晴嵐華さんよりロックマンX小説16「The prayertothestarry sky of thenight〜星空に祈りを〜」


「願い事か…」
 ヒラヒラッ… 
 闇にはっきりと写る赤いアーマーを着た青年、
いやレプリロイドが手の中にある小さな赤い紙をヒラヒラと指でもてあましながら言う。
「ゼロ、こんな所に居たのか?」
「…エックスか」
 青いアーマーを着たエックスと呼ばれた青年が梯子を使ってゼロの居る場所、屋上に上ってきて言う。
「それ、ソニアちゃんがまた配ってた奴だよね、俺も貰ったけど」
 ヒラッ
「ああ、去年七夕をやって、楽しかったらしくまたやる、って言い出したんだ」
 ゼロの手の中にある赤い紙を指さし、エックスが笑いながら自分の手の中にある青い紙を見せて言い、
ゼロも微笑しながらこうなったいきさつを話し始める。
「ソニアちゃんらしいね」
「ああ」
 話しながらエックスがゼロの近くに座り、ゼロもそれを聞きながら横になる。
「そう言えば、ゼロは願い事、どうするんだ?」
「……寝て考える、時間になったら起こしてくれ」
「あ…ってもう寝てる…速い」
 思い出した様にエックスが聞くと、少し考えた後、瞳を閉じ、
数秒としない内に寝息を立て始めるゼロを少々感心した様に見つめるエックス。
「…安心してるって事かな?」
 苦笑してゼロの寝顔を見た後、1人でいつもよりも美しく感じる星空を見上げる。




「タナバタ?」
「そう! 七夕なの!」
 少々意味分からなそうにフリージアが呟くと、ソニアが嬉しそうに笑顔で言う。
「取りあえず七夕って言うのは……
織姫と彦星に叶えて欲しい願い事を短冊に書いて笹に吊すって言うのが今回やる奴、
これは日本でしかあまり見られないらしいぜ」
「中国では短冊じゃ無くて、緑、紅、黄、白、黒、って言う五色の糸を垂らすらしいな」
 少々意味が分からなそうなフリージアにラットグが七夕の事をスラスラと話していき、
その後にレノンが補足的な物を入れる。
「詳しいね2人とも」
「何か…ラットグは納得出来るけど…レノンさんがそう言う事を知ってるって言うのは…
ちょっと意外です」
 感心する様にアクセルが呟くと、フリージアが意外そうにレノンの方を見る。
「まあな、俺も知ったのは英鴻に聞いてだから結構最近だ」
 フリージアの質問に答える様にレノンが肩を竦めて苦笑しながら言う。
「いちおう去年の短冊に書いた願い事は叶ったな、俺は」
「オイラもいちおう叶ったぜい」
「僕は叶わなかったよー」
「当たり前だろ」
 去年の七夕に書いた短冊の事を思い出し、レノンが少々苦笑しながら言い、
ラットグ肩の上で腕を組み、アクセルは残念そうに言うが、レノンに突っ込まれる。
「そう言えば…ソニアちゃんは何を書いたの?」
「ソニアのは内緒なの! でもフリージアちゃんにだけ教えてあげる」
 コソコソ…
「そうなんだ、叶うと良いね」
「うん!」
 ふとフリージアが疑問に思い、ソニアの願い事を聞いてみると、笑顔になり、応援の様な事を言う。
「何だよソニア、その願い事」
「内緒なのー」
 2人の少女の様子が気になったのか、試しに聞いてみるが、
ソニアは笑顔を浮かべて内緒、と口に指を当てて言う。
「それじゃ、さっさと今回の願い事を書きますか」
「ラットグ、去年と同じ願い事書くなよ」
「……チッ」
「舌打ちすんな!」
 アクセルが短冊を取り、願い事を迷いなく書き始めると、
レノンが短冊を持って書き始めようとしていたラットグの方をみてツッコム。
 こうして短冊に次々と願い事を書いていく。




 ゴリゴリゴリ…サラサラッ……
「こんな物か、転送…っと…これで今日の薬の製造は終わり…っと」
 ピピピッ…
「ん? 通信?」
 薬を調合し終えると、それを何処かへ転送し、一息つく暇も無く、通信が入る。
「朱夜だ…何だお前かよジルバ」
「何だは無いでしょ、何だは」
 通信を取ると、その相手に思わず口を少し緩めるが、声は面倒臭そうに言い、
朱夜が微笑んだ事も知らずジルバは不機嫌そうに言う。
「それで、俺様に何か用か?」
「今日は七夕ですね、ですから朱夜さんも願い事を書いてください」
「…話しの趣旨が掴めん」
 不機嫌な声を少しだけ直し、ジルバが用件のみを言うと、
朱夜が少々理解しがたそうにジルバに向かって言う。
「言い直しますと、今日は七夕で、
今ハンターベースの子供達が七夕に願い事を書いて笹に吊してるんです、
ですからもう若いともお世辞でも言えない朱夜さんにも
若々しい幸せを分けてあげようかと思って通信入れました」
「お前殺されたいのかこの野郎」
 スラスラと見事な滑舌で詰まる事も無く、
朱夜の嫌味をスラスラと言っていくジルバに関心を覚えながらも殺気を発する。
「遠慮します、あと100年立ったら考えるかもしれませんが、
後、この短冊、気が向いたら書いてくださいね、
ハンターベースの笹に飾りますので。」
 シュンッ…プツッ
 ハラリ…
 通信がきれると同時に、朱夜の少々荒れている手に薄い黄緑の髪が
ヒラリ、ヒラリと舞い落ちる。
「ったく…何時の間にあんなに生意気になったんやら…しかたねぇ、書いてやるか…」
 シャッ
 口では憎たらしい事を言っているが、直ぐに筆を取り出し、願い事を考え始める。



「あーあ! こいつらのせいで服が汚れちゃったよ! もう!」
 パンパンッ 
ピンクの髪を直し、服に着いた埃を払い落とし、不機嫌そうに言う。
「いくらさぁー、ボクが可愛くてもさぁ! 自分の顔ぐらい見てよね!」
 バサッ
「…ポプリ、あんたねぇ…」
 少々怒る様に真夜中にもかかわらず、日傘を広げる、
これはもはや癖の一つとなっているらしいが、その様をジルバがあきれ果てた様子で見る。
「ジルバさん? あっれー珍しいですねー、何かありまっしたー?」
「今日は七夕よ、だから短冊を寄付しなさい、可愛いソニアの為よ」
「ソニア?」
 いきなり聞こえた女性の声に対して驚く事も無く対応し、
ジルバがいきなりピンク色の短冊を差し出すと、身に覚えの無い名前にポプリが首を傾げる。
「うちのハンターの娘よ、それよりも、短冊宜しく、
他の神威鳳衆の奴等にも渡さなきゃいけないんだから」
 シュンッ
 あっさりとポプリの質問に答え、短冊を手の中に包ませ、一瞬でその場から消え去る。
「…何だったんだろー、まぁ良いや、
ハンターベースに居た時は書いてたし、久しぶりに書こう!」
 近くの岩にハンカチを敷いてハンカチの上に座り、
ピンクの短冊によく似合う濃い赤のペンを出し、願い事をサラサラ書き始める。



「…困った…物ですね…いくら…私がレプリフォース大戦の時の最高司令官だったからって…
襲わないでください…」
 夜空の下で顔の右半分を覆っている道化の仮面で無い方の顔で苦笑する。
「…ヒッヒイイッ!」
 ダダッ!
 カラッ……
 ラズロットの様子を見て、1人の傷だらけのレプリロイドが逃げていくと、
その拍子にラズロットの周りに積み上がっていた、先程までは息を持っていた残骸が崩れる。
「…はぁ、そんなに…怖い顔はしていないのですが…」
「ラズロットさん」
「…ジルバ、どうしたのですか?」
 少々ガッカリした様に残骸の中心から抜け出し、歩き始めていると、後ろから声が聞こえ、
驚く事も無く振り返り、相変わらず生気の無い笑顔と光の無い瞳を向ける。
「取りあえず、お久しぶりです、お元気そうで何よりで」
「…まあ…百歩譲って元気と言う事にしておきます…それで、何か用…ですか?」
 相手を見て丁寧に一礼し、微笑みながら言うと、
少々苦笑しながら道化の仮面を掻くと、直ぐに用件を聞く。
「はい、今日は七夕ですので、
ラズロットさんにも願い事を書いてもらおうと思って、短冊を持ってきました。」
 スッ…
 相手の様子を見て、ジルバも灰色の短冊を出し、
笑顔で相手に書け、と言う様なプレッシャーをかける。
「…分かりました、書いてはおきます…
これは…ソニアちゃん…と言う女の子が提案したの…ですか?」
「はい、よく分かりましたね?」
「…何となくですよ、それよりも…総司令官がこんな所に居ては…皆が困りますよ? 
早くお戻りなさい…」
「あ、分かりました、では…失礼します」
 シュンッ
 ジルバからプレッシャーを掛けられ、しょうがなさそうに短冊を受け取ると、
ジルバの事を気遣い、早く戻る様に言うと、ジルバが最後にも丁寧に一礼し、その場から消える。
「…血は争えませんね…どうやら…今の貴方は…幸せな様です…
どうかこのまま、私の事を忘れて…どうか幸せで…フィアナ…いや…ソニア…」
 夜空を見ていると、右半分の仮面が外れ、夜空がラズロットの素顔を目の当たりにするが、
その時、夜空が彼の変わりに涙を流す様に、流れ星が流れる。
「…君の幸せを祈ります」
 最後に道化の仮面を拾い、再び顔へと装着すると、表情を無に変え、
光が無い薄緑の瞳を闇に向け、静かに、闇に溶ける様に消えていく。




「よーし、皆書けたかー?」
 レノンがオレンジの短冊を持ちながら、皆に視線を向けながら言う。
「終わったぜー」
「僕もー!」
「ソニアも終わったのー」
「いちおう私も…」
 頭上に薄紫色の短冊を掲げ、ラットグが終わったと言い、
皆それに続く様に終わった、と言っていく。
「それじゃー飾ろう!」
「おう!」
 待ちきれない様子でソニアが飾ろう、と言うとラットグもそれに続くように頷き、
2人で笹のある、ゼロ達が居る屋上へと向かっていく。
「コラッ! 待て! 抜け駆けは無しっだつっただろうが!」
「ずるー! 僕も行く!」
 ダダダダダッ…!
 2人の様子を見てレノンとアクセルも慌てる様に部屋から出て行き、
フリージアがポカンとした表情で残される。
「皆…凄いなぁ…」



「…皆飾っちゃったかな…?」
 少々残念そうにフリージアが呟き、屋上へ続く梯子を登っていく。
 ツルッ…
(! あ…)
 フッ…
 次の梯子に手を伸ばそうとすると、足が滑り、反射的に手を放してしまい、
重力に従い、体が落ちていく。
(落ちる!)
 ギュッ…
 ガシッ!…グイッ
「わ!」
 反射的に腕を腕にあげると、急に誰かに腕を引っ張られ、
一気に梯子から屋上へと引っ張り上げられる。
「大丈夫か? ちゃんと足下気を付けろよ」
 トンッ
「! レノンさん!」
 乱暴な様に見えるが、細心の注意を振り払い、腕に後を付けないように
腕を掴み背中を支えて地面に足を降ろすと、少々自分よりも背の低いフリージアを見て、
レノンが心配する様に言う。
「フリージアちゃん! 大丈夫?」
「う、うん…ありがとうございます、レノンさん」
「おう、今度からは気を付けろよ、たまたま彼処に俺が居たから良いものの…」
 レノンにより引っ張りあげられるフリージアを見て、ソニアが心配そうな顔をしてやってくるが、
何とかフリージアが落ち着きを取り戻し、ソニアに返事をし、
レノンに向かってお礼を言うと、普通の様子で言う。
「おーいフリージアー! 早く来いよー! 皆待ってるんだぜー!」
「早くー!」
「え?」
「あいつら、待ってたんだよ、お前の事、まあ俺もだけどな」
 笹の下に居るラットグが待ちかねた様にフリージアを呼び、
その内容にフリージアが首を傾げると、レノンが苦笑気味で理由を話し始める。
「行こー! フリージアちゃん!」
「皆…待っててくれたの?」
「そんじゃ、行きますか? お嬢様?」
 スッ
 ソニアがフリージアの左手を掴み、レノンが紳士的な笑みを浮かべ、
自分の左手でフリージアの右手を掴む。
「レ、レノンさん?」
「よっしゃー! 走るぞソニアーッ!」
「うーんっ!」
タタタッ!
 何時もと態度が違うレノンを少々とまどい気味で見つめるフリージアだが、
次の瞬間にはイタズラっ子な笑みを浮かべ、ソニアもろともフリージアを引っ張って
一気に笹の方へと走っていく。
「はっ速い…!」
「ほいとーちゃくっと。」
 トンッ
 フリージアがそう呟くと、直ぐにレノンがフリージアを下ろし、自らは空を見上げる。
「よーっし! フリージアもレノンも来たことだし! 吊すぞ!」
 待ちくたびれた様にラットグがそう短冊を上に掲げ、言う。
「「「おー!」」」

(…皆…待っててくれたんだ……ありがとう)

「何やってるのフリージア? ほら吊すよ!」
「あ、はい!」
 ラットグの言葉に賛成する様にレノン、ソニア、アクセルが言葉を揃えて言い、
それを見てフリージアが心の中でお礼を言い、アクセルがフリージアを呼び、
フリージアもそれに従って皆の所に行く。



「やってるわねーあいつら」
 神威鳳衆全員に短冊を渡し終え、少々疲れた様子で
ジルバがレノン達を部屋の中から眺めながら言う。
「ああ、去年の七夕がよほど楽しかったらしいな」
「私達は残業だったけどね」
 窓の方に腰掛けているジルバに向かってカーネルが言うと、
少々ゲソリとしながらジルバが苦笑して言う。
「今年は良かったな、残業が無くて」
「ええ、手伝ってくれてありがとう、カーネル」
「気にするな」
 お互いに微笑みあいながら去年の事を思い出し、笑い出す。
「そう言えば、あんたは何か願い事書いたの?」
「ああ、ジルバは何か書いたのか?」
 椅子に腰掛けたままジルバが手の中の深緑色の短冊を見ながら言うと、
カーネルも手の中にある灰色の短冊を見ながら言う。
「…我ながら青い願いを書いたものよ」
「青い?」
「…みたいなら見ても良いわよ、私ちょっと用事が出来たから」
 ズイッ…タタタッ
 少々自分の書いた事を後悔した様に言うと、カーネルが疑問を覚えジルバに言うと、
少々ふてくされた表情でカーネルに短冊を差しだし、自らは部屋から駆け足で出て行く。
「? …これか」
 何故部屋を出て行ったか分からず、少々首を傾げて短冊を見るとその理由が分かり、
自らも部屋から出てまだ姿が見えるジルバを見る。
「ジルバ! 私も同じ願いだ!」
「…そう」
 相手に聞こえる様に声を張り上げると、ジルバが振り返って笑顔で一言言う。
「…年甲斐も無い願いを書いてしまったかな…」
「調子に乗るんじゃない!」
 ヒュットストストスッ!
 カーネルがボソリと呟くと、40m以上離れているジルバの方向から
正確にカーネルを驚かせる程の正確さでダガーが飛んでくる。
「ジ、ジルバ! お前は誤解している!」
「うっさいわね! 誰がいい年したってぇ? その根性たたき直してくれる!」
 その場から動けないが必死に誤解を解こうとするが、
ジルバが殺気を放ちながら一歩一歩近づいてきて当たりに殺気を撒き散らし、
数分ぐらいすると、廊下に断末魔が響く。



「…ゼ…起…てよ…ア…リス…達が…待ってる…」
「…ん…」
 気持ちよくゼロが寝ていると、ふとエックスの声がとぎれとぎれに聞こえて来て、
目を開けていくと、其処にはいつもより美しい星空が写った。
「ゼロ、いい加減に起きなよ」
「…ああ、分かってる」
 少々困った顔をしながらエックスがゼロに向かって言うと、目を眠そうに開けながらゼロが言う。
「お父さーん! 七夕のパーティーの支度出来たよー!」
「こんな所に居たのかよ…ほら、速く初めようぜ!」
 レノンの肩にのったソニアが顔を見せ、言うと、レノンが少々関心した様に呟くが、
直ぐに2人に速く来る様に急かす。
「だってさ、行こ、ゼロ」
「…ああ」
 自らの隣に居る青年の娘と息子の様子を見て、微笑ましい様に微笑み、
先に立ち、ゼロもそれに従う様に立つ。
「ゼロさん、遅いですヨ」
「あ! 英鴻さーん!」
 タタタッ…!
 フと静かに微笑み、2人を見つめる赤い瞳の青年、若仙人英鴻を見つけると、
ソニアが嬉しそうに駆け寄っていく。
「おや、ソニアちゃん、こんばんは、今日はワタシが居なくて寂しくなかったですか?」
「寂しかった〜! 何処に行ってたの?」
 駆け寄ってくるソニアを軽々と持ち上げ、ソニアが頬を膨らませて可愛らしく怒る。
「わざわざ今日の為に頼んでおいた秘蔵のお酒を取りに行ってたんですよ、
こんな日にはお酒を飲むのに限りますからなぁ!」
「…のんべの理屈だなぁ…」
「うん、俺もそう思う」
 嬉しそうに年期の入った酒瓶を取り出すのを見て、
ラットグとレノンがお互いに顔を見合わせ頷く。
「まあそれは良いとしてさ! 速く始めようよ!」
「そうだよ! あたし達も待ってるんだからさ!」
「そうです〜」
「速くしろよぉ!」
 待ちきれなさそうにアクセル、マリノ、シナモン、マッシモが口を揃えてゼロ達を急かす。
「ったく…お前らは…」
「ほらゼロ、皆さん待ってるんだから、速く行きましょう?」
 少々仲間の様子に呆れていると、急に自らの前に手が差し出され、
優しい声と笑顔でアイリスがゼロに言う。
「…ああ」
「ヒュ〜! お暑いねぇ二人とも〜!」
「コラ、水を差すんじゃない」
 ゼロが少々微笑み、アイリスの手を借りて立つと、
ラットグが二人に向かって言うと、英鴻がラットグの頭を小突く。
「ちぇ、オイラは場を盛り上げようとしたのに…」
「あれは盛り上げるって言わないだろ」
 英鴻に頭を小突かれ、少々拗ねる様に言うと、マッシモが冷静に突っ込みを入れる。
「逆に冷めるよな?」
「ですね〜」
 ラットグ達の様子を見てレノンがシナモンに同意を求めると、
ゆっくりとした口調でシナモンも同意する。
「もう、皆ったら」
「…まったくだ」
 皆の様子を見てアイリスが可笑しそうにクスクス笑うと、
ゼロが溜息を付きながらも笑いながら言う。
「お待たせー! ジルバとカーネル参上―!」
「待ってたぜ旦那―!」
 その時、梯子からジルバを肩に乗せた、少々傷だらけのカーネル達が屋上へと上がってくると、
ラットグが場を盛り上げる様に大声を張り上げる。
「何でカーネルは傷だらけなんだろうね?」
「聞くなよマリノ、きっと喧嘩してカーネルが負けたんだからさ」
 カーネルの状態に疑問を覚えてマリノが呟くと、
レノンが聞いてやるなと言わんばかりにマリノの肩を叩く。
「待たせてすまなかったな、少々意識を取り戻すのに時間が…」
「まあ細かいことは気にしないで! パーティーの初めといきますか!」
 少々すまなそうに呟くと、それを誤魔化す様に
ジルバが場を盛り上げる様にカーネルの肩から降り、皆に向かって言う。
「「「「「オー!!!!!」」」」」
 ジルバの問いかけに皆が答え、それぞれ食べたり飲んだり、と楽しい時間を過ごしていく。



「去年の七夕より、人数が格段に増えたな…」
「ええ、増えたわね」
 少々人の輪から外れた所の柵にゼロが寄っかかり、
アイリスがそんなゼロの隣に寄り添う様に立ちながら言う。
「でも…皆楽しそうで良かったわね」
「…まあな…悪ノリしてる奴等も居るが…」
 アイリスが楽しそうに呟くと、少々困った様に自分の息子やその友らの様子を見る。
「てんめラットグ! 俺の菓子取ってんじゃねぇよ!」
「えー、速い物勝ちだろー?」
「そーだよー」
「お前の手は元スリしてただけあって速いんだよ!」
 どうやらレノンが狙っていた菓子をラットグに取られたらしく、
争っているらしいが、当のラットグはそれを承知で取ったらしい。
 ギャーッ! ギャーッ!
「うっさいわよあんた達!」
 ゴンッゴンッ!
 騒いでいるレノンとラットグの背後からジルバが正義(?)な鉄拳を下し、二人に沈黙が訪れる。
「…でも、良かったわね、願い事が叶って」
「ああ、こんな奴等だが…また来年も…こうしていたいと願ってしまうのは…不思議だな」
 クスクスと笑い声を漏らしながらアイリスが言うとゼロも口に笑みを浮かべながら言う。
「今年の願い事は、決まりだな」
「ええ」
 ゼロが短冊を出し、アイリスがそれを見て笑いをこぼし、言う。
「来年も、こうしていられる事を、祈ろう」
「私も、そう思うわ」
 二人で夜空を見ながら、そう呟く、その瞬間、
二人の願いを聞き遂げた様に、星がキラリと光った。
 そして…その笹には…どう吊したかは知らないが、
ポプリに渡したピンクの短冊や朱夜の短冊などが吊されていた。

おまけ

「…今日は七夕でしたか…どうりで騒がしい…」  目を閉ざし、まるで世界を見渡して居た様に目を開け、つまらなそうに呟く。 「吾輩の性にはあわないですけど…まあ姉上に渡されたからには書かなきゃいけないですよねぇ…」  手の中にある赤い短冊を見て少々面倒くさそうに呟くが万年筆を取り出し、願い事を書き始める。 「さー、七夕も終わったし、笹を片づけるわよー」  パンパンッ  七夕の次の日の午後、ジルバが後かたづけを任せたレノン達に向かって手を叩き、 作業を速く片づけようと自らも片づけに参加する。 「何で俺達が…」 「暇だからでしょ?」  しぶしぶな様子だがきちんとテーブルや椅子を片づけているレノンに向かって アクセルも苦笑しながら答える。 「力仕事はオイラ達に任せてフリージアはそっちのテーブルクロス片づけといてくれよ」 「うん、分かった」  ラットグがヨッ、とかけ声を上げ小さいテーブルを持ち上げ フリージアに指示を出すとラットグの指示に素直に従う。 「ジルバさーん、終わったよー」 「やっぱ若いと速いわね、それじゃバイト料のバイキングの無料券、はい」  ヒラッ 「サンキュー! んじゃ早速行くかー!」  パシッ  テーブルなどを全部運び終わったアクセルがジルバに向かって報告すると、 レノンが嬉しそうにそのバイキングの無料券を貰う。 「ジルバさんってこう言うの何処から貰うんですか…?」 「コネで貰うわ、後知り合いから」 「さっさと行こうぜー! 今日は和菓子バイキングがやってんだとよ!」 「あ、はーい! じゃあジルバさん、失礼しますね」 「お疲れ様、それにいってらっしゃい」  タタタタタッ  疑問を覚えたのかフリージアが聞いてみるとジルバがサラリと答えると、 レノンがフリージアを急かし、フリージアがジルバに失礼、と言い、ジルバもそれを見送る。 「レノンの願い事はもう叶ったらしいわねぇ…」  クスクス笑いながらレノン達の後ろ姿を見送る。  ヒラッヒラッ… 「ん? 何かしら… これドッペルに渡した短ざ…」  短冊を拾い上げ、少々興味があったのでその願い事をのぞき込んでみると、 思わず目を見張る願い事が書いてあった。 『来年も政府の高官やらお偉いさん達から沢山貢ぎ物や賄賂を貰えますように』 「…頭が痛くなる願い事ね…」  ハァー、と自らの上司やらの願い事を知ると、思わず溜息が出てしまう。 「フフン♪ やっぱり願い事を書くと賄賂や貢ぎ物がより一層増えますねv」  ジルバが短冊を見つけた同時刻、ドッペルは新たに送られてきた宝石などを嬉しそうに 指輪やネックレスなどを嬉しそうに身につけながら言う。 「後で締め上げなきゃ…あーあ! 仕事が増えちゃったじゃない!」  最後にはこんな願い事を書いたドッペルに向かって少々怒りらしき感情を覚える。 後日談 ドッペル「あれ? 姉上そんな痩せてどうしたんですか?」  宝石などを身につけて幸せそうな様子でドッペルが言う。 ジルバ「あんたのせいでこっちは徹夜もんよ」  絶対バレないと思っていた政府の高官や自らの上司達に 賄賂や貢ぎ物を送った証拠を突きつけ周り、徹夜3日目突入である。 ドッペル「吾輩はホクホクでしたよv  姉上がそいつらクビにしてる間に強奪に入って吾輩の貯金が増えましたv」 ジルバ「そう言えば…もう何千万兆貯まってんのよ…」 ドッペル「こーんな感じです」  少々聞きたく無さそうだが、興味ありげにジルバがドッペルの資産の事を聞くと、 恐るべき数字が書いてある通帳を見せる。 ジルバ「国家予算の何万倍よ!」 ドッペル「これで老後は安泰です」  こうして日々は平和に…過ぎていくのだった。 ジルバ「平和じゃ無いわよー!」  ……1人の女性の犠牲によって。 (※以下はろってぃーさんが書き加えられたものです。) 「…そう言えば今日は…」 キリノはふと足を止めた。 近くには、先ほど斬り捨てたイレギュラーが横たわっている。 「七夕…か」 ふむ、とキリノはその残骸に腰掛けた。 「日本に帰る前に、ちょいと…」 そう言ってキリノは、近くに生えていた木の枝をポキリと折った。 そして、懐からメモ用紙を2枚取り出し、サインペンでそれにささっと文字を書き、 木の枝に2枚まとめて突き刺した。 「ま、こんなもんでいいか」 そう言ってその木の枝を地面に突き立てると、キリノは腰を上げ、空を仰いだ。 と、その時… エンジン音が聞こえ、やがてレプリロイドを乗せた数台のライドチェイサーが接近してきた。 チェーンやナイフで武装したレプリロイド達はチェイサーを止めると、キリノに向かって歩み始めた。 「見ろよ、こんな所にニホンのサムライ野郎がいやがるぜ」 「丁度いいじゃねえか、本物のハラキリを見てみてぇところだったんだ」 そう言いながら凶悪な笑みを浮かべてキリノに迫ってくる。 「…やれやれ…」 キリノのその呟きは、20%の怒りと、80%の哀れみで構成されていた。 怒りは、今の自分の風流な気分を台無しにされたことに対する怒り。 そして哀れみは、正規の武術も修めずにいい気になって、 自分と相手との実力差にも気づかない、馬鹿共への哀れみであった。 キリノは、吹こうと思って取り出していた尺八を、懐にしまい込んだ。 「残虐性と強さは縁のない存在…そのことを教えてやるよ」 「ああん ? 何言って…」 チンピラの1人がそう言った瞬間、キリノは動いた。 しかし、刀は抜かない。 先頭にいた1人の顔面に正拳を撃ち込み、その近くの1人の手首を捻って関節を外す。 「ぎゃああぁ ! 」 そう叫び、そのチンピラは倒れた。 「な、なんだこいつ ! ? 」 「は、はは…な、なんてことないさ…」 背後にいたチンピラの1人が引きつった笑い顔で言った。 この時点で彼らは自分たちの負けを理解するべきだった。 どんな喧嘩でも、闘っている最中に笑った奴は100%負ける。 相手を挑発したり戦意を挫いたりするための「戦略的な笑い」ならともかく、 戦闘中に緊張感に絶えきれず無駄口を叩く奴は必ず死ぬのだ。 その後は全てキリノのペース。 たちまち全員が叩きのめされ、自分たちの乗ってきたライドチェイサーの後部に 鎖でまとめて縛り付けられた。 キリノはひらりとライドチェイサーに跨ると、エンジンをかけて発進した。 地面に引きずられてチンピラ達は苦痛の叫びを上げるが、 今ま自分たちが弱者をそのような目に遭わせてきたのだから、同情は一切必要ない。 「ささの葉 サラサラ  のきばに ゆれる    お星さま キラキラ  金銀砂子(すなご」 それなりに良い声でそう口ずさみながら、 キリノは近くのイレギュラーハンター支部に向かってチェイサーを走らせていった。 後に残された、簡素な2つの短冊に書かれた願い事。 それは… 「馬鹿弟子が腹減らしてませんように」 「ハンターベースにいる昔の上司の娘さんの身に何かいいことがありますように」
  ELITE HUNTER ZERO