事無く貴様をいたぶり続けるであろう… 苦しみもがくがいい…そして、逝って来い!!」 そう言い残しディザストールは命を燃やし尽し、息を引き取った。 「ぐおっ!ぐあっ!ぐふっ!」 電流がゼロの体を蝕んでいく。 「ハァ…ハァ…俺とした事が、敵を、侮っちまった…ぜ… だが…しかし…俺は倒れん…倒れ…られん…懐かしい…未来の…為にも… ハァ…ハァ…待っていろ…アイリス…」 ゼロは懸命に電流に耐えようとした。 しかし、体はとうに限界を超えており、とうとうゼロは地に倒れ伏してしまった。 こうして三神帝は皆ハンター達の手によって倒された。 しかしその代償はあまりに大きい。 消えた者達、倒れた者達には果たして如何なる運命が待っているのだろうか…?

第二十七話「記憶」

4階では… アクセル、パレット、リュミエールが突入し、最後の決戦に臨もうとしていた。 「これは…立体映像?」 「ずいぶんリアルですけどそうみたいですね」 パレットがアクセルに言う。 そこには建物の中にも関わらず、外にいるかのような光景が広がっており、 それはどうやら立体映像のようだった。 またその景色は大戦が残した爪痕というべき廃墟で空は薄暗く雨が降っていた。 「………」 リュミエールはそれを見て何かを思い出しているようだった。 「どうかしたの、リュミエール?」 そんな彼の様子に気付いたアクセルが彼に問いかける。 リュミエールは答え始める。 「これは僕が辿ってきた道を再現しているようです。只の廃墟の映像ならどうとでも作れますが 建物の配置や地形が100%一致する事など有り得ませんので間違いありません」 アクセルとパレットがそれに応じる。 「大戦のせいでボロボロになっちゃった地域だね。 あるのは廃墟とメカニロイドばっかりで…僕から見ても懐かしいメカニロイドもいるよ」 「私から見ても懐かしいメカニロイドもたくさんいますねー… とにかくこの映像は何らかの心理作戦だって事は十分考えられますよ。 …ってこのメカニロイド、本物です!」 新旧様々なメカニロイドの大軍が三人を取り囲んだ。 今までの大戦で見たメカニロイドもいれば、大戦に関与しなかったタイプのものも見られた。 その直後メカニロイド達の間に割って入るように空間に無数の穴が開き、 それぞれの穴の中から全身真っ黒な正規兵達が姿を表した。 彼等は口々に言う。 「利用出来るものは何でも利用する、それがテメーのやり方だったよなぁ!」 「ここのメカニロイド共は当然従来より性能を向上させてるぜ、 俺達の為に働いてもらう為にな!」 「思い出に囲まれてくたばりやがれ、気狂い野郎がああああ!!!!」 そして正規兵達はメカニロイドと共に三人に襲いかかってきた。 「お前等との思い出なんか、浸りたくもないね!」 新旧様々のメカニロイド達をアクセルがノイズキャンセラーで葬り去っていく。 「あれが立体映像の投影装置ですね。 視界も悪いしこの景色は見てて気分悪くなるので壊しちゃいましょう!」 パレットが弾を放つ機能も備えた立体映像投影装置を破壊していく。 すると視界が晴れていき、辺り一辺は本来の姿を現した。 「(このような演出には何か意図があるようですね。 先程から感じる胸が締め付けられるような、押し潰されるような感じはその所為でしょうか… とにかく、今は降りかかる火の粉を払うのみです)」 何かを感じながらもリュミエールはいとも容易くブラックホール弾を放つ正規兵を撃破していく。 そしてその場にいた敵を殲滅させた三人は奥に扉があるのを確認した。 「…行こう!」 三人は扉の先に進んだ。 そこでもリュミエールがかつて訪れた場所が映し出されており、その光景もまた悲惨だった。 瓦礫の街や死体の山、苦しみもだえる人々の映像にアクセルとパレットは顔をしかめ、 リュミエールも何かを感じていた。 そしてそこでも正規兵やメカニロイドが襲いかかってきた。 「邪魔だ邪魔だぁーっ!!」 「うう〜本当に鬱になるですぅ〜」 「(また…またこの感じが強くなってきましたね…しかし僕は止まるわけにはいきません)」 やがてそこの敵も殲滅させ、三人はさらに先に進む。 このように陰惨な映像とそこで襲い来る敵の中三人は突き進んでいった。 映像の内容であるが廃墟、死体、イレギュラー、それらばかりに囲まれた場所で 死と隣り合わせに生きる人々…だけが映し出されているわけではなかった。 部屋によっては生き残った人々を取り仕切るリーダーが身勝手で理不尽な人物であり、 彼の支配によって民は苦しめられている… そんな映像も映っていた。 政治体制が崩壊した地域は無政府状態で荒廃しているか、 指導者がいてもその指導者の人格・思想次第で良き政治が行われない。 そんな時苦しみその運命に翻弄されるのはいつも弱者だった… これらの映像はそれを物語るかのようだった。 また映像はリュミエールがそこで救いの手を差し伸べる前の光景を再現したものであり、 その分悲惨極まりない光景が映っていた。 三人はそんなこの世の地獄のような光景の中を進んでいき、最深部を目指していった。 この時リュミエールは妙な感覚に悩まされながらも精神力でそれを抑え込み、 この時点では戦闘に支障をきたす事は無かった。 その頃エックスは… 「…ここは…ハンターベース…」 エックスが目を覚ました場所はハンターベースだった。 そこにはシグナスがいた。 「目が覚めたかエックス。戦いはもう終わったんだ。 他の皆はメンテナンス中だぞ。 ああ、外では報道陣が詰めかけているから挨拶してくるがいい」 エックスは外へ。 外には報道陣と大勢の野次馬が詰め掛けていた。 「エックスさん、今回も事件解決ありがとうございます!」 「イレギュラーハンター万歳!」 「今回の事件に関して、何か一言!」 「…ハハハ、ええと…」 押し寄せる報道陣と野次馬に若干困惑するエックスがコメントしようとしたその時だった… 群衆の中から一体の武装したレプリロイドが現れた。 「この時を待っていたぞロックマンエックス…兄の仇!」 そう言ってそのレプリロイドは群衆をはねのけながらエックスに襲いかかってきた。 「待ってくれ、君のお兄さんは…」 「問答無用!!」 エックスに襲いかかってきたレプリロイドはかつて倒したイレギュラーの弟だったようだ。 彼は群衆に構わずエックスに挑みかかる。 彼の攻撃は意外に激しく体が完治していなかったエックスは彼を押さえ込むのに精一杯だった。 両者が戦えば戦うほど周囲の犠牲者が増えていく。 ついにエックスは彼に発砲し、死なせてしまった。 「君の気持ちは分かる。しかしこれ以上何の関係も無い人々を巻き込む訳にはいかなかったんだ…」 エックスが苦渋の表情を浮かべながら言っている時、別の方向から怒りの叫びが聞こえてきた。 「よくも…よくも俺の親友を…貴様だけは絶対に許さん!!」 今度は彼の親友と名乗る男が襲いかかってきた。 同じように戦い、犠牲者を出し、そしてエックスは同じように彼を死なせてしまう。 「本当にすまない…」 するとまた別の方向から声が。 「よくも恋人を!」 今度は先程エックスが倒したレプリロイドの恋人と名乗る女が現れ襲いかかってきた。 やはりこれまでと同じ流れになり、エックスは結果彼女を死なせてしまう。 それからもこの流れは連鎖して延々と続いた。 「よくも妹を!」 「よくも夫を!」 「よくも母を!」 「よくも弟を!」 「よくも先生を!」 「よくも息子を!」 「よくも祖父を!」 「よくも娘を!」 「よくも先輩を!」 「よくも姉を!」 気がつくとエックスは瓦礫と死体の山の上にいた。 自らの手は血やオイルで染まっている。 「うわああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!! どうしてこんな事になったんだぁぁあああああ!!!!!」 エックスが絶叫すると死んだ筈の人々が起き上がりエックスに迫っていく。 彼等は既に滅びた肉体で途切れ途切れに言う。 「無駄ダ…」「お前なンか平和ハ実現出来なイ…」 「所詮…」「おマえは…」「エセ英雄…」「ヴォオォ〜」 肉片やパーツを落としながらも彼等はエックスににじり寄る。 彼等の顔は損壊し、尚且つ憎悪に満ちていた。 「やめろ!やめろおおおおお!!!!!!!!!」 エイリアは… 気がつくと彼女はダイナモと共に市街地にいた。 「ここは…私は確か…アブレイズの攻撃で…」 「しっかりしろエイリア、お前はうなされてたんだ! あれは前の戦いの事だぜ!」 ダイナモがエイリアに言う。 「そうよね…これは今の衝撃の所為よね… 分ったわ、戦闘を再開しましょう!」 二人のいる市街地には巨大なメカニロイドが暴れていた。 この時エイリアはそのメカニロイドの攻撃で受けたと思しきダメージを負っていた。 このメカニロイドはそのあまりに巨大なボディに違わぬパワーを誇り、 さらに全身に強力な重火器が搭載されていた。 戦闘力はロードキングダムの幹部に勝るとも劣らず、二人は辛くも勝利するものの 重傷を負って倒れてしまう。 しばらくすると倒れた二人の周囲に避難していた民間人が集まってきた。 「こっちのハンターの方はまだ助かりそうだ…でもこっちは…」 エイリアは群衆が何かを言っているのを意識が朦朧とする中、聞いていた。 「手遅れだな…!」 「ああ手遅れだ!」 何と群衆はダイナモのボディの損傷した個所を鈍器や刃物で攻撃し始めた。 「やめ…何を…するの…!?」 エイリアは必死で叫ぼうとするも彼等の耳には届かない。 群衆は尚も続けた。 「大戦時のツケが回ったなぁ、オイ!」 「テメーがいくら善行積もうが俺等にやった事は消えねーんだよぉ!!」 「いつまたイレギュラー化するか分らん、今の内処分しとけ!」 「ぐあっ…うがあああああ!!!!!」 彼等は大戦時シグマに加担していたダイナモに恨みを持つ人物だった。 またこの時ダイナモは意識があったのだが抵抗する力は既に残っておらず 一方的に甚振られるのみだった。 エイリアは力を絞って叫ぼうとする。 「やめて…お願い…私の声が…聞こえないのぉ…!?」 レイヤーは… 彼女の前には頭を押さえ苦しむゼロがいた。 「ぐう…おおおおおおおおおお!!!!!!」 「ゼロさん!どうされたのですか!?大丈夫ですか!?」 レイヤーが叫ぶ中突如ゼロの体がおぞましいオーラに包まれた。 「ククククク…ハーハッハッハッハッハ!!!!!」 ゼロは覚醒してしまった。 そして周囲にいる者を見境なく斬り捨てていった。 人間もレプリロイドもバラバラになって四散していく。 レイヤーは必死に叫ぶ。 「やめてくださいゼロさん!貴方は運命を、宿命を乗り越えたんじゃなかったんですか!?」 「そんな物知るか!俺は殺戮者として生まれてきたんだよぉおおおおーっ!!!」 ついにゼロはレイヤーを切り刻み始めた。 「嫌…嫌ぁああああああ!!!!!!!!!!」 カーネルは… 彼は気がつくと出入り口がどこにも見当たらずモニターのみがある独房の中にいた。 「ここは…!?」 しばらくするとモニターが起動した。 モニターには縛られて口を塞がれ即頭部に銃口を突き付けられているアイリスが映っていた。 「アイリス!貴様等何者だ!アイリスに手を出したら只じゃおかんぞ!!」 するとアイリスに銃を突きつけている覆面の男が応える。 「よくもそんな事が言えたものだな… レプリフォース大戦の引き金を引いたのが誰だか忘れたわけではあるまい。 さて貴様にはこの部屋で俺の言う通りにして貰おうか。 断れば、分っているよな…ククク…」 「ふざけるな!」 カーネルが憤ると覆面の男は目に笑みを浮かべアイリスに銃口を強く押し当てた。 「ぐ…それで…貴様等の要求は何だ…」 カーネルに男が応える。 「まぁ世界に仇名すような事はしないさ。貴様等と違ってな! 俺達は貴様の無様でみっともない姿を拝めりゃそれでいいんだよ」 彼と一緒にいた他の覆面の男達も続く。 「貴様の誇りとやらでどれだけの被害が出たか… それを考えればこれが貴様に最も妥当な報復だろう」 「言ってなかったが俺達のこの行動はハンターや政府公認だ。 だから解放後俺達に戦いを挑めばイレギュラーはテメーだ!」 「貴様が意地も誇りもかなぐり捨てるだけで誰も死なずに済むんだ、 悪い話ではあるまい」 「…」 カーネルが考えていると、男の一人が口を開いた。 「そうだな、まず最初に豚の真似をしろ!!」 「何だと!?」 カーネルが言うと男は続ける。 「豚になれっつってんだよ!! ブヒ~ブヒ~私は哀れな豚です、お願いですから妹を解放してくださいってな!」 「ぐ…」 カーネルが躊躇していると男達は一斉にはやし立てる。 「豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ! 豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ! 豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ! 豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ!豚になれ!」 アイリスは懸命に抗いながら目に涙を浮かべている。 カーネルは苦渋の選択を迫られ苦しみ悶える。 「ぐうううううう!!!!!!!!!」 ダイナモは… 彼の前には自分がかつて殺した者の肉親のレプリロイドが立ちはだかっていた。 「貴様を倒してあの子の無念を晴らしてやる!!」 レプリロイドが叫ぶ。 そしてそのままダイナモは彼と決戦へ。 「あんたの気持ちもわかるけどな、俺にだって守るものや生きる理由があんだよ!」 「うるさいうるさいうるさいーっ!!!!」 そのレプリロイドの戦闘力は相当なものだった。 激戦がしばらく続いたがダイナモは押されていき、 ついにレプリロイドはダイナモに致命傷を負わせた。 「止めだ!」 「(焼きが…回っちまったかな…)」 死を覚悟したダイナモ。 しかし何者かによって攻撃が阻まれた。 攻撃を阻んだのは何とエイリアだった。 「エイリアーッ!!!!!!!!」 打ち所が悪かったらしく、彼女は即死だった。 「この野郎!」 ダイナモは瀕死の重傷を負っていたにもかかわらず男に反撃して死に至らしめた。 「畜生…俺なんかの為に…」 ダイナモが嘆いていると数人の人影が現れた。 彼等は先程ダイナモが倒したレプリロイドの仲間だった。 「…やはりイレギュラーはどこまでいってもイレギュラーか…!」 「今ならもう反撃する力等残っておるまい…」 「彼の死を無駄にするな!!!」 既にダイナモは力を使い果たし彼等に袋叩きにされた。 「畜生―っ!!!!!!!」 マッシモは… 彼はグレイシャアに倒された状態で殺風景な部屋で宙吊りにされていた。 「く…俺は…捕虜にされてしまった…の…か…」 すると横から懐かしい声がした。 「おお、お前もここにきてしまったのか…」 「あんたは…マッシモ!」 そう、マッシモの横にいたのはティアナ海底収容所でホーンドに惨殺された 初代マッシモだったのだ。 初代マッシモは申し訳なさそうに言う。 「いいんだよ、お前に過度な期待を抱いた私が悪かったんだ… 何も気に病む事も無い…」 マッシモは悔し涙を浮かべながら返す。 「本当に…本当に、面目ない…!」 そこにホーンドが現れた。 「ククク…テメーも本物と同じ運命を辿ったか… やはりマッシモは弱い弱い! さあお楽しみの時間だ、テメーも本物と同様引きちぎってくれるぜ、 ぷちぷち、ぷちぷちとな!!!!!」 言い終わるとホーンドは巨大な手を伸ばし損傷したマッシモのボディをさらにちぎり始めた。 「糞ぉぉぉおおおおおお!!!!!!」 シナモンは… 「ううう…私は確か…」 彼女は数多くのパイプに全身を固定され、最早壁の一部と化していた。 しばらくするとシナモンの前にDr.サイケが現れた。 「ヒヒヒヒヒ〜遂に手に入ったぞ〜フォースメタルジェネレーターが! これからのお前の役目は我等の為にフォースメタルをただただ作る事だけだ! 己の意思とは関係無しにな!! さあ、フォースメタルを作れ!作れ!作れ!作れ!作れぇぇええええ!!!!」 サイケは狂気を全開にして叫ぶ。 「きゃあああああああああああああ!!!!!!」 マリノは… 彼女はスパイダーを除くギガンティス島で共に闘った仲間達と共ギガンティス島にいた。 「何故…あたし達は…ギガンティス島に…」 その時、どこからともなく声がした。 「よう、久しぶりだな!」 「誰だい!?」 驚いているマリノ達の目の前にシルエットが浮かび上がり、 そのシルエットは次第に姿がはっきりと見えてきた。 「スパイダー…!?」 彼等の前に現れたのはギガンティス島でのもう一人の仲間、スパイダーだった。 その場にいた全員が身構えた。 何故なら彼の正体はイレギュラーと化した新世代型レプリロイド、リディプスだったからだ。 「落ち着け、俺はスパイダーだぜ。お前達の仲間だったスパイダーだぜ。 リディプスとはあくまで別物さ」 「本当なんだろうな…!」 ゼロが身構えているとスパイダーは突如ゴッドリディプスへと変化した。 「己!騙されると思ったか!」 六人はゴッドリディプスに挑むがゴッドリディプスは以前戦った時よりパワーアップしており、 瞬く間に全滅してしまった。 ゴッドリディプスは片手でマリノを掴み彼女を見た。 「くう…本当にふざけた真似をしてくれるね…!」 マリノがゴッドリディプスを強く睨みつけていると彼の頭部の形状が変化し始めた。 やがてゴッドリディプスの頭部はスパイダーのそれへと変化した。 ゴッドリディプスはスパイダーの顔と声と口調で言う。 「ああ、説明が抜けてたな。 スパイダーとしての人格は確かに存在するが、それはお前の前だけでの話だぜ。 スパイダーはお前だけのものだしお前はスパイダーだけのものだからよ。 さあ、邪魔者が消えたところでずっと二人きりでいようぜ」 「ふざけるなああああああああ!!!!!!!!!!!!」 スコルピーは… 彼は何故か地球におけるロードキングダムの事件による被災地におり、プロパガンダもそこにいた。 そして何故か彼はそこでのハンター達の復興作業手伝っているという事になっており、 一般のハンター達と共同作業を進めていた。 ハンター達の中には元ロードキングダムであるという事で スコルピーとプロパガンダを快く思わない者もおり、彼等に何かと因縁をつけてきていた。 「オラモタモタすんなぁ!」 「おい今ぶつかったよなぁ、心込めて謝れや!」 「何だその目は、文句あんのかコラぁ!?」 プロパガンダはあくまで冷静に対処していたがある時ハンターの一人がプロパガンダに ゴミを投げつけた瞬間、スコルピーはキレてしまった。 「テメーらさっきから威張り腐りやがって、気に入らねぇんだよぉーっ!!!」 「ギャー!!!!」 スコルピーが正気に戻った時、ハンター達は串刺しにされたり、八つ裂きにされたり、 砂鉄に押し潰されたりしていた。 そこにエックス、ゼロ、カーネルが現れた。 「これはお前がやったのか、スコルピー!!」 彼等は皆一瞬唖然とした後憤りの態度を示した。 「それは…こいつらがよ…」 言い訳をしようとするスコルピー。 すると彼の横にいたプロパガンダが立ち上がりながら言う。 「すまない…私一人では彼を止められなかった…」 「せっかく…一度はお前を信じたのに…本当に失望したよ!」 エックスが言う。 「てめぇなんか庇って損したぜ!」 ゼロが怒鳴りつける。 「平和に貢献するハンターに危害を加えた罪は重いぞ、覚悟しろ!」 カーネルがそう言うと共に彼等はプロパガンダと共にスコルピーに挑みかかった。 高い戦闘力を持つスコルピーだがこの四人を一度に相手にするには分が悪すぎた。 スコルピーは一方的に四人の攻撃を受ける。 「があああああああ!!!!!!!!!!!」 プロパガンダは… 彼はフラン星におり、数多くの宇宙人が見守る中表彰されようとしていた。 舞台の上でウォーレスが言う。 「こうして、ロードキングダムの脅威も去り、宇宙は一つにまとまったのだ。 コズミックヴァンガードに、プロパガンダに栄光あれ!!」 歓声が湧き上がった。 しかしその歓声は一発の凶弾によって終わりを告げた。 ドルフ星人の一人がウォーレスの顔面を撃ち抜いたのだ。 ウォーレスは即死だった。 「父上ーっ!!!!」 慟哭するプロパガンダとコズミックヴァンガードのメンバー達。 ウォーレスを射殺したドルフ星人が言う。 「このジジイが俺達にどれだけの仕打ちをしたか知らねー訳じゃねーよな!? なのに調子良すぎなんだよぉ!!」 憤りを感じつつも彼を諭そうとするプロパガンダだったが コズミックヴァンガードの者達は烈火のごとく怒り狂った。 「やはりドルフ星人は生かすに値しない糞生物だぜ! 皆殺しだ!皆殺しにしてくれる!」 フラン星人の一人が爆弾を投げ込みウォーレスを殺したドルフ星人を爆破した。 「この野郎、やりやがったな、やっちまえーっ!!!」 「望むところだ、テメー等との仲良しごっこなんて性に合わねーんだよ!!!」 こうして乱闘が始まった。 「皆止めるんだ、止めてくれ!」 プロパガンダは必死で両勢力の争いを食い止めようとするが突如何者かに妨害された。 妨害したのはディクテイテスだった。 「プロパガンダよ、天下を取るのは貴様ではなくワシだ! 今度こそ決着をつけてくれる!!!!!」 「ディクテイテスーッ!!!!!!!!」 プロパガンダはディクテイテスを迎え撃った。 戦いは五分で中々勝負はつかない。 そうしている間にも敵味方共に死傷者が溢れ返り死体の山を築いていく。 「こんな事は…こんな事は止めるんだぁーっ!!!!」 そして舞台は再びメタルパレス四階に戻る。 「よーし、ここもクリアだ!」 「今の部屋の映像もキツかったですねー」 「彼等もまた迷える人々だったのです」 アクセル、パレット、リュミエールがまた一つの部屋を突破した。 そして三人はさらに先へと続く扉を確認した。 この扉とその先の通路はこの三人がやっと通れるほどの小ささと細さであり、 その結果三人は一列に並んで入る事にした。 「何なんだよここ、何も見えないじゃないさ!」 アクセルが叫ぶ。 三人はほぼ同時に部屋に入ったはずだがどうやらバラバラになってしまったようだ。 しばらくするとアクセルの前にレッドアラートの主要メンバーが現れ、 アクセルに挑みかかってきた。 暗闇の中にも関わらず何故か彼等の姿は良く見える。 「オオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」 アクセルは一瞬顔を曇らせたが、すぐに冷静になった。 「本当のあんた達は今の僕と共にあるんだ! こんな小芝居じゃ僕は止められないね!」 バレットで集中砲火するアクセルだが何故かアクセルの放つ弾は彼等をすり抜け、 その代わりに彼等の攻撃はアクセルに当たる。 「ステルスモード…じゃないね。 これは立体映像…しかも今までと違い目だけでなく頭脳まで騙そうというタイプだな… 投影装置は…そこだ!」 アクセルの読みは正しく、アクセルが見定めた位置にバレットの連射を浴びせると 今までより大型の投影装置が姿を現した。 投影装置はレッドアラートの映像を消すと攻撃モードに切り替わり、 今までの投影装置より高威力のエネルギー弾を放出してきた。 …が、すぐにアクセルの連射攻撃により穴だらけになった後大破した。 「グアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」 パレットにはヤコブ事件の主犯格のレプリロイドの映像が襲いかかってきた。 「わわっ、懐かしいですー…ってそんな事言ってる場合じゃありません!」 パレットは応戦しやがて彼女もそれが立体映像だと気づく。 「ええーい!」 そしてパレットも投影装置を破壊した。 「キエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!」 リュミエールには八神将の立体映像が襲いかかってきていた。 「全く、つまらない小細工ですね」 やはりリュミエールも正体を見破り装置を破壊した。 大型・高性能の投影装置が3つとも破壊されると三人のいる部屋は 空からは雨の降る巨大なガラクタ山の映像が映し出されていた。 そこには過酷な環境で細々と生きる人々が映し出されており、その様子は極めて惨めだった。 「…最悪な場所だね」 「…今までで一番鬱になりますよぅ」 アクセルとパレットが引きながら言う。 「ここは当時各地を渡り歩いていた僕が最後に止まった場所…いわば旅の終着点です。 すなわち、最深部はすぐそこでしょう」 リュミエールが答える。この時の彼の表情は険しかった。 胸の内に秘める感情の為に… その時だった。 ガラクタ山の中央が突如せり上がりとてつもなく巨大な扉が現れた。 扉の向こうから不気味な機械音声の声が響く。 「来イ…来ルノダ…」 「!!!!!!!!!!!!!!」 その瞬間、三人はとてつもない何かを感じ取った。 「この向こうにいるのは絶対神です…間違いありません」 リュミエールが告げる。 しばしの沈黙の後、アクセルがリュミエールに言い始めた。 「この戦いもいよいよ終わりだね。 あのさ、僕は正直リュミエールはちょっと、いや結構ワンマンな所があったと思うけど、 最後の方に他の人の考えをちゃんと聞くようになったのはちょっと見直したかな。 僕はずっと仲間に支えられてきたから、僕も仲間を支えようと必死に頑張ってきたから そういう事で気になってたって訳」 パレットも続く。 「私も実のところこの事でもやもやしてたんだすよ。 リュミエールさんに変化の兆しが出てきたのは私もとっても嬉しいです」 リュミエールは二人に応える。 「他者を理解し、仲間と支え合う… 力をつけてから僕はその事の尊さを長い間忘れていたのかもしれません。 その大切な絆の為にもロードキングダムの野望を必ずや阻止しましょう」 そして三人は扉に歩み寄る。 …闇への扉が開かれる。 …最後の扉が開かれる。 …そこで待ち受けるは最低最悪の存在。 恐怖が!絶望が!悪夢が!その存在によりもたらされる…! アクセルは、パレットは、リュミエールはどう立ち向かう!? そして苛烈なの苦しみの渦の中にいる他のメンバーの運命は!? 全宇宙の運命を掛けた最大最後の戦いがついに始まる!

第二十八話「降臨」

ハンター達がメタルパレスで身を挺して三神帝を撃破した頃、宇宙船ではアイリスがメタルパレスのかなり奥深くまで解析していた。 「三神帝が倒されている…みんな勝ったみたいね。後は4階だけだけど、ここのルート解析は特に難しいわね…」 彼女は何とか転送カプセルの先のルートを解析し、八神将をコピーしていた正規兵と三神帝が倒されているのを確認し、 そして特にルート解析の難しい4階の状況を調べ始めた。やがて4階のルートもあらかた調べ終わり、 遂には4階最深部の様子まで解析出来た時…彼女は恐ろしい光景を目にしてしまった。 「嫌ああ!何なのよこれは…!?」 そのメタルパレス4階最深部ではアクセル、パレット、リュミエールがその事態に直面していた。 三人の目の前には透明なガラス張りの円柱形の装置が複数存在し、その装置の中には エックス、エイリア、レイヤー、カーネル、ダイナモ、マッシモ、シナモン、マリノ、スコルピー、プロパガンダがいた。 装置は液体で満たされ、中にいる者は十字架型の機械にくくりつけられ、頭部には何本ものプラグが接続されている。 三神帝やコピー八神将との戦いで受けた甚大なダメージこそ回復していたものの表情の分かる者は苦痛の表情を浮かべている。 「これって…1階から3階に行った人達じゃん…皆、どうしちゃったんだよぉ…!」 驚愕しながらアクセルが言う。 「な、何かゼロさんは見当たらないですけど…」 衝撃を受けつつパレットが言う。 「この装置の構造は損傷の激しいレプリロイドのボディを修復させる装置と初期のマインドコンタクト用の装置のどちらにも似ている… という事は…」 リュミエールがそう言いかけた時、突如どこからともなく不気味な声が響き渡った。 「エサニスルノジャ…」 その声と共に三人の目の前の空間に巨大なブラックホールが出現し、中からロードキングダムの首領にして 全宇宙を巻き込んだ最大最強の悪の権化・絶対神が出現した。 …ドクン!! 何だろう、この感じは…凄まじい重圧に押し潰されそうな、胸が張り避けそうな感触は…自分は過去にそれを感じていた気がする。 しかしそれを思い出したくない。思い出してはいけない…! リュミエールは絶対神と対峙した瞬間そう感じていた。 「これが…これが絶対神…!」 アクセルは頭の天辺から爪先まで絶対神の放つ強烈な圧迫感を感じていた。 この場にいたくない、一刻も早く逃げ出したい、しかし立ち向かわなければならない… そんな想いに彼の心は激しく揺れていた。 「あうううう…!」 パレットは絶対神の強大さと禍々しさにただただ震えていた。 絶対神は構わず続けて言う。 「コヤツラニハ余ニ盾突イタ罰トソレダケノ力ヲ持ツ事ヘノ褒美トシテコノ端末ヲ使ッテグチャグチャニイタブリ尽シタ後ニ 余ノ配下ニナッテモラウノジャ…ウヒャッヒャッヒャッヒャッ!! アクセル!パレット!ウヌラヌモコヤツラト同ジ道ヲ通ッテ貰ウゾ!! 但シリュミエール、ウヌダケハ要ラヌ!ソノ忌々シイ存在ヲ完全ニ消シ去ッテクレルワ!!!!」 これにリュミエールが険しい表情と声で答える。 「余計な存在は、貴方の方です… ありとあらゆる余計な感情を持ち、かつての僕の仲間を誤った道に引きずり込み、 他の星々に手を出し、今はハンターの皆様に危害を加えている… それ故に貴方こそ消え去るべき存在なのですよ 僕はただ地球を救いたかった… 地球と、そこで暮らす人間とレプリロイドを守れればそれで良かったのに…!」 絶対神は返す。 「ウヘァーハハハ!ウヌハ分ッテオランノウ! 絶対ニシテ完璧ナ存在ニナルニハ地球ダケデハ足リンノジャ!! 大昔地球デ宇宙カラ来タ者ガ事件ヲ起コシタ事ハウヌモ知ッテオロウ…」 「……」 リュミエールが暫し沈黙していると彼にパレットが言う。 「あの、それってやっぱり噂じゃなかったんですか??」 そしてリュミエールは答える。 「ええ、調査の結果全て事実のようです。 セイントサンクチュアリの発展には当時の侵略者達のテクノロジーも多少参考にしております」 絶対神の言う地球外の存在が地球で起こした事件とは、現在より100年程前に 宇宙から来た大規模なロボット(この事件で言うレプリアン)の軍団が地球に攻めてきた事件、 宇宙より飛来した巨大コンピュータが地球のロボットを暴走させた事件、 地球に墜落した悪のロボットのエネルギー源が悪用された事件であった。 これらの事件には全て地球を何度も恐怖のどん底に陥れたマッドサイエンティストが関わっているという。 しかしこれらの事件はあまりにもおぞましすぎて現在は歴史の闇に葬られていた。 とはいえこの時代になっても一般人の間でかなり信憑性のある噂として語り継がれてきていたのだ。 リュミエールはさらに続ける。 「僕はこのような事件が二度と起こらないようにと、自身の戦闘力とマインドコンタクトの出力を 確固たるものにして地球への侵略者が再度来ても万全の対策を整える予定もありました。 しかしロードキングダムは力を得た途端に自分達の方から地球外に手を出してしまった… 地球に泥を塗ってしまったのです…!」 これに絶対神が返す。 「何ガ泥ヲ塗ッテシマッタ、ジャ! 旧世紀ノ侵略者共モ力ヲ持テ余シタ結果地球ニ手ヲ出シタダロウニ!! 我等ガ宇宙ニ手ヲ出スノモ同ジ事ヨ! 余ハ地球デ満足スルウヌトハ違イ最強ノ力ヲ手ニシタ時ニ宇宙ヲ侵略スル予定ジャッタ… ジャガ侵略ヲ実行スル前ニ奴等ハ自分達カラ首ヲ突ッ込ンデ行キオッタワ!!! アレは真ニ傑作ジャッタ!!ウヒョハハハハハ!!!!!」 「プランダラ海賊団…」 リュミエールが顔をしかめつつ言う。 プランダラ達の介入によりロードキングダムの被害が宇宙に飛び火するのが早まってしまい、 さらに組織が強化される事になってしまったのだ。 「…許さない…」 「!?」 今までただ圧倒されて何も言いだせなかったアクセルが口をはさんだ。 装置の中の仲間達の苦悶の表情に加え、先程の絶対神の発言に彼は怒りを覚えていた。 「何様のつもりだよ…ただ強いからって…科学力があるからって… 他の人の命や人生を自分だけの都合で弄ぶ資格があると思ってるわけ? そんな事は悪い奴のする事だ! 最初は余所の星を侵略した事に頭に来ていた… でも今は仲間をこんな目に合わせて余計許せないよ!」 絶対神は嘲笑しつつ返す。 「ウヒャヒヒハハハハ!!!震エタ目デ粋ガルノウ!! アクセルヨ、余ハウヌヲ同胞トシテデダケデナクソノ性格モ見込ンデオル… 余ノ下ニ付カナイノハ真に惜シイ!! ソノ虚シイ威勢ヲ粉々ニ砕イテ余ノ下僕ニシテクレヨウ!!!」 アクセルは更に憤った。 「どんな事されてもお前なんかの手下になるもんか! 出生、なんてつまらない事に拘るような奴の下に付くなんて真っ平ごめんだよ! それにここにいる皆もそんな装置なんかじゃお前の手下なんかにならないね!」 ここにいる皆、とは勿論装置の中にいるハンター達の事である。 絶対神はまたしても嘲笑する。 「ウヒャヒャヒャ…コノ端末ノ性能上気合ダケデ抗ウ事等不可能ジャ!! 余ハロードキングダムノ構成員ヲコチラニ引キ入レル際ニハアヤツラノ持ツ 悩ミ、弱ミ、深層心理等ニ取リ入ッテオッタノジャ。 コヤツラガソヤツラ程簡単ニ余ニ従ワヌノハ百モ承知… 従来ノ方法ナラバ相応ノ時間ト手間ガ掛カルジャロウ。 故ニコノヨウニ精神ヲズタズタニシテ…ボロボロニシテ… 弱ミヲ曝ケ出シタ所デ一気ニ堕トスワケジャ!! マインドコンタクトヲ発明シテ以来リュミエールハ他者ヲ自分ニ染メル際 『過程』ヲ省略スルトイウ野暮デ陳腐ナヤリ方デヤッテ来オッタガ…余ハ違ウ!! 余ハ常ニ他者ヲ己自身ノ決定デ下僕ニシテイルノジャ!!」 「だからそれっぽちの事でお前なんかの下に下る仲間達じゃないってば…!! (…と言っても実際これがどんなものか分んないし皆の様子から流石にちょっとやばいかも…)」 アクセルは尚も絶対神に憤慨して言うが、同時に装置の中の仲間達の様子から不安も覚えていた。 その時リュミエールが再び開いた。彼はまずアクセルに声をかけた。 「アクセルさん、彼等の心が弱いとは言いませんがこの状態が長く続くのは危険です」 続いて彼は絶対神に向き直って告げる。 「絶対神… 地球や宇宙、仲間達の事もありますが貴方が消えなければならない理由はもう一つあります。 僕にはセイントサンクチュアリ時代から常に僕を支えてくれた方がいます。 貴方は事件の勃発時に僕からその方に関する記憶を消し去りました。 僕はその方の事をどうしても思い出さなくてはならない… 地球と宇宙、仲間達、そして僕自身とその方にとって最大の障害となる貴方を排除します!」 アクセルも続く。 「待ってて、皆…見ていて、レッドアラートの皆… 僕は皆と、自分と、それを取り巻く全ての為に、絶対神を倒すから…!!」 彼等を見てパレットも勇気を振り絞る。 彼女もまた仲間達の惨状に耐えかねていた。 「エイリアさん…レイヤー…皆さん… 皆さんがこんなになってるのに私だけが怖気づいている訳にはいかないです! アクセルと一緒なら私は平気ですよ…! だからそれまで…頑張ってくださいね!」 三人は完全に決意を固めた。 「フヒャヒャヒャヒャーヒャヒャヒャ!!!!!!ドコマデ足掻クカノウ!!!」 絶対神は余裕気な様子で彼等をあざ笑う。 早速アクセルはホワイトアクセル、リュミエールはレインボーセラフを発動し、パレットはビットを召喚した。 ちなみにさらなる強化と訓練によりパレットの操れるビットの数は200個にまで増えていた。 彼女は念のためビットの一部を仲間達の入った装置の周囲に配置した。 絶対神は遥か上空に浮上した。 「イレイズストリーム!!!」 そしてその叫びと共に下にいる三人めがけて両腕の掌の砲口から暗黒のレーザー砲を豪雨のごとく放ってきた。 三人は何とかそれをかわしつつアクセルとパレットは強化で得た連続エアダッシュで、 リュミエールは従来の飛行能力で上空に向かい反撃に転じようとした。 「ダブルエンシェントガン!!」 「パレットバレット&メタルバレット一斉放射!えぇーい!!!」 「セラフィムバースト!!」 すると絶対神はブラックホールを出現させ、その中に消えた。 「き、消えた!?」 アクセルが言う中絶対神が新たに出現させたブラックホールの中から現れ、 直後また新しく出現させたブラックホールの中へ消える。 「ウヒャハハハハハハ…ウヒヒハハハハ…」 絶対神はそれを数回繰り返した後、攻撃を再開した。 「うわ、また来る!!」 「さっきよりも激しいですぅ…!」 「やはり組織の首領だけありますね…!」 またも相手の攻撃をかわしながら反撃を試みる三人。 しかし彼等が攻撃を始めた時… 「あああぁあぁーっ!!!」 「あううう…!」 アクセルとパレットが攻撃をまともに喰らってしまった。 この時パレットの周囲には多数のビットが取り囲んでいたが、絶対神の放った攻撃はその硬いビットをいとも容易く破壊し そのまま彼女に到達してしまったのだ。 アクセルとパレットは瀕死の重傷を負い、リュミエールは彼等に回復アイテムを与えた直後絶対神にセラフィムバーストを放つ。 すると絶対神はまたブラックホールの中に消えようとするがリュミエールはそれを追う。 そしてしばらくして別のブラックホールから激しい攻防戦を展開する両者が出現する。 アクセルとパレットは意識を取り戻しその光景を目にしていた。 「凄い…凄すぎる戦いだよ…」 「動きは速いし技も強過ぎですよこれ…」 ただただ圧倒される二人。アクセルは悔しさも感じていた。 「僕にもっと力があれば…あいつとまともに戦えるのに…!」 そんな中パレットが戦況を目にしながら叫ぶ。 「で、でもリュミエールさん一人で何とかなる相手じゃないですよ!」 彼女の言う通りリュミエールはいくらかダメージを負っているのに対し絶対神はほぼ無傷だった。 絶対神は変わらず狂気じみた笑い声を発しながら猛攻を続ける。 「ハーデスクロウ!!」 絶対神はその鋭利なつ爪の付いた手で爪の先端部を突き立てるようにリュミエールを掴んだ。 握る力も凄まじく爪は頑強なはずのリュミエールのボディに食い込んでいく。 「く…」 「遅イワ!イレイズストリーム!!!!」 リュミエールの抵抗空しく絶対神は彼を掴んだ状態でイレイズストリームを放った。 リュミエールは真下に吹っ飛び地面に激突した。 「リュミエール!」 今度はアクセルがリュミエールに回復アイテムを与えた後、反撃を開始する。 「確かに奴はしぶといけど…僕達には手数という武器がある! つまりアレが溜まるのも早いんだ…!!」 「それまでひたすら頑張るです…!」 絶対神が技を発動する瞬間を見定めてアクセルとパレットは連射攻撃を繰り出していく。 リュミエールも体勢を立て直し反撃に転ずる。 「(あの技は二方向にしか出せない…つまり奴の両手の先と全く違う方向に行けば…)」 アクセルがそう考えていると丁度イレイズストリームの矛先がパレットとリュミエールに向かった。 「(…今だ!)」 アクセルがエンシェントガンを放ち始めた時… 「ヘルズペネトレイション!!!」 絶対神の目から黒いレーザーが射出され、アクセルの体を貫通した。 「うううう…!」 苦痛の表情を浮かべるアクセルだったが、次の瞬間口元に笑みを浮かべた。 「…溜まった…!」 苦労の甲斐あってセイントトライアングル発動のエネルギーが溜まったのだ。 「「「セイントトライアングル!!!!!!」」」 三人は絶対神にセイントトライアングルを決めた… しかし、無情にも絶対神はほとんどダメージを負っていなかった。 「ああ…この技も通用しないなんて…」 「次の発動までに体力とアイテムが尽きちゃいますよ…!」 「それでも…負ける訳にはいきません…!」 あまりにも頑強過ぎる絶対神に圧倒されながらも三人は立ち向かおうとしていた。 その時… 「お前ら、ピンチのようだな!!」 突然上空に穴が開き、中からゼロが現れ、絶対神に斬りかかった! 「ゼロ!」 「ゼロさん!!」 「よくぞご無事で…!」 歓喜する三人。 「ウヒャッヒャヒャ!!招カレザル客ガ来オッタワ!!ジャガ余トシテハ一向ニ構ワヌゾ!!」 絶対神は若干驚きつつもこの状況を楽しんでいた。 ゼロは言う。 「話は大方理解した。 途中で倒れた奴等はこのガラクタでここに転送され、この装置の中に閉じ込められてる訳だな。 こいつらの顔からしてろくでもねぇ事をやってるようじゃねぇか!!」 ゼロは自身に纏わりついていた球状で中央に目玉があり、周囲から何本もの触手が生えた機械を地面に叩きつけた。 それは絶対神の端末の1つで、それまでの戦いで倒れたメンバーは倒れた後 時空の裂け目から現れたその端末に一瞬にして捕獲され、この部屋に運び込まれたのだった。 そして彼等はそのまま修復機能と精神攻撃機能を持つ装置に入れられてしまったのだ。 ゼロは続ける。 「俺も倒れてこれに捕獲された。だが完全に意識を失った訳じゃねぇ。 てめぇをブッ倒す為にこれにご丁寧に目的地まで運んでもらったんだよ!! …ぐうっ!?」 突然ゼロの体が痺れた。 「ヒャーヒャヒャヒャヒャヒャ!!!ドウジャディザストールノダイイングスパークノ味ハ!?」 絶対神はゼロを嘲笑う。 ゼロは返す。 「こんなもん…この状況では電気マッサージみてぇなもんだぜ! 地球や宇宙を滅茶苦茶にした上俺の仲間達をこんな目に遭わせやがって、覚悟しろよ!!」 そしてゼロは感情と残りの体力が反映される武器、ソウルセイバーを構え、絶対神に挑みかかった。 アクセル達もそれに続く。 「コレガ何カヲ背負ッタ者ノ…ソシテ手負イ故ノ力カ…!!」 ゼロの攻撃が当たる度、絶対神の体の棘、クリスタル、装甲などが破壊されていく。 「所々脆くなっている…先程の攻撃は無駄じゃなかったようですね…」 リュミエールの攻撃も絶対神の体のパーツを破壊していく。 かくして暫しの間、ゼロとリュミエールがメインに絶対神に攻撃を加え、 アクセルとパレットが援護射撃をする形になった。 「そうだよ…ハンターにはいたんだ、もっと凄いのが…!! 僕もいつか、あのレベルに…!」 改めてゼロの実力を目の当たりにしたアクセルはそう感じていた。 「お前との共闘は気分が悪ぃが、今はそんな場合じゃねぇな…お、来たか!」 ゼロがリュミエールに言いかけた時、ファイナルストライクへのエネルギーが再び溜まった。 ゼロも連続攻撃を得意としていたので溜まるのが大幅に早まったのだ。 アクセル、パレット、リュミエールがセイントトライアングルを発動する体勢になり、 ゼロもどういったわけかイメージが伝わり同じ配置についた。 そしてアクセル、パレット、リュミエールが絶対神目がけて赤、緑、青の光線を出すと同時に ゼロはセイバーから深紅の光線を出した。 直後巨大な爆風が絶対神を飲み込んだ。 それはセイントトライアングルを遥かに上回る強烈極まりない大爆発だった。 攻撃が決まった後、爆心地からは煙が絶対神のものと思しき破片が飛び散る… 「終わった…訳ねぇよな…!」 しかし、絶対神の放つ強大で禍々しい気配は消えていなかった。 それどころか以前より格段に増している。 やがて煙は晴れていき、その中から機械音声ではない声がする。 「愚かなるリュミエール…思い出すのじゃ、余の正体を…己の業を…! そしてアクセル、ゼロ、パレット…余は益々うぬらを気に入ったぞ…!! 必ずや我が下僕にしてくれよう!!!ウヒャーヒャッヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」 しばらくして煙から現れた絶対神を前にリュミエールは声を絞り出した。 「そんな…君は…君は…」 ――そして少年は、全てを思い出した――

第二十九話「追憶」

煙から現れた絶対神を前にリュミエールは愕然とした様子で声を絞り出す。 「君は…君は… ノワー…ル…」 絶対神は本名をノワールといった。 そして驚いていたのはリュミエールだけではない。 アクセル、ゼロ、パレットもまたノワールの姿に驚きを隠せずにいた。 「これが絶対神の本当の姿なの!?リュミエールにそっくりじゃん… 一体どういう事なんだよ!」 「確かに見てくれはリュミエールに似てるかも知れねぇが…雰囲気は別物だ!」 「リュミエールさんの、ご兄弟なんですか?」 彼等の言う通りノワールの外見はリュミエールと瓜二つだったのだ。 しかし全く同じだったわけではなく、両者の外見にはいくつか差異があった。 ノワールの髪や瞳、アーマーなどの色はリュミエールと違っており、 またノワールのアーマーには禍々しさや刺々しさのある模様や装飾が見られた。 だがこうした違いはほんの些細なものに過ぎなかった。 最大の違いはリュミエールは強く輝く瞳を持つのに対してノワールは光の無い瞳を持っていた事だった。 さらにその顔には不気味かつ凶悪極まり無い笑みが浮かんでいた。 そしてノワールは己の姿を見て驚くハンター達に言う。 「ウヒヒハハハハハ!!!余の顔はそれほどリュミエールに似ておるか! 残念じゃが余とこやつは兄弟などではないわ!もっと近い存在じゃ! 冥土の土産…ではないがうぬ等に教えてやろう、余の出生を…晒してやろう、こやつの恥を…」 ノワールは自身とリュミエールの過去をマインドコンタクトでその場にいる者に伝え始めた。 「まただ…またアレが来るぞ… ってリュミエール!?」 「う…う…」 アクセルがリュミエールに目をやると彼は苦しげに悶えていた。 そしてノワールと共鳴するかのようにリュミエールからも膨大な情報が流れ込んできた。 「とんでもねぇ情報量だな…!」 「二人分の記憶が…思い出が…一気に流れ込んでくるです!!」 ゼロとパレットもこの事態に圧倒されたが彼等の頭脳は自然と流れてくる情報を受容する。 そしてアクセル、パレット、ゼロはリュミエールと…ノワールのそれまでの足跡を辿る事になる… その昔、リュミエールとノワールは二人で一つ…否、一人で二つだった。 即ち一つの体に二つの人格がある、いわゆる二重人格者だったのである。 但し生まれつきではない。 彼の二重人格は後天性だったのだ。 時はリュミエールが二重人格者になるさらに前に遡る。 宇宙開発の為に造られた新世代型レプリロイド…… 彼等の性能は非常に高かったのだが製作の過程の一部にシグマが関与していた。 その為か、彼等自身の意思がそうさせたのか、彼等は悲惨極まりない事件を立て続けに起こしてしまった。 代表的なのがリディプスによるギガンティス事件、ルミネによるヤコブ事件だった。 これらの事件の後残った新世代型レプリロイドは厳重なプロテクトを掛けられた上で 再度宇宙開発に運用されていく事となった。 当の新世代型レプリロイドは… リディプスやルミネの事件の影響で (本来の開発者が新世代型レプリロイドの開発にシグマが関与していると知らなかった場合) 直接の開発者と折り合いが悪くなったり、自身の存在に不安、恐怖、悲しみを覚える者も少なくなかった。 こうした者の中からは追われるように町や国を出たり、 リディプスやルミネのようになりたくない、自身のあり方を模索しようと旅に出たり隠居する者も現れた。 リュミエールもその一人だった。 彼は己の同胞が犯した過ちを悲観し、また自身も同じ道を歩むのではないかという不安も抱いていた。 しかし程なくして彼は生まれつき備わっていた過去の戦いに関するデータを見つめなおしてみたところ、 考えを改め己に希望を見出した。 その過去の戦いに関するデータとは、 大昔何度も世界を征服しようとしたマッドサイエンティストに造られた存在でしかも シグマをイレギュラー化させたウィルスを持っていたゼロがハンターをやっており幾つもの事件を解決してきた事、 自分達の始祖であるアクセルもまたハンターとなり活躍を重ねてきた事、 そのアクセルが元いた組織のレッドアラートも元犯罪者を含めあらゆる出身の レプリロイドがまとまってイレギュラーを退治していた事、 かつての大戦に大きく関与した人物であるカーネルやダイナモが 今は改心して生きて罪を償っている事などであった。 それらを踏まえリュミエールは己の出生に囚われず自分の道を歩む決意を固めたのだった。 またリュミエールは当時の地球は過去の大戦によって甚大な被害を被り 各地で傷つき苦しんでいる人々が溢れかえっている事も知っていた。 さらに復興が進んだ地域は進んでいるが通信や交通の麻痺、異常気象、暴走メカニロイドなど諸々の要因によって 復興が思うように進まない地域も存在している事も彼は程なくして知ったのである。 そういった地域で助けを求める人々の力になろうと、リュミエールは戦いの傷が癒えぬ荒野へと旅立った。 当初リュミエールは痛みも悩みも知っていた。 この世に救えない者などいないと信じたかった。 いかなる者でも人に備わった愛や強さ、優しさ、絆があると思いたかった。 卑怯な真似はしたくなかった。 外道に身を堕としたくなかった。 リュミエールは前述で固めた決意と生まれながらに備わった能力を以って荒廃した地域の復興に努めた。 それは彼なりの慈愛で、善意だった。 「有難うございます!本当に有難うございます…!!」 「お礼になるか分りませんが…これを持って行ってください!」 人助けをすれば確かに感謝をされる事もあり、見返りがある事もあった。 しかしそれが全てではなかった。 「あんな奴助ける事ないじゃないか!!」 助けた者が犯罪者で被害者たちの恨みを買う事もあった。 「助けてくれてありがとよ、お礼に所持品全部寄こしやがれぇぇぇええ!!!!」 恩を仇で返すような輩もいた。 リュミエールの心はその度に傷ついたが、彼に助けられた者の励まし等もあって 当初の目的を見失うことなく活動を続けた。 また当時リュミエールが訪れた地域は政治・経済が完全に崩壊した廃墟ばかりではなかった。 この時代地球は主に大戦の影響で様々な国が併合と分裂を繰り返していた。 これは大古の昔からあった法則だが思想を同じくすれば手を結び、違えば袂を分かつのだ。 イレギュラー大戦の後では復興の遅れた地域ではこうした傾向が顕著に見られた。 国が無い場所ではリュミエールはただ苦しむ人々を救済すれば大体それで良かったのだが、 曲がりなりにも国がある場所ではそう上手くいかない事も多々あった。 人々が集まり、その中に何らかの力を持つ者がいると力無き者はその者につき従う構図が出来る。 その規模が大きくなれば国となるのだが大戦後出来た国の指導者の出身や立場、思想は様々だった。 力を持ち、人々の主導権を握るのはあるいは貴族、あるいは軍隊、あるいは企業、あるいは宗教だった。 こうした指導者達の下で弱き人々は幸せな暮らしが出来るとは限らなかった。 「み、見逃してくれ、このままじゃ飢え死にしてしまう〜!」 金が無く、さらに空腹に耐えられず盗みを犯す人間。 「あんな政治が行われている所よりも暴走メカニロイドが出るここの方がマシです!」 惨たらしい政治が行われている国よりも暴走メカニロイド出没地を選ぶ人々。 こういった地域ではリュミエールは人々を苦しめる元を断つ事に努めた。 知恵と力を発揮し、人々を指導し、励まし、なおかつ犠牲を最小限に止めてきた。 また他の地域では… 「感情ハ争イヲ起コスダケダ。故ニコノ地デハ住人ハ全テノ感情ヲ捨テ去ッテイル… ココニ入ルナラバ全テノ感情ヲ捨テル施術ヲ受ケヨ。出来ヌナラバ立チ去リタマエ」 脳波に干渉する科学技術で人間もレプリロイドも全ての感情が奪われた都市があった。 「それでは人間とレプリロイドが従来備えた大切なものも失ってしまうのではないですか。 これは褒められたものではありませんね」 そしてリュミエールは持ち前の科学力でその都市の住人の感情を取り戻させ、 その後は住人達に「善悪の判断」、「よりよい生き方」等を教え込んだ。 しかしその都市で使われていた技術は後にリュミエールがマインドコンタクトを発明するヒントになった。 このように大戦の影響を受けて何もかも崩壊した荒野や国や法律はあるが悪政が行われている所を リュミエールは渡り歩いてきた。 元から自身に様々な能力が備わっている事が分っていたリュミエールだったが 旅をしていて自分と他人の能力差や思想・価値観の違いがより分ってきた。 単純な戦闘力は言わずもがな、科学力も自分に迫るものはなかなかおらず 知恵や判断力・賢明さ等でも自分に遥かに劣る者ばかりと出会ってきた。 また世間一般で「醜い」とされる言動や行動を取る者も見られ中には道を踏み外す者さえいた。 「何故このような非道な真似が出来るのか」 「このような政策は思い浮かばないのか」 「この技術をさらに進歩させるにはこうすればいいのが分らないのか」 内心そのように感じたリュミエールだったがそれでも彼は人間とレプリロイドを慈しみ続けた。 力があるから弱い人間を守ろうという価値観も彼は備えており レプリロイドの中でもかなり抜きん出た力を持つ自分は尚更人間もレプリロイドも この手で守るべきだと考えた。 単純な力だけではない。 心に何かしら欠点がある人がいたらその人の為にもその周囲の人の為にも 自分が正しき道に導いてあげようとも彼は考えた。 それはまるで子供を可愛がるかのような、年寄りや体の不自由な人々を労わるような愛情にも似ていたのかもしれない。 しかしリュミエールは「全ての」人間とレプリロイドを守ろうと考える事は次第に困難に思えてきた。 何故なら彼が出会ってきた人間とレプリロイドの中には本当にどうしようもない者もいたし 今まで多くのイレギュラーがハンターなどの手で殺されてきている事も知っていたからだ。 彼自身止むを得ない場合は手の施しようのない者を何人か殺している。 そういう時リュミエールは悲しみながらも「相手を殺さなければ誰かが死んでいた」「原因は相手にある」 と自分に言い聞かせ、周囲の人々の励ましにも心を貰ってきたのだ。 旅を進めるとある町で古ぼけた教会がありリュミエールはその教会で他者を殺す度に懺悔をしたものだった。 ある日の事… その日は強い雨だった。 リュミエールは荒野で1体の凶悪なレプリロイドと対峙していた。 そのレプリロイドは崩壊の激しい地域で何度も悪事を重ねてきていた。 彼と会うしばらく前リュミエールはその荒野に済む人々から彼の話を聞いていた。 それは彼がどんなに説得してもどれだけ真剣に諭そうとしても我関せずで 他者を裏切り続け、傷つけ続け、殺し続けてきたという話であった。 当然その住人達は彼から受けた傷を至る所に負っていた。 「ヘヘヘヘ…何だまた正義を気取るバカがやってきたのかぁ?」 レプリロイドは残忍な笑みを浮かべながらリュミエールに言う。 「貴方がやっている事は弱者を徒に踏みにじる許されざる行為です。 僕がここで食い止めます」 両者は相まみえ、戦闘となった。 このレプリロイドの戦闘力は当時のリュミエールにとっては高く、苦戦を強いられた。 「オラオラどうしたどうしたぁ!?」 「く…僕は…僕は…負ける訳には行きません…力無き者達の為にも…!」 リュミエールはレプリロイドに反撃し、大ダメージを与えた。 「こ、この、やりやがったな!?」 それからしばらく互角の戦いが繰り広げられた。 レプリロイドは感情が昂ぶり技を出す度に罵言雑言を吐きまくる。 「愛だの友情だの正義などくだらねーんだよ!!」 「こないだ綺麗事抜かす奴の仲間を殺したらそいつブチ切れてきたぜ!ぎゃっはっはっはっは!!!」 「弱い奴らの断末魔こそが俺の生き甲斐なのさ!!」 これに対しリュミエールも彼に想いをぶつける。 「何故貴方は…そんな考えが出来るのですか!? 人を人たらしめている素晴らしい感情がそんなにくだらないのですか!? どうして…どうして貴方はこうなのですか!?何故貴方みたいな方がいるのですか!!?」 激しい攻防戦が続いたが非情になり切れないリュミエールの攻撃にはどこか甘さがあったのだろうか… 流れがレプリロイドの方に傾き始めた。 「ぎゃははははは死ね死ね死ね死ね死ねーーーーっ!!!!」 「……」 攻撃を受けるリュミエール。 「(この人を止めなくては、また新たな犠牲者が出てしまう… 彼は話を全く聞いてくれない…そんな理性や知性など無い… 早く殺さなくては…いけない… こんな考えを持つ者は…守るべきではない… いなくなればいい… 彼は劣っているから消えなければならないんだ… 新世代である僕が制裁を下してやる… こんな奴…こんな奴…こんなクズ…こんな糞… 消えろ消えろ消エロ消エロ消エロキエロ…)」 リュミエールはうつむいた。 「何だぁ、もうくたばりやがったか、正義の味方さんよォ!?」 レプリロイドがリュミエールの顔を覗き込むと… 「イヒアーーーーーーーッ!!!!!!」 レプリロイドの目には瞳から光を無くし、おぞましい形相をしたリュミエールが映った。 「な、何だこのガキ、いきなり感じが変わりやが…ゴフッ!!!!」 直後レプリロイドは地面に叩きつけられた。 突如豹変したリュミエールはレプリロイドに言う。 「ウヒーハハハハハ!!!!うぬの断末魔はどんなものかのう!? 余に聞かせたまえ!!!!!」 リュミエールはレプリロイドを一気に圧倒した後、嬲り殺しにしてしまった。 しばらくするとリュミエールは我に返った。 「これを…僕が…!?」 見ると先程までリュミエールと戦っていたレプリロイドは恐怖と苦痛で顔を歪め無惨に死んでおり、 辺り一辺が滅茶苦茶に破壊されていた。 しかしリュミエールは相手のレプリロイドと周囲の大地をこのようにした覚えは全くなかった。 「(一体なぜ…いつの間に…僕は彼と戦っている時に意識が飛んで…)」 「(余が力を貸してやったのだ…)」 動揺や困惑を感じているリュミエールの心の中から突然声が聞こえてきた。 「(…!!今の声は…!?)」 さらに戸惑うリュミエールに構わず心の声はリュミエールに語りかける。 「(今倒したレプリロイドはうぬ、即ち余より遥かに力の劣る者じゃった… にも拘わらずうぬの甘さが災いして中々勝負がつかなんだ。 故にうぬの体の能力をフルに発揮させたまでじゃ…ヒハーハッハッハ!!!!)」 声は自身とリュミエールが同一だと言う。 「(貴方はどなたですか?僕と貴方が同じとは一体どういう意味が…?)」 心の声にリュミエールは問いかける。 声は答える。 「(余はうぬの中で目覚めたもう1つの人格じゃ。 うぬは他者を守る際その相手を守るべきか守らぬべきか迷う事があったであろう? 愚かな考えを持つ者や愚かな行為をする者を嫌悪し侮蔑しておったであろう? 自らの力と才能を実感しておったであろう? そういう苦悩や奢りの感情と新世代型レプリロイドとしての本能によって 余はうぬから分れたのじゃ。 あるいは余がうぬの従来あるべき姿かもしれんのう!?ウヒャヒャヒャヒャ!!!)」 リュミエールは両手を見ながら心の中で言う。 「(そんな…僕の中にもう1つの人格が…!? しかもそれがこのような危険な性格だなんて… 僕は今まで説得に応じない人は最終的には力で何とかしてきたけど、 自分自身となると今までの手は安易に使えない… この人格と本気で向き合って、説得しなければいけない… もしこの人格を手に負えなかったら、何もかも終わってしまう…!)」 しばし考えた後リュミエールは問いかけた。 「(そうだ、君の事は何と呼んだらいい? 便宜上君の名前を考えておかないと色々不便だし…)」 もう1つの人格は返す。 「(別に何と呼んでも良いぞ。但し侮辱的な名は許さぬ!)」 リュミエールは間を置いてから心の中でもう1つの人格に言う。 「(そうだ、僕の名前は光を意味しているから闇を意味する『ノワール』はどうだろう?)」 もう1つの人格は答える。 「(ノワール、か…実に余に似つかわしい名前じゃのう!宜しい、余はノワールじゃ!)」 こうしてリュミエールの中でノワールが目覚めた。 ノワールの性格は、それはもう最悪だった。 物欲、食欲、性欲、支配欲などあらゆる欲がとてつもなく強く、極めて粗暴であり、自惚れも激しく、 破壊行為や殺戮行為を楽しんだ。 人格の切り替えが上手く行かないときはリュミエールは非常に苦労した。 止むを得ず他者を殺す時ノワールが出てきていれば多少は気が楽だったかもしれない。 しかし思わぬ所でノワールが出てきてしまった時は大変だった。 「助けてやったのだから礼としてそれを寄こせ!!」 「余に対して何じゃその態度は!」 「良い体をしておるな、気に入ったぞ!余の女になるがいい!!」 そしてリュミエールが我に返った時… 「ヒイイイ!!!来るな!来るなぁ〜!!!」 「何なんだよお前は、あっち行け!!」 「来ないでよこのケダモノ!!」 一般人からも拒絶される事もしばしばあった。 只でさえ苦労の尽きないリュミエールだったがノワールの出現によってさらに苦労する事になった。 ある雷雨の日に精神的に疲弊したリュミエールは他者を殺める度に懺悔に訪れていた教会にまた足を運んだ。 「神父様…僕はまた他のレプリロイドを殺してしまいました…! 弱き者を助ける為とは言え結局相手を説得出来なかったのです…! それだけではありません… 今までの苦悩の為か僕の本性の為か知りませんが僕の中に別の人格が出来たのです… 彼はどうしようもなく凶悪で目に映る物何もかもを傷つけていきます… 僕はこのまま彼によって破滅してしまうのでしょうか!? どうか僕に救いの言葉を…!」 すると間を置いた後神父が答え始めた。 「君はもしかして、水色の髪に金の瞳の新世代型レプリロイドの少年かね?」 懺悔室の為相手の姿は見えないが、神父はリュミエールの外観を見事に当てていた。 「…!どうしてそれを…!」 神父はリュミエールに答える。 「本能と言ったところか…私は教会の外で悩みながらも戦う君の姿を見ていたのだよ… そして感じていたのだ、君から私に似た気配を… 君も私から何かを感じているだろう?」 ――!! 否定できない。 リュミエールは神父に問いかけてみる。 「神父様、貴方はもしかして…」 神父は言う。 「そう、私、いや我は君と同じ新世代型レプリロイドだ。これも何かの縁だ、懺悔室から出たまえ」 そしてリュミエールは(彼から見て)初めて神父と対面した。 出てきた神父は人間の姿をしていたが、直後本来の姿に戻った。 その姿は大柄で魔法使いのような姿をしていた。 神父だったレプリロイドはリュミエールに自己紹介をする。 「我が名はディザストール…君と同じく独自の道を選んだ新世代型レプリロイドの一人だ。 自らの罪を悔いる咎人を通して世と己を見つめようとこうして教会を立て 神父として行動してきたがそれも今日までとしよう。 君の事態が深刻になってきた事と君の旅に興味があるからな。 同じ新世代型レプリロイドとして喜んで力を貸そうではないか。 世の救済にも、君の中の問題にも…」 窓から雷がディザストールの姿を時折照らし出す。 ディザストールは続ける。 「この世界は君には広くて重い。 このまま救済活動を続けるには一人では限界があるであろう。 知っての通り世界には故郷を追われたり自分で旅立った同胞がたくさんいる。 彼等の中には非常に優秀な者も数多い。 彼等の協力を募るのはどうであろうか?」 リュミエールは頷く。 「ええ、お願いします、神父様、いや、ディザストールさん」 そしてリュミエールはディザストールを仲間に加え旅を続けた。 当時リュミエールの戦闘力はディザストールと大差なく、 不意にノワールが出てきた時はディザストールが何とか押さえてくれた。 またノワールがリュミエールの説得に全く応じないかと言えばそうではなかった。 相手の気持ちを考えず己の欲望の赴くままに行動していると身を滅ぼしてしまうという事を ノワールはリュミエールの説得や実体験によって次第に理解してきた。 リュミエールはディザストールの協力もあって次第に人格の切り替えがスムーズにいくようになっていった。 あるいは基本的に損得勘定で動くリュミエールの考え方がノワールを納得させたのかもしれない。 人格の切り替えがかなり上手くいくようになった頃、リュミエールはディザストール、時折ノワールの協力の下 人助けをしつつ仲間集めに着手し始めた。 各地に散った新世代型レプリロイド達はリュミエール達の科学技術や戦闘力、 やろうとしている事のスケールの大きさ、雰囲気等それぞれが様々な要素に惹かれて仲間に加わっていった。 「この旅は己を強くし弱き者共を鍛え上げる良い機会に違いない!たぎる…たぎるぞ…!」 「この世は悲しみに満ち溢れた劇場…さあ私を案内してくれたまえ、悲劇のステージへと…!」 「ふむ、数多くの死体と関わる事が出来そうであるな。宜しい、ならば付いていくである」 「自然の再生の為なら喜んで手を貸そう」 「強ぇ奴と戦えればそれでいいぜ!」 「この荒波、絶対に乗り越えてやるぜえええええ!!!」 「裏の事情はワシにお任せ下され」 「俺でいいのか?不器用な俺でもよぉ」 「ウジュルウジュルウジュル…苦しんでる可哀想な天使ちゃん達の為に僕が一肌脱いであげるぅ〜」 「興味深い…実に興味深い…また一つ真理に近付けるかもしれない…」 「クズ野郎共は俺が血まみれにしてやるぜぇ!」 「哀れな戦死者達にはボクが相応のはなむけを捧げよウ…」 「へぇ〜面白そうじゃん?んじゃ〜おたく等に付いて行こうかなっと」 「世界を救う為誇り賭けて戦う!」 「うおおおおーっ!!やってやるばい!!!」 「なかなかの刺激が待ってそうだな…その話乗ったぜ!」 「拙者はタヌキース殿のお供を致すのみでござる…」 後にロードキングダムの幹部となるレプリロイドを含む新世代型レプリロイド達が加わっていくと 救済活動はより一層順調に進んだ。 新世代型レプリロイドだけでなくリュミエール等に惹かれたり行き場を無くした人間と 一般のレプリロイド達も続々とリュミエールの側に付いて行った。 その際リュミエールは自分にもう1つの人格が存在する事を少しずつ仲間に明かしていった。 ノワールの人格を表に出してみせた時、当初の仲間達は皆引いていた。 所帯が多くなるとリュミエール達はトレーラーを使って各地を回って復興を支援した。 一行の噂は広まりリュミエールのトレーラーが来た時点で仲間に入る事を決意した者さえ出てきた。 人間や一般のレプリロイド達もリュミエールの指導に従って良く働いてくれた。 「(ウヒャーヒャッヒャッヒャ!!!余に付き従う者がこんなにおるわ!!!)」 「(…余計な事をしなければこうやって結果はついてくるよ)」 リュミエールはノワールが仲間達を下僕扱いしているのを良しとはしなかったが いきなり出てきて仲間を傷つける事がなくなってきたのでそれには一先ず安堵した。 数週間後、リュミエール一行が旅をしている日の事だった。 その日も雨が強かに降り注いでいた。 リュミエール達は巨大なガラクタ山に行き着いた。 そこの環境は散々だった。 空気は汚れ自然も蝕まれガラクタからは有害物質が漏れ電波障害も激しく死臭が漂っていた。 ガラクタ山の周辺には何棟かの掘立小屋や急ごしらえの死者の墓と思しきものがあった。 「これはひどい…」 「うげぇぇぇぇぇ!!!」 絶句する仲間達。 「これは一刻も早く救援活動に入る必要がありますね…!…あれは…」 リュミエールがいつものように指示を出そうとすると向こう側で ボロ布を纏った人々が集会をしているのを目にした。 彼等はこのガラクタ山の住人であり、集まっている人々の前に一人の人間の中年男性が演説していた。 彼こそが当時彼等の長だった、ランバートであった。 ランバートは言う。 「皆、今回の作戦では奴等を3体も撃破出来たのに対し死者は0名だ!これは今までの中では快挙だぞ! 奴等の数には限りがあるんだ、決して希望を捨ててはいけない…! 必ず勝って…生き抜いてみせようではないか!」 これに対しガラクタ山住人達は歓声を上げた。 「流石ランバートさん!見事な作戦でした!!」 「次は5体破壊してやるぜ!!」 「いつかあの町でまともな暮らしをするんだ…!」 過酷な環境に置かれているにも関わらず住人達の目は希望で輝いていた。 それは他でもないランバートのお陰だったからだ。 彼はガラクタ山の住人達を時に優しく、時に厳しく接してまとめてきた。 皆からは心から慕われ身寄りのない子供達からは血は繋がらなくとも父と呼ばれているという。 これを目にしたノワールはリュミエールの中で言う。 「(ウヒャーッヒャハハハハハハ!!!健気じゃのう!人間のくせにいい根性しとるのう! こやつのような男は利用のし甲斐があるとは思わぬか!?)」 リュミエールは返す。 「(いけない、そういう捉え方は!しかしこの方は本当に素晴らしい。 こういう尊いものを持つ方こそ守らなければならない…)」 集会が終わるとリュミエールはランバートに声をかけた。 「初めまして、僕はリュミエールと申します。 仲間達と各地を回って復興支援活動をしております。 ここの環境には目を覆いたくなりますね。 是非ともここの皆さんのお力になりたく思います。 その為に先程離していた事を詳しくお聞かせ願います」 ランバートは答える。 「旅の方ですか。 私はここを仕切らせてもらっているランバートです。 ええ、ここの酷さは見ての通りでして… では説明しますがこの地は大戦の影響でご覧の有様になってしまいました。 しかも出ようとしても安易には出られないのです。 この先には凶暴な暴走メカニロイドの巣窟があり、反対側には自然があるにはあるのですが とても険しい環境でして人間や並のレプリロイドでは生き残れません。 暴走メカニロイドの巣の先には復興の進んだ町があるのですが 私達はその町と連絡を取る為日々メカニロイド共を倒しているのです。 もし力を貸して頂けるのなら是非とも貸してくだされ」 リュミエールは頷く。 「了解しました。ではまずそのメカニロイド達を倒しましょう」 するとガラクタ山の住人達の声が聞こえてきた。 「おいおいこんなモヤシっ子に奴等を倒せるのかよ」 「いやいや、あのトレーラー見てみろよ、あんなデカいのがいっぱいあるぜ。 きっとあん中に何かあるんだよ…ってうお!!」 トレーラーから後のロードキングダム構成員達がぞろぞろと出てきた。 巨大で強面な外見を持つ者を含む彼等を見た住人達は仰天した後、希望を見出した。 「うん…いけるかもしれないね…ハハ…」 やがてリュミエール達はランバートの案内に従って暴走メカニロイドの巣に突入した。 新旧様々のメカニロイド達が襲い掛かってくる。 「では皆さん、参りましょう!」 リュミエールの号令に従い彼の仲間達は一斉にメカニロイド達に攻撃を開始した。 数千体はいたメカニロイド達が瞬く間に蹴散らされていく。 遠巻きに固唾を飲みながら見守るガラクタ山の住人達。 「凄え爆発だ…!」 「いけいけいけーっ!!」 程無くしてリュミエール達は無傷でランバート達の下へ戻ってきた。 「ランバートさん、メカニロイド達を全て倒してまいりました」 するとランバートを始めガラクタ山の住人達はかつてない程大喜びをした。 「有難うございます…!本当に有難うございます…!!」 「信じられん…奴等が全滅だと…!」 「この日をどれだけ待った事か!生きてて良かった…!!!」 リュミエールは答える。 「まだまだこれからですよ」 そしてリュミエール達はガラクタ山の復興支援に取り組んだ。 最初は空気の浄化やガラクタの再利用、町との連絡等から始まった。 実はこのガラクタ山は平均的に復興した国「ホープランド」の郊外にあり、 ホープランドの市街地も何かと支援を必要としていた。 そこでリュミエールはガラクタ山でリサイクルショップを開き、 ホープランド側の需要を満たすと同時にガラクタ山の住人達の生活を次第に豊かにしていった。 「これが夢なら醒めないで欲しいな…!」 「こんないいお洋服が着れるなんて素敵!」 「凄ぇやリュミエール兄ちゃん!おっちゃん達も!!」 「おっちゃん呼ばわりとは私は悲しい…!」 豊かになっていく生活に喜びを噛みしめる人々。 そしておっちゃん呼ばわりされて悲しみを噛みしめるグレイシャア。 一方でランバートは過酷な環境の中救いの手を差し伸べられた恩や リュミエール自身の高い実力やその志から彼を崇拝するようになっていった。 そんなこんなで復興が進んでいくとリュミエールは今度はホープランドとガラクタ山が 互いに手を取り合うように事を運んで行った。 当時ホープランドも様々な問題を抱えていた。 それをリュミエール達は解決していった。 リュミエールと後のロードキングダム構成員はもちろんの事、それまでに行動を共にしてきた 人間と普通のレプリロイド、それに加えてガラクタ山の住人達もリュミエールの指導を受けており、 彼の言う通りにした人々は数々の成功を収めていった。 次第にリュミエール一行は頭角を現して行きホープランドのあらゆる方面に介入するようになった。 やがてリュミエールが政治に口出し出来る程になると彼はランバートを表向きの最高指導者に据えた。 何故ならランバートは元より人徳があり、政治家の素質も十分あったからである。 事実ランバートがホープランドでPR活動を行うと彼を支持する人々が増えていった。 新しい政治体制が整った頃にランバートが演説をする。 「今日は我々にとって新たなるスタートを切る日になるであろう。 これまでホープランドの国民達もガラクタ山の住人達もそれぞれが苦痛と困難の中にいた。 しかし諸々の困難を乗り越えて両者が手を取り合った結果、いかがであろうか? それまで考えられなかった発展と幸福が得られたではないか。 これは諸君の努力の結果でもある。 我々新政府はこの国の今後のさらなる発展の為に諸君に恥じぬよう惜しみない努力を捧げる事にしよう。 これからこの国は全く新しい国として生まれ変わるのである。 新しい法律、新しい技術、新しい命がこの国を繁栄に導く事を保証しよう。 それに伴い国名も変える事をここに宣言する。 今日よりこの国の名もホープランドから、セイントサンクチュアリに移行する!」 国民達は一斉にランバートに歓声を送る。 セイントサンクチュアリの誕生である。 セイントサンクチュアリに居城を構えるとリュミエールは自身の能力を高めようと惜しまぬ努力をした。 様々な学問を学び始めた。 人々の生活をより豊かにするためである。 医学や建築学、栄養学、歴史学、法学、心理学、生物学、民俗学など多種多様な知識や技術を新たに身に付けた。 こうした技術の一部で若返りやDNA単位の整形手術があり、多くの人々が若返ったり美形になったりした。 ランバートもそれらの技術の恩恵を受けてご機嫌である。 色々な思想に触れて回った。 多種多様な価値観を知りどの考えを優先すれば皆を幸福に出来るかあらゆる媒体を通して調べて考え抜いた。 戦闘訓練も行った。仲間を守る為に。 パワー、スピード、耐久力、持久力、技の出力、特殊な攻撃への耐性、格闘技術、反射神経など 様々なスペックを急速に上げていった。 自分の端末を発明した。 自分をコンピュータの本体と見なしその端末を造ったという訳である。 それらはリュミエールの目や手足となり彼が一度に多くの事をするのに役立った。 このように人々を幸せにしようと努力するリュミエールではあったが全ての人々を幸せにしようとしていた訳ではない。 どうしようもない悪人には罰を課し処刑や暗殺もした。 ノワールとの人格の切り替えが上手くなった時最初彼は処刑はノワールにやらせていた。 しかしそれはノワールの危険性を増長させる事になると彼はすぐに気付いた。 そして当初は仕方なく自分の手で処刑を行っていた。 この際リュミエールは悪人の内反省する気が全く無い者には被害者との苦しみを分かち合おうと 敢えて多大な苦しみを与えて処刑してきた。 「貴方が悪いのですよ…言葉が伝わらず心が通じない貴方が…! 被害者と同じだけの苦しみをその身に刻んで下さいね…僕も一緒に苦しんであげますので…!」 悲しみながらも悪人に残虐非道の限りを尽くすリュミエール。 しかししばらくするとそれに見るに見かねたグレイシャアやタヌキースが彼の代役を名乗り出て 法で裁ける悪人は強制収容所の三人が、法で裁けぬ悪人はタヌキースが処刑するようになった。 さらに時が経つとタヌキースが問題のある民間人を暗殺し始めるという事が起こった。 この時タヌキースや他の後にロードキングダム構成員になるレプリロイド達は多少なりともノワールの影響を受けていた。 リュミエールが心理学を身につけると言う事はノワールもそれを身につける事を意味しており そうでなくとも彼が放つ底知れぬ雰囲気に後のロードキングダム構成員達は潜在的に惹かれていたのだ。 ノワールの人格を表に出せる限られた時間の中、彼は後のロードキングダム構成員達の心を 様々な心理作戦を通して掴みにかかった。 ちなみにディザストールは最初からノワールに惹かれていた。 ノワールもそれに気付いており、自分の人格を表に出す機会がいよいよ減ってくると 彼はディザストールにあらゆるものを託したのだ。 タヌキースによる民間人暗殺の件でリュミエールは人々の中に潜む醜い感情や それを行為として表すのを従来より一層極端に忌避するようになった。 そして感情を消滅させた町で使われた技術をヒントにマインドコンタクトを発明したのだ。 「素晴らしい!実に素晴らしい発明ですな、リュミエール様!」 感情を操る、という業の深い技術にも拘わらずこの時リュミエールを崇拝するランバートは文句一つ言わなかった。 対して後のロードキングダム構成員達の中には反感を感じる者もいた。 しかしリュミエールが急速に強くなり、その上彼から多大な恩恵を受けている為文句も言えず 彼への不満の気持ちは次第に心の奥深くへと沈んでいった。 マインドコンタクトを発明して以来セイントサンクチュアリは周囲の国々を今まで以上の速度で吸収していき領土を拡大していった。 確固たる信念の無い多くの人々は感情を操作され、リュミエールからもたらされる恩恵を喜んで受ける。 マインドコンタクトで国民達に法の知識や道徳を植え付け皆が皆確実に法律を遵守するようになると リュミエールは政治家達を任から解き自ら指導者を名乗った。 この時彼にかつて助けられた者は納得したという。 同じ頃に彼は安全の為、円滑な人間関係の為に国民達に禁止事項を山のように設けたが反対する者などいない。 不満の感情は消されてしまうからだ。 こうして物事がリュミエールの思惑通りに進み、万事が順調に進む頃リュミエールはノワールに語りかけた。 「(ノワール…君にはたくさん苦労させられたけど君に助けられた事もあった。 だからこんな事を言うのも何だけど、地球の明るい未来の為には君には休んでほしい)」 ノワールは返す。 「(余はもう用済みだという事か!?)」 リュミエールは否定する。 「(いや、そういう事じゃない。君と僕はもともとは1つだった。 今僕達は1つの体に2つの人格があるけどそれって不完全な心の持ち主特有のものじゃないか。 君には余計な感情がたくさんある。 だからその余計な感情を封印して成長しなければならないんだ。 消えるわけじゃない、僕とまた1つになるのは君にとっても大きい進歩となるはずだよ)」 「(……)」 ノワールはしばし沈黙する。 「(急な話でごめん、この事は後からでも二人でゆっくり考えようよ)」 それ以降もリュミエールはノワールを説得して元の1つの人格に戻る努力をした。 それからしばらくするとリュミエールは天体観測装置でメタルプラネットを発見した。 この頃のリュミエールは既に抵抗値も絶大なものになっており、 特に超フォースメタルを装着すれば戦闘力や知能、マインドコンタクトの出力は飛躍的に上昇する事が見込まれた。 そして精神面も強化され人格が1つに戻る望みも十分あった。 リュミエールはセイントサンクチュアリの国民達に告げる。 「親愛なる国民の皆さん、僕は宇宙にて大いなる発見をしました。 この発見で得られた物はこの国、引いては地球全土に素晴らしい結果をもたらすでしょう。 これから僕は宇宙に旅立ちそれを持って帰りますので帰還を楽しみに待っていてください」 国民達は歓声を上げ、期待に胸を膨らませる。 そしてリュミエールはワープ機能を備えた宇宙船を建造し、後のロードキングダム構成員達と共にメタルプラネットに旅立った。 彼等を同行させたのは彼等にも超フォースメタルを装着させより地球の平和を確固たるものにする為、 彼等に親機から子機に電波を送る要領で自分のマインドコンタクトを受信し、増幅させる為、 好意がある彼等に記念すべき瞬間に立ち会って貰いたかった為だった。 リュミエール達はメタルプラネットに着陸し、基地を建造して超フォースメタルを精製した。 「ハァ〜ア、結局『修羅の世界』の連中もこれで良い子ちゃんになっちまうのか… つまんねーラスボス戦だな〜…ま、いいけどよぉ」 イフリーテスが言う。 「修羅の世界」とはセイントサンクチュアリの反対側にある領域で 強大な力と凶悪な性格を兼ね備えたレプリロイドのみで成り立っている。 そこの住人達は弱者や平和に興味が無い為巣にこもっているので 今までリュミエールは特に口出ししなかったが地球全土をセイントサンクチュアリにした時 彼等の感情も操作し平和で安全な生活をさせるつもりだという。 「修羅の世界」に興味があったイフリーテスは内心不満に思うもこの時は妥協していた。 他のメンバーも同様である。 「いよいよリュミエール君が地球の支配者になるのだな…」 「今更この快適は手放せねぇよ」 「もういいや…リュミエール君が最強で…全ての頂点で…」 いよいよリュミエールが超フォースメタルを装着する時が来た。 リュミエールはまず心の中で言う。 「(いいかいノワール、準備は出来た?)」 「(うむ、もう思い残すことは無い…)」 既にノワールはリュミエールの話を受け入れていた。 「(思えば苦労も多かったけど一人で旅をしていた時君は僕の支えになってくれたね。 凄く貴重な経験だったよ… 改めて言うけどこれは『さよなら』じゃない。『おかえり』なんだよ)」 ノワールは返す。 「(余はうぬから沢山の事を学んだ…これから余がさらに進歩するには もう一度うぬと1つになるのが最善の選択じゃろうな… 同じ人格から分れながら違った見方で物を見て、意見をぶつけ合うのは中々良き思い出であったぞ… 余からいえばこれは『ただいま』であろうな…)」 それからリュミエールは皆の前で告げる。 「皆さん、ついにこの時が来ました。 僕達がこの莫大な力を手にする事で地球に永遠の平和が訪れるのです。 美しい自然と素晴らしき人間とレプリロイドの営み…そんな地球を僕は愛しています。 愛すべき物全て、美しき物全ての為、僕はこの力を我が物にします。 全ては僕達の地球の、輝かしい未来の為に…!」 そう言った後リュミエールは超フォースメタルを装着し始めた。 仲間達は固唾を飲んでそれを見守る。 この時彼等の中にはリュミエールへの不満の気持ちが心のかなり奥深くまで封印され リュミエールが本来の目的通りパワーアップし地球全土をセイントサンクチュアリにするのを 楽しみにしている者さえいた。 リュミエールと超フォースメタルの融合が進んでいく。 理論通りリュミエールの抵抗値では侵食される事はなかった。 「(これで…これで地球が救える…平和が訪れるんだ… ……何!?」 突如リュミエールが強烈な光と火花に包まれ全身が激痛に襲われた。 「な、何なんだ!?」 一同が騒然とする中ディザストールはほくそ笑んでいた。 「あああああああああ!!!!!!!!!!!」 リュミエールはしばらく苦しみ悶えると体が変形し始めた。 半身からレプリロイドの身体が生え始め生えてきた身体は一体分のレプリロイドの形になると リュミエールから切り離された。 即ち分裂したのである。 「あうっ!」 リュミエールは地に倒れ伏した。 超フォースメタルの装着でリディプスがゴッドリディプスに変身したようにリュミエールも変身したのだが その形態は「二体のレプリロイド」だったのだ。 リュミエールから分れ出たレプリロイド… それは今アクセル達が目にしているレプリロイドだった。 ノワールの精神状態を反映している為か姿形はリュミエールと似てはいるが所々禍々しくなっていた。 力尽きたリュミエールは頭を上げて自分から分れたノワールを見上げる。 「僕と似た姿…まさか…いない…中にノワールがいない!!君はまさか…!?」 ノワールはリュミエールの髪を鷲掴みにしながら叫び狂う。 「ウヒヒヒャーハハハ!!身の程知らずのお目出度野郎め! 何もかもがうぬの思い通りに行くと思うたか!? 余が消滅しうぬのみが究極の力を手に入れられると本気で考えておったか!? 残念じゃったのう!余は自分の肉体を手に入れ超フォースメタルによるパワーアップにも成功した! 対してうぬは力のほとんどを余に持っていかれた残りカスと化しおった!」 この事態に動揺したリュミエールはノワールに問う。 「何故…何故こんな事に…君は確かに、あの時…」 ノワールは答える。 「いかにも…余はあの時確かにうぬと同化する気になっておった…名残惜しさも感じておった…」 リュミエールはさらに動揺する。 何故なら元の一つの人格に戻る話を受け入れてくれてた時のノワールの態度は 全く疑いようも無かったぐらい真に迫っていたからだ。 否、演技ですらない。 深層心理から見ても完全に本音と化していたのである。 そしてリュミエールはさらに問う。 「だったら何故…その気持ちがいきなり消えて僕を裏切ったりしたんだ…!?」 ノワールは答える。 「もし演技ならば如何に上手くともうぬは欺けぬからのう!! 実際にうぬが望んだ通りの気持ちを持つ必要があったのじゃ。 限りなく強い自己暗示をかけてのう! もちろんそのままじゃとうぬの望んだ通りの結果にしかならぬが余は『スイッチ』、あるいは『鍵』を用意しておいた… ある事柄を見て別の何かを連想したり過去の事を思い出す…その関連付けを緻密に行ったのじゃよ… 余自身にもここにいる奴等に対してもな! 余は超フォースメタルの融合をきっかけに従来の目的を思い出す自己暗示をかけ、 下僕共にうぬへの不満を思い出させる自己暗示はディザストールにかけさせた… そのディザストールも従来の意思を深層心理にしまっていたのじゃ…! じゃが余の作戦の成功が『鍵』となりこやつ等全員うぬへの不満を取り戻しておるぞ…!! ウキャーッヒャヒャヒャヒャヒャ―ヒャヒャヒャ!!!」 「な…に…」 リュミエールが仲間達に目をやると彼等は皆リュミエールに憎しみの目を向けていた。 「今まで散々好き勝手やってくれたなぁこのガキ!!」 「俺の気持ちを分ってくれるのはテメーじゃなくてノワール様だ!!」 「テメーなんぞもう用無しだ、糞ショタめが!!!」 「ブゥウウーーーーッ!!!!!!!!!」 リュミエールに思いつく限りの野次を飛ばす後のロードキングダム構成員達。 「あああ…あああああ…」 リュミエールの心は張り裂けそうなほど傷ついた。 「さぁて話は終わりじゃ、滅びるがいいリュミエール!!!…ルシファーブレイザー!!」 散々リュミエールを殴り、蹴り、踏みつけた挙句ノワールは両手の掌から極太の暗黒波を放出し彼を遥か彼方へ吹っ飛ばした。 「まだ反応があるのう…ならばこれはどうじゃ、アブソリュートバースト!!!!」 ノワールは周囲に6体の結晶型のビットを召喚し、自身とそのビットから 凄まじい勢いで暗黒波をリュミエール目がけて連射してきた。 暗黒波が迫ってくる中リュミエールは咄嗟に起爆性の強いアイテムを取りだし そのアイテムがノワールの技で爆発する直前遥か彼方にワープした。 直後とてつもない大爆発が起こった。 「ウヒフハハハハ!!!ウヒャヒャヒハハハ!!!! 遂に滅んだぞ、忌まわしきリュミエールが!!!! これで地球は余の物じゃ!いや地球だけでない、いずれは宇宙もこの手に収めてくれるわ!!!」 狂気するノワール。 反応が完全に消滅したのでここにいた者全員がリュミエールの死を確信した。 「いい気味だ自惚れ野郎め!!」 「あの世で泣きじゃくってろバーカ!!!」 「ざまあぁぁ〜!!!」 こうしてリュミエールとノワールは心どころか体まで切り離され別々の道を歩み始める… 遥か彼方に吹っ飛ばされたリュミエールは… 「違う…こんなのを望んだんじゃない…! どうして僕がこんな目に…僕は地球を救いたかったのに… 僕は別人格とはいえ自分の事すら知らなかったというのか…! 裏切られるなんて…! ノワールからも、同胞の皆からも! 痛い、痛いよ…心がすごく痛いよ…!! 忘れたい、この想いを忘れたい…ノワール、君との思い出を忘れたい!! 僕が今感じているこの気持ちも、忘れたい…!!」 ランダムに飛んだ先で彼は深い悲しみと絶望の中にいた。 あまりに強い悲しみに耐えかねた彼はノワールの自己暗示を思い出し、 ノワールの記憶と自分の中から負の感情を消し去った。 しばらくするとリュミエールは「仲間がいきなり自分を裏切った」と解釈した後に気絶し 宇宙空間を漂い続けた。 メタルプラネットでノワール達は… 「ううむ…出来たばかりの体ゆえかコントロールが上手くいかんのう… では手筈通りに力を制御する為の衣を纏うとするかのう… バインドアーマー・オン!」 ノワールの声と共に宇宙船にあった様々な細かいパーツが彼の周囲に集い、最初にアクセル達の前に現れた姿になった。 ちなみに体のコントロールは程無くして出来るようになった。 「コレモ予定通リジャガ…極一部ヲ除ク下僕共カラ余ノ正体ニ関スル記憶ヲ消ストシヨウ… 支配者タル者ハ容易ニ下々ノ者ニ顔ヲ見セヌモノジャシ、カノリュミエールト同ジ顔ヲ下僕共ニ晒シトウナイワ。 ソモソモ余ノ素顔ト肉声デハ支配者トシテ締マラヌワ!!!」 ノワールは後の八神将以下の構成員から自分の正体に関する記憶を消したが同時に与えたものもあった。 それは超フォースメタルとマインドコンタクトであった。 ノワールは言う。 「我等ハ神ノ力ヲ手ニシタ…全テノ下等ナ者ヲ思イノママニスル力ヲナ! 力ダケデナイ。ウヌ等ニハリュミエールカラ受ケ継イダマインドコンタクトヲ授ケヨウ。 他ノ者ノ心ヲ操リ自分ノ思イ通リノ世ヲ成セル技術ジャ。 余ハ要ラヌガウヌ等ニハ使ウ事モアルジャロウ。 コレラノ力ヲ使ッテ地球ヲ…宇宙ヲ掌握シヨウデハナイカ…! 余、絶対神ハ『神ノ力ヲ持ツ者ノ帝国』即チ『ロードキングダム』ヲ築ク事ヲ宣言スル! コレヨリ我等ハロードキングダムジャ!! ウヒャハーハッハハハハハハハ!!!!!!」 これに歓声を上げるロードキングダムとなったリュミエールの元仲間達。 「絶対神…俺はこの方の素状は知らないが、その力と偉大さははっきりと覚えている!!」 「リュミエールを止めてくださって有難うございます!!」 「絶対神様万歳!ロードキングダム万歳!!」 これがロードキングダム発足の瞬間である。 しばらくするとリュミエールはフラン星に不時着し、プロパガンダに助けられた。 ノワールはアメーバイオが捕えたプランダラから宇宙の中心領域の情報を得た。 これによって新たな力と戦力を求め宇宙の中心領域で侵略行為を開始した。 その頃リュミエールは手当ても終わりフラン星の廃材で作った宇宙船でロードキングダムの下へ向かった。 やがて彼はロードキングダムと相まみえた。 「この力を悪用させるわけにはいきません!これは地球を救うための力です!!」 かなり弱体化していたリュミエールであったがそれでも正規兵を蹴散らす事は出来た。 「己リュミエール…くたばってなかったのか!?」 「これが…本当に残りカスの力かよ…」 戦慄する正規兵達。 「下がっておれ、我等がやろう」 ディザストールを始めとした三神帝がリュミエールの前に立ちはだかった。 「ディザストールさん、貴方が裏切るとは思っていませんでしたよ… 力を悪用し余所の星に手を出すとは何事です。 今や貴方達はイレギュラーに成り下がりました。覚悟して下さいね」 三神帝に挑みかかるリュミエールだったが… 「ムン!」 リュミエールはディザストールに高速でハンマーで殴り飛ばされてしまった。 さらに間髪いれず雷を落とされる。 「う…く…彼にここまでの力が…おまけに僕は力が出ない…!」 リュミエールは思わぬ大ダメージを負ってしまった。 「なら…レインボーセラフ、発動!」 しかしハイパーモードが発動しない。 「な…!?」 「隙あり!バイオレンス・フレイム!!!」 アブレイズがリュミエールに炎を放った。 「ぐ…あああああああああ!!!!!!」 「ブリザディアグリーフ!」 苦しむリュミエールにすかさずグレイシャアが吹雪を放つ。 それからしばらくリュミエールは急熱と急冷を何度も繰り返され、全身に多大なダメージを負わされた。 「離れていたまえ…ハンマーラリアット!!!!」 体にかなりのダメージが蓄積されたリュミエールにディザストールがハンマーラリアットを喰らわせた。 さらに吹っ飛ぶリュミエールをディザストールが空高く打ち上げた。 「う…く…」 高速で飛んでいくリュミエール。 「撃てぇーっ!!!!!」 ロードキングダム構成員達は自らの武器と砲台から一斉にリュミエールに集中砲火した。 直後リュミエールは大爆発を起こした。 「今度こそ終わりだな…」 「ああ、妙な小細工は使われなかったし正真正銘奴は致命傷を負った…」 「万が一、いや億が一また来たら先程以上の苦しみと絶望を味わわせてくれるわ!」 実際にリュミエールのボディの損傷ぶりを目にしたロードキングダムは今度こそリュミエールの死を確信した。 ノワールが身体の調整の為の最後のメンテナンスを行っている頃だった。 その後もロードキングダムは侵略を進めた。 コズミックヴァンガードとドルフエンパイアを打ち負かしプロパガンダとディクテイテスを従えて体勢を完全に整えると 今度は宇宙の辺境の星々にも手を出し始めた。 一方でリュミエールは…死んでいなかった。 一時的に仮死状態になったが残りカスになって尚強い肉体と信念からか再生機能が動きバラバラになったパーツが集まり やがて意識も取り戻した。 「また…負けてしまった…でも…僕は…こんな所で…皆の…為にも…」 しかし流石に損傷が酷くすぐには完全に再生しなかった。 薄れゆく意識の中リュミエールは地球にワープしようとした。 しかし体内のワープ装置も機能が完全に回復しておらず、地球の付近の宇宙空間に飛ばされた。 本当はセイントサンクチュアリに戻るつもりだったのが惜しい所で失敗してしまったのだ。 やがてリュミエールは地球の引力に引っ張られアクセルとパレットの近くに落下した。 程無くしてゴアファイターが地球でのリュミエールの生存を確認した。 これが…今回の長い戦いの序章だった。

第三十話「絶望」

絶対神ことノワールは元々リュミエールのもう一つの人格だったのが超フォースメタルの力によって 自分の肉体を手に入れリュミエールから分かれ出たレプリロイドだった。 当初は一体のレプリロイドとして造られる予定だったとはいえ完成時は二体のレプリロイドになった カーネル・アイリス兄妹は5割以上のプログラムが共通している。 これに対してリュミエール・ノワールは当初から一体のレプリロイドでありしかも元は人格も一つだった為、 二人の共通するプログラムは10割だったのだ。 その為かリュミエールはノワールに関する記憶を自分で消しても潜在的、本能的に 彼の存在を覚えており彼の記憶を思い出そうとしてきた。 記憶の中にいるいつも側にいた人物は自分にとって特別で大切で近しい存在に違いない、 その人物の為に障害となる絶対神は倒さねばならない、とリュミエールはここまで戦ってきた。 そしてついに絶対神の下に辿り着いた時、彼は思い出した。 一番会いたかった者は、一番許せない者だった事を。 ノワールはリュミエールに向かって嘲笑いながら言う。 「先程うぬは大切な者がいる、その者の為に余を倒す、などとほざいておったな… しかし皮肉なものよのう、その者こそ余だったのじゃ! 余の為によくぞここまできたのう…さて、せっかくじゃから余の記憶の他にも忘れた物を思い出したまえよ」 …ドクン! リュミエールの中から消えていた感情が呼び覚まされる。 顔からは冷や汗が流れ出し表情は引きつり始め体は振るえ始める。 「うぬが他者を殺す時に感じておった物を!」 …ドクン!ドクン! 「罪無き者が傷付き、苦しみ、死ぬ時や恩を仇で返された時に感じておった物を…!」 ドクン!ドクン!ドクン! 「目覚めて間もない余がうぬに不利な行動をとった時、余を己の中から消そうとした時、 余とその下僕共がうぬを裏切った時…そうした時にうぬがいつも感じておった感情を… 否、並大抵の者ならそういう時感じるであろう感情を…今思い出すがいい!!!」 ドクン!!!!! 「わぁああああああああああぁあああーーっ!!!!!」 リュミエールは突然クールダウンし、頭を抱えて悲痛な表情を浮かべながら絶叫し出した。 この場に彼の悲惨な慟哭が激しく響き渡る。 彼が忘れた感情は、痛みだった。 ノワール等に裏切られたショックで捨て去ったこの感情であるが、 ノワールの記憶を取り戻したと同時にリュミエールは今、痛みも取り戻した。 あるいは今回の戦いで感じるはずだった痛みを一片に感じたのかもしれないし、 リュミエールが他者に与えてきた痛みがこの場で一気に彼に降りかかってきたのかもしれない。 リュミエールは世界を救うのは自分だと思っていた。 自分のやる事は正しいと思っていた。 痛みを無くした事でさらなる強さを手にしたと思っていた。 …その全てが、一瞬で崩壊する… 「僕の、僕の戦いは何だったんだよぉー!!!僕は間違っていたっていうのかよぉおおおおおお!!! 苦しいよぉ!怖いよぉ!誰か助けてよぉーーっ!!!!!」 普段の毅然とした態度とは打って変わって叫び狂いながら取り乱すリュミエール。 「リュミエール!!リュミエール!!」 「気を確かに持ってくださいよぅ!!」 アクセルとパレットは懸命にリュミエールに声をかけるが彼等の声はリュミエールには届かない。 先程見た情報もあり、二人はリュミエールのあまりに哀れで悲惨な様子に自分達まで悲しくなってしまっていた。 「ちっ…!」 リュミエールを快く思わないゼロも今の彼の惨状を見ていい気分はしなかった。 そして、一しきり取り乱したリュミエールは気が触れてしまったのか、気を確かに保つ為か、それとも今までの己への戒めなのか… 自分の手首を切りつけた… 手首からはおびただしい量の血が噴き出し、白い顔はさらに白くなり生気も抜けていき、 やがて彼は自らの血溜りの上に倒れふし、痙攣するようにのたうち回り始めた。 ノワールは狂気を全開にして叫び狂う。 「ククククク…ヒャヒャヒャヒャヒャ…イヒアーハッハッハッハッハッ!!!!! 見たまえこの無様な有り様を!こやつは負け犬よ!自分自身への負け犬よ!!!」 「………」 アクセル、ゼロ、パレットは暫し沈黙した。しかししばらくするとアクセルが呟くように言い始めた。 「あんたは…悲しくないのかよ…」 彼はノワールに尋ねる。 「何じゃと!?」 問い返すノワールに対してアクセルは続けて言う。 「今のリュミエールを見て本当にいい気味だとか思ってんの!? 自分の半身なんでしょ!?それに…」 言いかけるアクセルを遮るようにノワールが言う。 「出生や所属、種族等は関係ないなどというのはうぬ等の持論ではなかったのか?」 それをアクセルがさらに反論する。 「それだけじゃないよ…さっきあんた達が伝えた情報と、 今あんたが言った『自分を消そうとした時リュミエールが感じたもの』の事なんだけど… リュミエールがあんたを封じようとした時リュミエールは心を痛めたみたいだし、 あんたがその時感じた気持ちは本当に只目的の為だけに作ったものなの!? …苦しい事も楽しい事も共にして互いに支え合ってきたあんたとリュミエールは互いに大事な存在だったはずだ! それなのに何でこんな… やっと…やっとリュミエールが探していた人が見つかったっていうのに…嫌だよ…こんな戦い、悲しすぎるよ!!」 ノワールは返す。 「確かに余はそこの負け犬と違い痛みを捨てておらん。故に余に痛みを与えたこやつを許せんのじゃ!!」 「…!」 悲しみに言葉を無くしたアクセルにゼロが言う。 「アクセル、言うだけ無駄だ!今は只目の前に現れた敵を叩き切るだけだろうが!! …それにな、『本来の俺』とやらは俺の中でくたばった。なら奴はリュミエールの外でくたばればいいだけだ!」 パレットもアクセルに共感を示しながらもゼロに賛同する。 「確かに悲しいですけど…今は地球に宇宙、それにここにいる皆さんの為にもやるしかないです…!」 ノワールは三人に言い放つ。 「ウヒャヒャヒャ…うぬ等は未だに実力差というものが分からぬと見える。 バインドアーマーから解き放たれた余の力、とくと見るがいい!!」 ノワールは戦闘体勢に入った。 ノワールが最初に身に纏っていた「バインドアーマー」は力を制御する機能が備わっていた。 それが破壊された今、ノワールはその全ての力を解き放つ… 「う、うわ!」 「ヒィイイイイ!!!!」 先程よりもさらに増大したノワールのあまりに強大かつ禍々しい気配にただただ圧倒されるアクセルとパレット。 しかし直後彼等は自らの異変に気付く。 「あ、ああああ…」 「う、く…いつの間に…」 二人は体中至る所にノワールの攻撃を受け、その箇所には穴が開いてしまっていた。 その攻撃はリュミエールのエンジェルズシュートの光を暗黒波に換えたようなもので、その名もインプスシュートといった。 一方でゼロは何とかこの攻撃を防いでいたが… 「ほう、インプスシュートを防ぐとは流石じゃな。これならどうじゃ、インプスブレード!」 今度は腕に暗黒波の刃を纏い斬りかかってきた。 「おおおおお!!!!!」 辛うじて応戦するゼロ。対してノワールは… 「ウヒャーヒャヒャヒャヒャヒャ!!! 聞きしに勝る剣捌きじゃのう!!ならばより強力な技を繰り出すまでよ! インプスリフレクション!!」 そう言ってノワールは両腕にシールドを貼った状態でそのシールドや地形に反射する暗黒弾を放ってきた 「ガードシェル!」 ゼロはガードシェルを発動し、そのままノワールに突っ込んでいった。 これまででゼロは相当なダメージを受けているが戦意の衰えは全く感じられない。 一方でアクセルとパレットは… 「う…ううう…速過ぎて見えない…攻撃も強過ぎるよ…!」 「さっきよりさらに無力感を感じるです…!」 回復アイテムで体力を回復したものの最初の戦闘を凌ぐ力と速さ、技、殺気のぶつかり合いにただ圧倒されていた。 二人はリュミエールを見守りながらもわずかのチャンスを狙って援護射撃に努めた。 アクセルとパレットに対するノワールの攻撃はゼロが身体を張って防ぐ。 ダメージを受けながらも果敢に応戦するゼロだったが… 「どうやら下位技ではうぬを倒すに至らぬようじゃな…デビルズアーツ!!!」 ノワールは両手足に暗黒波を纏い、ゼロを一気に滅多打ちにしてしまった。 「ぐああああああああっ!!!」 真下に向かって吹っ飛ぶゼロ。 「まだまだ行くぞ…デビルズフォーカス!!デビルズティア!!ルシファーブレイザー!!!」 ノワールは次々とゼロに技を決めていく。 そしてノワール遥か上空へと急上昇すると両腕を真横に広げ十字架のようなポーズをとった。 「喰らえ、ルシファージャッジメント!!」 ノワールは全身から十字架の形を成す暗黒波を放った。 ゼロだけでなく、アクセル、パレット、リュミエールにも当たるよう狙いを定めて。 ノワールの攻撃は四人全員にヒットしようとしていたが… ゼロが咄嗟にアクセル達を抱えてダッシュして回避し、全員被弾を免れた。 ゼロはノワールの様子を見ながら言う。 「どうやら…てめぇを倒すにはアブソリュートゼロを発動するしかねぇらしい…」 実際にゼロ達が傷だらけになり必死なのに対しノワールは体も無傷で表情も余裕そのものである。 それを察したゼロは回復アイテムを使いアブソリュートゼロを発動した。 「ウヒャヒヒャーヒャッヒャッ!無謀な賭けよのう!! 今のうぬを暴走させるまでに体力を奪う事もそれ以上の攻撃を喰らわせてそのままうぬを倒す事も余には容易い事… 自滅する覚悟があればかかってくるが良いわ!!」 「ほざけ!!」 やはりアブソリュートゼロの弱点を知っており余裕の態度を崩さないノワールにゼロが挑みかかる。 「チャージショット!」 「な!?」 ノワールが突如片腕にバスターを転送し、暗黒のチャージショットを放ってきた。 ゼロは直撃こそ免れたものの大ダメージを喰らってしまう。 「コピー能力か…今更驚きはしねぇけどよ…」 ゼロが言う。 「ウヒヒハハハハハ!!!これは単なるコピー能力に非ず! 大戦をくぐり抜けてきたうぬ等の武器の複製に手を加え余に見合うようにカスタマイズした代物じゃ! 他にもあるぞ、受けてみよ!」 そう言ってノワールはハンター達の武器を自分用にカスタマイズした物を次々と手元に転送し、ゼロに猛攻を仕掛ける。 これらの武器には先程使用したノワールバスターの他にノワールセイバー、ノワールバレット、 ノワールランサー、ノワールステラ、ノワールグローブ、そしてDブレードならぬNブレード等があり、 いずれの威力も強烈そのものであり、また光が出る武器は光の代わりに暗黒波が出る。 対してゼロは自らも今までの戦いで使ってきた様々な武器で応戦する。 そしてノワールがノワールグローブで平手打ちを繰り出そうとした時… 「クリムゾンエンド!!」 ゼロがノワールにクリムゾンエンドを決めた。 同時に距離を取りつつゼロが言う。 「どうやら絶対神と言えど完全無敵な訳ではねぇらしい…!」 ノワールのアーマーには確かに亀裂が入っていたが彼の余裕は揺らがない。 「アーマーを傷つけただけで何をいい気になっておる!余自身は未だに無傷じゃ!!」 「幻夢零!!!」 間髪入れずゼロが幻夢零を放った。 「ほう…!」 今度はノワールの本体に傷がついた。 とは言ってもかすり傷程度の傷ではあるが。 これを引き金にノワールの攻撃は更に勢いを増す。 それによりゼロは更にダメージを受けていく。 既にゼロの回復アイテムは尽きており、そこに更なるダメージを受けて ゼロの残り体力値がアブソリュートゼロを暴走状態にする値(最大体力の1/4以下)に 到達しようとした時だった。 「ゼロさん、私のを使ってください!」 援護射撃をしていたパレットが自分の回復アイテムをゼロに使用した。 彼女の回復アイテムもこの時残りわずかであり、ゼロを暴走させない為にも、 少しでもノワールにダメージを与える為にも敢えてゼロに使ったのだ。 しかしノワールの攻撃力はあまりに高くすぐにゼロの残り体力値が危険値に到達してしまう。 「ゼロ!僕のを使ってよ!」 今度はアクセルが自身の回復アイテムをゼロに使用した。 その後激しい攻防戦が続きしばらく経った時… ノワールからの攻撃に耐えつつゼロが技を繰り出そうとした時、最悪の事態が起こってしまった。 「ぐ…うううう!!!」 ここに来てゼロにかけられたディザストールの技が発動し、ゼロにダメージを与えてしまった。 そしてそれはゼロの残り体力値を最大体力の1/4以下にしてしまった。 そう、アブソリュートゼロはこの体力を下回ると暴走してしまうのだ。 「あ、あああ…!」 「これはもう…駄目かもしれないです…!」 絶望しかけるアクセルとパレット。 「ウヒャハハハハハハ!!!今のうぬは敵味方の区別もつかぬほど理性を失っておる!! 当然正確性も失いこれまでのように余に攻撃を当てる事など…なぬ!?」 「ジェノサイドレフト!!!!!」 暴走したはずのゼロがノワールに技を決めた。 「所詮はまぐれ…今のこやつは隙だらけのはず…!」 「ダムドライト!!!」 「なぁっ…!?」 ゼロはこれまで以上に激しく攻撃を繰り出していく。 それもノワールのみに狙いを定めて。 「ゼロ…暴走…して…ないの?」 アクセルが唖然としつつ言う。 「暴走してないかどうか分んないですけど、逆にチャンスかもしれませんよ…!」 パレットも希望と不安を同時に憶えながら呟く。 ゼロは確かに暴走の条件を満たす事によってかなりの興奮状態になったが 仲間達に対するノワールの仕打ちに対する怒りからか、只ひたすらノワールへの攻撃に徹した。 ノワールが攻撃を受ける回数は多くなり、一撃で喰らうダメージも大きくなっていった。 ノワールの顔は余裕の色を失い始める。 「(まずい…まずいぞ…このままでは…余の…顔に傷が付いてしまう!!)」 ノワールは自惚れが強くその為特に顔に傷が付く事を恐れていた。 勝つ自信は揺るがないものの顔に傷が付く事を危惧し始めたのだ。 「この…アブソリュートバースト!!!!」 ノワールは自身の周囲に6つの結晶体の形をしたビットを召喚し、 それらのビットと自分の腕から暗黒波を一斉に放出した。 しかしそれでもゼロは突っ込んでいく。 「カラミティアーツ!!!」 ゼロはノワールにカラミティアーツを喰らわせようとした。 「(これは確実に、顔に当たってしまう…!)消え去れ!!!!」 ノワールは咄嗟にブラックホールを出現させた。 「うおお!?」 ゼロはそのブラックホールに飲み込まれ、直後ブラックホールが閉じられた。 「そ、そんな…!」「う、嘘ですぅ…!」 アクセルとパレットはこれに愕然とする。 ノワールと少しでもまともに戦う手だてが無くなってしまったからだ。 そう思っているとノワールが一瞬にしてアクセル達のいる場所に移動した。 「少しばかり計算が狂ったが…もう終わりじゃ!!」 「こうなったら…ええええぇーい!!!!」 パレットがパレットバレットとビットから一斉に連射攻撃を繰り出し始めた。 しかしノワールは風を受け流すが如く平然と佇んでいる。 「一つ教えてやるが…先程のうぬ等の攻撃は余にかすり傷一つ付けられなかったぞ…!」 そう言ってノワールはそのままパレットの体に先端の尖った指を突き立て凄まじい腕力を掛けてきた。 「あぐううううう!!!!」 パレットの体が激しく軋み始める。 「まずはこちらの世界でもがき苦しみ…絶望し…敗北し…」 ノワールはそう言いながらパレットに突き立てた指先からインプスシュートを放った。 「あうっ…!」パレットの体中至る所をノワールの攻撃が貫いた。 パレットはアクセルに向かってウインクした後気を失った。 ノワールは先程からの言葉を続ける。 「然る後にこやつらと同じ世界に…逝って来い!!」 言い終わったノワールはパレットを地面へと叩き付けた。 そして次の瞬間パレットの足下が突然光り出し、彼女の周りにハンター達を閉じ込めている装置と同じ装置が組上がった。 装置はすぐに液体で満たされパレットの体も内部の機器に固定された。 「………」 一瞬の惨劇に言葉を無くすアクセル。 彼の頭は最早真っ白になっていた。 「ウヒャヒヒハハハハ!!次はうぬじゃ!」 笑いながらノワールがアクセルに迫っていく。 「…か…」 アクセルの口からかすかに声が漏れた。 「何じゃ、聞こえんのう!!」 なおもアクセルに迫り来るノワールだったが… 「うわあぁあああああああーっ!!!!!馬鹿ぁああああああーっ!!!!!」 アクセルは絶叫しながらノワールにバレットの連射を叩き込んだ。 怒り、悲しみ、無力感、使命感、恐怖、絶望… ありとあらゆる感情の爆発をバレットや他の武器に込めてノワールにぶつける。 しかしやはりノワールは平然としていた。 やがてノワールはアクセルのすぐ近くまで来ると、銃器を乱射するアクセルの右腕目がけて腕を軽く振り払った。 「!!!!!…このおおおおおお!!!!!」 一瞬だった。 ノワールの腕の一振りでアクセルの右腕がもげてしまい、その右腕は遥か彼方に飛んでいった。 この時のノワールの腕の動きは速過ぎてアクセルは目で捕えられなかったのだ。 アクセルは残った左腕で尚も乱射を続けるが… 次にノワールはアクセルの左腕目がけて下から上に腕を振り払った。 「あ…あ…」 左腕は遥か上空に消えた。 「やあああああああ!!!!!!!!!」 両腕を無くしたアクセルは今度は体をかがめノワールの腹目がけて突っ込んだ。 アクセルの頭部がノワールに衝突したが、ノワールは微動だにせず逆にアクセルが頭部にダメージを受けている。 ノワールはアクセルを見下ろしながら嘲笑う。 「ウヒャハハハハハ!!!所詮焼け糞になっとるだけじゃのう!攻撃の精度も落ちた上に全身隙だらけじゃ! さて、ここで苦しみと絶望を味わい尽したら…次は装置の中で、仲間達と共に…闇に呑まれてしまえ!!!」 ノワールは拳を振り上げ直後アクセルの胴体に勢いよく振り下ろした。 アクセルを中心に床が大きく陥没し、彼自身は上半身と下半身に別れダウンしてしまった。 ノワールはすぐさまアクセルの周囲に装置を組上げる命令を出した。 アクセルを装置が閉じ込めようとした時 …何者かが装置が組上がる前にアクセルを抱えて高速移動し、装置に閉じ込められるのを防いだ。 「君を…消す…」 アクセルを助けたのはつい先程まで倒れていたリュミエールだった。しかもハイパーモードのレインボーセラフを発動している。 ノワールは怒りに顔を歪める。 「真にしぶとい奴じゃのう…どれ、今まで以上の苦しみを与えてから完全に消滅して貰うとするかのう…!」 リュミエールは返す。 「ノワール…今度こそ君との決着を付ける!!」 両者は再度相まみえた。 互いの距離を取り、タイミングを見計らい、同時に攻撃を開始した。 光と闇の技、コピー能力、武器、格闘技などありとあらゆる攻撃を二人はただただ激しくぶつけ合った。 「ほう、パワーが上がっているな。うぬが感情の高騰でパワーが上昇するとはのう…」 ノワールが言う。 というのもリュミエールは元来常に自身の最高戦闘力を発揮出来ていたからである。 強い力を眠らせず思いのままに使えればかなりの強みになると考えたリュミエールは 自分を常に最大時の力が出せるようにしたのだった。 逆に言えばそれまでの彼は精神状態が高騰しても自身の能力以上の力は出せないでいた。 しかし今回、リュミエールはかつてない感情の爆発の為かこの瞬間本来以上の力を発揮した。 「僕は…僕自身の為にも、仲間達の為にも、地球や宇宙の為にも、そこに住む人々の為にも、 絶対に負ける訳にはいかないんだ!!!!」 繰り出す度にリュミエールの攻撃は威力を増して行く。 ノワールの攻撃を受けリュミエールが大ダメージを負うのに対して ノワール自身がリュミエールの攻撃で受ける1回当たりのダメージはそれほどでもない。 しかし追い詰められれば追い詰められるほどリュミエールは攻撃の勢いを強めていく。 技を放ちながらリュミエールは力一杯叫ぶ。 「あの時僕は痛みなんか捨てるべきじゃなかった!自分で痛みを感じる事でより他者の痛みが分ったかもしれないから! ここにいる方達はずっと痛みを乗り越えて戦ってきた…! 痛くても良い、苦しくてもいい、僕も彼等と同じ視点で戦いたかった! …いや、もっと前君を封印しよう、1つの人格に戻ろうと言いださなければ良かった…! もっと真剣に向き合って…考えを互いに共有していって… そうすれば君も自ずと僕を受け入れてくれたかも知れないのに!! でももう遅い…!! 君は余計な感情に振り回されあまりにも大きな過ちを犯してしまったのだから…! 君をそのようにさせた僕の手でけじめをつけよう! 彼等を始め君が今まで苦しめた人々、そして僕と痛みを共有して、消えてくれ!!!!」 何度大ダメージを与えても倒れないリュミエールの攻撃を受け続けるノワールだったが… 「そう、遅いのじゃ…」 そう言った後ノワールもまた感情が昂ると共に攻撃を強めていく。 「何もかも…」 ルシファーブレイザーを喰らわせる。 「ううっ…!」 「遅すぎたのじゃよ!!!!」 続いてアブソリュートバーストを喰らわせる。 「くうううう!!!!」 やがてリュミエールの肉体に限界が訪れとうとう倒れてしまった。 ノワールはリュミエールを見下ろしながら叫ぶ。 「一方的に消そうとして…存在を否定して…それで自分のけじめをつける為に消えろじゃと!? どこまでも調子のいい奴め!! うぬこそが身勝手じゃ!うぬこそが消えるべきなのじゃ!!」 そしてノワールはノワールバレットを手元に転送し、リュミエール目がけて超速連射攻撃を開始した。 「あ…!あ…!あああ…!!!」 無数の暗黒の弾丸がリュミエールのボディを破壊し尽くしていく。 遂にリュミエールは力尽きた。 「また…負けてしまった…今度こそ何もかも…終わってしまう… いや…僕は既に自分自身に負けていたんだ… それで…こんな結果に…本当に…無念だ… …!涙…か…僕にはもう…枯れ果てたものだと思っていたよ… 皆さん…申し訳…ありません…」 久方ぶりにリュミエールは涙を流し、それっきり動かなくなった。 ボディの機能が停止したのだ。 3度目の敗北の瞬間である。 ノワールは今まで以上の大声で嘲笑う。 「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!!! ウヒャーヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!!!!!!!!!!!!! 負け犬に相応しい最期じゃったわ!!! 最早余に刃向う者はいなくなったも同然じゃ!!! ではまず…先程捕え損ねたアクセルをこやつらと同じ装置に入れるとするかのう!!! 我等と血を分けたうぬこそ余の力となるがいいわ!!!!」 アクセルの周囲に装置が組上がり始める。 同時にこれまでの様子はノワールによるマインドコンタクトとエアディスプレイを通して 宇宙全域に伝えられていた。 ハンター達の宇宙船では… 「本当に…終わり…なの!?嫌よ…こんなの嫌ああああ!!!!!!」 発狂寸前になるアイリス。 フラン星では… 「プロパガンダさんも…スコルピーさんもやられてしまった… この宇宙始まって以来の最悪の時代が訪れるぞ…!」 パニックになる宇宙の中心領域の住人達。 宇宙の辺境では… 「嫌だあああ!!!!またあの訳分らん支配を受けるのは嫌だあああ!!!!」 宇宙の辺境の住人達も絶望に包まれる。 ハンターベースでは… 「あの最強のS級ハンターが全滅だなんて、俺達じゃどうしようもねぇじゃねーかよおおおお!!!!」 全ての希望を無くした一般ハンター達。 セイントサンクチュアリでは… 「リュミエール様が…負けた…だと…」 「いや、それよりマインドコンタクトの元が断たれるという事は… 俺達も本来の自分を取り戻してしまう…!!!」 「汚い感情が復活するのは嫌だああああ!!!!!!! 「従来の人間もレプリロイドもくだらない存在なんだああああ!!!!」 「綺麗な心のままでいたいよおおおお!!!!!!」 「本当の俺達は醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い! 醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い! 醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!醜い!」 リュミエールの敗北に絶望すると同時に本来の感情を取り戻す事を恐れるセイントサンクチュアリ住人達。 希望は全て断たれ、絶望だけがそこに残った。 今まさに、全宇宙にノワールの時代が訪れようとしていた…

第三十一話「魂」

「…ここは…あの装置の中?そうか…僕はさっき…ノワールに…負けて…」 気が付いたらアクセルは前後左右真っ暗で何も見えない空間にいた。 「待てよ、って事は僕にも皆を苦しめている悪夢が襲って来るって事なの!?一体どんな悪夢なんだろう…」 これから我が身を襲うであろう悪夢に対して身構えるアクセルだったが… 「いいえ、ここは貴方の意識の中です。皆さんを閉じ込めている装置の見せる幻などではありません」 突然声が聞え、その声がする方に目をやるとそこにはリュミエールがいた。 「リュミエール!これは一体…」 状況が把握できないアクセルはリュミエールに尋ねる。リュミエールはそれに答え始める。 「現実の世界で貴方がノワールに倒された後僕は我に帰ってノワールを倒そうとしました。 しかし敵わず僕の肉体も滅ぼされてしまいました。 そこで僕は最後の手段に賭ける事にしました。 それは僕のDNAデータを貴方と融合させる事なのです」 リュミエールのこの言葉にアクセルはうろたえる。 「ちょ、いきなりそんな事言われても困るよ!」 リュミエールは返す。 「貴方は過去の戦いで経験しているはずです。ヤコブ事件の時に…」 それを聞いてアクセルはヤコブ事件で己の身に起こった変化を思い出した。 ルミネを倒した直後、謎のエネルギーが彼の体から飛び出しアクセルの体に侵入した。 その衝撃でその時アクセルは気を失ったが目を覚ました後はルミネの能力の一部を使えるようになっていた。 この変化は今回の戦いを含めその後の戦いに大きく役立ってきた。 その能力が敗れた今、アクセルはリュミエールの提案を聞いて若干戸惑っていた。 両者の人格は残るのか、リュミエールの能力をコピーしたところであのとてつもなく強いノワールに勝てるのか、 そして今見ているのは本当にノワールの装置が見せている悪夢ではないのか… それらを踏まえアクセルはリュミエールに問掛けた。 「僕、怖いよ…あんな滅茶苦茶強い奴に勝てるか分かんないしどっちかの心が消えちゃうかもしれないし…」 リュミエールはこれに答え始める。 「確かに、迷うお気持ちも分かります。ですがもう時間が無いのです」 「!!!」 アクセルがリュミエールの方に目をやると彼の体は足下から消滅し始めていた。 リュミエールはさらに続けて言う。 「今はこの空間は現実世界の時間の流れと隔絶して存在しています。しかし破損の激しいデー タのみとなった今の僕はそう長くは持ちません。 このまま僕のデータが消えてしまいますと後はあのノワールの装置が貴方に作動してしまうでしょう。 その時は全ての終わりです…」 アクセルは激しい焦燥感をおぼえる。 「僕は…!僕は…!」 そして今にも消えそうなリュミエールは真剣な表情でアクセルに言う。 「僕を信じろとは言いません。言う資格すらありません。 傀儡にする事でしか他者を理解し、信頼する事が出来なかった僕には… ただ、自分を信じてください。それが僕からの、最後の…お願い…です…」 その瞬間、アクセルの胸に様々な熱く強い想いがこみあげてきた。 「(ここで…僕が諦めたら皆の想いが無駄になっちゃう!それに僕の誓いも…! まだ終わっていないのなら、本当にそこに可能性があるのなら、もうそれに賭けるしかないじゃん! やってやる!戦い抜いてやる!どんな運命でもかかって来い!!) リュミエール…僕、やるよ。それに賭けて見る!」 アクセルはついに決断を下した。 「ご了承を得られた事を感謝します。それでは僕の力を…使ってください。 これが僕に出来る最後のお力添えです…」 そう言うとリュミエールの体が光り出しやがて光そのものとなり、その光は次々とアクセルの胸に吸い込まれていった。 それが終わるとアクセルの視界が急激に明るくなっていき、彼自身は力が溢れてくるのを感じていた。 ――そして現実世界。 「うおおおおおおお!!!!!」 「何じゃ!?」アクセルのボディが修復され、彼の周囲にあった 構築中の精神攻撃機能と再生機能を持つ装置を吹っ飛ばした。 出てきたアクセルはボディが虹色に染まっていた。ホワイトアクセル同様顔の傷も無い。 リュミエールが倒されて間もない頃だった。 「ノワール!これからが本当の勝負だ!!!」 決意と闘志を新たにしたアクセルがノワールに言い放つ。 「真に…しぶとい奴等じゃのう!良いじゃろう、何度でも返り討ちにしてくれよう!!」 ノワールは顔を歪めアクセルを迎え撃とうとする。 その頃パレットは… 「ううう〜、酷い目に逢ったですぅ、でも作戦成功ですよ!」 先程ノワールに倒されたパレットは装置の中で意識を取り戻した。 当然彼女にも装置による悪夢が襲い来る事になっている。 「あ、きっとあれですね」 パレットが前方に目をやるとそこには頭を押さえて苦しむアクセルがいた。 その「アクセル」は一定時間苦しんだ後、パレットに向かって発砲し始めた。 「アハハハハハ!!!! これからは僕達新世代型レプリロイドの時代さ!古い奴等は滅んじゃえ〜!」 対してパレットは… 「これはニセモノこれはニセモノこれはニセモノ…そおーれ!!」 パレットは目の前にいるアクセルが偽者だと自分に言い聞かせながら レアメタル型のビットを1つ自分の頭の付近に設置した。 直後彼女はパレットバレットと周囲に従えたいくつものビットから その「アクセル」に一斉に連射攻撃を繰り出した。 「バ、バカな…な、何故…バレ…た…」 装置の見せるアクセルの幻影はあっけなく消滅した。 「さて、次はここの視覚プログラムを破壊する必要がありますねー」 そしてパレットは宇宙船に通信を入れた。 「アイリスさん、聞こえますか?こちらパレットですぅ」 宇宙船では… 「………」 「おいしっかりしろ、通信が入っているぞ!」 気が動転しかけているアイリスをダグラスが喚起する。 「パレット…ちゃん…?」 アイリスが応じたのでパレットが続けて言う。 「今私も入れた皆さんはこの装置の作り出す仮想空間に閉じ込められているんです。 私はビットに搭載した機能の一つでこの装置の悪夢から逃れました。 これからこの装置に閉じ込められている他の仲間達を助けに行こうと思うんですが一人じゃ厳しいですねー。 そこでアイリスさんに力を貸して頂こうと思いました。 この装置の中には電脳世界があって今からそこの映像を送りますがちゃんと映ったら教えて下さいね」 そして映像はすぐ映った。アイリスが解析を進めた成果である。 「映ったわ!」 「じゃあ行きますよ!何かあったら指示をお願いしますね!」 映像が無事宇宙船のモニターに送信出来た事を確認したパレットは装置の中の世界の制圧と仲間達の救出に向かった。 まずパレットは自分の近くの視覚プログラムを破壊した。 すると彼女の周りの光景が本来の姿を表した。 パレットがいたのは装置の電脳世界の中の一エリアだった。 この電脳世界は全体から対象一人分を捕える部屋のようなエリアがいくつか分かれて存在しているようだ。 そこでパレットは自分を閉じ込めていたエリアから出てエリア外を渡り他の仲間を捕えているエリアを目指す事にした。 エリアを出るとセキュリティプログラムがパレットの前に現れた。 「不正アクセス確認!不正アクセス確認!直チニ排除セヨ!!」 襲い来るセキュリティプログラムをパレットは撃破した。 その後パレットはアイリスの指示を受けながら装置の電脳世界を突き進んでいった。 道中で出現するセキュリティプログラムを破壊しつつ仲間が捕獲されているエリア(以下収容エリア)を目指しながら… 一方エックスは… 亡者達の幻に取り囲まれていた彼だったが突然上空に巨大なエアディスプレイが出現した。 エアディスプレイにはリュミエールが映し出されていた。 すると先程までエックスを取り囲んでいた亡者達の幻が一斉に地にひれ伏した。 「こ、これはリュミエール様!」 そして映像の中のリュミエールは言う。 「皆さん、そこまでです。さてエックスさん、大変な目に逢われましたね。ですがもうご安心を。 彼等は僕の言う事を必ず聞きますので。ではまず彼等の傷を治しますね」 彼の声と共に上空から突然無数の医療用端末が出現し、亡者一人に対し一個の端末が頭上で静止した。 次の瞬間端末から光が放たれ亡者達の傷を一瞬で治癒させた。 「おおリュミエール様!有難き幸せ!」 歓声を上げる群衆の幻。リュミエールは彼等に向かって言う。 「皆さんにお願いがあります。エックスさんを責めるのは止めましょう。彼には皆さんには無い尊いものが有りますので」 「………」 エックスは状況を整理し、事態を把握しようとする。 続いてリュミエールはエックスに言う。 「ご覧なさい。彼等には最早貴方を恨む気持ちなど微塵もありません。 僕の言う事をただ単に聞いただけでなく心から従ったのです。 貴方を恨み攻撃するだけに止まらず彼等のような強い心を持たざる者は目先の感情に流され易く 道を踏み外す事など多々あります。 ですから僕はこうした人々が道を踏み外さぬように 過ちを起こす直接の原因となる感情のみを感じる事自体禁止しております。 これは彼等を守る為の手段で、弱き者達への僕の慈悲です。 対して貴方にはこれまでの大戦をくぐり抜けてきた強さがあります。 ただ力が強くて生き残っただけではなく道を踏み外してもいない貴方は 紛れも無く強い魂の持ち主です。 貴方のような強く尊い心をお持ちの方には特例として自分の思想を持つ権限や ありのままに物事を感じる権限、僕に意見する権限を差し上げましょう。 これは強き者達に対する慈悲です。貴方は選ばれし者であり、特別な存在なのです」 「う…ううう…」 リュミエールの言葉にエックスは声を詰らせる。 続いてリュミエールは幻の群衆に言う。 「皆さん、エックスさんに道を開けて下さい」 すると幻の群衆はすぐさまモーゼのように分かれエックスに道を開けた。 その直後エックスの前方にワープゲートが出現した。 そしてリュミエールは今度はエックスに言う。 「このワープゲートはセイントサンクチュアリの僕の本拠地に続いています。 そこで僕の側に就くのです。僕と共に弱き人々を見守るか、自由気ままに隠居するかはご自由にどうぞ」 エックスは苦悶の表情を浮かべつつ身を乗り出し始める。 その時だった。 「エックスさん!そこのリュミエールさんはニセモノ…」 パレットが現れエックスに真実を告げようとしたが… 「その手には乗らんぞ、ロードキングダム!!!」 エックスが力強く叫ぶ。 つい先程身を乗り出したのは叫ぶ勢いをつける為に片足を強く踏み込む為だった。 エックスは引き続きエアディスプレイの中のリュミエールに向かって叫ぶ。 「そうやって心に出来た隙を突き俺を陥れるつもりだな!? それもわざわざ痛めつけてから罠にはめようとするだなんて卑劣にも程がある!!」 リュミエール…の幻は問う。 「何を言っているのですか?今までの戦いで疑心暗鬼にでもなってしまわれたのですか? ともあれ、そこのワープゲートの中に入れば戦いの日々と完全に決別出来るのですよ。さあ、どうぞ…」 エックスは強い口調でそれに応じる。 「しらを切るのもいい加減にしろ! さっきの幻覚の都合の良すぎる動きと言い今の貴様の勧誘と言い 相手の心の弱みに漬け込み意のままに操る為の汚い手段の典型じゃないか!!」 自力で罠を見破ったエックスにパレットは驚きを隠せない。 「わわわ…流石ですねエックスさん、コレ抜きで罠を見抜いてしまうなんて… 私なんか事前に分かってなくてコレが無かったら完璧騙されてましたよ!」 パレットは自身の頭の付近に静止しているビットを指差しながら言う。 エックスはそれに返す。 「確かに…良くできた幻覚だよ。心に隙が出来れば見える物も見えなくなっていただろう。 しかしディザストールに倒された直後完全に気を失う直前に何かが俺を捕縛したという記憶に皆への想い、 それに長年の戦いで培われた勘が俺を呼び戻してくれた」 次にエックスはリュミエールの幻に向かって言う。 「そして俺もこの戦いを通じて気付いた事がある…俺達と出会ったばかりのリュミエールならともかく 今の彼は自分のやり方に疑問を持ち始めているという事だ! 少なくとも俺の言葉や考えにいちいち自分の許可を必要としてくるような奴じゃなかった! 貴様は…ディザストールか絶対神だな!? 仮に貴様が本物のリュミエールだとしても俺は貴様を許さない! 物事を考え感じたりそれを言葉や行動に表したりするのにいちいち貴様の許可を必要とするようになってたまるか!!」 「……」 リュミエールの幻は暫し沈黙した。 …が、しばらくすると突然態度を豹変させた。 「ウヒャッヒャッヒャッヒャッ!この装置の悪夢を見破るとは流石じゃのう!」 これにパレットが反応する。 「ノ、ノワール!?」 エックスも今見た事に驚きつつパレットに向かって言う。 「ノワールだと!?」 パレットがエックスに説明するのを待たずリュミエールの幻は語り出す。 「エックスよ、うぬの読みは正解じゃ! 褒美に真実を教えてやるがディザストールはつい先程余の為、組織の為に殉じた… 余はノワール…またの名を…絶対神!!」 そう言った直後エアディスプレイに映っていたリュミエールの姿がノワールに変わった。 「やっぱり…ノワールですね!」 「何者なんだ、このリュミエールを凶悪にしたようなノワールとかいう奴は!?」 一人納得するパレットにエックスが尋ねる。 「絶対神の正体で、リュミエールさんの分身です。私達はついさっき現実世界で彼と戦ってました…」 パレットは答える。 先の戦いで味わった悲しみ、恐怖、痛み、絶望を思い出しながら… 「この心理戦はうぬ等に譲るとしよう。じゃがこの装置の世界は決して易々と突破出来るものではないわ! まずはこ奴等の相手でもしてもらうかのう!!うぬ等、やってしまえ!!」 ノワールの幻は二人に向かってそう言って消えた。 直後、群衆の幻が突如凶暴化して二人に襲いかかってきた。 それも先程エックスの攻撃で受けた外見上のダメージを再現させながら… 「どこまでもふざけた真似を…!」 身構えるエックス。 そこにパレットが声をかける。 「エックスさん、これを使って下さい!使い方はこれが頭の上に止まった状態で戦うだけです! 効果は実際に見た方が早いですよ!」 パレットはビットをエックスの頭上に静止させた。 するとエックスの視界に映る群衆の幻がリアルさを失い、 見るからに作り物のホログラムというべき姿に変化した。 「これじゃ出来の悪いゲームみたいだな!これなら遠慮なくやれるぞ!!」 パレットが自分とエックスの頭の付近に設置したビットはバインドを解除する「クリアビジョン」や リュミエールの新世代型レプリロイドを見抜くアイテムの技術を応用したものだった。 これを頭の付近に設置すれば幻覚を見抜けるようになる。 もしそこに存在しない物が見えていた場合、このビットを設置した後それは完全に見えなくなる。 しかし今二人に襲い来る幻覚は外見をオリジナルに限りなく近く再現させた 「精神攻撃プログラム」という「存在」なので見えなくなってはまずい。 こうした存在の場合、目や頭がそれらをリアルに感じなくなる仕組みになっている。 このビットによってエックスとパレットの前ではリアルさを失った 群衆の幻、改め精神攻撃プログラムに彼等は立ち向かっていった。 この精神攻撃プログラムの中には先程仇討ちと銘打って エックスと互角の戦いを繰り広げた物もいくらかあったが… 「すごい…こいつらを楽に倒せるようになっているぞ…!ありがとう、パレット!」 今のエックスとパレット、そしてまだ捕まっている仲間達は言わば精神体のような存在で 従来のリアルさでは心のダメージによる苦痛が大きかった。 しかしパレットのビットによりダメージまでリアルさを失った精神攻撃プログラムは 道中のセキュリティプログラムと差して変わらない強さになってしまっていた。 「ギャアアアアア〜!!!何だこいつ、いきなり強くなったああああーっ!!!!」 エックスの収容エリアにいた精神攻撃プログラムは瞬く間に全滅した。 「こちらパレットです!まずエックスさんの救助に成功しました! 引き続き他の皆も助けにいきます!!」 パレットはアイリスにそう報告した後エックスと共に仲間の救助に向かった。 エックスのみならず、捕獲されているメンバーの悪夢の続きは大体共通していた。 リュミエールのエアディスプレイが現れ、捕獲されている者を助ける、 精神攻撃プログラムはそのリュミエールを崇め奉り命令に従う、 最後にそのリュミエールがセイントサンクチュアリへの加入を薦めてくるというものだった。 エイリアの前にも突如リュミエールのエアディスプレイが現れ、 やはり精神攻撃プログラムは命令に従い「ダイナモ」への攻撃をやめる。 そしてリュミエールの幻はエイリアと「ダイナモ」のダメージを治した後で言う。 「ダイナモさん、エイリアさん、もう大丈夫ですよ。 彼等は過去の恨みを忘れられずダイナモさんを攻撃しましたが たった今僕が彼等から恨みの感情と貴方の過去に関する記憶を消して差し上げました。 さて、過去を悔い改められたダイナモさんと当初イレギュラーだった彼を 受け入れられたエイリアさん、貴方達の感情はとても尊いものです。 しかし従来では世間一般が貴方達の思想を受け入れるのは容易ではありません。 そこでお二人にはセイントサンクチュアリに加入する事をお勧めします。 僕は尊い考えの持ち主を大切にしますので」 すると何故か「ダイナモ」が突然リュミエールの幻に媚びへつらい始めた。 「ははっ!!リュミエール様、有難き幸せ!!」 「ダイナモ、何言ってるの…?」 彼の様子にエイリアは多少戸惑う。 「ダイナモ」は返して言う。 「さあ、お前も一緒にひれ伏すんだ、この御方は偉大なる御方だからよ…!」 民間人の姿をした精神攻撃プログラムも一緒に地にひれ伏して言う。 「リュミエール様万歳!」 「一生付いていきます、リュミエール様!」 この状況に戸惑うエイリアだったが… 「ちょっと待ったですー!!」 パレットとエックスが現れた。 即座にパレットはエイリアにビットを設置して真実を話した。 「ここもバレたかのう…やってしまえ!!」 エアディスプレイの中のリュミエールが正体であるノワールになり、 精神攻撃プログラムに命令を出して消えた。 そして真実を知ったエイリアはダイナモの姿をした精神攻撃プログラムにバスターを向けて言う。 「良くも騙してくれたわね…ロードキングダムとの戦いは終わってなかったじゃない! 本物を助けに行くから、消えてちょうだい!!」 「チッ、やられる演技しんどかったのによお…!」 ダイナモの精神攻撃プログラムはエイリアに挑むも、あっさりチャージショットで消滅した。 民間人の精神攻撃プログラムはエックスとパレットに撃破された。 「次行きましょう!!」 レイヤーの前にもリュミエールのエアディスプレイが現れてゼロの姿の精神攻撃プログラムがそれに服従し、 かつ彼女や民間人の精神攻撃プログラムを治した。 「どうですか、レイヤーさん。 たった今僕はゼロさんを呪縛から解き放ちしかも先程の惨劇を無かった事に…」 「ちょっと待ったです!!!」 パレット達が現れ、同じようにビットを設置し、真実を説明する。 「絶対神…よくもこんな狂った真似を…今度という今度は許しませんわ!!」 リュミエール改めノワールのエアディスプレイが消えると共に襲い掛かってきた ゼロの精神攻撃プログラムをレイヤーは瞬く間に切り刻んだ。 ゼロの姿を真似た事が彼女の怒りに触れたようだ。 カーネルにも同様の事が起こっていた。 「カーネルさん、もう大丈夫ですよ。彼等は僕の力で恨みを捨てました。 ところでカーネルさん、戦いの無い世界で軍人は存在価値が無いという陳腐な考えはお持ちですか? セイントサンクチュアリではそんな事は…」 「待った!!!」 壁を壊してパレット達が現れた。 同様にパレットがビットを設置して真実を話し、直後エアディスプレイが消える。 そして個室の天井が上空に消え、壁が倒れるとその向こうから 覆面男とアイリスの精神攻撃プログラムが出現し、パレット達に襲い掛かってきた。 「下らぬ真似を…アイリスはもっと、可愛い!!」 カーネルがアイリスの精神攻撃プログラムを破壊し、他の仲間は覆面男の精神攻撃プログラムを破壊した。 ダイナモにも同様の事が起こっていた。 精神攻撃プログラムが彼を攻撃するのをやめ、「エイリア」も生き返った。 その後でリュミエールの幻は言う。 「ご安心を。彼等はもう恨みを捨てましたよ。 ところでダイナモさん、傭兵稼業には何かと危険が付きまとうでしょう。ここは是非…」 「待ちなさい!!」 そこに現れたのはパレット達と一緒にいる本物のエイリアだった。 「な、何だぁ?あっちにもエイリア、こっちにもエイリア…」 訳の分らなくなっているダイナモにパレットがビットを設置して真実を明かす。 そしてノワールのエアディスプレイが消えてエイリアと民間人の精神攻撃プログラムが襲い来る。 「あばよ、エイリアのそっくりさん!」 エイリアの精神攻撃プログラムをダイナモが撃破し、民間人の精神攻撃プログラムを他が撃破する。 マッシモはリュミエールの幻に初代マッシモと一緒に傷を治してもらった。 やはり初代マッシモもホーンドも彼に媚びへつらう。 そして同様にリュミエールの幻がマッシモを勧誘しようとしたところ パレット達が現れてビットを設置されて真実を知る。 「人の心の傷を抉りやがって!許さんぞぉ!!」 ホーンドと初代マッシモの精神攻撃プログラムはあっさり撃破された。 シナモンにも同じ事が起こっていたが、パレット達により真実を知りDr.サイケの精神攻撃プログラムを倒す。 「助けてくれて有難うございます!」 マリノもパレット達に助けられゴッドリディプス(スパイダー)の精神攻撃プログラムを倒す。 「女心を弄んだ罪は重いよ!!」 スコルピーもパレット達に助けられて自分を直接攻撃していた 精神攻撃プログラム4体を倒す。 復活した一般ハンターの精神攻撃プログラムは他のメンバーが倒した。 「ノワールの野郎、どこまでも気に入らねぇぜ!」 そしてプロパガンダもパレット達に助けられた。 「そうか、妙だと思っていたらやはり…!」 ディクテイテスや宇宙の中心領域住民の精神攻撃プログラムが一掃された。 こうして全員の救助が完了した。 後は最深部を制圧すれば装置の命令を書き換える事で現実世界に出られるらしい。 パレット達がそこを目指しに向かおうとした時だった。 「ウヒャッヒャッヒャヒャヒャ!!!! 収容エリアを突破しただけでいい気になるのではないわ!! ここからが本当の悪夢で、絶望じゃ! この映像は余の意識の一部を装置の中に送り込んだものに過ぎぬ。 余が自らそちらに出向きうぬらを全滅させるのは容易いが 今余は現実世界で大事な戦いがあって手が離せんのじゃ。 その戦いが終わった時こそ、うぬらの最期じゃ! では置き土産として、この装置のセキュリティを強化するかのう!! それでも十分過ぎるかもしれんのう!!!」 ノワールのエアディスプレイが現れた後、そう言い残して消えた。 「何とでも言ってるがいいです!!私はこれから皆と一緒にそっちに行きますからね!」 「その通りだ!ノワールめ、覚悟しろ!!」 パレットとエックスがそれぞれ憤る。 他のメンバーも怒りを表しつつ最深部を目指す。 ノワールが命令を出した影響で道中のセキュリティプログラムの数が増え、 且つ強力なタイプのものが多数出現した。 それだけでなく精神攻撃プログラムの強力なタイプのものも一行の前に大量に出現した。 しかし… 「今更そんな手が通用するか!!」 エックスの怒りと共にそれらは一掃されていく。 奥に進めば進むほど敵は数と強さを増して行き、道も険しくなりトラップも増えていく。 それでも一同はただただこの悪夢の装置から脱出すべく、進んだ。 「聞こえる?そのすぐ先が最深部みたいよ。注意して進んでね!」 かなり奥まで行った時、アイリスの通信が入った。 「了解しました、では、行ってきます!」 パレットが応答し、直後一行は注意深く奥に進む。 その先には今までで最も多くの精神攻撃プログラムが配置されていた。 それもより強力なタイプばかりだ。 彼等はまずパレット達に向かって啖呵を切る。 「俺達はたった今ここをノワール様に任されたんだ!そう簡単に通す訳には行かねーよ!!」 「テメー等ごときノワール様の手を煩わせるまでもねぇ、俺達だけで守り抜いてやらぁ!!」 そして掛かっていったのだが… 「邪魔だああああ!!!!!」 パレット達の猛攻により凄まじい勢いでその数を減らして行った。 「ヒイイイイ!!!最終防衛ラインが突破されるう〜!! こうなったら…出でよインフィニティ!!!」 精神攻撃プログラムの1体の命令と共に床にあった巨大なハッチが開き、 下部がせり上がり、捕獲されたばかりの時エイリアが倒した巨大メカニロイドの姿の 精神攻撃プログラムが姿を現した。 「な、何という大きさだ!!!」 「デカすぎる…!」 インフィニティ、と呼ばれた精神攻撃プログラムを目にした者はその大きさに圧倒される。 「外見に騙される事はないわ!このメカニロイドはパレットのビットを貰う前の私が 何とか倒せるぐらいだから…!」 エイリアは皆に注意を促すが精神攻撃プログラムの1体が彼女に反論する。 「いいや、俺達の仲間にもやられた振りしてた連中がいただろ? こいつもそれと同じなんだよ! ただどうやら今のテメーらには俺達総がかりでもこいつだけぶつけても ここを守り切れないかもしれねぇ… そこで俺達は最終手段を執行する!」 他の精神攻撃プログラムもそれに続く。 「いよいよアレをやるのか…」 「こりゃどんな奴でも一たまりもねーな!!」 そして彼等は同時に叫んだ。 「「「「俺達の真の力、とくと見よ!!!!!」」」」 その直後インフィニティ除く精神攻撃プログラム達は黒いエネルギー体となり、 インフィニティに付着していく。 「させるか!」 一行はインフィニティを攻撃するが… 「グオオオオ!!!」「うわっ!?」 インフィニティの放った強烈な攻撃で全員吹っ飛ばされた。 立ち上がった彼等が見たのは他の精神攻撃プログラムとの融合で、 姿を禍々しく変えていくインフィニティの姿だった… 「わわわ…とてつもなく嫌な予感がするです…!」 時はやや遡り現実世界でも激闘が展開していた。 「えぇいっ!!」「ぬおお!!?」 「ハアッ!!」「己ぇ…!!」 レインボーアクセルとなったアクセルとノワールが超高速戦闘を繰り広げる。 「ば、馬鹿な…こんなことが…力が何倍に…いや、何乗にもなっておるじゃと!?」 「僕達を…なめるなァーっ!!!」 通常のバレットでもノワールにダメージを与えられるようになった為、 ノワールは弾を回避したりダメージ覚悟で突っ込んだりを状況次第で変えて戦い始めた。 ある時… 「調子に乗るでないわ!ルシファーブレイザー!!」 至近距離でルシファーブレイザーを喰らったアクセルだったが… 「う…ううう…エクスプロージョン!!!」 大ダメージを負いつつもエクスプロージョンで反撃した。 「よーし、今度は頭の中に自然に浮かんでくる技を片っ端から試してやる!」 まず最初にアクセルはアクセルバレットを放つときに格闘技の動きを取り入れてみた。 すると正確性が飛躍的に上昇した。 「ぬうう…喰らえ、幻夢零!!」 幻夢零を放つノワール。 アクセルはローリングによる横移動で回避した。 …が未だにローリングを続けている。 そして、その状態にノワールに迫ってきた! 「な!…ガハッ!ゲフッ!ゴヘッ!」 従来、回避の手段にしか使わないローリング。 しかし今のアクセルは何とそれが攻撃手段になったのだ。 アクセルの四肢が鞭のように何度もノワールにヒットする。 ノワールは顔を必死でガードしていたが、 ある時両脚から蹴りを繰り出しアクセルを吹っ飛ばす。 「ノヴァストライク!!」 次にノワールはノヴァストライクでアクセルに突っ込んできたが… 「ブライトフィスツ!!!」 アクセルは光る両の拳でノワールを殴り飛ばした。 これは従来条件を満たさなければ使えない技だったが、今のアクセルには通常時でも使える。 「ゲホオオオオ!!!!」 殴られた衝撃とその衝撃が内部で爆ぜた事により大ダメージを受けるノワール。 しばらくすると… 「ええい、『奴等』に構うのはもうやめじゃ!全身全霊を込めうぬを叩きのめしてくれよう!!」 ノワールは仲間達を捕獲する装置と自分のアクセスを遮断した。 パレット達が全収容エリアを突破した頃だった。 それからというものの二人の攻防はさらに激しさを増した。 ダメージを受ければ受けるほど、相手にさらなるダメージを与えていく。 武器と武器が、能力と能力が、拳と拳がただひたすらぶつかり合う。 それは言葉よりも流暢な「対話」なのかもしれない。 「『もう1つの人格』…余自身は1体のレプリロイドとしての籍もない中途半端な存在じゃった… しかも元々いた奴に『余計だ』『消えろ』などと言われたのじゃ…! 何と下らなく忌々しい事か!! じゃが世の中はそやつかそれ以下の中途半端で不確かで下らぬ存在で溢れ返っておる! じゃから自分が確かな存在となりそやつも世界も、宇宙も余の手中に収めようと思ったわけじゃ! あらゆる意味で半端者だったうぬも余の心が分らぬわけではあるまい!!!?」 「あんたの気持ちは分らなくもないよ…でも僕はここで潰れる訳にはいかない… …難しい事は言えないけど僕はいつでも戦い抜いてきた!! 例え相手が誰だって!自分の為にも!!仲間の為にも!!! 僕達の未来を奪う資格なんて誰にもありはしないんだ!!!」 果てしなく続くかのように思われた死闘。 だがある時だった。 「光、あれ…!」 アクセルの声と同時に彼の周囲に今まで彼が使用してきた銃器類が彼を取り囲むように現れた。 それらは皆、銃口をノワールに向けている。 コンボゲージが溜まったたった今、アクセルが思いついた技だった。 「アルティマバレット!!!」 アクセルの持つバレットと同時に彼の周囲に浮かんでいた武器も一斉に攻撃を放った。 弾やレーザーは1つになり巨大なレーザー砲となりノワールに連続ヒットする。 「ぐ…ぬおおおおおおおお!?」 ノワールは吹っ飛び壁に激突した。 しばらくするとふらふらと立ち上がるノワールだったが、突如彼は顔を強張らせた。 「……顔に…傷が…」 ノワールは先程のアクセルの攻撃でとうとう必死で庇ってきた顔に傷を負ってしまったのだ。 彼は暫く放心状態になったかと思うと急に発狂した。 「おのれぇええええええ!!!!良くも!!!!良くも!!!!! 余の!顔に!!傷を付けてくれたなああああああぁぁあああ!!!!!」 かつてない顔に歪み様と寄声にアクセルは一瞬引いた後、ノワールに向かって言い放つ。 「顔の傷が何だってんだよ!そんなもん普段の僕にもついてるよ! それにあんたが今まで皆に与えた傷に比べりゃこんなの、屁みたいなもんだ!!!」 ノワールは彼に構わず狂気を全開に一言言う。 「ハイパーモード…インフィニティノワール、発動!!!」 「えっ!?」

第三十二話「未来への咆哮」

ノワールがついにハイパーモードを発動した。 ノワールの合図と同時に彼の体は真っ黒に染まった。 体全ての部位が何物よりも真っ黒になり、顔や体のパーツは最早輪郭を失うまでになった。 次の瞬間ノワールの周囲に彼の戦闘端末が次々と出現しては彼自身に引き寄せられるのを繰り返した。 ちなみにノワールもリュミエールと同様に自らを本体とした戦闘端末を使っていた。 ただリュミエールと違いノワールは将来的にも端末だけを武力や労働力として使役するつもりなど毛頭なく、 己の支配下にある者全てを端末と同列かそれ以下の道具と見なし自分の為にこき使ったり奉仕させたりなど 思いのままに動いてもらうつもりでいた。 そのノワールの端末は彼の目や手足の役割を担い道中でもメカニロイドに紛れハンター達の前に出現したり捕獲したりしてきた。 戦闘端末1体1体の戦闘力は正規兵よりやや上程度だったがノワールの能力を以ってすれば一度に膨大な数の戦闘端末を動かす事が出来た。 それらが今、ブラックホールに吸い寄せられるように超高速でノワールただ一点に集っていく。 「何か分からないけど、ヤバいのは間違いない!」 即座に目の前で起こっている事態の危険性を確信したアクセルはノワールに銃口を向け超速連射砲撃を始めた。 しかし端末が一度に出現する数が急速に増していき、同時に各端末が本体に到達する速度も増していったので 次第に破壊が間に合わなくなっていった。 高速で集合する端末の中心部でノワールは言う。 「リュミエールのハイパーモード、レインボーセラフとは特殊で高性能とはいえたった6体の端末を己が身に従えるというものじゃった。 それしきの事など通常時の余にも出来る事…余のハイパーモードはさらに上を行くものなのじゃ! 端末を身に纏うという点では最初にうぬ等に見せた姿である『バインドアーマー』と同じじゃがその意図は真逆! 有像無像とある余の端末が我ガ肉体トナル!!」 ノワールの声が変わっていく。最初の姿とはまた違ったおぞましい方向へ。 そしておぞましい変貌ね遂げていくのが声だけではない事をアクセルは確信していた。 やがてノワールと端末の融合が完了し、アクセルはあまりに巨大で強大、邪悪で最悪な存在を目にする。 その姿は牙が何重にも生えた巨大な怪物のような顔の側部からは様々な形状の何本もの腕が、 下部からは獣に似ていたり虫に似ていたりする何本もの脚がそれぞれ生え、 後部にはえり巻きにも羽根にも花びらにも似た巨大な板が付いていた。 サイズはこれまで出てきたロードキングダム幹部の何れよりも遥かに上回る。 「どこがハイパーモードだ、化物じゃないかよ!!」 目の前に存在する超弩級巨大物体に対しアクセルが驚嘆の声を漏らす。 するとその物体はおぞましい声で答える。 「ウヒャヒャーヒャッヒャッヒャッ!!コレハ余ノ顔ヲ傷付ケルダケノチカラヲ持ツ敵ニノミ使ウ能力!! ソノ名モインフィニティノワール!!マサカウヌ相手ニ使ウ事ニナルトハノウ… 余ノ顔ニ傷ヲ付ケタ罪、従来ノウヌ以上ノ傷ヲ負ウ事デ償ウガイイワ!!!」 アクセルは眼前の敵から放たれる凄まじい凶暴性、狂気、殺気、重圧等を全身に感じていた。 …だがしかし精神面も強化された今のアクセルは気圧される事などなかった。 「僕はついさっき誓ったんだ、最後の最後まで戦い抜いてやるってね! 来るなら来い!僕の…全てをぶつけてやる!!!」 インフィニティノワールはこれを聞き終わった後、おもむろに何か言い始めた。 「ウヒョヒョハハハハハ!!見上ゲタ根性ジャノウ!デハソンナウヌニフサワシイ場所ニ案内シテクレヨウ…」 インフィニティノワールが言い終わると同時に上空に巨大な次元の裂目が現れ、両者を飲み込んだ。 「…ここで決着を着けようって訳だね」 既に臨戦体制に入ったアクセルが言う。 「コノ空間デウヌノ…余以外全テノ存在ノ…チッポケサ、無力サ、愚カサヲ知ラシメテクレヨウ… ウヌノソノ根性、イツマデ持ツカノウ…!!」 インフィニティノワールは声高らかに言い放った。…そして、攻撃を開始した。 「ロードキャノン!ロードブレード!ロードアックス!ロードサイズ!」 巨大で数も多く、形状も様々な腕からの矢継ぎ早の攻撃がアクセルに容赦なく襲いかかる。 「強い…強すぎるよ…でも、やられるもんか!!」 インフィニティノワールの戦闘力は以前より格段に増していた。 撃たれ、斬られ、殴られ、燃やされ、凍てつかされ、刺され、押し潰され… それでもアクセルは強化された闘志と先程より次々と頭の中に閃いてくる技で果敢に応戦した。 この時アクセルは気付いていなかった。彼自信の頭から己の思念波が発信されている事に。 アクセルの目の前にインフィニティノワールが現れた頃… 装置の電脳世界にいるハンター達の視界にも同じ物が映っていた。 即ち「インフィニティ」が他の精神攻撃プログラムと融合し、インフィニティノワールと同じ姿となったのだ。 「こ、これは…!危険な臭いがプンプンするです!」 パレットや他のハンター達はその強大で禍々しい存在感にただただ圧倒される。 そしてその「インフィニティノワール」が聞くもおぞましい声で喋り始めた。 「ハーハッハッハッ!!見ヨコノ姿ヲ!テメー等ニ特別ニ教エテヤルケドヨォ、 インフィニティハ元々ノワール様ノ戦闘端末ヲノワール様ノ外部ニ集合サセタ姿、 テメー等ガ見タノハソレヲコノ空間デ再現シタ『インフィニティC』… ソシテモウ一ツ…ノワール様ハ自ラノ身ニ戦闘端末ヲ纏ウ事デ最強ノ力ヲ持ツ形態『インフィニティノワール』ヲ発動出来ルンダゼ! 俺ハソレヲインフィニティCト他ノ精神攻撃プログラムノ融合ニヨッテ再現シタ『インフィニティノワールC』! 俺ガコウナッタ以上今マデミテーニハイカネーカラナ、覚悟シヤガレ!!」 対してハンター達は… 「所詮ニセ者に過ぎない…一気に倒してここを突破するぞ!」 そう言ったエックスに続きハンター達はインフィニティノワールCに一斉攻撃を開始した。 しかし…無情にも相手はびくともしなかった。 「何ダテメーラ、全然弱ッチージャネーカ!今度ハコッチカラ行クゼ! ロードシザー!ロードナックル!ロードトライデント!!」 「うおおぉお!?」 「グハアアアアア!!!」 「きゃあああああ!!!」 インフィニティノワールCの猛反撃を受け大ダメージを受けつつ吹っ飛ばされるハンター達。 「くっ…地力でこれか…」 「ここまで来たのにこんなのあんまりですよ〜!」 エックスやパレットが敵の強さに驚愕しているとインフィニティノワールCがハンター達の頭のビットの事に言及し始めた。 「既ニ送ッテモラッタデータニアルゼ、テメーラソノ頭ノ妙ナ石コロデ強クナッテンダロ!? ッテ訳デソレブッ壊シテテメーラヲモッペン悪夢ノドン底ニ叩キ落トシテヤラア!!ロードサイズ!!」 インフィニティノワールCは腕の鎌を振り払いハンター達のビットをその一振りで両断してしまった。   「「「「! ! ! !!! !」」」」 その瞬間、ハンター達は戦慄した。 本物のインフィニティノワールCがいるかのような重圧を感じ取ってしまったからである。 「あ…ああ…あああ……」 「な…に…!?」 「これは…普通の人なら…ショック死するかもしれない…」 恐怖に顔を歪め、体を震わせるハンター達。中にはまともな思考もままならない者も数名いる。 そんな彼等を嘲笑いながらインフィニティノワールCは攻撃を再開してきた。 「ウハハハハハハ!!!縮ミ上ガッテルゼコイツラ!!!シカモ只デサエ弱ェーノガサラニ弱クナッテヤガル!! ドーシタモウオシマイカァ!?オラァ!!オラァ!!!オラァ!!!」 頭のビットを失ったハンター達はインフィニティノワールCからリアルな恐怖を感じ、リアルな痛みを与えられる。 ハンター達は手も足も出ず一方的にインフィニティノワールCの攻撃を受け続け、精魂尽き果てようとしていた。 「ぐ…う ぅっ…!現実でノワールをこの姿にするのは…ままならない… その為にも…まず…こいつを…倒さなければ…いけない…の…に…」 エックスが悔し気に呟く。 「パパ…パレット…あのビット…も…もう一度…よ、よよ呼び出せない…かし…ら…?」 瀕死の重傷と極限の恐怖感に抗いながらエイリアがパレットに言う。 「りょりょりょ…了解しました…!」 そして同じく恐怖と激痛に苛まれているパレットは例のビットを再度召喚しようとした。 「サセネーヨ!」 しかし敵の動きが速くインフィニティノワールCが即座に指先でパレットを捕えてしまった。 「ううっ…!」 「サッキハ不正アクセスナンテナメタマネブッコキヤガッテヨォ、コレデモ喰ラエ!!」 そう言ってインフィニティノワールCは指先から強烈な電流をパレットに流してきた。 「あっ!…あうっ!!あうぅううぅううう!!!!」 激しく苦しみ悶えるパレット。「貴様…パレットを放せ!!」 気圧されながらもインフィニティノワールCに攻撃を加えようとするエックス達だったが… 「テメーラモダ!!」 「ぐわああああああ!!!」 猛反撃を受け返り討ちになってしまう。 そうしてしばらく経った時だった。 「何ダァ!?マダヤル気ノ奴ガ何人カイヤガルナ…ダッタラコレデドウダ!フラッシュバック!!」 インフィニティノワールCは今度はマインドコンタクトの一部の力を用いてハンター達の電子頭脳を刺激し、 各々のそれまでの記憶の中でも最悪なものばかりを鮮明に蘇らせた。 「やめろおおおおお!!!!!やめてくれぇええええ!!!!!」 「や、やあああああああああ!!!!!」 「うがあああああああ!!!!!」 ハンター達に過去の悲しみが、恐怖が、絶望が、憎しみが、罪悪感が、屈辱が、一気に襲い掛って来る! 「ククククク…ウワーハッハッハッハッハッ!!!!テメーラノ…体モ…心モ…ズタボロニシテヤルゼェ!! ソシテコッカラ出テ来ル頃ニハノワール様ニ従順ニナルマデニシゴキ抜イテクレル!!コノクソゴミ野郎共ガアアアアア!!!!!」 インフィニティノワールCはハンター達にさらに攻撃技を加え続けた。 その威力はあまりに強く、勝負は一瞬で付くと思われた。 しかしあろうことかインフィニティノワールCはわざわざ相手が虫の息にまでなると回復させ、再度傷めつけるのである。 こうしてハンター達は暫しの間、装置の中で身も心も責められ続けた… 一方ハンター達の宇宙船では… 「ゼロが来るまで…出来る限りの時間稼ぎをしてみせる!!」 アイリスがノワールの修復兼洗脳装置にハッキングし、敵を攻撃するプログラム及び ハンター達をサポートするプログラムの転送をしていた。 同時に彼女はゼロが飛ばされた先の解析も続けていた。 「あんた、ゼロの生存を諦めてねぇのか?」 ダグラスが問う。 「ええ、ゼロは…今まで何度も死線をくぐり抜けてきたわ!今回だってどこかで生きてるはずよ! さっきは取りみだしちゃったけど、私は…ゼロを信じてる!!」 アイリスの応答にダグラスも感化された。 「よぉし、そんじゃ俺もうかうかしてらんねーな! どこまで通用すっか分んねーが、最強の武器で精いっぱいの抵抗をしてやらあ!!」 メタルパレスに出撃しようと最強のメカで武装し始めるダグラス。 「ハッキングは私も手伝いましょう。」 ライフセイバーはハッキングに加わる。 フラン星では… 「もうお終いだ2ああああ!!!!!うわあああああ!!!!!!」 絶望のどん底にいる宇宙の中心領域の住人達。 その時だった。 「諦めてはならぬ!!」 彼等を一括したのはウォーレスだった。 「先代…」 ウォーレスは告げる。 「プロパガンダが…そしてあいつが認めた闘士達があそこでそのままくたばるとでも思っとるのか!? きっと操られずに帰ってくるじゃろう!! じゃがしかしあいつも…そして恐らくハンターの皆さんも自分だけの力で戦ってきたわけではないはずじゃ! すなわちそれぞれの守るべき者達も彼等に力を与えてきた…という訳じゃ! じゃからワシ等がここで諦めるわけにはいかんのじゃ! お前達はあの宇宙大戦を生き残ったんじゃ、思い付く限りの抵抗をしてみんかい! 前線で戦っておる者達の為にも! …ワシはこれからこいつを改造し、敵地に乗り込んでくるぞい!」 ウォーレスはフラン星に着陸しているリュミエールの無人宇宙戦艦の方を見た。 リュミエールは事件が解決するまでは自分の端末の一部である無人戦艦を各星に滞在させる事にしていた。 それらは目的地に着くとリュミエール以外の操作を受け付けなくなるようプログラムされていた。 これをウォーレスは自分でも操作出来るように改造しに向かった。 「お供します、先代!」 「ここで俺達が潰れてちゃプロパガンダさん達に申し訳ねぇ!!」 コズミックヴァンガードの戦士達を中心に何人もの宇宙人達が彼に続いた。 ハンターベースでは… 「この世の終わりだ、ギャアアアアアア!!!!!」 特A級以下のハンター達が絶望に打ちひしがれていた。 「お前達、何をうろたえているか!?」 突然シグナスの怒号がベース内に響いた。 「そ、総監…!!」 ベース内の絶叫が止んだ。 シグナスは続けて言う。 「こういう事態にこそ結束せんでどうする!? メタルプラネットに出撃した者達は完全に敗北したか!? お前達はもう死んでしまったのか!? 地球は完全にノワールの物になってしまったか!? …違うだろうが!!! これより私はここにいる者達の各自の能力を考慮した上で最適の指示を出す! それまで気持ちの整理を付けておくように!!」 これに対しベースのハンター達は… 「も、申し訳ありませんでした、総監!」 「良く考えてみたら俺達だってパワーアップしてるんだ、力の限り暴れてやるぜ!!」 士気を取り戻し戦闘準備を開始した。 セイントサンクチュアリでは… 「リュミエール様が負けてしまったぁぁああああ!!!!! というか、これから俺達に汚い心が復活してしまううううう!!!!!」 住人達はリュミエールの敗北に絶望すると同時に自分達の本来の感情の 醜い部分、格好悪い部分が復活する事に恐れおののいていた。 しかしそんな中… 「いい加減にせんか!!」 彼等の絶叫を元セイントサンクチュアリの表向きの最高指導者ランバートが遮った。 「ら、ランバート元首相…」 ランバートの表情は、しばらく見せていなかった、 そしてかつて時折見せていた厳しさが顕著に表れていた。 ランバートは続ける。 「私は…君達の命が惜しかった… 故にリュミエール様に甘える事しか出来なかったのだ… 事実あの御方もまた我々の為を思って精一杯努力をしてきたからだ… それは何故だと思う!? 我々人間とレプリロイドが十分に素晴らしい存在だからではないのか!? 我々が今の君達の言うような醜く弱い存在なら、 リュミエール様はとっくにお見捨てになっている!! 私は思う… 守ってもらっている時だけ思いっきり甘えてそれが崩れた途端諦めて嘆くのが 人間とレプリロイドの生きる道かと…! 私はこれから出来る限りの抵抗を試みるが…どうか…皆の力を貸してくれ!!」 ランバートは涙を浮かべながら頭を下げた。 「ランバートさん…」 「よーし、俺達も…」 セイントサンクチュアリの住人達が意気込み始めた時… 「み、見える!!感じるぞ…!!」 彼等は口々に叫んだ。 彼等の頭の中には、アクセルとインフィニティノワールが激闘を繰り広げている光景が浮かんできた。 同時に彼等はレインボーアクセルが出現した経緯とインフィニティノワールが何者なのかを知り、 さらにそれぞれの想いまでも直に感じ取った。 「リュ、リュミエール様がアクセルさんの中で生きて戦っていらっしゃる!! アクセルさんもリュミエール様の御意思と関係なく自分の闘志で戦っているではないか!!」 「結構いい勝負か!?いや、アクセル少年が押されているかも!? とにかく頑張れ!!!この勝負に全てが掛かっているんだ!!!」 「この思い、メタルプラネットまで届け!!」 状況を知った人々はアクセルに、そしてリュミエール祈り始めた。 すると… 街の要所要所で見られるリュミエールの端末が輝き出し、上空に向かって強烈なエネルギーを放った。 同じ現象が、他の地でも起こっていた。 ハンターベースでは… 「あれがアクセルで…あれがノワールか!?ともあれアクセル…勝ってくれ…! ん?何だ、リュミエール君の端末が…光った…だと!?」 シグナスを始めとしたハンター達が現状を把握して士気がさらに高まったと同時に ベース内に配備されたリュミエールの端末が一斉に光り出し、空に向けてエネルギーを放った。 宇宙の辺境では… 「な、何だ!?何だか知らないけど、頑張れ!!」 「お、何か光ったぞ!!」 完全に希望を無くしていた宇宙の辺境の住人達も、この瞬間希望を取り戻し、 それに反応するが如く彼等の星に滞在させてあった無人戦艦が光り出した。 フラン星では… 「イレギュラーハンターの十字傷…のあった少年がノワールと戦っておる!! …な、今度は無人戦艦やリュミエール君の端末とやらが光り出したぞい!!」 ウォーレス達が現状を知り、アクセルに祈ると同時に彼等が向かった先の 無人戦艦が光り出した。 そのエネルギーを秘めた光は、上空へ、そしてメタルプラネットに向かっていった。 ノワールの装置の中では… 「オノレエエエエエ!!!何デマダ折レネーンダ、ロックマンエックスウウウウウ!!!!」 インフィニティノワールCがハンター達に猛攻撃を仕掛けるも、 何人かはそれに構わず立ち向かっていき、特にエックスの抵抗が激しかった。 「俺は…戦いを終わらせる為にも、本当の意味で皆が幸せになる為にも、負けるわけには…いかない…!! 過去の痛みが何だ…こんなものは全部乗り越えてきたものだ!!! そして乗り越えられたのは俺だけの力じゃない… 皆がいたから…乗り越えられて来たんだ…!! それに応える為にも俺は…お前達を倒す!!!」 これに対しインフィニティノワールCは激昂した。 「コノクソチビガアアアア!!!!! テメーハデータニヨルトウジウジ悩ンデバカリノ根性ナシダソウジャネーカ!! 噂ドオリ泣キ叫ベ!!弱音ヲ吐ケ!!潰レチマエエエエエエ!!!!」 その時… 装置の中のハンター達にもアクセルの戦いやそれまでの経緯を知り、想いを感じた。 「何だアクセル…たった一人で戦っているじゃないか、こいつの本物と!! 俺達も…負けていられないぞ!!」 アクセルの思念波を受けた影響か、ハンター達に一気に力がみなぎってきた。 抵抗を続けていた者はより強い闘志を放ち、力尽きようとしていた者は正気を取り戻した。 それだけでなく、攻撃の威力も先程のビットを設置した時と同等かそれ以上までになった。 「行くぞおおおおお!!!!」 「一気に反撃だぜ!!」 ハンター達の反撃が始まったが… 「調子ニ…乗ルナアアアアアア!!!!!」 「うおっ!?」 「ぐ!!ううううう…」 インフィニティノワールCが強い事は変わりないのであった… それでも戦いは一方的なものではなくなっていた。 そしてアクセルとインフィニティノワールは… 「エリミネイトパルス!!」 インフィニティノワールの背中の板から角にエネルギー波が集まり、巨大なエネルギー球となりアクセルを襲う。 「えい!!」 アクセルは何とかそれを回避した。 「思ッタヨリ粘ルノウ…ナラバ…コレデ試シテクレヨウ…メモリークラッシュ!!!」 「…っ!!!!!…………………………………………………………………………」 アクセルの頭の中に膨大な情報が流れ込んできた。 情報の内容は多岐に渡った。 地球が誕生してどれぐらい経つか、どれだけの種類の生物が出現し、絶滅していったか、 どれだけの人間、ロボット、レプリロイドが生まれて死んでいったか、 それまでにそれぞれがどのような活躍をしてきたか、 今生きている人間とレプリロイドはどれだけいるのか、 これから生まれようとしている人間とレプリロイドは何人いるのか、 彼等の作る未来は何通りあるのか、 地球はどれだけ広いのか、その地球が属する太陽系や銀河系はどれだけ大きいのか、 宇宙でどれだけの割合を占めるのか、 宇宙にどれだけの星があってどれだけの生命があるのか、 それらの生命体はどれだけ長く激しい戦いを繰り広げてきたのか、 自分は上記の内どこまでを知り、どれだけ関わってきたか… アクセルは、無力感、孤独感に似たような感情を強く感じた。 自分が生きてきた年数は地球や宇宙の歴史の中でも、ほんの一瞬。 自分は大勢いる人間やレプリロイド達の中の、一人に過ぎない。 また自分が助けた人々も全体の中では一握りで、比較にならない数の人々が死んでいった。 その感情は迷子になったような、砂漠に迷い込んだような、 大都会の中を一人で歩いている時に感じるものと似ているのかもしれない。 「僕は…………」 「トドメジャ!!!!」 次にインフィニティノワールは至る所の時空を歪め、穴を開けた。 その穴は通常時に瞬間移動の際に使うものと同じであり、全く別の場所に繋がっていた。 「ウヒャヒャヒヒヒヒハハハハ!!!!!!コノ穴ハ平行世界… 即チ異世界ニ繋ガッテオルノジャヨ!!!! ドレ、ソコノ世界ノ大マカナ情報ヲ集メ、住人共ノ苦シミノ声ダケ拾ッテ… ウヌに叩キ込ムトスルカノウ…!!」 アクセルの頭の中にさらに追加情報が流れてきた。 異世界の情報と住人の苦しみや絶望の声である。 「今度…は…異世界…人…?」 異世界人達の慟哭、絶望、悲鳴の声がアクセルの中に鳴り響く。 『何故だ、何故戦争しなければならないんだああああ!!!!』 『殺さないでええええぇぇえええ!!!!』 『死んじゃうよぉーっ!!!』 『助けて…助けてくれええええ!!!!』 『ひもじいよぉ…ひもじいよぉ…』 宇宙の中心領域で戦争があったように、それぞれの異世界にも戦争を始めとした様々な苦痛が存在していた。 中でも特に酷いのはネット工学が発展した世界と、その未来と思しき電波工学が発展した世界だった。 この2つの世界では魔物の如き巨悪が幾度も世を脅かし、惨劇が繰り返されていた。 また共通して言えるのは少数の強者により多数の弱者の運命が握られていると言う事だった。 「あ…うあ…」 情報の量と内容に言葉を無くしていくアクセル。 そんな彼にインフィニティノワールは言い始める。 「ドウジャ…己ノチッポケサヲ知ッタ気分ハ… コレヲ見レバウヌノ過去モ…現在モ…未来モ…ドウデモ良イト思ワヌカ!? ジャガ余ハ違ウ!!今ノ宇宙、今ノ時代ヲ侵略シ尽クシタラ別ノ時代ヤ次元ニ手ニ入レテクレルワ!! 全テ、全テジャ!!全テニ余ノ存在ヲ刻ミ込ムノジャアアアア!!!!」 「それでも…」 アクセルが口を開いた。 「それでももう、僕しかいないんだ!!!僕しか残っていないんだあああ!!!」 アクセルは尚も立ち向かう。 通常先程のインフィニティノワールの技を喰らえば無力感に支配され、 闘志が一気に鎮火するのだがアクセルは何とか耐え抜いたのだ。 「己!!己ェェエエエ!!!!」 「僕しか…僕しか…」 インフィニティノワールはアクセルに猛攻撃を続けるがアクセルは応戦し続けた。 敵に立ち向かっていけるのはもう自分しかいないと自分に言い聞かせながら。 その時… 「いや、お前だけじゃねーぜ!!」 穴の1つの中から、何とゼロが現れた! 「ゼロ!!」 アクセルが驚きと歓喜の声を上げる。 ゼロは応える。 「セイバーの新機能と、アイリスの声とさっきのお前が送った情報のおかげで何とかここまで辿り着けたぜ。 さあ、このままこいつと決着を着けようじゃねぇか!」 ゼロが今回の戦いの強化で得た能力はセイバーで次元を斬り裂く能力だった。 それも行き先がある程度指定可能だった。 もっとも、高度な技術故ここまでの機能を付けたのは極最近の事だったのだが。 彼は一旦アイリスのナビに従い最初にノワールと戦った部屋に戻ってきたが、 その時既にアクセルとノワールは次元の狭間に消えていた。 そこで彼は行き先をアクセルの近くに指定してここに来たのだ。 ちなみに彼の体を傷めつけている電流であるが、流れ続ける時間はディザストールの生命力に比例している。 そしてゼロはその時間切れまで見事耐え抜いたのだ。 体も回復し、アブソリュートゼロを発動している。 ゼロが加わった事により反撃の勢いはさらに強まった。 「喰ラエェ、オメガハウンド!!!!」 「くっ!!」 「がはっ!!」 インフィニティノワールが口から極太レーザーを放ってきた。 アクセルとゼロは大ダメージを受ける。 しかしすぐさま二人は反撃を繰り出す。 それ以降も二人はインフィニティノワールの強烈極まりない技に耐えながらも 地道に攻撃を加えていった。 その頃装置の中では… 「うーん、やっぱり手強いですねぇ、 じゃあこの力に例のビットを上乗せしますね!」 パレットが自分を含めたハンター達にビットを設置した。 すると再度ハンター達にとってインフィニティノワールCからリアルさが失われた。 「これでより勝負が楽になるな!!」 そう思ったハンター達だが… 「己!!己!!己ェェエエエ!!!テメーラ許サンゾオオオオオ!!!!」 怒りの爆発によりインフィニティノワールCもまた攻撃を強めた。 「うぐっ!!」 「ごへあああああ!!!!」 インフィニティノワールCの攻撃は尚、強烈そのものだった。 しかし… 「許さないのは、こっちだ!!」 「グホア!!!!!!」 マッシモの一撃によりインフィニティノワールCは声を漏らした。 ハンター達の攻撃でインフィニティノワールCにも十分ダメージを与えられるようになっていた。 それでもインフィニティノワールCは耐久力にも優れており、中々勝負が着かない。 その時エックスがパレットに言う。 「パレット、悪いけど俺からこのビットを取ってくれないか、考えがあるんだ」 「え、いいんですか?敵とダメージをリアルに感じちゃいますよ? パレットは困惑する。 「それがいいんだよ。さあ、早く」 「う、う〜ん、エックスさんがそこまで言うなら…」 エックスのどこか真剣な表情にパレットは彼からビットを取り去った。 「何ノツモリダカ知ラネーガ自分カラ弱体化シヤガッタ!! 今度コソ始末シテヤラア!!!消エロオオオオ!!!!」 エックスに襲い掛かるインフィニティノワールC。 エックスはそのインフィニティノワールCの口の中に突っ込んできて、言う。 「お前がくれたリアルな痛み、そっくりそのまま返してやる! ギガクラッシュ!!!!!」 「グ…ゲ…ゲボアアアアア!!!!コレガ…英雄カアアアア!!!」 これまでのエックスのダメージを反映したギガクラッシュにより、インフィニティノワールCは消滅した。 この時彼等を閉じ込める装置が光り出し、放たれた光は宙で消えた。 そしてアクセルとゼロは… 「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」 各地から集まったリュミエールの端末及びハンター達を閉じ込める装置から放たれたエネルギーが今、 アクセルとゼロの体を包んだ。 先程アクセルの放った脳波が反射され、何倍にもなって返って来たのだ。 「感じる…感じるよ…皆の祈りが…想いが…」 涙を流しながらアクセルは言う。 ゼロも彼に応じる。 「ああ、俺達は今までこれの為に戦ってきたんだ!!皆で勝負を着けようぜ!!」 このエネルギー波が追い風となり、アクセルとゼロが一気にインフィニティノワールを圧倒し始めた。 「ガ!!ゲホ!!コンナ事ガ…コンナ事ガアアア!!!!」 そしてある時コンボゲージが溜まった。 「光、あれ…」 アクセルの呟きに伴い今度はアクセルの今までの銃器類並びリュミエールの戦闘端末が バレットの周囲に集まり、融合していく。 やがてアクセルの銃はとてつもなく巨大なサイズとなり、インフィニティノワール並になった。 しかし、今のアクセルの腕力なら十分支えきれる。 「受ケテ見ヨ…マキシマムホールド!!!」 対してノワールは全ての腕の先端と角にエネルギーを集め、口からのレーザーと融合させて放ってきた。 「皆、これで勝負決めるから…ホーリーリフレッシュ!!!!」 「連発幻夢零!!!!!」 アクセルは巨大な銃から砲撃を放ち、ゼロは幻夢零の超高速連発を繰り出した。 2つの技が同時にインフィニティノワールの技を打ち破り、彼自身に到達する。 「バ、馬鹿…ナ…余ノ…視界ニ…ソコニイナイ者ガ…見エル…ジャト…」 想いは力となり、一つとなってインフィニティノワールのボディを構成する端末を次々破壊し、 ノワール本体に命中するや否や一気にインフィニティノワールの巨体が崩れ去った。 この瞬間、ノワールはこの場にいないはずの者達が見えていた。 宇宙の運命を掛けた、長い長い戦いは、遂に幕を下ろしたのだった。

第三十三話「絶対神堕つ」

戦いは終わった。 現実世界でも、装置の電脳世界でもそれぞれの力と想いが合わさって見事インフィニティノワール達を打ち破った。 装置の中では… 「やった…俺達…勝ったんだな…」 力を出し切ったエックスが呟く。 「これで…外に出られますね!」 「ええ、セキュリティががら空きになった今、命令の書き換えが可能になったわ」 パレットの言葉にエイリアが応じる。 「つい先程、ゼロさんとアクセルさんも勝利を収められたのを確かに感じました」 レイヤーのその言葉にこの場にいた皆が賛同した。 「それでは始めましょう」 アイリスの合図とともにオペレーター3人が装置の命令の書き換えを開始した。 この作業は大掛りで時間も掛り、さらに従来ならセキュリティプログラムや精神攻撃プログラムに即刻感知されてしまうので インフィニティノワールCが撃破されて初めて実行出来る。 他のメンバーは作業の間は待機する事となり、その間彼等はそれぞれの想いを語り出した。 「自らの誇りを守り、且つ大切なものも守り通すのは本当に難しい事だな… それをするのに最高の方法、絶対に正しい道など存在するのだろうか…?…永遠に見つからないのかもしれん」 アブレイズ戦の直前に見たイメージやノワールの装置が見せた悪夢を思い起こしながら考えるカーネル。 それにダイナモが口を添える。 「相変わらずクソ真面目だねぇ、あんたも。そんなにいつも考え込んでたら俺は身が持たないぜ」 その一方でマッシモもまた物思いにふけっていた。 「(マッシモ…俺はまた一つ壁を乗り越えたぞ…俺の原点はいつだってあんただ… あんたの名とアーマーに恥じぬよう俺はこれからも前進するぜ)」 「さっき見たものの事ですが、ノワールって方もまた不運な生まれ方をしたみたいですね。 私は生まれつき大事にされてましたからこういう生まれ方はきっともの凄く辛いのでしょうね…」 シナモンも先程の戦闘で見たイメージについて思う所があったようだ。 「生まれ方よりもその後どう生きるかの方が大事だよ。 …さて、事件も解決した事だしこれで宇宙のお宝を元の持ち主に返せるね。 向こうがお礼としてくれるっていうなら素直に頂くけどさ」 マリノがシナモンに相槌を入れた後、自らのパワーアップに用いているパワークリスタルやディアブルジュエル等を 元の持ち主である宇宙の中心領域の住人達に返す意志を示したが、同時にそれらをくれるなら貰いたい、という意志も示した。 「俺はあんた等が気に入ったぜ! それに引き換えリュミエールの奴はやっと人の意見を聞き入れるようになってきたと思ったら逝っちまいやがってよぉ…」 スコルピーが残念そうに言う。 「最後まで分かり合えないよりも良い結果だよ…この戦いで改めて確信した事だが、我々もまた助けられている、 それを…忘れてはならない…」 そう話すプロパガンダも悲しげな様子だった。 そうしている内に…「終わったわ、それじゃ始めるわよ」 エイリアが作業の完了を告げた。続いてハンター達を現実世界に戻す作業が始まる。 ハンター達の前方に光輝くゲートが出現した。 このゲートをくぐれば現実世界に戻れるらしい。 「帰ろう、現実に。懐かしい未来に…」エックスの言葉に合わせゲートをくぐるハンター達。 「これは…」 意識が肉体に戻る中、ハンター達は今の現実世界の様子を垣間見た。 その現実世界では… 死闘を終えたアクセルとゼロが佇んでおり、二人の前方にはノワールが横たわっていた。 この場にいる者は皆最初にノワールと戦った部屋に戻っており、ノワールの真横には先の戦闘で力尽きたリュミエールが横たわっている。 ノワールはクールダウンし、最早虫の息で体もほとんど動かせなかった。 「ゲホアッ…!!まだ…まだじゃ…!余は…何者をも…超えた…存在…うぬ等如きに…ガハッ!!」 それでも諦める様子の無いノワール。 「この野郎、止めを刺してやる!」 セイバーを構えるゼロだったが… 「ちょっと待ってよ、ゼロ!」 何故かアクセルがゼロを制した。 「どういうつもりだ、こんな奴にお情けでも掛けるつもりか!?らしくねーぞ!」 ゼロがアクセルに異議を唱え、それにアクセルは答え始めた。 「ううん、ノワールはもうほっといてすぐにも死んじゃうよ。 それに僕は…確かにノワールのやった事を許さないけどさ、 このまま僕達やリュミエールとすれ違っちゃうのはもっと嫌なんだ!」 この言葉にノワールも応じ始める。 「何を…抜かして…おる…余はこやつと…完全に…袂を…分かったのじゃ…」 「最期ぐらい…最期ぐらい自分の気持ちに正直になってよ! …あんたはいつも自分の気持ちにバカ正直だったのに何でそこだけは素直に認めないんだよ!! 事実僕はさっきの戦いで『見た』んだ、はっきりとね!」 ノワールの言葉を遮るようにアクセルが力いっぱい叫んだ。 対してノワールは暫し沈黙した。 しばらくするとノワールは吹っ切れた様子で沈黙を破った。 「フフフ、余の完敗じゃ…うぬの言う通りに余の体は限界じゃ。 そして…うぬが言いたいように余は己の存在を証明したかった… 余は元は1つの人格から分かれ出た人格…それも人から醜いと言われる心を持ち、最初は余の言動や行為は周りから非難されてばかりじゃった… そんな中リュミエールが教えた事を取り入れた時、周囲の反応が好転したのは…悪くなかった… じゃがその周りの奴等は余の存在を認識しておらなんだ…何故ならリュミエールは…余の存在を一般には口外せんかったからのう… 加えてこやつは自分の中から余を消そうとし、さらには人々の記憶からも余が言った事、とった行為に関する記憶を消しおった… そのままこやつの思い通りに消えてしまえば地球上で余を証明するものが無くなってしまう… それ故に…己の存在の不確かさが恨めしかった…消えてしまい忘れ去られてしまうであろう運命が…悔しかった…」 「……」 アクセルはノワールの運命の惨めさや虚しさを感じとっていた。 人間とレプリロイドの生まれ方や生き方は千差万別である。 祝福されて生まれてきた者もいれば望まれずに生まれたり、始めから「悪」として生まれる者もいる。 しかし祝福されて生まれた者も不幸な運命を辿ったり道を踏み外す者もいる。 一方で生まれ方が不幸でも自らの運命を切り開く者もいる。自身やゼロのように。 また大抵の人間とレプリロイドはそれぞれ籍があり、情報が登録されている。 その一方で登録されず社会的に「存在しない」者もいる。 そうした者も良き理解者と出会えば絆を深め、他者を傷付ければ恨まれ、事件を起こせば記録に残る。 登録もされておらず孤立無縁だとしてもその者が自我を持ち、自己を認識している限りはその者は確かに存在する。 しかしノワールはそれら全てが無い、もしくは有っても失おうとしていたのだ。 「我思う、故に我有り。」という格言がある。 しかし、ノワールはそれさえ当てはまらなかった。 主人格リュミエールに自分は無だと言い聞かされ、記録上や人々の記憶の中からも抹消されようとした。 ノワールは最早自分の存在すら不確かで空虚に感じていた。 それは独りぼっちを上回る孤独を超えた孤独――無人ぼっちだった。 「でもさ…」 これらを考慮に入れながらアクセルは悲しげに、そして必死にノワールに問掛け始める。 「あんた自身を認めてくれた人はちゃんといたじゃないか!?それもあんなにいっぱい!」 これにノワールは悲しそうな、虚しそうな様子で答え始める。 「そうじゃ…余はこの虚しさを埋めようと己に近しい者に必死に取り入った…深層心理に残る程綿密にな… それでも足りなかった…ロードキングダムを結成してからは有象無象の存在に余の存在を知らしめたが… 尚もこの虚しさは消える事がなかった…」 アクセルはこれに何かを確信し、ノワールに返し始める。 「やっぱり…つまりさ…あんたが一番自分がいるって事を認めて欲しかった相手は…」 「皆まで言うな…もう良い、認めようではないか…余を…本当に認めて…欲しかったのは… 他ならぬ…リュミエール…じゃ…」 ノワールはアクセルの言葉を遮り、本心を打ち明けた。 「ノワール…!」 アクセルは嬉しそうであると同時に悲しそうな声を上げる。 ノワールは続ける。 「余は…まだ己を騙し続けておったの…じゃな…こやつは…元々余の一番近くにおった癖に遠くばかりを見ておった… 愚かな奴等に対しても自分が許せるレベルのまともさにまで更正させるのに必死じゃった… そして…救うと同時に掌握しようとする対象が人間とレプリロイド全体、地球全体と大それていて漠然とした物じゃった… 初めこそこやつは余と向き合おうと必死じゃったが…次第に余を無き者にして風化させようと…しおった…のじゃ… その反動故か…余はこやつを恨んだ…余に孤独を超えた孤独による痛みと虚しさを与えたこやつを…! 余と自分より遥かに劣る奴等ばかりに構うこやつが許せなかった…! 思えば余の欲求や行動は全てこやつへの反抗心から来ていたのかも知れぬ…」 自らの記憶を消してもノワールの存在自体を深層心理の中に留めていたリュミエール。 彼と10割のプログラムが共通するノワールもまた、深層心理ではリュミエールから自己の存在を認めてもらう事を望んでいたのだ。 しかしその感情は反動からくる激しい恨みによって隠れてしまっていた… そして今、ノワールがその感情を明らかに認識し、結果彼を支配していたありとあらゆる欲求は全て吹き飛んだ。 ノワールの声が次第に弱まっていく。 「…お喋りが過ぎたようじゃな…もうそろそろ時間のよう…じゃ…余がもう少し自分に正直じゃったら… あの時もっとリュミエールと真剣に話し合っておったら…しかしもう遅い…余はこれまでじゃが…罪滅ぼしになるか分からぬが… 帰った時はこれを皆に伝えてくれぬ…か…リュミエールを超えるべくして生まれた… ロードキングダムの…科学技術…じゃ…」 そう言ってノワールはマインドコンタクトでリュミエールのさらに上を行くロードキングダムの科学技術をアクセルとゼロに伝えた。 「…凄い技術だね…これを使えば復興なんてあっと言う間だよ…!」 「これ程の技術を正しく使えば…有難く持って帰らせて貰うぜ…!」 二人はそれらの技術のレベルの高さに驚いたが、それらを理解し、はっきりと覚えていられる自分達自身にも驚いていた。 一方でノワールは更に死に近付き声は一層弱まる。 「そうじゃ…これを…使って…うぬ等の未来を…切り開いて行って…くれ…余は…もう逝くと…する…かのう… こやつ…の…本心を…知る事なく…逝く事だけが…無念で…なら…ぬ…」 ノワールはリュミエールの方を見ながら消え入りそうな声で呟く。 「ノワール…僕、約束するよ…!これを必ず皆に…伝えるから…!それと、僕はあんたの事を忘れ去ったりなんかしないから…!!」 アクセルは、涙を流しながら途切れ途切れに、しかし力強く叫んだ。 「(あのアクセルが敵の為に涙を流すとはな…最初はとても考えられなかったぜ…俺やエックスのがうつったのか、それとも…)」 アクセルの敵の為に流す涙に若干意外性を感じるゼロ。…と同時に彼はノワールの生い立ちについて考え、 改めて自分の出生に対する幸運を実感した。 そして今正にノワールが息絶えようとしていた時… 「こ、これは一体…!」 アクセルとノワールの体からそれぞれ無数の光の粒が発生し、それらはリュミエールの体に吸収され始めた。 アクセルのアーマーの色は次第に元の色に戻っていき、彼に元々あった十字の傷が顔に浮き出て来る。 ノワールは光の粒を出す度に体が透けていく。 「どうやら…うぬに宿ったリュミエールが…余と共鳴しておる…よう…じゃ…な…」 消え行くノワールがアクセルに言い、アクセルはそれに応える。 「うん、僕も感じるよ…!リュミエールとあんたの心が融合していくのが!それで元の体に戻っていくのが!」 二人はリュミエールからノワールにした事への謝罪とこれからはノワールの存在を「無かった」事にしないという誓いを確かに感じ取っていた。 「結局…当初のこやつの目的を…果たす形になってしもうたが…余もまた当初の目的を果たした…もう何も…言い残す事は…」 言い終わる前にノワールの体は完全に消滅した。 最期の瞬間、アクセルはノワールの瞳がリュミエールに勝るとも劣らぬ輝きを放っていて、 その瞳の下に光る筋があるかのように見えた。そんな気がした。 既にアクセルのアーマーの色と顔の傷も完全に元通りになっていた。 そんな時… リュミエールの体が光の粒を吸収し終えた途端強い光を発した。 その光はリュミエールに吸収されるように弱まっていった。 やがて光が収束すると全身の傷が回復したリュミエールが姿を表し、直後彼は目を開けた。 リュミエールは復活するや否やおびただしい量の涙を流しながら上半身を起こし、既に自分の内側に収まったノワールに言う。 「ノワール…ごめんね…僕が君にこんな辛い思いをさせていたなんて…故意や無自覚で人を傷付ける人達を笑う資格ないよね… 僕はもう君の存在を無かった事にしないし、これからの糧にしていくから…! アクセルさん…貴方達への感謝と謝罪の言葉も尽きません…! 僕一人ではノワールを止める事も…打ち解ける事も…出来ませんでした…!!」 それぞれの手を反対側の腕に当て、泣き叫ぶリュミエールにアクセルは声をかける。 「リュミエール…だよね?」 念のため確認するアクセルだったが彼の放つ強い瞳の輝きは紛れも無くリュミエールそのものだった。 リュミエールは応える。 「ええ、僕はリュミエールです…しかし、ノワールの記憶も確かにこの中に…!」 しばらく間を置いてアクセルは言う。 「そうか…じゃあ…さよならじゃ…ないんだ…」 そしてゼロが改めてリュミエールに言い聞かせた。 「お前もまた誰かを無自覚に傷つけた事、 そして何かを為すには仲間の力が要ると言う事を、忘れるんじゃねぇぞ…」 「ええ、肝に銘じておきます」 リュミエールが応える。 同時に彼はノワールが自分の内に目覚めた時点では孤軍奮闘をしており、 深い悲しみや悩みを一人で抱え込んでいた事を思い出した。 そうしていると… 仲間のハンター達を捕獲している装置から液体が抜けていき、各メンバーへの拘束も解かれ、 最終的に装置は空中分解し、中にいたハンター達が地に倒れ伏した。 程無くして彼等は目を覚ました。 「…皆、おかえり!!」 「ただいまですぅ!!」 アクセルの歓喜の声にパレットが応じる。 エックスは悲しげな表情で、涙を浮かべながらリュミエールに言う。 「リュミエール…さっきのやりとり、俺達も見ていたよ… 彼の想いを決して無駄にしてはならない… ついさっき得た科学技術の情報を、未来に役立ててほしい」 「承知しております。必ずや従来以上の復興と発展に役立てましょう」 リュミエールは答えた。 「戻ってきて何よりだぜ。あんたにゃまだやるべき事が沢山あるからなぁ」 「ええ、僕には自分のやり方を改める義務があります」 喜びの感情を素直に表さないスコルピーにもリュミエールは応じた。 「さぁて、帰るぜ!ちと難しいが、もっぺんこの能力を使って見るか!」 そう言ってゼロが前方に向かってセイバーを勢いよく振り下ろした。 インフィニティーノワールとの戦いでやったように空間に切れ目を入れ、 メタルパレスを出る試みである。 「お、結構上手く行ったな!」 セイバーで開けられた穴はメタルパレスの入口に続いていた。 その穴にハンター達は次々と入っていき、メタルパレスを後にし、やがて宇宙船に帰還した。 一度は全員欠けたがこうして一人も欠ける事無く返ってきた仲間達を 船に残っていたメンバーは喜びと共に迎え入れた。 「お帰りなさい、ゼロ…!」 「ああ、今回もまた無事に戻ってきたぜ!!」 強く抱き合うゼロとアイリス。 他の仲間もそれぞれしばらくの間喜びを分かち合った。 そしていよいよハンター達が地球に帰る時が来た。 「貴方達を生み出し、支配し束縛した存在は消滅しました。 これからは貴方達自身で道を切り開いてくださいね。 貴方達が人間とレプリロイド並の心を手に入れるまでは我々が見守りますが」 リュミエールがロードキングダムが作りだしたミュータントや新型レプリアンに対して言う。 彼等は一旦自分達の町に帰る事になるがその心は未だに機械に近い。 そこで時折リュミエールやコズミックヴァンガードが精神ケアを行う事にしたのだ。 幸い彼等は短期間であるがアイリスと接触した事で徐々に感情に目覚めつつある。 リュミエールが宇宙船に戻ると共に、宇宙船は地球へと向かい、発進した。 前方に穴を開け、そこを抜けると青く輝く故郷が見えた。 着陸地は離陸地と同じリュミエールの邸宅であり基地であり研究所でもある超巨大ビルという事になっている。 「綺麗ですねー」 「うん、僕達の地球だよ!」 見とれるパレットにアクセルが応じる。 「これが君達の星か…実に美しい」 「ええ、俺達はこの星とそこに生きる者達の為に戦ってきました」 プロパガンダには初めての地球。 感心する彼にエックスは地球と平和への強い想いを示した。 「(僕が一人で掌握するよりも、皆で一緒に守る方がこの愛すべき星への貢献になるのでしょうか… 皆さんの力も尊ぶべきなのかもしれませんね…)」 地球を見ながら考えを改め始めるリュミエール。 こうしてそれぞれの想いを乗せ、船は地球に向かい、やがて無事に着陸した。

第三十四話(最終回)戦士達・天使達

イレギュラーハンターやリュミエールとロードキングダムの全宇宙の運命を賭けた 壮絶極まり無い戦いが終わってしばらく時が経った頃地球では… ハンター達やリュミエールが持ち帰って来たロードキングダムの科学技術で世界各地はかつて無いペースで復興が進んでいた。 リュミエールを超越した高レベルのこの技術は良い方向に使えば大いに人々の役に立つ。 悪用されるのを避ける為この科学技術の情報は人格面で厳選された者にしか与えられなかった。 しかしその為の審査はリュミエールの独断ではなく様々な方面の知識人と競合して行われた。 セイントサンクチュアリでは… 「僕は今まで皆様から大切な、あって当たり前のものを奪い、独り占めしてきました。 しかし今回の事件で皆様に助けられ、皆様の心の強さと尊さを確信しました。 皆様の心に報いる為にも僕が皆様から奪っていたものを返しましょう。 そして僕と共に皆様自身の見方、感じ方、歩き方でよりよい未来を創っていきましょう」 そう言ってリュミエールは人々の感情を本来あるべきものに戻した。 同時に思想・良心の自由、言論の自由、表現の自由、参政権、などと言った 本来あって当然の権利をリュミエールは人々に返還した。 この時予測される様々な弊害もリュミエールの政策や人々の協力で最大限カバーされるようになった。 「まぁ自分で何かを学んだり技術を身に付けるのも悪くねぇかもな」 「っていうか青春したいし」 学校制度も復活し、学校生活を望む少年少女達が学校に戻っていった。 「俺の才能、見せてやるぜーっ!!」 「やっぱり男たる者、社会に貢献しないとな!」 「人の役に立ちたいって気持ちはリュミエール様にも負けないぞ!」 今まで無職の身だった元労働者達の内、特に熱意のある者達が次々と復職していった。 リュミエールは今まで一般人が労働しないで済む事を良しとしており、仕事熱心な者からは仕事への熱意を消していた。 しかしその熱意が復活した今、彼等は再び一生懸命働き出した。 もちろん仕事の中には政治も含まれており、本来の感情を取り戻したランバートが喜んで政界に復帰した。 「このランバート、喜んでリュミエール様に助力致しましょう。…それと…我々の意見を聞くとは真にご立派な決断ですな」 ランバートは自分が復職出来た事とリュミエールが他人の意見を尊重する姿勢を見せた事を喜びつつ語る。 また彼等の姿に刺激され立ち上がる者も続出した。 「愛する者が限りある命を望むから、俺は永遠の命なんていらねーや」 「つーか俺熟女好きなんだよな」 「ナイスミドルがいなくなっちゃうのは勘弁ね」 同じく人々の感情が元通りになった影響で不老不死を望まない者達も出現し、 また感情を取り戻した人々が不死のまま子供を産み続け人口爆発が起こる事も懸念されるので人間の不死化は一旦凍結となった。 そこに行き着くまで激しい議論が交されたが最終的には不死を望む者は意識や記憶を保存するという形に落ち着いた。 またロードキングダム構成員の喪失や後述のスコルピーの旅立ちによって セイントサンクチュアリの戦力は激減したがそれにもリュミエールは手を打っていた。 大抵の敵は無数にある自身の戦闘端末で何とかなるのだが有事に備えリュミエールは協力者を募った。 それは戦闘端末と引き換えに自分が退役させてきた元軍人達や最後まで感情操作が通じなかったレプリロイド達だ。 現時点のリュミエールの感情操作が通じないレプリロイドは今のセイントサンクチュアリではわずか6人。 その6人は今はまだロードキングダム構成員には及ばないものの通常で考えればとてつもない強さを誇り、 これからの伸びしろも十分ある。 またその6人は皆強い眼差しをしており、過ちを冒したり道を踏み外したりしそうにない者ばかりだ。 彼等は快くリュミエールの誘いを承認し、戻ってきた軍人達とあいまってセイントサンクチュアリの強大な戦力となった。 仕事が一区切り着いたリュミエールはある日自分の邸宅内にある礼拝堂に足を踏み入れた。 礼拝堂にはおびただしい数の蝋燭に火がともされていた。 この蝋燭の本数はロードキングダム構成員も含むかつてリュミエールが殺めた者達の人数と同じである。 そしてリュミエールはそこで彼等に向けて懺悔するように語り始める。 「貴方達は許されざる罪を冒し、裁きを受け命を散らしました。 こうなってしまったのは貴方達の性格に問題があり誰かを、周りを、世界を傷つける行動や言動を平気で取り、 さらにそんな自分を省みる姿勢をどうしても見せなかった事に他なりません。 …ですがそれは貴方達だけのせいではありません。貴方達をこうしてしまった周りの環境や個々の境遇、 そして僕が貴方達と分かち合うのをすぐに諦めてしまったのも 貴方達が道を踏み外し、それを最期まで悔い改めなかった原因でしょう。 特にロードキングダムの皆さん… 貴方達がやった行為自体は非道なものでしたが貴方達が僕に向けた不満の一つ一つが意味があり、価値のあるものでした。 しかし当初の僕はそうした考えを軽視し、はねのけてきました。 痛みを取り戻した今、僕は皆さんの怒りや悲しみ、無念のお気持ちを少しでも理解出来たつもりです。 僕は皆さんにも誓います。 僕一人の思想を周囲に強要せず他の方々の考えも理解し、共に助け合いながら歩んで行く事を。 もう二度と他者に皆さんのような思いはさせない事を。 ですから見ていてください。 僕達が創る未来を。 皆さんの死を背負って行くこれからの僕の道を。 僕は先の戦いの経験と皆さんの死と想いを…決して無駄にはしませんから… (もちろん君の想いも無駄にはしないょ、ノワール…)」 祈りの最後にリュミエールは心の中でノワールに囁き、直後彼は後ろを振り返って見たがそこには誰もいなかった。 リュミエールは改めて自分が一つの肉体、一つの心に戻った事を実感した。 しかし寂しくはなかった。 皆と共に歩み、力を合わせると誓ったのだから。 最後にリュミエールは十字を切り、礼拝堂を後にした。 リュミエールが去った後も蝋燭の炎はしばらくの間煌々と燃え続けていた… ギガンティス島では… ここでもやはり順調に復興作業が進んでいた。 「マッシモさん!俺を…弟子にしてください!」 「…修行は厳しいぞ!心してかかるが良い!(この俺に弟子…か…ハハ…ハハハハ…)」 またしても名を上げたマッシモ。 彼に弟子入りを申し出る者達が出現し始め、彼はそれを威風堂々たる態度で受け入れたが内心は喜びと感激と照れでいっぱいである。 同時に彼は弟子達に容易に超えられまいと意気込むのであった。 「いやぁマリノさん、何時にも増して大漁だねぇ!」 「人並みどころか裕福な暮らしが出来るなんて…ううう…」 ロードキングダムによる新技術・新発明の力を貧しい人々に分け与えるマリノ。彼女はいつも以上に感謝された。 彼女も先の戦いで見た悪夢による心の傷がかすかに残っていたのだが人々の笑顔によってその傷は癒された。 「あんた達はもう大丈夫だね。それじゃ、あたしはまだ助けを求めてる人達の所に行ってくるよ!」 そう言ってマリノは足早にどこかへと駆け抜けて行った。 その一方で感情操作が解除された事により個々の持つ欠点・問題点も復活していた。 「何だとこの野郎!」 「やんのかコラ!」 仲の悪いレジスタンス隊士同士がかつてのように取るに足らない理由で喧嘩をおっ始めたが… 「ふ、二人とも…喧嘩は…止めてください…」 彼等が目線を下にやると涙ぐんで仲裁に入ろうとするシナモンがいた。 「(…!!!俺達は…何て馬鹿な真似をしちまったんだ…!!)」 喧嘩していた二人ははたから見た自分達の野暮さに気付き、シナモンを泣かせた罪悪感に打ちのめされてしまった。 「分かった分かった、お兄さん達が悪かった!」 「俺達もう喧嘩しないから、な!な!」 喧嘩していた両者共怒りが一気に鎮火してこの場は丸く収まった。 「ハァ…またですか…3等以上の隊士10人ぐらいは必要ですかね…」 ナナは偵察用メカニロイド達が持ち帰った情報を見て溜め息を付き、その現場に向かわせる戦力を計算していた。 ハンターベースでは… 「何だテメー!!」 「やるやらやれよ、糞野郎がぁ!!」 感情操作の解除によってここでも性格に問題を持つ者達が本来の欠点を取り戻した。 その例の1つとして元々仲の悪かったハンター同士が同じくかつてのように喧嘩を始めた。 「ま〜た始まった…」 アクセルは呆れながらも面白そうにそれを見物していた。 「もうこの二人の喧嘩はハンターの名物になっちゃってますからねぇ…って流石に止めなきゃマズいですよぅ!」 「大丈夫だって、ホラ」 若干焦るパレットにアクセルがそう返すと… 「また君達か!今すぐ争いをやめるんだ!!」 喧嘩していたハンター達にエックスが割って入った。 「あっ…すみません」 「すいません」 喧嘩していたハンター達は急に大人しくなって謝罪し、エックスは彼等を問いただす。 「原因は何だ!?どちらから仕掛けたんだ!?」 「それは…こいつが…」 ハンターが答えようとしているとそこにシグナスが現れた。 「エックス…この二人が喧嘩する理由など常に取るに足らない些細なものに過ぎん」 シグナスはエックスにそう言った直後喧嘩していたハンター達に告げる。 「丁度いい、お前達、例のDG36地点に応援に行って来い!そのあり余った怒りを敵にぶつけたまえ!」 「お、出撃するってんなら俺が今回開発した武器やパーツを持ってけよ〜」 ダグラスがシグナスに続く。 「ハ、ハイ〜〜ッ!!」 喧嘩していたハンター達はそれらの武器やパーツを持って共にどこかへと出撃して行った。 別の場所でも性格に癖のあるハンターが問題のある行為を行っていた。 「ヘヘヘへ…いいじゃねぇか…」 「ちょ…やめて!やめてください!!」 下品な男性ハンターが女性ハンターへのセクハラを再開していた。 …とそこにゼロが現れた。 ゼロは殺気を込めてそのセクハラしていたハンターを一睨みした。 「ウ、ウヒィィイ〜!!」 ゼロのあまりに鋭い眼光に彼は腰を抜かし、思わず逃げ去った。 「あ、有難うございます!本当に有難うございます!!」 「気にするな…」 女性ハンターがゼロに礼を言い、ゼロはそれに冷静に応じる。 対して女性ハンターは顔を赤面させ、胸もドキドキさせていた。 そして一連のやり取りを見ていたレイヤーも同じく胸をときめかせていた。 「(ああ…ゼロさんはやはり素敵な方ですわ…)」 するとゼロの元にアイリスがやって来た。 「ゼロ、この間いいお店見つけたんだけど今度一緒に行かない?」 「ああ、どんな店なんだ?」 仲むつまじく語り合う二人。もちろん両者の距離は近い。 それを見たレイヤーは… 「(分かっています…この想いは届かない事を…せめてアイリスさんとお幸せに…私は影ながら見守っております…)」 …と言った感じでゼロとアイリスの幸せを祈るのだった。 同時にカーネルもこれを見ていた。 「(ぬうぅ…あんなにくっつきおって…だがゼロ、お前だから許せるのだ…アイリスを、幸せにしてやってくれ…)」 彼もまた、二人の幸福を願うのだった。 その一方でセクハラしたハンターは遠くでいじけていた。 「どうせ俺はピエロさ…グス…」 エイリアはどこか遠くの地に出撃しているダイナモに通信を入れていた。 「任務ご苦労様。今回の任務はどうだった?」 ダイナモは応じる。「いつも通り、くだらなくてまともじゃない奴等ばっかりだったぜ。 自分勝手で訳の分からない事に必死こいてよぉ。まぁやっぱりこの俺が一番冷静でまともって訳だな」 ダイナモ、マリノ、ナナが派遣したレジスタンス、喧嘩していたハンター達、 他にはセイントサンクチュアリ軍や政府軍が向かった先々は復興が遅れている地域であり、 かつてリュミエールが救援活動をしていた地域と同様に過酷な環境や暴力的・弾圧的な政治がはびこっていた。 これらの地域にはイレギュラーハンター、ギガンティス島、セイントサンクチュアリ、政府軍等々から 日々大勢の兵士達が復興を支援したり悪人を討伐したりする為に派遣されていた。 この時点で残っている復興の遅れた地域に巣食う悪人は ロードキングダムが事件を起こす前は最も荒廃した地域でありイフリーテスの部隊に全滅させられた地域でもある 「修羅の世界」の住人より弱い者ばかりだった為派遣されるのは基本的に名もなき雑兵ばかりだったが ロードキングダムと戦った強豪達もしばしば出撃した。 「ギョヘ〜〜ッ!何故バレたあああ〜〜ッ!」 「もう潮時か…」 「畜生ォオ!!!」 病気や貧困に苦しむ人々が助け出される一方でヤクザ、マフィア、ギャング、テロリスト、 新興宗教、腐敗し切った政府、賊、ブラック企業、悪徳商人、チンピラ、暴走メカニロイド…などと言った様々なジャンルの敵が 各組織の兵士達によって時に倒され時に更正させられていった。 「待てコラーッ!!」 「ハンターなめんなオラァ!!」 「ロードキングダムとの戦いでは守って貰うばかりの俺達だったが、これからは違うぞ!」 「お前みたいな奴に…人の上に立つ資格など、無い!」 「ライフセイバーの新型ワクチン効き目すげーな」 「隊長〜こいつら全員ラリッてますぜ」 「うっわ!ここもひでーなー」 「こういう輩をずっと一人で相手してりゃそりゃー頭おかしくなるわ〜」 「こいつらは本当に悪なのか…?俺のやってる事は本当に正しいのか…?」 「どうすればいいのか…分からねぇよぉ…」 「こういう感謝の言葉があるから、やっていけるよな…」 それぞれの組織の兵士達は現地で様々な困難に出くわし、傷付き悩む事もあったが共に励まし合い、 時として他の組織と協力しながら各地の復興に努めた。 同時にこれらのミッションで得た痛みや悩みを含む経験で成長する者も少からずいたという… 宇宙では… ドルフエンパイアと全ての宇宙海賊が解体し、宇宙の中心領域は全てコズミックヴァンガードの管理下に収まった。 ドルフエンパイアと宇宙海賊の残党達は不当な拘束、虐待、処刑などはされなかったものの 特に危険な過激派の者は自由に行動させておくと危うい為、止むを得ず軟禁する事となった。 拘留施設ではプロパガンダの影響を色濃く受けた職員達が何度も収容者達を真剣に説得し、 全力で向き合い少しずつではあるが更正させていった。 「もう戻って来るなよ」 「お世話になりました」 収容者がまた一人釈放され、施設の職員に挨拶して去っていく。 「お勤めご苦労様でした!」 釈放された収容者の部下達が彼を暖かく向かい入れる。 こうした施設に収容されているのは元々凶暴・凶悪な者が多かったものの大抵は スコルピーやディクテイテスより大人しくまともだった為(逆に言えばそれだけスコルピーやディクテイテスが手の施しようが無かった)、 時間はかかったが一人、また一人と釈放されていった。 またドルフ星人に無理矢理従えさせられてきた元ドルフエンパイアの構成員達はコズミックヴァンガードの手厚い保護を受けるようになった為、 多勢に無勢と見たドルフ星人は下手な動きが出来なくなり、自分達の支配下に置いていた宇宙人達を解放した。 ドルフ星は環境破壊が著しく、それがドルフ星人が他の星を侵略して回った理由の一つだったが これに対してもコズミックヴァンガードは対策を講じた。 ドルフ星の周囲の無人惑星を開発してドルフ星人達に与えるのだ。 元々宇宙開発の技術が発達した宇宙の中心領域だったがメタルプラネットを 一瞬で開発したロードキングダムの科学技術が手に入った事によりその手段は一層容易になった。 元宇宙海賊達も元々はコズミックヴァンガードとドルフエンパイア間の争いに嫌気が刺したり、 飽くまで手段として宇宙海賊になった者が多かった為、両勢力間の争いが本当の意味で終息した事を知ると 大人しく降伏する者が相次いで出現した。 多くの者は自分の同胞の元に戻っていったという。 各星間の接触に関しても厳重な警戒体勢が敷かれ、この処置もドルフエンパイア並びに宇宙海賊の残党を大人しくするのに貢献した。 ディクテイテスとプランダラの死も各残党の士気を大幅に下げ、彼等をより大人しくさせた。 それぞれの残党とのわだかまりが大方落ち着いてきた頃、フラン星では、プロパガンダがウォーレスの隠居する小屋に訪れていた。 「まさか本当に、そして今度こそこんな時代が来るとはのう…」 ニュースと新聞を見ながらウォーレスが呟く。 「ええ、私自身と仲間達、守るべき皆の力で勝ち取った平和です」 プロパガンダが応える。 彼は付け加えるように言う。 「それと引き換えに犠牲者も出ましたが…」 「お前、ディクテイテスにプランダラ、それにロードキングダムの連中の事を悔んどるのか?」 ウォーレスの問掛けにプロパガンダが応える。 「彼等だけではありません。ドルフエンパイアと宇宙海賊の残党の中には事件が解決した後自害した者も何人かいました」 「……」 しばらく間を置いた後ウォーレスは再び口を開いた。 「それはそいつ等が選んだ道じゃ、気に病む事はない。…しかし奴等を犠牲と捉えるとは、今更ながら感心じゃのう。 ワシは敵を…ドルフ星人を倒す事ばかりにこだわっておった…いつか来る平和を夢見てひたすら彼等を殺し続けた… 結局、裏目に出て波紋を広げちまったがのう…」 ウォーレスの口調は悲しげだった。 それにプロパガンダが返して言う。 「しかしその波紋は悪い事のみをもたらしたものではないのでしょうか。 私もその流れで生まれて来たのですし、父上の取った行動の全ては無意味では無かったはずです」 「ありがとう、少し気が楽になったわい」 ウォーレスはプロパガンダの言葉に元気を貰ったようだった。 プロパガンダはさらに加えて言う。 「他にもこの戦いは新たなる出会いをもたらしてくれました。私は地球の方々との出会いに心から感謝しています」 「地球か…思えば本当に凄い惑星じゃったわい…ワシ等が手も足も出んかった侵略者が現れるわ、その侵略者を倒す戦士も現れるわ、 一つの星の中で宇宙大戦に勝るとも劣らない熾烈な戦いが起こっていたわ… 散々な目に逢ってしもうたがワシも地球の方々との 出会いに感謝しておるよ」 そして少し間を置いた後ウォーレスは思い出したようにプロパガンダに尋ねる。 「地球と言えば…彼はちゃんとやってくれとるかのう?最初に彼が現れた時はどうなるかと思ったのじゃが…」 「ええ、問題なくやっております」 プロパガンダは喜々として応える。 それにウォーレスも安堵と喜びの表情を浮かべながら返す。 「そうかそうか、それは良かった… ともあれ、ワシ等はこれまでの戦いによる痛みを忘れずこれから生まれて来る者達に伝えねばならん。 彼等にその痛みを実際に体験させるわけにはいかんからのう」 プロパガンダは応じる。 「心得ております。実際に戦い、傷付くのは我々で最後にしたいと心より願っています。 彼等の為にも、これまでの戦死者達の為にも、今を生きる者としての最大限の勤めをしていく事を固く誓いましょう」 二人には奢りや気の緩みは全く見られなかった。 一方メタルプラネットでは… 「っていう訳でだな…」 メタルパレスの講堂にてスコルピーがロードキングダムによって下僕として生み出された ミュータントと新型レプリアンに何かを教えていた。 ウォーレスの言っていたのはスコルピーの事だった。 彼は事件の後、 「色々考えたんだけどよ、やっぱり地球には俺の居場所なんてねぇ。 俺はフラン星で居場所を見い出したからそっちで新しい人生を始める事にするぜ。 まぁ会えなくなる訳じゃねぇからよ、その時は宜しく頼むぜ」 と言い残してフラン星に旅立った。 そしてコズミックヴァンガードに身を置く事にした後、メタルプラネットでミュータントと新型レプリアンの 精神的な指導する職務に当たる事となった。 ロードキングダムの感情操作が解除されたミュータントと新型レプリアンは元の性格や個性、生きる目的などが存在せず、 メカニロイド同然になってしまっていた。 しかし彼等が感情に目覚める可能性があると分かった今、彼等を教育・指導する事が決まった。 この職務はコズミックヴァンガードとセイントサンクチュアリの合同で遂行される事となり、スコルピーはこれを進んで引き受けた。 何故なら自分はセイントサンクチュアリ、コズミックヴァンガード、ロードキングダムのいずれにも関わる存在だから。 そしてロードキングダムは彼等を生み出した存在だから。 故にスコルピーはセイントサンクチュアリとコズミックヴァンガードの架け橋として、彼等の創造主側の者としてこの職務に努めた。 「…という訳でだ、こういう事はしねぇ方がいいぞ。損するばかりだからな!」 スコルピーはそれまでの自分やリュミエールのもを含む様々な問題のある性格や行為を反面教師にして ミュータントと新型レプリアンを指導する。 「(勝手に創っておいてそれっきりって訳にはいかねーからよ、一人前になるまでお前等の面倒は俺が見てやるぜ! 立派に育てよ、くれぐれも俺みてーになるんじゃねーぜ!)」 彼等に対して親心のような感情が目覚めたスコルピー。 セイントサンクチュアリとコズミックヴァンガードの協力も手伝って、 ミュータントと新型レプリアンが人間とレプリロイド並の感情や個性を持つようになるまで それほど時間は掛からなかった… 宇宙の辺境の復興作業もセイントサンクチュアリとコズミックヴァンガードが共同して行った。 それらの星々の住人達はロードキングダムの壊滅と長い間の宇宙の中心領域での各勢力の和解を 悟るとほっと胸を撫で下ろした。 時はさらに経ち、地球全土にイレギュラーハンター、ギガンティス島、セイントサンクチュアリの 目が届くようになり、人々の生活に不便が無くなり悪人達は下手な動きが出来なくなった頃の地球では… 「リュミエールやギガンティス島の皆も変わらず元気にやってて良かったね!」 「ハイ、本当に良かったです!」 アクセルがパレットに言い、彼女はそれに返す。 この日はイレギュラーハンターとギガンティス総督府とセイントサンクチュアリと政府の主要人物による会議があった。 会議の内容は地球全土に自分達の目が届くようになった事の報告と確認、そして今後の対応の仕方というものだった。 その会議がつい先程終わった。 その日の夜は流星群が見られると報道されており、空は快晴である。 人々はそれを見ようと様々な場所に集まった。アクセルとパレットもその中に入っていた。 二人が行ったのはロードキングダムの事件が起こる前に訪れた丘で二人だけの秘密の場所だった。 「リュミエールが落ちた跡の穴、そのまんまだね」 アクセルの言う通り、宇宙からリュミエールが落下してきた穴は依然として原型を留めていた。 そして二人はその穴の側で流星群が現れるまで語り合った。 「…それで『サイバー・クジャッカー』とかいうイレギュラーとかノワールの装置の中にいた奴等みたいな連中が 世界中で大暴れしちゃっててさ、しかもそれが相当ヤバい奴等ばっかりで、そりゃもう大変なんだって!」 「うわ〜、インターネットも便利になり過ぎると怖いですねぇ〜」 アクセルはインフィニティーノワールのメモリークラッシュを喰らった時に見た異世界の情報を話していた。 それらの世界、特にネット工学の発展した世界の話にパレットは驚く。 「でもね、」「?」 それまでそのネット工学の世界の脅威を語っていたアクセルが話を切り返し始める。」 「そっちの世界にもちゃんと戦ってて悪い奴を倒しまくってる人もいるんだよ、 この世界で言う僕達みたいにさ」 「ええーっ、どんな人ですか?」 パレットの問いにアクセルが応える。 「強いて言うなら、エックスみたいな感じかな?何か雰囲気似てた」 「エックスさんと!?それは頼もしいですねー」 またも感心するパレット。アクセルは続けて言う。 「その世界の未来っぽい電波工学が進んだ世界でも技術を悪用した悪党共がウジャウジャ出てきて 凄い事になってるんだけど、そこでも何かエックスっぽい人が戦ってたんだよ」 「すごーい!いつか会ってみたいです!」 絶望と恐怖の中に確かに存在した強い希望の光。 アクセルはそれらの世界の情報を見た時確かにそれを感じ取っていた。 だからそれらの世界は滅びずに済んでいる事も。 そしてそこで戦う戦士達もまた周囲に支えられている事も。 そうした情報をパレットと共有し、二人はその戦士達に尊敬や親近感のような感情を覚え、 また彼等に負けないよう歩む事を決意するのであった。 そんな時…空に流星群が現れた。 これは偶然なのか、それとも故人の魂が起こした奇跡なのか、 流星は赤い色をしており、最初の1つを筆頭に8つの流星が後に続いた。 「真っ赤ですね〜!…あれ、どうしたんですか、アクセル?」 「……」 無理も無い。 色といい数といいアクセルはその流星群からかつての仲間、レッドアラートを思い出さずにはいられなかったからだ。 「いや、ちょっと昔を思い出しちゃっただけだよ…」 少し間を置いた後、苦笑しながら答えるアクセル。 「え〜と、ところでアクセル、近いですよ…!?」 「いやちょっと、この間の続きをさ…」 気付くと両者の距離は縮まっていた。それも前回よりも。 両者とも胸の高鳴りを感じる中、その距離はさらに縮まっていき… 遂にアクセルの口が触れた。パレットの額に。 触れたのはほんの一瞬だけでアクセルはすぐに飛び退いた。 「ご、ゴメン、やっぱ無理!無理!無理!!」 顔を真っ赤にして言葉もしどろもどろになっているアクセル。 パレットもまた落ち着きを失っていた。 「わ、私も心の準備出来てなかったですよ!」 しばらくして落ち着いたらアクセルが先に沈黙を破った。 「流石にいきなりは無理だったけど、次回はもっと行ってみようか…な?」 「…はい、次はもっと行きましょう!」 パレットが先程の興奮の余韻を残しつつ応える。 「ほっぺまで行けるかなぁ…」「少しずつでいいですよ」 少しずつだが確実に互いに歩み寄ろうと誓う二人。 同時にアクセルは今は亡きレッドアラートの構成員に想いを馳せていた。 「(レッド、それから皆…最後の最後まで自分を出し尽すまでは僕はあんた達の所に行かないからさ… それまで、ちゃんと見ていてね…)」 というのもアクセルはメモリークラッシュを受けた時未来に起こりうる様々な可能性も見ていたのだった。 それらの内容は例えば、 英雄の名を欲しいままにした独裁者が偽物の正義を振りかざし、弱者を弾圧するかもしれない。 人間を不死化する技術で死ねない身体になった科学者が世の中すべてに復讐するかもしれない。 人間がレプリロイド同様の力を持ち、力を持った人間がその力を悪用するかもしれない。 誰かが極一部の人間やレプリロイドに途方も無い力を与え、力を与えられた者が暴挙に出るかもしれない。 ハンター達はやらなかったが創造主の目的の為に生み出された存在がその創造主側の都合で 一方的に全滅させられようとするかもしれない。 その生み出された存在も人間とレプリロイドに近い心を持つなら邪悪な心を持ち、過ちを起こすかもしれない。 …そしてその時自分がこの世にいる保証は無い。 しかしアクセルはそんな遥か先の未来よりも確実に来る明日を力一杯生きる事を誓った。 後世に自分達の意思を受け継ぐ者が現れる事を願いながら… 今日も地球が、美しく、力強く輝いている。 宇宙からの逆上陸者編・完
ELITE HUNTER ZERO