Another of 1「早過ぎた英雄」



「やめろぉーっ!!!!やめてくれぇーっ!!!!!!」
 街の中にて1体のレプリロイドが懸命に命乞いをするがそれも空しく彼を取り囲む
青いボディの単眼の量産型レプリロイド達に全身を撃ち抜かれて絶命する。
 「ざまぁみろ、イレギュラーめ!!」
 「エックス様の言う通りにしない方が悪いのさ、ぎゃはははは!!!!!!」
 見物人達はその光景を見て嘲笑を響かせる。

 「………」
 一部始終を緑色のアーマーに身を包みオレンジ色のバイザーで目を覆う青年型レプリロイドが顔をしかめて見ていた。
 「一体、何でこんな事になってしまったんだ…」
 誰にも聞こえない声でレプリロイドが呟く。

 時はエックスがジェノサイダー8とその黒幕である政府を打倒した後にまで遡る。
ホロコーストを倒した後エックスはまずジェノサイダー8が起こした一連の事件は政府が裏で糸を引いていた事、
そしてその政府は壊滅した事を世間に公表した。
この戦いで生き残った一般人達はショック、怒り、不安等様々な負の感情に苛まれた。
 同時にそんなジェノサイダー8と政府を撃破してくれたエックスに対し強烈な恩義も感じたのだった。

 続いてエックスはジェノサイダー8が占拠していた地に派遣されていた政府関係者を1ヶ所に集めその後の処遇を検討し始めた。
 世間の目もあり彼等はもうエックスに対し何の言い訳も出来ずエックスに従うしか道は無かった。
 逆らえばホロコースト等と同罪と誰もが判断するだろうし、政府の不正を知らずに体よく利用された者も数多くいたのである。
 「ホロコーストめ、今の今までよくも騙してくれたな…!」
 先述の緑色のレプリロイドは憤慨の念を露わにした。
 彼の名はウィッシュ。
 旧政府軍に所属していた腕利きの兵士レプリロイドである。


ウィッシュはこの時エックスに付いて行きこの荒廃した世界を再建し、平和を実現する事を固く誓った。

 旧政府関係者達は招集された地でエックスの指導の下、都市の再建に努めた。
この時エックスはハンターを既に辞職しており主戦力である彼を失ったハンターは事実上解体、
 旧政府と統合された。
 新政権の頂点にエックスが選ばれたのは時代背景的に自然な流れだった。
というのもホロコースト等の目論見通り現在この世界に取り残されたのは非力かつ無能、
 意気地なしで根性無しな者ばかりだったのだ。
それを日々の出来事を経てエックス自身も周囲も確信していった。
エックス以外に残されたのは主にエックスに従うしかなくなった旧政府関係者とエックスに頼りすがることしか出来ない弱者達だった。
 「ホロコースト…お前に感謝はしないがお前が用意したこの状況は平和の為にもせいぜい利用させて貰うぞ…」
 底冷えするような声で呟くエックスは心ならずも総統に就任。
 次にエックスが行ったのは世界中の難民をこの地に募ることだった。
これには主に3つの目的があった。
それは彼等に生活の支援をする事、人手を増やして都市開発を早める事、そして人々を管理し易いように1ヶ所に留める事であった。
それでもエックス一人ではこれだけの人数を管理し切れず、かと言ってエックスは旧政府関係者にそれを任せる事も出来ず…
結果エックスは旧政府の科学者に自身の劣化コピー「パンテオン」を量産させることにした。
パンテオンはそこら中に配備され治安維持に貢献した。
 長きに渡る独裁政権「ネオ・アルカディア」はかくして誕生した。
エックスの宿敵とも言えるアルバート・W・ワイリーの悲願の世界征服をエックスが成し遂げてしまったのは何とも皮肉な話である。

そして時は冒頭に戻り…
パンテオンによる「イレギュラー」の公開処刑を目にしたウィッシュ。
 彼はその日非番だった。
にも関わらず根が真面目な彼はエックスの方針に従い散歩がてら街のパトロールに当たっていた。
そんな中香ばしい香りに惹かれてその方向に目を向けるとそこにはパン屋があり、店内には見知った顔がいた。
アンドリュー…後のレジスタンスメンバーであり当時は精悍な青年の姿をしていた。
 彼はウィッシュの親友だった。
 「アンドリューじゃないか!今度はパン屋を始めたのかい?」
 「おう、第何の…かは忘れちまったが、とにかく新たな人生始めたぜ!」
この時店内に客がいなかったという事もありウィッシュは雑談がてら先程の公開処刑の事を
物知りなアンドリューに話した。

 「平和になってきたと思ったら今はパンテオンによる処刑が増えてきたと思わないか?」
ウィッシュの問いにアンドリューが答える。
 「全くだな、俺の知り合いも既に3人は殺されたぜ。
 周りはエックス様に従わない方が悪いって意見が多いけどよ、俺はどうもそれだけじゃ無い気がするんだ。
というのもな…」
アンドリューが言いかける中一人の客が入ってきた。
それは人間の女性で中々の美人だった。
 「へいらっしゃい!」
 「あらいい香りね。…それじゃあこのクロワッサンを買おうかしら」
 女性客は会計の方に進む。

 「きゅ、90ゼニーに…なりま…す…」
アンドリューは女性客を間近に見るや言葉は詰まり顔は紅潮していた。
 会計を済ませ去って行く女性客の後ろ姿をアンドリューは鼻の下を伸ばしながら見つめていた。
そんなアンドリューに横からウィッシュが声を掛けた。
 「…何だお前ああいうのが好きなのか…」
 「どわあっ!?べ、別にやましい気持ちなんか無いからな!!」
あからさまに落ち着かない様子で答えるアンドリュー。

 「とにかく新しい仕事頑張れよ、そしてコッチの方もな!」
 小指を立てて店を後にするウィッシュ。
 「あ、ああ!それとお互いに気を付けようぜ!!」
アンドリューは彼を見送り仕事に戻る。

その後もパンテオンによるイレギュラーの公開処刑は続き日を追うごとに増えていった。
ネオ・アルカディアの体制は時代遅れも甚だしい絶対王政に等しく
統率者のエックスが平和を愛する影響であらゆる不正や非道徳な行為が極刑になるような堅苦しい社会になりつつあり
処罰されるのは不真面目で反社会的なレプリロイドばかりだと誰もが思っていた。
 一般人達はエックスを崇拝する為彼のやり方にケチをつけること自体が大それた罪という認識が浸透しており
例え内心不満に思っても口に出せず疑われるような行為も出来ない日々が続いていった。

そうした中巷ではパンテオンの監視を潜り抜ける犯罪組織の話題が上がった。
エックスの指示でパンテオンと旧政府軍の兵士達は捜査に当たりやがて組織の尻尾を掴んだ。
 捕らえられた組織の下部構成員は悪びれもなく言い放つ。
 「ケッ、あれは駄目これは駄目っつーがんじがらめな社会を作った挙句
 皆に貧乏暮らしさせといて自分は金や武器、資源を独占するエックスが全部悪いんだよ!!!」
 「何だとこの野郎!!」「大恩あるエックス様を愚弄するか!!」「やっちまえーっ!!」
パンテオンと兵士レプリロイドは憎悪を露わにしてそのレプリロイドに蹴りを浴びせるが…
「待ってくれ!詳しく聞かせてくれないか!?」
ウィッシュは咄嗟にイレギュラーに問いかける。
 「やなこった。あばよ政府の…エックスの犬共!!!!」「「「ぐわぁーっ!!!!」」」
そう言い残しイレギュラーは自身を足蹴にしていた者達を巻き込んで自爆して果てた。

 「畜生ふざけやがって!!」「テメーの組織の者全員なぶり殺しにしてやるからな!!!」
 怒り狂う面々。
 「………」
その中でウィッシュは何やら思案していた。

その後ウィッシュ達が捕らえた組織の構成員達はそれまでの常識を覆す数々の情報を吐いてきた。
それは主にエックスは最新モデルのパンテオンや試作品の巨大メカニロイド等の
自分達は勿論通常のパンテオンを遥かに凌駕する戦力を本部に蓄えている事、
すぐれた戦術や科学技術を一般に伝える事を禁じていた事、
エネルギーの浪費を抑える為と復興を早める為に一般人に必要以上の贅沢を禁じていた事、
 自分に有利な情報は誇張して流し不利な情報は隠蔽していた事、
ホロコースト等の罪を口実に旧政府関係者を贖罪、ボランティアと称して搾取していた事…等々だった。
 無論エックスは望んでそれらをやった訳ではない。
そうせざるを得なかった事情もあり、ホロコースト等が起こした一連の事件や側にゼロが居ない事が
 エックスの心境に変化をもたらしていったのかもしれないが…

「(何という事だ…エックス総統、俺は貴方を信じてここまでやってきたのに…!
これじゃホロコーストの二の舞ではないか…!!)」

 愕然とするウィッシュ。
やがて彼は独自の調査を開始すると更に自身の信念を揺るがす情報の数々を入手した。
イレギュラー組織は何も悪意があってネオ・アルカディアに背いていた訳ではない。
 飽くまで自衛の為、そして難病奇病に侵されており莫大な治療費を要する人間の治療費を調達する為などやむにやまれぬ事情がある場合も多かったのだ。
 「このままでいいのか…俺は…どうしたらいいんだ…」
 思い悩むウィッシュの背後から声がする。

 「知りすぎたな…」
 見るとそこには数体のパンテオンがバスターを構えてウィッシュを取り囲んでいた。
 「「「死ね!!!!」」」
 一斉にバスターを放つパンテオンだったが…

「決まり、だな!今日限り俺はネオ・アルカディアと袂を分かつ!!」
そう言い放ちウィッシュは手榴弾を放り投げパンテオン達を爆殺した。

その後ウィッシュはイレギュラー組織の本拠地を探り当てた後に戦意が無い事と非武装である事を示しつつ科学者レプリロイドでもあるリーダーのセルヴォを説得し
説得は難儀だったものの最終的に彼等と組むことにした。
 組織のメンバーはウィッシュをスパイと疑いはしたものの組織内にも似たような境遇の持ち主が多かった為やがてウィッシュを受け入れるに至った。

 更にウィッシュは特に信頼できると思っていた仲間達に片っ端から秘密裏に声を掛けていったが、
 付いて行ったのは極々少数だった。
 「エックス様には逆らえないよ…」
 「お前正気か!?やめとけって!!!」

そしてウィッシュは知識もあり戦闘経験もあり最も信頼できるアンドリューに声を掛けた。
 「悪いが、行けねぇ…」「そんな…!!」
アンドリューは首を横に振った。そして続ける。

 「俺の命はな、もう俺だけのもんじゃねぇんだよ…」
 悲し気に言うアンドリューの左手の薬指には指輪が光っていた。
そう、彼は店の常連となっていた先述の女性客と結婚していたのだった。

 「…俺の方こそ巻き込もうとして悪いな。奥さんを大事にしろよ!」
 「お前の方こそ、決して…決して無茶はするなよ!!!!」
 互いの身を案じつつウィッシュはパン屋を後にした。

そしてとうとうウィッシュ達はネオ・アルカディア本部に乗り込む事となった。
 乗り込むのはウィッシュと彼に付いて行った仲間達、そしてイレギュラー組織の中で特に実力のある面々である。

 最も警備が手薄な時間で裏口から侵入したウィッシュ達だったが…
侵入と同時にけたたましい警報が鳴り響く。
その直後街では見かけないモデルのパンテオンが大量に出てきた。

 「このネオ・アルカディア本部に侵入とは良い度胸をしているな、ネズミ共!」
 「貴様ウィッシュだな…旧政府軍出身だそうだがそれで我々に歯向かうという事は…
それが何を意味するか分かっているな!?」
パンテオン達は口々に言う。
それにウィッシュは毅然とした態度で返す。
 「勘違いをしているな。お前達に逆らうとホロコーストと同罪とでも言いたいのだろうが…
俺はお前等がホロコーストと同じ轍を踏んでいるからここにこうしているんだ!!!」

 「ほざけ!!!」
 一斉にバスターを放つパンテオン達。
この時ウィッシュと同行していたレプリロイド達は数名死亡。
 「畜生!これ程とは…!!!」
いきなり劣勢に立たされるウィッシュの仲間達。

 「俺に任せろ!!!」
ウィッシュは腰のホルスターから2本のビームナイフを出し、構える。
 次にウィッシュは片方のビームナイフの束の先端にあるスイッチを押した。
するとワイヤーで繋がれたビームナイフの先端が飛び出しパンテオンの1体に突き刺さった。
 旧政府軍兵士の装備「チェーンナイフ」である。
 「ぐおっ!」
そしてそのままウィッシュは先端にパンテオンが刺さった状態のチェーンナイフを勢いよく振り回して
 ハンマー投げのハンマーの如く他のパンテオン達に当てていく。
 「ぐわっ!!」「ぐごっ!!」「げほっ!!!」
 次々と果てていくパンテオン達。

 「チェーンナイフにあんな使い道あったか…!?」
 「いや、あいつだけだろこんな事出来るの…それより道が開けたぞ!!」

 上の階に続く通路に行こうとする仲間達。
 「させるかーっ!」
それを追おうとするパンテオン達だったが…
「行かせは…しない!!!」
ウィッシュはもう片方のチェーンナイフも別のパンテオンに突き刺しそれも同様に振り回し始める。
この階のパンテオンを殲滅した時はチェーンナイフに刺さったパンテオンのボディもバラバラになっており
 チェーンナイフから抜け落ちた。
それを確認したウィッシュは上へと進む。
 上の階に進めば進む程敵の攻撃は激しくなっていった。
1人、また1人と命を落とす仲間達。
しかしウィッシュは自身と仲間の被害を最小限に止め敵を撃破していく。
 「己、何であんな旧式のポンコツに手こずらなきゃならないんだ…!!」
 「奴め、手慣れてやがるな…!!!」
 「ギャー、そっちにはトラップが!!!」
 「しまった、同士討ち狙いか!!!」

ネオ・アルカディア本部のパンテオン達は性能ではウィッシュ達を遥かに凌駕している。
しかし経験値ではウィッシュが上回りまた彼の天性の際もあり
 ウィッシュ達は犠牲を払いつつも確実に上へ上へと進んでいった。

ウィッシュ以外に生き残ったメンバーが3人になった時…
部屋に到達するや否や部屋に置かれている石像の表面を覆う石が剥がれ落ち、中から飛行能力を持つ黒いパンテオン達が姿を現した。
パンテオンエースの試作品である。
ウィッシュはチェーンナイフを駆使して壁から壁へと飛び回り果敢に応戦するも試作パンテオンエース達を撃破するまでに1名が死亡した。

その上の階に到達すると全高数mはあろうかという巨大メカニロイドが大挙して現れた。
ゴーレムの試作品である。
ウィッシュはチェーンナイフで天井にぶら下がり試作ゴーレム達の頭部に手榴弾を当て続けるがゴーレム達は中々破壊できずこの過程で仲間の1人が死亡。

その上の階に辿り着くと今度はゲル状のボディにパンテオンの頭部が入った巨大メカニロイド達が現れた。
レインボーデビルの試作品である。
ウィッシュは重い弾丸を高速連射可能なマシンガンで試作レインボーデビルのコアを露出させ
 すかさずそこに手榴弾を放り込むのを繰り返しやがて試作レインボーデビル達を全滅させたが
 その過程で最後の仲間が力尽きた。

 「ウィッシュ…後は…頼んだ…ぞ」
 彼は最期にそう言い残し果てた。

 「おおおおおおおおお!!!!!!俺は…お前達の…犠牲を…無駄にはしないぞ!!!!!!」
かつてない怒りに打ち震えるウィッシュ。
 満身創痍となりながらも彼は遂に最上階に到達した。

 最上階にあるこれまでで最も大きく派手な扉の先に進んだウィッシュ。
そこにはかつての人類の英雄…ロックマンエックスが玉座に座していた。

 「驚いたよ、よくここまで辿り着けたね…」
 玉座に座ったまま底冷えする声で言うエックス。

 「総統…いやエックス!!!俺は貴方を信じていた!!!!!
 残虐なホロコーストの支配から世界を解放してくれたのに…
今の貴方はホロコーストと同類に成り下がってしまったじゃないか!!!!!」
 部屋中にウィッシュの怒号が響く。
それにエックスは空虚な表情で応える。

 「分かっている、分かっているよ。でも気が付いたんだ…
平和の為にはこれしか道が無いという事に…」

 「ふざけるな!貴方は…自分以外が無知で無力と感じるあまり自分以外を家畜のように飼いならし
 それで満足してるんだろ!!!
こんな平和があってたまるか!!!
 俺達を…自分以外の存在を舐めるなぁっ!!!!!!!」
 再度怒りをぶちまけるウィッシュにエックスは静かに、空し気に応える。

 「皆はね、俺が駄目だと言った事はしないんだ。だから俺は争うな、と言っているんだよ。
なのにそれを無視する輩が全て悪いんだよ…」

 次にウィッシュはエックスの不正を糾弾する。
 「そんなに平和が好きなら何で搾取をするんだ!!汚いぞ!!!」
これにエックスは同じように静かに応える。
 「力の使い方も分からないような輩が過度な力を手にしたらまた同じ過ちを繰り返すに決まっている。
だから俺は皆を必要以上の力を持たず最小限の幸せで満足するようにしようとしたんだ…
決して私利私欲なんかじゃないよ…」

 「…貴方は本当に変わってしまったようだな…
ならこれ以上話しても無駄な事、力づくでも止めてやる!!!」
そう言って武器を構えるウィッシュに呼応するかのように
 エックスは玉座から降りて冷たく告げる。

 「いいだろう、君の覚悟がどれ程のものなのか、見せて貰うよ…」

 開戦直後、先にウィッシュがチェーンナイフを駆使して部屋の壁から壁へと飛び回りつつ撹乱しようとする。
 対するエックスは目で追うと言うより流れを読むが如くウィッシュの動きをすぐ見極め
 ノーマルショットを当てていった。
 「ぐぅっ…!!」
たかがノーマルショットと言えどエックスのバスターから放たれるそれは
一撃一撃に十分な重みがあった。
そしてダメージに耐えながらもチェーンナイフの先端をエックス目掛けて放つウィッシュだったが…
「甘いね…」
エックスはチェーンナイフのワイヤーを掴むと強引にそれを引っ張った。
 結果ウィッシュは先程自身がパンテオンを振り回した時を遥かに上回る速度でその方向に放り投げられ壁に叩きつけられて全身に大ダメージを負った。

 「が…!は…!!」

 地に落ち倒れ伏すウィッシュに止めを刺さんとばかりに近付いていくエックス。

 「まだ…まだだ!!!」
ウィッシュはよろめきながら立ち上がるとエックスに向けて手榴弾を放り投げる。
 「諦めが悪いね…」
エックスは一瞬顔をしかめるとその手榴弾を片手で弾き飛ばした。
 直後手榴弾は爆発するもエックスは直撃は免れた。
しかしこの手榴弾は煙玉の機能もあり、爆発で生じた煙幕で
 エックスの視界が遮られた一瞬の隙にウィッシュは距離を取る。

 「おおおおおおおおおおお!!!!!!!」
そしてウィッシュは力を振り絞ってマシンガンを放ち始める。

このマシンガンから放たれる弾丸は重量と硬さを兼ね備えそれらは超高速で連射される。
しかし…
「何!!?」
そんな弾丸をエックスはチャージショットで相殺どころか余裕で押し返しショットはウィッシュに迫り来る。
 「くっ…!!」
ウィッシュは辛うじてチェーンナイフを使って回避した。

それ以降もウィッシュが攻撃を仕掛けたりフェイントを繰り出そうとするも
 いずれもエックスに見透かされてしまい
逆にこちらが隙を突かれる事が多くなってきた。
ウィッシュはその場の戦況を最大限に活かし敵を効率よく倒す事を得意とし、その自負もあった。
それは自身の豊富な戦闘経験の賜物である。
しかしながら目の前の敵にはそれらが全く通用しない。
この事からウィッシュはある事を悟り始める。
それはエックスの経験値は自身を遥かに上回る事。
そして、その分心の傷も負ってきた事…
世界の運命を一身に背負う彼の苦しみは想像を絶するものだったのだろう。
 特に傍にゼロがいなくなってからはどれだけの地獄に耐え続けてきたのだろうか。
 「(気持ちは分からないでもない…むしろ何もかも貴方に押し付けてきた事は申し訳ないぐらいだ…
だけど…こんな道が貴方が…世界が望んだものなのか!?だから…もう…休んでくれ…!)」

 何度叩きのめされても立ち上がり己の信じるものを胸に尚もエックスに食い下がるウィッシュ。
それに対して仕方なさそうにことごとく彼を返り討ちにするエックス。

そして、決着の時はあまりに呆気なく訪れた。
 「はあっ!!」
 両方のチェーンナイフを持った状態でエックスに肉薄するウィッシュだったが…

「本当に君は真っ直ぐなようだね…昔の俺も…こうだったのかな…でもね、
 理想だけでは、何も意味は無いんだよ…」

 素早くウィッシュの懐に潜り込んだエックスのチャージショットが無情に彼の胴体を貫いた。
 「………!!!!」
 結果ウィッシュの腹部は消失、胸部から上と下半身に分かれて地面に転げ落ちた。

 意識が遠のいていき己の最期を悟ったウィッシュは最後の力を振り絞って声を発する。
 「俺は…ここまでの…ようだが…俺の…俺達の意志を継ぐ者が…必ず…貴方の前に…現れる…
貴方が…もたらした…平和は…仮初の…ものに…すぎない…
レプリロイドに…心が…ある限りは…いつか…かな…ら…ず…」
そう言い残し、ウィッシュは力尽きた。

 部屋の中は暫しの間静寂に包まれたが…
ある時エックスがその静寂を破り、その場にいない者達に語り始める。

 「おかしいか、ホロコースト…お前達と同じになった俺が…そんなにおかしいか…!?
 笑えよ、こんな道を選んだ俺を…笑いたけりゃ笑えよ…!!
ゼロ、俺のやり方は、間違っているかい?間違っているなら…俺を…止めてくれよ…!
もう…嫌だよ…こんなのは…嫌だよ…!!」
 泣きそうな表情で叫ぶ彼の言葉に答える者は、ここには誰もいなかった…

翌日ウィッシュや後にレジスタンスと呼ばれるイレギュラー組織がネオ・アルカディア本部に突入し返り討ちに遭った事が巷に報じられた。

 「ぎゃっはっは、今時こんな馬鹿共がいやがったなんてよぉ!天に唾するとはこの事だぜ!!!」
 「エックス様万歳!!総統閣下万歳!!!!」
 真相を知らない一般人達はウィッシュ達を笑い者にした。

 「馬鹿野郎…!馬鹿野郎…!!無茶しやがってよぉっ…!!!」
アンドリューは妻を抱き寄せながら人知れず号泣した。

 「我々が甘すぎたか…私は君達の犠牲と無念を…無駄にはしないぞ…!」
セルヴォと彼の率いる組織のメンバーは故人達に敬礼した。

 「パンテオンやメカニロイドだけでは力不足か…」
 戦いの結果ネオ・アルカディア側はエックスの勝利に終わったもののパンテオンやメカニロイドの大半を失ったネオ・アルカディア軍は壊滅状態になった。
これを受けネオ・アルカディア軍の再生・強化の為新たな高性能レプリロイドが次々と開発される事になった。
さながらルーラー3の役割を担う四天王やジェノサイダー8に相当するミュートスレプリロイド達である。
 彼等が力を示す事で後のレジスタンスもその他ネオ・アルカディアに不満を持つ者も目立つ行動は出来なくなり
争いはもちろんレプリロイドの公開処刑も行われなくなってきた。
この間もエックスは己を見つめ直し考えを改めようと努めたがその時間はある時無くなった。
 後に起こった「妖精戦争」の果てに彼は自身の身にダークエルフを封印する決断を迫られたのだ。
この際エックスの代理人として造られたコピーエックスはエックスの負の感情のみを受け継いでしまったのか、
それとも何者かの陰謀なのか…
エックスの人間を守るという使命を履き違えホロコーストを超える暴君として長きに渡り君臨する事になる。

 真相を知ったネオ・アルカディアの科学者の少女シエルがレジスタンス側に付き過酷な逃避行の末ゼロを目覚めさせるまでは…

Another of 1 完
ELITE HUNTER ZERO