晴嵐華さんよりロックマンX小説15「When cherry blossoms scatter〜桜散る時〜」



第一話

「ほら、レノン。もう朝よ?起きて。」 ユサユサ・・・ アイリスがベッドに寝ている我が子レノンを優しく揺さぶり起こそうとする。 優しい彼女だからこその起こし方である。 「・・・・おはよう、母さん。」 ムクッ 「ソニアが今日はお兄ちゃんと遊ぶって張り切ってたわよ?」 「・・・ん、そう言やそんな約束した様な気がする・・。」 アイリスの呼びかけが聞こえたのか眠そうな目を擦りレノンがベットから起きあがる。 そしてソニアの様子を伝えるとレノンも思い出したかの様に立ち上がる。 「ほら、髪の毛解かしてご飯食べて。」 「へーい。」 アイリスがレノンに髪を解かすブラシを渡してテキパキと動きながらレノンに言うと レノンが眠そうにその指示に従う。 「母さん、ちょっと後ろの髪見てくれないか?」 すっかり目が覚めた様子で後ろに居るアイリスに向かって髪を見てくれと言う。 これでも身だしなみには気を使うらしい。 「えーと、ええ。大丈夫よ。ちゃんと綺麗に整ってる。」 「そうか。ありがと。たしかソニアはラットグ達の所に居るんだっけ?」 「ええ。さっきフリージアちゃんとラットグ君に付いて行ったわよ。」 アイリスがレノンの後ろ髪に触り整っていると確認してレノンに伝えるとそのままの姿勢でアイリスに ソニアの事を聞き、アイリスがソニアの行動を伝える。 「分かった。んじゃラットグとフリージア探してくるわ。」 スッ 「レノン。」 「ん、何?」 レノンが立ち上がって入り口の前まで行くとアイリスに呼び止められ、振り返る。 「いってらっしゃい。」 「いってきます。」 シュンッ アイリスが笑顔でレノンに挨拶をするとレノンも笑顔で挨拶を返し、部屋を出る。 「おいおい姉ちゃん、俺の肩に当たって黙って行くつもりかよ?」 「あらゴメンなさーい、顔にも当たっちゃったみたいですね? 顔がこんなにも潰れちゃって、アハハハッ!」 「何だとこのアマ!」 ガッ いかにもお約束、と言ったワンパターンなチンピラにぶつかってしまった ピンク色の髪に赤いリボンを結っていて 服装はフリルが付いたワンピースを着ているまるで人形の様な姿をしている 少女がチンピラの1人に胸倉を掴まれる。 ちなみに此処は公園で人も結構通るが、皆関わりたくないとばかりに視線を背けてその場を去る。 「アハハハッ!顔も最悪だし頭も悪いんだー可哀想にー 少しはシンジゲート・コスモの人達でも見習ったらー?」 スッ 「あんだとっ!?」 「と言うか、もう貴方達と話したくないので、さっさと倒させて貰いまーす。」 トンッ 「ふざけんじゃねぇ!」 シュッ! 少女がチンピラの手を自分の胸ぐらから外すと、自らが持っていた日傘を地面に指し目を閉じると チンピラの1人が逆上して少女に拳を突き出す。 「・・・「糟圧」・・・」 スッ・・・・ 日傘を自らの頭上に掲げて冷静な声で呟く姿を見ると戦闘には慣れている様な感じだが 何処からどう見てもこの少女がチンピラに勝てるような力を持っているようには思えない 「!な、何だ・・・・この違和感・・・!」 少女が日傘を自らの頭上に掲げた瞬間チンピラの1人が異常を訴えて歩みを止める 「ギャアアアッ!」 「なっ何したこのアマ!」 次々とチンピラが異常を訴えて地に伏せっていく中でもチンピラのリーダー格と思われるレプリロイドが 少女に向かって大声を発する 「アハハッ!しばらくそーしてなさーい。イレギュラーハンターの人が引き取ってくれるまで。」 「なっ!しばらくこのままで居ろと言うのか!?」 「そー言う事♪じゃーねぇーボク用事があるので失礼します♪」 「まっ待ってくれ!せめてこれを解いて・・・!」 「バイバーイ♪」 少女がチンピラ達に背中を見せて立ち去ろうとするとすかさずチンピラのリーダー格の男が少女に声を掛けて 自分の事態を確認すると先程の態度とはまったく違う様子で答えるが少女はそれを気にする事も無く 何処かへ向かって歩いていく シュンッ 「んー、ラットグとフリージアの奴。談話室にはいないとすると・・・・訓練所か?」 タッタッタ・・・・ レノンが談話室の扉から出てきて頭をかしげながら自らの友達の行き先を考え始めていると誰かの 足音が聞こえ、思考を中止させる。 「レノン。ソニアは一緒じゃ無いのか?」 「何だ親父か。」 近づいて来た人物。それは自らの父親の「ゼロ」でレノンも思わず何だ、で済ましてしまう。 「今探してる所だ。そんで何の用だ?」 「ああ。実は先程通信が入ったらしい「不良を引き取って欲しい」と」 「・・・・別に何も変わった事は無いだろ、ハンターベースにチンピラを引き取って欲しいなんて言う 通信は1日に数十件入るし・・・・」 レノンがゼロの本当の用はソニアを探しに来た事では無いと分かっていた為早々に用件を聞き出す。 ゼロの話しを聞く分には別に不思議な事は無いように思えてレノンの中に疑問が生まれる 「そのチンピラの供述が不思議だったんだ。そいつらの言う分ではやったのはお前と同じ歳くらいの子供らしい」 「・・・・そのチンピラ・・・・頭イカれてんじゃね?」 ゼロが不思議な部分を話し終えるとレノンが面倒くさそうな顔でそのチンピラの頭が可笑しいと 結論づける。何しろ裏の世界に行けば頭が狂っている奴など大勢居る。 「だがジルバが言うには心当たりがあるからそのチンピラの頭は少しは正常性があると見て 今はエックスとアクセルが詳しく事情を聞いている。」 「・・・・ふーん。まあ俺には関係無ぇけど。」 「それと。ソニアが先程ラットグとフリージアと一緒に公園の方向へ歩いていくのを見たが お前は一緒に行かないのか?」 ゼロがそのチンピラ達の事を話すとレノンが素っ気ない態度で言うと、ゼロが思い出したようにレノンに聞く。 「あいつら居ないと思ったら公園か。んじゃ俺も行くわ。」 「そうか。昼飯には帰って来いよ。」 「ああ。分かってるさ、んじゃ行ってきます、と。」 タッタッタ・・・・・・ ゼロからソニア達の居場所を聞くとゼロに背後を向けて立ち去ろうとするが最後に思い出したように 振り返り、挨拶をして走り去る。 「・・・・あいつも結構変わった物だな・・・・。」 自分に挨拶までする様になったレノンの様子を見て呟く。 『ふーん。お前がゼロか・・・・噂通り破壊神って面してるぜ。』 『誰だ。』 廃墟の建物にスコープで顔を覆った少年が座り、血の様な赤いアーマーを纏って居る青年に向かって 少年が挑発と取れる話し方をするが青年は冷静に挑発を無視して少年を冷たい眼差しで見つめる トンッ 『・・・俺はレノン・・・まだこれ以上は言えねぇ。俺も命が惜しいからな。』 『・・・・俺に何の用があって来た。』 廃墟から立ち上がりそしてそのまま飛び降りて華麗に着地を決めるとゼロの方を向いて 自己紹介をするがゼロはレノンの言っている事が耳に入っていない様子で言う。 『あんたの恋人が待ってる。』 『!』 レノンがゼロの恋人、つまりアイリスの事を遠回しに言うと初めてゼロが反応を見せる。 『あんたを殺す為にな・・・さっさと行けよな。』 『お前・・・何者だ!』 『さあな。それじゃああばよっ!』 バサッ! レノンが面倒臭そうな態度をして言うとゼロがゼットセイバーを出してレノンに鋭い視線を投げつけるが 当の本人は全然気にしている様子は無く背中から白い翼を出して立ち去る。 「・・・・・あの頃はこうなるとは思っていなかったな。」 レノンが走っていった廊下を黙って見つめるが、その表情には出会った当初の嫌悪は消えていて 少し憂いが混ざった表情であった。 「えいっ!」 ポンッ! 「そらっ!」 ポンッ! 「そ、それっ!」 所変わってこちらはハンターベースの近くに面している公園。 その芝生の上でソニアを筆頭にラットグとフリージアがボール遊び中 まあ恐らく後の2人はソニアに無理矢理連れてこられたんだろう。 「よっし!スマッシュッ!!」 バシッ 「スマッシュ返し!」 バシッ 「キャァッ!」 トンットンッ・・・・コロコロ・・・ ラットグが目を怪しげに光らせボールを強く叩きスマッシュを繰り出すが さすがはゼロの娘と言った所だろうか、ソニアは怯えることもなく ボールをより強く叩き返すがフリージアはそのボールを避け、そのボールは地面に落ちて転がる。 「あー、絶対に取られないと思ったんだけどなー・・・さすがはゼロの旦那の娘だよなぁ。」 「ごめんねフリージアちゃん!今ソニアが取ってくるね!」 タッタッタッタ・・・・ 「あっソニアちゃん!」 ピピピピピッ・・・・ピピピピピピッ! 遠くに転がっていくボールを見ながらラットグが呟くとソニアがボールを取りに行くと 草むらに入っていきその直後に通信機が鳴り響く 「あ、はい。フリージアですけど・・・・何かありましたか?」 『フリージア。聞こえる?エイリアだけど。』 「エイリアさん。何かあったんですかい?」 フリージアが通信機を取り出し応答すると、画面にエイリアが表示されて状況を確認する。 ラットグも気になったのかフリージアの横からエイリアに話しかける。 『今は何処に居るのかしら?』 「E―314ポイントにある公園ですけど。」 『大変!其処でさっき事件が起きたのよ!ただのチンピラだけど何者かに皆やられたの! まだそのチンピラを叩きのめした人物が居るかもしれないから帰ってきて!』 「ソニアちゃん!」 「えっ。ちょっと待てよフリージア!」 エイリアがフリージアの居る場所を尋ねてきたので素直にフリージアが場所を教えると エイリアの様子が変わり早々にハンターベースに帰ってくるように促すと 1人でボールを探しに行ったソニアの事を思い出し、 走り出すとその様子を見ていたラットグも早々にフリージアを追いかける。 「ボール何処かなぁ?」 ガサガサッ・・・・ 「たしか此処に転がっていった感じがするのに・・・・」 ソニアは草むらの中に入ってボールを探しているがまだ見つかって居ない様子で 少しションボリした様子で当たりを見渡す。 「どうしよう・・・・・」 「貴方の探し物ってこれの事?」 「えっ。誰?」 ボールが見あたらないと分かると項垂れ、泣きそうになっていると 上から誰かの声が聞こえ思わずその方へ顔を向ける。 「ボク?ただの通りすがりだよ。」 「あっボール!お姉ちゃんが見つけてくれたの?」 「うん。そうだよ。はい。」 ポンッ 「ありがとう!」 そこに居たのは先程チンピラ達を叩きのめした少女でソニアに自らが持っていたボールを渡し、 ソニアはそれに気付かず笑顔でお礼を言う。 スタッ! 「どう致しまして。あのさあお嬢ちゃんお願いがあるけど、良いかな?」 「なぁーに?」 少女が木の上から飛び降りてソニアにお願い事をするとソニアが首をかしげて尋ねる。 「ハンターベースの場所を教えて貰いたいんだ。知ってるかな?」 「うん!知ってるよー着いてきて!」 「本当?それは助かるなー。」 少女がソニアの目線に屈んで話すとソニアがボールを持ってハンターベースの方向へ走り出すと 少女も立ち上がりゆっくりとしかし距離を適度に取りながら ソニアの事を日傘を広げながら追いかける。

第二話

「ったく・・・あいつら何処ほっつき歩いてんだ?」  レノンがヘルメットを取った状態で頭を掻きながら辺りを怠そうに見渡す。 「何か騒がしい・・・・あいつら何やってんだ?」 ガサッガサッ・・・・ 「あ。レノン。何でお前が此処に居るんだ?」 「・・・・お前らを探しに来たんだよ。」 辺りの様子に気付き眉を潜めると草むらからラットグが出てきて此処にレノンが居る事に首を傾げる 「そんでソニアはどうした。お前らと一緒に居るんだろ?」 「それが実は・・・・居ないんだよ。ソニアちゃんが。」 「なーるほど・・・・・って・・・・・おいっ!どういう事だよ!」 レノンがラットグに向かって言うとラットグが困った顔で頬を掻き 覚悟を決めた様子でレノンにソニアが居ない事を告白すると 一瞬納得するがすぐに思考が働きラットグの肩を掴む。 「オイラにもサッパリだっつーの!ボールを取りに行ったと思ったらいなくなってたんだ! 辺りには怪しい気配は微塵も無かったのに・・・・。」 「あぁー・・・・親父とカーネルに殺される・・・お前も・・・俺も。」 「「・・・・・・。」」 シーン・・・・・・ ラットグが頭を抱えながら言うとレノンが顔を青くして地面に座り込んで言うと辺りに沈黙が走る。 「「絶対見つけ出すぞ!!!!!!!」」 ガサガサッ!! 「ソニア何処だー!?」 「ソニアちゃーん!」 2人で意気投合し、急いで辺りの草むらや広場を探し回る。 だが2人はすでにソニアはハンターベースに向かっている事を知らなかった。 「こっちで良いの?お嬢ちゃん。」 「うんっ!そうだよー。」 日傘を差して顔半分を隠した状態で少女が聞くと、ソニアが振り返って笑顔で答える。 (あ。連絡入れるの忘れちゃったなぁ・・・・でも良いかな。 わざわざ連絡したら政府がうるさいし。) 「お姉ちゃん!」 「あ。何?お嬢ちゃん。」 少女が思い出したように考えているとソニアが少女の事を大声で呼び、少女が返事をする。 「お嬢ちゃんじゃ無いよー!ソニアだよ?」 「そう。じゃあソニアちゃん。何かな?」 「お姉ちゃんのお名前を教えて!」 自分より幾分か背の高い少女を見上げながらソニアが言うと 少女もそれに気づきソニアに目線を下げる。 「ボクの・・・名前?」 「うんっ。名前!」 「ボクの名前は・・・・・。」 ドッッカーーッン!! 「!・・・・爆音・・・?」 タタタタタッ 「あ!お姉ちゃんッ!」 タッ 少女が驚いたように言うが次の瞬間は名前を言おうとしたがその直後に爆音が響き、 少女が日傘を閉じその爆音の方に走っていくとソニアもそれを見て走り出す。 (・・・ただのイレギュラー?・・・・にしては爆発の規模が大きすぎる・・・・ 何?いったい。) ピンク色の髪を揺らしながら常人ではありえない速さで走りながら 様々な思考を巡らせながら爆音の場所に向かっていく。 「あのお姉ちゃん速い!ラットグ君よりは遅いけど・・・!お父さんと同じくらい!」 ソニアが少女の背中を追いながら言う。 バンッバンッ!バンッ! 「キャアアアッ!」 ドカーンッッ!!! 辺りに爆音が響き、次の瞬間に何かの建物が半壊する。 「園児達の避難は終わったか!」 「はっはいっ!」 「じゃああんたらも逃げな!此処は俺様が引き留めるからよっ!」 ドカンッッ! 1人の大鎌を持ったレプリロイドが大声を張り上げながら人間の女性と話しているとまた 新たな爆発が起き、辺りが砂煙に包まれる。 「くっ!速く逃げろっ!此処に居たら死ぬぞ!」 「分かりましたっ。トラヴェルさんもお気を付けてっ!」 女性の事を大鎌で庇うと、その女性も大鎌を持ったレプリロイド、 トラヴェルの指示に従い早急にその場を立ち去る。 「ヒャァハハハハッ!俺様の事を誰だと思ってるんだ!俺様がこんな所で死ぬか・・・・よっ!」 バッ ドオオンッッ! 女性が立ち去った後、まさに死神。っと言った笑い声を上げて自らに向けて放たれた砲撃を避ける。 「やはり一筋では行かないか。少々数が多すぎだと思ったが・・・・丁度良かった様だな。」 トラヴェルが砲撃を避けるのを見ていた黒い猫・・・・いや黒豹型のレプリロイドが口を開き 冷たい視線をトラヴェルに向ける。 「へっ。まーさか・・・・ あんたらシンジゲート・コスモが俺様に気をかけてくれるたぁーありがてーな。」 ザクッ トラヴェルが大鎌を地面に突き刺し、その上に自分の足を乗せながら言う。 「我らはシンジゲート・コスモの影の部隊・・・・影夜隊。今回は貴様を始末する為に参った。 そして我の名は・・・・。」 「やれるもんならやってみやがれ!このバカ猫野郎がぁッ!!!」 そしてトラヴェルの様子を見た黒豹のレプリロイドが名前を名乗ろうとする前にトラヴェルが挑発的に 黒豹のレプリロイドを馬鹿にする。 「噂通りの無礼者だなッ・・・・お前達は我の援護をしろ!」 バッ 名前を名乗る時に言葉を遮られて少しは憤りを感じたようだが直ぐに冷静に戻り、部下に指示を出すと その場から黒豹のレプリロイドが姿を消す。 キィンッ キィンッ ドガッバキッ そしてしばらく時が経つと姿は見えないが武器と武器がぶつかった様な音が聞こえ、その次の瞬間には 殴り合いをしているような音が辺りに響く。 『なかなかやるじゃ無ぇかッ!でもそろそろ終わりだなぁ?猫野郎!』 『クッ・・・さすがにシンジゲート・コスモの幹部候補として作られただけはあるなッ!』 キィンッ・・・・バキッ! 「ぐあああぁぁぁ!」 トラヴェルが高速移動をしながら黒豹のレプリロイドに皮肉を言うと 黒豹のレプリロイドは攻撃を受けるのが精一杯の様で 顔を憤怒の表情では無く、辛そうな表情に歪めた瞬間、隙を付いたトラヴェルに殴り飛ばされる。 「フーレット様!」 「ぐっ・・・・。」 「止めだ!」 ヒュッ・・・・・ 此処でようやく黒豹のレプリロイド、「フーレット」の名前が呼ばれるが トラヴェルはそんな事は聞いては居ないようで フーレットに止めを刺そうと大鎌を振り下ろす。 ビィィィンッ 「あ・・・・?」 ドサッ・・・ 次の瞬間、鋭い何かがトラヴェルの体を貫き、何がなんだか分からない内に倒れるトラヴェル。 「これは・・・・へっ・・・・随分俺様を殺すのに・・・・念が入ってるじゃねぇか・・・わざわざ・・・・。」 ビイインッ ザシュッ・・・ 「ぐあああッッ!」 トラヴェルが顔を上げ、一瞬目を見開くとその視線の先に居る人物を睨むと、閃光が走りまた 何かがトラヴェルの体を貫き、耳を劈く悲鳴が辺りを支配する。 「メヌエットのコピーデータを盗むとはよ・・・・ケケッ・・・・ さすがは俺様の元相棒ッ!ヒャハハッ!いっでぇーッ!」 悲鳴を上げた後、傷跡を押さえてもはや思考が狂ったのか、痛みを笑いで吹き飛ばす。 「・・・・・予定とは違ったが、まあ良い・・・我らの完全秩序の為に死ぬが良い!構えッ!」 ジャキッ 「あーーっ・・・・ヤッベェー・・・・ラフェスタ、メヌエット・・・・俺様今そっち行くわ。」 バンッバンッバンッ!! 「ハハハッ・・・・じゃあな・・・・。」 トラヴェルに向かってコスモトルーパーが銃を構えるのを見て、観念したのか 空に向かってかつての仲間、とはとても言えないが一緒に居た事のある2人の顔を思い浮かべ、 最後にこの世に向かって別れを告げ、笑顔のまま目を閉じる。 「靜圧。」 トラヴェルに弾が当たる直前、1人の少女の声が耳に響く ズシィィィンッッ! 「ッギャアアアアアアッ!!」 少女の声が響くと、フーレットが地に伏せていきなり悲鳴を上げ始める。 よくよく見ると彼のアーマーは押しつぶされた様に皹が入り、所々砕け始めている。 「潰れるッ!!フーレットさ・・・」 グシャッ! バキッバキッ・・・・ フーレットは耐え切れた様だが、他のレプリロイドやコスモトルーパーは悲鳴を上げながら潰されて行き メカニロイドは悲鳴すら上げられずに砕け散って行く。 「ど、どうなってんだこりゃ・・・・ッ。」 「簡単な事だよ。あいつらの周りだけにテリトリーを絞って、圧力を50倍にしてやっただけ。」 何時までも衝撃が来ない事と、悲鳴に気付いて起きあがると 其処には数秒前とはまったく違う景色があって 後ろからまだ幼さが感じられる声が聞こえる。 「おっお前は!?」 「ボク?ボクは・・・・・。」 「神威鳳衆が1人。「桜帝」ポプリ。宜しくね♪」 トラヴェルが驚いた様に少女に言うと、ポプリが人懐っこい笑顔を浮かべて日傘を差し、 トラヴェルに向かってウィンクをする。 「神威鳳衆!?それって・・・・ジルバさんと・・・・。」 「あっお姉ちゃーーんッ!やっと見つけたよーッ!」 神威鳳衆、と言う単語を聞くと今までで一番驚いた様子で目を見開いて居ると、 ソニアがポプリに向かって走ってくる。 「あ。ソニアちゃん。」 「もー!速いよーッ!先に行っちゃってー!」 「ごめんごめん。あ、ちなみに言い忘れたけど。ボクの名前はポプリ。宜しくね♪」 ポプリが視線をトラヴェルから外してソニアを見ると、 少しソニアは怒ったような表情を見せそれを見たポプリが笑顔で謝る。 「ううん。良いよ!ポプリちゃん!」 「お、おいソニアちゃん・・・こいつは・・・・!」 「トラヴェルさん!怪我してるッ!速くお医者さんに見せなくちゃッ!」 グイッ 「あ。」 ソニアがポプリの名前を聞いた後、一瞬ポカン、とした表情をしたが、 直ぐに笑顔を取り戻すとトラヴェルがソニアの肩を掴み 弱い声で言葉を発しようとすると、ソニアがトラヴェルの怪我の気づき、 腕を強く引っ張ると、空気が固まる。 「アンギャアアアアアアッッ!!!!」 バタンッッ よっぽど痛かったのか物凄い断末魔を上げ、そのままその場へ倒れ込む。 「わっわーーっ!トラヴェルさん死なないでーッ!」 「あらら。ソニアちゃん。ボクがこの人担ぐから速くハンターベースに行こう?」 ズッ 「うんっ!」 ダッ ソニアがトラヴェルを揺らしながら言うと、 ポプリが自分よりも身長が高いトラヴェルを軽々と持ち上げると、 ソニアもよっぽど急いでるのか、走り出す。 でもソニア、君は大変な事を見逃している。普通の女の子は男の人を軽々担げません。 普段からジルバを見ているせいかこう言う所は鈍くなってしまったらしい。 「何かボクが居ない間・・・色々な事があったらしいなぁ・・・・ 後でジルバさんに説明してもらおう。」 ポプリがトラヴェルの事を担ぎながら、走っているソニアを追い越して言う。 「やっぱりポプリちゃんはお父さんと同じくらい速いよぉーッ!」 トラヴェルを担ぎながら自分を追い越したポプリを見ながらソニアが叫ぶ。 「何処だよソニア・・・・。」 「オイラ、お師匠さんと会うまで死ぬのはゴメンだぜぃ・・・。」 ガサガサッ・・・ ちなみに2人はまだソニアの事を探してましたとさ。 「・・・・何であんな必死になって探してたのかな?」 知らぬが仏だよフリージア。

第三話

「此処がハンターベースで良かったの?」 「うっうん・・・・そうだ・・・・よっ。」 ゼェ・・・・ゼェ・・・。 ハンターベースのフロントの様な場所に入って ポプリがソニアに向かって質問をするとソニアは息絶え絶えに答える。 ちなみに辺りには人影はまったく無い。普段ならば此処はにぎわっている筈なのだが。  「じゃあソニアちゃん。ボクちょっと会いに行かないといけない人が居るから行くね? あ。トラヴェルさんは此処に置いておくから、誰か呼んできて。」 「え?ポプリちゃ・・・あれ・・・消えちゃった・・・。」 「うっ・・・・。」 ポプリが近くの椅子にトラヴェルを静かに座らせると、笑顔でソニアに手を振ると、 ソニアが後ろへ振り返ってみると其処には誰も居なくて、トラヴェルのうめき声だけが響く。 「あ!速く誰か呼んで来なきゃ!」 タタタタタッ・・・・ 「頼んだよ。ソニアちゃん。」 シュンッ・・・ トラヴェルのうめき声を聞いて正気に戻ったのか慌てて誰かを呼びに行く。そしてポプリが物陰から出てきて 壁に掛けてある天使が描かれた絵画に手を翳すと、無い筈の扉が現れて ポプリがその中に入ると、扉が跡形もなく消える。 ウィイイイン・・・・ガタンッ カッカッカッカッ・・・・ 「相変わらず長い廊下だなー。こんな物良く作れたなージルバさんってよっぽどコネがあるんだ。」 中世ヨーロッパ時代の様な雰囲気のデザインが施してあるエレベーターから降りると 様々な絵画が所狭しに飾られていてそれに視線を向けて感心した様にポプリが呟く。 「それに。こんな宝石・・・・政府が見たら目を輝かせて欲しがるだろうねー。」 キラキラ・・・・ そして次に視線を向けたのは直径約40cmは軽々あるダイヤが 十字架の形にカットが施されている物で、豪華な彩色が施されている扉の中心に埋め込まれている。 「ま。ボクには関係無いけどー。」 ゴゴッ・・・・スッ 「ジルバさーん、ポプリでーす!開けて下さいな♪」 肩を竦めて慣れた手つきで十字架の形のダイヤを軽く押すと、 十字架のダイヤが奥に入っていき、ダイヤの代わりに 歴史を感じさせる装飾が施された電話が現れ、その受話器をポプリが取り、喋る。 『あんたねー、来るなら前もって連絡しておきなさいよ。わざわざこんな昔の通路通って来て。』 「だって連絡すると政府がうるさいんですもーん。」 『まあ良いわ。さっさと上がって。』 ギイイイイイ・・・・・ ポプリが受話器に向かって喋って10秒もしない内にジルバの声が静かな廊下に響き、 ジルバが電話を切ると扉が開く。 「あいあい♪今行きまーす。」 タッタッタッタ・・・・ ギイイイイイ・・・・・ 扉が完全に開いたのを確認すると、走って扉の中に入っていくと 扉が自動的に閉じて廊下に沈黙が訪れる。 「・・・・・ハァ。また厄介な奴が1人増えたわぁ・・・・。」 グデー・・・・ 銀色の短髪に印象に残る金色の瞳、戦場ではその恐ろしい強さと人を惑わす美しさから 「白神」と呼ばれた現、イレギュラーハンター最高司令官「ジルバ」が 心底ダルそうに机に伏せる。 まあ普段から色々と部下達の不始末に負われているのでしょうがない事だが。 「お邪魔しまーす!」 ゴゴッ・・・ ポプリがジルバの部屋にある分厚い本が並べてある本棚を横にずらしてジルバに笑顔で挨拶をする。 「来たわねお邪魔虫。」 「お邪魔虫は酷く無いですかー?」 ガタンッ ジルバがポプリに向かってダルそうな視線を向けるとポプリが苦笑しながら本棚を元の位置に戻す。 「良く言うわよ、自分に突っかかってきたチンピラ。わざわざ能力使ってノックアウトした癖に。 その後の処理大変だったんだからね。」 ドンッ 眉を顰めながらポプリへ文句を言っていき、机から書類を取り出して机の上に置く。 「何ですかコレ。」 「ラズロットさんからあんたへの特別メニューの束よ。」 「えーーーー!!何でお師匠様にボクが帰って来てる事言ったんですかァッ!」 バンッ ポプリが書類の束を見て首を傾げるとジルバが隠すことなくキッパリと言い放ち、 それを聞いたポプリが机を叩いて抗議する。 「たまにしか帰って来ないんだからしっかり修行しなさいよ・・・・ それとも何?私の命令が聞けないって言うの?」 ゴオオオオオ・・・・・ 「ハ、ハイ・・・・ワカリマシタ。」 ジルバがポプリの抗議を受けると自らの背後に毒々しいまでのオーラーを纏い、 迫力ある表情でポプリに向かって言い放つと恐怖を目の当たりにして 顔色を真っ青にしたポプリが片言でジルバの言う事を聞く。 「分かれば良し。」 「・・・・(さすがは白神と呼ばれただけの人はあるなぁ・・・・)」 ポプリが言う事を聞く事を確認すると、 オーラーを納めて笑顔でポプリに向かって言葉を掛けるジルバを見てポプリが内心で言葉を呟く。 「で、ラズロットさんからの特別メニューの中には 私との組み手も含まれてるからさっさと行くわよ。」 「はーい。」 ガチャッ・・・・・バタンッ ジルバが座っていた椅子からゆっくりと立ち上がりポプリに声を掛けると日傘を肩に乗せながら 扉を開けて外に出るジルバの後にポプリが続き、扉が閉まると沈黙が部屋を支配する。 ゴゴッ・・・・ 「何だ、留守の様ですね。折角この通路を通ってまで来たのに・・・酷いですよ姉上。 吾輩骨折り損です。」 ガタンッ ポプリが入ってきた本棚を怪しいフードの男、ドッペルが入ってきて本棚を元の位置に戻す。 「まっ。少々待ってみますかv・・・えーと・・・お茶は右の棚の3個めの引き出しですねー。」 ガタンッ 慣れた様子で棚の引き出しの中からお茶の葉を取りだし、机の上にあったポットを手に取り、 中に入っていたお茶の葉をゴミ箱に捨て、 先程棚から取り出したお茶の葉を入れ、ポットのお湯を入れてまた棚の方に歩いていく。 「あ。まだ残ってましたか。吾輩専用のこのカップ。」 カチャッ 棚の中を見ると、一つのカップが目に入り、 思わず口を緩めながら手に取ってマジマジとそれを見つめる。 自分の姉がイレギュラーハンターの総司令官になったと聞いてこの秘密通路の事を突き止め、 こうやって部屋を頻繁に訪れる様になって 何時も文句を言いながらも必ずお茶を入れてくれる姉が自分用に買ってくれた 小さい赤い兔が描かれた白いカップである。 「・・・・このカップと吾輩の優しさに免じて今回は遊びに来ただけと言う事にしておきますか。」 トポポポ・・・・・ ドッペルが笑みを浮かべてティーポットからカップにお茶を入れ、 勝手に不法侵入ティータイムを楽しんで居た。(ぇ) 「あ。忘れてた。」 「え。何がですか?」 所変わってこちらはジルバとポプリ。 いきなりハンターベース内の廊下を歩いていたジルバが立ち止まると ポプリがジルバの顔をのぞき込んで聞いてみる。 「ゴメンポプリ。ちょっと私の部屋に戻ってて?私トラヴェルに話聞くの忘れてたわ。」 「ありゃ。それは問題ですねー分かりました。戻ってまーす。」 「ホントゴメン。急いで戻ってくるから!」 タッタッタ・・・・ ジルバが急いで医療室に向かうとポプリもジルバの姿を見送ってから 最高司令官室の隠し扉のある位置に戻る。 「トラヴェルさん、大丈夫?」 ソニアがベッドに寝転がっているトラヴェルを心配そうに見つめながら呟く。 「ヒャハッ・・・・まあ何とか生きてる・・・かなぁ?」 「疑問形じゃ無くてちゃんと生きてますよ?」 「あー。確かに喋ってるもんなぁ・・・。」 トラヴェルが弱々しい声でソニアの問いに答えるとその答え方に アイリスが答えるとトラヴェルも納得したように呟く。 「トラヴェルさん。ソニアが引っ張った腕・・・痛い?」 「んー?そんなに痛くねぇーよ。気ィ落とすな。ソニアちゃん。」 ポンポンッ ソニアが遠慮しがちにトラヴェルに聞くと、笑顔で気にするな、と笑顔で頭を撫でる。 「・・・・・うん。でも・・・・」 シュンッ 「ゼーハーゼーハー・・・・あ。居たわねトラヴェル・・・。」 「ジ、ジルバさん?どっどうしたんですか?ヒャハッ。」 ソニアが続きの言葉を紡ごうとしたら急に医療室の扉が開き、 其処に居た肩を上下にして息をしているジルバを見てトラヴェルが遠慮がちに尋ねる。 「ちょっと・・・・話しがあるの・・・アイリス・・・悪いけど、席を外してくれるかしら?」 「はい分かりました。ソニア。行きましょう?」 「えっでもー・・・。」 「ジルバさんが困っちゃうからね。」 ヒョイッ 「あっお母さん!ちょっと!」 シュンッ ジルバが息絶え絶えにアイリスに向かって話すと、アイリスも快くその要望に応じ、 何かを言おうとしているソニアを軽く抱き上げ、医療室から退室する。 「さて。まずは状況把握からしていきましょうか。 聞きたいことは何でも聞いて。今なら全部答えてあげるから。」 「・・・・まずは。俺を助けてくれた・・・あの女の子の事だ。 あの女の子は自分を「神威鳳衆」と名乗っていた・・・。 表向きは連邦政府が所持しているレプリロイドの中で最高の権力を持つ集団。 裏はよく知らねぇがとてつもない任務を受けてるって聞いた。 そんな凄ぇ集団には・・・・あんな女の子も居るですかねぇ?」 「ええ。居るわよ・・・神威鳳衆は素性や設定年齢は関係無いもの。」 ジルバが近くの椅子に座りトラヴェルの質問を普通の態度で聞き、 トラヴェルの望む解答をスラスラと口に出していく。 「それに・・・・ジルバさん、あんたも昔「白神」とまで言われて恐れられてたのに・・・ どうして最高司令官なんかに?」 「賢いわね、トラヴェル。これは絶対内緒よ・・・私とあんただけの。 喋ったら・・・あんたの命を奪いかねないから絶対喋らないで。」 「・・・・ああ、この命に誓う。」 1番の疑問とも言う様にトラヴェルが深刻そうに口を開くと感心した様にジルバが笑みを浮かべ、 最後に絶対喋るなと釘を打つとトラヴェルがそれに従う。 「これは連邦政府の最大トップシークレット。 この情報は連邦政府以外の人間には決して漏れる事は無い・・・・ て政府のお偉いさん達はそう思ってるけど。 私が知っている限りにはこの情報を知っている人物が1人居る・・・・ でもそいつの名前は言えないのよ、そいつとの契約で。」 「追求はしねぇさ。あんたが契約する様な人だ。信用出来るんでしょう?ヒャハッ」 「まあ何処か掴めない奴だけど、信用は出来るわ。」 ジルバが話していく中でそのトップシークレットをまんまと盗み出した男の事を思い出し、 思わず眉を顰める。 「簡単に言うと、私の前の最高司令官はレプリフォース大戦の時殺されて、 その時1番功績を上げてた私が最高司令官に就任した、て言う記録は間違いなの。 本当の記録では私の前の最高司令官は・・・神威鳳衆の1人「道化師」ラズロット。 本名、生い立ち、製造経過などは全て不明の謎の人物。 そして、私とポセイドン、ポプリ、他の神威鳳衆全員の師匠。」 ジルバが真剣な表情になり、1つ1つの言葉をしっかりと紡ぎ出していき、 最後の言葉を紡ぎ終わった時には酷く疲れた様子だった。 「・・・そんな凄ぇ秘密・・・教えてくれて良いのかよ?・・・ 俺なんかに・・・これがバレたらあんたも処分されるんだぜ・・・・?」 「良いのよ。」 トラヴェルが心底驚いた表情で床に視線を伏せたままのジルバを見ながら呟くと、 視線を下げたままのジルバがトラヴェルに返事を返す。 「あんたはもう私の仲間よ。過去がどうあれど・・・今は消せない。違うかしら?」 「・・・・負けたぜ。ジルバさん・・・あんたすげぇや・・・ハハハッ。」 ボフンッ ジルバが微笑みながらトラヴェルに言うと、その表情を見て トラヴェルが顔をほのかに赤くして笑いながらベットに体を横にする。 ガタッ 「それじゃあ私、用事があるから行くわ。お大事にね。」 「どうもサンキューでーす。ヒャハハッ。」 シュンッ 椅子から立ち上がり、笑顔で手をトラヴェルに手を振り扉の前に立つと、 トラヴェルも何時も通りの態度で手を降り返す。 「なーんか・・・カーネルさん大変そうだな・・・ライバル多そうで。ヒャハハッ」 ジルバが去った後、カーネルの事を思い出し、楽しそうに微笑み、 徐々に瞼が落ちていき、最後には眠りにつく。 「ふー・・・・やっと付いた・・・最高司令官室・・・遠いよ!」 ガチャッ 「?・・・・あれ・・・さっき・・・ 此処にティーポットとティーカップなんて置いてあったっけ・・・?」 ポプリが最高司令官室に入ると、其処には先程までは無かった、 ティーポットと赤い兔の描かれたティーカップが置いてあり、 辺りを見渡すが、気配や違和感は感じ取れ無い。 「おかしいなぁ・・・・。」 「おかしいですね、神威鳳衆が吾輩の気配に気付かないなんて。やはりまだ未熟ですか・・・・。」 「!重力・・・」 「忘眼」 ドンッッ! ポプリが1人悩んで居ると後ろから自分意外の声が聞こえ、 振り返ってみると其処には自分よりも遙かに背が高い男が立っており、 慌てて向きを変え、攻撃を繰り出そうとするが、ドッペルが目を細めポプリの方を見て言うが、 武器を構えるそぶりも見せず、ただ時が過ぎていき、やがて部屋の中に大きな音が響く。 「あっ・・・・。」 ドサッ・・・・ 「大丈夫ですよ、ただ吾輩と会った時の記憶だけを消しただけですから。」 スッ・・・・トサッ・・・ 大きな音の後に倒れたのは、ポプリの方で、それを見たドッペルが ポプリをいわゆるお姫様だっこをしてソファに優しく寝かせる。 ギシッ・・・ 「ふぅ・・・君に「ジルバ」と言う友が居たことを幸運に思いなさい・・ そうでなかったら・・・吾輩は貴方を睨み殺して居ますよ。」 シーン・・・・ ドッペルが近くにあった椅子に座り、ポプリに金の瞳の視線を向けて言い放つと また部屋の中に沈黙が走る。 ガチャッ・・・・ 「・・・・ネフィリアス。あんた来るなら連絡くらいしておきなさいよ・・・・可哀想に、ポプリが被害者になったじゃない。」 「吾輩もこれでも被害を最小限に食い止めたのです。」 やがてジルバが部屋に入ってくるが、どうやら気配を感じ取っていた様で別に動揺は無いが、 ドッペルの方は本名で呼ばれなかったのが不満なのか、眉を顰めながら答える。 ギシッ 「顔は見られなかった?」 「ええ。見られませんでした、それに見られてても大丈夫です。 今日ここで吾輩と会った記憶は消しておきましたから。」 「・・・・本当に便利よね・・・その目。」 ジルバがドッペルの隣の椅子に座り、顔を見られなかったかと聞くが、 ドッペルは余裕そうに答える、そして間をあけて、ジルバが悲しそうな視線を床に向け、言う。 「ええ。この目・・・・邪眼は役に立ちますよ、とても、ね。」 「・・・・そう。」 「・・・・姉上。」 スッ ドッペルが普通の口調で言い放つと、 ジルバは悲しそうな声でそれに応じ、声を聞いたドッペルが立ち上がる。 ギュッ・・・・ 「・・・この邪眼を受け継いだ事。吾輩は後悔してませんよ。むしろ・・・・ 姉上では無くこの吾輩に邪眼を付けてくれた事を感謝します。」 スッ・・・・ 「・・・・どうして?」 ドッペルがジルバの事を後ろから抱きしめ、自分の顔を隠しているフードを取り、 赤い髪、金色の瞳、そして・・・ジルバととても良く似た顔を露わにし、言う。 「・・・姉上にこの邪眼と言う十字架を背負わさずに済んだからです。」 「・・・・。」 「姉上。」 サッ・・・ ジルバの事を後ろから抱きしめながら、キッパリと、 そして誇りをもった様に言い放ってから、ジルバの前に移動する。 タッ・・・・ 「吾輩の命は貴方の物です。姉上・・・吾輩は貴方の影となり・・・ あらゆる物から貴方を守ります。」 「・・・・あんたはそれで良いの?」 「ええ。吾輩の生きる目的はそれですから。」 「バッカじゃ無いの?」 「姉上程では。」 ガンッ! 「痛ッ!痛いです姉上!」 「自業自得よ!」 ドッペルがジルバの前で跪きながら言うと、ジルバが照れた様子で憎まれ口を叩くと、 ドッペルも笑顔でそれを返してしまい、その直後にジルバの鉄拳を喰らい、頭を押さえる。 ・・・・まあこうして・・・ドッペル、ジルバの仲良し双子が交流を深めている中・・・ レノンとラットグはまだソニアの事を探して・・・・いた。 「あ。そう言えば・・・ソニアが帰った事レノン達に通信で伝えてなかった。」 「おや。それは大変ですねぇ。」 だが、そんなレノン達の苦労も知らず、 この赤い兔と白い神は優雅にティータイムを楽しんでいた。 ・・・・・哀れ。レノンとラットグ。

第四話

 「・・・・・もうダメだ・・・俺達お終いだ・・・・。」  「オイラまだ死にたくねぇ・・・・」  「あの・・・2人共・・・・。」   レノンとラットグが生気が無い顔で木に寄っかかりながら座っていると、 フリージアがオロオロしながら2人に声を掛ける。 「「何だよ。」」 「アクセルさんから通信が入っているんだけれど・・・。」 フリージアの声に少し遅れて、2人揃って反応すると、 フリージアが2人の前に通信機を差し出す。 「・・・こちら、レノン。」 『あ、レノン。何してるのさ?もうお昼だよ。ネズミの腹時計は狂ったのかい?』 「オイラの腹時計は狂う訳無いだろ。それで、何の用だよバッテン。」 レノンがフリージアから通信機を取り、通信機に向かって話し始めると 其処からはアクセルの声が聞こえ、ラットグも身を乗り出して答える。 『ジルバさんから伝言伝えろって言われたんだよ。』 「ジルバから?・・・まあ取りあえず聞いてみるわ、んで伝言は?」 『えーと 「ソニアは帰ってきたからあんた達も帰ってきなさい。」 だって。』 「「・・・・・・」」 アクセルがジルバからの伝言を話していくと、ラットグとレノンの動きが一瞬停止する。 「オイラ達の努力は・・・・。」 「いったい何だったんだ・・・・。」 ガクッ 『いったい何があったのさ?フリージア。』 「えっと・・・実は。」 動きを一瞬停止した後、またもや疲れ切った表情で木に寄っかかると それを見たアクセルがフリージアに向かって理由を聞くと、フリージアが話し始める。 『なるほど。それでソニアちゃんの事探してたんだ。』 「でもよージルバももうちょっと速く伝言くれりゃ良かったのによ。」 「ジルバの旦那も忙しいんだよ。」 事情を聞いたアクセルが納得する様に言うとレノンが立ち上がって後ろに腕を組みながら言うと ラットグが普段のジルバの姿を思い出し、言う。 『それはともかく帰ってきなよ。まだ公園で遊んでいたいなら話しは別だけど。』 「誰が遊ぶか、もう帰るっつーの。」 「オイラもそんな歳じゃ無いしな。」 「私も帰ります。」 アクセルが3人に帰ってくる様に促すと、3人も素直に帰ると一斉に言う。 『んじゃ3人共、気を付けて帰ってきてね。』 「おうよ。」 「へーい。」 「はい。」 アクセルが3人に声を掛けると順にラットグ、レノン、フリージアと返事をする。 『レノンはナンパに気を付け無いとね♪』 「うるせぇ!切るぞっ!」 ブツッ アクセルがレノンの禁句を言うと、レノンが通信機に向かって大きな声で怒鳴り、 乱暴に通信機を切る。 「ったく・・・あのバッテン魔王め・・・。」 「でもよ。お前の女装写真って高く売れるんだってなー、なぁレノン。 もう1回女装してみないか?」 「誰がするか!・・・あ、フリージア。通信機返すわ。」 ポンッ 「あ、どうもです。」 通信機を切った後、レノンが不機嫌そうな顔をしていると、 ラットグが思い出したようにこの前の女装写真の事を話すと、ますます不機嫌になるレノンだが、 フリージアには普通の様子で通信機を返す。 「何だよレノンー。オイラとフリージアじゃ随分態度が違うじゃ無いかよー。」 「お前と違って俺は紳士なんだよ。ほら、くだらない事言ってる前に帰るぞ。」 「へいへい。」 ラットグが自分とフリージアとのレノンの態度の違いに口をとんがらせながら抗議すると、 レノンが眉を顰めて言い返し、ハンターベースに向かって歩き出す。 「んで。ポプリが起きないんだけど何でよ。」 「どうやらこのお嬢さん。普通のハンターの方よりダメージに弱いようですね。 吾輩の忘眼程度でこんな長時間気絶するとは。」 カチャッ ジルバがティーカップを持ちながら言うと、 ドッペルが口を付けていたカップをテーブルに置き、ポプリの方を見ながら言う。 「あんたの忘眼は便利だけどちょっと威力が高すぎるのよね。」 「これくらいでヘバるなんて、まだまだですね。」 「あのねー・・・ポプリは女の子なんだからか弱いの!」 ジルバがテーブルに膝を付いて言うと、ドッペルは悪気0な態度で開き直ると、 ジルバがドッペルに向かって指を指し、言う。 「そうですかねぇ・・・・吾輩から見ると・・・そうは思えないのですが・・・。」 「それでも女の子よ!」 「でもこの子は普通にカーネルさんくらいなら持ち上・・・・」 「それ言ったらあんた此処から追い出すわよ。」 「すいません。吾輩が悪ぅ御座いました。」 ドッペルがジルバの発言に疑問を覚えていると、ジルバがそれでもポプリは女の子と言い張り ドッペルがジルバとポプリを比較しようとしたその瞬間ジルバの周りの空気が急激に冷え、 次の瞬間にはドッペルが丁寧に頭まで下げて謝る。 「それはそうと、ご婚約オメデトウゴザイマス。 ワガハイハアラタナカゾクガデキテトテモウレシイトオモイマス。」 「そんな今にも  『吾輩は今此処にカーネルさんが居たら絞め殺しています。』  みたいな目で言われても嬉しくないわよ。」 頭を上げたドッペルが思い出したように不機嫌になり 片言で祝いの言葉を述べるとジルバが冷や汗を流しながら言う。 「ソンナコトナイデスヨ。」 「あんたは嘘付くときかならず片言になるわね。」 「姉上の前に居るとどうも嘘が付けないんですよねぇ・・・・ 他の方の前だと平気に大嘘が付けるのですが。」 「たしかにあんたは昔からパパを騙してたわね。」 「騙される父上が悪いんです。吾輩は微塵も悪くありません。」 「「・・・・・・。」」 「「アハハハッ!」」 視線を逸らしながら片言で否定するが、もはやバレバレでジルバが昔の事を思い出すと、 またも自分は悪く無いと言い張り、沈黙が辺りを支配するが、次の瞬間2人で声を上げて笑い始める。 ガチャッ 「ジルバ。少し仕事の事で話したいのだが・・・・・。」 「「あ。」」 シーン・・・・・ 2人が笑い合っていると、急に噂の人物。カーネルが部屋に入ってきて、 ジルバとドッペルが声を揃えて動きを停止させ、またもやこの部屋を沈黙が支配する。 「赤い髪の・・・・ジルバ・・・・?」 「あっえっ・・・・えーと・・・カ、カーネル・・・・これは・・・・ねぇ・・・。」 「丁度良かったです。軍神殿。吾輩は貴方に言いたいことがあります。其処にお座り下さい。」 「ど、どうなって・・・」 ガシャアアンッ!! 「!」 カーネルが部屋に入らないまま、ドッペルとジルバを見比べて動揺していると、 ジルバも必死に言い訳を考えているがいまいち思いつかない様子だが、 ドッペルのみはいやに冷静で自らの正面の椅子に座る事を進めるが、 動揺しているカーネルはそれが聞き取れて居ない様子で室内を見渡していると、 急にカーネルの近くにある花瓶が砕け散る。 「貴方自身がそうなりたくなければ座ってくださいw 貴方はもはや吾輩の射程距離に入っているのですからv」 ニコニコニコ・・・・・ ドッペルがジルバに似た顔に黒い笑みを浮かべながら言う、 どうやらあの花瓶はドッペルの邪眼を使って割った物らしい。 「・・・・ただ者では無いな・・・聞かせて貰おうか・・・ その、貴方が私に言いたいことを。」 「物わかりが良くて吾輩は助かりますよ。」 ゴゴゴゴゴゴ・・・・ (何でこんな事になってんのよー!) カーネルが冷静さを取り戻すと、ドッペルも不適な笑みを浮かべながらカーネルを見据えていて、 周りには何やら不穏な空気が漂っており、1人取り残されたジルバが心の中で叫ぶ。 「たっだいまー。」 シュンッ! 「あら、お帰りなさい。」 「お邪魔しまーっすと。」 「お、お邪魔します。」 レノンが部屋に入ると、そこにはアイリスが何かを整理している途中で、 ラットグとフリージアもレノンに続き入り、礼儀良く挨拶をする。 「あれ、親父は?」 「イレギュラーが出たからって出動してるわ。」 室内をキョロキョロと見渡し、見慣れた姿が無い事からアイリスに聞いてみると、 アイリスが簡潔にそう伝える。 「へー、ゼロの旦那も真面目に働いてるんだな。関心。関心。」 「ラットグ!失礼よ・・・。」 「良いよ。疑われる様な事してるから悪いんだからよ。」 「たしかにあれだけ始末書書かされてたらそう言うイメージも付くよなーハハハッ!」 「!・・・・う、後ろ・・・・。」 ラットグとレノンがゼロのイメージをスラスラと述べていくと、 フリージアが何かの雰囲気を感じ取って後ろを向き、青ざめた顔で言う。 「後ろ・・・?・・・・ゲッ。」 ガンッガンッ 「「痛ぇーーーーッ!」」 「お前ら人が居ないと思っていい気になって・・・・。」 レノンがフリージアの様子に気付き後ろへ振り向くと、眉を顰め、 次の瞬間には頭に鋭い痛みが走り、殴った張本人のゼロが呆れた様な顔で言う。 「だからって殴る事は無いだろ親父!」 「親の悪口を言う奴が悪い。この不良息子。」 「オイラは濡れ衣じゃ無いですかぃゼロの旦那!」 「お前も同罪だラットグ。」 レノンが今だ痛む頭を押さえながら抗議するとゼロがキッパリとレノンが悪いと言い張り、 ラットグは自分は無罪だ、と言い張るが、ゼロはキッパリとラットグも同罪だ、と言い張る。 「あの、そう言えば・・・ソニアちゃんはどうしたんですか?・・・ 帰ってるって聞いたんですけど・・・。」 「あら?そう言えば・・・でも大丈夫よ。 外には出ちゃダメって言っておいたからベース内に居るわ。」 「・・・そうですね。」 フリージアが遠慮がちにアイリスに聞いてみるとアイリスが今気付いた様子で言うが、 心配はあまりして無い様で、それを見たフリージアも自然と安心感を覚える。 「お茶を入れるわ。座ってフリージアちゃん。」 「あ、はい。ご馳走になります・・・。」 「母さん!ケーキある?ケーキ!」 「まるで女だなレノン。ケーキが好きだなんてな。」 「ならお前のケーキはいらないなラットグ。」 「それとこれとは話しが別でさぁー。」 「お前は何時でも調子良いよな。」 アイリスがお茶を入れようとキッチンに向かうと、 何時の間に喧嘩が終わったのかレノンがアイリスに向かってケーキは無いかと尋ねると、 ラットグが即座にツッコむが、ゼロに言われるとそれは別問題と話しをすり替え、 レノンがそんなラットグの様子をみて苦笑する。 (・・・・何だか・・・懐かしいな・・・こんな雰囲気・・・・。) そしてフリージアがそんな様子を見て心の中で静かに呟く。 「あっフリージア。苺食わないなら貰うぞ。」 「あ、ダメです!」 「コラ、レノン。お行儀が悪いわよ。」 「じゃ、オイラはレノンの苺貰―おう♪」 「あっやめろ!」 シュンッ 「あ、ケーキだ!ボクも食べる!」 ギャーギャー  ワーワー! フリージアがケーキに手を付けていないのを見て苺を取ろうとすると フリージアが素早く自らの皿を避難させてそれを見たアイリスがレノンに注意をしている途中に、 今度はラットグがレノンの苺を取ろうとしてレノンもフリージアがした様に 自らの皿を避難させている最中、扉が開いてアクセルが入ってくると テーブルの上にあるケーキを真っ先に見つけて乱闘に加わり、部屋の中が騒がしくなる。 (・・・・でも。もう少し静かな方が良いかな・・・?) そんな光景を見て、フリージアが苦笑しながら心の中で呟く 「う・・・・あれ・・・ボク・・・何してたんだろう・・・。」 ムクッ ゾクゾクゾクッ!! 「! (何この寒気!てか何でこんなに空気氷ってるの!?) 」 ポプリが目を覚まし、起きあがる、どうやらドッペルと会ったことはすっかり忘れている様である、 そして辺りを見渡すと急に背筋に寒気が走り、青い顔をしながら辺りを見渡す。 「それで、吾輩の素性はお分かりになりましたね?カーネルさん。」 「・・・ああ。それにしてもジルバに双子の弟が居たとは・・・。」 「ええ。この事は父上と姉上か親族ぐらいしか知りません。」 (あ、ポプリ。起きたわね。) (どうなってるんですか、ジルバさん!?何でこんな空気が氷ってるんですか!?) (ちょっとそれには訳があって・・・。) ドッペルがニコニコしながら自分の身のうちを証していくのをカーネルが真剣な眼差しで聞き、 ジルバがポプリの気配に気付き、声は出さずに口の動きだけで会話していくと、 ポプリが1番の疑問の様にこの空気の寒さを聞くと、ジルバが困ったように苦笑する。 (ちょっと色々複雑なのよ、私は此処に居なくちゃいけないからあんたは何処かで遊んで来なさい。 ラズロットさんには話しを通しておくから。) (分かりましたー。ジルバさんも気を付けて下さいね。) スッ・・・パタンッ・・・ ジルバが頭を押さえながらドアを指さし、特訓はしなくて良いと告げると、 ポプリもそれを了承して静かに部屋を出て行く。 (・・・ふう。ドッペルの事は忘れてたみたいね・・・それにしても・・・。) 「吾輩はまあ今までは暇つぶしで裏組織の頭をやって居ましたが、そろそろ飽きてきましたし、 この頃シンジゲート・コスモに連邦政府が押され気味なので、 吾輩の家来達の後始末を付けてからイレギュラーハンターになろうと思いますので、 その時は宜しくお願いします。カーネルさん。」 「そんな事が出来るのか?」 「ええ。吾輩が今まで盗み出してきた情報と吾輩の財産の百分の一程を手土産にして、 姉上のコネを使えば楽勝ですよ。」 ジルバが2人を見ると何やら怪しい事を話しており、それを聞き思わず顔を押さえる。 「あんたは勝手に話しを進めるんじゃ無いの!」 「でも吾輩の仕入れた情報だと今は副司令官が居ないのですよねぇ?」 「うっ。」 「それも姉上が無能で変態だからって言う理由でクビにしたんですよねぇ?」 「うっ。」 「本当なのかジルバ!?」 「・・・・悔しいながら・・・。」 2人の会話の内容を聞いたジルバがドッペルに向かって指を指して言うと、 ドッペルがスラスラとかなり正確な情報を口に出していき、 副司令官がその様な理由でクビになった事を知ったカーネルがジルバに確認を取ると 悔しい顔をしてジルバが頷く。 「だから吾輩が特別サービスで吐き気がする程大嫌いで 隙あらば首を噛み切ってやろうとも思っている連邦政府に協力してあげようと言うのです。」 「余計な言葉が多すぎるのよあんたは。」 笑顔でスラスラと連邦政府の悪口を述べていくと、ジルバがドッペルに向かって注意する。 仮にもこれから自分が従う場所なのだからそんなに毒を吐くのは自分の為では無い。 「だが、ドッペルさんの能力は前の副司令官よりも大幅に高いだろう。 少しはお前の仕事も減るんじゃ無いか?」 「ドッペル。速く始末付けて来なさい。」 キッパリ カーネルがドッペルの肩を持つようにジルバの仕事が減る、 と言うと即座にジルバがドッペルの副司令官就任に乗り気になる。 「ちなみにカーネルさん。吾輩の事は呼び捨てで結構ですよ。」 「分かった、次からはそうさせて貰おう。」 「では姉上。吾輩は此で失礼致します。言う暇が無かったので 予言は手紙の方に書いておきましたので後でご確認を。では。」 シュンッ 「・・・・騒がしい男だったわね。」 ドッペルがジルバに手紙を渡して消えると、 ジルバがドッペルに渡された手紙を見て、疲れた様子で言う。 「ジルバ。何故、こんな重要な事を今まで黙っていたんだ?」 「・・・・取りあえず、黙っててごめんなさい。 でも、あいつの事は言えなかったのよ、どうしても。」 「・・・・そうか。理由があるなら良い。」 「ありがと。深く追求しないでくれて。」 カーネルがあまり深く追求してこない事に安心し、ジルバが感謝の意を示す。 「そう言えば手紙の中身は何が書いてあるんだ?」 「そうね。カーネルの前で言った事だし絶対に見せるな、と言う事では無いから見せるわね。」 サッ・・・パラッ 思い出した様にカーネルがジルバの手の中にあるドッペルから手渡された手紙を指さすと、 ジルバも気になっていたのか手紙を取り出す。 「えーと・・・・  「ご機嫌麗しゅう姉上、これを見たと言う事は吾輩の忠告を聞いてくださると言う事ですね。 今まで聞いてくれなかった分キツイ予言行きますよー? まずは神威鳳衆の先程吾輩が気絶させたポプリちゃん、 この子の予言は良いですよーどうやらその子が持っている寂しさを埋めてくれる人達に会うそうです。 その人達とポプリちゃんが仲良く手を繋いでいる所が見えましたよ。 良かったですねー、まあ吾輩には関係ありませんが。 それじゃ次行きますよ。次はソニアちゃんに関しての予言ですよ?」・・・・」 「ソニアの予言?・・・いったい何故・・・ と言うかドッペルはソニアと会ったことが無いのでは?」 「あいつの情報力侮っちゃいけないわよ・・・・  「ソニアちゃんは血を見て新たな能力を目覚めさせます。 その能力は・・・・」 そんな!ありえない!こんな能力は存在しないわ! ましてやソニアがてにできるはずが無い!?」 ジルバがドッペルの手紙を読み上げて行くと、カーネルが 何故ドッペルがソニアの事を知っているか疑問を覚えてジルバに尋ねてみると さほど気にしない様子でカーネルの疑問に答えてドッペルの手紙を見ると取り乱し始める。 「何を見たか知らないが落ち着けジルバ!」 「ご、ごめん・・・ソニア・・・あいつの予言は外れないのよ・・・! ・・・どれだけ重い十字架を背負うって言うの・・・ミラージュの時と同じ様に・・・・。」 カーネルがジルバに落ち着くように促すと直ぐに落ち着きを取り戻して近くの椅子になだれ込み、 頭を抱え懺悔するように弱々しく呟く。 「ソニアは・・・何にも出来なかったなぁ・・・ソニアも力が欲しいよ・・・みんなを守れる力が・・・。」 バッ 「なっ何!?急に暗くなっちゃった!」 街全体が見渡せる最上階の展望台の椅子に座りながら呟いていると 急に目の前が暗くなり慌て出すソニア。 「だーれーだ?」 「その声・・・ポプリちゃん?」 「当たり。どうしたの?暗い顔して?」 目の前が暗くなり慌てていたソニアだが、自分の目をふさいでいる人物が ポプリであると気付くと動揺しなくなり、ポプリがソニアの目の前から 手を外してソニアの隣に座りながら言う。 「あのね・・・ソニア・・・みんなが傷ついても何も出来ないの・・・まだ子供だから。」 「子供だって何かは出来るよ。ボクだって子供だけど結構強かったでしょ?」 「・・・・うん!とっても強かったよポプリちゃん!とっても綺麗だった!」 「綺麗だった?ボクが?」 「うん!」 ソニアが悩んでいた理由をポプリに話し始めると、 ポプリもまるで自分の事の様に話しを聞いて行き、やがて自分の戦っている姿が美しい、 と言われ意外そうな顔をする。 「・・・・ありがとう。でもね・・・ボクは昔に・・・もっと綺麗な人を見たことがあるんだ。」 「ポプリちゃんより綺麗な人?誰?」 「特別にソニアちゃんに話してあげる。 ボクもソニアちゃんの年頃にはそうやって悩んだからね。」 やがて笑顔になってソニアにお礼を言うと、 ソニアから視線を逸らし心底尊敬している様な熱い視線を外の景色に向け、 言い放つとソニアも興味が湧いてきたのか熱心に聞くと、 ポプリがウインクをして笑顔でソニアに言い放つ。 「ポプリちゃんも!?」 「うん。そうだよ。何時も強くなりたい、 早く大人になってみんなの為に自分もなにかしたいってずっと思ってたんだ。」 「その人とは何処で出会ったの?」 「その人との出会いは・・・レプリフォース大戦が丁度始まった頃の戦場・・・ その日ボクは・・・其処に居た。」 ソニアが自分と同じ悩みをポプリが持っていたことに気付き、驚いた様子だったが、 ポプリが話し始めると、真面目にその話しを聞き始める。 『うわぁぁーん!お母さんー!お父さんー!』 バンバンッ! ドカーンッ! 『うわあっ!』 幼き日のポプリが戦場の真っ直中で大声を上げて泣いていると、 自分の隣にレプリフォースの隊員が倒れ込んで来る。 『ひっ!・・・速く逃げなきゃ!』 バーーーンッッ! ガラッ・・・・ 『キャアアアアアアアッッ!!!』 ヒュウウウウ・・・・ 血を見たことでますます怯え、逃げようとするが次の瞬間、 大砲で近くの建物の破片が落下して来て、大砲の音で腰が抜けて立てないポプリに 建物の破片がゆっくり、ゆっくりと迫ってきて、死の恐怖が内側を支配し、 大粒の涙を流して悲鳴を上げる。 『 (もうダメ!) 』 『間奏曲=インテルメッツォ!』 フッ・・・・ 『うぅぅ・・・あれ?え!?・・・破片が・・・宙に浮いてる!?』 『大丈夫?お嬢ちゃん。』 ポプリがその場でうずくまり、自分に来る衝撃を覚悟したその時、 耳に入ってきたのは騒音では無く、まるで鈴のような凛とした女性の声で、 それに疑問を感じたポプリが当たりを見渡すと、其処には不思議な光景が広がっていて、 瓦礫が自分より高い位置に健在しており、それに驚いていると 自分の目の前に見たことの無いような純白の白い手が差し出される。 『あ、はい・・・えっ・・・?』 ポプリが視線を上に上げると、其処には驚きの光景が広がっていた・・・ それは・・・見たことの無い様な美しい白。 何色を混ぜても作れない、白。 神の色とも言われる白がポプリの視線を支配していた。 『どうしたの?何処か怪我でも?』 美しい程の純白の色をしたボディを持った女性がポプリの様子を見て変に思ったのか顔をのぞき込む、 そうするとポプリの赤い瞳とその女性の金色の瞳の視線が交わる。 『天・・・・使。』 サアアアア・・・・ 後にポプリはこの光景を・・・一生頭の中に刻み込む、と誓うのだった・・・・。

第五話

『天・・・・使。』 『少しショック状態にあるみたいね・・・でももう大丈夫よ。 あなたは私が必ず守ってあげる。』  ニコッ・・・・ ポプリが女性を見て童話の中で見た天使を思い浮かべ、口に出すと、 風が吹き、女性の銀の髪が風に揺れ、幻想的な雰囲気を作り出していると、 その女性がまるで花の様な笑みを浮かべ、ポプリの肩に手を添える。 『ポセイドン。この子をお願い。』 『分かった。』 スッ・・・ 女性が笑みを自分の中にしまうと、何時の間にか居た青い髪と青い瞳が印象的な 男性レプリロイドにポプリを引き渡し、自らはポプリに背を向ける。 『!お姉さん駄目だよ!戦場に行ったら死んじゃう!赤に染まっちゃうよ!』 男性の腕を掴みながら必死に女性を引き留めようと必死に声を出し女性を止めようとする。 『大丈夫よ。お嬢ちゃん。私は何にも染まらない・・・ かならず貴方の前に戻ってくるわ・・・だから・・・ 私を信じて頂戴?』 『!!・・・・気を付けて・・・・。』 「ええ。ありがとう。」 そんなポプリの必死な様子を見て女性はまたも笑顔を浮かべ、 金の視線を優しげにポプリに向けて言うと、掠れていて声らしき物は出るはずが無い喉も 自然に言葉を作り出し、その声とは言いづらい物を聞き、 女性はあまりにも可憐な手にダガーを構えて戦場に向かって走っていく。 『・・・・ほら、お嬢さん。見てごらん・・・あいつの姿。』 『戦う姿なんか・・・見たくない!だって・・・とっても怖いんだもん!』 『・・・・あいつは怖くないよ。君も言っただろう?・・・・「天使」って。』 『本当に・・・怖くない?』 『ああ。怖くないよ・・・見てごらん・・・一生忘れられない物になるから。』 『あ・・・・。』 青い髪と青い瞳が印象的な男性、ポセイドンが震えているポプリを見て 女性の姿を見るように促すが、ポプリはすっかり怯えきっていて聞く耳を持たなかったが、 ポセイドンの本当に心からの言葉を聞き、視線を上げると、 其処にはポプリの一生心に残る光景が広がっていた。 『踊ってる。』 『だろ?』 『すごく・・・綺麗。』 サアアアッ・・・・ タッタッ・・・・ ヒュンッ・・・・ ポプリが見た光景は、美しい銀の髪を靡かせて まるで水中の上で踊っている様に戦場を駆け回っている女性の姿で、 その姿に一瞬で心を奪われ、その後もポプリは敵が1人もいなくなるまで、 その女性の踊っている姿に魅了されていた。 『ふう・・・何とか片づいたわね。』 『お疲れ様。今日も相変わらず凄かったな・・・またファンが増えたぞ。きっと。』 『別にファンなんて・・・・』 『お姉さん!』 女性が疲れた様に建物の瓦礫に座っているポセイドンに話しかけると、 ポセイドンが慣れた様子で女性と話していると、急にポプリが女性に話しかける。 『何?お嬢ちゃん。』 『わ、わたしはポプリって言います!お、お姉さんの名前を教えてくれませんか!?』 『そら、ファンが出来たみたいだぞ。』 『後で覚えてなさいポセイドン。・・・・ 私の名前は「ジルバ」イレギュラーハンターよ。』 『ジルバ・・・さん。』 女性が微笑をたたえながらポプリを見るとポセイドンがまただ、 と言う様に微笑ましく見守っており、その銀髪の白いボディのレプリロイド、 「ジルバ」が名前を名乗ると、ポプリが名前を口に出す。 『あ、あの・・・ジルバさん!わ、私・・・いや・・・ボクも貴方の様になりたいんです!』 『わ、私の様に?・・・やめておいた方が良いわよ。 とても辛い道よ?ひょっとしたら死ぬかもしれないし。』 『それでも良いんです!』 『・・・んー困ったわねぇ・・・。』 スッ・・・ ポプリが必死でジルバに頼み込むが、ジルバが自分の様になりたいと言ってくるポプリを見て、 止めた方が良い、と言うが思ったよりポプリの意志は強く、ジルバが困り果てていると、 ポセイドンとジルバの背後に誰かが現れる。 『どうしたんだい?2人とも・・・・。』 右半分に道化の仮面を被っていて服装は軍服を身に纏っていて 特徴的な男性と女性とも取れない顔つきと体つきの人物が 生気の無い笑顔をジルバとポセイドンに向ける。 『師匠!貴方は最高司令官の身!この様な戦場に出てきては皆が困ります! ・・・直ぐにハンターベースに戻ってください!』 『ん?この子は・・・?』 その人物を見て、ポセイドンが目を見開いて慌てて周りに気配が無いか確認して 本人に今すぐ帰還する様、説得を試みるが、等の本人はポセイドンの必死の言葉をアッサリと無視し、 ポプリの方へ視線を向ける。 『あ、さっき助けた子です。』 『そう・・・貴方のお名前を教えてくれるかな・・・?』 『ポプリです!あ、あの貴方は・・・?』 『私の名前はラズロット・・・これでもイレギュラーハンターの最高司令官なんだよ・・・?』 『さ、最高司令官!!??』 ジルバがラズロットに話しかけられ、普通の様子で答えると、 ラズロットがポプリの視線に会わせてかがみ込んで名前を聞くとポプリが素直に答え、 その直後に目の前に居る人物がイレギュラーハンターの最高司令官であると知ると、 目を極限にまで開いて驚く。 『それで、先程・・・君は大声を上げていたけど・・・何をしていたのかな・・・?』 『ボ、ボク!ジルバさんみたいになりたいんです!』 『・・・・強い瞳だね・・・意志を込めた・・・・・・・ジルバ。』 『はい。何ですか?』 ラズロットが思い出したようにポプリに聞くと、ポプリが一生懸命声を出し ラズロットの生気の無い曇った薄緑の瞳を見つめると、フッと笑みをこぼし、ジルバの方を見る。 『この子。私が預かりましょう・・・・この子の強い瞳が気に入りましたから・・・・。』 『ほ、本当ですか!あ、有り難うございます!』 バッ! 『良いんですか?師匠。』 『ええ・・・私も嬉しいですから・・・・こんな真っ直ぐな瞳の子と会えて・・・ね。』 ラズロットがポプリを預かる、と言った発言を聞いた瞬間ポプリがラズロットに向かって 深々と頭を下げるのを見てポセイドンが尋ねてみると、生気の無い瞳に少し光が宿り嬉しそうに呟く。 『言っておきますが・・・女性扱いは致しませんよ・・・・?』 『は、はい!ボク!頑張ります!』 思い出したようにラズロットが呟くと、ポプリが真っ直ぐ赤い瞳を向けて、言う。 「と言う訳で。ボクが見たとっても綺麗な人は当時白神って言われてたジルバさんなんだー。」 「そうなんだー。でもその時も戦争はあったんだね。」 「ソニアちゃんはまだ製造されて無いから分からないよね、レプリフォース大戦なんて。」 ポプリが説明し終わると、ソニアがその頃に戦争があった事に少し驚く、 何せソニアはその時はまだミラージュとして生きており、 ましてやレノンさえもその時製造されたばかりだから。 「あ、あの・・・・ポプリちゃんは・・・・レプリフォースをうらんでるの?」 「ん?レプリフォースを?恨んでなんかいないよ。 大戦を引き起こして大勢の犠牲を出したのは事実だけど、 レプリフォースを恨んでも何も返って来ないからね。」 「良かったぁ・・・。」 「そう言えば、ジルバさんの旦那さんは元レプリフォースなんだよね? それに、ソニアちゃんのお母さんも。」 「え!何で知ってるの!?」 「ジルバさんから聞いたから。」 ソニアがおそるおそる聞いてみて、 ポプリがレプリフォースを恨んでいないと聞くと安心して溜息を吐き、 それを見たポプリがジルバから聞いた事を言ってみるとソニアが驚きの声をあげる。 「そうなんだ・・・・ねぇ!ポプリちゃんもソニアのお母さんとお兄ちゃんとお父さんに会って! ポプリちゃんを紹介したいの!」 「ボクを?良いの?そんな事して。」 「良いの!ソニアが会わせたいから!」 ソニアが椅子から立ち上がって自分の家族に会わせたい、 と言うとポプリ意外そうな顔をして答えると、ソニアが笑顔で言葉を返す。 「なら、お言葉に甘えようかな。」 「うんっ!」 フッ・・・・ 「!ソニアちゃん!止まって!」 ポプリが走り出すソニアを追おうと、日傘を持って椅子から立ち上がると、 何かに気付き、急いでソニアの方に向かって走る。 「えっ・・・・?」 ヒュウウウ・・・・ 「ソニアちゃんっ!」 ガシャアアアアンッ! ソニアがポプリの声に気付いて上を見ると、20kg程有りそうな壺がゆっくりと落ちてきて、 ポプリがソニアに向かって叫び声を上げると展望室全体に壺が割れた音が響く。 「ポプリちゃん!」 「痛・・・あ、ソニアちゃん、大丈夫?怪我無かった?」 「ソニアは怪我は無いよ!・・・ポプリちゃん・・・腕から血が・・・・。」 「大丈夫だよこれくらい、かすり傷。」 ドクンッ 次の瞬間、ソニアの目に入ったのは自分を庇ったポプリの姿で、 ポプリの腕の酷い傷を見て、ソニアの中で何かが鼓動を始める。 (何・・・?この感覚・・・お空に浮いてるみたい・・・・。) (こんにちはソニア。) (だ、誰!?) ソニアが目を開けると、其処は見る限りが真っ暗で星が輝いている宇宙みたいな場所で、 当たりをキョロキョロと見渡していると、急に女性の声が聞こえ始める。 (私の名前はミラージュ。) (ミラージュ・・・?それって・・・お兄ちゃんにあの弓をくれた人?) (そうよ。私と貴方が話せる時間は僅かだから良く聞いて・・・ あなたは今血を見た事で新たな能力を手に入れたの。) (新しい・・・能力?) 声が聞こえた瞬間、水色の髪を靡かせて白いワンピースを着た女性、 ミラージュが現れ、優しくソニアに話しかけながら話しを進めていく。 (そう・・・この能力は・・・ある意味とても恐ろしい物よ・・・ でも・・・貴方が使いこなせば・・・皆を助けられる。) (本当なの!?) (ええ。でもね・・・この能力を貴方が持っていると知ったら・・・ 貴方も狙われるわ。レノン同様に。) (お兄ちゃんと・・・・。) (選んでソニア。 今此処で貴方がこの能力を拒否すればこの能力はもう二度とこの世に現れる事は無い・・・ でも・・・この能力を手にすれば・・・苦しむことになるかもしれない・・・ どうする?ソニア。) (苦しむ事になるのは知ってるの・・・でも、ソニアは・・・・。) ミラージュが悲しそうに選択を迫ると、ソニアが一瞬目を閉じると、 決めた様にまた目を開き、言葉を紡ぐが、 次の瞬間にはその宇宙の様な世界は白に埋め尽くされた。 「・・・・ソニアちゃん、大丈夫?」 「!・・・うん。大丈夫。」 「・・・・・。」 「ソニアちゃん??」 ボーッとしているソニアを見てポプリが心配そうに顔をのぞき込むが、 ソニアは顔を下げたままで黙っている。 「ポプリちゃん。腕を伸ばして?」 「腕?・・・はい。」 「・・・・ (ミラージュお姉ちゃん・・・ソニアに力を貸して!) 」 フアァァ・・・・ ソニアが顔を上げ、ポプリに腕を伸ばす様に指示をすると、 意味が分からないポプリが惚けた顔をして腕を伸ばすと、 ソニアが目を瞑り、深呼吸をして手に力を集中させると、急にソニアの腕に暖かい光が宿り始める。 「これは・・・?」 「 (苦しむ事なんて・・・分かってる!だけど・・・ ソニアもお兄ちゃんと英鴻さん達の力になりたいの!) 」 「! ・・・・き、傷が・・・!」 「 (もう何も出来無いなんて嫌なの!) 」 「傷が・・・治った・・・あんなに深い傷なのに・・・たった一瞬で・・・ しかも・・・跡も残さないでなんて・・・。」 ソニアが心の中で今まで、自分が無力だった事を思い出し、その思いを手に込めて行くと、 ポプリの腕にあった深い傷を一瞬で跡すら残さず、治癒してしまった。 「・・・・ふぅー・・・出来た!」 その場に座り込み、ソニアが出た汗を拭きながら疲れた様に呟く。

第六話

「ソ、ソニアちゃん・・・・この能力は?」  ポプリが自分の腕を恐る恐る触りながらポプリに向かって疑問を投げかける。 「これはね! ソニアの新しい能力なの! えーと・・・・たしかね、 治癒強化能力! って言うのだったと思う!」  よっぽど能力を手に入れた事が嬉しかったのか、 少々ポプリの問いかけに遅れて自分の能力を説明し始める。 「そうなんだ・・・・でも、ありがとう、ボクの腕、直してくれて」   ソニアの様子を見て、少々驚いていたが、次の瞬間顔に笑みを浮かべ、ソニアに感謝の意を示す。 「ううん! 良いの!」  笑みを浮かべてポプリの言葉を聞くが、気にしないで、とでも言うように首を横に振る。 「そう、じゃあ言わないね?」  自分よりも幾分か小さいソニアを暖かい目で見ながら、自分も笑顔になる。 「ねえポプリちゃん! 早く行こう?」  ソニアがポプリの手を掴みながら言う、よっぽどポプリを自分の家族達と会わせたい様だ。 「うん、行こうか? ・・・・・でも降りるの面倒だなぁ・・・・」  笑顔だったが、次の瞬間、ポプリが何やら企んだ笑みを浮かべる。 「え・・・な・・・何?」  何やら不穏な空気に気付き、 ソニアが冷や汗を流しながらも何やら企んだ笑みを浮かべたポプリに聞く。 「紐無しバンジーなんて滅多に出来ないから・・・良いよね?」  相変わらず不適な笑みを浮かべたポプリが窓を開け放ち、傘の紐を解き、傘を広げ、 ソニアの方へにじり寄る。 「え、え、え、ポ、ポプリちゃん・・・・?」  ポプリの様子に少々怯えながらソニアが言うが、どんどん二人の距離は近づいていき・・・ やがては・・・・。 「「「「ご馳走様でしたー」」」」  所変わってこちらはレノンとラットグとフリージアとアクセルの少年組、 彼らが座っている前にあるテーブルにはケーキが乗っていたと思う、 皿が置いてあり、4人一緒に声を揃えて「ご馳走様」ときちんと礼儀正しく言う。 「じゃあ片づけるわね」  カチャカチャッ・・・ 「あ、お手伝いします」  アイリスが食べ終わったのを確認すると、皿を重ねて後かたづけをしていると、 それを見たフリージアもフォークを集め、アイリスを手伝う。 「母さん、俺も手伝おうか?」 ガタッ  女性陣2人が後かたづけをしているのを見て、 レノンも椅子から立ち上がり、アイリスに手伝いをしようか?と尋ねる。 「後かたづけは良いわ、フリージアちゃんが手伝ってくれてるから、 それよりも窓を開けてくれるかしら? 換気がそろそろ必要だから」  レノンの申し出を丁重に断ると、皿を持っていないもう片方の手で部屋の窓を指さし、言う。 「了解、たしかにそろそろ換気が必要・・・・・」 キャアアアアアッ! キャー♪ 「ん?」  窓を指さされると素直に言う事を聞き、窓の方へと向かい、 窓を開けようとするが、その前に二つの叫び声が聞こえ、首を傾げる。 「何だ?今の・・・・っまいっか」  ガチャッ・・・ 「わわわわっ!どいてー!!」  ヒュウウウウ・・・・ 「え?」  グシャッ  一瞬疑問を覚えるが直ぐに気を取り直し、窓を開けると、 何やら女性にしては幼すぎる声が聞こえ、次の瞬間何やら不吉な音がする。 「・・・・な、何で人が・・・・」  バタッ 「ゲッ・・・・どーしよぉー・・・」 タンッ  先程の不吉な音は、顔を踏みつけられた音の様で、 その衝撃にレノンは後ろ向きに倒れ、困り顔のポプリがソニアを抱えて入ってくる。 「お、お兄ちゃん!」  タンッ  ポプリに抱えられていたソニアがポプリの腕の中から抜け出し、レノンを揺すり始める。 「お兄ちゃん?・・・・お姉ちゃんじゃないの?」  ピシッ 「誰が女だ!俺は男だ!!・・・・って・・・・お前・・・見かけない顔だな」  目の前に居る人物を揺らしているソニアの発言に驚き、心の中で思っていた事を言うと、 空気が固まり、レノンが青筋を浮かべながら起きあがり、 見覚えの無いポプリを指さし、首を傾げる。 「そりゃそーだよぉー、ボクは今日君と初めて会うんだからねぇ。」  スッ・・・パンパンッ  レノンの様子を見て安心したのか、静かに立ち上がり、 服に付いていたほこりを払い、風圧で乱れた髪を直し始める。 「初めて? ・・それにしちゃ落ち着いてるよな」 「君たちに会うのは初めてなだけ、ハンターベースには何回も来てるよぉー」  座ったまま首を傾げてレノンが言うと、ポプリがその言葉を訂正する様に言う。 「そうなのー? じゃあ・・・何でソニアに場所を聞いたの?」  少しの間ソニアが考えを巡らせ、ポプリに質問をする。 「ん? それはね・・・・あまりにも久しぶりで場所を忘れちゃったんだよねー!  キャャハハハハッ!」 「わ、忘れたって・・・・変な奴だな・・・」 「それはお互い様でしょー?」  ポプリが心底可笑しそうにソニアに道を尋ねた理由を話すと、 レノンがその理由に呆れ返っていると、ソニアに突っ込まれる。 「ま、細かいことは気にしない事にするさ、俺はレノン、お前は?」 「ボク? ボクは・・・・」 「なぁーオイラ達も会話に加えてくれよー」 「あ、忘れてた」  一度息を吐くと、笑顔で自分の名前を名乗り、相手の名前を聞くと、 此処でようやく放って置かれたラットグが会話の中に入ると、レノンが今思い出した様に言う。 「オイラはラットグ、隣に居るのがフリージア、後ろに居るのがアクセルだ」 「よ、宜しく・・・・」 「宜しくねー♪」  ラットグが気付いたように自分の事を紹介し、ついでに右隣に居るフリージアと 後ろに居るアクセルを紹介し、フリージアはポプリの赤い目から視線を背けながら話し、 アクセルは何時も通りの様子で話しかける。 「宜しく、レノンにラットグにフリージアにアクセル♪」 「すごーい、ポプリちゃん、もう名前覚えちゃったの??」 「うん、記憶するのが癖なの」 「変わった癖だね」  少々驚いた様子だったが、次の瞬間には笑みを浮かべ、 目の前に居る皆の名前を順々に呼んでいき、それを聞いたソニアが思わず 凄い、と目を輝かせて言うが、ポプリはそれに苦笑しながら答え、アクセルが少々その癖に感心する。 「先に言われちゃったけど、ボクの名前はポプリ、今は14だよ、 だいたい君たちと歳が近いと思うから、仲良くしてね?」  スッ・・・ペコッ  ポプリが姿勢を伸ばし、一回頭を下げてから華の様な笑みを浮かべ、自分の自己紹介を始める。 「14か、俺と同じ歳だな」 「そうなんだぁー、レノンとアクセルの事は結構前に通信で聞いたけどー、 ラットグとフリージアの事は知らないんだよねぇー、結構最近に入ったでしょ?」  レノンがポプリの自己紹介を聞き、自らと同じ歳だと知り、 口に出して言ってみると、ポプリが嬉しそうに目を細め、 次の瞬間には気になって居たことを、ストレートに言ってみる。 「まーなー、オイラもつい最近までこそ泥だったし、フリージアも似たようなもんだからな、な?」 「あ、う、うん・・・・」  ラットグがポプリの問いかけに答えるように自らの事とフリージアの事を話していくが、 気を利かせたのか、フリージアがシンジゲート・コスモに居た事はあえて話さない。 「泥棒って凄いねー、ちなみに戦災孤児?」 「ん? おうよ」  ポプリが感心したように呟くと、またまた気になっていたことを言い放つ。 「ボクも戦災孤児、レプリフォース大戦の時に親と別れてそれっきりなんだ」  ラットグの答えを聞くと、少々悲しそうな顔をして、言う。 「そうなのか、そういやハンターなのか? お前」 「ううーん、ボクはハンターじゃ無いよぉー、似たような感じだけど」  レノンが少し考えた後、ポプリに向かって質問してみると、少々考えた様子でポプリが言う。 「似たような感じ?」 「うん、似たような感じ」  ポプリの言葉に疑問を感じたラットグが思わず聞き返してみると、ポプリが普通の様子で言葉を返す。 「だってボク、神威鳳衆だもーん」  ラットグの質問に不適な笑みを浮かべながら答える。 「「「何だってーーーーー!!??」」」 「神威鳳衆って・・・・」 こうして桜帝は自らの運命を左右する仲間達と会うのでした・・・ ですが本人はまだこの事を知りません、さあ赤兎が予言した桜帝と手を繋いでいる 人物とは・・・? それは赤兎しか知らない・・・・

第七話

「か、神威鳳衆って・・・あの・・・ジルバさんの?」  フリージアが少々ポプリの赤い瞳の奥底に光っている殺気に怯えながらも、恐る恐る口を開く。 「そーうでーす!」  少々自分の怯え気味なフリージアの様子を知ってか、 フリージアから自らの赤い瞳の視線を逸らして言う。 「へー、お師匠さんから聞いてたのと随分違うな」 「どんな風に聞いてたのー?」  ラットグは比較的落ち着いており、ポプリを見ながら冷静に呟くと、 その呟きに興味を持ったのか、ソニアがラットグを見上げながら、聞く。 「今はもう戦場には出てないらしーけどさ、その名は今も轟いてるぜ、 だいたい7,8人ぐらいの集団でその詳細は一切不明、ただ分かっている事は、 オイラのお師匠さんと同じくらい強い奴等が居るって事さ」 「俺も聞いたことあるぜ、神威鳳衆の噂、レプリフォース大戦で 「紅の一夜」って呼ばれる出来事があってさ・・・・   ―――時はレプリフォース大戦の真っ直中  連邦政府はレプリフォースが夜中にハンターベースに奇襲を掛けることを事前に知り  基地のあるエリアにたった1人の神威鳳衆の少年を送り込んだ――― ―――僅か30分でその基地に居た三万人のレプリロイドは全て壊滅――― ―――基地の炎が上がる中 其処からは  たった1人の12歳の少年レプリロイドが無傷で出てきた――― ―――その少年は     武器を構える事も無く   三万人もの命を葬ったのである――― ―――人々はその少年を英雄として向かえた だが少年は光を宿していない瞳で 言った――― ――― 「英雄なんて 一時の幻影だ」 ――― ―――そう言って 少年は人々の前から姿を消した――― ――― ただ一つの言葉を残して ――― ――― 「貴方達は何時かこの戦いの 代償 を払うことになる、 その日が何時来るかは分からない、だけど必ず、貴方達はこの戦いを後悔する」 ――― ――― と 少年は悲しそうな瞳をして言った ――― 「って感じで、その「紅の一夜」は今でも有名でさ、 知らねぇ奴は居ない程有名なんだ」  レノンが一通りの事を話し終え、一息ついて言う。 「12歳で3万人のレプリロイドを倒すなんて・・・ 物凄い怖いレプリロイドなのかな・・・?」 「ううーん、ボクも見た事無いけどさぁー、ポセちゃんによるとー普通の子だって言ってたよー?」  少々怯えた様子のフリージアが紅の一夜の少年の事を想像すると、横からポプリが修正を入れる。 「ポセちゃん?」 「ボクの知り合いーv」  ふとポプリの言葉に疑問を感じたラットグが頭の上にハテナを浮かべると、 ポプリが楽しそうに知り合い、と言う。 (ちなみにポセちゃんと言うのはポプリと同じの他ならぬポセイドンだが、 彼の妻バカを知らないレノン達には到底分からない事である) 「ふーん、まあ良いけど・・・んであんたはその凄い神威鳳衆の1人って訳?」 「ポプリでいーよー、でもボクー、神威鳳衆の中では一番弱いよー? 一番年下だしー?」  アクセルが、「ポセちゃん」の事を一端置き、話題を整理すると、 ポプリがスラスラと自分の素性を笑いながら証していく。 「というか、そんなに素性を証すもんじゃ無いと思うぜい」 「いーのー、ボク強いしー、知られて困る過去なんて無いしー」  スラスラと自分の素性を証していくポプリに少々呆れ気味でラットグが注意をすると、 反省する事も無く、ポプリがひょうひょうと言い張る。 「うん! ポプリちゃんは凄く強いんだよ! ソニア、ポプリちゃんの戦う所! 見たんだー!」 「へー、て言うか戦えるのか」  自分で自分の事を強い、と言うポプリの言葉を聞いて、 ソニアが先程の光景を興奮しながら話し、意外そうにレノンが目を開く 「ムッ、じゃあー試してみる? トレーニングルームで?」  レノンの言葉を聞き、少々ムッとした様子で日傘を肩に乗せ、 少々挑発的な態度を取る。 「あっ、おもしろそーじゃん♪ それ! やってみなよレノン!」 「オイラもアクセルに賛成―! やってみろよレノンー♪」 「ちょ、ちょっと・・・2人とも・・・」  ポプリの様子を見て、一瞬で楽しめそうだと分かると、二人してポプリとレノンを騒ぎ立て、 フリージアはそれをオロオロと見る。 「お前らなぁ・・・でも、神威鳳衆の実力も知りたいし、 お前がどれだけ強いか見てみたいしな、勝負だポプリ!」 「返り討ちになって泣かないでねー♪」  少々アクセルとラットグの様子に呆れるが、 次の瞬間には楽しそうな笑みを浮かべ、二人して笑みを浮かべる。 「んじゃー2人とも、準備は良い?」  いつの間にか、トレーニングルームに付き、 アクセルがコンピューターを操作しながらポプリとレノンに話しかける。 「全然オッケ〜♪」 「何時でも良いぜ?」  日傘を相変わらず肩に乗せたまま、ポプリが言い、 レノンも片方のサーベルを肩に乗せながら言う。 「じゃぁ・・・初め!」  アクセルの隣に居るラットグが少々ワクワクした様子で言う。 「じゃーぁ、レディーファーストって事で・・・・行っくよー!」  シュンッ!! (速ッ!)  ガシィンッ!  ラットグの声を合図に、ポプリが日傘をリボンで閉じ、 日傘を構えて素早い動きでレノンに近づいていくと、一瞬その速度にレノンが驚くが、 すぐにサーベルを構え、トレーニングルーム内に武器と武器がぶつかり合う音が響く。 「んー、速いけど・・・決めに入ろうかな?」  スチャッ・・・  レノンとしばらく武器を合わせていたが、ポプリがバックステップを取り、 傘の取っ手を回すと、傘の先端が折れる。 (何か来る!)  バッ・・・・! 「重力弾!」  そのポプリの動作に少々不信感を覚え、咄嗟に横に避けると、 ポプリが傘の先から何かを打ち出し、その打ち出された物が置いてあった植木鉢に当たる。 バリィンッ!! 「ゲッ! 何だこりゃ!」 「植木鉢が・・・・割れた?」  思わずその大きな音に振り返ると、其処には無残な植木鉢の姿があり、フリージアが目を見開く。 「いや、あれは・・・押しつぶしたって感じだな」 「正解♪ ボクの能力は重力操作、自由自在に重力が操れるんだv・・・・こんな風にね!」  ブンッ・・・  バシュッ・・・・ 「! ・・・・おっ重ッ!何だこりゃっ!!!」  ラットグが冷静に植木鉢を見て、植木鉢の状態を口に出すと、 ポプリが嬉しそうに言っていると、急に何かをレノンに当てると、レノンの体が地に沈む。 「重力を20倍にしたんだよー、いくらレプリロイドでもこれはキツイよねぇー」  トンッ・・・・ 「キツイッて分かってるなら使うなよ!!」  地に沈んでいるレノンの様子を見て、苦笑しながらも ポプリが地に沈んでいるレノンの背中に座ると、 ポプリのしりに敷かれている(笑)レノンが抗議の声を上げる。 「だってー♪ 勝負は勝負でしょー?? ねーラットグにアクセルー?」 「勝負だから仕方ない、あきらめろレノン」 「そうだよねー♪」  レノンの抗議を無視してトレーニングルームの外に居る二人に同意を求めると、 顔を見合わせて嫌な笑みを浮かべた後、二人して同じようなことを言う。 「あとー、こんな事も出来るんだよねぇーv」  フッ・・・・ 「ん? 今度は浮いた!?」  ポプリが笑顔を浮かべて、傘を上に上げると、レノンが浮き上がり、植木鉢の破片も浮き上がる。 「そ、重力を操作できるから無重力空間を作り出す事も可能な訳、んじゃそろそろ・・・ フィニーッシュv」  ドスッ・・・・ 「ガハッ・・・・!」  浮き上がったレノンの背中の上で話していると、次の瞬間、レノンの首に手刀を入れ、 レノンが痛そうに顔を歪め、意識を手放す。 スッ・・・パタッ・・・・ 「勝負、有りだな」 「イエーイ♪」  重力が徐々に弱まり、レノンが地に落ちると、 ラットグが苦笑しながら言うと、ポプリがブイサインをする。 「中々強かったよ、レノン? また遊ぼうね?」  少女の様なかわいらしい笑みを浮かべ、気絶しているレノンを見て、 楽しそうな笑みを浮かべる。

第八話

ゴリゴリゴリ・・・・ 「五加皮は良いとして・・・そう言えば・・・あぁイチョウが切れてたな、後で補給しないと・・・」  白衣を着た、黒髪の人物がおびただしい数の引き出しから粉の様な物を出し、 それを薬研で潰していると、ふと無くなった薬草の事を思いだし、一瞬薬研を動かす手が止まる。  ピピピピピッ 「あ?・・・・チッ、ジルバだ・・・シカトだシカト」   今の時代ではもう古い電話が鳴り、電話の相手を確認し、一瞬嫌な顔をすると、 電話の呼び出し音を無視し、作業を続ける。  ピピピピピピピピッ!! 「・・・・シカト、シカト」  ピピピピピピピピピピピピピピッッ!!!! 「・・・・シカト・・・シカト」  ピピピピピピピピピピピピピピピピピピッッッッ!!! 「だあぁぁぁぁっ!! ウゼェェェッ!!!」  プッ!  少々五月蠅くなってきた呼び出し音を無視し続けていたが、 徐々に我慢できなくなっていき、最後にはやや乱暴に受話器を取る。 「何だジルバ! お前このごろしつこいぞ!」 「朱夜さんがこうでもしないと電話に出ないのがいけないんでしょ!」 「うるせー! お前が俺様に頼むことと言ったら面倒な事ばっかりじゃ無ぇーか!」  受話器の相手に向かって、怒鳴り声を上げると数秒後には 自らが上げた怒鳴り声と同じくらいの大きさの声が返ってくる。 「しょうがないでしょうが! 緊急事態なんですから!」  ピクッ・・・・ 「緊急事態?」  ジルバが慌てた様子で言うと、朱夜と言う男が急に態度を変える。 「実は・・・治癒強化能力が・・・」 「治癒強化能力? ・・・・ああ、ついに出たか・・・・」  フッ・・・・  少し言いにくそうにジルバが言うと、朱夜が目の奥に悲壮と懐かしさを灯らせる。 「ジルバ、俺様が行くまで、そのレプリを死んでも守り切れ、 そんで、ついでにそのレプリの繊細データを調べておけ、良いな」  カチャカチャッ・・・  電話を右手に持ちながら、液体の入った瓶や粉が入った瓶をやや乱暴にバッグの中に入れていき、 部屋の中が少々散らかり始める。 「・・・ラズロットさんには・・・伝えますか?」 「いや、良い、あいつには知らせるな」 「分かりました」  ジルバが少々遠慮がちに答えると、朱夜がしっかりとした声でその言葉を否定すると、 ジルバも少し安心したのか、先程よりしっかりとした声で答える。 「そう言や、その治癒強化能力のレプリはどんな奴だ?」 「とても優しい女の子です、何時も笑顔が耐えなくて、 とても・・・強い子です。」  フッ・・・・  受話器を片手に少々薬品臭い部屋の中が、物が減ってガランとなった時、 朱夜がフ、と気になったのか、ソニアの事を聞いてみると、 ジルバが微笑を浮かべてソニアの事を話し始める。 「そうか、会うのが楽しみだな・・・」  カタカタッ・・・・  ・・・シュンッ 「はい、お待ちしています」 「おー、なるべく早く向かう様にする」  チャリン・・・・  バッグのチャックを閉め、部屋の雰囲気には似合わない近未来的な転送装置にバッグを入れ、 コンピューターを操作し、バッグを転送する、 そして最後に机の上に置いてあった鍵を指で回しながら言う。 「そう言えば、今は何処に居るんですか? この前はロシアに居たんですよね?」 「あー・・・今は・・・・」  カチャッ・・・・キイイイイ・・・・  ジルバが思いだしたように、朱夜の居る場所を聞くと、 朱夜が少し換気をしようとかなり古い窓を開けると古い窓独特の耳に残る、 何とも古そうな音が聞こえる。 「中国だ」  そう朱夜が言うと、朱夜が見ている景色は、当たりに湖が続いていて、 とても美しく、自然が溢れていた。 「そうですか、それでは、なるべくお早くお願いしますね」 「あ、言うの忘れたけどよ・・・お前、俺様がハンターベース行ったら即治療な」 「・・・・・どうしても・・・・・ですか?」 「どうしてもだ、んじゃ切るぞ」 「え! ちょ、ちょっとー!!」  ガチャッ・・・・  プーップーップー・・・  早々に電話を切るように急いでいる口調で話すジルバの真意を見抜き、 ズバリとジルバが言って欲しくはない一言を見抜いてそれを無情にもキッパリと言い張ると、 ジルバが抗議の声を上げる前に電話を切り、自らの耳には電話の音が響く。 「・・・・ったく・・・・何時までも手の掛かるガキんちょだな・・・・ さて・・・・俺様も行くか」  ガチャッ・・・・チャリンッ  苦笑しながらも、楽しそうな笑みを口に浮かべ、受話器を戻し、 鍵を持ち、扉をしめると、部屋の中には窓から入ってくる風の音のみが響き、 部屋には徐々に沈黙が訪れる。 「ジルバ、今の電話の相手は誰だ? 随分大声を上げていたが・・・・」  受話器を元に戻すジルバの様子を見て、先程の様子を思いだし、 電話の相手を聞いてみる。 「今のは私の主治医兼先輩よ、神威鳳衆のね」 「神威鳳衆の先輩?」 「ええ」  肩を竦めてジルバが苦笑して言うと、カーネルが驚いた様な表情をし、 ジルバがカーネルの問いに答える。 「神威鳳衆が1人、「神医」の朱夜、彼の両腕は今までに十万以上の レプリロイドと人間を救ってきたと言われ、史上最高とも言える医療技術を持ち、 戦闘能力も凄まじい物で、彼が居るだけで敵兵は戦意を失い、瞬時に降参すると言う程のね」 「それ程までの人物が何故、最前線の戦場に今居ないんだ?」  今まで見てきた様にジルバが話すと、ふと疑問を覚えたのか、ジルバに質問をしてみる。 「・・・・神威鳳衆の殆どが・・・言いたくないけど・・・・性格に問題があるのよ・・・・ 何と言うか・・・戦場には赴きたくないんだけど・・・好戦的だし・・・あー!何て言うんだろう・・・ 取りあえず・・・自分勝手な俺様野郎共&勝手気ままな自由人って所ね・・・」  少々言いたくないように、眉を顰めてからズバズバと思っていることを 遠慮無く言っていき、最後には頭を抱える。 「取りあえずは、神威鳳衆の奴等は・・・・実力は十分すぎる程にあるが・・・ 協調性が・・・絶望的に無いと言うことだな?」 「・・・ええ、正解、花丸を差しあげたいくらいだわ」  カーネルが頭の中で瞬時に考えを纏めて、口に出すと、 ジルバが少々情けなさそうに苦笑をする。 「まあ、緊急の時は来てくれるから問題にはならないんだけどね」 「緊急の時だけ・・・・信じられないな」 「世の中にはあんたみたいな生真面目な奴等ばかりで形成されて無いのよ」  そんな様子に慣れたようにジルバが言うと、カーネルが心底信じられないような顔をする。 「それに・・・あいつらにもいちおう戦場に行きたくない理由って言うのもあるしね」  窓の景色を見ながら、少々悲しそうな雰囲気を浮かべる。 「んー、ちょっと遊びすぎたかなー?」  ポプリがソファに横たわっているレノンを傘で突っつきながら頬に手を当て、 言う、少しは反省しているらしい。 「大丈夫だよー、さっき回復しておいたから!  たぶんショック状態で目が覚めないだけだとおもうのー」  レノンの顔を見て、ソニアが少々首を傾げながらポプリに向かって言い放つ。 「でもソニアちゃんって何時の間に回復なんて出来る様になったんだい?」 「内緒!」  椅子に逆向きで座っているアクセルが不思議に思ったのか、 ソニアに回復が出来る訳を聞くが、当のソニアはニコニコ顔を作ったままで内緒、と言う。 「でも凄いよなー、回復能力って難しいんだろー?  色々勉強しなきゃいけないしよ、体にも負担掛かるって言うし」 「そうなの?」 「・・・そうなのって、本人が分からなくちゃ私達も分からないと思うけど・・・」  ラットグが壁に体を預けながら少々感心したように言うと、 当のソニアはとぼけた様子でラットグの問いに首を傾げ、フリージアが苦笑しながら横から言う。 「んー、たぶん誰にも分からないと思うの」 「まあ、良いんじゃない? 役に立つ能力だしねー?」  少々考えると、ソニアが少ししょぼくれ、それを見たポプリが即座に修正を入れ、 気にするな、とでも言う様にウインクをする。 「たしかにな、でも便利な能力には必ず、何か副作用って物があるもんだ、 ソニアちゃんもその能力、あんま使わない方が良いぜ」  ソファに寄りかかっていたラットグがそのままの姿勢でソニアに少々惚けた感じで注意をする、 きっと彼なりの思いやりなのだろう。 「ラットグの言うとおりだねー、たしかにあんなに深い傷を治せるくらいの能力だしねー、 副作用があったらかなりの物だろうと思うよ」 「たしかに、そう思える・・・」  ポプリがレノンを傘で突っつくのをやめ、頬に手をあて、 納得するように言うと、その後にフリージアもボソリ、と納得する様に言う。 「そう言えばさ、 ボクが来る少し前くらいにハンターベースが攻められたって聞いたんだけど、本当?」  少々疑わしい様な様子でポプリが皆に向かって言い放つ。 「ああ、本当さ、オイラ程じゃ無かったけど、結構すばしっこい奴と・・・・ よく飛び回る虫だよ」 「へー、結構厄介だったんだね」  ポプリの問いかけにラットグが少々気怠さそうに話していくと、 ポプリが分かったかどうかは知らないが、納得した様に言う。 「そのすばしっこい野郎がジルバの旦那のDNAデータ使って 旦那そっくりに変身しちまったから大変だったぜ、でも、そいつが軽率で助かったな」 「え・・・どうして?」 「あのなぁー、ジルバの旦那は「白神」って言われてた程の人だぜ?  それにただ指示を出してるだけで、あんなにのし上がれる訳無いだろ?」 「あ・・・たしかに・・・」  ラットグが少々呆れ気味で、忍者型のレプリロイドの事を話していると、 フリージアが疑問を覚えたのか、ラットグに聞いてみると、 かなり呆れ気味で説明し始める。 「戦場に赴いて、多大なる功績を挙げたんだよ、そんで、神威鳳衆になると同時に、 最高司令官に就任したって訳だ、そんな凄ぇ戦闘能力持ってる人のDNAデータを使ったらどうなる?  本人には遠く及ばないけど、かなりのバケモノだっただろうな」 「そう考えたら、何だかあの新型レプリ、少し哀れだね、戦闘に入ってりゃ もう少し被害を拡大させられただろう「何を不吉な事を言っているんですか君たちは」 「あ 英鴻さん!」  アクセルが少々つまらなそうに言うと、その言葉を途中から遮って、 赤い目と黒い髪の中国人レプリロイドが現れ、ソニアがかなり嬉しそうに名前を呼ぶ。 「ご機嫌よう少年少女達、そして、君は神威鳳衆の「桜帝」、ポプリちゃんデスね」 「初めまして、そう言う貴方の事も聞いてますよー」  その部屋にいるレノン、ラットグ、アクセル、フリージア、ソニアの事を纏めて呼ぶと、 振り返ってポプリの方を向いて話すと、ポプリも少々愉快そうに答える。 「ほほう、ちなみにどんな事を聞いたので?」 「えーとね、一流の詐欺師、破壊神の愛娘の心を盗んだ外道、道化、ゾンビって所ー♪」 「・・・・マトモな事言われてないねー英鴻さん」  少々興味がある様に英鴻が呟くと、ポプリが笑いを堪えながら次々と聞いた事を言っていくと、 ソニアが少々苦笑気味で言う。 「まあ、一流の詐欺師は褒め言葉として受け取りますが、 破壊神の愛娘の心を盗んだ外道は・・・少々受け入れられませんねぇ」 「でもさ、英鴻兄ィ、破壊神の愛娘の心を盗んだのは本当だろ?」 「たしかに・・・ あのゼロが溺愛してるソニアちゃんに甘い言葉を囁いて虜にしちゃったんだもんねー」  ポプリの聞いた事を多少、ダメージを受けながらも否定していくが、 ラットグとアクセルが頷きながらも納得していく。 「へー、凄・・・ ピピピピピピッ! あれ? 誰だろう・・・・」  ラットグとアクセルの2人の言葉を聞いて凄い、と言いかけそうになったが、 自らのポケットに入っている、小型の通信機を取り出す。 「はい、ポプリで・・・・さようならー」 ピッ 「どうしたの?」 「ま、間違いだよ・・・あれは間違い・・・・」  ガチャッ  通信機に向かってしゃべり始めると、表情が数秒後固まり、通信を中断すると、 ソニアが心配する声も聞こえていないのか、青ざめた顔で耳を塞いでいる。 「何が間違いだこの馬鹿小娘」 「ギャーッ! 朱夜さん!」  いきなり、この部屋には居ない筈の、少々ハスキーボイスで掠れては居るが、 気品のある声が聞こえ、ポプリが恐る恐る振り返ると、其処にはポプリの恐怖の対象、 神威鳳衆「神医」、朱夜が立っていた。 「何だか今日は珍しい客人が多いな・・・・」  ラットグが独り言の様に、ポツリと呟いた。

第九話

「ヒイイイッ! 何で朱夜さんが此処に居るのさ!?」 「あぁん? 人の事言えた義理か小娘」  先程、ソニア達に見せていたときとはまるで別な表情をしてポプリが言うと、 朱夜が眉間に皺を寄せ、子供が見たら泣くであろう、と誰もが思う悪人顔を見せ、言う。 「失礼ですが、貴方は…神威鳳衆「神医」の朱夜殿でしょうか?」  「あ? ああ…そうだが?」  迫力満点の朱夜の前に涼しい顔で「若仙人」英鴻が割って入り、 朱夜に質問をすると、一瞬驚いた様子だったが朱夜が質問に答える。 「そう言うお前は…「若仙人」って所か?」 「おや、ワタシも結構有名な様で」 「ああ、色々聞いてるぞ」  一瞬で悪人顔を普通の顔に戻し、朱夜が言うと、英鴻が嬉しそうに答えると、 少々朱夜が笑いをこぼす。 「ゾンビだとか、破壊神の唯一の天敵とか、何十歳も年下の小娘を恋人にしてるだとか…」 「それは全部、ワタシに悪意を持った方達の流した誤った情報デス」 「ま、別にどうでも良いがな」  クスクスと笑みを押さえきれて無い様に次々と言っていくと、 英鴻がキッパリとそれを否定し、朱夜も一瞬でも笑みを納める。 「さあて、本題に入るぞポプリ」  ボキッ…ボキッ 「ヒイィッ! 勘弁してよー!!」  英鴻に向けていた視線をフとポプリに戻し、 普通だった顔を悪人顔に戻し、距離を縮めていく。 「今から早速地獄の悪鬼すら恐れる治療してやる…… と言いたい所だが、お前よりも重傷な患者が居るんでな、今日は勘弁してやる」 「あのー」 「何だ小僧?」 「小僧じゃありやせん、ラットグでさぁ、と言うか朱夜さん、 ポプリの野郎、話し聞いてませんよ」 「ポプリちゃん気絶してるー」  ツンツンッ……  関節をボキボキならしながらポプリの肩を掴み、迫力満点の顔で言うが、 次の瞬間顔を普通に戻し、肩を面倒臭そうに叩いていると、 ラットグが気絶しているポプリを指差し、言うと、ソニアが心配そうに顔を突っつく。 「あー、適当に寝せときゃ起きるだろ、それよりも・・・ こっちの小僧はまだ起きないのか?」 「小僧? 失礼ですが、朱夜殿はレノン少年が男だと分かるんですか?」  気絶しているポプリをチラリと見て、次に今だ目を閉じているレノンを見て少々眉を顰めると、 心底驚いた様子で英鴻が朱夜に向かって質問をする。 「俺は医者だからな、男か女かは骨格で分かる」 「…骨格ねぇ…」 「まぁ、顔は女だがな」  英鴻の問いにキッパリと答えると、アクセルが少々レノンに哀れみを感じ、 最後に朱夜がトドメとも言える言葉を発する。 「……う、体……痛ぇ」 「お、目ぇ冷めたか」 「あんた……は?」 「まぁそう言う事は良い、ちぃーっとおっかねぇかもしれねぇけど・・・ ま、痛みはねーから大人しくしてろ」  カチャッ・・・スッ・・・  朱夜の発言を聞いて起きたかは知らないがレノンが小さく呻くと、 朱夜がレノンの寝ているソファの近くに座り、袋の中にある針の中から比較的短めの物を選ぶ。 「針? あんな物で何するんだろ?」 「あの人は神威鳳衆「神医」と呼ばれた程の人、治療に決まって居るでしょう?」  アクセルが朱夜の持っている針を見て首を傾げるが、 英鴻はアクセルに向かって特に驚いた様子も無く答える。 「何す……どわっ!」  ボフッ…… 「1本で十分か」  スッ……ブスッ!  針を見たレノンが抵抗しようとするが、朱夜にうつぶせにされてしまい、 朱夜がすばやくレノンの首筋に針を刺す。 「痛ッ……くない」  ガバッ……  一瞬痛みが来ると思い身構えたが何時まで立っても痛みは来ず、 先程までは鉛の様に重かった体が、今では何時も通りに軽くなっていた。 「当たり前だろ、中国医療を極限まで極めた俺様の針だ、痛い訳ねーだろ」 「ほう、さすがは神医殿ですな」  朱夜が針を布のケースにしまい、自慢げに言うと、英鴻も感心した様に言う。 「んじゃその馬鹿な小娘を宜しく頼む、気絶しただけだからその内起きるだろうからな。」  スッ…  少々困った様にポプリを見て、足音一つ立てずに部屋を静かに出る。 「…やっぱ凄ぇな」 「え? 何が?」  朱夜の気配が遠ざかって行くのを確認した後、レノンが口を開く。 「全身に一切の隙が無い、それに…何とも言えない…威圧感を放ってる。」 「たしかに、ポプリも多少は威圧感があったけど、朱夜さんには遠く及ばなかったしな」  レノンが先程の朱夜の様子を思いだし冷や汗を流すと、ラットグもそれに相づちを打つ。 「さすが、化け物と言われるだけの集団の1人ですね。」 部屋の中に沈黙が走っている中、「若仙人」英鴻が赤い目にキラリ、と怪しい光を宿し、言う。 「つっ……痛み出したわね……何時までもしつこい野郎だわ…」  ジルバが不意に顔を歪めて右腕をさすり、椅子に腰掛け言う、 ちなみにカーネルは出動要請があったらしく、今此処には居ない。  バンッ 「おい来てやったぞ…って、もう痛んでんのか、ほれ腕出せ。」  ドアを乱暴に空けた朱夜がジルバの様子を見て、少々眉を顰め、 ジルバの近くにある椅子に座る。 「はぁ…すいません」 「気にすんな、んで? 今はあいつとはどうなんだ? この傷をつけたのはあいつだろうが」  シュルッ…  少々すまなそうにジルバが顔を下げて呟くと、朱夜がさほど気にしてない様子で包帯を取り出し、 思いだした様に言い出してみる。 「あ、はい、何とかやってます…まあたまに殺したくなりますけど」 「……ま、まあうまくやってるなら良いけどよ…」  少々バツが悪そうに言い始めると、徐々に部屋に殺気が広がり初め、 さすがの「神医」朱夜もどもりながら苦笑する。 「どうです? 私の腕」  袖を捲り、白い腕を出すと、其処には細い腕にはとても似合わない、 十字架の様な形をした酷い傷跡があった。 「酷い、それしか言いようがねぇ」 「そうですか、でもこのごろは良くなってきました、 前は1ヶ月に1回腕を取り替えなきゃいけなかったのが、今は5ヶ月に1回で済むんですから」 「……お前な」  キッパリとすがすがしさを感じる程に朱夜が言うと、焦った様子も無く、 ジルバが笑顔で良くなった、と言い張ると、あきれ果てて朱夜が頭を抱える。 「これは、私の罰、ですから」  悲しそうに自分の腕を見つめながら、小さく呟く。 (…あの時の…) 時はレプリフォース大戦に遡る、私がまだ戦場を駆けめぐって居た頃  私が、多くの命を奪って居た頃 「ジルバ、P―6751ポイントから救助信号が出ている、今から向かうか?」  風が吹く中、青い髪を靡かせ、「海神」ポセイドンが廃墟の上に居る人物に向かって視線を向ける。 「……」  ポセイドンの呼びかけに気付いていないのか、無表情のまま銀の髪を靡かせ、 金の視線を何処か遠くへ向ける。 「…ジルバ、レプリフォースを気にするのは分かるが……今の役目を果たせ」 「分かってるわ、行くわよポセイドン」  スタッ  無表情なジルバの様子を心配してポセイドンが少々控えめに言うと、 ジルバがしっかりとした表情で廃墟から静かに飛び降りる。 (何だか嫌な予感がする…何でだろ…)  少々心の底からわき上がる不快感を拭いさりながら、ジルバがそう呟く。  この時ジルバはまだ知らなかった  翔ていく先に、闇が蔓延っている事に  地獄からの手招きに、死の招待状に  彼女は黒に染まるのか  それは、誰にも分からない  キマグレ ナ カミ ニシカ クルッタ カミ ニ シカ ネ? 「此処ね、救助信号が出てるって場所」  信号の発信源の電波を近くで感知し、ジルバが当たりを見渡して言う。 「…こんな所に入り込むとは…」  ポセイドンが顔をしかめ、廃墟と化したP―6751ポイントを見る。 「じゃあ二手に別れましょうか、何かあったら連絡を」  タッ  何時までこうしていてもしょうがない、とでも言う様にジルバがポセイドンから1つ通信機を引ったくり、廃墟の中へ消えていく 「ちょっと待…もう言ったか、しょうがない…俺も…」 「行かせませんよ」 「! お前は…!」  廃墟に向かって走っていくジルバを止めようとしたが、姿はもう消えていて、 しょうがない、と自らも廃墟に入ろうとしたが、背後から何者かの声が聞こえ、 バックステップを取り、距離を取る。 「名乗る義理はありません、はっきり言います、吾輩の目的を達成するのに貴方は邪魔です」 「それで…消しに来た訳か! タダではやられない!」  シュウゥ・・・・  フードを被った人物がポセイドンに向かって殺気や感情の一切籠もらない声を向けると、 ポセイドンの額を一筋の汗が伝うが、すぐさま恐怖を振り払い、周辺から水を集める。 「…遊んでいる暇はありません、少しの間…黙っていなさい… 邪眼 …」  スゥ…… 「!」  ポセイドンの様子を見てフードの人物が殺気を発し、その場の空気が豹変し、 ポセイドンの顔に滅多に見られない、死に対する怯えが浮かび上がる。  ブシュゥウッ! 「グッ…アアアアアアアアッッ!!」  ガタッ ボトッ  ボタボタボタッ……  そして、次の瞬間には、ポセイドンの体から血が噴き出し、パーツが次々と落ち、 大量の血痕が地面を汚し、ポセイドンの悲痛の叫びが廃墟に凄まじく響く。 「アッ、グ……」  シュッ 「お眠りなさい」  ドスッ!  何とか意識を失う事は避けようとポセイドンが歯を食いしばり、痛みに耐えようとするが、 フードの人物が背後に回り、ポセイドンの首に手刀を入れる。 「ガッ……ジル…バ…逃げ…ろ」  フラッ…ドシャァッ!  首に手刀を入れられ、意識を失う寸前にジルバの事を想うが、その直後、 意識を手放し、自らの血だまりへと倒れ込み、海の様に青い髪が朱に染まる。 「…まずは1人」  フードの下の瞳を向け、小さく呟き、姿を消す。 「! 空気が…変わった…?」  ポセイドンが意識を手放した同時刻、 ジルバは廃墟の中の空気が変わった事に気付き、当たりを注意深く見渡す。 「さすがは…「道化師」ラズロットの一番弟子…「海神」とは格が違いますね」 「…あんたは?」  そんなジルバの様子を見ながら、廃墟のビルの上からジルバを見下ろすのは、 先程ポセイドンを沈めたあのフードの男であった。 「吾輩は…」  バサッ…トッ! 「!」  言葉を紡ぐ前に自らの顔を覆い隠していたフードを取り払い、 同時にビルの上から飛び降り、ジルバと視線を交わす。 「吾輩の名前はドッペル…貴方の弟、とでも言う存在でしょうね?」  フードを外すと、其処には…この世の美を集結させたと言っても無理も無い程美しい金の瞳、 闇に怪しく映える恐ろしく白い肌、恐ろしい程美しい赤い髪、 そして…白神と瓜二つな顔つきの…赤兎、ドッペルが居た。 「私の…弟…?」 「…さあ、白神殿、楽しませて頂きますよ? この吾輩を」  自らと瓜二つな相手を見て動揺するジルバをドッペルが冷静に、 かつ殺気の籠もった目で見つめ、時が流れて行く…  赤兎と白神の運命は…交差した…2人の行き先は…?  死か…? 生か…? それとも…消滅か…  その答えは…神のみが…知っている

第十話

「…さあ、白神殿、楽しませて頂きますよ? この吾輩を」  ニコリ、と顔だけに笑みを浮かべ、殺気を当たりに撒き散らし、 ジルバの方へ金の瞳を向け、言う。 「…あんた、血の匂いがする…ポセイドンをどうしたの!」 「おや? 海神殿の事がそんなに気になさるとは…2人は恋仲でしたかな?」   相手から僅かに血の匂いを嗅ぎ取り、ジルバがドッペルに向かって言い放つ。 「生憎彼奴には妻が居るからね、親友よ」  ドッペルの言葉を聞き、一瞬吹き出すが、直ぐに冷静さを取り戻す。 「そうですか、では…冗談は此処で終わりにしましょう」 スッ…… 「ええ、分かったわ」 チャッ  相手の様子を見て顔から笑みを消し、何らかの構えを取り、 ジルバも笑みを消し、サイディフェンスダガーを構える。 「輝石眼!」 「間奏曲=インテルメッツォ!」 ドカァンッ!!  ドッペルがジルバを睨み、ジルバがドッペルに向かって重力の攻撃を放ち、 次の瞬間、お互いがお互いの攻撃を避け、当たりの廃墟が破壊される。 「クッ…」 「チッ!」  シュンッシュンッ!  当たりに破片が飛び散り、双方が一瞬で姿を消し、当たりを沈黙が支配する。 (さすがは白神…あの短時間で…)  スッ…  廃墟に体重を掛けて寄りかかりながら脇腹に自らの手を当て、苦笑する。  ドロッ… 「吾輩に手傷を負わせるとはね…これは…さっさと仕留めますか…」  顔の前に手を持ってくると、其処には自らが滅多に出す事が無い、 自らの体を今さっきまで流れていた物であった。 「…あいつ、結構すばしっこいわね」  フー…  少々不機嫌な様子でジルバがダガーに付いた血を振り払うと、廃墟に体重を預ける。 (体内を攻撃する暇が無かった…かろうじて…傷を負わせたけど…致命傷じゃ無い)  相手の素早さに関心しながらも、自分の不手際を後悔し、眼を閉じるが、直ぐに眼を開ける。 ((次は…仕留める!))  赤兎と白神は眼を鋭くし、お互いの気配を探り合う。 「此処は…一気に決める!」  ギュッ!  覚悟を決めた様にジルバがダガーを握ると、ギュッと思いっきり眼を閉じる。 「 世界を翔る 銀の風 万物に置いて その風を纏え 刹那の時に永久の力を与えよ!」  ゴウゥッ!  ジルバが呪文の様な言葉を紡ぐと、周りに風が、大気が渦巻き、 ジルバの体に何らかの変化が見られるが、変化が完全に終わる前に、何処かへと消える。 「…風が変わった?」  ザシュッ…! 「な、に…?」  シュッ!  一瞬の風の変化に気付き、ドッペルが警戒していると、一瞬で自らの体には深い傷が付けられるが、 素早くバックステップを取る。 「…白神、勝負に出ましたか……ゴホッ!」  ビチャビチャビチャッ!  相手の姿を見、一瞬笑みを浮かべるが、口内に満ちてきた血液を吐き出し、 地面に血痕が次々と出来る。 「ハイパーモード、銀楼…発動!」  血を吐くドッペルを見て、先程の白い鎧では無く、中世ヨーロッパの様な 十字架が描かれた銀の鎧を纏い、金の瞳は銀の瞳に、そして銀の髪はより怪しく輝き、 まるでその姿は…僅か17歳の時に初めて戦場に赴き、19歳の時、魔女と言われ火刑となった、 聖女、ジャンヌ・ダルクの様である。 「この姿で居られるのは30分、余裕であんたをボコれるわ、ポセイドンの仇!  覚悟なさい!」  はっきり言って見た目は神々しさ溢れる美女だが、言っている事は何時ものジルバである。 「升がない…吾輩も…ゲホッ…勝負を賭けましょう…このままでは嬲り殺し…ですからね」  ポタッポタッ……  肩からの血を少々自らの手で押さえながら言うが、次の瞬間… ドッペルの雰囲気が変わり、空気がざわめく。 「我は狂った予言者…神により生み出された罪人の身を…紅に染めよ…」  スゥ……ザワザワ…  呪文を答えると、ドッペルの髪が腰まで伸び、色が漆黒の黒に染まっていき、 フードを脱ぎ捨て、軽装だったアーマーが黒と赤のまるで死神の様な物になり、禍々しさが増す。 「ふぅ、傷も治りましたし…本当の勝負は此処からです…」  スッ 「ええ、もっと傷を負わせてあげるから今の内に直しておきなさい」  先程ドッペルが肩に負っていた傷が治り、 それを見てジルバが少々不機嫌そうに挑発ともとれる言葉を相手に投げかける。 「それは…どうでしょう! 輝石眼!」  ピシッ! 「これは… 間奏曲=インテルメッツォ!」  ゴゴオッ!  雰囲気が変わったドッペルの目が怪しくキラリ、と光った直後ジルバが異変に気付き、 重力を自らの足下に掛け、大規模な爆発を起こした後、ジルバが素早く姿を消す。  ドゴオッ! 「フフン♪ まずは…足一本…」  クスリ…  爆風に乗り自らに向かって来た大きな破片を素手で殴って砕き、狂気の塊の笑みを浮かべる。 「…あいつの目…物質を好きな物に変える事の出来るのね…だから私の足も…」  ズルッズルッ…  ジルバが少々困った様に左足を引きずって自らの動かない足を見ると… 其処には先程あった自らの足とは違う物が目に映る。 「…宝石に変えられたって…所かしら?」  カチャッ…  先程までは白い足が其処にあったのだが、今は美しい虹色の光を放つ宝石に変わっていた。 「厄介ね…」 「でしょう?」 「! 何時の間に!?」 「鏡眼」  バキイィイッ!  全く動かない足を見て苦々しい表情で呟くと、背後にいつの間にかドッペルが現れ、 反応する間も無く、当たりに痛々しい音が響く。  ドサッ! 「…クッ…今度は鏡…?」  ジルバが地面に向かって倒れ、自らの右肩を見ると、其処には美しいガラスの腕があり、 動かそうとするが、指一本すら動かなかった。  ガシャアァンッ! 「…クッ…アアアアアアァッ!!」  カチャッ… 「…チェックメイトですね…」  ドッペルがジルバの右肩ごと、ガラスの腕を粉々に踏み砕くと、 ジルバが苦痛の叫びを上げる。 「…まだっ、終わってないわよっ!」  ドカッ!! 「グッ…」  タッ!  まだ痛みは残っているだろうが、ジルバがドッペルに向かって銀の強く、 相手を睨み殺す様な銀の瞳を向けた直後、宝石化していない右足でドッペルを蹴り上げ、 腹を蹴られ、少々苦悶の表情を浮かべながらドッペルもバックステップを取る。 「…能力…発動!」  シュウウゥ…  パキッ…パキッ…  片足でうまく立ち上がり、手に光を集めて宝石化した足に光を当てると、 徐々に宝石が崩れ、消えていく。 「…吾輩の輝石眼を…破るとは…正直、予想外ですよ、白神殿…本気で行きます! 炎眼!」  シュウウウ…ボボッ!  少々面白そうに口を緩めると、目に光を宿し、空気中に大量の炎を生み出し、自らの体に纏う。 「お行きなさい!」  ボウゥウウッ!! 「…全てを無に還す…」  スッ…  スウウゥ…  ドッペルが体に纏っていた炎をジルバに向かって発射すると、慌てる様子も無く、 銀の瞳をキラリと光らせ、ダガーを振るうと、火が段々と消えていく。 「! …まさか…白神と呼ばれる由来は…!」 「喜歌劇=オペレッタ!」  シュッ…ザシュザシュザシュッ!  銀の瞳を輝かせ、自らが発射した炎を消したジルバに何かを感づいたのか、 今まで見せなかった動揺、怯えを見せるが、次の瞬間ジルバの声が響くと、 何かを斬る様な音が当たりに響く。 「グッアアアァッ!! クッ…水眼!」  シィ……ン  先程とはまったく逆な状況になり、ジルバが悲鳴を上げていたのが、 今ではドッペルが悲鳴を上げ、空中に水を作り出そうとしたが、沈黙が訪れただけだった。 「な…に? まさかっ!」  シュンッピピピピピッ!  能力が発動しない事に驚き、目の前に電子パネルを表示すると、 其処には何故か0と言う数字が出されていて、ドッペルの表情に怯えが一層強くなる。 「ドッペル」 「! …白神…」 「最後の勝負よ、あんたの最大の攻撃を出しなさい…私も…次で決着を付ける」  いきなりジルバの声が聞こえ、ドッペルが声の方向を向くと、 其処には廃墟のビル上に立っているジルバが居て、ドッペルに最後の対決を申し入れる。 「…上等です、貴方に敬意を表し…吾輩も最強の技で…貴方に答えましょう!」  ズオオォオ…  ジルバの申し入れを受け入れ、自らも体に紫の光を宿し、チャージを始める。  そして、双方の準備が整えられ、双方が地面を蹴り、お互いとの距離を縮めていく。 「消滅曲=デリート…」 「呪眼…」  ジルバが銀色の瞳を輝かせ、ドッペルが金の瞳を輝かせ…相手に向かって鋭い視線を向ける。 「天地消滅!」 「臨界堕落!」  シャッ!  お互いに技の名前を叫ぶと、当たりに力がぶつかり合った光が広がり、 尚もお互いの力とぶつかり合っている。 「ぬあぁっ!!」  ググググッ! 「… 削除 …」  パァンッ!!  ドッペルが先程よりも格段に瞳の光を強くしてジルバの技を押していたが、 次の瞬間、ジルバの呟きによって双方の技が打ち消される。 「吾輩の…技が…消され…た?」  ガクッ…  相手によって消された自分の最強の技を見、思わず膝を付く。 「…舞踏組曲=バルトーク!」 「!」  ザッザッザッ…ドスッ!  膝を付いたドッペルの隙を付き、ジルバが背後に回り込み、ドッペルを、 1回、2回、3回、回転しながら斬り、最後にはドッペルの心臓部分を貫く。  ゴホッ…ピチャッピチャッピチャ… 「…フフフフフ…」 「…」  大量の血液をはき出しながらドッペルが立ち上がり、 笑みを浮かべるのをジルバが無言で見つめる。 「…吾輩の…負けです」  今までとは違う純粋な子供の様な笑みを浮かべ、言う。 技の説明 まずはドッペルから。 「輝石眼」 (邪眼の能力を使い、レプリロイド、物質、そして人間までも宝石に変えられる技。 ちなみにこの技で出来る宝石は1kg程で1億を超える品もあると言う) 「鏡眼」 (輝石眼と同じ様に相手を鏡に変える技、今回ドッペルはジルバを完全に鏡にしなかったが、 力の使いようでは完全に鏡の状態にする事が可能、主に鏡にした相手を踏みつぶす、と言う攻撃方法) 「炎眼」 (空気中の水分を変換し、炎にする事の出来る技、知っての通り、炎は酸素が無い所では燃えない為、空気が無い所では使用不可) 「水眼」 (使用は出来なかったが、炎眼と似ていて、水を生み出す技、炎眼と同じく空気が無い所では使用不可) (後はネタバレなので、今回はこれらの技の効果のみ紹介です。) 次はジルバの技 「間奏曲=インテルメッツォ」 (結構使用頻度が高い技で、重力を操る事が出来ます、ちなみに無重力にする事も可能。) 「喜歌劇=オペレッタ」 (短時間のみ、自らが誇る最高スピードで動ける技、ちなみに最高速度は光速を超える時もある) 「舞踏組曲=バルトーク」 (流れる様な動きで敵を切り刻む技、この攻撃の最中、まるで踊っている様なので、この名が付いた。)

第十一話

「…吾輩の…負けです」  ニコリと純粋な笑みをジルバに向け、ドッペルが満足した様に笑顔で言い放つ。  ゴボッ!! 「ゲホッ! ゲホッ! …うっ」  ドサッ!!  「! ドッペル!」  笑顔で立っていると、急に口から大量の血液がはき出され、 気管に入った血液を排出しようと咳き込むと、体を支えられなくなり、 ついには地に倒れ、ジルバが心配そうに急いで駆け寄る。 「…フフ、どうした…んです…か? 白神殿…顔色が…悪い…ですよ?」 「喋るんじゃないの! 今傷を消すから…!」  フッ…  ジルバに上半身のみ起きあがらされたドッペルが血の気の無い笑顔を浮かべると、ジルバが必死にドッペルの傷口を消し始める。 「…これで…良いわ」  ドクンッ!  ある程度大きい傷を消し終わると、いきなり動機が大きくなり、 頭の中に何かの映像が浮かび始める。 ……… 『…ね……ド……ル…私……ずっと……だよね』  顔はハッキリと見えないが、水色の髪を腰まで伸ばした少女が笑いながら言う。 『う…ん…僕達はずっと一緒だよ』  赤い髪の少年が笑顔を浮かべて話し始めると、 急に映像に掛かっていたノイズが取れ、少年の顔が見える。 (…誰? この子?)  ドクッドクッドクッ  まるで自分が見えていないかの様に話す子供達を見て、 どんどん鼓動が大きくなっていく。 『やめて! ドッペルを連れて行かないで! どうして!? パパ!!』 『ジルバ! 助けて! 助けてええぇぇ!!』  ズキンッ!! (…ッ…思い出した)  ポタッ…  水色の髪の少女が大人の兵士に取り押さえられながらも必死に赤い髪の少年に手を伸ばし、 赤い髪の少年も水色の髪の少女に向かって手を伸ばすと、ジルバの頭に激しい頭痛が走り、 目から透明な滴がこぼれ落ちる。 『…パパ! どうしてドッペルを連れてっちゃったの!? どうして!?』 『…ジルバ、お前の記憶を消そう…ドッペルの事は…忘れるんだ…』 フッ… 『…あっ、い…や…!  …あれ? 私、何してたの?』  幼い頃のジルバがジェネラルに向かって叫び声を上げると、 次の瞬間ジルバの頭に白い光が当てられ、次に目を開けた時には、何もかもを忘れていた。 (何で…思い出せなかったの?)  ポタッポタッ…  泣く機能など、自分には付いていない筈なのに、ジルバは泣き続け、 滴も留めなくこぼれ落ちている。 『アハハハッ! こっちだよーだ!』 『ドッペル様! 今日と言う今日は!」 『違うよ! 僕はこっちだよー!』 『ド、ドッペル様が…二人!?』  レプリフォースの兵士を相手に逃げ回り、最後にはジルバとドッペルの見分けが付かなくなり、 悩んでいる間にまたイタズラを繰り返す、そんな毎日だった。 『僕達って本当にソックリだね』 『うん、髪の色が同じだったら分からないって言ってたもん!』  少々疲れた様子でレプリフォース基地から離れた大きな桜の木に寄りかかり、 ドッペルが笑いながら言うと、ジルバもそれに笑いながら答える。 『ねえ、ジルバ』 『何? ドッペル』 『ずっと一緒に居ようね! ジルバが…気にくわないけど、 カーネルの所にお嫁さんに行っちゃっても! ずぅーっと! ずぅーっとだよ!』 『うん! 約束だよ!』  金色の瞳を向け、ドッペルが少々恥ずかしそうにジルバを見て言うと、 心底嬉しそうにジルバも笑って言葉を返す。 『じゃあ、此処の木にさ、印を付けよう? 僕は兎さんの半分を彫るからさ、 ジルバはもう半分を彫って?』 『…うん! 良いよ』  ガッガッ…  ドッペルがナイフを取り出し、不器用ながらも兎を彫っていくと、 ジルバにもナイフを手渡し、二人で彫り始める。 『大人になったら! また来よう?』 『約束だよ?』 『じゃあ、指切りげんまん!』 『『約束だよ?』』  ジルバとドッペルが指切りげんまんをすると、二人でおでこをくっつけ笑いながら言う、 そして、二人の髪にはピンク色の花びらが舞い落ちる。 「桜の木…」 「えっ? 白神殿? って…うぉう!」  ガシッ!  ジルバが思い出した様に呟き、ドッペルが何事かと思っていると急に肩に担がれ、 ジルバが走り始める。 「第十一部隊、応答しなさい、P―6753ポイントにポセイドンが転がってる筈だから保護しなさい、 私はこのまま逃げたイレギュラーを追うから、以上」  ブチッ 「いったい…何を…?」  メットに搭載されている通信機に向かって必要最低限の事を伝えると、 その場にメットを投げ捨て、走り始めるジルバを見て貧血気味のドッペルが目を細め、 相手の行動に目を見張る。 「良いから担がれてなさい! 黙ってないと一生喋れなくするわよ!」 「…ハイ」  ジルバがドッペルに向かって殺気を発すると、片言で貧血のせいもあるが、 青い顔をしながらドッペルが頷く。  ズシャッ! 「到着っ! 結構近かったわね。」  ジルバがドッペルを担ぎながら草原の中を進んでいく、 先程の廃墟の近くとは思えない程生命に満ちあふれている。 「ドッペ…気絶してるし」  タタタタタッ!  肩に担いでいる相手の顔を見ると、気絶しており、少々困った様に走っていくと、 見覚えのある桜の木が其処にはそびえていた。 「…まだ…あった」  トサッ… 「懐かしい…」  サアアアアァッ…  ドッペルを木に優しく寄りかからせると、自らも桜の木に寄りかかり、風に思いを馳せる。 ……… 『お家に帰して…帰りたいよ…』 『もうお前は帰れない、お前は捨てられたんだ』  ドッペルが涙を流しながら冷たい牢獄の檻の中で言うと、 ローブを被った男がドッペルに向かって冷たい言葉を投げかける。 『…嘘』 『本当だ、お前の姉もお前の事など覚えていない、お前は儂に従う事でしか… 生きられないんだ』  金色の瞳を極限まで見開き、男の言葉を聞くと、その瞳から光が消える。 『相変わらず悪趣味だな』 『黙れラフェスタ!』  水色の髪の鎧を纏った青年がドッペルに視線を向けて言うと、 ローブの男がヒステリックな声を上げる。 『それよりも…ミラージュが不安定な状況らしい、何か指示を出したらどうだ?』 『…貴様は此処でこいつを見張っていろ。』 『分かった』  ローブの男の声を無視する様に鎧を纏った青年が冷静に今の状況を話すと、 ローブの男が部屋を出て行き、部屋の中に沈黙が訪れる。 『お前、名前は何と言う?』 『…ドッペル』  気配が消えた事を確認すると、鎧の青年がドッペルに話しかけると、 膝を抱え、少々泣いている様な鼻声でドッペルが問いに答える。 『私はラフェスタ、ドッペル、教えておこう、あのローブの男の事を…』 『…あいつの事を?』 『ああ、きっと必要だ』  鎧を纏った青年、ラフェスタがドッペルに向かって視線を向け、そう言い放つと、 ドッペルの瞳に光は戻らなかったが、その変わりに殺気が灯り、 それを見たラフェスタがドッペルに視線に会わせるように屈んで牢越しに話しかける。 『…あいつはシグマ、数年前までは…最強のハンターと呼ばれていた程の男… だが今は…最悪のイレギュラーと呼ばれている。』 『シグマ…』  キッ…  少々語るのも嫌そうにするが、苦々しげに語り初め、 ローブの男の素性を知ったドッペルが牢を睨み付ける。  ピシッ… 『そいつが…全てを奪った…』 『!』 (何だこの威圧感、そしてこの眼は…シグマ…貴様はこの様に恐ろしい物を…)  睨み付けていた牢の一部に亀裂が入り、ドッペルが凄まじい殺気を発しはじめ、 ラフェスタの顔に一瞬怯えが浮かぶが直ぐに元の無表情な顔に戻すが、内心は焦りが消えない。 『…何時か…』  ―殺してやる―  瞳に一層強い闇を光らせ、唇を血が出る程強くかみしめ、一種の誓いの様に、その言葉を呟いた。 『グワアアァァッ! たっ助けてくれっ!』  凄い勢いで壁に叩き付けられた研究員の様な人物が目の前の人物に命乞いをする。 『助けてくれ? 吾輩から光を奪い…吾輩に拷問の様な実験を繰り返し… 吾輩を弄んだ…お前を…助ける? ハハッ! 馬鹿なっ!』  数年前の子供のアーマーでは無く、大人のアーマーへとなり、 金の瞳に相変わらず深い闇を抱いたまま、研究員を残酷な目つきでドッペルが見据える。 『ラフェスタから聞いた…シグマはこのごろ…オッドアイを持つレプリロイドに掛かりっきり… 逃げ出すなら今、だってね?』 『ヒッヒイイイッ!』 『…貴様など殺す価値も無い…吾輩の前から…消え失せろッ!』  ダンッ!!  ドッペルが壁に自らの拳を叩き付けると、研究員が凄まじい速さでこの場を去る。 『…行こう…』  タッ…  しばらく沈黙に身を任せていたが、直ぐに瞳に光を宿し、何処かへ向かって歩き始める。 『これで…レプリフォースもお終いか…』 『…シグマに騙され…自らが愛した…レプリフォースと娘を手放した…貴方はそれで満足ですか…?』 『誰だ…』  ファイナルウェポンにある巨大な椅子に座っているジェネラルに向かってハイパーモード状態の、 まるで死神の様なアーマーを纏った黒い髪、金色の目をしたドッペルが、そう言う。  恐らく、此処まで来る間に変身したのだろう。 『…ネフィリアス』 『何故此処に来た…此処はもう崩壊する』 『貴方に聞きたい事がある…ただそれだけの事』  ジェネラルが自分に気付かない事を知ると、拳を握りしめるがあくまで冷静な様子で話し始める。 『早急に済ませるが良い…此処はもう…大気圏に突入するだろう』 『ええ、聞きたいことは1つだけですよ…貴方は…自らの息子の事を…覚えていますか?』 死神の様な格好をしたドッペルをジェネラルが穏やかな、 死を覚悟した目で見据えて相手の問いかけに応じると、 金の視線を少々辛そうに光らせて今まで聞きたかった、その一言を口に出す。 『! …何故、それをお前が……いや、関係無い…か、答えを出そう… 息子の事は一日でも忘れた事は無い』 『…そう…ですか…息子さんは生きていますよ…シグマの所から逃げだして…ね』  ドッペルの問いかけに目を極限にまで見開き驚いた様子を見せるが、 直ぐに落ち着きを取り戻して心底そう思っている様に相手の目を真っ直ぐ見て、言うと、 目を伏せてドッペルが自分が息子とは名乗りでず、そう言い放つ。 『…良かった』 『!』 『原因は私だが…無事ならば良い…生きているだけで良い』  先程までの表情とは違い、目元に微笑みを灯し、心底安心した様にジェネラルがそう言うと、 驚きのあまり今度はドッペルが目を見開く。  ゴゴッ…! 『…これまでか、お前ももう行け、此処で死ぬのは私だけで十分だ』 『…ええ』  クルッ…  カッカッ…  二人の会話は永遠に続くのでは無いか、と思ったが…遂にファイナルウェポンが大気圏に突入し、 それを確認するとジェネラルがドッペルに退避する様に言うと、ドッペルもそれに従う。 『……』  ピタッ… 『…どうしたのだ?』 『…ハイパーモード…解除』  シュゥウウッ… 『! …お前は!』  金色の瞳を床に落として歩き続けて居ると、何かを思った様に立ち止まると、 ジェネラルがどうした事かと声を掛けた瞬間、ドッペルがハイパーモードを解除すると、 ジェネラルが先程と同じ様に目を見開いて驚く。  バサッ 『…やっぱり、黙って去るのは吾輩の性に合いませんね』 『…ドッペル』 『このままじゃいけないと思いましてね…吾輩も』  黒い髪が完全に赤い髪に戻ると髪をかきあげて少々虫の居所が悪そうに頭を掻くと、 ジェネラルが静かにドッペルの名前を呼ぶと、先程とは違い、 悲しさも何も無い金色の瞳を、ジェネラルの方へ真っ直ぐ向ける。 『…憎んでいるだろう…私を』 『一時期はね、とても憎くてたまりませんでしたよ…』 『…』 『でも…次第に…会いたい、と言う気持ちの方が大きくなって行きました』  静かにジェネラルが僅かに悲しみを含んだ声で言うと、ドッペルが言い出しにくそうに 正直に自分の気持ちを言うと、ジェネラルが目を伏せ、それを見てドッペルが言葉を続ける。 『今はもう…憎んでいません…父上』 『ありがとう…その言葉が聞けただけで…とても嬉しい…だから…』 『…だから?』 『            』  ドカァンッ! 『…分かりました…さようなら…父上』  タタタタッ!!  シュンッ!  安らかな笑みを浮かべてドッペルが言うと、ジェネラルが言葉を紡ぎ出し、 雑音に紛れていて途切れてしまったかの様だが、ドッペルの耳にはしっかり届いていたらしく、 ジェネラルに向かって一礼すると、走り出し、姿を消す。 『…ジルバ…どうか…ドッペルと…共に…生きてくれ…』  ガララララッ!  ドォオンッ!!  ドッペルが姿を消した事を確認すると、目を閉じ、最愛の息子と娘の事を心に思い、 願いの様な事を心の中で呟くと、あちこちで爆発が起こり破片が落ちてきて… 大気圏に本格的に突入した。  シュンッ! 『…父上』  ファイナルウェポンが大気圏に本格的に突入した頃、 ドッペルはある廃墟の屋上に転送されていて、まるで流れ星の様に散る、 ファイナルウェポンの残骸を見て切なそうに…ジェネラルの事を呟く。 『貴方の願い…貴方の息子…吾輩が…僕が…聞き遂げました…ですから… 安らかに…っ…お眠り下さいっ!』  顔を覆い、空を金色の瞳で見つめて、人間ならば涙を流していた様にそう近いの様に言う。  『生きてくれ 愛しき…我が息子よ…』 父上… 吾輩は…今… パチッ… 「あっ、目ぇ覚ましたわね?」 「…」  まるで底なしの闇に落ちていく様にドッペルが底なしの空間に落ちていくと、 やがて周りが光に包まれてドッペルが目を覚ますと、その視線の先には、ジルバの姿が在った。 「……あ」 「? あ?」 「…姉上…」  ボンヤリとした目をしながらドッペルが言葉を紡ごうとするが、 言葉にならず、ジルバが不思議そうに言葉の真意を見つけ出さそうとするが 見つからないで居ると、ドッペルが長年呟いて居なかった言葉を、紡ぐ。 「…忘れててごめんね…ドッペル」 「…別に良いですよ…お互い様です…」 「ようやく…姉弟一緒になれたね…」 「…ええ…ようやく…」  サアアッ…  対してドッペルの言葉に驚きを覚えて無い様子で微笑みながら言うと、 ドッペルも口元に笑みを浮かべて二人で喋って居るとドッペルが木に彫られている、不器用な兎を見る。 (…有り難うございます…父上)  ザワザワッ…  ジルバの顔を見上げながら木から差し込む光を優しい眼差しで見つめながら 心の中でジェネラルに感謝の意を示すと、木の葉が二人に問いかける様に、優しく揺れていた。

第十二話

(思い返せば…英鴻と英蘭と同じくらい一時期は私達も凄い状況にあったのよね… まあ私がドッペルの事忘れてた分酷かったけどねぇ…) 「んで、今はどうなんだよ」 「あ、いちおう仲は良いと思います、殺し合いしない分には」 「…俺には理解出来ないな」  長い記憶を数秒と言う短い時間で手早く思い出していると、 朱夜に今のドッペルとの仲の良さを聞かれて笑いながら物騒な事を言い、朱夜が相変わらず理解出来ない様に呟く。 「それじゃさっさと治療してください」 「お前な…まるでポプリがでかくなったバージョンだな…」  カチャカチャッ…  ポンッ…  ジルバが飽きた様に言い放つと、 文句を言いながらも朱夜が針などが入ったケースを取り出して治療を始める。 「はっ!」  ガバッ! 「お、起きたか」 「ここここここ、朱夜さんは!?」  そしてジルバが治療を受けている同時刻、此処でようやくポプリが目を覚まし 朱夜が辺りに居ないかを確認していると、レノンがポプリの方を見てやっと起きたか、 と言う様な表情を向ける。 「朱夜さんはとっくに居なくなったぜい」 「はぁ…良かった…」  慌てふためいているポプリの様子を見て、少々面倒くさそうにラットグが状況を説明すると、 その後も辺りを見渡し、気配を探ってからポプリが安心した様に溜息を吐く。 「何でポプリちゃんは朱夜さんの事が怖いの?」 「……昔ね…地獄の悪鬼も恐れる治療をしているのを見てね…ちょっとトラウマに…」 「想像したく無いな」  気になっていた様にソニアが無邪気な表情で朱夜を怖がっているポプリに理由を聞くと、 少々思い出すのもためらう様な表情をしてから覚悟を決めた様に理由を話すと、 思わず傍で聞いていたレノンの顔も青くなる。  ピピピピピッ! 「…何かあったのか? こちらレノン」 『レノン、P―3213ポイントでイレギュラーが発生したの、 ゼロと兄さん達は別な所に出動してるから… ラットグ君とアクセル君と一緒に向かってくれない?』 「分かった、直ぐに向かうよ」  顔を青くしていると、レノンのメットに搭載されている無線機が鳴り、 レノンが応答すると、アイリスがイレギュラー発生の事を詳しく話し、 レノンも状況を理解し、直ぐに了承する。 『くれぐれも…気を付けてね?』 「分かった」  プツッ 「ラットグ、アクセル仕事だ、行くぞ」 「おうよ」 「了解―♪」  最後にアイリスが心配そうにレノンに言葉を投げかけると、 レノンも優しい声色でそれを了承し、無線を切ると、 すぐさまミラージュの弓とビームサーベルを持ってラットグとアクセルに任務の事を軽く伝えると、 ビーム小太刀を手に握り、ラットグとアクセルがまるで遊びに行くかの様に軽く答える。 「わ、私も行きます!」 「じゃあボクもー」  フリージアが愛用している槍を握りながら言うと、ポプリも先程の様子は何処へやら、 と言った様子で日傘を肩に乗せて言う。 「ではワタシも」 「英鴻さんが行くならソニアもー」  次々と任務に行く人数が増える中、「若仙人」英鴻が何かを思いついた様に目を光らせ、 自らも任務へ行くと立候補すると、ソニアも目を光らせて任務へ行くと立候補する。 「フリージアと英鴻とポプリはまだしも…ソニアは駄目!」 「えー!」 「当たり前だ!」  目を瞑って考えている様子を見せるが、 次の瞬間はカッと目を見開いてソニアの方へ指を差してキッパリと付いてくるな、 と告げるとソニアが不満そうに声を上げる。 「んじゃ行くぞ!」 「おう!」  シュンッダダッ! 「もーう!」  不満そうな声を上げるソニアの事を無視し、 レノンがラットグ達と共に現場へ向かうと、最後に不満そうな声が響く。 「ソニアだって…行きたかったのに…」  …キイィィン… 「? 何の音…?」  人気が無くなった部屋で呟くと、急に音が聞こえて来て、その音がどんどん大きくなっていく。  …パキッ… 「あっ…」  パタッ…  響いていた音が急に収まると、次は何かが破裂する音が聞こえ、 次の瞬間にはソニアの目から光が消え、そのまま床へとソニアの体が沈む。 (…苦しい…)  うつろな目で床に向かって視線を向け、体の中からまるで生まれ出た様な痛みに耐えながらも、 次の瞬間には鋭い痛みが走る中、意識を手放す。 「ギャーハハハハッ!」  バシュッ!  バシュッ!  ドゴォ…ン  下品な笑い声が響く中、笑い声を打ち消すように 爆撃音や建物が崩壊する音に人々の悲鳴が混ざり、最低な音楽が出来上がる。  シュッ…! 「あ? ぐわぁっ!」  ドカァンッ! 「うわぁぁっ!」  ベシャッ!  最低な音楽が町に響き回る次の瞬間、一筋の光がイレギュラー達を打ち消し、 イレギュラー達が状況を把握する前には次の攻撃が始まり、イレギュラーが押しつぶされる。 「なっ、何だぁ!?」 「知らなくて良いんだよ」  ドカッ! 「ぐわっ!」 「オイラ、顔はあんま知られたく無いし」  突然仲間が押しつぶされてイレギュラーの1人が驚いて居るが、 その様子を無視する様にラットグが素早い足技でイレギュラーを気絶させる。 「おっおい、お前ら! 何やってんだ!」  ドッ! 「ギャアッ!」  イレギュラーのリーダー格らしきレプリロイドが あっと言う間にやられていく仲間達にゲキを飛ばすが、 その最中に脇腹に槍が突き刺さり、そのまま倒れ伏す。 「ナイス! フリージア!」 「う、うん!」  リーダー格のイレギュラーを倒したのはフリージアで、 ラットグが他のイレギュラーを締め上げながら少々感心した様に言うと、 フリージアもそれに答える。 「あーあ、ザコばっかでつまらないなぁーっと!」  バシュバシュッ! 「ぐわああ!」  バキッ! 「あ」  かなり退屈そうにアクセルがバレットで敵を早々と正確に片付けていく途中、 街灯まで壊し、しまった、と言う様な表情をする。 「アクセル君、後で始末書提出デスよー」 「ちぇーっ、面倒くさいなぁー…」  バンッ!  相変わらず戦闘中は物陰に隠れながら英鴻が言うと、 アクセルがイレギュラーの頭を素早い動作で打ち抜く。 「レノン、さっさと片付けちゃいなよ!」  ドカッ!  ドカッ!  ドカッ!  先程まで重力を使っていたが、もう面倒くさくなったのか 素手や足蹴の攻撃に切り替えたポプリが今だ生き残っているイレギュラー達を蹴り飛ばし、 一つの場所へと集める。 「フリージア! 引き上げるぞ!」 「うん!」  タタタタッ!  イレギュラー達が一つの場所に集められるのを事前に気付き、 ラットグがフリージアに声を掛けて、イレギュラーから離れていく。 「な、何なんだぁ? いきなり離れていきやがった…」 「これで終わりだ」 「へ?」  キリキリ…  先程ポプリに蹴られたイレギュラーが頭をさすりながら不思議そうな様子で呟くが、 次の瞬間レノンがミラージュの弓を引き絞る。  ピィンッ! ―…レノ…ン…― 「!?」 ドゴォ…ン ミラージュの弓から煌めきを放った瞬間、ミラージュの声が聞こえ、 目を見開くが、その瞬間にはミラージュの弓の威力を加減した少々弱い爆発が起こっていた。 (何だったんだ…? 今の…ミラージュの声…)  ピシッ…  先程聞こえたミラージュの声に疑問を覚えて、考え込んでいると、何かが崩れ落ちる音がする。 (!? …皹?) 「レノーン、帰るよー!」 「お、おう!」  タタッ…  怪訝そうな表情で皹が入ったミラージュの弓を見つめていると、 アクセル達はとっくに自らとは離れた所に居て、 それに追い付く様に自分も走ってアクセル達の所に行く。 (…どうしたんだよ…ミラージュ…!)  心の中からあふれ出る不安を感じながら、弓に視線を向けて心の中で問いかけるが、 その問いかけの答えが返ってくることは無かった。 「ソニアー、何処に居るのー? ちょっとで良いから来てくれないー?」 「お前、逃がすなって言ったよな? 俺言ったよな?」  治療が終わったジルバがソニアの事を探していると、 額に血管を浮かべながら朱夜が少々イライラしている様子で言う。 「此処に居るかしら? あっ、居たわ…って…ソニア…? 朱夜さん治療!」 「道具が無ぇから医務室行くぞ! 案内しろ!」  ヒョイッ!  ジルバが部屋の中を覗くと、其処にはソニアが横たわっていて 瞬時にジルバが状況を理解して朱夜を呼ぶと、直ぐに状況を理解した様に 朱夜がソニアを背に担いで部屋を出て医務室の方向へと走り出す。 「ジルバ! お前この子の親連れて来い!」 「あ、大丈夫です、居ました、あいつです」  ピッ… 「あの赤い奴か?」 「はい」  朱夜がソニアを気遣ってあまり揺らさない様に静かに走りながらジルバに ソニアの親(ゼロかアイリス)を連れて来る様に言うが、 何たる偶然か其処にはゼロが居た。 「あー、えーと………おい! 其処の赤い奴!」 「誰だ? お前は」  何て言って良いか分からず、ゼロの事を赤い奴と呼ぶが、 いちおうゼロも気付いたらしく、朱夜の方を向く。 「お前この子の親らしいな、話したい事があるから一緒に来い」 「! ソニア!?」  朱夜が背に背負っているソニアを指さすと、先程までは元気な様子だった ソニアが青い顔をして居る姿を見て、さすがのゼロも少々動揺する。 「ゼロ、この事は今説明しようと思ったけど、今はソニアの事が心配だから、付いてきて!」 「分かった!」  ダダダッ!  朱夜の背に背負われているソニアを見ているゼロにジルバが心底申し訳なさそうな顔をして ゼロの理由を説明すると、ソニアの事、となると正直にゼロもその事を了承して、三人で走り出す。 (ソニア…無事で居てくれ!)  横を走っている朱夜の背に相変わらず乗っているソニアを見て、 ゼロが心配する様な表情を見せる。
  ELITE HUNTER ZERO