零夢さんより小説「ロックマンX8・零夢版」
ある日突然、軌道エレベーター「ヤコブ」の管理者ルミネが行方不明になる事件が起きた。
同時に、全世界に渡り「新世代レプリロイド」の侵略・占拠が始まった。
それに対し、ハンター達はすぐさまS級ハンターやギガンティス島の協力者らを向かわせた。
「僕らレプリロイドは、もう滅ぶべきなんだ」
「勝手に、滅べっ!」
「っ!?」
ブラックゼロの一撃を受け、パンデモニウムは爆散した。
コケコッカーはホーネックに、イエティンガーはヴァジュリーラに、アントニオンはスパイダーによって、倒され……
「平和な世界を乱す力に、正義なんて無い!」
新アルティメットアーマー装着のエックスのフルチャージバスターがドクラーゲンを貫いた。
PIECE-1 「戦え!三人娘!!」
「……新世代レプリロイド、全然相手になってない」
エイリアがハンターベースで、モニターを見てぼやいた。
「はい、ヘヴンズロイドとかこれまでの戦いで、みなさんすっご〜〜〜〜く強くなっちゃってますからね」
とパレット。
「私たち、出番なさそうですね」レイヤーが言った。
「それじゃあ、面白くないじゃない!」
どん、とテーブルを叩き、エイリアが叫んだ。
「「え?」」
驚いた二人を見向きもせず、エイリアはコンピュータのキーボードを叩きまくる。
「戦闘武装プログラム、起動よ!」
「「ええ〜〜〜〜〜〜〜っ!!??」」
そうして、オペレーターの三人娘は、強力な武装を身に付け、戦闘に向かったのであった……。
「来たわよ! 敵の要塞トロイアベース!」
「テンション高いですエイリアさ〜ん……」
「しかし……私たち、本当に戦えるのでしょうか?」
「何言ってるのよレイヤー! これまでの戦いで武器や装備も進化して、私達のようないわば素人でも十分戦えるようになったんだから!」
自信満々のエイリアにやや食われる二人。苦笑いしながらも、少しずつやる気を出してきていた。
「! 敵接近!」
エイリアが叫んだ。見ると、上空に数体のマメQが飛んでいる。
「エイリアバスター!」
「パレットバレット!」
二人の連射攻撃で、次々撃ち落される豆Q。
「お二人とも、お見事です」
「次はレイヤー、あなたよ!」
「えっ、しかし、私は武器が剣ですから・・・・」
「大丈夫よ! あなたのアーマーには、この事件でのゼロの戦闘データが入ってるんだから! ゼロの技もいくつか使用可能よ!」
「ええっ!? ぜ、ゼロさんの・・・」
頬を赤く染めたレイヤーの二段ジャンプが空を切り、次にやってきた豆Qを切り裂いた。
「すごいです!」
感嘆の声を上げるパレット。しかし、突如上空から、妖しげな声が聞こえてきた。
「あなた達は、なぜこの場に立つ? 汚らわしい旧世代のレプリロイド達よ」
「誰!?」
彼女らの頭上には、つまり天井の上には、巨大な通路があったのである。そこに佇むは、オプティック・サンフラワード。
「あなた! イレギュラー認定を受けてるわ! すぐに出頭なさい!」天井を打ち抜き、エイリアらが部屋に入る。
「イレギュラー? 正当ではないが有効なコードだ……君らには、理解できないだろうけどね」
その瞬間、光の柱が彼女らを頭上から襲った。
「うっ!」
「眩しい……!」
「これは!」
当たれば身を焼き尽く強烈な光。何とか寸前で交わしたエイリアたちだが、パレットが拘束弾に掴まった。
「きゃっ!うごけません!」
「はあっ!」
レイヤーがダッシュした。姿が消え、その次の瞬間にはパレットの元へ辿り着いて、拘束弾を切り裂いた。
「甘い!」
サンフラワードがレイヤーの真後ろに、突然現われた。
「あぶな……」
パレットがそう叫んだ時、サンフラワードは電流に身を包まれた。
「ぐっ!?」
雷光閃・・・・・・この技は、姿を消すダッシュをした後、その軌跡に電流波を出現させる必殺技である。
「はああっ!」
「いくわよ!」
レイヤーの連斬撃と、エイリアのバスター連射による挟み撃ち。サンフラワードの細い肉体に、次々と傷が出来る。
「うがあああ・・・・・・!」
サンフラワードが、ばったりと倒れた。
「ふう、まあまあの敵だったわね」
エイリアが自信たっぷりに笑った。
「さっきはありがとうレイヤー、助かりました」
レイヤーに向かって微笑むパレット。
「い、いえ・・・仲間ですから」
微笑んで照れるレイヤーだった。
その頭上に、再び光の柱が落ちてきた。
「っ!?!?」
「きゃあああっ!」
「な・・・!!!!」
エイリア達は光をまともに浴び、倒れ伏した。
「残念でしたね、それは私のコピーでして」
「い、いつの間に・・・・」
「気がつきませんでしたか?エイリアさんにレイヤーさんとやらが私に攻撃を数度喰らわせたあたりで、私の体は光り、半透明になったはずです」
「・・・・!」
「その間、私に攻撃は効きまっせん! その間にダミーを作ったわけですよ」
「だ、ダミー!?」
「そんな、まさか! 目は一度も離していないのに!」
「さあ、壊れる時がやってきましたね。さあ!」
サンフラワードは部屋の所々にワープした。めまぐるしく移動し、どこからくるのかわからない。
「ま、まずいわ・・・・・」
「くっ」
パレットが、倒れたまま、静かに銃の引き金を引いた。
「ヌッ?」
部屋の丁度中心のやや上方が、急に爆発した。
「なっ!・・・ぐああああ!」
「どうですか? ブラストランチャーの威力は!」
パレットの使ったブラストランチャーは、巨大な爆風を生み出す。それを部屋の中心で爆発させ、サンフラワードがどこにいても巻き込まれるようにしたのである。
しかも、伏せている三人には、ほぼ影響が無いように爆破場所を計算している。
「すごいわ、やったわね!」エイリアが親指を立てた。
「さあ、サブタンクで回復です」
サンフラワードが倒れている間に、三人は体力を回復した。
「くっ、お、己・・・・」
サンフラワードがフラフラと立ち上がる。
「遅いっ!」
エイリアの放った特殊武器「ドリフトダイヤモンド」が、サンフラワードの脚部に命中、足元の地面ごと凍結させた。
「うおっ!?」
「今です! ダブルアタック!」
「はいっ!」
レイヤーとパレットの激しい猛攻撃。動けなくなったサンフラワードに対し、剣撃と連射の波状攻撃。苦しみながらもがくサンフラワード。
「く、がきぃゃああ・・・・・・!!!!!」
「留めよ! フルチャージ・バスター――――ッ!!!!!
「ぐあああああ・・・・・・・っま、まだ、やられは・・・」
サンフラワードが爆発し、木っ端微塵になった。こうして、オペレーター三人娘の活躍が、ハンターベースのデータに記録されたのだった。
PIESE-2「ヤコブ突入、謎のシグマ」
エイリア達が勝手なことしてシグナスに怒られてから数日の間に、ゼロによってカマキールが、アクセルによってトリロビッチが、軽く倒された。
他にもいくつかの場所が占領されたものの、サラーやマッシモ、マリノやダイナモ、超武装したマーティなどの奮戦によって、それらの敵は全て崩壊した。
そして、ついに、全ての元凶がシグマであることがわかったハンターベースは、ヤコブに突入し月へ行き、シグマを倒そうとしていたのであった。
戦地に赴くのは、三人。ゼロ、エックス、アクセルである。それぞれバラバラになって、3つある巨大エレベーターに乗り込んだ。
「ザコが出てくんな!」
ゼロのバスターによって、上から飛んできたザコメカニロイドらは一瞬で灰燼に帰す。横から襲ってきた警備兵の新世代レプリロイドも、一蹴された。
「このまま、楽に行けそうだな・・・・・お前らがいなけりゃ」
ゼロがゆっくりと振り向いたその先には、アイリスとリルとライクがいた。
「なんでついてきてんだよ、しかもいつのまに・・・」
呆れ顔のゼロ。アイリスは、いたずらっ子のように赤い舌を出した。
「ごっめ〜ん、この子達が勝手にあなたについて行っちゃって、とめようとしたらいつの間にかここに・・・」
「バカヤロ」
「えへへ・・・」
三人は、アクセルのステルスモードを参考に作られた、完全に気配と姿を消し去る特殊装置を使っていたのだった(作ったのはブラックゼロ。リルちゃんに頼まれた)。
「だってぇ、家族一緒が良いんだもん」とリル。
「…・・・って、ママが」と、ライク。
「やっぱお前のせいじゃねえか!」
「きゃああっ!ごめんなさ〜〜〜い!!」
その頃、エックスはシグマと相対していた。
「シグマ!まさかお前がここにいるなんて・・・」
「ふふふ・・・・死ねエックス!」
シグマの胸から怪光が放たれ、エックスに向かう。
「やられるか・・・スクイーズ・ボム!」
巨大なブラックホール上のエネルギー体が、怪光を吸収した。
「ぬうっ」
「ノヴァ・ストライクッ!!!」
「ごあ・・・・はああああっ!」
強烈なエネルギーを纏ったエックスの体当たり、ノヴァ・ストライク。すっかりおなじみのこの必殺技を、シグマは喰らい、粉々に砕け散った。
「ちがう・・・弱すぎる!」
エックスは、その違いに気付いていた。そして、その確信は現実だった。エックスが進んだ先には、無数のシグマが存在していたからである。
「これは・・・なんだ? ドップラーがかつて作っていた予備のボディか?(X3の最終ステージより)」
「くがあああああ・・・・」
唸り声を上げて、シグマらが襲い掛かる。右腕から光の剣を生み出すもの、先ほどと同じ怪光を撃ち出す者、バリアを張るもの。
「スクイーズボム!」
まず、エックスは最初と同じように、怪光を吸収した。
「シャドウランナー!」
そして、向かってくる敵をかわしながら敵軍の中に入り込み、周囲に黒い矢を放つシャドウランナーを発動した。
「ぐぉおお・・・が」
「ぎあああ・・・」
次々と倒れていくシグマ達。それらが驚き戸惑ってる間にエックスはチャージをし、さらに強力なシャドウランナーを打ち放った。
「ぐあああ・・・!!!!」
「ぎああええ!!」
「ごあああ!」
あっけなく倒れていく謎のシグマ達。エックスの脳裏には、不安しかなかった。
「一体、何が・・・・」
「ふうん、お久し振りだね・・・・」
「アクセル・・・哀れなプロトタイプよ」
「プロト・・・タイプ?」
不思議そうな顔をしたアクセルに向かって、シグマは笑いかける。
「そう。お前は我ら新世代レプリロイドのプロトタイプだったのだよ。その事を知れてよかっただろう、死ね!」
そう言ってシグマは、巨大なエネルギーの固まりを放った。刃のような形をした、部屋の壁と同じほどの長さをもつエネルギーである。
「っ!! ステルスモード!」
「ぬっ!」
アクセルはそれを、姿を消し去ることでかわした。そして、すぐにシグマの真後ろに跳び、銃を構える。
「はげ、あた、まっ!!!」
ステルスモードをとき、シグマの光る頭に、痛烈な一撃を浴びせるアクセル。
「ぐぉあっ!」
「今だ!斬脚!!」
超スピードの蹴りによって、シグマの背中に切り傷がつく。
「ぐうう・・・はああっ!」
シグマが、周囲に衝撃を発した。アクセルは後ろへ吹き飛び、壁にぶつかった。
「いってええ・・・このっ!」
アクセルはすぐに立ち上がり、前にダッシュ。振り返ったシグマに向かって、プラズマガンを炸裂させた。
「ふんっ!」
「っ!」
プラズマガンの電撃は、バリアによって拡散し、アクセルのところへ逆流した。
「うううう・・・・!!!」
「焼かれよ!」
シグマの額のクリスタルから、一閃の光が。それは床を走り、その場所を比の国へと変える。
「あ・・・・あああああっ!!!!」
「燃えよ!消え去れ!死ね!!!」
シグマの強烈なパンチがアクセルの腹を打つ。さらに首に、恐るべきキックが炸裂した。
「・・・・・・っ!!!」
呼吸が出来ない。口から言葉が出ない。苦しく痛いこの一撃に、アクセルは後ろに向けて倒れた。床はまだ火の海であり、体がさらに焼け焦げる。
「フ フ フ」
シグマの不気味な笑い声に、アクセルは憤りを覚えた。そして、一撃。ダークアロー!
「ぬっ?」
ダークアローはシグマの前面に張られたバリアーを飛び越し、後ろからシグマの後頭部を狙ったのだった。
「うぐっ!」
「喰らえ・・・・一気に!」
アクセルは一気に立ち上がり、バウンドブラスター、アイスガトリング、ブラストランチャー、スパイラルマグナム、フレイムバーナー、レイガンを乱射した。
この6つの銃をどのように連射しているのか、強力な攻撃でバリアーを破壊(クラッキング)され、
撃たれっ放しとなったシグマには見ることも感じることもできなかった。
「エンシェンタス・・・あんたが手が6本もあって、助かったよ!!」
そう、アクセルはエンシェンタスに返信して、6本の腕でそれぞれの武器を持っていたのであった!
「ぐふ、ふあああ!があおお、がおああお!っりあいいあいああ・・・・・・!!!!!」
「とどめはさっき効かなかった、プラズマガンだ!」
「がうああああ・・・・・・・・・・・!!!」
シグマが倒れた。体から火を噴き煙を吐き、熱闘を流して。体は文字通り崩れ、ガラクタの山のようにーーー
「嬉しいか?」
「?」
部屋の入り口に、いつの間にか、一人の男が立っている。
「シグマを倒せて、嬉しいか?」
「誰?」
「ならばその嬉しさ、俺が消し去ってやろう! ぐしゃぐしゃの、スクラップにするという形でな!」
「ヴァヴァ!」
エックスが、驚愕の声を上げ叫んだ。
PIECE-3「復讐」
『彼』の攻撃は邪悪であった。恐ろしい力で身を穿ち、砕き、潰し、爆ざす。
『彼』の目的は復讐であった。恨みの重なるあの男を、いくらでも恐れさせ後悔させたい。そして、命を奪う。
『彼』の精神は執念であった。全てをその一点に向け、そのために生きそのために死ぬ。それが『彼』。『彼』の名前はヴァヴァ-V。
「アクセルを・・・・・・よくも!」
エックスが叫んだのは、その部屋の中を全て見渡した後であった。
誰かのレプリロイドの残骸、焼け焦げた床、立っているヴァヴァ-V、彼に頭を掴まれて血塗れのアクセル。
「久し振りだな……」
ヴァヴァが口を開いた。実際に開いているかはわからなかった。その顔は仮面であるかもしれないし、素顔かもしれないからだ。
ただ、重く響き渡りながらも、すっきりと涼しい声であった。下品さや野蛮さのカケラも、そこには無い。
「スクラップにする予定だったけど……あとでな」
ヴァヴァが、アクセルを床に下ろした。そっと、おろした。とすん、という音がした。エックスは、雰囲気に飲まれてか、何も言えなかった。
「はじめるかぁ・・・・」
いつものように右肩に装備されたキャノン砲が、エックスに向けて真っ直ぐに撃ち出される。エックスは、バスターを使い、これを迎撃した。部屋中に、閃光が走る。
「ふっ!」
エックスは息を放ち、跳んだ。
「・・・ふっ」
ヴァヴァも同じように声を発し、跳んだ。
「やああっ!」
「ひゅううう・・・・・」
二人は掛け声とともに、縦横無尽に飛び回りながら光を放ち続ける。
ヴァヴァの左肩に収められたランチャーが飛び出し、火を噴く。電撃弾や火柱も次々とエックスを襲う。
「くっ!まだ・・・まだ!」
エックスは、バスターのチャージをしながら、全ての攻撃をかわしていた。
「今だ・・・ッ!」
その瞬間、上空から蹴りがきた。ヴァヴァの痛烈なキック。エックスはうつぶせに落ち、アクセルの横に叩きつけられた。
「ぐうう・・・これは・・・!」
その時エックスは、サブタンクを見つけた。
「これは・・・どういうことだ・・・」
「それか? ああ、それは戦う前にそいつが使ったサブタンクさ。最新タイプのいい奴で、一回使ってもまだなくならねえのがすごいよなぁ」
アクセルは、ヴァヴァとの戦いの前にこれを使ったのだった。そして戦いの中、ヴァヴァが体力回復に再びこれを使用したというのだ。
「まあ、たいしたダメージじゃあなかったがよ。せっかくだから・・・な」
実際、ヴァヴァはアクセルとの戦いで、殆んどダメージを負っていなかった。アクセルからそれを奪い、動揺させる目的で使ったのだった。
しかしそれ以上に、実力差があったことは、戦っている本人・・・エックスがわかっていた。
「こいつ・・なんてやつだ・・・」
それからも、激しい熱戦死闘が続いた。
エックスのバスターとヴァヴァのキャノンが同時に輝き、破滅の閃光を次々に生みだした。ヴァヴァの胸に傷がつき、エックスの腕に傷がつきーー。
「はああっ!」
エックスがシャイニング・レイを放った。かつて、ヴァヴァはレイ・スプラッシャーが弱点だったことがあった。その事を思い出し、この武器を使ったのである。
「克服してないと思ったかい?」
当たった。当たりはしたが、たいしたダメージではない。エックスは目を見開き、ヴァヴァを見た。
「アホが」
ヴァヴァは一気に間合いを詰め、エックスを殴り飛ばしにかかった。しかし、それは計算のうち。
「はあっ!」
エックスが消えた。そして、いつの間にか、ヴァヴァの後ろに立っている。
「なに!?」
「アルティメットアーマーの能力のひとつさ!」
強烈なタックル。ヴァヴァは背中を打たれ、うつぶせに倒れた。
すぐ立ち上がるが、しかしその瞬間、エックスはバスターを放つ。
「おっ!」
ヴァヴァの脚を狙っていた。案の定、ヴァヴァはよろけた。
「うおおおおーーーーーっ!」
バスター連射。連射に継ぐ連射。とにかく、速い。まるで、アクセルのように速かった。
「ぐう、がああ、くっ!!」
全身にその弾を受け、苦悶の声を上げるヴァヴァに、エックスは素早く近づき、チャージショットを顔面に浴びせる。
「うがああああ・・・・・っ!」
「よし・・・たあっ!」
エックスのキックが、ヴァヴァの側頭部を打ち抜く。衝撃を走らされたヴァヴァの頭脳は、一瞬思考が途切れた。
その間に、エックスのチャージは終了していた。
「喰らえ・・・・プラズマ・チャージショット!」
「ぐふうがあああああ・・・・・・・・・・!!!!!!」
後ろへ吹っ飛ぶヴァヴァ。先ほどみつけた、レプリロイドの残骸を加え、隣の部屋にまで吹き飛んだ。
「く・・・おおおおお・・・・・・っ!」
「!」
ヴァヴァが、戻ってきた。素早いジャンプだった。
「よし・・・・こい!」
エックスはそれを迎え撃った。バスターでひるませ、敵を抱え持ち上げ、そして、プラズマチャージショットによって発生したプラズマ弾に向けて投げ飛ばしたのだ。
「ぐああ・・・・!」
プラズマ弾でダメージを受けるヴァヴァ。その瞬間、火柱が飛びエックスに命中した。
「うぐ・・・あああ!まだ・・やるのか・・・」
流石ヴァヴァだ・・・と、エックスは心の中で、思わず敵を褒めていた。
「でも・・・これで終わりだ!ノヴァ・ストライク!!!」
「っ!」
エックス最後の一撃が、ヴァヴァに向かって放たれた。強力なエネルギーダッシュが、ヴァヴァの肉体を削り・・・・・
「なっ!?」
「残念・・・だったな!」
ヴァヴァの体が白く光り、輝き、エックスの技を通さなかったのだ。エックスがバスターを構える間もなく、ヴァヴァの体からは電撃波が放たれる。
「な・・・なんだって・・・・!?」
「さあ・・・終わりの始まりだ・・・・」
PIECE-4「救い」
全身が光った。
ヴァヴァの背中から、6筋の雷光が現われ、非情な音を立てる。バチバチ、バリバリと。
「これは……!」
死神の力。かつてヴァヴァが持ったこの力に、更なる強化がなされ、背中から雷撃が放たれるようになったのだった。
「くらえ……はああっ!」
雷撃がエックスを襲う。その強さは、痛烈そのものであり、エックスの肉体を一気に蝕んだ。
「うぐぁあああああ・・・・・・・!!!!」
アルティメットアーマーが通用しない。全身が痛く熱い。バスターで応戦するも、全く通用しない。ヴァヴァの体を覆う真っ白な光が、弾を消滅させてしまうのである。
「はああああ……」
チャージショット。少し我慢し力を貯め、大きなエネルギー弾として放つバスター弾。それも同様であった。
「終わったな……実力差がでたか」
「やっ!」
ヴァヴァがほくそえんだその同じ瞬間、エックスは胸のアーマーに、一つ意思を送っていた。
―防衛システム、作動―
一瞬エックスの体が光り、彼を包み込んだ。そして、ヴァヴァの雷撃が、突如として無効化されたのである。
「!?」
「対電撃防御・・・・・・ラバーコーティング・・・・・」
「なんだと!?」
エックスの体を包み込んだのは、電気を通さないラバーコーティングのデータであった。
エックスのアルティメットアーマーは、あらゆる物質に対し防御できるような特殊プログラミングが存在しているのである。
炎相手なら火を消す水の、風相手ならそれを受け流す空気のプログラミングデータを体の周囲に張ることで、攻撃を防御する。
ただし、その間は特殊武器が使用不可となる。
「おもしろい・・・・」
ヴァヴァが再び、笑った。表情は見て取れないが、エックスにはそれがわかった。
「俺も、この技を使っている間は他の行動が出来ないからな。こうしておくことは、互いにとって無駄と言うわけか」
「・・・・・」
ヴァヴァの雷撃がやんだ。エックスはすぐに、バスターを構えた。
「くらえっ!」
ヴァヴァが火柱を放つ。光弾を放つ。ミサイルを放つ。
「くっ!」
エックスは、すばやく防御プログラムを作動していく。水、光、風(ミサイルの爆風を受け流す)と。これによって、全ての攻撃が無効化された。
「くらえっ!」
そして、フルチャージバスターをヴァヴァの腹部に当てることが出来たのである。
「うぐうっ!」
ヴァヴァは後ろへ吹っ飛び、床に、背中から落ちた。
「うおおおおおーーーーーーーっ!!!!!!!」
連射。倒れたヴァヴァに対し、連射がなされる。
「く・・・・ぐあうっ!」
当たった。全ての攻撃が当たった。腕に、脚に、頭に、腹に。どこの箇所にも命中する。ヴァヴァは当たるほどに後ろへ下がり、とうとう壁へとぶつかった。
「ぐうっ!」
「終わりだ・・・・!」
エックス最大の必殺技、ノヴァ・ストライクが空を斬る。まるで不死鳥のように飛び、地を削り、ヴァヴァの体へと跳んでいく。
最強無敵の一撃を前に、ヴァヴァは身動きを取れなかった。
「うおおーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「デビルベアッ!」
どしん、と音がし、エックスがヴァヴァまで到達する寸前に、巨大な物体がかれらの間に立ちふさがり、エックスに衝突し粉々に砕け散ったのだった。
「っ!?」
「流石だな・・・・・!」
砕けたのは、ヴァヴァのライドアーマー、デビルベアだった。そんな事を気に止めるまもなく、ヴァヴァはエックスの頭上にきていた。
ノヴァ・ストライクのエネルギーが過ぎ去った、エックスの頭上に。
「はあっ!」
火柱が立った。エックスの全身を包み込み、彼の肉体を焼いて回る。
「うああああああ・・・・・・・・・・・・・!!!!」
しかし、エックスも防御プログラムを作動するのは当然の動きだった。全身を水を模したプログラムで守る。
「ふっ」
殴られた。エックスの右頬に、刺さるようにヴァヴァの拳が打ち落とされた。エックスは後ろへ吹き飛び、反対側の壁まで飛んだ。
「まだまだやられはしねえよ」
爆弾が飛ぶ。エックスめがけて、いくつもの爆弾が放たれた。次々とそれらが爆発し、壁や床を壊していく。
エックスは、すぐにアクセルの位置が安全だということを確認し、防御プログラムを解き、スクイーズボムで吸収する。
「んっ!」ヴァヴァが一声もらした。
「どうだ!」
「くだらねえ」
すぐにヴァヴァは冷静さを取り戻し、跳んだ。そして天井を蹴り飛ばし、スクイ―ズボムを乗り越えてエックスの元へとむかう。
「くらえっ」
ヴァヴァの脚から、強力な火炎がほとばしった。
「また炎か!」
頭上から来たそれを、エックスは再び防御プログラムで回避しようとした。しかし、炎の色が突然、青く変わった。
「っ!?!??」
エックスの全身が、強烈な痛みに襲われた。寒さと冷たさと痛みが全身を一気に包み込み、氷の中にいるような苦しみが直接、内部にまで触れる。
これは炎の技じゃない……エックスがそれに気付いた時、ヴァヴァの高らかな叫び声が耳に入った。
「シードラゴンズレイジぃいいーーーーーーーー!!!!」
「な・・・なんだこの技は・・・・ッ!」
シードラゴンズレイジ。強烈な冷気を脚部から発しダメージを与える技。ヴァヴァは、それをつかいエックスを攻撃していたのだった。
「スプラッシュヒット!」
足元から、竜巻が起こった。エックスは防御プログラムを風耐性へと変え、全て受け流した。
次に、エックスはヴァヴァの顔面を撃ち、その場から素早く跳んで脱出した。しかし、ヴァヴァはすぐに追ってくる。
「くっ!」
エックスは、地を駆け追ってきた敵を撃った。それは砕け散ったが、ヴァヴァではなかった。
「これは・・・エネルギー弾・・・・・!!!!」
地形に沿って走るだけの、普通のエネルギー弾、スタボーンクロウラーであった。
これも、ヴァヴァの技なのか。エックスがそう思い戦慄した時、ヴァヴァの拳が顔面を捉えた。
「ぐうあっ!」
エックスはまたしても、後ろへ吹っ飛んだ。ただ吹っ飛んだわけではない。
敵の拳の位置から算出した敵の肘の位置を、強く蹴り飛ばしたのだ。しかし、それは空振りだった。
「っぅ!?!?!?!」
ものすごいスピードでよけられてしまったのだろうか?計算違いだったのか?まさかワープ?エックスの脳裏に様々な推論が立つ。
しかし、それは全て外れであった。
「スポイルドブラット!」
ロケットパンチであった。ヴァヴァの腕が外れ、エックスにむけて飛んできたのだ。数メートル先のヴァヴァと自分の距離を見て、驚くエックス。
「こ、こんな技まで持ってたなんて・・・・?!!!!」
スピードのあるパンチ、スポイルドブラットをかわし、バスターをチャージする。奴が次に隙を見せたとき・・・
「甘いぜ」
「っ!?」
後ろから、パンチが当たった。後頭部だった。
「インフィニティーギグ・・・これはホーミングなんだよ」
「が・・・・・っ!」
今度は、前に跳んだ。飛ばされた先―――目の前に、ヴァヴァがいた。
「ゴールデンライト!!」
顔面だった。ヴァヴァ最強級の一撃が、顔面に入った。
何かが割れる音がした。
苦しい。辛い。痛い。嫌だ。やめたい。負けた。
負の感情が、頭の中と心の中を行き来する。
シグマ・・・ローマ・・・ドップラー・・・アジール・・ダブル・・・。
これまでに強いと思った敵たちが、次々と頭の中から出て行く。消えていく。
マーティ・・・ゼロ・・・シナモン・・・ヴァジュリーラ・・・ケイン・・・ホーネック・・・・・
仲間達が頭の中で笑っている。笑っているが、消えていく。力なき闇の中へ。
消える。消える。苦しい。辛い。もういい。遅い。やめろ。馬鹿。熱い。冷たい――――――――。
「はっ!?!」
ヴァヴァに殴られ、一瞬、エックスの意識は失われていた。すぐにそれに気付いたエックスは、すぐそこにいるヴァヴァの顔面に、バスターを向けた。
「おっ」
勝ったと思っていたのか、ヴァヴァは意外そうな声を上げた。
バスターが、放たれた。
「バーニングドライブ!!!!」
「っ!?」
一瞬にして、ヴァヴァの全身が燃え盛った。周囲の酸素が、炎と化したのだ。バスターのエネルギーはかき散らされ、エックスは再び燃された。
「―――――――――――――――――――――――――――」
意識が飛びそうだ。さっき見た苦しく暗いあの中に、体が半分、入りかけた。なにも無いこの空間に、自分自身が舞い込みそうだ。
「負け・・・ない!」
バスターを構える。そうだ。正義のために、仲間の為に。名も知らない誰かの為に、自分は負けるわけに行かない。
「復讐のためなんかに・・・・お前の身勝手のためなんかに!負ける訳には行かないんだ!!!!」
「ネクロバースト!!!」
部屋が吹き飛んだ。
エックスが見た最後の光景は、ヴァヴァの全身から放たれた光だった。何もかもを吹き飛ばし、部屋を砕き―――後は、何も覚えていない。
無だった。自分自身を囲むものは、何もない。中にあるものさえ、無い。消え去った。いや――最初から有ったのだろうか?
苦しくない。辛くない。熱くも寒くも、痛くも無い。さっき感じた嫌な思いは、消えていた。
俺は、救われた―――――。
『彼』の最後の一言は―――言葉に出したのかはわからなかったが―――闇に溶けて、消えていった。
piece-5[目覚め……ロックマン]
軌道エレベーター、ヤコブが月にまで昇り切った。
ゼロは――ゼロ一家は、敵兵と戦いながら進む事に。
「アイリスは俺におぶされ。仕方ねえから……」
「え、う、うん」頬を染めるアイリス。
「い〜な〜ママ、私もおじちゃんに……」とリル。
「早く行こうよ!」とライク。
「くらえこのガキども……うおぁっ!」
警備隊員達が次々倒れていく。ゼロのアースクラッシュが吹き飛ばしたのだ。
「ガキどもって……俺がおまけみたいな言い方だな」
「そうよね、知らないのかしら」
実はアイリスも拳銃ぶっ放して援護してます。
「ツイン・バスター!」
リル&ライクのダブルショットが敵を散らす。
「うわっ、あのガキ二人もけっこうやべえぞ!」
「わー俺の頭〜」
そこに、シグマが現れた。
「ゼロよ、ゆくぞおおおっ!」
驚愕した表情で、ライクが叫ぶ。
「ぱ・・パパっ! あの人、髪の毛がないよ!!!」
「・・・・・・」
「ほっといてやれ!」
ゼロサーベルの一撃が、シグマを切り裂いた。するとその肉体は、先ほどまで戦っていた警備隊員と全く同じ姿に変わり、消滅した。
「偽物か……やっぱりな」
そうして、一気に敵の――シグマの最終基地の最深部である、シグマの部屋へとやって来た。
真っ黒な体で、巨大な二本の角を生やす邪悪なレプリロイド、シグマ。
「来たのはゼロだけか……ん?」
「ど〜も〜」リルが手を振った。
「なんだその周りのは……」
「俺の家族だよ」
「家族そろって死にに来たか……」
「んだよ、おじいちゃんのくせに・・・・」
「・・・・・・っ」
シグマの表情が固まった。そしてそのまま、巨大な剣、Σブレードを片手に、飛び込んできた。
「いくぜ……っ!」
ゼロは、アイリス達を後方に残し、ダッシュ。ゼロサーベルとΣブレードを激突させた。
「ぬうううっ!」
「お……っ!」
押される。これまで全てにおいて無敵を誇ったゼロサーベルが、押されている。
「どうだぁ! これぞ真の最強剣!」
「ちいいっ!」
ゼロは、続いてゼットセイバーを手に取り、シグマを突いた。さらに、素早く斬りに行く。
「くっ! パワーとスピードの二段構えか!」
「うらあっ!」
ゼロが床を叩くと、強烈なエネルギーの柱が立つ。シグマはそれに飲み込まれた。そう、ファイナルナックルである。
エネルギーが晴れると、シグマは上空へと浮かびあがり、目から強力な光線を放つ。
「おっと!」
ゼロはそれを避けたが、突如として、床が燃え盛った。そしてその炎は、アイリス達の所まで走ってゆく。
「っ!!!」
「わ あ あ あ あ あ」
ゼロがバスターで床を吹き飛ばそうとした瞬間、ライクが叫んだ。
ライクの体が光り輝き、目の前の炎を吹き飛ばす。
「な・・・・・なんだとおおおっ!?」
シグマが驚愕の声を上げる。アイリスとリルを背に立ちふさがったライクは、まるで様相を変えていた。
―俺を目覚めさせて、どうしようって言うんだ―
「あの力……」ゼロが呟く。
「ライク、すごい……」リルが目を丸くする。アイリスは絶句していた。
「なんだと・・・あれほどの力を感じさせるとは!」
「はあああああっ!」
ライクが、走った。シグマの元へと、一気に。炎は全て掻き消え散った。
「ぬうっ!」
「かあっ!」
シグマの懐へ飛び込んだライクは、強烈な拳を喰らわせた。
「ぬううっ!」
しかしシグマも、ライクの顔面を掴み上げる。
「う・・・ぅうっ!」苦悶の表情を見せるライク。
「ガキめが・・・・・・!」
「やろおおっ!」
そこに、ゼロのサーベルが入る。シグマの右腕が落ちた。
「くっ!」
「甘いぜっ!」
さらに、ゼットセイバーを振るう。
「かっ!」
シグマの放った衝撃波が、ゼロ達を吹き飛ばした。
「うおっ!」
「くっ!」
ゼットセイバーが床に落ちた。シグマは、リング状のエネルギーを放つ。
「かわせっ!」
「いやっ!」
ゼロのアドバイスを、ライクは否定した。向かってくるリングに対し走り近寄り、拾い上げたゼットセイバーで叩きはじいたのだ。
「なんだと・・・!? ここまでの力か!」
ゼロは驚くしかなかった。
シグマが猛る。意外な強敵の出現に、叫んだ。
「貴様・・・・・・一体何者だあっ!」
「ロックマン…ゼロ」
PIECE‐6[未来 対 未来 対 未来]
「ぐおおおおおおおおおっ!」
シグマの攻撃が次々と襲い掛かるが、ゼロとライク――ロックマンゼロはそれを二人で弾くことで、逆にシグマへのダメージを強めていった。
「くぬうっ!貴様らなどに……新たなる世代の力を破れるものか……」
それを聞いたゼロは、どこか哀れんだ目をして、呟く。
「ライクやリルは新しい世代じゃないのか?」
「……くうううがああっ!」
Σブレードが空を斬った。その瞬間、ゼロサーベルがシグマの胸を刺し貫き、エネルギーを唸らせた。
「ぐあ……」
「世代ってのは前のを壊して作るんじゃなくて……」
―受け継いでいくものだろ、おじいちゃん―
「うがあああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!」
シグマが、砕け散った。
「……」
「終わった」
ゼロとライクが、残骸となったシグマを前に、剣をおろした。ゼロもライクも無表情に、ただそれを見る。
「これで、さよならか……」
ゼロが、息を吐いた。
「終わったのね、これで」と、アイリス。
「じゃ、早く帰ろ!」と、リル。
「そうだな……ライク?」
ゼロがアイリス達に振り返ったが、ライクはシグマをずっと見ている。
「どうした」
「……」
「この剣……」
床に転がっているΣブレードを、ライクは拾い上げた。
「やめなよ、そんなの拾うの。縁起悪いよ」リルが口を尖らす。
―嬉しいか?
誰かが、言った。
「この声……」
「シグマを倒せて、嬉しいか?」
「……」
ライクが、その声の主の居場所を特定した瞬間と、バスターショットを放った瞬間は同時であった。バスター弾は中空で砕け、その男――ヴァヴァ-Vが姿をあらわす。
「ヴァヴァ……」
ゼロは面食らっていた。アイリスも、少し間を置いてから、その男を思い出す。
「あ……」
「パパ、ママ、知ってるの!?」
リルが訊くと、ゼロは二人を下がらせながら答えた。
「あいつはヴァヴァ。シグマの仲間で……俺達とも、特にエックスと何度も戦ってきた奴だ」
「……復讐を、遂げたよ」
ヴァヴァのその一言に、ゼロは一瞬、気を失いかけた。この男の復讐とは――。
「お前……」
「なら、もう良いですね……あなたにこれ以上の『未来』は」
上空から、声がした。
「今度は何!?」
アイリスが空を見上げると、そこには天使のような純白のアーマーで悪魔のような紫色の素体を包む、少年のような姿をしたレプリロイド――ルミネがいた。
「お前はルミネ! 捕まってたんじゃ」
ゼロが叫ぶと、ルミネは静かに微笑んで、地に舞い降りた。
「優れたものが先に進むのが自然の摂理……旧世代は消え去るのが運命なのです」
「―――」
ゼロが何かを言いかけた瞬間、ルミネは全身から光を発し、周囲を吹き飛ばした。
「だ、大丈夫、リル!?」
「うん! ママこそ!」
アイリスが、地面の上でリルを抱きかかえ横たわっていた。ルミネの起こした爆風によって、しばらく気を失っていた間に。
「何が……起きたのかしら」
「わかんない……あっ」
気付いたリルの視線の先には、父の――ゼロの背中があった。
「パパ!」
「あなた!」
「起きたか……」
爆風と光の中、ゼロはアイリスとリルを守り、攻撃を受けたのである。そして、二人が目覚めるまで、ここで番をしていたのだ。
「ライクが戦ってる」
ゼロが、空を見上げた。その視線の遥か先に、その戦いはあった。
「うおおおおおおおおおっ!」
空中に浮かぶ庭園で、ヴァヴァの放つミサイルや光弾が、ルミネとライクを襲う。
「はっ!」
ルミネは強烈な火炎を放ち、ミサイルをかき消しつつも攻撃を図る。
「はああああっ!」
ライクは、ゼットセイバーのエネルギーをチャージしながら、攻撃を素早く避け続けている。
「旧世代が……」
ルミネの蹴りが、ヴァヴァの腹を打った。
「偉そうにすんじゃねえよ、文明の赤ん坊が!」
ヴァヴァの掌が、ルミネの顔面を打った。ルミネが飛び退いて距離を撮ろうとした瞬間、さらにロケットパンチの「ゴールデンライト」が再び顔面に衝撃を与えた。
「ぐあうっ!」
後ろ向きにふっとぶルミネ。そこへ、さらにヴァヴァの追い討ち。キャノンから竜巻を出す「ストレートナイトメア」で攻撃。しかし、その隙をライクに突かれることに。
「くらえっ!」
「ぐお……っ!」
チャージセイバーを頭上からまともに受けたヴァヴァは、無抵抗に顔面から地に叩きつけられた。
「滅しろ」
ゼットセイバーを下向きに、ライクの一撃がヴァヴァの首を狙う。ヴァヴァは、周囲の酸素を一気に燃やす「バーニングドライブ」でライクを吹き飛ばした
(ここは月だが、人間が活動するために多少の酸素を送っていた為に使用可能だった)。
「くっ」
ライクは背中から落ちた。体の前面が焼け焦げ、上手く動けない。
「マルーンドトマホーク!」
ブーメラン状のエネルギーが、回転しながらライクを襲う。ライクはとっさに、バスターショットをチャージして放ち、マルーンドトマホークを撃った。
すると、エネルギーはガラスのように砕け散り、破片が地面やライク、そしてヴァヴァに当たり、小さな爆発をいくつも起こした。
「ぐうっ」
「うぁっ」
「消えろーーーーーーーーーーーっ!」
その瞬間、ルミネの放った破壊雷光が二人を襲う。電光に包み込まれた二人は、その破壊力に戦慄した。
「グアアアアアア……」
「うぐ……!」
「は、はあ、はあ……」
ルミネが勝ち誇った笑いを上げようとした瞬間、全身に銃弾を浴びた。ヴァヴァの「バックショットダンス」であった。
ダメージこそなかったものの、ルミネの表情が一変する。
「愚かな旧世代め……何故自然の摂理に逆らって生きようとするのか……」
「それは俺達を倒してから言いな、バカ」
「っ! ゼロ!」
ルミネの後ろに、ゼロが立っていた。そのゼロに気を取られ、ヴァヴァとライクの存在を思い出す前に、ルミネは次の攻撃をまともに喰らうこととなった。
ライクのフルチャージバスターショットと、ヴァヴァの強力なエネルギー砲。
さらにはゼロのアースクラッシュまでも受けることになってしまった。
「うああああああああ……そんな……まさかっ」
大爆発の後に残ったのは、無残な残骸と傷だらけのルミネの顔だけだった。
爆風の向こう――ゼロにとっての『向こう』だが、再び爆発が起きていた。
「テリトリアルパウ!」
ヴァヴァの放った爆弾が爆発したのだ。
「ふっ」
ライクの斬撃がヴァヴァの右腕を切り、傷つける。
「ジップザッパー!」
射程は短いが素早く連射の出来るこの機銃攻撃に、ライクはバスターショットで応戦する。
「お次はこいつだ!」
ヴァヴァが、背中からキルシャインの電撃波を放つ。ライクはそれに打たれ、地面に落ちた。さらに、超強烈な秘技ネクロバーストを喰らってしまう。
「くあ……っ」
「とどめと……いくかあ!?」
「ダブルアースクラッシュ!」
ヴァヴァの背中が、吹き飛んだ。正確には、電撃波を発する箇所が粉々になったのだが。
「ゼロっ、来たかっ!」
「お前の復讐は終わってないだろ」
「そう、そうだっ! お前も倒してようやく、最後だ!」
ヴァヴァの最後の復讐が、今始まろうとしていた。
いつからだっただろう、誰かを恨んだのは。
殺された時? 倒された時? 負けた時? 奪われた時? 失った時?
――お前がいた時からだったと思う
「うおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
ヴァヴァの足から火柱が飛ばされる。ゼロは、それをゼロサーベルで受け止め、サーベルビームで反撃した。
「ぐっ!」
素早くかわしたヴァヴァだが、わずかな隙から首にバスター弾を喰らってしまう。
「ぐうあ……!」
「はあああっ!」
ゼロのパンチが、何度も顔面を捉えた。アーマーに、一気に罅が走り、亀裂となってヴァヴァを侵す。
「ちいいっ!!」
ヴァヴァの足から光弾「スタボーンクロウラー」が放たれ、ゼロの足元を爆破した。ゼロはバランスを失い、うつ伏せで地面に倒れこむ。
「ぐあああっ!」
そこに、さらにヴァヴァの火炎が放たれた。「ワイルドホースキック」が、ゼロを焼く。焼き尽くす。
気が狂わんばかりの熱さの中、ゼロは両手両足で飛び、跳ね起きた。
「だあああああっ!」
「チッ」
「爆炎陣!」
その直後に、ゼロの拳が地面を叩き、ゼロの周囲に炎が巻き上げられた。今度は、ヴァヴァがその身を焼かれることになる。
「ぐあああああ……ぐあっ」
「うおらあああっ!」
強烈なパンチが、顎を打ち破る。ヴァヴァは上空へと吹っ飛んだ。
「くああああ……」
頭に、亀裂が走っている。まるでガラス細工のように繊細になったその頭。その中で、ひとつの記憶が渦巻いていた。
―認められたかった……
―誰に?
―世間に? シグマに? ドップラーに? それとも、神?
――自分自身に……
「うおらあああっ!」
ゼロサーベルが、ヴァヴァの腹を貫いた。
「バーニングドライブ」
業火が、周囲の酸素と共にゼロを焼く。
「っは……!」
「ネクロバースト……」
強力な波動が、空間ごとゼロを消し去ろうと巻き上がる。
「ぐああああ……っ!」
「ゴールデンライト――」
ヴァヴァの右拳が、ゼロだけを打ち砕きたくて、発された。
―――ヴァヴァの体は、二つになって消えた。
PIECE‐7[哀れなるパラダイスロスト]
「終わったか……」
仰向けになったライクが、空を見て呟いた。
見たのだ。父親が、敵の体を二つに割って勝利した瞬間を。爆発が起きた瞬間を。
そして、解っていた。父親は、爆発に飲まれ傷つきながらも、地に降り立ったことを。
「帰るぞ……」
全身にひどい傷の残ったゼロが、ライクに歩み寄って、そう言った。
「ああ……」
ライクが、立ち上がった。
月の空は、黒い。遠くに金色に輝く星が見えなければ、全てが黒い世界だった。その中でも、一際大きく強く―――唯一青色に輝く星。
「帰ろう……」
― パ ラ ダ イ ス ロ ス ト ―
二人の体が、真っ暗な空間に閉じ込められた。
「なんだ……これは!?」
ライクが見回すが、何もない。
「シグマか……ヴァヴァか?」
「 ち が い ま す 」
現われたのは、『殻』に閉じこもったようにアーマーに守られ浮かぶ、ルミネの姿だった。
「私は新世界の支配者となります。旧世代の異物である『シグマ』『ヴァヴァ』『ロックマンX』『ゼロ』は消える。劣悪な未来『ライク』『リル』も消える。
新世代の種『アクセル』は私とひとつになる……」
「ルミネ……おまえ、まだ……」
ゼロが見上げて言うと、ライクが急に叫んだ。
「闇が……迫って来ている」
「ナンだって?」
徐々に、徐々に、闇が迫ってくる。自分達の姿が、消えていくのが分かる。
「お前がやったのかっ!」
ゼロがバスターを打ち込むが、全く効果がない。
「ならば……」
今度はライクが、ゼットセイバーで切りかかるが、同じく効果なし。
「きえなさい……ごみ……」
冷たい声だった。無慈悲で無情で、血も涙も無い言葉が、二人の胸に強く刺さった。
「この……」
ゼロが、ゼロサーベルを構え、斬りつけた。
「ばっかやろおおおっ!!!!」
「ぐ・・・かああっ」
ルミネは何もせず、ただ斬られるだけだった。その間、ライクはバスターとセイバーをチャージする。
「かあああっ!」
ルミネが衝撃波で、ゼロを吹き飛ばした。
「がっ! 頭だ! ライク!」
「はああっ!」
フルチャージバスターショットが、ルミネの頭部を直撃した。高速で回転する鉄球が人間の頭に当たったような鈍い音がして、ルミネは吹っ飛んだ。
アーマーが地面に叩きつけられる音が何度もけたたましく鳴り響き、最後にルミネのうめく声がした。
「・・・・・・あ」
「はあああああっ!」
チャージセイバーが振り下ろされた。ルミネはその巨大なエネルギーを、自らが発したエネルギー波で相殺、爆破した。爆発の衝撃で対極の方向へ吹っ飛ぶ二人。
ライクは、背中から落ち、ルミネは、アーマーで着地した。
「は……」
ルミネの口から、真っ赤な舌が覗く。ゼロとライクが立ち上がり、サーベルとセイバーをそれぞれ構える。
「ふふ……」
ルミネが、アーマーを再び閉じる。しかしその時、突然真後ろで爆発が起きた。
「ぐあっ!?」
ルミネが前に吹っ飛んだ。誰だ? 視力センサーを後ろに向ける。そこにいるのは、エックスとアクセル?
「うおおおおおおっ!」
エックスとアクセルのダブルアタックが決まった。猛連射と超エネルギー波をまともに浴び、ルミネは一気に前に進んでいく。
「う、ぐうああああ・・・・・・・・・・・っ」
「だああーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
ゼロサーベルの一撃が、『殻』を切り裂いた。
「はっ!」
そして、ゼットセイバーが、ルミネの顔面に突き立てられ―――
「弱いっ!」
ルミネの口から吐かれた光線によって、セイバーが吹っ飛んだのだった。
「ザコドモ・・・・・・ウセロ!」
ルミネの全身から、刃のようなエネルギー体が大量に、嵐のように吹き荒れる。ゼロとライクはすぐにルミネを離れ、エネルギー体をよける。
エックスとアクセルも同様だった。
ゼロは、素早く動き回りながらエックスに問う。
「エックス! ヴァヴァにやられたんじゃなかったのか!?」
「Xハートがあったからさ、それで復活できたんだ!」
Xハート・・ギガンティス島事件で初めて使用したフォースメタル。一度だけ崩壊した肉体を再生する、まさに超技術の結集体ともいえる存在である。
「なるほど・・・・・!」
「さ、いくよっ!」
「「おうっ!」」
エックスのチャージショット、ゼロのサーベルスラッシュ、アクセルとライクのバレット&ショット連射が、敵に打ち当たる。
「無駄 デス!」
ゼロに斬られたアーマーの切断面から大量の触手のようなケーブルが延び、4人に向けて一斉に延びる。
しかし、その内の何本もが、吹き荒れるエネルギー体に当たり千切れていく。
「へへっ、おかしくなっちゃったね……うわっ!」
アクセルの胸に穴があいた。
「アクセルッ!」
エックスとゼロが叫んだが、アクセルは何も言わずに倒れた。ルミネの新たに放った光線が、やったことだった。
そしてアクセルはケーブルに捕まり、ルミネの方へと引き寄せられた。
「ちっくしょおおおおっ!」
ゼロがバスターでケーブルを破壊しようとしたが、別のケーブルやエネルギー体に邪魔される。
「ノヴァ・ストライク!」
エックスが、全身にエネルギーをまとって飛び込む。しかし、ルミネはテレポートであっさりそれをかわした。
そして、全員が、ルミネの現われた位置を振り向くと、そこには異様な光景があった。アクセルがルミネの胸から「生えて」いた。吸収されたのだ。
ルミネの顔の下にアクセルの顔、その下にはアクセルの体が、ルミネと重なるように生えている。アクセルのアーマーは、なぜか白く染まっていた。
「そう・・・・・・・ぼくと、ひとつに・・・・・・・。」
アクセルは、まるで断末魔のような表情を浮かべて、そこに生えていた。何も言わず、何も見えず、何も聞こえない。その両目からは、涙のようなものが零れていた。
それに対し、ルミネの表情は恍惚としていた。
「あぁ・・・・・・新世代の種と・・・ひとつに・・・・・。」
ライクが、ぼそりと言った。
「まずい……」
ルミネとアクセルがどの程度、一体化したのかがわからない。ルミネを攻撃することは、アクセルを攻撃することと同じかもしれない。
しかし、闇に覆われた今、考えている時間も無い。
ルミネは、三日月のように口を開いた。三日月とは程遠い、真っ赤な色がその中にある。
「あなた方に、今の私を倒せますか?」
「たおすよ」
どんっ、と乾いた音がした。ルミネの顔面に、ゼロサーベルが深々と突きたてられていた。
あまりに突然の出来事だった。ルミネは、何も出来ずにそのまま一撃を受けてしまったのだ。
「・・・・・・かはっ」
「うおおおおおらああああっ!」
ゼロがアクセルの体を、無造作にルミネから引き剥がした。その跡には、ルミネの体の内部メカが剥き出しになっており、いくつもの部品やかたまりがバラバラと落ちた。
「アクセルは例え死んでも、お前の思い通りになったほうがいいなんて思う奴じゃないからな」
そして、今度は、ルミネを蹴った。ルミネの体がごしゃごしゃと崩れ、アーマーや部品の固まりが再び零れる。
「あ、あうあああ;。。あはういふぃふはあ、あ……」
凄惨な姿だった。ガラクタの固まりのようなその体は、哀れといって良いほどに。新世界の支配者とやらには到底似合わない無残な格好。
腰部や胸部を包む部品や外壁は全て崩れ、悲しくも頼りない部分品や突起物が露出する。その存在は、あまりにもちいさい。ゼロサーベルが、からんと落ちた。
「く、は・・・しかし、ぱらだいす、ろすと・・・・あなた達は、闇に引きずり込まれてしょうめつ、する・・・・かつのは、わたしだ・・・・・・・・」
「たっ!」
エックスが、バスターを撃ったが、ケーブルが阻止した。いつのまにか、エネルギー体の嵐はやんでいた。
「くそっ、そろそろ時間がない!」
ゼロが腕にエネルギーを溜める。
「だったら、僕に任せてよ!」
「ん? アクセル!」
「たすかったよ、ルミネちゃんっ!」
アクセルは、ルミネのエネルギーによって、復活していた。しかも、パワーアップまでしている様子で。素早くアクセルバレットを構え、連射する。
「はあああああああ・・・・・・・・・っ」
「く・・・が・・・・・もうすこし・・・・・・」
ケーブルは、壊れる端から新しく生えてくる。ルミネは全身をケーブルに包み、体の守りをより強固にしていた。
「よし・・・・今度こそノヴァ・ストライクで!」
エックスが再び技を放った。強烈な一撃で、前面のケーブルは一瞬にして粉々に砕け散った。
その瞬間、ゼロがアースクラッシュのエネルギーを纏ったパンチで、剥き出しになったルミネの体を殴り飛ばした。
さらに傷が広がったルミネ。胸や足など、ないも同然だった。
「がばあああああっ!」
「っ!? ぐあっ!」
ケーブルがクモの足のように何本も一気に延び、ゼロの体を刺し貫いた。腕や足を刺され、ゼロの体が裂けていく。
「ゼロっ!」
エックスが叫ぶ。エックスとアクセルとライクは連射してケーブルを壊しにかかるが、ルミネのテレポートによってかわされた。
「しま……っ」
「そこだっ!」
ライクが、すぐ後ろに現れた敵を、切り裂いた。その手には大剣、Σブレードが握られている。
刃渡りが非常に長いこの剣は、ケーブルとルミネの右部分を、完全に切り裂いていた。
「あ・・・・」
「だあーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
その刹那、ゼロが雄叫びと共に回転した。ケーブルが引っ張られて、ブチブチと切れていく。
「 う あ あ あ あ あ っ ! 」
ルミネが、叫んだ。恐怖を感じたからだった。口から、大量の血が噴き出る。
どっ、という音と共に、ルミネの首が落ちた。
ライクの振るったΣブレードだった。
PIECE‐8[地球へ]
闇が、消え去る。パラダイスロストは永久に消滅した。
ライクが元の姿に戻り、ゼロ達は全員揃って地球へと戻っていった。
新世代レプリロイドによる反乱は、イレギュラーハンター(+α)の手によって完全に叩き潰された。その報告を受けたエイリアが、喫茶店へ向かっていた。
そこで、コーヒーを飲んで話している二人に会うために。ブラックゼロとヴァジュリーラである。
「ヤコブ突入・・・俺もやってみたかったな〜〜〜」とブラックゼロ。
「いいじゃないですか、強い敵と戦いたいなら、もっと凄い人がいつでも相手してくれますよ」と、ヴァジュリーラ。
そこに、エイリアがやってきた。
「二人とも、こんなところにいたの?」
「なんだ? お前」ブラックゼロが、キョトンとして言った。
「あのね」エイリアの額に、血管が浮かぶ。
「まあまあ・・・・・・それより、なんでしょうか?」ヴァジュリーラがなだめながら、訊いた。
「まあいいわ・・・戦いが終わったのよ。で、新世代レプリロイドと戦ったでしょう?その活動報告が欲しいのよ、今後のために。
ブラックゼロにも戦いの報告をしてもらうわ。お願いね?」
「解りました。ブラックゼロさん、すぐにハンターベースへ行きましょう」
ブラックゼロは、コーヒーをがっと飲んで、笑った。
「ああ、わ〜った」
「アクセル、どうしてそんなに白くなっちゃったんですか? 傷もなくなっちゃってますし」
ハンターベースのラボ。パレットが、アクセルのアーマーを見て興味新進に訊ねる。いきなり顔を覗き込まれ、アクセルはすこしだけたじろいでから、答えた。
「いや、その・・・よくわかんないんだけど、ルミネちゃんがさ」
「・・・・は?」
突然、米神をぴくりとうごかすパレット。それをみて、アクセルの顔が引きつってきた。
「な・・・何?」
「『ルミネちゃん』って・・・・・だれですか?」
パレットの顔が、笑顔から無表情に、そして静かな怒りへと変わっていく。
「って、ちがうよっ!『ちゃん』ってつけだだけでさ、ルミネってのは・・・・!ってか、知ってるでしょお!?」
「ちゃんと説明しなさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!」
「わ〜〜んパレットのバカーーーー!」
「ゼロさん、お帰りなさい・・・・」
レイヤーが、ベースに戻ってきたゼロ一家を迎えた。
「大丈夫でしたか? 一家総出で出るなんて・・・」
「ああ、こいつら勝手についてきたけど、何とかなったよ」
ゼロが優しい目をして、家族を見やり、そのままレイヤーをみる。その視線と自分の視線がぴたりと合ってしまった為、レイヤーは真っ赤になった。
「あ、あうあ、あ、あは・・・・・」
その時、リルが叫んだ。
「ああっ!このお姉さん、パパに見られて真っ赤になった!」
「ひぃっ!?!?」
「こ、こらっ、リル!だめでしょ!」
アイリスが慌ててリルの口を塞ぐ。ゼロはきょとんとした顔で、ヤコブの内部状況が表示されているモニターへと目を移した。
「ご、ごめんなさいね、レイヤーさん。家の子ったらおばさん似で元気っ子で・・・」
アイリスが笑顔で謝る。レイヤーは何も言わずに、ただ頷いた。
「さてと・・・そろそろシグナスに報告しに行くか」
ゼロが、3人に扉を指し示す。すると、アイリスはレイヤーにお辞儀をして、それに習うように子供達もお辞儀をして、扉に向かって歩き出した。4人を見送るレイヤー。
「アイリスさん」
気付くと、口が声を発していた。
「なんですか?」
今度はアイリスが、小さく口を開け目は丸い、きょとんとした顔をする。
「お幸せに・・・・・・なってください」
口元に小さな笑みをたたえて、レイヤーはアイリスに託した。ゼロの幸せと、自分の想いを。アイリスは、何も言わずに小さく笑い、それを受け入れたのだった。
「・・・・・・・・。」
黙ってその場に立ち尽くすレイヤー。一言だけ、自分の頭の中に浮かんだ言葉を、強くかみ締める。
―かなわないなぁ、と。
アイリス。彼女の母親として、そして女性としての暖かさ――それを、レイヤーは感じ取ったのだった。その時はじめて、彼女は自らの完全な敗北にも似た感情――
失恋を、真に感じ取ったのだった。
「さ〜〜〜〜って、とぉ。んじゃ、はじめっかぁ」
マンション――ブラックゼロの住む部屋にて、ひとつの作業が行なわれていた。
「おじさん、できる?」ライクが心配そうに言う。
「ああ、できるさこの程度。まだ中枢がこいつの中に残ってるからな」
「おししょー、僕の頭は壊さないでね〜?」
「大丈夫だよ・・・ほら」
ブラックゼロは、台に横たわるアクセルの頭の中から、ひとつのプログラムデータを取り出した。そしてそれを、ガラクタの山の中に植え込む。
「き・・・・・・が・・・・・」
「ああっ、直った!」
ガラクタから音――声が出たことに歓喜するライク。すぐさまブラックゼロが、ガラクタの一部一部を組み立てて、ひとつの体を作り上げた。
「ここは・・・・どこだ?」
「る・・・・ルミネ?」
立ち上がったその体を見て、アクセルは目を丸くして驚いた。なんと、つい昨日自分達が完全破壊したと思っていたルミネが、そこに立って自分を見下ろしているのだから。
飛び上がるように起き上がったアクセルは、思わずルミネに指を向ける。かつての『指拳刃』の構えである。
そこに、ライクが止めにかかる。
「だめだよ、喧嘩しちゃあ。せっかくおじさんが直したのに」
「し、ししょおおっ!ライクに頼まれたのって、こいつを治すことだったわけぇ!?」
あの戦いの後、ライクはすぐに元の姿に戻った。
そして、ルミネの残骸と頭を隠し持ち、アイリスやリルと合流した時に、リルの背負っていたリュックサックにそれを内緒で詰め込んでいたのだった。
それを聞いて、ルミネは不思議な顔でライクを見下ろす。
「きみが・・・・私を、治すように?」
「うん・・・・おじさん以外の人じゃ、みんな『だめ』って言いそうだったから・・・・」
「・・・・・・・・。」
ルミネは、自分を見上げる真っ直ぐな瞳から、目を離すことが出来なくなっていた。
「寝かせてください・・・・・。」
それだけ言って、ルミネは再び横になった。
PIECE-9[未来へ]
あれから数週間後・・・・・とある教会にて
「それでは、ただいまよりエクスプローズ・ホーネック、ゼーラ両名の結婚披露宴を執り行います」
「は〜〜〜〜い!」
「うわああっ!」
神父の目の前でおおはしゃぎの花嫁――純白のウェディングドレスで着飾ったゼーラが、タキシード姿のホーネックに抱きつく。しがみつく。がぶりよる。
ホーネックの悲鳴が響き渡った。
「ゼーラ……幾つになってもかわんねーな」
来賓席で、ゼロとゼレスが額に手をおくと、アイリスとリオ(ゼレス嫁)が苦笑した。
「ホーネックも相変わらずだね・・・・・・」とエックス。
アクセルが、にたにた笑って回りに言う。
「ほんっと、あれで『新婚生活』やってけるのかね〜、イヒヒ・・・・・・イチチッ!」
「ったくもお、アクセルはバカなんですからぁ・・・・・」
アクセルはパレットにつねられたのだった。しかしこの後、信じられない事態が来賓全てを驚かせることになる。
「それでは、誓いのキスを・・・・・・」
と神父が言うや否や、ホーネックのほうが突進するかのように勢いづけて、ゼーラに熱い口付けを放ったのである。
「むぅ・・・・・・・・・・・っ!???!??」
目を見開き、真っ赤になるゼーラ。呆気に取られる周囲(肝が座った一部を除く)をよそに、目を閉じて顔をゆっくりと揺らしてゼーラの唇を味わうホーネック。
ゼーラにとって、幸福なのか単なる驚愕なのかわからなくなるような時間だった。
そして、ホーネックの唇が離れて、数秒、ようやくゼーラは声を発することが出来たのだった。
「あぅ……」とだけ。
その後・・・未来。
ゼロとアイリスは第3子ラオ(男)を授かり、相変わらずの夫婦仲。年の離れた姉――リルが姉バカになったものの、ライクは寂しげ。
ただし、学校では同じクラスのシエルの視線が気になっている模様。
エックスはマーティとようやっと結婚。マーティの酒癖が悪いため色々苦労が絶えない様子。
ホーネックとゼーラは第一子スノウ(女)を授かる。スノウはホーネックにベタベタ引っ付くため、ゼーラがやきもちを焼く状況に。
ヴァジュリーラはベルカナと同棲を続ける。結婚にとらわれる必要はないと考え、穏やかで優しい日々をすごしている。
ブラックゼロはサラーが押しかけてきたことにより、一緒に住むようになった。但しリルも毎日やってくるため、相変わらず火花が散っている。
アクセルはハンターとして認められ、17部隊副隊長に昇格。便りにはされているが、恋愛面でのパレットとの事は牛歩の早さであることでからかわれ気味。
ルミネは戦闘能力を一時的に失い、ハンターの監視のもと、膨大なデータ編集の仕事についた。
現代のあらゆる情報を取り入れ、必要な未来において自分のすべきこと成すべき事を理論的な計算ではじき出すためである。一応、ライクとの中は良好の様子。
エイリアは専業主婦に。夫ゲイトらと幸せに暮らす。
レイヤーもそろそろ新しい恋を・・・と考えているが、相手がおらず。但し、熱い視線を投げかけてくるやつらはいる。
ギガンティス島ではなんと、スパリノの夫婦漫才にマッシモの一人漫談、シナモンの笑顔で客を沸かす一座が誕生。
他の者達も結婚したり恋人が出来たり子供が生まれたりと、それぞれで幸せな日々を送っている。
ゼロは思う。自分が生まれた意味。戦う理由。未来になすべきこと。それは、きっと全てが同じ。
――アイリスと一緒に、ライク、リル、ラオを育てて次の世代へとつなげる――
『過去(シグマとセント)』……から受け継いだ『未来(ライクとリルとラオ)』の種。それを先の世代へと送るための『今(ゼロとアイリス)』。
それがきっと永遠に続く。そのために自分は生まれ、生き、戦うのだと思えた時、ゼロの心に一つの安らぎが訪れた。
「あなた〜、そろそろ行かないと遅刻するわよ〜! はい、お弁当♪」
「おう、行って来る!」
……アイリス。
零夢版・X8編――完。
ELITE HUNTER ZERO