零夢さんより小説「リル&ライクな日々」



「リル〜。起きなさ〜〜い」
毎朝のごとくにとあるレプリロイドの家庭に響く美麗な声。それに呼応するかのように、少女は目覚める。

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い」

だら〜〜〜っとした声がいつものように。
茶色がかった黒髪をさらりと整え、ベッドから起き上がるは、少女レプリロイド、リル。

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜、ガッコめんどい」
「よくそんなにいちいち伸ばせるわねぇ」
リルの母親ーーーアイリスが、薄く儚い唇を尖らせる。
しかしすぐ、思い直して我が娘をベッドから追い出し、朝食へと急がせる。

「おはよ〜パパ」
「おはよ。またアイリスを怒らせたな」
美麗な金髪をたなびかせながら、父親はトーストを差し出す。
「いたらきま〜〜〜〜〜ふ」
「食いながらしゃべんじゃねえ」

「いってきま〜〜〜〜す」
かわいいと評判の制服を着込み、元気に高校へと駆け出すリル。
「おじさまの所に寄りたいなあ・・・朝遅いから仕方ないか・・・」
ブツブツ言ってるため、転びそうになったが、持ち直してまた駆け出すリル・・・

レプリロイドと人間の共存する世界ーー
そこのとある空間に位置する、レプリロイド専門の学園(但し、わずかに人間も通う)。
鐘の音の鳴り響く中、遅刻ギリギリで教室に飛び込むリル。
「リルちゃんおそ〜い」
「まあまあそういわずに」
「アンタのお兄ちゃんなんて、とっくの昔についてるのに」
「まあまあそういわずに」
クラスメイトに言われながらも、明るく席につくリル。しかし、イスに座ると同時に、斜め後の兄に視線を送る。
兄ーーーライクは、妹に睨まれ、すこし緊張したような驚いたような表情を見せた。
「ちえ、ライクのやつ」


「今日からしばらくの授業のため、特別講師にお越しいただいた」
「レプリフォース空軍第一部隊長、フラッシュだ」
「う・うおおおおお・・・!」
「か・・・カッコいい〜〜〜〜〜!!!」
スタイルがよく、美麗で力強い女騎士・・そんな印象の彼女は、すぐに学校の生徒たちの人気者になった。
リルの友達も全員、彼女のファンとなる。

「ねえ、来て来て!」
リルの友達連中に引っ張られて、フラッシュのところへ連れて行かれるリル&ライク。
「ちょっとちょっとぉ、なによお」
やや怒り気味のリル。
「引っ張らないでよぉ・・・」
迷惑そうなライク。

「ほほう、カーネル司令官の甥と姪か。しかも、あのゼロの子息とはな」

リルの友達は、リル&ライクを連れて行くことで感心を得ようとしていたのだった。リルは愛想笑いを浮かべるものの、ライクは困り顔のままである。
そんなライクに向けて、フラッシュは怪訝そうな表情を向けた後、無表情に言った。
「ふぅむ・・・貴様」
「え?」
「男の割りに気が弱そうだな。次の実技の授業、私がじきじきに稽古をつけてやろう」
 
 高校生活が始まって2週間目・・・はじめての実技の授業。
戦闘レプリロイドによる一対一の戦いを行うことになっている今回の授業では、羨望の声と黄色い声援が入り混じった。

「きゃ〜、フラッシュ先生の美しく舞うお姿が見られるわ〜〜〜!」
「フラッシュ先生メッチャ綺麗だぜ!」
「くっそー、ライクのやついいなあ〜」
「フラッシュ先生の肌に触れる機会を得るなんて・・・ぬうううううう!!」
男子女子共に、それぞれの感想を口々にする。
リルは友達に聞かれる。
「ねえ、大丈夫なのアンタのお兄ちゃん」
「・・・さあてね」
目を細くしてライクの背を見つめるリル。そんなリルを、後の男たちがややいやらしく見つめている。
「かわいいな〜リルちゃん。フラッシュ先生もいいがやっぱりリルちゃんだな〜」
そして、もう一人。過酷な戦いに挑もうというライクを見つめる美少女がいた。
「ライクくん・・・・」
シエル。それがこの少女の名前である。非戦闘員だが、戦闘用コンピュータプログラムの制作に高い能力を有する。
「今日も渡せなかった・・・・私の作ったサイバーエルフ。せめてさっき渡せておけば・・・」
チップを握り締めるシエル。

「では授業を始める。まずは私とライクの実技を見てもらう」
「よろしくお願いします」
限りなく普通な表情のライク。先のおどおどとした部分も消えうせている。

「行くぞ」
「はい」
クラスメイトの見守る中、戦いが始まる・・

(・・・・戦いが始まると変わるタイプか・・・)
1ヶ月前・・入学式にて。

「シエル、シエル」
「何?パッシィ」

シエルの頭の中に話し掛けてきたのは彼女の制作したサイバーエルフ、パッシィ。
シエルの頭の中に直接電気信号として入り込むことが出来るパッシィは、普段からそこにいるのだ。シエルも、頭の中でパッシィに
「ライクくんと同じ高校に進学できたからって、安心しちゃダメだからね。いままで、話をしたことさえろくにないじゃない」
「う・・・そんなこと無いわよ、一回や二回なら」
「それだって大した話じゃないでしょ。『日直君でしょ?』『それ拾って』なんて」
「ううう・・・」

「どうしたの?シエルさん」
「うえっ!?」
不意に想い人に話し掛けられた。シエルは飛び上がって跳ね返って、イスごと転んでしまう。
「わわっ、大丈夫!?」
「ああ〜なにやってんのよライクったら。女の子一人転ばせて」
「僕じゃないよ!」
ライクの隣の美少女ーー双子の妹リルがふざける。
その場はそこで収まった。

シエルの部屋・・彼女は立体映像ーーとしてその場にいる、サイバーエルフと話をする。投影機には彼女専用のコンピュータが、光回線でつながっている。
「あ〜〜〜〜〜〜あああああ、ライクくんに変な子だって思われてるよお私ぃ・・・・」
「そうね」
「そこは否定してよ」
「やーよ」
「あーん」
「おいパッシィ、そんなにシエルさんをいじめんなよ」
子ウシ型のサイバーエルフ、ガンバッファがそう言った。
「毒舌だなあ君は」と、小さなナイト型サイバーエルフ、ケーナイト。
「なによどいつもこいつもシエルの味方して」
「ま、まあまあケンカはやめて」と、シエルが仲裁に入る。
「ふう、でも・・・もっと強いサイバーエルフを作れれば、ハンターになろうとしてるライクくんを助けられると思うんだけどなあ」
「まあ、がんばんなよ。俺も、エネルゲン水晶でもっとパワーアップしてやるからさ」ガンバッファが飛び跳ねる。
「うん、ありがとう」

サイバーエルフは、一度その能力を使うと死んでしまうのが普通だった。
しかし、シエルは、その能力を抑える事によって、強靭で死ぬことのないプログラムを造り上げている。
そして、その能力は一定量のエネルゲン水晶によって完全となる。それまでは、能力を持たないも同然なのだ。

「さて・・・・・今日はそろそろ寝ようかな」コンピュータの電源を落とすシエル。パッシィがニヤリと笑う。
「ふふふ、また夢の中にお邪魔してシエルとライク君のラブラブシーンを見せてもーらおっと」
「ぎゃああああっ!み、見てたのおお!?」

小さな明かりが消え、あたりは夜の闇に消えた。




  ELITE HUNTER ZERO