「アクセルの家出〜季節外れのルドルフ〜」(作:ろってぃーさん)



「ねえゼロ、アクセル見なかった ? 」

「アクセル ? そう言えば、今日はまだ会ってないな…」

ハンターベースの廊下。
割と人通りの少ない区域なので、エイリアとゼロ以外誰もいなかった。

「今朝からずっと見つからないのよ。エックス達も探してるんだけど、ベース内にはいないみたい…」

「…さては家出か ? 」

「家出…まあ、確かにまだ子供だし……何かあったのかしら…」

エイリアが頭を抱える。

「まあいい、俺も探すのを手伝う。S級ハンターが1人でも行方不明じゃまずいだろ」

「ええ、助かるわ」

「レッドアラートのアジトの辺りに行ったってことも、考えられるな」

「あっ、そうね ! サーチかけてみるわ ! 」






……




ハンターベースからそう遠くない街の中。
アクセルは行く当てもなく歩いていた。

「…新世代レプリロイド……か…」

アクセルのこの行動の原因は、昨夜、同僚達の会話を偶然聞いてしまったことから始まった。




…アクセルの奴、頑張ってるよな…

…ああ。まだガキだけどな…

…でもよ、俺等イレギュラーハンターは、仮にも公的機関だぜ ? 
元バウンティ・ハンターのガキを入れるってのは…

…おいおい、そんなこと言うなよ。今の時代、元ならずものとか元イレギュラーとかも登用しなきゃ、
イレギュラーハンターは戦闘組織として機能しないって…

…総務課の友達から聞いたんだけど、江戸時代の岡っ引きとかも、
元軽犯罪者が同心のポケットマネーで雇われたりしてたんだってさ…

…蛇の道は蛇、ってやつか。けど、あいつ新世代レプリロイドだろ ? ほら、この前の『ヤコブ事件』…

…ああ、シグマのDNAをコピーした奴らがぞろぞろと…想い出すだけで寒気がするぜ…

…いや、確かにあれも視覚的に悪夢だったけどさ。
問題は、新世代レプリロイドの開発にシグマが携わっていたって話…

…そうそう、自分の意志でイレギュラーになれるとか…

…大丈夫なのかな、アクセルは…

…気をつけた方がいいかもな。少なくとも、俺たち普通のレプリロイドとは、
良い意味でも悪い意味でも違っている…
	


「……素性もはっきりしない…ましてや、シグマに造られた可能性さえ有る…」

そんな自分が、イレギュラーハンターになるなど、到底無理だったのだろうか…

しかし、他に帰る所は、もう存在しない……

「レッド…」

思えば、レッドアラートにいたころは、誰も仲間の過去など気にしなかった。
元々、イレギュラー容疑のかかったレプリロイドや、ヤクザ者達によって構成された集団。
誰も好きこのんで自分の過去は話さないし、他人の過去も尋ねようとしない。
そんな集団だから、アクセルは仲間とうち解け、共に戦っていた。
正直いけ好かない奴もいたが、仲間としての距離を置いてくれていた。

「…………僕は…」

アクセルはふと顔を上げた。
近くから、子供達の声が聞こえる。

「…孤児院か」

戦争が続き、家を失う子供達は後を絶たない。
この街の周辺だけでも、2つか3つの孤児院があるはずだ。

庭の中を子供達が走り回っている。
庭は柵で囲われているが、これは勿論子供達が勝手に外に出て、事故などに遭わないための配慮だ。

「あれ ? 」

アクセルは、自分の足下に落ちている物に気づいた。
赤鼻のトナカイの、ぬいぐるみ。
クリスマスシーズンなどに、よく売られている物だ。

「誰のだろう… ? 」

アクセルがそれを拾い上げて眺めてみると、誰かが「あっ」と叫ぶ声が聞こえた。
その声のした方向を見ると、車椅子に座った少女が、アクセルの方を見つめていた。
まだ10歳にも満たない子供だ。
その少女は電気式の車椅子を操作して、アクセルのいる場所に近づいてくる。

「…これ、君の ? 」

「うん」

アクセルは柵の隙間から、そのトナカイのぬいぐるみを差し出す。
少女は小さな手でそれを受け取ると、しっかりと抱きかかえた。

「ありがとう。なくなっちゃったから、探してたの」

「そうだったんだ。よかったね」

「あのね、友達が貸して欲しいって何回も言うから、貸してあげたんだけど、その子がなくしちゃったの」

「あはは。でも、見つかったんだから仲直りしてあげなよ」

アクセルは珍しく、大人っぽいことを言った。
いつもエックスやゼロに年下扱いされているのだから(無理のないことだが)、
こういうときくらいは年上のお兄さんらしくしたいのだ。

「そうする。その子、今園長先生に怒られてるから、助けてあげないと」

そんなことを話していると、孤児院の職員らしき青年が、アクセルに気づいたようだ。
みたところ西洋人で、金髪と青い目が美しかった。

「あっ、ルドルフ先生 ! 」

少女が叫んだ。

「ナツメちゃん、見つかったのかい ? 」

ルドルフと呼ばれた青年が尋ねる。
外見同様、さわやかな声だった。

「うん、このお兄ちゃんがね、拾ってくれたんだよ」

「そうだったのか。いやー、どうも助かったよ。どこにあったんだい ? 」

「何処って、僕が今立ってる所」

アクセルが答えると、ルドルフはわざとらしく肩を落としてみせた。

「どうやったらそんな所に落とせるんだか。朝からずっと探してたよ。
…そうだ ! 君、良かったら寄っていきなよ。お茶くらい出すからさ」

アクセルは少し迷ったが、元々行く当てもない。
ルドルフの言葉に甘えることにした。
	



「…あの子、足が動かないの ? 」

庭で遊ぶ子供達を眺めながら、アクセルはルドルフに尋ねてみた。

「ああ、生まれつきね。今は機械義肢も発達してるけど、体に適性が無いと装着できないしね…」

「あのトナカイ、大事そうにしてたね」

「あれは、俺が去年の夏に送った奴なんだ」

ルドルフは照れたような顔で、そう答えた。

「夏 ? クリスマスじゃなくて ? 」

「ああ、季節外れだけどね。あのトナカイ、ルドルフって言うんだ。俺と同じ名前だろ」

「それで、あの子に ? 」

ルドルフは微かに、微笑を浮かべる。

「トナカイはみんな鼻が赤いと勘違いしてる人もいるらしいけど、
赤鼻のトナカイは世界にルドルフただ1頭だけ。だからいつもみんなの笑いものだった。
その赤い鼻を家族にすら馬鹿にされて、毎日悲しい思いをしていたのさ」

「……」

「でも、あるクリスマス・イブに…」

言いながら、ルドルフは用意してあった紅茶を一口飲んだ。

「…サンタクロースのソリを牽く8頭のトナカイ…
ダッシャー、ダンサー、プランサー、ヴィクセン、コメット、キューピッド、ドンダー、ブリッツェンの8頭が、
ソリにサンタクロースとプレゼントを乗せて出発しようとしたとき、
突然深い霧が立ちこめた。これでは家の煙突を探すことができない。
その時、8頭のトナカイを見るために集まっていたトナカイたちの中に、ピカピカと光る物があった」

「それが…」

「ああ、ルドルフの赤鼻。サンタクロースはルドルフに、先頭に立ってソリを牽き、
道を照らしてくれとお願いしたんだ。サンタクロースのソリの先頭に立てるのだから、
これほど名誉なことはない。喜び勇んだルドルフは、立派に仕事をやり遂げた。
ただのコンプレックスでしかなかった赤鼻は、ルドルフを世界中から愛されるトナカイにしたってわけだ」

長い話を終えて、ルドルフは一息ついた。

「それが、赤鼻のトナカイの歌の元になったわけだね」

「そう。…この話を作ったのは、シカゴのサラリーマン。
幼い頃から体が弱くて、周りの子供達から虐められ、大人になった後も、妻が病気で寝込んでしまい、
必死で働いて生活費と医療費を稼いでいたらしい。
しかも丁度、世界中が恐慌で喘いでいた時代だから、さぞかし大変だっただろうね」

「サラリーマンが、どうして童話なんか作ったのさ ? 」

「それはね…彼の4歳の娘が、彼にこう尋ねたんだ」

ルドルフは再び、紅茶をすする。
そして、口を開いた。
	



「…『どうしてうちのママは、他の子のママと一緒じゃないの ? 』…ってね」

「 ! 」

アクセルは一瞬、ルドルフが自分の心の中を見透かしたのではないかと思ったが、無論それは杞憂だった。

「無邪気な好奇心からの疑問だったんだろうけどね…そのサラリーマンは、
愛する娘のために、自分自信のために、即興で物語を作った。
それが、赤鼻のトナカイ…ルドルフさ」

その時、アクセルの目に、あのナツメという少女の姿が見えた。
片手でトナカイのぬいぐるみを抱えながら、自分よりも年下の子供達と遊んでやっている。

「…この孤児院にいるのは、大抵親を亡くした子なんだけど…」

と、ルドルフは言う。

「体に障害を持っている子は、ナツメちゃんしかいなくてね…」

「……」

「みんなと違っていたっていいじゃないか、何も悩むことはないって、伝えたかったんだ…」


アクセルは自分の紅茶を飲み干すと、ルドルフに向かって次のように言った。

「…あんた、あの子の道を照らしたんだね」

「…ハハ。詩人だね、君」


「おーい、ルドルフ先生ー ! 」

ボールで遊んでいた子供達が、大声で叫んだ。

「一緒にやろうよー ! 」

「OK、今行くよ」


このとき、アクセルの中で…









何かが動き出していた…



…
	



……数日後……

「最近、アクセルの戦う姿勢が変わってきてる気がするな」

砂塵の舞う荒野の中で、ゼロが言った。
隣にはエックスもいる。

「この前の家出で何処へ行ったのかは知らんが…あいつなりに、何か学んだのかもな…」

「ああ、確かに、ね…でも…」

「まだ一人前のハンターとしては認められない、か」

ゼロがエックスに苦笑する。

「認められないさ。でも、いつかあいつは…」

そこまで言って、エックスは言葉を切った。
アクセル本人が駆け寄ってきたのだ。

「エックス、ゼロ ! 来たよ ! 」

「数は ? 」

「50人くらいかな。重火器を持ってる奴が3人くらいいた」

「よし、行くぞ ! 」

エックスが叫ぶと同時に、3人は走り出した。
前方から現れた、イレギュラーの集団が、各々武器を構えて突撃してくる。
鬨の声があがり、機関銃の音が鳴り響く。
エックスのバスターがうなり、ゼロのセイバーが閃く。

アクセルは愛用している二丁のバレットを構える。
足に内蔵されたホバーシステムを起動させ、上昇しつつ先頭のイレギュラー2人を射殺した。

(僕はもう、迷いはしない)

トナカイのぬいぐるみを抱えた、あの少女の姿。
そして、それを見守っていた、あの青年の姿。

(僕は、ああいう優しい人たちを守るんだ ! レッドもきっと、それを望んでいる ! )

空中のアクセルに、イレギュラー達が銃口を向ける。
その瞬間、アクセルはホバーを切り、重力に任せて急降下しつつ、さらに3人に弾丸の嵐を浴びせた。
そして着地の直後、セイバーを構えて突貫してきたイレギュラーの足を軽く払い、
その口に銃身を押し込み、容赦なく発砲する。
そのイレギュラーは、悲鳴も上げることもなく血だまりに沈んだ。

「さあ、来い ! 」



どんなに深い闇だろうと。



どんなに暗い夜道だろうと。




「僕が…照らしてやる ! ! 」





〜END〜

  ELITE HUNTER ZERO