ろってぃーさんより小説「鼠の通り道」
… … …
「あ、起きたぞ」
目を開けると、目の前には何人かの子供達がいた。
男もいれば女もいたし、人間もいれば、レプリロイドもいた。
「…………ここ、どこ ? 」
「彼」がそう尋ねると、先頭に立っている細目の、人間の少年が答えた。
「見ての通り…ゴミ溜めの中さ」
なるほど、辺りを見回せば、腐臭を放つ生ゴミやレプリロイドのもげた片足、
メカニロイドのパーツなど、あらゆるゴミが辺りを埋め尽くしていた。
そして自分が、レプリロイド開発用のカプセルに入っていたことに気づいた。
「お前、なんて名前だ ? 」
細目の少年が尋ねる。
「名前………解らない…」
「そうか、まあ、そうだよな」
「“キツネ”、こいつ、仲間に入れるのか ? 」
細目の少年の後方にいた、レプリロイドの少年が尋ねた。
「そうだな、そうしようか」
「仲間… ? 何の ? 」
「彼」が尋ねると、“キツネ”と呼ばれた細目の少年は、苦笑を浮かべて説明を始めた。
「ここはゴミ溜だ。つまり、捨てられた物が来るところだ」
「…オイラも…捨てられた… ? 」
「その通り。そして俺達も同じ。捨てられた奴はみんな、協力して生きていくしかないのさ」
“キツネ”は「ついてこい」というと、仲間達と一緒に歩き出す。
「彼」はその言葉に従うことにした。
そこにいつまでもいてもしょうがないと思ったからだ。
そして到着したのは、がらくたを寄せ集めたような「住処」だった。
「ほら、これでその辺に寝るところ作れ。ついでに夜は寒いからこれ着てろ」
顔に大きな傷のあるレプリロイドの少年が、一抱えの藁、そしてつぎはぎだらけの服を渡す。
「今日は歓迎を兼ねて、俺たちがとってきた食い物を分けてやる。
明日からは自分で食い物とか金目の物とかを探すんだぞ。教えてやるからさ」
“キツネ”はそう言うと、パンの欠片を彼に手渡した。
他の子供達も、かじりかけリンゴや、乾いたパンなどを「彼」に渡した。
「“ホタル”、お前も何か持ってないか ? 」
“キツネ”は、近くに座っていた人間の少女に尋ねた。
その少女は、汚れた服を着ていたが、顔は綺麗に見える。
そして、両目を閉ざしていた。
少女は服のポケットの中から、小さな、ピンク色の何かを一粒取りだした。
「金平糖か。よし、ほらよ」
“キツネ”は「彼」に、その金平糖を渡した。
「彼」は礼を言うと、皆からもらった食べ物を一度に頬張った。
しかし“ホタル”と呼ばれたその少女のくれた金平糖はとても特別な物に見えて、
最後に残して、それだけで食べた。
その翌日。
“キツネ”は何人かの仲間を連れて、食べ物を探しに行くと言った。
「新入り、お前も来いよ。『指の使い方』教えてやる」
「指の…使い方 ? 」
「スリのやり方ってことだよ。俺なんて5歳の頃から『指』を使って生きてきたんだ」
「いけないことだっていうのは分かってるけど…」
と、“ホタル”が言う。
「他に、生きていく方法が無いもの…」
“ホタル”は相変わらず目を閉ざしたまま、少し哀しそうな顔をして、そう言った。
やがて、その“ホタル”の他に何人かの仲間を「住処」に残し、“キツネ”は出発した。
「ねえ、あの子、目が見えないの ? 」
「彼」は“キツネ”に尋ねた。
「ああ、病気らしい。決して治らない病気じゃないけど、あいつの家は貧乏で治療費なんて払えない。
とうとう口減らしのために、このスラムに置き去りにされたんだ」
“キツネ”は不満げに、そう言った。
「“キツネ”はな…」
と、傷顔の少年レプリロイドが「彼」に話しかけた。
「いつか医者になって、“ホタル”の目を治すんだってよ…」
「“ヤモリ”、余計なこと言うなって」
“キツネ”は少し頬を赤らめて言った。
やがて彼らは、少しは大きい街についた。
人々が道を行き交い、何人かは「彼」らの方を見て、軽蔑的な視線を投げかけてくる。
「よし、“ヤモリ”達は別の方に行け。新入り、最初はただ俺についてくればいい。いいな ? 」
そう言うと、“キツネ”は走り出した。
「彼」はその後を追いかける。
そして、“キツネ”は中年の男性の脇を、かすめるように走り抜けていった。
「おっと、すみません」
そう言って、“キツネ”はそのまま走っていく。
「彼」もそれに続いた。
“キツネ”はビルの隙間に走り込み、「彼」もそこに入る。
「どうだ ? 」と言って、“キツネ”は「彼」に黒革の財布を見せた。
先ほどの男の懐から抜き取ったのである。
見事な手並みだ。
「いいか、俺たちは生きるために、盗みやゴミあさりをしなきゃならねぇんだよ。
お前はまず俺がやるのを見て、盗みの技を盗め」
そう言うと“キツネ”は、 彼に盗みのコツを話し始めた。
財布や貴重品の入っているところや、気づかれないように盗み出す方法。
さらに盗んだ後に逃げる場所や、捕まったときの嘘泣きの仕方など…
その後「彼」は“キツネ”の後についてあちこちを周り、盗みやスリの技術を見て学んだ。
そして夕方頃に、残飯をかき集めてきた“ヤモリ”達と合流し、「住処」へと戻った。
「……おかえり…」
“ホタル”が、「住処」の前で出迎えた。
「今日は…どうだった ? 」
「ああ、割とうまくいった。さ、飯にしよう」
“キツネ”が言うと、他の孤児達が一斉に歓声を上げた。
彼らの食事は、1日1回だけ。
それでも自分たちは、同じような境遇の孤児達の中では豊かな方なのだと、“キツネ”は言った。
食料が配られる間、「彼」は“ホタル”の方をじっと見ていた。
食料も最初に“ホタル”が受け取り、他の孤児達も、何かと“ホタル”に気を遣っているようだ。
その理由は恐らく、目が見えないということだけではないだろう。
「ほら、新入り、お前の分だ」
“ヤモリ”が、「彼」に食べかけの魚や、野菜などを渡す。
しかし「彼」はしばらくの間、それを食べずに“ホタル”の方を見ていた。
「いらねーのか ? なら食っちまうぞ ? 」
“ヤモリ”に言われ、「彼」は慌てて食料を口の中へ運んだ。
………
その夜、“キツネ”は「彼」に語った。
自分たちにとって、名前とは何であるのかを。
孤児達は親の顔も、自分の名も知らずに、スラムの中に捨てられることが多い。
そう言う者達は、顔や特技で渾名を付けられ、その名前で呼ばれるのだ。
ずる賢くて細目だから“キツネ”、壁を登るのが上手いから“ヤモリ”という具合に。
「…じゃあ、あの子は ? 」
「“ホタル”のことか ? 」
“キツネ”は、やや離れた所で寝息を立てている“ホタル”の方をちらりと見る。
「あいつはな、みんなの光なんだ」
「光… ? 」
「ああ」
“ホタル”の目は、光を感じられない。
しかし“ホタル”の存在が、みんなに光を与えてくれるのだ。
だから彼女は“ホタル”なのだと、“キツネ”は語った。
「新入り、お前は今日街に出かけたとき、ちょろちょろとすばしっこかった。だからお前の名前は“ネズミ”でどうだ ? 」
「“ネズミ”……」
「ああ、“ネズミ”だ」
そう言って、“キツネ”は自分の寝床に横になった。
「明日も街へ行って、盗みを教えてやる。気を抜くなよ、
5日前にも、仲間が果物を盗むのを失敗して、棒で殴り殺されたんだからな」
……それから2週間……
「財布が無いぞ ! 」
「あのガキか ! 待ちやがれ、ぶっ殺してやる ! 」
拳を振り上げて、数人の男が追ってくる。
しかし、“ネズミ”は風の如く身を翻し、路地裏へと逃げ込んでいく。
そして数秒後には、追っ手を完全に引き離していた。
盗んだ財布の中身を確認し、“ネズミ”は満足げな笑みを浮かべた。
そして「住処」に戻ると、瓦礫の上に“ホタル”が座っているのが見えた。
「…おかえり」
“ホタル”は“ネズミ”の方に顔を向け、言った。
「見えなくても、誰だか判るのか ? 」
「足音がすれば、誰かが帰ってきたって判るし、声を聞けば区別がつく…」
“ホタル”は、口元にかすかに笑みを浮かべている。
いつ見ても、不思議な少女だった。
「他の連中は、まだ帰ってきてないみたいだな…」
「うん…」
その時、“ホタル”は少し俯いた。
「……ねえ、私って、みんなの役に立ってるのかな ? 」
「え ? 」
唐突なその言葉に、“ネズミ”は僅かに目を見開いた。
「みんな、私に気を遣ってくれるけど…私はみんなのために、何もしてあげられない…。
目が見えないから食べ物を探しにも行けないし…」
「そんなこと言っちゃ駄目だ ! 」
“ネズミ”は叫んだ。
「“ホタル”が一生懸命生きているから、他のみんなも…頑張ろうって気持ちになるんじゃないか ! 」
「………」
“ホタル”はしばらく俯いていたが、やがて懐から、一つの小瓶を取り出した。
中に入っているのは、2粒の金平糖だった。
「…何個残ってる ? 」
「…2個」
ラットグがそう答えると、“ホタル”は瓶の中から、白い金平糖を取り出し、“ネズミ”に差し出した。
「1つ、あげる…」
そう言って、“ホタル”はもう1つの、緑色の金平糖を自分の口に入れた。
“ネズミ”は少し躊躇ったが、やがて差し出された金平糖を受け取ると、口に入れた。
シンプルな甘みが、口の中に広がる。
その時…
「おーい、“ネズミ”、“ホタル”」
“キツネ”や“ヤモリ”達が戻ってきた。
「あ、おかえりー」
「…おかえり」
「俺たちの方はあんまり収穫無かったな…“ネズミ”、お前はどうだった ? 」
“ヤモリ”の問いかけに、“ネズミ”は盗んできた財布の中身を見せた。
「おっ、やるじゃん ! 」
「お前やっぱり盗みの才能有るよ ! 」
そして、いつものように1日1回の食事が始まる。
“ホタル”から金平糖をもらったことも、彼女の悩みを聞いたことも、“ネズミ”は口にしなかった。
それから何ヶ月か経った。
仲間達は、食中毒や事故で何人かが死に、さらに街へ行ったきり行方不明になる者もいた。
しかしそれでも、彼らの人数は減らなかった。
誰かが死んでも、またすぐに別の孤児が仲間に入るからである。
そんな中、“ネズミ”の指使いは日に日に上達し、今日も“ネズミ”は、
“ヤモリ”達と一緒に、街へ出かけた。
「さぁーて、カモはいるかなーっと」
「おっ、あそこにいるあのおっさんとかは…」
その時だった。
街の一角で、爆発が起きた。
そして、銃声がそれに続く。
「な、なんだ ! ? 」
彼らが驚いたとき、爆炎の中から武装したレプリロイドの集団が現れた。
そして、彼らのアーマーには、「Σ」のマークが刻まれている。
「シグマ軍の残党だ ! 」
「逃げろ、逃げるんだー ! 」
街はたちまち大混乱に陥る。
街の人々は、次から次へと、シグマ軍の放つ機関銃により、体を赤く染めていく。
「“キツネ”達に知らせるんだ ! 」
“ヤモリ”が叫び、彼らは「住処」の方に逃げ出した。
その時、仲間2人が悲鳴を上げて倒れた。
「“トンボ” ! “モグラ” ! 」
その二人は人間だった。
背中に当たった短機関銃の弾により開いた穴から、大量の血が噴き出す。
“ネズミ”と“ヤモリ”は、その2人の体を持ち上げ、何とか担ぐと、
人間ならば心臓がはじけるであろう勢いで住処へと駆けていった。
「 ! どうした、何があった ! ? 」
住処で待っていた“キツネ”は、血相を変えて“ネズミ”達の元に駆け寄ってきた。
“ホタル”も、何か大変なことが起きたと言うことを雰囲気で悟ったようだ。
「シグマだ ! シグマ軍が街を攻撃してきたんだ ! もしかしたら、ここにも来るかも知れない ! 」
“ヤモリ”が言う。
「なんだって ! ? …“トンボ”、“モグラ” ! しっかりしろ ! 」
“キツネ”は“ネズミ”と“ヤモリ”に背負われている2人に向かって叫ぶ。
しかし、彼らが応えることは無かった。
「………もう死んでる」
“ネズミ”は苦々しげに呟く。
それから数秒の沈黙があった。
しかし、“キツネ”ははっとしたように言った。
「“ネズミ”、“ヤモリ”、お前達は“ホタル”を連れて先に逃げろ ! 」
「あんたはどうするんだ ? 」
“ネズミ”が尋ねる。
「俺は仮にもここの最年長者で親玉だ。責任ってもんがある。他の奴らが戻ってきたら、最後に逃げる」
「何言ってるんだよ、お前人間だろ ! そういうのは俺たちレプリロイドの役目だ ! 」
“ヤモリ”が叫ぶが、“キツネ”首を横に振った。
「お前達には、“ホタル”を守って欲しいんだ !
人間の俺じゃ、目の見えない“ホタル”を連れて逃げ切れるかわからない ! 」
そう言うと、“キツネ”は“ネズミ”にビー玉を、“ヤモリ”にはサイコロを渡した。
それは、いつも“キツネ”が「自分の宝物」だと言って、誰にも触らせない品だった。
「ほら、早く行け ! 縁があったらまた会おうぜ ! 」
“ネズミ”と“ヤモリ”は決心を固めた。
“ネズミ”が“ホタル”をおぶり、“ヤモリ”はいざという時に自分の体を盾として
“ホタル”を守るため、後ろから追いかけることにした。
「“キツネ”、死ぬなよっ ! 」
「お前等こそな ! 」
「“キツネ”、今まで本当にありがとうな ! 」
“ネズミ”がそう言うと、“キツネ”は苦笑を浮かべ、「いいからさっさと行け」と言う。
そして、“キツネ”1人を住処に残し、3人は逃げ出した。
廃墟となった建物の間をすり抜け、地面のでっぱりなどをかわしながら、ひたすら走った。
しかし、シグマ軍は近づいて来た。
「…銃の音が聞こえる…」
目が見えない分、人一倍聴覚の鋭い“ホタル”は、恐怖のあまり目から涙をこぼした。
「………近いな…。しょうがねぇ、“ネズミ”先に逃げろ」
“ヤモリ”が“ネズミ”の後ろから言う。
「俺はちょっくら、あいつらを足止めする」
“ヤモリ”は足下の石をいくつか拾うと、建物の壁を登り始めた。
「駄目よ ! 殺される ! 」
「そうだよ、無茶だ ! 」
“ホタル”も“ネズミ”も、必死で止めたが、“ヤモリ”は聞かなかった。
「俺はイレギュラーハンターになりたいと思ってた。
俺の親を殺したイレギュラー共を、1人残らず地獄に落としてやろうってな…」
“ヤモリ”は、“キツネ”からもらったサイコロを、“ネズミ”に投げ渡した。
「“ネズミ”、お前の名前、考えたぞ」
「名前… ? 」
「ああ、ちゃんとした名前さ。ネズミだからラットで、
その後に適当に「グ」をつけて、ラットグでどうだ ? 」
「ラットグ…」
「良かったら、これからはそう名乗ってくれよ」
そう言って、“ヤモリ”は更に上によじ登っていく。
“ネズミ”…ラットグは、目から1粒の涙を流すと、“ホタル”を背負ってその場から逃れた。
………
どれくらい走っただろうか。
彼らは「住処」や街から離れた荒れ地で、休息を取った。
「“ホタル”、大丈夫か ? 」
「うん…」
その時、「住処」の方で爆炎が上がった。
シグマ軍がそこまで到達したのだろう。
「…………」
ラットグはやりきれない思いで、それを眺めていた。
と、その瞬間。
飛行ユニットを装備したレプリロイド3体が飛来した。
「まずい、逃げ…ッ ! 」
刹那、発砲音。
“ホタル”の悲鳴と共に、彼女の胸に銃弾がめり込んだ。
「“ホタル”ーッ ! ! 」
ラットグは叫ぶと同時に、“ホタル”の体を抱き起こした。
「ヒャッホーウ、命中ーッ ! 」
空中で銃を構えたレプリロイドが、狂気じみた声を上げる。
ラットグは“ホタル”の体を抱えて、ただひたすら逃げた。
反撃の手段など無いのだから。
ラットグの足は速かった。
飛行レプリロイド達の銃弾をかわし、ひたすら走り続けた。
やがて飛行レプリロイド達がエネルギー切れで追撃を諦め、帰って行った後も、
ラットグは“ホタル”を抱えて走った。
そして、一本の巨木の下にたどり着いた。
「“ホタル”、大丈夫か ! ? 」
「“ネズミ”……じゃないや、ラットグ…」
“ホタル”は苦痛に顔を歪めつつ、絞り出すように喋る。
「頑張れよ、何処かから医者を呼んできてやるから…」
そうは言ったが、それが無理だということはラットグが一番よく知っていた。
金が無ければ、医者に診てもらうこともできないのだ。
(くそっ、命は金じゃ買えないとか言うけど、結局金がなけりゃ命は助からないのか…… ! ? )
ラットグは歯ぎしりした。
「ううん…もういいの……」
「何言ってるんだよ ! 頑張ってくれよ ! 」
「……ラットグ、お願いがあるの…」
“ホタル”は、見えない目をうっすらと開けた。
「ラットグは……ラットグは、生きて… ! ! 」
かすれた声で、“ホタル”は叫ぶ。
「いつかきっと……戦争が終わって…お金持ちも貧乏も無くなって、
みんなが幸せに暮らせるようになるって…そう信じてた。けどね、そうしたら世界中の人たちは……
私たちみたいな子供達がいたことを………無かったことにして忘れてしまう…。
だから、ラットグは生きて…私たちがいたことを伝えて…… ! ! 」
「生きるさ ! 絶対に生き延びてみせる ! だから…だから“ホタル”も… ! 」
ラットグは叫んだ。
「…ごめんね、ラットグ………あと………ありがとう………」
“ホタル”は再び、目を閉ざした。
同時に、手足からも力が無くなった。
……もう二度と、彼女は目覚めない……
1人の少女の亡骸を抱き、一匹の鼠が泣いた。
泣きながら、鼠は呟いた。
「憎い」…と。
“ホタル”を殺したイレギュラーも、自分たちを捨てた親も憎かった。
しかし、一番憎かったのは………
「貧困」
その鼠は決意した。
ーー生き延びてやるーー
ーーどんなに薄汚れていても、どんなに卑怯と蔑まれてもいいーー
ーー絶対に生き延びる ! ーー
ーーそして…いつか… ーー
………
シグマ軍残党の暴動は、レプリフォース大戦という悲劇の予兆だった。
世界は混乱し、イレギュラーは増え続けた。
「……やれやれ、しくじったなぁ…」
ラットグは脇腹の傷をおさえながら、廃墟の中を歩いていた。
レプリフォースの基地に盗みに入って見つかり、逃げる時に銃剣で斬りつけられたのである。
「腹減った……どこかに食い物でも落ちてないか………」
その時、瓦礫の中に日本刀を携えた男が座っているのを、ラットグは見た。
ラットグは瓦礫に身を隠して、その男に近づいた。
刀を奪おうと思ったのだ。
素早く飛び出して刀を奪うか、それとも話しかけて、油断させた所で奪うか…
その男はおそらく、ただ者ではない。
ラットグの勘がそう言っている。
数秒思考した後、ラットグは後者を選んだ。
「なあ、そこのあんた…」
ラットグが言うと、その男は振り向いた。
その瞬間、ラットグは自分の選択が正しかったことを悟った。
その男がラットグとの間合いを計っているのを、肌で感じたのだ。
もし不用意に飛び出そうものなら、一瞬で真っ二つにされていただろう。
「エネルギー持ってない ? オイラ腹減ってさあ…」
この出会いが、彼らの運命を急変させる。
闇の中に捨てられた鼠に光を与えたのは
誰かを守ることのできる力を与えたのは
…闇に生きる、“武神”だった…
ELITE HUNTER ZERO