「ゼロの墓参り 〜一握りの光〜」(作:ろってぃーさん)
レプリフォース大戦 戦没者慰霊塔
この地には、レプリフォース大戦における、イレギュラーハンター側、
レプリフォース側双方の戦死者が葬られている。
その中を、流れるような金髪を持つレプリロイドが歩いていた。
真紅のアーマーを身に纏ったその男の名は、ゼロ。
シグマの反乱、そしてレプリフォース大戦をも鎮圧した英雄……と、人は呼ぶ。
彼は1つの墓の前にしゃがむと、メットを脱いだ。
「…アイリス…」
墓石には、死者の名前の下に、アヤメの花の絵が彫られていた。
ゼロは持ってきた花束を手向けると、目を閉じた。
思い起こされる、あの戦い。
自分の剣が、彼女を切り裂いた時の、あの感覚。
「………俺は……………」
……その時、ゼロは自分の背後に人の気配があることに気づいた。
ちらりと振り向くと、赤い髪の毛の少女が立っている。
きりっとした顔立ちで、どことなく気品が漂う。
少女は口を開いた。
「………貴方も、お墓参りですか ? 」
「……ああ」
ゼロはそう答えて立ち上がる。
「時々、会いに来ている……」
「大切な人ですか ? 」
「ああ」
「そうですか……でも」
少女の口調に、影が走った。
「貴方に…悲しむ資格はない ! 」
「 ! 」
ゼロは咄嗟にセイバーの柄に手をかけた。
しかしそれよりも早く、少女の掌から放たれた光が、ゼロを飲み込んでいた。
………
……
…
どのくらい時間が経っただろうか。
ゼロは目を覚ました。
「………ここは………… ! ? 」
目の前に広がるのは、夕闇に染まる荒野。
視界に広がる赤の色が、レプリロイドや人間の屍と、
そこから流れ落ちた血、肉片の色だと気づくまで、数秒の時間を要した。
ゼロにとっては、見慣れた光景だった。
そう、見慣れた……
「………た……ス……」
「… ! 」
ゼロはハッと足元を見た。
屍の山の下から、一本の手が伸びている。
そしてその先に、顔が見えた。
体は屍と何かの残骸に埋もれ、必死に助けを求めている。
「タ……す……け……テ………」
栗色の髪の毛、緑色の瞳……
それはまさしく、自分が斬ってしまった、あの………
「ゼ………ロ………」
「アイリ……ス…… ! ! 」
手を差し出そうとした瞬間。
ぐしゃり、という嫌な音と共に、ゼロの眼前に新たな赤が広がった。
「……あ………あ……」
ゼロの口から出た声は、言葉にならなかった。
砕けた、レプリロイドの頭蓋。
そしてそれを踏みにじる、一本の足。
「……何を驚いている ? 」
頭上から声がする。
「俺は、お前だ」
ゼロが顔を上げる。
そこにあったのは確かに、ゼロの顔だった。
身に纏う赤いアーマーも、手に握るセイバーも、全てゼロのものだった。
「お前が殺したんだ」
『ゼロ』がゼロに語りかける。
「お前が作ったんだ。この屍の山を。この血の海を」
「俺は………」
ゼロはがっくりと膝をつく。
放心したような表情だった。
「俺は………」
「お前は斬っただろう ? 何人も、何人も」
「俺は………」
「百人か ? 千人か ? 数え切れないほど斬っただろう ? 」
「俺は………」
ゼロはただ呟くのみ。
周囲の屍がゆっくりと立ち上がる。
呪詛の声と共に、ゼロにゆっくりと近づいてくる。
「お前は業を背負い込んだんだ」
「俺は………」
「だが安心しろ」
「俺は………」
「引き替えるのは、お前の命一つでいいんだ」
『ゼロ』が、セイバーを高々と掲げる。
死者達の呪詛が、次第に大きくなる。
「断罪されるべきなんだ、お前は」
「俺は………」
「清算してやるよ、俺がここで」
「俺は………」
「死ね。ゼロ」
セイバーが振り下ろされる。
その瞬間……
様々な記憶が、ゼロの脳裏に、走馬灯のように駆けめぐった。
血の臭い
銃の音
悲鳴
憎悪
己の中の
狂気
「俺は…………」
そして
ーー仲間達の姿−−
「俺は……イレギュラーハンターのゼロ ! ! 」
振り下ろされたセイバーを、ゼロは紙一重でかわした。
そして自分のセイバーを抜くと、相手の体を逆袈裟に切り上げる。
閃光が、『ゼロ』の腕を一閃。
その瞬間、目の前の風景がひび割れ、霞み、消えていく。
「………なんて……こと……」
気がつくと、目の前に立っているのは、あの赤髪の少女だった。
左腕から血を流し、苦痛に顔を歪めている。
空を暗雲が覆い、重い雨が降り始めていた。
「…………幻覚、か。姑息な手だが……いいものを拝ませてもらったぜ」
周囲を取り囲んでいる者達に、ゼロは気づいていた。
いずれも、レプリロイドの少年、少女だった。
「復讐、か。今までにも何回かあった……」
「ネメシス、さがって ! 」
そう叫んで、少年型レプリロイドの一人が二本のビームサーベルを構えて斬りかかってきた。
「死ね、悪魔 ! 」
ネメシス、というのが、赤髪の少女の名前らしかった。
復讐の女神の名だ。
おそらくは偽名だろう。
そんな事を考えながら、ゼロは二本の刃を、ゼットセイバーの切っ先ですくい上げるようにはね除けた。
そして次の瞬間、少年の腹に肘打ちが決まる。
肋骨に当たるフレームが折れ、口から血(オイル)が迸る。
「踏み込みが甘い」
言いながら、ゼロは横に跳ぶ。
「くっ……くそぉっ ! ! 」
3人の少年少女が、ゼロにビームライフルを放つ。
避ける事は容易いが、ゼロはそれをしなかった。
ゼロの背後には、アイリスの物とは違う墓石があった。
自分が殺めてしまった、戦友の墓が。
「ふん ! 」
ゼロはゼットセイバーを巧みに振るって、ビームを片端から弾く。
しかしその時、ゼロの手にビームの一発が命中する。
ゼロ自体のダメージは大したことないが、ゼットセイバーが破損し、
発生しているビーム刃の形が歪み、消えかかる。
ゼロはセイバーのスイッチを切ってその場に捨てると、正面に踏み込んだ。
「畜生ぉぉー ! ! 弟の仇ぃー ! 」
別の少年が日本刀を上段に構え、斬りかかってくる。
ゼロは慌てず、振り下ろされる白刃を左手一本で止めた。
「なっ ! ? 」
「筋は悪くはない。が……」
ゼロの右拳が、少年の腹にめり込む。
少年が倒れると、ゼロは彼の日本刀を手に取った。
「実戦慣れしてないな」
ゼロが再び駆ける。
日本刀が三回閃き、ビームライフルを持った者達三人が倒れる。
「いやっ…いやあぁぁっ ! ! 」
背後にいた少女型のレプリロイドが錯乱し、レイピアでがむしゃらに斬りつけてくる。
「レイピアは刺突専用の剣だろうが」
ゼロの握る日本刀が斜めに一閃すると、レイピアを握ったままの少女の右腕が宙に飛んだ。
続いて、少女の腹に一撃を加える。
その少女が倒れ伏すと、残された赤髪の……ネメシスへと、ゼロは視線を移した。
「退け。命は取らない」
ゼロが言う。
「何を……私の兄を殺したくせにーっ ! ! 」
ネメシスが特殊金属製の剣を抜き、袈裟に斬りかかってくる。
ゼロは刀の峰を使って、それを受け止めた。
「返せっ ! ……兄を返せっ ! ! 」
「………帰って来やしない」
ゼロの日本刀が、ネメシスの剣を弾く。
返す太刀で、ネメシスの手首が切り落とされた。
「くああああっ ! ! 」
「いくら叫ぼうと、俺たちの声は天には届かないんだ ! 」
ネメシスの体を、強烈な一撃が襲う。
ネメシスはその場に、仰向けに倒れた。
「……なんで……殺さないの…… ? 」
峰打ちだった。
他の者達も同じように、全て急所を外されていて、まだ生きていた。
「私たちの家族を……みんな殺したのに………」
「興味ない」
ゼロは傲然と言い放つ。
「…… ! ? 」
「お前等の命なんか、興味ない。さっさと帰れ。他の連中もすぐに目を覚ますだろ」
ゼロは日本刀を、その場の地面に突き立てた。
そして、破損したゼットセイバーを拾う。
「俺を殺したきゃ、いつでも相手になってやるよ。だがそのために……
関わりの無い奴らを巻き込もうものなら……」
ゼロの眼が、ネメシスを睨む。
「………その時は全力で、お前等を斬る」
……それだけ言うと、ゼロはくるりと背を向け、歩き出した。
雨が次第に小振りになり、薄日が差してくる。
「……これで良かったんだよな……なあ、アイリス………」
……数ヶ月後……
「J共和国でイレギュラー発生 ! 同地のハンター支部より援軍要請 ! 」
………ゼロは手を数回、コキコキと鳴らし、
「出撃する」
と、言った。
「待って、ゼロ」
エイリアが背後から声をかける。
「連れていって欲しい新人がいるの」
「……誰だ ? 」
ゼロが問うと、エイリアは後ろのドアに向かって、「入っていいわよ」と言った。
機械音がして、ドアが開く。
「……お前達は………」
そこにいたのは、数人の少年、少女型のレプリロイド達。
いずれも、見覚えある者達だった。
「……貴方と一緒に、戦わせてください ! 」
「お願いします ! 」
「……」
ゼロすら気づかないことだったが、ゼロはある力を得ていた。
人を『魅せる』、不思議な力。
例え、敵であった者でも惹きつける力を。
……ゼロは、彼らの先頭にいる赤髪の少女……ネメシスと呼ばれた、あの少女をの方を見た。
「……名前は ? 」
「……ツバキです」
少女は答える。
「いい名だ……」
そう言うと、ゼロは叫んだ。
「行くぜ ! 気合い入れてついてこいよ ! 」
「はい ! ! 」
−−アイリス−−
−−俺はお前を殺した−−
−−許してくれなんて言わないし、第一、言えない−−
−−俺は相変わらず、戦い続けている−−
−−後何人斬ればいいのかなんて、わからない−−
−−でもアイリス、俺は……−−
−−光が見えてきたぜ−−
END
ELITE HUNTER ZERO