Another of 2「もう1つの悲恋」



その昔、一人のレプリロイドの少年がいた。
彼を取り巻く世界は痛みと苦しみしか存在せず、それ故彼は愛や思い遣りを知らなかった。
そんな彼はとある出会いでかつて感じた事の無い愛を知り、その直後例えようもない激しい憎悪も知った。
燃え盛るような激しい愛憎は彼を突き動かしやがて世界を滅ぼし残った者で最後の楽園を築く事を目指す
巨大イレギュラー組織「ラストユートピア」を設立するに至る…
 
 
 
 
時はシグマが初めて人類に反旗を翻す更に前…
当時のイレギュラーは主に単なる故障により発生したものが多く、
自らの悪意や信念に基づき計画的な犯行に及ぶレプリロイドは極々少数派だった。
少なくとも表社会では…
 
 
軍が政権を握る国家「コロッサニア」の裏路地にて…
2体のレプリロイドが揉めていた。
 
両者とも人相が悪く1体は全身を損傷し身体の汚れも目立つ状態で立ち振る舞いも明らかに落ち着きが無く
もう1体は落ち着き払った様子でしれっとした様子で相手に応じていた。
 
ボロボロのレプリロイドが焦った様子で怒鳴る。
「おい!手を貸せねぇってのはどういう事だよ、ジェイクスピア!!」
 
これに対しジェイクスピアと呼ばれたベージュ色基調のアーマーの大柄な中年男性風のレプリロイドは飽くまで冷静に応じる。
「だからよぉ、金の切れ目が縁の切れ目って言うじゃねぇか。
今のお前を助けても何のメリットにもならねぇし、俺様達も巻き添えを喰らう恐れもある。
そんなのはゴメンだぜ」

 
「ふざけんな!本気で言ってんのか!?俺達は仲間じゃなかったのか!!兄弟分じゃなかったのかよぉ!!」
ボロボロのレプリロイドは必死にジェイクスピアにすがりつく。
「そう思った事は一度もないぜ、あばよ」
ジェイクスピアは彼を払いのけその場から立ち去ろうとする。
「この野郎ぉ!!!!!」
ボロボロのレプリロイドは手にしたビームガンでジェイクスピアを撃とうとしたが…
 
その前にジェイクスピアの背中から砲門が現れそこからミサイルが発射されボロボロのレプリロイドを爆殺した。
「俺様が背を向けるという事は死を意味するんだぜ、グハハハハハハハハ!!!!!!!」
高笑いをして去って行くジェイクスピア。
その時彼の携帯端末に通信が入った。
 
「ボス!遂に例の物が!!」
「そうか、遂にアレが…グハハハハ!!!グハァーハッハッハッハッハ!!!!!!」
通信を入れたのは部下のレプリロイドで興奮した口調だった。
これを聞いたジェイクスピアもまた喜々とした様子で返し、アジトへと向かう。
 
ジェイクスピアはコロッサニアが開発した軍事用レプリロイドで体内に貯めたエネルギーを増幅させ口から放つ能力と
目から相手を意のままに操る催眠波を放つ能力を持つ。
しかしその催眠波を使って軍を裏切り姿を晦ました。
当時は非常に珍しかった、故障でもウィルス由来でもないレプリロイドによる裏切りである。
その後ジェイクスピアはこの催眠波や持ち前の戦闘力と頭脳を駆使して裏社会でのし上がりレプリロイドマフィア「ウインドウォッチャーズ」を組織するに至る。
やがてジェイクスピアはアジトに辿り着き、駆け込んだ。
彼が向かったのはラボのような部屋で中には寝台があり、その上には赤髪の少年型レプリロイドが寝かされていた。
 
「これが『タナトシア』が設計したが計画を破棄したっていう代物か…」
少年型レプリロイドを見ながらジェイクスピアが言う。
ちなみに「タナトシア」とはコロッサニアに隣接する軍事国家でコロッサニアとの仲は険悪だった。
「はい、タナトシア軍が秘密裏に開発しようとしたのですが途中で計画が破棄され、
我々が盗んだデータを基に完成させたレプリロイドです!
何でもボスのように特殊な性能があるとか…」
「それが巡り巡って俺様の手中に収まるとは、運命とは皮肉なもんだぜ、グハハハハ!!!」
部下と共に喜びを分かち合いながらジェイクスピアは少年型レプリロイドを起動させた。
後のラストユートピア首領、ノストラジスの誕生である。
 
「私はノストラジス。貴方達が私の主ですか?」
起動したばかりのノストラジスがジェイクスピアを中心としたその場の
一同に尋ねる。
 
「ああそうだ、我々はウインドウォッチャーズで俺様はそのボスのジェイクスピア。
お前は特別なレプリロイドだからな、ウチの大戦力になるだろう…
だから俺様達はお前を歓迎するぜ!!」
「…有難うございます!」
笑顔で言うジェイクスピアに対し笑顔で返すノストラジスだったが…
 
「これが俺様流の、歓迎の挨拶だ!!」
そう言うとジェイクスピアはノストラジスを蹴り飛ばした。
「…え…!?」
壁に激突したノストラジスは何が起こったか分からない様子で起き上がる。
ジェイクスピアは彼の元に駆け寄り彼の髪を掴み上げながら囁くように言う。
「ああ、言ってなかったけどよ、お前は人間のように鍛えればパワーアップし、
それに加えてダメージを受けるとそのダメージの種類に対して耐性が付くそうだぜ。
だからこれは俺様による愛の鞭だ!!
なぁに、全力は出しちゃいねーさ、それにお前ならこの程度の蹴り、すぐに耐えられるようになる筈だぜ!
そうでなきゃテメーなんぞ存在価値の無いガラクタよ!!!グハハハハハ!!!!!」
「………!!」
 
嘲笑を響かせるジェイクスピアに対しノストラジスは恐怖と絶望に顔を青ざめさせるのだった…
 
それからというもののノストラジスの痛みと苦しみにまみれた日々を送った。
「や、やめてください…!!あ、あれ…痛くない…!?」
ある日ノストラジスはジェイクスピアからスタンガンの電流を浴びせられたがそれは効かなかった。
「電気に対する耐性が強化されたようだな、なら出力を上げるぞ!」
「ギャァアーッ!!!!!!!!!!!!!」
ジェイクスピアはスタンガンの威力を最大出力まで上げた。
これは当時のノストラジスには十分効いた。
当然他の攻撃への耐性も強化すべくジェイクスピアやその部下は様々な攻撃をノストラジスに浴びせていった。
逆らおうにもジェイクスピアの催眠波で一時的に感情が麻痺して彼の意のままに従わされた。
 
また悪事の強要もされその事もノストラジスの心を蝕んでいった。
「この街で生きてくには何かとストレスが溜まるだろ?何ならいいストレス解消法を教えてやろう。
自分より弱い奴を痛めつけてやりゃいいのさ、こういう風になぁ!!!」
そう言ってジェイクスピアは通りかかったホームレスを掴み上げその直後地面に叩きつけた。
「お前等もやれ、楽しいぞぉ!!」「「「へい、ボス!!!」」」
ジェイクスピアの言葉に従いウインドウォッチャーズの構成員達は代わるがわるホームレスに暴行を加えていく。
 
「お前もやれよノストラジス」「そうだそうだ、やーれ!やーれ!!」
そして構成員達はノストラジスにも暴行の強要をする。
「い、嫌ですよ…」
「えー、今嫌と言ったかぁ…!?」
ジェイクスピアは歪んだ顔でノストラジスの顔を覗き込み、そして目から催眠波を放った。
するとノストラジスは無表情になり何の迷いもなくホームレスを甚振りだした。
催眠波の効果が切れた時、ノストラジスは自分が行った暴挙に気付いた。
「そんな…そんな…」
「良くやった!お前はもう手を汚しちまったな、もう引き返せないぞ、グハハハハ!!」
絶望するノストラジスを他所にジェイクスピアは嘲笑う。
ホームレスは既に息絶えており、それどころか原型すら留めていなかった…
「あの家に火を着けてこい!!」「あの女の身ぐるみをはげ!!」「あのガキを蹴り飛ばせ!!!」
こうした行為は幾度も続きノストラジスは望まぬもののこれに次第に慣れてしまってきていた。
 
力の差を分からせる為、そして鬱憤を晴らす為ジェイクスピアとその部下は理不尽にノストラジスに暴行を加える事も。
「何だこれだけの稼ぎかよ、この役立たずめ!!!」
「テメーの所為で今回の仕事失敗しちまっただろうが、どうしてくれんだよ!!」
「オラ酒買ってこい酒!!」
こうした暴言と暴行に心身共に傷つけられ続けるノストラジス。
 
そしてウインドウォッチャーズの拠点となる街は治安が悪く貧富の差も激しかった。
右を見ても左を見ても誰かが誰かを傷つけている。
その事も後々のノストラジスの人格形成に影響を及ぼした。
 
ある時隙を見て組織の元から逃げおおせたノストラジスだったが悪事しかやった事の無い彼が人の役に立つ事が出来るはずもなく
彼が悪事を行うのを行うのを見た事がある者は当然の如くノストラジスを拒絶した。
 
ホームレス同然の生活を送り途方に暮れるノストラジスをある日柔和な表情をした老紳士が声を掛けた。
「君の事は聞いているよ、辛かったね…私の所に来るかい?」
「はい…!!」
ノストラジスは喜んで彼に付いて行ったが…
しばらく進むと老紳士は歩みを止め、叫んだ。
「連れてきました!彼で間違いありませんね!?」
「うむ、ご苦労だった」
そこには凶悪な笑みを浮かべたジェイクスピア達がいた。
そう、老紳士はジェイクスピアに金で雇われていたのだった…
 
「あ、ああああ…」
顔面蒼白になるノストラジスにジェイクスピアは告げる。
 
「言い訳は聞かんぞ?どうやら躾が足りなかったらしいなぁ…!!やれ!!!!」
「この野郎裏切りやがってこのこのこの!!!!」
「俺等から逃げられると思うなよクソがよぉ!!!!」
ウインドウォッチャーズ構成員達に次から次へと足蹴にされるノストラジス。
「まぁこれでお前の防御力も上がるんだ、良かったじゃねーか、ええ?」
ジェイクスピアはノストラジスの顔を踏みにじりながら言う。
 
 
そんな中全世界を震わす大事件が起こる。
他でもないシグマの反乱である。
最強のレプリロイドシグマが人類を裏切り特A級を含む大勢のハンターが彼に付いて行ったのだ。
「何という…何という事だ…」
この報せを聞いたジェイクスピアは手をわなわなと震わせた。
「金だ!!金になるぞぉーっ!!!!!!」
 
大規模な戦いの為何かと金が発生すると見たジェイクスピアは歓喜したのだ。
そしてウインドウォッチャーズは活動拠点をコロッサニアの裏街から世界に移し裏で様々な悪事に手を染めた。
世界は広く力で自分達に勝るレプリロイドが大勢いると知った彼等はより強い者に付く事で生き長らえてきた。
この時の経験の数々もノストラジスを強化させると同時に心身を傷つけていった。
 
そして来るレプリフォース大戦。
「レプリフォースのカーネルとその妹のアイリス…奴等も俺様やお前みたく特殊な技術で開発されたようだな、
丁度いい、奴等の研究データを盗み出して来い!!」
「ハッ!」
 
ジェイクスピアの命令でノストラジスはレプリフォースのラボに忍び込んだ。
当時のノストラジスは組織に鍛えられた甲斐あってスパイ活動も得意としていた。
無事データも盗み出し跡は撤退するだけだったのだが…
相手は精強なレプリフォース。すぐに見つかってしまった。
「見つけたぞネズミがあ!!!!」
次々と迫り来る屈強のレプリフォースの追手を振り切るノストラジスだったが…
「私に任せろ!!!」「カーネル大佐!!」
行く手にカーネルが立ち塞がり、ノストラジスに雷を落とした。
 
「ぐああああ…!!」
 
カーネルの雷の威力は当時のノストラジスにとっても強烈そのものだった。
「こ…ここ…は…撤退…だ…」
辛うじて耐えたノストラジスは今の自分ではカーネルに勝てないと判断し
簡易転送装置を使いこの場から離脱した。
 
「クッ…逃げられたか…まぁ良い、あのダメージでは助かるまいし、今はあのような小物にかかずらわっている場合では無いからな…!」
しぶしぶノストラジスを見逃すカーネル達。
 
一方カーネルの予想通りノストラジスは全身に甚大なダメージを受けていた。
しかも簡易転送装置が先程のカーネルの雷で故障した所為か当時のアジトに転送するつもりが全く違う地点に飛ばされてしまったのだ。
そこは戦闘の影響で壊滅した廃墟で周囲には様々なレプリロイドが倒れていた。
そしてノストラジスは自分の死を悟った。
 
「ハァ…ハァ…どうやら…俺も…ここまで…か…
盗んだデータの…転送も…終わったし…俺の役目も…終わった…
思えば…ろくなことの無い人生だった…な…
だが…これで…もう…楽に…な…れ……る………——」
 
ノストラジスは地に倒れ伏し、意識も暗い闇の中に沈んでいった…
 
しかし、どれ程の時間が経ったか分からないが、意外な事に彼は意識を取り戻した。
周囲の状況を確認してみると自身は寝台で修理が施されており、周囲には様々な立場のレプリリロイドたちも同様に修理されている。
「ここは…」
上半身を起こしふと呟くノストラジスに1つの声が反応する。
 
「良かった…気が付いたみたいね…!」
眩いばかりの笑顔と共に耳に心地よい声を放ったのは赤いベレー帽に栗色の長い髪を青い髪飾りで束ね、
赤と青を基調としスカート型のパーツを備えたアーマーの少女型レプリロイド…
彼が調査しようとした対象の一人のアイリスその人だった。
改めて直に目にした彼女の可憐な容姿と優し気な雰囲気に思わず見とれてしまいそうになるノストラジスだったが、
気を取り直して口を開いた。
 
「何故俺を助けた…金か!?それとも捕虜にでもするつもりか…!?」
戸惑いつつも問いかけるノストラジスに、アイリスは首を横に振る。
 
「そんなつもりは全くないわ。私はこの戦争で傷つく人達を黙ってみていられなくて…
だからこうして1人でも多く助けているだけよ」
「……!!」
言葉に詰まるノストラジス。
周囲を見渡すと修理を受けているのはレプリフォース兵士もいればハンターもおり、
彼女の言っている事が虚言でない事を雄弁に物語っていた。
「この戦争は私達の組織が始めてしまった事だけど…絶対に間違っている…
どんな大義名分があってもこんなに沢山の人が苦しむ事なんてあってはならないわ。
貴方も相当傷ついてきたみたいね…でももう大丈夫よ…」
 
「!!!!!!!!!」
ノストラジスは言葉を失った。
これまで他者からの善意を受けた事など只の一度もなかったからである。
最初の瞬間は強烈な衝撃を覚えたのだが、次の瞬間今まで感じたことの無い感情が沸き上がってきて…
「有難う…!!有難う…!!!」
ノストラジスは堰を切ったように涙を流しアイリスにすがりついた。
 
「そんな…私はただ当たり前の事をしているだけだから…」
そんな彼にアイリスは笑って答える。
 
やがて傷の完治したノストラジスはアイリスに別れの挨拶を済ませその場を後にする。
「もうウインドウォッチャーズとは縁を切ろう…そしてアイリス…俺は必ず…君を守る…!!」
愛を知らないノストラジスが初めて愛を知った瞬間であった。
 
しかし程なくして彼にとって残酷極まりない出来事が起こる。
それは他でもないゼロによるアイリスの死である。
互いに望まぬ戦いを演じたゼロとアイリスだったが、その結果はゼロが自分の手でアイリスを殺めてしまうという形になってしまった。
「俺は…俺は…一体何のために…戦っているんだぁーっ!!!!!!!!」
これまで何のためらいも無く敵を倒してきたゼロの心に深い傷を残した出来事だった。
 
そしてこの出来事で深く傷ついた男がもう1人…
「そんな…そんな…
………………
おおおおおお!!!!!!!!アイリス!!アイリス!!!!!アイリス―ッ!!!!!!!
どうして、どうして君が死ななくてはならないんだぁーっ!!!!!!!!」
レプリフォース大戦の終結と同時にアイリスの死を知ったノストラジスは、ただひたすら慟哭した。そして…
「憎い…自分の無力さが…ハンターが…ウインドウォッチャーズが…人間が…世界が…
何もかもが憎い……!!!!!!」
ノストラジスは、かつてない憎しみに支配された。
 
そして彼は、まず当時のウインドウォッチャーズのアジトに向かった。
中ではウインドウォッチャーズの構成員達が宴を開いていた。
「レプリフォースも終わりか…しっかし今回の戦争は儲かった儲かった!!」
「色々貴重なデータも手に入ったしな、ノストラジスも最期に役に立ったぜ!!」
「それにしてもレプリフォースも間抜けだったよな、誇りがどーのとか言ってまんまと策にハマっちまってよお、ギャハハハハハハハハ!!!!!!!!!」
 
これを見たノストラジスは拳を強く握りしめアジトの壁を蹴破り宴に乱入した。
「おまえはゆくえふめいになっていたノストラジスじゃないか…!」
構成員達は驚いたがすぐさま臨戦態勢に入る。
「アイリスが死んだというのにお前達が生きていていい筈が…無い!!」
「ほざけ!!!」
凄まじい形相で迫り来るノストラジスに構成員達は武器を構え迎え撃つ。
しかしその尽くがノストラジスには全く効かない。
「お前等と…これまでの大戦で散々鍛えられたからな、この程度の攻撃など蚊ほども効かんぞ!」
そしてそのままノストラジスは構成員を1人、また1人と文字通り千切っては投げ千切っては投げ…を繰り返した。
「ヒ…ヒィ…!!」「ボスを…ボスをお守りしろぉっ!!!」
あっという間に地獄絵図とかした状況にパニックに陥る構成員達は必死に応戦するも、程なくして全員が殺された。
残るはジェイクスピア只1人となったが…
 
「わぁ~助けてくれぇ~」
わざとらしく叫び背を向けて駆け出すジェイクスピア。
その次の瞬間冒頭と同じくジェイクスピアの背中から砲門が現れそこから無数のミサイルが発射され、
それらは全てノストラジスに着弾する。
「どうだ!?」
にやりと笑い振り向くジェイクスピア。
一般構成員の攻撃と違い、ノストラジスは全身に明らかに深いダメージを負っていたが…
「こんな傷…アイリスを喪った事に比べれば痛くも何ともない…!!」
ノストラジスは鬼気迫る顔でジェイクスピアに迫る。
 
「ええい、ドランカーズフレイム!!」
ジェイクスピアは酒を飲み口から火炎を放つが…
 
「させるか!!!!」
ノストラジスは跳躍しジェイクスピアの顎にアッパーを炸裂させ口を閉じさせる。
と同時にジェイクスピアはのけぞったものの何とか踏ん張って両手でノストラジスを押さえつける。
大柄な体格に違わずその膂力は相当なものでノストラジスは動きを封じられてしまう。
「ええい、俺様にはこれがある!!素直に従え!!!!」
そしてジェイクスピアはノストラジスに顔を近づけ目から催眠波を放つ。
しかし…
 
「そんなもので、今の俺は止められない!!」
ノストラジスはジェイクスピアを強く睨み返す。
その瞬間、ジェイクスピアの精神に変化が生じた。
 
「(何故だ…俺様の催眠波が効かないどころか…何なんだこの気分は…
奴に逆らえない…?この状況を招いた己が憎い…?まさか…奴も…俺様と同じような力を…!?)」
そして何故かジェイクスピアは一切抵抗をしなくなった。
それを逃さずノストラジスはジェイクスピアに追撃を加え、遂にはダウンさせた。
 
戦闘不能となったジェイクスピアを、ノストラジスは一方的に甚振り始めた。
身体のパーツを少しずつ切り落とし、何度もめった刺しにし、殴打と蹴撃を浴びせ続けた。
あたかもこれまでの怨みを晴らすかのように。
 
「グワァーッ!!た、助けて…助けてぇーっ!!!」
見苦しく悲鳴を響かせるジェイクスピアをノストラジスは尚もひたすら罵声を浴びせつつ甚振り続ける。
「どうした?貴様が俺に与えた苦痛はまだまだこんなもんじゃないぞ…
それより自分の努力の成果をその身で味わえるんだから本望だろ!?え!!?」
「ヒ…やめろ…や…め…」
 
次第に声に勢いが無くなっていくジェイクスピアをノストラジスは夢中で甚振り続け、
気付いた時にはジェイクスピアはとうに息絶え無数の残骸と化していた。
そしてノストラジスはジェイクスピアの血溜まりならぬオイル溜まりに映った自分の
顔に気付く。
オイル溜まりに映った自身の顔は怒りと憎しみを露わにした形相のままになっていたのだ。
表情を直そうとしてもこの鬼の形相は顔面に張り付くかのようでそれは叶わない。
「こんな顔を晒す訳にはいかないな…」
ノストラジスは死んだウインドウォッチャーズの構成員の一人が身に付けていた仮面を奪い取り自身の顔をそれで覆った。
「これは今の想いを忘れない為に取っておくか…」
カーネル・アイリス兄妹のデータを収めたディスクを手にノストラジスはアジトから去り、一人当てのない旅に出始めた。
この時ノストラジスの大きさは少年のそれであったが起動時よりいくらか成長していた。
 
そして時が経ちユーラシア事件が起こる。
この時ノストラジスの大きさは平均成人男性並だった。
ノストラジスは世の中の全てへの復讐の為肉体の鍛錬と傭兵稼業、情報収集を行っていた。
彼はゼロ、そしてハンターに復讐するだけでは物足りず理不尽で腐り切った世の中を壊し尽くす事を悲願としていたのである。
戦いに巻き込まれ何度も死にかけた彼だったがそれらの経験は彼をより強大にしていった…
この頃彼はシグマがイレギュラー化したのはゼロが原因である事を突き留める。
「そうか、貴様だったのか、ゼロ…!貴様が…貴様が諸悪の根源だったのだな…!?
アイリスを殺したのも貴様の本能だろう…そうだ!そうに違いない…!!」
 
程なくしてナイトメア事件が発生。
この時ノストラジスの大きさは人間では長身の部類だった。
当時の戦闘力とこれまでの経験からしくじる事は無くなり裏社会で暗躍し始める。
そしてこの頃ジェイクスピアを殺した時に無意識に発動させた催眠波を自分も放つ事が出来る事に気付く。
他者を操るという点ではノストラジスの催眠波はジェイクスピアのそれと似ているが
ジェイクスピアの場合は相手の感情そのものを麻痺させるのに対しノストラジスの場合は相手の内に宿る憎しみを増大させる効果がある。
「この力…利用しない手はないぞ!!」
 
レッドアラートが世界中で事件を起こす頃…
この時ノストラジスの大きさはアスリートでちらほらいるぐらいの巨躯になっていた。
当時彼は現実のみならずネットの世界にも魔の手を伸ばしていた。
表向きは「シグマ大戦被害者の会」のようなニュアンスのSNSサイトを立ち上げた。
このサイトに登録し、ログインするとパソコンの画面にノストラジスの目が映し出されそこから催眠波が放たれるのだ。
催眠波を目に受けた会員は自らの憎しみを増大させると共にノストラジスに忠誠を誓うようになる。
これを利用してノストラジスは世界各地の画面の向こうの相手すらも意のままに操り世界をゆっくりと確実に破滅へと導いていく。
「想像以上に盛り上がっているな…まぁ無理もあるまい…」
 
更に時は経ちヤコブ事件当時の事…
この時ノストラジスの大きさは人間基準では「巨人症」に相当するものになっていた。
この頃彼はネットや裏コミュニティの情報を駆使してかつて死んだレプリロイドの復活の研究を
していたが
今は隠居中の科学者レプリロイド、ネクロスの存在と居場所を突き止めた。
それをきっかけにこれまでただ世界を破壊し尽くす事だけだった彼の目的は
その後の世界をアイリスと共に過ごす方向にシフトした。
そして彼は自らネクロスに会いに行った。
 
「何じゃ貴様は?
よくここを見つけたが大方生き返らせてほしいレプリロイドでもおるのか?
そんなの知らんわ、帰れ帰れ。世間の馬鹿共に付き合うのはもううんざりじゃ…」
ネクロスの対応は全く愛想のないものだったがノストラジスは引き下がらない。 
「クククク…感じるぞ、お前から強い厭世感をな…ならばそんな世の中を破壊し尽くす我々の計画に手を貸してはくれないか?
我が野望の為にはお前の力が必要なのだよ。代わりに望むものは何でも与えよう」
「(こ奴、只者ではないな…!)」
ノストラジスが醸し出す雰囲気に気圧されそうになるネクロスはそれを堪えて彼に問う。
「嫌じゃ、と言ったら?」
ノストラジスは即答する。
「言えないさ…」
そう言うとノストラジスは催眠波を伴った眼力でネクロスを睨んだ。
「(こ奴は…いや、この御方は…本当に何かを成し遂げて下さるやもしれぬ…!
これは紛れもなく宿命じゃ!下らん世の中を見返すまたとない好機じゃ…!!)
ハハーッ!このネクロス、持てる力の全てを捧げましょうぞ!!!」
こうしてネクロスを配下に加えたノストラジスは自らが所持していたカーネル・アイリス兄妹のデータをネクロスに渡し
兄妹の復活の計画に乗り出したのであった。
カーネルも復活させるというのはノストラジスなりのアイリスへの思い遣りだった…

そしてギガンティス島の事件の頃…
ノストラジスの身の丈は遂に3mに達した。
即ち後にゼロ達と戦いを繰り広げる時の姿になっていたのだ。
フォースメタルの存在が世間で注目を浴びる中ノストラジスはネットと裏社会の情報網でとある情報を入手していた。
それは自身の忌むべき故郷、コロッサニアとそのライバル国タナトシアが性懲りもなくレプリロイドを使った戦争を始めようとしているというものである。
これにノストラジスは怒りを通り越して呆れた。
更に詳しい情報によれば両国は最新の戦闘用レプリロイドを開発中との事である。
コロッサニアは昔裏切ったジェイクスピアと打って変わって純粋に破壊力を極限まで求めた巨大レプリロイドのバルクを、
タナトシアは自身と違って正式にタナトシア軍が製作・運用する事になる高速機動重視型のブーストを投入する予定だという。

「…狼煙を上げるには最適の場所と機会だな…」
しばし思案した後ノストラジスは呟く。
そしてノストラジスはコロッサニア軍基地とタナトシア軍基地に侵入し、例によって催眠波でバルクとブーストを配下に加えたのであった。

「ギャアアアアア!!!!!!ジェイクスピアに続いてバルクも裏切ったぁーっ!!!!!」
「こんなくだらねー事の為に造られたなんて、ムカムカするぜ!!!!!」

「ヒィィィィィ!!!!!!!ブースト、何故我々に刃を向けるぅううううう!!!!!?」
「この力はもっと有意義な事に使おうと思ってね…!」
自身らが開発したレプリロイドが起動とほぼ同時に裏切り、自身らに攻撃を加えてきた事に
コロッサニア・タナトシア両軍はただただ恐怖し混乱し絶望した。
バルクとブーストの戦闘力は強大そのものだったが当時のノストラジスとネクロスの力はそれ以上であり、最早一方的な虐殺であった。
やがてノストラジス、ネクロス、バルク、ブーストはたった4人でコロッサニアとタナトシアの軍を壊滅するばかりか住人も皆殺しにした。
後に誰もが忌避するタブーエリアの誕生である。
世間一般ではこの出来事は両国が互いに潰し合った結果滅びたと解釈されたが
ノストラジスのサイトの会員や裏社会の住人達には真相が伝えられた。
その結果彼等の間ではノストラジスのカリスマ性はより確固たるものになった。

その後ノストラジスはその上空に巨大な要塞を建造し、新たに築いた帝国の皇帝を名乗る。
エンペラーズブレードもレプリロイドに力を与えるあらゆるアイテムを複合した結晶体もそこで造らせた。

次にノストラジスが行ったのは本格的な組織の編成だった。
始めにサイトの会員や自信が懐柔した裏社会の住人達を浮遊城に招き入れた。
何も知らない運送業者から配達されてきた小型の転送装置を受け取ると彼等は次々とそれを使って浮遊城内に入っていく。
当初は画面を遠してのみ交流するサークルのような集団が次第に武装勢力に変貌していくのである。
全世界に破壊と殺戮をもたらした恐怖の組織「ラストユートピア」はこうして発足した。

次にノストラジスはこれまでの大戦で用いられたレプリロイドの能力を伸ばす数々のアイテムで
個々の戦闘力の底上げを行い、戦闘訓練も行った。
「(大分使える奴が増えてきたが…アレを受け入れられるのは俺しかいないだろう…使う事はないだろうがな)」
力を格段に増強させていく部下達を見据え切り札である様々なパワーアップアイテムの力を凝縮した黒い結晶体を思い浮かべながら思案するノストラジス。

最後にノストラジスは個々の部下の性格や能力を鑑みて本格的に部隊の編成を行いそれが終わるといよいよ各部隊を出撃させる。
次々と出撃していく部隊を他所にノストラジスは液体で満たされた機械の中で眠るアイリスを食い入るように見つめる。
そして装置に頬ずりしつつ囁く。
「待っていてくれアイリス、今度こそ、俺は、君を…」

程なくしてアイリスの墓参りに訪れていたゼロに出動命令が下る事になる…

Another of 2完
ELITE HUNTER ZERO